(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】神経活動を監視するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/383 20210101AFI20240710BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
A61B5/383
A61N1/36
(21)【出願番号】P 2021523038
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 AU2019051175
(87)【国際公開番号】W WO2020082135
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-12
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】501249191
【氏名又は名称】モナッシュ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100187964
【氏名又は名称】新井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】トムソン,リチャード エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】フィッツジェラルド,ポール ビー.
(72)【発明者】
【氏名】サリバン,カレー
(72)【発明者】
【氏名】ハリソン,マーク
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-239696(JP,A)
【文献】特表2014-522261(JP,A)
【文献】特開平11-178804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538、5/24-5/398
A61N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体電気刺激を実行するための装置であって、
刺激ユニット、
増幅器を含む測定ユニット、
電気信号を患者の組織に印加するように動作可能な第1及び第2の刺激電極、並びに
前記患者の前記組織からの第1及び第2の測定信号を受信するように動作可能な第1及び第2の測定電極
を含み、
前記刺激ユニットは、第1の刺激信号を前記第1の刺激電極に送達し、第2の刺激信号を前記第2の刺激電極に送達するように構成され、
前記第2の刺激信号は、バイアス電圧に対して前記第1の刺激信号から反転され、
前記刺激ユニット及び前記測定ユニットは、共通基準電圧を共有し、
前記バイアス電圧は、前記第1及び第2の測定電極で測定されたコモンモード電圧と前記共通基準電圧との間のDCオフセットを低減するように調整される、前記装置。
【請求項2】
前記測定ユニットは、前記第1の測定信号と前記第2の測定信号との間の電圧差に基づいて信号を生じるように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記測定ユニットは、前記第1の測定信号及び前記第2の測定信号の平均に基づいて信号を生じるように構成される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記第1の刺激信号及び前記第2の刺激信号は、振動性信号またはパルス信号である、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記振動性信号が、正弦波、鋸歯状、方形波、または任意の信号である、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記第1の刺激信号及び前記第2の刺激信号が直流(DC)信号である、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記信号が脳波(EEG)信号である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記測定ユニットは、差動増幅器を備え、
前記差動増幅器は、
前記第1の測定電極に結合された第1の入力、
前記第2の測定電極に結合された第2の入力、及び
出力
を備える、請求項1~
7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記刺激ユニットが、
出力を有する電流供給源、
反転入力と出力を有する反転増幅器、及び
第1の加算入力、第2の加算入力、及び加算出力を有する加算回路
を含む、請求項1~
8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記電流供給源の前記出力は、前記第1の刺激電極及び前記第1の加算入力に結合されており、
前記反転増幅器の前
記出力は、前記第2の刺激電極に結合されており、
前記第2の加算入力は基準オフセット電圧に結合され、
前記加算出力は、前記反転増幅器の
前記反転入力に結合される、請求項
9に記載の装置。
【請求項11】
前記測定ユニットは、フィードバック出力を出力し、前記測定ユニットは、前記フィードバック出力において、前記第1の測定電極の電圧及び前記第2の測定電極の電圧の平均に比例する電圧を出力するように構成される、請求項
9に記載の装置。
【請求項12】
前記電流供給源の前記出力は、前記第1の刺激電極及び前記第1の加算入力に結合されており、
前記第2の加算入力は前記フィードバック出力に結合され、
前記反転増幅器の前記
反転入力は前記加算出力に結合される、請求項
11に記載の装置。
【請求項13】
前記電流供給源の前記出力と前記第1の加算入力との間に結合された刺激補償フィルタをさらに備える、請求項
12に記載の装置。
【請求項14】
前記フィードバック出力と前記第2の加算入力との間に結合された測定補償フィルタをさらに備える、請求項
12に記載の装置。
【請求項15】
前記組織が脳
の組織である、請求項1~
14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記第1及び第2の測定電極が、経頭蓋、経皮、または前記脳に植込まれている、請求項
15に記載の装置。
【請求項17】
前記第1及び第2の刺激電極が、経頭蓋、経皮、または前記脳に植込まれている、請求項
15又は16に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、経頭蓋電気刺激(tES)中の神経活動を監視するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経頭蓋電気刺激(tES)は、10μAから5mAの範囲の電流が、典型的には、2つ以上の刺激電極を介して患者の脳の一部を通過する神経刺激法である。通常、一時的な表面電極が使用されるが、完全に植込まれた電極を使用することもできる。電流は、連続的な「直流」(DC)または時間により変化する「交流」(AC)の場合がある。
【0003】
