(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】車両の姿勢制御装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20240710BHJP
B60G 17/0195 20060101ALI20240710BHJP
B60W 30/045 20120101ALI20240710BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B60G17/015 A
B60G17/0195
B60W30/045
B60T8/1755 A
(21)【出願番号】P 2020046720
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】丸山 晃
(72)【発明者】
【氏名】山田 章人
(72)【発明者】
【氏名】山本 丈晴
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-046172(JP,A)
【文献】特開2015-120415(JP,A)
【文献】特開2002-114140(JP,A)
【文献】特開2003-237337(JP,A)
【文献】特開2019-171945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 - 99/00
B60W 10/00 - 60/00
B60T 7/12 - 8/1769
B60T 8/32 - 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後左右に車輪を有する車両に備えられ、
前記車両の車体と前記車輪との間に夫々介装されて減衰力を変更可能な緩衝器と、
前記車両の操舵角速度を検出する操舵角速度検出器と、
前記車体の異なる複数の位置で検出した上下加速度に基づいて当該車体のロールレートを推定するロールレート演算部と、
前記操舵角速度に基づいて前記緩衝器の減衰力を制御して前記車体のロールを抑制するロール抑制フィードフォワード制御部と、
前記ロールレートに基づいて前記緩衝器の減衰力を制御して前記車体のロールを抑制する
ロール抑制制御部と、
前記車両の操舵角速度、前後方向加速度または横方向加速度に基づいて左右の前記車輪の駆動力あるいは制動力を調整して前記車両の旋回走行を制御する旋回走行制御部と、
前記旋回走行制御部における前記車輪の駆動力あるいは制動力の調整によって付加される前記車体のロールに応じた前記緩衝器の減衰力の補正制御をする減衰力制御部と、
を備えた車両の姿勢制御装置。
【請求項2】
前記旋回走行制御部は、前記車体のヨーレートに基づいて左右の前記車輪の制動力を調整して、旋回走行における前記車両のスピン挙動またはプロー挙動を抑制する第1の旋回走行制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の車両の姿勢制御装置。
【請求項3】
前記減衰力制御部は、前記スピン挙動を抑制する前記第1の旋回走行制御の実行時には、当該第1の旋回走行制御の非実行時よりも前記車両の前後左右の前記緩衝器の減衰力を増加させるとともに、前記車両の左右後輪の前記緩衝器の減衰力を左右前輪の前記緩衝器の減衰力より増加させることを特徴とする請求項2に記載の車両の姿勢制御装置。
【請求項4】
前記減衰力制御部は、前記プロー挙動を抑制する前記第1の旋回走行制御の実行時には、当該第1の旋回走行制御の非実行時よりも前記車両の前後左右の前記緩衝器の減衰力を増加させるとともに、前記車両の左右前輪の前記緩衝器の減衰力を左右後輪の前記緩衝器の減衰力より増加させることを特徴とする請求項2に記載の車両の姿勢制御装置。
【請求項5】
前記旋回走行制御部は、前記車両の操舵角に基づいて左右の前記車輪の駆動力または制動力を調整して、旋回走行における前記車両のヨーモーメントを制御する第2の旋回走行制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の車両の姿勢制御装置。
【請求項6】
前記減衰力制御部は、前記操舵角の増加により左右の前記車輪の駆動力を調整する前記第2の旋回走行制御の実行時には、当該第2の旋回走行制御の非実行時よりも、前記車両の左右前輪の前記緩衝器の減衰力を増加させるとともに旋回内輪側の後輪の前記緩衝器の減衰力を増加させる一方、
前記操舵角の減少により左右の前記車輪の駆動力を調整する前記第2の旋回走行制御の実行時には、当該第2の旋回走行制御の非実行時よりも前記車両の左右後輪の前記緩衝器の減衰力を増加させるとともに、旋回外輪側の後輪の前記緩衝器の減衰力を旋回内輪側の後輪の前記緩衝器の減衰力より増加させることを特徴とする請求項5に記載の車両の姿勢制御装置。
【請求項7】
前記減衰力制御部は、前記操舵角の増加により左右の前記車輪の制動力を調整する前記第2の旋回走行制御の実行時には、当該第2の旋回走行制御の非実行時よりも前記車両の左右前輪の前記緩衝器の減衰力を増加させるとともに、旋回外輪側の前輪の前記緩衝器の減衰力を旋回内輪側の前輪の前記緩衝器の減衰力より増加させる一方、
前記操舵角の減少により左右の前記車輪の制動力を調整する前記第2の旋回走行制御の実行時には、左右の後輪の前記緩衝器の減衰力を左右の前輪の前記緩衝器の減衰力より増加させることを特徴とする請求項5に記載の車両の姿勢制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサスペンション装置における減衰力を制御してロールを抑制するロール姿勢制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車体と各車輪との間に介装された緩衝器(所謂ダンパー)の減衰力を、車両走行中に調整可能な車両のサスペンション装置が開発されている。
