(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20240710BHJP
B29C 59/14 20060101ALI20240710BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20240710BHJP
A61F 2/04 20130101ALI20240710BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20240710BHJP
B29L 23/00 20060101ALN20240710BHJP
【FI】
C08J7/00 306
C08J7/00 CER
C08J7/00 CEZ
B29C59/14
H05H1/24
A61F2/04
B29K101:12
B29L23:00
(21)【出願番号】P 2021049293
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】594192349
【氏名又は名称】リソテック ジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100101281
【氏名又は名称】辻永 和徳
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅史
(72)【発明者】
【氏名】関口 淳
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-183107(JP,A)
【文献】特開平03-275137(JP,A)
【文献】特開2002-028962(JP,A)
【文献】特開2008-256156(JP,A)
【文献】特開平08-057038(JP,A)
【文献】特開2002-060521(JP,A)
【文献】特開平05-269370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00-7/02;7/12-7/18
B29C 59/00-59/16
H05H 1/00- 1/54
A61F 2/00;2/02-2/80;3/00-4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の筒内に樹脂製の中空物品を配置した後、該中空物品内に大気圧低温プラズマを発生させる、樹脂製の中空物品の内側表面に微細凹凸構造を形成する方法。
【請求項2】
該樹脂製の筒および該中空物品が屈曲した形状を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該中空物品が体内留置用のステントである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
該中空物品がポリエチレンまたはポリメチルメタアクリレートで作られている、請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
該樹脂製の筒の内側形状が該中空物品の外側形状に追随している、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
該微細凹凸構造が、凹部分を隔てて存在する凸部分の頂点または中心間の距離が10nmから500nmである凹凸構造である、請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
該微細凹凸構造が凸部分を隔てて存在する凹部分の最深部または中心間の距離が10nmから500nmである凹凸構造である、請求項1から5のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
該微細凹凸構造が凹部に水を保持できる構造である、請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
内部に該中空物品が配置された該樹脂製の筒を一対の電極の間に配置し、該中空物品内にヘリウムと酸素を流しながら電極間に高電圧を印下して大気圧プラズマを発生させる、請求項1から8のいずれか1項記載の方法であって、ヘリウム流量が0.7L/分から5.0L/分である方法。
【請求項10】
酸素流量が1mL/分から100mL/分である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
電力密度が100W/cm
3から700W/cm
