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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】磁気クランプ装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/154 20060101AFI20240710BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20240710BHJP
   B29C 33/32 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B23Q3/154 B
H01F7/02 S
B29C33/32
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021542616
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2020027620
(87)【国際公開番号】W WO2021039179
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2019156704
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391003989
【氏名又は名称】株式会社コスメック
(74)【代理人】
【識別番号】100091719
【弁理士】
【氏名又は名称】忰熊 嗣久
(72)【発明者】
【氏名】児嶋 良太
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-076981(JP,A)
【文献】特開2001-056010(JP,A)
【文献】特開2018-112292(JP,A)
【文献】特開2017-213650(JP,A)
【文献】特許第5301117(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/154
B29C 33/32
B29C 45/26
H01F 7/02
H01F 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に有底の空洞部を有する磁性体からなるプレート本体と、
前記空洞部に配置される磁気パッドであって、磁気ポールと、前記磁気ポールと前記空洞部の底面との間に設けられた極性を反転可能な反転可能磁石と、前記磁気ポールと前記空洞部の内周の側面との間に設けられた反転不可能磁石とを有する磁気パッドと、を備える磁気クランプ装置において、
前記磁気ポールと反転可能磁石は、互いに連通する締結孔を夫々が有し、かつ
前記夫々の締結孔よりも大きな径を有し、前記空洞部の底面から前記プレート本体の裏側に貫通した開口部を有しており、
前記開口部には、前記締結孔に連通するボルト孔を有する基体部と、
前記プレート本体の裏側の面に当接する鍔部とを有するキャップが挿入されており、
前記磁気パッドの表側から前記磁気ポールと前記反転可能磁石の締結孔に挿入されたボルトが、前記キャップの前記ボルト孔に設けられた雌ネジ山に対して螺合されており、
前記開口部の内周には、雌ネジ山が設けられていることを特徴とする磁気クランプ装置。
【請求項2】
請求項1の磁気クランプ装置において、前記磁気ポールと前記空洞部の内周の側面との間であって、前記反転不可能磁石の表側を封止するシール材と、前記基体部と前記開口部の内周の側面との間を封止するシール材とが設けられていることを特徴とする磁気クランプ装置。
【請求項3】
表面に有底の空洞部を有する磁性体からなるプレート本体と、
前記空洞部に配置される磁気パッドであって、磁気ポールと、前記磁気ポールと前記空洞部の底面との間に設けられた極性を反転可能な反転可能磁石と、前記磁気ポールと前記空洞部の内周の側面との間に設けられた反転不可能磁石とを有する磁気パッドと、を備える磁気クランプ装置において、
前記磁気ポールと反転可能磁石は、互いに連通する締結孔を夫々が有し、かつ
前記夫々の締結孔よりも大きな径を有し、前記空洞部の底面から前記プレート本体の裏側に貫通した開口部を有しており、
