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特許7518372タイヤ形状解析システムおよびタイヤ形状解析方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】タイヤ形状解析システムおよびタイヤ形状解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/22 20060101AFI20240710BHJP
   G01B 11/24 20060101ALI20240710BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240710BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
G01B11/22 H ZBP
G01B11/24 K
B60C19/00 H
G01M17/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020156799
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022050282
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 昌志
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-59888(JP,A)
【文献】特表2020-508443(JP,A)
【文献】特開2016-80562(JP,A)
【文献】特開2017-129491(JP,A)
【文献】特開2020-41799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
B60C 19/00
G01M 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象であるタイヤの表面から凹んでいる部分である溝の三次元形状を測定する溝形状測定部と、
前記タイヤの接地領域に対して溝埋めした領域である総接地領域を作成する総接地領域作成部と、
前記三次元形状に基づいて、前記総接地領域内の溝の位置の溝深さを測定する溝深さ測定部と、
を有するタイヤ形状解析システム。
【請求項2】
前記溝深さ測定部は、
前記総接地領域内の溝の位置を示す溝分布データを作成する溝分布データ作成部と、
前記溝分布データが示す各位置の溝深さを算出する溝深さ算出部と、
を有する請求項1に記載のタイヤ形状解析システム。
【請求項3】
前記溝深さ算出部は、
路面を模した路面板の主面に設けられたシートの形状を測定し、前記シートから、前記路面板に接しているタイヤの溝の溝底までの距離を、前記溝深さとする請求項2に記載のタイヤ形状解析システム。
【請求項4】
前記溝深さ算出部によって算出した各位置の溝深さを微小な直方体によって近似し、近似した直方体の体積の総和を、前記総接地領域内の溝体積として求める溝体積算出部をさらに有する請求項2または請求項3に記載のタイヤ形状解析システム。
【請求項5】
前記溝形状測定部は、
前記タイヤの溝に形成した模様パターンを、少なくとも2つのカメラで撮影し、前記カメラの撮影画像を解析して溝の形状を測定する請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のタイヤ形状解析システム。
【請求項6】
前記溝形状測定部は、
前記撮影画像について重み付け位相解析法を用いて前記模様パターンを解析し、溝の形状を測定する請求項5に記載のタイヤ形状解析システム。
【請求項7】
前記溝形状測定部は、
前記溝の撮影範囲を、共通の領域を含む2つの領域に分割し、
前記共通の領域は、前記模様パターンの1周期以上である請求項5または請求項6に記載のタイヤ形状解析システム。
【請求項8】
前記溝形状測定部は、
前記2つのカメラの移動と前記2つのカメラによる撮影とを繰り返して、前記総接地領域内の全ての溝を撮影する請求項5から請求項7のいずれか1つに記載のタイヤ形状解析システム。
【請求項9】
前記2つのカメラ間の中点位置を(X、Y)と定義した場合に、
前記2つのカメラのタイヤ周方向の移動範囲Xは、
-最大接地長/2≦X≦最大接地長/2
前記2つのカメラのタイヤ幅方向の移動範囲Yは、
-最大接地幅/2≦Y≦最大接地幅/2
である請求項5から請求項8のいずれか1つに記載のタイヤ形状解析システム。
【請求項10】
測定対象であるタイヤの表面から凹んでいる部分である溝の三次元形状を測定するステップと、前記タイヤの接地領域に対して溝埋めした領域である総接地領域を作成するステップと、前記三次元形状に基づいて、前記総接地領域内の溝の位置の溝深さを測定するステップと、を有するタイヤ形状解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ形状解析システムおよびタイヤ形状解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの接地面に生じる歪みを測定する技術が特許文献1に開示されている。特許文献1においては、タイヤの接地面における陸部表面と溝底とに参照点をマーキングし、第1の状態でタイヤの接地面を複数のカメラにより撮影する第1撮影工程と、試験路面に接地させたタイヤを転動させ、第1の状態とは異なる第2の状態でタイヤの接地面を複数のカメラにより撮影する第2撮影工程とを含み、陸部表面と溝底とのそれぞれについて、第1撮影工程で撮影した画像と第2撮影工程で撮影した画像とのパターンマッチングを行い、参照点の変位に基づいて二次元的または三次元的な歪みを算出している。
【0003】
また、タイヤが接地したときの踏面の変形状態を測定する技術が特許文献2に開示されている。特許文献2においては、タイヤが接地する透明性を有する接地用板材と、接地用板材を挟んでタイヤと反対側から接地用板材を介して、タイヤ踏面にレーザ光を照射し、タイヤ踏面の画像を撮影している。これによって、接地変形状態にあるタイヤ踏面のトレッド部およびトレッド溝の変形形状を表す3次元データを取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-067690号公報
【文献】特開2009-139268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の技術によれば、タイヤの接地面の溝底歪みを測定できる。また、特許文献2に開示の技術によれば、トレッド部およびトレッド溝の変形形状を表す3次元データを取得できる。しかしながら、これらの技術によると、タイヤの接地面の溝深さを定量的に測定することができないため改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的はタイヤの接地面の溝深さを定量的に測定することができるタイヤ形状解析システムおよびタイヤ形状解析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のある態様によるタイヤ形状解析システムは、測定対象であるタイヤの表面から凹んでいる部分である溝の三次元形状を測定する溝形状測定部と、前記タイヤの接地領域に対して溝埋めした領域である総接地領域を作成する総接地領域作成部と、前記三次元形状に基づいて、前記総接地領域内の溝の位置の溝深さを測定する溝深さ測定部と、を有する。
【0008】
前記溝深さ測定部は、前記総接地領域内の溝の位置を示す溝分布データを作成する溝分布データ作成部と、前記溝分布データが示す各位置の溝深さを算出する溝深さ算出部と、を有していることが好ましい。
【0009】
前記溝深さ算出部は、路面を模した路面板の主面に設けられたシートの形状を測定し、前記シートから、前記路面板に接しているタイヤの溝の溝底までの距離を、前記溝深さとすることが好ましい。
【0010】
前記溝深さ算出部によって算出した各位置の溝深さを微小な直方体によって近似し、近似した直方体の体積の総和を、前記総接地領域内の溝体積として求める溝体積算出部をさらに有することが好ましい。
【0011】
前記溝形状測定部は、前記タイヤの溝に形成した模様パターンを、少なくとも2つのカメラで撮影し、前記カメラの撮影画像を解析して溝の形状を測定することが好ましい。
【0012】
前記溝形状測定部は、前記撮影画像について重み付け位相解析法を用いて前記模様パターンを解析し、溝の形状を測定することが好ましい。
【0013】
前記溝形状測定部は、前記溝の撮影範囲を、共通の領域を含む2つの領域に分割し、前記共通の領域は、前記模様パターンの1周期以上であることが好ましい。
【0014】
前記溝形状測定部は、前記2つのカメラの移動と前記2つのカメラによる撮影とを繰り返して、前記総接地領域内の全ての溝を撮影することが好ましい。
【0015】
前記2つのカメラ間の中点位置を(X、Y)と定義した場合に、前記2つのカメラのタイヤ周方向の移動範囲Xは、-最大接地長/2≦X≦最大接地長/2、前記2つのカメラのタイヤ幅方向の移動範囲Yは、-最大接地幅/2≦Y≦最大接地幅/2であることが好ましい。
【0016】
本発明のある態様によるタイヤ形状解析方法は、測定対象であるタイヤの表面から凹んでいる部分である溝の三次元形状を測定するステップと、前記タイヤの接地領域に対して溝埋めした領域である総接地領域を作成するステップと、前記三次元形状に基づいて、前記総接地領域内の溝の位置の溝深さを測定するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、タイヤの接地面の溝深さを定量的に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施形態にかかるタイヤ形状解析システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、図1中の溝形状測定部を示す構成図である。
図3図3は、図2に示した溝形状測定部の機能を示すブロック図である。
図4図4は、格子シートを撮影した画像の例を示す図である。
図5図5は、図4に示す画像について、非接触形状測定手法の一例であるサンプリングモアレ法によって、位相解析を行った例を示す図である。
図6図6は、格子シートの格子ピッチを説明するための図である。
図7図7は、タイヤの溝底表面の曲率半径を説明するための図である。
図8図8は、サンプリングモアレ法におけるモアレ縞の生成について説明するための図である。
図9図9は、選択型サンプリングモアレ法を説明するためのフローチャートである。
図10図10は、5画素で間引き処理を行った結果について生成したモアレ縞の例を示す図である。
図11図11は、格子シートの画像の例を示す図である。
図12図12は、溝形状測定部による溝形状測定処理を示すフローチャートである。
図13図13は、本実施形態にかかるタイヤ形状解析システムによるタイヤ解析方法を示すフローチャートである。
図14図14は、撮影部によって撮影した画像を二次元フーリエ変換して取得できる、パワースペクトルの例を示す図である。
図15図15は、フーリエ変換法を用いて溝形状を測定する処理を示すフローチャートである。
図16図16は、本実施形態にかかるタイヤ形状解析システムによるタイヤ解析方法を示すフローチャートである。
図17図17は、撮影対象であるタイヤとカメラとの位置関係を示す図である。
図18図18は、図17の一部を拡大して示す図である。
図19図19は、カメラ同士の位置関係などを示す図である。
図20図20は、タイヤ接地面の画像の例を示す図である。
図21図21は、総接地領域作成部による総接地領域作成処理を示す図である。
図22図22は、総接地領域作成部の機能を示すブロック図である。