経頭蓋電気刺激(tES)は、非侵襲的神経刺激の一形態である。これには、患者の頭皮に配置された、または脳に植込まれた一対の表面電極(アノードとカソード)を使用して、通常10μAから5mAの範囲の低電流電気信号を脳の標的領域に送達することが含まれる。tESの適用は、知覚、記憶、認知、感情などの、精神活動の多くの側面に影響を与えることが示されている。正確な作用機序は不明なままであるが、その影響は主に脳内のニューロンの電気化学的処理との相互作用に起因している。
【0004】
tESは、対象の特定の周波数で振動する低電流電気信号を送達する。これらの外部から加えられた振動は、脳の内因性振動、すなわち、外部から加えられた振動性の電流に対する脳の振動の位相整列、及びスパイクタイミング依存可塑性の変調を同調及び/または影響を与える可能性があると考えられている。
【0005】
これまでの研究は、tESの神経生理学的後遺症、または行動に対するその影響を調査することに主に限定されてきた。しかし、従来のtESは大きな電気的アーチファクトを導入し、対象の基礎となる生物活性に対するこれらのアーチファクトの大きさが、基礎となる生物活性の測定を困難にするため、刺激の最中の神経活動への影響についてはほとんど知られていない。
【0006】
主成分分析、時間フィルタリング、及びMEGのビーム形成を使用して、tES刺激アーチファクトを基礎となる脳の活動から分離する試みがなされてきた。これらの手法は幾分非効果的であることが見出されてきた。このような手法を使用した場合でも、重大な非線形アーチファクトが残っているのである。さらに、これらの手法は、tES刺激アーチファクトが脳活動の監視に使用される増幅器を飽和または過負荷にすると、基礎となる脳活動を回復できない場合がある。
【0007】
本明細書に含まれている文書、行為、材料、装置、記事などの論述は、これらの事項のいずれかまたはすべてが先行技術の基盤の一部を形成している、または本願の各請求項の優先日より前に存在していた、本開示に関連する分野における共通する一般知識を認めるものと解されるべきではない。
【発明の概要】
【0008】
本開示の態様によると、生体電気刺激を実行するための装置であって、刺激ユニット、増幅器を含む測定ユニット、電気信号を患者の組織に印加するように動作可能な第1及び第2の刺激電極、患者の組織からの第1及び第2の測定信号を受信するように動作可能な第1及び第2の測定電極を含み、刺激ユニットは、第1の刺激信号を第1の刺激電極に送達し、第2の刺激信号を第2の刺激電極に送達するように構成され、第1の信号及び第2の信号は、バイアス電圧について実質的にミラーリングされ、バイアス電圧は、増幅器のダイナミックレンジに依存して設定される、装置が提供されている。
【0009】
測定ユニットは、第1の測定信号と第2の測定信号との間の電圧差に依存して信号を生じるように構成され得る。測定ユニットは、第1の測定信号及び第2の測定信号の平均に依存して信号を生じるように構成され得る。
【0010】
第1の刺激信号及び第2の刺激信号は、振動性信号またはパルス信号であり得る。振動性信号は、正弦波、鋸歯状、方形波、または任意の信号であり得る。
【0011】
第1の刺激信号及び第2の刺激信号が直流(DC)信号であり得る。
【0012】
バイアス電圧は、増幅器のダイナミックレンジの中心点に依存して設定され得る。
【0013】
刺激ユニット及び測定ユニットは、共通基準電圧を共有できる。その場合、バイアス電圧は、第1及び第2の測定電極で測定されたコモンモード電圧と共通基準電圧との間のDCオフセットに依存して調整され得る。さらに、または代わりに、バイアス電圧は、第1及び第2の測定電極で測定されたコモンモード電圧と共通基準電圧との間のDCオフセットを低減するように調整され得る。
【0014】
信号は、脳波(EEG)信号であってよい。
【0015】
測定ユニットは、差動増幅器であって、第1の測定電極に結合された第1の入力、第2の測定電極に結合された第2の入力、及び出力を備える、差動増幅器を備え得る。
【0016】
刺激ユニットは、出力を有する電流供給源、非反転入力及び反転出力を有する反転増幅器、及び第1の加算入力、第2の加算入力、及び加算出力を有する加算回路を含むことができる。
【0017】
電流供給源の出力は、第1の刺激電極及び第1の加算入力に結合されていてよい。反転増幅器の反転出力は、第2の刺激電極に結合されていてよい。第2の加算入力は基準オフセット電圧に結合され得る。加算出力は、反転増幅器の反転入力に結合され得る。
【0018】
測定回路は、フィードバック出力を含み得て、測定回路は、フィードバック出力において、第1の測定電極の電圧及び第2の測定電極の電圧の平均に比例する電圧を出力するように構成され得る。
【0019】
電流供給源の出力は、第1の刺激電極及び第1の加算入力に結合されていてよい。第2の加算入力はフィードバック出力に結合され得る。反転入力は加算出力に結合され得る。
【0020】
装置は、電流供給源の第1の出力と第1の加算入力との間に結合された刺激補償フィルタをさらに備え得る。
【0021】
装置は、フィードバック出力と第2の加算入力との間に結合された測定補償フィルタをさらに備え得る。
【0022】
組織は脳組織であり得る。
【0023】
第1及び第2の測定電極が、経頭蓋、経皮、または脳に植込まれ得る。さらに、または代わりに、第1及び第2の刺激電極が、経頭蓋、経皮、または脳に植込まれていてもよい。
【0024】
本開示の別の態様によれば、生体電気刺激を実行する方法であって、第1の信号を生じること、第2の信号を生じることであって、第1の刺激信号及び第2の刺激信号がバイアス電圧についてミラーリングされ、バイアス電圧が増幅器のダイナミックレンジに依存して設定される、第2の信号を生じること、電気信号を患者の組織内部へと結合するように動作可能な第1の刺激電極に第1の信号を適用すること、電気信号を患者の組織内部へと結合するように動作可能な第2の刺激電極に第2の信号を適用すること、第1及び第2の測定電極において、患者の組織から第1及び第2の測定信号を受信すること、及び増幅器を使用して受信した電気信号を増幅することを含む、方法が提供されている。
【0025】
方法は、第1の測定信号と第2の測定信号との間の電圧差に依存して信号を生じることをさらに含むことができる。
【0026】
測定ユニットは、第1の測定信号及び第2の測定信号の平均に依存して信号を生じるように構成され得る。
【0027】
第1の刺激信号及び第2の刺激信号は、振動性信号またはパルス信号であってよい。振動性信号が、正弦波、鋸歯状、方形波、または任意の信号である場合がある。
【0028】
第1の刺激信号及び第2の刺激信号は、直流(DC)信号であってよい。
【0029】
バイアス電圧は、増幅器のダイナミックレンジの中心点に依存して設定され得る。
【0030】
第2の刺激信号及び信号は、共通基準電圧に基づいて生成され得る。
【0031】
方法は、第1の測定信号及び第2の測定信号のコモンモード電圧と共通基準電圧との間のDCオフセットに依存してバイアス電圧を調整することをさらに含むことができる。
【0032】
バイアス電圧は、共通基準電圧とコモンモード電圧との間のDCオフセットを低減するように調整され得る。
【0033】
信号は脳波(EEG)信号であり得る。
【0034】
組織は脳組織であり得る。
【0035】
第1の振動性信号及び/または第2の振動性信号が、経頭蓋、経皮、または植込まれた電極を介して適用され得る。
【0036】
第1及び第2の測定電極が、経頭蓋、経皮、または脳に植込まれていてよい。
【0037】
