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特許7518576弦楽器保持装置及び単数又は複数弦楽器の配置方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】弦楽器保持装置及び単数又は複数弦楽器の配置方法
(51)【国際特許分類】
   G10G 5/00 20060101AFI20240710BHJP
【FI】
G10G5/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023199686
(22)【出願日】2023-11-27
【審査請求日】2023-12-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】323002266
【氏名又は名称】Strings Audio Lab合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093067
【弁理士】
【氏名又は名称】二瓶 正敬
(72)【発明者】
【氏名】大島 英男
【審査官】中村 天真
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-271522(JP,A)
【文献】米国特許第05202527(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0080049(US,A1)
【文献】米国特許第08269085(US,B1)
【文献】米国特許第04742751(US,A)
【文献】中国実用新案第207752742(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10G 5/00
A47F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弦楽器の本体を空間において保持することが可能な弦楽器保持装置であって、
床に載置可能で、任意の高さまで伸長可能なポール部を有するスタンドと、
前記スタンドと前記弦楽器との間にあって、前記弦楽器を保持するための保持具と、
前記スタンドと前記保持具の間にあって、あるいは、前記保持具自身に備わるものとして、前記弦楽器の傾斜角度を任意に設定可能な傾斜角度設定手段と、
を有する弦楽器保持装置であって、
前記保持具が、前記弦楽器を保持するためのアームアセンブリと、
前記アームアセンブリの一端を前記弦楽器の一端に結合させるための第1保持部と、
前記アームアセンブリの他端を前記弦楽器の他端に結合させるための第2保持部と、
を有し、
前記アームアセンブリが略直線的に伸長する、あるいは一定の曲線的に伸長する、あるいは略直線的に伸長する2つ以上の部分とこれらの間に設けられた折り曲げ部を有するメインアームを有し、前記弦楽器の長手方向あるいは前記弦楽器の弦の伸長方向をX方向とし前記X方向を中心とする前記弦楽器の回転角度を設定する手段として前記メインアームの少なくとも一部の長手方向を中心として前記メインアームが回転する角度を設定し所望の角度に固定可能な手段を有し、
前記メインアームが回転する角度を設定し所望の角度に固定可能な手段が、前記メインアームの外周に回転可能に取り付けられた円筒部と、前記円筒部を前記メインアームに固定する回転角度固定手段の組み合わせである弦楽器保持装置。
【請求項2】
弦楽器の本体を空間において保持することが可能な弦楽器保持装置であって、
床に載置可能で、任意の高さまで伸長可能なポール部を有するスタンドと、
前記スタンドと前記弦楽器との間にあって、前記弦楽器を保持するための保持具と、
前記スタンドと前記保持具の間にあって、あるいは、前記保持具自身に備わるものとして、前記弦楽器の傾斜角度を任意に設定可能な傾斜角度設定手段と、
を有する弦楽器保持装置であって、
前記保持具が、前記弦楽器を保持するためのアームアセンブリと、
前記アームアセンブリの一端を前記弦楽器の一端に結合させるための第1保持部と、
前記アームアセンブリの他端を前記弦楽器の他端に結合させるための第2保持部と、
を有し、
前記アームアセンブリが略直線的に伸長する、あるいは一定の曲線的に伸長する、あるいは略直線的に伸長する2つ以上の部分とこれらの間に設けられた折り曲げ部を有するメインアームを有し、前記弦楽器の長手方向あるいは前記弦楽器の弦の伸長方向をX方向とし前記X方向を中心とする前記弦楽器の回転角度を設定する手段として前記メインアームの少なくとも一部の長手方向を中心として前記メインアームが回転する角度を設定し所望の角度に固定可能な手段を有し、
前記メインアームに係合し前記メインアームと平行に伸長し、前記スタンドに係合する部分を有するサブアームとを有し、前記サブアームと前記スタンドとを結合する結合部が、前記X方向に直交する方向を中心に前記弦楽器が回転する角度を制御して所望の角度に固定可能な手段を有する弦楽器保持装置。
【請求項3】
弦楽器の本体を空間において保持することが可能な弦楽器保持装置であって、
床に載置可能で、任意の高さまで伸長可能なポール部を有するスタンドと、
前記スタンドと前記弦楽器との間にあって、前記弦楽器を保持するための保持具と、
前記スタンドと前記保持具の間にあって、あるいは、前記保持具自身に備わるものとして、前記弦楽器の傾斜角度を任意に設定可能な傾斜角度設定手段と、
を有する弦楽器保持装置であって、
前記保持具が、前記弦楽器を保持するためのアームアセンブリと、
前記アームアセンブリの一端を前記弦楽器の一端に結合させるための第1保持部と、
前記アームアセンブリの他端を前記弦楽器の他端に結合させるための第2保持部と、
を有し、
前記第1保持部は、前記アームアセンブリに接続される部分と、前記弦楽器に取り付けられた少なくとも2本の棒状部材にそれぞれ係合し得る2つの凹部と、前記2つの凹部間に設けられた弾性部材であって、前記2つの凹部間の距離を変化することが可能なものとを有する弦楽器保持装置。
【請求項4】
前記スタンドは、高さの調整可能部を有する請求項1からのいずれか1つに記載の弦楽器保持装置。
【請求項5】
前記アームアセンブリは、木製である請求項1からのいずれか1つに記載の弦楽器保持装置。
【請求項6】