図23図23は、路面板の移動とトリガー装置の動作とを説明する図である。
図24図24は、路面板の移動とトリガー装置の動作とを説明する図である。
図25図25は、総接地領域作成部の動作を示すフロー図である。
図26図26は、接地面画像取得部によって接地面画像を取得する場合のカメラおよび照明用ランプの具体的な配置の例を示す図である。
図27図27は、接地面画像取得部によって接地面画像を取得する場合のカメラおよび照明用ランプの具体的な配置の例を示す図である。
図28図28は、接地面画像取得部によって接地面画像を取得する場合のカメラおよび照明用ランプの具体的な配置の例を示す図である。
図29図29は、タイヤ周方向に対する、ランプの傾斜角度を説明する図である。
図30図30は、タイヤ周方向に対する、ランプの傾斜角度を説明する図である。
図31図31は、タイヤの回転軸に沿った方向から各照明用ランプの配置を見た図である。
図32図32は、タイヤの回転軸に対して垂直に離れた方向から各照明用ランプの配置を見た図である。
図33図33は、路面板の上面側から各照明用ランプの配置を見た図である。
図34図34は、タイヤ幅方向に対する、ランプの傾斜角度を説明する図である。
図35図35は、タイヤ幅方向に対する、ランプの傾斜角度を説明する図である。
図36図36は、サブ溝の面取りの輝度を高める、ランプからの光の照射例を示す図である。
図37図37は、サブ溝の面取りの輝度を高める、ランプからの光の照射例を示す図である。
図38図38は、サブ溝の面取りの輝度を高める、ランプからの光の照射例を示す図である。
図39図39は、サブ溝の面取りの輝度を高める、ランプからの光の照射例を示す図である。
図40図40は、サブ溝の面取りの輝度を高める、ランプからの光の照射例を示す図である。
図41図41は、サブ溝の面取りの輝度を高める、ランプからの光の照射例を示す図である。
図42図42は、カメラの配置例を示す図である。
図43図43は、カメラの配置例を示す図である。
図44図44は、接地特性解析部による処理の例を示すフロー図である。
図45図45は、接地特性解析部の処理によって取得または作成される画像の例を示す図である。
図46図46は、接地特性解析部の処理によって取得または作成される画像の例を示す図である。
図47図47は、接地特性解析部の処理によって取得または作成される画像の例を示す図である。
図48図48は、接地特性解析部の処理によって取得または作成される画像の例を示す図である。
図49図49は、接地特性解析部の処理によって取得または作成される画像の例を示す図である。
図50図50は、接地特性解析部の処理によって取得または作成される画像の例を示す図である。
図51図51は、接地特性解析部の処理によって取得または作成される画像の例を示す図である。
図52図52は、GCAの例を示す図である。
図53図53は、膨張処理の説明図である。
図54図54は、収縮処理の説明図である。
図55図55は、総接地領域内の溝分布の例を示す図である。
図56図56は、1台のカメラを用いる場合を示す図である。
図57図57は、3台のカメラを用いる場合を示す図である。
図58図58は、路面板の高さを説明する図である。
図59図59は、高さの分布を求めるための構成を示す図である。
図60図60は、溝深さ算出部の処理の内容を示す図である。
図61図61は、溝深さ算出部の処理の内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の各実施形態の説明において、他の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。各実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。なお、この実施形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0020】
図1は、本発明の実施形態にかかるタイヤ形状解析システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態にかかるタイヤ形状解析システムは、溝形状測定部40と、総接地領域作成部42と、溝深さ測定部44と、溝体積算出部46とを有する。溝深さ測定部44は、溝分布データ作成部441と、溝深さ算出部442とを有する。以下、これら各部の処理内容について説明する。
【0021】
(溝形状測定部)
図2は、図1中の溝形状測定部40を示す構成図である。図3は、図2に示した溝形状測定部40の機能を示すブロック図である。これらの図において、図2は、溝形状測定部40の全体構成を模式的に示し、図3は、溝形状測定部40の主たる機能を示している。
【0022】
溝形状測定部40は、タイヤ60の溝形状を測定する。溝形状測定部40は、撮影装置3と、タイヤ接地面解析装置20とを備える(図2参照)。
【0023】
タイヤ60は、溝部M1~M4を備えている。溝部M1~M4は、タイヤ60の表面から凹んでいる部分である。本実施形態では4本の溝部M1~M4を含む領域に、格子シートSS1~SS4が貼付されている。本実施形態では、4本の溝部M1、M2、M3、M4に、それぞれ、格子シートSS1、SS2、SS3、SS4が貼付されている。格子シートSS1、SS2、SS3及びSS4の貼付の際、例えば、スプレーのりが接着剤として用いられる。格子シートSS1、SS2、SS3及びSS4の貼付は、作業者が手作業で行ってもよいし、図示しない装置や治具を利用して行ってもよい。格子シートSS1、SS2、SS3及びSS4の格子は、例えば、1mm正方格子とする。なお、以降の説明では、格子シートSS1、SS2、SS3及びSS4を総称して格子シートSSと呼ぶことがある。
【0024】
撮影装置3は、一対のカメラ15bおよび15cと、一対の照明用ランプ32aおよび32bとを有する。カメラ15bおよび15cは、タイヤ60を撮影する撮影部であり、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラにより構成される。カメラ15bおよび15cは、より厳密には、タイヤ60の表面から凹んでいる部分である、溝部に貼付された格子シートSSを含む領域を撮影する。
【0025】
また、撮影装置3は、固定棒15AMを有している。一対のカメラ15bおよび15cは、固定棒15AMに固定される。一対のカメラ15bおよび15cは、タイヤ60を相互に異なる方向から撮影できるように、固定棒15AMの異なる位置に固定される。これらのカメラ15bおよび15cは、タイヤ60を左右方向から同時に撮影して、タイヤ画像(タイヤ60のデジタル画像データ)を生成する。
【0026】
照明用ランプ32aおよび32bは、カメラ15bおよび15cの撮影範囲を照らすランプであり、例えば、ハロゲンランプにより構成される。これらの照明用ランプ32aおよび32bは、常時点灯タイプであっても良いし、フラッシュ点灯タイプであっても良い。
【0027】
タイヤ接地面解析装置20は、例えば、所定の解析プログラムをインストールしたPC(Personal Computer)であり、撮影装置3によって撮影されたタイヤ60の画像について画像処理を行ってタイヤ解析処理を行う。
【0028】
図3に示すように、本実施形態にかかるタイヤ接地面解析装置20は、撮影装置3によって撮影されたタイヤ60の画像を、非接触形状測定手法によって解析する解析部41を備える。解析部41は、画像平滑部411と、輝度分布取得部412と、間引き処理部413と、モアレ縞作成部414と、位相分布算出部415と、三次元形状算出部416と、逆フーリエ変換部419とを備えている。
【0029】
画像平滑部411は、撮影した画像を平滑化する。輝度分布取得部412は、画像平滑部411が平滑化した画像から、輝度分布を示す画像を得る。間引き処理部413は、輝度分布を示す画像について間引き処理を行う。間引き処理部413と、モアレ縞作成部414は、間引き処理された画像について線形補間を行ってモアレ縞を作成する。位相分布算出部415は、モアレ縞に基づいて格子シートの位相分布を算出する。三次元形状算出部416は、算出した格子シートの位相分布に基づいて、タイヤの表面から凹んでいる部分である溝部を少なくとも含む領域における三次元形状を算出する。逆フーリエ変換部419は、後述する逆フーリエ変換処理を行う。
【0030】
図4は、格子シートSSを撮影した画像の例を示す図である。撮影装置3によって撮影した画像には、タイヤ60の溝部表面に貼付された格子シートSSが含まれている。図4に示すように、溝底曲面部WRは、撮影装置3によって撮影することができる。
【0031】
図5は、図4に示す画像について、非接触形状測定手法の一例であるサンプリングモアレ法によって、位相解析を行った例を示す図である。サンプリングモアレ法を利用することにより、他の手法に比べて高精度に溝底表面の歪みを算出できる。サンプリングモアレ法は、例えば、カメラ画素と同一方向に格子が周期的に配置されたパターンを位相解析の対象とするという制約がある。本実施形態ではタイヤ60の表面の格子シートSSに対して正面ではなく斜め方向から撮影することによって、上記制約を解消できる。
【0032】
なお、非接触形状測定手法として、デジタル画像相関法、フーリエ変換法、光切断法などを用いてもよく、溝底表面の歪みを算出できる手法であればどのような手法を用いてもよい。
【0033】
(格子シート)
図6は、格子シートSSの格子ピッチを説明するための図である。図6に示すように、格子シートSSは、矩形の孔が多数設けられており、隣り合う孔の中心位置同士の距離KPが格子シートSSの格子ピッチである。
【0034】
ここで、適切な格子ピッチについて、発明者が検証した結果、以下のことが判明した。溝底表面の曲率半径をRとしたとき、格子ピッチが0.21×Rより小さい場合、格子が崩れないように格子シートSSを貼り付けるのが困難であった。また、格子ピッチが2.40×Rより大きい場合、溝底表面で生じている集中歪みの最大値を検出するのが困難であった。したがって、本実施形態において用いる格子シートの格子ピッチは、式(1)を満たすことが望ましい。
【0035】
0.21×R ≦ 格子ピッチ ≦ 2.40×R … (1)
【0036】
このような格子ピッチを有する格子シートを用いることにより、タイヤの溝底表面の歪みを高精度に測定することができる。なお、格子ピッチ>2.40×Rの場合、歪みの勾配が大きい箇所が増え、どれが本当の溝部表面歪みの集中部分なのかを特定するのが困難になるので、好ましくない。
【0037】
なお、格子シートSSは、矩形の孔が多数設けられている場合に限らず、他の形状例えば三角形の孔が多数設けられていても良い。また、孔の大きさは任意でよい(ただし、目視で格子ピッチの距離KPを識別可能であることが前提である)。
【0038】
図7は、タイヤの溝底表面の曲率半径を説明するための図である。図7に示すように、タイヤ60の溝底表面に内接する円KRを想定した場合に、その円KRの半径Rがタイヤ60の溝底表面の曲率半径である。
【0039】
(非接触形状測定手法の例)
本実施形態では、非接触形状測定手法として、例えば、サンプリングモアレ法を用いる。サンプリングモアレ法は、2次元格子を貼り付けた計測物体の撮影画像を所定画素おき(X画素おき)にサンプリングし、形状を測定する手法である。他の非接触形状測定手法として、例えば、デジタル画像相関法やフーリエ変換法などを用いてもよい。本実施形態では、サンプリングモアレ法のうち、間引き選択型サンプリングモアレ法を用いる場合について説明する。間引き選択型サンプリングモアレ法は、サンプリングモアレ法において、撮影画像の画素ごとに、解析に最適な間引き数の位相分布を参照する方法である。
【0040】
(サンプリングモアレ法)
