IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-微粒子製造装置 図1
  • 特許-微粒子製造装置 図2
  • 特許-微粒子製造装置 図3
  • 特許-微粒子製造装置 図4
  • 特許-微粒子製造装置 図5
  • 特許-微粒子製造装置 図6
  • 特許-微粒子製造装置 図7
  • 特許-微粒子製造装置 図8
  • 特許-微粒子製造装置 図9
  • 特許-微粒子製造装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】微粒子製造装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20240710BHJP
   B01J 19/26 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B01J19/00 N
B01J19/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019198913
(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公開番号】P2021069992
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】館山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
(72)【発明者】
【氏名】三崎 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】末松 諒一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 広樹
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-145716(JP,A)
【文献】特開2018-143995(JP,A)
【文献】特開平7-246354(JP,A)
【文献】特開2001-198510(JP,A)
【文献】特開2006-794(JP,A)
【文献】特開2017-29880(JP,A)
【文献】特開平1-116013(JP,A)
【文献】特開2018-149501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
B01J 19/26
B01J 2/02
B05B 15/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の溶液を噴霧して加熱により微粒子を製造する微粒子製造装置であって、
前記溶液を貯留する溶液タンクと、
前記溶液タンクから供給された溶液を噴霧するノズルと、
前記噴霧された溶液を加熱し微粒子を生成する炉芯管と、
前記生成された微粒子を回収する回収装置と、
前記ノズルに固着した固体を除去する固着除去機構と、を備え、
前記固着除去機構は、前記ノズルに固着した固体に接触させ摺動させることで前記固体を除去するエッジ部と、前記エッジ部の動きを操作する操作部と、を備え、
前記エッジ部は、前記ノズルからの前記溶液の噴霧を妨げない待機位置および前記ノズルの固着を除去する固着除去位置に相互に移動可能であり、
前記エッジ部は、前記固着除去位置において前記ノズルの先端部に接触しないことを特徴とする微粒子製造装置。
【請求項2】
前記固着除去機構は、前記固着除去位置において前記ノズルから噴出される液体を反射させることで前記固着を除去する反射部を備えることを特徴とする請求項1記載の微粒子製造装置。
【請求項3】
前記反射部は、反射面が曲面、複数の平面、または曲面と平面の組み合わせで形成されていることを特徴とする請求項2記載の微粒子製造装置。
【請求項4】
前記固着除去機構は、前記固着除去位置において前記エッジ部が前記ノズルの先端部に接触することを防ぐノズル先端保護部を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の微粒子製造装置。
【請求項5】
前記微粒子製造装置は、前記ノズルを保護する保護管をさらに備え、
前記固着除去機構は、少なくとも一部が前記保護管内に配置されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の微粒子製造装置。
【請求項6】
前記操作部は、管内に冷却用の熱媒体を通す中空の管状に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の微粒子製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子の製造方法として、噴霧熱分解法を活用した微粒子製造装置が使用されている。噴霧熱分解装置は、被合成物(主に溶液)を、セラミックス製、金属製、耐熱レンガ製等の炉芯管の内部に噴霧し、被合成物を加熱処理して、粒子を製造する装置である。被合成物を加熱するための熱源には、内燃式としてガスバーナーが使用されるケースや、外熱式として電気ヒーターないしは熱風ヒーター等が使用されるケースがある。
【0003】
被合成物を炉芯管内に噴霧するため、噴霧装置(ノズルユニット)が設置される。ノズルは、ポンプ等で送りだされた溶液を圧縮空気と同時に先端から噴出してミスト化し、微小粒子を形成する。噴霧熱分解装置で主に用いられるノズルとしては、溶液ラインが1つ、圧縮空気ラインが1つの2流体ノズル、溶液ラインが1つ、圧縮空気ラインが2つの3流体ノズル、溶液ラインが2つ、圧縮空気ラインが2つの4流体ノズル等を用いることができ、製品の目標粒径や、目標生産量等に応じてこれらノズルを選定する。また溶液と圧縮空気の投入比率を調整することでも微小粒子の径をコントロールできる。これらノズルの先端には、樹脂製のパッキン部材が用いられることがある。