3である、請求項9または10記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、内部に凹凸構造を有し、防汚機能を有する中空物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンなどの合成樹脂製のシートは油性成分との親和性を有することが多く、油性の汚れが付着しやすい。そのため、油性成分を含む流体を輸送する合成樹脂製のチューブなどの中空物品においては、内側表面に付着した油性成分が詰まりを発生させることがあった。また付着した油性成分の除去は困難であった。
【0003】
合成樹脂製のチューブなどの中空物品は、体内留置ステントとして使用されることがある。たとえば胆管ステントとしては、ほとんどの場合樹脂製のチューブステントが用いられる。このチューブステントは一般的にはポリエチレンまたはポリプロピレンで出来ており、ステント内壁はなめらかな表面をしている。ステント内をコレステロールなどの脂肪分を含む粘性のある液体である胆汁が流れると、しばしばステント内壁に付着し、ゲル化して固まって管が詰まってしまっていた。たとえば、胆管がんや胆道閉鎖症などでは、胆道が狭窄することにより、胆汁が胆のうから十二指腸に流れにくくなる。このため、胆汁は肝臓へと逆流し、黄疸を起こす。放置すると肝不全となり、死に至る可能性もある。そこで、胆汁の流れがよくなるように、胆管ステント留置手術(Endoscopic biliary stenting: EBS)が行われる。管が詰まるとその都度、胆管ステントを交換しなければならないが、頻回のステント交換処置は患者に大きな負担をかけることになる。胆管ステントの詰まりを減らすことができれば、再手術の回数を削減でき、患者の負担低減のみならず医師を含めた医療現場の負担低減にもつながる。このような、油分による詰まりを防止できるステントに有用な樹脂製チューブとして、「凹部分を隔てて存在する凸部分の頂点または中心間の距離が10nmから500nmである凸凹構造を内側表面に有し、該凸凹構造が凹部に水を保持できるナノポーラス構造である、油分成分付着防止樹脂製チューブ」が特許第6509976号に開示されている。
【0004】
プラズマ処理により樹脂チューブの内面を処理する方法が、特開2018-51968号に開示されている。この方法では、チューブは電極と接触して配置され、交流電圧の周波数は8kHz以上40kHz以下の範囲内であり、また中空部は減圧下に保持されていた。
しかし電極にチューブが接触していると、熱によりチューブが軟化・変形し、穴が開く場合もあった。これはチューブ(誘電体、絶縁体)内での電力損失により誘電加熱されるためである。また成形された物品の場合には製品形状の保持が重要であり、たとえば胆管ステントでは曲率が重要で、オリジナルの曲率を保持することが必要であるので、製品の変形は避けなければならない。さらに胆管ステントの外側に傷などがつくと患者の胆管を痛める可能性があり、使用できなくなることもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は大気圧低温プラズマにより、樹脂製の中空物品の内側表面に微細凹凸構造を形成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、大気圧低温プラズマを用いて樹脂製の中空物品の内側表面に微細凹凸構造を形成する方法であって、樹脂製の筒内に樹脂製の中空物品を配置した後、該中空物品内に大気圧低温プラズマを発生させる製造方法に関する。
【0008】
本明細書において、「樹脂製の筒」の用語は、中空物品をその内部に保持するための樹脂製の物品を意味する。樹脂製の筒は、任意の合成樹脂または天然樹脂から作ることができるが、中空物品をその内部に保持できるような強度と、樹脂製の筒の内側形状が中空物品の外側形状に追随するような柔軟性を有する樹脂が使用され、たとえば熱可塑性樹脂が使用される。「中空物品」の用語は、その内側表面がプラズマ処理される被処理物であって、中空構造を有する物品を意味する。中空構造は物品を貫通し、流入されたプラズマガスは他の開口部から排出される。中空物品は樹脂製であり、任意の合成樹脂または天然樹脂から作ることができるが、一般的には屈曲可能な柔軟な素材、たとえば熱可塑性樹脂で作られる。
【0009】
本明細書において、「大気圧低温プラズマ」の用語は、大気圧下、低温でプラズマを発生させる非熱平衡プラズマをいう。
【0010】
本明細書において、「微細凹凸構造」の用語は、数nmから数千nmのオーダーで物質表面に形成される凹凸構造を意味する。
【0011】
典型的には、該樹脂製の筒および該中空物品は屈曲した形状を有する。屈曲しているとは、中空部分が直線状ではないことを意味する。好ましい態様では、該樹脂製の筒の内側形状が該中空物品の外側形状に追随している。すなわち、樹脂製の筒の内側形状と中空物品の外側形状が一致し、樹脂製の筒の内部で中空物品が動かないように保持される。
