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特許7518566炭素繊維及び炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】炭素繊維及び炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20240710BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240710BHJP
   D01F 9/12 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
D01F9/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023001804
(22)【出願日】2023-01-10
(62)【分割の表示】P 2018022052の分割
【原出願日】2018-02-09
(65)【公開番号】P2023040186
(43)【公開日】2023-03-22
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】518049692
【氏名又は名称】アイカーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】葛西 有希
(72)【発明者】
【氏名】伊集院 乘明
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-025312(JP,A)
【文献】特開2009-138143(JP,A)
【文献】特開2017-160559(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102391543(CN,A)
【文献】特開2011-074204(JP,A)
【文献】Yuyan Liu,Recycling of Carbon/Epoxy Composites,Jounal of Applied Polymer Science,2004年,vol.95,p.1212-1916,DOI:10.1002/app.20990
【文献】Seok-Ho Lee,Circulating flow reactor for recycling of carbon fiber from carbon fiber reinforced epoxy composite,Korean J. Chem. Eng.,2011年,28(1),p.449-454,DOI:10.1007/s11814-010-0394-1
【文献】梅田勇,エポキシ樹脂の硝酸分解リサイクルにおける酸添加の効果,化学工学会 第75年会要旨集,2010年,p.298
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00-11/28、5/04-5/10、5/24
B29B 17/00-17/04、11/16、15/08-15/14
D01F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と熱硬化性樹脂を複合化した複合材料であって、熱硬化性樹脂を硬化する前の未硬化プリプレグを、硝酸を1~10Mの範囲の濃度で含む酸性水溶液に浸漬して、未硬化プリプレグの樹脂分の一部を溶出して一部が繊維状化し、かつ樹脂の残渣が残存した物(以下、略繊維状物と称する)を得る工程(1)、及び
工程(1)で得られた略繊維状物を、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から成る群から選ばれる少なくとも1種を含むアルカリ性水溶液に浸漬して、略繊維状物の樹脂の残渣分を溶出及び除去して炭素繊維を得る工程(2)、
工程(2)で得られた炭素繊維を抄紙して、炭素繊維シートを得る工程(A)または工程(2)で得られた炭素繊維を酸性水溶液に浸漬して、炭素繊維に付着する樹脂分および/またはサイジング剤をさらに溶出して、水分散性が向上した炭素繊維を得る工程(3)及び工程(3)で得られた炭素繊維を抄紙して、炭素繊維シートを得る工程(B)を含む、炭素繊維シートの製造方
【請求項2】
炭素繊維と熱硬化性樹脂を複合化した複合材料であって、熱硬化性樹脂を硬化する前の未硬化プリプレグを、硝酸を1~10Mの範囲の濃度で含む酸性水溶液に浸漬して、未硬化プリプレグの樹脂分の一部を溶出して一部が繊維状化し、かつ樹脂の残渣が残存した物(以下、略繊維状物と称する)を得る工程(1)、及び
工程(1)で得られた略繊維状物を、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から成る群から選ばれる少なくとも1種を含むアルカリ性水溶液に浸漬して、略繊維状物の樹脂の残渣分を溶出及び除去して炭素繊維を得る工程(2)、
工程(2)で得られた炭素繊維を結束して、結束した炭素繊維を得る工程(A)または工程(2)で得られた炭素繊維を酸性水溶液に浸漬して、炭素繊維に付着する樹脂分および/またはサイジング剤をさらに溶出して、水分散性が向上した炭素繊維を得る工程(3)及び工程(3)で得られた炭素繊維を結束して、結束した炭素繊維を得る工程(B)を含む、結束した炭素繊維の製造方
【請求項3】
工程(A)または(B)における結束に収束材を用いる請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