前記開口部には、前記締結孔に連通するボルト孔を有する基体部と、
前記プレート本体の裏側の面に当接する鍔部とを有するキャップが挿入されており、
前記ボルト孔は前記プレート本体の裏側に貫通され、前記キャップの鍔部側から前記ボルト孔と前記反転可能磁石の締結孔に挿入されたボルトが、前記磁気ポールの前記締結孔に設けられた雌ネジ山に対して螺合されており、
前記開口部の内周には、雌ネジ山が設けられていることを特徴とする磁気クランプ装置。
【請求項4】
表面に有底の空洞部を有する磁性体からなるプレート本体と、
前記空洞部に配置される磁気パッドであって、磁気ポールと、前記磁気ポールと前記空洞部の底面との間に設けられた極性を反転可能な反転可能磁石と、前記磁気ポールと前記空洞部の内周の側面との間に設けられた反転不可能磁石とを有する磁気パッドと、を備える磁気クランプ装置において、
前記磁気ポールと反転可能磁石は、互いに連通する締結孔を夫々が有し、かつ
前記夫々の締結孔よりも大きな径を有し、前記空洞部の底面から前記プレート本体の裏側に貫通した開口部を有しており、
一方、前記磁気ポールの締結孔には、雌ネジ山が設けられ、かつ前記プレート本体の裏側から前記開口部及び前記反転可能磁石の締結孔を通して挿入されたボルトが螺合して前記プレート本体に前記磁気ポールと前記反転可能磁石とが固定されており、
他方、前記開口部の内周には、雌ネジ山が設けられ、かつ前記開口部のプレート本体の裏面側の入り口に前記ボルトの頭部を収容する拡幅部が設けられ、前記ボルトは前記開口部の内周の雌ネジ山には螺合していないことを特徴とする磁気クランプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンスの容易な分解構造を有する磁気クランプ装置に関する。
【0002】
射出成形機の金型固定に関して、磁気吸着力を利用した磁気クランプ装置が知られている。磁気クランプ装置は、磁性体のプレート本体を射出成形機のプラテンに取付け、金型を磁気的に固定する技術である。プレート本体には、複数の磁気パッドが設けられている。各磁気パッドは、磁気ポールの周囲に設けられた極性反転不可能な磁石(例えば、ネオジム磁石)と磁気ポールの裏側に配置された極性反転可能な磁石(例えば、アルニコ磁石)とを有し、アルニコ磁石の磁気極性をコイルにより制御することにより、プレート本体内で閉鎖する磁気回路と、金型を経由する磁気回路との間で切り換え可能としている。
【0003】
磁気クランプ装置は金型をクランプしたままの状態で、金型内部の成形品が冷却・硬化するまでの間に冷却水によって冷却されることが一般的であり、磁気クランプ装置内部に冷却水が侵入することによるコイル等の腐食や短絡を防ぐために、磁気クランプ装置は液密的な構造が採用されている。
【0004】
例えば、特許文献1によれば、磁気ポールの外周表面部に、黄銅製の非磁性体のリングが配されており、このリングの外周面にOリングを受ける外部周辺溝を設けることにより、液密性を有する磁気クランプ装置が開示されている。また、特許文献2によれば、磁気ポールの外周外縁部と非磁性体の環状体の内周部とが、雄ねじ/雌ねじの関係で螺合されて嵌まり合い、この嵌め合い部に封止剤が配された磁気クランプ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5301117号公報
【文献】特開2019-76981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2の技術によれば、Oリング若しくは封止剤により、磁気クランプ装置のプレート本体の内部にあるコイル等の電気系統の液密性を高めることができるが、長期にわたる水の浸入を完全には無くすことはできず、いつかは磁気クランプ装置内部のメンテナンスが必要になることが予想される。
【0007】
特許文献1の磁気クランプ装置では、磁気ポールとアルニコ磁石を貫通する中央の締結孔(中央孔)が設けられ、磁気ポール側から締結孔を通して磁気ポールとアルニコ磁石をボルト(ねじ)が貫通し、プレート本体に対して螺合されている。特許文献2の磁気クランプ装置では、これとは逆に、プレート本体側から締結孔を通してプレート本体とアルニコ磁石をボルトが貫通し、磁気ポールに対して螺合されている。
