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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】半導体レーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/22 20060101AFI20240710BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
H01S5/22 610
H01S5/343
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020218617
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022103777
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137969
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 憲昭
(74)【代理人】
【識別番号】100104824
【弁理士】
【氏名又は名称】穐場 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100121463
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】奥村 忠嗣
(72)【発明者】
【氏名】萩元 将人
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕隆
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-037067(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021802(WO,A1)
【文献】特開2002-323628(JP,A)
【文献】特開2000-353861(JP,A)
【文献】特開2006-013414(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0237199(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の主面に積層される、第1導電型の第1クラッド層と第2導電型の第2クラッド層と、
前記第1クラッド層と前記第2クラッド層とに挟まれるように形成され、前記基板主面に平行な第1の面上において形成される、発光層と、
を有し、
前記発光層は、(AlGa1-x1-yInP(0≦x<1、0<y<1)の結晶層から構成され、赤色領域のレーザ光を放射する少なくとも3つ以上の発光部を有し、
前記発光部から放射されるレーザ光の内、少なくとも1つのレーザ光の波長λ1はその他のレーザ光の波長λ2と異なり、
前記波長λ1を放射する前記発光部における前記発光層の結晶層の組成比は、前記波長λ2を放射する前記発光部における前記発光層の結晶層の組成比と異なっている、
半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記発光部から放射されるレーザ光の波長は、600nm以上、700nm以下である、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記発光部から放射される前記波長λ1と前記波長λ2の波長の差は、1nm以上、30nm以下である、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記発光層は、前記発光部をそれぞれ分離するように、前記第1の面上で分割して形成されている、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記発光部から放射される前記波長λ1と前記波長λ2の内、波長が短い前記発光部における前記発光層の結晶層のIn組成比(y)は、波長が長い前記発光部における前記発光層の結晶層のIn組成比(y)よりも低い、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項6】
前記発光層を構成する結晶層のIn組成比(y)は、0.35以上、0.65以下である、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項7】
前記発光層は、結晶層のIn組成比(y)が0.5未満の発光領域と、結晶層のIn組成比(y)が0.5以上の発光領域とを少なくとも含む、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項8】
前記発光層のそれぞれの水平方向の幅の大きさにより、前記発光層の結晶層のIn組成比(y)が異なり、
幅が広い発光層の結晶層のIn組成比(y)は、幅が狭い発光層の結晶層のIn組成比(y)よりも低い、請求項4に記載の半導体レーザ装置。
【請求項9】
前記発光層のそれぞれの垂直方向の厚みにより、前記発光層の結晶層のIn組成比(y)が異なり、
厚みが厚い発光層の結晶層のIn組成比(y)は、厚みが薄い発光層の結晶層のIn組成比(y)よりも高い、請求項4に記載の半導体レーザ装置。
【請求項10】
前記複数の発光部の内、少なくとも2つの前記発光部は、連続した前記発光層に形成され、それぞれの発光部における前記発光層の結晶層の組成比が異なっている、請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体レーザ装置(以下、単に「半導体LD」または「LD」とも称す)を用いたプロジェクタ等のディスプレイ装置の市場が拡大している。
【0003】
また、近年、様々な分野において、拡張現実(AR:Augmented Reality)、仮想現実(VR:Virtual Reality)、複合現実(MR:Mixed Reality)、代替現実(SR:Substitutional Reality)といったリアリティ化技術が実用化されており、これらの技術を用いたヘッドマウントディスプレイ(HMD:Head Mount Display)、ヘッドアップディスプレイ(Head-up Display)、ARグラス等のディスプレイ装置が商品化されている。
【0004】
例えば、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)では、光源にRGB(赤色・緑色・青色)の3色のレーザ光を用い、画像表示用の空間変調素子であるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)により画像を作成し、導波路(waveguide)を通して網膜等に投影する技術が知られている。このMEMSを用いたシステムは、広色域、高解像度、広視野角などで利点があると言われている。一方で、広色域、高解像度、広視野角など画像の高性能化のために、RGBの各色においてマルチビームLD(複数の半導体レーザ装置)を用いていたが、各色の波長は同一であった。全ビームの波長が揃っていると(即ち、波長が同一であると)、レーザ光の干渉性による画質低下が生じることになる。
【0005】
特許文献1は、同一素子内で複数の波長のレーザを発振可能な多波長半導体レーザを開示している。特許文献1では、レーザ光の具体的な波長についての記載はないが、AlGaAs系の量子井戸レーザであることから、赤外領域のレーザ光であり、RGB以外の色領域におけるレーザ光について述べられている。また、異なる波長を発振する第1と第2の量子井戸活性層は、それぞれで組成は同じとして、それぞれの井戸幅(物理的膜厚)を異ならせている。
【0006】
また、特許文献2は、CD用のレーザダイオードLD1(発光波長780nm)とDVD用のレーザダイオードLD2(発光波長650nm)を1チップ上に搭載するモノリシックレーザダイオードで、CDとDVDの再生を可能にする半導体発光装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平05-082894号公報
【文献】特開2009-016881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、特許文献1では、RGB以外の色領域におけるレーザ光について述べられている。また、特許文献2では、それぞれのレーザ光が異なる色領域におけるレーザダイオードについて述べられている。
【0009】
画質(解像度・フレームレート)向上のため、狭ピッチでマルチエミッタ(複数の発光部)を独立駆動するモノリシック構造の横シングルモードLDが求められる。しかしながら横シングルモードレーザは波長スペクトルが狭く干渉性が高いため画質悪化が課題になっている。
【0010】
また、ディスプレイ装置の高性能化として、レーザ光の干渉を抑制し、広色域、高解像度、広視野角などの視感度や画質の更なる向上が求められている。視感度や画質の更なる向上には、例えば、RGBの3色のレーザ光を用いた光源の各色において、発振波長の異なる複数のレーザ光を出射することのできる半導体レーザ装置であることが、前述したレーザ光の干渉性による画質低下の抑制の観点から好ましい。
【0011】
