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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】採血具と採血プレート
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/153 20060101AFI20240710BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20240710BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
A61B5/153 300
G01N1/10 V
G01N1/10 N
G01N33/48 S
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020148117
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042641
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519389708
【氏名又は名称】株式会社ハンドレッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一平
(72)【発明者】
【氏名】中神 裕之
(72)【発明者】
【氏名】工藤 辰也
(72)【発明者】
【氏名】江島 隆司
(72)【発明者】
【氏名】栢本 直行
(72)【発明者】
【氏名】村上 誠
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3226487(JP,U)
【文献】国際公開第2017/122314(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/122372(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/158929(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/003358(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
A61D 1/00 -99/00
A61M 3/00 - 9/00
A61M 31/00
A61M 39/00 -39/28
G01N 1/00 - 1/44
G01N 33/48 -33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレート状部材の重ね合わせ構造とされて重ね合わせ面間に採血保持流路が形成された血液保持部材を備えており、
該血液保持部材における該採血保持流路の流入口部分には接続部が設けられて、
該接続部に対して穿刺用の中空針を備えた穿刺部材が接続されており、
該穿刺部材の該中空針の内孔が該血液保持部材の該採血保持流路に連通されており、
前記血液保持部材は、前記複数のプレート状部材の重ね合わせ面間において非円形の断面形状とされた採血保持流路を有しており、
前記接続部の内孔は、該採血保持流路における非円形の断面形状よりも円形に近い断面形状とされている採血具。
【請求項2】
前記接続部は外方に向かって突出しており、該接続部に対して外挿状態で接続される前記中空針側の接続連結部が可撓性を有している請求項1に記載の採血具。
【請求項3】
前記接続部の外周面形状と内周面形状の少なくとも一方が円形とされている請求項1又は2に記載の採血具。
【請求項4】
小動物用採血具として用いられる請求項1~3の何れか1項に記載の採血具。
【請求項5】
複数のプレート状部材の重ね合わせ構造とされて重ね合わせ面間に採血保持流路が形成された血液保持部材を備えており、
該血液保持部材における該採血保持流路の流入口部分には、穿刺用の中空針を備えた穿刺部材が接続される接続部が設けられていると共に、
前記血液保持部材は、前記複数のプレート状部材の重ね合わせ面間において非円形の断面形状とされた採血保持流路を有しており、
前記接続部の内孔は、該採血保持流路における非円形の断面形状よりも円形に近い断面形状とされている採血プレート。
【請求項6】
前記接続部が外方に向かって突出して、該接続部が円形の外周断面形状を有している請求項5に記載の採血プレート。
【請求項7】
前記接続部が、前記複数のプレート状部材のうちの1つに一体的に形成されている請求項5又は6に記載の採血プレート。
【請求項8】
小動物用採血プレートとして用いられる請求項5~の何れか1項に記載の採血プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小動物等から所定量の血液を採取する際に用いられる採血具と採血プレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、採血具の一種として、国際公開第2017/122372号(特許文献1)に記載のように、複数のプレート状部材の重ね合わせ面間に細い採血流路を形成して、毛細管現象などを利用して微量の血液の採取と保持を行うものが知られている。特許文献1に記載された従来構造の採血装置は、小動物等の皮膚をピン穿刺して皮膚上に作った血玉(血液が表面張力によって球状となったもの)に対して、採血流路先端の採取口を直接に付けて毛細管現象で吸い上げることで血液採取をするものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/122372号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のごとき採血の方法では、採取前の血液が外部に暴露するため大気に接触して酸化する等の事態が避けられない。それ故、酸化反応に影響される分析には不向きであり、分析用途が限定されてしまうおそれがあった。
【0005】
本発明の解決課題は、採取する血液が大気に触れ難いように改善された、新規な採血具を提供することにある。
【0006】
また、本発明は、上述の如き採血具に好適に用いられる、新規な採血プレートを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第1の態様は、採血具であって、複数のプレート状部材の重ね合わせ構造とされて重ね合わせ面間に採血保持流路が形成された血液保持部材を備えており、該血液保持部材における該採血保持流路の流入口部分には接続部が設けられて、該接続部に対して穿刺用の中空針を備えた穿刺部材が接続されており、該穿刺部材の該中空針の内孔が該血液保持部材の該採血保持流路に連通されており、前記血液保持部材は、前記複数のプレート状部材の重ね合わせ面間において非円形の断面形状とされた採血保持流路を有しており、前記接続部の内孔は、該採血保持流路における非円形の断面形状よりも円形に近い断面形状とされているものである。