例えば特許文献1には、車体の横加速度、ロール角速度、操舵角速度を検出するセンサを夫々備え、横加速度から演算した減衰力と、ロール角速度から演算した減衰力と、操舵角から演算した減衰力と、に基づいて各車輪の緩衝器における減衰力を調整することで、車両のロールを抑制する姿勢制御装置が開示されている。
【0003】
一方、近年では、車両の横滑り防止や旋回性能の向上を図るために、車両の駆動力や制動力を左右の車輪(走行輪)で異なる値に制御する制駆動装置(旋回走行制御装置)が開発されている。この制駆動装置としては、例えば車両の横滑り防止装置やトルクベクタリング装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような姿勢制御装置において、実ロール角速度に基づいて減衰力の制御をするフィードバック制御では、制御遅れが発生する可能性がある。一方、操舵角速度に基づいて減衰力の制御をするフィ―ドフォワード制御では、ロールの発生直後あるいはロールが発生する前から減衰力の制御が可能になるものの、例えばロール発生後において減衰力の収束遅れが発生する可能性がある。
【0006】
更に、姿勢制御装置とともに横滑り防止装置のような制駆動制御装置を備えた車両では、左右車輪の駆動力や制動力の制御によって、旋回走行時において車両の挙動が変化するため、姿勢制御装置による姿勢制御、特にロール姿勢制御が適切に行われなくなる可能性がある。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、制駆動制御装置を備えた車両において、ロール姿勢を適切に制御する姿勢制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両の姿勢制御装置は、少なくとも前後左右に車輪を有する車両に備えられ、前記車両の車体と前記車輪との間に夫々介装されて減衰力を変更可能な緩衝器と、前記車両の操舵角速度を検出する操舵角速度検出器と、前記車体の異なる複数の位置で検出した上下加速度に基づいて当該車体のロールレートを推定するロールレート演算部と、前記操舵角速度に基づいて前記緩衝器の減衰力を制御して前記車体のロールを抑制するロール抑制フィードフォワード制御部と、前記ロールレートに基づいて前記緩衝器の減衰力を制御して前記車体のロールを抑制するロール抑制制御部と、前記車両の操舵角速度、前後方向加速度または横方向加速度に基づいて左右の前記車輪の駆動力あるいは制動力を調整して前記車両の旋回走行を制御する旋回走行制御部と、前記旋回走行制御部における前記車輪の駆動力あるいは制動力の調整によって付加される前記車体のロールに応じた前記緩衝器の減衰力の補正制御をする減衰力制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
これにより、ロール抑制フィードフォワード制御部による緩衝器の減衰力の制御によって、車体のロールをロール発生時から迅速に抑制することができる。また、ロール抑制制御部による緩衝器の減衰力の制御によって、ロール発生後にロールを収束させることができる。
更に、旋回走行制御部における車輪の駆動力あるいは制動力の調整によって付加される車体のロールに応じた緩衝器の減衰力の補正制御をすることで、旋回走行制御部における車輪の駆動力あるいは制動力の調整による車体のロール特性への影響を反映して緩衝器の減衰力の設定を適切に行うことができる。
【0009】
好ましくは、前記旋回走行制御部は、前記車体のヨーレートに基づいて左右の前記車輪の制動力を調整して、旋回走行における前記車両のスピン挙動またはプロー挙動を抑制する第1の旋回走行制御を実行するとよい。
これにより、ヨーレートに基づいて左右の車輪の制動力を調整して、旋回走行における車両のスピン挙動またはプロー挙動を抑制する第1の旋回走行制御を実行した際に、第1の旋回走行制御による車体のロール特性への影響を反映して緩衝器の減衰力の設定を適切に行い、特にロール発生後のロール抑制制御部によるロール抑制を精度よく行うことができる。
【0010】
好ましくは、前記減衰力制御部は、前記スピン挙動を抑制する前記第1の旋回走行制御の実行時には、当該第1の旋回走行制御の非実行時よりも前記車両の前後左右の前記緩衝器の減衰力を増加させるとともに、前記車両の左右後輪の前記緩衝器の減衰力を左右前輪の前記緩衝器の減衰力より大きく増加させるとよい。
これにより、スピン挙動を抑制する第1の旋回走行制御の実行時に、車両の前後左右の緩衝器の減衰力を増加させることで、第1の旋回走行制御によるロールの増加を抑制することができる。またスピン挙動を抑制する第1の旋回走行制御が実行されたときには、車体前部がロールし難くなるので、前輪よりも後輪の緩衝器の減衰力を高く設定することで、ロール感を向上させることができる。
【0011】
好ましくは、前記減衰力制御部は、前記プロー挙動を抑制する前記第1の旋回走行制御の実行時には、当該第1の旋回走行制御の非実行時よりも前記車両の前後左右の前記緩衝器の減衰力を増加させるとともに、前記車両の左右前輪の前記緩衝器の減衰力を左右後輪の前記緩衝器の減衰力より大きく増加させるとよい。
これにより、プロー挙動を抑制する第1の旋回走行制御の実行時に、車両の前後左右の緩衝器の減衰力を増加させることで、第1の旋回走行制御によるロールの増加を抑制することができる。またプロー挙動を抑制する第1の旋回走行制御が実行されたときには、車体前部がロールし易くなるので、後輪よりも前輪の緩衝器の減衰力を高く設定することで、車体前部をロールし難くすることができる。
