(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】水底資源の採取方法
(51)【国際特許分類】
E21C 50/00 20060101AFI20240710BHJP
E21B 43/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
E21C50/00
E21B43/00 Z
(21)【出願番号】P 2021034373
(22)【出願日】2021-03-04
【審査請求日】2024-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】森澤 友博
(72)【発明者】
【氏名】大森 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 英剛
(72)【発明者】
【氏名】秋山 敬太
(72)【発明者】
【氏名】許 正憲
(72)【発明者】
【氏名】澤田 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】川村 善久
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-364018(JP,A)
【文献】特開平2-248535(JP,A)
【文献】特開2016-176314(JP,A)
【文献】特開2006-198476(JP,A)
【文献】特許第6653890(JP,B2)
【文献】特開2019-11568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21C 50/00
E21B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底資源が含有されている水底地盤の泥土を掘削して水上に揚収する水底資源の採取方法において、
水上から前記水底地盤へ向けて揚収管を延設し、前記揚収管の下部に接続している挿入管の少なくとも下部を前記水底地盤に挿入した状態で、前記挿入管の内部に液体を供給するとともに、前記揚収管および前記挿入管の内部を管軸方向に延在している回転軸と、前記回転軸の下部に取付けられている撹拌翼とを、前記挿入管の内部で回転させて、前記撹拌翼により前記挿入管の内部の前記泥土を掘削、解泥し、その解泥によってスラリー状にした前記泥土を揚収手段により前記揚収管を通じて水上に揚収し、
前記撹拌翼の最深貫入位置を、前記挿入管の下端から所定距離だけ上方にして、前記挿入管の下端開口を前記水底地盤の泥土によって塞いだ状態に維持して、スラリー状にした前記泥土が前記下端開口を通じて前記挿入管の外部に流出することを防止することを特徴とする水底資源の採取方法。
【請求項2】
前記水底地盤の強度と、前記水底地盤に挿入した前記挿入管の内部での圧力とに基づいて、前記所定距離を設定する請求項1に記載の水底資源の採取方法。
【請求項3】
前記強度を、前記挿入管を前記水底地盤に挿入する前に予め取得しておく請求項2に記載の水底資源の採取方法。
【請求項4】
前記強度を、前記挿入管を前記水底地盤に挿入する際に強度センサにより取得する請求項2または3に記載の水底資源の採取方法。
【請求項5】
前記圧力を、前記挿入管を前記水底地盤に挿入する前に算出して予め取得する請求項2~4のいずれかに記載の水底資源の採取方法。
【請求項6】
前記圧力を、前記挿入管を前記水底地盤に挿入した後に圧力センサにより取得する請求項2~5のいずれかに記載の水底資源の採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底資源の採取方法に関し、さらに詳しくは、水底地盤の泥土に含有されている水底資源を効率的に採取できる水底資源の採取方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海洋資源開発においては、深海に存在するレアアース等の水底資源が含有されている水底地盤の泥土を水などの液体とともにポンプリフトやエアリフト等の揚収手段を利用して水上の揚収船等に揚収している。泥土の土塊が大きいほど揚収するために多くの液量が必要となる。泥土とともに揚収される液量が多くなるほど揚収作業や泥土と液体とを分離する作業工数が増え、水底資源の採取に要するコストも高くなる。それ故、水底地盤の泥土に含有されている水底資源を効率的に採取するには、水底地盤の泥土を細かく解泥してより少ない液量で揚収することが重要である。
