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特許7518581アンモニア除去装置及びアンモニア除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】アンモニア除去装置及びアンモニア除去方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20240710BHJP
   C05G 5/20 20200101ALI20240710BHJP
   C05F 17/00 20200101ALI20240710BHJP
【FI】
C02F3/34 101B
C02F3/34 101D
C05G5/20
C05F17/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024004275
(22)【出願日】2024-01-16
【審査請求日】2024-02-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506177051
【氏名又は名称】株式会社里源
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100207549
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 慎也
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【弁理士】
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】青井 透
(72)【発明者】
【氏名】林 智康
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-188360(JP,A)
【文献】特開平07-171598(JP,A)
【文献】特開2003-033781(JP,A)
【文献】特開2022-034249(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第116444041(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0054536(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00- 3/34
B09B 3/00- 3/80
C05G 1/00- 5/40
C05F 1/00-17/993
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア態窒素を含有する廃水を貯留する貯留槽と、
廃水中のアンモニア態窒素を分解して窒素ガスとして放出する1つのアンモニア除去槽と、
アンモニア態窒素除去後の処理水を固液分離する沈殿槽と、を備え、
前記1つのアンモニア除去槽は、
3500デニール~4500デニールのポリ塩化ビニリデンの繊維を比表面積が100m /m ~300m /m 、空間率が95%~98%の網状にして且つ円盤状に成形した網状繊維円盤と、
前記網状繊維円盤を同軸で複数並べ下方が廃水に浸かるよう槽内で保持する保持部と、
前記網状繊維円盤を前記保持部とともに回転させる回転部と、を有することを特徴とするアンモニア除去装置。
【請求項2】
沈殿槽の上澄みである脱離液を取得して液肥として貯留する処理水槽をさらに有することを特徴とする請求項1記載のアンモニア除去装置。
【請求項3】
沈殿槽に堆積した沈殿物の脱水を行う脱水部と、
アンモニア除去槽の前段で廃水中の夾雑物を捕集する除渣部と、
前記脱水部で脱水された脱水沈殿物と前記除渣部で捕集された夾雑物とを堆肥化する堆肥生成部と、をさらに有することを特徴とする請求項1記載のアンモニア除去装置。
【請求項4】
請求項1記載のアンモニア除去装置を用いたアンモニア除去方法であって、
アンモニア除去槽の網状繊維円盤にバチルス菌を種付けする種付け工程と、
前記網状繊維円盤にて前記バチルス菌を増殖させ優占化する優占化工程と、
前記網状繊維円盤の下方がアンモニア態窒素を含有する廃水に浸かるよう槽内で保持しながら回転させることで、好気条件下にある前記網状繊維円盤に付着した微生物膜の表層の硝化細菌が廃液中のアンモニア態窒素を硝酸態窒素に変換するとともに、嫌気条件下にある前記微生物膜の奥層のバチルス菌が硝酸態窒素中の酸素を消費して窒素ガスに分解し放出するアンモニア除去工程と、を有することを特徴とするアンモニア除去方法。