収束材は、ポリウレタン系、エポキシ系、エポキシウレタン系、変性アクリル系、変性オレフィン系、フェノール系、特殊樹脂系、または水溶性高分子である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法により、結束した炭素繊維を製造する工程、得られた結束した炭素繊維を用いて、炭素繊維強化樹脂組成物を製造する工程を含む、炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記炭素繊維強化樹脂組成物は、炭素繊維と熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物であって、(A)炭素繊維と(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂の合計量を100質量%として、(A)炭素繊維5~95質量%、(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂5~95質量%からなる炭素繊維強化樹脂組成物である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種である 請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維及び炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、リサイクル炭素繊維および炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は軽量かつ高強度の材料として注目されており、樹脂などのバインダーを用いて複合した材料である炭素繊維複合材料として利用されている。
【0003】
炭素繊維複合材料には、炭素繊維と樹脂を複合した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、セメントを複合した炭素繊維強化セメント(CFRC)などがあり、航空機や自動車材料、スポーツ用品など幅広く利用されているが、軽量化による燃費の向上等に繋がるとして、今後市場はますます拡大していくものと考えられる。しかしその一方で、工程余材や廃材の処理が問題となっており、炭素繊維複合材料から、炭素繊維を単離回収するリサイクル技術が検討されている。
【0004】
しかし、炭素繊維複合材料は非常に安定であり、その安定性ゆえに分解し再利用することが困難であり、現在廃材のリサイクル技術は性能及びコスト面から十分に確立されていない。よって、廃材に含まれる炭素繊維を、低コストかつバージン炭素繊維と同等の品質でリサイクルすることができれば、今後これまで利用されていなかった様々な分野での市場が拡大するものと考えられ、また、埋め立てや焼却処分される廃材も減少するため、環境負荷も低減される。
【0005】
廃材から炭素繊維をリサイクルする方法としては、これまでに熱分解法(特許文献1)、常圧溶解法(特許文献2~5)、電気分解法(特許文献6及び7)などが検討されているが、コストが高いことや性能面で不十分であることから、実用化は進んでいないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-064219号公報
【文献】特開2005-255835号公報
【文献】特開2005-255899号公報
【文献】特開2005-255899号公報
【文献】特開2007-297641号公報
【文献】特許6044946号公報
【文献】特許6205510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の熱分解法では、過熱水蒸気を供給し加熱炉内で400℃以上で高温焼成することにより母材樹脂を分解している。この方法では、加熱処理により炭素繊維が劣化してしまい、再生炭素繊維の機械強度がバージン炭素繊維の80%にとどまっていることが実施例1に記載されている。
【0008】
特許文献2~5に記載の常圧溶解法は、特定の分解触媒やアルカリ金属と特定の有機溶剤を用いて200℃前後で母材樹脂を溶解し炭素繊維を分離する方法である。これらの方法では、炭素繊維の熱劣化は少ないものの、有機溶剤を使用するため、溶剤回収のための設備等が必要であり、製造コストが高くなってしまう。
【0009】
特許文献6に記載の電気分解法は、電気分解の前処理として熱分解法同様、400℃~500℃の焼成工程を必要とすることが実施例2に記載されている。また、実施例4にて機械強度を測定しているが、炭素繊維未添加の樹脂よりも若干強度が低下しており、樹脂とのなじみを良くするためにサイジング剤を必要としている。
【0010】
特許文献7は、特定の条件内の加熱焼成処理、並びに特定の条件内の電気分解条件により、高強度の再生炭素繊維を得る方法である。しかし、実施例2において、加熱処理のみの再生炭素繊維(サンプルNo37、38)をPBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂に添加した複合樹脂(No119、121)の機械強度は、バージン炭素繊維のそれよりも低下している。機械強度の向上は加熱処理後の電気分解により炭素繊維表面に化学的な官能基を適量導入することによって得られている。
【0011】
これらの特許文献の記載から、CFRPの400℃以上での加熱処理や、適切な条件以外での電気分解処理により、炭素繊維ないしはその複合材の機械強度が低下することは明らかである。一方でCFRPのリサイクル処理の際に、炭素繊維の劣化を避けるべく、有機溶剤を用い低温で溶解処理する方法は、溶剤回収設備や特別な化合物等が必要になり製造コストが高くなる。