【0003】
従来、水底地盤の泥土を掘削して揚収するシステムが種々提案されている(特許文献1参照)。特許文献1の海洋資源揚鉱装置では、揚収管部の下部に設けられている回収ホッパを水底地盤の地表に対向させる。次いで、回転させたビットを水底地盤に貫入するとともに、ビットの下端部に設けられたノズルから海水よりも比重の軽いエマルション(界面活性剤を混ぜた油)を噴射することで水底地盤の泥土を掘削する。そして、水底地盤中から回収ホッパの上部にまで上昇した泥土およびエマルションを、揚収管部を介して水上に揚収している。この方法では、ビットによって掘削した水底地盤中の泥土の多くが水底地盤中で拡散してしまうため、泥土を細かく解泥できない。それ故、この海洋資源揚鉱装置では、泥土を上昇させるために海水よりも比重の軽いエマルションを水底地盤中に噴射している。しかしながら、多量のエマルションを水底地盤中に噴射し、揚収する必要があるため、揚収した泥土とエマルションとを分離する作業工数が増大し、水底資源の採取に要するコストが高くなる。また、水中に流出するエマルションにより水中環境が害されることも懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、水底地盤の泥土に含有されている水底資源を効率的に採取できる水底資源の採取方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の水底資源の採取方法は、水底資源が含有されている水底地盤の泥土を掘削して水上に揚収する水底資源の採取方法において、水上から前記水底地盤へ向けて揚収管を延設し、前記揚収管の下部に接続している挿入管の少なくとも下部を前記水底地盤に挿入した状態で、前記挿入管の内部に液体を供給するとともに、前記揚収管および前記挿入管の内部を管軸方向に延在している回転軸と、前記回転軸の下部に取付けられている撹拌翼とを、前記挿入管の内部で回転させて、前記撹拌翼により前記挿入管の内部の前記泥土を掘削、解泥し、その解泥によってスラリー状にした前記泥土を揚収手段により前記揚収管を通じて水上に揚収し、前記撹拌翼の最深貫入位置を、前記挿入管の下端から所定距離だけ上方にして、前記挿入管の下端開口を前記水底地盤の泥土によって塞いだ状態に維持して、スラリー状にした前記泥土が前記下端開口を通じて前記挿入管の外部に流出することを防止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水底地盤に挿入した挿入管の内部に液体を供給するとともに撹拌翼を回転させて、挿入管の内部の泥土を掘削、解泥する。しかも、撹拌翼の最深貫入位置を、挿入管の下端から所定距離だけ上方にして、挿入管の下端開口を水底地盤の泥土によって塞いだ状態に維持して、スラリー状に解泥した泥土が挿入管の下端開口を通じて挿入管の外部に流出することを防止する。これにより、比較的少ない液量で挿入管の内部の泥土を効果的に細粒化してスラリー状にしつつ流出無駄をなくして、挿入管の上部まで効率的に上昇させることができる。それ故、水底地盤の泥土に含有されている水底資源を効率的に採取できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の水底資源の採取方法の実施形態の概要を例示する説明図である。
【
図2】
図1の挿入管の内部を平面視で例示する説明図である。
【
図3】
図2のA矢視で挿入管の内部を例示する説明図である。
【
図4】
図2のB矢視で挿入管の内部を例示する説明図である。
【
図5】
図1の挿入管を水底地盤に挿入した状態を例示する説明図である。
【
図6】
図5の状態から撹拌翼を水底地盤の最深貫入位置まで貫入した状態を例示する説明図である。