本発明の課題は、視感度や画質の向上に寄与する半導体レーザ装置を提供することである。その他の課題および新規な特徴は、本明細書および図面の記載から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一つの実施形態に係る半導体レーザ装置は、基板と、前記基板の主面に形成される第1導電型の第1クラッド層および第2導電型の第2クラッド層と、(AlGa1-x1-yInPの結晶層から構成され、赤色領域のレーザ光を放射する少なくとも3つ以上の発光部を有する発光層とを有し、前記発光部から放射される少なくとも1つのレーザ光の発光波長は、他の発光部から放射されるレーザ光の発光波長と異なり、発光波長の異なっている前記発光部における前記発光層を構成する結晶層の組成比はそれぞれで異なっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一つの実施形態に係る半導体レーザ装置では、視感度や画質の向上に寄与する半導体レーザ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一つの実施の形態に係る半導体レーザ装置の構成の一例を示す要部斜視図である。
図2A】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の構成の一例を示す要部斜視図である。
図2B】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置における発光層EL11~EL13の構成の一例を示す要部断面図である。
図3A】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図3B】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
図4A】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図4B】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
図5A】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図5B】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
図6A】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図6B】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
図7A】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図7B】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
図7C】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図8】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法の変形例1に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図9】他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法の変形例2に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図10】選択成長法によって形成された量子井戸層QWにおけるIn組成比と発振波長との関係を示している図である。
図11】選択成長法によって形成された量子井戸層QWにおけるIn組成比と発振波長との関係を示している図である。
図12】量子井戸層QWのIn組成比に対するGa1-yInPの歪量を示す図である。
図13】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の構成の一例を示す要部斜視図である。
図14】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図15】実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図16】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図17】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図18A】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図18B】他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図19】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の構成の一例を示す要部斜視図である。
図20】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図21】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図22】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図23】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図24A】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図24B】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図25】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の変形例の構成の一例を示す要部斜視図である。
図26】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の変形例の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図27】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の変形例の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図28】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の変形例の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図29】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の変形例の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図30A】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の変形例の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図30B】他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置の変形例の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図31】他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置の構成の一例を示す要部斜視図である。
図32】他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図33】他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図34】他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図35】他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図36A】他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図36B】他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
図37】他の実施の形態5に係る半導体レーザ装置の構成の一例を示す要部斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態に係る半導体レーザ装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、明細書および図面において、同一の構成要件または対応する構成要件には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面では、説明の便宜上、構成を省略または簡略化している場合もある。また、各実施の形態と各変形例との少なくとも一部は、互いに任意に組み合わされてもよい。なお、符号においては、形成箇所が異なる等の理由で個別に説明する必要がある際には、例えば、発光部EM11、EM12、EM13など、それぞれで異なる符号を付して説明するが、本来部材が持つ機能として説明する際には、例えば、発光部EM、と表現する場合もある。
【0016】
[本発明の一つの実施の形態に係る半導体レーザ装置の構成]
図1は、一つの実施の形態に係る半導体レーザ装置の構成の一例を示す要部斜視図である。なお、図1に示されるx軸、y軸、z軸については、xは水平方向/幅方向/横方向、yは奥行方向/縦方向、zは垂直方向/厚さ方向/高さ方向、をそれぞれ意味するものとする。この方向に関する定義については、他の図においても同様である。