【0012】
炭素繊維の利用を広範囲に進めるためには、低コストかつ炭素繊維本来の強度を維持できるリサイクル炭素繊維が必要であり、そのための製造方法の開発が望まれる。
【0013】
そこで本発明の目的は、炭素繊維複合材料(CFC)から、炭素繊維を劣化させることなく低コストで炭素繊維を回収し、リサイクルする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、種々検討し、CFCを高温で加熱することなく、酸性及びアルカリ性水溶液を用いて、炭素繊維を劣化させずに樹脂を分解し、炭素繊維のみを回収することができる方法を見出し、本発明を完成させた。
【0015】
本発明は以下のとおりである。
[1]
炭素繊維複合材料(CFC)を、酸性水溶液に浸漬して、CFCの樹脂分の少なくとも一部を溶出して略繊維状物を得る工程(1)、及び
工程(1)で得られた略繊維状物をアルカリ性水溶液に浸漬して、略繊維状物の樹脂分の少なくとも一部を溶出して繊維状物を得る工程(2)、
を含む、炭素繊維の製造方法。
[2]
工程(1)における樹脂分の溶出量は、浸漬前のCFCの質量を100としたときに、0.1~99.9の範囲である、[1]に記載の製造方法。
[3]
工程(2)における樹脂分の溶出量は、浸漬前のCFCの質量を100としたときに、0.1~99.9の範囲である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
略繊維状物は、一部または全部が繊維状である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
CFCが、未硬化プリプレグ又は硬化済プリプレグである、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
CFCが、未硬化プリプレグであり、工程(1)において、未硬化プリプレグの一部が繊維状に分解するまで、酸性水溶液に浸漬して略繊維状物を得る、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
CFCが、硬化済みプリプレグであり、工程(1)において、硬化済みプリプレグの全部が繊維状に分解するまで、酸性水溶液に浸漬して略繊維状物を得る、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
工程(2)で得られた繊維状物を酸性水溶液に浸漬して、繊維状物に付着する樹脂分および/またはサイジング剤をさらに溶出して、水分散性が向上した繊維状物を得る工程(3)をさらに含む[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
[1]~[8]のいずれかに記載の方法により、炭素繊維を製造する工程、得られた炭素繊維を用いて、炭素繊維強化樹脂組成物を製造する工程を含む、炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法。
[10]
前記炭素繊維強化樹脂組成物は、炭素繊維と熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物であって、(A)炭素繊維と(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂の合計量を100質量%として、(A)炭素繊維5~95質量%、(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂5~95質量%からなる炭素繊維強化樹脂組成物である、[9]に記載の製造方法。
[11]
熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂及び塩化ビニル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種である[10]に記載の製造方法。
[12]
熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種である [10]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来にない新しい炭素繊維リサイクル方法により回収した炭素繊維、及びそれを使用することにより、従来にないすぐれた機械物性をもつ樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明により得られた茶殻状の炭素繊維(サンプルNo.1)の写真を示す。
図2】本発明により得られた羊毛状の炭素繊維(サンプルNo.4)の写真を示す。
図3】本発明および電気分解法により得られた炭素繊維の水に対する分散性を示す。(A)電気分解法、(B)本方法(サンプルNo.4)、(C)本方法(サンプルNo.6)。
図4】本発明および電気分解法により得られた炭素繊維のSEMによる写真を示す。(A)電気分解法、(B)本方法(サンプルNo.4)
【発明を実施するための形態】
【0018】
[炭素繊維の製造方法]
本発明の炭素繊維の製造方法は、CFCを酸性水溶液に浸漬して、CFCの樹脂分の少なくとも一部を溶出して略繊維状物を得る工程(1)、及び
工程(1)で得られた略繊維状物をアルカリ性水溶液に浸漬して、略繊維状物の樹脂分の少なくとも一部を溶出して