【0008】
よって、特許文献1および特許文献2の磁気クランプ装置によれば、それぞれのボルトを取り外すことにより、一応、磁気ポールとアルニコ磁石およびプレート本体との機械的な分離は可能である。しかしながら、ネオジム磁石の磁力は極めて強力であり、プレート本体から磁気ポールを引き剥がすのは容易ではない。特許文献1、2の磁気クランプ装置では、プレート本体の裏側からネオジム磁石の力に抗して磁気ポールとアルニコ磁石をプレート本体の表側に押し出す特殊な工具が必要である。また、特許文献2の段落0067に開示されているように、必要に応じて余分の隙間に合成樹脂製の封止材を充填する場合には、さらに押し出しに困難性が増す。
【0009】
本発明の目的は、メンテナンスの容易な分解構造を有する磁気クランプ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁気クランプ装置では、表面に有底の空洞部を有する磁性体からなるプレート本体と、前記空洞部に配置される磁気パッドであって、磁気ポールと、前記磁気ポールと前記空洞部の底面との間に設けられた極性を反転可能な反転可能磁石と、前記磁気ポールと前記空洞部の内周の側面との間に設けられた反転不可能磁石とを有する磁気パッドと、を備える磁気クランプ装置において、前記磁気ポールと反転可能磁石は、互いに連通する締結孔を夫々が有し、かつ、前記空洞部は、その底面から前記プレート本体の裏側に貫通した開口部を有しており、前記開口部には、前記締結孔に連通するボルト孔を有する基体部と、前記プレート本体の裏側の面に当接する当設面を具備する鍔部とを有するキャップが挿入されている。
そして、前記磁気パッドの表側から前記磁気ポールと前記反転可能磁石の締結孔に挿入されたボルトが、前記キャップの前記ボルト孔に設けられた雌ネジ山に対して螺合されている、又は、前記ボルト孔は前記プレート本体の裏側に貫通され、前記キャップの鍔部側から前記ボルト孔と前記反転可能磁石の締結孔に挿入されたボルトが、前記磁気ポールの前記締結孔に設けられた雌ネジ山に対して螺合されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キャップを開口部から外して、開口部の雌ネジ山に対して工具ボルトを螺合していくと、工具ボルトがアルニコ磁石に突き当たる。そのまま、工具ボルトを螺合することにより、アルニコ磁石及び磁気ポールがプレート本体から引き剥がされる。このように、工具ボルトの1本で容易に、引き剥がしが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、磁気クランプ装置を示す図であり、図1Aは磁気クランプ装置を表側から見た図、図1Bは1つの磁気パッドの断面図、図1Cは分解図である。
図2図2は、作用を示す図であり、図2Aは引き剥がし前の図、図2Bは引き剥がし後の図である。
図3図3は、他の実施例の図であり、図3Aは断面図、図3Bは引き剥がし前の図、図3Cは引き剥がし後の図である。
図4図4は、実施例3の図であり、図4Aは断面図、図4Bは引き剥がし後の図である。
図5図5は、実施例3の変更した部分を示す図であり、図5Aは一部拡大図、図5Bは複数の磁気ポールを示した図である。
図6】磁気クランプ装置を非作動状態にした際の磁気ポールの外周部の磁束を示す図であり、図6Aは実施例1及び実施例2、図6B図6Cは実施例3、図6Dは実施例4の外周部の磁束を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、磁気クランプ装置1を示す図である。図1Aは磁気クランプ装置1を表側から見た図、図1Bは1つの磁気パッド2の断面図、図1Cは磁気パッド2の分解図である。
【0015】
図1Aにおいて、磁気クランプ装置1は、磁性体からなるプレート本体3と、プレート本体3の表面に設けられた有底の空洞部31に配置された多数の磁気パッド2を有している。プレート本体3の表面には、その他に、近接センサ4や、エジェクタロッド(図示せず)が挿入される貫通孔5等も設けられている。尚、図中の円形の点線は、プレート本体3の裏側に設けられた空間(配線室32)を示している。配線室32は、平面視において隣り合う空洞部31に対して一部が共通して重なり合うように配置されており、必要なケーブルの結線が行われる。