前記円筒部は、合成樹脂製である請求項1に記載の弦楽器保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器保持装置及び単数又は複数弦楽器の配置方法に関し、特に弦楽器励振装置を装着した弦楽器を空間に保持するのに適した弦楽器保持装置並びに弦楽器励振装置を装着した単数又は複数の弦楽器を配置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、弦楽器は、表板(胴板)と裏板及び側板とによって構成された響鳴胴を有し、表板には響穴(サウンドホール)が形成されている。また、弦楽器は、表板に板状のブリッジベース部材が接着剤によって固定されており、ブリッジベース部材上には弦を支持するために弦の長手方向と直交する方向に延在する駒(ブリッジ)が取り付けられている。
【0003】
かかる弦楽器を用いて、音源信号により振動する振動発生装置からの振動を弦楽器の各弦に伝達し、自動演奏する弦楽器励振装置が種々開発されている。従来の弦楽器励振装置としては、下記の特許文献1、特許文献2等に記載のものがある。
【0004】
かかる弦楽器励振装置を用いて単数又は複数の弦楽器を音源信号により駆動して自動演奏することが可能となる。例えば、弦楽四重奏の演奏では、2つのバイオリンと1つのビオラ、1つのチェロが用いられるが、これら4つの弦楽器中、チェロはその一部が床に接触して床上に載置されるが、他の3つの弦楽器は、通常の演奏では、空間において所定角度で保持される。また、チェロの場合は、その一部が床に接するが、所定角度で保持される。
【0005】
単数又は複数の弦楽器が所定の演奏者により演奏されたとき、その発生音を単数又は複数のマイクロフォンとこれに接続された録音機能を有する装置により収録し、収録された音源信号あるいは音源データを用いて弦楽器励振装置を駆動し単数又は複数の弦楽器にて自動再生する場合、単数又は複数の弦楽器のそれぞれの、保持角度を収録時の保持角度と同様に設定することにより収録時と同様の楽音の発生が可能となる。すなわち、収録時においては、演奏者は、弦楽器を保持する際、所定の習慣あるいは癖があり、ある演奏者と他の演奏者では、同じ種類の弦楽器であっても、保持角度が異なるのである。また、各演奏者の背丈が異なり、その演奏者の独特の弦楽器の構え方により、弦楽器自体の床からの高さも異なる。通常、収録に用いられる単数又は複数のマイクロフォンは、床から所定の高さに配されるので、収録時の弦楽器の高さ、すなわち、マイクロフォンの高さとの相対高さにより、収録音に影響がある。弦楽器の場合、弦の摩擦点から一様に音が空間に拡がる訳ではなく、ボディ(本体)の振動特性により音が放射される方向や強度が周波数に依存して変化することが報告されている(第60回自動制御連合会講演会(2017年11月10日~12日・東京)における愛知淑徳大学 牧 勝弘氏の「楽器演奏音の空間放射特性の計測:奏者の熟練度と名器の特徴」と題する発表の載っている予稿集参照)。
【0006】
特に四重奏の演奏のように、複数の弦楽器が用いられて収録される場合は各弦楽器の空間における配置位置、各弦楽器の床からの高さ、各弦楽器の傾斜角が重要になる。ここで、傾斜角とは、弦楽器の長手方向あるいは弦楽器の弦の伸長方向をX方向とし、弦楽器の複数の弦が並ぶ方向をY方向とし、X方向とY方向に垂直な方向をZ方向とするとき、X方向、Y方向、Z方法のうち、少なくとも1つの方向を中心として弦楽器が回転する傾斜角度を言うものとする。図24は、参考例として示すソロのバイオリン演奏者が立った状態でバイオリンを演奏している状態を示す写真である。また、図25は参考例として示す弦楽四重奏の4人の演奏者が座った状態でそれぞれの楽器を演奏している状態を示す写真である。さらに、図26は参考例として示す弦楽四重奏の4人の演奏者が座った状態でそれぞれの楽器を演奏している状態の他の例を示す写真である。図25図26とでは、チェロ奏者の位置とビオラ奏者の位置が異なっている。また、立って演奏する場合と座って演奏する場合では、楽器の床からの高さが当然異なることがわかる。また、各奏者は同じバイオリンであっても、それぞれ独特の構え、すなわち、X方向、Y方向、Z方法を中心とする所定の回転角度による傾斜、で演奏していることがわかる。
【0007】
このように、弦楽器励振装置を用いて弦楽器を駆動して自動再生する場合、弦楽器励振装置に供給する音源信号あるいは音源データを収録した際の弦楽器の傾斜角度を再現することが重要であり、収録時の弦楽器の床からの高さや、空間における配置も重要となる。さらに、複数の弦楽器を用いて自動再生する場合には、各弦楽器の傾斜角度、高さの他、空間における配置の再現が重要となる。
【0008】
したがって、本発明は自動再生時における弦楽器の空間における高さ、X方向、Y方向、Z方向のうち、少なくとも1つの方向を中心として弦楽器が回転する傾斜角度の少なくとも1つ以上を収録時と同様に設定可能とする弦楽器保持装置を提供することを1つの目的とする。また、本発明は自動再生時における単数又は複数の弦楽器の空間における配置を収録時と同様に設定可能とする単数又は複数弦楽器の配置方法を提供することを他の目的とする。なお、図24図26に示した弦楽器の配置や、構え方、複数弦楽器の場合の相互配置関係などは、一例、あるいは典型例であり、各演奏者は、演奏中、常にこの位置や構え方を維持しているとは限らず、むしろ、各演奏者の構え方は演奏中にダイナミックに変化する場合もある。したがって、本発明は、演奏の収録時にそのような標準的あるいは典型的な弦楽器の構え方から変化する場合があっても、そのような変化に自由に追従して再生時の弦楽器の傾斜角を設定することも目的の1つである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】特許第7098219号公報 図1図11 図14図23
【文献】特開2022-61728号公報 図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
演奏者による弦楽器の演奏を収録して作成した音源信号により振動装置を振動させて、その振動を弦楽器に伝達して自動演奏する構成は、従来から種々の手法が提案されているが、収録時に演奏者が弦楽器をどのような高さ、どのような傾斜角度、すなわち、第1の課題として、X方向、Y方向、Z方向のうち、少なくとも1つの方向を中心として弦楽器が回転する傾斜角度であったかを把握して、再生現場において、弦楽器の高さ、傾斜角度を収録時と同様に設定するという発想がなく、弦楽器を所定高さ、所定傾斜に保持するための構成の必要性は認識されていなかった。
【0011】
