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特許7518502匂いセンサ、匂い測定システム、及び匂いセンサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】匂いセンサ、匂い測定システム、及び匂いセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20240710BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021567710
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048945
(87)【国際公開番号】W WO2021132639
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2019237839
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】715010521
【氏名又は名称】株式会社アロマビット
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 賢一
(72)【発明者】
【氏名】岸田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】寺田 絵里加
(72)【発明者】
【氏名】前野 権一
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-102747(JP,A)
【文献】特開2011-203008(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121155(WO,A1)
【文献】特開2010-060481(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106324046(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
G01N 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
匂い物質を吸着する物質吸着膜と、
前記物質吸着膜への前記匂い物質の吸着を当該物質吸着膜の導電性変化に基づき検出する検出部と、
を有するセンサ素子を複数含む匂いセンサであって、
前記物質吸着膜が、ケイ素及び酸素を骨格とする化合物からなる微粒子と、前記微粒子の表面を改質する表面改質剤と、を含む多孔質性の微粒子膜であり、
前記微粒子が中空構造を有すると共にその中空部に導電性微粒子を内包し、
複数の前記センサ素子のうちの少なくとも一部は、前記微粒子及び/又は前記表面改質剤の組成がそれぞれ異なる、匂いセンサ。
【請求項2】
前記微粒子が、微細孔構造を更に有する、請求項1に記載
の匂いセンサ。
【請求項3】
前記表面改質剤が、無機酸、有機酸、無機塩、有機塩、及びイオン性液体からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1又は請求項2に記載の匂いセンサ。
【請求項4】
複数の前記センサ素子が、所定の間隔を隔てて基板上に配列された、請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の匂いセンサ。
【請求項5】
前記表面改質剤が、導電性高分子と反応して前記導電性高分子の導電性を低下させる化合物である、請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載の匂いセンサ。
【請求項6】
複数の前記センサ素子が、それぞれの前記検出部が隣接して配列されると共に、
それぞれの前記物質吸着膜が、隣り合う複数の前記センサ素子の隣接する複数の前記検出部の間で共有され、隣接する複数の前記検出部を覆う、請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載の匂いセンサ。
【請求項7】
匂いサンプルの匂いを検出する匂いセンサであって、請求項1から請求項のうちいずれか1項に記載の匂いセンサと、
前記匂いセンサが有する複数のセンサ素子のそれぞれから取得される各電気信号と、前記匂いサンプルの情報とが関連付けられた匂いデータを生成するデータ処理部と、
を備える、匂い測定システム。
【請求項8】
匂い物質を吸着する物質吸着膜と、
前記物質吸着膜への前記匂い物質の吸着を当該物質吸着膜の導電性変化に基づき検出する検出部と、
を有するセンサ素子を複数含む匂いセンサの製造方法であって、
隣接して配列された複数の前記検出部の検出表面に、ケイ素及び酸素を骨格とする化合物からなる微粒子であって中空構造を有すると共にその中空部に導電性微粒子を内包する微粒子を含む多孔質性の微粒子膜であって、隣接する複数の前記検出部を覆う微粒子膜を配置する膜配置工程と、
前記微粒子膜の表面に、前記微粒子の表面を改質する表面改質剤を塗布する表面改質工程であって、前記微粒子膜の表面の所定領域毎に、組成が異なる表面改質剤を塗布する表面改質工程と、を含む、匂いセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匂いを測定するための匂いセンサ、匂いセンサを備える匂い測定システム、及び匂いセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
匂いセンサとして、水晶振動子の表面に、高分子被膜を形成したものが知られている(例えば、特許文献1)。また、多様な匂いを検知するために、高分子被膜の骨格高分子の種類や、骨格高分子に添加する添加剤の種類を変更することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-187986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高分子被膜が形成された匂いセンサにおいて、より多様な匂いを検知すべく、骨格高分子に添加する添加剤が検討されている。しかしながら、骨格高分子の匂い検知性能を阻害するような添加剤については、骨格高分子に添加することが難しい場合がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、高分子被膜を有する匂いセンサでは採用できなかった添加剤を用いることが可能な匂いセンサ、当該匂いセンサを用いた匂い測定システム、及び当該匂いセンサの製造方法を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