【0004】
この微小粒子が炉芯管内で乾燥、焼成され、製品としての微粒子となる。微粒子の回収は、吸引ファンによって炉芯管内を負圧とし、バグフィルター等によって行う。目標の比重や粒度を得るため、処理条件として、処理時間および処理温度を制御する。
【0005】
微粒子製造装置は、長時間噴霧することで、ノズル先端のミスト噴出口周辺に原料溶液に起因した固着が発生する。この固着がミストを阻害し、正常な噴霧ができなくなるために、製品の粒径や密度がばらつく、といった問題が発生することがある。よって、この発生した固着の除去が必須となる。固着の除去方法としては、機械的に除去する方法、空気を用いて除去する方法、液体を用いて除去する方法等がある。
【0006】
特許文献1には、ノズル端の中心側より液体を、該ノズル端外周と外筒部との間の気体通路より気体を、それぞれ噴射させるスプレーガンにおいて、上記外周部端の外周および端面部に掻取刃を回転または反転自在に設けて、ノズル端に付着した異物を取り除く技術が開示されている。
【0007】
特許文献2には、回転ドラム内に収容された被処理物に結合剤またはコーティング剤を噴霧するスプレー手段27と、回転ドラム内においてスプレー手段27と相対移動可能に設けられ、スプレー手段27のノズル26に接触してこれに付着した付着物を取り除くブラシ30と、このブラシ30の近傍に設けられ、取り除かれた付着物を収容する付着物吸引装置31とを有する、スプレー手段の噴霧口に付着した付着物を除去できる造粒コーティング装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭60-241956号公報
【文献】特開平7-246354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載の技術は、ノズル先端(頂点)部に固着が生じないノズルを使用しており、掻取刃は、その周囲に生じた固着を除去する機能しか有していない。すなわち、ノズル先端部に生じた固着を除去することはできない。噴霧熱分解法で用いられるノズルは、微細なミストを1本で大量に噴霧できるが、こういったノズルは、必ずしもノズル先端に固着が生じないという特徴を有しているとは限らないため、ノズル先端部の固着も除去する必要がある。また、掻取刃が常に噴霧口の近くに待機しているため、掻取刃を起点とした固着が生成してしまう。
【0010】
また、特許文献2記載の技術は、ブラシがノズル全体に接触するため、ノズルの先端部も含めて固着の除去が可能である。しかしながら、噴霧熱分解法で用いられるノズルの先端部はデリケートな部材であるため、ブラシを直接接触させて固着の除去をすると、噴霧されるミストの状態が変化してしまう虞がある。また、特に、先端に樹脂製のパッキン部材を有する場合に、ブラシが直接このパッキン部材に接触すると、パッキン部材を傷つけ、正常な噴霧ができなくなる、パッキンの消耗が早まる等の影響を及ぼす。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ノズルの先端部近傍の固着を直接的に除去できると共にノズルの先端部を傷つける虞が低減し、均質な粒子を安定的に製造できる微粒子製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の微粒子製造装置は、原料の溶液を噴霧して加熱により微粒子を製造する微粒子製造装置であって、前記溶液を貯留する溶液タンクと、前記溶液タンクから供給された溶液を噴霧するノズルと、前記噴霧された溶液を加熱し微粒子を生成する炉芯管と、前記生成された微粒子を回収する回収装置と、前記ノズルに固着した固体を除去する固着除去機構と、を備え、前記固着除去機構は、前記ノズルに固着した固体に接触させ摺動させることで前記固体を除去するエッジ部と、前記エッジ部の動きを操作する操作部と、を備え、前記エッジ部は、前記ノズルからの前記溶液の噴霧を妨げない待機位置および前記ノズルの固着を除去する固着除去位置に相互に移動可能であり、前記エッジ部は、前記固着除去位置において前記ノズルの先端部に接触しないことを特徴としている。
【0013】
これにより、ノズルの先端部近傍の固着を直接的に除去できると共にノズルの先端部を傷つける虞が低減し、均質な粒子を安定的に製造できる。また、微粒子製造装置の使用時はエッジ部を待機位置に移動させることで、エッジ部を起点とした固着の生成を防ぐことができる。
【0014】
(2)また、本発明の微粒子製造装置において、前記固着除去機構は、前記固着除去位置において、前記ノズルから噴出される液体を反射することで、前記固着を除去する反射部を備えることを特徴としている。これにより、ノズルから噴出される液体の反射を利用して固着除去ができ、固着の除去効果が高まり、均質な粒子をより安定的に製造できる。
【0015】
(3)また、本発明の微粒子製造装置において、前記反射部は、反射面が曲面、複数の平面、または曲面と平面の組み合わせで形成されていることを特徴としている。これにより、ノズルから噴出される液体の反射をノズルの所定の部分に集中させることができ、固着の除去効果がさらに高まる。
【0016】
(4)また、本発明の微粒子製造装置において、前記固着除去機構は、前記固着除去位置において前記エッジ部が前記ノズルの先端部に接触することを防ぐノズル先端保護部を備えることを特徴としている。これにより、固着除去位置においてエッジ部または反射部をノズルの先端部と接触させない範囲で、十分に近づけることができる。
【0017】
