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特許7518564グリコシル基メタルフレーム材をベースとした、肝臓を標的とする治療薬物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】グリコシル基メタルフレーム材をベースとした、肝臓を標的とする治療薬物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 41/00 20200101AFI20240710BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20240710BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20240710BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20240710BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20240710BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240710BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240710BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240710BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
A61K41/00
A61K31/704
A61K31/44
A61K31/513
A61K9/51
A61K47/02
A61K47/26
A61P35/00
A61P43/00 121
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022534476
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 CN2020097638
(87)【国際公開番号】W WO2021114605
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】201911280230.7
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514262886
【氏名又は名称】江南大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGNAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 1800 Lihu Avenue, Bin Hu District, Wuxi, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】胡静
(72)【発明者】
【氏名】尹健
(72)【発明者】
【氏名】胡▲じゅん▼
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101259284(CN,A)
【文献】特表2018-526432(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109503848(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108517038(CN,A)
【文献】Inorg. Chem.,2019年05月,vol.58, issue 10,p.6593-6596
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 41/00
A61K 31/704
A61K 31/44
A61K 31/513
A61K 9/51
A61K 47/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓がんに対する標的治療のための医薬であって、
光増感剤を連結アームとして有するメタルフレーム材MOFsを含み、
前記メタルフレーム材MOFsには、アドリアマイシン、ソラフェニブ及び5-フルオロウラシルから選択される1つの化学療法薬又は複数の同一若しくは異なる化学療法薬が担持されており、
前記メタルフレーム材MOFsの表面には、ガラクトース又はガラクトサミン残基を含む単糖若しくはオリゴ糖分子が、連結基としての-CO-PEG-CO-を介して結合されている、
医薬。
【請求項2】
前記メタルフレーム材MOFsは、PCN-224、PCN-222から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
請求項2に記載の医薬を製造する方法であって、
ZrOCl・8HO、TCPP及び安息香酸を有機溶媒に分散し、均一に混合した後、アドリアマイシンを添加して混合系を形成し、80~100℃下で反応させ、その後、固液分離により沈殿物を取り出し、洗浄し、乾燥してDOX@PCN-224を得る、DOX@-PCN-224の調製のためのステップ(1)と、
