(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】カルシウム系無機質基材着色用組成物およびそれを用いたカルシウム系無機質基材の着色方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/61 20060101AFI20240710BHJP
【FI】
C04B41/61
(21)【出願番号】P 2023219566
(22)【出願日】2023-12-26
【審査請求日】2024-01-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598160889
【氏名又は名称】AFJ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】小川 久
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-060566(JP,A)
【文献】特開2001-254054(JP,A)
【文献】特開2002-282781(JP,A)
【文献】特開平06-100812(JP,A)
【文献】特開昭63-107503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/45-41/72,
C09D 7/00-7/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム系無機質基材
への含浸により着色
するための組成物であって、
染料、水、アルコール、および顔料を含有し、
該顔料の含有量が、該組成物の全体質量100質量部に対して0.2質量部~6質量部である、組成物。
【請求項2】
さらに界面活性剤を含有する、請求項1に記載
の組成物。
【請求項3】
前記染料が、直接染料、反応染料、酸性染料、酸性媒染染料、金属錯塩酸性染料、および塩基性染料からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載
の組成物。
【請求項4】
前記アルコールが炭素数1~3の第1級アルコールである、請求項1に記載
の組成物。
【請求項5】
前記界面活性剤がノニオン界面活性剤である、請求項
2に記載
の組成物。
【請求項6】
さらに水性高分子エマルジョンを含有する、請求項1に記載
の組成物。
【請求項7】
カルシウム系無機質基材
への含浸により着色
するための方法であって、
該カルシウム系無機質基材の表面に請求項1から6のいずれかに記載の着色用組成物を含浸させて含浸表面を形成する工程
を含む、方法。
【請求項8】
さらに、前記含浸表面に、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シラノール基またはシラノール基に変換可能な基を有する樹脂、および水溶性珪酸アルカリ化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する保護用塗工液を付与する工程を含む、請求項7に記載
の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム系無機質基材着色用組成物およびそれを用いたカルシウム系無機質基材の着色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート、セメント、石膏、石材などのカルシウム系無機質基材への着色を行う場合、多くはその表面に顔料を含む塗料を用いて塗膜を形成する方法が採用される。
【0003】
しかし、こうした顔料は、一般に当該カルシウム系無機質基材の細孔よりも粒子径が大きい。このため、カルシウム系無機材料の表面に留まり、剥離や摩擦によって着色層が失われ、素地が比較的簡便に露出し易いことが指摘されている。
【0004】
さらに近年では、生コンクリートに含まれる混和材の性能向上やコンクリートの打設技術および養生技術の向上により、カルシウム系無機質基材(例えばコンクリート基材)の表面に形成される細孔空隙がより小さくかつより少なくなる傾向がある。そのような細孔空隙に対する着色性能の向上が所望されているが、未だ満足し得るものは得られていないという現実がある。
【0005】
一方、当該カルシウ系無機質基材の着色には、染料を用いたアプローチも考えられている。例えば、特許文献1では、コンクリート等の無機質基材に対して分散染料等を含む塗工液を用い、無機質基材の表層約1mmにまで含浸させて無機質基材の表面に着色を施す技術が提案されている。特許文献2では、水または有機溶媒に可溶な染料を含む第1液と、水溶性珪酸アルカリ化合物および/または強化樹脂から構成される表面強化剤を含む第2液とを用いて、カルシウム系無機質基材への着色を行う技術が提案されている。
【0006】
しかし、特許文献1および2に記載される技術では、使用する染料が紫外線によって褪色し易いため、得られる着色基材が耐光性に劣る点が指摘されている。また、無機質基材に染料が十分に含浸しないため、着色基材の摩耗によっても鮮明な着色は失われる傾向にあることが指摘されている。
【0007】
また、昨今、例えば、小売店、ショッピングモール、デザイナーズマンションなどの店舗または施設において、コンクリートの風合いとともに所定の彩色を施した内装設計を要望されることがある。
【0008】
しかし、こうした要望を塗料で実現することは極めて難しい。なぜなら、得られる塗膜によって所望の色彩が実現できるとしても、当該塗膜がコンクリート表面を覆うことにより、その風合いは容易に失われるからである。コンクリートの風合いを呈する塗料について飛躍的な改良が行われ、商品化されているが、当該風合いは塗膜によるものであり、あくまで疑似的なものに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-187787号公報
【文献】特開2002-282781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、カルシウム系無機質基材に対して鮮明に着色することができ、かつ優れた耐光性を付与することのできる、カルシウム系無機質基材着色用組成物およびそれを用いたカルシウム系無機質基材の着色方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、カルシウム系無機質基材着色用組成物であって、