【0009】
本態様の採血具によれば、血液保持部材における採血保持流路の採血口(流入口)側に、中空針を備えた穿刺部材を設けたことにより、小動物等の体内から中空針で採取した血液を、血液保持部材の採血保持流路へ直接に導き入れることが可能になる。それ故、複数のプレート状部材の重ね合わせ面間に採血保持流路を形成した血液保持部材であっても、血液の採取時における大気への接触やそれに伴う酸化等の問題が軽減乃至は回避される。
【0010】
第2の態様は、第1の態様に記載された採血具において、前記接続部は外方に向かって突出しており、該接続部に対して外挿状態で接続される前記中空針側の接続連結部が可撓性を有しているものである。
【0011】
本態様の採血具によれば、例えば、中空針を小動物等に穿刺する際に、手などがプレート状の血液保持部材に接触して外力が及ぼされたとしても、接続連結部の変形によって外力が穿刺部材側へ伝達され難い。
【0012】
穿刺部材の接続連結部が接続部の外周面形状に応じて変形することによって、穿刺部材と血液保持部材が容易に連結される。しかも、接続連結部と接続部の間に隙間ができ難く、血圧等の影響による穿刺部材と血液保持部材の接続部分の間の隙間からの血液の漏れが低減乃至は防止される。
【0013】
第3の態様は、第1又は第2の態様に記載された採血具において、前記接続部の外周面形状と内周面形状の少なくとも一方が円形とされているものである。
【0014】
本態様の採血具によれば、接続部の外周面形状と内周面形状の少なくとも一方を円形としたことにより、中空針の内孔と採血保持流路の接続が容易となる。しかも、例えば嵌入や圧入などによる穿刺部材と血液保持部材の接続に際して、矩形の接続部において問題になり易い角部や辺部の隙間を防止し得て、穿刺部材と血液保持部材の接続部分における隙間が抑えられ得る。これにより、中空針の内孔と採血保持流路とを含む血液の流路は、外部空間に対する密閉性の向上が図られている。その結果、予期しない血液の漏れや、血液の外気への接触に起因する酸化等の問題などを防止することができると共に、微小血液の確実な採取量の確保なども可能と為し得る。
【0015】
第3の態様に記載された採血具において、好適には、円形の外周面形状を有する前記接続部が前記採血保持流路の前記流入口部分において外方に向かって突出しており、該接続部に対して前記穿刺部材が外挿状態で接続されている。
【0016】
本態様の採血具によれば、穿刺部材を接続部に簡単に接続することができると共に、穿刺部材側のチューブなどを接続部に接続する場合に、チューブと接続部の間に隙間が形成され難い。特に弾性を有するチューブなどを接続部に外挿状態で嵌め合せて接続すれば、円形とされた接続部の外周面をチューブの内周面に対して全周に亘って密着させ易く、接続部分における血液の漏れが防止される。
【0017】
第4の態様は、第1~第3の何れか1つの態様に記載された採血具において、小動物用採血具として用いられるものである。
【0018】
第1~第3の態様に記載された採血具は、小動物から少量の血液を採取する場合に好適に採用され得る。
【0019】
第5の態様は、採血プレートにおいて、複数のプレート状部材の重ね合わせ構造とされて重ね合わせ面間に採血保持流路が形成された血液保持部材を備えており、該血液保持部材における該採血保持流路の流入口部分には、穿刺用の中空針を備えた穿刺部材が接続される接続部が設けられていると共に、前記血液保持部材は、前記複数のプレート状部材の重ね合わせ面間において非円形の断面形状とされた採血保持流路を有しており、前記接続部の内孔は、該採血保持流路における非円形の断面形状よりも円形に近い断面形状とされているものである。
【0020】
本態様の採血プレートによれば、採血保持流路の流入口部分において、接続部に中空針を備える穿刺部材を簡単に接続して、中空針の内孔を採血保持流路に連通させることができる。これにより、従来に比して、血液の採取時における大気への接触やそれに伴う酸化等の問題が軽減乃至は回避される。
【0021】
第6の態様は、第5の態様に記載された採血プレートにおいて、前記接続部が外方に向かって突出して、該接続部が円形の外周断面形状を有しているものである。
【0022】
本態様の採血プレートによれば、接続部の外周面形状を円形としたことにより、例えば嵌入や圧入などによる穿刺部材と血液保持部材の接続に際して、矩形の接続部において問題になり易い角部や辺部の隙間が生じ得ず、接続部分の隙間が抑えられ得る。これにより、中空針の内孔と採血保持流路とを含む血液の流路は、外部空間に対する密閉性の向上が図られている。その結果、血圧等による予期しない血液の漏れや、血液の外気への接触に起因する酸化等の問題などを防止することができると共に、微小血液の確実な採取量の確保なども可能と為し得る。
【0023】
第7の態様は、第5又は6の態様に記載された採血プレートにおいて、前記接続部が、前記複数のプレート状部材のうちの1つに一体的に形成されているものである。
【0024】
本態様の採血プレートによれば、接続部が複数のプレート状部材に跨って形成される場合に比して、重ね合わせによる段差などが接続部の表面に形成され難く、接続部の表面を滑らかな形状とし易い。それ故、例えば、中空針を有する穿刺部材などの別部材が接続部に接続される場合に、接続部分における血液の漏れや外気への接触などが低減され得る。
【0027】
接続部の内孔は、円形に近い断面形状とされることにより、成形時の熱収縮などに起因する変形による部材寸法精度の低下が抑えられ得る。また、肉厚を均一にすることで外周面の断面形状を円形状に精度良く成形することができ、その結果、接続部に穿刺部材などを外挿状態で接続する場合に、接続部分に隙間が形成され難い。
【0028】
の態様は、第5~第の何れか1つの態様に記載された採血プレートにおいて、小動物用採血プレートとして用いられるものである。
【0029】
第5~第の態様に記載された採血プレートは、小動物から少量の血液を採取する場合に好適に採用され得る。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、採血時に血液の大気への接触を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第1の実施形態としての小動物用採血具を示す平面図
図2図1のII-II断面図
図3図1に示す小動物用採血具を構成する小動物用採血プレートの斜視図
図4図3の小動物用採血プレートを拡大して示す平面図
図5図4のV-V断面図
図6A図3に示す小動物用採血プレートの分解斜視図
図6B図6Aの小動物用採血プレートを半透明化して示す分解斜視図
図7図4のVII-VII断面を拡大して示す図
図8図4のA部を拡大して示す図
図9図8の底面図
図10図8の左側面図
図11図4のXI-XI断面を拡大して示す図
