(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】曲管
(51)【国際特許分類】
E05B 1/00 20060101AFI20240710BHJP
E05B 3/04 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
E05B1/00 311A
E05B3/04
(21)【出願番号】P 2020190897
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】397041299
【氏名又は名称】株式会社MARUKI HARDWARE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】駒尺 雄
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-324562(JP,A)
【文献】特許第6770770(JP,B1)
【文献】特開2003-20824(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0060844(US,A1)
【文献】米国特許第4895399(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 1/00
E05B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部で湾曲する中心線を有する管部材であって、その湾曲部の近傍の内側に内方部材が配され、その内方部材が前記中心線を含む断面に直交する
横方向から管壁を通してねじ込まれる止めネジによって固定された状態で使用される曲管において、
前記内方部材は、円筒形に形成され、その軸方向が前記中心線に沿う姿勢で配されるものであり、前記管部材の前記内方部材が固定される部位は、
予め前記横方向の寸法が縦方向の寸法よりも小さい楕円形断面に形成されており、
前記内方部材が固定される部位の前記横方向に孔が形成されており、前記孔に通された前記止めネジが前記内方部材にねじ込まれていることを特徴とする曲管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、湾曲部の近傍の内側に配した内方部材を止めネジで固定した状態で使用される曲管に関する。
【背景技術】
【0002】
部屋の出入口を開閉する引き戸や開き戸には、把手としてのドアハンドルが取り付けられていることが多い。そのドアハンドルには、棒状の掴み部と、掴み部の両端から湾曲して掴み部に直交する方向に延びる取付部とを備えたものがある。
【0003】
上記のようなタイプのドアハンドルをドアの両面に取り付ける取付構造として、例えば特許文献1(
図2)に記載されているものがある。このドアハンドルの取付構造は、一方のドアハンドルの取付部に、他方のドアハンドルの取付部の内側に設けられる係止カラーとドアを貫通する皿ボルトをねじ込むことにより、一方のドアハンドルと係止カラーをドアに固定したうえ、係止カラーの外周に嵌合させた他方のドアハンドルの取付部に係止ねじをねじ込んで、その係止ねじの先端部を係止カラーの環状溝のテーパ面に押し当てることにより、他方のドアハンドルをドア側に引き寄せて固定するようになっている。
【0004】
ところで、上記特許文献1の取付構造では少なくとも取付部が中実に形成されたドアハンドルが対象となっているが、ドアハンドルとしては全体または取付部を金属製の曲管で構成したものを用いる場合も多く、その場合の取付構造は、通常、特許文献1のものよりも簡単な構成となる。
【0005】
すなわち、曲管を用いたドアハンドルをドアの両面に取り付ける場合は、一方のドアハンドルの取付部内周に固定しためねじ部材に、他方のドアハンドルの取付部の内側に設けられるプラグ(一般に「タイコ」と呼ばれる)とドアを貫通する皿ボルトをねじ込むことにより、一方のドアハンドルとプラグをドアに固定したうえ、プラグに被せた他方のドアハンドルの取付部の管壁を通して止めネジをプラグにねじ込むことにより、他方のドアハンドルをドアに固定することが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような簡単な構成の取付構造によって曲管を用いたドアハンドルを、長手方向を上下方向に向けてドアに取り付ける場合、ドアハンドル固定用の止めネジは、通常、ドアハンドルの取付部の開口側端部(湾曲部の近傍)の内側に配されるプラグに対して、曲管の中心線を含む断面に直交する方向(以下、「(曲管の)横方向」と称する。)の両側から管壁を通してねじ込まれるようになっている。これは、曲管の中心線を含む断面と平行な方向(以下、「(曲管の)縦方向」と称する。)から止めネジをねじ込む形態では、ドアを開閉するときに止めネジの回転方向に沿うようにドアハンドルに力が加わるため、横方向から止めネジをねじ込む形態に比べて、ドアの開閉の繰り返しによる止めネジの緩みが生じやすいからである。
【0008】
しかしながら、このように曲管の横方向から止めネジをねじ込んだドアハンドルでも、その止めネジが使用中に緩むことがある。
【0009】
