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特許7518591プロセス管理の支援装置、支援方法、支援プログラムおよびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】プロセス管理の支援装置、支援方法、支援プログラムおよびシステム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240710BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
G05B23/02 301J
G05B19/418 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019197055
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021071834
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513246090
【氏名又は名称】ADAPTEX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 綾太
(72)【発明者】
【氏名】香月 毅
(72)【発明者】
【氏名】大西 諒
(72)【発明者】
【氏名】小比賀 理延
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-114168(JP,A)
【文献】特開2008-146621(JP,A)
【文献】特開2007-033071(JP,A)
【文献】特開平08-044416(JP,A)
【文献】特開2019-045905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00-23/02
G05B 19/418
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品製造プラントにおけるプロセス管理の支援装置であって、
リアルタイムで対象プラントにおける環境または設定を表すプロセスデータを取得する情報取得部と、
前記プロセスデータの蓄積されたデータセットによりディープラーニングさせた層構造を用いて、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータに対して、予測値を特定する予測値特定部と、
製品の品質に関連する所定の基準の表示に重ねて、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータおよび前記予測値を表示することで、前記所定のパラメータの変化を促すべき方向性を示す表示制御部と、を備え
2種類の前記所定のパラメータで形成されたxy軸によるxy平面上に、前記所定の基準、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータおよび前記予測値を表示し、
前記所定の基準として、前記xy平面上の閉じられた図形の中央を、製品の品質を維持すべき領域の中央にするようにxy範囲を調整することで、前記変化を促すべき方向性を前記図形の中央に向かう方向性とすることを特徴とする支援装置。
【請求項2】
前記所定の基準は、前記蓄積されたデータセットに基づいて決まり、前記所定のパラメータに対する製品の品質であることを特徴とする請求項記載の支援装置。
【請求項3】
前記表示制御部は、前記所定の基準として、製品の品質を前記xy平面上に表示したものであることを特徴とする請求項記載の支援装置。
【請求項4】
前記製品は、セメントの中間製品となるクリンカであり、
前記所定のパラメータは、焼成工程における焼成指標およびキルン電流であることを特徴とする請求項から請求項のいずれかに記載の支援装置。
【請求項5】
前記表示制御部は、前記所定のパラメータとして少なくとも1周期以上前の前記プロセスデータの一つおよび直近の前記プロセスデータのそれぞれの所定のパラメータを表示することを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の支援装置。
【請求項6】
製品製造プラントにおけるプロセス管理の支援方法であって、
リアルタイムで対象プラントにおける環境または設定を表すプロセスデータを取得するステップと、
前記プロセスデータの蓄積されたデータセットによりディープラーニングさせた層構造を用いて、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータに対して、予測値を特定するステップと、
製品の品質に関連する所定の基準の表示に重ねて、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータおよび前記予測値を表示することで、前記所定のパラメータの変化を促すべき方向性を示すステップと、を含み、
2種類の前記所定のパラメータで形成されたxy軸によるxy平面上に、前記所定の基準、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータおよび前記予測値を表示し、
