(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】混紡糸、並びにこの混紡糸を用いた衣類、作業着および防護手袋
(51)【国際特許分類】
D02G 3/04 20060101AFI20240710BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20240710BHJP
A41D 19/015 20060101ALI20240710BHJP
A41D 13/00 20060101ALI20240710BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20240710BHJP
A41D 31/08 20190101ALI20240710BHJP
A41D 31/24 20190101ALI20240710BHJP
【FI】
D02G3/04
A41D19/00 A
A41D19/015 110Z
A41D13/00 102
A41D31/00 503F
A41D31/00 503G
A41D31/08
A41D31/24
(21)【出願番号】P 2020126457
(22)【出願日】2020-07-27
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】515047873
【氏名又は名称】加茂繊維株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501252629
【氏名又は名称】大垣扶桑紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129104
【氏名又は名称】舩曵 崇章
(72)【発明者】
【氏名】角野 充俊
(72)【発明者】
【氏名】田中 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小倉 浩之
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-026596(JP,A)
【文献】特開2017-020141(JP,A)
【文献】特表2017-518446(JP,A)
【文献】特表2008-520850(JP,A)
【文献】特開2006-022451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00- 3/48
D01F 1/00- 9/04
D03D 1/00-27/18
D04B 1/00- 1/28,
21/00-21/20
A41D 13/00-13/12,
19/00-20/00,
31/00-31/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド短繊維と、
黒鉛珪石の微粉末を含有する黒鉛珪石含有短繊維と、からなる混紡糸であって、
前記黒鉛珪石含有短繊維は、
前記黒鉛珪石の微粉末を0.5~20重量%含有したポリエステル繊維であり、
前記黒鉛珪石含有短繊維の混紡率が3~40重量%であり、前記アラミド短繊維の混紡率が97~60重量%である、
混紡糸。
【請求項2】
黒鉛珪石含有短繊維が、
黒鉛珪石の微粉末を0.5~
8.0重量%含有
したポリエステル繊維である、
請求項1に記載の混紡糸。
【請求項3】
アラミド短繊維が、
ポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維である、
請求項1または請求項2に記載の混紡糸。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の混紡糸を用いた衣類。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の混紡糸を用いた作業着。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の混紡糸を用いた防護手袋。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の混紡糸を指先部分にのみ用いた防護手袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混紡糸、並びにこの混紡糸を用いた衣類、作業着および防護手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