図12図3に示す小動物用採血プレートを構成する第1のプレート状部材の製造工程を説明する要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
図1,2には、第1の実施形態としての小動物用採血具10が示されている。小動物用採血具10は、小動物用採血プレート12に穿刺部材14が取り付けられた構造を有している。以下の説明では、原則として、先端側とは後述する中空針76の針先80側となる図1中の左側を、基端側とは図1中の右側を、それぞれ言う。
【0034】
小動物用採血プレート12は、図3~5に示すように、全体として板状とされており、血液保持部材16から接続部18が突出した構造を有している。血液保持部材16は、先端部分を構成する採取部20と、基端部分を構成し、遠心分離後に血球が回収される血球回収部22とを、備えている。
【0035】
採取部20は、板状の先端部24と、先端部24と血球回収部22をつなぐ3つの抽出部26a,26b,26cとが、一体的に設けられた構造を有している。先端部24は、抽出部26よりも幅広とされており、略角丸四角板形状とされている。
【0036】
先端部24につながる抽出部26aは、幅方向(図4中、上下方向)の中央部分に形成されたスリット28によって幅方向に分割されており、スリット28の幅方向両側に位置する部分がそれぞれ略四角柱形状とされている。採取部20における長さ方向(図4中、左右方向)の中間に位置する抽出部26bは、幅方向の中央部分にスリット28とスリット30が形成されており、スリット28,30に対する幅方向の両側部分が、スリット28,30の間に設けられた連結部分32によって連結されている。血球回収部22につながる抽出部26cは、先端部分がスリット30の幅方向の両側に位置していると共に、スリット30よりも基端側が略矩形板状とされている。
【0037】
先端部24と抽出部26aの接続部分には、切断用溝34aが形成されている。抽出部26aと抽出部26bの接続部分には、切断用溝34bが形成されている。抽出部26bと抽出部26cの接続部分には、切断用溝34cが形成されている。抽出部26cと血球回収部22の接続部分には、切断用溝34dが形成されている。切断用溝34は、血液保持部材16の厚さ方向の両面に形成されており、血液保持部材16の幅方向に直線的に延びている。採取部20は、各切断用溝34の形成部分において断面積が小さくされている。これにより、採取部20は、各切断用溝34の形成部分において手で折ることが可能であり、それによって任意の抽出部26a~26cを簡単に切り離すことができる。
【0038】
スリット28は、長さ方向の両端部分が、先端部24と抽出部26aの接続部分と、抽出部26aと抽出部26bの接続部分とに達しており、切断用溝34a,34bがスリット28によって分断されている。スリット30は、抽出部26bと抽出部26cの接続部分に跨って設けられており、切断用溝34cがスリット30によって分断されている。これらによって、先端部24と抽出部26aの接続部分と、抽出部26aと抽出部26bの接続部分と、抽出部26bと抽出部26cの接続部分とが、切断用溝34a~34cだけでなく、スリット28,30によっても断面積を小さくされている。
【0039】
血球回収部22は、図3,4に示すように、全体として略角丸四角板形状とされており、採取部20よりも幅寸法が大きくされている。血球回収部22が採取部20よりも大きな面積で形成されていることによって、血球回収部22が指で摘まんで操作し易い大きさとされている。更に、血球回収部22の表面の面積が大きく確保されていることにより、試料の名称や識別番号、採取日などの識別情報を記入したり、識別情報を記入したラベルを貼り付けたりすることも可能である。このように、血球回収部22の表面は、必要な情報を表示するための情報表示部として使用され得る。
【0040】
血球回収部22の先端側には、幅方向の中央部分において抽出部26cが一体的につながっている。血球回収部22の先端側における幅方向の両端部分には、抽出部26cに対して幅方向の外側に離れて位置する一対の突出部36,36が設けられている。突出部36の突出長さ寸法は、好適には、抽出部26cの長さ寸法よりも小さく且つ抽出部26cの長さ寸法の半分よりも大きくされる。
【0041】
血液保持部材16は、内部に採血保持流路38が形成されている。採血保持流路38は、一方の端部が採取部20の先端部24の先端面に開口していると共に、採取部20及び血球回収部22をU字状に延びて、他方の端部が先端部24に設けられた空間部40に連通されている。採血保持流路38は、毛細管現象による流路全体への血液の浸入が生じる程度に細い流路断面積を有していることが望ましい。具体的には、例えば、採血保持流路38の流路断面は、幅が0.6mm、深さが1mmとされる。尤も、採血保持流路38は、流路断面積や流路断面形状が変化していても良い。
【0042】
採血保持流路38の壁内面は、例えば、表面処理による親水化処理が施されることによって、親水性とされている。採血保持流路38の壁内面は、好適には、血液の凝固を防止する抗凝固剤のコーティング処理が施されている。
【0043】
採血保持流路38は、先端部24から抽出部26a~26cを通って血球回収部22まで延びていると共に、血球回収部22で折り返して抽出部26a~26cを通って先端部24まで延びている。従って、採血保持流路38は、抽出部26a~26cにおいて、幅方向に離れた2箇所で長さ方向に貫通している。抽出部26aに設けられた採血保持流路38の容積と、抽出部26bに設けられた採血保持流路38の容積と、抽出部26cに設けられた採血保持流路38の容積は、互いに略同じとされていることが望ましい。抽出部26a~26cに設けられた採血保持流路38の容積は、採取した血液によって行われる分析の種類などに応じて適宜に設定されれば良いが、例えば血液の定量分析を行う場合には、各抽出部26の採血保持流路38の容積がそれぞれ10μLとされる。
【0044】
採血保持流路38に連通された空間部40は、採血保持流路38に比して断面積が大きくされており、毛細管現象による血液の浸入が生じない程度の大きさとされている。空間部40には、通気孔42が連通されている。通気孔42は、先端部24の一方の表面に開口しており、空間部40が通気孔42を通じて外部空間に連通されている。
【0045】
採血保持流路38と空間部40は、血液保持部材16を構成する第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46の重ね合わせ面間に形成されている。即ち、採血保持流路38が設けられた血液保持部材16は、図6A,6Bに示すように、第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46の重ね合わせ構造とされている。なお、図6Aでは、見易さのために、第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46が不透明で図示されている。図6Bでは、第1のプレート状部材44における第2のプレート状部材46との重ね合わせ面の構造を示すために、第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46が半透明で図示されている。