繊維状物を得る工程(2)、
を含む。
【0019】
工程(1)
CFCを、酸性水溶液に浸漬し、CFCの樹脂分の少なくとも一部を溶出して略繊維状物を得る。CFCは、特に制限はないが、炭素繊維と熱硬化型樹脂を複合した複合材料であり、熱硬化型樹脂を硬化する前の未硬化プリプレグであっても、硬化済プリプレグであってもよい。未硬化プリプレグは、CFC製品を製造する過程で生じる端材や不良品等として回収される物であることができる。硬化済プリプレグは、使用済みのCFC、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であっても、製造する過程で生じる端材や不良品等であってもよい。いずれもこれまでは廃材として主に焼却あるいは埋設処理されていた物である。
【0020】
工程(1)に供するCFCの形状や寸法等は、特に制限される物ではないが、CFCの樹脂分の溶出の容易さや溶液中での攪拌や移動の操作の容易さという観点からは、事前に一定以下の寸法に切断等することが好ましい。但し、寸法を小さくしすぎると内在する炭素繊維の寸法(長さ)を小さくすることになるため、回収される炭素繊維の寸法も考慮して、適宜決定することが好ましい。実用的には、例えば、一辺が0.2~10cmの範囲の断片とすることができる。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0021】
工程(1)において用いる酸性水溶液は、特に限定はないが、酸として有機酸、無機酸またはそれらの混合物を用いることができ、有機酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸等を挙げることができる。無機酸としては例えば、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸等を挙げることができるが、硝酸及び硫酸のうち少なくとも1種類以上であることが、CFCに含まれる樹脂分の溶解性の面において良好であり、安価かつ容易に入手できることから好ましい。酸性水溶液は、処理対象であるCFCの種類や処理条件(主に処理温度と時間)を考慮して適宜決定できる。
【0022】
酸性水溶液中の酸の濃度は、酸の種類、CFCの種類、溶解温度、溶解時間等を考慮して適宜決定でき、例えば、0.01~10Mの範囲とすることができ、好ましくは0.1~10Mの範囲であり、特に好ましくは1~10Mの範囲であり、最も好ましくは2~8Mの範囲である。酸性水溶液の温度は、10~100℃の範囲とすることができ、樹脂の溶解性の面で特に有効であることから、30~90℃の範囲であることが好ましく、50~90℃の範囲であることがより好ましい。
【0023】
CFCが、未硬化プリプレグである場合、熱硬化型樹脂は硬化前であり、比較的酸及びその後のアルカリによる分解(樹脂及び/又はサイジング剤の膨潤及び/又は溶解)が容易である。工程(1)においては、未硬化プリプレグの一部が繊維状に分解するまで、酸性水溶液に浸漬してCFCに含まれる樹脂分を溶出して略繊維状物を得ることが好ましい。一部が繊維状になった略繊維状物にまでCFCに含まれる樹脂及び/又はサイジング剤を溶解及び/又は膨潤して、複合材料を分解すれば、工程(2)におけるアルカリ水溶液で十分に繊維状に分解できるからである。
【0024】
工程(1)における樹脂分の溶出量は、浸漬前のCFCの質量を100としたときに、例えば、0.1~99.9の範囲であることができ、好ましくは1~95の範囲、より好ましくは5~90の範囲である。
【0025】
CFCが、硬化済みプリプレグである場合には、熱硬化型樹脂は硬化済みであり、その後のアルカリによる分解が未硬化プリプレグに比べて困難である。工程(1)において、硬化済みプリプレグの全部が繊維状に分解して略繊維状物になるまで酸性水溶液に浸漬し、樹脂分を溶出させて略繊維状物を得る。硬化済みプリプレグの全部が繊維状に分解した状態は、例えば、溶解後に水洗浄を繰り返し、目視により炭素繊維が羊毛状になっていることを確認することにより判断できる。硬化済みプリプレグの全部が繊維状への分解は、未硬化プリプレグの分解に比べて、同じ濃度及び温度条件であっても、酸性水溶液中での浸漬時間を長くすることで、実施可能である。また、酸の濃度や温度をより高くすることで、浸漬時間を短縮することは可能である。
【0026】
本発明の工程(1)において得られる略繊維状物は、CFCの一部が繊維状になった物、及びCFCの全部が繊維状になっている物ではなるが、依然として、樹脂の残渣等が繊維状物に残存している物を意味する。この状態の物は、酸性水溶液中にさらに長時間浸漬しても、樹脂の残渣等の除去の進行は難しい。
【0027】
工程(2)
工程(1)で得られた略繊維状物をアルカリ性水溶液に浸漬して、全部が繊維状となった繊維状物を得る。酸性水溶液中にさらに長時間浸漬しても、樹脂の残渣等の除去の進行は難しい工程(1)で得られた略繊維状物をアルカリ性水溶液に浸漬することで、比較的容易に樹脂の残渣等の除去が可能である。
【0028】
