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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】溶離液およびスラッジ水の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/02 20060101AFI20240710BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20240710BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
G01N30/02 B
G01N30/26 A
G01N33/38
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020146712
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041487
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000219451
【氏名又は名称】東亜ディーケーケー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 由季
(72)【発明者】
【氏名】境野 彩
(72)【発明者】
【氏名】塚田 雄一
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-040032(JP,A)
【文献】特開2011-095183(JP,A)
【文献】特開2010-214909(JP,A)
【文献】特開2010-197125(JP,A)
【文献】特開2021-171982(JP,A)
【文献】特開2019-184295(JP,A)
【文献】特開平10-177015(JP,A)
【文献】山口哲矢 他,安定化スラッジ水の自動管理に関する研究,月間コンクリートテクノ,32巻8号,セメント新聞社,2013年,36-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/02
G01N 30/26
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レディーミクストコンクリートのスラッジ水に含まれるグルコン酸イオン濃度と硫酸イオン濃度を、イオンクロマトグラフ装置で分析するための溶離液であって、
炭酸ナトリウムと、炭酸水素ナトリウムと、エタノール、プロパノール及びアセトニトリルからなる群から選択される有機溶剤とを含み、
前記溶離液中の炭酸ナトリウムの含有量は1×10 -3 ~3×10 -3 mol/Lであり、
前記溶離液中の炭酸水素ナトリウムの含有量は0.5×10 -3 ~5×10 -3 mol/Lであり、
前記溶離液に占める前記有機溶剤の割合は5~10体積%であり、
pHが8.5~12であることを特徴とする、溶離液。
【請求項2】
前記溶離液中の炭酸ナトリウムの含有量が1.8×10 -3 mol/Lであり、
前記溶離液中の炭酸水素ナトリウムの含有量は1.7×10 -3 mol/Lである、請求項1に記載の溶離液。
【請求項3】
レディーミクストコンクリートのスラッジ水に含まれるグルコン酸イオン濃度と硫酸イオン濃度を分析するスラッジ水の分析方法であって、
陰イオン交換樹脂が充填された分離カラムに請求項1又は2に記載の溶離液を通過させ、スラッジ水又は希釈したスラッジ水を前記分離カラムに送られる前記溶離液中に注入し、前記分離カラムから流出した前記溶離液の電気伝導率を検出することを特徴とする、スラッジ水の分析方法。
【請求項4】
前記分離カラムから流出した前記溶離液の電気伝導率を、サプレッサーを通過させてから検出する、請求項に記載のスラッジ水の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶離液およびスラッジ水の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レディーミクストコンクリート(以下「生コン」という。)の工場においては、廃棄物としてスラッジ水が発生する。スラッジ水は、コンクリートの洗浄排水から粗骨材及び細骨材を取り除いて回収した懸濁水である。
スラッジ水中にはすでに水和反応したセメントだけでなく、未水和のセメントも含まれているため、未水和のセメントの水和反応を抑制しておくことで、新しい生コンを製造する際のセメント分の一部として再利用することができる。
【0003】
そこで、JIS A 5308 2019「レディーミクストコンクリート」では、一定の条件の下で、スラッジ水を練混ぜ水として使用することを認めている。
スラッジ水の再利用を促進することは、低炭素型社会を構築する上で極めて重要である。日本全体のCO排出量の約40%が建設産業に由来しており、このうちコンクリートの比率は20~30%である。コンクリートのCO原単位の大部分はセメントに由来するので、スラッジ水の再利用が促進されれば、コンクリート産業におけるCO排出量を大幅に削減できることになる。