【請求項5】
アンモニア態窒素を含有する廃水が、メタン発酵後の消化液であることを特徴とする請求項4記載のアンモニア除去方法。
【請求項6】
アンモニア除去工程において、有機物として酒粕もしくは糠もしくはふすまを水に溶いて添加することを特徴とする請求項4または請求項5に記載のアンモニア除去方法。
【請求項7】
アンモニア態窒素除去後の処理水を沈殿槽を用いた沈殿法により固液分離する固液分離工程と、
固液分離した上澄みである脱離液を液肥として処理水槽に貯留する液肥取得工程と、をさらに有することを特徴とする請求項4記載のアンモニア除去方法。
【請求項8】
アンモニア除去装置が、除渣部と脱水部と堆肥生成部とを備え、
前記除渣部によりアンモニア除去工程前に廃水中の夾雑物を捕集する捕集工程と、
前記脱水部により固液分離した沈殿物の脱水を行う脱水工程と、
前記堆肥生成部により前記脱水工程で脱水された脱水沈殿物と前記捕集工程で捕集された夾雑物とを堆肥化する堆肥化工程と、をさらに有することを特徴とする請求項記載のアンモニア除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃液中のアンモニア態窒素を窒素ガスにして除去するアンモニア除去装置及びこのアンモニア除去装置を用いたアンモニア除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出削減が求められている。この二酸化炭素の排出削減の手法の一つとしてバイオマス燃料の使用が挙げられる。バイオマス燃料とは、光合成により二酸化炭素を吸収した植物及びこの植物を食べた動物の排泄物、食品廃棄物等から燃料を製造するものであり、燃焼しても実質的な二酸化炭素の量は増加しないとされる。
【0003】
また、酪農業や畜産業では家畜や家禽の排泄物や敷料等の畜産廃棄物が大量に排出される。この畜産廃棄物をメタン発酵させてメタンガスを取得し、このメタンガスで発電を行うことで商用電力の使用量の削減や余剰電力の売電を行うとともに、発電の際に発生する廃熱や温水を畜産や農業用施設の暖房等の熱源として利用するシステムが注目されている。さらに、メタン発酵後の残渣としての消化液は有機炭素含有率が多く分解速度が遅いため、肥料として使用する事が想定されている。しかしながら、この消化液は有害なアンモニア態窒素を高濃度で含有しており、そのまま肥料として使用すると作物の生育障害を引き起こしたり地下に浸透して地下水を汚染したりするおそれがある。また、表面流出した場合には流入先河川の生態系を破壊し水質を汚染するおそれがある。このため、肥料として利用するためには液中のアンモニア態窒素の除去が必要となる。
【0004】
ここで、廃液中のアンモニアを除去する方法として下記[特許文献1]が挙げられる。また、廃液中のアンモニア態窒素を除去する一般的な方法として活性汚泥を用いた硝化脱窒方法が挙げられる。この活性汚泥を用いた方法では、先ず、廃液を曝気して好気条件とし、液中のアンモニア態窒素を活性汚泥中の硝化細菌により硝酸態窒素に変換(硝化)する。次に、廃液を嫌気条件として活性汚泥中の微生物に硝酸態窒素中の酸素を使用して有機物を酸化分解させる。これにより、硝酸態窒素中の窒素成分は窒素ガスとなって空気中に放出(脱窒)される。尚、廃液が消化液の場合には脱窒時に必要な有機物が分解しやすい形では存在していない場合が多く、通常、分解しやすい形の有機物として例えばメタノールを添加して脱窒を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-135031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの活性汚泥を用いた従来のアンモニア態窒素の除去方法では、硝化工程で大量の酸素を必要とするため曝気に消費電力の大きく強力なブロアが必要となり運転コスト(電力コスト)が高いという問題点がある。このため、例えば畜産廃棄物を用いたメタンガス発電では、消化液のアンモニア除去のために無視できない量の電力消費が新たに生じ、バイオマス発電による商用電力の節電と二酸化炭素の削減の効果を大きく損なうものとなる。また、硝化と脱窒のための少なくとも二つの槽、循環脱窒を行う場合には第1、第2硝化槽と第1、第2脱窒槽の少なくとも4つの槽が必要となり、装置規模が大きく建設コストが高いという問題点がある。