【0017】
図1に示されるように、一つの実施の形態に係る半導体レーザ装置LDは、GaAs基板1の上に、n型クラッド層2、発光層ELおよびp型クラッド層3が形成されている。また、レーザ光を放射する3つの発光部EM1、EM2、EM3が、図1中でx方向において所定の間隔にて形成されている。
発光部EMからは、赤色領域におけるレーザ光(波長λ=600nm~700nm)が放射される。好ましくは、発光部EM1、EM2、EM3からは、赤色領域の波長の範囲内において、それぞれ異なる波長λのレーザ光が放射される。なお、発光部EMから放射するレーザ光の波長λは、その全てで異なっている必要はなく、少なくとも一つの波長がその他の波長λと異なっていれば良い。ここで示される波長λとは、発光部EMから放射されるレーザ光の光スペクトルにおけるピーク波長の値を示しており、以下に示す実施の形態においても同様である。
また、それぞれの発光部EM1、EM2、EM3における発光層EL1、EL2、EL3は、(AlGa1-x1-yInP(0≦x<1、0<y<1)の結晶層から構成され、発光層EL1、EL2、EL3の結晶層の組成比はそれぞれで異なっている。
【0018】
なお、図1では、リッジ構造を持つ半導体レーザ装置について説明したが、その他、リッジ構造を持たない半導体レーザ装置、例えば、電流狭窄層を持つ埋め込み構造型の半導体レーザ装置等においても適用することができる。
【0019】
[他の実施の形態1]
他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1では、レーザ光を放射する3つの発光部EM11、EM12、EM13が形成され、それぞれの発光部EM11、EM12、EM13の幅(EW11、EW12、EW13)の大きさが異なっている。また、それぞれの発光部EM11、EM12、EM13からは異なる波長のレーザ光が放射され、それぞれの発光部EM11、EM12、EM13における発光層EL11、EL12、EL13の結晶層の組成比が異なっている。
【0020】
(半導体レーザ装置の構成)
図2Aは、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1の構成の一例を示す要部斜視図である。図2Bは、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置における発光層EL11~EL13の構成の一例を示す要部断面図である。
【0021】
図2Aに示されるように、半導体レーザ装置LD1は、GaAs基板1の上に、n型クラッド層2(厚さ2μm)、発光層EL11、EL12、EL13およびp型クラッド層3(厚さ2μm)が形成されている。また、半導体レーザ装置LD1には、3つの発光部EM11、EM12、EM13が形成され、それぞれの発光部EMにおける発光層EL11、EL12、EL13の幅は(図1の中で示されるx方向(水平方向)の大きさに相当する)異なっている。すなわち、幅は、EW13<EW12<EW11、の関係になっている。一例として、幅EW13の長さは25μm、幅EW12の長さは35μm、幅EW11の長さは45μm、である。また、それぞれの発光部EM11、EM12、EM13には、p型クラッド層3の一部をエッチング除去して形成した電流狭窄構造(電流注入構造)および横方向(図1のx方向)の光閉じ込めのための構造としてのリッジ4が形成されている。なお、GaAs基板1の裏面とリッジ4の上面には、n側電極7Nとp側電極7Pが形成されている。
【0022】
n側電極7Nとp側電極7Pに電流を印加することで、3つの発光部EM11、EM12、EM13に形成される発光領域ER11、ER12、ER13から、赤色領域におけるレーザ光(波長:600nm~700nm)が放射される。放射される波長λは、発光部EM13>発光部EM12>発光部EM11、の関係となっている。一例として、発光領域ER11からは654nm、発光領域ER12からは658nm、発光領域ER13からは662nmの波長のレーザ光がそれぞれ放射される。
【0023】
なお、上述の例では、それぞれの波長は4nm毎の差異で設定されているが、これらの波長の差異は、1nm~30nmの間で適宜選択することができる。例えば、波長の差を1nmとした場合は、発光領域ER11からは620nm、発光領域ER12からは621nm、発光領域ER13からは622nmの波長のレーザ光がそれぞれ放射される。また、波長の差を30nmとした場合は、発光領域ER11からは630nm、発光領域ER12からは660nm、発光領域ER13からは690nmの波長のレーザ光がそれぞれ放射される。
【0024】
また、発光層EL11、EL12、EL13の結晶層は(AlGa1-x1-yInP(0≦x<1、0<y<1)の結晶層から構成され、それぞれの発光層ELにおける結晶層のIn組成比(y)が異なっている。一例として、発光層EL11のIn組成比(y)は0.51、発光層EL12のIn組成比(y)は0.55、発光層EL13のIn組成比(y)は0.59である。このIn組成比(y)は、詳細は後述するが、0.35~0.65の範囲から選択することが好ましい。このように、赤色領域のレーザ光では、半導体レーザ装置の結晶層においてAl(アルミニウム)とIn(インジウム)が添加されているが、本実施の形態に係る半導体レーザ装置では、結晶層を構成する組成の内、取り分け、In(インジウム)の組成比を変えることにより、異なる波長の複数のレーザ光を一つのチップから放射することを可能としているものである。なお、Inの組成比を変えることについては、後で更に詳説される。また、後述するように発光層ELは複数の層から構成されており、 Al組成(x)は量子井戸層QWが最も小さくなる。なお、Al組成(x)が約0.5よりも大きくなると間接遷移型となるため、量子井戸層QWのAl組成(x)は0.5以下となる。
【0025】
発光層EL11、EL12、EL13の構成を図2Bにより説明する。図2Bに示されるように、発光層ELは、下部n側ガイド層nGL(数10nm)、量子井戸層QW(数nm~数10nm)、バリア層BL(数nm~数10nm)および上部p側ガイド層pGL(数10nm)から構成され、トータルで100nm程度の厚さで形成されている。図2Aに示される発光領域ER11、ER12、ER13は、量子井戸層QWの所望領域に相当する。図2Bにおいては、量子井戸層QWは、単一量子井戸層(SQW)として示されているが、多重量子井戸層(MQW)であっても良い。一例として、下部n側ガイド層nGLおよび上部p側ガイド層pGLは、(AlGa1-x1-yInPから成り、組成比x=0.7、y=0.5で、共に膜厚は50nmである。量子井戸層QWは、GaInPから成り、膜厚は、5nmである。バリア層BLは、(AlGa1-x1-yInPから成り、組成比x=0.7、y=0.5で、膜厚は5nmである。
【0026】
なお、本実施の形態にて発光層ELと表現する場合は、発光層ELに上述の下部n側ガイド層nGL、量子井戸層QW、バリア層BLおよび上部p側ガイド層pGLを全て含むことを意味する他、量子井戸層QWとバリア層BLを含むことを意味する場合、または、p型クラッド層3、n型クラッド層2の少なくともどちらか一方の一部をも含むことを意味する場合もある。
【0027】
また、図2Bで示される発光層ELの構成は、特に言及しない限り、後述する他の実施の形態2~5における発光層ELにおいても同様な構成である。
【0028】
(半導体レーザ装置の製造方法)
次に、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1の製造方法の一例について説明する。図3図7は、半導体レーザ装置LD1の製造方法に含まれる工程の一例を示す模式図である。図3A図7Aは、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。図3B図7Bは、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法に含まれる工程の一例を示す要部斜視図である。
【0029】
他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1の製造方法は、主として、(1)GaAs基板1の上にn型クラッド層2を形成する工程と、(2)マスクMKを形成する工程と、(3)発光層EL11、EL12、EL13を形成する工程、(4)p型クラッド層3およびキャップ層5を形成する工程(マスクMKの除去工程を含む)、(5)リッジおよび電極を形成して個片化する工程、とを含む。
【0030】
(1)GaAs基板1の上にn型クラッド層2を形成する工程
まず、図3Aおよび図3Bに示されるように、GaAs基板1の上に厚さ約2μmのn型クラッド層2をMOCVD法でエピタキシャル成長する。n型クラッド層2の組成は(AlGa1-x1-yInP(0<x≦1、0<y<1)であり、ここではx=1、y=0.5とした。本実施の形態では、GaAs基板1との格子整合を考慮し、In組成yは0.5に調整している。また、AlとGaの組成比(x:1-x)は、xの方が大きいことが好ましく、(x:1-x)=1:0でも良い。
【0031】
(2)マスクMKを形成する工程
次に、n型クラッド層2を形成した後、n型クラッド層2の表面にマスクMKとして機能する酸化シリコン(SiO)膜をCVD法にて形成する。このSiO膜は結晶成長を阻害する膜であり、例えば窒化シリコン(Si)膜を用いても良い。
【0032】