【0012】
好ましくは、前記旋回走行制御部は、前記車両の操舵角に基づいて左右の前記車輪の駆動力または制動力を調整して、旋回走行における前記車両のヨーモーメントを制御する第2の旋回走行制御を実行するとよい。
これにより、操舵角に基づいて左右の車輪の駆動力または制動力を調整して、旋回走行における車両のヨーモーメントを制御する第2の旋回走行制御を実行した際に、第2の旋回走行制御によって生じる車体のロール特性への影響を反映して緩衝器の減衰力の設定を適切に行い、特にロール発生前あるいは発生直後のロール抑制フィードフォワード制御部によるロール抑制を精度よく行うことができる。
【0013】
好ましくは、前記減衰力制御部は、前記操舵角の増加により左右の前記車輪の駆動力を調整する前記第2の旋回走行制御の実行時には、当該第2の旋回走行制御の非実行時よりも、前記車両の左右前輪の前記緩衝器の減衰力を増加させるとともに旋回内輪側の後輪の前記緩衝器の減衰力を増加させる一方、前記操舵角の減少により左右の前記車輪の駆動力を調整する前記第2の旋回走行制御の実行時には、当該第2の旋回走行制御の非実行時よりも前記車両の左右後輪の前記緩衝器の減衰力を増加させるとともに、旋回外輪側の後輪の前記緩衝器の減衰力を旋回内輪側の後輪の前記緩衝器の減衰力より大きく増加させるとよい。
【0014】
これにより、操舵角が増加したときに駆動力を調整する第2の旋回走行制御の実行時には、車体後部がロールし難くなるので、前輪の緩衝器の減衰力を増加させるとともに、旋回内輪側の後輪の緩衝器の減衰力を増加させることで、ロール感を向上させることができる。
また、操舵角が減少したときに駆動力を調整する第2の旋回走行制御の実行時には、車体後部がロールし易くなるので、車両の後輪の緩衝器の減衰力を増加させるとともに、特に旋回外輪側の後輪の緩衝器の減衰力を増加させることで、車体後部をロールし難くすることができる。
【0015】
好ましくは、前記減衰力制御部は、前記操舵角の増加により左右の前記車輪の制動力を調整する前記第2の旋回走行制御の実行時には、当該第2の旋回走行制御の非実行時よりも前記車両の左右前輪の前記緩衝器の減衰力を増加させるとともに、旋回外輪側の前輪の前記緩衝器の減衰力を旋回内輪側の前輪の前記緩衝器の減衰力より大きく増加させる一方、前記操舵角の減少により左右の前記車輪の制動力を調整する前記第2の旋回走行制御の実行時には、左右の後輪の前記緩衝器の減衰力を左右の前輪の前記緩衝器の減衰力より増加させるとよい。
【0016】
これにより、操舵角が増加したときに制動力を調整する第2の旋回走行制御の実行時には、車体前部がロールし易くなるので、前輪の緩衝器の減衰力を増加させるとともに、特に旋回外輪側の前輪の緩衝器の減衰力を増加させることで、車体前部をロールし難くすることができる。
また、操舵角が減少したときに制動力を調整する第2の旋回走行制御の実行時には、車体前部がロールし難くなるので、後輪の緩衝器の減衰力を前輪の緩衝器の減衰力より増加させることで車体後部をロールし難くするとともに、前輪の緩衝器の減衰力を抑えることでバネ上のロール姿勢を改善し乗り心地を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両の姿勢制御装置は、ロール抑制フィードフォワード制御部及びロール抑制制御部によって前後左右の緩衝器の減衰力が制御されてロールが抑制されるとともに、旋回走行制御部による駆動力あるいは制動力の調整に伴う車体のロール特性への影響を反映させて各緩衝器の減衰力が補正制御されるので、車体のロールを適切に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態の車両の姿勢制御装置の概略構成図である。
【
図2】左旋回走行においてトルクベクタリング制御が実行された場合での、姿勢制御装置に関する各検出値、制御値の推移の第1実施例を示すタイムチャートである。
【
図3】左旋回走行においてトルクベクタリング制御が実行された第1実施例での、各緩衝器の減衰力設定例を示すイメージ図である。
【
図4】左旋回走行においてブレーキトルクベクタリング制御が実行された場合での、姿勢制御装置に関する各検出値、制御値の推移の第2実施例を示すタイムチャートである。
【
図5】左旋回走行においてブレーキトルクベクタリング制御が実行された第2実施例での、各緩衝器の減衰力設定例を示すイメージ図である。
【
図6】左旋回走行においてESC-スピン挙動抑制制御が実行された場合での、姿勢制御装置に関する各検出値、制御値の推移の第3実施例を示すタイムチャートである。
【
図7】左旋回走行においてESC-スピン挙動抑制制御が実行された第3実施例での、各緩衝器の減衰力設定例を示すイメージ図である。
【
図8】左旋回走行においてESC-プロー挙動抑制制御が実行された場合での、姿勢制御装置に関する各検出値、制御値の推移の第4実施例を示すタイムチャートである。
【
図9】左旋回走行においてESC-プロー挙動抑制制御が実行された第4実施例での、各緩衝器の減衰力設定例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
図1は、発明の一実施形態の車両の姿勢制御装置1の概略構成図である。