(1)匂い物質を吸着する物質吸着膜と、前記物質吸着膜への前記匂い物質の吸着を検出する検出部と、を有するセンサ素子を複数含む匂いセンサであって、前記物質吸着膜が、ケイ素及び酸素を骨格とする化合物からなる微粒子と、前記微粒子の表面を改質する表面改質剤と、を含む多孔質性の微粒子膜であり、複数の前記センサ素子のうちの少なくとも一部は、前記微粒子及び/又は前記表面改質剤の組成がそれぞれ異なる、匂いセンサ。
【0007】
(2)匂いサンプルの匂いを検出する匂いセンサであって、請求項1から請求項10のうちいずれか1項に記載の匂いセンサと、前記匂いセンサが有する複数のセンサ素子のそれぞれから取得される各電気信号と、前記匂いサンプルの情報とが関連付けられた匂いデータを生成するデータ処理部と、を備える、匂い測定システム。
【0008】
(3)匂い物質を吸着する物質吸着膜と、前記物質吸着膜への前記匂い物質の吸着を検出する検出部と、を有するセンサ素子を複数含む匂いセンサの製造方法であって、隣接して配列された複数の前記検出部の検出表面に、ケイ素及び酸素を骨格とする化合物からなる微粒子を含む多孔質性の微粒子膜であって、隣接する複数の前記検出部を覆う微粒子膜を配置する膜配置工程と、前記微粒子膜の表面に、前記微粒子の表面を改質する表面改質剤を塗布する表面改質工程であって、前記微粒子膜の表面の所定領域毎に、組成が異なる表面改質剤を塗布する表面改質工程と、を含む、匂いセンサの製造方法。
【0009】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高分子被膜を有する匂いセンサでは採用できなかった添加剤を用いることが可能な匂いセンサ、当該匂いセンサを用いた匂い測定システム、及び当該匂いセンサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】匂いセンサ10の平面模式図
図1B図1AのA-A’断面図
図2A】物質吸着膜13の断面模式図
図2B】微粒子21の断面模式図
図2C】導電性微粒子27aを内用する微粒子21の断面模式図
図2D】導電性微粒子27bを内用する微粒子21の断面模式図
図3】匂い測定システム1の模式図
図4A】匂いセンサ100の平面模式図
図4B図4AのB-B’断面図
図5】匂いセンサ10の製造方法の概要を示す説明図
図6】匂いセンサ配列体205の模式図及びその部分拡大図
図7】匂いセンサAの反応特性を示すグラフ
図8】匂いセンサBの反応特性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態1]
以下、実施形態1に係る匂いセンサ10について、図面を参照しながら順に説明する。
【0013】
実施形態1において、「匂い」とは、ヒト、又はヒトを含む生物が、嗅覚情報として取得することができるものであり、分子単体、若しくは異なる分子からなる分子群がそれぞれの濃度を持って集合したものを含む概念とする。
【0014】
実施形態1において、上述の匂いを構成する、分子単体、若しくは異なる分子からなる分子群がそれぞれの濃度を持って集合したものを「匂い物質」と称する。ただし、匂い物質は、広義において、後述する匂いセンサの物質吸着膜に吸着可能な物質を広く意味する場合があるものとする。すなわち、「匂い」には原因となる匂い物質が複数含まれることが多く、また、匂い物質として認知されていない物質又は未知の匂い物質も存在し得るため、一般的に匂いの原因物質とされていない物質も含まれ得るものとする。
【0015】
<匂いセンサ10>
図1Aは、匂いセンサ10の平面模式図である。図1Bは、図1AのA-A’断面図である。匂いセンサ10は、匂い物質を吸着する物質吸着膜13と、物質吸着膜13への匂い物質の吸着を検出する検出部としての検出器15と、を有するセンサ素子11を複数含むセンサである。複数のセンサ素子11は、センサ基板17上に配置されている。各センサ素子11には、センサ基板17に配線された電子回路に接続されている(図1A及び図1Bにおいて図示せず)。
【0016】
図1A及び図1Bに示すように、センサ素子11は、検出器15と、検出器15の表面上に設けられた物質吸着膜13と、で構成されている。物質吸着膜13は、検出器15の表面の全体を覆っていることが好ましい。すなわち、検出器15の大きさは、物質吸着膜13の形成範囲と同じか、又は物質吸着膜13の形成範囲よりも小さいことが好ましい。なお、1つの物質吸着膜13の形成範囲内に複数の検出器15が設けられていてもよい。
【0017】
センサ素子11は、センサ基板17上に、複数配設されており、図1Aに示すように6個のセンサ素子11が正三角形を描くように整列されていてもよい。このとき、隣り合うセンサ素子11の物質吸着膜13同士が接触していないか、又は絶縁されている。なお、センサ素子11は、センサ基板17上で、必ずしも整列されている必要はなく、ランダムに配設されていたり、任意の形態に整列されていたりしてもよい。
【0018】
センサ基板17上に配設される複数のセンサ素子11のうちの少なくとも一部は、それぞれの物質吸着膜13の匂い物質に対する吸着特性が互いに異なっていることが好ましい。複数のセンサ素子11のすべてがそれぞれ異なる組成の物質吸着膜13で構成されていてもよく、同一の吸着特性の物質吸着膜13が存在していなくてもよい。物質吸着膜13の組成は、後述する微粒子21の組成、表面改質剤の組成、微粒子21と表面改質剤の組合せ等により変化させることができる。すなわち、同じ匂い物質(又はその集合体)であっても、異なる吸着特性を有する物質吸着膜13には、異なる吸着特性を示すことになる。図1A及び図1Bにおいては、便宜上、物質吸着膜13をすべて同様に示しているが、実際にはその吸着特性が互いに異なっている。なお、各センサ素子11の物質吸着膜13の吸着特性は、必ずしもすべて異なっている必要はなく、中には、同一の吸着特性を有する物質吸着膜13が配設されたセンサ素子11が設けられていてもよい。
【0019】
<物質吸着膜13>
図2Aは、物質吸着膜13の断面模式図である。物質吸着膜13は、ケイ素及び酸素を骨格とする化合物からなる微粒子21と、微粒子21の表面を改質する表面改質剤と、を含む微粒子膜である。図2Aに示すように、物質吸着膜13は、複数の微粒子21によって、細孔23が多数形成された多孔質性の微粒子膜である。微粒子21の表面は、表面改質剤によって改質されている。なお、図2Aにおいては、表面改質剤によって微粒子21の表面が改質されている様子は図示されていない。実施形態1においては、微粒子21は、一次粒子(凝集していない粒子)である。
【0020】
物質吸着膜13の厚さは、吸着対象となる匂い物質の特性に応じて適宜選択することができる。例えば、物質吸着膜13の厚さは10nm~10μmの範囲とすることができ、50nm~800nmとすることが好ましい。物質吸着膜13の厚さが10nm未満となると、十分な感度が得られない場合がある。また、物質吸着膜13の厚さが10μmを越えると、物質吸着膜13自体の重量により検出器15が検出できる重量の上限を超えてしまう場合がある。