染料、水、アルコール、および顔料を含有し、
該顔料の含有量が、該組成物の全体質量100質量部に対して0.2質量部~6質量部である、組成物である。
【0012】
1つの実施形態では、本発明のカルシウム系無機質基材着色用組成物はさらに界面活性剤を含有する。
【0013】
1つの実施形態では、上記染料は、直接染料、反応染料、酸性染料、酸性媒染染料、金属錯塩酸性染料、および塩基性染料からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0014】
1つの実施形態では、上記アルコールは炭素数1~3の第1級アルコールである。
【0015】
1つの実施形態では、上記界面活性剤はノニオン界面活性剤である。
【0016】
1つの実施形態では、本発明のカルシウム系無機質基材着色用組成物は、さらに水性高分子エマルジョンを含有する。
【0017】
本発明はまた、カルシウム系無機質基材の着色方法であって、
該カルシウム系無機質基材の表面に上記着色用組成物を含浸させて含浸表面を形成する工程
を含む、方法である。
【0018】
1つの実施形態では、本発明の着色方法は、さらに上記含浸表面にアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シラノール基またはシラノール基に変換可能な基を有する樹脂、および水溶性珪酸アルカリ化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する保護用塗工液を付与する工程を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた耐光性を有する着色無機質基材を提供することができる。また、その着色は、無機質基材への含浸によって達成されるため、基材表面が摩耗した場合であっても着色状態が保持される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例3で作製した着色モルタル(SE3)の全体断面図および一部拡大断面図を示す写真である。
【
図2】実施例4で作製した着色モルタル(SE4)の全体断面図および一部拡大断面図を示す写真である。
【
図3】比較例2で作製した着色モルタル(SC2)の全体断面図および一部拡大断面図を示す写真である。
【
図4】比較例3で作製した着色モルタル(SC3)の全体断面図および一部拡大断面図を示す写真である。
【
図5】比較例4で作製した着色モルタル(SC4)の全体断面図および一部拡大断面図を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳述する。
【0022】
(カルシウム系無機質基材着色用組成物)
本発明のカルシウム系無機質基材着色用組成物は、カルシウム系無機質基材を着色するために使用されるものである。
【0023】
上記カルシウム系無機質基材は、その構成成分にカルシウムが含まれる無機材料で構成される基材であって、例えば、屋内外の建物または建築物を構成する構造物(例えば、壁面、床面、通路、道路、柱、および塀)、野外または屋内に配置され得るモニュメント(例えば、記念碑;記念塔;および人、神仏、動物などを模した像)、ならびにそれらの構成部品(例えば、平面部分、曲面部分、角柱、円柱、球体、楕円体、ブロック、および平板);ならびにそれらの組み合わせを指して言う。
【0024】
カルシウム系無機質基材の構成材料としては、特に限定されないが、例えばコンクリート、セメント、石膏、および石材(例えばカルシウム成分を含有するもの)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0025】
本発明のカルシウム系無機質基材着色用組成物は、染料、水、アルコール、および顔料を含有する。
【0026】
本発明の組成物を構成する染料は、好ましくは水および/または有機溶媒に可溶な染料である。ここで、「有機溶媒」としては、好ましくは水と混和し得る有機溶剤が挙げられる。染料の例としては、直接染料、反応染料、酸性染料、酸性媒染染料、金属錯塩酸性染料、塩基性染料、建染染料、および硫化染料、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0027】
直接染料の例としては、カラーインデックス(CI)の、ダイレクトイエロー46、ダイレクトイエロー8、ダイレクトイエロー27、ダイレクトイエロー28、ダイレクトイエロー30、ダイレクトイエロー83、ダイレクトイエロー50、ダイレクトイエロー11、ダイレクトイエロー12、ダイレクトオレンジ26、ダイレクトレッド23、ダイレクトレッド28、ダイレクトレッド80、ダイレクトレッド31、ダイレクトバイオレット1、ダイレクトブルー86、ダイレクトブルー106、ダイレクトブルー1、ダイレクトブルー15、ダイレクトブルー80、ダイレクトブルー71、ダイレクトブルー151、ダイレクトグリーン6、ダイレクトグリーン1、ダイレクトブラウン2、ダイレクトブラック56、ダイレクトブラック17、ダイレクトブラック9、ダイレクトブラック38、ダイレクトブラック19、ダイレクトブラック22、ダイレクトブラック154、ダイレクトレッド83:1、ダイレクトブルー6、ダイレクトレッド13、ダイレクトレッド220、ダイレクトバイオレット51、ダイレクトレッド81、ダイレクトイエロー6、ダイレクトイエロー26、ダイレクトイエロー44、ダイレクトレッド75、ダイレクトレッド79、ダイレクトレッド224、ダイレクトレッド227、ダイレクトグリーン26、ダイレクトブルー199、ダイレクトイエロー106、ダイレクトオレンジ39、ダイレクトバイオレット66、ダイレクトオレンジ34、ダイレクトイエロー132、ダイレクトイエロー86、ダイレクトバイオレット9、ダイレクトレッド243、ダイレクトイエロー142、ダイレクトイエロー161、ダイレクトブルー70、ダイレクトブルー78、ダイレクトブルー108、ダイレクトブルー200、ダイレクトブルー201、ダイレクトブラウン1、ダイレクトブラック168、ダイレクトブラウン210、ダイレクトブラウン115、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0028】
