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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】医薬品組成物及び化粧品組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/12 20150101AFI20240710BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20240710BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20240710BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240710BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20240710BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240710BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240710BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20240710BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240710BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20240710BHJP
   A61P 9/14 20060101ALN20240710BHJP
   A61K 9/06 20060101ALN20240710BHJP
   A61K 9/19 20060101ALN20240710BHJP
   G01N 33/50 20060101ALN20240710BHJP
   G01N 33/15 20060101ALN20240710BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALN20240710BHJP
   A61P 17/14 20060101ALN20240710BHJP
   A61K 35/28 20150101ALN20240710BHJP
【FI】
A61K35/12
C12P1/00 Z
C12N5/07
A61Q19/00
A61Q19/10
A61P17/00
A61P17/02
A61K8/98
A61P43/00 111
A61K35/545
A61P9/14
A61K9/06
A61K9/19
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
A61Q7/00
A61P17/14
A61K35/28
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021080710
(22)【出願日】2021-05-12
(62)【分割の表示】P 2020556694の分割
【原出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2021120398
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】62/756,780
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515238909
【氏名又は名称】田邊 剛士
(73)【特許権者】
【識別番号】517123221
【氏名又は名称】アイ ピース,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田邊 剛士
(72)【発明者】
【氏名】須藤 健太
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106109496(CN,A)
【文献】KANG J. et al.,Effects of reprogrammimg-conditioned medium on ultraviolet ray A-damaged human dermal fibroblasts.,Reproduction, Fertility and Development,2016年,Vol.29, No.1,p.208 199
【文献】飯塚一ほか,創傷治癒における表皮細胞の増殖制御,皮膚,1996年,Vol.38, No.1,p.132-147
【文献】松井達弥ほか,聖マリアンナ医科大学雑誌,2003年,Vol.31,p.123-130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00 -35/768
C12N 5/00 - 5/28
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 -90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体細胞をリプログラミングした際に使用した培地の上清を含む、創傷治療剤(紫外線A波の損傷を受けた線維芽細胞の再生剤を除く)。
【請求項2】
体細胞をリプログラミングした際に使用した培地の上清を含む、皮膚細胞の遊走能の促進剤(紫外線A波の損傷を受けた線維芽細胞の再生剤を除く)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品組成物及び化粧品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)は、ヒトやマウスの初期胚から樹立された幹細胞である。ES細胞は、生体に存在する全ての細胞へと分化できる多能性を有する。現在、ヒトES細胞は、パーキンソン病、若年性糖尿病、及び白血病等、多くの疾患に対する細胞移植療法に利用可能である。しかし、ES細胞の移植には障害もある。特に、ES細胞の移植は、不成功な臓器移植に続いて起こる拒絶反応と同様の免疫拒絶反応を惹起しうる。また、ヒト胚を破壊して樹立されるES細胞の利用に対しては、倫理的見地から批判や反対意見が多い。
【0003】
このような背景の状況の下、京都大学の山中伸弥教授は、4種の遺伝子:OCT3/4、KLF4、c-MYC、及びSOX2を体細胞に導入することにより、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を樹立することに成功した。これにより、山中教授は、2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した(例えば、特許文献1参照。)。iPS細胞は、拒絶反応や倫理的問題のない理想的な多能性細胞である。したがって、iPS細胞は、細胞移植療法への利用が期待されている。一方、iPS細胞の培養に用いた培地を、医薬品組成物に再利用したとの報告がある(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4183742号公報
【文献】特開2016-128396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らが検証したところ、特許文献2に記載の培養方法では、iPS細胞は分化してしまうため、実際にはiPS細胞ではなく分化した細胞を培養した培地が再利用されているものと考えられる。本発明は、iPS細胞の培地を有効活用した医薬品組成物及び化粧品組成物を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様によれば、体細胞をリプログラミングした際に使用した培地の上清を含む、医薬品組成物又は医薬品組成物原料が提供される。
【0007】
本発明の態様によれば、上記の医薬品組成物又は医薬品組成物原料を含む、皮膚のシミ、しわ及びたるみのいずれかの形成防止及び改善剤が提供される。
【0008】
本発明の態様によれば、体細胞をリプログラミングした際に使用した培地の上清を含む、化粧品組成物又は化粧品組成物原料が提供される。
【0009】
本発明の態様によれば、上記の化粧品組成物又は化粧品組成物原料を含む、皮膚のシミ、しわ及びたるみのいずれかの形成防止及び改善剤が提供される。
【0010】
本発明の態様によれば、体細胞をリプログラミングした際に使用した培地の上清を含む、コラーゲン産生促進剤又はコラーゲン産生促進剤原料が提供される。
【0011】
本発明の態様によれば、体細胞をリプログラミングした際に使用した培地の上清を含む、発毛剤、発毛剤原料、育毛剤又は育毛剤原料が提供される。
【0012】
本発明の態様によれば、体細胞をリプログラミングした際に使用した培地の上清を含む、毛乳頭細胞の活性化剤又は毛乳頭細胞の活性化剤原料が提供される。
【0013】
本発明の態様によれば、体細胞をリプログラミングした際に使用した培地の上清を含む、線維芽細胞成長因子ファミリー産生促進剤又は線維芽細胞成長因子ファミリー産生促進剤原料が提供される。
【0014】
本発明の態様によれば、体細胞をリプログラミングした際に使用した培地の上清を含む、血管内皮細胞増殖因子産生促進剤又は血管内皮細胞増殖因子産生促進剤原料が提供される。