【0021】
<微粒子21>
図2Aに示されている微粒子21は、内部に空隙を有する中空シリカ粒子である。微粒子21としては、ケイ素及び酸素を骨格とする化合物からなる微粒子であればよく、中空シリカ粒子に限定されない。すなわち、微粒子21は、ケイ素酸化物を主とする化合物からなる微粒子であり、Si-O-Si結合を有する骨格を含む化合物からなる微粒子である。ケイ素及び酸素を骨格とする化合物からなる微粒子としては、例えば、シリカナノ粒子、シルセスキオキサン、シロキサン、メッシュ状シリカ、ワイヤー状シリカ、ワイヤー状又はメッシュ状のナノシリカの連続体等の中実構造のもの、中空シリカ、メソポーラスシリカ、ナノポーラスシリカ、ワイヤー状シリカ等の中空構造のもの、メソポーラスシリカ、ナノポーラスシリカ、メッシュ状シリカ、ワイヤー状シリカ、ワイヤー状又はメッシュ状のナノシリカの連続体等の微細孔構造のもの等を挙げることができる。なお、上記列挙の粒子のうち、中実構造、中空構造、又は微細孔構造の各構造の複数に分類されているものは、それぞれの構造を取り得ることを意味する。微粒子21の形状は、特に制限されず、球状、棒状、その他不定形であってもよい。微粒子21は、結晶性の微粒子であってもよいし、非結晶性の微粒子であってもよい。
【0022】
微粒子21としては、上述の各種粒子のうち、微細孔構造及び/又は中空構造を有するものが好ましく、微細孔構造を有すると共に中空構造を有するものが特に好ましい。微細孔構造及び/又は中空構造を有する微粒子21を用いることにより、微粒子21の比重が小さくなり、物質吸着膜13の重量を軽減することができる。これは、検出器15が、匂い物質の吸着による物質吸着膜13の重量変化に伴う現象を検出するものである場合、匂いセンサ10として検出感度が向上するため、有利である。例えば、検出器15が水晶振動子マイクロバランス(QCM)センサ(以下、「QCMセンサ」ともいう。)であった場合、物質吸着膜13の重量は、QCMセンサの水晶振動子の重量の2%以下であることが好ましい。
【0023】
微粒子21は、微細孔構造を有することにより、表面積が増加し、後述する表面改質剤が改質する表面が増え、表面改質剤の効果が出やすくなるため、有利である。また、微粒子21は、中空構造を有するものである場合、後述するように、導電性微粒子等、微粒子21の特性を変化させる物質を内包させることができるため、有利である。
【0024】
図2Bは、微粒子21の断面模式図である。実施形態1において、微細孔25とは、微粒子21に形成された細孔を意味するものとする。微細孔25が形成された微粒子21は、中実構造を有していてもよく、中空構造を有していてもよい。一方、細孔23とは、微粒子21によって微粒子膜(物質吸着膜13)に形成される細孔を意味するものとする。一般的に、細孔とは、膜や粒子の一方から他方まで貫通したものを意味するが、実施形態1においては、貫通していないものも含むことができるものとする。
【0025】
微粒子21の大きさは、特に制限されないが、例えば、平均粒子径が2nm~1000μmのものを用いることができる。
【0026】
微粒子21は、導電性微粒子を含有していてもよい。導電性微粒子は、微粒子21の骨格を、ケイ素及び酸素と共に形成していてもよいし、微粒子21の骨格に包摂されていてもよいし、微粒子21の内部に分散して存在していてもよい。
【0027】
微粒子21が中空構造を有する場合、その中空部(空隙部)に導電性微粒子を内包していてもよい。中空部(空隙部)に内包される導電性微粒子は、単一の微粒子であってもよく、多数の微粒子であってもよい。図2Cは、導電性微粒子27aを内用する微粒子21の断面模式図である。図2Dは、導電性微粒子27bを内用する微粒子21の断面模式図である。
【0028】
導電性微粒子としては、導電性を有する限り特に制限されないが、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、白金、パラジウム、タングステン、モリブデン、亜鉛、スズ、炭素、導電性セラミック等を挙げることができる。微粒子21に含有されるか、又は内包される導電性微粒子は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよく、上述の金属のうちの複数の金属の合金であってもよい。
【0029】
微粒子21が、導電性微粒子が内包された中空粒子である場合、その物質吸着膜13は、後述する導電性変化を検出する検出器15と組み合わせることが好ましい。導電性微粒子を内容する中空粒子が接触した状態は、2つの導電性微粒子が中空粒子の殻を介したコンデンサを構成することができる。そのような状態の微粒子21の表面が表面改質剤により改質されたところに、匂い物質が付着すると誘電率が変化し、導電性の変化として匂い物質の吸着を検出することができる。
【0030】
<表面改質剤>
表面改質剤は、微粒子21の表面を改質するために、微粒子21に添加される添加剤である。添加する表面改質剤の量(濃度)、種類等を変化させることにより、物質吸着膜13の匂い物質に対する吸着特性を変化させることができる。表面改質剤は、ケイ素及び酸素を骨格とする化合物からなる微粒子21の表面物性を改質させ得るものである限り、特に制限されない。表面改質剤は、微粒子21の表面と反応し、化学結合を形成することにより微粒子21の表面物性を改質させるものであってもよいし、微粒子21の表面に物理的に付着することにより微粒子21の表面物性を改質させるものであってもよい。表面改質剤としては、例えば、リン酸、ホウ酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、パルミチン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、p-トルエンスルホン酸、10-カンファースルホン酸、bis-2-エチルヘキシルスルホコハク酸、メチルホスホン酸、クロロメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、メチルホスフィン酸、ジ-2-エチルヘキシルリン酸等の有機酸、食塩等の無機塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム等の有機塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート等のイオン性液体、ジクロロジメチルシラン、トリメチルクロロシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトシキシラン、ブチルジメチルクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメチルクロロシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルシラン、トリメチル(トリデカフルオロヘキシル)シラン、トリメチルシリルメトキシアセテート、2-(トリメチルシリル)ピリジン、トリメチル(ペンタフルオロフェニル)シラン、1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1-(ジメチルエチルシリル)イミダゾール、トリイソシアナート(メチル)シラン等のシラン化剤等を挙げることができる。これら化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