ステップ(1)で得られたDOX@PCN-224、及びCOOH-PEG-COOHを水に分散させて混合液とし、常温下で反応させ、反応が終了した後、固液分離により沈殿物を取り出し、洗浄し、乾燥してカルボキシル基で修飾されたDOX@PCN-224を得るステップ(2)と、
ステップ(2)で得られたカルボキシル基で修飾されたDOX@PCN-224と、アミノ基で修飾されたガラクトースと、縮合剤とを水に溶解し、常温下で反応させ、反応が終了した後、固液分離により沈殿物を取り出し、洗浄し、乾燥してDOX@Gal-PCN-224を得るステップ(3)と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
前記ステップ(1)において、アドリアマイシン、ZrOCl・8HO、TCPP及び安息香酸の質量比が、1:(5~8):(2~4):(50~60)であり、
本発明の1つの実施形態において、前記ステップ(1)において、有機溶媒は、DMFであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(1)において、混合系中のアドリアマイシンの濃度が、0.4~0.6mg/mLであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(1)において、混合系中のアドリアマイシンの濃度が、0.4~0.6mg/mLであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(2)において、DOX@PCN-224とCOOH-PEG-COOHとの質量比が、(2-2.5):1であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(2)において、DOX@PCN-224とCOOH-PEG-COOHとの質量比が、(2-2.5):1であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(2)において、DOX@PCN-224とCOOH-PEG-COOHとの質量比が、(2-2.5):1であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップ(2)において、混合液中のDOX@PCN-224の質量濃度が、0.8~1.2mg/mLであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップ(3)において、カルボキシル基で修飾されたDOX@PCN-224と、アミノ基で修飾されたガラクトースとの質量比が、1:0.5~0.8であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップ(3)において、カルボキシル基で修飾されたDOX@PCN-224と、アミノ基で修飾されたガラクトースとの質量比が、1:0.5~0.8であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ステップ(3)において、前記縮合剤は、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩及びN-ヒドロキシスクシンイミドであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
前記縮合剤において、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩とN-ヒドロキシスクシンイミドとの質量比が、1.7:1であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコシル基メタルフレーム材をベースとした、肝臓を標的とする治療薬物及びその製造方法に関し、バイオ医薬品の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞癌(hepatocellular carcinoma、HCC)を代表とする原発性肝癌は、症状が現れにくいために早期診断が難しく、進行も速く、治療が困難な上で、予後が悪いと知られている。世界的に見て、悪性腫瘍の中でも、HCCの発症率は第6位にあり、死亡率は第2位にあり、うちの半分以上の新規発症症例と死亡症例は中国からの報告である。2016年、中国腫瘍登録センターの、人々に対する高信頼性の疫学調査に基づき、72個の登録サイトのデータ(中国の人口の6.5%を占める)を収集し、分析した結果によると、中国では、肝臓がんの新規発症症例数が46.6万件あり、死亡症例数が42.2万件あり、肝臓がんは、60歳未満の男性に最も多く見られ、死亡率が最も高い悪性腫瘍であることが示されている。慢性B型肝炎、アルコール中毒又はC型肝炎の感染に起因する肝硬変は、HCCに係る主なリスク因子であるが、その次の要因は非アルコール性脂肪性肝炎である。中国、東南アジア、サハラ砂漠南方以降のアフリカ地域などを含む、B型肝炎ウイルス(HBV)の流行地域では、HCCの発症率が高いとみられ、その一方で、欧米の人々のHCC発症の要因は、慢性C型肝炎(HCV)、アルコール性肝硬変及び非アルコール性脂肪性肝炎であるとみられる。そのため、肝臓がんの治療について、世界中に関心が高まっている。しかし、外科的切除、肝移植又はラジオ波焼灼術などの根治的治療は、30%未満の症例にしか適応できない。ソラフェニブは、末期のHCC患者に対して優先的に選択される薬であるが、高い頻度で発生する有害事象を伴うため、全生存期間の有意な改善は確認されていない。また、既存の薬物の大半は、遊離型低分子薬物であるゆえに、投与後に全身に広がり、病巣部位に集結することができない。そのため、治療効果が限られ、患者に対する毒性や副作用は強い。