【0012】
本明細書において、凹部分を隔てて存在する凸部分の頂点または中心間の距離は10nmから500nmであることが好ましく、より好ましくは50-200nm、最も好ましくは100-200nmである。また凸部分を隔てて存在する凹部分の最深部または中心間の距離も10nmから500nmであることが好ましく、より好ましくは50-200nm、最も好ましくは100-200nmである。凸部分の頂点と凹部分の底部との距離は特に規定するものではないが、一般的には50-200nm、好ましくは100-200nm、より好ましくは150-200nmである。
【0013】
本発明において、中空物品は屈曲したチューブであることができ、特には体内留置用のステントであることができる。好ましくは、中空物品はポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)またはポリメチルメタアクリレート(PMMA)で作られている。
【0014】
本発明においては、内部に中空物品が配置された樹脂製の筒を電極で挟み、該中空物品内にヘリウム(He)と酸素(O)を流しながら電極に高電圧を印下して大気圧プラズマを発生させることにより、該中空物品内壁に微細凹凸構造を形成する。ヘリウム流量は好ましくは0.3-20L/分、より好ましくは0.5-10L/分、最も好ましくは0.7から5.0L/分である。酸素流量は好ましくは1から300mL/分であり、より好ましくは1-200mL/分、最も好ましくは1-100mL/分である。なお、本明細書において流量は0℃、1気圧における流量で示される。
電力密度は好ましくは25-2000W/cm3、より好ましくは50-1000W/cm3、最も好ましくは100から700W/cm3である。
【0015】
本発明の製造方法によれば、樹脂製中空物品の内側表面に微細凹凸構造を直接作ることができ、従来使用されている素材を変えることなく、新たな構造を形成することにより防汚機能を付与することができる。
本発明においては大気圧低温でプラズマ処理を行うため、印加電力の周波数はMHzのオーダーであり、誘電加熱による被処理物の変形・破損の危険を回避できる。
本発明においては樹脂製の筒を使用することにより、プラズマ処理時の中空物品の変形および破損を防止することができる。また樹脂製の筒は処理中の中空物品の移動および振動を防止するため処理の均一化および再現性の向上をもたらす。さらに中空物品の破損の危険を防止することができるため電極間の距離をより精密に近接して保持することが可能となる。
【0016】
本発明は中空物品の内側表面の親水性を向上して油分の付着を防止するために有用であり、特には動物または人体内部に留置される留置ステントの形成に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ガラス管を使用した一般的な大気圧プラズマ法による処理装置の例を示す図である。
【
図3】屈曲した中空物品を大気圧プラズマ法により処理する装置における、中空物品を内部に保持する樹脂製の筒と電極との配置を示す図である。
【
図4】屈曲した中空物品を大気圧プラズマ法により処理する装置における、中空物品を内部に保持する樹脂製の筒と電極との配置を示す図である。
【
図5】屈曲した中空物品を大気圧プラズマ法により処理する装置における、中空物品と電極との配置を示す図である。
【
図6】屈曲した中空物品を大気圧プラズマ法により処理する装置における、中空物品を内部に保持する樹脂製の筒と電極との配置を示す図である。
【
図7】中空物品内側表面への油性成分の付着が防止されるメカニズムを示す図である。
【
図8】ヘリウム流量および酸素流量を変化させた時のプラズマ発生の様子を示す図である。
【
図9】ヘリウム流量1.40L/分の場合における、酸素流量と電力、および酸素流量と電力密度に関するプラズマ発生範囲(プロセスウインド)を示す図である。
【
図10】ヘリウム流量1.05L/分の場合における、酸素流量と電力、および酸素流量と電力密度に関するプラズマ発生範囲(プロセスウインド)を示す図である。
【
図11】ヘリウム流量0.70L/分の場合における、酸素流量と電力、および酸素流量と電力密度に関するプラズマ発生範囲(プロセスウインド)を示す図である。
【
図12】PEチューブのサイズを変えた時のプラズマの発生状況を示す図である。
【
図16】PEの表面を処理した際のRaの測定結果を示す図である。
【
図17】PEの表面を処理した際のrmsの測定結果を示す図である。