【0015】
本発明の態様によれば、体細胞をリプログラミングした際に使用した培地の上清を含む、創傷治療剤又は創傷治療剤原料が提供される。
【0016】
本発明の態様によれば、体細胞をリプログラミングした際に使用した培地の上清を含む、表皮細胞増殖促進剤又は表皮細胞増殖促進剤原料が提供される。
【0017】
本発明の態様によれば、幹細胞の抽出物を含む、医薬品組成物又は医薬品組成物原料が提供される。
【0018】
上記の医薬品組成物又は医薬品組成物原料において、幹細胞の抽出物がペーストであるか、又は幹細胞の抽出物が凍結乾燥されていてもよい。
【0019】
本発明の態様によれば、上記の医薬品組成物又は医薬品組成物原料を含む、皮膚のシミ、しわ及びたるみのいずれかの形成防止及び改善剤が提供される。
【0020】
本発明の態様によれば、幹細胞の抽出物を含む、化粧品組成物又は化粧品組成物原料が提供される。
【0021】
上記の化粧品組成物又は化粧品組成物原料において、幹細胞の抽出物がペーストであるか、又は幹細胞の抽出物が凍結乾燥されていてもよい。
【0022】
本発明の態様によれば、上記の化粧品組成物又は化粧品組成物原料を含む、皮膚のシミ、しわ及びたるみのいずれかの形成防止及び改善剤が提供される。
【0023】
本発明の態様によれば、幹細胞の抽出物を含む、コラーゲン産生促進剤又はコラーゲン産生促進剤原料が提供される。
【0024】
上記のコラーゲン産生促進剤又はコラーゲン産生促進剤原料において、幹細胞の抽出物がペーストであるか、又は幹細胞の抽出物が凍結乾燥されていてもよい。
【0025】
本発明の態様によれば、幹細胞の抽出物を含む、発毛剤、発毛剤原料、育毛剤又は育毛剤原料が提供される。
【0026】
上記の発毛剤、発毛剤原料、育毛剤又は育毛剤原料において、幹細胞の抽出物がペーストであるか、又は幹細胞の抽出物が凍結乾燥されていてもよい。
【0027】
本発明の態様によれば、幹細胞の抽出物を含む、毛乳頭細胞の活性化剤又は毛乳頭細胞の活性化剤原料が提供される。
【0028】
上記の毛乳頭細胞の活性化剤又は毛乳頭細胞の活性化剤原料において、幹細胞の抽出物がペーストであるか、又は幹細胞の抽出物が凍結乾燥されていてもよい。
【0029】
本発明の態様によれば、幹細胞の抽出物を含む、線維芽細胞成長因子ファミリー産生促進剤又は線維芽細胞成長因子ファミリー産生促進剤原料が提供される。
【0030】
上記の線維芽細胞成長因子ファミリー産生促進剤又は線維芽細胞成長因子ファミリー産生促進剤原料において、幹細胞の抽出物がペーストであるか、又は幹細胞の抽出物が凍結乾燥されていてもよい。
【0031】
本発明の態様によれば、幹細胞の抽出物を含む、血管内皮細胞増殖因子産生促進剤又は血管内皮細胞増殖因子産生促進剤原料が提供される。
【0032】
上記の血管内皮細胞増殖因子産生促進剤又は血管内皮細胞増殖因子産生促進剤原料において、幹細胞の抽出物がペーストであるか、又は幹細胞の抽出物が凍結乾燥されていてもよい。
【0033】
本発明の態様によれば、幹細胞の抽出物を含む、創傷治療剤又は創傷治療剤原料が提供される。
【0034】
上記の創傷治療剤又は創傷治療剤原料において、幹細胞の抽出物がペーストであるか、又は幹細胞の抽出物が凍結乾燥されていてもよい。
【0035】
本発明の態様によれば、幹細胞の抽出物を含む、表皮細胞増殖促進剤又は表皮細胞増殖促進剤原料が提供される。
【0036】
上記の表皮細胞増殖促進剤又は表皮細胞増殖促進剤原料において、幹細胞の抽出物がペーストであるか、又は幹細胞の抽出物が凍結乾燥されていてもよい。
【0037】
本発明の態様によれば、老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞に紫外線を照射することと、紫外線を照射された皮膚細胞を複数の異なる溶液のそれぞれで培養することと、紫外線による皮膚細胞のダメージが少ない培地又は紫外線を受けた皮膚細胞の修復が早い溶液を選択することと、を含む、抗紫外線物質のスクリーニング方法が提供される。
【0038】
本発明の態様によれば、老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞を乾燥することと、乾燥された皮膚細胞を複数の異なる溶液のそれぞれで培養することと、皮膚細胞の生存率が高い溶液を選択することと、を含む、抗乾燥物質のスクリーニング方法が提供される。
【0039】
本発明の態様によれば、老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞を乾燥することと、乾燥された皮膚細胞を複数の異なる溶液のそれぞれで培養することと、皮膚細胞のタイトジャンクションの損傷が小さい溶液を選択することと、を含む、抗乾燥物質のスクリーニング方法が提供される。
【0040】
上記の方法において、タイトジャンクションにおけるオクルディン及びクローディンの少なくとも一方を分析してもよい。
【0041】
本発明の態様によれば、老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞に酸化ストレスを与えることと、酸化ストレスを与えられた皮膚細胞を複数の異なる溶液のそれぞれで培養することと、皮膚細胞の生存率が高い溶液を選択することと、を含む、抗酸化ストレス物質のスクリーニング方法が提供される。
【0042】
本発明の態様によれば、老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞を複数の異なる溶液のそれぞれで培養することと、複数の異なる溶液から皮膚細胞由来の天然保湿因子の量が多い溶液を選択することと、を含む、保湿促進物質のスクリーニング方法が提供される。
【0043】
上記の方法において、天然保湿因子がセラミド及びフィラグリンの少なくも一方であってもよい。
【0044】
本発明の態様によれば、被験者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、紫外線による皮膚細胞のダメージを検査することと、を含む、皮膚の紫外線耐性検査方法が提供される。
【0045】
本発明の態様によれば、被験者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞を乾燥することと、皮膚細胞の生存率を検査することと、を含む、皮膚の乾燥耐性検査方法が提供される。
【0046】
本発明の態様によれば、被験者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞を乾燥することと、皮膚細胞のタイトジャンクションの損傷を検査することと、を含む、皮膚の乾燥耐性検査方法が提供される。
【0047】
上記の方法において、皮膚細胞のタイトジャンクションの損傷を検査することにおいて、タイトジャンクションにおけるオクルディン及びクローディンの少なくとも一方を分析してもよい。
【0048】
本発明の態様によれば、被験者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞に酸化ストレスを与えることと、皮膚細胞の生存率を検査することと、を含む、皮膚の酸化ストレス耐性検査方法が提供される。
【0049】
本発明の態様によれば、被験者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞を培養することと、皮膚細胞由来の天然保湿因子の量を検査することと、を含む、皮膚の保湿能力の検査方法が提供される。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、iPS細胞の培地を有効活用した医薬品組成物及び化粧品組成物を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】実施例2に係る線維芽細胞によるヒアルロン酸産生試験の結果を示すグラフである。
図2】実施例4に係る線維芽細胞によるI型コラーゲン産生試験の結果を示すグラフである。
図3】実施例4に係る線維芽細胞によるI型コラーゲン産生試験の結果を示す表である。
図4】実施例5に係る毛乳頭細胞の増殖性試験の結果を示すグラフである。
図5】実施例5に係る毛乳頭細胞の増殖性試験の結果を示す表である。
図6】実施例6に係る毛乳頭細胞によるVEGF産生試験の結果を示すグラフである。
図7】実施例6に係る毛乳頭細胞によるVEGF産生試験の結果を示す表である。
図8】実施例7に係る毛乳頭細胞によるFGF-7産生試験の結果を示すグラフである。
図9】実施例7に係る毛乳頭細胞によるFGF-7産生試験の結果を示す表である。
図10】実施例8に係る線維芽細胞の遊走性試験の結果を示す写真である。
図11】実施例8に係る線維芽細胞の遊走性試験の結果を示す写真である。
図12】実施例10に係る皮膚線維芽細胞のUV照射試験の結果を示すグラフである。
図13】実施例11に係る皮膚線維芽細胞の乾燥刺激試験の結果を示すグラフである。
図14】実施例12に係る皮膚線維芽細胞の酸化ストレス試験の結果を示すグラフである。
図15】実施例12に係る皮膚線維芽細胞の酸化ストレス試験の結果を示すグラフである。
図16】参考例に係る細胞の顕微鏡写真である。
図17】参考例に係る細胞の顕微鏡写真である。