本明細書全体を通して、「comprise(含む)」という言葉、またはその変形、例えば「comprises(含む)」または「comprising(含む)」は、指定された要素、整数またはステップ、または要素、整数またはステップの群を含めることを意味するが、他のいずれかの要素、整数またはステップ、または要素、整数またはステップの群を除外することはないと理解されたい。
【0038】
本開示の実施形態は、図面を参照して、非限定的な例として、これより説明される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】生体組織の電気刺激及び測定のための既知の装置の回路図である。
【
図2】本開示の実施形態による、生体組織の電気刺激及び測定用の装置の回路図である。
【
図3】本開示の実施形態による、生体組織の電気刺激及び測定用の装置の回路図である。
【
図4】本開示の実施形態による、生体組織の電気刺激及び測定用の装置の回路図である。
【
図5】本開示の実施形態による、生体組織の電気刺激及び測定用の装置の回路図である。
【
図6】本開示の実施形態による、生体組織の電気刺激及び測定用の装置の回路図である。
【
図7】
図7A~7Dは、
図2~6に示されている装置の安定化の効果をグラフで示している。
【発明を実施するための形態】
【0040】
同時になされるtESの刺激と測定用の既知の装置100が、
図1に示されている。装置は、一対の刺激電極104、106に結合された刺激ユニット102と、一対の測定電極110、112に結合された脳波計(EEG)ユニット108とを備える。各一対の電極104、106、110、112は、刺激電極104、106及び測定電極110、112をそれぞれ使用して電流を供給及び測定できるように、患者の頭皮と接触するように固定することができる。各々の対の刺激電極及び測定電極104、106、110、112は、刺激に必要なより高い電圧と、測定されるより小さなEEG電圧との間にある程度の分離をもたらす。患者の頭部114は、当技術分野で知られており、レジスタネットワークR1からR4を含む頭部電気モデルによって
図1に表されている。
【0041】
刺激ユニットは、刺激電極104、106を介して神経組織を通り、制御された電流を送達するように動作可能な電流供給源116を含む。電流供給源116によって送達される電流は、組織及び電極インピーダンス(複数可)の変化とは無関係に制御される。交流電流は、対の第1の刺激電極104に供給され、第2の刺激電極106は、基準電圧、例えば、接地(0V)に維持される。
【0042】
EEGユニット108は、測定電極110、112間の電圧の変動を増幅するように構成された増幅器118を備える。内因性神経活動に関連する電圧の変動は非常に小さいので、EEGユニット108は、測定電極110、112全体の電圧の変動に対して非常に高い感度であるように構成される。電極104、106、110、112のインピーダンス(複数可)が、加えられた圧力、組織抵抗、及び電極と頭皮との接触の忠実度における変化のために時間と共に変化し得るので、感度は問題を提起する。刺激電極104、106のインピーダンスの不均衡は、患者に印加される刺激電圧の変化をもたらす。次に、平均組織電圧のそのような変化は、測定電極110、112で測定されるコモンモード電圧の変化に至る。コモンモード電圧の変化は、EEGユニット108を飽和モードまたは非線形モードで動作させ得る。これは、次に、脳114の電気的活動の不正確な測定につながる。
【0043】
本開示の実施形態は、電圧ミラーリング差動電流供給源を使用して新規の刺激及び測定技術を実施することによって、そのような問題を克服する。
図2は、例示的な電圧ミラーリング差動電流供給源を組み込んだ装置200の概略図である。
【0044】
装置200は、第1及び第2の刺激電極204、206に結合された差動刺激ユニット202と、第1及び第2の測定電極210、212に結合された脳波計(EEG)ユニット208とを備える。
図1に示される装置100と同様に、各電極204、206、210、212は、患者の頭皮と接触するように固定でき、その結果、電流は、刺激電極204、206及び測定電極210、212をそれぞれ使用して送達及び測定され得る。
図1に示される装置100と同様に、電極204、206、210、212のインピーダンス(複数可)は、時間と共に劇的に変化する可能性がある。患者の頭部214は、脳内の神経構造を表すレジスタネットワークR1からR4を含む既知の頭部電気モデルによって再び表される。
【0045】
刺激ユニット202は、信号発生器216、電圧制御電流供給源218、及び反転電圧増幅器220を備える。信号発生器216の出力は、電圧制御電流供給源218の入力に結合される。電圧制御電流供給源218の出力は、反転増幅器220の反転入力及び第1の刺激電極204の両方に結合される。反転増幅器220の出力は、第2の刺激電極206に結合される。電圧制御電流供給源218及び反転増幅器220は、共通基準電圧222を共有する。
【0046】
EEGユニット208は、差動増幅器224を備える。第1及び第2の測定電極210、212は、それぞれ、差動増幅器224の反転入力226及び非反転入力228に結合されている。差動増幅器224は、電圧制御電流供給源218及び反転増幅器220と同じ共通基準電圧222を共有する。差動増幅器224の出力電圧Voutは、以下の式に従った、第1及び第2の測定電極210、212における電圧Vel、Ve2の間の差に比例する。
Vout=GainX(Ve1-Ve2)
式中、Gainは差動増幅器224の差動利得である。
【0047】
刺激ユニット202は、等しい大きさで反対の極性である電圧を第1及び第2の刺激電極204、206に供給する。言い換えれば、刺激ユニット208は、第1及び第2の刺激電極204、206の電位Vs1、Vs2を、共通基準電圧222に対して等しいが反対の電圧に上昇させるように構成される。患者の頭部214が共通基準電圧222から分離され、EEGユニット208の入力が、刺激電極204、206のインピーダンス及び患者の頭部R3、R4のインピーダンスと比較して比較的高いインピーダンスを有しているとすると、第1の刺激電極204に供給される電流IS1が、第2の刺激電極206に供給される電流IS2と等しくなる。EEGユニット208の比較的高い入力インピーダンスは、測定電極210、212を介した刺激電極204、206から刺激ユニット202への電流の流れを最小化し、それはひいては、患者の頭部214内の意図しない迷走刺激経路を減少させる。これは次に、迷走刺激電流によって生成され得る測定電極210、212の接触領域の周りの電気刺激感覚を最小限に抑えることができる。
【0048】
第1及び第2の刺激電極204、206に反対であるが等しい電圧を印加することにより、患者の頭部214に提示される電圧差は、
図1に示されているような従来のシングルエンド型の双極電流供給源を使用して提示される電圧の約2倍である。提示される電圧を2倍にすることには、いくつかの利点がある。第一に、同じ電流が2倍の負荷インピーダンスに送達され得る。第二に、2倍の電流が、所与の負荷インピーダンスに送達され得る。さらに、測定電極210、212でのコモンモード刺激電圧もまた減少する。これは、電流供給源218、反転増幅器220、及び差動増幅器224を含む回路構成要素が、共通基準電圧222に対してより低い電圧で動作し得ることを意味する。