前記所定の基準として、前記xy平面上の閉じられた図形の中央を、製品の品質を維持すべき領域の中央にするようにxy範囲を調整することで、前記変化を促すべき方向性を前記図形の中央に向かう方向性とすることを特徴とする支援方法。
【請求項7】
製品製造プラントにおけるプロセス管理の支援プログラムであって、
リアルタイムで対象プラントにおける環境または設定を表すプロセスデータを取得する処理と、
前記プロセスデータの蓄積されたデータセットによりディープラーニングさせた層構造を用いて、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータに対して、予測値を特定する処理と、
製品の品質に関連する所定の基準の表示に重ねて、前記取得されたプロセスデータのう
ちの所定のパラメータおよび前記予測値を表示することで、前記所定のパラメータの変化を促すべき方向性を示す処理と、をコンピュータに実行させ
2種類の前記所定のパラメータで形成されたxy軸によるxy平面上に、前記所定の基準、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータおよび前記予測値を表示し、
前記所定の基準として、前記xy平面上の閉じられた図形の中央を、製品の品質を維持すべき領域の中央にするようにxy範囲を調整することで、前記変化を促すべき方向性を前記図形の中央に向かう方向性とすることを特徴とする支援プログラム。
【請求項8】
連続的に供給される原料を加熱する設備を有するプラントと、
請求項1から請求項のいずれかに記載の支援装置と、を備えることを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造プラントにおけるプロセス管理の支援装置、支援方法、支援プログラムおよびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プロセス産業においてはAIを活用したプラント操業の更なる高度化に向けた取り組みが進められている。セメント産業もその例外ではなく、品質予測システムを始め、その適用分野の拡大が図られている。
【0003】
セメント産業に代表されるプロセス産業においては、オペレータが複数あるプロセスデータから状況が判断され、操作が選択されることで、プロセス管理が行われる。オペレータの判断には、操作対象の選択、操作の量、タイミングが含まれ、様々なパターンがあるため、運転状態はオペレータ個人の技能に左右される。そして、このような技能は客観的な情報として伝えることが難しく、その承継はきわめて困難である。
【0004】
このような状況を改善すべく、プラントの操業における作業のスキルを承継するための技術が提案されている。例えば、特許文献1記載の操作支援装置は、各種情報を取得し、各種情報の関連性を抽出し、抽出された関連性に基づき、プラントの操作を支援する作業手順等を提供している。
【0005】
一方、操作支援のための表示を3次元表示するプラント運転の支援システムが知られている。例えば、特許文献2記載の運転支援システムは、複数のエネルギー形態を有するエネルギー供給設備において、時刻、目標運転パターン確率密度分布のピークに対応する目標運転パターンおよび目標運転パターン確率密度分布をそれぞれ3軸にとり3次元表示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-3545号公報
【文献】特開2003-143757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、プラントの作業現場では刻一刻と変わる状況に応じた支援が求められており、特許文献1記載のシステムのように定型の作業手順を提供するだけでは対応できない。特許文献2記載のシステムでは、時刻に応じた目標運転パターンが表示されているものの、製品の品質に関連する状況の推移が表示されるわけではない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、製品の品質に関し、現在の製造プロセスの状況だけでなく、将来の予測された状況までもオペレータに分かり易く伝達できるプロセス管理の支援装置、支援方法、支援プログラムおよびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のプロセス管理の支援装置は、製品製造プラントにおけるプロセス管理の支援装置であって、リアルタイムで対象プラントにおける環境または設定を表すプロセスデータを取得する情報取得部と、前記プロセスデータの蓄積されたデータセットによりディープラーニングさせた層構造を用いて、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータに対して、予測値を特定する予測値特定部と、製品の品質に関連する所定の基準の表示に重ねて、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータおよび前記予測値を表示することで、前記所定のパラメータの変化を促すべき方向性を示す表示制御部と、を備えることを特徴としている。