図18】参考例に係る細胞のフローサイトメトリーの結果を示すヒスとグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお以下の示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部材の組み合わせ等を下記のものに特定するものではない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0053】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る医薬品組成物、医薬品組成物原料、化粧品組成物、及び化粧品組成物原料のそれぞれは、体細胞をiPS細胞等の多能性幹細胞にリプログラミングした際に使用した培地の上清を含む。第1実施形態に係る医薬品組成物、医薬品組成物原料、化粧品組成物、及び化粧品組成物原料のそれぞれは、体細胞をiPS細胞等の多能性幹細胞にリプログラミングした際に使用した培地の上清の凍結乾燥物を含んでいてもよい。第1実施形態に係る医薬品組成物、医薬品組成物原料、化粧品組成物、及び化粧品組成物原料のそれぞれは、体細胞をiPS細胞等の多能性幹細胞にリプログラミングした際に使用した培地の上清をナノカプセル等のカプセル又はナノエマルジョン等のエマルジョン中に含んでいてもよい。
【0054】
iPS細胞は、例えば血液細胞及び線維芽細胞等の分化細胞等の体細胞に、OCT3/4、KLF4、c-MYC、及びSOX2等の初期化因子を導入することにより誘導される。iPS細胞に誘導することを、リプログラミング、初期化、形質転換、分化転換(Transdifferentiation or Lineage reprogramming)、及び細胞の運命変更(Cell fate reprogramming)という場合がある。多能性幹細胞は、浮遊培養等の三次元培養されながら誘導されてもよい。三次元培養の際には、ゲル培地を用いてもよいし、液体培地を用いてもよい。多能性幹細胞は、例えば、TRA1-60、OCT3/4、SSEA3、SSEA4、TRA1-81、及びNANOGのいずれかの陽性率が、30%以上、50%以上、好ましくは80%以上である。ゲル培地は、フィーダー細胞を含まなくともよい。
【0055】
誘導培養する際の培地としては、例えば、TeSR2(STEMCELL Technologies)等のヒトES/iPS培地を使用可能である。ただし、培地は、これに限定されず、種々の幹細胞培地が使用可能である。例えばPrimate ES Cell Medium、Reprostem、ReproFF、ReproFF2、ReproXF(Reprocell)、mTeSR1、TeSRE8、ReproTeSR(STEMCELL Technologies)、PluriSTEM(登録商標)Human ES/iPS Medium(Merck)、NutriStem (登録商標)XF/FF Culture Medium for Human iPS and ES Cells、Pluriton reprogramming medium(Stemgent)、PluriSTEM(登録商標)、Stemfit AK02N、Stemfit AK03(Ajinomoto)、ESC-Sure(登録商標)serum and feeder free medium for hESC/iPS(Applied StemCell)、L7(登録商標)hPSC Culture System (LONZA)、及びPrimate ES Cell Medium (ReproCELL)等を利用してもよい。
【0056】
ゲル培地は、例えば、上記の培地に脱アシル化ジェランガムを終濃度が0.5重量%から0.001重量%、0.1重量%から0.005重量%、あるいは0.05重量%から0.01重量%となるよう添加することにより調製される。
【0057】
ゲル培地は、ジェランガム、ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、キサンタンガム、カラギーナン、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ラムナン硫酸、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の高分子化合物を含んでいてもよい。また、ゲル培地は、メチルセルロースを含んでいてもよい。メチルセルロースを含むことにより、細胞同士の凝集がより抑制される。
【0058】
あるいは、ゲル培地は、poly(glycerol monomethacrylate) (PGMA)、poly(2-hydroxypropyl methacrylate) (PHPMA)、Poly (N-isopropylacrylamide) (PNIPAM)、amine terminated、carboxylic acid terminated、maleimide terminated、N-hydroxysuccinimide (NHS) ester terminated、triethoxysilane terminated、Poly (N-isopropylacrylamide-co-acrylamide)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-acrylic acid)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-butylacrylate)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-methacrylic acid)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-methacrylic acid-co-octadecyl acrylate)、及びN-Isopropylacrylamideから選択される少なくの温度感受性ゲルを含んでいてもよい。
【0059】
あるいは、第1実施形態に係る医薬品組成物、医薬品組成物原料、化粧品組成物、及び化粧品組成物原料のそれぞれは、幹細胞の抽出物を含む。抽出物は、液体であってもよい。すなわち、抽出物は、抽出液であってもよい。幹細胞は、iPS細胞のような多能性幹細胞、及び胚性幹細胞(ES細胞)を含む。幹細胞は、例えば、TRA1-60又は、Oct3/4の陽性率が、30%以上、50%以上、好ましくは80%以上である。幹細胞を未分化状態で維持培養する場合、培地はb-FGFを10ng/ml以上、好ましくは40ng/ml以上含む。医薬品組成物、医薬品組成物原料、化粧品組成物、及び化粧品組成物原料のそれぞれは、幹細胞の抽出物は、幹細胞のペーストであってもよい。幹細胞のペーストは、iPS細胞をすり潰すことにより得られる。幹細胞の抽出物は、凍結乾燥物であってもよい。また、幹細胞の抽出物は、粉体であってもよい。あるいは、幹細胞の抽出物は、幹細胞の溶解物であってもよい。
【0060】
第1実施形態に係る医薬品組成物は、皮膚塗布組成物であってもよい。第1実施形態に係る医薬品組成物は、皮膚疾患治療剤であってもよい。第1実施形態に係る皮膚疾患治療剤で治療可能な疾患の例としては、尋常性ざ瘡、尋常性乾癬、ケロイド、脂漏性皮膚炎、接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、アトピー性乾燥皮膚炎、皮膚粗鬆症(dermatoporosis)、光線性弾性線維症、日光性角化症、眼瞼下垂症、円形脱毛症、頭髪脱毛症、睫毛貧毛症、肝斑、老人性色素班、汗疹、そばかす、遅発性両側性太田母班、脂漏性角化症、早老症による皮膚疾患、及び単純疱疹等が挙げられる。
【0061】
第1実施形態に係る化粧品組成物で改善又は解消可能な状態の例としては、シミ、そばかす、しわ、たるみ、きしみ、肌のはりの低下、くすみ、敏感肌、乾燥肌、及び薄毛等が挙げられる。第1実施形態に係る化粧品組成物の効果としては、肌を整える、肌のキメを整える、皮膚をすこやかに保つ、肌荒れを防ぐ、肌をひきしめる、皮膚にうるおいを与える、皮膚の水分及び油分を補い保つ、皮膚の柔軟性を保つ、皮膚を保護する、皮膚の乾燥を防ぐ、肌を柔らげる、肌にはりを与える、肌にツヤを与える、肌を滑らかにする、肌にはり与える、シミを目立たなくさせる、しわを抑制する及び肌を明るくする等が挙げられる。さらに、第1実施形態に係る化粧品組成物の頭皮あるいは毛髪に関する効果としては、頭皮を健やかに保つ、育毛、薄毛の予防、かゆみの予防、脱毛の予防、毛生促進、発毛促進、病後又は産後の脱毛の予防、及び養毛等が挙げられる。
【0062】
第1実施形態に係る医薬品組成物は、創傷治療剤、表皮細胞増殖促進剤、表皮ターンオーバー促進剤、発毛剤、育毛剤、及び睫毛貧毛症治療薬であってもよい。第1実施形態に係る医薬品組成物及び化粧品組成物は、コラーゲン産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、発毛剤、線維芽細胞成長因子(FGF)ファミリー産生促進剤、及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)産生促進剤であってもよい。
【0063】