【0016】
図1B及び図1Cにおいて、磁気パッド2は円筒状であり(以下、磁気パッド2の中心を中心軸線cと称する)、磁気ポール21と、磁気ポール21の周囲に設けられた極性反転不可能な磁石(反転不可能磁石、例えば、ネオジム磁石22)と、磁気ポール21の裏側に配置された極性反転可能な磁石(反転可能磁石、例えば、アルニコ磁石23)と、アルニコ磁石23の周囲に配置されたボビン24と、ボビン24に巻かれたコイル25とを有している。磁気ポール21は、鋼のような強磁性材料から形成されている。磁気ポール21とアルニコ磁石23は中心軸線cに沿って夫々が締結孔21a、23aを有しており、締結孔21a、23aは互いに連通している。プレート本体3の表側(金型をクランプする側、図中の上側)からボルト8が挿入され、貫通できるようになっている。締結孔21a、23aは、ネジ山の無い通し孔である。
【0017】
磁気ポール21は、その外周の側面21bの壁に沿ってネオジム磁石22を設けている。ネオジム磁石22は磁気ポール21の半径方向に分極されている。ネオジム磁石22は、周方向に複数に分割されており、その一片は円弧状である。磁気パッド2がプレート本体3の空洞部31に収容されたとき、空洞部31の内周の側面31aと磁気ポール21の外周の側面21bとの間にネオジム磁石22が出来るだけ隙間の出来ないように配置される。ネオジム磁石22の上側であって、磁気ポール21とプレート本体3との間は、磁気ポール21の外周部21eが薄い厚さでプレート本体3の内周の側面31aに接触する/若しくは近接するまで延びている。外周部21eの下側には、液密性を高める封止のためのシール材9(Oリング)が設けられている。磁気ポール21の外周部21eを、空洞部31の内周の側面31aまで延ばしたのは、シール材9の脱落を防止するためであり、外周部21eの厚さを薄くしているのは、磁気抵抗を大きくするためである。このような構成に代えて、特許文献1、2に示されたような非磁性のリング若しくは環状体を利用してもよい。
【0018】
アルニコ磁石23は、磁気ポール21の裏側に配置されている。アルニコ磁石23の周囲に巻かれたコイル25により、アルニコ磁石23は磁気極性が切換え可能な磁石を形成する。磁気パッド2がプレート本体3の空洞部31に収容されたとき、空洞部31の底面31bと磁気ポール21の底面21dとの間にアルニコ磁石23が配置される。
【0019】
プレート本体3の空洞部31は、配線室32と一部が連通している。この連通した部分を利用して、磁気パッド2のコイル25の端子25aが配線室32に現れるようになっている。配線室32では、コイル25の端子25aに対して結線26を行い、必要な制御電流を供給できるようになっている。また、配線室32は、近接センサ4等の他の電気回路の結線にも利用される(図示せず)。配線室32は、プレート本体3の裏側から閉鎖可能なように蓋6が取り付けられる。また、プレート本体3の配線室32の周囲から液体が浸入することを防止して液密性を確保するために、蓋6はガスケット61を介してプレート本体3に取り付けられる。
【0020】
磁気ポール21と対向する空洞部31の底面31bには、中心軸線cに沿ってプレート本体3の裏側に貫通する断面円形の開口部33が設けられている。開口部33の直径は、締結孔21a、23aの直径よりも大きい。開口部33には、キャップ7の基体部71が挿入されている。キャップ7は、磁性体若しくは非磁性体であり、中心軸線cを図面の上から、断面が円形状の基体部71と、Oリング溝73と鍔部72とを有している。Oリング溝73には、開口部33の内周と当接するシール材75(Oリング)が配置される。基体部71には中心軸線cに沿ってボルト孔74が開口している。ボルト孔74は非貫通であり、基体部71が開口部33に挿入されたときに、ボルト孔74は締結孔21a及び23aに連通する。ボルト孔74の内周にはボルト8が螺入される雌ネジ山74aが設けられている。鍔部72は、プレート本体3の裏側の面3bに対して当接する当接面72aが具備されている。尚、実施例においては、プレート本体3側に鍔部72を収容して、プレート本体3の裏側の凹凸を少なくするために、開口部33の入り口に拡幅部34が設けられている。