また、第2の課題として、自動再生時における単数又は複数の弦楽器の空間における配置を収録時と同様に設定可能とするという発想や必要性は認識されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記第1の課題を解決するため、弦楽器の本体を空間において保持する保持具と、床に載置可能で、任意の高さまで伸長可能なポール部を有するスタンドとを用い、スタンドと保持具の間にあって、あるいは、保持具自身に備わるものとして、弦楽器の傾斜角度を任意に設定可能な傾斜角度設定手段を有する構成とした。
【0013】
すなわち、本発明によれば、弦楽器の本体を空間において保持することが可能な弦楽器保持装置であって、床に載置可能で、任意の高さまで伸長可能なポール部を有するスタンドと、 前記スタンドと前記弦楽器との間にあって、前記弦楽器を保持するための保持具と、前記スタンドと前記保持具の間にあって、あるいは、前記保持具自身に備わるものとして、前記弦楽器の傾斜角度を任意に設定可能な傾斜角度設定手段と、を有する弦楽器保持装置であって、前記保持具が、前記弦楽器を保持するためのアームアセンブリと、前記アームアセンブリの一端を前記弦楽器の一端に結合させるための第1保持部と、前記アームアセンブリの他端を前記弦楽器の他端に結合させるための第2保持部と、を有し、前記アームアセンブリが略直線的に伸長する、あるいは一定の曲線的に伸長する、あるいは略直線的に伸長する2つ以上の部分とこれらの間に設けられた折り曲げ部を有するメインアームを有し、前記弦楽器の長手方向あるいは前記弦楽器の弦の伸長方向をX方向とし前記X方向を中心とする前記弦楽器の回転角度を設定する手段として前記メインアームの少なくとも一部の長手方向を中心として前記メインアームが回転する角度を設定し所望の角度に固定可能な手段を有し、前記メインアームが回転する角度を設定し所望の角度に固定可能な手段が、前記メインアームの外周に回転可能に取り付けられた円筒部と、前記円筒部を前記メインアームに固定する回転角度固定手段の組み合わせである弦楽器保持装置が提供される。
また、本発明によれば、弦楽器の本体を空間において保持することが可能な弦楽器保持装置であって、床に載置可能で、任意の高さまで伸長可能なポール部を有するスタンドと、前記スタンドと前記弦楽器との間にあって、前記弦楽器を保持するための保持具と、前記スタンドと前記保持具の間にあって、あるいは、前記保持具自身に備わるものとして、前記弦楽器の傾斜角度を任意に設定可能な傾斜角度設定手段と、を有する弦楽器保持装置であって、前記保持具が、前記弦楽器を保持するためのアームアセンブリと、前記アームアセンブリの一端を前記弦楽器の一端に結合させるための第1保持部と、前記アームアセンブリの他端を前記弦楽器の他端に結合させるための第2保持部と、を有し、 前記アームアセンブリが略直線的に伸長する、あるいは一定の曲線的に伸長する、あるいは略直線的に伸長する2つ以上の部分とこれらの間に設けられた折り曲げ部を有するメインアームを有し、前記弦楽器の長手方向あるいは前記弦楽器の弦の伸長方向をX方向とし前記X方向を中心とする前記弦楽器の回転角度を設定する手段として前記メインアームの少なくとも一部の長手方向を中心として前記メインアームが回転する角度を設定し所望の角度に固定可能な手段を有し、前記メインアームに係合し前記メインアームと平行に伸長し、前記スタンドに係合する部分を有するサブアームとを有し、前記サブアームと前記スタンドとを結合する結合部が、前記X方向に直交する方向を中心に前記弦楽器が回転する角度を制御して所望の角度に固定可能な手段を有する弦楽器保持装置が提供される
【0015】
また本発明は、上記第2の課題を解決するため、すなわち、自動再生時における単数又は複数の弦楽器の空間における配置を収録時と同様に設定可能とするため、収録した楽音の音源信号/音源データを用いて弦楽器励振装置により再生現場における単数又は複数の弦楽器を駆動して再生する場合の、再生現場における単数又は複数の弦楽器を収録時の演奏者により演奏された弦楽器の3次元空間における配置位置と同様な配置位置に配する構成とした。
【0016】
すなわち、第2の課題を解決する本発明によれば、単数又は複数の弦楽器の配置方法であって、単数又は複数の弦楽器が演奏者により演奏されたときの楽音の音源信号/音源データを収録し、収録した楽音の音源信号/音源データを用いて弦楽器励振装置により再生現場における単数又は複数の弦楽器を駆動して再生する場合の、再生現場における単数又は複数の弦楽器を収録時の演奏者により演奏された弦楽器の3次元空間における配置位置と同様な配置位置に配する単数又は複数の弦楽器の配置方法が提供される。
【0017】
なお、前記再生現場における前記弦楽器の3次元空間における配置位置が、収録時の前記単数又は複数の弦楽器の位置を示す座標情報を用いて決定されることは第2の課題を解決する本発明の好ましい態様である。さらに、再生現場における弦楽器の高さと、弦楽器が回転する傾斜角度を第1の課題を解決する本発明の弦楽器保持装置により設定することは第2の課題を解決する本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0018】
第1の課題を解決する本発明によれば、各種弦楽器を任意の高さと傾斜角度で保持することができ、弦楽器励振装置により自動演奏する際に、収録時の弦楽器の傾斜角度を再現して弦楽器を保持することができる。また、本発明によれば、着脱が容易であり、着脱時間は短く容易に弦楽器を空間内に保持したり、保持状態を解除することができる。さらに本発明によれば、再生時の弦楽器の高さや傾斜角度が収録時の弦楽器の高さや、傾斜角度、すなわち構え方、が同様に設定された状態で音響が発生されるので、視聴効果も加わって、生演奏の臨場感を聴取者に与えることができる。
【0019】
また第2の課題を解決する本発明によれば、自動再生時における単数又は複数の弦楽器の空間における配置を収録時と同様に設定可能とするため、収録した楽音の音源信号/音源データを用いて弦楽器励振装置により再生現場における単数又は複数の弦楽器を駆動して再生する場合の、再生現場における単数又は複数の弦楽器を収録時の演奏者により演奏された弦楽器の3次元空間における配置位置と同様な配置位置に配することが可能である。さらに本発明によれば、再生時の弦楽器の高さや傾斜角度、複数の弦楽器の場合、それらの相互配置関係が収録時の弦楽器の高さや、傾斜角度、すなわち構え方、楽器相互の配置関係が同様に設定された状態で音響が発生されるので、視聴効果も加わって、生演奏の臨場感を聴取者に与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の弦楽器保持装置の第1の実施の形態により弦楽器を支持している状態を示す右側面図である。