【
図7】
図6の状態から撹拌翼を挿入管の内部で管軸方向に往復移動させている状態を例示する説明図である。
【
図8】撹拌翼の貫入深さの時間推移を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の水底資源の採取方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。本発明では、
図1に例示する水底資源の採取システム1(以下、採取システム1という)を用いて、レアアース等の水底資源(鉱物資源)が含有されている水底地盤Bの泥土Sを掘削して水上に揚収する。
【0010】
採取システム1は、水上から水底地盤Bに向かって延在する揚収管2と、揚収管2の下部に接続されている挿入管3と、揚収管2および挿入管3の内部を管軸方向に延在している回転軸4とを備えている。採取システム1はさらに、回転軸4の下部に取付けられた撹拌翼6と、挿入管3の内部に液体Lを供給する液体供給機構8とを備えている。この実施形態の採取システム1はさらに、挿入管3に設置された強度センサ9と圧力センサ10とを備えている。この実施形態では、揚収管2が水上の揚収船20に接続されている場合を例示しているが、揚収船20に限らず例えば、揚収管2が水上に設けられた揚収施設などに接続された構成にすることもできる。
【0011】
揚収管2と挿入管3は連通している。挿入管3の内径は揚収管2の内径よりも大きく設定されている。揚収管2と挿入管3との連結部分の内周面は滑らかに連続する曲面形状になっている。揚収管2の内径は例えば、0.2m以上1.0m以下の範囲内に設定され、挿入管3の内径は例えば、0.5m以上5m以下の範囲内に設定される。揚収管2には、挿入管3の上部に上昇した泥土Sを、揚収管2を通じて水上に揚送する揚送手段が接続されている。揚送手段は、例えば、エアリフトポンプやスラリーポンプ等で構成される。
【0012】
水底地盤Bの泥土Sを採取する際には、挿入管3は少なくとも下部が水底地盤Bに挿入された状態となり、挿入管3の上部は水底地盤Bの表面よりも上方に突出した状態となる。例えば、挿入管3の全長の50%以上が水底地盤Bに挿入された状態となる。挿入管3の管軸方向の長さは、水底資源が分布している地層の深さに応じて適宜設定されるが、例えば、2m以上20m以下の範囲内に設定される。この実施形態では、挿入管3の外周面に平面視で環状のストッパー3aが設けられている。このストッパー3aを境界にして、ストッパー3aよりも下側の挿入管3の領域が水底地盤Bに挿入された状態になり、ストッパー3aよりも上側の挿入管3の領域が水底地盤Bの表面よりも上方に突出した状態になる。
【0013】
回転軸4は、揚収船20から揚収管2および挿入管3を挿通して吊り下げられていて、駆動機構により軸回転する。
図2~
図4に例示するように、この実施形態では、回転軸4の下部に対して着脱可能に連結されるヘッド5に、泥土Sを掘削、解泥する撹拌翼6が取付けられている。ヘッド5の下端部には水底地盤Bの泥土Sを掘削する掘削刃7が設けられている。掘削刃7よりも上方に位置するヘッド5の外周面に、複数の撹拌翼6で構成された撹拌翼群が設けられている。それぞれの撹拌翼6は、挿入管3の内周面に向かって延在している。同じ撹拌翼群を構成する複数の撹拌翼6は、回転軸4の周方向に間隔をあけて配置されている。
【0014】
この実施形態のそれぞれの撹拌翼6は平板状に形成されていて、回転軸4(ヘッド5)に接続されている根元部分から先端に向かって先細りするテーパ形状になっている。撹拌翼6の回転方向における前端部は鋭く尖った形状になっている。例えば、撹拌翼6の前端部を山と谷とが連続する鋸歯状にすることもできる。撹拌翼6は、平板状に限らず、例えば、スクリューの羽根のような湾曲した形状にすることもできる。
【0015】
この実施形態では、対向する位置に配置された2枚の撹拌翼6で構成された撹拌翼群が、回転軸4の軸方向に3段設けられている。最下段の撹拌翼群を構成するそれぞれの撹拌翼6は、回転方向に向かって下向きに傾斜している。中段の撹拌翼群と最上段の撹拌翼群を構成するそれぞれの撹拌翼6は、回転方向に向かって上向きに傾斜している。