【0010】
これにより、製品の品質に関し、現在の製造プロセスの状況だけでなく、将来の予測された状況までもオペレータに分かり易く伝達できる。その結果、オペレータは製造プロセスの改善のために、提供された情報を操作に活かすことができる。
【0011】
(2)また、本発明のプロセス管理の支援装置は、2種類の前記所定のパラメータで形成されたxy軸によるxy平面上に、前記所定の基準、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータおよび前記予測値を表示することを特徴としている。これにより、プロセスデータが向かおうとする方向性を直感的に分かり易く表示できる。
【0012】
(3)また、本発明のプロセス管理の支援装置は、前記所定の基準が、前記xy平面上の閉じられた図形で表され、前記変化を促すべき方向性は前記図形の中央に向かう方向性であることを特徴としている。これにより、変化を促す方向性に加えてどの程度の変化を促すべきかについても表示できる。
【0013】
(4)また、本発明のプロセス管理の支援装置は、前記所定の基準が、前記蓄積されたデータセットに基づいて決まり、前記所定のパラメータに対する製品の品質であることを特徴としている。これにより、特定の管理項目に関し、過去のプロセスデータから得られる妥当な基準を表示できる。
【0014】
(5)また、本発明のプロセス管理の支援装置は、前記表示制御部が、前記所定の基準として、製品の品質を前記xy平面上に表示したものであることを特徴としている。これにより、どのような条件で操作すると製品の品質を維持できるかをオペレータに直感的に伝達できる。
【0015】
(6)また、本発明のプロセス管理の支援装置は、前記製品が、セメントの中間製品となるクリンカであり、前記所定のパラメータが、焼成工程における焼成指標およびキルン電流であることを特徴としている。これにより、製品の品質を維持するために特に重要な基準を表示できる。
【0016】
(7)また、本発明のプロセス管理の支援装置は、前記表示制御部が、前記所定のパラメータとして少なくとも1周期以上前の前記プロセスデータの一つおよび直近の前記プロセスデータのそれぞれの所定のパラメータを表示することを特徴としている。これにより、過去のプロセスデータ、現在のプロセスデータおよび予測値を並べて、プロセスデータが向かう方向性を明確に表示できる。なお、直近と1周期前のみのプロセスデータを表示するのが効率的であるが、1周期以上前のプロセスデータを複数表示しても構わない。
【0017】
(8)また、本発明のプロセス管理の支援方法は、製品製造プラントにおけるプロセス管理の支援方法であって、リアルタイムで対象プラントにおける環境または設定を表すプロセスデータを取得するステップと、前記プロセスデータの蓄積されたデータセットによりディープラーニングさせた層構造を用いて、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータに対して、予測値を特定するステップと、製品の品質に関連する所定の基準の表示に重ねて、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータおよび前記予測値を表示することで、前記所定のパラメータの変化を促すべき方向性を示すステップと、を含むことを特徴としている。これにより、製品の品質に関し、現在の製造プロセスの状況だけでなく、将来の予測された状況までもオペレータに分かり易く伝達できる。
【0018】
(9)また、本発明のプロセス管理の支援プログラムは、製品製造プラントにおけるプロセス管理の支援プログラムであって、リアルタイムで対象プラントにおける環境または設定を表すプロセスデータを取得する処理と、前記プロセスデータの蓄積されたデータセットによりディープラーニングさせた層構造を用いて、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータに対して、予測値を特定する処理と、製品の品質に関連する所定の基準の表示に重ねて、前記取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータおよび前記予測値を表示することで、前記所定のパラメータの変化を促すべき方向性を示す処理と、をコンピュータに実行させることを特徴としている。これにより、製品の品質に関し、現在の製造プロセスの状況だけでなく、将来の予測された状況までもオペレータに分かり易く伝達できる。
【0019】
(10)また、本発明のシステムは、連続的に供給される原料を加熱する設備を有するプラントと、上記(1)から(7)のいずれかに記載の支援装置と、を備えることを特徴としている。これにより、連続的に原料が供給されるプラントにおいて、将来の予測された状況までもオペレータに分かり易く伝達できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、製品の品質に関し、現在の製造プロセスの状況だけでなく、将来の予測された状況までもオペレータに分かり易く伝達できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のプロセス管理システムの構成を示す概略図である。