反応染料の例としては、カラーインデックス(CI)の、リアクティブイエロー145、リアクティブレッド195、リアクティブブルー221、プロシオン、ミカシオン、シバクロン、ドリマレン、リアクトン、およびレマゾール;ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0029】
酸性染料の例としては、カラーインデックス(CI)の、アシッドイエロー49、アシッドレッド249、アシッドブルー40、ローセリン、アゾルビン、アシッドオレンジ、メタニルエロー、ブリリアンミリンググリーンBC、アシッドブラウンR、アシッドブルーブラック10B、アシッドバイオレット5B、およびニグロシンBHL、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
酸性媒染染料の例としては、エリオクロムブラックTが挙げられる。
【0031】
金属錯塩酸性染料の例としては、アシッドブラック52等が挙げられる。
【0032】
塩基性染料の例としては、マゼンダ、ローダミン、サフラニン、クリソイジン、オーラミン、マラカイトグリーン、ビスマルクグリーン、メチレンブルー、ビクトリアブルー、メチルバイオレット、ジャナスブラック、およびオレンジII、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
建染染料の例としては、インディゴ(バットブルー1)、バットレッド10、バットバイオレット13、およびバットオレンジ1、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0034】
硫化染料の例としては、カラーインデックス(CI)の、サルファイエロー16、サルファオレンジ1、サルファレッド6、サルファブルー7、サルファブルー15、およびサルファブラック11、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
本発明においては、後述の成分との組み合わせによって基材への含浸性、および耐光性と耐水性とに優れた着色基材を提供することができるという理由から、直接染料、反応染料、酸性染料、酸性媒染染料、金属錯塩酸性染料、および塩基性染料、ならびにそれらの組み合わせが好ましい。
【0036】
本発明の組成物に含まれる染料の含有量は、組成物の全体質量100質量部に対して好ましくは0.1質量部~10質量部、より好ましくは0.2質量部~8質量部、さらにより好ましくは0.3質量部~6質量部である。染料の含有量が0.1質量部を下回ると、着色して得られる色彩が希薄なものとなり実用性に欠ける場合がある。染料の含有量が10質量部を上回ると、色の識別が困難な濃色(黒色に近く)になることがあり色彩に欠く、あるいは色の識別は可能なものの、それ以上濃色になることはなく製造コストを上昇させるのみとなる場合がある。
【0037】
本発明の組成物を構成する水は、上記染料を均一に溶解させ、カルシウム系無機質基材への当該染料の含浸を促進する役割を果たす。水は、純水、イオン交換水、RO水、水道水のいずれであってもよい。
【0038】
本発明の組成物に含まれる水の含有量は、組成物の全体質量100質量部に対して好ましくは20質量部~90質量部、より好ましくは30質量部~70質量部である。水の含有量が20質量部を下回ると、相対的にアルコール含有量が多くなるため、得られる組成物全体の揮発性が高くなって、安全性や作業性が損なわれる場合がある。水の含有量が90質量部を上回ると、相対的にアルコール含有量が少なくなり、得られる組成物のカルシウム系無機質基材への含浸性が低下する場合がある。
【0039】
本発明の組成物を構成するアルコールは、上記水と混和する性質を有するものであり、上記染料を構成する着色成分(分子)を適切に溶解してカルシウム系無機質基材の表面における微細な細孔の奥深くまで含浸させる役割を果たす。本発明においてアルコールは、好ましくは炭素数1~5の第1級アルコール、第2級アルコール、および第3級アルコールが挙げられる。
【0040】
このようなアルコールの例としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、s-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、エチレングリコール、およびグリセリン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
上記水との混和性に優れ、かつ上記染料をカルシウム系無機質基材に対してより効果的に含浸させることができるとの理由から、アルコールは炭素数1~3の第1級アルコールであることが好ましく、例えば、固有の臭気を利用してカルシウム系無機質基材に付与された組成物の乾燥状態を、嗅覚を通じて把握することができるとの理由から、イソプロピルアルコールがより好ましい。
【0042】
あるいは、当該炭素数1~3の第1級アルコールのうち、例えばメタノールは沸点が65℃であり、かつ蒸気圧が12.9kPa(20℃)であるという点で、エタノールやイソプロピルアルコールと比較して揮発性が高いという性質を有する。このため、本発明においてアルコールとしてメタノールを使用すると、より速乾性の着色用組成物を得ることができる。しかし、この速乾性により、作業者が極めて短時間での着色作業を強いられるため、本発明ではメタノールと比較して幾分マイルドな速乾性を有する着色用組成物を提供できるとの理由から、アルコールは、イソプロピルアルコール、エタノールおよびそれらの組み合わせであることが好ましい。
【0043】
本発明の組成物に含まれるアルコールの含有量は、組成物の全体質量100質量部に対して好ましくは10質量部~80質量部、より好ましくは20質量部~70質量部である。アルコールの含有量が10質量部を下回ると、カルシウム系無機質基材の表面における微細な細孔の奥深くまでの含浸を促進させる効果が少なくなる場合がある。アルコールの含有量が80質量部を上回ると、得られる組成物全体の揮発性が上昇し、乾燥が著しく早くなり、作業性が低下する場合がある。