さらに、脱窒時に添加するメタノール等の有機物の部材コストも必要となる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、比較的装置規模が小さく省エネルギーで建設コスト、運転コストともに安価なアンモニア除去装置及び、これを用いたアンモニア除去方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1)アンモニア態窒素を含有する廃水を貯留する貯留槽20と、廃水中のアンモニア態窒素を分解して窒素ガスとして放出する1つのアンモニア除去槽50と、アンモニア態窒素除去後の処理水を固液分離する沈殿槽22と、を備え、
前記1つのアンモニア除去槽50は、
3500デニール~4500デニールのポリ塩化ビニリデンの繊維を比表面積が100m /m ~300m /m 、空間率が95%~98%の網状にして且つ円盤状に成形した網状繊維円盤52と、前記網状繊維円盤52を同軸で複数並べ下方が廃水に浸かるよう槽内で保持する保持部54と、前記網状繊維円盤52を前記保持部54とともに回転させる回転部56と、を有することを特徴とするアンモニア除去装置80を提供することにより、上記課題を解決する。
(2)沈殿槽22の上澄みである脱離液を取得して液肥として貯留する処理水槽24をさらに有することを特徴とする上記(1)記載のアンモニア除去装置80を提供することにより、上記課題を解決する。
(3)沈殿槽22に堆積した沈殿物の脱水を行う脱水部26と、アンモニア除去槽50の前段で廃水中の夾雑物を捕集する除渣部28と、前記脱水部26で脱水された脱水沈殿物と前記除渣部28で捕集された夾雑物とを堆肥化する堆肥生成部30と、をさらに有することを特徴とする上記(1)記載のアンモニア除去装置80を提供することにより、上記課題を解決する。
(4)上記(1)記載のアンモニア除去装置80を用いたアンモニア除去方法であって、
アンモニア除去槽80の網状繊維円盤52にバチルス菌を種付けする種付け工程S102と、
前記網状繊維円盤52にて前記バチルス菌を増殖させ優占化する優占化工程S104と、
前記網状繊維円盤52の下方がアンモニア態窒素を含有する廃水に浸かるよう槽内で保持しながら回転させることで、好気条件下にある前記網状繊維円盤52に付着した微生物膜の表層の硝化細菌が廃液中のアンモニア態窒素を硝酸態窒素に変換するとともに、嫌気条件下にある前記微生物膜の奥層のバチルス菌が硝酸態窒素中の酸素を消費して窒素ガスに分解し放出するアンモニア除去工程S106と、を有することを特徴とするアンモニア除去方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(5)アンモニア態窒素を含有する廃水が、メタン発酵後の消化液であることを特徴とする上記(4)記載のアンモニア除去方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(6)アンモニア除去工程S106において、有機物として酒粕もしくは糠もしくはふすまを水に溶いて添加することを特徴とする上記(4)または上記(5)に記載のアンモニア除去方法。
(7)アンモニア態窒素除去後の処理水を沈殿槽22を用いた沈殿法により固液分離する固液分離工程S108と、固液分離した上澄みである脱離液を液肥として処理水槽24に貯留する液肥取得工程S110と、をさらに有することを特徴とする上記(4)記載のアンモニア除去方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(8)アンモニア除去装置80が、除渣部28と脱水部26と堆肥生成部30とを備え、
前記除渣部28によりアンモニア除去工程前に廃水中の夾雑物を捕集する捕集工程S103と、前記脱水部26により固液分離した沈殿物の脱水を行う脱水工程S112と、前記堆肥生成部30により前記脱水工程で脱水された脱水沈殿物と前記捕集工程で捕集された夾雑物とを堆肥化する堆肥化工程S114と、をさらに有することを特徴とする上記(7)記載のアンモニア除去方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るアンモニア除去装置及びアンモニア除去方法は、ポリ塩化ビニリデンの繊維で構成された網状繊維円盤を担体とし、この網状繊維円盤にバチルス菌が優占化した高濃度の微生物膜体を形成する。そして、この網状繊維円盤を処理槽内で回転させることで、アンモニア態窒素の硝化と脱窒とを1つの槽でほぼ同時に行う。これにより、装置規模をコンパクトにすることができ、省スペース化と建設コストの削減を図ることができる。