【0021】
空洞部31の底面31b側になる開口部33の内周には、雌ネジ山33aが設けられている。雌ネジ山33aが設けられる開口部33の内周の範囲は一部であり、Oリング溝73のOリング75と干渉しない範囲に限定されている。雌ネジ山33aはキャップ7とは螺合はしていないが、キャップ7の基体部71の外周に雄ネジ山を設けて、雌ネジ山33aと螺合させてもよい。Oリング溝73には、シール材75(Oリング)が設置され、開口部33の内周との間で液密性を高めた封止を行う。Oリング75を開口部33の内周に対する封止に用いることで、磁気ポール21とアルニコ磁石23とキャップ7とプレート本体3の面3bが、中心軸線c方向に弾性体を介さずに固定されるので、プレート本体3と磁気ポール21の表側の表面3a、21cの均一化が図りやすい。尚、ボルト8は、シール材81(シールワッシャー)を介して磁気ポール21を固定している。
【0022】
アルニコ磁石23のコイル25に外部から一方向に電流を流すことにより、アルニコ磁石23の極性が反転する。電流は必要な磁束を保磁する時間だけ流せばよい。磁気ポール21に対して、アルニコ磁石23とネオジム磁石22の両方が同一磁極のとき、金型が磁気ポール21の表面21cに押し付けられた状態では、これらの磁束は金型の中を通過する。その結果、ネオジム磁石22、磁気ポール21、金型、プレート本体3で構成される磁気回路と、アルニコ磁石23、磁気ポール21、金型、プレート本体3で構成される磁気回路とが形成される。この状態で、磁気クランプ装置1は作動状態(着磁状態)である。尚、アルニコ磁石23は、永久磁石としては保磁力が相対的に高くないため、金型が瞬間的に離れると、ネオジム磁石22の磁力によりアルニコ磁石23の磁力が全部又は部分的に打ち消され、磁気クランプ装置1のクランプ力が失われる。
【0023】
アルニコ磁石23のコイル25に外部から反対方向の電流を流すことにより、アルニコ磁石23は反対方向の新たな磁界を発生させる。このとき、磁気クランプ装置1は非作動状態(脱磁状態)に切り換えられ、金型に働いたクランプ力が失われる。
【0024】
図2は、実施例の作用を示す図であり、図2Aは引き剥がし前の図、図2Bは引き剥がし後の図である。蓋6を開いて、コイル25の端子25aの結線26を外しておく。ボルト8とキャップ7との螺合を外す。開口部33の雌ネジ山33aに対して工具ボルト10を螺合していくと、工具ボルト10がアルニコ磁石23に突き当たる。そのまま、工具ボルト10を螺合することにより、その工具ボルト10がアルニコ磁石23及びネオジム磁石22を、磁力吸着しているプレート本体3から引き剥がしていく。このように、1本の工具ボルト10で容易に、引き剥がしが可能になる。なお、工具ボルト10は、引き剥がし用に作られたものでもよいし、市販されているJIS規格やインチ規格の一般的なボルトでもよい。一般的なボルトも工具ボルト10として使用出来るように、開口部33の雌ネジ山33aを設定しておくのがよい。
【0025】
尚、実施例においては、ネオジム磁石22が磁気ポール21側に引き連れられて、プレート本体3の空洞部31から出てきている。ボビン24とネオジム磁石22との間に、磁気ポール21の側面21bから若干の突出部21fが設けられており、ネオジム磁石22は磁気ポール21の移動に引き連れられて持ち上げられるからである。一方、ボビン24は磁気ポール21の外側よりも大きな半径方向の大きさを有しているので、前記突出部21fがないと、ネオジム磁石22が空洞部31に残り、ボビン24はネオジム磁石22と干渉して取り出せなくなる。
尚、ネオジム磁石22と磁気ポール21の構造によっては、ネオジム磁石22はプレート本体3側に残ってもよい。
【実施例2】
【0026】
実施例1は、磁気ポール21とアルニコ磁石23を貫通する締結孔21a、23aが設けられ、磁気ポール21側から締結孔21a、23aを通して磁気ポール21とアルニコ磁石23をボルト8が貫通し、キャップ7に螺合されることでプレート本体3に固定される。一方、実施例2は、これとは逆に、プレート本体3の裏側からキャップ7のボルト孔74とアルニコ磁石23の締結孔23aを通してボルト8が貫通し、磁気ポール21に対して螺合される。
