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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】4輪駆動車の走行駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 23/08 20060101AFI20240710BHJP
   B60K 17/346 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B60K23/08 C
B60K17/346 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023549302
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035393
(87)【国際公開番号】W WO2023047587
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】下西 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】後田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 俊輔
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/129693(WO,A1)
【文献】特開2020-50050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 23/08
B60K 17/346
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右一対の前輪及び後輪のうち、いずれか一方を駆動源に接続して駆動する主駆動輪とし、他方をクラッチトルクを調整可能な第1のクラッチを介して前記駆動源に接続して駆動する副駆動輪とし、左右の前記副駆動輪は、デファレンシャルを介して前記駆動源から動力が伝達される4輪駆動車に備えられた走行駆動制御装置であって、
前記車両は、前記デファレンシャルと前記左右の前記副駆動輪のうちいずれか一方との間の動力の伝達路に第2のクラッチを備え、
前記走行駆動制御装置は、
前記車両の運転状態に基づいて前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチの切り換えを判定するクラッチ作動判定部と、
前記クラッチ作動判定部の判定に基づいて、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを制御するクラッチ制御部と、を備え、
前記クラッチ制御部は、前記車両の走行中において、前記第2のクラッチの切断時におけるトルク差を減少させるように、前記第2のクラッチの切断前に前記第1のクラッチによるクラッチトルクを所定量印加することを特徴とする4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【請求項2】
前記デファレンシャルと前記第1のクラッチとの間の駆動軸の回転速度を検出する第1の速度検出部を備え、
前記クラッチ制御部は、
前記駆動軸の回転速度に基づいて前記駆動軸の慣性トルクを演算し、当該慣性トルクに基づいて前記所定量を設定することを特徴とする請求項1に記載の4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【請求項3】
前記前輪の回転速度を検出する第2の速度検出部を備え、
前記クラッチ制御部は、
前記前輪の回転速度に基づいて、前記デファレンシャルのフリクショントルクを演算して、
前記慣性トルクと前記フリクショントルクとの加算値に基づいて前記所定量を演算することを特徴とする請求項2に記載の4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【請求項4】
前記クラッチ制御部は、前記第1のクラッチを切断し前記第2のクラッチを接続した2輪駆動走行状態において前記第2のクラッチを切断する際に、当該第2のクラッチの切断前に前記第1のクラッチによるクラッチトルクを一時的に前記所定量に増加させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【請求項5】
前記クラッチ制御部は、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを接続した4輪駆動走行状態において前記第2のクラッチを切断する際に、当該第2のクラッチの切断前に前記第1のクラッチによるクラッチトルクを一時的に前記所定量に変更することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【請求項6】
前記第1のクラッチは、電子制御カップリングであって、
前記第2のクラッチは、結合及び切断を切り替えるドグクラッチである