毛髪の成長においては毛根の毛母細胞が分裂し、そこから生じた細胞が毛髪を構成していく。一方、毛髪の成長には毛周期と呼ばれる周期があり、成長期、退行期、及び休止期を繰り返す。毛乳頭細胞は増殖因子の産生と放出を通じて、毛包上皮幹細胞の増殖及び分化に影響を及ぼし、毛周期を制御している。毛乳頭細胞や毛母細胞の活性化が毛成長のメカニズムに寄与するといわれている。また、毛周期に応じて毛包では活発に血管のリモデリングが行われるが、このときの血管新生に問題があると、毛髪形成のための栄養や酸素の供給が不十分になる。毛包血管網からの血流の不足は男性型脱毛症(AGA)の病態に関与するといわれている。
【0064】
毛乳頭細胞の遺伝子と発毛及び毛成長については、以下のようなことが知られている。すなわち、乳頭細胞が毛母細胞に対して分泌する増殖因子としては、FGF-7及びIGF-1等が知られている。これら因子には毛包成長を維持する作用がある。血管内皮成長因子(VEGF)は毛乳頭細胞より分泌されて毛包血管の増生に関わり、またオートクラインに毛乳頭細胞を増殖させる効果があるが、成長期から退行期へ移行するにしたがい、発現量は減少する。VEGF遺伝子はAGA(男性型脱毛症)の毛組織で発現が低下している。VEGFBはVEGFが作用する受容体であるVEGFR-1に競合して結合する。VEGFBは血管内皮細胞の増殖や透過性亢進活性を持つが、毛包での効果は不明である。
【0065】
第1実施形態に係る医薬品組成物及び化粧品組成物は、毛乳頭に直接作用し、発毛促進因子であるFGF-7の産生量を高めて発毛を促進することで毛周期の成長期を長くさせ、細く弱い毛から太くて強い毛に育てる効果、血管内皮成長因子(VEGF)を高め、毛乳頭細胞より分泌されて毛包血管の増生に関わり、またオートクラインに毛乳頭細胞を増殖させる効果がある。したがって、第1実施形態に係る医薬品組成物及び化粧品組成物は、毛乳頭細胞の活性化剤として使用可能である。
【0066】
第1実施形態に係る医薬品組成物及び化粧品組成物が育毛剤又は発毛剤として用いられる場合、ミノキシジル、センブリ、パントテニルエチルエーテル、トコフェロール酢酸エステル、グリチルリチン酸二カリウム、及びアデノシン等の他の有効成分を含んでいてもよい。
【0067】
第1実施形態に係る創傷治療剤で治療可能な創傷の例としては、熱傷、擦過創、裂傷、挫傷、縫合創、褥瘡、及び皮膚欠損創等が挙げられる。
【0068】
第1実施形態に係る医薬品組成物及び化粧品組成物は、体細胞をリプログラミングした際に使用した培地の上清を有効量含む。あるいは、第1実施形態に係る医薬品組成物及び化粧品組成物は、幹細胞の抽出物を有効量含む。ここで、有効量とは、医薬品組成物あるいは化粧品組成物として効用を発揮可能な量をいう。有効量は、患者の年齢、対象疾患、他の成功成分の有無、及び他の配合物の量に応じて、適宜設定される。
【0069】
第1実施形態に係る医薬品組成物及び化粧品組成物は、製剤上許容される担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、及び生理食塩水等を含んでいてもよい。賦形剤の例としては、乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、及び白糖が挙げられる。崩壊剤の例としては、カルボキシメチルセルロース、及び炭酸カルシウムが挙げられる。緩衝剤の例としては、リン酸塩、クエン酸塩、及び酢酸塩が挙げられる。乳化剤の例としては、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、及びトラガントが挙げられる。
【0070】
懸濁剤の例としては、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、及びラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。無痛化剤の例としては、ベンジルアルコール、クロロブタノール、及びソルビトールが挙げられる。安定剤の例としては、プロピレングリコール、及びアスコルビン酸が挙げられる。保存剤の例としては、フェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、及びメチルパラベンが挙げられる。防腐剤の例としては、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、及びクロロブタノールが挙げられる。
【0071】
また、第1実施形態に係る医薬品組成物及び化粧品組成物には、水、アルコール、界面活性剤(カチオン、アニオン、ノニオン、及び両性界面活性剤等)、保湿剤(グリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ペンタンジオール、ポリクオタニウム、アミノ酸、尿素、ピロリドンカルボン酸塩、核酸類、単糖類、及び少糖等、並びにそれらの誘導体等)、増粘剤(多糖類、ポリアクリル酸塩、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、キチン、キトサン、アルギン酸、カラギーナン、キサンタンガム、及びメチルセルロース等、並びにそれらの誘導体等)、ワックス、ワセリン、炭化水素飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、及びシリコン油等、並びにそれらの誘導体、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、及びトリオクタン酸グリセリル等のトリグリセライド類、ステアリン酸イソプロピル等のエステル油類、天然油脂類(オリブ油、椿油、アボガド油、アーモンド油、カカオ脂、月見草油、ブドウ種子油、マカデミアンナッツ油、ユーカリ油、ローズヒップ油、スクワラン、オレンジラフィー油、ラノリン、及びセラミド等)、防腐剤(オキシ安息香酸誘導体、デヒドロ酢酸塩、感光素、ソルビン酸、及びフェノキシエタノール等、並びにそれらの誘導体等)、殺菌剤(イオウ、トリクロカルバアニリド、サリチル酸、ジンクピリチオン、及びヒノキチオール等、並びにそれらの誘導体等)、紫外線吸収剤(パラアミノ安息香酸、及びメトキシケイ皮酸等、並びにそれらの誘導体等)、抗炎症剤(アラントイン、ビサボロール、ε-アミノカプロン酸、アセチルファネシルシスティン、及びグリチルリチン酸等、並びにそれらの誘導体等)、抗酸化剤(トコフェロール、BHA、BHT、及びアスタキサンチン等、並びにそれらの誘導体等)、キレート剤(エデト酸、及びヒドロキシエタンジホスホン酸等、並びにそれらの誘導体等)、動植物エキス(アシタバ、アロエ、エイジツ、オウゴン、オウバク、海藻、カリン、カミツレ、甘草、キウイ、キュウリ、クワ、シラカバ、トウキ、ニンニク、ボタン、ホップ、マロニエ、ラベンダー、ローズマリー、ユーカリ、ミルク、各種ペプタイド、プラセンタ、ローヤルゼリー、ユーグレナエキス、加水分解ユーグレナエキス、及びユーグレナ油等、並びにこれらの含有成分精製物又は発酵物等)、pH調整剤(無機酸、無機酸塩、有機酸、及び有機酸塩等、並びにそれらの誘導体等)、ビタミン類(ビタミンA類、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD類、ユビキノン、及びニコチン酸アミド等、並びにそれらの誘導体等)、酵母、麹菌及び乳酸菌の発酵液、ガラクトミセス培養液、美白剤(トラネキサム酸、トラネキサム酸セチル塩酸塩、4-n-ブチルレゾルシノール、アルブチン、コウジ酸、エラグ酸、カンゾウフラボノイド、ナイアシンアミド、及びビタミンC誘導体等)、セラミド・セラミド誘導体、抗シワ剤(レチノール、及びレチナール、並びにそれらの誘導体、ニコチン酸アミド、及びオリゴぺプチド等、並びにそれらの誘導体等、好中球エラスターゼ阻害、並びにMMP-1及びMMP-2阻害作用のある天然及び合成成分等)、酸化チタン、タルク、マイカ、シリカ、酸化亜鉛、酸化鉄、シリコン、及びこれらを加工処理した粉体類等を、第1実施形態に係る医薬品組成物及び化粧品組成物の目的を達成する範囲内で配合することができる。
【0072】
なお、第1実施形態に係る医薬品組成物及び化粧品組成物に添加可能な成分は、上記に限られるものではなく、医薬品組成物及び化粧品組成物に用い得る成分であれば自由に選択が可能である。第1実施形態に係る医薬品組成物及び化粧品組成物をハップ剤として用いる場合、上記成分に加えて、基剤(カオリン、及びベントナイト等)、ゲル化剤(ポリアクリル酸塩、及びポリビニルアルコール等)を目的を達成する範囲内で配合することができる。第1実施形態に係る医薬品組成物及び化粧品組成物を入浴剤として用いる場合、硫酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩、色素、及び保湿剤を目的を達成する範囲内で適宜配合し、パウダータイプ、液剤タイプに調製してもよい。
【0073】
第1実施形態に係る医薬品組成物及び化粧品組成物は、当該技術分野において周知慣用されている方法によって製造可能である。