また、本発明に係るアンモニア除去装置及びアンモニア除去方法は、網状繊維円盤の回転により処理槽内を好気状態とする。このため、消費電力の大きなブロアによる曝気が必要なく、省エネルギーで運転コスト(電力コスト)を低く抑えることができる。さらに、廃液中からアンモニア態窒素を除去することで処理水を肥料として使用する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係るアンモニア除去装置の概略構成図である。
図2】本発明を構成するアンモニア除去槽の概略構成図である。
図3】本発明に係るアンモニア除去方法の工程フローチャートである。
図4】本発明のアンモニア除去槽及びアンモニア除去工程の実験結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るアンモニア除去装置80及びアンモニア除去方法の実施の形態について図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明に係るアンモニア除去装置80の概略構成図である。尚、本発明が処理対象とする廃液としては、畜産廃棄物をメタン発酵させた後の消化液のみならず、生ごみや食品廃棄物、紙ごみ、動植物由来の有機物、その他を原料としたメタン発酵後の消化液、下水道その他の水処理施設等での汚泥処理返流水等、アンモニア態窒素を含有する全ての廃液に適用が可能である。
【0012】
先ず、本発明に係るアンモニア除去装置80は、アンモニア態窒素を含有する廃水を貯留する貯留槽20と、廃水中のアンモニア態窒素を分解して窒素ガスとして放出するアンモニア除去槽50と、アンモニア態窒素除去後の処理水を固液分離する沈殿槽22と、を有している。また、廃水中にゴミや植物片等の比較的大きな夾雑物が混ざっている場合には、アンモニア除去槽50の前段、即ち貯留槽20とアンモニア除去槽50との間に廃水中の夾雑物を捕集する除渣部28を設けることが好ましい。尚、除渣部28に関しては特に限定は無く、所定の目開きを有するネットやスリット、篩、ベルトスクリーン等、所定の大きさ以上の夾雑物を分離捕集することが可能な周知の部材を用いることができる。
【0013】
また、除渣部28にて捕集された夾雑物は堆肥生成部30にて堆肥化することが好ましい。尚、堆肥生成部30に関しても特に限定は無く、コンポストの他、市販の堆肥製造機等、周知の堆肥製造装置を用いることができる。
【0014】
また、沈殿槽22はアンモニア除去槽50の処理水を静置し固液分離を行うものであり、例えば下部に略円錐形のホッパ部を備えた周知の沈殿槽を用いることができる。そして、沈殿槽22にて固液分離した上澄みである脱離液は処理水槽24に貯留される。尚、特に廃液として畜産廃棄物を原料とした消化液を用いた場合、脱離液には植物の生長に必要なリン酸とカリウム及びアンモニア除去槽50では分解しない有機態窒素が豊富に含まれている。このため、この上澄みとしての脱離液をそのまま液肥として使用することができる。
【0015】
また、沈殿槽22にて堆積した沈殿物は適宜抜き取られ脱水部26に送られる。そして、この脱水部26において沈殿物の脱水が行われる。尚、脱水部26に関しても特に限定は無く、フィルタープレスやベルトプレス等、周知の脱水機を用いることができる。また、脱水部26で脱水された脱水沈殿物は前述の堆肥生成部30に送り堆肥化することが好ましい。また、脱水時の排水は沈殿槽22の脱離液と同様に液肥として使用が可能なため、貯留槽20もしくは除渣部28に還流させることが好ましい。
【0016】
次に、本発明の特徴的な構成であるアンモニア除去槽50に関して説明を行う。ここで、図2は本発明を構成するアンモニア除去槽50の概略構成図である。尚、図2では処理槽40を破線で透過状態にて示す。先ず、本発明のアンモニア除去槽50は、上方が略円筒形の処理槽40と、この処理槽40内に収容される網状繊維円盤52と、この網状繊維円盤52を同軸で複数並べて処理槽40内で保持する保持部54と、網状繊維円盤52を保持部54とともに回転させる回転部56と、を有している。尚、処理槽40の底部には弱いエアレーション装置を設け、網状繊維円盤52に付着した過剰な微生物膜を剥離するようにしても良い。尚、剥離した微生物膜はアンモニア態窒素の除去された処理水とともに沈殿槽22に送られる。