図2A図1に示す第1の実施の形態中の保持具の一部と改良型雲台とスタンドのみを示す部分断面図を含む斜視図である。
図2B図2A中に示した改良型雲台の他の例を示す斜視図である。
図3図1に示す第1の実施の形態中の保持具のみを示す斜視図である。
図4図1に示す第1の実施の形態中の保持具のみを示す分解斜視図である。
図5図3図4に示す第1の実施の形態中の保持具の第1保持部のみを示す背面図である。
図6図3図4に示す第1の実施の形態中の保持具の第1保持部のみを示す上面図である。
図7図3図4に示す第1の実施の形態中の保持具の第1保持部のみを示す右側面図である。
図8図3図4に示す第1の実施の形態中の保持具の第1保持部のみを示す上面図であり、楽器に取り付ける直前の状態を示す図である
図9図3図4に示す第1の実施の形態中の保持具の第1保持部のみを示す上面図であり、楽器に取り付けられた状態を示す図である
図10図3図4に示す第1の実施の形態中の保持具の第2保持部のみを示す背面図である。
図11図3図4に示す第1の実施の形態中の保持具の第2保持部とアームの係合状態を示す右側面図である。
図12】本発明の弦楽器保持装置の第2の実施の形態により弦楽器を支持している状態を示す右側面図である。
図13図12に示す第2の実施の形態中の保持具のみを示す斜視図である。
図14図12に示す第2の実施の形態中の保持具のみを示す分解斜視図である。
図15図12図14に示す第2の実施の形態中の保持具のアームアセンブリの一部とスイング型スタンドが係合する前の状態を示す部分斜視図である。
図16図12図14に示す第2の実施の形態中の保持具のアームアセンブリの一部である円筒部の一例を示す右側面図である。
図17図16に示す円筒部のXVII―XVIIで切断した断面図である。
図18図12図14に示す第2の実施の形態中の保持具のアームアセンブリの一部である円筒部の他の例を示す右側面図である。
図19図18に示す円筒部のXIX―XIXで切断した断面図である。
図20図12図14に示す第2の実施の形態中の保持具のアームアセンブリの一部である円筒部のさらに他の例を示す右側面図である。
図21図20に示す円筒部のXXI―XXIで切断した断面図である。
図22】本発明の第1の実施の形態と第2の実施の形態における第1保持部が取り付けられるバイオリンの顎あてを示す背面図である。
図23】本発明の第1の実施の形態における改良型雲台の一部である従来の雲台を示す正面図である。
図24】バイオリンを一人の奏者が演奏している状態の一例を示す参考写真である。
図25】弦楽四重奏の演奏状態の一例を示す参考写真である。
図26】弦楽四重奏の演奏状態の他の例を示す参考写真である。
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態により弦楽器であるバイオリン10を略水平に保持している様子を示す側面図である。ここでは、弦楽器10としてバイオリンを示しているが、ビオラであってもよく、その他の類似の弦楽器であってもよい。バイオリン10は、その本体12とネック14と本体12に取り付け具18A、18B(図22参照)により取り付けられた顎あて16とを有する。本明細書及び図面において、楽器をネック側から見た図を正面図、テールピース側から見た図を背面図とし、ネック側から見た正面図の右側から見た図を右側面図とし、正面図の左側から見た図を左側面図とする。
【0022】
弦楽器であるバイオリン10の本体12は、保持具20により保持されている。保持具20は、アームアセンブリ20A(図4参照)と、第1保持部28と第2保持部29とを有する。アームアセンブリ20Aは、アーム22と、アーム22の長手方向略中央にアーム22に回転可能に取り付けられた円筒部26と、円筒部26の下方に固定された取り付けネジ部27とを有する。第1保持部28はアーム22の後端に取り付けられ、第2保持部29はアーム21の前端に取り付けられている。
【0023】
保持具20は、図示省略の床などに載置されるスタンド30により支持され、空間に位置することとなる。スタンド30は、「ストレートスタンド」と言われるものであるが、本明細書では、単に「スタンド」とも言う。スタンド30は、床などに載置される台座32と、台座32の中央に固定され、上方に伸長する第1パイプ34と、第1パイプ34の上端近傍に取り付けられた伸縮調整部38と、伸縮調整部38から上方に伸長する第2パイプ36と、第2パイプ36の上端に取り付けられた取り付けネジ部36Aとを有する(図2A参照)。取り付けネジ部36Aの上端には改良型雲台39Aが取り付けられている。なお、スタンド30の取り付けネジ部36A(オスネジ)と後述の雲台39の底部に設けられた図示省略の三脚固定用ネジ部(メスネジ)のサイズや、規格が合わない場合は、図示省略の変換ネジ部を用いることができる。
【0024】
図2Aは、図1に示す第1の実施の形態中のアームアセンブリ20Aの一部とスタンド30と、アームアセンブリ20Aとスタンド30の間に設けられた改良型雲台39Aのみを示す分解斜視図である。ここで改良型雲台39Aについて説明する。雲台39自体は、カメラ用として従来から販売、使用されているものであり、ここで使用するのは、「ボール式自由雲台」や「マイクロボール雲台」と言われるものであるが、本明細書では、単に「雲台」と言う。雲台の形状は、メーカー毎に異なるが、ここでは1つの代表的な例で説明する。雲台39は、図23に示されるように、基部39-1と基部39-1内部に自由に回転可能な図示省略の球部(マイクロボール)と、基部39-1に取り付けられた球部固定ネジ39-2と、球部固定ネジ39-2のつまみ部39-3と、球部の一部に取り付けられ上方に伸長するオスネジ部39-4と、オスネジ部39-4に取り付けられた固定用環状部39-5とを有する。球部は、基部39-1内部に設けられた図示省略の球部保持部内で自由に回転可能であるが、つまみ部39-3を操作者が操作して、球部固定ネジ39-2を右方向に回転させると、球部保持部が球部を回転不可能として固定する。一方、球部固定ネジ39-2を左方向に回転させると、球部保持部が球部を回転可能とする。固定用環状部39-5は、オスネジ部39-4に螺合する図示省略のメスネジを有し、その回転により雲台39が支持するカメラその他の光学機器のメスネジに螺合されるオスネジ部39-4を光学機器側に押圧して固定させるものである。