【
図19】PMMAチューブのプラズマ処理結果を示す図である。
【
図20】PMMAチューブのプラズマ処理結果を示す図である。
【
図21】PMMAチューブのプラズマ処理結果を示す図である。
【
図22】PMMAの表面を処理した際のRaの測定結果を示す図である。
【
図23】PMMAの表面を処理した際のrmsの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
大気圧プラズマは、大きく分けて熱平衡プラズマ(熱プラズマ)と非熱平衡プラズマ(低温プラズマ)の2つに分類される。前者はアーク放電に代表される、電子温度と気体温度がいずれも10,000 Kオーダーの高温状態のプラズマである。これに対し後者はグロー放電に代表され、電子温度は10,000 K以上であるが、気体温度は室温程度のプラズマである。大気圧下では、気体の圧力(気体分子の数)が大きいため、電子と気体分子との衝突が多く、熱的に平衡なプラズマへ至ることが一般的である。高温の熱プラズマはPE製胆管ステントなどの樹脂製の中空物品に適用することはできないが、室温程度で維持できる低温プラズマであれば適用することができる。
【0019】
大気圧低温プラズマでは、一般に、ストリーマ放電や誘電体バリア放電が知られている。中空物品内で放電の空間的均一性が必要であることから、電源にRF電源を用いて誘電体バリア放電のガスをヘリウムとする。これにより、電子密度を低く抑え、低温で均一な大気圧プラズマを形成できる。従来の一般的な構成は、電源、電極、ヘリウムガスを流すガラス管からなる。ガラスを適度な間隔をあけて電極で挟み込み、電極間に高周波電力を印加することで、挟み込まれたガラス管内に大気圧低温プラズマを形成できる。装置の例を
図1に示す。
図1の装置では、一対の電極14の間にガラス管10を配置し、ガラス管内にヘリウムガスを流しつつ高周波電力を印加する。ガラス管の下方出口よりプラズマが出て、ステージ15上の被処理物の表面を加工する。
【0020】
ヘリウムガスに酸素を混合した場合、酸素原子の励起状態レベルがヘリウムの順安定レベルと一致しているため、以下のペニング反応が起こることが示唆されている。ここで生成された酸素ラジカル(O*)の酸化反応により、樹脂表面を加工できる。酸素ラジカルの酸化反応は、材料の表面処理技術において様々な効果が期待されている。また、酸素を添加することで電子密度の上昇を抑え、プラズマ形成・安定化のためのプロセスウィンドウを広げることもできる。
【0021】
He+電子 → He・(23s,21s)+電子 (1)
He・+O2 → He+O・+O++電子 (2)
【0022】
後述の実施例で示すように、ヘリウムおよび酸素の流量によってはプラズマが形成されなかったり不安定になったりするので、これらの流量管理は処理の重要な要件である。
【0023】
また加えられる電力密度、プラズマの照射時間、および処理回数も大きな要件となるので、これらの要件の適当な範囲を決定することは発明の好適な実施において重要である。
【0024】
さらに酸素の代わりにN2やNH3などを1%程度混合することで窒素ラジカル(N*)やアミノラジカル(NH2
*)、イミノラジカル(NH*)を生成させ、材料表面を窒素化させたりアミノ化させることが可能となる。
【0025】
本発明においては、ガラス管の代わりに樹脂製の筒が使用され、その内部に中空物品が配置される。これにより、胆管ステントのような屈曲したチューブにおいても内部にプラズマを発生させることが可能となった。
【0026】
胆管ステントの形状の例を
図2に示す。胆管ステントは一般的にはポリエチレンで作られるが、他の樹脂で作成されることもできる。胆管ステントの内壁に微細凹凸構造を直接作ることで、機能的に好ましい素材に対して防汚機能を付与することができる。
【0027】
屈曲した中空物品を大気圧プラズマ処理する際の装置における電極と中空物品の配置の例を
図3-5に示す。
図3-4では中空物品(たとえば胆管ステント)を樹脂製の筒で包んでいる状態の配置を示す。
図5では、筒の内部の中空物品の配置の状態を示す。処理される中空物品の全域または場合によっては中空物品の処理される所望の部分を挟んで電極が配置される。電極間に樹脂製の筒内に保持された中空物品が配置され、該中空物品の内部に酸素とヘリウムの混合ガスが流される。
【0028】
装置の例を
図6に示す。一対の電極14の間に、内部に中空物品31を保持する樹脂製の筒32が配置される。電極には交流電源30から整合機器28を介して電力が提供される。中空物品にはマスフローコントローラー24を介して、酸素供給源22およびヘリウム供給源26より所定流量でガスが供給され、中空物品の内面がプラズマ処理される。