匂いセンサ10が重量変化を検出する検出センサを検出器15として有する場合、表面改質剤は、導電性高分子と反応して、当該導電性高分子の導電性を低下させる化合物であってもよい。従来の匂いセンサの物質吸着膜として導電性高分子を用い、その物性を変化させるために添加剤を加えることがある。重量変化を検出する検出センサを検出器15として有する匂いセンサ10においては、物質吸着膜13の基材として、ケイ素及び酸素を骨格とする化合物からなる微粒子21を用いることにより、従来の匂いセンサにおいては採用が難しいと考えられた添加剤、すなわち、導電性高分子と反応して、当該導電性高分子の導電性を低下させる化合物であっても、特段の支障なく採用することができる。導電性高分子と反応して、当該導電性高分子の導電性を低下させる化合物としては、例えば、ギ酸、プロピオン酸、パルミチン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基を有する有機酸、p-トルエンスルホン酸、10-カンファースルホン酸、bis-2-エチルヘキシルスルホコハク酸等のスルホ基を有する有機酸、メチルホスホン酸、クロロメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、メチルホスフィン酸、ジ-2-エチルヘキシルリン酸等のリン酸基を有する有機酸等を挙げることができる。また、導電性高分子と反応して、当該導電性高分子の導電性を低下させる化合物として、加水分解等により上述の有機酸を生成するような有機酸誘導体等を挙げることができる。これら有機酸は、表面改質剤として1種単独で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。また、有機酸は、上述の各官能基を複数有していてもよい。有機酸が上述の各官能基を複数有する場合、官能基の種類は、1種であってもよく、2種以上が組み合わされていてもよい。匂いセンサ10が電気的特性の変化を検出する検出センサを検出器15として有する場合、表面改質剤として、カーボン系材料、ナノメタル材料等を主成分とする導電体を用いることができる。匂いセンサ10が電気的特性の変化を検出する検出センサを検出器15として有する場合、検出方法の工夫により、上述の重量変化を検出する検出センサを検出器15として有する場合と同様の表面改質剤を用いることができる。
【0032】
<物質吸着膜13の作製方法>
次に、微粒子21と表面改質剤とを含む物質吸着膜13を作製する方法について説明する。物質吸着膜13の作製は、膜配置工程と、表面改質工程と、を含む。
【0033】
膜配置工程においては、まず、検出器15の検出表面に、ケイ素及び酸素を骨格とする化合物からなる微粒子を含む多孔質性の微粒子膜であって、検出器15を覆う微粒子膜を配置する。具体的には、微粒子21を溶媒に分散させた微粒子分散体を塗布する。微粒子21を分散させる溶媒としては、ケイ素及び酸素を骨格とする化合物からなる微粒子21を分散させ得る溶媒であれば特に限定されないが、例えば、水、エタノール、N-メチルピロリドン(NMP)等を用いることができる。検出器15の表面上に、微粒子分散体を塗布する厚さは、乾燥後の厚さが所定の厚さとなるよう調節することができる。
【0034】
次いで、塗布された微粒子分散体を乾燥させる。乾燥条件は、微粒子分散体を塗布するために用いた溶媒を適切に蒸発させ、物質吸着膜13の基材となる微粒子21の構造体を形成させることができる条件であれば特に制限されない。乾燥条件としては、例えば、常圧下、100℃で1.5時間の加熱とすることができる。
【0035】
次に、表面改質工程においては、膜配置工程において配置した微粒子膜の表面に、微粒子21の表面を改質する表面改質剤を塗布する。具体的には、乾燥によって得られた微粒子21の構造体(物質吸着膜13の基材)に、表面改質剤を塗布する。表面改質剤を塗布する量は、所望の範囲に適切に分散して塗布することができる限り、特に制限されない。例えば、表面改質剤を、適当な溶媒で希釈し、希釈した溶媒を、インクジェット装置等を用いて噴霧することにより、表面改質剤を、微粒子21の構造体の所望の範囲に塗布することができる。表面改質剤を希釈する溶媒は、特に制限されないが、例えば、水、エタノール等を用いることができる。表面改質剤は、微粒子21の構造体の全体に塗布してもよいが、所望の一部にのみ塗布することもできる。その場合、微粒子21の構造体の残りの部分の一部又は全部に、異なる種類の表面改質剤と塗布することができる。また、微粒子21の構造体の残りの部分の一部又は全部には、同一の表面改質剤であっても、希釈濃度を変えて塗布することができる。表面改質剤を、希釈濃度を変えて塗布するには、例えば、インクジェット装置のノズルの移動速度や、噴霧量、噴霧回数等を調整することができる。
【0036】
次いで、表面改質剤が塗布された微粒子21の構造体を乾燥させる。乾燥条件は、表面改質剤の希釈に用いられた溶媒を、適切に蒸発させ、微粒子21の表面が表面改質剤によって適切に改質される限り、特に制限されない。乾燥条件としては、例えば、常圧下、100℃で1時間の加熱とすることができる。
【0037】
微粒子21に塗布(添加)する表面改質剤の量は、微粒子21の表面を改質することができる限り特に制限されない。
【0038】
<検出器15(検出部)>
検出器15は、物質吸着膜13の表面に吸着した匂い物質による、物質吸着膜13の物理、化学、電気的特性等の変化に伴う現象を検出し、その測定データを例えば電気信号として出力する検出部又は信号変換部(トランスデューサ)としての機能を有する。すなわち、検出器15は、匂い物質の物質吸着膜13の表面への吸着状態を検出する検出センサである。検出器15が測定データとして出力する信号としては、電気信号、光等が挙げられ、これら信号により、電気抵抗の変化、振動数の変化等の情報が出力される。
【0039】