【0074】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る抗紫外線物質のスクリーニング方法は、早老症患者及び皮膚疾患患者等の老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から作製されたiPS細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、任意により分化誘導した皮膚細胞に紫外線を照射することと、紫外線を照射された皮膚細胞を複数の異なる溶液のそれぞれで培養することと、紫外線による皮膚細胞のダメージが少ない溶液又は紫外線を受けた皮膚細胞の修復が早い溶液を選択することと、を含む。なお、患者はヒトに限定されず、非ヒト動物も含む。
【0075】
早老症の例としては、ウェルナー症候群、色素性乾皮症及びコケイン症候群が挙げられるが、特に限定されない。早老症患者由来の体細胞は、例えば線維芽細胞,
血液細胞、上皮細胞、体性幹細胞、ケラチノサイト、毛乳頭細胞、及び歯髄幹細胞であるが、特に限定されない。iPS細胞は、早老症患者由来の体細胞に、OCT3/4、KLF4、c-MYC、及びSOX2等の初期化因子を導入することにより誘導される。iPS細胞から皮膚細胞を分化誘導する際には、例えば、bFGFを含まない培養液を入れた細胞低接着ディッシュにiPS細胞を播種する。その後、2日おきに培地を交換し、8日後に形成された胚様体(EB)をディッシュに播種し、細胞をディッシュに接着させ、10%FBS培地で細胞を培養する。細胞がコンフルエントになったところで、トリプシンで細胞をディッシュから剥がし、継代培養する。同様に継代培養を1か月繰り返す。その後、CD13等の線維芽細胞マーカーを用いて、細胞が線維芽細胞に分化したことを確認する。また、TRA 1-60等のiPS細胞マーカーを用いて、細胞に未分化のiPS細胞が残っていないかを確認してもよい。分化誘導される皮膚細胞は、例えば皮膚線維芽細胞であるが、特に限定されない。
【0076】
分化誘導された皮膚細胞は、適宜培養された後、紫外線(UV)を照射される。紫外線の強さ、波長範囲、及び照射時間は、スクリーニングされる抗紫外線物質の用途、用法及び用量等に応じて適宜設定される。UVを照射された皮膚細胞は、スクリーニング対象となる異なる物質をそれぞれ含む複数の異なる溶液のそれぞれの中で培養される。溶液は、培地であってもよい。溶液中におけるスクリーニング対象物質及び培養時間等は、スクリーニングされる抗紫外線物質の用途、用法及び用量等に応じて適宜設定される。
【0077】
その後、皮膚細胞のダメージが少ない溶液又は皮膚細胞の修復が早い溶液を、抗紫外線物質を含む溶液として選択する。例えば、複数の溶液のそれぞれで培養された皮膚細胞を分析し、ダメージが少ない皮膚細胞の培養に用いられた溶液の一つ又はグループを選択し、ダメージが多い皮膚細胞の培養に用いられた溶液の一つ又はグループを除外する。あるいは、複数の溶液のそれぞれで培養された皮膚細胞を分析し、早く修復した皮膚細胞の培養に用いられた溶液の一つ又はグループを選択し、遅く修復した皮膚細胞又は修復しなかった皮膚細胞の培養に用いられた溶液の一つ又はグループを除外する。
【0078】
本発明者らの知見によれば、早老症患者及び皮膚疾患患者等の老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から誘導されたiPS細胞から誘導された皮膚細胞は、健常者の皮膚細胞と比較して、UV照射に対する抵抗力がない傾向にある。したがって、早老症患者及び皮膚疾患患者等の老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から誘導されたiPS細胞から誘導された皮膚細胞を用いることにより、効果的な抗紫外線物質をスクリーニングすることが可能である。
【0079】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る皮膚の紫外線耐性検査方法は、被験者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞に紫外線を照射することと、紫外線による皮膚細胞のダメージを検査することと、を含む。
【0080】
被験者は疾患患者であってもよいし、健常者であってもよい。被験者由来の体細胞は、予め被験者から取得されており、当該方法は、被験者から体細胞を取得するステップを含まなくともよい。紫外線による皮膚細胞のダメージが大きければ、被験者の皮膚細胞が、紫外線耐性を有しないと判定してもよい。紫外線による皮膚細胞のダメージが小さければ、被験者の皮膚細胞が、紫外線耐性を有すると判定してもよい。当該方法によれば、紫外線による皮膚細胞のダメージの検査結果に基づいて、被験者の皮膚細胞が、紫外線耐性を有するか否かを検査することが可能である。
【0081】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る抗乾燥物質のスクリーニング方法は、早老症患者及び皮膚疾患患者等の老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から作製されたiPS細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞を乾燥することと、乾燥された皮膚細胞を複数の異なる溶液のそれぞれで培養することと、皮膚細胞の生存率が高い溶液を選択することと、を含む。
【0082】
第2実施形態と同様に分化誘導された皮膚細胞は、適宜培養された後、乾燥させられる。皮膚細胞を乾燥する際には、例えば、皮膚細胞周囲の培地を除去する。また、皮膚細胞に気流をあててもよいし、乾燥剤等を用いて皮膚細胞を乾燥させてもよい。皮膚細胞の乾燥方法及び乾燥時間は、スクリーニングされる抗乾燥物質の用途、用法及び用量等に応じて適宜設定される。乾燥させられた皮膚細胞は、スクリーニング対象となる異なる物質をそれぞれ含む複数の異なる溶液のそれぞれの中で培養される。溶液は培地であってもよい。溶液中におけるスクリーニング対象物質及び培養時間等は、スクリーニングされる抗乾燥物質の用途、用法及び用量等に応じて適宜設定される。
【0083】
その後、複数の溶液のそれぞれで培養された皮膚細胞の生存率を測定し、皮膚細胞の生存率が高い溶液を、抗乾燥物質を含む溶液として選択する。例えば、複数の溶液のそれぞれで培養された皮膚細胞の生存率を測定し、生存率が高い皮膚細胞の培養に用いられた溶液の一つ又はグループを選択し、生存率が低い皮膚細胞の培養に用いられた溶液の一つ又はグループを除外する。
【0084】
なお、皮膚細胞の生存率が高い溶液を選択する代わりに、皮膚細胞のタイトジャンクションの損傷が小さい溶液を選択してもよい。この場合、タイトジャンクションにおけるオクルディン及びクローディンの少なくとも一方を分析し、オクルディン及びクローディンの少なくとも一方の量が多い溶液を選択してもよい。一般に、皮膚細胞は、乾燥するとタイトジャンクションが損傷し、オクルディン及びクローディンの量が減少する。したがって、例えば、複数の溶液のそれぞれで培養された皮膚細胞のタイトジャンクションを分析し、タイトジャンクションの損傷が小さい皮膚細胞の培養に用いられた溶液の一つ又はグループを選択し、タイトジャンクションの損傷が大きい皮膚細胞の培養に用いられた溶液の一つ又はグループを除外する。
【0085】
本発明者らの知見によれば、早老症患者及び皮膚疾患患者等の老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から誘導されたiPS細胞から誘導された皮膚細胞は、健常者の皮膚細胞と比較して、乾燥に対する抵抗力がない傾向にある。したがって、早老症患者及び皮膚疾患患者等の老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から誘導されたiPS細胞から誘導された皮膚細胞を用いることにより、効果的な抗乾燥物質をスクリーニングすることが可能である。
【0086】
(第5実施形態)
第5実施形態に係る皮膚の乾燥耐性検査方法は、被験者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞を乾燥することと、皮膚細胞の生存率を検査することと、を含む。
【0087】
被験者は疾患患者であってもよいし、健常者であってもよい。被験者由来の体細胞は、予め被験者から取得されており、当該方法は、被験者から体細胞を取得するステップを含まなくともよい。皮膚細胞の生存率が高ければ、被験者の皮膚細胞が乾燥耐性を有すると判定してもよい。皮膚細胞の生存率が低ければ、被験者の皮膚細胞が乾燥耐性を有しない判定してもよい。当該方法によれば、皮膚細胞の生存率の検査結果に基づいて、被験者の皮膚細胞が、乾燥耐性を有するか否かを検査することが可能である。
【0088】
なお、皮膚細胞の生存率を検査する代わりに、皮膚細胞のタイトジャンクションの損傷を検査してもよい。タイトジャンクションの損傷が小さい場合、被験者の皮膚細胞が、乾燥耐性を有し、タイトジャンクションの損傷が大きい場合、被験者の皮膚細胞が、乾燥耐性を有しないと判定してもよい。
【0089】
(第6実施形態)
第6実施形態に係る抗酸化ストレス物質のスクリーニング方法は、早老症患者及び皮膚疾患患者等の老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から作製されたiPS細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞に酸化ストレスを与えることと、酸化ストレスを与えられた皮膚細胞を複数の異なる溶液のそれぞれで培養することと、皮膚細胞の生存率が高い溶液を選択することと、を含む。