すなわち、ドアハンドルに用いられている金属製の曲管は、通常、直管のベンダー曲げ加工によって製作されており、その加工の際に断面形状の変形を抑えるためのインサート治具を用いても、加工後の湾曲部の近傍の部位では直管の状態に比べて若干横方向に拡がり、縦方向寸法が小さくなっている。このため、曲管の横方向のプラグとの隙間寸法は直管の状態で設計した寸法よりも大きくなっており、その分だけ止めネジの先端部がプラグにねじ込まれる長さ(かかり代)が小さくなるので、止めネジが緩みやすくなる。また、曲管の横方向のプラグとの隙間寸法が大きいと、止めネジを曲管の横方向の両側から均等にプラグにねじ込むことが難しくなるので、いずれか一方の止めネジについては、かかり代がベンダー曲げ加工による減少分よりもさらに小さくなって、一層緩みやすくなる。
【0010】
この曲管における止めネジの緩みの問題は、上記のようなドアハンドルに限らず、湾曲部の近傍の内側に内方部材が配され、その内方部材が横方向から管壁を通してねじ込まれる止めネジによって固定された状態で使用される曲管に共通するものである。
【0011】
そこで、本発明は、曲管の湾曲部の近傍の内側に配される内方部材に対して、曲管の横方向から管壁を通してねじ込まれる止めネジの緩みを防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明は、少なくとも一部で湾曲する中心線を有する管部材であって、その湾曲部の近傍の内側に内方部材が配され、その内方部材が前記中心線を含む断面に直交する方向(横方向)から管壁を通してねじ込まれる止めネジによって固定された状態で使用される曲管において、前記内方部材が固定される部位は、前記中心線を含む断面に直交する方向(横方向)の内方部材との隙間寸法が、中心線を含む断面と平行な方向(縦方向)の内方部材との隙間寸法よりも小さく形成されている構成とした。
【0013】
すなわち、曲管の湾曲部の近傍で内方部材が固定される部位を、横方向の内方部材との隙間寸法が縦方向の内方部材との隙間寸法よりも小さくなるように形成することにより、通常のベンダー曲げ加工を受けたものに比べて、曲管の横方向から管壁を通して内方部材にねじ込まれる止めネジのかかり代が大きくなって、止めネジの緩みを防止できるようにしたのである。また、このようにすれば、止めネジを曲管の横方向の両側からねじ込む場合も両方の止めネジのかかり代を均等にしやすくなるし、止めネジのねじ込みによって生じる曲管の横方向の弾性圧縮変形とそれに伴うスプリング効果が大きくなるので、これらの点でも止めネジを緩みにくくすることができる。
【0014】
ここで、前記内方部材が、円筒形に形成され、その軸方向が前記中心線に沿う姿勢で配されるものである場合、前記内方部材が固定される部位は、前記中心線に直交する断面の形状が楕円形に形成されているものとするとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の曲管は、上述したように、湾曲部の近傍で内方部材が固定される部位を、横方向の内方部材との隙間寸法が縦方向の内方部材との隙間寸法よりも小さくなるように形成することにより、曲管の横方向から管壁を通して内方部材にねじ込まれる止めネジのかかり代を大きくしたものであるから、止めネジの緩みを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態の曲管を用いたドアハンドルセットの正面図
【
図2】
図1のドアハンドルセットの取付状態の要部の部分破断正面図
【
図3】
図1のドアハンドルセットの取付状態の要部の部分破断平面図
【
図4】
図3のIV-IV線に沿った断面における拡大分解図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を説明する。
図1乃至
図3は実施形態の曲管を用いたドアハンドルセット1を示す。このドアハンドルセット1は、ドアDを挟んで対向配置され、ドアDの両面(一面と他面)に取り付けられる一対のドアハンドル2-1、2-2と、その取り付けを行うための部品としての取付ビス3、めねじ部材4、プラグ5および止めネジ6を備えている。なお、ドアハンドルについては、2本を区別するために、付加記号の-1、-2を付した。
【0018】
前記ドアハンドル2-1、2-2は、丸棒状の掴み部2aと、掴み部2aの両端から湾曲して掴み部2aに直交する方向に延びる取付部2bとからなるものであり、それぞれの一端と他端が同一構造である。その掴み部2aは木製の中実部材で構成され、取付部2bは金属製の曲管で構成されている。
【0019】
ここで、ドアハンドル2-1、2-2の取付部2bを構成する曲管は、円筒形の直管のベンダー曲げ加工によって製作されるものである。その一方のドアハンドル2-1の取付部2bは通常と同じ加工方法で製作されており、その中心線(
図2の二点鎖線C-1)に直交する断面は、中心線を含む断面に直交する方向(横方向)の寸法が中心線を含む断面と平行な方向(縦方向)の寸法よりも大きい楕円形となっている。これに対し、他方のドアハンドル2-2の取付部2bは、通常と異なる形状のインサート治具を用いて加工されており、その中心線(
図2の二点鎖線C―2)に直交する断面の形状は、
図4に示すように、プラグ5が内側に設けられる湾曲部近傍の部位で、横方向の寸法Laが縦方向の寸法Lbよりも小さい楕円形となっている。
【0020】
また、他方のドアハンドル2-2の取付部2bの管壁には、横方向の両側の中心対称位置に孔2cがあけられ、これらの孔2cに通された止めネジ6が取付部2bの内側のプラグ5にねじ込まれるようになっている。