【発明の概要】
【0003】
上記課題を解決するために、本発明は、糖分子標的基団で修飾したナノスケールのメタルフレーム材を薬物キャリアとして用いることにより、ナノ材料によるパッシブターゲッティングと、グリコシル基材料によるアクティブターゲッティングとを組み合わせ、病巣部位への良好な集結を実現し、標的治療の効果を奏することができる。本発明は、糖分子がポリヒドロキシアルデヒド構造としてナノ材料の表面に付加にくいという従来の問題を克服し、糖分子に対して化学的修飾によりその末端基にアミノ基連結アームを連結し、当該糖分子をアミド化反応によりメタルフレーム材の外面と共有結合させることで、ターゲッティング効果を奏するものである。
【0004】
また、本発明は、多種の機能をナノ材料である1つの担体に集約させることを実現し、光増感剤と化学療法薬とを生体適合性及び安全性の良い担体に統合した新規な治療系を提供する。まず、ポルフィリンを連結アームとするメタルフレーム材PCN-224を担体とし、当該担体に抗腫瘍薬アドリアマイシンDOX(DOX@PCN-224と称する)を搭載することにより、光線力学的療法と化学療法との相乗的治療を実現した。その後、DOX@PCN-224の表面にCOOH-PEG-COOHを静電吸着により付加し、DOX@PCN-224の表面にカルボキシル基を導入した。最後に、ガラクトース標的分子をアミド化反応により材料の表面に付加し、相乗的ターゲッティングナノ治療系を構築できた。
【0005】
本発明の目的の一つは、光線力学的療法と化学療法とを組み合わせた酸感受性トレーシングに基づく、肝臓病に対する標的治療のための下記式(I)で示される構造である薬物であって、
式中、Aは、アドリアマイシン(DOX)、ソラフェニブ及び5-フルオロウラシル(5-FU)から選択される1つの化学療法薬、又は、複数の同一若しくは異なる化学療法薬であり、
Bは、光増感剤を連結アームとして有するメタルフレーム材MOFsであり、
Cは、連結基としての-CO-PEG-CO-(ただし、PEGの分子量は1000-2000)であり、
Dは、ガラクトース、又は、ガラクトサミン残基を含む単糖若しくはオリゴ糖分子であり、肝がん細胞の表面に過剰に発現しているアシアロ糖タンパク質受容体を特異的に認識することができることを特徴とする、薬物を提供することにある。
【0006】
本発明の一つの実施形態において、前記メタルフレーム材MOFsは、PCN-224、PCN-222から選択される。
【0007】
前記PCN-224のCAS番号は1476810-88-4であり、PCN-222のCAS番号はCAS:1403461-06-2である。
【0008】
本発明の一つの実施形態において、前記薬物は、化学療法薬@Gal-MOFsと略称される。
【0009】
本発明の別の態様は、上記の式(I)で示される薬物を製造する方法であって、
ZrOCl・8HO、TCPP及び安息香酸を有機溶媒に分散し、均一に混合した後、アドリアマイシンを添加して混合系を形成し、80~100℃下で反応させ、その後、固液分離により沈殿物を取り出し、洗浄し、乾燥してDOX@PCN-224を得る、DOX@-PCN-224の調製のためのステップ(1)と、
ステップ(1)で得られたDOX@PCN-224、及びCOOH-PEG-COOHを水に分散させて混合液とし、常温下で反応させ、反応が終了した後、固液分離により沈殿物を取り出し、洗浄し、乾燥してカルボキシル基で修飾されたDOX@PCN-224を得るステップ(2)と、
ステップ(2)で得られたカルボキシル基で修飾されたDOX@PCN-224と、アミノ基で修飾されたガラクトースと、縮合剤とを水に溶解し、常温下で反応させ、反応が終了した後、固液分離により沈殿物を取り出し、洗浄し、乾燥してDOX@Gal-PCN-224を得るステップ(3)と、
を含む方法を提供する。
【0010】
本発明の一つの実施形態において、前記ステップ(1)において、アドリアマイシン、ZrOCl・8HO、TCPP及び安息香酸の質量比が、1:(5~8):(2~4):(50~60)である。好ましくは、1:6.25:2.08:58.33である。
【0011】
本発明の1つの実施形態において、前記ステップ(1)において、有機溶媒は、DMFである。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、前記ステップ(1)において、混合系中のアドリアマイシンの濃度が、0.4~0.6mg/mLであり、好ましくは、0.44mg/mLである。
【0013】
本発明の1つの実施形態において、前記ステップ(2)において、DOX@PCN-224とCOOH-PEG-COOHとの質量比が、(2-2.5):1であり、好ましくは、2:1である。
【0014】
本発明の1つの実施形態において、前記ステップ(2)において、混合液中のDOX@PCN-224の質量濃度が、0.8~1.2mg/mLであり、好ましくは、0.9mg/mLである。
【0015】