【0004】
スラッジ水の再利用にあたっては、スラッジ水に含まれる未水和のセメント量(セメントの活性度)を評価することが求められる。特許文献1では、硫酸イオン濃度を指標として、セメントの活性度を求めることが提案されている。
また、未水和のセメントの水和反応を抑制するために、安定剤(凝結遅延剤)としてグルコン酸ナトリウムをコンクリートに添加することが提案されている(非特許文献1)。
そのためスラッジ水を再利用するにあたっては、グルコン酸イオン濃度を測定することも求められている。
【0005】
しかし、現時点において、硫酸イオン濃度及びグルコン酸イオン濃度を、生コン工場の現場において簡便に測定する方法は存在していない。
特許文献1によれば、近赤外分光分析計を使用すれば、硫酸イオン濃度とグルコン酸イオン濃度の双方を測定可能であるとされている。
しかしながら、近赤外領域においては、グルコン酸イオンとピークが重なる夾雑物が多数存在するため、低濃度のグルコン酸イオンを近赤外分光分析計で定量することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5462499号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】セメント・コンクリート論文集(Cement Science and Concrete Technology),Vol.66,2012,p22-27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、イオンクロマトグラフィーにより、硫酸イオン濃度とグルコン酸イオン濃度の双方を生コン工場の現場において簡便に測定できる自動分析装置を提供できるのではないかと考えた。
しかし、スラッジ水には、通常種々の夾雑物が含まれている。また、イオンクロマトグラフィーでは、通常分離カラムを一定の温度、例えば40℃程度に加温しておくことが必要である。そのため、イオンクロマトグラフィーでスラッジ水を分析しようとすると、加温されたカラム内において、カビや細菌が繁殖する懸念があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、スラッジ水中の硫酸イオン濃度とグルコン酸イオン濃度の双方を分析可能で、溶離液やカラムにカビや細菌を繁殖させにくいイオンクロマトグラフィーによるスラッジ水の分析方法、及び、この分析方法に使用する溶離液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]レディーミクストコンクリートのスラッジ水に含まれるグルコン酸イオン濃度と硫酸イオン濃度を、イオンクロマトグラフ装置で分析するための溶離液であって、
無機塩及び無機塩基からなる群から選択される一種以上の無機化合物(I)と炭素数が6以下の有機溶剤を含み、
前記溶離液に占める前記有機溶剤の割合は3~15体積%であり、
pHが8以上であることを特徴とする、溶離液。
[2]前記無機化合物(I)が、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、4-ホウ酸ナトリウム・10水和物、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群から選択される一種以上である、[1]に記載の溶離液。
[3]前記有機溶剤が、炭素数が6以下のアルコール、アセトン及びアセトニトリルからなる群から選択される一種以上である、[1]又は[2]に記載の溶離液。
[4]レディーミクストコンクリートのスラッジ水に含まれるグルコン酸イオン濃度と硫酸イオン濃度を分析するスラッジ水の分析方法であって、
陰イオン交換樹脂が充填された分離カラムに[1]~[3]のいずれか一項に記載の溶離液を通過させ、スラッジ水又は希釈したスラッジ水を前記分離カラムに送られる前記溶離液中に注入し、前記分離カラムから流出した前記溶離液の電気伝導率を検出することを特徴とする、スラッジ水の分析方法。
[5]前記分離カラムから流出した前記溶離液の電気伝導率を、サプレッサーを通過させてから検出する、[4]に記載の分析方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の溶離液及びこれを用いたスラッジ水の分析方法によれば、スラッジ水中の硫酸イオン濃度とグルコン酸イオン濃度の双方を分析可能で、溶離液やカラムにカビや細菌を繁殖させにくい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得られたクロマトグラムである。
図2】実施例2で得られたクロマトグラムである。
図3】実施例3で得られたクロマトグラムである。
図4】実施例4で得られたクロマトグラムである。
図5】実施例5で得られたクロマトグラムである。
図6】実施例6で得られたクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[溶離液]