【0090】
第2実施形態と同様に分化誘導された皮膚細胞は、適宜培養された後、酸化ストレスを与えられる。皮膚細胞に酸化ストレスを与える方法は、特に限定されないが、例えば、皮膚細胞を培養している培地に過酸化水素等の酸化物質を添加することを含む。皮膚細胞に酸化ストレスを与える方法及び皮膚細胞に酸化ストレスを与える時間は、スクリーニングされる抗酸化ストレス物質の用途、用法及び用量等に応じて適宜設定される。酸化ストレスを与えられた皮膚細胞は、例えば酸化ストレスを与える物質を除去した後、スクリーニング対象となる異なる物質をそれぞれ含む複数の異なる溶液のそれぞれの中で培養される。溶液は培地であってもよい。溶液中におけるスクリーニング対象物質及び培養時間等は、スクリーニングされる抗酸化ストレス物質の用途、用法及び用量等に応じて適宜設定される。
【0091】
その後、複数の溶液のそれぞれで培養された皮膚細胞の生存率を測定し、皮膚細胞の生存率が高い溶液を、抗酸化ストレス物質を含む溶液として選択する。例えば、複数の溶液のそれぞれで培養された皮膚細胞の生存率を測定し、生存率が高い皮膚細胞の培養に用いられた溶液の一つ又はグループを選択し、生存率が低い皮膚細胞の培養に用いられた溶液の一つ又はグループを除外する。
【0092】
本発明者らの知見によれば、早老症患者及び皮膚疾患患者等の老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から誘導されたiPS細胞から誘導された皮膚細胞は、健常者の皮膚細胞と比較して、酸化ストレスに対する抵抗力がない傾向にある。したがって、早老症患者及び皮膚疾患患者等の老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から誘導されたiPS細胞から誘導された皮膚細胞を用いることにより、効果的な抗酸化ストレス物質をスクリーニングすることが可能である。
【0093】
(第7実施形態)
第7実施形態に係る皮膚の酸化ストレス耐性検査方法は、被験者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞に酸化ストレスを与えることと、皮膚細胞の生存率を検査することと、を含む。
【0094】
被験者は疾患患者であってもよいし、健常者であってもよい。被験者由来の体細胞は、予め被験者から取得されており、当該方法は、被験者から体細胞を取得するステップを含まなくともよい。酸化ストレスによる皮膚細胞のダメージが大きければ、被験者の皮膚細胞が、酸化ストレス耐性を有しないと判定してもよい。酸化ストレスによる皮膚細胞のダメージが小さければ、被験者の皮膚細胞が、酸化ストレス耐性を有すると判定してもよい。当該方法によれば、酸化ストレスによる皮膚細胞のダメージの検査結果に基づいて、被験者の皮膚細胞が、酸化ストレス耐性を有するか否かを検査することが可能である。
【0095】
(第8実施形態)
第8実施形態に係る保湿促進物質のスクリーニング方法は、早老症患者及び皮膚疾患患者等の老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞を複数の異なる溶液のそれぞれで培養することと、複数の異なる溶液から皮膚細胞由来の天然保湿因子の量が多い溶液を選択することと、を含む。
【0096】
第2実施形態と同様に分化誘導された皮膚細胞は、スクリーニング対象となる異なる物質をそれぞれ含む複数の異なる溶液のそれぞれの中で培養される。溶液中におけるスクリーニング対象物質及び培養時間等は、スクリーニングされる保湿促進物質の用途、用法及び用量等に応じて適宜設定される。
【0097】
その後、複数の溶液のそれぞれにおける、皮膚細胞由来の天然保湿因子の量を測定する。天然保湿因子としては、特に限定されないが、セラミド及びフィラグリンが挙げられる。天然保湿因子の量が多い溶液を、保湿促進物質を含む溶液として選択する。例えば、複数の溶液のそれぞれで天然保湿因子の量を測定し、天然保湿因子の量が多い溶液の一つ又はグループを選択し、天然保湿因子の量が少ない溶液の一つ又はグループを除外する。
【0098】
本発明者らの知見によれば、老化や皮膚疾患が進むと皮膚細胞における保湿促進物質の発現量が低下する傾向にある。したがって、早老症患者及び皮膚疾患患者等の老化疾患患者又は皮膚疾患患者由来の体細胞から誘導されたiPS細胞から誘導された皮膚細胞を用いることにより、効果的な保湿促進物質をスクリーニングすることが可能である。
【0099】
(第9実施形態)
第9実施形態に係る皮膚の保湿能力の検査方法は、被験者由来の体細胞から作製された多能性幹細胞から分化誘導した皮膚細胞を用意することと、皮膚細胞を培養することと、皮膚細胞由来の天然保湿因子の量を検査することと、を含む。
【0100】
被験者は疾患患者であってもよいし、健常者であってもよい。被験者由来の体細胞は、予め被験者から取得されており、当該方法は、被験者から体細胞を取得するステップを含まなくともよい。皮膚細胞由来の天然保湿因子の量が大きければ、被験者の皮膚細胞が、保湿能力が高いと判定してもよい。皮膚細胞由来の天然保湿因子の量が小さければ、被験者の皮膚細胞が、保湿能力が低いと判定してもよい。当該方法によれば、皮膚細胞由来の天然保湿因子の量の検査結果に基づいて、被験者の皮膚細胞が、保湿能力を有するか否かを検査することが可能である。
【実施例
【0101】
(実施例1:血液細胞をiPS細胞にリプログラミングしながら培養した培地の調製) 無血清かつ動物由来成分フリーの造血系細胞培地(StemspanACF、STEMCELLTECHNOLOGIES)に成長因子を添加して、造血系細胞培地を調製した。12ウェルディッシュのそれぞれのウェルに、2×105個の血液細胞(末梢血単核球)を播種し、それぞれのウェルに造血系細胞ゲル培地を滴下して血液細胞を造血系細胞ゲル培地中に懸濁した。その後、12ウェルディッシュを37℃のCO2インキュベーター中に静置し、細胞を浮遊培養した。
【0102】
細胞の培養を開始してから3日後、それぞれのウェルに造血系細胞ゲル培地を適宜追加した。細胞の培養を開始してから6日後、それぞれのウェルにおいて、ウイルスタイターが1から20になるよう、iPS細胞作製用センダイウイルスベクターキット(CytoTune 2.0 Reprogramming Kit、登録商標、Thermo Fisher)を培養液中に加えて遺伝子を導入するか、又はエピソーマルプラスミド(Thermo Fisher)をエレクトロポレーションして遺伝子を導入後、それぞれのウェルにゲル培地を加え、細胞を培養をした
【0103】
hES培地に終濃度が0.02%となるようゲランガムを添加し、幹細胞ゲル培地を調製した。感染2日後から、2日に1回、それぞれのウェルに2mLの幹細胞ゲル培地を加えた。感染14日後、iPS細胞塊が誘導されたことを確認し、ゲル培地上清を回収した。回収したゲル培地上清をフィルターでろ過して滅菌し、フィルターを通過したゲル培地上清を、実施例1に係るリプログラミング培地の上清とした。
【0104】
(参考例1:iPS細胞を未分化状態を維持しながら培養した培地の調製)
mTeSR1(登録商標、STEMCELL Technologies)又はStemFit(登録商標、Ajinomoto)を用いて、Matrigel(登録商標、コーニング)又はLaminin511でコートした接着培養用シャーレ上で、ヒトiPS細胞を接着維持培養した。ヒトiPS細胞は、1週間ごとに継代した。継代の際には、ES細胞解離液(TrypLE Select、登録商標、ThermoFisher)で処理した。
【0105】
上記の通り維持培養されたヒトiPS細胞を、ES細胞解離液(TrypLE Select、登録商標、ThermoFisher)を用いて、接着培養用シャーレから剥がし、シングルセルまで分割した。次に、ジェランガム及び10μmol/LのROCK阻害剤(Selleck)を添加してゲル化した幹細胞用培地にヒトiPS細胞を播種し、ヒトiPS細胞を14日間浮遊培養した。14日間浮遊培養する場合、2日に一度、ゲル化した幹細胞用培地を培養器に補充した。
【0106】
その後、ヒトiPS細胞が懸濁しているゲル化幹細胞用培地をメッシュフィルターでろ過し、細胞塊を除去した。さらに、ろ過されたゲル化幹細胞用培地を1500gで5分遠心して細胞及びゲルを沈殿させ、遠心後の幹細胞用培地の上清を再度回収した後に3000回転で3分遠心し、遠心後の幹細胞用培地の上清を0.22μmのフィルターでろ過した。ろ過後の幹細胞用培地の上清を、参考例1に係るiPS細胞を維持培養した培地の上清とした。
【0107】
また、維持培養されたiPS細胞は、未分化マーカーであるNANOG、OCT3/4、及びTRA 1-60が陽性であることを確認した。
【0108】
(実施例2:線維芽細胞によるヒアルロン酸産生試験)
増殖培地Aとして、10%FBS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン添加DMEM培地を用意した。次に、成人由来正常ヒト線維芽細胞(KF-4109、Strain No.01035、クラボウ)を、濃度が5×103細胞/0.1mL/ウェルとなるよう増殖培地Aで懸濁し、96ウェルプレートに播種して、CO2インキュベーター内(5%CO2、37℃)で1日間培養した。