【0025】
なお、基部39-1の上部の口径が下部より小さい部分の図中左側には、所定幅の切り込みがあり、オスネジ部39-4が図中左側に倒れるように操作された場合、オスネジ部39-4が図示されている上方への伸長状態から左へ45度回転された状態とすることができる。また、球部固定ネジ39-2を左方向に回転して、球部が自由に回転可能な状態では、オスネジ部39-4は、基部39-1に対して、360度の回転が可能であるとともに、自由に傾斜することができる。すなわち、弦楽器10の長手方向あるいは弦楽器10の弦の伸長方向をX方向とし、弦楽器10の複数の弦が並ぶ方向をY方向とし、X方向とY方向に垂直な方向をZ方向とするとき、雲台39によりX方向、Y方向、Z方法のすべての方向を中心として弦楽器10が回転する傾斜角度を設定可能である。基部39-1の底部には、図示省略のメスネジが設けられている。
【0026】
かかる従来からの雲台39を改良して改良型雲台39Aとして利用するのである。改良型雲台39Aでは、固定用環状部39-5は使用しないので、予め取り外しておく。本発明の改良型雲台39Aでは、図2Aに示すように、基部39-1の上部の口径が下部より小さい部分とその上部のオスネジ部39-4の一部を覆うように弾性カバー部39A7が設けられている。図2A中、改良型雲台39Aの一部は、内部構造を示すため、部分断面図として示されている。なお、オスネジ部39-4の露出部の下方の一部の周囲には、筒部39A6が設けられ、弾性カバー部39A7は、筒部39A6の外周を覆う構成となっている。弾性カバー部39A7は次のように機能する。すなわち、改良型雲台39Aの球部が自由に回転可能な状態では、上部に支持している保持具20や保持具20が保持している弦楽器10が不用意及び/又は急激にいずれかの方向に回転し、その回転の勢いで、弦楽器10に衝撃が加えられたり、最悪の場合、弦楽器10が保持具20から外れて落下することもあり得る。そこで、そのような不用意なあるいは急激な回転を防止するため、傾斜角度の急激な変化を防止する手段として機能する弾性カバー部39A7が設けられている。
【0027】
すなわち、弾性カバー部39A7は、その下部が基部39-1の口径の小さい部分を覆うとともに、接着材により、固定されていて、上部が筒部39A6の外周を覆うとともに接着材により、固定されており、筒部39A6の内周は、オスネジ部39-4の一部を覆うとともに固定されていて、オスネジ部39-4が急激に傾斜することを、弾性カバー部39A7の弾性力により防止している。弾性カバー部39A7は、ゴム又はシリコンラバー製であり厚さが1mm程度であり、さらにその形状は、筒部39A6の外周と基部39-1の上部の口径が下部より小さい部分を覆うように、筒状の形状であり、そのサイズは、弾性カバー部39A7の内径が筒部39A6の外形と同じか、筒部39A6の外形より小さく設定されている。
【0028】
図2Bは、図2A中に示した改良型雲台39Aの他の例39Bを示す斜視図である。図2Bの改良型雲台39Bは、図2A中に示した改良型雲台39Aと次の点で異なる。すなわち、改良型雲台39Bは、図23に示した従来の雲台39の固定用環状部39-5を利用するものであり、図2Aに示した弾性カバー部39A7に代えて、固定用環状部39-5の外周部から、基部39-1の口径の小さい部分までを覆う弾性カバー部39B7を用いるものである。改良型雲台39Bでは、弾性カバー部39B7が固定用環状部39-5の外周部に固定されるので、改良型雲台39Aのように筒部39A6を用いる必要がない。なお、弾性カバー部39B7の内径は、弾性カバー部39B7が覆う部分中、最も外形の小さい部分に合わせて設計される。第1の実施の形態では、球部を有する雲台を改良して用いているが、他の形式の雲台を使用することもできるし、様々な形式の雲台付き三脚を第1の実施の形態における改良型雲台とスタンドの組み合わせの代わりに使用することもできる。
【0029】
後述する図3図4に全体像が示される保持具20は、次のようにスタンド30に接続される。すなわち、アームアセンブリ20A(図4参照)のネジ受け部27は、中央内部にその下部から上方に伸長する、図示省略のメスネジを有し、改良型雲台39Aのオススネジ部39A-4と螺合している。第1パイプ34の上端近傍に取り付けられた伸縮調整部38は、第1パイプ34と第2パイプ36に対して回転可能であり、一定方向への回転により、第2パイプは36は第1パイプ34に対して上下に移動可能な緩め状態となり、上記一定方向の逆方向への回転により、第2パイプ36は第1パイプ34に対して上下に移動不可能で固定状態となる締め状態となる。この伸縮調整部38を操作することにより、保持具20の取り付けネジ部27の床からの高さが調整可能となり、保持具20が弦楽器であるバイオリン10の本体12を支持した状態では、バイオリン10の床からの高さを自在に調整可能となる。すなわち、第1パイプ34と第2パイプ36と伸縮調整部38との組み合わせが、伸長可能なポール部を構成している。
【0030】
第1の実施の形態では、改良型雲台39A、39Bと、スタンド30の組み合わせが用いられているが、この組み合わせに代えてカメラ用あるいはその他の光学機器用雲台付き三脚を用いることができる。
【0031】
ここでバイオリン10の床からの高さとは、便宜上顎あて16の上面の高さとする。したがって、例えば、身長178cmの演奏者が床に立った状態では、演奏者の顎の下部が床からの高さが160cmであるとすると、バイオリン10の床からの高さは、160cmということとなる。演奏者は、個々人身長と顎の下部の床からの高さが異なるので、収録時の各演奏者が演奏する弦楽器の高さ、すなわちここでは、顎あて16の上面の高さを予め把握することは、後の自動再生時における弦楽器10の高さの設定に有用である。なお、収録時の各演奏者の弦楽器の高さを実測することは困難である場合が多いと考えられるが、そのような場合は、各演奏者の身長の情報を取得したり、収録時の写真や動画などがある場合は、それらを利用して推定することとなる。なお、前述の図25図26で示したように、演奏者が座って演奏する場合、バイオリン10の床からの高さは、立っているときより、数十センチ低くなり、例えば110cmとなる。収録時の情報が入手困難な場合には、例えば弦楽四重奏であれば、その典型的な配置を用いることもできる。
【0032】