高耐熱かつ高強度の繊維として、例えば、アラミド繊維が知られており、ロープ、作業服および防護手袋などに広く使用されている。アラミド繊維として、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維が知られている。ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維としては、例えば、ケブラー(デュポン社登録商標)がある。
【0003】
また、このようなアラミド繊維を用いた製品として、例えば、特開2004‐131871号公報には、芳香族ポリアミド繊維を用いた手袋が開示されている。具体的には、「手袋構造体が少なくとも3層積層されてなり、該積層構造の中間層の手袋構造体が金属繊維糸で編成されてなる手袋編み構造体であることを特徴とする防刃手袋であって、着用者側の内層の手袋構造体が、芳香族ポリアミド繊維糸を用いて編成されてなることを特徴とする防刃手袋」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004‐131871号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、アラミド繊維は、耐熱性や耐切創性に優れるという特徴を備えている。
しかしながら、アラミド繊維には、ゴワゴワしがちで風合いが硬く、また蒸れやすいという欠点がある。そのため、特に作業着や防護手袋などに用いた場合に作業性が悪くなるといった課題があった。
また、アラミド繊維は蓄熱性に乏しく、防護手袋などに用いた場合、特に冬場は手先が冷たくなって、作業性に劣るという課題もあった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、アラミド繊維の特徴である耐切創性などを維持しつつ、作業着や防護手袋などに用いた場合に良好な作業性を実現する混紡糸を提供することを目的とする。また、この混紡糸を用いた衣類、作業着および防護手袋を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、アラミド短繊維と、黒鉛珪石の微粉末を含有する黒鉛珪石含有短繊維と、からなる混紡糸とした。
【0008】
本願発明者は、耐切創性などに優れるというアラミド繊維の特徴を活かしつつ、風合いの硬さやゴワゴワ感、および蒸れやすさ、さらには蓄熱性などを改善するために鋭意研究開発を重ねた。すると、驚くべきことに、アラミド短繊維と黒鉛珪石の微粉末を含有する黒鉛珪石含有短繊維とからなる混紡糸によって上記課題が解決されることを見出したのである。
上記混紡糸によって、蒸れやすさが改善される(蒸れ感が低減される)詳細な理由は不明であるが、黒鉛珪石から放出される遠赤外線によって発汗状態に変化が生じるからではないかと推察される。
また、アラミド繊維には一般的に耐摩耗性が劣るという弱点があるが、黒鉛珪石含有短繊維と混紡することで、黒鉛珪石含有短繊維に含まれる黒鉛珪石の摩擦低減作用によって、混紡糸全体としての耐摩耗性が付与される。
以上のように、アラミド短繊維と黒鉛珪石含有短繊維を混紡した混紡繊維(混紡糸)には、両者相まった相乗的な作用効果が認められる。
【0009】
また、黒鉛珪石含有短繊維の混紡率が3~40重量%である混紡糸とすることができる。
【0010】
この混紡糸は、耐熱性、耐切創性、防護手袋などに用いた場合の良好な作業性を高い次元で実現することができる。
黒鉛珪石含有短繊維の混紡率を増加させてアラミド短繊維の混紡率を減少させると、アラミド繊維によって実現される耐熱性や耐切創性が低下する可能性が高い。しかしながら、黒鉛珪石含有短繊維の混紡率が40%以下であれば、耐切創性などが低下しにくいのである。これは驚くべき発見である。
黒鉛珪石含有短繊維の混紡率が3重量%以上であると、風合いがよりソフトになると同時により蒸れにくくなり、また蓄熱性もより向上するため、さらに作業性が向上する。