検出器15としては、物質吸着膜13の物理、化学、電気的特性等の変化に伴う現象を検出可能な検出センサであれば特に制限されず、種々の検出センサを適宜用いることができる。検出器15が検出する物理、化学、電気的特性の変化としては、例えば、匂い物質が物質吸着膜13の表面に吸着したことによる、物質吸着膜13の重量変化、導電性等の電気的特性の変化等を挙げることができる。
【0040】
検出器15として、具体的には、水晶振動子マイクロバランス(QCM)センサ、微小電気機械システム(MEMS)センサ、カンチレバー型センサ、表面弾性波(SAW)センサ等の重量変化を検出する検出センサ、電界効果トランジスタ(FET)センサ、電荷結合素子センサ、MOS電界効果トランジスタセンサ、金属酸化物半導体センサ、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサ、有機導電性ポリマーセンサ、電気化学的センサ等の電気的特性の変化を検出する検出センサ等を挙げることができる。これらの中でも、重量変化を検出する検出センサとしては、水晶振動子マイクロバランス(QCM)センサ等が好ましく、電気的特性の変化を検出する検出センサとしては、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサ等が好ましい。以下、水晶振動子マイクロバランス(QCM)センサ(以下、「QCMセンサ」ともいう。)を検出器15として用いる場合について説明する。
【0041】
<水晶振動子マイクロバランス(QCM)センサ>
検出器15としてQCMセンサを用いる場合、励振電極として、水晶振動子の両面に電極を設けることができる。高いQ値を検出するべく片面に分離電極を設けてもよい。また、励振電極は、水晶振動子のセンサ基板17側に、センサ基板17を挟んで設けられていてもよい。なお、図1Bにおいて、水晶振動子が検出器15として示されており、励振電極は図示されていない。
【0042】
励振電極は、任意の導電性材料で形成することができる。励振電極の材料として、具体的には、金、銀、白金、クロム、チタン、アルミニウム、ニッケル、ニッケル系合金、シリコン、カーボン、カーボンナノチューブ等の無機材料、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等の有機材料を挙げることができる。
【0043】
検出器15の形状は、図1A及び図1Bに示すように、平板形状とすることができる。平板形状の平板面の形状は、図1Aに示すように、円形とすることができるが、四角形や正方形、楕円形等、種々の形状であってもよい。また、検出器15の形状は、平板形上に限られず、その厚さが変動していてもよく、凹状部や凸状部が形成されていてもよい。
【0044】
検出器15が、水晶振動子センサのような振動子を用いるものである場合、複数のセンサ素子11における各振動子の共振周波数を変化させることで、同一のセンサ基板17上に共存する他の振動子から受ける影響(クロストーク)を低減することができる。同一のセンサ基板17上の各振動子が、ある振動数に対して異なる感度を示すよう、共振周波数を任意に設計することが可能である。共振周波数は、例えば、振動子や物質吸着膜13の厚さを調節することで変化させることができる。
【0045】
<センサ基板17>
センサ基板17としては、検出器15及びその表面上の物質吸着膜13を配置することが可能な基板である。シリコン基板、水晶結晶からなる基板、プリント配線基板、セラミック基板、樹脂基板等を用いることができる。また、基板は、インターポーザ基板等の多層配線基板であり、水晶振動子を振動させるための励振電極と実装配線、通電するための電極等、複数の検出器15のそれぞれを機能させるための配線が任意の位置に配置されている。
【0046】
センサ基板17は、図1Aに示すように、複数のセンサ素子11が多数配置されたセンサ部17aと、センサ素子等が表面上に配置されていない保持部17bと、に領域分けすることができる。保持部17bには、センサ素子等が表面上に配置されていないため、人が指やピンセット等で保持することができる。これにより、匂いセンサ10は、後述する匂い測定システム1としての匂い測定装置に着脱可能なチップとすることができる。
【0047】
以上のような構成とすることにより、匂い物質の吸着特性がそれぞれ異なる物質吸着膜13を有するセンサ素子11を複数有する匂いセンサ10を得ることができる。これにより、ある匂い物質又はその組成を含む空気の匂いを匂いセンサ10で測定した場合、各センサ素子11の物質吸着膜13には、同様に匂い物質又はその組成が接触することになるが、各物質吸着膜13には、匂い物質がそれぞれ異なる態様で吸着される。すなわち、各物質吸着膜13において、匂い物質の吸着量が異なる。そのため、各センサ素子11において検出器15の検出結果が異なることになる。したがって、ある匂い物質又はその組成に対して、匂いセンサ10が備えるセンサ素子11(物質吸着膜13)の数だけ、検出器15による測定データが生成される。
【0048】
ある匂い物質又はその組成について測定することにより匂いセンサ10が生成する測定データのセットは、通常、特定の匂い物質や匂い物質の組成に対して特異的(ユニーク)である。そのため、匂いセンサ10によってデータを測定することにより、匂いを、匂い物質単独で、又は匂い物質の組成(混合物)として識別することが可能である。
【0049】
<匂い測定システム1>
匂い測定システム1は、上述の匂いセンサ10と、データ処理部とを備え、匂いセンサ10により検出した匂いサンプルの匂いを基に匂いデータを生成する。データ処理部は、匂いセンサ10が有する複数のセンサ素子11のそれぞれから取得される各電気信号と、匂いサンプルの情報とが関連付けられた匂いデータを生成する。データ処理部は、中央処理装置(CPU)51と、記憶装置53と、を少なくとも含み、構成されている。図3は、匂い測定システム1の模式図である。
【0050】
匂い測定システム1としては、具体的には、匂いセンサ10を備える情報処理端末とすることができる。情報処理端末としては、例えば、コンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン、携帯電話等を挙げることができる。また、匂い測定システム1は、チップ型の匂いセンサ10の検出信号を読み取り可能な読取り部、中央処理装置(CPU)51、及び記憶装置53を備える情報処理端末と、チップ型の匂いセンサ10と、の組合せによっても実現することができる。
【0051】
図3に示すように、匂いセンサ10の各センサ素子11の検出器15は、センサ基板17の内部配線により、データ処理部の中央処理装置(CPU)51とそれぞれ相互通信可能に接続されている。これにより、検出器15によって検出された信号は、中央処理装置51へと送信される。
【0052】