【0046】
第1のプレート状部材44は、採取部20を構成する第1の幅狭部44aと、血球回収部22を構成する第1の幅広部44bとを、備えている。第1のプレート状部材44には、第1の幅広部44bの四隅部分において、第2のプレート状部材46との重ね合わせ面に開口する位置決め凹部47が設けられている。第1のプレート状部材44には、採血保持流路38を構成する凹溝48と、空間部40を構成する凹所50とが、厚さ方向の表面に開口して形成されている。凹溝48と凹所50は、何れも非円形断面を有しており、本実施形態では略矩形断面とされている。凹所50の底壁部には、通気孔42が貫通形成されている。
【0047】
第2のプレート状部材46は、第1のプレート状部材44と略対応する形状とされており、採取部20を構成する第2の幅狭部46aと、血球回収部22を構成する第2の幅広部46bとを、備えている。第2のプレート状部材46は、第1のプレート状部材44に比して薄肉とされている。第2のプレート状部材46には、第2の幅広部46bの四隅部分において、第1のプレート状部材44との重ね合わせ面に突出する位置決め凸部51が設けられている。
【0048】
第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46は、好適には、透明乃至は半透明とされており、第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46の間に形成される採血保持流路38が、外部から視認可能とされる。特に、採血保持流路38に対する血液の浸入を外部から目視で確認できることが望ましい。尤も、第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46は、全体が透明乃至は半透明である必要はなく、採血保持流路38の全体を外部から目視できる必要もない。第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46は、不透明であっても良い。
【0049】
第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46は、例えば、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)などの合成樹脂によって形成されている。好適には、成形時の転写性に優れたCOPやCOCが採用される。
【0050】
COP又はCOCによって形成された第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46は、重ね合わされる面を表面処理してから加熱し、重ね合わせた状態で相互に押し付ける方向の圧縮力を及ぼすことにより、化学的な結合によって相互に固着される。本実施形態において、第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46の重ね合わせ面には、相互に重ね合わされることによって第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46を重ね合わせ方向と直交する方向で位置決めする傾斜面52,54が設けられている。すなわち、第1のプレート状部材44の先端部分には、先端側に向かって厚肉となる方向へ傾斜した傾斜面52が設けられていると共に、第2のプレート状部材46の先端部分には、先端側に向かって薄肉となる方向へ傾斜した傾斜面54が設けられている。そして、図5に示すように、第1のプレート状部材44の傾斜面52と第2のプレート状部材46の傾斜面54が重ね合わされることによって、第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46が長さ方向(図5中の左右方向)で位置決めされている。第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46が傾斜面52,54によって位置決めされることにより、第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46の重ね合わせ部分の略全体に重ね合わせ方向の圧縮力を及ぼして全体を固着させることができる。
【0051】
なお、第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46を重ね合わせ方向と直交する方向で位置決めするために、傾斜面52,54に変えて、重ね合わせ方向と略平行な段差面を設けることもできる。しかしながら、段差面には圧接方向の力が作用し得ないことから、段差面間が十分な強度で固着されないおそれがあると共に、段差面間の流体密性が十分に確保されないおそれがある。また、傾斜面52,54やそれらに代わる段差面などの位置決め構造がない場合には、第1のプレート状部材と第2のプレート状部材が、平坦な重ね合わせ面の形状に限定されることとなり、重ね合わせ方向の圧接に際して、重ね合わせ方向と直交する方向で相対変位して、正しい位置で貼り合わされないおそれがある。
【0052】
第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46が重ね合わされて固着されることにより、第1のプレート状部材44に設けられた凹溝48及び凹所50の開口が、第2のプレート状部材46によって覆蓋される。これにより、図4,5に示すように、血液保持部材16の内部には、第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46の重ね合わせ面間において、採血保持流路38と空間部40がそれぞれ形成される。凹溝48が略矩形断面とされていることから、凹溝48の開口を平面で覆って形成された採血保持流路38は、図7に示すように、非円形の断面形状で形成されており、本実施形態では略矩形断面とされている。同様に、凹所50が略矩形断面とされていることから、凹所50の開口を平面で覆って形成された空間部40は、略矩形断面を有している。
【0053】
血液保持部材16を構成する第1のプレート状部材44には、接続部18が一体的に形成されている。接続部18は、図8~11に示すように、略円筒形状とされており、血液保持部材16の先端部24から先端側へ向かって突出している。接続部18の内孔56は、採血保持流路38に連通されており、採血保持流路38が内孔56を通じて外部空間に開放されている。接続部18の内孔56は、採血保持流路38と同様に、血液が毛細管現象によって浸入し得る小径の孔とされている。接続部18の内孔56は、採血保持流路38よりも円形に近い断面形状で形成されており、本実施形態では略円形断面とされている。要するに、本実施形態の接続部18は、外周面と内周面が、何れも略円筒面とされている。