【0044】
本発明の組成物を構成する顔料は、上記染料によるカルシウム系無機質基材の着色を補足する役割を果たす。
【0045】
本発明において、顔料の例としては無機顔料および有機顔料ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0046】
無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化クロム、カーボンブラック、およびそれらの複合酸化物、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0047】
有機顔料としては、例えば、銅フタロシアニン(青色顔料)、キノフタロン系顔料(黄色顔料)、およびアゾ系顔料(赤色顔料)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0048】
顔料の大きさは特に限定されないが、カルシウム系無機質基材内に形成された細孔(例えば、直径0.05μm~5μm)への充填効率を高め、内部に含浸される上記染料に対する外部光からの遮光効果を高めることができるとの理由から、好ましくは0.1μm~2μm、より好ましくは0.2μm~1μmの平均粒子径を有する。顔料の平均粒子径が0.1μmを下回ると、凝集し易くなり、上記水、アルコールおよび界面活性剤の共存下で均一な分散が困難となるおそれがある。また、そのような微細な平均粒子径を有する顔料を製造すること自体に高度な技術を必要とし、生産性を低下させるおそれがある。顔料の平均粒子径が2μmを上回ると、カルシウム系無機質基材内に形成された細孔に充填されず、上記染料による着色を補足することが困難となることがある。
【0049】
本発明の組成物に含まれる顔料の含有量は、組成物の全体質量100質量部に対して、0.2質量部~6質量部、好ましくは0.3質量部~5質量部、より好ましくは0.5質量部~4質量部である。顔料の含有量が0.2質量部を下回ると、得られる組成物の耐光性が不十分となる場合がある。顔料の含有量が6質量部を上回ると、構成成分である染料の色彩が隠蔽される場合がある。
【0050】
本発明の組成物は、さらに界面活性剤を含有していてもよい。
【0051】
本発明の組成物を構成する界面活性剤は、上記水およびアルコールとの共存下において染料の着色成分(分子)の界面張力を下げてカルシウム系無機質基材の表面となじみ易くさせ、結果として含浸性を高める役割を果たす。
【0052】
界面活性剤の例としては、特に限定されず、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0053】
ノニオン界面活性剤としては、必ずしも限定されないが、例えば、エステル型ノニオン界面活性剤、エーテル型ノニオン界面活性剤、エステルエーテル型ノニオン界面活性剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。低起泡性であるとの理由から、ノニオン界面活性剤はエーテル型ノニオン界面活性剤であることが好ましい。
【0054】
アニオン界面活性剤としては、必ずしも限定されないが、例えば、カルボン酸塩のアニオン界面活性剤、スルホン酸塩のアニオン界面活性剤、および硫酸エステルのアニオン界面活性剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。水への溶解性が良好であるとの理由から、アニオン界面活性剤はスルホン酸塩のアニオン界面活性剤であることが好ましい。
【0055】
カチオン界面活性剤としては、必ずしも限定されないが、例えば、アミン塩型のカチオン界面活性剤および第4級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0056】
両性界面活性剤としては、必ずしも限定されないが、例えば、カルボン酸塩型の両性界面活性剤が挙げられる。
【0057】
本発明においては、水への溶解の際にイオン化せず、カルシウム系無機質基材の帯電特性への影響を考慮しなくてよいとの理由から、界面活性剤はノニオン界面活性剤であることが好ましい。
【0058】
本発明の組成物に含まれる界面活性剤の含有量は、組成物の全体質量100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~5質量部、より好ましくは0.3質量部~2質量部である。界面活性剤の含有量が0.1質量部を下回ると、得られる組成物のカルシウム系無機質基材への含浸性を低下させる場合がある。界面活性剤の含有量が5質量部を上回ると、得られる組成物が発泡し易くなることにより作業性が低下し、均一な着色を得ることが困難となる場合がある。
【0059】
本発明の組成物は、さらに水性高分子エマルジョンを含有していてもよい。
【0060】
水性高分子エマルジョンは、塗料、接着剤、粘着剤、住宅建材などに使用される所定の高分子を含有する水系のエマルジョンであり、カルシウム系無機質基材に対して顔料の定着性を付与するために使用される。水性高分子エマルジョンはまた、得られる組成物をカルシウム系無機質基材に付与した際の構成成分である染料の定着性を付与する役割を果たす。
【0061】
水性高分子エマルジョンの例としては、アクリル系エマルジョン、アクリル-シリコーン系エマルジョン、スチレン-アクリル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、エポキシ系エマルジョン、エチレン-酢酸ビニル系エマルジョン、および酢酸ビニル系エマルジョン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。上記汎用製品が多数存在し、水および/または増粘剤の添加を通じて粘度を容易に調整することができるという理由から、アクリル系エマルジョン、アクリル-シリコーン系エマルジョン、スチレン-アクリル系エマルジョンおよびそれらの組み合わせが好ましく、アクリル系エマルジョンがさらに好ましい。
【0062】
上記水性高分子エマルジョンのうち、例えばアクリル系エマルジョンには、樹脂成分として、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル共重合体、メタクリル共重合体等が含有されている。これらの樹脂は、アクリル系モノマーを乳化重合、溶液重合等の公知の方法で重合することにより得られたものである。