本発明の溶離液は、無機塩及び無機塩基からなる群から選択される一種以上の無機化合物(I)と炭素数が6以下の有機溶剤を含む。
【0014】
無機塩及び無機塩基からなる群から選択される一種以上の無機化合物(I)としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び4-ホウ酸ナトリウム・10水和物からなる群から選択される一種以上の無機塩、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムからなる群から選択される一種以上の無機塩基が挙げられる。中でも炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムの組み合わせが、硫酸イオンの溶出が早いため、好ましい。
【0015】
無機塩を使用すると、無機塩基を使用した場合と比較してカラムからの溶出が早い。硫酸のように溶出時間が長くなりやすい成分を早期に溶出させ、分析時間を短縮するためには、無機塩を用いることが好ましい。
一方、無機塩基を使用すると、サプレッサーで処理後の溶離液の電気伝導率を低くしやすい。そのため、グルコン酸イオン濃度が低い場合は、無機塩基を使用した方がグルコン酸イオンをノイズに埋もれさせずに検出しやすい。
【0016】
溶離液の組成は、分析の開始から終了まで一定とするアイソクラティック(イソクラティック)法と、分析の途中で変化させるグラジエント法があるが、アイソクラティック(イソクラティック)法の方が、簡便なシステム(送液ポンプ1台)で分析できるので好ましい。
また、ジェネレータ法を用いることも好ましい。ジェネレータ法は、プログラムに従って、電気透析により、希望する濃度の溶離液をインライン調製する方法である。ジェネレータ法を用いれば、アイソクラティック(イソクラティック)法の場合もグラジエント法の場合も、溶離液が空気中の炭酸ガスを吸収することによるベースラインの上昇や保持時間の変動等を懸念することなく、正確な分析を行うことができる。特にグラジエント法の場合、ジェネレータ法を用いることが好ましい。
【0017】
アイソクラティック(イソクラティック)法で無機塩を用いる場合、溶離液中の無機塩の濃度は、0.1~20mMであることが好ましい。
炭酸水素ナトリウムの場合は、0.1~10mMであることが好ましく、0.5~5mMであることがより好ましい。炭酸ナトリウムの場合は、1~3mMであることがより好ましい。4-ホウ酸ナトリウム・10水和物の場合は、5~20mMであることがより好ましく、5~12mMであることがさらに好ましい。
アイソクラティック(イソクラティック)法で無機塩基を用いる場合、溶離液中の無機塩基の濃度は、5~30mMであることが好ましく、15~25mMであることがより好ましい。
【0018】
グラジエント法を用いる場合には、アイソクラティック(イソクラティック)法の場合について示した濃度範囲のうち、低濃度の溶離液を用い、次第に高濃度に変化させることが望ましい。これによりグルコン酸イオンを良好に検出できると共に、硫酸イオンの溶出を早めることができる。
【0019】
有機溶剤としては、炭素数が6以下のアルコール、アセトン及びアセトニトリルからなる群から選択される一種以上が挙げられる。中でも、炭素数が3以下のアルコール及びアセトニトリルからなる群から選択される一種以上がカラムに負荷を与えにくいので好ましい。
【0020】
炭素数が6以下の有機溶剤の溶離液に占める割合は3~15体積%であり、3~10体積%であることが好ましく、5~10体積%であることがより好ましい。
炭素数が6以下の有機溶剤の割合が好ましい下限値以上であることにより、溶離液やカラムにおける細菌やカビの繁殖をより抑制しやすくなる。また、炭素数が6以下の有機溶剤の割合が好ましい上限値以下であることにより、スラッジ水中の硫酸イオンとグルコン酸イオンの分離を妨げない。また、分離カラムやガードカラムに充填されている樹脂にダメージを与えにくい。
【0021】
溶離液全体のpHは、8以上である。無機塩の場合のpHは8.5~12であることが好ましく、無機塩基の場合のpHは12以上であることが好ましい。
溶離液全体のpHが8以上であれば、溶離液やカラムにおける細菌やカビの繁殖を抑制しやすい。また、グルコン酸イオンのピークと硫酸イオンのピークを分離しやすい。
【0022】
具体的な溶離液の組成としては、以下の例が挙げられる。
(1)炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムを含むエタノール水溶液。
炭酸ナトリウムの含有量は1~3mMが好ましい。炭酸水素ナトリウムの含有量は0.5~5mMが好ましい。
エタノールの含有量は5~10体積%であることが好ましい。pHは9~11であることが好ましい。
例えば、1.8mMの炭酸ナトリウムと1.7mMの炭酸水素ナトリウムを含む10体積%エタノール水溶液(pH10.4)とすることができる。
【0023】