【0054】
接続部18の外周面は、成形時のパーティングラインなどの凹凸が形成されない滑らかな略円筒形状とされている。接続部18を備える第1のプレート状部材44は、図12に示すように、先端部24の傾斜面52よりも基端側が、厚さ方向に分割された基端分割金型58,60によって成形される。更に、第1のプレート状部材44は、先端部24の傾斜面52が設けられた部分と接続部18が、厚さ方向に移動可能で傾斜面52を成形する先端分割金型62と、長さ方向に移動可能なスライド金型64と、スライド金型64に対して長さ方向に移動可能なピン金型66とによって成形される。
【0055】
スライド金型64は、先端部24の先端面と傾斜面52に対する裏面とを成形すると共に、長さ方向に延びる円筒形状の貫通孔68を備えている。この貫通孔68の中央に接続部18の内孔56を成形するピン金型66が先端側から挿入されており、ピン金型66の基端側の端面が基端分割金型58における凹溝48の成形部分に長さ方向で突き当てられている。
【0056】
そして、基端分割金型58,60と、先端分割金型62と、スライド金型64と、ピン金型66とを組み合わせた内部に形成されるキャビティ70に合成樹脂材料を充填して成形することにより、第1のプレート状部材44が形成される。
【0057】
接続部18は、貫通孔68の壁内面によって外周面が成形されることから、接続部18の外周面にパーティングラインは形成されない。接続部18の内孔56は、ピン金型66によって成形されることから、接続部18の内周面にもパーティングラインは形成されない。
【0058】
先端部24における傾斜面52の形成部分は、先端分割金型62とスライド金型64とピン金型66とによって成形されることから、当該部位には、接続部18の内孔56と連通されたトンネル状流路72が形成される。このトンネル状流路72は、基端部が採血保持流路38に連通されており、接続部18の内孔56とトンネル状流路72とによって、流入口74が構成されている。本実施形態では、血液保持部材16における採血保持流路38の流入口がトンネル状流路72によって構成されていると共に、接続部18における流入口が内孔56によって構成されている。従って、接続部18は、血液保持部材16における採血保持流路38の流入口部分において突出して設けられている。
【0059】
このような構造とされた小動物用採血プレート12には、図1,2に示すように、穿刺部材14が装着される。穿刺部材14は、穿刺用の中空針76を備えている。中空針76は、ステンレス鋼などで形成されて、先端から基端まで貫通する内孔78を備えている。中空針76は、先端部分が鋭利な先細形状を呈する針先80とされている。
【0060】
中空針76の基端部は、針ハブ82に接合されている。針ハブ82は、略円筒形状とされて、中空針76の基端部が針ハブ82に挿入状態で連結されている。針ハブ82の内孔84は、中空針76の内孔78と連通されている。針ハブ82の基端部には、接続連結部としての接続チューブ86が装着されている。接続チューブ86は、合成樹脂などで形成されて可撓性を有しており、使用者により針ハブ82の基端部に外挿状態に取り付けられる。なお、接続チューブ86を小動物用採血プレート12と異なる基材(材質)である合成樹脂である、例えば軟質塩化ビニル、エラストマーなどが可撓性を有するため好適である。また小動物用採血プレート12と接続チューブ86を異なる基材にする以外にも接続チューブ86の肉厚を接続部18の肉厚に比して薄くすることで、接続チューブ86側に可撓性を持たせてもよい。また、接続チューブ86の内径は接続部18の外径より小さいことが好ましく、接続チューブ86と接続部18との間に隙間を生じさせないことで、血液が漏出する事態を低減することができる。また、接続チューブ86は、接続部18を挿入しやすいように、基端側に向かって内径が若干拡大する形状としてもよい。接続チューブ86は、外力による変形のない初期形状において略円筒形状とされており、特に内周面が略円筒面とされている。接続チューブ86の内周面は、接続部18の外周面よりも小径とされている。接続チューブ86は、好適には、透明乃至は半透明とされて、内孔88に対する血液の流入を外部から目視で確認可能とされる。穿刺部材14は、中空針76の内孔78と針ハブ82の内孔84と接続チューブ86の内孔88とによって、長さ方向に連続する内部流路90が形成されている。なお、針ハブ82と接続チューブ86は、非接着で嵌合されていても良いし、接着剤などで固着されていても良いし、一体に形成されても良い。
【0061】
本実施形態では、針ハブ82に翼状部92が設けられている。翼状部92は、例えば軟質の合成樹脂により形成されている。翼状部92は、筒状の嵌合筒部94に対して、板状の連結部96,96が嵌合筒部94の接線方向に突出して一体形成されていると共に、連結部96,96の嵌合筒部94からの突出先端側にそれぞれ翼本体98が一体形成されている。翼状部92は、嵌合筒部94が針ハブ82に外挿状態で固着されることによって、針ハブ82に取り付けられている。
【0062】
例えば、一対の翼本体98,98が相互に重ね合わされるように翼状部92を変形させて、重ね合わされた翼本体98,98を指先で摘まむことにより、小径の穿刺部材14を容易に持つことができる。また、翼本体98,98を持つことにより、穿刺の安定化が図られると共に、中空針76と翼本体98,98が固定されているので、中空針76を小動物に穿刺する際に、中空針76の刃面が天井を向きやすく、尻尾のような小さい対象物に対しても穿刺しやすい。また、小動物の表面に対してより平行に近い角度で穿刺し易くなって、痛みの低減なども期待できる。なお、一対の翼本体98,98には、相互に対応する位置に凹部100,100と凸部102,102が設けられている。そして、翼本体98,98を相互に重ね合わせて摘まむ際に、凹部100への凸部102の嵌まり込みによって、翼本体98,98が重ね合わせ面と平行な方向で相互に位置決めされる。
【0063】
穿刺部材14は、小動物用採血プレート12に接続される。即ち、穿刺部材14の接続チューブ86が小動物用採血プレート12の接続部18に外挿状態で取り付けられることによって、小動物用採血プレート12と穿刺部材14が接続される。これにより、小動物用採血プレート12の採血保持流路38が、穿刺部材14の内部流路90に対して、接続部18の内孔56を通じて連通される。なお、内部流路90の流路断面積は、採血保持流路38や内孔56の断面積と同じであっても良いし、異なっていても良い。なお、内部流路90の流路断面積を大きくすることで採血時間を短くすることもできる。
【0064】