アルカリ性水溶液は、アルカリとして例えばアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩など、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩など、また、アミン化合物などを挙げることができる。アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウムなど、アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどを挙げることができ、また、アミン化合物としては、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどを挙げることができる。水への溶解性および入手の容易さ等を考慮すると、ナトリウム、カリウムを用いることが好ましく、樹脂の溶解性の面で特に良好であることから、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、亜硫酸ナトリウムのうち、少なくとも1種類以上を用いることが特に好ましい。
【0029】
アルカリ性溶液中のアルカリの濃度は、アルカリの種類、CFCの種類、略繊維状物の状態、溶解温度、溶解時間等を考慮して適宜決定でき、例えば、0.01~10Mの範囲とすることができ、好ましくは0.1~10Mの範囲である。因みに10%NaOHは2.5Mである。溶解時のアルカリ性溶液の温度は、5~100℃の範囲とすることができ、樹脂の溶解性の面で特に有効であることから、20~80℃の範囲であることが好ましい。
【0030】
工程(2)における樹脂分の溶出量は、浸漬前のCFCの質量を100としたときに、例えば、0.1~99.9の範囲であり、好ましくは1~95の範囲、より好ましくは5~90の範囲である
【0031】
本発明の製造方法では、工程(2)で得られた繊維状物を酸性水溶液に浸漬して、繊維状物に付着する樹脂分および/またはサイジング剤等をさらに溶出して、水分散性が向上した繊維状物を得る工程(3)をさらに含むことができる。これにより、繊維状物に付着する樹脂分および/またはサイジング剤を減少させることができ、水分散性を向上させることができる。
【0032】
工程(2)又は(3)で得られた繊維状物は、樹脂の付着量が、1質量%未満(炭素繊維含有量が99質量%超)であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以下である。但し、これに限定れる意図ではない。樹脂の付着量が、上記範囲となるように、工程(1)~(3)の条件(工程(1)の酸性水溶液の酸の種類、濃度、温度、時間、工程(2)のアルカリ性水溶液のアルカリの種類、濃度、温度、時間、工程(3)の採用の要否、工程(3)の酸性水溶の種類、濃度、温度、時間)を適宜調整する。
【0033】
工程(2)又は(3)において得られた炭素繊維は、中和処理、洗浄、乾燥を行い、炭素繊維のみを回収することができる。必要に応じて、洗浄を繰り返しても良い。溶解した炭素繊維の脱溶媒処理や中和後の脱液処理、及び繊維の洗浄後の脱水には遠心分離機、加圧プレス、スクリュープレス、ベルトプレス、加圧式ろ過フィルター、高速撹拌等の脱水機を単独ないしは複数組み合わせて用いることができる。その際、複合材中の母材樹脂は処理時のせん断力等で一部ないしは全部が分離され、その後、上記に挙げた適当な分離処理により、炭素繊維を得ることが出来る。
【0034】
本発明の方法で製造した炭素繊維は、リサイクル炭素繊維としてCFCの原料に用いることができる。特に本発明の方法で製造した炭素繊維は、水への分散性が良好なため、湿式不織布の製造方法と同様に抄紙をすることができ、炭素繊維シートを製造することができる。また、接着剤や粘着剤、インク、塗料等に分散させて塗布することも可能である。
【0035】
[炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法]
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法は、上記本発明の方法により、炭素繊維を製造する工程、及び得られた炭素繊維を用いて、炭素繊維強化樹脂組成物を製造する工程を含む。
【0036】
炭素繊維を製造する工程は前述の通りである。さらにここで得られた炭素繊維を用いて、炭素繊維強化樹脂組成物を製造する。炭素繊維を用いた炭素繊維強化樹脂組成物を製造方法は、公知の方法をそのまま利用することができる。炭素繊維強化樹脂組成物は、炭素繊維シートを製造した後に樹脂を複合化させて製造する方法、樹脂と炭素繊維を混ぜてその後にシート状に成形する方法のいずれの方法でも製造することができる。
【0037】
本発明の方法で製造した炭素繊維は、リサイクル炭素繊維としてCFCの原料にそのまま用いることができるが、回収される炭素繊維は羊毛状で収束性に乏しいため、その使用目的に応じて、樹脂の溶解量を調整することや、収束材を用いることで炭素繊維を結束させることができる。
【0038】
収束材としては、複合される樹脂の種類に応じて、ポリウレタン系、エポキシ系、エポキシウレタン系、変性アクリル系、変性オレフィン系、フェノール系、特殊樹脂系、または水溶性高分子などを用いることができる。
【0039】
製造する炭素繊維強化樹脂組成物は、例えば、炭素繊維と熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物であって、(A)炭素繊維と(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂の合計量を100質量%として、(A)炭素繊維5~95質量%、(B)熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂5~95質量%からなる炭素繊維強化樹脂組成物であることができる。
【0040】