本発明の1つの実施形態において、前記ステップ(3)において、カルボキシル基で修飾されたDOX@PCN-224と、アミノ基で修飾されたガラクトースとの質量比が、1:0.5~0.8であり、好ましくは、1:0.67である。
【0016】
本発明の1つの実施形態において、前記ステップ(3)において、前記縮合剤は、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)である。
【0017】
本発明の1つの実施形態において、前記縮合剤において、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩とN-ヒドロキシスクシンイミドとの質量比が、1.7:1である。
【0018】
有利な効果
本発明に係る薬物は、肝腫瘍組織の標的化及びトレーシングを統合したものである。本発明に係る薬物の生体適合性及び細胞毒性を慎重に評価し、この相乗的ターゲッティングナノ治療系の安定性、及び酸性pHによりトリガーされる薬物放出をin vitroで研究した。HepG2細胞株及びHuh7細胞株のいずれに対しても、薬物送達、一重項酸素発生能、光線力学的療法と化学療法との相乗的治療作用について研究した。また、皮下固形腫瘍およびin situ腫瘍のマウスモデルの両方についても、in vivoでの行為トレーシング及び治療効果の両方に対する評価を行った結果、優れたトレーシングおよび治療効果が示された。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(A)は無機ナノ材料であるDOX@Gal-PCN-224の走査型電子顕微鏡写真であり、(B)は無機ナノ材料であるDOX@Gal-PCN-224の透過型電子顕微鏡写真であり(C)は走査型電子顕微鏡による元素マッピングである、C-K、N-K、O-K、Zr-Kシグナルを示し、(D)は紫外線可視吸収スペクトルの解析結果として(a)DOX@PCN-224、(b)COOH-PEG-COOHで修飾されたDOX@PCN-224、及び(c)DOX@Gal-PCN-224を示し(E)は無機ナノ材料DOX@Gal-PCN-224の水和粒子径の分布を示すグラフである。
図2】水、PBS緩衝液(pH7.4)、及びFBSを10%含む培地の存在下での、DOX@Gal-PCN-224の水和粒子径の安定性を示すグラフである。
図3】無機ナノ材料DOX@Gal-PCN-224の、異なるpH条件下での放出を示す曲線である。
図4】様々な濃度のGal-PCN-224と共に48時間インキュベートした後の、HepG2細胞、Huh7細胞及びHEK293細胞の細胞生存率を示すグラフである。
図5】ガラクトース(1mM)の競合有り又は競合無しの条件下で、無機ナノ材料DOX@Gal-PCN-224と共にインキュベートしたHepG2細胞、Huh7細胞及びHEK293細胞のレーザー共焦点写真である。
図6】ガラクトース(1mM)の競合有り又は競合無しの条件下で、DOX@Gal-PCN-224と共にインキュベートしたHepG2(B1)細胞、Huh7(B2)細胞及びHEK293(B3)細胞のフローサイトメトリーグラフである。4象限分布図は、DOXとTCPPの蛍光シグナルを示す。
図7】DOX@Gal-PCN-224を用いてインキュベートしたHepG2細胞、Huh7細胞及びHEK293細胞におけるの生成が特徴付けられたレーザー共焦点写真である。
図8】それぞれの処理方式を用いた、Huh7細胞の生死染色写真(縮尺100μm)である。
図9】(A)はDOX@Gal-PCN-224-RhB及びDOX@PCN-224-RhBを尾静脈から注射した後の、異なる時点でのin vivoイメージング図であり、(B)は離体の器官の異なる時点でのイメージング図である。
図10】(A)は異なる治療グループのマウスの腫瘍の増殖を示す曲線(矢印は光線力学的療法の時間を示す)であり、(B)治療グループについて21日間治療した後に摘出した腫瘍組織の写真であり、(a)は生理食塩水の場合、(b)はDOXの場合、(c)はDOX+光照の場合、(d)はPCN-224の場合、(e)はPCN-224+光照の場合、(f)はDOX@PCN-224の場合、(g)はDOX@PCN-224+光照の場合、(h)はDOX@Gal-PCN-224の場合、(i)DOX@Gal-PCN-224+光照の場合を示す。
図11】(A)は各実験グループについての、肝臓部位のT1重み付けイメージング図であり、(a)は生理食塩水の場合、(b)はDOXの場合、(c)はDOX+光照の場合、(d)はPCN-224の場合、(e)はPCN-224+光照の場合、(f)はDOX@PCN-224の場合、(g)はDOX@PCN-224+光照の場合、(h)はDOX@Gal-PCN-224の場合、(i)はDOX@Gal-PCN-224+光照の場合(白色の破線で描かれた囲みは腫瘍部位を示す)を示し、(B)は各実験グループを21日間治療した後に切除した腫瘍付き肝臓組織の写真であり、(a)は生理食塩水の場合、(b)はDOXの場合、(c)はDOX+光照の場合、(d)はPCN-224の場合、(e)はPCN-224+光照の場合、(f)はDOX@PCN-224の場合、(g)はDOX@PCN-224+光照の場合、(h)はDOX@Gal-PCN-224の場合、(i)はDOX@Gal-PCN-224+光照の場合(白色の破線で描かれた囲みは腫瘍部位を示す)を示す(縮尺5mm)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態を詳細に説明するが、当業者であれば、下記の実施例は、本発明を説明するものにすぎず、本発明を限定するものではないと理解するべきである。実施例において、具体的な条件を明記していない実施事項は、通常の条件又はメーカー推奨の条件に従って行ったものである。また、使用された試薬や機器についてメーカーが言及されていないものは、いずれも市販により入手可能な通常の製品である。