図2】本発明のプロセス管理の支援装置の構成を示すブロック図である。
図3】プロセス管理の支援処理を示すフローチャートである。
図4】ディープラーニングの層構造を示す図である。
図5】運転結果を示す図である。
図6】キルン電流の予測値および実測値の推移を示す図である。
図7】キルン電流と焼成指標との2軸のxy平面上に過去、現在および予測値をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
[プロセス管理システムの構成]
図1は、プロセス管理システム10を示す概略図である。プロセス管理システム10は、プラント100およびプロセス管理の支援装置200を備えている。図1に示す例では、プラント100は、セメント工場内のセメント焼成工程を行う設備である。セメントの製造工程は、原料工程、焼成工程、仕上工程の3つに分けられ、中でも焼成工程は、「粉体」、「粘性流体」、「固体」を同時に扱うことや応答が長く外乱が多いことから、運転には、熟練した技能が必要となる。
【0024】
したがって、蓄積されたデータと深層学習を活用し、オペレーションの高度化を図ることには大きな意義がある。本発明はセメントの焼成工程に好適であるが、これに限定されず、セメント原料工程、仕上工程を含め、複数のプロセスデータを見ながら操作する製造工程であれば鉄鋼、化学等でも適用可能である。
【0025】
プロセス管理の支援装置200は、少なくともCPUおよびメモリを有する例えばPCのような装置であり、プラント100からの情報にもとづいてオペレータOPに適した操作を通知する。また、プロセス管理の支援装置200は、オペレータOPからの操作を受け付け、プラント100へその操作を指示する。
【0026】
[プラントの構成]
プラント100は、原料送入路110、ニューサスペンションプレヒータ120、ロータリーキルン140、窯前バーナ150、クーラ170および仮焼炉への抽気用のダクト180を有している。以下、セメントの製造工程に沿って、プラント100の構成を説明する。
【0027】
セメントの中間製品となるクリンカの原料には、主に石灰石、粘土、けい石、鉄原料が含まれる。また、廃プラスチック、廃タイヤ、廃木材または下水汚泥といったリサイクル資源も原料および熱源として利用している。
【0028】
原料工程ではセメント品種毎の原料調合と粉砕機による乾燥粉砕が行われる。このような原料は、連続的に焼成工程に送り込まれ、焼成される。このとき、原料は、原料送入路110から送入され、ニューサスペンションプレヒータ120を経てロータリーキルン140を通る過程で焼成されてクリンカとなり、クーラ170へ流れる。
【0029】
クーラ170では、焼成したクリンカを急冷するとともにその熱を回収し、燃焼用空気として利用することで熱ロス低減を図る熱循環型の工程が実現されている。ガスは、クーラ170で取り込まれた空気であり、ロータリーキルン140、各サイクロン121を通り、誘引ファン123から排出される。原料の送入速度は、原料送入路110の位置で制御されている。
【0030】
ニューサスペンションプレヒータ120にはサイクロン121、仮焼炉125が含まれ、各サイクロン121ではガスと原料を分離させる。ロータリーキルン140から最下段のサイクロン121に入ったガスは各サイクロン121を通りながら、原料との熱交換を行い、誘引ファン123で系外に排出される。また、排出されたガスは、原料の乾燥や排熱発電に利用される。誘引ファン123の回転数は、制御されている。最上段の4つのサイクロン121のガス温度は、温度センサにより監視されている。仮焼炉125には、バーナが備わっており、炉内の温度は制御されている。
【0031】
ニューサスペンションプレヒータ120を経てロータリーキルン140に送り込まれた原料は、窯尻143から入り、窯前145まで進みながら1450℃程度の温度まで昇温される。そして、窯尻143におけるO濃度およびNO濃度は監視されている。窯前バーナ150は、ロータリーキルン140の窯前145に設置される。この焼成過程で原料は徐々に化学変化し、水硬性をもった化合物の集まりであり、セメントの中間製品であるクリンカとなり、窯前145から排出される。ロータリーキルン140の電流は監視され、ロータリーキルン140の回転数は制御されている。
【0032】
キルン内で化合物となったクリンカは、落口148からクーラに入り急冷される。落口148における温度は監視されている。クーラ170から仮焼炉125の間には、クーラから仮焼炉へと抽気するダクト180が設けられており、ダクト180内にはクーラからの抽気量を調整する抽気ダンパ185が設けられている。抽気ダンパ185の開度は、制御されている。また、クーラ170から排出されたクリンカ中のフリーライムは、成分分析により監視されている。仕上工程では、クリンカに石膏、混合材を添加して粉砕機で粉砕することで、最終製品であるセメントになる。
【0033】