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の4輪駆動車の走行駆動制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2輪駆動と4輪駆動とを切り替え可能な4輪駆動車の走行駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の動力駆動源に、車両の前輪及び後輪のうちのいずれか一方が接続され、他方がクラッチを介して接続された4輪駆動車が知られている。このような車両は、クラッチを接続することで4輪駆動車となり、クラッチを切断することで2輪駆動車となる。
【0003】
特許文献1には、実施例2として、後輪駆動車ベースの4輪駆動車が開示されている。この4輪駆動車は、2輪駆動と4輪駆動とを切り替える手段として電制カップリング(摩擦クラッチ)を備えるとともに、2輪駆動時には従動輪側である左右の前輪を切断するドグクラッチ(噛み合いクラッチ)を備えている。
【0004】
そして、電制カップリング及びドグクラッチを結合する4輪駆動モード(コネクト4輪駆動モード)、電制カップリング及びドグクラッチを切断する2輪駆動モード(ディスコネクト2輪駆動モード)、電制カップリングを切断しドグクラッチを結合する4輪駆動待機モード(スタンバイ2輪駆動モード)が選択的に可能になっており、車速やアクセル開度に基づいて自動的に切り替えるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6168232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように摩擦クラッチと噛み合いクラッチを備えた4輪駆動車において、例えば4輪駆動モードから2輪駆動モードに移行する場合のように車両走行中に噛み合いクラッチを切断しようとしたときに、トルクが作用していると切断時の負荷となり噛み合いクラッチが切断し難くなる虞がある。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、噛み合いクラッチを迅速かつ滑らかに切断可能とする4輪駆動車の走行駆動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る4輪駆動車の走行駆動制御装置は、車両の左右一対の前輪及び後輪のうち、いずれか一方を駆動源に接続して駆動する主駆動輪とし、他方をクラッチトルクを調整可能な第1のクラッチを介して前記駆動源に接続して駆動する副駆動輪とし、左右の前記副駆動輪は、デファレンシャルを介して前記駆動源から動力が伝達される4輪駆動車に備えられた走行駆動制御装置であって、前記車両は、前記デファレンシャルと前記左右の前記副駆動輪のうちいずれか一方との間の動力の伝達路に第2のクラッチを備え、前記走行駆動制御装置は、前記車両の運転状態に基づいて前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチの切り換えを判定するクラッチ作動判定部と、前記クラッチ作動判定部の判定に基づいて、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを制御するクラッチ制御部と、を備え、前記クラッチ制御部は、前記車両の走行中において、前記第2のクラッチの切断時におけるトルク差を減少させるように、前記第2のクラッチの切断前に前記第1のクラッチによるクラッチトルクを所定量印加することを特徴とする。
【0009】
これにより、車両の走行中において、第2のクラッチの切断時における駆動系の慣性の変化による第2のクラッチでのトルク差を減少させて、第2のクラッチを迅速かつ滑らかに切断することができる。
【0010】
好ましくは、前記デファレンシャルと前記第1のクラッチとの間の駆動軸の回転速度を検出する第1の速度検出部を備え、前記クラッチ制御部は、前記駆動軸の回転速度に基づいて前記駆動軸の慣性トルクを演算し、当該慣性トルクに基づいて前記所定量を設定するとよい。
【0011】
これにより、車両走行中において、第2のクラッチを切断する際に、一方の副駆動輪から駆動軸が切断されることによる慣性トルクの変化量を精度良く演算し、第2のクラッチの切断前に第1のクラッチによるクラッチトルクを適正量印加して、第2のクラッチをより迅速かつ滑らかに切断することが可能になる。
【0012】
好ましくは、前記前輪の回転速度を検出する第2の速度検出部を備え、前記クラッチ制御部は、前記前輪の回転速度に基づいて、前記デファレンシャルのフリクショントルクを演算して、前記慣性トルクと前記フリクショントルクとの加算値に基づいて前記所定量を演算するとよい。
【0013】
これにより、車両走行中において、第2のクラッチを切断する際に、一方の副駆動輪からデファレンシャルが切断されることによる慣性トルクの変化量を精度良く演算し、第2のクラッチの切断前に第1のクラッチによるクラッチトルクを適正量印加して、第2のクラッチをより迅速かつ滑らかに切断することが可能になる。
【0014】
好ましくは、前記クラッチ制御部は、前記第1のクラッチを切断し前記第2のクラッチを接続した2輪駆動走行状態において前記第2のクラッチを切断する際に、当該第2のクラッチの切断前に前記第1のクラッチによるクラッチトルクを一時的に前記所定量に増加させるとよい。