サンプリングモアレ法では、例えば、撮影した画像について、一定方向(例えば、垂直方向)に平滑化し、平滑化した画像の間引き処理および線形補間処理を行ってモアレ縞画像を得て、位相分布を利用して2つのカメラ間の画面内の対応する点を探索する。
【0041】
ここで、サンプリングモアレ法におけるモアレ縞の生成および位相分布の算出の例について、図8を参照しながらより詳細に説明する。図8は、サンプリングモアレ法におけるモアレ縞の生成について説明するための図である。図8は、日本実験力学会講演論文集,No10(2010)「サンプリングモアレ法を用いた三次元形状・ひずみ分布の動的計測手法の精度評価」より引用、改変したものである。図8に示す例は、「4」という間引き数を用いて、間引き一律型サンプリングモアレ法によってモアレ縞を生成する例である。
【0042】
ステップS11では、解析部41が、溝底表面の撮影画像について、垂直方向(縦方向)に平滑化した画像を得る。以下は、垂直方向に平滑化した場合の処理について説明するが、水平方向(横方向)に平滑化した場合も同様の処理となる。
【0043】
ステップS12では、解析部41が、平滑化した画像から、1ラインを抽出し、輝度分布を示す画像90を得る。
【0044】
ステップS13では、解析部41が、1枚の画像90について、4画素ごとに間引くことにより、画像91a~91dという4個の画像が生成される。画像91a~91dは、それぞれ、間引きを開始する画素が異なる。画素を間引くことによって生成される画像の数は、間引き数と一致する。例えば、間引き数が「4」の場合は4個の画像が、間引き数が「5」の場合は5個の画像が、それぞれ生成される。
【0045】
ステップS14では、解析部41が、画像91a~91dのそれぞれについて、間引かれた画素が設定されていない画素の輝度を、間引かれていない画素が設定されている画素の輝度を用いた線形補間によって設定する処理が施される。これにより、モアレ縞92a~92dが得られる。
【0046】
ステップS15では、解析部41が、モアレ縞92a~92dの輝度を、以下の式(2)に当てはめることにより、間引き数に対応する位相分布における画素位置に対応する位置の位相σが得られる。
【0047】
【数1】
【0048】
ここで、Xは、間引き数であり(Xは自然数)、I(k)はk枚目(kは自然数)のモアレ縞の輝度を示す。すなわち、間引き数に対応する位相分布における画素位置に対応する位置の位相σを求める際は、その画素位置に対応する位置の輝度をk枚目のモアレ縞から引用し、I(k)に格納してから位相σを計算する。図8に示す例において、モアレ縞92a、92b、92c、92dはそれぞれ1番目、2番目、3番目、4番目のモアレ縞に相当する。
【0049】
モアレ縞92a~92dを参照しながら式(2)を用いてそれぞれの画素位置に対応する位相値を算出することにより、画像90を「4」という間引き数で間引いた場合の位相分布93を算出することができる。
【0050】
モアレ縞の位相分布93に参照格子の位相分布94と演算することによって、位相が-πからπまでの周期性を有する格子シートの位相分布95を得ることができる。
【0051】
図9は、選択型サンプリングモアレ法を説明するためのフローチャートである。
【0052】
ステップS201では、解析部41の画像平滑部411が、溝底表面の撮影画像について、垂直方向(縦方向)に平滑化した画像を得る。この処理は、先述した図8のステップS11と同様である。
【0053】
ステップS202では、解析部41の輝度分布取得部412が、平滑化した画像から、1ラインを抽出し、輝度分布を示す画像を得る。この処理は、先述した図8のステップS12と同様である。
【0054】
ステップS203では、解析部41の間引き処理部413が、複数種類の画素数でそれぞれ間引き処理を行う。本例では、4画素間引きまたは5画素間引きを選択して行う。4画素で間引き処理を行うことによって得られる画像は、先述したステップS13の処理によって得られる画像91a~91dと同様になる。
【0055】
ステップS204では、ステップS203において4画素および5画素でそれぞれ間引き処理を行った結果について、解析部41のモアレ縞作成部414が、モアレ縞をそれぞれ生成する。ステップS203において4画素で間引き処理を行った結果について生成したモアレ縞は、先述したステップS14の処理によって得られたモアレ縞92a~92dと同様になる。
【0056】
図10は、5画素で間引き処理を行った結果について生成したモアレ縞の例を示す図である。図10は、日本実験力学会講演論文集,No10(2010)「サンプリングモアレ法を用いた三次元形状・ひずみ分布の動的計測手法の精度評価」より引用、改変したものである。図10に示すように、間引かれた画素が設定されていない画素の輝度を、間引かれていない画素が設定されている画素の輝度を用いた線形補間によって設定する処理を施すことにより、モアレ縞92e~92iが得られる。
【0057】
図9のステップS205では、解析部41の位相分布算出部415が、4画素で間引き処理を行った結果について生成したモアレ縞92a~92dの輝度、および、5画素で間引き処理を行った結果について生成したモアレ縞92e~92iの輝度を、上記の式(2)に当てはめることにより、間引き数に対応する位相分布における画素位置に対応する位置の位相σが得られる。
【0058】
モアレ縞92a~92d、モアレ縞92e~92iを参照しながら式(2)を用いてそれぞれの画素位置に対応する位相値を算出することにより、1ラインの画像を「4」、「5」という間引き数でそれぞれ間引いた場合の位相分布を算出することができる。つまり、モアレ縞92a~92d、モアレ縞92e~92iの位相分布に参照格子の位相分布と演算することによって、位相が-πからπまでの周期性を有する格子シートの位相分布をそれぞれ得ることができる。
【0059】
図9のステップS206では、解析部41の位相分布算出部415が、画素ごとに、形状解析に適した格子シートの位相分布を参照する。図11は、格子シートSSの画像の例を示す図である。図11において、例えば、格子シートSSを撮影した画像において、格子ピッチのある1ピッチP4が4画素に相当する場合は、4画素間引き処理を行った結果について生成した格子シートの位相分布を参照する。また、格子シートSSを撮影した画像において、格子ピッチの別の1ピッチP5が5画素に相当する場合は、5画素間引き処理を行った結果について生成した格子シートの位相分布を参照する。
【0060】
図9のステップS207では、ステップS206において画素ごとに格子シートの位相分布を参照した結果に基づいて、解析部41の位相分布算出部415が、形状算出用の格子シートの位相分布を決定する。これにより、格子シートSSを撮影した画像において、格子ピッチの1ピッチがどのような画素数に相当しても、精度のよい形状解析結果を得ることができる。つまり、例えば、4画素に固定した間引きを行うと、1ピッチが5画素に相当する領域について解析精度の低下が生じることがある。これに対し、間引きする画素数を固定せずに先述したように4画素または5画素の間引きを行うことにより、1ピッチが5画素または4画素に相当する領域それぞれについて、解析精度の低下を回避することができる。このように、解析部41による解析に最適な間引き数の位相分布を選択する。
【0061】
形状算出用の位相分布は、例えば以下のように決定する。すなわち、例えば、撮影画像を平滑化した画像から1ラインを抽出した、輝度分布を示す画像90について、最も暗い画素同士の間隔に相当する画素数を求め、その画素数を間引き画素数とする。そして、その画素数で間引き処理を行った結果に対応する位相分布を、形状算出用の位相分布とする。
【0062】
図12は、溝形状測定部40による溝形状測定処理を示すフローチャートである。図12において、ステップS101では、タイヤ60の溝底表面を含む部分に格子パターンを貼付する。ステップS102では、タイヤの表面から凹んでいる部分である溝部を少なくとも含む領域に設けられた格子シートを撮影する。ステップS103では、撮影された画像を解析する。以上により、タイヤの溝形状を測定することできる。
【0063】
(デジタル画像相関法)
デジタル画像相関法を用いて溝形状を測定してもよい。デジタル画像相関法では、撮影した画像に対し、パターンマッチング法を適用する。例えば、特徴ベースマッチング、領域ベースマッチング又は位相ベースマッチングのいずれか1つを適用する。次に、上述した位相分布に相応する、複数の異なる方向からの撮影画像の対応点を算出する。そして、複数の異なる方向からの撮影画像の対応点と各カメラの視線(撮影方向)とに基づいて、三次元形状を算出する。各撮影画像の対応点とカメラの視線、つまりカメラ15bとカメラ15cとタイヤ60(路面板221)との相対位置に基づいてカメラ15b、15cのそれぞれで取得した撮影画像の位相分布を視線データとして利用することで、三次元形状を得ることができる。
【0064】
図13は、本実施形態にかかるタイヤ形状解析システム1によるタイヤ解析方法を示すフローチャートである。図13において、ステップS601では、ランダムパターンを形成したタイヤの表面を少なくとも2台のカメラで撮影する。ステップS602では、2台のカメラによる撮影画像に対し、パターンマッチング法を適用する。ステップS603では、複数の異なる方向からの撮影画像の対応点を算出する。ステップS604では、算出した対応点(位相分布に相当)と各カメラの視線(撮影方向)とに基づいて、三次元形状を算出する。
【0065】
(フーリエ変換法)
フーリエ変換法を用いて溝形状を測定してもよい。図14は、撮影部によって撮影した画像を二次元フーリエ変換して取得できる、パワースペクトルの例を示す図である。図14は、上下方向周波数及び水平方向周波数のパワースペクトルを示す。図3中の逆フーリエ変換部419は、図14に示すパワースペクトルについて、上下方向の一次調和波WV及び水平方向の一次調和波WHを抽出する。
【0066】
図15は、フーリエ変換法を用いて溝形状を測定する処理を示すフローチャートである。図15において、ステップS501では、模様パターンを少なくとも2台のカメラで撮影する。ステップS502では、撮影した画像を二次元フーリエ変換し、パワースペクトルを取得する。ステップS503では、取得したパワースペクトルから、上下方向の一次調和波WV及び水平方向の一次調和波WHを抽出し、それぞれについて二次元逆フーリエ変換する。ステップS504では、二次元逆フーリエ変換によって得られたラッピング型の位相分布を位相接続して、アンラッピング型に変換する。ステップS505では、各カメラによる撮影画像の位相分布と各カメラの視線(撮影方向)とに基づいて、三次元形状を算出する。
【0067】
(重み付け位相解析法)
重み付け位相解析法を用いて溝形状を測定してもよい。図16は、本実施形態にかかるタイヤ形状解析システム1によるタイヤ解析方法を示すフローチャートである。図16において、ステップS501では、模様パターンを少なくとも2台のカメラで撮影する。ステップS502aでは、撮影した画像を縦方向、横方向にそれぞれ平滑化処理する。ステップS502bでは、ステップS502aで縦方向、横方向に平滑化処理した画像に対して、格子の位相分布を求める。例えば、特許第5795095号公報に記載の技術を用いて格子の位相分布を求める。例えば、縦方向(x方向)への重み付け関数W(k)と横方向(y方向)への重み付け関数Wy(l)とを2次元方向への重み付け関数Wxy(k、l)として表した場合、式(3)のようになる。そして、縦方向(x方向)の位相算出式は式(4)、横方向(y方向)の位相算出式は式(5)となる。式(4)および式(5)を利用して格子の位相分布を求める。
【0068】
【数2】
【0069】
【数3】
【0070】
【数4】
【0071】