本発明で得られた回収炭素繊維は、前述の本発明の製造方法によって、すぐれた機械強度を有するが、さらに本発明者らは、本発明の回収炭素繊維を使用して得られた炭素繊維強化樹脂組成物が、実用上十分な機械強度を有し、すぐれた構造材になることを見出した。すなわち、本発明の回収炭素繊維と熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂を混合することによって、機械強度、実用特性にすぐれ、各種用途、構造材に好適な炭素繊維強化樹脂組成物(CFRTP)を得られること分かった。
【0041】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物の好ましい態様は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物であり、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、例えば、熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂及び塩化ビニル樹脂及からなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂である。
【0042】
ポリオレフィン系樹脂としては、代表的には、エチレン、プロピレン、ブテン-1、3-メチルブテン-1、3-メチルペンテン-1、4-メチルペンテン-1等のα-オレフィンの単独重合体又はこれらの共重合体、あるいはこれらとの共重合可能な不飽和単量体 との共重合体等が挙げられる。代表例としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレ ン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-オクテン-1共重合体等のメタロセン系エチレン-αオレフィン共重合体等のポリエチレン類、アタクチックポリプロピレン、シンディオタクチックポリプロピレン、アイソタクチックポリプロピレンあるいはプロピレン-エチレンブロック共重合体又はランダム共重合体等ポリプロピレン類、ポリメチルペンテン-1等を挙げることができる。
【0043】
ポリアミド系樹脂としては、ポリマーの繰り返し構造中にアミド結合を有するものであれば、特に限定されるものではない。ポリアミド系樹脂としては、熱可塑性ポリアミド樹脂が好ましく、ラクタム、アミノカルボン酸及び/又はジアミンとジカルボン酸などのモノマーを重合して得られるホモポリアミドおよびコポリアミドそしてこれらの混合物が挙げられる。 具体的な例として、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、 ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMDT)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)及びこれらの共重合物、混合物等が挙げられ、中でも、成形性および表面外観の観点から、ナイロン6、ナイロン66、ナイロンMXD6、ナイロン9T 、ナイロン10Tおよびこれらの共重合ポリアミドが好ましく、ナイロン9T、ナイロン10T、ナイロンMXD6がより好ましく、ナイロン9Tが特に好ましい。さらにこれらの熱可塑性ポリアミド樹脂を、耐衝撃性、成形加工性などの必要特性に応じて混合物として用いることも実用上好適である。
【0044】
ポリカーボネート系樹脂としては、例えば4,4’-ジヒドロキシジアリールアルカン系ポリカーボネート等が挙げられる。具体例としては、ビスフェノールA系ポリカーボネート(PC)、変性ビスフェノールA系ポリカーボネート、難燃化ビスフェノールA系ポリカーボネート等を挙げることができる。
【0045】
スチレン系樹脂としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン等の単独重合体又はこれらの共重合体、あるいはこれらと共重合可能な不飽和単量体との共重合体等が挙げられる。具体的には、一般用ポリスチレン(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS) 、耐熱性ポリスチレン(例えば、α-メチルスチレン重合体あるいは共重合体等)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-α-メチルスチレン共重合体(α-メチルスチレン系耐熱ABS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-フェニルマレイミド共重合体(フェニルマレイミド系耐熱ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル- 塩素化ポリスチレン-スチレン系共重合体(ACS)、アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体(AES)、アクリルゴム-アクリロニトリル-スチレン共重合体(AAS)あるいはシンディオタクティクポリスチン(SPS)等が挙げられる 。また、スチレン系樹脂は、ポリマーブレンドしたものであっても良い。
【0046】
ポリエステル系樹脂としては、例えば芳香族ジカルボン酸とエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルキレングリコールとを重縮合させたものが挙げられる。具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる
【0047】
ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)としては、例えばポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル等のホモポリマーが挙げられ、これをスチレン系樹脂で変性したものを用いることもできる。
【0048】
ポリフェニレンスルファイド(ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンサルファイド)樹脂は、ベンゼンと硫黄が交互に結合した構造を持つ高耐熱の結晶性ポリマーであり、単独で用いられるよりも、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ、タルクなどの充填剤(フィラー)を混合して使用される場合が多い。
【0049】
ポリアセタール樹脂(POM)としては、例えば単独重合体ポリオキシメチレンあるいはトリオキサンとエチレンオキシドから得られるホルムアルデヒド-エチレンオキシド共重合体等が挙げられる。
【0050】
アクリル系樹脂としては、例えばメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル単独重合体又はこれらの共重合体、あるいはこれらと他の共重合可能な不飽和単量体との共重合体等が挙げられる。メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル単量体としては、メタクリル酸あるいはアクリル酸メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチルエステル等が挙げられる。代表的には、メタクリル樹脂(PMMA)が挙げられる。これらの熱 可塑性樹脂は、単独で用いても良く、2種以上を用いても良い。
【0051】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば塩化ビニル単独重合体や塩化ビニルと共重合可能な不飽和単量体との共重合体が挙げられる。具体的には、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重 合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体等が挙げられる。また、これらのポリ塩化ビニル系樹脂を塩素化して塩素含有量を高めたものも使用できる。
【0052】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物の別の態様は、炭素繊維強化熱硬化性樹脂組成物であり、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一種を挙げることができる。本発明の炭素繊維は水に良く分散し、適当な濃度で抄紙(紙漉き)することにより、湿式不織布、具体的には薄い炭素繊維シートや炭素繊維ペーパーを得ることができる。得られた炭素繊維不織布を硬化前の熱硬化性樹脂と混合ないしは含侵させた後、熱などで硬化させることによって、従来にないすぐれた機械物性をもつ炭素繊維強化熱硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0053】
また、本発明の炭素繊維強化樹脂組成物には、使用目的に応じて、熱可塑性樹脂以外に、ガラス繊維、シリカ、タルクなどの充填材(フィラー)や、リン化合物、臭素化合物、アンチモン化合物、金属酸化物、窒素化合物などの各種難燃剤を添加することができる。また、これら添加物以外に、通常の熱可塑性樹脂組成物に添加されている溶融樹脂の流動性改良材、成形性向上材、ゴム系充填材や熱可塑性エラストマーなどの耐衝撃改良材、表面の艶消し効果を発現する艶消し材など各種添加材を適当量添加することができる。
【実施例
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0055】
実施例1
工程(1)
6Mに希釈した濃硝酸を反応容器に入れ、湯浴中で60~70℃に加熱し、攪拌しながら硝酸100質量部に対して、炭酸水素ナトリウム水溶液にて前処理し、切断済みの未硬化プリプレグを10~20質量部加え、10~20分加熱攪拌を行った。発熱を伴う場合もあるが、内温を80℃以下に保った。反応物を硝酸から取り出し、直ちに水に放つと、エポキシ樹脂の一部が溶解した、茶色の炭素繊維が得られた。なお、濃硝酸は酸化力を高めるため、硫酸と任意の割合で混合した混酸でもよい。(表1-1サンプルNo.1,2および図1)また、混酸100質量部に対し、硬化プリプレグを30部加え、120時間加熱浸漬するとエポキシ樹脂の大部分が溶解した、繊維状の炭素繊維が得られた。(表1-1、サンプルNo.3)
【0056】
【表1-1】
【0057】
工程(2)
次に、表1-2に示す組成のアルカリ性水溶液100部に対し、サンプルNo.1~3の炭素繊維をそれぞれ10部加え攪拌すると、エポキシ樹脂の大部分が溶解し、開繊した羊毛状の炭素繊維が得られた。(表1-2および図2
【0058】
【表1-2】
【表1-3】
【0059】
表1-2に結果を示すように、本方法では、初めに加熱した硝酸、次に水酸化ナトリウムを用いて段階的に溶解することにより、未硬化プリプレグ(No.1、2)及び硬化済みプリプレグ(No.3)に含まれているエポキシ樹脂の大部分を溶解することができたが、炭素繊維表面に樹脂残渣が僅かに確認された。