【0021】
(実施例1:薬物DOX@Gal-PCN-224の調製)
丸底フラスコに、ZrOCl・8HOのDMF溶液(15mg/mL)10mL、TCPPのDMF溶液(2.5mg/mL)20mL及び安息香酸のDMF溶液(70mg/mL)20mLをそれぞれ添加し、撹拌しながらアドリアマイシンの水溶液(6mg/mL)4mLを添加した。その後、90℃下で5時間攪拌した後、遠心分離により収集し、DMF及び水でそれぞれ3回洗浄した。最後に、真空乾燥オーペン内で乾燥して粉末生成物DOX@PCN-224を得た。
【0022】
上記のように得られた生成物DOX@PCN-224を水に溶解して1mg/mLの水溶液とし、DOX@PCN-224の水溶液20mL及びCOOH-PEG-COOHの水溶液(5mg/mL、ここで、COOH-PEG-COOHのMw=1K、2mL)2mLを取って丸底フラスコに加え、室温下で4時間攪拌した。その後、遠心分離により収集し、水で3回洗浄した。最後に、真空乾燥オーペン内で乾燥してカルボキシ基で修飾されたDOX@PCN-224を得た。
【0023】
カルボキシ基で修飾されたDOX@PCN-224(15mg)、アミノ基で修飾されたガラクトース(10mg)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl、17mg)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS、10mg)を10mLの水に溶解し、室温下で48時間攪拌した。その後、遠心分離により収集し、水で3回洗浄し、最後に、真空乾燥オーペン内で乾燥して粉末生成物DOX@Gal-PCN-224を得た。ここで、DOXの薬物担持率は14.2%であった。(薬物担持率=担持されたDOXの総量/材料としての生成物の総量)
【0024】
(実施例2:薬物DOX@Gal-PCN-224の特性付け)
実施例1で調製されたDOX@Gal-PCN-224について、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、透過型電子顕微鏡を用いた元素分析、走査型電子顕微鏡を用いた元素マッピング、紫外線可視吸収スペクトルにおける解析、動的光散乱法により、粒子径の分布に関して特性付けた。
【0025】
図1からわかるように、得られたDOX@Gal-PCN-224は、分布が均一な球状ナノ粒子であり、その粒子径は121nmである。
【0026】
材料の安定性は、材料を生物医学に応用する上で重要な前提である。図2からわかるように、無機ナノ材料を水、pH7.4のリン酸塩緩衝液(PBS)、及び10%牛胎児血清を含む培地と共に7日間インキュベートした後、粒子径に大きな変化が見られなかったため、当該無機ナノ材料の安定性が良好であると実証されている。
【0027】
(実施例3:薬物DOX@Gal-PCN-224の酸感受性放出)
無機ナノ材料DOX@Gal-PCN-224 10mgを20mLのpH7.4及びpH5.6のPBS緩衝液のそれぞれに投入した。37℃下で攪拌し、所定の時点で上清を採取して480nmにおける吸光度を測定した。その後、採取した試料を元の放出系に戻した。式:放出率(%)=m/mにより、DOXの放出率を計算した。ここで、mは放出されたDOXの量であり、mは担持されたDOXの総量(1.42mg)である。
【0028】
図3に示す放出結果のように、無機ナノ材料は、模擬生理環境下(pH7.4)では安定性が維持され、120時間インキュベートした後であっても、放出されたDOXはわずか15.8%であった。一方、酸性条件下(pH5.6)では、DOXの放出速度は、相対的に速かった(12時間後は25.7%、48時間後は55.4%、120時間後は65.0%)。この結果から分かるように、DOX@Gal-MOFに基づく薬物送達は、pH応答性によってDOXを放出する腫瘍標的治療に用いることができる。
【0029】
(実施例4:薬物DOX@Gal-PCN-224の細胞毒性実験)
ヒト肝臓がん細胞としてHepG2細胞及びHuh7細胞、ヒト胎児腎細胞としてHEK293細胞をそれぞれ96ウェルプレートに8×10/ウェルの密度で植え、これらの細胞を48時間インキュベートすることによりウェルプレート内で安定増殖させた後、そこに、実施例1の無機ナノ材料DOX@Gal-PCN-224をそれぞれ0μg/mL、10μg/mL、20μg/mL、40μg/mL、60μg/mL、80μg/mL、100μg/mL及び120μg/mLの濃度で添加した。細胞を材料とともに48時間インキュベートした後、培地を除去し、PBSで3回洗浄した。その後、フェノールレッドが添加されず0.5mg/mLのMTTを含んだ培地を、1ウェルにつき、100μL添加した。続いて、DMSOを、1ウェルにつき、100μL加えた。発色した96ウェルプレートについて、プレート中のすべてのウェルに関する吸光度値(λ=490nm)をマイクロプレートリーダーで測定した。各試料について、6セットの並行実験を繰り返した。なお、材料による作用を受けていない細胞グループについては細胞活性100%と定義し、DMSO溶液のみが存在し細胞が存在しないウェルについてはブランクコントロールと定義し、各ウェルに関する吸光度値を補正した。