本発明の一実施形態の姿勢制御装置1は、車体の前後左右に車輪(走行輪)を有する4輪車両(以下、車両という)に搭載されている。車両の各車輪と車体との間に介装された緩衝器(所謂、電制可変ダンパ)5a、5b、5c、5dは、夫々個別に減衰力が調整可能になっている。緩衝器5a~5dは、指示信号に基づいて車両走行中に4輪独立して減衰力が調整可能である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の姿勢制御装置1は、操舵角速度演算部10(操舵角速度検出器)、
ロール抑制FF制御部11(ロール抑制フィードフォワード制御部)、推定ロールレート演算部12(ロールレート演算部)、
ロール抑制FB制御部13(ロール抑制制御部)、減衰力制御ユニット20(減衰力制御部)、及び前後左右の車輪毎に緩衝器5a~5dを備えている。
【0021】
操舵角速度演算部10は、例えば車両のステアリング装置に設けた操舵角検出器により検出した当該車両の操舵角を入力して微分演算し、操舵角速度を演算する。
ロール抑制FF制御部11は、操舵角速度演算部10によって演算した操舵角速度を入力して、ロール抑制モーメント(FF)を演算する。なお、ロール抑制モーメントは、車体のロールを抑制するために車体に付加するモーメントである。ロール抑制FF制御部11は、例えばあらかじめ記憶したマップを用いて、操舵角速度に基づくロール抑制モーメント(FF)を読み出す。
【0022】
推定ロールレート演算部12は、例えば車体に設けた上下加速度を検出する上下加速度センサの検出値に基づいて、車両の推定ロールレートを演算する。上下加速度センサは、車体の前後左右方向(前後方向及び車幅方向)に互いに離間した3か所に設けられている。推定ロールレート演算部12は、3個の上下加速度センサから夫々上下加速度を入力して、車両の推定ロールレート、即ち実際に車体に発生しているロールレートを演算する。
【0023】
ロール抑制FB制御部13は、推定ロールレート演算部12によって演算した推定ロールレートを入力して、ロール抑制モーメント(FB)を演算する。ロール抑制FB制御部13は、例えばあらかじめ記憶したマップを用いて、推定ロールレートに基づくロール抑制モーメント(FB)を読み出す。
減衰力制御ユニット20は、減衰力配分制御部21を備え、車体のロールモーメントを抑制するために、各緩衝器5a~5bに制御信号を出力して、各緩衝器5a~5bの減衰力を制御する。
【0024】
更に、車両には、車両の旋回性能を向上させる旋回走行制御装置が備えられている。本実施形態では、旋回走行制御装置(旋回走行制御部)として、ESC(エレクトリックスタビリティコントロール)制御部25、及びトルクベクタリング制御部26を備えている。
ESC制御部25は、例えば4輪の各車輪速度、操舵角、アクセル操作量、車両前後方向加速度、車両横方向加速度、実ヨーレートを入力して、車両の実ヨーレートが目標ヨーレートに近づくように、各車輪のブレーキ装置28にブレーキ付加量を出力して、各車輪のブレーキ量にブレーキ付加量を加算するよう制御する。これにより、旋回走行において過度なスピン挙動を抑制したり(ESC-スピン挙動抑制制御)、過度なプロー挙動を抑制したりして(ESC-プロー挙動抑制制御)、車両の走行安定性を向上させる。なお、ESC制御部25によるESC-スピン挙動抑制制御及びESC-プロー挙動抑制制御は、本発明の第1の旋回走行制御に該当する。
【0025】
トルクベクタリング制御部26は、例えば4輪の各車輪速度、操舵角、車速、実ヨーレートを入力して、車両のヨーレートが目標ヨーレートに近づくように、左右の車輪の駆動力の分配制御をする。例えば車両のリヤ軸の駆動力を左右に分配し分配比を可変できるトルクベクタリングユニット27において分配比を可変制御することで、左右の車輪の駆動力が制御される(トルクベクタリング制御)。これにより、旋回走行時における旋回性能及び走行安定性を向上させる。また、左右のブレーキ装置28を制御して、左右の車輪の制動力を制御する(ブレーキトルクベクタリング制御)。なお、トルクベクタリング制御部26によるトルクベクタリング制御及びブレーキトルクベクタリング制御は、本発明の第2の旋回走行制御に該当する。また、トルクベクタリング制御部26は、トルクベクタリング制御及びブレーキトルクベクタリング制御のいずれか一方を行ってもよい。
【0026】
本実施形態では、減衰力制御ユニット20の減衰力配分制御部21において、上記のロール抑制FF制御部11からのロール抑制モーメント(FF)、及びロール抑制FB制御部13からのロール抑制モーメント(FB)と、更に旋回走行制御装置(ESC制御部25、トルクベクタリング制御部26)による制御値と、に基づいて各緩衝器5a~5dの減衰力を設定する。
【0027】
減衰力制御ユニット20は、フロント軸ESCトルク差演算部31、リヤ軸ESCトルク差演算部32、フロント軸ロール抑制モーメント推定部33、リヤ軸ロール抑制モーメント推定部34を備えている。
フロント軸ESCトルク差演算部31は、ESC制御部25から出力される前左輪のブレーキ付加量であるESCブレーキ付加量(FL)と、前右輪のブレーキ付加量であるESCブレーキ付加量(FR)とを入力し、その差であるフロント(左右前輪)のESC要求トルク差(F)を演算する。
【0028】
リヤ軸ESCトルク差演算部32は、ESC制御部25から出力される後左輪のブレーキ付加量であるESCブレーキ付加量(RL)と、後右輪のブレーキ付加量であるESCブレーキ付加量(RR)とを入力し、その差であるリヤ(左右後輪)のESC要求トルク差(R)を演算する。