【0049】
図2の装置200はまた、頭部214と共通基準電圧222との間に存在する迷走容量性及び抵抗性結合を介して結合される電圧を低減することによって、刺激ユニット202から患者の頭部214を介してEEGユニット208に流れる迷走電流を実質的に低減する。
【0050】
図2に示される装置200は、従来のtES刺激装置に勝るいくつかの利点を提供するが、
図1に示される装置100に関連するものと同じ欠点のいくつかは、
図2に示される装置200に残る。
【0051】
理想的な条件下では、刺激電極204、206のインピーダンスは好ましくは等しく、第1及び第2の刺激電極204、206間の電圧降下の大きさが等しくなる。さらに、理想的な条件下では、患者の頭部214の組織インピーダンスR1からR4も等しくなり、その結果、第1及び第2の測定電極210、212の電圧は、反対の極性のVs1とVs2が等しい大きさであることに起因して、共通基準電圧222に対してゼロになる。
【0052】
しかし、実際には、第1及び第2の刺激電極204、206のインピーダンスは異なる可能性があり、頭部214の電位が共通基準電圧222に対してオフセットされる原因となる。第1及び第2の測定電極210、212の電圧もオフセットされ得、特に差動増幅器224が刺激ユニット202と共通基準電圧222を共有するので、差動増幅器224をそのコモンモード動作範囲外で動作させることが可能である。
【0053】
また、実際には、患者の頭部のインピーダンス比R1/R2及びR3/R4は等しくなく、第1及び第2の測定電極210、212の間にわずかな差動アーチファクト電圧の生成をもたらす可能性が高い。次に、このアーチファクトは、内因性神経EEG信号と共にEEGユニット208によって増幅され、装置200の信号対雑音の能力を低下させる。このアーチファクトは、フィルタリングまたは適合的除去などの当技術分野で知られている信号処理技術を使用して低減または除去することができる。ただし、このような手法では、tESに関連する複雑さとコストが増加する。
【0054】
図2に示される装置200に関連するいくつかの欠点に対処するために、tESのためのさらなる装置300が
図3に提案されている。
【0055】
装置300は、第1及び第2の刺激電極304、306に結合された差動刺激ユニット302と、第1及び第2の測定電極310、312に結合された脳波計(EEG)ユニット308とを備える。
図1及び
図2に示されている装置100、200と同様に、各電極304、306、310、312は、刺激電極304、306及び測定電極310、312をそれぞれ使用して電流を送達及び測定できるように、患者の頭皮と接触するように固定することができる。患者の頭部314は、脳内の神経構造を表すレジスタネットワークR1からR4を含む既知の頭部電気モデルによって再び表される。
【0056】
図2の刺激ユニット202と同様に、刺激ユニット302は、信号発生器316、電圧制御電流供給源318、及び反転電圧増幅器320を備える。しかし、刺激ユニット302のこれらの要素は、
図2に示す刺激ユニット202のものとわずかに異なって構成されている。
【0057】
具体的には、信号発生器の出力は、電圧制御電流供給源318の入力に結合される。電圧制御電流供給源318の出力は、第1の刺激電極304及び加算回路317の第1の加算入力に結合される。加算回路317の第2の加算入力は、それ自体がオフセット電圧Voffsetを生成して加算回路317に送達するように構成されている、固定オフセット電圧発生器319の出力に結合されている。加算回路317の出力は、反転増幅器320の反転入力に結合される。反転増幅器320の出力は、第2の刺激電極306に結合される。電圧制御電流供給源318及び反転増幅器320は、共通基準電圧322を共有する。
【0058】
図3に示される構成の変形例では、加算回路317及び反転電圧増幅器320は、反転入力及び非反転入力の両方を伴う差動増幅器によって置き換えられ得る。このような変形例では、固定オフセット電圧発生器319の出力は、差動増幅器の非反転入力に結合され、電圧制御電流供給源318の出力は、差動増幅器の反転入力に結合される。
【0059】
EEGユニット308は、
図2に示される装置200の差動増幅器224と同じ方法で構成され、それぞれ差動増幅器324の反転入力326及び非反転入力328に結合された第1及び第2の測定電極310、312を備えた差動増幅器324を備える。差動増幅器324は、電圧制御電流供給源318及び反転増幅器320と同じ共通基準電圧322を共有する。
【0060】
図2を参照して上で説明したように、電極及び組織インピーダンスの不均衡は、測定電極310、312でのコモンモード電圧レベルを最適以下にし、したがって、測定されたEEG信号の信号対雑音比を低下させる可能性がある。刺激ユニット302は、第2の刺激電極306に印加される電圧Vs2にオフセット電圧を加えることによって、第1及び第2の測定電極310、312の間のコモンモード電圧アーチファクトを最小化するように動作する。測定電極310、312でのコモンモード電圧は、反転増幅器320のオフセット電圧及び利得を制御することによって、低減することができる。オフセット電圧を調整することにより、第2の刺激電極306に印加される電圧は、共通の基準322に対してバイアスをかけることができる。反転増幅器322の利得を調整することにより、第2の刺激電極306に印加される電圧の振幅が調整され得る。電圧制御電流供給源318の固有の性質により、第1及び第2の刺激電極304、306の間の電圧の差は、刺激電流Is1、及び第1及び第2のシミュレーション電極304、306の間のインピーダンスにのみ比例する。第2の刺激電極306の電圧を変更すると、電流供給源318は、第1の刺激電極304の電圧を同じ量だけ調整し、その結果、第1の刺激電極304の電流Is1が維持される。次に、測定電極310、312のコモンモード電圧はまた、第2の刺激電極306の状態をたどる。
【0061】
オフセット電圧は手動で調整することができる。しかし、好ましくは、オフセット電圧は、EEGユニット308での測定のための最適条件を維持するために、第1及び第2の測定電極310、312でのコモンモード電圧に基づいてプログラム及び/または制御される。オフセット電圧は、例えば、アナログ式の閉ループ制御またはデジタル式の閉ループ制御を自動的に使用して制御できる。
【0062】
図3に示される装置300は、
図2の装置200と同様に、
図1及び2に示されるものよりも改善されているが、EEGユニット308で見られるコモンモード電圧は、依然として第1及び第2の刺激電極304、306のインピーダンス、及び刺激電極304、306に対する測定電極310、312の配置に依存していることが理解されよう。電極インピーダンスの変化に対応するために、オフセット電圧発生器でのオフセット電圧及び反転増幅器320の利得の連続した調整がなされる。
【0063】
図4に示される装置400は、以下でより詳細に説明されるように、これらの障害を克服する。
【0064】
装置400は、第1及び第2の刺激電極404、406に結合された差動刺激ユニット402と、第1及び第2の測定電極410、412に結合された脳波計(EEG)ユニット408とを備える。