図3は、図1に示す第1の実施の形態中の保持具20のみを示す斜視図であり、図4は、図1図3に示す保持具20のみを示す分解斜視図である。アーム22は、図3図4の円筒部26の右端近傍でやや折れ曲がっていて、全体としては、第1保持部28側の図中左端から円筒部26の右端まで直線的に伸長し、円筒部26の右端から第2保持部29側の図中右端までが図中上方にやや持ち上がるように折れ曲がっている。この折曲がりは、第2保持部29が弦楽器10のネック14から離隔せず、ネック14の近傍に位置するためである。
【0033】
次に第1保持部28について説明する。第1保持部28は、アーム22の一端を図1図12図22に示す顎あて16の取り付け具18A、18Bを利用して弦楽器本体12に着脱可能に接続、固定するものである。一方、第2保持部29は、アーム22の一端を図1に示すネック14に着脱可能に接続、固定するものである。ここで第1保持部28の構造と動作について説明する。図5は、第1保持部28の背面図であり、図6は、第1保持部28の上面図であり、図7は、第1保持部28とアーム22の左端との係合状態を示す左側面図である。第1保持部28は、アーム22の左端に接続固定される本体部28Dと、本体部28Dの上端に接続される弾性部材部28Aと、弾性部材部28Aの左右両端に接続された板状部28B1、28B2、28C1、28C2を有し、板状部28B1、28B2は相互に対向し、板状部28C1、28C2も相互に対向する。この構成により、弾性部材部28Aの左右端に2つの対向部によりそれぞれ構成される2つの凹部28G1、28G2は、図22に示す顎あて16の取り付け具18A、18Bに係合するためのものである。なお、本体部28Dと弾性部材部28Aとは、図5中点線で示す2本のピン28E1、28E2により相互に接続されている。すなわち、2本のピン28E1、28E2は、それらの長手方向の略4分の1が本体部28Dに予め埋め込まれて固定されていて、露出している残り略4分の3が相互接続時に弾性部材部28Aに挿入される。
【0034】
本体部28Dは弾性部材部28Aの下方に位置し、図7に示すように本体部28Dの下方に厚さ方向に貫通する孔28D5が設けられ、この孔28D5を介してネジ28D4が本体部28Dを貫通してアーム22の左端に螺合している。すなわち、本体部28Dは、ネジ28D4がアーム22の左端に設けられたメネジ22-2に螺合されていることにより、アーム22に固定されているのである。ネジ28D4のネジ頭は、28D1で示され、ネジ28D4は、位置決め用ピン28D3の固定ベース28D2の中心孔を貫通している。なお、位置決め用ピン28D3の固定ベース28D2から、位置決め用ピン28D3が図7中右方向に伸長している。位置決め用ピン28D3は、アーム22の左端に設けられたピン受け孔22-1に挿入されることとなる。
【0035】
図8図9は、第1保持部28の顎あて16の取り付け具18A、18Bへの着脱方法を示す図である。操作者が、例えば右手の親指と人指し指で第1保持部28の左右端を保持して、圧縮力を加えると、弾性部材部28Aの略中央部を中心に「く」の字状に折曲がり、第1保持部28の左右端の間隔が短くなる。この間隔が十分に短くなると、板状部28B1、28B2、28C1、28C2で構成される凹部28G1、28G2が顎あて16の取り付け具18A、18Bに係合可能な位置に運び、ここで圧縮力を解除すると、凹部28G1、28G2が顎あて16の取り付け具18A、18Bに係合し、第1保持部28が取り付け具18A、18Bに保持される。第1保持部28を顎あて16の取り付け具18A、18Bから取り外すときは、上記同様に操作者が、例えば右手の親指と人指し指で第1保持部28の左右端を保持して、圧縮力を加えると、弾性部材部28Aの略中央部を中心に「く」の字状に折曲がり、第1保持部28の左右端の間隔が短くなる。この間隔が十分に短くなることにより、凹部28G1、28G2が顎あて16の取り付け具18A、18Bから離脱される。
【0036】
第2保持部29は、図3図4に示すように、アーム22の右端に接続固定される本体部29Aと、本体部29Aの図中左上部から伸長する円弧状接続アーム29Cとを有する。図10は、第2保持部29の背面図であり、図11は、第2保持部29とアーム22の係合状態を示す右側面図である。本体部29Aは、ゴム又はシリコンラバー製であり、円弧状接続アーム29Cは、厚さが薄い板状の部材が円弧状に伸長する合成樹脂製のものであり、可撓性を有している。アーム22の図中右端は、本体部29Aに設けられた孔29B嵌合して固定される。本体部29Aの図中右側面の上部には、永久磁石片29Dが固定され、一方、円弧状接続アーム29Cの先端近傍の内側には、永久磁石片29Eが固定されている。
【0037】
アーム22を弦楽器本体12に取り付ける前は、永久磁石片29Eは、永久磁石片29Dから離れていて、円弧状接続アーム29Cは開放状態にある。第2保持部29によりアーム22の右端がネック14に取り付けられるときは、円弧状接続アーム29Cがネック14を一周するように配し、その後、永久磁石片29Eを永久磁石片29Dに近づけ、両者が磁力で接続されるようにする。逆に取り外し時は、永久磁石片29Eを、永久磁石片29Dから引き離すように指などで操作する。このように円弧状接続アーム29Cは、永久磁石片29E、29D同士の着脱により、閉鎖状態と開放状態をとることができる。すなわち、円弧状接続アーム29Cは開閉可能であり、閉状態でネック14を閉ループで囲うものである。
【0038】
ここで本発明の弦楽器保持装置を構成する各部の材質について説明する。保持具20のアームアセンブリ20Aを構成するアーム22は、木材でできている。木材を使用した理由は、デリケートな弦楽器10に損傷を与えないためである。仮に金属や硬質合成樹脂を用いた場合は、アーム22の表面を柔らかい布や革、合成樹脂シートなどで被うことができる。アーム22の略中央に配された円筒部26は、硬質合成樹脂製であるが、その表面を柔らかい布や革、合成樹脂シートなどで被うことができる。第1保持部28の板状部28B1、28B2、28C1、28C2は、硬質合成樹脂により構成される。第1保持部28の本体部28Dは、弾性部材部28Aと同様に弾性部材で構成することができる。弾性部材部28A及び本体部28Dは、ゴム又はシリコンラバーで構成することができる。
【0039】