【0063】
上記樹脂成分を構成するアクリル系モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸グリシジル、およびメタクリル酸グリシジル、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0064】
本発明において、水性高分子エマルジョンは、上記染料による発色が損なわれることを避けるためにそれ自体好ましくは乳白色または無色である。水性高分子エマルジョンは例えばクリア塗料として市販されているものであってもよい。
【0065】
水性高分子エマルジョンのpHは好ましくは6.5~9.5、より好ましくは7~9である。水性高分子エマルジョンがこのような範囲内のpHを有することにより、付与されるカルシウム系無機質基材を侵蝕することなく安全に取り扱うことができる。
【0066】
本発明の組成物に含まれる水性高分子エマルジョンの固形分含有量は、組成物の全体質量100質量部に対して、0.5質量部~10質量部、好ましくは1質量部~5質量部である。水性高分子エマルジョンの固形分含有量が0.5質量部を下回ると、カルシウム系無機質基材に付与した際に構成成分である顔料と染料との定着性が不足することにより色落ちし易くなる場合がある。水性高分子エマルジョンの固形分含有量が10を上回ると、カルシウム系無機質基材の細孔空隙を目止めすることにより、得られる組成物の含浸性を低下させる場合がある。
【0067】
なお、上記水性高分子エマルジョンは1000mPa・秒以下の粘度を有していることが好ましい。
【0068】
本発明のカルシウム系無機質基材着色用組成物はまた、耐光性を向上させるために紫外線吸収剤および/または紫外線散乱剤を含有していてもよい。
【0069】
紫外線吸収剤の例としては、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤、トリアジン系の紫外線吸収剤、およびベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。汎用性に富みかつ近紫外線(例えば340nm~360nmの波長)の吸収性が優れているとの理由から、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤が好ましい。
【0070】
紫外線散乱剤の例としては、酸化亜鉛、および酸化チタン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0071】
本発明における紫外線吸収剤および紫外線散乱剤の含有量は特に限定されず、本発明の組成物が奏する効果を阻害しない範囲において適切な含有量が当業者によって選択され得る。
【0072】
さらに本発明のカルシウム系無機質基材着色用組成物は他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤の例としては、消泡剤、防腐剤、および抗菌剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。本発明における他の添加剤の含有量は特に限定されず、本発明の組成物が奏する効果を阻害しない範囲において適切な含有量が当業者によって選択され得る。
【0073】
(カルシウム系無機質基材着色用組成物)
次に、本発明のカルシウム系無機質基材着色用組成物を用いて、カルシウム系無機質基材を着色する方法について説明する。
【0074】
本発明においては、カルシウム系無機質基材の表面に、上記カルシウム系無機質基材着色用組成物を含浸させて含浸表面が形成される。
【0075】
カルシウム系無機質基材の表面へのカルシウム系無機質基材着色用組成物の含浸には、例えば、刷毛、ロールコーター、噴霧などの当該技術分野において周知の塗工手段が採用される。
【0076】
本発明のカルシウム系無機質基材着色用組成物は、構成成分である染料が当該組成物中でより均一に溶解し、かつ界面張力を下げてカルシウム系無機質基材の表面となじみ易くすることができる。これにより、当該組成物はカルシウム系無機質基材に対する含浸性を高め、カルシウム系無機質基材の表面からより深部にまで当該組成物が浸透することができる。
【0077】
なお、本発明においては、カルシウム系無機質基材の表面に上記着色用組成物が含浸した後、得られる含浸表面に保護用塗工液が付与されてもよい。
【0078】
保護用塗工液は、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シラノール基またはシラノール基に変換可能な基を有する樹脂、および/または水溶性珪酸アルカリ化合物を含有し、例えば水溶液の形態に調製されている。本発明では、内容成分の異なる複数の保護用塗工液が使用され、2層またはそれ以上の多層の形態でカルシウム系無機質基材の上記組成物を含浸させた含浸表面に積層されてもよい。
【0079】
上記保護用塗工液がアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、および/またはウレタン系樹脂を含有する場合、これらの樹脂はエマルジョンの形態で当該保護用塗工液に含まれていることが好ましい。
【0080】
シラノール基またはシラノール基に変換可能な基を有する樹脂は、例えば、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂を構成する主鎖および/または分岐鎖上に、シラノール基(孤立型シラノール基、ビシナル型シラノール基、およびジェミナル型シラノール基を含む)または当該シラノール基に変換可能な基を有する樹脂である。
【0081】
「シラノール基に変換可能な基」とは、シラノール基を構成するOH部分がアルコキシ基、ハロゲン原子等によって置換された基を指して言う。シラノール基に変換可能な基は、加水分解を経てシラノール基に変換可能である。
【0082】
シラノール基またはシラノール基に変換可能な基を有する樹脂は、エマルジョン(例えば、水性エマルジョン)の形態、あるいは所定の溶媒に溶解または分散させた形態で市販されている。本発明において、シラノール基またはシラノール基に変換可能な基を有する樹脂は保護用塗工液中で単独または複数種類を組わせて使用され得る。