上記のセメントの焼成工程では、プロセス固有の難しさだけでなく、ひとつの操作が複数に影響を及ぼす、いわゆる干渉系プロセスである。また、リサイクル資源のカロリー変動は大きな外乱であり、近年、オペレーションを一層難しくしている。
【0034】
セメントの焼成工程では、オペレータにより工程に関わる情報に基づいて、環境、品質、省エネの観点から定められた基準に従った操作が行われる。キルン電流は、オペレータの監視項目の1つであり、これを安定させることがクリンカの生産量や品質の安定化に繋がる。適切なオペレーションを実現するには、プロセスの特性の把握が重要である。また、熟練オペレータは、プロセスの特性を理解しており、状況判断に予測を含んだ先読み操作を行うことができる。これまで、プロセスを物理的・統計的手法でモデリングする取り組みは行われてきたが、リサイクル資源の増加に伴い、モデル化においても普遍性の維持は難しい。これらのことから、現状のキルンオペレーションにおいては、予測に基づくフィードフォワード的な要素は少なく、フィードバック中心のオペレーションを余儀なくされている。このような事情から、本発明のようにディープラーニングを用いた操作支援はセメントの製造工程、特に焼成工程に好適である。なお、以上の例は、好適な一例であり、監視対象や制御対象はプラントに応じて適宜選択されてよい。
【0035】
[プロセス管理の支援装置の構成]
図2は、プロセス管理の支援装置200の構成を示すブロック図である。図2に示すように、プロセス管理の支援装置200であって、情報取得部210、記憶部220、学習処理部240、予測値特定部250、表示制御部255、表示部260および操作部270を備えている。図2に示す実線は操作予測のための情報の送受を表し、一点鎖線は学習処理のための情報の送受を表す。
【0036】
情報取得部210は、リアルタイムで対象プラントにおけるプロセスデータを取得する。取得されたプロセスデータは、教師データとして記憶部220に蓄積され、かつ予測値特定部250に送出される。プロセスデータには、環境または設定を表すものがある。上記のように、記憶部220は、予測値特定部250の学習用に必要なプロセスデータを蓄積する。記憶されたプロセスデータと同じデータを他の手段で用意できるのであれば、記憶部220への蓄積は省略することもできる。
【0037】
プロセスデータは、環境や設定を表す複数種類のデータの集合であり、それぞれが互いに依存する場合にディープラーニング可能な層構造の適用が好ましい。特に、セメントの製造工程では、センシングされた情報だけでなく操作端の入力が、将来における複数のプロセスデータへ影響を及ぼすことがある。このようなオペレータの個々の経験や勘に頼るしかなかったプロセスデータの状況変化の判断、先読み判断について技能の承継が可能になる。
【0038】
予測値は、将来の環境を表すデータであることが好ましく、何分先の値になるかが、用いられる教師データに応じて決まってもよい。
【0039】
学習処理部240は、記憶部220からプロセスデータと実際の操作の情報を受け取り、予測値特定部250から予測値を受け取る。そして、実側値と予測値とから評価規範(後述)を最小化させるように学習し、層構造の隠れ層を構成する情報を更新する。このようにして、プラント100における過去のプロセスデータを教師データとして予測値特定部250に学習させる。
【0040】
予測値特定部250は、取得されたプロセスデータに対して、ディープラーニングの層構造を用いて予測値を特定する。これにより、オペレータに経験や勘等などの技能が無くても熟練したオペレータと同様の先読み判断によるプロセス管理が可能になる。
【0041】
表示制御部255は、製品の品質に関連する所定の基準の表示に重ねて、取得されたプロセスデータのうちの所定のパラメータ、およびその予測値を表示することで、プロセスデータの変化を促すべき方向性を示す。これにより、製品の品質に関し、現在の製造プロセスの状況だけでなく、将来の予測された状況までもオペレータに分かり易く伝達できる。そして、オペレータは製造プロセスの改善のために、提供された情報を操作に活かすことができる。
【0042】
その場合、プロセスデータのうちの特定の2種類のデータで形成されたxy軸によるxy平面上に、所定の基準、取得されたプロセスデータおよび予測値を表示することが好ましい。これにより、プロセスデータが向かおうとする方向性を直感的に分かり易く表示できる。
【0043】
所定の基準としては、例えば、製品の品質をxy平面上に別のパラメータを用いて3次元表示することが好ましい。これにより、どのような条件で操作すると製品の品質を維持できるかをオペレータに直感的に伝達できる。なお、そのような3次元表示の一例は、後述する。
【0044】
所定の基準は、指定されたxy平面上の線分で閉じられた図形であり、変化を促すべき方向性は図形の中央に向かう方向性であることが好ましい。これにより、変化を促す方向性に加えてどの程度の変化を促すべきかについても表示できる。
【0045】
所定の基準は、蓄積されたデータセットに基づいて決まり、特定の2種類のデータに対する製品の品質であることが好ましい。これにより、特定の管理項目に関し、過去のプロセスデータから得られる妥当な基準を表示できる。