黒鉛珪石含有短繊維の混紡率は、好ましくは5~35重量%、より好ましくは10~30重量%、最も好ましくは15~30重量%である。
【0011】
また、黒鉛珪石含有短繊維が黒鉛珪石の微粉末を0.5~20重量%含有する混紡糸とすることもできる。
【0012】
この混紡糸は、耐熱性、耐切創性、防護手袋などに用いた場合の良好な作業性を高い次元で実現することができる。
黒鉛珪石含有短繊維が黒鉛珪石の微粉末を0.5~10重量%含有することが好ましく、0.5~4重量%含有することがより好ましい。
【0013】
また、アラミド短繊維がポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維である混紡糸とすることもできる。
【0014】
これらの混紡糸を用いた衣類、作業着、防護手袋は、耐熱性や耐切創性に優れるというアラミド繊維の特徴を維持しつつ、風合いの硬さや蒸れやすさなどが改善されて作業性に優れる。
防護手袋にこれらの混紡糸を用いる場合には、例えば、防護手袋の指先部分にのみ上記混紡糸を用いることができる。このとき、指先部分以外の部分にはアラミド短繊維のみからなる紡績糸を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、アラミド繊維の特徴である耐切創性などを維持しつつ、作業着や防護手袋などに用いた場合に良好な作業性を実現する混紡糸などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、混紡糸を例示説明する。混紡糸は、アラミド短繊維と黒鉛珪石含有短繊維とからなる。
なお、以下の実施形態や実施例はあくまで本発明を例示説明するものであって、本発明は、以下の具体的な実施形態や実施例に限定されるものではない。
【0018】
[アラミド短繊維]
アラミド短繊維は、アラミド繊維を短繊維化して得られる。アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維が挙げられる。なかでも、耐切創性および耐熱性に優れる点より、パラ系アラミド繊維が好ましい。このようなパラ系アラミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン(株)製、商品名:ケブラー(登録商標))、コポリパラフェニレン‐3,4'‐ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、商品名「テクノーラ」)等がある。これらの繊維の中でも、特に耐切創性に優れているポリパラフェニレンテレフタルアミド(以降PPTAと称する場合がある)繊維が好ましい。
【0019】
アラミド短繊維の繊維長は特に限定しないが、紡績方法に合わせ最適な繊維長を選択するのがよく、35~160mmの範囲が好ましく、より好ましくは45~130mの範囲である。また、良好な紡績性を得るために、短繊維の捲縮数は、約3~約12山/インチが望ましい。
【0020】
織編物や手袋等の耐切創性を保持しつつ、加工性を維持するために、アラミド短繊維の単糸繊度は0.6~5.0dtexの範囲が好ましく、0.9~4.5dtexの範囲がより好ましく、1.0~3.5dtexの範囲が特に好ましい。単糸繊度が小さすぎると耐切創性を保持しにくくなる。また、単糸繊度が大きすぎると、加工性が劣ってくる。
【0021】
[黒鉛珪石含有短繊維]
黒鉛珪石含有短繊維は、黒鉛珪石の微粉末を含有する短繊維である。黒鉛珪石含有短繊維は、黒鉛珪石含有繊維を短繊維化して得られる。黒鉛珪石含有繊維は、例えば、特開2017‐020141号公報に記載されている。
【0022】
1.黒鉛珪石
黒鉛珪石は、数億年に亘り海底に堆積した珪藻類が地表に隆起したものであると考えられている。黒鉛珪石は、SiO2を主成分とし、黒鉛結晶(通常は約5%)を含んでいる。その他にも、アルミニウム、カリウム、チタンおよび二酸化鉄およびマグネシウムなどを、黒鉛珪石は含んでいる。黒鉛珪石はブラックシリカと称される場合がある。
【0023】
2.黒鉛珪石の微粉末化
黒鉛珪石を微粉末化する。このとき、平均粒径(d50:累積50%粒径)が3μm以下になるように黒鉛珪石を微粉末化することが好ましい。
【0024】
3.繊維化(長繊維化)
上記黒鉛珪石の微粉末を所定量含有する黒鉛珪石含有繊維(長繊維)を製造する。