中央処理装置(CPU)51は、取得した信号を基に匂いデータを生成する機能を有する。この機能は、中央処理装置(CPU)51と相互通信可能に接続された記憶装置53に記憶された匂いデータ生成プログラムP1を、中央処理装置(CPU)51が実行することにより、実現される。匂いデータは、例えば、匂いサンプルの情報としてのIDや、名前と、各センサ素子11において検出されたデータのそれぞれと、が関連付けられたものとすることができる。各センサ素子11において検出されたデータは、匂いデータ生成プログラムP1により、所定の処理に応じて数値化されたものとすることができる。生成された匂いデータは、例えば、匂いデータベースD1として、記憶装置53に記憶させておくことができる。
【0053】
<匂い識別システム>
匂い測定システム1は、匂い測定システム1が測定した匂いが、既知の匂いデータと一致するか否かや、既知の匂いデータとの類似度を出力する匂い識別システムの一部を構成していてもよい。匂い識別システムは、図3に示すように、匂い測定システムと、例えばインターネットNを介して相互通信可能に接続された匂いデータサーバ60と、により構成することができる。匂い測定システム1は、他の情報処理端末と相互通信可能に接続するため通信装置55を有していてもよく、通信装置55を用いて、匂いデータサーバ60と接続されていてもよい。匂い識別システムは、図3に示すように、インターネットNを介して相互通信可能に接続されたセンサ配列情報サーバ70を有していてもよい。なお、匂いデータサーバ60及びセンサ配列情報サーバ70は、インターネットN介して接続されていなくてもよく、イントラネット内、又は匂い測定システム1内で、相互通信可能に接続されていてもよい。
【0054】
匂いデータサーバ60には、既知の匂いデータを蓄積して記憶させておくことができる。例えば、匂い測定システム1を用いて測定した匂いデータを、匂いデータサーバ60に送信し、記憶させておくことができる。
【0055】
匂い測定システム1を用いて測定して得られた匂いデータと、匂いデータサーバ60に記憶された既知の匂いデータと、を比較することにより、測定して得られた匂いデータが、既知の匂いデータと一致するか否かや、既知の匂いデータとの類似度等を出力することができる。
【0056】
センサ配列情報サーバ70には、匂いセンサ10における複数のセンサ素子11の配列情報を記憶させておくことができる。配列情報としては、匂いセンサ10上における各センサ素子11の位置情報と、当該センサ素子11に形成された物質吸着膜13の組成情報と、を少なくとも含むものとすることができる。物質吸着膜13の組成情報としては、物質吸着膜13の基材(微粒子21)の組成情報、及び添加剤(表面改質剤)の組成情報とすることができる。
【0057】
センサ配列情報サーバ70を用いることにより、匂いセンサ10の各センサ素子11に形成する物質吸着膜13を、匂いセンサ10毎に変更し、物質吸着膜13の種類(組成の種類)を増やすことができる。すなわち、特定の匂いセンサ10を有する匂い測定システム1を用いて測定して得られた匂いデータと、センサ配列情報サーバ70に記憶された当該特定の匂いセンサ10の配列情報と、を組み合わせることにより、当該特定の匂いセンサ10により測定された匂いデータを一意に特定することができる。このようにして特定された匂いデータと、匂いデータサーバ60に記憶された既知の匂いデータと、を比較することにより、測定して得られた匂いデータが、既知の匂いデータと一致するか否かや、既知の匂いデータとの類似度等を出力することができる。
【0058】
[実施形態2]
実施形態2として、複数のセンサ素子111が、それぞれの検出部としての検出器115が隣接して配列されている匂いセンサ100について説明する。なお、以下の実施形態2の説明において触れていない部分は、実施形態1に係る匂いセンサ10の構成と同様のものとし、符号も同一のものを用いることとする。
【0059】
図4Aは、匂いセンサ100の平面模式図である。図4Bは、図4AのB-B’断面図である。匂いセンサ100においては、各検出器115が、センサ基板17上に、隣接して配列されている。隣接して配列されている検出器115の表面上に、物質吸着膜113が形成されており、隣接して配列されている検出器115は、物質吸着膜113で覆われている。物質吸着膜113は、隣り合う複数のセンサ素子111の隣接する複数の検出器115の間で共有されている。すなわち、図4A及び図4Bにおいて、隣接して配列されているすべての検出器115の表面上に、単一の物質吸着膜113が形成されている。この場合、基材である微粒子21に添加(塗布)される表面改質剤は、単一の検出器115毎に変化させず、複数の検出器115をカバーする範囲において、1種類の表面改質剤により微粒子21の表面が改質される。
【0060】
検出器115としては、匂い物質の吸着による物質吸着膜113の導電性変化を検出する検出器であることが好ましい。なお、物質吸着膜113の重量変化を検出する検出器の場合、物質吸着膜113を他の検出器115と共有しているため、重量変化を正確に検出できないことがある。
【0061】
検出器115としては、具体的には、電界効果トランジスタ(FET)センサ、電荷結合素子センサ、MOS電界効果トランジスタセンサ、金属酸化物半導体センサ、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサ、有機導電性ポリマーセンサ、電気化学的センサ等が好ましく、中でも相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサが特に好ましい。
【0062】
<匂いセンサ100の製造方法>
匂いセンサ100の物質吸着膜113は、検出器115の検出表面への膜配置工程と、表面改質工程と、により作製することができる。匂いセンサ100の物質吸着膜113以外の構成を作製する方法は、特に制限されず、従来公知の方法、又は、匂いセンサ10の作製方法に基づき、作製することができる。
【0063】
物質吸着膜113の膜配置工程においては、隣接して配列された複数の検出器115の検出表面に、微粒子21を含む多孔質性の微粒子膜であって、隣接する複数の検出器115を覆う微粒子膜を配置する。なお、この膜配置工程は、物質吸着膜13の作製方法における膜配置工程と、検出器115が隣接して配列されていることを除き、同様である。
【0064】
物質吸着膜113の表面改質工程においては、膜配置工程において配置された微粒子膜の表面に、表面改質剤を塗布する。このとき、微粒子膜の表面の所定領域毎に、組成が異なる表面改質剤を塗布する点で、物質吸着膜13の作製方法における表面改質工程と異なる。ここで、微粒子膜の所定領域の下層には、複数の検出器115が配置されており、これらの検出器115は少なくとも所定領域における物質吸着膜113を共有している。
【0065】