【0015】
これにより、第1のクラッチを切断し第2のクラッチを接続した2輪駆動走行状態から第2クラッチを切断する際に、当該切断前に第1のクラッチによるクラッチトルクを一時的に増加して、第2のクラッチにおけるトルク差を減少させてから切断するので、第2のクラッチをより迅速かつ滑らかに切断することが可能になる。
【0016】
好ましくは、前記クラッチ制御部は、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを接続した4輪駆動走行状態において前記第2のクラッチを切断する際に、当該第2のクラッチの切断前に前記第1のクラッチによるクラッチトルクを一時的に前記所定量に変更するとよい。
【0017】
これにより、第1のクラッチ及び第2のクラッチを接続した4輪駆動走行状態から第2クラッチを切断する際に、当該切断前に第1のクラッチによるクラッチトルクを一時的に所定量に変更して、第2のクラッチにおけるトルク差を減少させてから切断するので、第2のクラッチをより迅速かつ滑らかに切断することが可能になる。
【0018】
好ましくは、前記第1のクラッチは、電子制御カップリングであって、前記第2のクラッチは、結合及び切断を切り替えるドグクラッチであるとよい。
【0019】
これによりドグクラッチの切断前に電子制御カップリングによるクラッチトルクを所定量印加して、ドグクラッチの切断時におけるトルク差を減少させるので、第2のクラッチをより迅速かつ滑らかに切断すること可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る4輪駆動車の走行駆動制御装置によれば、車両走行中において、第2のクラッチの切断時に、第2のクラッチにおけるトルク差が減少するので、第2のクラッチを滑らかに切断することができる。これにより、第2のクラッチの切断時に、車両走行への影響を抑制して、車両走行中における違和感を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る4輪駆動車の駆動系の構成図である。
図2】本実施形態の駆動モード切替え制御系の構成図である。
図3】本実施形態におけるドグクラッチの切断時での各クラッチの制御手順を示すフローチャートである。
図4】本実施形態におけるフロントデファレンシャルのフリクションの演算用マップの一例である。
図5】車両減速走行中でのドグクラッチの切断時における各パラメータの推移の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る4輪駆動車の走行駆動系の概略構造図である。図2は、本実施形態の駆動モード切替え制御系の構成図である。
【0024】
図1に示すように、本発明を採用した車両1は、後輪駆動ベースの4輪駆動車である。
【0025】
車両1の後輪駆動系は、走行駆動源であるエンジン2及び変速機3、副変速機4、リアプロペラシャフト5、リアデファレンシャル6、左後輪ドライブシャフト7、右後輪ドライブシャフト8、左後輪9、右後輪10を備えている。変速機3は、自動変速機(AT)であり、副変速機4は例えば手動によりハイ、ローの2段切り換えが可能である。エンジン2による駆動力は、変速機3、副変速機4、リアプロペラシャフト5、リアデファレンシャル6を介して、左後輪ドライブシャフト7及び右後輪ドライブシャフト8に伝達し、、主駆動輪である左後輪9及び右後輪10を駆動する。左後輪9と右後輪10とは、リアデファレンシャル6によって差動が許容される。
【0026】
車両1の前輪駆動系は、電制カップリング20(電子制御カップリング、第1のクラッチ)、フロントプロペラシャフト21(駆動軸)、フロントデファレンシャル22、左前輪ドライブシャフト23、右前輪ドライブシャフト24、左前輪25、右前輪26を備えている。
【0027】
電制カップリング20は、伝達トルク(クラッチトルク)を調整可能な電子制御クラッチであり、副変速機4とフロントプロペラシャフト21との間に介装されている。電制カップリング20は、副変速機4とフロントプロペラシャフト21との間の伝達トルクを0にすることで、動力伝達を切断可能である。電制カップリング20を接続することで、エンジン2による駆動力は、変速機3、副変速機4、電制カップリング20、フロントプロペラシャフト21、フロントデファレンシャル22を介して、左前輪ドライブシャフト23及び右前輪ドライブシャフト24に伝達し、副駆動輪である左前輪25及び右前輪26を駆動する。左前輪25と右前輪26とは、フロントデファレンシャル22によって差動が許容される。
【0028】
更に、車両1の前輪駆動系には、ドグクラッチ30(第2のクラッチ)が備えられている。ドグクラッチ30は、フロントデファレンシャル22と右前輪26との間の動力伝達路である右前輪ドライブシャフト24に介装され、結合(接続)及び切断を切り換え可能である。ドグクラッチ30を結合することでフロントデファレンシャル22と右前輪26との間で動力が伝達可能となる。ドグクラッチ30を切断することで、フロントデファレンシャル22と右前輪26との間で動力伝達不能となる。
【0029】