【0025】
黒鉛珪石含有繊維を構成するポリマー、すなわち黒鉛珪石の微粉末を練りこむポリマーは、特に制限されない。紡糸時の曵糸性や糸物性を考慮すると、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66等が好ましい。また繊維断面が芯成分と鞘成分からなる芯鞘型の繊維とする場合には、例えば、上記ポリマーから2種類を選び、いずれかを芯成分のポリマーとし、他方を鞘成分のポリマーとすることができる。
【0026】
このとき、黒鉛珪石の微粉末は、芯成分のポリマーと鞘成分のポリマーのどちらに添加してもよい。芯成分のポリマーと鞘成分のポリマーの双方に添加することもできる。また、黒鉛珪石の微粉末を芯成分のポリマーにのみ添加して、その周りを鞘成分のポリマーで覆った、いわゆる芯鞘型の繊維とすることができる。
【0027】
芯鞘型の繊維とする場合には、鞘成分と芯成分の比率(重量比率)としては、4:1~1:4の範囲が好ましく、3:1~1:3の範囲がより好ましく、2:1~1:1の範囲が最も好ましい。また、芯成分は繊維中に一芯である必要はなく、2以上の多芯であってもよい。さらに、芯成分の一部が繊維表面に露出していてもよいし、芯成分が鞘成分に覆われていてもよい。
【0028】
黒鉛珪石の微粉末を熱可塑性重合体に添加する方法は特に制限されない。均一分散させるという面からは、二軸押出機を用いてマスターチップ化する方法が好ましい。
黒鉛珪石の微粉末の添加時期も特に制限されない。重合初期に反応系に添加し、直接紡糸することができる。また、黒鉛珪石の微粉末を溶融状態にある重合体に混練する、いわゆる後添加方式とすることもできる。さらに、黒鉛珪石の微粉末を高濃度に含有させたマスターチップを用いる、いわゆるマスターバッチ方式とすることもできる。
【0029】
黒鉛珪石の微粉末の添加量は、好ましくは黒鉛珪石含有繊維(黒鉛珪石含有短繊維)の0.5~8.0重量%であり、より好ましくは黒鉛珪石含有繊維の0.5~5.0重量%、さらに好ましくは黒鉛珪石含有繊維の0.5~4.0重量%である。
【0030】
黒鉛珪石含有繊維として繊維化するには、上記材料を用いて、通常の繊維製造工程をそのまま用いることが可能である。繊維の太さとしては、0.5~15デシテックスの範囲が好ましい。
【0031】
黒鉛珪石含有繊維の断面形状は特に制限されない。丸断面のほか、例えば、三~六角断面等の多角断面、T字型断面、U字型断面とすることができる。
【0032】
なお、黒鉛珪石含有繊維として、通常の繊維の表面に、黒鉛珪石の微粉末を含有する樹脂コーティング層が形成されているものも用いることもできる。ただし、摩擦耐久性を考慮すると、黒鉛珪石の微粉末が繊維ポリマー中に練り混まれている黒鉛珪石含有繊維を用いることが好ましい。
【0033】
4.短繊維化
得られた黒鉛珪石含有繊維を短繊維化して黒鉛珪石含有短繊維とする。黒鉛珪石含有繊維は、従来公知の方法で短繊維化することができる。黒鉛珪石含有短繊維の繊維長は、好ましくは25~150mmであり、より好ましくは35~100mm、最も好ましくは、40~60mmである。捲縮数は、例えば3.3dtexの場合、12~15個/inch、捲縮率は概ね10%とすることが好ましい。
【0034】
[混紡糸]
上記アラミド短繊維と上記黒鉛珪石含有短繊維を混紡して混紡糸を得る。混紡方法は特に制限されない。例えば、アラミド短繊維と黒鉛珪石含有短繊維をカード(梳綿機)に通して所定の割合で混紡することで混紡糸を得ることができる。混紡の際、アラミド短繊維を97~60重量%、黒鉛珪石含有短繊維を3~40重量%とすることが、耐熱性、耐切創性、作業性(ソフトな風合い、蒸れ感の低減、蓄熱性付与によって実現される)のバランスがとれて好ましい。
【0035】
[衣類、作業着および防護手袋]
上記混紡糸を用いて、衣類、作業着および防護手袋(以下、防護手袋などと称する場合がある)を製造することができる。防護手袋などは、それぞれの全体を、上記混紡糸で構成することができる。上記混紡糸は、防護手袋などに、部分的に使用することもできる。例えば、防護手袋では、作業内容により指先部分や掌部分だけのように、特定の部分に上記混紡糸を使うことができる。防護手袋では、上記混紡糸を指先部分に用いるとともに、他の部分にはアラミド繊維を用いることが特に好ましい。