【0017】
ここで、網状繊維円盤52はポリ塩化ビニリデンの繊維を立体的な不織状の網となし、且つ円盤状に成形したものを用いる。尚、使用するポリ塩化ビニリデンの繊維は3500デニール~4500デニールのものを用いる。また、網状繊維円盤52の比表面積は100m/m~300m/m、空間率は95%~98%のものを用いる。ここで、ポリ塩化ビニリデンはバチルス菌を含む汚水浄化機能を有する微生物と親和性が高い。このため、ポリ塩化ビニリデンの繊維を立体的な網状として形成した網状繊維円盤52では、浄化微生物がこれら網状繊維を担体として網の空隙を埋めるような立体的な微生物膜体を形成する。この立体的な微生物膜体は、従来の板状の担体に形成された面状の微生物膜と比べて比表面積が何倍も大きく、極めて多量で高濃度の微生物膜を有する。このため、従来よりも優れた浄化能力(硝化能力、脱窒能力)を有する。
【0018】
また、保持部54は前述のように複数の網状繊維円盤52を保持するものであり、回転軸を備えている。そして、それぞれの網状繊維円盤52の中心を貫通するように回転軸が固定され、網状繊維円盤52を同軸で複数並べて保持するとともに、処理槽40内の所定の高さ位置に回転可能に軸支される。また、処理槽40には貯留槽20(除渣部28)からの廃水が供給される供給配管40aと、処理槽40内の処理水を沈殿槽22に送水する送水管40bとが接続する。また、処理槽40内の廃水の水位は網状繊維円盤52の下方、概ね保持部54の回転軸に触れない程度に維持される。これにより、網状繊維円盤52の下方は廃水中に浸かり、上部は水面上に露出することとなる。
【0019】
また、回転部56はモータ等の周知の回転機構であり、保持部54の回転軸を回転させることにより、網状繊維円盤52を処理槽40内で回転させる。前述のように網状繊維円盤52は下方が廃水に浸漬する位置で保持されているから、回転部56が回転することで網状繊維円盤52の浸漬位置が一定速度で変化することとなる。
【0020】
次に、本発明に係るアンモニア除去方法に関して説明を行う。ここで、図3は本発明に係るアンモニア除去方法の工程フローチャートである。尚、図3ではアンモニア態窒素を含有する廃水として、畜産廃棄物をメタン発酵させた後の消化液を用い、アンモニア除去後の脱離液は液肥に、固形物は堆肥にする例を説明する。
【0021】
先ず、アンモニア除去槽50の網状繊維円盤52が新品の場合、バチルス菌(例えば、Bacillus subtilis:枯草菌)を種付けする(種付け工程S102)。前述のように、バチルス菌はポリ塩化ビニリデンと親和性が高いため、種付けすることで繊維表面に密着して増殖し十分な菌体密度となる。
【0022】
これと並行して貯留槽20にアンモニア態窒素を含有する廃水、例えば畜産廃棄物をメタン発酵させた後の消化液を貯留する。次に、処理槽40内に廃液を入れる。この際、除渣部28により廃水中の夾雑物を捕集することが好ましい(捕集工程S103)。尚、除渣部28で捕集された夾雑物は堆肥生成部30に送り堆肥化することが好ましい。
【0023】
そして、処理槽40内に既定の水位まで廃液が入ると、網状繊維円盤52の下方が規定の位置まで浸漬する。次に、回転部56を1rpm~10rpmの速度で回転させる。尚、アンモニア除去槽50での廃液の滞留時間は、廃液中のアンモニア態窒素の濃度やアンモニア除去槽50の能力にもよるが、概ね十数時間~50時間程度である。これにより、網状繊維円盤52にはバチルス菌を含む様々な浄化微生物が付着増殖して網の空隙を埋めるようにして微生物膜体を形成する。尚、バチルス菌はこれら浄化微生物中で特異的に増殖速度が速いため、ステップS102において予め種付けしておくことで、これら微生物膜内にて十分な菌体密度を維持し網状繊維円盤52に形成される微生物膜体内で優占化する(優占化工程S104)。尚、バチルス菌は多様な有機物を分解するとともに分解速度が速いため脱窒性能に優れるという特徴がある。また、硝化細菌との親和性が高くアンモニア態窒素の硝化作用を阻害することもない。さらに、硫酸還元細菌に対しては拮抗性が高く、硫酸還元細菌による硫化水素の生成を抑制し悪臭の発生を防止することができる。
【0024】