【0046】
また、取得されたプロセスデータの所定のパラメータとしては、1周期前のデータと直近のデータとを表示することが好ましい。これにより、過去のデータ、現在のデータおよび予測値を並べて、将来データが向かう方向性を明確に表示できる。
【0047】
表示部260は、例えばディスプレイ等の出力装置や出力回路を含む構成であり、特定された予測値を表示する。操作部270は、キーボード、マウス等の入力装置や入力回路を含む構成であり、オペレータOPによる操作を受け付け、プラント100へその操作を指示する。
【0048】
[プロセス管理の支援装置の動作]
上記のように構成されたプロセス管理の支援装置200の動作を説明する。図3は、プロセス管理の支援処理を示すフローチャートである。図3に示すように、まず、リアルタイムでプロセスデータを取得し(ステップS1)、ディープラーニングの層構造を用いて予測値を特定する(ステップS2)。
【0049】
予測値には、将来の状態を示すデータおよび計測値が含まれる。計測値には、例えばセメント製造工程におけるキルン電流が含まれる。そして、製品の品質に関連する所定の基準に対し特定の2軸によるxy平面上に現在値および予測値を表示する(ステップS3)。現在値、予測値は、例えば、キルン電流および焼成指標のようにプロセスデータのうちの所定のパラメータで表される。上記の表示により、オペレータOPに将来にわたるプロセスデータの推移とプロセスデータの変化を促すべき方向性が伝わる。オペレータOPは、伝えられた情報を参照し、プロセス管理の支援装置200に操作を入力し、プロセス管理の支援装置200は、受け付けた操作をプラント100に指示する(ステップS4)。このようにして、プロセス管理が支援され、熟練者以外でも容易に操作可能になる。
【0050】
次に、学習処理の動作を説明する。学習は、実側値と予測値とからディープラーニングの層構造を更新することで行う。具体的には、ディープラーニングの層構造内の重みを調整する。基本的に1年分または2年分のように期間のデータに対して反復学習を行うが、逐次学習を行ってもよい。なお、現在の計測値と予測しようとする計測値との関係を学習させるために、予測しようとする計測値の実測値のデータの全体を過去に向けて所定時間分シフトさせることが好ましい。
【0051】
上記の例では、セメントを製品とするセメント工場を対象としているが、それ以外であっても、例えばプラントが連続的に供給される原料を加熱する設備を含み、プロセスデータは、その設備の温度を含み、操作端の設定値は、その設備内への原料または燃料の送入速度を含むような場合には、上記の装置は好適である。
【0052】
すなわち、連続運転される設備(例えば炉)の温度は多数の因子により決まり、設備内への原料または燃料の送入速度は、設備内の状態へ様々な影響を及ぼす。このような複雑に要素が関係し合うプロセス管理においては、上記のようなニューラルネットワークを利用した支援装置が有効である。
【0053】
[ディープラーニングの層構造]
次に、ディープラーニングの層構造について説明する。図4は、ディープラーニングの層構造を示す図である。
【0054】
ディープラーニングは、入力層と出力層の間に複数の隠れ層を有している。ニューラルネットワークと類似の層構造を持つが、隠れ層の各ノードが持つ特徴量の習得の手続きがニューラルネットワークとは異なっている。ニューラルネットワークでは逆誤差伝播法により隠れ層等の学習を行うが、ディープラーニングでは隠れ層の入出力が一致(オートエンコーダ)するように学習する。
【0055】
オートエンコーダは、例えば、式(1)によって示される評価規範を最小化するように学習を行うことができる。評価規範では、MSE(Mean Square Error)の最小化に加えて、オートエンコーダの重みへの制約とスパース性に制約を与える項を設ける。ここで、xおよびハット記号付きxは予測対象の実測値と予測値、変数Nは観測例の数、Dは変数の数を示す。
【数1】
【0056】
式(1)のΩ_weights項は式(2)で示されるL2正則化項であり、評価規範への導入により過学習の抑制を図ることができる。ここで、Lは隠れ層数、wは荷重を示す。
【数2】
【0057】
また、式(1)のΩ_sparsity項は式(3)で示されるスパース正則化項である。この項を評価規範に導入することで、隠れ層のスパース性を高めることができる。ρおよびハット記号付きρは、各素子の出力目標値と活性化した出力値を示す。
【数3】
【0058】
[実施例]
実際に、セメント工場において、蓄積されたデータを活用し、ディープラーニングの層構造を用いたシステムで、リアルタイムにキルン電流と焼成指標の予測値を出力した。用いられるプロセスデータとして、仮焼炉温度、窯前粉炭の供給速度、キルン回転数、原料の送入速度、誘引ファン回転数、抽気ダンパ開度、キルン電流、各サイクロンのガス温度と原料温度、落口クリンカ温度、窯尻O濃度、窯尻NOx濃度、クリンカ中のフリーライム等の入力データ(計測値)、仮焼炉温度制御、窯前粉炭の供給速度、キルン回転数、原料の送入速度、誘引ファン回転数、抽気ダンパ開度等の入力データ(設定値)が挙げられる。実施例において過去のプロセスデータが学習時に使用された。なお、実装したディープラーニングの層構造における入力変数は183、隠れ層数は3、出力変数は1である。