【0036】
特に、上記混紡糸は防護手袋に好適である。防護手袋を編成する場合は、その目付が260~450g/m2の範囲になるように編みあげることが好ましく、260~400g/m2の範囲にするのがより好ましい。
【0037】
防護手袋の厚みは、JIS L 1096:2010 8.4による厚み測定方法に基づいて測定した厚みが、2mm以下にするのが好ましい。防護手袋の場合、作製に使用する編み機のゲージ数は、5.5~13ゲージがよく、好ましくは7~10ゲージである。この場合の編地の密度としては、6~25ウェール/インチの範囲であればよく、好ましくは8~18ウェール/インチの範囲にするのが良い。
【実施例】
【0038】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。実施例中の比率および%は、重量に関するものである。
【0039】
[実施例1]
市販の短繊維繊度1.7dtex、繊維長51mmのPPTA(東レデュポン(株)製 商品名:ケブラー(登録商標))の短繊維85重量%と、黒鉛珪石含有ポリエステル短繊維(黒鉛珪石含有量2.5重量%)15重量%を用いて、通常のリング紡績法により、13.0回/25.4mmの撚り数の綿番手20S/1の混紡糸を得た。
この混紡糸を二本、下撚とは逆方向に7.0回/25.4mmの上撚りを掛け、綿番手10S/1の混紡糸を得た。
得られた混紡糸を四本引き揃え、SFG‐13ゲージタイプの手編み機(株式会社島精機製作所)に供給して、手袋を編み上げた。
【0040】
得られた手袋について切創抵抗、蓄熱性、風合い(蒸れ感、ソフト感、ふくらみ感)を下記基準で評価した
【0041】
[切創抵抗(切れ難さCut resistance )]
ISO 13997:1999 Protective clothing ‐ Mechanical properties ‐ Determination of resistance to cutting by sharp objects に従って測定した。一定の移動距離で刃が試験片を貫通する(切る)とき、切れにくい素材ほど重い荷重が必要である。刃に加える荷重Lにおいて、刃の移動距離20mmで刃が試験片を貫通する時、荷重Lを切創抵抗値とする。刃はAmerican Safety Razor Co.,品番No.88‐0121を使用した。測定値はN(=ニュートン)で表し、数値が大きいほど切れにくいことを示す。
【0042】
[蓄熱性]
上記手袋から概ね3cm角の試料C(
図1参照)を二枚切り出し、得られた二枚の試料を重ね合わせてその間に熱電対15を配置して試料台(発泡スチロール製)に載置し、図示しない作業ホルダで固定した後、人工太陽光(使用ランプ12:岩崎電気(株)製 アイランプ<スポット>PRS100V500W)を照射して15分後の試料温度を測定した。照射距離Lは50cm、室温は20±2℃とした。
【0043】
蓄熱保温性能の評価は、アラミド短繊維100%で作製した手袋から切り出した概ね3cm角の試料R(
図1参照)を対照として、各実施例および比較例の手袋から作成した試料Cがどの程度高い温度を示すか温度差(ΔT℃)を測定し、下記基準で評価した。なお、試料(
図1中のCとR)の位置を入れ替えて2回測定し、そのデータを平均した値を試験結果とした。
◎:温度差7℃以上
○:温度差5℃以上
△:温度差1℃以上~5℃未満
×:温度差1℃未満
【0044】
[風合い]
手袋についてパネラー10名で実施し、下記の基準で評価した。
◎:9名以上が蒸れ感、ソフト感、ふくらみ感、暖かさ共に優れていると判定
○:7~8名が蒸れ感、ソフト感、ふくらみ感、暖かさ共に優れていると判定
△:5~6名が蒸れ感、ソフト感、ふくらみ感、暖かさ共に優れていると判定
×:6名以上が蒸れ感、ソフト感、ふくらみ感、暖かさ共に劣っていると判定
【0045】
評価結果を表1に示す。
【0046】
【0047】
実施例1の手袋の切創抵抗は9.3Nと高かった。また、蓄熱性は対照と比較して温度差10℃と高く(評価◎)、風合いも大変優れていた。
このような実施例1の手袋は、自動車産業における板金作業や、建設業、山林業などに用いる安全性の高い防護手袋として好適である。