図4に例示するように、回転軸4の軸方向と撹拌翼6の延在方向とのなす角度θ(俯角)は例えば、10度以上80度以下、好ましくは20度以上70度以下、より好ましくは25度以上40度以下の範囲内に設定される。
【0016】
回転軸4の軸方向に隣り合う撹拌翼6どうしは、平面視で回転軸4の周方向にずれた位置に配置されている。挿入管3の内周面と撹拌翼6の先端との間には、50mm~500mm程度のすき間(クリアランス)が設けられている。撹拌翼6(回転軸4)の回転数は例えば10rpm~200rpmである。
【0017】
回転軸4の軸方向に設ける撹拌翼群の段数や、各段の撹拌翼群を構成する撹拌翼6の数などは、この実施形態に限定されず、異なる構成にすることもできる。例えば、3枚の撹拌翼6で構成された撹拌翼群が、回転軸4の軸方向に2段設けられた構成などにすることもできる。それぞれの撹拌翼群を構成する撹拌翼6は、平面視で回転軸4の軸心を中心にして点対象になるように配置することが好ましい。それぞれの段の撹拌翼群を構成する撹拌翼6の傾斜方向は、この実施形態に限定されず、例えば、最上段の撹拌翼群や中段の撹拌翼群を構成する撹拌翼6が回転方向に向かって下向きに傾斜している構成にすることもできる。
【0018】
液体供給機構8は、液体Lとして例えば、水(海水や淡水)を供給する。現場で入手できる現場水(海水や淡水)を利用すると便利である。その他に、液体Lとして例えば、水に添加剤を加えた液体や、水以外の液体を供給する構成にすることもできる。この実施形態の液体供給機構8は、撹拌翼6の先端部に設けられた噴射ノズル8aを有している。水上(揚収船20)に設置された液体供給装置により、回転軸4に内部に延設された主管と、主管の下部で複数に分岐した配管8bとを通じて、それぞれの噴射ノズル8aに液体Lが供給される構成になっている。
【0019】
噴射ノズル8aおよび配管8bは、撹拌翼6の回転方向に対して撹拌翼6の背後側になる面に付設されている。例えば、噴射ノズル8aおよび配管8bを撹拌翼6に内設して撹拌翼6の先端から液体Lが噴射される構成にすることもできる。この実施形態では、全ての撹拌翼6にそれぞれ噴射ノズル8aが設けられているが、一部の撹拌翼6に選択的に噴射ノズル8aを設けることもできる。即ち、例えば、最下段の撹拌翼群を構成するそれぞれの撹拌翼6にだけ噴射ノズル8aを設けることもできる。
【0020】
一部の撹拌翼6に選択的に噴射ノズル8aを設ける場合にも、各段に設ける噴射ノズル8aは、平面視で回転軸4の軸心を中心にして点対象になるように配置することが好ましい。なお、液体供給機構8は、挿入管3の内部に液体Lを供給できる構成であればよく、この実施形態の構成に限定されない。
【0021】
強度センサ9は、未掘削状態の水底地盤Bの強度を測定する。水底地盤Bの強度を示す指標としては、例えば、水底地盤Bの泥土Sの管軸方向の一軸圧縮強度やN値、コーン指数などが例示できる。強度センサ9としては、例えば、土壌硬度計や土層強度検査棒などを用いる。強度センサ9は、挿入管3の水底地盤Bに挿入される位置に設置される。強度センサ9は例えば、挿入管3の下端開口3cの近傍(下端開口3cからの管軸方向の離間距離が30cm以内となる位置)に設置するとよい。この実施形態では、強度センサ9を挿入管3の内周面の撹拌翼6に接触しない位置に設置しているが、例えば、挿入管3の外周面や下端面に設置することもできる。
【0022】
圧力センサ10は、水底地盤Bに挿入した挿入管3の内部での圧力を測定する。圧力センサ10は例えば、撹拌翼6により泥土Sを掘削、解泥する掘削対象領域R1となる範囲に設置する。圧力センサ10は、例えば、挿入管3の下端3bから上方へ離間距離が100cm以上500cm以下となる位置に配置するとよい。この実施形態では、圧力センサ10を挿入管3の内周面の撹拌翼6に接触しない位置に設置している。強度センサ9および圧力センサ10のそれぞれの測定データは、水上(揚収船20)の管理部に逐次送信され、管理者が把握できる構成になっている。強度センサ9および圧力センサ10はそれぞれ任意に設けることができる。