【0030】
図4は、無機ナノ材料DOX@Gal-PCN-224の細胞毒性の結果を示すグラフである。その結果から示されたように、実施例1の無機ナノ材料の濃度は0~120μg/mLの濃度範囲では、三種類の細胞の生存率がいずれも80%より大きかった。すなわち、当該無機ナノ材料が、低い毒性及び良い生体適合性を備えることが示されている。
【0031】
(実施例5:薬物DOX@Gal-PCN-224が、肝がん細胞HepG2及びHuh7の細胞表面に存在するアシアロ糖タンパク質受容体を特異的に、標的に認識可能なことを証明するレーザー共焦点実験)
ヒト肝臓がん細胞としてHepG2細胞及びHuh7細胞、ヒト胎児腎細胞としてHEK293細胞をそれぞれレーザー共焦点観察用培養皿(35mm)に8×10/ウェルの密度で植えた。12時間培養した後、ガラクトース競合グループに1mMのガラクトースを添加した。24時間の培養を続けた後、培地を除去し、PBSで3回洗浄した。その後、20μg/mLDOX@Gal-PCN-224を含んだ培地を加え、3時間インキュベートした。培地を除去し、PBSで3回洗浄した。その後、4%パラホルムアルデヒドを添加し、室温下で15分間固定した。その後、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で、細胞核を15分間染色した。最後にPBSで洗浄し、レーザー共焦点観察に供した。
【0032】
図5からわかるように、HepG2細胞とHuh7細胞では、無機ナノ材料であるDOX及びTCPPに由来する蛍光が顕著に見られたが、COS7細胞とHEK293細胞ではほとんど蛍光が確認されなかった。また、ガラクトース競合の存在下では、HepG2細胞及びHuh7細胞であっても、DOX及びTCPPに由来する蛍光が確認されなかった。この実験により、DOX@Gal-PCN-224無機ナノ材料が、ガラクトース-アシアロ糖タンパク質受容体を媒介とし、HepG2細胞及びHuh7細胞を認識して細胞内に入ることができることが実証された。
【0033】
(実施例6:薬物DOX@Gal-PCN-224が、肝がん細胞HepG2及びHuh7の細胞表面に存在するアシアロ糖タンパク質受容体を特異的に、標的に認識可能なことを証明するフローサイトメトリー測定)
HepG2細胞、Huh7細胞、HEK293細胞をそれぞれ24ウェルプレートに2×10個/ウェルの密度で植えた。12時間培養した後、ガラクトース競合グループに1mMのガラクトースを添加した。24時間の培養を続けた後、細胞密度が90%に達した。培地を除去し、PBSで3回洗浄した後、上記三種類の細胞を、20μg/mLのDOX@Gal-PCN-224を含んだ培地を用いて3時間インキュベートした。その後、細胞をトリプシンで消化し、1000rpmで3分間遠心分離し、上清を捨て、凝集した細胞をPBSで再懸濁し、吹き飛ばした。蛍光検出への干渉を低減する目的で、この遠心分離のプロセスを3回繰り返し、残留の培地及び無機ナノ材料を除去した。最後に、細胞をPBS中に分散し、フローチューブに置いて、フローサイトメトリーにより各細胞グループの蛍光強度を測定した。
【0034】
図6に示したように、HEK293細胞については、異なる環境下であっても、DOX@Gal-PCN-224無機ナノ材料が細胞に入る速度は殆ど差がなく、DOX@Gal-PCN-224による処理を経ていないコントロールグループとは殆ど差異がなかった。これは、HEK293細胞の表面に低発現のアシアロ糖タンパク質受容体のみが存在するため、無機ナノ材料が、表面における、ガラクトースとアシアロ糖タンパク質受容体との間の標的性媒介作用に基づくエンドサイトーシスにより、細胞内に速やかに入ることができなかったからである。しかし、HepG2細胞及びHuh7細胞について、異なる環境下では、DOX@Gal-PCN-224無機ナノ材料が細胞内に入る速度は顕著に異なっていた。表面のアシアロ糖タンパク質受容体が早期に飽和した場合、DOX@Gal-PCN-224無機ナノ材料は、その表面に結合しているガラクトースによってHepG2細胞及びHuh7細胞を認識することができなかったが、非標的性エンドサイトーシスにより腫瘍細胞に入ることができた。そのため、DOX及びTCPPの蛍光強度は非常に低かった。一方、表面の受容体が過剰に発現した細胞に対しては、DOX@Gal-PCN-224無機ナノ材料は、その表面に結合しているガラクトースにより、腫瘍細胞の表面に存在するアシアロ糖タンパク質受容体と迅速に結合し、その後、当該受容体により媒介されるエンドサイトーシスにより、腫瘍細胞に入ることができた。
【0035】
(実施例7:薬物DOX@Gal-PCN-224の生成能力)