【0109】
試験培地Aとして、10%FBS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン添加DMEM培地を用意した。次に、実施例1及び参考例1に係る上清溶液のそれぞれと、試験培地Aと、を、混合し、濃度が10%の実施例1及び参考例1に係る上清添加培地Aを得た。線維芽細胞を培養している一部のウェル内の増殖培地Aを、実施例1及び参考例1に係る上清添加培地Aのそれぞれに置換した。また、陰性コントロールとして、一部のウェルの増殖培地Aを、FBS、ペニシリン-ストレプトマイシン、及び上清を添加していないDMEM培地(無添加試験培地A)に置換した。
【0110】
培地を交換した後、3日間、線維芽細胞を培養し、培地の上清を回収し、培地の上清のヒアルロン酸濃度を、DueSet Hyaluronan(Cat.No.DY3614、R&D Systems)を用いて測定した。結果を図1に示す。実施例1に係るリプログラミング培地の上清を添加した培地で培養した線維芽細胞は、参考例1に係るiPS細胞を維持培養した培地の上清を添加した培地で培養した線維芽細胞と比較して、倍以上のヒアルロン酸を産生していることが確認された。
【0111】
(実施例3:iPS細胞の抽出液の調製)
iPS細胞をマトリゲルコート及びラミニンコートのそれぞれの上で、Teser1、Teser2、Stem Fit、Essential8、Teser-E8、Nutri Stemのそれぞれを使用して培養をした。iPS細胞が80%コンフルエントになった段階で、トリプルセレクトを使ってiPS細胞を培養器から剥がし、剥がされたiPS細胞を含む溶液を5分間、200gで遠心して、iPS細胞を1.5mLのチューブに集めた。その後、すりこ木(Pestle in G-Tube、Thermo Fisher)でiPS細胞の細胞塊をすり潰し、すり潰されたiPS細胞のペーストを含むiPS細胞の抽出液を液体窒素で瞬間凍結した。iPS細胞の抽出液を使用するときは、5mLの培養液にiPS細胞の抽出液を懸濁し、一晩4℃でインキュベートし、翌日に懸濁液を10分間1500gで遠心して、細胞破砕片を溶液から除去した。その後、溶液をフィルターでろ過し、フィルターを通過した溶液を、iPS細胞の抽出液とした。
【0112】
(実施例4:線維芽細胞によるI型コラーゲン産生試験)
実施例2と同様に成人由来正常ヒト線維芽細胞を増殖培地Aを用いて培養した。また、実施例2と同様に試験培地Aを用意した。次に、実施例3に係るiPS細胞の抽出液と、試験培地Aと、を、混合し、濃度が50.0v/v%又は100.0v/v%の実施例3に係るiPS細胞の抽出液を含む抽出液添加培地Aを得た。線維芽細胞を培養している一部のウェル内の増殖培地Aを、抽出液添加培地Aに置換した。また、陰性コントロールとして、一部のウェルの増殖培地Aを、FBS、ペニシリン-ストレプトマイシン、及びiPS細胞の抽出液を添加していないDMEM培地(無添加試験培地A)に置換した。
【0113】
培地を交換した後、3日間、線維芽細胞を培養し、培地の上清を回収し、-80℃で保存した。その後、培地の上清を解凍し、培地の上清のI型コラーゲンの濃度を、ヒトコラーゲンタイプ1 ELISA kit(Cat.No.EC1-E105)で測定した。結果を図2及び図3に示す。iPS細胞の抽出液を添加した培地で培養した線維芽細胞は、iPS細胞の抽出液を添加しなかった培地で培養した線維芽細胞と比較して、多くのコラーゲンを産生していることが確認された。
【0114】
(実施例5:毛乳頭細胞の増殖性試験)
増殖培地Bとして、専用添加剤(牛胎児血清、インスリン・トランスフェリン・トリヨードサイロニン混液、牛下垂体抽出液、サイプロテロンアセテート)添加済みの毛乳頭細胞専用培地(Cat.No.TMTPGM-250、TOYOBO)を用意した。次に、正常ヒト毛乳頭細胞(Cat.No.CA60205a、Lot.No.2868、TOYOBO)を、濃度が1.2×104細胞/0.3mL/ウェルとなるよう増殖培地Bで懸濁し、typeIコラーゲンコート48ウェルプレートに播種して、CO2インキュベーター内(5%CO2、37℃)で1日間培養した。
【0115】
実施例3に係るiPS細胞の抽出液と、添加剤を添加していない毛乳頭細胞専用培地(無添加試験培地B)と、を、混合し、濃度が50.0v/v%又は100.0v/v%の実施例3に係るiPS細胞の抽出液を含む抽出液添加培地Bを得た。陰性コントロールとして、一部のウェルの増殖培地Bを、添加剤及びiPS細胞の抽出液を添加していない毛乳頭細胞専用培地(無添加試験培地B)に置換した。
【0116】
置換された培地で、3日間、毛乳頭細胞を培養し、WST-8法で生細胞数測定を行った。結果を図4及び図5に示す。実施例3に係るiPS細胞の抽出液を含む無添加試験培地Bを用いた場合、iPS細胞の抽出液を含まない無添加試験培地Bを用いた場合と比較して、毛乳頭細胞が優位に増殖したことが確認された。したがって、iPS細胞の抽出液が、薄毛の治療、脱毛の予防、毛生促進、及び発毛促進等の育毛及び発毛効果を有することが示唆された。
【0117】
(実施例6:毛乳頭細胞によるVEGF産生試験)
実施例5と同様に、増殖培地Bで正常ヒト毛乳頭細胞を1日間培養した。その後、一部のウェル内の増殖培地Bに、濃度が10.0v/v%及び20.0v/v%となるよう、実施例1に係るリプログラミング培地の上清を添加した。また、一部のウェル内の増殖培地Bに、濃度が50.0v/v%及び100.0v/v%となるよう、実施例3に係るiPS細胞の抽出液を添加した。
【0118】
陰性コントロールとして、一部のウェルの増殖培地Bを、無添加試験培地Bに置換した。また、参考コントロールとして、一部のウェルの増殖培地Bを、毛乳頭細胞専用培地に100μmol/Lのアデノシンを添加したアデノシン添加培地、及び毛乳頭細胞専用培地に30μmol/Lのミノキシジルを添加したミノキシジル添加培地のそれぞれに置換した。また、ミノキシジルのビヒクル・コントロールとして、一部のウェルの増殖培地Bを、毛乳頭細胞専用培地に0.1%DMSOを添加したDMSO添加培地に置換した。
【0119】
培地を交換した後、3日間、毛乳頭細胞を培養し、培地の上清を回収し、-80℃で保存した。その後、培地の上清を解凍し、培地の上清の血管内皮細胞成長因子(VEGF)濃度をHuman ELISA kit(Cat.No.ab100519、Abcam)で測定した。結果を図6及び図7に示す。iPS細胞を誘導培養した培地の上清及びiPS細胞の抽出液が、毛乳頭細胞のVEGF産生を促進することが示された。これにより、iPS細胞を誘導培養した培地の上清及びiPS細胞の抽出液が、育毛、発毛及び増毛に有効であることが示唆された。
【0120】
(実施例7:毛乳頭細胞によるFGF-7産生試験)
実施例5と同様に、増殖培地Bで正常ヒト毛乳頭細胞を1日間培養した。その後、一部のウェル内の増殖培地Bに、濃度が10.0v/v%及び20.0v/v%となるよう、実施例1に係るリプログラミング培地の上清を添加した。また、一部のウェル内の増殖培地Bに、濃度が50.0v/v%及び100.0v/v%となるよう、実施例3に係るiPS細胞の抽出液を添加した。
【0121】
陰性コントロールとして、一部のウェルの増殖培地Bを、無添加試験培地Bに置換した。また、参考コントロールとして、一部のウェルの増殖培地Bを、毛乳頭細胞専用培地に100μmol/Lのアデノシンを添加したアデノシン添加培地、及び毛乳頭細胞専用培地に30μmol/Lのミノキシジルを添加したミノキシジル添加培地のそれぞれに置換した。また、ミノキシジルのビヒクル・コントロールとして、一部のウェルの増殖培地Bを、毛乳頭細胞専用培地に0.1%DMSOを添加したDMSO添加培地に置換した。
【0122】
培地を交換した後、3日間、毛乳頭細胞を培養し、培地の上清を回収し、-80℃で保存した。その後、培地の上清を解凍し、培地の上清の線維芽細胞成長因子7(FGF-7)濃度を、FGF-7 Human ELISA kit(Cat.No.ab100519、Abcam)で測定した。結果を図8及び図9に示す。iPS細胞を誘導培養した培地の上清及びiPS細胞の抽出液が、毛乳頭細胞のFGF-7産生を促進することが示された。これにより、iPS細胞を誘導培養した培地の上清及びiPS細胞の抽出液が、育毛、発毛及び増毛に有効であることが示唆された。
【0123】
(実施例8:線維芽細胞の遊走性試験)
成人由来正常ヒト線維芽細胞を濃度が1×105から2×105細胞/ウェルとなるよう10%FBS培地で懸濁をして遊走能を測定するキット(Radius Cell Migration Assay、登録商標)のプレートに播種した。次に、10μg/mLのマイトマイシンC(Cat.No.20898-21、Nacalai tesque)でヒト線維芽細胞を2時間処理し、ヒト線維芽細胞の細胞分裂を停止させた。その後、ヒト線維芽細胞を、CO2インキュベーター内(5%CO2、37℃)で1日間培養した。
【0124】
一部のプレート内の培地を、10%FBS培地に濃度が10v/v%となるよう実施例3に係るiPS細胞の抽出液を添加した培地に置換した。また、一部のプレート内の培地を、10%FBS培地に濃度が10.0v/v%及び20.0v/v%となるよう実施例1に係るリプログラミング培地の上清を添加した培地に置換した。