ステップS504では、ステップS502bによって得られたラッピング型(πでラップして-πに戻る)の位相分布を位相接続して、アンラッピング型に変換する。ステップS505では、各カメラによる撮影画像の位相分布と各カメラの視線(撮影方向)とに基づいて、三次元形状を算出する。
【0072】
(複数回に分けて撮影)
模様パターンが設けられている溝を撮影する場合に、溝全体を1回で撮影するのではなく、撮影範囲を分割して複数回に分けて撮影することが好ましい。例えば、撮影範囲を2つに分割し、2回に分けて撮影することが好ましい。
【0073】
図17は、撮影対象であるタイヤとカメラとの位置関係を示す図である。図18は、図17の一部を拡大して示す図である。図17および図18において、図の左右方向がタイヤ幅方向であり、図の奥行き方向がタイヤ周方向、かつ、路面板221の延在方向である。図17において、路面板221の上面221Uにはタイヤ60が接している。路面板221の下面221D側には、カメラ15b1および15b2、カメラ15c1および15c2が設けられている。カメラ15b1および15b2は、図の奥行き方向に重なって配置されている。カメラ15c1および15c2は、図の奥行き方向に重なって配置されている。
【0074】
本例では、カメラ15b1および15b2、カメラ15c1および15c2が、タイヤ60の範囲Hを撮影する場合について説明する。範囲Hには、タイヤ60の溝62が含まれている。図18は、範囲Hを拡大して示す。図18に示すように、範囲Hは、2つの範囲H1と範囲H2とからなる。このため、溝62の撮影範囲が2つの範囲H1、H2に分割され、2回に分けて撮影される。2つの範囲H1、範囲H2には、共通の領域HCがある。つまり、溝62の撮影範囲が、共通の領域を含む2つの領域に分割されている。そして、共通の領域HCは、模様パターンのタイヤ幅方向の1周期以上であることが好ましい。このように共通の領域HCを設けつつ撮影範囲を分割することにより、撮影領域ごとの溝形状を精度よく合成でき、溝全体の形状を取得することができる。なお、共通の領域HCが模様パターンのタイヤ幅方向の1周期未満であると、サンプリングモアレ法の制約で溝形状の合成精度が低下するため好ましくない。
【0075】
ここで、カメラ同士の位置関係などについて説明する。図19は、カメラ同士の位置関係などを示す図である。図19において、カメラ15bは図17に示すカメラ15b1および15c1に相当し、カメラ15cは図17に示すカメラ15b2および15c2に相当する。
【0076】
図19に示すように、カメラ15bおよびカメラ15cは、固定棒15AMに固定されている。カメラ15bとカメラ15cとの間の距離(以下、カメラ間距離)は、例えば、いずれも150mm以上400mm以下であることが好ましい。カメラが固定棒に設置されている場合、固定棒15AMの中心線15Sに沿った距離15Dが、カメラ間距離である。
【0077】
また、カメラ15bとカメラ15cとの間の中点位置15Pから、撮影対象であるタイヤの溝に設けられた格子シートSSまでの距離(以下、タイヤ・カメラ間距離)は(10.5×F)mm以上(18.5×F)mm以下であることが好ましい。ただし、Fは、カメラのレンズの焦点距離である。
【0078】
さらに、タイヤ・カメラ間距離に対する、カメラ間距離の比は、0.51以上1.35以下であることが好ましい。なお、カメラが固定棒15AMに設置されている場合、格子シートSSから中心線15Sまでの距離15Eが、タイヤ・カメラ間距離である。
【0079】
なお、図17および図18を参照して説明した例では、撮影範囲を2つの範囲に分割し、2回に分けて撮影しているが、3つ以上の範囲に分割し、分けて撮影してもよい。すなわち、撮影範囲を少なくとも2つの範囲に分割し、分けて撮影すればよい。いずれの場合でも共通の領域を含むように分割し、共通の領域は、模様パターンのタイヤ幅方向の1周期以上であることが好ましい。
【0080】
(カメラの移動範囲)
上記のカメラ15b、15cは移動できるようになっており、タイヤ接地面の溝全てを撮影できることが好ましい。つまり、カメラ15b、15cの移動とカメラ15b、15cによる撮影とを繰り返して、総接地領域内の全ての溝を撮影することが好ましい。上記のように分割した撮影範囲について、カメラの移動と撮影とを繰り返すことにより、タイヤ接地面全体での溝深さおよび溝体積を評価することができる。
【0081】
図20は、タイヤ接地面の画像の例を示す図である。図20において、カメラは、タイヤ幅方向およびタイヤ周方向に移動できるようなっており、カメラの移動範囲HMは、以下であることが好ましい。すなわち、タイヤの接地中心610を原点(0,0)とし、2つのカメラ15b、15cの中点位置15Pを(X、Y)と定義した場合に、タイヤ周方向に沿った最大接地長L7に対してタイヤ周方向の移動範囲Xは、-L7/2以上L7/2以下であることが好ましい。また、タイヤ幅方向に沿った最大接地幅W7に対してタイヤ幅方向の移動範囲Yは、-W7/2以上W7/2以下であることが好ましい。カメラの移動範囲HMを上記のように設定することにより、タイヤ接地面全体での溝深さおよび溝体積を評価することができる。
【0082】
(総接地領域作成処理)
図21は、総接地領域作成部42による総接地領域作成処理を示す図である。図22は、総接地領域作成部42の機能を示すブロック図である。これらの図において、図21は、総接地領域作成部42の全体構成を模式的に示し、図22は、総接地領域作成部42の主たる機能を示している。
【0083】
総接地領域作成部42は、空気入りタイヤ60の接地面61の画像を取得することにより、接地面61の解析を行うシステムに適用される。総接地領域作成部42は、タイヤ試験機2と、撮影装置10と、タイヤ接地面解析装置20とを備える。
【0084】
タイヤ試験機2は、タイヤ60に試験条件を付与する装置である。図21の構成では、タイヤ試験機2は、支持装置300と、駆動装置5と、透明な路面板221とを有する。支持装置300は、タイヤ60を回転可能に支持する装置であり、タイヤ60を装着するリム400を有する。駆動装置5はタイヤ60および路面板221に駆動力を付与する装置である。駆動装置5は、タイヤ60および路面板221を駆動するモータ6と、モータ6を制御するモータ制御装置7とから構成される。なお、駆動装置5は、図示せぬギヤなどを含み、路面板221を水平に駆動する。
【0085】
このタイヤ試験機2では、支持装置300がリム400に装着されたタイヤ60を支持し、タイヤ60が路面板221の一主面である上面221Uに押圧されてタイヤ60に荷重を付与する。路面板221は、フラットな路面を再現する。路面板221に押圧されたタイヤ60は、フラットな路面を走行している状態と同様に接地面61が変形する。路面板221を水平に駆動することにより、車両走行時におけるタイヤ60の転動状態が、路面板221の表面を路面として再現され、動的接地特性を解析できる。また、支持装置300が、リム400を変位させてタイヤ60と路面板221との位置関係を調整することにより、タイヤ60にスリップ角又はアングル角を付与する。また、駆動装置5は、モータ制御装置7によりモータ6を駆動してリム400を所定角度回転させることができる。また、支持装置300及び駆動装置5が、荷重、回転速度、スリップ角、アングル角などを調整することにより、試験条件を変更できる。
【0086】
路面板221は、光を透過する性質を有する光透過板である。路面板221は光を100%透過しなくてもよく、路面板221を介してタイヤ60の表面を撮影することができる光透過率を有していればよい。路面板221は、例えば、アクリル樹脂製の平面板又はガラス製の平面板である。タイヤ60と平面板との接触状態を撮影して画像解析するので、タイヤ60の、より現実に近い接地状態を解析できる。路面板221について、板の厚み、屈折角などの仕様の指定はない。
【0087】
撮影装置10は、タイヤ60を撮影する撮影部であるカメラ15aと、光源である照明用ランプ16と、トリガー装置17とを有する。カメラ15aは、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラにより構成される。カメラ15aは、撮影装置10内に固定されている。カメラ15aは、路面板221を介してタイヤ60を撮影することにより、路面板221に押し付けられているタイヤ60の接地面61を撮影する。詳しくは、カメラ15aは、路面板221の他主面である下面221D側に、光軸が下面221D側に対して直交する向きで配設され、下面221D側から、路面板221を介してタイヤ60を撮影する。これにより、カメラ15aは、少なくとも接地面61を含んでタイヤ60を撮影し、接地面61を含んだタイヤ60のデジタル画像データを生成する。
【0088】
照明用ランプ16は、カメラ15aの撮影範囲を照らすランプであり、例えば、ハロゲンランプにより構成される。この照明用ランプ16は、後述するように複数設けられているランプ161~168の総称である。照明用ランプ16は、路面板221に押し付けられているタイヤ60の接地面61に、光を照射する。照明用ランプ16は、光を、路面板221の下面221D側から路面板221を介して、または路面板221の上面221U側とタイヤ60との間から照射する。複数の照明用ランプ16は、路面板221が移動する位置以外の位置に、それぞれ配置されている。なお、撮影装置10の移動に伴い、撮影装置10内のカメラ15aと照明用ランプ16とが一緒に移動する。
【0089】
なお、これらの照明用ランプ16は、タイヤ試験機2での試験の条件に応じて数を異ならせてもよい。例えば、路面板221に対してタイヤ60を押し付ける際の荷重が小さい場合は、接地領域が狭くなる。このため、この場合は、照明用ランプ16は、比較的数が少なくてもよく、路面板221の移動方向に対して斜め方向になる2箇所に配置する程度でもよい。これに対し、路面板221に対してタイヤ60を押し付ける際の荷重が大きい場合は、接地領域が広くなるため、接地面61に対してより多くの方向から光を照射する必要がある。このため、この場合は、照明用ランプ16は接地面61を囲んだ4箇所以上に配置する。また、これらの照明用ランプ16は、常時点灯タイプであってもよく、フラッシュ点灯タイプであってもよい。
【0090】
トリガー装置17は、カメラ15aによる撮影のタイミングを示すトリガー信号を出力する装置である。トリガー装置17は、半導体レーザを出力し、その反射光を検出した時にトリガー信号を出力する。本例では、路面板221の側面に再帰性反射シート18が貼付されており、トリガー装置17が出力した半導体レーザが再帰性反射シート18によって反射され、トリガー装置17の検出部171がその反射光を検出した時にトリガー信号を出力する。再帰性反射シート18の貼付位置とカメラ15aの位置との関係が固定されていれば、撮影を複数回行った場合でもタイヤ60の同じ位置の接地面61を撮影することができる。
【0091】
タイヤ接地面解析装置20は、例えば、所定の解析プログラムをインストールしたPC(Personal Computer)であり、撮影装置10から入力されるタイヤ60の画像を処理してタイヤ60の接地面61を解析する処理を行う。タイヤ60の接地面61を解析する処理は、撮影したタイヤ60の画像に基づき、接地面61を算出する処理を含む。タイヤ接地面解析装置20は、接地面61の解析等の演算処理やデータの保存等を行う処理装置30と、オペレータがタイヤ接地面解析装置20への入力操作を行う入力部21と、解析結果や各種情報を表示する表示部22と、を有している。入力部21には、キーボードや、マウス等のポインティングデバイスが用いられており、表示部22には、液晶ディスプレイ等のディスプレイ装置が用いられている。入力部21と表示部22とは、処理装置30に電気的に接続されており、これによりタイヤ接地面解析装置20は、オペレータが表示部22を視認しながら入力部21で入力操作をすることが可能になっている。また、カメラ15aは、タイヤ接地面解析装置20の処理装置30に接続されており、これによりタイヤ接地面解析装置20は、カメラ15aで撮影した画像を取得することが可能になっている。