(2)炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムを含むアセトニトリル水溶液。
炭酸ナトリウムの含有量は1~3mMが好ましい。炭酸水素ナトリウムの含有量は0.5~5mMが好ましい。
例えば、炭酸ナトリウム1.8mMと炭酸水素ナトリウム1.7mMを含む10体積%アセトニトリル水溶液(pH10.4)とすることができる。
【0024】
(3)炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムを含むプロパノール水溶液。
炭酸ナトリウムの含有量は1~3mMが好ましい。炭酸水素ナトリウムの含有量は0.5~5mMが好ましい。
例えば、炭酸ナトリウム1.8mMと炭酸水素ナトリウム1.7mMを含む5体積%プロパノール水溶液(pH10.4)とすることができる。
【0025】
[試料]
本発明の溶離液は、レディーミクストコンクリート(生コン)のスラッジ水に含まれるグルコン酸イオン濃度と硫酸イオン濃度を、イオンクロマトグラフ装置で分析するための溶離液である。
分析の対象となるスラッジ水は、安定剤(凝結遅延剤)としてグルコン酸イオンが添加されたコンクリートのスラッジ水(安定化スラッジ水)であることが好ましい。
【0026】
グルコン酸イオンは経時で消費されること、また、スラッジ水中のカルシウム分は、空気中の炭酸ガスと反応して沈殿を生じやすいことから、スラッジ水は固形分を濾過した後、速やかに分析に供することが好ましい。また、スラッジ水中のカルシウム分と空気中の炭酸ガスとの反応を抑制するため、スラッジ水を希釈してから分析に供することも好ましい。
【0027】
[装置]
本発明のスラッジ水の分析方法に使用するイオンクロマトグラフ装置は、少なくとも分離カラムと、分離カラムに溶離液を送り通過させる溶離液ポンプと、分離カラムから流出した溶離液の電気伝導率を検出する電気伝導率検出器とを備える。
分離カラムは、陰イオン交換樹脂が充填されたカラムである。陰イオン交換樹脂が有するイオン交換基としては、第4級アンモニウム基が好ましい。第4級アンモニウム基としては、ジエチルアミノプロピル基、ジエチルアミノエチル基等が挙げられる。
例えば、基材がポリヒドロキシメタクリレートやポリビニルアルコールで、官能基が第4級アンモニウム基である陰イオン交換樹脂を好適に使用できる。
【0028】
陰イオン交換樹脂の平均粒径は、3~12μmであることが好ましく、3~9μmであることがより好ましい。例えば、5μmとすることができる。平均粒径が3μm以上であれば、カラムの詰まりが生じにくい。平均粒径が12μm以下であれば、ピークを分離しやすい。
【0029】
分離カラムの上流側には、予期せずに混入した固形分や不純物等から、分離カラムをガードするガードカラムを有することが好ましい。
また、現場の負担軽減のため、試料を自動的に分離カラム又はガードカラムに注入する試料注入手段を有することが好ましい。さらに、スラッジ水の濾過、希釈等を自動で行う前処理部を備えることが好ましい。
【0030】
また、分離カラムの下流側には、サプレッサーを有することが好ましい。サプレッサーを使用すれば、溶離液のバックグラウンド電気伝導率を低下させることができるので、分析精度を向上させることができる。
サプレッサーは、イオン交換材により、溶出液中の溶離液由来のイオンを弱イオン型に置換し、溶離液のバックグラウンド電気伝導率を低下させるものである。
【0031】
サプレッサーの方式に特に限定はなく、例えば、以下の物が挙げられる。
(1)充填床サプレッサー(特公昭56-23100号)、(2)イオン交換膜を用いるサプレッサー(特公昭62-29024号、特公平3-68344号、特公平3-44670号、特公平5-48423号各公報参照)、(3)カラム再生を繰り返すサプレッサー(特公平8-502830号、欧州公開特許第725272号各公報参照)、(4)電気化学的再生サプレッサー(米国特許第5633171号、同第5759405号各公報参照)。
【0032】
(1)の充填床サプレッサーは、イオン交換樹脂を充填したカラムからなるサプレッサーである。
(2)の膜サプレッサーは、イオン交換膜を隔てて溶出液と再生液を流通させ、溶出液中のイオンを弱イオン型に置換しつつ、それにより試料や溶出液に含まれる目的イオン種の対イオンによって置換されてしまったイオン交換膜上のイオン交換基を再生するサプレッサーである。
【0033】
(3)のカラム再生を繰り返すサプレッサーは、一本のサプレッサーカラムを用いて測定を行っている間に他のサプレッサーカラムに対しては再生液を供することで、前記一本のサプレッサーカラムで溶出液中のイオンを弱イオン型に置換しつつ、前記他のサプレッサー中のイオン交換樹脂のイオン交換基を再生するシステムである。
(4)の電気化学的再生サプレッサーは、一方のサプレッサーカラム溶出液を他方のサプレッサーカラムに導入した後、後者からの溶出液を電気分解して再生するものである。
【0034】