【0125】
一部のプレート上の増殖培地Bを、陰性コントロールとして、増殖添加剤を添加していない表皮細胞培地(無添加試験培地B)に置換した。
【0126】
プロトコールに準じてヒト線維芽細胞を処理して、遊走試験を実施した。創傷治癒の過程では、傷に向かってヒト線維芽細胞が遊走して創傷が収縮する。本実施例においては、遊走試験前にストッパーで塞がれていてヒト線維芽細胞が接着していなかった部分にヒト線維芽細胞が遊走したか否かを、プレートリーダーを用いて分析した。具体的には、培地を置換してから23時間後、Hechestで表皮細胞を染色し、観察した。
【0127】
結果を図10及び図11に示す。iPS細胞の抽出液及びiPS細胞を誘導培養した培地の上清が、ヒト線維芽細胞の遊走能を促進することが確認された。したがって、iPS細胞の抽出液及びiPS細胞を誘導培養した培地の上清が、創傷治癒に有効であることが示された。
【0128】
(実施例9:早老症患者由来の細胞の用意)
ウェルナー症候群患者由来の線維芽細胞(AG04110)、色素性乾皮症患者由来の線維芽細胞(GM16684及びGM16687)、及びコケイン症候群患者由来の線維芽細胞(GM01098)をCoriell Institute for Medical Researchから購入した。これら早老症患者由来の線維芽細胞をiPS細胞に誘導した。さらにiPS細胞を、皮膚線維芽細胞に分化誘導した。
【0129】
(実施例10:皮膚線維芽細胞のUV照射試験)
成人由来正常ヒト皮膚線維芽細胞及び実施例9で用意した早老症患者の体細胞から誘導した皮膚線維芽細胞のそれぞれを、濃度が2×105細胞/ウェルとなるよう試験培地Aで懸濁し、6ウェルプレートに播種して、CO2インキュベーター内(5%CO2、37℃)で1日間培養した。
【0130】
翌日、UV照射機を使って302nmの紫外線を15分、ウェル内の皮膚線維芽細胞のそれぞれに照射した。次に、参考例1に係る上清溶液と、試験培地Aと、を、体積比で、10.00:90.00となるよう混合し、濃度が10.00v/v%の参考例1に係る上清添加培地Aを得た。一部のウェル内の試験培地Aを、参考例1に係る上清添加培地Aに置換した。翌日、全ての細胞をトリプシンでウェルから剥がし、細胞を7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)で染色した後、フローサイトメーターを用いて死細胞率を計測した。
【0131】
その結果、図12に示すように、いずれの皮膚線維芽細胞においても、UVを照射された細胞は、UVを照射されなかった細胞と比較して、死細胞率が上昇した。また、正常皮膚線維芽細胞と比較して、早老症患者の体細胞から誘導した皮膚線維芽細胞のほうが、UV照射による死亡率が高かった。ただし、iPS細胞を維持培養した際の培地の上清を添加した培地中の皮膚線維芽細胞は、iPS細胞を維持培養した際の培地の上清を添加しなかった培地中の皮膚線維芽細胞より生存率が高かった。したがって、早老症患者の体細胞から誘導した皮膚線維芽細胞は、UV照射に対して繊細であり、抗UV物質のスクリーニングに適していることが示唆された。
【0132】
(実施例11:皮膚線維芽細胞の乾燥刺激試験)
実施例10と同様に、成人由来正常ヒト皮膚線維芽細胞及び実施例9で用意した早老症患者の体細胞から誘導した皮膚線維芽細胞のそれぞれを試験培地Aを用いて1日間培養した。翌日、クリーンベンチの通気口内で各ウェルを40秒乾燥をさせた。次に、一部のウェル内の試験培地Aを、参考例1に係る上清添加培地Aに置換した。また、実施例1に係る上清溶液と、試験培地Aと、を、体積比で、10.00:90.00となるよう混合し、濃度が10.00v/v%の実施例1に係る上清添加培地Aを得た。一部のウェル内の試験培地Aを、実施例1に係る上清添加培地Aに置換した。翌日、全ての細胞をトリプシンでウェルから剥がし、細胞を7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)で染色した後、フローサイトメーターを用いて死細胞率を計測した。
【0133】
その結果、図13に示すように、正常皮膚線維芽細胞と比較して、早老症患者の体細胞から誘導した皮膚線維芽細胞のほうが、乾燥刺激による死亡率が高かった。ただし、iPS細胞を維持培養した際の培地の上清を添加した培地中の皮膚線維芽細胞は、iPS細胞を維持培養した際の培地の上清を添加しなかった培地中の皮膚線維芽細胞より生存率が高かった。また、血液細胞をiPS細胞に誘導培養した際の培地の上清を添加した培地中の皮膚線維芽細胞は、iPS細胞を維持培養した際の培地の上清を添加した培地中の皮膚線維芽細胞より生存率が高かった。したがって、早老症患者の体細胞から誘導した皮膚線維芽細胞は、乾燥刺激に対して繊細であり、抗乾燥刺激物質のスクリーニングに適していることが示唆された。
【0134】
(実施例12:皮膚線維芽細胞の酸化ストレス試験)
実施例10と同様に、成人由来正常ヒト皮膚線維芽細胞及び実施例9で用意した早老症患者の体細胞から誘導した皮膚線維芽細胞のそれぞれを試験培地Aを用いて1日間培養した。翌日、それぞれのウェルの試験培地Aに、濃度が0.03%になるように過酸化水素を加えた。10分後、一部のウェル内の培地を過酸化水素を含まない試験培地Aに戻した。また、一部のウェル内の培地を実施例1及び参考例1に係る上清添加培地Aのそれぞれに置換した。さらに、一部のウェル内の培地を、実施例3に係るiPS細胞の抽出液を含む培地に置換した。翌日、全ての細胞をトリプシンでウェルから剥がし、細胞を7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD)で染色した後、フローサイトメーターを用いて死細胞率を計測した。
【0135】
その結果、図14及び図15に示すように、正常皮膚線維芽細胞と比較して、色素性乾皮症患者の体細胞から誘導した皮膚線維芽細胞のほうが、乾燥刺激による死亡率が高かった。図15は、色素性乾皮症患者の体細胞から誘導した皮膚線維芽細胞の死細胞率を示す。図15に示すように、iPS細胞を維持培養した際の培地の上清を添加した培地、血液細胞をiPS細胞に誘導培養した際の培地の上清を添加した培地、及びiPS細胞の抽出液を添加した培地中の皮膚線維芽細胞は、無添加の試験培地A中の皮膚線維芽細胞より生存率が高かった。したがって、色素性乾皮症患者の体細胞から誘導した皮膚線維芽細胞は、酸化ストレスに対して繊細であり、抗酸化ストレス物質のスクリーニングに適していることが示唆された。
【0136】
(参考例)
特開2016-128396号公報に記載の実施例に準じてヒトiPS細胞を培養した。すなわち、実施例1と同じ幹細胞用培地を用いて、接着培養用シャーレ上のフィーダー細胞上で、ヒトiPS細胞を接着維持培養した。ヒトiPS細胞は、1週間ごとに継代した。継代の際には、ヒトiPS細胞を、0.25%トリプシン、0.1mg/mLのコラゲナーゼIV、1mmol/LのCaCl2、及び20%のKSRを含む剥離溶液で処理した。
【0137】
上記の通り培養されたヒトiPS細胞を、ES細胞解離液(TrypLE Select、登録商標、ThermoFisher)を用いて、接着培養用シャーレから剥がした。剥がしたヒトiPS細胞を、非接着培養用シャーレに入れたゲル化していないヒトiPS細胞中で1週間浮遊培養した。この結果、胚様体(EB)が形成された。形成された胚様体を接着培養用シャーレ上に播種し、10%FBS及び1%アンチアンチ(登録商標、抗真菌剤)を含有するDMEM中で1週間成長(outgrowth)させた。
【0138】
次に、細胞を0.05%トリプシン-EDTA溶液を用いて接着培養用シャーレから剥がし、シングルセルまで分割された細胞を新たな接着培養用シャーレに播種した。その後、培地として10%FBSを含有するDMEMを用い、細胞を一週間培養した。
【0139】
細胞が70%から80%以上コンフルエントになったことを確認した後、細胞を観察した。本参考例で培養した細胞の写真を図16(a)に示す。通常、未分化のiPS細胞の形態は、図16(b)に示される写真のようになる。したがって、本参考例で培養した細胞は、未分化状態を維持していないことが形態的に観察された。また、本参考例に係る細胞を21日間培養した後、蛍光試薬で標識された抗OCT3/4抗体及び蛍光試薬で標識された抗NANOG抗体で細胞を処理した後、顕微鏡で細胞を観察した結果を図17に示す。図17(a)は、励起光を用いずに観察した細胞の写真を示す。図17(b)は、抗OCT3/4抗体に結合している蛍光試薬に対応する励起光を用いて観察した細胞の写真を示す。図17(c)は、抗NANOG抗体に結合している蛍光試薬に対応する励起光を用いて観察した細胞の写真を示す。図17(b)及び図17(c)において蛍光は観察されず、細胞がOCT3/4陰性及びNANOG陰性であることが確認された。さらに、細胞をフローサイトメーターで検査したところ、培養された細胞は、未分化マーカーであるNANOG、OCT3/4、及びTRA 1-60が陰性であることが確認された。よって、細胞は未分化状態を維持しておらず、分化していたことが確認された。
図1
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