【0092】
タイヤ接地面解析装置20が有する処理装置30は、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理部31や、RAM(Random Access Memory)等の記憶部50を備えて構成されている。このように構成される処理部31と記憶部50とは、同一筐体内に設けられていてもよく、異なる筐体内に設けられていてもよく、或いは、複数の記憶部50が双方の形態で設けられていてもよい。
【0093】
処理装置30が有する処理部31は、接地面画像取得部32と、接地特性解析部33と、刻印抽出部401と、を機能的に有している。このうち、接地面画像取得部32は、解析対象であるタイヤ60の接地面61を撮影した撮影画像を取得する。撮影画像はカメラ15aによって撮影された、タイヤ60の接地面61のデジタル画像である。また、接地特性解析部33は、接地面画像取得部32によって取得した接地面画像に基づいて、タイヤ60の接地域を示す接地域画像を作成する。以下の説明において、接地面61の撮影画像は全て256階調からなるものとし、黒を輝度「0」、白を輝度「255」と定義する。
【0094】
接地特性解析部33は、溝抽出部34と、接地特性算出部35とを含んでいる。溝抽出部34は、撮影画像から溝画像を抽出する。接地特性算出部35は、撮影画像について所定輝度を閾値とした二値化処理によって得た大まかな接地領域の画像から、溝画像を差し引く。接地特性算出部35は、撮影画像について、例えば平滑化処理した後、輝度閾値を「220」とした二値化処理を行って、大まかな接地領域の画像を得てもよい。平滑化処理には、例えば、注目画素から半径4画素以内にある領域を周辺画素とするメディアンフィルタを用いる処理(以下、メディアン処理と呼ぶ)を用いてもよい。なお、後述するように、溝抽出部34において、撮影画像に含まれる刻印に対応する部分を除く処理を行って、溝画像を抽出してもよい。また、後述するように、接地特性算出部35において、撮影画像に含まれる刻印に対応する部分を除く処理を行って、大まかな接地領域の画像を抽出してもよい。
【0095】
溝抽出部34は、面取り画像抽出部34Aと、溝底部抽出部34Bと、主溝底部抽出部34Cと、合成部34Dとを含んでいる。面取り画像抽出部34Aは、撮影画像から、タイヤ60の溝のエッジに設けられた面取り部分を示す面取り画像を抽出する。面取り画像抽出部34Aは、撮影画像から、所定輝度より高い輝度を有する部分を、面取り画像として抽出する。溝底部抽出部34Bは、撮影画像から、所定輝度より低い輝度を有する部分を、溝の底部を示す溝底部画像として抽出する。主溝底部抽出部34Cは、撮影画像から、所定輝度より高い輝度を有する部分によって囲まれた低輝度部分を、主溝の底部を示す主溝底部画像として抽出する。合成部34Dは、面取り画像と、溝底部画像と、主溝底部画像とを合成して溝画像を得る。
【0096】
(主溝底部抽出部)
主溝底部抽出部34Cは、平滑化処理部341と、第1候補画像抽出部342と、第2候補画像抽出部343と、重ね合わせ処理部344とを含んでいる。平滑化処理部341は、撮影画像についてタイヤ周方向に平滑化処理する。第1候補画像抽出部342は、平滑化処理部341によって平滑化された平滑化画像について、所定の第1輝度閾値により2値化処理した第1候補画像を抽出する。第2候補画像抽出部343は、平滑化処理部341によって平滑化された平滑化画像について、上記第1輝度閾値よりも低い第2輝度閾値により2値化処理した第2候補画像を抽出する。重ね合わせ処理部344は、第1候補画像に含まれかつ接地ブロックを含まない孤立物の画像と、第2候補画像とを重ね合わせて主溝底部画像を得る。
【0097】
ここで、タイヤ60の溝とは、タイヤ60のトレッド面に設けられた、主溝、サブ溝、および、それらの溝の開口部に設けられた面取りの総称である。主溝とは、JATMAに規定されるウェアインジケータの表示義務を有する溝である。また、サブ溝とは、タイヤ幅方向に延在する横溝であり、タイヤ接地時に開口して溝として機能する。
【0098】
タイヤ接地面解析装置20で用いられる解析プログラムは、予め記憶部50に記憶されており、タイヤ60の接地面61の解析を行う際には、記憶部50に記憶されているプログラムを処理部31で呼び出し、プログラムに沿った動作を処理部31で実行することにより、各機能を実行する。
【0099】
本実施形態に係る総接地領域作成部42は、以上のような構成からなる。以下、総接地領域作成部42の作用について説明する。総接地領域作成部42において、最初に、タイヤ60をタイヤ試験機2の支持装置300に装着し、タイヤ60を路面板221に押し付けた状態で回転させながら、カメラ15aによって接地面61を撮影する。その際に、タイヤ60に対しては、複数の方向から複数の照明用ランプ16によって光を照射した状態で撮影する。このため、カメラ15aは、接地面61と接地面61以外の部分とで、輝度差をつけてタイヤ60を撮影することができる。撮影した画像は、タイヤ接地面解析装置20で取得し、タイヤ接地面解析装置20は、取得した画像に基づいて、接地面61の解析を行う。
【0100】
タイヤ60の溝部分の抽出については、三角測量法を利用して高さ(深さ)の違いを検出する距離センサーを用いることもできる。しかしながら、接地面61の全体について溝部分を検出するには、距離センサーの検出範囲を走査する必要がある。したがって、距離センサーを用いるだけでは、タイヤ60が転動する状態での動的接地特性を解析することが困難である。
【0101】
(撮影における照明条件)
タイヤ60の接地面61の接地域の画像を取得する場合、路面板221の上面221U側において、接地面61を包囲するように路面板221の上面221U側に照明用ランプ16を配置することが好ましい。タイヤ60の接地面61の接地域の画像を取得する場合、上面221U側に接触部分を包囲するように配置された照明用ランプ16によってタイヤ60に光を照射して画像を取得することが好ましい。
【0102】
(路面板の移動とトリガー装置の動作)
図23および図24は、路面板221の移動とトリガー装置17の動作とを説明する図である。図23は、路面板221が移動する前の状態であり、かつ、トリガー装置17が再帰性反射シート18による反射光を検出する前の状態を示す。図24は、路面板221が移動した後の状態であり、かつ、トリガー装置17が再帰性反射シート18による反射光を検出した時の状態を示す。
【0103】
図23において、路面板221の上面221Uは平らであり、上面221Uはタイヤ60が転動するためのフラットな路面となる。図23において、タイヤ60は路面板221の上面221Uに接した状態で支持装置300のリム400に固定されている。このため、路面板221の移動に伴い、タイヤ60は回動する。総接地領域作成部42は、路面板221を矢印Y1の方向に移動させる。路面板221が矢印Y1の方向に移動することにより、タイヤ60は矢印Y2の方向に回動する。図23に示す状態では、トリガー装置17の検出部171は再帰性反射シート18による反射光を検出していない。トリガー装置17が再帰性反射シート18による反射光を検出しない限り、路面板221は矢印Y1の方向に移動し続ける。撮影装置10は路面板221に固定されているため、路面板221の移動に伴って撮影装置10も移動する。路面板221の移動速度は、例えば時速0.5kmである。なお、路面板221の代わりに、外周面が透明な回転ドラムを用いてもよい。
【0104】
路面板221が矢印Y1の方向に移動し、図24に示す状態になると、トリガー装置17の検出部171は再帰性反射シート18による反射光を検出する。トリガー装置17の検出部171が反射光を検出した時、総接地領域作成部42は、カメラ15aに撮影指示の信号を出力する。これにより、タイヤ60の接地面61を撮影することができる。なお、路面板221は、カメラ15aの撮影範囲に対応する部分110が透明であれば良く、部分110以外の部分が不透明であってもよい。つまり、路面板221は、全体が透明であってもよいし、撮影範囲に対応する部分110だけが透明であってもよい。
【0105】
(総接地領域作成部の動作)
図25は、総接地領域作成部42の動作を示すフロー図である。総接地領域作成部42は、タイヤ60の解析を行う場合、路面板221に押し付けられているタイヤ60に、照明用ランプ16から光を照射する(ステップS201)。次に、総接地領域作成部42は、モータ制御装置7によって、モータ6の駆動を開始する(ステップS202)。総接地領域作成部42は、モータ6の駆動を継続しているとき(ステップS203)、トリガー装置17が再帰性反射シート18による反射光を検出したか否か判定する(ステップS204)。総接地領域作成部42は、トリガー装置17が再帰性反射シート18による反射光を検出していない場合、モータ6の駆動を継続する(ステップS204,No→S203)。
【0106】
総接地領域作成部42は、トリガー装置17が再帰性反射シート18による反射光を検出した場合、タイヤ60をカメラ15aによって撮影する(ステップS204,Yes→S205)。その後、総接地領域作成部42は、モータ6の駆動および光の照射を停止する(ステップS206)。
【0107】
(具体的な配置の例および撮影画像の例)
次に、カメラ15aおよび照明用ランプ16の具体的な配置の例について説明する。図26から図28は、接地面画像取得部32によって接地面画像を取得する場合のカメラ15aおよび照明用ランプ16の具体的な配置の例を示す図である。図26は、タイヤ60の回転軸に沿った方向から各照明用ランプ16の配置を見た図である。図27は、路面板221の上面221U側から各照明用ランプ16の配置を見た図である。図28は、タイヤ60の回転軸に対して垂直に離れた方向から各照明用ランプ16の配置を見た図である。以下の説明において、タイヤ60の回転軸に沿った方向をタイヤ幅方向、回転軸に対して垂直な方向をタイヤ周方向と呼ぶ。
【0108】
本装置による撮影において、解析対象であるタイヤ60は、空気圧を230kPa、荷重を6kN、回転速度を0.5km/h、スリップ角を0°とした。カメラ15aについては、カメラゲインを3dBとし、F値を4、露光時間を1msとした。
【0109】
図26から図28を参照すると、路面板221の上面221Uにタイヤ60が接触している。路面板221の下面221D側にカメラ15aが設けられている。カメラ15aは、その光軸151がタイヤ60の接地面61の中心点の法線上に位置するように配置される。カメラ15aの光軸151が接地面61の中心点を通るように配置されることにより、接地面61の中心点の法線方向から接地面61を撮影することができる。これにより、安定した解析精度を確保することができる。撮影画像の端部に近づくほどレンズ収差の影響が大きくなり、空間分解能が変動し、解析精度が不安定になる。このようにカメラ15aを配置することによって、レンズ収差の影響を最小限に抑えることができる。
【0110】