【0027】
図3において、図3Aは断面図、図3Bは引き剥がし前の図、図3Cは引き剥がし後の図である。尚、実施例1と同様の機能を有する構成には、同一の引用符号が付されている。
【0028】
図3Aにおいて、実施例2の磁気パッド2は、実施例1の磁気パッド2に対して、磁気ポール21とキャップ7の構成、及び、ボルト8の装着方向が異なっている。磁気ポール21には、止め孔である締結孔21aが裏面側から形成されている。その締結孔21aには、ボルト8が螺合する雌ネジ山21gが設けられている。一方で、ボルト孔74は、雌ネジ山74aが設けられておらず、かつボルト孔74より直径の大きいダボ孔76と連通して、キャップ7の全体として貫通する孔になっている。ボルト孔74とダボ孔76を通して、プレート本体3の裏側からボルト8が挿入可能である。本実施例においては、締結孔23a及びボルト孔74が通し孔である。また、ダボ孔76は、ボルト8の頭部8aを収容可能である。
【0029】
図3Aから図3Cを参照して、実施例2の作用を説明する。まず、蓋6を開いて、コイル25の端子25aの結線26を外しておく。ボルト8と磁気ポール21との螺合を外す。開口部33の雌ネジ山33aに対して工具ボルト10を螺合していくと、工具ボルト10がアルニコ磁石23に突き当たる。そのまま、工具ボルト10を螺合することにより、アルニコ磁石23及び磁気ポール21がプレート本体3から引き剥がされる。このように、工具ボルト10の1本で容易に、引き剥がしが可能になる。
【0030】
上記実施例1、2において、磁気パッド2をプレート本体3から取り外した後は、コイル25等に対して必要なメンテナンスを行い、磁気パッド2をプレート本体3に取り付けて、ボルト8を締結する。配線室32内の結線を行い、蓋6を閉める。なお、必要な場合は、プレート本体3及びアルニコ磁石23の研磨を行う。
【0031】
上記実施例1、2において、基体部71は円筒状であるが、鍔部72の平面視の形状は円でなくてもよい。また、キャップ7のOリング溝73の代わりに、当接面72aとこれが当接するプレート本体側の面3bとの間に、ガスケット等の封止材を用いてもよい。しかし、この場合、そのような封止材の弾性によりプレート本体3と磁気パッド2との表面3a、21cの均一化を図ることが難しくなるので、研磨の際に注意を要する。
【実施例3】
【0032】
図4に示す実施例3の磁気クランプ装置1は、プレート本体3の裏側からアルニコ磁石23の締結孔23aを通して貫通したボルト8により、磁気ポール21をプレート本体3に結合する例である。実施例2の磁気クランプ装置1と相違して、キャップ7を具備していない。
【0033】
磁気ポール21には、止め孔である締結孔21aが裏面側から形成されている。締結孔21aには、ボルト8が螺合する雌ネジ山21gが設けられている。アルニコ磁石23の締結孔23aは、ボルト8が貫通するネジ山の無い通し孔である。プレート本体3の開口部33aの径は、締結孔21aと締結孔23aよりも大きくなるように設定されている。このため、ボルト8の頭部8a若しくは、ボルト8と共に必要に応じて用いられる座金82が貫通できないようになっている。また、開口部33aの内周には雌ネジ山33aが形成されている。締結孔21aと締結孔23a及び開口部33aが一直線上に連通する。プレート本体3の裏側の開口部33aの入り口には拡幅部34が設けられている。拡幅部34は、プレート本体3の裏側から雌ネジ山21gに対して螺入されるボルト8の頭部8aを収容して、プレート本体3の裏側の凹凸を少なくするのに十分な大きさを有している。
【0034】
磁気ポール21側には、その底面に微少な凸状の円筒ガイド21hが設けられている。円筒ガイド21hは内周がアルニコ磁石23よりもやや大きい。アルニコ磁石23の上部が、円筒ガイド21hの中に入り込むことにより、両者の位置関係を大まかに規定する。円筒ガイド21hは、ネオジム磁石22と磁気ポール21とアルニコ磁石23をプレート本体3に固定する組立工程において利用される。具体的な組立工程を示すと、アルニコ磁石23を円筒ガイド21hの中に入れて、その後、着磁したネオジム磁石22を磁気ポール21に取り付ける。すると、ネオジム磁石22の磁力によりアルニコ磁石23が磁気ポール21に吸い付けられて、一体化する。このとき、アルニコ磁石23の締結孔23aと磁気ポール21の締結孔21aも円筒ガイド21hにより自動的に連通状態になっている。ネオジム磁石22と磁気ポール21とアルニコ磁石23が一つの纏まった部品として、その後は扱うことが出来るので、ボルト8による螺着は、作業員一人でも実施可能である。