【0083】
水溶性珪酸アルカリ化合物は、一般式M2O・nSiO2(ここで、Mはアルカリ金属であり、nは2~4の整数である)で示される珪酸化合物である。水溶性珪酸アルカリ化合物としては、例えば、珪酸ナトリウム(オルト珪酸ナトリウム、セスキ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウムなど)、珪酸リチウム、および珪酸カリウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。汎用性に富みかつ本発明の組成物で着色されたカルシウム系無機質基材の着色層を一層良好に保護しかつ優れた耐水性を提供できるとの理由から、珪酸リチウムが好ましい。
【0084】
水溶性珪酸アルカリ化合物は、周囲に存在する多価金属イオンとの反応により、あるいは当該化合物を構成するアルカリ金属成分(M)を当該化合物のシリカネットワークから除去することにより、水不溶性の珪酸化合物を形成する。水溶性珪酸アルカリ化合物の水溶液は一般に水ガラスと呼ばれている。本発明において、水溶性珪酸アルカリ化合物は保護用塗工液中で単独または複数種類を組わせて使用され得る。
【0085】
保護用塗工液に含まれる、上記アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シラノール基またはシラノール基に変換可能な基を有する樹脂、および/または水溶性珪酸アルカリ化合物の含有量は特に限定されず、適切な含有量が当業者によって選択され得る。
【0086】
あるいは、上記保護用塗工液の付与に代えて、あるいは上記保護用塗工液の付与の後、上記着色用組成物の含浸表面または保護用塗工液の付与表面に撥水剤を含む溶液が付与されてもよい。こうした撥水剤の付与により、当該含浸表面または保護用塗工液の付与表面に対して耐水性を提供することができる。
【0087】
上記保護用塗工液および撥水剤を含む溶液の付与もまた、例えば、刷毛、ロールコーター、噴霧などの当該技術分野において周知の塗工手段が採用される。
【0088】
このようにしてカルシウム系無機質基材の表面を着色することができる。
【0089】
本発明の方法により着色されたカルシウム系無機質基材(着色基材)は、その表面から所定の深さ(以下、「含浸深さ」ともいう)にまでカルシウム系無機質基材着色用組成物に含まれる染料を含浸させることができる。この含浸深さとしては、特に限定されないが、例えば表面から1mmまで、表面から2mmまでの深さが挙げられる。このため、得られる着色基材が仮に含浸深さ付近にまで摩耗してもその表面の着色状態が損なわれ難く、長期に亘って着色状態が保持され得る。
【実施例】
【0090】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0091】
1.着色組成物の作製と耐光性の評価
(実施例1:着色用組成物(E1)の作製と評価)
青色の反応染料(岩瀬商店株式会社製Sumifix Supra Blue BRF)2.5質量部、イオン交換水52.5質量部、イソプロピルアルコール40質量部、界面活性剤(ノニオン界面活性剤;サンノプコ株式会社製SNウェット366)1質量部、青色顔料(ランクセス株式会社製LBS;平均粒子径0.3μm)0.5質量部、高分子アクリルエマルジョン(ヘンケルジャパン株式会社製アクリルエマルジョンGD89)2.5質量部(エマルジョンの固形分含有量は約1質量部)、および紫外線吸収剤(明成化学工業株式会社製アンチフェードMC-500)1質量部を混合することにより着色用組成物(以下、単に「組成物」ということがある)(E1)(全量100質量部)を得た。
【0092】
この組成物(E1)を、モルタル平板(共栄コンクリート工業株式会社製;サイズ60mm×60mm×10mm)に、塗布量が150g/m2となるように3往復の刷毛塗りで塗布し、25℃にて2時間室内に配置して養生した。この養生の間にイソプロピルアルコールの臭気が完全に消失したことを確認した。これにより、着色モルタル(SE1)を得た。
【0093】
得られた着色モルタル(SE1)について、JIS L 0842に準拠した耐光堅ろう度試験(ブルースケール3級照射;露光時間約6時間)を行い、グレースケールで判定した。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例2:着色用組成物(E2)の作製と評価)
青色顔料の含有量を1.0質量部に変更しかつイオン交換水の含有量を52.0質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして着色用組成物(E2)(全量100質量部)を得た。この組成物(E2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして着色モルタル(SE2)を作製し、得られた着色モルタル(SE2)について実施例1と同様の耐光堅ろう度試験を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例1:着色用組成物(C1)の作製と評価)
青色顔料を添加せず(すなわち含有量0質量部)かつイオン交換水の含有量を53.0質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして着色用組成物(C1)を得た。この組成物(C1)を用いたこと以外は実施例1と同様にして着色モルタル(SC1)を作製し、得られた着色モルタル(SC1)について実施例1と同様の耐光堅ろう度試験を行った。結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
表1に示すように、実施例1および2で得られた着色基材(SE1)および(SE2)は、比較例1の着色基材(SC1)と比較して、グレースケールの判定結果の数値が上昇し、耐光性が向上していた。このことから、実施例1および2で得られた組成物(E1)および(E2)は、比較例1の組成物(C1)と比較して、当該組成物に所定量の顔料が含有されていることにより、当該組成物を付与して得られる着色基材の耐光性を向上させたことがわかる。