小動物用採血プレート12に穿刺部材14を接続した小動物用採血具10は、例えば、小動物に対して穿刺部材14の中空針76を穿刺して使用される。穿刺された中空針76の針先80から内部流路90に流れ込んだ血液が、血圧によって接続部18の内孔56及び採血保持流路38に浸透する。この際に、内部流路90と接続部18の内孔56と採血保持流路38に存在する空気は、血液の浸入に伴って、空間部40に連通された通気孔42を通じて外部に放出される。これにより、接続部18の内孔56と採血保持流路38とに存在する空気が、血液の浸入を阻害するのを防ぐことができる。
【0065】
血液が採血保持流路38の全体を満たすと、断面積の大きい空間部40では毛細管現象による血液の浸入が生じず、血液の流入が減速又は停止する。血液が採血保持流路38と空間部40の接続部分まで達したことを確認した後、中空針76を小動物から抜去することにより、採血保持流路38に所定量の血液が採取される。
【0066】
中空針76を抜去した後、小動物用採血プレート12を穿刺部材14から取り外す。穿刺部材14から取り外された小動物用採血プレート12は、例えば、全体がそのまま遠心分離機用のホルダに装着されて、遠心分離処理などの処理に供され得る。
【0067】
また、例えば、切断用溝34a~34dの少なくとも1つにおいて、適宜に指先で折って切断し、抽出部26a~26cの少なくとも1つに採取された血液を分析用の試料とすることもできる。抽出部26aは、スリット28によって幅方向に分割されていることから、抽出部26b,26cの半量の血液を試料として得ることもできる。抽出部26bは、連結部分32が第1のプレート状部材44だけによって構成されており、連結部分32の断面積が小さくされていることから、連結部分32を折って切断することが可能とされている。これにより、抽出部26bにおいても抽出部26cの半量の血液を試料として得ることができる。なお、先端部24や血球回収部22に採取された血液を試料として利用することも可能である。
【0068】
このような本実施形態に従う構造の小動物用採血具10によれば、中空針76を小動物に穿刺して、血管中の血液を外部空間に露出させることなく採血保持流路38へ導き入れることができる。それ故、予め大気中に形成された血玉から血液を採取する従来の方法に比して、血液の酸化が生じ難く、良好な試料を得ることができる。
【0069】
また、採取に適した大きさの血玉を形成する訓練等が不要になる。更に、穿刺針を穿刺して血玉を形成した後で血液採取用の器具に持ち替えるといった作業の煩雑さも解消される。
【0070】
小動物用採血プレート12において穿刺部材14に接続される接続部18は、外周面がパーティングライン等の凹凸のない滑らかな円筒状面とされている。これにより、接続チューブ86が接続部18に外挿状態で取り付けられる際に、接続チューブ86と接続部18の間に隙間ができ難く、小動物用採血プレート12と穿刺部材14の接続部分における血液の漏れが防止される。しかも、接続チューブ86が可撓性を有していることから、接続チューブ86が接続部18の外周面に密着し易く、接続チューブ86と接続部18の間に隙間がより形成され難い。
【0071】
なお、従来の小動物用採血プレートは、全体がプレート状部材を貼り合わせた構造であることから、接続部の外周面が矩形断面とされており、接続チューブ86が可撓性を有していても、接続部の角部や辺部に隙間が発生し得る。例えば鼠のように、小動物の中には人間と同程度の血圧を有する動物がおり、当該隙間から血液が漏れるおそれがある。しかし、本実施形態の小動物用採血プレート12は、接続部18の外周面が円形断面とされていることから、接続チューブ86が接続部18の外周面に全周にわたって略均一に密着して、接続部18と接続チューブ86の間に隙間が形成され難い。
【0072】
小動物用採血プレート12の接続部18に取り付けられる穿刺部材14の接続チューブ86が弾性を有しており、接続チューブ86を拡径変形させながら接続部18に被せ付けることにより、小動物用採血プレート12と穿刺部材14を簡単に接続することができる。また、接続チューブ86が接続部18に対して弾性によって嵌合されていることにより、接続チューブ86から接続部18を引き抜くだけで、小動物用採血プレート12と穿刺部材14を簡単に分離させることができる。
【0073】
小動物用採血プレート12と穿刺部材14の間に、可撓性を有する接続チューブ86が設けられることで、小動物用採血プレート12と穿刺部材14の間で力の伝達が低減される。それ故、例えば、穿刺部材14を小動物に穿刺する際に、小動物用採血プレート12に手が当たるなどして外力が及ぼされたとしても、穿刺部材14への外力の伝達が接続チューブ86の変形によって低減されて、意図せず切断用溝が切断されてしまうなどの不具合が回避される。
【0074】
小動物用採血プレート12が第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46を重ね合わせて固着した構造を有しており、採血保持流路38が第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46の重ね合わせ面間に形成されている。それ故、採血保持流路38を簡単に形成することができると共に、形状や寸法の精度に優れた採血保持流路38を得ることができる。
【0075】
接続部18が第1のプレート状部材44に一体的に形成されていることにより、複数の部材が協働して接続部を構成する場合に比して、接続部18の外周面を滑らかに成形し易く、接続部18と接続チューブ86の間に隙間が形成され難い。特に、第1のプレート状部材44と第2のプレート状部材46を貼り合わせる際に、貼り合わせ面と平行な方向に微小なずれが生じたとしても、接続部18の外周面形状に影響しない。
【0076】
接続部18の内孔56は、採血保持流路38よりも円形に近い断面形状で形成されている。それ故、接続部18の成形に際して、成形時の熱収縮等に起因する変形に対して、接続部18の寸法精度を確保し易い。接続部18の内周面の断面形状の非円形率が大きいと、接続部18の外周面も歪になり易いことから、内周面が略円形断面とされていることによって外周面の形状が滑らかとされて、接続部18と接続チューブ86の間の隙間が低減される。
【0077】
なお、接続部18は、図8~10に示すように、外周面が略円筒形状とされて、板状の血液保持部材16から先端側へ突出していることによって、意匠的な纏まりのある部分として認識される。また、接続部18は、穿刺部材14を接続するという特定の機能を有する部分であって、外周面が略円筒形状とされていることにより、穿刺部材14の外挿による接続に際して接続部分における隙間の形成を防いで血液の漏れを防止するという効果を奏する。更に、接続部18は、板材の貼り合わせによって形成されたプレート部に対して、略円筒形の外周面形状という特別な意匠を具備することによって、看取する者の注意を引き、看取する者に美感を起こさせるに足りる。