【0029】
樹脂製の筒は、屈曲した中空物品をその内部に保持できるよう十分な柔軟性を有するものが望ましい。
好ましくは樹脂製の筒の内面は中空物品の外形に追随している。すなわち、樹脂製の筒の内側表面が中空物品の外側表面の形状とほぼ一致し、プラズマ処理中に樹脂製の筒の内部で中空物品が動かないように保持する。
【0030】
理論により拘束されるものではないが、本発明において中空物品内面への油性成分の付着が防止されるメカニズムを
図7に示す。凹凸構造40は約200nmの間隔で凸部および凹部を有している。この凹凸構造の凹部に水が保持されて水膜44を形成する。形成された水膜がタンパク質などを含む油性成分42をはじくため、油性成分の付着が防止されると考えられている。したがって、油性成分の付着を防止するためには、中空物品内面の凹凸構造の凹部をほぼ満たす量の水が存在していることが必要である。この構造を超ナノ親水構造と呼ぶ。
図7から理解されるように、凹部の間隔は油滴の大きさよりも十分に小さく、凹部間に油滴が入り込むのを防ぐことができるような間隔であることが必要とされる。
【0031】
本発明により得られる中空物品は、その内側表面に凹凸構造が形成され、輸液される流体内の油性成分の付着を防止し、中空物品内の詰まりを防止することができる。
【0032】
本発明における樹脂製の筒および中空物品は、水溶性ではない任意の合成または天然の樹脂で作ることができる。好ましくは熱可塑性プラスチック、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタアクリレートおよびポリカーボネートで作られ、またはHSQ(Hydrogen silsequioxane)、PDMS(ポリジメチルシロキサン:polydimethylsiloxane)などのSi系樹脂により作ることができる。
【0033】
また光硬化性樹脂を使用することもできる。光硬化性樹脂は、エポキシ系、ウレタン系などのベース樹脂に、光重合開始剤、ラジカル発生剤を混合した樹脂溶液であり、光硬化前後での体積変化が小さく、粘度の低い材料が望まれる。
【0034】
なお、樹脂製とは主として樹脂で作成されていれば良く、プラズマ処理に不都合の無い範囲でその他の材料との複合体を使用することができる。
【0035】
なお、胆管ステントは一般的にはポリエチレンで作られるが、点滴チューブやドレインチューブにはポリメチルメタアクリレートが用いられており、ポリメチルメタアクリレートを用いた防汚構造を有する医療チューブを作成することもできる。
【実施例】
【0036】
実施例1
図6に示される装置を使用して、樹脂製の筒としてポリエチレン(PE)製の筒を用い、その中にPE製の胆管ステントをセットし、PE製の胆管ステントの内側に大気圧低温プラズマにより直接、微細凹凸構造を製作した。
ヘリウムと酸素の流量を変え、チューブ内にプラズマが発生する様子を観察した。プラズマ発生の様子を
図8に示す。
その結果、ヘリウム流量が0.7から1.4L/分の場合には、酸素流量が2~10mL/分においてプラズマが発生することがわかった。
【0037】
次いで、さらに電圧を変えてプラズマが発生する条件を検討した。
図9は、ヘリウム流量1.40L/分の場合における、酸素流量と電力、および酸素流量と電力密度に関するプラズマ発生範囲(プロセスウインド)を示す。
図10は、ヘリウム流量1.05L/分の場合における、酸素流量と電力、および酸素流量と電力密度に関するプラズマ発生範囲(プロセスウインド)を示す。
図11は、ヘリウム流量0.70L/分の場合における、酸素流量と電力、および酸素流量と電力密度に関するプラズマ発生範囲(プロセスウインド)を示す。
図9-11において、Aはストリーマ放電開始条件、Bはプラズマ点灯開始条件を示し、Cはプロセスウインドウを示す。
【0038】
その結果、酸素流量が0~6mL/分の範囲で、電圧20~100Wの範囲において、プラズマが発生するプロセスウインドがあることがわかった。この結果から、プラズマを安定して発生できる好適なプロセス条件は、ヘリウム流量が0.7から5.0L/分、酸素流量が1から100mL/分、電力密度が100から700W/cm3であると理解された。
【0039】
また、ヘリウム 1.4 L/分においては、酸素 2~6mL/分、電極にかける電圧 20~100Wでステント内部にプラズマが発生し、ステント内壁に微細凹凸構造を加工できると考えられる。
【0040】
実施例2
PEチューブのサイズを変え、プラズマの発生状況を観察した。プラズマ発生条件はヘリウム 1.4 L/分、酸素 4.0mL/分、電極にかける電圧 20Wであった。プラズマの発生状況を