【0098】
2.着色組成物の作製と含浸性の評価
(実施例3:着色用組成物(E3)の作製と評価)
青色の酸性染料(岩瀬商店株式会社製Suminol Fast Blue PR)2.5質量部、イオン交換水52.5質量部、イソプロピルアルコール40質量部、界面活性剤(ノニオン界面活性剤;サンノプコ株式会社製SNウェット366)1.0質量部、青色顔料(ランクセス株式会社製LBS;平均粒子径0.3μm)0.5質量部、高分子アクリルエマルジョン(ヘンケルジャパン株式会社製アクリルエマルジョンGD89)2.5質量部、および紫外線吸収剤(明成化学工業株式会社製アンチフェードMC-500)1.0質量部を混合することにより着色用組成物(E3)(全量100質量部)を得た。
【0099】
この組成物(E3)を、モルタル平板(共栄コンクリート工業株式会社製;サイズ60mm×60mm×10mm)に、塗布量が150g/m2となるように3往復の刷毛塗りで塗布し、25℃にて2時間室内に配置して養生した。この養生の間にイソプロピルアルコールの臭気が完全に消失したことを確認した。これにより、着色モルタル(SE3)を得た。
【0100】
得られた着色モルタル(SE3)について厚み方向に沿って切断し、着色モルタルの表面から組成物(E3)を構成する酸性染料が含浸した深さをノギスで測定し、かつこの断面にて組成物(E3)を構成する酸性染料が含浸した状態を写真撮影した。結果を表2および
図1に示す。
【0101】
(実施例4:着色用組成物(E4)の作製と評価)
界面活性剤を添加せず(すなわち含有量0質量部)かつイオン交換水の含有量を53.5質量部に変更したこと以外は実施例3と同様にして着色用組成物(E4)(全量100質量部)を得た。この組成物(E4)を用いたこと以外は実施例3と同様にして着色モルタル(SE4)を作製して切断し、着色モルタルの表面から組成物(E4)を構成する酸性染料が含浸した深さをノギスで測定し、かつこの断面にて組成物(E4)を構成する酸性染料が含浸した状態を写真撮影した。結果を表2および
図2に示す。
【0102】
(比較例2:着色用組成物(C2)の作製と評価)
界面活性剤を添加せず(すなわち含有量0質量部)、イソプロピルアルコールの含有量を20質量部に変更し、かつイオン交換水の含有量を73.5質量部に変更したこと以外は実施例3と同様にして着色用組成物(C2)を得た(全量100質量部)。この組成物(C2)を用いたこと以外は実施例3と同様にして着色モルタル(SC2)を作製して切断し、着色モルタルの表面から組成物(C2)を構成する酸性染料が含浸した深さをノギスで測定し、かつこの断面にて組成物(C2)を構成する酸性染料が含浸した状態を写真撮影した。結果を表2および
図3に示す。
【0103】
(比較例3:着色用組成物(C3)の作製と評価)
界面活性剤およびイソプロピルアルコールのいずれをも添加せず(すなわち両者の含有量0質量部)、かつ、かつイオン交換水の含有量を93.5質量部に変更したこと以外は実施例3と同様にして着色用組成物(C3)を得た(全量100質量部)。この組成物(C3)を用いたこと以外は実施例3と同様にして着色モルタル(SC3)を作製して切断し、着色モルタルの表面から組成物(C3)を構成する酸性染料が含浸した深さをノギスで測定し、かつこの断面にて組成物(C3)を構成する酸性染料が含浸した状態を写真撮影した。結果を表2および
図4に示す。
【0104】
(比較例4:着色用組成物(C4)の作製と評価)
イソプロピルアルコールを添加せず(すなわち含有量0質量部)、界面活性剤(ノニオン界面活性剤;サンノプコ株式会社製SNウェット366)1.0質量部を添加し、イオン交換水の含有量を92.5質量部に変更したこと以外は実施例3と同様にして着色用組成物(C4)を得た(全量100質量部)。この組成物(C4)を用いたこと以外は実施例3と同様にして着色モルタル(SC4)を作製して切断し、着色モルタルの表面から組成物(C4)を構成する酸性染料が含浸した深さをノギスで測定し、かつこの断面にて組成物(C4)を構成する酸性染料が含浸した状態を写真撮影した。結果を表2および
図5に示す。
【0105】
【0106】
表2および
図1~5に示すように、実施例3および4で得られた着色基材(SE3)および(SE4)は、比較例2~4の着色基材(SC2)~(SC4)と比較して、着色基材の表面から含浸した染料の深さが大きかった。特に実施例3で得られた組成物(E3)は、界面活性剤の含有によって構成成分である染料の含浸性を一層向上させていることがわかる。
【0107】
3.着色組成物の作製と乾燥性能の評価
(実施例5:着色用組成物(E5)の作製)
イソプロピルアルコールの含有量を10質量部に変更し、かつイオン交換水の含有量を82.5質量部に変更したこと以外は実施例3と同様にして着色用組成物(E5)(全量100質量部)を得た。
【0108】
(着色組成物の乾燥性能)
試験片として、フレキシブルボード(日本テストパネル株式会社製フレキシブルボードFB)およびガラス板を用意した。次いで、この試験片に、実施例3および5で得られた着色組成物(E3)および(E5)と、比較例4で得られた着色組成物(C4)を、それぞれ1gずつ滴下した。滴下後、フレキシブルボードについては直径55mmにまで、ガラス板については直径40mmになるように薄く円形に押し広げ、滴下した各着色組成物が試験片上で乾燥するまでの時間を計測した。結果を表3に示す。
【0109】
【0110】
表3に示すように、実施例3および5で得られた着色組成物(E3)および(E5)はいずれもイソプロピルアルコールを含有していることにより、当該イソプロピルアルコールを含有していない比較例4の着色組成物(C4)と比較して、フレキシブルボード、ガラス平板等の基材上での乾燥時間を短縮することができた。また、実施例3および5で得られた着色組成物(E3)および(E5)では着色直後に有していたイソプロピルアルコールの臭気が乾燥後には完全に消失していたことも確認した。このことから、実施例3および5で得られた着色組成物(E3)および(E5)はより短期間で乾燥できるという点で優れた作業性を有するものであったことがわかる。
【0111】
4.着色組成物の作製と着色モルタルの風合いの評価