【0023】
次に、この採取システム1を用いて水底資源を採取する方法の作業手順の一例を以下に説明する。
【0024】
揚収管2の下部に挿入管3を接続し、挿入管3の上部の内部にヘッド5を着脱可能に固定しておく。
図5に例示するように、水上(揚収船20)から水底地盤Bへ向けて揚収管2を延設し、挿入管3の少なくとも下部を未掘削状態の水底地盤Bに挿入する。ヘッド5が収容されている挿入管3の上部は水底地盤Bに挿入せずに、ヘッド5を水底地盤Bの表面よりも上方に配置した状態にする。
【0025】
この段階では、水底地盤Bに挿入されている挿入管3の下部の内部は未掘削状態の水底地盤Bの泥土Sで満たされた状態になっている。水底地盤Bに挿入されていない挿入管3の上部の内部は、水域の水Wで満たされた状態になっている。挿入管3を水底地盤Bに挿入している過程で、強度センサ9によって水底地盤Bの強度が逐次測定される。
【0026】
この実施形態では、挿入管3の外側に設けられているストッパー3aが水底地盤Bの表面に当接する位置まで挿入管3を水底地盤Bに挿入すると、水底資源が分布している地層の深さまで挿入管3の下部が挿入される。ヘッド5が収容されている挿入管3の上部は水底地盤Bの表面よりも上方に突出した状態となる。
【0027】
次いで、回転軸4を、揚収管2および挿入管3の内部に挿通させた状態で水上(揚収船20)から水底地盤Bへ向けて降下させて、回転軸4の下端部にヘッド5(撹拌翼6)を連結する。回転軸4の下端部にヘッド5を連結した状態で、回転軸4をさらに水底地盤Bへ向けて下方移動させると挿入管3からヘッド5が外れる。その結果、回転軸4と一体化したヘッド5(撹拌翼6)が管軸方向に移動可能な状態となる。
【0028】
次いで、
図6に例示するように、液体供給機構8により挿入管3の内部に液体Lを供給するとともに、回転軸4と回転軸4の下部(ヘッド5)に取付けられている撹拌翼6とを挿入管3の内部で回転させる。そして、回転させた状態の撹拌翼6を水底地盤Bの表面から水底地盤Bの泥土Sに貫入して挿入管3の内部の泥土Sを掘削して、スラリー状に解泥する。この実施形態では、噴射ノズル8aから挿入管3の内周面に向かって液体Lを高圧で噴射することで、挿入管3の内部に液体Lを供給しつつ、撹拌翼6の先端と挿入管3の内周面との間の泥土Sを掘削、解泥する。挿入管3の内部での圧力(以下、挿入管3の内圧という)は、圧力センサ10によって逐次測定される。
【0029】
撹拌翼6を水底地盤Bに貫入する際には、撹拌翼6(最も下方に位置する撹拌翼6)の最深貫入位置D1を、挿入管3の下端3bから所定距離Tだけ上方にする。そして、挿入管3の下端開口3cを水底地盤Bの泥土Sによって塞いだ状態に維持して、撹拌翼6によってスラリー状に解泥した泥土Sが挿入管3の下端開口3cを通じて挿入管3の外部に流出することを防止する。
【0030】
即ち、挿入管3の内部の水底地盤Bの表面から最深貫入位置D1までの掘削対象領域R1の泥土Sを撹拌翼6によって掘削、解泥し、最深貫入位置D1と挿入管3の下端3bが位置する深度D2との間に管軸方向に所定距離Tの厚みを有する非掘削領域R2を残存させる。そして、解泥した土砂Sに対して相対的に硬い非掘削領域R2の泥土Sによって、挿入管3の下端開口3cに栓をして塞いだ状態にする。図中では、掘削されていない状態の泥土Sを斜線部で示している。
【0031】
前述した所定距離Tは、撹拌翼6によって挿入管3の内部の泥土Sを掘削、解泥している際の挿入管3の内圧が最大になった場合でも、挿入管3の下端開口3cを塞ぐ非掘削領域R2の泥土Sが、挿入管3の内圧によって崩壊することを防止できる距離に設定する。挿入管3の内圧に対する非掘削領域R2の泥土Sによる抵抗力は、水底地盤Bの強度(例えば、一軸圧縮強度やN値、コーン指数等)や、所定距離Tが大きくなる程増大する。
【0032】