2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート(DCFH-DA)を用いて、DOX@Gal-PCN-224が生細胞内においてを生成させる能力を評価した。HepG2細胞、Huh7細胞及びHEK293細胞をDOX@Gal-PCN-224(20μg/mL)と共に3時間インキュベートした。培地を除去した後、細胞をPBSで3回洗浄した。その後、DCFH-DA(10μM)を含んだ培地を用いて細胞をインキュベートし、660nmのLEDライトにより10分間照射した。さらに、37℃下で15分間インキュベートした後、細胞をPBSで3回洗浄し、共焦点顕微鏡を用いて、488nmにて励起させたDCFH-DAの蛍光染色画像をキャプチャした。無照射グループは、光照を行わなかった以外は、上記と同じである。
【0036】
図7からわかるように、HepG2細胞及びHuh7細胞は、光照を経った後、を生成することができたため、DCFの緑色蛍光を示した。一方、光照を行わなかったHepG2細胞及びHuh7細胞は、微弱な緑色蛍光しか見られず、光照によるトリガーがなかったと考えられるため、の生成はほとんど見られなかった。HEK393細胞は、光照射の有無にかかわらず、顕著な緑色蛍光は見られなかった。これは、3時間以内に当該細胞に入ることができた無機ナノ材料はごく僅かで、を生成するための光増感剤が十分ではなかったからである。
【0037】
(実施例8:薬物DOX@Gal-PCN-224のin vitroでの治療効果)
無機ナノ材料DOX@Gal-PCN-224のin vitroでの治療効果は、生死染色法と、それに対応するMTT実験とにより、測定した。
【0038】
ヒト肝臓がん細胞Huh7をレーザー共焦点観察用培養皿(35mm)に8×10/ウェルの密度で植えた。24時間培養した後、上記細胞を、10μg/mLのDOX、60μg/mLのPCN-224、70μg/mLのDOX@PCN-224(薬物担持率が14.2であり、DOXの含有量が約10μg/mLである)、又は70μg/mLのDOX@Gal-PCN-224(薬物担持率が14.2であり、DOXの含有量が約10μg/mLである)をそれぞれ含んだ培地を用いて、24時間インキュベートした。その後、光照射グループについては、660nmの光源により10分間照射し、続いて24時間インキュベートした後、Calcein-AM/PI生死染色を実施した。最後に、レーザー共焦点観察に供した。各グループの実験は、同じ処理を行った後、MTT実験によりさらに治療効果を定量化した。
【0039】
図8に示す生死染色のレーザー共焦点写真において、緑色蛍光は生細胞を示し、赤色蛍光は死細胞を示している。PBSを添加した対照グループでは、光照射の有無にかかわらず、緑色蛍光のみが確認された。これは、アポトーシスがほとんど生じなかったことを意味する。DOXを添加した化学療法グループでは、光照射の有無にかかわらず、散発的な赤色蛍光が確認された。これは、単独化学療法では、Huh7細胞のアポトーシスを僅かにしか引き起こせないことを意味する。PCN-224を添加した光線力学的療法グループでは、光照射を実施する前は、赤色蛍光がほとんど見られず、光照射を実施した後は、一定量の赤色蛍光が見られた。これは、光線力学的療法により、一部の細胞にアポトーシスが生じたことを意味する。DOX@PCN-224を添加した、化学療法と光線力学的療法とを組み合わせた相乗治療グループでは、光照射を実施する前にもかかわらず、一部の細胞にアポトーシスが生じた。これは、化学療法により、アポトーシスが引き起こされたことを意味する。そして、光照射を実施した後、アポトーシスが大量に見られた。これは、化学療法と光線力学的療法とを組み合わせた相乗治療により、アポトーシスが加速したことを意味する。DOX@Gal-PCN-224を添加した、標的化学療法と光線力学的療法とを組み合わせた相乗治療グループでは、光照射を実施する前にもかかわらず、大量の細胞にアポトーシスが生じた。これは標的化学療法による効果と考えられる。そして、光照射を実施した後、緑色蛍光がほとんど見られなかった。これは、標的相乗治療により、ほぼすべての細胞にアポトーシスが生じたことを意味する。これらの結果は、我々の標的相乗治療の優位性を示している。
【0040】
表1に示すMTTの結果のように、各実験グループについての細胞生存率が生死染色の結果と一致しており、無機ナノ材料DOX@Gal-PCN-224の、in vitroでの治療効果がより一層実証された。ここで、メタルフレーム材は、それ自体が殆ど抑制効果を有していないが、DOXを担持した後、DOXとの相乗作用により、当該抑制効果の向上が促進された。
【0041】
【0042】
(実施例9:薬物DOX@Gal-PCN-224の、体内での分布効果)
より良い蛍光イメージングを実現するために、まず、ローダミンB(RhB)を用いて無機ナノ材料を修飾し、得られたものをDOX@PCN-224-RhB及びDOX@Gal-PCN-224-RhBとそれぞれ表記した。
【0043】
皮下固形腫瘍のマウスモデルの構築は、次のとおりである。すなわち、4週齢、平均体重14~17gの雄性BALB/cヌードマウスを取り、それらの右臀部に、6×10cells/mLのPBSを0.1mL接種した。4週間後、腫瘍の大きさが200mm(体積=0.52×腫瘍長さ×腫瘍幅)を超えた時点で、マウスを5匹ずつ、2グループに振り分けた。DOX@PCN-224-RhB(0.1mL 0.4mg/mL)及びDOX@Gal-PCN-224-RhB(0.1mL 0.4mg/mL)をそれぞれ尾静脈から注射した。小動物用イメージャー(Bruker In Vivo Xtreme II)を用い、設定した各時点(3、6、12、24、48時間目)において、RhBの蛍光シグナルを測定した。その後、マウスを屠殺し、その心臓、肝臓、脾臓、肺及び腎臓を摘出し、各臓器のRhB蛍光シグナルを測定した。