【0021】
なお、各ドアハンドルは、この実施形態では中実の掴み部の両端に曲管からなる取付部を設けたものとなっているが、全体が管部材で構成されたものであってもよい。
【0022】
前記取付ビス3は、ドアDのハンドル設置部を貫通する軸穴Hに挿通されて、一方のドアハンドル2-1の取付部2b内周に固定しためねじ部材4にねじ込まれるもので、その胴部には、ばね座金7と、プラグ5と、それぞれ一対のゴムパッキン8およびワッシャ9が外嵌されている。
【0023】
前記めねじ部材4は、カップ状の部材であり、その外周壁が一方のドアハンドル2-1の取付部2b内周に固定されるようになっている。そして、底部の中央から外側に延びる短管部の内周に、取付ビス3とねじ結合するめねじが形成されている。
【0024】
前記プラグ5は、他方のドアハンドル2-2の取付部2bの内側で取付ビス3の胴部の外周に相対回転可能に装着される円筒状の部材(内方部材)であり、その外周面から内周面まで径方向に貫通するねじ孔5aが中心対称位置に2つ設けられている。そして、各ねじ孔5aに他方のドアハンドル2-2の取付部2bの管壁を通して止めネジ6がねじ込まれることにより、他方のドアハンドル2-2と固定されるようになっている。
【0025】
前記ばね座金7は取付ビス3の頭部とプラグ5との間に、ゴムパッキン8はドアDの一面と他面に当接する位置で、ワッシャ9はゴムパッキン8に隣接して各ドアハンドル2-1、2-2の取付部2bに突き当てられる位置で、それぞれ取付ビス3の胴部に外嵌されている。なお、ゴムパッキン8とワッシャ9は、ドアDのハンドル設置部表面の傷つき防止や、取付ビス3の締付け後のガタツキの防止に寄与するが、必須の部品ではない。
【0026】
次に、このドアハンドルセット1のドアDに対する取付手順を説明する。なお、ドアハンドルセット1は、製品として出荷される前に、工場で一方のドアハンドル2-1の取付部2bの内周にめねじ部材4が固定される。
【0027】
ドアDの設置現場におけるドアハンドルセット1の取付手順は通常と同じである。すなわち、まず、一方のドアハンドル2-1の取付部2bを、ワッシャ9およびゴムパッキン8を介してドアDのハンドル設置部の一面に当てた状態で、ばね座金7、プラグ5、ワッシャ9およびゴムパッキン8を外嵌した取付ビス3を、ドアDの他面側からハンドル設置部に設けられた軸穴Hに挿入する。
【0028】
そして、軸穴Hを貫通した取付ビス3の先端部分を、一方のドアハンドル2-1の取付部2bに組み込まれためねじ部材4にねじ込んで、一方のドアハンドル2-1の取付部2bとプラグ5がそれぞれワッシャ9とゴムパッキン8を介してドアDの両面に押し付けられた状態とする。これにより、一方のドアハンドル2-1とプラグ5がドアDに固定される。
【0029】
続いて、取付ビス3の頭部およびプラグ5に他方のドアハンドル2-2の取付部2bを被せ、この状態で他方のドアハンドル2-2の取付部2bの孔2cに挿入した止めネジ6をプラグ5のねじ孔5aにねじ込む。これにより、他方のドアハンドル2-2がドアDに固定され、ドアハンドルセット1の取付作業が完了する。
【0030】
このドアハンドルセット1は、上記のように従来のものと同じ取付方法でドアDに取り付けられるが、従来のものに比べて、他方のドアハンドル2-2とその取付部2bの内側に設けられるプラグ5とを固定する止めネジ6が使用中に緩みにくいという特長がある。
【0031】
すなわち、
図4に示すように、他方のドアハンドル2-2の取付部2bは、プラグ5が固定される部位において、横方向の寸法Laが縦方向の寸法Lbよりも小さい楕円形断面に形成されており、プラグ5はその軸方向が取付部2bの中心線に沿う姿勢で配されているので、その取付部2bとプラグ5の横方向の隙間寸法(δa
1+δa
2)は縦方向の隙間寸法(δb
1+δb
2)よりも小さくなっている。
【0032】
このため、通常のベンダー曲げ加工を受けた従来のものに比べて、取付部2bの横方向から管壁を通してプラグ5にねじ込まれる止めネジ6のかかり代が大きく、止めネジ6が緩みにくい。また、取付部2bの横方向の両側からねじ込まれる2本の止めネジ6のかかり代を均等に(δa1=δa2となるように)しやすいし、止めネジ6のねじ込みによって生じる取付部2bの横方向の弾性圧縮変形とそれに伴うスプリング効果が従来のものよりも大きくなるので、これらの点でも止めネジ6が緩みにくくなる。
【0033】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0034】
例えば、実施形態では曲管(ドアハンドルの取付部)の素材となる直管と内方部材(プラグ)をいずれも円筒形状としたが、直管の内周形状と内方部材の外周形状が対応していれば他の形状としてもよい。また、止めネジは、曲管の横方向の片側からねじ込むようにしてもよい。
【0035】
また、本発明は、実施形態のようなドアハンドルの取付部に限らず、湾曲部の近傍の内側に配した内方部材を横方向から管壁を通してねじ込んだ止めネジで固定した状態で使用される曲管に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 ドアハンドルセット
2-1、2-2 ドアハンドル
2a 掴み部
2b 取付部
2c 孔
3 取付ビス
4 めねじ部材
5 プラグ
5a ねじ孔
6 止めネジ
7 ばね座金
8 ゴムパッキン
9 ワッシャ
D ドア
H 軸穴