【0035】
図5は、実施例3の磁気クランプ装置1において、実施例1又は実施例2と比較して変更された部分を説明する図である。実施例1又は実施例2においては、ネオジム磁石22の上側は、図5Aに示すように、磁気ポール21の外周部21eが薄い厚さでプレート本体3の内周の側面31aに接触する/若しくは近接するまで延びている。一方、実施例3においては、図5Bに示すように、磁気ポール21の外周部21eはプレート本体3の内周の側面31aを超えて、その上に微少に被さるようになっている。そして、外周部21eとプレート本体3との間を磁気的に接続するシム21fが、外周部21eに被され、かつプレート本体3に接触している。
【0036】
また、図5Cにおいて、蓋6は配線室32に対して弾性力によりは嵌め込まれる。また、シール材は、予め蓋6側に貼付けられている。プレート本体3への蓋6の取り付け作業が、嵌め込みだけになり簡単化されている。また、磁気ポール21を通過する磁束を測定するサーチコイル62は、ネオジム磁石22とシール材9との間において、磁気ポール21に数ターン巻き付けられている。本実施例においては、隣り合う磁気ポール21は、異なる磁極に磁化されている。図5Cの図面上で左の磁気ポール21がN極であるとすると、右側の磁気ポール21はS極である。この場合において、サーチコイル62は全ての磁気ポール21に巻き付けてもよい。一方で一部の磁気ポール21に巻き付けて、他のポールには巻かなくてもよい。例えば、N極の磁気ポール21にだけ巻き付けて、S極の磁気ポール21には巻き付けなくてもよい。
【0037】
次に、図4A図4Bを参照して、実施例3の作用を説明する。ボルト8と磁気ポール21との螺合を外す。開口部33の雌ネジ山33aに対して工具ボルト10を螺合していくと、工具ボルト10がアルニコ磁石23に突き当たる。そのまま、工具ボルト10を螺合することにより、アルニコ磁石23及び磁気ポール21がプレート本体3から引き剥がされる。このように、1本の工具ボルト10で容易に、引き剥がしが可能になる。
【実施例4】
【0038】
図6Dに示す実施例4は、実施例3を若干変更し、外周部21eとプレート本体3との間を磁気的に接続するシム21fの代わりに、外周部21eの下側にプレート本体3に対して磁気的に短絡する短絡部21gを設けたものである。他の構成は実施例3と同じである。図6は、磁気クランプ装置1を非作動状態にした際の磁気ポール21の外周部の磁束の状態を比較している。図6Aは実施例1及び2に対応する図であり、外周部21eはプレート本体3と磁気的に接続し、非作動状態では磁束は外周部21eとプレート本体3との間を通過する。
【0039】
図6B図6Cは実施例3であるが、図6Bにおいてはシム21fが除かれている。シム21fが存在しないと、非作動状態では磁束は磁気ポール21から漏れ出してしまっている。これでは、金型をうまくリリースできない。一方で、図6Cのようにシム21fを設けることにより、磁束はシム21fを通過し、磁気ポール21から漏れることがない。また、実施例4を示す図6Dにおいては、外周部21eの下側の短絡部21gを磁束が通過して磁気ポール21から漏れることがない。
【符号の説明】
【0040】
1 磁気クランプ装置
2 磁気パッド
3 プレート本体
4 近接センサ
5 貫通孔
6 蓋
7 キャップ
8 ボルト
9 シール材
10 工具ボルト
21 磁気ポール
22 ネオジム磁石
23 アルニコ磁石
24 ボビン
25 コイル
31 空洞部
32 配線室
33 開口部
34 拡幅部
61 ガスケット
62 サーチコイル
71 基体部
72 鍔部
73 Oリング溝
74 ボルト孔
75 シール材
76 ダボ孔
81 シール材
82 座金

図1
図2
図3
図4
図5
図6