フロント軸ロール抑制モーメント推定部33は、フロント軸ESCトルク差演算部31からESC要求トルク差(F)を入力するとともに、トルクベクタリング制御部26よりトルクベクタリング要求トルク差を入力する。なお、トルクベクタリング要求トルク差はトルクベクタリングユニット27によって付与する左右輪のトルク差であり、ブレーキトルクベクタリング要求トルク差は、ブレーキ装置28によって付与する左右輪のトルク差である。フロント軸ロール抑制モーメント推定部33は、これらの入力値に基づいて、ESC制御及びトルクベクタリング制御によってフロント(車体前部)のロールを抑制させるモーメントを、ロール抑制付加モーメント(F)として演算する。
【0029】
リヤ軸ロール抑制モーメント推定部34は、リヤ軸ESCトルク差演算部32からESC要求トルク差(R)を入力するとともに、トルクベクタリング制御部26よりブレーキトルクベクタリング要求トルク差を入力する。リヤ軸ロール抑制モーメント推定部34は、これらの入力値に基づいて、ESC制御及びトルクベクタリング制御によってリヤ(車体後部)のロールを抑制させるモーメントを、ロール抑制付加モーメント(R)として演算する。
【0030】
減衰力配分制御部21は、ロール抑制FF制御部11からのロール抑制モーメント(FF)、ロール抑制FB制御部13からのロール抑制モーメント(FB)と、更に、フロント軸ESCトルク差演算部31からESC要求トルク差(F)、リヤ軸ESCトルク差演算部32からESC要求トルク差(R)、トルクベクタリング制御部26からトルクベクタリング要求トルク差及びブレーキトルクベクタリング要求トルク差、フロント軸ロール抑制モーメント推定部33からロール抑制付加モーメント(F)、リヤ軸ロール抑制モーメント推定部34からロール抑制付加モーメント(R)を入力し、これらの入力値に基づいて、各緩衝器5a~5dの減衰力の設定値である減衰力指示値を演算する。言い換えると、減衰力配分制御部21は、ロール抑制FF制御部11及びロール抑制FB制御部13において演算された各ロール抑制モーメントに基づいて各緩衝器5a~5dの減衰力指示値を演算し、更にこの減衰力指示値をESC制御部25及びトルクベクタリング制御部26において実行される旋回走行制御の制御値に基づいて補正する。
【0031】
次に、
図2及び
図3を用いて、上記ESC制御部25及びトルクベクタリング制御部26のうち、トルクベクタリング制御部26によるトルクベクタリング制御を実行する場合での、各緩衝器5a~5dの減衰力指示値の設定例(第1実施例)について説明する。
図2は、左旋回走行においてトルクベクタリング制御が実行された場合での、姿勢制御装置1に関する各検出値、制御値の推移の第1実施例を示すタイムチャートである。
図3は、
図2のように左旋回走行においてトルクベクタリング制御が実行された第1実施例での、各緩衝器5a~5dの減衰力の設定例を示すイメージ図である。なお、
図3では、減衰力指示値を、VH(ベリ―ハード)、H(ハード)、M(ミディアム)、MS(ミディアムソフト)、S(ソフト)として示し、減衰力の高さはVH>H>M>MS>Sの順番である。なお、直進走行時では、全ての緩衝器5a~5dの減衰力は、MIN値であるS(ソフト)に設定される。
【0032】
図2に示す第1実施例では、操舵角が0の直進状態(aまで)から、車両の操舵装置を左に操舵し(a→b間)、一定の操舵角を保持した状態で旋回走行して(b→h間)、その後ハンドルを直進に戻し(h→i間)、操舵角が0になった状態で再び直進走行を行った(i以降)場合での、ロール抑制モーメント(FF)であるロールFF制御値、ロール抑制モーメント(FB)であるロールFB制御値、トルクベクタリング要求トルク差に基づくトルクベクタリング制御値の推移と、各緩衝器5a~5dの減衰力指示値の推移を
図2中において本制御として示している。また、比較例として、旋回走行制御装置(ESC制御部25、トルクベクタリング制御部26)による制御値に基づく減衰力指示値の補正を行わず、ロール抑制モーメント(FF)及びロール抑制モーメント(FB)に基づいて各緩衝器5a~5dの減衰力の制御を行う場合での各緩衝器5a~5dの減衰力指示値の推移を、
図2中において従来制御として示している。
【0033】
図2に示すように、左側に操舵角が増加しているとき(
図2中のa→b間)には、ロール抑制モーメント(FF)が+側に増加する。また、右側に操舵角が増加しているとき(
図2中のh→i間)には、ロール抑制モーメント(FF)が―側に減少する。減衰力配分制御部21は、ロール抑制モーメント(FF)の絶対値の増加に伴って全ての緩衝器5a~5dの減衰力を増加させるとともに、走行方向であるフロントの緩衝器5a、5bの減衰力を更に増加させる。したがって、
図2の従来制御に示すように、操舵角が変化したとき(a→b、h→i間)では、ロール抑制モーメント(FF)の増加あるいは減少により、フロントの緩衝器5a、5bの減衰力を高い値(例えばハード)にし、リヤの緩衝器5c、5dの減衰力を中間値(例えばミディアム)にするように、減衰力指示値を出力する。これにより、操舵角の変化に基づいて実際に車体のロールが発生する前からあるいは直後から車両前後の緩衝器5a~5d、特に旋回走行時に荷重が大きく作用する進行方向前側の緩衝器5a、5bの減衰力を大きく増加することで、ロールの発生をあらかじめ抑制することができる。
【0034】
また、操舵することにより車両の各上下加速度センサの検出値に基づいて演算された推定ロールレートは、操舵開始後にタイムラグをおいて増加する。ロール抑制FB制御部13は、このようなロールレートの増加時には、ロールレートに基づくロール抑制モーメント(FB)をロール抑制FB制御値として出力する。減衰力配分制御部21は、ロール抑制モーメント(FF)と同様に減衰力を設定する。したがって、