図5は、匂いセンサ10の製造方法の概要を示す説明図である。匂いセンサ100の製造方法における表面改質工程には、図5に示すようにインクジェット噴霧装置を用いることができる。すなわち、微粒子膜に塗布する表面改質剤を、インクジェットノズル123から噴霧することで、微粒子膜の表面の所定領域119aに表面改質剤を塗布することができる。そして、次の所定領域119bに噴霧するために、インクジェットヘッド121を物質吸着膜113に沿って次の所定領域119bまで移動させ、表面改質剤を噴霧することができる。このとき、次の所定領域119bにおいて噴霧する表面改質剤は、最初の所定領域119aにおいて噴霧した表面改質剤と異なる組成のものであることが好ましい。
【0066】
所定領域119a、119bは、連続していてもよい。すなわち、所定領域119aから噴霧を開始して、噴霧したままインクジェットヘッド121を物質吸着膜113に沿って移動させ、微粒子膜の広範囲に表面改質剤を塗布することができる。また、既に表面改質剤を塗布した領域に、別の組成の表面改質剤を更に塗布することにより、2種類の表面改質剤を塗布した領域を形成することができる。また、表面改質剤を噴霧したままインクジェットヘッド121を移動させる際、噴霧量を調節して、塗布される表面改質剤の量が連続的に変化する領域を形成してもよい。
【0067】
[実施形態3]
<匂いセンサ配列体>
次に、実施形態3として、匂いセンサ配列体205について説明する。なお、以下の実施形態3の説明において触れていない部分は、実施形態1に係る匂いセンサ10の構成と同様のものとし、符号も同一のものを用いることとする。
【0068】
図6は、匂いセンサ配列体205の模式図及びその部分拡大図である。図6中、匂いセンサ配列体205の最も右上に配置された匂いセンサ200及びその近傍を含む部分拡大図を円内に示す。図6では、9個のセンサ素子がY方向に3個、X方向に3個で平面状に配列された匂いセンサ200が、Y方向に5個、X方向に6個で合計30個平面状に配列されている場合を示している。各匂いセンサ200において、9個のセンサ素子201は、いずれも互いに異なる物質吸着膜203を有している。
【0069】
匂いセンサ配列体205は、センサ素子201を含む匂いセンサ200が2つ以上配列されたものである。匂いセンサ200としては、実施形態1において説明した匂いセンサ10と同様のものを用いることができ、匂い物質を吸着する物質吸着膜203と、匂い物質の物質吸着膜203への吸着状況を判断する検出部と、を有するセンサ素子201を2つ以上含むものである。2つ以上のセンサ素子が有する各々の物質吸着膜203は、吸着特性がそれぞれ異なっている。
【0070】
匂いセンサ配列体205は、上述の匂いセンサを2つ以上配列したものであるため、2つ以上の異なる位置での匂い物質の吸着状況を検知することができる。これにより、匂い物質又はその匂い物質を含む気体の位置情報を検知することができる。
【0071】
2つ以上の異なる位置において物質吸着膜203への匂い物質の吸着量を測定することができるため、それぞれの匂いセンサにおける匂い物質の吸着量の違いに基づいて、匂い物質又はその匂い物質を含む気体の移動方向を把握することができる。すなわち、匂い物質の移動方向を検知することができる。例えば、発火前のくすぶっている状態に生じるいわゆる「こげ臭」等を匂いセンサ配列体205で検知することにより、そのこげ臭がどの方向から移動してきたかを検知することができ、火元の特定に役立てることが考えられる。
【0072】
また、匂いセンサ配列体205のそれぞれの匂いセンサでの測定値を時系列で記録することができる。これにより、時間の経過と共に匂い物質が移動した道程を把握することができる。当然、匂いセンサ配列体205のそれぞれの匂いセンサに対応する位置における匂い物質の濃度分布及びその遷移過程も把握することができる。
【0073】
匂いセンサ配列体205に含まれる匂いセンサ200は、同じであっても異なっていてもよいが、特定の匂い物質の移動方向を把握する場合には、それぞれの匂いセンサ200が有する少なくとも1種の物質吸着膜203を、それぞれの匂いセンサ200が共通に有していることが好ましい。また、それぞれの匂いセンサ200が有する物質吸着膜203の組合せを、それぞれの匂いセンサ200が共通に有していることがより好ましい。更には、それぞれの匂いセンサ200が同一のものであることが好ましい。
【0074】
匂いセンサ配列体205の全体形状は特に限定されないが、例えば、図6に示すように、それぞれ匂いセンサの各センサ素子201が平面状に配列され、それぞれの匂いセンサ200が平面状に配列された平板状の匂いセンサ配列体205であってもよい。匂いセンサ配列体205の全体形状が平板状であると、壁や天井、床等の任意の平面状の場所への設置が容易である。
【0075】
匂いセンサ配列体205の全体形状は、表面が匂いセンサ200で覆われた円筒状や球状であってもよい。このように円筒状や球状のような全体形状とすることにより、匂い物質の移動方向を3次元的に把握することができる。
【0076】
匂いセンサ配列体205の製造方法としては、特に制限されないが、検出器15の検出表面を、匂いセンサに相当する範囲の区画207、その区画207の中に更にセンサ素子201に相当する範囲の小分画部208に区分けした上で、各小分画部208にそれぞれ異なる物質吸着膜203を形成することができる。
【0077】
以下、実施例を用いて、匂いセンサについて、更に具体的に説明する。
【0078】
[実施例1]
実施形態1に係る匂いセンサ10として、微粒子21としてのシリカ被膜ニッケル粒子と、表面改質剤としてのオクタン酸と、を含む物質吸着膜13を有する匂いセンサ(以下、「匂いセンサA」)について、アンモニアに対する反応特性を確認した。ここで、シリカ被膜ニッケル粒子は、図2Cに示すような微粒子21において、導電性微粒子27aとしてニッケル粒子がシリカ膜で覆われた微粒子である。匂いセンサAの検出器15はQCMセンサとした。
【0079】
匂いセンサAによるアンモニアに対する反応特性を示すグラフを、図7に示す。図7において、縦軸は、匂いセンサにアンモニアを測定させた際の反応として、QCMセンサにより検出される振動数変化(Hz)を示す。図7の各棒グラフは、左から順に、物質吸着膜が、それぞれ、ポリアニリンからなる膜(図7中「PA」)、シリカ被膜ニッケル粒子のみ(表面改質剤なし)を塗布した膜(図7中「Si」)、表面改質剤であるオクタン酸のみを塗布した膜(図7中「Octanoic acid」)、ポリアニリンとオクタン酸とを混合したものを塗布した膜(図7中「PA+Octanoic acid」)、シリカ被膜ニッケル粒子とオクタン酸とを混合したものを塗布した膜(図7中「Si+Octanoic acid」)である場合の匂いセンサによる振動数変化を示している。
【0080】