SiO膜を形成後、図4Aおよび図4Bに示されるように、リソグラフィー法を用いてSiO膜に複数のストライプ状の開口部(本実施の形態では3つの開口部)を形成する。3つの開口部の幅は(図2Aの中で示されるx方向(水平方向)の大きさに相当する)それぞれ異なり、図4Aおよび図4Bの左側から順に広くなるように形成する。すなわち、幅は、EW13<EW12<EW11、の関係となるように形成される。また、3つの開口部を形成するマスクMKのそれぞれの幅は(図2Aの中で示されるx方向(水平方向)の大きさに相当する)、図4Aおよび図4Bの左側から順に狭くなるように形成する。一例として、それぞれのマスク幅は、MK4:50μm、MK3:35μm、MK2:30μm、MK1:15μmとした。
【0033】
(3)発光層EL11、EL12、EL13を形成する工程
次に、図5Aおよび図5Bに示されるように、マスクMKの開口部の領域に、下部n側ガイド層nGL、量子井戸層QW、バリア層BLおよび上部p側ガイド層pGLからなる発光層EL11、EL12、EL13を形成する。これらの層の形成には選択成長と呼ばれる方法にて実施する。選択成長法は、マスクMKの上面には結晶が成膜されないことを利用して、マスクMKの開口部の領域のみに所望の膜を形成するものである。
【0034】
選択成長法にて成長する結晶は(AlGa1-x1-yInP(0≦x<1、0<y<1)であり、使用される原料ガスは、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルガリウム(TMG)やトリメチルインジウム(TMI)などである。
【0035】
選択成長法により、マスクMKの開口部の領域に、下部n側ガイド層nGL、量子井戸層QW、バリア層BLおよび上部p側ガイド層pGLの順で成膜をする。マスクMKの開口部が最も広い領域(EW11)には発光層EL11が形成され、マスクMKの開口部が最も狭い領域(EW13)には発光層EL13が形成される。また、中間の開口部の領域(EW12)には発光層EL12が形成される。
【0036】
この発光層ELを形成する工程では、(AlGa1-x1-yInPを選択成長法により形成するが、元素の組成割合を示すxとyの値は次のように設定している。
【0037】
ガイド層GLはSCH(Separated Confinement Heterostructure)層や閉じ込め層と呼ばれることもあり、クラッド層2(3)よりも屈折率が高く、量子井戸層QWよりも屈折率が低いことが好ましい。そのため、クラッド層2(3)に比べてAl組成比xが小さくなるように原料の供給比を調整する。例えば、Al組成比xはクラッド層2(3)がもっとも高く、ガイド層GLまたはバリア層BL、量子井戸層QWの順に低くなるように原料ガスの供給量を調整する。
【0038】
本実施の形態では、ガイド層GL及びバリア層BLの組成はx=0.7、y=0.5とした。また、量子井戸層QWの成長においては原料ガスのTMAの供給を行わず、量子井戸層QWはAlを含有しない(即ち、x=0)GaInPとしている。量子井戸層QWの厚さは5nm~6nmの範囲で形成されている。
【0039】
選択成長法にて形成される発光層ELは、光導波路としてはコア層として機能する。発光層ELの厚さは波長や各層の屈折率にも依存するが、赤色レーザでは約50nm~約500nmの範囲から選ばれ、本実施の形態では合計約100nmの厚さとしている。
【0040】
この発光層ELを形成する工程では、選択成長による成長レートを通常のレートよりも高めて実施している。例えば、通常の成長レートが1~2μm/hの場合であれば、本実施の形態では原料ガスの供給量を増加させて1.2~1.8程度に成長レートを高めた。このように成長レートを高めることにより、発光層EL11、EL12、EL13におけるIn組成を制御することができた。具体的には、In組成は、マスクMKの開口部が最も狭い領域(EW13)に形成される発光層EL13では一番高く、次いで、発光層EL12、発光層EL11の順でIn組成が低くなる。このように、マスクMKの開口幅が狭いストライプにおけるIn組成が高くなる条件を用いている。
【0041】
発光層EL11、EL12、EL13のそれぞれでIn組成が制御できるメカニズムについては明らかではないが、次の(i)~(iv)であると想定することができる。
(i)選択成長法ではマスクMKの表面では膜成長が生じないため、マスクMKの表面に供給された原料ガスは、マスクMKの表面上を移動して(migrate)、マスクMKの開口部の領域に移動する。(ii)マスクMKの表面積が大きいほど、移動する原料ガスの量が多くなる。(iii)表面積が大きなマスクMKに隣接するマスクMKの開口部の領域には、より多くの量の原料ガスが開口部に移動し、開口部における原料ガスの濃度が高くなる。また、マスクMKの開口部が小さければ原料ガスの濃度もより高くなる。(iv)結果として、マスクMKの開口部が最も狭い領域に形成される発光層EL13により多くのInが取り込まれることになる。このように、マスクMKの表面上での原料ガスの横方向拡散を促進させ、特に横方向拡散の影響を受けやすい原料(例えばInを含むTMI)の組成が高くなるという現象を利用して、各開口部の組成比を調整している。
【0042】
なお、選択成長法により、マスクMKの開口部の大きさが異なる領域に、発光層EL11、EL12、EL13をそれぞれ形成しているが、各発光層ELの厚さは、マスクMKの開口部の大きさにより異なる場合もある。例えば、発光層ELの厚さは、発光層EL13>発光層EL12>発光層EL11、の関係になる場合もある。
【0043】
(4)p型クラッド層3およびキャップ層5を形成する工程(マスクMKの除去工程を含む)
次に、図6Aおよび図6Bに示されるように、マスクMKを除去する。そして、図7Aおよび図7Bに示されるように、厚さ約2μmのp型クラッド層3をMOCVD法でエピタキシャル成長し、続けて0.5μmのキャップ層5を形成する。
【0044】
(5)リッジおよび電極を形成して個片化する工程
次に、図7Cに示されるように、p型クラッド層3を所定形状にエッチング加工して、発光層EL11、EL12、EL13のそれぞれに対してリッジ4を形成する。そして、図示しないSiO等のパッシベーション酸化膜を成膜し、フォトリソグラフィとエッチング技術を用いてリッジ上部に酸化膜の開口部を設け、その上にp側電極7Pを形成する。また、GaAs基板1の裏面にn側電極7Nを形成する。図7Cが、電極まで形成した半導体レーザLD1を示す概略断面図であり、この形状が図2Aに斜視図として示した半導体レーザLD1に相当している。その後、GaAs基板を劈開し、劈開面に端面コーティングなどを形成することで、図2Aに示すような半導体レーザ装置LD1が形成される。
【0045】
(発振波長と組成比(In組成比)との関係)
次に、図10図12を用いて、発振波長と組成比(In組成比)との関係について説明する。図10図11は、選択成長法によって形成された量子井戸層QWにおけるIn組成比と発振波長との関係を示している図である。図12は、量子井戸層QWのIn組成比に対するGa1-yInPの歪量を示す図である。
【0046】
なお、図10図11は、発振波長と組成比(In組成比)との原理的な関係を示すため、量子井戸層QWの膜厚が発振波長に影響しないよう、量子井戸層QWの膜厚を厚く(例えば、20nm以上の厚さ)形成することにより得られたデータである(他の実施の形態1の量子井戸層QWは5nm~6nm)。よって、図10図11は、他の実施の形態1の半導体レーザ装置LD1における構造(寸法等)と完全に一致するものではない。
【0047】
図10には、異なる幅(図4Aおよび図4BにおけるマスクMKの開口幅EWに相当)の発光部EM11、EM12、EM13に対して、工程(3)における選択成長の条件を、横方向拡散を大きくした場合と(図中の◆のプロット)、横方向拡散を小さくした場合(図中の■のプロット)の結果が示されている。図11には、図10の具体的な数値結果が示されている。図10に示されるように、横方向拡散を小さくした場合には(図中の■のプロット)、発光部EM11、EM12、EM13における発振波長の変化は殆ど見られない。一方、横方向拡散を大きくした場合には(図中の◆のプロット)、発光部EM11、EM12、EM13のそれぞれで発振波長が変化していることが理解できる。図11に具体的に示されるように、発光部EM11における量子井戸層QW(Ga1-yInP)のIn組成比yは0.51で、発振波長は654nmである。発光部EM12における量子井戸層QW(Ga1-yInP)のIn組成比yは0.55で、発振波長は658nmである。また、発光部EM13における量子井戸層QW(Ga1-yInP)のIn組成比yは0.59で、発振波長は662nmである。このように、量子井戸層QW(Ga1-yInP)のIn組成比yを変化させることで、発振波長を制御することができる。なお、上述のIn組成比は、リッジ4の下方位置の活性層ELにおける値を示している。
【0048】
図12は、量子井戸層QWのIn組成比に対するGa1-yInPの歪量を示す図である。図12に示されるように、In組成比を0.5(歪量0%)から変化させることで、歪量も変化している。図10および図11に示されるように、In組成比によって発振波長を調整できるが、歪量が大きくなると活性層の品質が劣化し、発光効率が低下してしまう。したがって、Ga1-yInPの膜厚にも依存するが、膜厚10nm程度の量子井戸層QWの歪量は、-2.0%~+2.5%の範囲が好ましく、その場合におけるIn組成比は0.35~0.65となる。すなわち、発光層ELにおける量子井戸層QWのIn組成比は0.35~0.65の範囲から選択することが好ましい。なお、量子井戸層QWのIn組成比が0.35の場合の発振波長は620nmで、In組成比が0.65の場合の発振波長は690nmとなる。このように、In組成比を変更することで、発振波長を少なくとも620nmから690nmの範囲で制御することが可能となる。