図26から図28を参照すると、路面板221の上面221U側に、一主面側ランプとしてランプ161、162、163および164が配置されている。また、路面板221の221D側に、他主面側ランプとしてランプ165、166およびカメラ15aが配置されている。ランプ161および162は、タイヤ60に対し、タイヤ周方向に離れた位置に配置されている。ランプ161と、ランプ162とは、タイヤ60を挟んで互いに異なる側に設けられている。ランプ163およびランプ164は、タイヤ60に対し、タイヤ幅方向に離れた位置に配置されている。ランプ163とランプ164とは、タイヤ60を挟んで互いに異なる側に設けられている。このように、ランプ161~164は、タイヤ60の接地面61を包囲するように配置される。タイヤ60の接地面61の四方にわたって照射しないと、接地形状の輪郭を出すのが難しくなり、解析精度が低下する可能性がある。これに対し、タイヤ60の接地面61を包囲するようにランプ161~164を配置し、接地面61の四方にわたって光を照射することにより、接地形状の輪郭を明確にすることができ、解析精度を向上させることができる。
【0111】
ここで、図26および図28において、各ランプ161~164の発光面中心から路面板221の上面221Uまでの高さをH1~H4とする。図26および図28において、各ランプ161~164の傾斜角度、すなわち路面板221の上面221Uに対する、光照射方向のなす角度をθ1~θ4とする。図27において、各ランプ161、162の発光面中心からタイヤ60の中心までのタイヤ周方向の距離を距離D1、D2とする。図27において、各ランプ163、164の発光面中心からタイヤ60の中心までのタイヤ幅方向の距離をD3、D4とする。図27において、各ランプ161、162のタイヤ幅方向位置における発光面中心はタイヤ中心に一致している。
【0112】
高さH1からH4については、0mm以上201mm以下であることが好ましい。高さH1からH4の最低値は0mmである。照明用ランプ16を路面板221の上に置くためである。高さH1からH4が201mmを超えると、照明からの光が接地面61に上手く入り込まず、接地面の輪郭が不正確となって解析精度が低下するため好ましくない。
【0113】
タイヤ周方向の距離D1、D2は、タイヤ60の最大接地長の半分より大きく、1345mmより小さいことが好ましい。ただし、各照明用ランプ16がタイヤ60に接触しないようにする必要がある。距離D1、D2の最小値を、タイヤ60の最大接地長の半分より小さくすることは好ましくない。照明用ランプ16がタイヤ60に接触しないようにするためである。距離D1、D2が1345mmを超えると、接地面61に当たる照明の光量が不足し、接地面61の輪郭が不正確となって解析精度が低下するため好ましくない。
【0114】
タイヤ幅方向の距離D3、D4は、タイヤ60の最大接地幅の半分より大きく、300mmより小さいことが好ましい。ただし、各照明用ランプ16がタイヤ60に接触しないようにする必要がある。距離D3、D4の最小値を、タイヤ60の最大接地幅の半分より小さくすることは好ましくない。各照明用ランプ16がタイヤ60に接触しないようにするためである。距離D3、D4が300mmを超えると、接地面61に当たる照明の光量が不足し、接地面61の輪郭が不正確となって解析精度が低下するため好ましくない。
【0115】
各照明用ランプ16の傾斜角度θ1からθ4については、Atan(Hn/Dn)/π*180-0.6°以上Atan(Hn/Dn)/π*180+0.6°以下であることが好ましい(n=1~4)。θ1からθ4について、各照明用ランプ16は接地面61の中心に向けて光を照射するのが好ましい。このように光を照射すれば、接地面61に光が上手く入り込む。このため、照明用ランプ16の傾斜角度θ1からθ4は、Atan(Hn/Dn)/π*180が好ましい(n=1~4)。ただし、計測誤差±0.6°を許容範囲とした。
【0116】
本実施形態では、H1=H2=30mm、H3=H4=13mm、D1=D2=260mm、D3=D4=230mm、θ1=9.7°、θ2=11.6°、θ3=θ4=0°とした。
【0117】
図26から図28を参照して説明したようにランプ161から164を配置することにより、タイヤ60の接地面61を囲むように光が照射され、接地面画像を取得することができる。
【0118】
また、図26から図28を参照すると、路面板221の下面221D側に、他主面側ランプとしてランプ165、166が配置されている。ランプ165、166は、ともに、タイヤ周方向を長手方向とするライン照明である。ランプ165、166は、タイヤ60のタイヤ幅方向に離れた位置に配置されている。ランプ165とランプ166とは、タイヤ60を挟んで互いに異なる側に設けられている。つまり、ランプ165、ランプ166は、タイヤ幅方向の外側から内側に向けて、接地面61に光を照射する幅方向ランプである。このようにランプ165、166は、タイヤ60の接地面61にタイヤ幅方向に光を照射するように配置される。ランプ165、ランプ166からの光によって、主溝のエッジを光らせ、主溝を判定し易くすることができる。
【0119】
ここで、図28において、ランプ165、166の発光面中心から下面221Dまでの高さをH5、H6とする。図28において、ランプ165、166の傾斜角度、すなわち路面板221の下面221Dに対する、光照射方向のなす角度をθ5、θ6とする。図27において、ランプ165、166の発光面中心からタイヤ中心までのタイヤ幅方向の距離をD5、D6とする。角度θ5およびθ6は、19.4°以上22.4°以下の範囲が好ましい。高さH5、H6が変われば、そのときの適切な角度θ5、θ6も変わる。その際はカメラ15aによって取得される画像をライブ表示にし、表示内容を確認しながら、主溝のエッジが最も光るように角度θ5、θ6を調整すればよい。本実施形態では、H5=H6=62mm、D5=D6=215mm、θ5=21.8°、θ6=20.1°とした。
【0120】
図29および図30は、タイヤ周方向に対する、ランプ165、166の傾斜角度を説明する図である。図29は、ランプ165、166からの光の方向である矢印Y5、Y6がタイヤ幅方向に沿っている。ランプ165、166からの光がタイヤ幅方向に進めば、タイヤ周方向に延びる主溝のエッジを高輝度に光らせることができる。
【0121】
図30に示す、タイヤ周方向に対するランプ165の長手方向の角度θ15、タイヤ周方向に対するランプ166の長手方向の角度θ16は、ともに0°であることが好ましい。角度θ15、角度θ16が、ともに0°であれば、ランプ165の長手方向とランプ166の長手方向とが平行になり、接地面61に存在する主溝の面取りの全てについて良好に輝度を高め、安定した解析精度が確保できる。角度θ15、角度θ16は0°±1°であれば主溝の面取りの輝度を高めるうえで問題はない。角度θ15、角度θ16が0°±1°の範囲を超えると、接地面61に存在する主溝の面取りの全てについて輝度を高めることができなくなる場合、例えば一部の面取りのみ輝度を高めることしかできない場合が生じ、解析精度が低下することがある。
【0122】
ここで、サブ溝のエッジに面取りがある場合、路面板の下に、タイヤ周方向に光が進むランプが設けられていることが好ましい。図31は、タイヤ60の回転軸に沿った方向から各照明用ランプ16の配置を見た図である。図31に示すように、路面板221の他主面である下面221D側に、他主面側ランプとしてランプ167、168が設けられていることが好ましい。ランプ167、168は、ともに、タイヤ幅方向を長手方向とするライン照明である。ランプ167、168は、タイヤ60のタイヤ周方向に離れた位置に配置されている。ランプ167とランプ168とは、タイヤ60を挟んで互いに異なる側に設けられている。つまり、ランプ167、ランプ168は、タイヤ周方向の外側から内側に向けて、接地面61に光を照射する周方向ランプである。このようにランプ167、168は、タイヤ60の接地面61にタイヤ周方向に光を照射するように配置される。ランプ167、168により、サブ溝の面取りの輝度を高めることができる。つまり、ランプ167、168は、サブ溝のエッジの輝度を高める光を、接地面61に照射する。
【0123】
また、図31において、ランプ167、168の発光面中心から下面221Dまでの高さをH7、H8とする。図31において、ランプ167、168の傾斜角度、すなわち路面板221の下面221Dに対する、光照射方向のなす角度をθ7、θ8とする。図32は、タイヤ60の回転軸に対して垂直に離れた方向から各照明用ランプ16の配置を見た図である。図33は、路面板221の上面221U側から各照明用ランプ16の配置を見た図である。サブ溝の面取りを最大限に光らせるために、角度θ7およびθ8は、3.5°以上6.0°以下であることが好ましい。本実施形態では、H7=H8=30mm、θ7=4.2°、θ8=4.9°とした。
【0124】
図33において、各ランプ167、168の発光面中心からタイヤ60の中心までのタイヤ周方向の距離をD7、D8とする。ランプ167、168からの光により、接地面61に存在するサブ溝の面取りの輝度を高めることができる。本実施形態では、D7=D8=183mmとした。
【0125】
図34および図35は、タイヤ幅方向に対する、ランプ167、168の傾斜角度を説明する図である。図34は、ランプ167、168からの光の方向である矢印Y7、Y8がタイヤ周方向に沿っている。ランプ167、168からの光がタイヤ周方向に進めば、タイヤ幅方向に延びるサブ溝のエッジを高輝度に光らせることができる。
【0126】
図35に示す、タイヤ幅方向に対するランプ167の長手方向の角度θ17、タイヤ幅方向に対するランプ168の長手方向の角度θ18は、ともに0°であることが好ましい。角度θ17、角度θ18が、ともに0°であれば、ランプ167の長手方向とランプ168の長手方向とが平行になり、接地面61に存在するサブ溝の面取りの全てについて良好に輝度を高め、安定した解析精度が確保できる。角度θ17、角度θ18は0°±1°であれば輝度を高めるうえで問題はない。角度θ17、角度θ18が0°±1°の範囲を超えると、接地面61に存在するサブ溝の面取りの全てについて輝度を高めることができなくなる場合、例えば一部の面取りのみ輝度を高めることしかできない場合が生じ、解析精度が低下することがある。
【0127】
図36から図41は、サブ溝の面取りの輝度を高める、ランプ167、168からの光の照射例を示す図である。図36は、ランプ167、168からの光が強めの場合の撮影画像の例を示す。図36は、照度130万ルクス程度の光を接地面61に照射した場合の撮影画像の例を示す。図37は、図36内のサブ溝の部分201を拡大して示す図である。図37において、サブ溝のエッジE1は白く光っており、タイヤ周方向への光量が十分であることがわかる。図38は、図36内のサブ溝の部分202を拡大して示す図である。図38において、サブ溝のエッジE2は白く光っており、タイヤ周方向への光量が十分であることがわかる。図37図38に示すように、ランプ167、168からの光が強く、サブ溝のエッジE1、エッジE2が白く光っている場合、接地部分の輝度とサブ溝のエッジの輝度との差が大きいため、撮影画像からサブ溝のエッジ部分を容易に分離することができる。
【0128】
図39は、ランプ167、168からの光が弱めの場合の撮影画像の例を示す。図39は、照度60万ルクス程度の光を接地面61に照射した場合の撮影画像の例を示す。図40は、図39内のサブ溝の部分201’を拡大して示す図である。図40において、サブ溝のエッジE1’はあまり光っておらず、タイヤ周方向への光量が不十分であることがわかる。図41は、図39内のサブ溝の部分202’を拡大して示す図である。図41において、サブ溝のエッジE2’はあまり光っておらず、タイヤ周方向への光量が不十分であることがわかる。図40図41に示すように、ランプ167、168からの光が弱く、サブ溝のエッジE1’、エッジE2’があまり光っていない場合、接地部分の輝度とサブ溝のエッジの輝度との差が小さく、撮影画像からサブ溝のエッジ部分を分離することは難しい。
【0129】