それ故、挿入管3の下端開口3cを塞ぐ泥土Sが、挿入管3の内圧により崩壊することを防止できる過不足ない適正な所定距離Tは、水底地盤Bの強度と、挿入管3の内圧とに基づいて設定することが可能である。所定距離Tを設定することで、挿入管3の下端3bが位置する深度D2との関係から撹拌翼6を貫入する最深貫入位置D1も設定できる。
【0033】
水底地盤Bの強度は、この実施形態のように挿入管3を水底地盤Bに挿入する際に強度センサ9により取得することもできるし、挿入管3を水底地盤Bに挿入する前に予め取得しておくこともできる。或いは、水底地盤Bの強度を、挿入管3を水底地盤Bに挿入する前と挿入する際の両方で取得することもできる。
【0034】
水底地盤Bの強度を予め取得する場合には、例えば、未掘削状態の水底地盤Bの泥土Sを採取して水底地盤Bの強度を測定する公知の強度試験(例えば、一軸圧縮試験や標準貫入試験など)を行う。この実施形態のように、強度センサ9を設ければ、挿入管3を水底地盤Bに挿入する際に強度センサ9により水底地盤Bの強度を測定できる。
【0035】
水底地盤Bの強度を、挿入管3を水底地盤Bに挿入する前と挿入する際の両方で取得する場合には、水底地盤Bの強度の測定値が相対的に低い方の測定値を採用して、所定距離Tを設定するとよい。このようにすると、挿入管3を水底地盤Bに挿入する前と挿入する際のいずれか片方の測定値に基づいて所定距離Tを設定する場合よりも、挿入管3の下端開口3cを塞ぐ泥土Sが、挿入管3の内圧によって崩壊することをより確実に防止できる。
【0036】
水底地盤Bに挿入した挿入管3の内圧は、この実施形態のように挿入管3を水底地盤Bに挿入した後に圧力センサ10により取得することもできるし、挿入管3を水底地盤Bに挿入する前に予め取得しておくこともできる。或いは、挿入管3の内圧を、挿入管3を水底地盤Bに挿入する前と挿入した後の両方で取得することもできる。
【0037】
水底地盤Bに挿入した挿入管3の内圧は、挿入管3の寸法や、挿入管3の内部に供給する単位時間当たりの液量、揚収手段による単位時間当たりの揚収量など条件に基づいて、予め算出することが可能である。挿入管3の内圧は、採取システム1を用いた事前試験やコンピュータを用いたシミュレーションを行うことによっても予め取得することが可能である。例えば、事前試験では、水底地盤Bに挿入した挿入管3の内部に液体Lを供給しつつ、撹拌翼6によって挿入管3の内部の泥土Sを掘削、解泥しているときの掘削対象領域R1における挿入管3の内圧を、圧力センサ10により測定する。
【0038】
この実施形態のように、圧力センサ10を設けることで、挿入管3を水底地盤Bに挿入した後に撹拌翼6を水底地盤Bに貫入する過程で、撹拌翼6を貫入した掘削対象領域R1における挿入管3の内圧を圧力センサ10により測定できる。そして、撹拌翼6を貫入する過程で圧力センサ10により取得した挿入管3の内圧の測定値を用いて、所定距離Tを設定できる。
【0039】
泥土Sを掘削、解泥している際に、撹拌翼6の回転速度や移動速度、挿入管3の内部に供給する単位時間当たりの液量、揚収手段による単位時間当たりの揚収量などの条件を変更すると、それに伴い挿入管3の内圧はある程度変動する。そのため、掘削、解泥時の挿入管3の内圧の最大値に基づいて所定距離Tを設定するとよい。
【0040】
挿入管3の内圧を、挿入管3を水底地盤Bに挿入する前と挿入した後の両方で取得する場合には、挿入管3の内圧の最大値が相対的に高い方の測定値を採用して、所定距離Tを設定するとよい。このようにすると、挿入管3を水底地盤Bに挿入する前と挿入した後のいずれか片方の測定値に基づいて所定距離Tを設定する場合よりも、挿入管3の下端開口3cを塞ぐ泥土Sが、挿入管3の内圧によって崩壊することをより確実に防止できる。
【0041】
撹拌翼6を最深貫入位置D1まで貫入した後には、
図7に例示するように、撹拌翼6を最深貫入位置D1から水底地盤Bの表面までにおける所定の深さ範囲内(最深貫入位置D1よりも浅い範囲)で管軸方向に往復移動させて、掘削対象領域R1の泥土Sを繰り返し解泥する。撹拌翼6を往復移動させる回数は水底地盤Bの強度や撹拌翼6の数、撹拌翼6の回転速度などに応じて適宜決定できるが、例えば、2回~15回程度、複数回往復移動させるとよい。この撹拌翼6を往復移動させる作業は適宜省略することもできるが、この作業を行うと、掘削対象領域R1の泥土Sをより確実に細粒化できる。