図1から3に示される装置100、200、300と同様に、各電極404、406、410、412は、刺激電極404、406及び測定電極410、412をそれぞれ使用して電流が送達及び測定され得るように、患者の頭皮と接触するように固定され得る。患者の頭部414は、脳内の神経構造を表すレジスタネットワークR1からR4を含む既知の頭部電気モデルによって再び表される。
【0065】
図2及び3の刺激ユニット202、302と同様に、刺激ユニット402は、信号発生器416、電圧制御電流供給源418、及び反転電圧増幅器420を備える。しかし、刺激ユニット402のこれらの要素は、
図2及び3に示されているものとは異なる構成で設けられる。
【0066】
具体的には、信号発生器416の出力は、電圧制御電流供給源418の入力に結合される。電圧制御電流供給源418の出力は、第1の刺激電極404に結合される。電圧制御電流供給源418の出力はまた、任意選択で刺激補償フィルタ415を介して、加算回路417の第1の加算入力に結合される。加算回路417は、より詳細に下で説明するように、第2の入力で、EEGユニット408からコモンモードエラーフィードバック信号421を受信する。加算回路417の出力は、反転増幅器420の反転入力に結合される。反転増幅器420の出力は、第2の刺激電極406に結合される。電圧制御電流供給源418及び反転増幅器420は、共通基準電圧422を共有する。
【0067】
図4に示される構成の変形例では、加算回路417及び反転電圧増幅器420は、反転入力及び非反転入力の両方を伴う差動増幅器によって置き換えられ得る。このような変形例では、コモンモードフィードバック信号421は、差動増幅器の反転入力に供給され、電圧制御電流供給源418の出力は、差動増幅器の反転入力に結合される(最適には、補償フィルタ415を介して)。
【0068】
EEGユニット408は、第1の差動増幅器424の反転入力426及び非反転入力428にそれぞれ結合された第1及び第2の測定電極410、412を伴う第1の差動増幅器424を備える。第1の差動増幅器424は、電圧制御電流供給源418及び反転増幅器420と同じ共通基準電圧422を共有する。
【0069】
EEGユニット408は、平均化回路430、第2の差動増幅器432、オフセット電圧発生器434、及び測定補償フィルタ436をさらに備える。
【0070】
第1及び第2の測定電極410、412は、平均化回路430の第1及び第2の入力438、440に結合されている。平均化回路430の出力は、第2の差動増幅器432の非反転入力442に結合されている。オフセット電圧発生器434は、オフセット電圧Voffsetを生成し、第2の差動増幅器432の反転入力444に供給するように構成されている。第2の差動増幅器432の出力は、測定補償フィルタ436の入力に結合される。測定補償フィルタ436の出力は、コモンモードエラーフィードバック信号421を加算ユニット417の第2の加算入力に出力するように構成される。
【0071】
装置400は、第2の刺激電極406にエラー電圧Verrorを印加することによって、測定電極410、412でのコモンモード電圧を最適化するように構成される。平均化回路430は、第1及び第2の測定電極410、412でのコモンモード電圧を表す第1及び第2の測定電極410、412の電圧の平均を出力するように構成される。判定されたコモンモード電圧は、判定されたコモンモード電圧とオフセット電圧発生器434によって出力されたオフセット電圧Voffset出力との間の差に等しいコモンモードエラー信号446を出力する第2の差動増幅器432に供給される。コモンモードエラー信号446は、実際のコモンモード電圧と、第1の差動増幅器424のパフォーマンスを最大化するための最適なコモンモード電圧との間のエラーを表す。第2の差動増幅器432はまた、利得Gをコモンモードエラー信号446に適用することができる。コモンモードエラー信号446は、測定補償フィルタ436によってフィルタリングされて、フィルタリングされたバージョン421のコモンモードエラー信号446を供給する。フィルタリングされたコモンモードエラー信号421は、加算回路417及び反転増幅器420を介して第2の刺激電極406に結合され、したがって、負のフィードバックループを完成させ、第1及び第2の測定電極410、412における実際のコモンモード電圧を最小化する。
【0072】
測定補償フィルタ436が、フィードバックループの安定性を高めるために設けられる。測定補償フィルタ436の位相及び周波数特性は、広範囲の動作条件下での安定性を達成するように選択される。
【0073】
第1の刺激電極404に印加される刺激波形が、フィードバックループの帯域幅内に実質的に入る周波数成分から構成される場合、第2の刺激電極406に印加されるフィードバック補正電圧は、第1及び第2の測定電極410、412のコモンモード電圧に対する第1の刺激電極404における電圧の影響を実質的に打ち消すはずである。しかし、第1の刺激電極404に印加される刺激波形が、フィードバックループの帯域幅外にある周波数成分を含む場合(例えば、高次の高調波)、問題が生じる可能性がある。刺激補償フィルタ415は、フィードバックループの帯域幅外にある刺激波形の周波数成分に関連するエラーを最小化するために、第2の刺激電極406にフィードフォワード信号を伝えることによって、そのような問題に対処するように構成され得る。
【0074】
補償フィルタ415は、第1の刺激電極404に印加される刺激波形の高周波電圧成分が、反対の電圧を生成し、それを第2の刺激電極406に印加し、これが次に、測定電極410、412におけるコモンモード電圧に存在する高周波数成分を最小限にし得る経路を設けることができる。
【0075】
フィードバックループのループ周波数及び位相応答は、電極404、406、410、412、増幅器430、432、及び測定補償フィルタ436の複素インピーダンスの周波数応答の所産であることが理解されよう。したがって、いくつかの実施形態では、結果として生じるフィードフォワード補償経路は、フィードバックループに対する相補的な周波数及び位相の応答を有し得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、補償フィルタ415の特性は、適合するように制御され得る。
【0077】
補償フィルタ415を伝えることにより、測定電極410、412でのコモンモード電圧、任意の残留刺激アーチファクト及び任意の生物学的信号は、EEG増幅器424の線形入力電圧の範囲内に維持することができる。
【0078】
上記の装置400は、例えば2つ以上の電流供給源を使用して、3つ以上の電極を駆動するように適合させることができる。
図5は、3つの刺激電極を駆動するように構成された2つの電流供給源で使用するように適合された、
図4に示される装置400と同様の例示的な装置500を示す。
図5では、
図4の装置400に共通の要素は、
図4で使用される番号付けと同様の番号付けで示されている。
【0079】
図4に示される刺激ユニット402の構成要素に加えて、
図5に示される装置500の刺激ユニット502は、第2の信号発生器516、第2の電圧制御電流供給源518、第2の刺激補償フィルタ515をさらに備える。第1及び第2の電極404、406に加えて、第3の刺激電極504も設けられる。EEGユニット508も設けられ、その要素及び構成は、
図4に示されるEEGユニット408と実質的に同一である。
【0080】