図12に示す。内径1.7~4mmにおいて、安定してプラズマが発生することを確認した。
【0041】
実施例3
チューブ内壁の微細構造を観察するため、PEシートをチューブ状にまるめ、ガイドPE筒内に挿入して、内径2mmPE製胆管ステントを想定して、プラズマ処理を行い、PEシートの内壁構造を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。ヘリウム流量1.40L/分、酸素流量4.0mL/分で、電圧30W、45W、60Wにおいて検討した結果を
図13-16に示す。照射量を増大する場合には、プラズマの熱による影響を考慮してプラズマ照射時間を1回5秒として複数回照射した。
その結果、電圧45Wの場合、照射回数2~3回では、表面の凹凸が減少した後、4回~6回において、良好な微細構造が形成できることを確認した。
電圧60Wの場合、電圧45Wと同様、照射回数2~3回では、表面の凹凸が減少した後、4回~6回において、良好な微細構造が形成できることを確認した。
以上の結果から、印下電圧45~60Wにおいて、照射時間を1回5秒として、4~6回に分けて照射することで、ステント内壁にナノ微細構造ができることがわかった。
【0042】
PEの表面を処理した際の表面粗さの算術平均Raの測定結果を表1に、表面粗さの二乗平均平方根rmsの測定結果を表2に示す。またそれぞれのグラフを
図16および17に示す。
【0043】
【0044】
【0045】
実施例4
He1.4L/分、酸素4cm
3/分の流量で、印下電圧45W、照射4回にて処理したステント内壁の撥油効果を調べた。
構造体がナノ親水効果を有するかどうかを評価するために、水中油滴接触角測定を行った。測定においては、水中に被測定物を置き、ナノシリンジの先から油滴を被測定物に接触させて、油滴が被測定物に付着するかどうかを、CCDカメラの画像により評価した。評価結果を
図18に示す。PEシートを水中に保持し、ナノシリンジの先から排出された油滴をPEシートに接触させたところ、非処理のPE表面では油滴はくっつき、ナノ親水効果を有しないことが示された。未処理PEシートへの油滴の接触角は107.7度であった。
一方、プラズマ処理されたPEシートでは油滴の接触角は32.4度であり、親水性が確認された。撥油性については、未処理サンプルでは油がべっとり付くのに対して、プラズマ処理されたサンプルでは油滴がくっつかず、撥油効果が見られ、防汚構造になっていることが確かめられた。
【0046】
実施例5
PMMAについて同じようにヘリウム流量1.40L/分、酸素流量4.0mL/分で、チューブのプラズマ処理を行った。その結果30Wにおいて、120秒照射を3回に分けて行うことで、微細凹凸構造が得られることが確かめられた。AFMでの観察結果を
図19-21に示す。
【0047】
PMMAの表面を処理した際のRaの測定結果を表3に、rmsの測定結果を表4に示す。またそれぞれのグラフを
図22および23に示す。
【0048】
【0049】
【0050】
実施例6
PEステントの通液テスト
PEチューブを、He1.4L/分、酸素4cm
3/分の流量で、20Wにおいて10秒4回と10秒10回、および、50Wにおいて10秒4回で処理し、ナノ構造を形成した。
処理したPEチューブに牛の胆汁と油分を混ぜた疑似胆汁をポンプを用いて流し、その通液の様子を観察した。疑似胆汁は、牛胆汁の粉末を10wt%、純水に溶かし、さらに10wt%のラードを添加して、40℃に加温した。通液条件は6mL/分の流速において、胆汁を5秒通液し、その後、水を5秒通液、再び胆汁を5秒通液したのち、水を5秒通液し、2回目の水通液5秒時のチューブ内の様子を観察した。
チューブは内径が入口側2mm、出口側4mmのもの(写真上段)と、入口側3mm、出口側5mmのもの(写真下段)の2種類を用いてテストを行った。通液テスト結果を
図24に示す。なお、
図24の上部に胆汁通液時(左側)および、水通液時(右側)のチューブの写真を参考のため示す。
試験の結果、未処理のチューブでは、チューブ内に付着した胆汁が水により流れ出る様子が確認できるが、処理されたチューブにおいては胆汁の濁りは認められず、防汚機能を有することが確かめられた。
【符号の説明】
【0051】
10: ガラス管
12: 支柱
14: 電極
15: ステージ
16: 原料ガス
18: 樹脂製の筒
20: 胆管ステント
22: 酸素供給源
24: マスフローコントローラー
26: ヘリウム供給源
28: 整合機器
30: 交流電源
31: 中空物品
32: 樹脂製の筒
34: ステージ
40: 凹凸構造
42: 油性成分
44: 水膜