【0060】
初めに酸ではなくアルカリ性水溶液を用いた場合には、エポキシ樹脂は溶解せず、羊毛状の炭素繊維を得ることはできないが、積層されている未硬化プリプレグの層間接着に作用し、プリプレグを1枚ずつ容易に剥がすことが可能になる。そのため、廃材の前処理方法(工程(1)に先立って実施)としては非常に有用である。よって本方法では未硬化プリプレグの前処理剤として、弱アルカリ性である炭酸水素ナトリウム水溶液を用い、数分~数日浸漬し、プリプレグを剥がしやすくすることもできる。
【0061】
表1-3に結果を示すように、硝酸、次に水酸化ナトリウムを用いて段階的に樹脂分を溶出して羊毛状になった炭素繊維はさらに、希硫酸に浸漬することで溶け残っているエポキシ樹脂およびサイジング剤を溶出して、炭素繊維表面に僅かに確認された樹脂残渣を除去することができた。
【0062】
本方法では、表1-2及び1-3で得られた炭素繊維は、条件によっては着色した溶液を多量に含み膨潤することがあるため、各種脱水機、洗浄機等を用いて脱水・洗浄することもできる。また水酸化ナトリウムや、亜硫酸ナトリウム等のアルカリ性水溶液を洗浄液として使用することも可能である。
【0063】
比較例
特許文献に記載の方法に従って、回収炭素繊維を調製した。結果を表1-3に記載する。特許文献6に記載の方法に従って、回収炭素繊維を調製した。結果を表1-5に記載する。
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【0064】
物性試験1(分散性試験)
炭素繊維の水に対する分散性は、水1000mLに対し、炭素繊維1gをホモジナイザーを用いて8000rpmで1分間攪拌したもので比較した。
【0065】
表1-4は、熱分解法により得られた炭素繊維サンプル(No.7,8,9,10)の焼成条件および分散性の試験結果であるが、いずれも分散性がよくない。
【0066】
表1-5は、アルカリ溶解工程を行わずに得られた炭素繊維サンプル(No.11)の試験結果であるが、炭素繊維は羊毛状にならず、分散性は非常によくない。
【0067】
表1-6は、電気分解法により得られた炭素繊維サンプル(No.12)の電気分解の条件および分散性の結果であるが、この場合も分散性はよくない。
【0068】
本方法により得られた炭素繊維は、熱分解法、電気分解法による炭素繊維と比較し、分散性に優れている(図3)。
【0069】
物性試験2(表面樹脂残渣の確認)
炭素繊維を走査型電子顕微鏡により観察し、炭素繊維表面の樹脂残渣の有無を確認した。
【0070】
図4は電気分解法および本方法により得られた炭素繊維の表面状態の写真であるが、電気分解法で得られた炭素繊維は表面に樹脂が残存していることが確認された。しかし、本方法により得られた炭素繊維の表面の状態は非常に綺麗であり、残存樹脂もみられなかった。よって、残存樹脂を完全に除去することが分散性の向上に有効であると考えられる。
【0071】
実施例2
表1-3~表1-6の各炭素繊維サンプルを用い、抄紙法にてPPとの組成物(炭素繊維複合材シート)を作成した。
【0072】
炭素繊維複合材シートの作製方法としては、まず表1-3~表1-6にある本炭素繊維(平均繊維長6mm)と同程度の繊維長を有するPP繊維を混合して水中に分散し、固形分0.1~3.0%からなる抄紙用スラリーを調整する。この後、分散剤としてアニオン系ポリアクリル酸ソーダ0.00002重量部を添加後、この炭素繊維分散液を、網目の隙間を0.3mmとする手漉き用抄紙機を用い、抄紙面に堆積してシート化し、5MPa、200℃で加圧、加熱(圧熱)し、炭素繊維複合材シートを得たのち、各種力学的測定の試験片を作成した。
【0073】
実施例3
表1-3~表1-6の各炭素繊維サンプルから、適当なサンプルを選び、表2に記載する各熱可塑性樹脂との組成物を作成した。
【0074】
作成方法は、熱可塑性樹脂70~90質量%に対し、集束した回収炭素繊維を10~30質量%を別々に計量した後、独ベルストルフ社製二軸押出機ZE40Aで両材料を、熱可塑性樹脂の溶融温度の温度条件にて押出混練した。なお、炭素繊維の添加量の多いものは再生炭素繊維を押出機スクリューの途中からサイドフィードした。また、サンプルについては、長さ1~3cm程度の長さに結束されたサンプルを使用した。
【0075】
得られたペレットはロックナー社製F85射出成型機を使用して、各熱可塑性樹脂の最適成形条件にて射出成型を行い各種力学的測定の試験片を作成した。
【0076】
物性試験3(力学物性試験)
実施例2、3により作成した、各熱可塑性樹脂組成物の力学物性の結果を下記の表2に示す(実施例2:サンプルNo101~106、実施例3:サンプルNo.107~130)。
【0077】
本方法により得られた炭素繊維を用いて作成した熱可塑性樹脂組成物は、電気分解法、熱分解法により得られた炭素繊維、また中弾性バージン炭素繊維を用いて作成した樹脂組成物と比較し、いずれも強度が高いものとなった。
【0078】
【表2】
【0079】
本方法では、高温での熱処理を行わないため、本方法により得られた炭素繊維は熱による劣化がなく、また高弾性タイプの炭素繊維の廃材を用いているため、高い強度を維持したまま、かつ低コストであるリサイクル炭素繊維を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明はCFCに関する技術分野に有用である。
図1
図2
図3
図4