装置500は、差動刺激ユニット502及びEEGユニット508を備える。EEGユニット508の要素及び構成は、
図4に示されるEEGユニット408と実質的に同一である。
【0081】
差動刺激ユニット502は、第1、第2、及び第3の刺激電極404、406、504に結合され、脳波計(EEG)ユニット508は、第1及び第2の測定電極410、412に結合される。
【0082】
図4に示される装置400と同様に、各電極404、406、504、410、412は患者の頭皮と接触するように固定され得、電流が送達され、刺激電極404、406、504及び測定電極410、412をそれぞれ使用して測定され得るようにする。患者の頭部514は、脳内の神経構造を表すレジスタネットワークR1からR6を含む既知の頭部電気モデルによって表される。
【0083】
図4の刺激ユニット402と同様に、刺激ユニット502は、信号発生器416、電圧制御電流供給源418、反転電圧増幅器420、刺激補償フィルタ415、及び加算回路517を備える。さらに、刺激ユニット502は、第2の信号発生器516、第2の電圧制御電流供給源518、第2の刺激補償フィルタ515をさらに備える。
【0084】
信号発生器416の出力は、電圧制御電流供給源418の入力に結合されている。電圧制御電流供給源418の出力は、第1の刺激電極404に結合される。電圧制御電流供給源418の出力はまた、任意選択で刺激補償フィルタ415を介して、加算回路417の第1の加算入力に結合される。
【0085】
第2の信号発生器516の出力は、第2の電圧制御電流供給源518の入力に結合される。第2の電圧制御電流供給源518の出力は、第3の刺激電極504に結合される。第1の電圧制御電流供給源418の出力はまた、任意選択で第2の刺激補償フィルタ515を介して、加算回路517の第2の加算入力に結合される。反転増幅器420の出力は、第2の刺激電極406に結合される。電圧制御電流供給源418、第2の電圧制御電流供給源518、及び反転増幅器420は、共通基準電圧422を共有する。
【0086】
加算回路417は、第3の入力で、EEGユニット508からコモンモードエラーフィードバック信号421を受信し、EEGユニット508は、
図4のEEGユニット408と同様に構成及び動作して、(最適にフィルタリングされた)コモンモードエラーフィードバック信号421を生成する。加算回路417の出力は、反転増幅器420の反転入力に結合される。反転増幅器420の出力は、第2の刺激電極406に結合される。
【0087】
動作中、加算回路517は、刺激補償フィルタ415及び第2の刺激補償フィルタ515から出力された任意選択のフィードフォワード信号からの電圧を、EEGユニット508から受信されたコモンモードエラーフィードバック信号421に加える。したがって、第2の刺激電極406の電流Is2は、第1の刺激電極404の電流Is1と第3の刺激電極504の電流Is3との合計に等しくなるように駆動される。装置500は、第2の刺激電極に適用されるコモンモードエラーフィードバック信号が、第1及び第2の測定電極410、412における実際のコモンモード電圧を最小化するという点において、
図4の装置400に対する方法と同様に動作する。
【0088】
刺激補償フィルタ415及び第2の刺激補償フィルタ515は、コモンモードエラーフィードバック信号421を使用して実施される負のフィードバックループの帯域幅外にあるエラーを最小化するために、第2の刺激電極406にフィードフォワード信号を伝えるように構成され得る。そのために、刺激補償フィルタ415及び第2の刺激補償フィルタ515のそれぞれは、
図4を参照して説明された刺激補償フィルタ415と同様の方法で構成され得る。
【0089】
刺激補償フィルタ415及び第2の刺激補償フィルタ515は任意選択のものであり、第1及び第3の刺激電極404、504に適用される刺激波形がフィードバックループ421の周波数及び位相応答の範囲内にある周波数成分を含む場合、必要とされない場合があることを理解されたい。同様に、いくつかの実施形態では、刺激補償フィルタ415及び第2の刺激補償フィルタ515のうちの1つだけが必要とされ得る。例えば、波形516がフィードバックループ421の周波数及び位相応答の外にある高周波成分を有するが、波形416がフィードバックループ421の周波数及び位相応答の範囲内にある高周波成分を有する場合、第2の刺激補償フィルタ515のみが必要とされ得る。
【0090】
図5は、本明細書に記載の装置を拡大したものを示している。
図5では、1つの付加的な信号発生器が提示されている。他の実施形態では、n個の付加的な信号発生器を使用することができ、この場合、nは正の整数である。例えば、刺激された組織内に複雑な電場電位を生成するために、複数の信号発生器を設けることができる。これは、重ね合わせて複数の独立した刺激信号の振幅、周波数、及び位相のうちの1つまたは複数を変調することによって達成することができる。
【0091】
本明細書に記載の実施形態は、共有の共通基準電圧222、322、422が、電気装置を生体組織と結合することに関連する迷走電流及び非線形性を説明できるので、これらの複雑な場を制御することを可能にする。
【0092】
さらに、患者の頭部での同時の測定信号に対する容量より、フィードバック制御と、結果として生じる電界効果の音源的定位が可能になる。
【0093】
上記の
図4及び5では、2つの測定電極410、412と組み合わせて、単一の差動増幅器424を使用しているが、その両方は脳の内因性神経活動を測定する。さらに、コモンモード電圧の測定には、2つの測定電極410、412のみが使用される。しかし、本開示の実施形態は、単一の対の測定電極を使用することに限定されない。
【0094】
いくつかの実施形態において、例えば、電極の複数のセット(それぞれが2つ以上の電極を含む)が、1つ以上の組織領域からのEEG活性を測定するために設けられてよい。
図6は、2組の測定電極を含むように適合された、
図4に示される装置400と同様の例示的な装置600を示す。
図6では、
図4の装置400と共通の要素は、
図4で使用された番号付けと同様の番号付けで示されている。
【0095】
図4に示される測定ユニット408の構成要素に加えて、
図6に示される装置600のEEGユニット608は、第3の差動増幅器624をさらに備える。第1及び第2の測定電極410、412に加えて、第3及び第4の測定電極610、612も設けられている。第3及び第4の測定電極610、612は、第3の差動増幅器624のそれぞれの非反転入力626及び反転入力628に結合されている。
図4に示される装置400の平均化回路430は、
図6において、多入力平均化回路630に置き換えられ、また第1、第2、第3及び第4の測定電極410、412、610、612の2つ以上は、それぞれ、多入力平均化回路630の入力に結合される。多入力平均化回路630は、第1、第2、第3及び第4の測定電極410、412、610、612からの信号のいずれか2つ以上を使用できることが理解されよう。任意選択で、多入力平均化回路630の入力は、測定電極410、412、610、612の2つ以上から受信した信号を重み付けするために等しく重み付けされ得るか、または異なって重み付けされ得る。
【0096】