【0049】
次に、本発明者らが、発光層ELの結晶の組成比を変えることで発振波長を変化(制御)させるに至った経緯を説明する。
【0050】
本発明者らは、波長を変化させる方法として、発光層の膜厚を変化させること、および、発光層の組成を変化させること、があると認識していた。また、本発明者らの検討によれば、波長が短いほど、発光層の膜厚に対する波長の変化量が小さいことが見出された。例えば、赤色領域の波長帯の場合、量子井戸層QWは5nm付近の厚さであり、膜厚の調整では波長の変化量(調整範囲)に限界があり、膜厚の調整のみでは十分な波長差を確保できないとの結論に至った。
そこで、本発明者らは、発光層の組成差を利用することで、エネルギーバンドギャップを変化させて、波長の制御を行うことに着目した。
【0051】
ここで、赤色波長帯の(AlGa1-x1-yInP活性層に対しては、少なくともAlとInから構成される(AlGa1-x1-yInP混晶のクラッド層が必要である。エネルギーバンドギャップを変化させるため、Alの組成比(導入量)を増加させると、次の(1)(2)で示すようなプロセス上での技術的困難さを生じる場合がある。(1)Alは酸化しやすいため選択成長工程における界面処理が難しくなる。(2)Alは選択成長時のマスク上にポリ(poly)堆積物を形成し易く、成長させる結晶の組成制御が難しくなる。そこで、本発明者らは、エネルギーバンドギャップを変えるため、取り分け、結晶中のIn組成比を調整することで、波長変化量の制御性とプロセス上の有利さの両方に有効であることを見出した。すなわち、結晶層を構成する組成の内、In組成比を変えることにより、一つのチップから異なる波長の複数のレーザ光を容易に放射することが可能となる。
【0052】
(効果)
発光層EL11、EL12、EL13の幅に応じて、それぞれの組成比が異なる発光層ELを形成することで、3つの発光部EM11、EM12、EM13から放射される波長を変えることができる。これにより、レーザ光の干渉による画質低下が抑制でき、広色域、高解像度、広視野角などの視感度や画質の更なる向上が可能となる。すなわち、他の実施の形態1では、視感度や画質の向上に寄与する半導体レーザ装置を提供することができる。
【0053】
(変形例1)
他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1の製造方法の変形例1について説明する。図8は、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法の変形例1に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
他の実施の形態1の変形例1では、図8に示されるように、他の実施の形態1の工程(3)の選択成長において(図4の状態から選択成長を行う段階において)、n型クラッド層2の一部となるn型クラッド層81をマスクMKの間の領域(発光部EMが形成される部分)に形成し、続いて発光層ELを形成する。その後、p型クラッド層3の一部となるp型クラッド層82を形成している。なお、p型クラッド層82は、マスクMKを除去する前に形成することも出来れば、マスクMKを除去後にp型クラッド層3と同時に形成することも出来る。
【0054】
(変形例2)
他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1の製造方法の変形例2について説明する。図9は、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法の変形例2に含まれる工程の一例を示す要部断面図である。
他の実施の形態1の変形例2では、図9に示されるように、他の実施の形態1の工程(1)に引き続き(図3で示した工程に引き続き)、下部n側ガイド層nGLの一部である下部n側ガイド層91をn型クラッド層2の全面に形成している。その後、図4および図5の工程を経た後に、他の実施の形態1の工程(3)に引き続き行われるマスクMKを除去する。そして、上部p側ガイド層pGLの一部である上部p側ガイド層92を全体に形成する。この段階で、選択成長されたEL上には上部p側ガイド層92が形成され、マスクMKを除去した面には下部n側ガイド層91の上面にもp側ガイド層92が形成される。その後、全体にp型クラッド層3、キャップ層5を形成する。
【0055】
[他の実施の形態2]
他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD2(図13)では、レーザ光を放射する3つの発光部EM21、EM22、EM23が形成され、それぞれの発光部EM21、EM22、EM23の幅(EW21、EW22、EW23)の大きさは同じである。また、それぞれの発光部EM21、EM22、EM23からは異なる波長のレーザ光が放射され、それぞれの発光部EM21、EM22、EM23における発光層EL21、EL22、EL23の結晶層の組成比が異なっている。
【0056】
(半導体レーザ装置の構成)
他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD2は、それぞれの発光部EM21、EM22、EM23の幅の大きさが同じであることを除き、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1と同じ構成である。よって、特に言及しない限り、以下では、他の実施の形態1と異なる点について主に説明し、同じ説明の繰り返しは省略する。
【0057】
図13は、他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD2の構成の一例を示す要部斜視図である。
【0058】
図13に示されるように、半導体レーザ装置LD2には、3つの発光部EM21、EM22、EM23が形成され、それぞれの発光部EMにおける発光層EL21、EL22、EL23の幅は(図13の中で示されるx方向(水平方向)の大きさに相当する)ほぼ同じとなっている。すなわち、幅は、EW21=EW22=EW23、の関係になっている。また、発光部EMから放射される波長λは、発光部EM23>発光部EM22>発光部EM21、の関係となっている。その他の点は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1と同じ構成である。
【0059】
(半導体レーザ装置の製造方法)
次に、他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD2の製造方法の一例について説明する。図14図18は、半導体レーザ装置LD2の製造方法に含まれる工程の一例を示す断面模式図である。
【0060】
他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD2の製造方法は、主として、(1)GaAs基板1の上にn型クラッド層2を形成する工程と(図14)、(2)マスクMKを形成する工程と(図15)、(3)発光層EL21、EL22、EL23を形成する工程(図16)、(4)p型クラッド層3およびキャップ層5を形成する工程(図17図18A)、(5)リッジおよび電極を形成して個片化する工程(図18B)、とを含む。なお、図18Bが、電極まで形成した半導体レーザLD2を示す概略断面図であり、この形状が図13に斜視図として示した半導体レーザLD2に相当している。
ここで、工程(1)、工程(4)および工程(5)は、他の実施の形態1で示した製造方法と同様であるので(図3図6および図7)、工程(2)および工程(3)について、他の実施の形態1で示した製造方法との違いを主体に説明する。
【0061】
(2)マスクMKを形成する工程
図15に示されるように、n型クラッド層2の表面にマスクMKとして機能する酸化シリコン(SiO)膜をCVD法にて形成する。そして、リソグラフィー法を用いてSiO膜に複数のストライプ状の開口部(本実施の形態では3つの開口部)を形成する。3つの開口部の幅(図13の中で示されるx方向(水平方向)の大きさに相当する)は、それぞれ同じである。すなわち、幅は、EW21=EW22=EW23、の関係になるように形成されている。なお、図15からも理解できるように、マスクMKの表面積は、左端のマスクMK4が最も広く、他のマスクMK1、MK2、MK3は同じ表面積である。
【0062】
(3)発光層EL21、EL22、EL23を形成する工程
次に、図16に示されるように、マスクMKの開口部の領域に、下部n側ガイド層nGL、量子井戸層QW、バリア層BLおよび上部p側ガイド層pGLからなる発光層EL21、EL22、EL23を形成する。これらの層の形成には選択成長と呼ばれる方法にて実施する。選択成長法は、マスクMKの上面には結晶が成膜されないことを利用して、マスクMKの開口部の領域のみに所望の膜を形成するものである。
【0063】
この工程で形成された発光層EL21、EL22、EL23におけるIn組成比は、発光層EL23が最も高く、次いで発光層EL22が高く、発光層EL21が最も低くなっている。このように、In組成比が異なる理由としては、実施の形態1において述べたメカニズム(i)~(iv)に関連するものと推測される。