図2の従来制御に示すように、操舵を開始してからタイムラグをおいて実際にロールが発生した期間(c→e間)では、ロール抑制モーメント(FB)の増加により、フロントの緩衝器5a、5bの減衰力を大きい値(例えばハード)にし、リヤの緩衝器5c、5dの減衰力を中間値(例えばミディアム)にするように、減衰力指示値を出力する。これにより、実際の車体のロールの発生に基づいて車両前後の緩衝器5a~5dの減衰力を増加させることで、ロールが抑制される。
【0035】
更に、トルクベクタリング制御部26は、トルクベクタリング制御として、操舵角等に基づいてトルクベクタリングユニット27の分配比(トルクベクタリング制御値)を設定する。左側にハンドルを切り増ししているとき、即ち左側に操舵角が増加しているとき(
図2中のa→b間)では、トルクベクタリング制御値が+側に増加した値になる。また、左側に操舵した状態で維持しているとき(
図2中のb→h間)では、トルクベクタリング制御値がわずかに+側に増加した値になる。また、左側に操舵している状態から戻しているとき、即ち右側に操舵角が増加しているとき(
図2中のh→i間)では、トルクベクタリング制御値が-側に減少した値になる。
【0036】
図2の本制御に示すように、減衰力配分制御部21は、トルクベクタリング制御値が+側であるときには、その値に基づいて右前(FR)の緩衝器5bの減衰力を増加、右後(RR)の緩衝器5dの減衰力を低下、左後(RL)の緩衝器5cの減衰力を増加させる。
したがって、旋回走行初期に左側へ操舵角を増加させているa→b間では、例えば右前(FR)の緩衝器5bの減衰力を高くしてベリーハード(VH)とし、左前(FL)の緩衝器5aの減衰力はハード(H)、右後(RR)の緩衝器5dの減衰力はミディアムソフト(MS)、左後(RL)の緩衝器5cの減衰力はハード(H)に設定される。これにより、トルクベクタリング制御によってリヤがロールし難くなることに対応して、右前(FR)の緩衝器5b及びリヤの旋回内輪側である左後(RL)の緩衝器5cの減衰力を高くしてバネ上のロール姿勢を改善し乗り心地を向上させるができる。
【0037】
また、左側に操舵した状態で維持しているb→h間では、トルクベクタリング制御値が+側であるものの少ない値である。このような場合には、従来制御と略同一であるが、リヤの旋回内輪側である左後(RL)の緩衝器5cの減衰力をわずかに高めて、リヤの旋回外輪である右後(RR)の緩衝器5dの減衰力をわずかに低くする(例えばMS)。但し、左側に操舵した状態で維持しているb→h間のうち、ロール抑制モーメント(FF)及びロール抑制モーメント(FB)がいずれも0であるb→c間及びe→h間では、いずれの緩衝器の減衰力はソフト(S)とする。
【0038】
減衰力配分制御部21は、トルクベクタリング制御値が―側であるときには、その値に基づいて右前(FR)の緩衝器5bの減衰力を減少、右後(RR)の緩衝器5dの減衰力を増加、左前(FL)の緩衝器5aの減衰力を減少させる。
したがって、旋回走行後期に右側へ操舵角を中立位置側へ戻しているh→i間では、例えば右前(FR)の緩衝器5bの減衰力はミディアム(M)、右後(RR)の緩衝器5dの減衰力はハード(H)、左前(FL)の緩衝器5aの減衰力はミディアム(M)、左後(RL)の緩衝器5cの減衰力はミディアム(M)に設定される。これにより、トルクベクタリング制御によってリヤがロールし易くなることに対応して、リヤの緩衝器5c、5d、特にリヤの旋回外輪である右後(RR)の緩衝器5dの減衰力を高くして、リヤをロールし難くすることができる。
【0039】
次に、
図4、5を用いて、トルクベクタリング制御部26によるブレーキトルクベクタリング制御を実行する場合での、各緩衝器5a~5dの減衰力指示値の設定例(第2実施例)について説明する。
図4は、
図2と同様に左旋回走行を行っている際に、ブレーキトルクベクタリング制御が実行された場合での、姿勢制御装置1に関する各検出値、制御値の推移の第2実施例を示すタイムチャートである。
図5は、
図4のように左旋回走行においてブレーキトルクベクタリング制御が実行された第2実施例での、各緩衝器5a~5dの減衰力指示値の設定例を示すイメージ図である。
【0040】
第2実施例では、第1実施例と同様に、ロール抑制モーメント(FF)及びロール抑制モーメント(FB)に基づいて各緩衝器5a~5dの減衰力が演算される。
更に、トルクベクタリング制御部26は、ブレーキトルクベクタリング制御として、操舵角等に基づいて左右のブレーキ装置28の制御値(ブレーキトルクベクタリング制御値)が設定される。左側にハンドルを切り増ししているとき、即ち左側に操舵角が増加しているとき(
図4中のa→b間)では、左前輪のブレーキトルクベクタリング制御値が0より増加した値になる。また、左側に操舵した状態で維持しているとき(
図4中のb→h間)では、左前輪のブレーキトルクベクタリング制御値が0よりわずかに増加した値になる。また、左側に操舵している状態から戻しているとき、即ち右側に操舵角が増加しているとき(
図4中のh→i間)では、右前輪のブレーキトルクベクタリング制御値が増加した値になる。
【0041】
減衰力配分制御部21は、左前輪のブレーキトルクベクタリング制御値が+であるときには、その値に基づいてフロント、特に右前の緩衝器5bの減衰力を増加させる。
したがって、旋回走行初期に左側へ操舵角を増加させているa→b間では、例えば右前の緩衝器5bの減衰力を高める(例えばVH)、左前の緩衝器5aの減衰力はハード(H)、右後の緩衝器5dの減衰力はミディアム(M)、左後の緩衝器5cの減衰力はミディアム(M)に設定される。これにより、ブレーキトルクベクタリング制御によってフロントがロールし易くなることに対応して、フロントの緩衝器5a、5b、特にフロントの旋回外輪側である緩衝器5bの減衰力を高くしてバネ上のロール姿勢を改善し乗り心地を向上させることができる。