図4に示される装置400と同様に、各電極404、406、410、412、610、612は、電流が送達され、刺激電極404、406及び測定電極410、412、610、612をそれぞれ使用して測定され得るように、患者の頭皮と接触するように固定され得る。患者の頭部614は、脳の神経構造を表すレジスタネットワークR1.1、R1.2、R1.3、R1.3、R2.1、R2.2、R2.3、R2.4を含む既知の電気頭部モデルによって表される。
【0097】
電極410、412、610、612の複数のセットで受信されたEEG測定値を組み合わせて、内因性神経活動のより正確な測定値を生成することができる。さらに、または代わりに、電極の複数のセットで受信されたコモンモード電圧の測定値を組み合わせて、平均コモンモード電圧を生成することができる。平均コモンモード電圧の誤差は、最小の平均の誤差を補償するために閉ループ制御で使用できる。
【0098】
図6に示される実施形態では、内因性神経活動を測定するために、電極の各セットに差動増幅器が設けられている。他の実施形態では、単一の差動増幅器は、
図6に示される2対の測定電極410、412、610、612などの電極の複数のセット間で多重化され得る。
【0099】
図6に示される実施形態では、コモンモード電圧フィードバックエラー回路が、電極410、412、610、612の複数のセットのすべての間で多重化されて、電極の複数のセットのすべてに設けられている。他の実施形態で、
図4及び5に示されるようなコモンモード電圧フィードバックエラー回路(平均化回路430、オフセット電圧発生器434及び差動増幅器432を含む)をそれぞれの電極の組に設けて、それぞれの電極の組のコモンモード電圧フィードバックエラー信号を生成することができる。
【0100】
上記の
図5及び
図6は、それぞれ刺激電極及び測定電極の増加に伴う
図4の装置の変形版を示している。これらの変形版は相互に排他的ではなく、本開示の実施形態は、
図4から6のそれぞれに関して上述した任意の数の刺激電極、測定電極、及び任意の関連する刺激または測定回路を有する装置に及ぶことが理解されよう。例えば、いくつかの実施形態は、
図5の刺激ユニット502及び刺激電極404、406、504、ならびに
図6の測定ユニット608及び測定電極410、412、610、612を組み込むことができる。
【0101】
図7Aから7Dは、身体電位に対する上記の様々な刺激及び測定技術の安定化効果をグラフで示している。
図7Aは、
図1に示される従来技術の装置100に対応する。
図7Bは、電圧ミラーリング差動電流供給源を組み込んだ
図2に示される装置200に対応する。
図7Cは、オフセットバイアスが第2の刺激電極306に加えられる、
図3に示される装置300に対応する。
図7Dは、測定電極410、412でのコモンモード電圧のアクティブフィードバック制御を組み込んだ、
図4に示される装置400に対応する。各プロットで、細かい平行線の付された領域間の白い領域は、内因性神経活動を測定するために使用されるそれぞれのEEG増幅器の最適なダイナミックレンジを示している。細かい平行線の付された領域はこの範囲外である。
【0102】
図7Aは、
図1に示される装置100を使用して適用された単一の二相性信号を示し、各繰り返しにランダムノイズが追加されて、3回繰り返された。交流電流は、対の第1の刺激電極104に供給され、第2の刺激電極106は、基準電圧、例えば、接地(0V)に維持される。信号(実線)は、定電流供給源の第1の刺激電極104の出力に印加される電圧を表す。各繰り返しにおいて追加されたランダムノイズは、定電流を維持するために必要な電圧の予測できない変動をシミュレートする。黒い点線は、患者の頭部の大部分から見た体の接地基準(Vref)を表している。白い領域はEEG増幅器のダイナミックレンジ(この場合は0V-3.3V)を示し、細かい平行線の付された領域はこのダイナミックレンジ外の電圧を示している。
【0103】
比較して、
図7Bは、
図2に示される装置200を使用して適用される2つの相補的な正弦波を示す。黒い実線は、第1の刺激電極204に送達される信号を表し、黒い破線は、第2の刺激電極に適用される相補的な信号を表す。黒い点線は、EEG増幅器で見られるコモンモード信号を表している。第1の刺激電極204に印加される電圧と大きさが等しく極性が反対の電圧で第2の刺激電極206を駆動すると、頭部の2つの電極電圧を合計し、したがって、共通基準に関して頭部の電圧がキャンセルされる。これにより、EEG増幅器208(点線)で見られるコモンモード信号は、ゼロ電圧点の近くに留まる。
【0104】
ただし、時折り、
図7Bから、コモンモード信号がEEG増幅器の入力電圧の線形範囲の下限(細かい平行線の付された領域で表される)を下回ることを目にすることがある。
図7Cは、
図3に示す装置300を使用して適用された相補的な正弦波を示している。オフセット電圧(Voffset)を導入する付加的加算回路317を追加することが、組織により見られる共通基準電圧を、EEG増幅器の線形範囲内にシフトすることが見てとれる。黒い点線は、患者の頭部の大部分の電圧を表している。
【0105】
図7Dは、
図4に示される装置400を使用して適用される2つの相補的な正弦波を示す。第2の刺激電極406においてより高次な利得の差を追加することが、電圧ミラー内に非対称性を導入して、身体における非線形性を補うことが見てとれる。
図4を参照して上で説明したように、フィードバック信号は、測定電極410、412で見られる電圧の共通平均として計算される。これは、加算回路417及び反転増幅器420を介して第2の刺激電極406に結合され、したがって、負のフィードバックループを完了するコモンモードエラー信号を表す。縞模様の領域は、フィードバック信号に基づいて第2の刺激電極406に追加される電圧のマージンを示している。電極404、406、410、412でのインピーダンス不均衡を補償することにより、黒の点線で表される身体接地基準(Vref)ラインは一定のレベルに維持される。
【0106】
上記の実施形態は、患者の頭部の表面に取り付けられた経頭蓋電極を使用して実施されてきた。しかし、本開示は、経頭蓋電極の使用に限定されない。いくつかの実施形態では、上記の電極の1つまたは複数を、例えば、脳の表面に配置された及び/または脳内に植込まれた頭蓋内電極で置き換えることができる(脳深部刺激療法(DBS)及び脳深部測定(DBM)。本発明の実施形態は、刺激及び/または測定のための容量性電極を使用して等しく実施され得る。同時の電気刺激及び神経活動の測定のための上記の技術は、上記の頭蓋内及び/または容量性電極を使用する刺激に等しく適用可能である。
【0107】
さらに、上記の技術は、脳内の神経組織の刺激及び測定を改善することに限定されない。本明細書に記載の実施形態は、任意のヒトまたは動物組織における神経活動の刺激及び測定に使用することができる。例えば、実施形態は、胃腸運動障害のための消化器官の刺激において使用され得る。実施形態はまた、例えばリハビリテーション中の筋肉の機能的刺激(FES)において使用され得る。本発明の実施形態はまた、患者の心臓の別の部分の筋肉を電気的に刺激しながら、患者の心臓のある部分の筋肉収縮からの神経活動を監視することが有利である可能性がある心電図の用途で使用することができる。
【0108】
当業者には、本開示の広い一般的な範囲から逸脱することなく、上記の実施形態に対して多数の変形及び/または修正を行うことができることが理解されるであろう。したがって、本実施形態は、すべての点で例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