図7中「Si+Octanoic acid」の結果が、匂いセンサAの結果である。オクタン酸によって表面が改質されたシリカ被膜ニッケル粒子を含む物質吸着膜13を有する匂いセンサAは、表面が改質されていないもの「Si」、微粒子21を含まないもの「Octanoic acid」、と比較して、有意に振動数変化の量が大きかった。また、従来公知のポリアニリンからなる膜を有するもの「PA」、ポリアニリンにオクタン酸を付加したもの「PA+Octanoic acid」と比較しても、匂いセンサAは、有意に振動数変化の量が大きかった。
【0081】
[実施例2]
実施形態1に係る匂いセンサ10として、微粒子21としてのシリカ被膜ニッケル粒子と、表面改質剤としてのシラン化剤と、を含む物質吸着膜13を有する匂いセンサ(以下、「匂いセンサB」)について、水、アンモニア、酢酸、エタノール、アセトン、ヘキサンのそれぞれに対する反応特性を確認した。ここで、シリカ被膜ニッケル粒子は、図2Cに示すような微粒子21において、導電性微粒子27aとしてニッケル粒子がシリカ膜で覆われた微粒子である。匂いセンサAの検出器15はCMOSセンサとした。シラン化剤としては、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザンを用いた。
【0082】
匂いセンサBによる水、アンモニア、酢酸、エタノール、アセトン、ヘキサンの各サンプルに対する反応特性を示すグラフを、図8に示す。図8において、縦軸は、匂いセンサに各サンプルを測定させた際の反応として、CMOSセンサにより検出される結果(電圧(V))を示す。図8の各棒グラフは、左から順に、サンプルが、水(図8中「water」)、アンモニア(図8中「ammo」)、酢酸(図8中「AA」)、エタノール(図8中「etha」)、アセトン(図8中「ace」)、ヘキサン(図8中「hex」)である場合の匂いセンサによる結果を示している。各サンプルに対して、物質吸着膜が、それぞれ、シリカ被膜ニッケル粒子のみ(表面改質剤なし)を塗布した膜(図8中、白抜きの棒グラフ)、シリカ被膜ニッケル粒子とオクタン酸とを混合したものを塗布した膜(図8中、ハッチングされた棒グラフ)である場合の匂いセンサによる結果を示している。
【0083】
図8中、ハッチングされた棒グラフが、匂いセンサBの結果である。図8より、シラン化剤によって表面が改質されたシリカ被膜ニッケル粒子を含む物質吸着膜13を有する匂いセンサBは、表面が改質されていないもの(白抜きの棒グラフ)と比較して、エタノール「etha」等の特定のサンプルに対してのみ、有意差を示しており、匂いセンサBの匂いの種類に対する識別性が付与されていることが分かる。
【0084】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。例えば、本発明は以下の趣旨を含むものとする。
【0085】
(趣旨1)匂いセンサは、匂い物質を吸着する物質吸着膜と、物質吸着膜への匂い物質の吸着を検出する検出部と、を有するセンサ素子を複数含む匂いセンサであって、物質吸着膜が、ケイ素及び酸素を骨格とする化合物からなる微粒子と、微粒子の表面を改質する表面改質剤と、を含む多孔質性の微粒子膜であり、複数のセンサ素子のうちの少なくとも一部は、微粒子及び/又は表面改質剤の組成がそれぞれ異なることを趣旨とする。
【0086】
これによれば、高分子被膜を有する匂いセンサでは採用できなかった添加剤を用いることが可能な匂いセンサを提供することができる。
【0087】
(趣旨2)匂いセンサは、微粒子が、微細孔構造及び/又は中空構造を有するものであってもよい。
【0088】
(趣旨3)匂いセンサは、微粒子が、導電性微粒子を含有するか、又は、微粒子が中空構造を有する場合にその中空部に導電性微粒子を内包するものであってもよい。
【0089】
(趣旨4)匂いセンサは、表面改質剤が、無機酸、有機酸、無機塩、有機塩、及びイオン性液体からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものであってもよい。
【0090】
(趣旨5)匂いセンサは、検出部が、匂い物質の吸着による物質吸着膜の重量変化に伴う現象を検出する検出器であるものであってもよい。
【0091】
(趣旨6)匂いセンサは、複数のセンサ素子が、所定の間隔を隔てて基板上に配列されたものであってもよい。
【0092】
(趣旨7)匂いセンサは、検出器が、水晶振動子マイクロバランス(QCM)センサであり、物質吸着膜の重量が、水晶振動子マイクロバランス(QCM)センサの水晶振動子の重量の2%以下であるものであってもよい。
【0093】
(趣旨8)匂いセンサは、検出部が、匂い物質の吸着による物質吸着膜の導電性変化を検出する検出器であるものであってもよい。
【0094】
(趣旨9)匂いセンサは、表面改質剤が、導電性高分子と反応して導電性高分子の導電性を低下させる化合物であるものであってもよい。
【0095】
(趣旨10)匂いセンサは、複数のセンサ素子が、それぞれの検出部が隣接して配列されると共に、それぞれの物質吸着膜が、隣り合う複数のセンサ素子の隣接する複数の検出部の間で共有され、隣接する複数の検出部を覆うものであってもよい。
【0096】
(趣旨11)匂い測定システムは、匂いサンプルの匂いを検出する匂いセンサであって、請求項1から請求項10のうちいずれか1項に記載の匂いセンサと、匂いセンサが有する複数のセンサ素子のそれぞれから取得される各電気信号と、匂いサンプルの情報とが関連付けられた匂いデータを生成するデータ処理部と、を備えることを趣旨とする。
【0097】
(趣旨12)匂いセンサの製造方法は、匂い物質を吸着する物質吸着膜と、物質吸着膜への匂い物質の吸着を検出する検出部と、を有するセンサ素子を複数含む匂いセンサの製造方法であって、隣接して配列された複数の検出部の検出表面に、ケイ素及び酸素を骨格とする化合物からなる微粒子を含む多孔質性の微粒子膜であって、隣接する複数の検出部を覆う微粒子膜を配置する膜配置工程と、微粒子膜の表面に、微粒子の表面を改質する表面改質剤を塗布する表面改質工程であって、微粒子膜の表面の所定領域毎に、組成が異なる表面改質剤を塗布する表面改質工程と、を含むことを趣旨とする。
【符号の説明】
【0098】
1:匂い測定システム 10,100,200:匂いセンサ
11,201:センサ素子 13,113,203:物質吸着膜
15,115:検出器 17:センサ基板
21:微粒子 23:細孔
25:微細孔 27:導電性微粒子
51:中央処理装置 53:記憶装置
55:通信装置 60:匂いデータサーバ
70:センサ配列情報サーバ 119a,119b:所定領域
121:インクジェットヘッド 123:インクジェットノズル
205:匂いセンサ配列体 207:区画
208:小分画部
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8