本発明の第1の実施の形態は次のように使用される。第1の実施の形態としての本発明の弦楽器保持装置がバイオリンを保持する場合を例にとり、説明する。図1に示したように、スタンド30が床に載置され、スタンド30の上部には改良型雲台39Aを介して保持具20が支持される、このとき、雲台39Aのつまみ39-3を操作して、図2Aに示すオスネジ部39-4の長手方向が略鉛直状態、すなわち、スタンド30の長手方向と平行状態、となって固定されるようにする。この状態で、バイオリン10を保持具20の第1の保持部28と第2の保持部29により空間に保持する。
【0040】
この状態で、バイオリン10の空間における配置、すなわち位置決めが行われる。今、バイオリン10が図25に示す図中左端の第1バイオリンであるとすると、他の楽器との配置関係を考慮して、図25に示す左端のバイオリン演奏者の顎の下の位置の3次元座標情報である、XYZ座標を把握し、この情報を用いてバイオリン10の顎あて16の空間における位置決めを行う。なお、ここで言う3次元座標情報とは、絶対的なものでなくともよく、複数の弦楽器の相互位置関係を把握する程度の相対的座標情報でもよい。この位置決めのため、スタンド30の床上の位置が選定され、次いでスタンド30の高さ調整機能を用いて、顎あて16の上部の高さを設定する。なお、スタンド30の床上の位置決めと高さ調整の順序は逆でも良い。次いで、改良型雲台39Aのつまみ39-3を操作して、バイオリン10の本体12の傾斜角を調整して、図25に示す収録時と同様に設定する。すなわち、つまみ39-3を操作して改良型雲台39Aの球部が自由に回転可能な状態とし、バイオリン10の本体12の傾斜角、Z軸を中心とする回転角度を調整する。なお、バイオリン10の本体12の傾斜角、Z軸を中心とする回転角度の設定は、前述のスタンド30の床上の位置決めや高さ調整の前に行うこともできる。
【0041】
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。図12は、第2の実施の形態を示す右側面図である。第2の実施の形態と第1の実施の形態との共通部分は同一参照符号を付し、その説明を省略する。第1の実施の形態における保持具20に対応するものとして、第2の実施の形態では、保持具21が用いられ、保持具21は、アームアセンブリ21A(図14参照)と、アームアセンブリ21Aの構成要素の一つであるメインアーム22と、その両端にそれぞれ取り付けられた第1保持部28と、第2保持部29とを有する。アームアセンブリ21Aはスタンド30Aにより空間に保持される。
【0042】
図13は、保持具21のみを示す斜視図であり、図14は、保持具21のみを示す分解斜視図である。保持具21のアームアセンブリ21Aは、メインアーム22と、メインアーム22の下方にメインアーム22の一部と略平行に位置するサブアーム23と、メインアーム22とサブアーム23とを結合させるための結合部を構成する第1円筒部26Xと、第2円筒部25と、第1円筒部26Xと第2円筒部25とを相互接続する接続部27Aとを有する。メインアーム22は、第1の実施の形態におけるアーム22と同一の構成であるが、名称のみ変更している。第1円筒部26Xは、後述するように、メインアーム22に対して回転可能であり、所定の回転角度で固定されるよう構成されている。この回転角度の調整・固定機能については後述する。サブアーム23がスタンド30Aにより支持されるのであるが、その構成については後述する。第1円筒部26Xと接続部27Aと第2円筒部25とは、相互に接着剤により接続固定されている。したがって、第1円筒部26Xがメインアーム22に対して回転するとき、第1円筒部26Xに接続部27Aを介して接続されている第2円筒部25も回転することとなる。第2円筒部25の内周は、サブアーム23の外周に接着固定されているので、第2円筒部25の回転により、サブアーム23がアーム22の軸を中心に回転することとなる。
【0043】
図15は、第2の実施の形態中の保持具21のアームアセンブリ21Aの一部とスイング型スタンド30Aが係合する前の状態を示す部分斜視図である。スイング型スタンド30Aは、便宜上スタンド30Aと言う。アームアセンブリ21Aのサブアーム23は、図中矢印付点線で示されるように、スタンド30Aの上部のサブアームホルダー37の貫通孔37Aに挿入される。サブアームホルダー37には、締めネジ37Bがあり、サブアーム23が貫通孔37Aに挿入された状態で、締めネジ37Bを締めると、サブアーム23が貫通孔37Aに固定される。サブアームホルダーの下部には、スタンド接続部37Eとしての2枚の板部があり、その間の空間には、スタンド30Aの上部の図示省略の板部が挟み込まれている。スタンド接続部37Eとしての2枚の板部に挟み込まれたスタンドの板部は、図12に示した締めネジ37Dを締めることにより、固定され、よって、サブアームホルダー37は、スタンド30Aに対して固定される。図15中、符号37Cで示されるのは、図12に示した締めネジ37Dの反対側のネジ留め部である。
【0044】
第1円筒部26Xは、メインアーム22に対して回転可能であるが、第1円筒部26Xの内周は、メインアーム22の外周に対して所定の摩擦係数を以て係合している。かかる摩擦係数を以て係合させるため、第1円筒部26Xの内周とメインアーム22の外周の間に図示省略の薄い厚さの布製などのテープが介在される。また、第1円筒部26Xは、メインアーム22をその長手方向軸を中心に回転させ、よって、弦楽器10の左右傾斜角、すなわち、X軸を中心とする回転角度を設定するものであり、種々の手法がある。
【0045】
図16図21は、この回転角度を設定するための3種類の手法を示す図である。図13図14に符号26Xで示された第1円筒部の3つの態様がそれぞれ、符号26A、26B、26Cで示されている。図16は、メインアーム22の一部とそれに取り付けられた第1円筒部26Aを示す側面図であり、図17は、図16中の線XVII―XVIIで切断された断面図である。後述する図18図20において、内部構造は点線で示さる場合がある。第1円筒部26Aには、3段階に調整可能な切込部26A1が設けられ、回転角度を任意の3段階(図示の例では、0度、30度、45度)に設定可能である。すなわち、図17に示すようにピン26A2の先端は、メインアーム22の貫通孔22Aに接着固定されていて、ピン26A2の略中央部は、図中0度の切込部26A1の貫通孔に挿し込まれている場合、傾斜角度が0度に設定される。この状態から、例えば、傾斜角度を30度に変更する場合は、固定されている第1円筒部26Aに対して、メインアーム22を図16中右方向に移動させ、ピン26A2の略中央部が切込部26A1の図16中の上下方向に伸長する部分に位置するようにし、その後、メインアーム22を回転させて、図16中、「30」と表示されている切込部26A1の一部である図中左右方向に伸長する部分の右端まで持ってくる。次に、メインアーム22を図中左方向に移動させる。このように、固定されている第1円筒部26Aに対してメインアーム22を左右方向と回転方向の操作を行うことにより、所望の傾斜角度に設定可能である。