また、安定した分析を行うため、分離カラム及び電気伝導率検出器は、一定の温度に制御された恒温槽に収容されていることが好ましい。ガードカラムやサプレッサーを有する場合は、これらも恒温槽に収容されていることが好ましい。恒温槽の設定温度は、37~40℃とすることが好ましい。
なお、電気伝導率検出器には特に安定した温度制御が求められるため、電気伝導率検出器の検出セルに、追加的な温度調節機能を持たせてもよい。
【0035】
さらに、電気伝導率検出器から出力された電気伝導率に基づくクロマトグラムをデータ処理すると共に、装置全体を制御する演算制御装置を有することが好ましい。
溶離液の流量は、分離カラムの容量にもよるが、例えば0.6~1.0mL/分とすることができる。その場合、試料のカラムへの注入量は、例えば20μLとすることができる。
【実施例
【0036】
[装置構成]
各実施例には、以下のガードカラム、分離カラム、サプレッサー、及び検出器が直列に接続されたイオンクロマトグラフ装置を用いた。
(ガードカラム)
内径(I.D.):4.6mm
長さ(L):10mm
充填基材:第4級アンモニウム基を有するポリビニルアルコール、粒径9μm
【0037】
(分離カラム)
内径(I.D.):4.0mm
長さ(L):150mm
充填基材:第4級アンモニウム基を有するポリビニルアルコール、粒径9μm
(サプレッサー)
内径(I.D.):21.5mm
長さ(L):130mm
ファイバー型の膜サプレッサー
(検出器)
電気伝導率検出器
【0038】
[実施例1]
下記の溶離液を用いて、下記のサンプルを、ガードカラムを介して分離カラムに注入して下記条件にて分析した。得られたクロマトグラムを図1に示す。
なお、図1において、GLAと記載されたピークが、グルコン酸イオンに対応するピーク、SO4と記載されたピークが硫酸イオンに対応するピークである。図2以下においても同様である。
【0039】
(溶離液)
炭酸ナトリウムの1.8mMと炭酸水素ナトリウムの1.7mMを含む10体積%エタノール水溶液。pH10.4、電気伝導率1.6mS/m。
(サプレッサーの除去液)
10mM硫酸溶液。
(サンプル)
グルコン酸ナトリウムをグルコン酸イオン換算で10mg/L、硫酸ナトリウムを硫酸イオン換算で250mg/L含む水溶液。
【0040】
(分析条件)
溶離液流量:1.0mL/分
サンプル注入量:20μL
ガードカラム、分離カラム及びサプレッサーの温度:37℃
検出器の温度:40℃
【0041】
[実施例2]
下記の溶離液を用いた他は、実施例1と同様にして実施例1と同じサンプルを分析した。得られたクロマトグラムを図2に示す。
(溶離液)
炭酸ナトリウムの1.8mMと炭酸水素ナトリウムの1.7mMを含む5体積%アセトニトリル水溶液。pH10.4、電気伝導率1.6mS/m。
【0042】
[実施例3]
下記の溶離液を用いた他は、実施例1と同様にして実施例1と同じサンプルを分析した。得られたクロマトグラムを図3に示す。
(溶離液)
炭酸ナトリウムの1.8mMと炭酸水素ナトリウムの1.7mMを含む5体積%プロパノール水溶液。pH10.4、電気伝導率1.6mS/m。
【0043】
[実施例4]
下記の溶離液を用いて、下記のサンプルを分析対象とした他は、実施例1と同様にして分析した。得られたクロマトグラムを図4に示す。
(溶離液)
炭酸ナトリウムの1.8mMと炭酸水素ナトリウムの1.7mMを含む10体積%エタノール水溶液。pH10.4、電気伝導率1.6mS/m。
【0044】
(サンプル)
混和剤(BASF社製、マスターセット110LCN)を、セメント重量(固形分)に対して8~13質量%添加したセメントのスラッジ水(ただし、採取後24時間以上が経過し、混和剤に含有されていたグルコン酸は、総て消費されていると考えられるもの。)の1mLに、グルコン酸イオン換算濃度が1000mg/Lのグルコン酸ナトリウム水溶液を0.1mL添加し、水を加えて10mLとし、シリンジフィルター(ADVANTEC社製 DISMIC-13HP)で濾過したもの。
【0045】
[実施例5]
下記の溶離液を用いて、実施例4と同じサンプルを分析対象とした他は、実施例1と同様にして分析した。得られたクロマトグラムを図5に示す。
(溶離液)
炭酸ナトリウムの1.8mMと炭酸水素ナトリウムの1.7mMを含む5体積%アセトニトリル水溶液。pH10.4、電気伝導率1.6mS/m。
【0046】
[実施例6]
下記の溶離液を用いて、実施例4と同じサンプルを分析対象とした他は、実施例1と同様にして分析した。得られたクロマトグラムを図6に示す。
(溶離液)
炭酸ナトリウムの1.8mMと炭酸水素ナトリウムの1.7mMを含む5体積%プロパノール水溶液。pH10.4、電気伝導率1.6mS/m。
【0047】
図1~6に示すように、溶離液に有機溶剤を含ませたにもかかわらず、いずれのクロマトグラムにおいても、硫酸イオンだけでなくグルコン酸イオンに対応するピークが明確に現れた。
また、実施例4の分析を2時間おきに繰り返すことを5日間続けたところ、カラムにカビや細菌が繁殖するような問題は生じなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6