図36から図41によってわかるように、ランプ167、168からの光を照度130万ルクス程度の強めに設定し、サブ溝のエッジが光っている撮影画像を取得することが好ましい。
【0130】
図26から図35において、ランプ161から164による、タイヤ幅方向の照度とタイヤ周方向の照度とは、同じ程度の照度であってもよいし、どちらかの照度が大きくなってもよい。ランプ165から168については、タイヤ幅方向の照度よりタイヤ周方向の照度を大きめにしたほうが好ましい。そのようにしないと、接地面61に存在するサブ溝の面取りを光らせることができず、解析精度が低下する。なお、ランプ161から164の各照度は、ランプ165から168の各照度と同等もしくはそれ以上にする必要がある。そのようにしないと、タイヤ接地形状の輪郭を判断できなくなり、精度が低下する。
【0131】
図42および図43は、カメラ15aの配置例を示す図である。図42は、タイヤ60の回転軸に沿った方向からカメラ15aを見た図である。図43は、タイヤ60の回転軸に垂直な方向からカメラ15aを見た図である。図42および図43に示すように、カメラ15aは、接地面61の下方に設けることが好ましい。図42および図43に示すように、カメラ15aは、接地面61のタイヤ周方向の範囲W1内の下方で、かつ、接地面61のタイヤ幅方向の範囲W2の下方に設けることが好ましい。つまり、カメラ15aは、接地面61の輪郭から、路面板221の下面221D側に対して垂直な方向に延ばした線によって囲まれる範囲に設けられる。この範囲にカメラ15aを配置することにより、安定した解析精度を確保できる。カメラ15aを接地面61から離して撮影すると、溝壁が邪魔で、主溝のエッジを観測できず解析精度が低下するので好ましくない。図42図43において、路面板221の下面221Dからカメラ15aまでのタイヤ径方向の距離Lは、121mm以上240mm以下であることが好ましい。タイヤ径方向の距離Lは、例えば、206mmである。ただし、距離Lは接地面61に存在する溝幅によって最適値が異なる。
【0132】
(接地特性解析部の処理)
接地特性解析部33による処理およびその処理によって取得または作成される画像の例について説明する。図44は、接地特性解析部33による処理の例を示すフロー図である。図44は、接地特性解析部33を中心とする処理部31による処理の例を示す。図45から図51は、接地特性解析部33の処理によって取得または作成される画像の例を示す図である。
【0133】
図44において、最初に、接地面画像取得部32により、タイヤの接地面61を撮影した撮影画像を取得する(ステップS31)。ステップS31の処理により、例えば、図45に示す撮影画像を取得できる。
【0134】
次に、溝抽出部34の面取り画像抽出部34Aにより、撮影画像から、所定輝度より高い輝度を有する部分を、溝の面取り部分を示す面取り画像として抽出する(ステップS32)。ステップS32の処理により、例えば、図46に示す面取り画像を取得できる。
【0135】
溝抽出部34の溝底部抽出部34Bにより、撮影画像から、所定輝度より低い輝度を有する部分を、溝の底部を示す溝底部画像として抽出する(ステップS33)。ステップS33の処理により、例えば、図47に示す溝底部画像を取得できる。
【0136】
溝抽出部34の主溝底部抽出部34Cにより、撮影画像から、所定輝度より高い輝度を有する部分によって囲まれた低輝度部分を、主溝の底部を示す主溝底部画像として抽出する(ステップS34)。ステップS34の処理により、例えば、図48に示す主溝底部画像を取得できる。
【0137】
溝抽出部34の合成部34Dにより、面取り画像と、溝底部画像と、主溝底部画像とを合成して溝画像を得る(ステップS35)。ステップS35の処理により、例えば、図49に示す溝画像を取得できる。
【0138】
次に、接地特性算出部35により、撮影画像について、所定閾値に基づき、高輝度の部分を白、中輝度部分および低輝度部分を黒として分離することにより、大まかな接地領域画像を得る(ステップS36)。ステップS36の処理により、例えば、図45に示す撮影画像から図50に示す、大まかな接地領域画像を得る。これにより、例えば、非接地面のブロック、溝の面取りおよび刻印を白とし、溝の底部および接地ブロックの部分を黒とした、大まかな接地領域画像を得ることができる。
【0139】
さらに、接地特性算出部35により、大まかな接地領域画像(図50)から、溝画像(図49)を差し引くことにより、実接地面積画像(Actual Contact Area、以下ACAと略称する)を得る(ステップS37)。ステップS37の処理により、例えば、図51に示すACAを得ることができる。
【0140】
ここで、「大まかな接地領域画像から、溝画像を差し引く」とは、大まかな接地領域画像の輝度値から、溝の輝度値を同一画素位置ごとに減算処理することを指す。本実施例では、接地特性解析部33による処理およびその処理によって取得または作成される画像は全て256階調からなるものとし、撮影画像を除いて、黒を輝度「255」、白を輝度「0」と定義する。ただし、減算後の値が「0」より低い場合は、「0」に置換する。本例では、減算処理後に、収縮処理1回、膨張処理2回、収縮処理1回、黒対象物の占有面積100画素以下を削除(=白画素に置換。以後同様)、収縮処理2回、膨張処理4回、収縮処理2回の順番に行った。その後、白対象物の占有面積200画素以下を削除(=黒画素に置換。以後同様)し、黒対象物の占有面積200画素以下を削除して、図51に示すACAを得た。
【0141】
図51に示すACAは、路面に接地しているブロックの全面積である。図51に示すACAに基づき、例えば、図52に示す総接地面積画像(Ground Contact Area、以下GCAと略称する)を得ることができる。
【0142】
GCAは、ACAについて、溝を埋めたときの、外輪線で囲まれた全面積である。図52は、GCAの例を示す図である。図51に示すACAについて、例えば、膨張処理5回、収縮処理10回、膨張処理12回、収縮処理14回、膨張処理17回、収縮処理20回、膨張処理109回、収縮処理99回の順番に処理することにより、図52のGCAを得ることができる。
【0143】
図53は、膨張処理の説明図である。図54は、収縮処理の説明図である。膨張処理は、図53に示すように、注目画素の周辺に1画素でも黒画素があれば、注目画素を黒画素に置き換える処理である。つまり、膨張処理は、白画素をそれぞれ中心画素とし、その周辺の8画素(中心画素から最も近い左上、上、右上、右、右下、下、左下、左の各1画素)のうち1つでも黒画素が存在すれば、その中心画素を黒画素に置き換える処理である。反対に収縮処理は、例えば注目画素を黒画素とする場合に、図54に示すように、注目画素の周辺に1画素でも白画素があれば、注目画素を白画素に置き換える処理である。つまり、収縮処理は、黒画素をそれぞれ中心画素とし、その周辺の8画素(中心画素から最も近い左上、上、右上、右、右下、下、左下、左の各1画素)のうち1つでも白画素が存在すれば、その中心画素を白画素に置き換える処理になっている。
【0144】
ここで、図51に示すACAと図52のGCAとを用いることにより、溝埋めした領域である総接地領域内の溝分布を求めることができる。すなわち、図52のGCAを示す画像の輝度値から、図51のACAを示す画像の輝度値を同一画素位置ごとに減算処理することにより、総接地領域内の溝分布の画像が得られる。図55は、総接地領域内の溝分布の例を示す図である。なお、減算処理後、必要に応じてノイズ除去を行ってもよい。例えば図55は、図52のGCAを示す画像の輝度値から、図51のACAを示す画像の輝度値を同一画素位置ごとに減算処理した後、収縮処理3回、膨張処理3回、黒対象物の占有面積1000画素以下を削除、の順に実行して取得する。
【0145】
(総接地領域内の溝分布)
溝分布データ作成部441は、溝分布データを作成する。溝分布データは、図55に示す、総接地領域内の溝分布である。図55に示す、総接地領域内の溝分布をM(i,j)とする。ここで、iは画像の水平方向(タイヤ周方向)位置、jは画像の垂直方向(タイヤ幅方向)位置を示す。溝分布M(i,j)のi、jは画素単位であるため、後述するように、長さ単位x、yに変換する必要がある。長さ単位に変換したときの総接地領域内の溝分布をM(x,y)とすると、タイヤ接地面の溝深さは、以下の式(4)によって表すことができる。
タイヤ接地面の溝深さ=(Z(x,y)-α)×M(x,y) …(4)
【0146】
なお、式(4)において、xはタイヤ周方向位置、yはタイヤ幅方向位置、Z(x,y)は溝の高さ分布、αは路面板の高さ、(Z(x,y)-α)は溝深さを示す。M(x,y)が「1」である位置には溝が存在し、M(x,y)が「0」である位置には溝以外が存在することを示す。
【0147】
ここで、溝の高さ分布Z(x,y)は、例えば、距離計や三次元スキャナを測定機器として用いることによって、得られる。すなわち、路面板の下面側で測定機器を走査して移動させながら、路面板の各位置について距離を測定し、距離の測定結果を測定機器の移動情報と対応付けて記憶することによって溝の高さ分布Z(x,y)が得られる。
【0148】
また、2台のカメラを用いて溝の高さ分布Z(x,y)を測定することもできる。この場合、2台のカメラによる撮影画像について、例えば、上述したサンプリングモアレ法と同様に、溝の三次元座標を計算する。すなわち、各カメラの位相分布(アンラッピング化)と各カメラの視線とを基にして溝の三次元形状を計算し、三次元座標を出す。この三次元座標は上述したタイヤ周方向位置x、タイヤ幅方向位置y、および路面板221に垂直な方向の座標zからなる。このx、y、zの方向は互いに垂直である。また、x、yの方向は路面板の上面、もしくは下面に平行である。したがって、路面板上の位置(x、y)におけるzを溝の高さ分布Z(x,y)と定義することで、溝の高さ分布Z(x,y)が得られる。
【0149】
式(4)を用いることにより、タイヤ接地面の溝深さを定量的に測定することができる。これにより、タイヤの開発方向が明確になるため、開発効率が向上する。
【0150】
(画素単位から長さ単位への変換)
上述した溝分布M(i,j)のi、jは、画素単位であるため、長さ単位に変換する必要がある。長さ単位に変換するには、画素に対する長さの比率を求めておき、その比率をi、jの値に乗じればよい。例えば、透明の路面板221の上面221Uに、升目シートまたは格子シートを設けておき、それを測定することにより、画素に対する長さの比率を求めることができる。なお、ここでは、方眼紙のように比較的細い線による升目を有するものを升目シート、方眼紙の升目の線を太くしたものを格子シート、と定義する。
【0151】
図56は、1台のカメラを用いる場合を示す図である。図56に示すように、透明の路面板221の上面221Uに、縦および横の長さが既知の升目を有する升目シートST1を設ける。路面板221の下面221D側には、1台のカメラ15aが設けられている。カメラ15aによって、升目シートST1を撮影した画像の画素ごとに空間分解能を求めることができる。その空間分解能に基づいて、上記iおよび上記jを長さ単位に変換することができる。1台のカメラ15aを用いるため、上述した総接地領域を作成する際に用いるカメラをそのまま利用することができる。
【0152】