【0078】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、抽出部26の数は、1つであっても良いし、2つであっても良いし、4つ以上であっても良い。好適には、複数の抽出部26が設けられ、それによって1度の採血によって複数回の定量分析を実施可能になる。複数の抽出部26を設ける場合に、各抽出部26において保持可能な血液の量を相互に異ならせることもできる。
【0079】
血液保持部材16は、3枚以上のプレート状部材を重ね合わせて形成することもできる。例えば、3枚のプレート状部材を重ね合わせる場合には、中間のプレート状部材にスリットを形成して、当該スリットの開口部を両側の2枚のプレート状部材で覆うことにより、採血保持流路を形成することもできる。また、採血保持流路を部分的に1つのプレート状部材においてトンネル構造で形成することもできる。
【0080】
前記実施形態ではCOP又はCOCによって形成されたプレート状部材44,46の固着方法を説明したが、前記実施形態の固着方法はあくまでも例示である。例えば、プレート状部材の形成材料等に応じて、レーザーによる溶着、接合面の活性化による貼り合わせ、接着剤による接着など、固着方法は適宜に変更され得る。
【0081】
前記実施形態の接続部18は、1つのプレート状部材44に一体的に形成されていたが、接続部は、複数のプレート状部材が協働して構成しても良い。即ち、例えば、接続部の上半周部分が形成された第1のプレート状部材44と、接続部の下半周部分が形成された第2のプレート状部材46とを、重ね合わせて固着することにより、筒状の接続部を形成することもできる。この場合には、接続部の外周面に重ね合わせによる段差が形成され得るが、接続チューブ86を硬度や弾性が好適に調整された材質とすることにより、隙間を低減させて、液漏れが生じ難くすることも可能である。また、外周面に凹凸のないキャップ状部材を接続部の外周面に設けることで、段差等の凹凸をキャップ状部材によって吸収することもできる。キャップ状部材は、例えば、接続部とは別部材とされて接続部の外周面に嵌着されていても良いし、多色成形によって接続部の外周面上に一体的に成形されても良い。
【0082】
接続部は、必ずしもプレート状部材に一体的に設けられるものに限定されず、例えば、プレート状部材とは別部品とされて、プレート状部材の先端部分に取り付けられるようにもされ得る。また、突出する筒状の接続部を採用する場合に、プレート状部材の表面に開口する凹所を設けて、かかる凹所内で底部から突出するように接続部を形成しても良い。
【0083】
接続部は、例えば、穿刺部材14側の接続連結部と嵌め合わされる嵌合面が、円形以外の断面形状とされていても良い。このように、接続部は円筒形状に限定されるものではない。
【0084】
前記実施形態では、穿刺部材14の接続チューブ86が小動物用採血プレート12の接続部18に対して外挿状態で接続されているが、例えば、穿刺部材の接続連結部が、接続部の内周へ嵌め入れられて、穿刺部材が接続部に接続されるようにしても良い。この場合に、接続部は、必ずしも血液保持部材から先端側へ向かって突出している必要はなく、例えば、血液保持部材の先端面に開口して穿刺部材が嵌入される穴によって接続部を構成することもできる。
【0085】
小動物用採血プレート12と穿刺部材14は、分離可能に接続されることが望ましいが、分離不可能に接続されていても良い。例えば、小動物用採血プレート12の成形時に、中空針76を接着剤やインサート成形によって小動物用採血プレート12に固着状態で接続して設けることもできる。また、穿刺部材14の接続チューブ86を、小動物用採血プレート12の接続部18に対して、接着や溶着などの手段で固着しても良い。また、穿刺部材14の接続チューブ86と小動物用採血プレート12との接続は、ねじ構造を用いた螺合による接続であっても良い。また、穿刺の際に、小動物用採血プレート12を把持すると穿刺操作が難しいことから、小動物用採血プレート12より先端側に指で両側面を抓むための把持筒部を設けたり、翼部を設けたりするのが好ましい。特に、プレート状の血球保持部は、その形状故に手の平等に当たりやすいため、血球保持部から離間した位置に翼部を設けることで、穿刺時に手が小動物用採血プレート12に当たり難くなる。なお、小動物用採血プレート12と穿刺部材14が分離不可能に接続される場合には、例えば、採血の完了後に小動物用採血プレート12の先端部24と抽出部26aを切断して分離させることで、採取した血液の保持部分を穿刺部材14から分離させることができる。
【0086】
小動物用採血プレート12と穿刺部材14を接続する接続連結部は、前記実施形態に示した接続チューブ86のような可撓性を有する部材であることが望ましいが、これに限定されない。また、接続連結部は、一部材で形成しても良いし、複数部材で形成しても良い。
【0087】
手指で摘まむことが可能な翼状部92を穿刺部材14に設けることによって、穿刺部材14を持ち易くなって、穿刺作業が容易になり得るが、翼状部92は必須ではない。例えば、穿刺部材14の針ハブ82の側面に指先で摘まむための把持面を設けて、把持面において針ハブ82を持ったり、穿刺部材14に接続された小動物用採血プレート12の血球回収部22を持つなどして、小動物への穿刺を行うこともできる。
【0088】
小動物用採血プレート12は、穿刺部材14と接続された状態で小動物用採血具10として採血に使用される他、従来と同様に、小動物の皮膚上に形成された血玉に流入口74の先端を接触させることによって血液を採取することもできる。なお、この場合には、接続部18の先端面に径方向に延びる溝状の切欠きや穴状の凹部などの拡開部を形成して、血玉からの採血がスムーズに実行されるようにすることもできる。
【0089】
前記実施形態では小動物用の採血具10及び採血プレート12について説明したが、本発明に係る採血具及び採血プレートは、必ずしも小動物の採血にのみ用いられるものではなく、例えば大型の動物や人などの採血にも用いられ得る。
また、本発明は、もともと以下(i)~(ix)に記載の各発明を何れも含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
本発明は、
(i) 複数のプレート状部材の重ね合わせ構造とされて重ね合わせ面間に採血保持流路が形成された血液保持部材を備えており、該血液保持部材における該採血保持流路の流入口部分には接続部が設けられて、該接続部に対して穿刺用の中空針を備えた穿刺部材が接続されており、該穿刺部材の該中空針の内孔が該血液保持部材の該採血保持流路に連通されている採血具、
(ii) 前記接続部は外方に向かって突出しており、該接続部に対して外挿状態で接続される前記中空針側の接続連結部が可撓性を有している(i)に記載の採血具、
(iii) 前記接続部の外周面形状と内周面形状の少なくとも一方が円形とされている(i)又は(ii)に記載の採血具、