【0042】
また、左側に操舵した状態で維持しているb→h間では、ブレーキトルクベクタリング制御値が+側であるものの少ない値である。このような場合には、トルクベクタリング制御の制御値に基づいて減衰力を補正しない従来制御と略同一とする。
減衰力配分制御部21は、右前輪のブレーキトルクベクタリング制御値が+であるときには、その値に基づいてフロントの緩衝器5a、5bの減衰力を減少、リヤの緩衝器5c、5dの減衰力を増加させる。
【0043】
したがって、旋回走行後期に右側へ操舵角を戻しているh→i間では、例えば右前の緩衝器5bの減衰力はミディアムソフト(MS)、右後の緩衝器5dの減衰力はハード(H)、左前の緩衝器5aの減衰力はミディアム(M)、左後の緩衝器5cの減衰力はハード(H)に設定される。これにより、ブレーキトルクベクタリング制御によってフロントがロールし難くなることに対応して、フロントの緩衝器5a、5bの減衰力は高めずに、リヤの緩衝器5c、5dの減衰力を高くして、バネ上のロール姿勢を改善し乗り心地を向上させる。
【0044】
次に、
図6、7を用いて、ESC制御部25により車両のスピン挙動を抑制するESC-スピン挙動抑制制御が実行された場合での各緩衝器5a~5dの減衰力の設定例(第3実施例)について説明する。
図6は、左旋回走行においてESC-スピン挙動抑制制御が実行された場合での、姿勢制御装置1に関する各検出値、制御値の推移の第3実施例を示すタイムチャートである。
図7は、左旋回走行においてESC-スピン挙動抑制制御が実行された第3実施例での、各緩衝器5a~5dの減衰力の設定例を示すイメージ図である。
【0045】
図6に示すように、ESC-スピン挙動抑制制御は、旋回走行初期に左側へ操舵角を増加させているa→b間、及び旋回走行後期に右側へ操舵角を戻しているh→i間では、ESC-スピン挙動抑制制御値は0であるため、従来技術のようにロール抑制FF制御部11によるロール抑制モーメント(FF)に基づく減衰力に設定される。また、操舵角増加後のc→e間においても、ロール抑制FB制御部13によるロール抑制モーメント(FB)に基づいて各緩衝器5a~5dの減衰力が演算される。
【0046】
減衰力制御ユニット20は、ESC制御部25からESC-スピン挙動抑制制御の制御値であるESC-ブレーキ付加量(FL、FR、RL、RR)を入力して、各緩衝器5a~5dの減衰力が補正される。
詳しくは、
図6のd→g間に示すように、ESC-スピン挙動抑制制御の制御値に応じて各緩衝器5a~5dの減衰力が補正され、ESC-スピン挙動抑制制御の実行中では全ての緩衝器5a~5dの減衰力を増加させるとともに、リヤの緩衝器5c、5dの減衰力がフロントの緩衝器5a、5bの減衰力より大きく設定される。例えば、
図7に示すように、ロール抑制FB制御に続くe→f間において、フロントの緩衝器5a、5bの減衰力をミディアムソフト(MS)、リヤの緩衝器5c、5dの減衰力をミディアム(M)に設定する。
【0047】
これにより、ESC制御部25によるESC-スピン挙動抑制制御が実行されたときには、ESC-スピン挙動抑制制御によって付加されるヨーモーメントに対応して各緩衝器5a~5dの減衰力が増加され、走行安定性を向上させることができる。特に、ESC-スピン挙動抑制制御が実行されたときには、フロントがロールし難くなるので、フロントよりもリヤの減衰力を高く設定することで、走行安定性を向上させることができる。
【0048】
次に、
図8、9を用いて、ESC制御部25により車両のプロー挙動を抑制するESC-プロー挙動抑制制御が実行された場合での各緩衝器の5a~5d減衰力の設定例(第4実施例)について説明する。
図8は、左旋回走行においてESC-プロー挙動抑制制御が実行された場合での、姿勢制御装置1に関する各検出値、制御値の推移の第4実施例を示すタイムチャートである。
図9は、左旋回走行においてESC-プロー挙動抑制制御が実行された第4実施例での、、各緩衝器5a~5dの設定例を示すイメージ図である。
【0049】
図6に示す第3実施例のESC-スピン挙動抑制制御と同様に、左側へ操舵角を増加させているa→b間、及び右側へ操舵角を戻しているh→i間では、ロール抑制モーメント(FF)に基づいて各緩衝器5a~5dの減衰力が設定され、操舵角増加後のc→e間では、ロール抑制モーメント(FB)に基づいて各緩衝器5a~5dの減衰力が演算される。
【0050】
減衰力制御ユニット20は、ESC制御部25からESC-プロー挙動抑制制御の制御値であるESC-ブレーキ付加量FB(FL、FR、RL、RR)を入力して、各緩衝器5a~5dの減衰力が補正される。
詳しくは、
図8のd→g間に示すように、ESC-プロー挙動抑制制御の制御値に応じて各緩衝器5a~5dの減衰力が補正され、ESC-プロー挙動抑制制御の実行中では全ての緩衝器5a~5dの減衰力を増加させるとともに、フロントの緩衝器5a、5bの減衰力がリヤの緩衝器5c、5dの減衰力より大きく設定される。例えば、
図9に示すように、ロール抑制FB制御に続くe→f間において、フロントの緩衝器5a、5bをハード(H)、リヤの緩衝器5c、5dをミディアムソフト(MS)に設定する。
【0051】