【0059】
学習用データとして、2017~18年度の2年分のデータを用意し、2017年度データのみ、2018年度データのみ、2017~18年度データの3つのパターンで学習を行った。それらを2019年度のある期間データに対して適用し、検証を行った。以下に前処理、評価方法、検証結果を説明する。なお、学習用データには様々な運転状況が含まれていることが望ましいが、スパイク信号等、学習に影響すると思われる値は不要と判断し、各プロセス値から除いた。
【0060】
予測値と実測値のサンプルに対して相互相関係数Rが最大となるLAGを予測の先行度とし、その時の決定係数Rを求めた。LAGは、実測値のデータのシフト量を指す。ここではLAGがマイナスになると先行を意味する。なお、サンプリング周期は、1点/分であり、サンプル点数は、4320点(1440点/日×3日)であり、サンプル期間数は10期間であった。
【0061】
以上のような評価方法にて検証した。図5は、運転結果を示す図である。2017年度、2018年度のそれぞれ1年分で学習した結果、サンプル期間によって予測できる場合、予測できない場合が混在し、安定性に欠ける結果となった。これに対して、2017年度から2018年度の2年分を学習した結果は、すべてのサンプル期間において平均して16分先行する性能が得られ、様々な運転状況にも対応できた。このことから、ディープラーニングを使いこなすには、データの質とともにその量も重要であることが分かった。
【0062】
良好な結果が得られた2017~18年度の2年分を学習したものを実機に適用し、キルン電流をリアルタイムに予測した。プロセスデータから将来のキルン電流と焼成指標を出力する特徴量を抽出し、入力データに基づいて将来のキルン電流を出力(予測)した。図6は、キルン電流の予測値および実測値の推移を示す図である。図6に示すように、キルン電流の実測値に対し、予測値が先行していることが分かる。実機においても検証結果と同様の精度を確認した。
【0063】
オペレータに先行アクションを促すために、キルン電流の予測値をそのままトレンド表示するだけではなく、その他の焼成指標をキルン電流と同様に学習して予測し、キルン電流とその他焼成指標の予測値と品質指標をリンクした形に置き換えることも可能である。図7は、キルン電流と焼成指標との2軸のxy平面上に過去、現在および予測値をプロットした図である。図では、それぞれの指標の関連性(等高線)をビジュアルに表示されており、さらに2軸のxy平面上に過去、現在の実測値および予測値がプロットされている。これにより、運転状況の変化や目標範囲を一目で把握することが可能となる。
【0064】
図7に示すように、現在のキルン電流と焼成指標とそれらの予測値を二重丸と星印で表すことで今後の推移が分かる。また、過去(1周期前(例えば5分前))のキルン電流と焼成指標も表示することでさらに傾向が分かり易くなる。
【0065】
図7に示す例では、プロセスデータのうちの特定の2種類のデータ(キルン電流と焼成指標)で形成されたxy軸によるxy平面製品の品質をxy平面上に濃淡で3次元表示している。この品質表示C1~C6は、蓄積されたデータセットに基づいて決まり、特定の管理項目に関し、過去のプロセスデータから得られる妥当な基準となっている。品質表示C1~C2は、十分に焼成されているが、焼成しすぎており熱量が浪費されている状態を示している。品質表示C5~C6は、焼成が不十分である状態を示している。キルン電流と焼成指標とを、品質表示C3~C4の領域に維持すべきであることを示すことができる。
【0066】
品質の表示は、濃淡以外に、色分けで表示してもよいし、z軸上に品質を表示し、xyz空間を斜めから見た図にしてもよい。このように表示することで、どのようにキルン電流と焼成指標を制御すると製品の品質を維持できるかをオペレータに直感的に伝達できる。なお、焼成指標としては、焼成工程の温度、圧力、ガス分析値などの焼成状況によって変化する計測値、並びにプレヒータやキルンが保有する熱量などを計算した値が挙げられる。
【0067】
所定の基準は、指定されたxy平面上の線分で閉じられた図形であってもよい。図7に示す例では、正方形の枠が示されている。この正方形の中央に向かうようにキルン電流と焼成指標を変化させることで製品の品質を維持できる。
【符号の説明】
【0068】
10 プロセス管理システム
100 プラント
110 原料送入路
120 ニューサスペンションプレヒータ
121 サイクロン
123 誘引ファン
125 仮焼炉
140 ロータリーキルン
143 窯尻
145 窯前
148 落口
150 窯前バーナ
170 クーラ
180 ダクト
185 抽気ダンパ
200 支援装置
210 情報取得部
220 記憶部
240 学習処理部
250 予測値特定部
255 表示制御部
260 表示部
270 操作部
OP オペレータ
C1~C6 品質表示
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7