【0042】
挿入管3の内部で細粒化された掘削対象領域R1の泥土Sは、挿入管3の内部の液体(水域の水Wと液体供給機構8によって供給された液体Lとを含む)に紛れて浮遊した状態となり、最深貫入位置D1よりも上方の挿入管3の内部がスラリー状の泥土Sで満たされた状態となる。そして、解泥によってスラリー状にした掘削対象領域R1の泥土Sを挿入管3の上部に上昇させ、その上昇させたスラリー状の泥土Sを揚収手段により揚収管2を通じて水上(揚収船20)に揚収する。
【0043】
液体供給機構8(噴射ノズル8a)から挿入管3の内部に新たな液体Lが供給されることで、挿入管3の内部の水Wや掘削対象領域R1の泥土Sが、新たに供給された液体Lに置換されることが促進される。さらに、撹拌翼6の回転によって挿入管3の内部に撹拌流が発生することで、挿入管3の内部で細粒化された泥土Sは挿入管3の上部まで上昇し易くなり、効率的に水上に揚収される。
【0044】
このように、本発明では、水底地盤Bに挿入した挿入管3の内部に液体Lを供給するとともに撹拌翼6を回転させて、挿入管3の内部の泥土Sを掘削、解泥する。しかも、撹拌翼6の最深貫入位置D1を、挿入管3の下端3bから所定距離Tだけ上方にして、挿入管3の下端開口3cを水底地盤Bの泥土Sによって塞いだ状態に維持して、スラリー状に解泥した泥土Sが挿入管3の下端開口3cを通じて挿入管3の外部に流出することを防止する。これにより、比較的少ない液量で挿入管3の内部の泥土Sを効果的に細粒化してスラリー状にしつつ、スラリー状にした泥土Sの流出による無駄を回避して、挿入管3の上部まで効率的に上昇させることができる。それ故、水底地盤Bの泥土Sに含有されている水底資源を効率的に採取できる。解泥した泥土Sの流出を防止することで、挿入管3の外周周辺の泥土Sの状態が乱れることも防止できる。液体Lとして水以外を供給する場合にも液体Lが挿入管3の外部の水中に流出することを防止できるので、水中環境を害するリスクも非常に低くなる。
【0045】
一見すると、所定距離Tを実質ゼロにして撹拌翼6を最大限深く貫入して泥土Sを解泥することでより多くの水底資源を採取できると考えられる。しかしながら、レアアース等の水底資源が含有されている水底地盤Bの泥土Sの強度は比較的低く、しかも水深が深いので不確定要素が多い。そのため、挿入管3の下端3bまで撹拌翼6を貫入した場合には、挿入管3の内部で解泥した泥土Sや供給した液体Lが、挿入管3の下端開口3cを通じて挿入管3の外部に流出するリスクが非常に高くなる。このような流出が生じると、スラリー状の泥土Sが散逸するとともに、挿入管3の内圧が急激に低下する。それ故、泥土Sの揚収効率は低下することになる。本発明は、あえて挿入管3の下部に所定距離Tの厚みを有する非掘削領域R2を残存させるという簡易でありながら、泥土Sの揚収効率を効果的に安定して向上させることができる方法になっている。それ故、当業者にとっては非常に有益な方法である。
【0046】
また、深海で使用する揚収管2の内径は小さく、揚収管2の内周面と回転軸4との間のすき間は比較的狭いが、挿入管3の内部の泥土Sは土塊の少ない細粒化した状態で揚収管2に流れ込むので、揚収管2に泥土Sが詰まり難くなる。それ故、揚収管2に不具合が生じ難く、水底地盤Bの泥土Sを非常に円滑に揚収できる。
【0047】
泥土Sを効率的に解泥し、効果的な撹拌流を発生させるには、撹拌翼6の回転数を20rpm以上、より好ましくは40rpm以上にするとよい。特に、泥土Sを上昇させる撹拌流を発生させるには、撹拌翼6の回転数を相応に速くする必要がある。一方、撹拌翼6を高速で回転させるには限界があるので、回転数の上限は例えば80rpm、或いは60rpm程度にする。
【0048】
撹拌翼6の管軸方向の移動速度は、水底地盤Bの泥土Sの強度などに応じて適宜設定できる。具体的には、例えば、撹拌翼6の管軸方向の移動速度は、1mm/秒~100mm/秒、より好ましくは1mm/秒~10mm/秒の範囲内に設定するとよい。