(実施例6:着色モルタル(SE6)の作製)
青色顔料の含有量を3.0質量部に変更しかつイオン交換水の含有量を50.0質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして着色用組成物(E6)(全量100質量部)を得た。この着色用組成物(E6)を、モルタル平板(共栄コンクリート工業株式会社製;サイズ60mm×60mm×10mm)に、塗布量が150g/m2となるように3往復の刷毛塗りで塗布し、25℃にて2時間室内に配置して養生した。この養生の間にイソプロピルアルコールの臭気が完全に消失したことを確認した。これにより、着色モルタル(SE6)を得た。
【0112】
(実施例7:着色モルタル(SE7)の作製)
青色顔料の含有量を6.0質量部に変更しかつイオン交換水の含有量を47.0質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして着色用組成物(E7)(全量100質量部)を得た。この着色用組成物(SE7)を用いたこと以外は実施例6と同様にして着色モルタル(SE7)を得た。
【0113】
(比較例5:塗装モルタル(SC5)の作製)
実施例2で得られた着色用組成物(E2)の代わりに、コンクリート等への屋外塗料として市販されている水性塗料(株式会社カインズ製エクステリアカラーズ)を用い、塗布量が130mL/m2となるように3往復の刷毛塗りで塗布したこと以外は実施例6と同様にして塗装モルタル(SC5)を得た。
【0114】
(1)鏡面光沢度
上記実施例2で得られた着色モルタル(SE2)、実施例6で得られた着色モルタル(SE6)、実施例7で得られた着色モルタル(SE7)および比較例5で得られた塗装モルタル(SC5)、ならびに着色組成物や塗料を何も塗布しなかったモルタル平板(共栄コンクリート工業株式会社製;サイズ60mm×60mm×10mm)(参考例1)の各平板平面における鏡面光沢度を、JIS K5600-4-7に準拠して入射角60°で測定した。結果を表4に示す。
【0115】
【0116】
表4に示すように、比較例5で得られた塗装モルタル(SC5)は、モルタル平板上に形成された塗膜によって鏡面光沢度を示しており、未着色のモルタル平板(参考例1)の鏡面光沢度と比較して著しい差異を生じていた。これに対し、実施例2、6および7で得られた着色モルタル(SE2)、(SE6)、および(SE7)はいずれも未着色のモルタル平板(参考例1)と同等の鏡面光沢度を有しており、モルタル平板に所定の着色はされたものの、その表面の光沢度は未着色のモルタル平板(参考例1)と大差がないものであった。
【0117】
(2)コンクリートの風合い(官能評価)
上記実施例2で得られた着色モルタル(SE2)、実施例6で得られた着色モルタル(SE6)、実施例7で得られた着色モルタル(SE7)および比較例5で得られた塗装モルタル(SC5)、ならびに着色組成物や塗料を何も塗布しなかったモルタル平板(参考例1)について、専門家8名がそれらの外観および触感を以下の基準で評価した。
【0118】
(2-1)外観
5点 着色の有無を除いて、未処理のモルタル平板(参考例1)と全く遜色がなかった。
4点 着色の有無を除いて、未処理のモルタル平板(参考例1)と比べ、表面近くに顔を近づけて(距離:約30cm)観察すると僅かに差異が生じていることを確認できた。
3点 着色の有無以外に、未処理のモルタル平板(参考例1)と比べ、約1m離れた場所から観察すると僅かに差異が生じていることを確認できた。
2点 着色の有無以外に、未処理のモルタル板(参考例1)と比べ、約1m離れた場所から観察すると明らかに表面状態が異なっていることを確認できた。
1点 着色の有無以外に、未処理のモルタル平板(参考例1)と比べ、明らかにその上に塗膜が形成されており、異なる風合いを有していたことを確認できた。
【0119】
(2-2)触感
5点 表面を指で触ったところ、未処理のモルタル板(参考例1)と全く遜色がなかった。
4点 表面を指で触ったところ、未処理のモルタル平板(参考例1)と比べ、僅かに差異があると生じていることを確認できた。
3点 表面を指で触ったところ、未処理のモルタル平板(参考例1)と比べて差異があったが、いずれもコンクリート固有のものであると認識することができた。
2点 表面を指で触ったところ、未処理のモルタル平板(参考例1)と比べて差異があり、コンクリートの風合いの多くが失われていたと認識することができた。
1点 表面を指で触ったところ、未処理のモルタル平板(参考例1)と比べ、明らかに別の塗膜が形成されており、コンクリートの風合いのがほぼ失われていたと認識することができた。
【0120】
結果を表5および6に示す。
【0121】
【0122】
【0123】
表5および6に示すように、比較例5で得られた塗装モルタル(SC5)は、モルタル平板上に形成された塗膜によって、未着色のモルタル平板(参考例1)とは明らかに異なる外観および触感を有していた。これに対し、実施例2、6および7で得られた着色モルタル(SE2)、(SE6)、および(SE7)はいずれも未着色のモルタル平板(参考例1)と同質の外観および触感を有しており、特に着色組成物中に含まれる顔料の含有量が低下するほどその傾向か現われていた。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の組成物は、様々なカルシウム系無機質基材への着色に使用することができ、例えば、建築分野などの技術分野において有用である。
【要約】
【課題】 カルシウム系無機質基材に対して鮮明に着色することができ、かつ優れた耐光性を付与することのできる、カルシウム系無機質基材着色用組成物およびそれを用いたカルシウム系無機質基材の着色方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のカルシウム系無機質基材着色用組成物は、染料、水、アルコール、および顔料を含有する。ここで、顔料の含有量は、該組成物の全体質量100質量部に対して0.2質量部~6質量部である。本発明によれば、優れた耐光性を有する着色無機質基材を提供することができる。また、その着色は、無機質基材への含浸によって達成されるため、基材表面が摩耗した場合であっても着色状態が保持される。
【選択図】
図1