図2に示すように、電制カップリング20及びドグクラッチ30は、車両1に搭載された走行駆動コントロールユニット40(走行駆動制御装置)によって、車両1の走行状態及び運転者による運転操作に基づいて作動制御される。
【0030】
走行駆動コントロールユニット40は、入出力装置、記憶部(ROM、RAM、不揮発性RAM等)及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成されている。
【0031】
走行駆動コントロールユニット40には、例えば車速、エンジントルク情報、車両前後加速度、変速段等といった車両の運転状態の他に、車両1に設けられた前輪速度センサ60(第2の速度検出部)より前輪の回転速度(前輪速度)を入力するとともに、フロントプロペラシャフト回転速度センサ62(第1の速度検出部)よりフロントプロペラシャフト21の回転速度を入力する。
【0032】
走行駆動コントロールユニット40は、駆動モード判定部61(クラッチ作動判定部)、クラッチ制御部45を備えている。
【0033】
駆動モード判定部61は、車両の運転状態、例えば車速、エンジントルク情報、車両前後加速度、変速段に基づいて、コネクト4WDモード(4輪駆動モード)、ディスコネクト2WDモード(2輪駆動モード)、スタンバイ4WDモード(4輪駆動待機モード)の3種類の駆動モードのいずれかに判定する。
【0034】
コネクト4WDモード、ディスコネクト2WDモード、スタンバイ4WDモードの3種類の駆動モードは、電制カップリング20及びドグクラッチ30の作動制御によって切り替えられる。
【0035】
コネクト4WDモードは、電制カップリング20及びドグクラッチ30を接続した状態である。コネクト4WDモードでは、エンジン2等の走行駆動源から後輪駆動系によって右後輪10及び左後輪9を駆動するとともに、走行駆動源から前輪駆動系によって右前輪26及び左前輪25を駆動する。
【0036】
ディスコネクト2WDモードは、電制カップリング20及びドグクラッチ30を切断した状態である。ディスコネクト2WDモードでは、走行駆動源から後輪駆動系によって右後輪10及び左後輪9を駆動する一方、電制カップリング20が切断していることで右前輪26及び左前輪25は駆動されない。なお、ドグクラッチ30が切断していることで、右前輪26とフロントデファレンシャル22とが切断され、走行中に前輪25、26の回転に伴って回転する前輪駆動系の部位を減らして、フリクション損失やオイル攪拌損失を低減させることにより、燃費を向上させることができる。
【0037】
スタンバイ4WDモードは、電制カップリング20を切断し、ドグクラッチ30を結合した状態である。スタンバイ4WDモードでは、電制カップリング20が切断していることから前輪25、26は駆動されずに後輪駆動であるが、ドグクラッチ30を結合していることから、電制カップリング20を結合することで、直ぐにコネクト4WDモードに移行できる。したがって、ディスコネクト2WDモードからコネクト4WDモードに移行する前にスタンバイ4WDモードを経由することで、即ち2輪駆動から4輪駆動に切り換える際に、電制カップリング20を完全に結合する前にあらかじめドグクラッチ30を結合しておき、電制カップリング20を結合することで2輪駆動から4輪駆動への速やかな切り換えが可能になる。
【0038】
クラッチ制御部45は、駆動モード判定部61において判定した駆動モードに基づいて、電制カップリング20及びドグクラッチ30を作動制御する。
【0039】
本実施形態のクラッチ制御部45は、車両走行中において、例えばコネクト4WDモードからディスコネクト2WDモードに移行する場合のように、ドグクラッチ30を切断する際に、電制カップリング20の制御によりフロントプロペラシャフト21を回転させ、ドグクラッチ30におけるトルク差を低減させる制御を行う。
【0040】
図3は、ドグクラッチ30の切断時での各クラッチ20、30の制御手順を示すフローチャートである。図4は、フロントデファレンシャル22のフリクショントルクT1の演算用マップの一例である。図5は、ドグクラッチ30の切断時での、フロントプロペラシャフト21の回転速度、ドグクラッチ30の回転速度差、電制カップリング20のクラッチトルク、ドグクラッチ30の作動指示、ドグクラッチ30の結合切断状態といった各パラメータの推移の一例を示すタイムチャートである。
【0041】
ドグクラッチ30が結合状態であるときに、図3に示すルーチンが開始される。
【0042】
始めにステップS10では、ドグクラッチ30の切断指示があるか否かを判別する。ドグクラッチ30の切断指示がある場合には、ステップS20に進む。ドグクラッチ30の切断指示がない場合には、ステップS10を繰り返す。
【0043】
ステップS20では、前輪速度センサ60より前輪速度を入力して、フロントデファレンシャル22のフリクショントルクT1を演算する。フリクショントルクT1は、図4に示すようなマップを用いて演算し、例えば前輪速度が増加するに伴ってフリクショントルクT1が増加するように設定されている。そして、ステップS30に進む。
【0044】
ステップS30では、フロントプロペラシャフト回転速度センサ62より、現状のフロントプロペラシャフト21の回転速度Vfpを入力し、当該回転速度Vfpを微分して回転速度変化率を算出する。そして、ステップS40に進む。