【0064】
すなわち、図16のマスクMK4の表面積が最も広いため、マスクMK4の表面に供給された多くの原料ガスが、発光層EL23に移動することにより、発光層EL23におけるIn組成比が最も高くなるものと考えられる。一方で、発光層EL21へ移動する原料ガスが相対的に少ないため、発光層EL21におけるIn組成比が最も低くなるものと考えられる。
【0065】
このように、発光部EMにおける発光層EL21、EL22、EL23の幅を同じとした場合であっても、マスクMKの形状を工夫することで、発光層ELにおけるIn組成比を制御することができる。結果として、発光部EM21、EM22、EM23から異なる波長のレーザ光を放射させることができる。具体的には、波長λは、発光部EM23>発光部EM22>発光部EM21、の関係となっている。
【0066】
(効果)
他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD2も、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1と同様の効果を奏する。なお、他の実施の形態2に係る半導体レーザ装置LD2においては、発光部EM21、EM22、EM23に形成されるリッジ4(または発光領域ER)の中心を等間隔(等ピッチ)で形成することができる(図13および図18Bを参照)。これにより、発光部EM21、EM22、EM23において、発光層EL及びマスクMKの幅などの活性層以外の構造が一致するため、電極配置などのデザインを同一にすることができ、設計や製造を容易にすることができる。また、他の実施の形態1に示したように、波長λを発光層ELの幅により調整する場合において、もしも発光層ELの幅が極端に狭くなると、異常成長などで結晶性が低下してしまう懸念が生じる。しかしながら、他の実施の形態2のように、発光層ELの幅でなく、マスクMKの幅によってIn組成比を変えることができるので(In組成比の傾斜を得ることができるので)、異なる波長λのレーザ光を放射させるとともに結晶性の低下を抑制することができる。
【0067】
[他の実施の形態3]
他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置LD3(図19)では、レーザ光を放射する3つの発光部EM31、EM32、EM33が形成されている。発光部EM31、EM32は連続した発光層EL312に形成され、発光部EM33は発光層EL33に形成されている。また、それぞれの発光部EM31、EM32、EM33からは異なる波長のレーザ光が放射され、それぞれの発光部EM31、EM32、EM33における発光層EL312、EL33の結晶層の組成比が異なっている。
【0068】
(半導体レーザ装置の構成)
図19は、他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置LD3の構成の一例を示す要部斜視図である。
【0069】
図19に示されるように、他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置LD3は、一つの発光層EL312に2つの発光部EM31、EM32が形成されていることを除き、他の実施の形態1、2に係る半導体レーザ装置LD1、LD2と同じ構成である。また、発光部EMから放射される波長λは、発光部EM33>発光部EM32>発光部EM31、の関係となっている。よって、特に言及しない限り、以下では、他の実施の形態1、2と異なる点について主に説明し、同じ説明の繰り返しは省略する。
【0070】
(半導体レーザ装置の製造方法)
次に、他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置LD3の製造方法の一例について説明する。図20図24は、半導体レーザ装置LD3の製造方法に含まれる工程の一例を示す断面模式図である。
【0071】
他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置LD3の製造方法は、主として、(1)GaAs基板1の上にn型クラッド層2を形成する工程と(図20)、(2)マスクMKを形成する工程と(図21)、(3)発光層EL312、EL33を形成する工程(図22)、(4)p型クラッド層3およびキャップ層5を形成する工程(図23図24A)、(5)リッジおよび電極を形成して個片化する工程(図24B)、とを含む。なお、図24Bが、電極まで形成した半導体レーザLD3を示す概略断面図であり、この形状が図19に斜視図として示した半導体レーザLD3に相当している。
【0072】
ここで、工程(1)、工程(4)および工程(5)は、実施の形態1で示した製造方法と同様であるので(図3図6および図7)、工程(2)および工程(3)について、他の実施の形態1で示した製造方法との違いを主体に説明する。
【0073】
(2)マスクMKを形成する工程
図21に示されるように、n型クラッド層2の表面にマスクMKとして機能する酸化シリコン(SiO)膜をCVD法にて形成する。そして、リソグラフィー法を用いてSiO膜に複数のストライプ状の開口部(本実施の形態では2つの開口部)を形成する。2つの開口部の幅は(図19の中で示されるx方向(水平方向)の大きさに相当する)、左側の開口部よりも右側の開口部が大きくなるように形成する。すなわち、幅EW312が幅EW33よりも大きくなるよう、マスクMKの開口部を形成する。
【0074】
(3)発光層EL312、EL33を形成する工程
次に、図22に示されるように、マスクMKの開口部の領域に、下部n側ガイド層nGL、量子井戸層QW、バリア層BLおよび上部p側ガイド層pGLからなる発光層EL312、EL33を形成する。これらの層の形成には選択成長と呼ばれる方法にて実施する。選択成長法は、マスクMKの上面には結晶が成膜されないことを利用して、マスクMKの開口部の領域のみに所望の膜を形成するものである。
【0075】
この工程で形成された発光層EL312、EL33におけるIn組成比は、発光層EL33が最も高く、次いで発光層EL312の左側領域(発光部EM32に相当する領域)が高く、発光層EL312の右側領域(発光部EM31に相当する領域)が最も低くなっている。このように、In組成比が異なる理由としては、他の実施の形態1において述べたメカニズム(i)~(iv)に関連するものと推測される。
【0076】
すなわち、図22に示されるように、左側のマスクMKの開口部が狭いため(幅EW33に相当)、この狭い開口部における原料ガスの濃度が高くなり、結果としてこの開口部に形成される発光層EL33におけるIn組成比が最も高くなるものと考えられる。一方で、右側のマスクMKの開口部が広いため(幅EW312に相当)、この広い開口部における原料ガスの濃度は相対的に低くなり、発光層312におけるIn組成比は発光層EL33におけるIn組成比よりも低くなる。更には、発光層EL312の左側領域は(発光部EM32に相当する領域)、中央のマスクMKの表面から移動する原料ガスの影響を受けるため、発光層EL312の右側領域(発光部EM31に相当する領域)よりも原料濃度が相対的に高くなり、発光層312においてIn組成比に差異(勾配)を形成することができる。
【0077】
このように、一つの発光層EL312に2つの発光部EM31、EM32を形成した場合であっても、マスクMKの開口の大きさを工夫することで、発光層EL312、EL33におけるIn組成比を制御することができる。結果として、発光部EM31、EM32、EM33から異なる波長のレーザ光を放射させることができる。
【0078】
(効果)
他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置LD3も、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1と同様の効果を奏する。なお、他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置LD3においては、一つの発光層EL312に2つの発光部EM31、EM32を形成しているので、発光層EL312の上面にマスクMKを設ける必要がない。よって、発光部EM31、EM32のリッジ4(または発光領域ER)の中心を狭ピッチ(例えば、10μmのピッチ)で形成することができる。
【0079】
(変形例)
他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置LD3の変形例(図25)について説明する。
(半導体レーザ装置の構成)
図25は、他の実施の形態3の変形例に係る半導体レーザ装置LD31の構成の一例を示す要部斜視図である。他の実施の形態3の変形例に係る半導体レーザ装置LD31は、一つの発光層EL3123に3つの発光部EM311、EM322、EM333が形成されていることを除き、他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置LD3と同じ構成である。また、発光部EMから放射される波長λは、発光部EM333>発光部EM322>発光部EM311、の関係となっている。よって、特に言及しない限り、以下では、他の実施の形態3と異なる点について主に説明し、同じ説明の繰り返しは省略する。
【0080】
(半導体レーザ装置の製造方法)
次に、他の実施の形態3の変形例に係る半導体レーザ装置LD31の製造方法の一例について説明する。図26図30は、半導体レーザ装置LD31の製造方法に含まれる工程の一例を示す断面模式図である。
【0081】