(iv) 小動物用採血具として用いられる(i)~(iii)の何れか1項に記載の採血具、
(v) 複数のプレート状部材の重ね合わせ構造とされて重ね合わせ面間に採血保持流路が形成された血液保持部材を備えており、該血液保持部材における該採血保持流路の流入口部分には、穿刺用の中空針を備えた穿刺部材が接続される接続部が設けられている採血プレート、
(vi) 前記接続部が外方に向かって突出して、該接続部が円形の外周断面形状を有している(v)に記載の採血プレート、
(vii) 前記接続部が、前記複数のプレート状部材のうちの1つに一体的に形成されている(v)又は(vi)に記載の採血プレート、
(viii) 前記採血保持流路が、前記複数のプレート状部材の重ね合わせ面間において非円形の断面形状で形成されている一方、該採血保持流路の前記流入口部分を構成する前記接続部の内孔が、該採血保持流路よりも円形に近い断面形状で形成されている(v)~(vii)の何れか1項に記載の採血プレート、
(ix) 小動物用採血プレートとして用いられる(v)~(viii)の何れか1項に記載の採血プレート、
に関する発明を含む。
上記(i)の態様に記載された採血具によれば、血液保持部材における採血保持流路の採血口(流入口)側に、中空針を備えた穿刺部材を設けたことにより、小動物等の体内から中空針で採取した血液を、血液保持部材の採血保持流路へ直接に導き入れることが可能になる。それ故、複数のプレート状部材の重ね合わせ面間に採血保持流路を形成した血液保持部材であっても、血液の採取時における大気への接触やそれに伴う酸化等の問題が軽減乃至は回避される。
上記(ii)の態様に記載された採血具によれば、例えば、中空針を小動物等に穿刺する際に、手などがプレート状の血液保持部材に接触して外力が及ぼされたとしても、接続連結部の変形によって外力が穿刺部材側へ伝達され難い。穿刺部材の接続連結部が接続部の外周面形状に応じて変形することによって、穿刺部材と血液保持部材が容易に連結される。しかも、接続連結部と接続部の間に隙間ができ難く、血圧等の影響による穿刺部材と血液保持部材の接続部分の間の隙間からの血液の漏れが低減乃至は防止される。
上記(iii)の態様に記載された採血具によれば、接続部の外周面形状と内周面形状の少なくとも一方を円形としたことにより、中空針の内孔と採血保持流路の接続が容易となる。しかも、例えば嵌入や圧入などによる穿刺部材と血液保持部材の接続に際して、矩形の接続部において問題になり易い角部や辺部の隙間を防止し得て、穿刺部材と血液保持部材の接続部分における隙間が抑えられ得る。これにより、中空針の内孔と採血保持流路とを含む血液の流路は、外部空間に対する密閉性の向上が図られている。その結果、予期しない血液の漏れや、血液の外気への接触に起因する酸化等の問題などを防止することができると共に、微小血液の確実な採取量の確保なども可能と為し得る。
上記(iii)の態様に記載された採血具において、好適には、円形の外周面形状を有する前記接続部が前記採血保持流路の前記流入口部分において外方に向かって突出しており、該接続部に対して前記穿刺部材が外挿状態で接続されている。
本態様の採血具によれば、穿刺部材を接続部に簡単に接続することができると共に、穿刺部材側のチューブなどを接続部に接続する場合に、チューブと接続部の間に隙間が形成され難い。特に弾性を有するチューブなどを接続部に外挿状態で嵌め合せて接続すれば、円形とされた接続部の外周面をチューブの内周面に対して全周に亘って密着させ易く、接続部分における血液の漏れが防止される。
上記(i)~(iii)の態様に記載された採血具は、小動物から少量の血液を採取する場合に好適に採用され得る。
上記(v)の態様に記載された採血プレートによれば、採血保持流路の流入口部分において、接続部に中空針を備える穿刺部材を簡単に接続して、中空針の内孔を採血保持流路に連通させることができる。これにより、従来に比して、血液の採取時における大気への接触やそれに伴う酸化等の問題が軽減乃至は回避される。
上記(vi)の態様に記載された採血プレートによれば、接続部の外周面形状を円形としたことにより、例えば嵌入や圧入などによる穿刺部材と血液保持部材の接続に際して、矩形の接続部において問題になり易い角部や辺部の隙間が生じ得ず、接続部分の隙間が抑えられ得る。これにより、中空針の内孔と採血保持流路とを含む血液の流路は、外部空間に対する密閉性の向上が図られている。その結果、血圧等による予期しない血液の漏れや、血液の外気への接触に起因する酸化等の問題などを防止することができると共に、微小血液の確実な採取量の確保なども可能と為し得る。
上記(vii)の態様に記載された採血プレートによれば、接続部が複数のプレート状部材に跨って形成される場合に比して、重ね合わせによる段差などが接続部の表面に形成され難く、接続部の表面を滑らかな形状とし易い。それ故、例えば、中空針を有する穿刺部材などの別部材が接続部に接続される場合に、接続部分における血液の漏れや外気への接触などが低減され得る。
上記(viii)の態様に記載された採血プレートによれば、複数のプレート状部材の重ね合わせ面間に形成される採血保持流路は、例えば多角形断面形状などの非円形の断面形状の方が円形の断面形状よりも製造し易い。
接続部の内孔は、円形に近い断面形状とされることにより、成形時の熱収縮などに起因する変形による部材寸法精度の低下が抑えられ得る。また、肉厚を均一にすることで外周面の断面形状を円形状に精度良く成形することができ、その結果、接続部に穿刺部材などを外挿状態で接続する場合に、接続部分に隙間が形成され難い。
上記(v)~(viii)の態様に記載された採血プレートは、小動物から少量の血液を採取する場合に好適に採用され得る。
【符号の説明】
【0090】
10 小動物用採血具(採血具)
12 小動物用採血プレート(採血プレート)
14 穿刺部材
16 血液保持部材
18 接続部
20 採取部
22 血球回収部
24 先端部
26 抽出部
28 スリット
30 スリット
32 連結部分
34 切断用溝
36 突出部
38 採血保持流路
40 空間部
42 通気孔
44 第1のプレート状部材
44a 第1の幅狭部
44b 第1の幅広部
46 第2のプレート状部材
46a 第2の幅狭部
46b 第2の幅広部
47 位置決め凹部
48 凹溝
50 凹所
51 位置決め凸部
52 傾斜面
54 傾斜面
56 内孔
58 基端分割金型
60 基端分割金型
62 先端分割金型
64 スライド金型
66 ピン金型
68 貫通孔
70 キャビティ
72 トンネル状流路
74 流入口
76 中空針
78 内孔
80 針先
82 針ハブ
84 内孔
86 接続チューブ(接続連結部)
88 内孔
90 内部流路
92 翼状部
94 嵌合筒部
96 連結部
98 翼本体
100 凹部
102 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12