図56において、升目シートST1の代わりに、縦および横の長さが既知の升目を有する格子シートを用いてもよい。その場合、カメラ15aによって、格子シートを撮影した画像を上述したサンプリングモアレ法などで解析する。すなわち、格子シートを撮影した画像を垂直方向(縦方向)、水平方向(横方向)にそれぞれ平滑化して、格子の位相分布を求める。位相値が0、2π、4π、・・・と2π進むごとに格子(升目)は1周期進む。したがって位相値が0、2π、4π、・・・(以後、2π加算)に対応する撮影画像の画面内座標を調べ、2πだけ隣り合う位相値での画面内座標の差を出す。例えば0と2π、2πと4πなどに対して、画面内座標の差をそれぞれ出す。縦および横の長さが既知、すなわち縦および横に沿った格子の1周期分の長さが既知であるため、格子の1周期分の長さを画面内座標の差で割った値を、画素に対する長さの比率として求めることが出来る。その長さの比率に基づいて、上記iおよび上記jを長さ単位に変換する。画素に対する長さの比率は、撮影画像の画素ごとに求めるのが好ましい。画素に対する長さの比率を撮影画像の画素ごとに求める際、その画素が対応する位相値を挟むように、2πだけ隣り合う位相値を選定して画面内座標の差を計算する。例えば、撮影画像のある画素が対応する位相値が7πであれば、位相値が6πと8πでの画面内座標の差を計算し、格子の1周期分の長さをその差で割った値を、画素に対する長さの比率として求める。また、2πだけ隣り合う位相値として、例えば位相値がx、x+2π、x+4π、・・・(以後、同様に2πを加算する。x:任意の実数)に対応する撮影画像の画面内座標を調べて、画素に対する長さの比率を算出してもよい。
【0153】
図57は、3台のカメラを用いる場合を示す図である。図57に示すように、本例では、縦および横の長さが既知の升目を有する格子シートST2と、3台のカメラ15a、15bおよび15cとを用いる。3台のカメラ15a、15bおよび15cは、路面板221の下面221D側に設けられている。カメラ15a、15bおよび15cによって撮影することにより、格子シートの三次元形状(x,y,z)の画像が得られる。
【0154】
この三次元形状(x、y、z)の画像を総接地領域算出の際に用いるカメラ15aに反映させ、画面内対応点を探索することにより、上記iおよび上記jを長さ単位に変換できる。
【0155】
ここで、各カメラ15a、15b、15cの撮影画像の位相分布について、位相値は格子シートST2の表面の位置に対して固有の値を持っているため、これを利用して、以下の処理を行う。すなわち、各カメラ15a、15b、15cの撮影画像に対して、上述したサンプリングモアレ法、フーリエ変換法、重み付け位相解析法のいずれかを適用し、位相分布を算出する。次に、カメラ15b、15cによる撮影画像の位相分布とカメラ15b、15cの視線とを基にして、位相値ごとに三次元座標を算出する。一方、カメラ15aによる撮影画像の位相分布のなかから、長さ単位に変換対象となる画素位置(i、j)に対応する位相値を探索する。位相値が見つかったら、その位相値に対応する三次元座標(x、y、z)を先述したカメラ15b、15cによる結果から引用する。その位相値に対応する画素位置(i、j)は、引用した三次元座標のうちのx、yに変換する。この作業を他の位相値に対しても同様に行うことで、画素単位を長さ単位に変換する。位相値が見つからない場合には、長さ単位の変換対象から外す。なお、溝分布M(i、j)はデジタルデータであり、点々の分布を持つ。その分布を連続的にするため、点(i、j)から画像の水平方向に±1/2画素、画像の垂直方向に±1/2画素の範囲の溝分布は、値をM(i、j)に一律設定する。そのあと、画素位置(i、j)の周辺8か所の位置(i-1/2、j-1/2)、(i、j-1/2)、(i+1/2、j-1/2)、(i+1/2、j)、(i+1/2、j+1/2)、(i、j+1/2)、(i-1/2、j+1/2)、(i-1/2、j)についても、上述したように画素単位から長さ単位に変換する。すなわち、カッコ内の画素単位としての数値を長さ単位に変換する。
【0156】
(路面板の高さの分布)
図58は、路面板221の高さαを説明する図である。図58に示すように、路面板221の高さαは、測定機器SKから路面板221の上面221U(タイヤ60が接触する面)までの距離である。高さαは以下の手法によって取得できる。
【0157】
例えば、距離計、三次元スキャナを測定機器SKとする場合、上面221Uから測定機器SKまでの距離を指定できるようになっていれば、その指定した距離が高さαとなる。この場合、指定した距離に基づいて、例えば、ステッピングモータが動き、測定機器SKの位置が変化する。
【0158】
また、2台のカメラを用いて高さαを測定することもできる。この場合、以下のように高さαを測定する。すなわち、路面板221の下面221D側に2台のカメラを設けておき、路面板221の上面221Uに見える特徴点(例えば、タイヤ60の接地ブロックの角など)を探し、その特徴点における各カメラの画面内座標(X,Y)を算出する。このとき、2台のカメラの撮影画像に対して、パターンマッチングを行う。これにより、ある特徴点は各カメラのどの画面内座標に属するのかを算出する。そして、各カメラの画面内座標(X,Y)と、カメラキャリブレーションの結果とに基づいて高さαを算出する。ここで、カメラキャリブレーションとは、2台のカメラの視線を求める測定方法である。したがって、各カメラの画面内座標(X、Y)と各カメラの視線とを基にして三次元形状を計算し、三次元座標(x、y、z)を出し、その三次元座標の路面板221に垂直な方向の座標zを高さαとして抽出できる。
【0159】
ここで、実際の路面板221の高さαは、場所によって異なる。そこで、以下の手法によって、路面板221の高さαの分布R(x,y)を求めて上記の式(4)を補正することができる。
【0160】
図59は、高さαの分布R(x,y)を求めるための構成を示す図である。図59に示すように、路面板221の上面221U側にシートSTが設けられている。シートSTは、例えば、柔軟性を有する、模様シートまたは反射シートとする。路面板221の下面221D側に測定機器SKが設けられている。
【0161】
測定機器SKは、例えば、距離計、三次元スキャナである。測定機器SKは路面板221の各位置について、測定機器SKから上面221U側に設けられたシートSTまでの距離を測定する。なお、2台のカメラを測定機器SKとして用い、画像処理によって、路面板221の各位置について、シートSTまでの距離を測定してもよい。例えば路面板221の上面221U側に設けた格子シートを2台のカメラで撮影し、上述したサンプリングモアレ法で解析を行うことにより、格子の位相分布を算出する。格子の位相分布と各カメラの視線を基にして三次元形状を計算し、三次元座標(x、y、z)を出す。この三次元座標はタイヤ周方向位置x、タイヤ幅方向位置y、および路面板221に垂直な方向の座標zからなる。このx、y、zの方向は互いに垂直である。したがって、路面板上の位置(x、y)におけるzを高さαの分布R(x,y)と定義することで、高さαの分布R(x,y)が得られる。
【0162】
路面板221の各位置についての、シートSTまでの距離は、高さαの分布R(x,y)であるため、上記の式(4)の高さαを、高さαの分布R(x,y)に置き換えることにより、次式(5)が得られる。
タイヤ接地面の溝深さ=(Z(x,y)-R(x,y))×M(x,y)…(5)
【0163】
路面板221の高さαの分布R(x,y)を求めて上記の式(4)を補正した式(5)を用いることにより、路面板の高さが場所によって異なる場合でも、タイヤ接地面の溝深さを高精度に測定できる。分布R(x,y)については、高さの数値が格納されている。M(x,y)については、「1」または「0」が格納されている。
【0164】
(溝深さ算出部)
次に、溝深さ算出部442の処理について説明する。図60および図61は、溝深さ算出部442の処理の内容を示す図である。
【0165】
図60に示すように、溝深さ算出部442は、溝の形状を微小な直方体で近似する。図60に示す各直方体8ijは、溝62の形状に沿った高さを有する。ここで、図61に示すように、各直方体8ijの位置すなわち計測点をタイヤ周方向(x方向)の座標についてx11~xNM(N、Mは自然数)、タイヤ幅方向(y方向)の座標についてy11~yNM(N、Mは自然数)、とする。図61に示す位置(xN-1,2、yN-1,2)に着目すると、その位置の直方体の底面のタイヤ周方向の長さ(微小な長さ)はdxN-1,2、タイヤ幅方向の長さ(微小な長さ)はdyN-1,2である。
【0166】
直方体8ijの底面については、図60に示すように、タイヤ周方向の長さがdxij、タイヤ幅方向の長さがdyijである。このため、直方体8の底面積はdxij×dyijである。また、直方体8ijの高さは、Z(xij,yij)-R(xij,yij)である。このため、直方体8ijの体積は、上記底面積に上記高さを乗じた、dxij×dyij×[Z(xij,yij)-R(xij,yij)]となる。
【0167】
(溝体積算出部)
溝体積算出部46の処理について説明する。溝体積算出部46は、溝62の形状に沿った各直方体8ijの体積を求め、それらの総和を求める。これにより、溝62の体積(容積)を算出することができる。つまり、タイヤ接地面の溝体積は、次の式(6)によって算出できる。
【0168】
タイヤ接地面の溝体積
=ΣΣ((Z(xij,yij)-R(xij,yij))×dxij×dyij×M(xij,yij ))
…(6)
【0169】
なお、M(xij,yij )が「1」である場合は溝があり、「0」である場合は溝以外が存在することを示す。また、dxij、dyijは、1mm以下であることが好ましい。dxij、dyijが1mmを超えると、正解の溝体積に対する誤差が大きくなり(例えば、1%を超える)、好ましくない。dxij、dyijは、0.5mm以下としてもよい。これにより、誤差をより小さくすることできる。ただし、処理時間が長くなる。
【0170】
発明者は、上記のdxij、dyijについて、1mm、0.5mm、0.1mm、0.05mmとして処理を行った。その結果、誤差は、1%、0.25%、0.01%、0.0025%であった。
【0171】
以上のように、溝の各位置の溝深さを微小な直方体によって近似し、近似した直方体の体積の総和を、総接地領域内の溝体積として求めることにより、タイヤ接地面の溝体積を定量的に測定できる。
【0172】
(タイヤ形状解析方法)
以上説明したタイヤ形状解析システムによれば、以下のようなタイヤ形状解析方法が実現される。すなわち、測定対象であるタイヤの表面から凹んでいる部分である溝の三次元形状を測定するステップと、前記タイヤの接地領域に対して溝埋めした領域である総接地領域を作成するステップと、前記三次元形状に基づいて、前記総接地領域内の溝の位置の溝深さを測定するステップと、を有するタイヤ形状解析方法が実現される。このタイヤ形状解析方法により、タイヤの接地面の溝深さを定量的に測定することができる。
【符号の説明】
【0173】
1 タイヤ形状解析システム
2 タイヤ試験機
6 モータ
7 モータ制御装置
8 直方体
15AM 固定棒
15a、15b、15c カメラ
16 照明用ランプ
17 トリガー装置
18 再帰性反射シート
20 タイヤ接地面解析装置
21 入力部
22 表示部
30 処理装置
31 処理部
32 接地面画像取得部
33 接地特性解析部
34 溝抽出部
35 接地特性算出部
40 溝形状測定部
41 解析部
42 総接地領域作成部
44 溝深さ測定部
46 溝体積算出部
50 記憶部
60 タイヤ
61 接地面
161~168 ランプ
171 検出部
221 路面板
221D 下面
221U 上面
300 支持装置
341 平滑化処理部
342 第1候補画像抽出部
343 第2候補画像抽出部
344 重ね合わせ処理部
400 リム
401 刻印抽出部
411 画像平滑部
412 輝度分布取得部
413 間引き処理部
414 モアレ縞作成部
415 位相分布算出部
416 三次元形状算出部
419 逆フーリエ変換部
441 溝分布データ作成部
442 溝深さ算出部
SK 測定機器
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