他の実施の形態3の変形例に係る半導体レーザ装置LD31の製造方法は、主として、(1)GaAs基板1の上にn型クラッド層2を形成する工程と(図26)、(2)マスクMKを形成する工程と(図27)、(3)発光層EL3123を形成する工程(図28)、(4)p型クラッド層3およびキャップ層5を形成する工程(図29図30A)、(5)リッジおよび電極を形成して個片化する工程(図30B)、とを含む。なお、図30Bが、電極まで形成した半導体レーザLD31を示す概略断面図であり、この形状が図25に斜視図として示した半導体レーザLD31に相当している。
【0082】
ここで、工程(1)、工程(4)および工程(5)は、他の実施の形態3で示した製造方法と同様であるので、工程(2)および工程(3)について、他の実施の形態3で示した製造方法との違いを主体に説明する。
【0083】
(2)マスクMKを形成する工程
図27に示されるように、n型クラッド層2の表面にマスクMKとして機能する酸化シリコン(SiO)膜をCVD法にて形成する。そして、リソグラフィー法を用いてSiO膜に1つのストライプ状の開口部を形成する。
【0084】
(3)発光層EL3123を形成する工程
次に、図28に示されるように、マスクMKの開口部の領域に、下部n側ガイド層nGL、量子井戸層QW、バリア層BLおよび上部p側ガイド層pGLからなる発光層EL3123を形成する。この層の形成には選択成長と呼ばれる方法にて実施する。選択成長法は、マスクMKの上面には結晶が成膜されないことを利用して、マスクMKの開口部の領域のみに所望の膜を形成するものである。
【0085】
この工程で形成された発光層EL3123におけるIn組成比は、図28において、発光層EL3123の左側領域(左側のマスクMK付近で、発光部EM333に相当する領域)が最も高く、中央領域へ移動するにつれIn組成比が低くなる。発光層EL3123の中央領域(発光部EM311に相当する領域)が最も低くなっている。このように、発光層EL3123においてIn組成比が異なる理由としては、他の実施の形態1において述べたメカニズム(i)~(iv)に関連するものと推測される。
【0086】
すなわち、図28において、発光層EL3123の左側領域(発光部EM333に相当する領域)は、左側のマスクMKに隣接しているため、左側のマスクMKの表面から移動する原料ガスの影響を受ける。よって、発光層EL3123の左側領域(発光部EM333に相当する領域)は、他の領域よりも原料濃度が相対的に高くなるため、同一の発光層EL3123内においてIn組成比に差異(勾配)を形成することができる。また、発光層EL3123の中央領域(発光部EM311に相当する領域)では、原料ガスの濃度が低くなるので、結果としてIn組成比が最も低くなる。
【0087】
このように、一つの発光層EL3123に3つの発光部EM311、EM322、EM333を形成した場合であっても、マスクMKの開口の大きさを工夫することで、発光層EL3123におけるIn組成比を制御することができる。結果として、発光部EM311、EM322、EM333から異なる波長のレーザ光を放射させることができる。
【0088】
(効果)
他の実施の形態3の変形例に係る半導体レーザ装置LD31も、他の実施の形態3に係る半導体レーザ装置LD3と同様の効果を奏する。
【0089】
[他の実施の形態4]
他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置LD4(図31)では、レーザ光を放射する4つの発光部EM41、EM42、EM43、EM44が形成され、それぞれの発光部EM41、EM42、EM43、EM44の幅(EW41、EW42、EW43、EW44)の大きさは異なっている。また、それぞれの発光部EM41、EM42、EM43、EM44からは異なる波長のレーザ光が放射され、それぞれの発光部EM41、EM42、EM43、EM44における発光層EL41、EL42、EL43、EL44の結晶層の組成比が異なっている。また、それぞれの発光部EM41、EM42、EM43、EM44は、放射される波長の長短が、横方向(図1のx方向に相当)において交互になるように配置される。
【0090】
(半導体レーザ装置の構成)
他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置LD4は、4つの発光部EM41、EM42、EM43、EM44が形成されていること、および、それぞれで異なる波長のレーザ光を放射する発光部EM41、EM42、EM43、EM44のチップ内での配置場所を除き、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1と同じ構成である。よって、特に言及しない限り、以下では、他の実施の形態1と異なる点について主に説明し、同じ説明の繰り返しは省略する。
【0091】
図31は、他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置LD4の構成の一例を示す要部斜視図である。
【0092】
図31に示されるように、半導体レーザ装置LD4には、4つの発光部EM41、EM42、EM43、EM44が形成されている。また、4つの発光部EM41、EM42、EM43、EM44は、それぞれの発光部EMから放射される波長の長さが、短い/長い/短い/長い、と交互の関係になるように、水平方向(図1のx方向に相当)に亘って配置されている。すなわち、発光部EMから放射される波長の関係は、発光部EM41<発光部EM42<発光部EM43<発光部EM44、となるように形成されている。一例として、それぞれの発光部EMから放射されるレーザ光の波長は、図面左側から発光部EM41で636nm、発光部EM43で642nm、発光部EM42で639nm、発光部EM44で645nm、である。その他の点は、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1と同じ構成である。
【0093】
(半導体レーザ装置の製造方法)
次に、他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置LD4の製造方法の一例について説明する。図32図36は、半導体レーザ装置LD4の製造方法に含まれる工程の一例を示す断面模式図である。
【0094】
他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置LD4の製造方法は、主として、(1)GaAs基板1の上にn型クラッド層2を形成する工程と(図32)、(2)マスクMKを形成する工程と(図33)、(3)発光層EL41、EL42、EL43、EL44を形成する工程(図34)、(4)p型クラッド層3およびキャップ層5を形成する工程(図35図36A)、(5)リッジおよび電極を形成して個片化する工程(図36B)、とを含む。なお、図36Bが、電極まで形成した半導体レーザLD4を示す概略断面図であり、この形状が図31に斜視図として示した半導体レーザLD4に相当している。
【0095】
ここで、工程(1)、工程(4)および工程(5)は、他の実施の形態1で示した製造方法と同様であるので(図3図6および図7)、工程(2)および工程(3)について、他の実施の形態1で示した製造方法との違いを主体に説明する。
【0096】
(2)マスクMKを形成する工程
図33に示されるように、n型クラッド層2の表面にマスクMKとして機能する酸化シリコン(SiO)膜をCVD法にて形成する。そして、リソグラフィー法を用いてSiO膜に複数のストライプ状の開口部(本実施の形態では4つの開口部)を形成する。4つの開口部の幅(図1の中で示されるx方向(水平方向)の大きさに相当する)は、それぞれ異なっている。なお、図33および図34からも理解できるように、マスクMKの開口部の幅は、発光層EL41が形成される開口部が最も広く、次いで発光層EL42が形成される開口部、発光層EL43が形成される開口部の順で狭くなり、発光層EL44が形成される開口部が最も狭くなるように形成されている。すなわち、幅EWは、EW41>EW42>EW43>EW44、の関係になっている。
【0097】
(3)発光層EL41、EL42、EL43、EL44を形成する工程
次に、図34に示されるように、マスクMKの開口部の領域に、下部n側ガイド層nGL、量子井戸層QW、バリア層BLおよび上部p側ガイド層pGLからなる発光層EL41、EL42、EL43、EL44を形成する。これらの層の形成には選択成長と呼ばれる方法にて実施する。選択成長法は、マスクMKの上面には結晶が成膜されないことを利用して、マスクMKの開口部の領域のみに所望の膜を形成するものである。
【0098】
この工程で形成された発光層EL41、EL42、EL43、EL44におけるIn組成比は、発光層EL44が最も高く、次いで発光層EL43、発光層42の順で低くなり、発光層EL41が最も低くなっている。すなわち、In組成比は、発光層EL41<発光層EL42<発光層EL43<発光層EL44、の関係になっている。このように、In組成比が異なる理由としては、実施の形態1において述べたメカニズム(i)~(iv)に関連するものと推測される。
【0099】
このように、発光部EMにおける発光層EL41、EL42、EL43、EL44の幅をそれぞれ異なるように形成し、また、マスクMKの形状を工夫することで、発光層ELにおけるIn組成比を制御することができる。結果として、発光部EM41、EM42、EM43、EM44から異なる波長のレーザ光を放射させることができる。
【0100】
(効果)