【0045】
ステップS40では、回転運動方程式(Ia=T)よりフロントプロペラシャフト21の慣性(イナーシャ)によるトルクT2を演算する。なお、この回転運動方程式におけるIはフロントプロペラシャフト21の慣性モーメントである。aはフロントプロペラシャフト21の回転角加速度である。回転運動方程式は、T2=I×d(Vfp)/dtに書き換えられ、この式よりトルクT2を演算する。なお、Vfpは、フロントプロペラシャフト21の回転速度である。そして、ステップS50に進む。
【0046】
ステップS50では、電制カップリング20においてクラッチトルクT(補償トルク)を印加させる。補償トルクTは、ステップS20で演算したフロントデファレンシャル22のフリクショントルクT1と、ステップS40で演算したフロントプロペラシャフト21のイナーシャによるトルクT2との加算値である(T=T1+T2)。そして、ステップS60に進む。
【0047】
ステップS60では、ドグクラッチ30を切断するように、ドグクラッチ30のアクチュエータに指示する。そして、ステップS70に進む。
【0048】
ステップS70では、ドグクラッチ30が切断完了したことを例えばドグクラッチセンサにより検出したらドグクラッチ30の作動を終了して、本ルーチンを終了する。
【0049】
以上のような制御により、例えば図5の実線に示すように、車両減速走行中において、スタンバイ4WDモードのようにドグクラッチ30が接続している2輪駆動走行状態から、ディスコネクト2WDモードに移行する場合のようにドグクラッチ30を切断する際に、ドグクラッチ30の切断指示を受けてから、電制カップリング20のクラッチトルクは0から所定量(補償トルク)まで増加させる。そして、電制カップリング20のクラッチトルクが所定量に達した時点でドグクラッチ30のアクチュエータに切断指示がされる。ドグクラッチ30が切断完了するまで電制カップリング20において所定量のクラッチトルトルクが印加されることで、ドグクラッチ30の切断時においてドグクラッチ30でのトルク差が減少されるので、ドグクラッチ30を迅速かつ滑らかに切断することができる。
【0050】
ここでのドグクラッチ30の切断時におけるトルク差とは、ドグクラッチ30を切断することで前輪側の慣性トルクが変化することによってもたらされる。本実施形態では、この慣性トルクが変化分の所定量の補償トルクを、ドグクラッチ30の切断前に印加する。
【0051】
補償トルクは、前輪速度が増加するに伴って増加するフロントデファレンシャル22のフリクショントルクT1と、フロントプロペラシャフト21の回転速度に基づいて演算されるフロントプロペラシャフト21の慣性によるトルクT2を加算した値とする。これにより、ドグクラッチ30を切断することによる慣性トルクの変化量を精度良く演算し、ドグクラッチ30の切断時におけるトルク差を0に近くして、ドグクラッチ30のより迅速かつ滑らかな切断が可能になる。
【0052】
なお、図5の破線に示すように、車両減速走行中において、例えばコネクト4WDモードのようにドグクラッチ30及び電制カップリング20が接続している状態から、ディスコネクト2WDモードに移行する場合のようにドグクラッチ30を切断する際には、ドグクラッチ30の切断指示を受けてから、電制カップリング20のクラッチトルクは所定範囲内の正の値から所定量(補償トルク)に一時的に変化(増加あるいは減少)させる。
【0053】
これにより、ドグクラッチ30を切断することによる慣性トルクの変化量を精度良く演算し、ドグクラッチ30の切断時におけるトルク差を0に近くして、ドグクラッチ30のより迅速かつ滑らかな切断が可能になる。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態に限定するものではない。例えば上記実施形態では、後輪駆動車をベースとした、即ち後輪9、10を主駆動輪とし前輪25、26を副駆動輪とした4輪駆動車に本発明を適用しているが、前輪駆動車をベースとした、即ち前輪25、26を主駆動輪とし後輪9、10を副駆動輪とした4輪駆動車に本発明を適用してもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、走行駆動源がエンジン2である車両1に本発明を適用しているが、モータを走行駆動源とする電気自動車、走行駆動源をエンジン及びモータとするハイブリッド車やプラグインハイブリッド車に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 車両
2 エンジン(駆動源)
9 左後輪(後輪、主駆動輪)
10 右後輪(後輪、主駆動輪)
20 電制カップリング(第1のクラッチ)
21 フロントプロペラシャフト(駆動軸)
22 フロントデファレンシャル(デファレンシャル)
25 左前輪(前輪、副駆動輪)
26 右前輪(前輪、副駆動輪)
30 ドグクラッチ(第2のクラッチ)
40 走行駆動コントロールユニット(走行駆動制御装置)
45 クラッチ制御部
60 前輪速度センサ(第1の速度検出部)
61 駆動モード判定部(クラッチ作動判定部)
62 フロントプロペラシャフト回転速度センサ(第2の速度検出部)

図1
図2
図3
図4
図5