図8のグラフの横軸は撹拌翼6を水底地盤Bに貫入してからの経過時間を示し、縦軸は水底地盤Bの表面を基準(0m)とした撹拌翼6の貫入深さを示している。
図8のグラフに示すように、撹拌翼6を水底地盤Bの表面から最深貫入位置D1まで貫入する際の撹拌翼6の管軸方向の移動速度よりも、その後の、挿入管3の内部で撹拌翼6を管軸方向に往復移動させるときの撹拌翼6の管軸方向の移動速度を速く設定するとよい。
【0049】
撹拌翼6を未掘削状態の水底地盤Bに貫入する時には、水底地盤Bの泥土Sは解泥されていない状態であり、撹拌翼6にかかる負荷も比較的大きい。この場合、撹拌翼6の管軸方向の移動速度を相対的に遅く設定して撹拌翼6を貫入していくことで、撹拌翼6に過大な負荷がかかることを回避できる。一度掘削した泥土Sはある程度解泥された状態となり、撹拌翼6にかかる負荷は比較的小さくなる。それ故、撹拌翼6を最深貫入位置D1まで貫入した後には、撹拌翼6の管軸方向の移動速度を相対的に速く設定して往復移動させることで、挿入管3の内部の泥土Sを効率的に解泥できる。
【0050】
撹拌翼6の先端部に設けた噴射ノズル8aから挿入管3の内周面に向かって液体Lを噴射すると、撹拌翼6が届かない撹拌翼6の先端と挿入管3の内周面との間の泥土Sを掘削、解泥できる。それ故、挿入管3の内部の泥土Sを網羅的に揚収することが可能になる。さらに、挿入管3の内周面に近い撹拌翼6の先端部に噴射ノズル8aを配置することで、撹拌翼6の先端と挿入管3の内周面との間の泥土Sを切削するのに必要な液体Lの噴射圧を比較的低くできる。
【0051】
最下段の撹拌翼群を構成するそれぞれの撹拌翼6が、回転方向に向かって下向きに傾斜している構成にすると、最下段の撹拌翼群を構成する撹拌翼6によって掘削、解泥された泥土Sが上方に向かい、その上方の段の撹拌翼群を構成する撹拌翼6によってさらに解泥される。それ故、泥土Sを非常に効率よく細粒化できる。さらに、最下段の撹拌翼群を構成する撹拌翼6によって撹拌された泥土Sおよび液体(水域の水Wと液体Lとを含む)による下向きの圧力が比較的小さくなるので、挿入管3の下端開口3cを塞ぐ非掘削領域R2の泥土Sが崩壊することを防止するには有利になる。
【0052】
この実施形態のように、圧力センサ10を設けた場合には、撹拌翼6を最深貫入位置D1まで貫入した後の撹拌翼6を管軸方向に往復移動させる工程において、圧力センサ10の測定値に基づいて、挿入管3の内部に供給する単位時間当たりの液量を調整するとよい。挿入管3の内部に供給する単位時間当たりの液量を多くするほど、解泥した泥土Sが挿入管3の上部に上昇し易くなり、揚収効率を高めるには有利になる。一方で、泥土Sおよび液体(水域の水Wと液体Lとを含む)の揚収量に対して、挿入管3の内部に供給する液量が過剰になると、挿入管3の内圧が所定距離Tを設定する際に使用した挿入管3の内圧の最大値よりも大きくなる恐れがある。そのため、圧力センサ10の測定値に基づいて、所定距離Tを設定する際に使用した挿入管3の内圧の最大値を超えない範囲で、出来る限り揚収効率が高まるように、挿入管3の内部に供給する単位時間当たりの液量を調整するとよい。
【0053】
尚、挿入管3の内圧に対抗して、挿入管3の下端開口3cを水底地盤Bの非掘削領域R2の泥土Sによって塞いだ状態に維持できる所定距離Tを設定できれば、所定距離Tの設定方法は上記で例示した方法に限定されない。例えば、採取システム1を用いた事前試験やコンピュータを用いたシミュレーションを、所定距離Tの条件を変えて複数回行い、試験結果に基づいて適切な所定距離Tを設定することもできる。
【符号の説明】
【0054】
1 水底資源の採取システム
2 揚収管
3 挿入管
3a ストッパー
3b 下端
3c 下端開口
4 回転軸
5 ヘッド
6 撹拌翼
7 掘削刃
8 液体供給機構
8a 噴射ノズル
8b 配管
9 強度センサ
10 圧力センサ
20 揚収船
B 水底地盤
S 泥土
L 液体
W 水
D1 最深貫入位置
D2 挿入管の下端が位置する深度
R1 掘削対象領域
R2 非掘削領域