他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置LD4も、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1と同様の効果を奏する。なお、他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置LD4においては、チップ(半導体レーザ装置)の中央部に、高温特性が相対的に良好な長波長を放射する発光部EM43を配置することにより、発光部EMにおける高温特性を補償し、出力特性の差を揃えることができる効果がある。
【0101】
なお、他の実施の形態4に係る半導体レーザ装置LD4では、4つの発光部EM41、EM42、EM43、EM44から放射される波長の長さが、短い/長い/短い/長い、と交互になるように、各発光部EMを配置したが、配置順はこれに限らず、放熱特性を考慮して、適宜配置順を変更しても良い。
【0102】
[他の実施の形態5]
他の実施の形態5に係る半導体レーザ装置LD5(図37)は、それそれでTEモード(Transverse Electric Mode)とTMモード(Transverse Magnetic Mode)の光学利得の大きさが異なる発光部EM51、EM52、EM53を形成していることを除き、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1と同じ構成である。よって、特に言及しない限り、以下では、他の実施の形態1と異なる点について主に説明し、同じ説明の繰り返しは省略する。
【0103】
(半導体レーザ装置の構成)
図37は、他の実施の形態5に係る半導体レーザ装置LD5の構成の一例を示す要部斜視図である。
【0104】
図37に示されるように、半導体レーザ装置LD5には、3つの発光部EM51、EM52、EM53が形成され、それぞれの発光部EMにおける発光層ELの幅は(図37の中で示されるx方向(水平方向)の大きさに相当する)異なっている。また、発光部EM51、EM52、EM53においては、それぞれで歪の方向と光学利得の大きさが異なる。その他の点は、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1と同じ構成である。
【0105】
量子井戸層QW(GaInP活性層)は、In組成比が概ね0.5を境として、光学利得の大きさがTEモードとTMモードとで入れ替わる。
図37に示されるように、発光部EM53の幅は最も狭く、In組成比は最も高い0.55としている。発光部EM51の幅は最も広く、In組成比は最も低い0.45としている。このため活性層の歪の方向が異なり、放射されるレーザ光の偏光方向を異ならせることができる。なお、発光部EM52の幅は中間の広さであり、In組成比は約0.5としており、GaAs基板に整合しているため歪は無い。このため発光部EM52では光学利得による偏光依存性は無いが、端面の反射率に偏光依存性があるためTEモードで発振している。
【0106】
すなわち、発光部EM51における発光層ELのIn組成比は0.45で、歪は引っ張り歪、光学利得はTMモードとなる。発光部EM52における発光層ELのIn組成比は0.5で、歪は無く、光学利得はTEモードとなる。発光部EM53における発光層ELのIn組成比は0.55で、歪は圧縮歪、光学利得はTEモードとなる。このように、In組成比0.5を境として、In組成比が0.5未満の活性層(発光層EL)とIn組成比が0.5を超える活性層(発光層EL)を複数形成することで、異なる偏光を持った発光部EM51、EM52、EM53を備える半導体レーザ装置を提供することができる。
【0107】
(効果)
他の実施の形態5に係る半導体レーザ装置LD5も、他の実施の形態1に係る半導体レーザ装置LD1と同様の効果を奏する。なお、他の実施の形態5に係る半導体レーザ装置LD5においては、異なる偏光を持った発光部EM51、EM52、EM53を備えているので、例えば3D映像の投影に適用できる小型モノリシック集積光源を提供することができる。
【0108】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更され得る。たとえば、上記実施の形態では、赤色領域の半導体レーザ装置に関して説明したが、同種の材料系で作製可能な赤色以外の可視光領域であれば、他の色領域の半導体レーザ装置においても適用することが可能である。
【0109】
また、上記実施の形態では、一つの半導体レーザ装置から波長の異なる3つまたは4つのレーザ光を出射する場合について説明したが、出射するレーザ光は5つ以上であってもよい。
【0110】
また、特定の数値例について記載した場合であっても、理論的に明らかにその数値に限定される場合を除き、その特定の数値を超える数値であってもよいし、その特定の数値未満の数値であってもよい。また、成分については、「Aを主要な成分として含むB」などの意味であり、他の成分を含む態様を排除するものではない。
【0111】
また、上記実施の形態では、以下の形態を含む。
【0112】
(付記1)
基板と、
前記基板の主面に積層される、第1導電型の第1クラッド層と第2導電型の第2クラッド層と、
前記第1クラッド層と前記第2クラッド層とに挟まれるように形成され、前記基板主面に平行な第1の面上において形成される発光層と、を有し、
前記発光層は、同一面内に形成された(AlGa1-x1-yInP(0≦x<1、0<y<1)の結晶層から構成され、赤色領域のレーザ光を放射する少なくとも3つ以上の発光部を有し、
前記発光部は、第1の発光領域とその他の発光領域からなり、少なくとも前記第1の発光領域から放射される第1の発光波長は、前記その他の発光領域から放射される第2の発光波長と異なり、
前記第1の発光領域における前記発光層の結晶層の組成比は、前記その他の発光領域における前記発光層の結晶層の組成比と異なっている、半導体レーザ装置。
【0113】
(付記2)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記発光部から放射されるレーザ光の波長は、600nm以上、700nm以下である半導体レーザ装置。
【0114】
(付記3)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記発光部の内、少なくとも2つの前記発光部から放射されるレーザ光のそれぞれの波長の差は、1nm以上30nm以下である半導体レーザ装置。
【0115】
(付記4)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記発光層は、前記第1の面上において分離して配置されている半導体レーザ装置。
【0116】
(付記5)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記発光部から放射される前記第1の波長と前記第2の波長の内、波長が短い前記発光部における前記発光層の結晶層のIn組成比(y)は、波長が長い前記発光部における前記発光層の結晶層のIn組成比(y)よりも低い半導体レーザ装置。
【0117】
(付記6)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記発光層を構成する結晶層のIn組成比(y)は、0.35以上、0.65以下である半導体レーザ装置。
【0118】
(付記7)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記発光層は、結晶層のIn組成比(y)が0.5未満の発光領域と、結晶層のIn組成比(y)が0.5以上の発光領域とを少なくとも含む半導体レーザ装置。
【0119】
(付記8)
付記1または付記4に記載の半導体レーザ装置において、
前記発光層に形成される前記複数の発光部の水平方向の幅の大きさにより、前記発光部における前記発光層の結晶層のIn組成比(y)が異なり、
幅が広い前記発光部における前記発光層の結晶層のIn組成比(y)は、幅が狭い前記発光部における前記発光層の結晶層のIn組成比(y)よりも低い半導体レーザ装置。
【0120】
(付記9)
付記1または付記4に記載の半導体レーザ装置において、
前記発光層に形成される前記複数の発光部の垂直方向の厚みにより、前記発光部における前記発光層の結晶層のIn組成比(y)が異なり、
厚みが厚い前記発光部における前記発光層の結晶層のIn組成比(y)は、厚みが薄い前記発光部における前記発光層の結晶層のIn組成比(y)よりも高い半導体レーザ装置。
【0121】
(付記10)
付記1に記載の半導体レーザ装置において、
前記複数の発光部の内、少なくとも2つの前記発光部は、連続した前記発光層に形成され、それぞれの発光部における前記発光層の結晶層の組成比が異なっている半導体レーザ装置。
【符号の説明】
【0122】
BL バリア層
EM 発光部
EL 発光層
ER 発光領域
EW 発光層の幅
LD 半導体レーザ装置
QW 量子井戸層
MK マスク
nGL 下部n側ガイド層
pGL 上部p側ガイド層
1 GaAs基板
2 n型クラッド層
3 p型クラッド層
4 リッジ
5 キャップ層
81 n型クラッド層の一部
82 p型クラッド層の一部
91 下部n側ガイド層の一部
92 上部p側ガイド層の一部
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21
図22
図23
図24A
図24B
図25
図26
図27
図28
図29
図30A
図30B
図31
図32
図33
図34
図35
図36A
図36B
図37