また、本発明のアンモニア除去槽50は、網状繊維円盤52が回転することにより処理槽40内の廃液中に空気を取り込み好気条件とする。このときの回転部56の消費電力は活性汚泥を用いた方法でのブロアの消費電力の1/10以下となる。よって、本発明に係るアンモニア除去装置80及びアンモニア除去方法は、活性汚泥を用いた従来の方法よりも省電力での運転が可能であり、メタンガス発電を行った場合でもバイオマス発電による商用電力の節電と二酸化炭素の削減の効果を十分に享受することができる。
【0025】
そして上記のように、網状繊維円盤52の回転により微生物膜体の表層は好気状態にある。しかしながら、微生物膜体の奥側には酸素が届かず基本的に嫌気状態となる。これにより、微生物膜体の表層に多く存在する硝化細菌がアンモニア態窒素(NH-N)を硝酸態窒素(NON)に変換(硝化)し、また嫌気条件下にある微生物膜体の奥層のバチルス菌等が硝酸態窒素中の酸素を消費して有機物を分解する。これにより、硝酸態窒素中の窒素成分は窒素ガス(N)として空気中に放出され液中からは消滅する(アンモニア除去工程S106)。
【0026】
このように、本発明に係るアンモニア除去装置80及びアンモニア除去方法は、1つのアンモニア除去槽50の網状繊維円盤52内で硝化と脱窒とがほぼ同時に行われるため、後述の図4の白丸に示されるように、液中の硝酸態窒素の量はほとんど変化しない。また、硝化と脱窒を1つの槽(アンモニア除去槽50)で行うことが可能なため、従来の活性汚泥を用いた方法と比較して省スペースでかつ建設コストの低減を図ることができる。
【0027】
さらに、網状繊維円盤52の微生物膜体中には脱窒の際に必要な有機物が存在するため、別途有機物の添加は不要となる。このため、添加する有機物の部材コストを削減することができる。ただし、本発明に係るアンモニア除去装置80及びアンモニア除去方法では、別途有機物を添加することで脱窒の速度を速めることができる。この場合でも、添加する有機物としては高価なメタノールを必ずしも必要とせず、清酒工場の酒粕や精米工場の糠やふすま等、多くは産業廃棄物として処理される安価なものを水に溶いて用いることができる。
【0028】
そして、アンモニア除去槽50にてアンモニア態窒素が除去された処理液は送水管40bを通して沈殿槽22に吐出される。そして、沈殿槽22にて静置されて固形物が下方に沈殿し固液分離が行われる(固液分離工程S108)。また、沈殿槽22にて固液分離した処理水の内、上澄みとなる脱離液は処理水槽24に貯留される。尚、廃液に畜産廃棄物の消化液を用いた場合、前述のように脱離液にはリン酸とカリウムに加えて、有機態窒素が含まれ、植物の生長に必要な窒素、リン、カリウムを全て含有した液肥として使用することができる(液肥取得工程S110)。よって、処理水槽24に貯留された液肥は適宜、抜き取られ必要な農地等に散布される。
【0029】
また、沈殿槽22にて固液分離した処理水の内、底部に堆積した沈殿物は、適宜、抜き取られ脱水部26に送られ脱水される(脱水工程S112)。尚、脱水にて生じた水は処理水槽24に貯留される沈殿槽22の脱離液と同様、植物の生長に必要な肥料成分を含んでいるため、貯留槽20もしくは除渣部28に還流させて再利用することが好ましい。また、脱水された脱水沈殿物は堆肥生成部30に送られる。そして、堆肥生成部30において、除渣部28で捕集された夾雑物とともに、所定の措置が施され堆肥化される(堆肥化工程S114)。このようにして、得られた堆肥は適宜、搬出され必要な農地等にて使用される。
【0030】
次に、本発明のアンモニア除去槽50及びアンモニア除去工程S106の実験結果を説明する。先ず、バチルス菌が優占化した微生物膜の付着した網状繊維円盤52を用意した。次に、この網状繊維円盤52が設置された実験槽(処理槽40)にアンモニア態窒素としての30gの塩化アンモニウムを溶解させた疑似廃液を投入した。尚、この疑似廃液のアンモニア態窒素の濃度は約110mg/Lであった。次に、網状繊維円盤52を1rpmで回転させた。そして、疑似廃液中のアンモニア態窒素の量と硝酸態窒素の量を測定した。尚、アンモニア態窒素の量の測定はネスラー比色法を用いて行い、硝酸態窒素の量の測定はUV2波長法(220nm、250nm)を用いて行った。その結果を図4(a)のグラフに示す。ここで、図4中の黒丸がアンモニア態窒素の量を示し、白丸が硝酸態窒素の量を示す。
【0031】
図4(a)のグラフから、時間経過とともにアンモニア態窒素の量が減少していることが判る。また、硝酸態窒素の量はほとんど変化が見られないことが判る。このことから、疑似廃液中のアンモニア態窒素は硝化された後、速やかに酸化分解に用いられて窒素ガスとして放出され、廃液中から除去されることが判る。