【0046】
図18は、メインアーム22の一部とそれに取り付けられた第1円筒部26Bを示す側面図であり、図19は、図18中の線XIX―XIXで切断された断面図である。第1円筒部26Bには、1つの貫通孔26B1が設けられ、メインアーム22の外周近傍には、3段階に調整可能な3つの窪み22B1、22B2、22B3が設けられ、回転角度を任意の3段階(図示の例では、0度、30度、45度)に設定可能である。すなわち、ネジ26B3がメインアーム22の貫通孔26B1を介して図中0度の窪み22B1に挿し込まれると、所望の角度(この場合0度)に設定固定される。ネジ26B3のネジ頭は符号26B2で示される。なお図18では貫通孔26B1と窪み22B1は、重なって示されている。
【0047】
図20は、メインアーム22の一部とそれに取り付けられた第1円筒部26Cを示す側面図であり、図21は、図20中の線XXI―XXIで切断された断面図である。第1円筒部26Cには、無段階に調整可能な1つの貫通孔26C1が設けられ、回転角度を任意に設定可能である。すなわち、ネジ26C3が貫通孔26C1を介してメインアーム22の外周に設けられた窪み22C3に挿し込まれてねじ止めされると、すなわちネジ26C3が締め込まれてその先端がメインアーム22の窪み22C3の底部に押圧されると、所望の角度に設定固定される。ネジ26C3のネジ頭は符号26C2で示される。
【0048】
第2の実施の形態は、次のように使用される。第1の実施の形態と共通部分は省略し、異なる点を中心に説明する。弦楽器10が保持具21のアームアセンブリ21Aに支持され、かつアームアセンブリ21Aがスタンド30Aに支持された状態でスタンド30Aの台座32を適切な位置に位置決めする(XY座標の設定)。このとき、弦楽器10の左右の向き、再生現場の左右方向に対する弦楽器の長手方向の傾斜も調整される。次いで、スタンド30の伸縮調整部38を操作して、弦楽器10の顎あて16の高さを設定する(Z座標の設定)。その後、スタンド30Aの締めネジ37Dを操作し、サブアームホルダー37のスタンド30Aの中心軸に対する傾斜角、すなわち、弦楽器の前後傾斜角を制御・設定する。その後、第1円筒部26Xを適宜回転させて、左右傾斜角を制御・設定する。このようにして、収録時の弦楽器10の向き、位置、高さ、3種類の軸を中心とする傾斜角が制御・設定され、収録時のそれらが再現される。複数の楽器がある場合は、楽器相互の配置関係も加味される。
【0049】
上記各実施の形態では、保持具を支持するためにスタンドを使用していたが、従来のマイクスタンドなどを転用したり、これらを改良して強度を高めることもできるが、スタンドに代えて、カメラその他の光学機器用三脚を用いることができる。特に高額な弦楽器を安全に空間に保持するためには、強度の十分な三脚を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の弦楽器保持装置は、弦楽器を音源信号により振動する装置により、駆動して自動演奏させる場合に、各種弦楽器をあたかも収録時と同様な高さや傾斜角度で空間に保持することができるので、生演奏と同様な再生環境を提供することができるので、弦楽器を用いた演奏を含む各種音楽提供業、弦楽器を用いた映画上映業、弦楽器を用いた演劇、バレー、その他の公演業、並びに弦楽器を用いた音楽再生のための音源装置、弦楽器励振装置、その一部である振動伝達部、それらを含む弦楽器励振システムの設計、製造、販売、取付業を含む各種産業に有用である。
【符号の説明】
【0051】
10 弦楽器(バイオリン)
12 弦楽器本体
14 ネック
16 顎あて
18A、18B (顎あての)取り付け具
20、21 保持具
20A、21A アームアセンブリ
22 アーム(メインアーム)
22B1、22B2、22B3 窪み
22-1 ピン受け孔
22-2 メネジ
22C3 窪み
23 サブアーム
25 第2円筒部
26A、26B、26C、26X 第1円筒部
26A1 切込部
26A2 ピン
26B2 ネジ頭
26C1 貫通孔
26C2 ネジ頭
26C3 ネジ
27 取り付けネジ部
27A 接続部
27B 結合部
28 第1保持部
28A 弾性部材部
28B1、28B2、28C1、28C2 板状部
28D 本体部
28D1 ネジ頭
28D2 固定ベース
28D3 位置決め用ピン
28D4 ネジ
28D5 孔
28E ネジ
28E1、28E2 ピン
28G1、28G2 凹部
29 第2保持部
29B 孔
29C 円弧状接続アーム
29D、29E 永久磁石片
30 スタンド(ストレートスタンド)
30A スタンド(スイング型スタンド)
32 台座
34 第1パイプ
36 第2パイプ
36A 取り付けネジ部
37 サブアームホルダー
37A 貫通孔
37B、37D 締めネジ
37C ネジ留め部
37E スタンド接続部
38 伸縮調整部
39 雲台
39-1 基部
39-2 球部固定ネジ
39-3 つまみ部
39-4 オスネジ部
39-5 固定用環状部
39A、39B 改良型雲台
39A6 筒部
39A7、39B7 弾性カバー部
【要約】
【課題】自動再生時における弦楽器の空間における高さ、X方向、Y方向、Z方向を中心として弦楽器が回転する傾斜角度を収録時と同様に設定可能とする弦楽器保持装置を提供する。また、単数又は複数の弦楽器の空間における配置を収録時と同様に設定可能とする単数又は複数弦楽器の配置方法を提供する
【解決手段】弦楽器の本体12を空間において保持する保持具20と、スタンド30とを用い、スタンドと保持具の間にあって、あるいは、保持具自身に備わるものとして、弦楽器の傾斜角度を任意に設定可能な傾斜角度設定手段を有する構成とした。また、収録した楽音の音源信号/音源データを用いて弦楽器励振装置により再生現場における単数又は複数の弦楽器を駆動して再生する場合の、単数又は複数の弦楽器を収録時の演奏者により演奏された弦楽器の3次元空間における配置位置と同様な配置位置に配する構成とした。
【選択図】図1
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26