【0048】
[実施例2]
実施例1で用いた混紡糸において、黒鉛珪石含有短繊維の混紡率を15重量%から30重量%に増加させた(これに伴い、アラミド短繊維の混紡率は85重量%から70重量%に減少)。それ以外は、実施例1と同様の材料および条件で、混紡糸および手袋を得た。
実施例2の手袋は実施例1の手袋と比較して、切創抵抗は若干低下したものの8.3Nと依然として高く、また、蓄熱性および風合いも大変優れていた。
【0049】
[実施例3]
実施例1で用いた混紡糸において、黒鉛珪石含有短繊維の黒鉛珪石含有量を2.5重量%から1.5重量%に減少させた。それ以外は、実施例1と同様の材料および条件で、混紡糸および手袋を得た。
実施例3の手袋は、実施例1の手袋と同等の評価結果であり、切創抵抗、蓄熱性および風合いのいずれの評価も大変高いものであった。
【0050】
[実施例4]
実施例1と同様に、市販の短繊維繊度1.7dtex、繊維長51mmのPPTA(東レデュポン(株)製 商品名:ケブラー(登録商標))の短繊維85重量%と、黒鉛珪石含有ポリエステル短繊維(黒鉛珪石含有量2.5重量%)15重量%を用いて、通常のリング紡績法により、13.0回/25.4mmの撚り数の綿番手20S/1の混紡糸を得た。
次に、実施例1とは異なり、この混紡糸とPPTAの紡績糸(20S/1)を、下撚とは逆方向に7.0回/25.4mmの上撚りを掛け、綿番手10’S/1の混紡糸を得た。
得られた混紡糸を四本引き揃え、実施例1と同様に手袋を編み上げた。
実施例4の手袋は、9.5Nと高い切創抵抗をもち、蓄熱性は対照手袋(PPTA 100%)よりも7℃高く、蒸れ感等の風合い評価も良好で、作業用手袋として適したものであった。
【0051】
[比較例1]
アラミド短繊維100%で紡績した紡績糸(黒鉛珪石含有繊維なし)を用いて手袋を作成した。切創抵抗は10.7Nと高いものの、蓄熱性は乏しく、蒸れ感などの風合い評価も大きく劣っていた。
【0052】
[比較例2]
実施例1で用いた混紡糸において、黒鉛珪石含有短繊維の代わりに通常のポリエステル短繊維(黒鉛珪石を含有していない)を用いた。それ以外は、実施例1と同様の材料および条件で、混紡糸および手袋を得た。
比較例2の手袋は実施例1の手袋と比較して、切創抵抗はやや低く、蓄熱性が大きく劣っていた。また、風合いは良好であったが実施例1(黒鉛珪石含有短繊維を混紡)より劣っていた。
すなわち、黒鉛珪石含有短繊維を混紡することにより蓄熱性と風合いが向上するだけでなく、意外なことに、切創抵抗も上昇するのである。
【0053】
[比較例3]
実施例1で用いた混紡糸において、黒鉛珪石含有短繊維の混紡率を15重量%から70重量%に増加させた。それ以外は、実施例1と同様の材料および条件で、混紡糸および手袋を得た。
比較例3の手袋は実施例1の手袋と比較して、蓄熱性および風合いは同等であったが、切創抵抗が4.5Nと大きく低下した。
【0054】
[比較例4]
実施例1で用いた混紡糸において、黒鉛珪石含有短繊維の黒鉛珪石含有量を2.5重量%から0.1重量%に減少させた。それ以外は、実施例1と同様の材料および条件で、混紡糸および手袋を得た。
比較例4の手袋は実施例1の手袋と比較して、切創抵抗はやや低く、蓄熱性も劣っていた。また、風合いは良好であったが実施例1(黒鉛珪石含有量2.5重量%)より劣っていた。
【0055】
以上、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、当該技術分野における熟練者等により、本出願の願書に添付された特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変更及び修正が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
上記混紡糸は、耐熱性、耐切創性および蓄熱性に優れ、寒い環境下でも作業性が良好であるため、耐熱防護手袋、建設業、山林業などの作業用防護手袋、溶鉱炉における作業用防護手袋、消防用手袋、その他の各種防護手袋に有用である。
【符号の説明】
【0057】
1 蓄熱性の評価装置
11 試料台
12 ランプ
15 熱電対
C 各実施例および各比較例
R 対照(PPTA短繊維のみの紡績糸を使用)