【0044】
DOX@Gal-PCN-224-RhBを注射した実験グループを標的グループと称し、DOX@PCN-224-RhBを注射した実験グループを非標的グループと称し、体内イメージングの結果を図9に示した。図9Aから確認できるように、非標的グループと比較して、標的グループのほうが、腫瘍部位への濃集効果がより優れている。尾静脈から注射して3時間及び6時間が経った後、標的グループ及び非標的グループの両方とも、無機ナノ材料がマウスの体内において全身に広がったことが確認された。標的グループでは、尾静脈から注射して12時間及び24時間が経った後、腫瘍部位においてより顕著な蛍光が確認された。これは、標的作用により、より多くの無機ナノ材料が腫瘍部位に入り込んだことを示している。尾静脈から注射して48時間が経った後、全身にわたって蛍光の減退が確認され、これは無機ナノ材料が生体内循環系中で徐々に代謝されたことを示している。図9Bは、各時点で摘出した臓器のイメージング図であり、同様の傾向が反映されている。このことから、標的無機ナノ材料は、より腫瘍部位へ集結しやすく、腫瘍部位に留まる時間がより長いと、結論づけた。
【0045】
(実施例10:皮下固形腫瘍のマウスモデルにおける、薬物DOX@Gal-PCN-224による腫瘍増殖抑制)
マウスの皮下腫瘍のサイズが50mmを超えた時点で、マウスを5匹ずつ、9グループに無作為に振り分けた:(1)生理食塩水、(2)遊離DOXの生理食塩水(2mg/kg)、(3)遊離DOX+660nmレーザー(2mg/kg)、(4)PCN-224(12mg/kg)、(5)PCN-224+660nmレーザー(12mg/kg)、(6)DOX@PCN-224(14mg/kg)、(7)DOX@PCN-224+660nmレーザー(14mg/kg)、(8)DOX@Gal-PCN-224(14mg/kg)、(9)DOX@Gal-PCN-24+660nmレーザー(14mg/kg)。初回の尾静脈注射の前日を「0日目」とした。上記の各実験グループのマウスに対して、所定の時点(1、4、7、10、13、16、19日目)で尾静脈注射を行った。光照射グループでは、2、8、14日目に660nmの光源(20mW/cm)により腫瘍部位に10分間照射した。上記の各実験グループについて、所定の時点(3、6、9、12、15、18、21日目)で腫瘍体積及びマウス体重を測定した。
【0046】
図10に示したように、DOX@Gal-PCN-224+660nmレーザー、及びDOX@Gal-PCN-224及びDOX@PCN-224+660nmレーザーのいずれの場合においても、良好な腫瘍増殖抑制の効果を有していた。最終の実験日に得られた各グループの腫瘍体積データから、腫瘍抑制効率(腫瘍抑制効率=(1-実験グループの腫瘍体積の平均値/生理食塩水対照グループの腫瘍体積の平均値)×100%)を算出した。なお、DOX@Gal-PCN-224+660nmレーザーグループは、抑制効率が97.8%と最も高い値を示した。DOX@Gal-PCN-224+660nmレーザーによれば、腫瘍の増殖を最大限に抑制できると、結論づけた。
【0047】
【0048】
(実施例11:in situ腫瘍のマウスモデルにおける、薬物DOX@Gal-PCN-224による腫瘍増殖抑制)
In situ腫瘍のマウスモデルの構築は以下のとおりである。すなわち、摘出した皮下腫瘍組織を2mm×3mm×3mmサイズの組織ブロックに切り出し、当該組織ブロックを接種用注射針にセットし、マウスの肝臓の肝包膜内に接種した。In situ腫瘍モデルを構築して2週間が経った後、in situ腫瘍を持っているマウスを5匹ずつ、9グループに無作為に振り分けた。なお、グループ分けの類別及び投与時間は、皮下腫瘍の実験と一致させ、マウスの体重測定の時点も皮下腫瘍の実験と一致させた。11日目に、660nmの光源を、光ファイバーを介してin situ腫瘍の表面に導入し、10分間照射した。20日目に、全ての実験マウスの肝臓について、T重み付け磁気共鳴イメージング(Aspect Imaging, Israel)を行った。
【0049】
図11に示すT1重み付け磁気共鳴イメージング図とin situ腫瘍の写真から分かるように、DOX@Gal-PCN-224+660nmレーザーグループは、腫瘍区域が殆ど見られず、すべての実験グループのうち、腫瘍が最も小さいグループであった。これは、DOX@Gal-PCN-224+660nmレーザーグループが、腫瘍抑制効率が最も高い群であることを示し、この結果が皮下腫瘍モデルへの腫瘍抑制効果と一致していると、分かった。
【0050】
上記のように、本発明を、好ましい実施例を通して開示したが、本発明は当該実施例に限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨と範囲から逸脱しない限り、様々な変更と改修を行うことができる。したがって、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって定義されるものを基準とするべきである。
図1
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図11