なお、本発明には以下の態様が含まれることを付記する。
[態様1]
生体電気刺激を実行するための装置であって、
刺激ユニット、
増幅器を含む測定ユニット、
電気信号を患者の組織に印加するように動作可能な第1及び第2の刺激電極、並びに
前記患者の前記組織からの第1及び第2の測定信号を受信するように動作可能な第1及び第2の測定電極
を含み、
前記刺激ユニットは、第1の刺激信号を前記第1の刺激電極に送達し、第2の刺激信号を前記第2の刺激電極に送達するように構成され、
前記第1の信号及び前記第2の信号は、バイアス電圧についてミラーリングされ、前記バイアス電圧は、前記増幅器のダイナミックレンジに依存して設定される、前記装置。
[態様2]
前記測定ユニットは、前記第1の測定信号と前記第2の測定信号との間の電圧差に依存して信号を生じるように構成される、態様1に記載の装置。
[態様3]
前記測定ユニットは、前記第1の測定信号及び前記第2の測定信号の平均に依存して信号を生じるように構成される、態様2に記載の装置。
[態様4]
前記第1の刺激信号及び前記第2の刺激信号は、振動性信号またはパルス信号である、態様1~3のいずれか一項に記載の装置。
[態様5]
前記振動性信号が、正弦波、鋸歯状、方形波、または任意の信号である、態様4に記載の装置。
[態様6]
前記第1の刺激信号及び前記第2の刺激信号が直流(DC)信号である、態様1~3のいずれか一項に記載の装置。
[態様7]
前記バイアス電圧は、前記増幅器の前記ダイナミックレンジの中心点に依存して設定される、態様1~6のいずれか一項に記載の装置。
[態様8]
前記刺激ユニット及び前記測定ユニットは、共通基準電圧を共有する、態様1~7のいずれか一項に記載の装置。
[態様9]
前記バイアス電圧は、前記第1及び第2の測定電極で測定された前記共通基準電圧とコモンモード電圧との間のDCオフセットに依存して調整される、態様8に記載の装置。
[態様10]
前記バイアス電圧は、前記第1及び第2の測定電極で測定された前記共通基準電圧と前記コモンモード電圧との間の前記DCオフセットを低減するように調整される、態様9に記載の装置。
[態様11]
前記信号が脳波(EEG)信号である、態様1~10のいずれか一項に記載の装置。
[態様12]
前記測定ユニットは、差動増幅器を備え、
前記差動増幅器であって、
前記第1の測定電極に結合された第1の入力、
前記第2の測定電極に結合された第2の入力、及び
出力
を備える、態様1~11のいずれかに記載の装置。
[態様13]
前記刺激ユニットが、
出力を有する電流供給源、
非反転入力及び反転出力を有する反転増幅器、及び
第1の加算入力、第2の加算入力、及び加算出力を有する加算回路
を含む、態様1~12のいずれかに記載の装置。
[態様14]
前記電流供給源の前記出力は、前記第1の刺激電極及び前記第1の加算入力に結合されており、
前記反転増幅器の前記反転出力は、前記第2の刺激電極に結合されており、
前記第2の加算入力は基準オフセット電圧に結合され、
前記加算出力は、前記反転増幅器の反転入力に結合される、態様13に記載の装置。
[態様15]
前記測定回路は、フィードバック出力を含み、前記測定回路は、前記フィードバック出力において、前記第1の測定電極の電圧及び前記第2の測定電極の電圧の平均に比例する電圧を出力するように構成される、態様13に記載の装置。
[態様16]
前記電流供給源の前記出力は、前記第1の刺激電極及び前記第1の加算入力に結合されており、
前記第2の加算入力は前記フィードバック出力に結合され、
前記反転入力は前記加算出力に結合される、態様15に記載の装置。
[態様17]
前記電流供給源の前記第1の出力と前記第1の加算入力との間に結合された刺激補償フィルタをさらに備える、態様16に記載の装置。
[態様18]
前記フィードバック出力と前記第2の加算入力との間に結合された測定補償フィルタをさらに備える、態様16に記載の装置。
[態様19]
前記組織が脳組織である、態様1~18のいずれか一項に記載の装置。
[態様20]
前記第1及び第2の測定電極が、経頭蓋、経皮、または前記脳に植込まれている、態様1~19のいずれかに記載の装置。
[態様21]
前記第1及び第2の刺激電極が、経頭蓋、経皮、または前記脳に植込まれている、態様1~20のいずれか一項に記載の装置。
[態様22]
生体電気刺激を実行する方法であって、
第1の信号を生じるステップ、
第2の信号を生じるステップであって、前記第1の刺激信号及び前記第2の刺激信号がバイアス電圧についてミラーリングされ、前記バイアス電圧が増幅器のダイナミックレンジに依存して設定される、ステップと、
電気信号を患者の組織内部へと結合するように動作可能な第1の刺激電極に前記第1の信号を適用するステップ、
電気信号を前記患者の前記組織内部へと結合するように動作可能な第2の刺激電極に前記第2の信号を適用するステップ、
第1及び第2の測定電極において、前記患者の前記組織から第1及び第2の測定信号を受信するステップ、並びに
前記増幅器を使用して前記受信した電気信号を増幅するステップ
を含む前記方法。
[態様23]
前記第1の測定信号と前記第2の測定信号との間の電圧差に依存して信号を生じるステップをさらに含む態様22に記載の方法。
[態様24]
前記測定ユニットは、前記第1の測定信号及び前記第2の測定信号の平均に依存して前記信号を生じるように構成される、態様23に記載の方法。
[態様25]
前記第1の刺激信号及び前記第2の刺激信号は、振動性信号またはパルス信号である、態様22~24のいずれか一項に記載の方法。
[態様26]
前記振動性信号が、正弦波、鋸歯状、方形波、または任意の信号である、態様25に記載の方法。
[態様27]
前記第1の刺激信号及び前記第2の刺激信号が直流(DC)信号である、態様22~24のいずれか一項に記載の方法。
[態様28]
前記バイアス電圧は、前記増幅器の前記ダイナミックレンジの中心点に依存して設定される、態様22~27のいずれか一項に記載の方法。
[態様29]
前記第2の刺激信号及び前記信号は、共通基準電圧に基づいて生成される、態様22~28のいずれか一項に記載の方法。
[態様30]
前記第1の測定信号及び前記第2の測定信号の前記共通基準電圧とコモンモード電圧との間のDCオフセットに依存して前記バイアス電圧を調整することをさらに含む、態様29に記載の方法。
[態様31]
前記バイアス電圧は、前記共通基準電圧と前記コモンモード電圧との間の前記DCオフセットを低減するように調整される、態様30に記載の方法。
[態様32]
前記信号が脳波(EEG)信号である、態様22~31のいずれか一項に記載の方法。
[態様33]
前記組織が脳組織である、態様22~32のいずれか一項に記載の方法。
[態様34]
前記第1の振動性信号及び/または前記第2の振動性信号が、経頭蓋、経皮、または植込まれた電極を介して適用される、態様22~33のいずれか一項に記載の方法。
[態様35]
前記第1及び第2の測定電極が、経頭蓋、経皮、または脳に植込まれている、態様22~34のいずれか一項に記載の装置。
[態様36]
本明細書に開示されるか、または本願の明細書に個別にまたは集合的に示されるステップ、特徴、整数、組成物及び/または化合物、ならびに前記ステップまたは特徴の2つ以上の任意の及びすべての組み合わせ。