【0032】
次に、上記と同様の条件で実際の汚泥処理返流水を廃水として用いた実験結果を図4(b)に示す。図4(b)でも、図4(a)と同様に時間経過とともにアンモニア態窒素の量のみが減少していることが判る。このことから、本発明に係るアンモニア除去装置80及びアンモニア除去方法は実際の消化液においてもアンモニア態窒素の除去が可能なことが判る。
【0033】
以上のように、本発明に係るアンモニア除去装置80及びアンモニア除去方法は、ポリ塩化ビニリデンの繊維で立体的に構成された網状繊維円盤52を担体とし、この網状繊維円盤52にバチルス菌が優占化した高濃度の微生物膜体を形成する。そして、この網状繊維円盤52(微生物膜体)を処理槽40内で回転させることで、微生物膜体の表層を好気状態としアンモニア態窒素を硝酸態窒素に変換する硝化を行う。また、微生物膜体の奥層を嫌気状態とし、優占化したバチルス菌による有機物の酸化分解に伴って硝酸態窒素の窒素成分を窒素ガスとして放出する脱窒を行う。これにより、有害なアンモニア態窒素を廃液中から除去することができる。そして、特に廃液がメタン発酵後の消化液の場合には、固液分離後の上澄み液は液肥に、固形物は脱水して堆肥として農地等で使用する事ができる。これにより、二酸化炭素の発生を極力抑制した循環型の畜産システムを構築することができる。
【0034】
また、本発明に係るアンモニア除去装置80及びアンモニア除去方法は、上記のように網状繊維円盤52を担体に用いることで硝化と脱窒とを1つの槽でほぼ同時に行うことができる。このため、硝化用と脱窒用の複数の槽が必要なく装置規模をコンパクトにすることができる。これにより、省スペース化と建設コストの削減を図ることができる。
【0035】
また、本発明に係るアンモニア除去装置80及びアンモニア除去方法は、網状繊維円盤52の回転により処理槽40内を好気状態とする。このため、消費電力の大きなブロアによる曝気が必要なく、省エネルギーで運転コスト(電力コスト)を低く抑えることができる。これにより、メタンガス発電を行った場合でも、商用電力の節電と二酸化炭素の削減を効果的に行うことができる。
【0036】
さらに、脱窒時にメタノール等の有機物の添加が必要なく、また添加する場合には農村部でも入手が容易で安価な酒粕や糠、ふすま等の安価な有機物を使用する事ができる。これにより、部材コストの削減を図ることができる。
【0037】
尚、本例で示したアンモニア除去装置80の各槽の構成、部材、動作機構、配管経路等は一例であり、本発明は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。また、本例で示した本発明に係るアンモニア除去方法の各工程は一例であり、工程の順序を入れ替えたり、必要な工程を適宜組み入れたりすることが可能な他、本発明は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0038】
20 貯留槽
22 沈殿槽
24 処理水槽
26 脱水部
28 除渣部
30 堆肥生成部
50 アンモニア除去槽
52 網状繊維円盤
54 保持部
56 回転部
80 アンモニア除去装置
S102 種付け工程
S103 捕集工程
S104 優占化工程
S106 アンモニア除去工程
S108 固液分離工程
S110 液肥取得工程
S112 脱水工程
S114 堆肥化工程
【要約】
【課題】比較的装置規模が小さく省エネルギーで建設コスト、運転コストともに安価なアンモニア除去装置及び、これを用いたアンモニア除去方法を提供する。
【解決手段】このアンモニア除去装置及びアンモニア除去方法は、ポリ塩化ビニリデンの繊維で構成された網状繊維円盤を担体とし、この網状繊維円盤にバチルス菌が優占化した高濃度の微生物膜体を形成する。そして、この網状繊維円盤を処理槽内で回転させることで、アンモニア態窒素の硝化と脱窒とを1つの槽でほぼ同時に行う。これにより、装置規模をコンパクトにすることができ、省スペース化と建設コストの削減を図ることができる。また、網状繊維円盤の回転により処理槽内を好気状態とするため、省エネルギーで運転コスト(電力コスト)を低く抑えることができる。さらに、廃液中からアンモニア態窒素を除去することで処理水を肥料として使用する事が可能となる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4