これにより、ESC制御部25によるESC-プロー挙動抑制制御が実行されたときには、ESC-プロー挙動抑制制御によって付加される車両のヨーモーメントに対応して各緩衝器5a~5dの減衰力が増加され、走行安定性を向上させることができる。特に、ESC-プロー挙動抑制制御が実行されたときには、フロントがロールし易くなるので、リヤよりもフロントの減衰力を高く設定することで、フロントをロールし難くすることができる。
【0052】
以上のように、本発明の実施形態においては、操舵角速度に基づいて各緩衝器5a~5dの減衰力を調整してロールを制御するロール抑制FF制御によって、車体のロールをロール発生時から迅速に抑制することができる。また、実加速度に基づいて演算したロールレートに基づいて各緩衝器5a~5dの減衰力を調整してロールを制御するロール抑制FB制御によって、ロール発生後にロールを適切に抑制及び収束させることができる。
【0053】
また、車両には、ESC制御部25、トルクベクタリング制御部26といった車両の左右の車輪の駆動力あるいは制動力を調整して、車体のヨーモーメントを制御する旋回走行制御装置が備えられている。そして、以上の実施形態では、これらの旋回走行制御装置によって駆動力あるいは制動力を調整した際に、旋回走行制御装置の制御値に基づいて各緩衝器5a~5dの減衰力を変更する補正制御を行う。したがって、旋回走行制御装置による駆動力あるいは制動力の調整による車体のロール特性への影響を抑制して、緩衝器5a~5dの減衰力の設定を適切に行い、ロールの発生を適切に抑制することが可能となる。
【0054】
例えば、旋回走行制御装置として、操舵角の増加、即ち旋回走行初期にハンドルを切り増しすることでトルクベクタリング制御部26によってトルクベクタリング制御が実行された場合には、左右のフロントの緩衝器5a、5bの減衰力を増加させるとともに旋回内輪側のリヤの緩衝器5cの減衰力を増加させる。これにより、トルクベクタリング制御によってリヤがロールし難くなることに対応して、フロントの緩衝器5a、5b及び旋回内輪側のリヤの緩衝器5cの減衰力を増加させることで、バネ上のロール姿勢を改善し乗り心地を向上させるできる。
【0055】
また、旋回走行制御装置として、操舵角の減少、即ち旋回走行後期にハンドルを中立側に戻すことでトルクベクタリング制御部26によってトルクベクタリング制御が実行された場合には、リヤの緩衝器5c、5d、特に旋回外輪側のリヤの緩衝器5dの減衰力を増加させることで、ロールし難くしてバネ上のロール姿勢を改善し乗り心地を向上させることができる。
【0056】
また、旋回走行制御装置として、操舵角が増加することでトルクベクタリング制御部26によってブレーキトルクベクタリング制御が実行された場合には、フロントの緩衝器5a、5bの減衰力を増加させるとともに特に旋回外輪側のフロントの緩衝器5bの減衰力を増加させる。これにより、ブレーキトルクベクタリング制御によってフロントがロールし易くなることに対応して、フロントの緩衝器5a、5b特に旋回外輪側のフロントの緩衝器5bの減衰力を増加させることで、バネ上のロール姿勢を改善し乗り心地を向上させることができる。
【0057】
また、旋回走行制御装置として、操舵角の減少、即ち旋回走行後期にハンドルを中立側に戻すことでトルクベクタリング制御部26によってトルクベクタリング制御が実行された場合には、リヤの緩衝器5c、5d、特に旋回外輪側のリヤの緩衝器5dの減衰力を増加させる。これにより、ブレーキトルクベクタリング制御によってフロントがロールし難くなることに対応して、リヤの緩衝器5c、5dの減衰力をフロントの緩衝器5a、5bの減衰力より増加させることで、リヤをロールし難くするとともに、フロントの緩衝器5a、5bの減衰力を抑えることで、バネ上のロール姿勢を改善し乗り心地を向上させることができる。
【0058】
また、旋回走行制御装置として、ESC制御部25によってESC-スピン挙動抑制制御が実行された場合には、全ての緩衝器5a~5dの減衰力を増加させるので、ESC-スピン挙動抑制制御によるロールの増加を抑制することができる。
特にスピン挙動を抑制するESC-スピン挙動抑制制御が実行されたときには、フロントがロールし難くなるので、フロントよりもリヤの緩衝器5c、5dの減衰力を高く設定することで、走行安定性を向上させることができる。
【0059】
一方、プロー挙動を抑制するESC-プロー挙動抑制制御が実行されたときには、前輪がロールし易くなるので、後輪よりも前輪の緩衝器5a、5bの減衰力を高く設定することで、フロントをロールし難くして走行安定性を向上させることができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、トルクベクタリング制御、ブレーキトルクベクタリング制御、ESC-スピン挙動抑制制御、ESC-プロー挙動抑制制御が個々に行われた場合での減衰力の補正制御について説明したが、例えばトルクベクタリング制御(分配比制御あるいはブレーキ制御)と、ESC制御(スピン挙動抑制制御あるいはプロー挙動抑制制御)と、を組み合わせて実行された場合に本発明を適用して、各緩衝器5a~5dの減衰力を調整してもよい。
【0060】
本発明は、前後左右のサスペンション装置における緩衝器の減衰力を独立して制御可能な車両に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 姿勢制御装置
5a、5b、5c、5d 緩衝器
10 操舵角速度演算部(操舵角速度検出器)
11 ロール抑制FF制御部(ロール抑制フィードフォワード制御部)
12 推定ロールレート演算部(ロールレート演算部)
13 ロール抑制FB制御部(ロール抑制制御部)
20 減衰力制御ユニット(減衰力制御部)
25 ESC制御部(旋回走行制御部)
26 トルクベクタリング制御部(旋回走行制御部)