(5)また、本発明の微粒子製造装置は、前記ノズルを保護する保護管をさらに備え、前記固着除去機構は、少なくとも一部が前記保護管内に配置されることを特徴としている。このように、ノズルを熱から保護する保護管内に固着除去機構の少なくとも一部を配置することで、固着除去機構も併せて熱から保護することができ、固着除去機構の熱による変形や破損を防ぐことができる。
【0018】
(6)また、本発明の微粒子製造装置において、前記操作部は、管内に冷却用の熱媒体を通す中空の管状に形成されていることを特徴としている。これにより、固着除去機構を熱から保護することができ、固着除去機構の熱による変形や破損を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の微粒子製造装置は、ノズルの先端部近傍の固着を直接的に除去できると共にノズルの先端部を傷つける虞が低減し、均質な粒子を安定的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る微粒子製造装置の概略構成を示す概念図である。
図2】本実施形態に係る微粒子製造装置の変形例の概略構成を示す概念図である。
図3】本実施形態に係る微粒子製造装置の変形例の概略構成を示す概念図である。
図4】固着除去機構のエッジ部周辺を示した正断面図である。
図5】形状の異なるノズルに対する固着除去機構の変形例のエッジ部周辺を示した正断面図である。
図6】(a)から(d)、それぞれエッジ部が待機位置および固着除去位置にある状態を示す正断面図および平面図である。
図7】ノズルから噴出される液体を反射部で反射させている状態を示す概念図である。
図8】(a)から(d)、それぞれ反射部の形状の例を示す断面図である。
図9】(a)から(c)、それぞれ実施例の固着除去機構の形状を示す平面図、正面図、および側面図である。
図10】実施例の固着除去機構およびノズルの配置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、鋭意研究の結果、微粒子製造装置において、ノズルに固着した固体を除去する固着除去機構を、ノズルに固着した固体に接触させ摺動させることで固体を除去するエッジ部と、エッジ部の動きを操作する操作部により構成し、エッジ部はノズルからの溶液の噴霧を妨げない待機位置およびノズルの固着を除去する固着除去位置に相互に移動可能にして、固着除去位置においてノズルの先端部に接触しないようにすることで、ノズルの先端部近傍の固着を直接的に除去できると共にノズルの先端部を傷つける虞が低減し、均質な粒子を安定的に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0022】
すなわち、本発明の微粒子製造装置は、原料の溶液を噴霧して加熱により微粒子を製造する微粒子製造装置であって、前記溶液を貯留する溶液タンクと、前記溶液タンクから供給された溶液を噴霧するノズルと、前記噴霧された溶液を加熱し微粒子を生成する炉芯管と、前記生成された微粒子を回収する回収装置と、前記ノズルに固着した固体を除去する固着除去機構と、を備え、前記固着除去機構は、前記ノズルに固着した固体に接触させ摺動させることで前記固体を除去するエッジ部と、前記エッジ部の動きを操作する操作部と、を備え、前記エッジ部は、前記ノズルからの前記溶液の噴霧を妨げない待機位置および前記ノズルの固着を除去する固着除去位置に相互に移動可能であり、前記エッジ部は、前記固着除去位置において前記ノズルの先端部に接触しない。以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0023】
[微粒子製造装置の構成]
図1は、本実施形態に係る微粒子製造装置の概略構成を示す概念図である。本実施形態に係る微粒子製造装置1は、溶液タンク10、ノズル20、炉芯管30、回収装置40、および固着除去機構50備える。
【0024】
溶液タンク10は、原料の溶液を貯留する。原料は、被合成物を構成する元素を含む化合物であり、目的とする被合成物に応じて、例えば、無機塩、金属アルコキシド、金属酸化物等から適宜選択される。また、この原料を溶解する溶媒は、目的とする被合成物および原料に応じて、水、有機溶媒等から適宜選択される。原料の溶液は、原料および溶媒以外に、溶融温度、耐熱性、粒子強度等を調整するために、他の材料を添加してもよい。
【0025】
溶液タンク10が貯留している原料の溶液は、ポンプ12を使用して、ノズル20に供給される。ポンプ12は、溶液および圧縮空気の圧力、流量、混合比等を調整することで、噴霧される溶液の液滴の平均粒子径を調整できる。また、溶液の濃度や粘度、溶液が噴霧されるノズル20の先端部の形状、大きさ等によっても噴霧される溶液の液滴の平均粒子径を調整できる。ノズル20に供給される原料の溶液の流量は、流量計14によって計測することができる。
【0026】
後述するように、固着除去機構50が反射部56を備える場合、溶液タンク10とは別に、洗浄タンク16を備えることが好ましい。その場合、反射部56を使用して固着除去するときに、溶液タンク10と洗浄タンク16を付け替えてノズル20に供給する。または、溶液タンク10と洗浄タンク16の両方をノズル20に接続して、切り替えられるようにしてもよい。洗浄タンク16に貯留される洗浄用の液体は、水道水または蒸留水であることが好ましい。
【0027】
ノズル20は、溶液タンク10から供給された溶液を噴霧する。ノズル20は、溶液ラインが1つ、圧縮空気ラインが1つの2流体ノズル、溶液ラインが1つ、圧縮空気ラインが2つの3流体ノズル、溶液ラインが2つ、圧縮空気ラインが2つの4流体ノズル等を用いることができる。ノズル20は、製品となる微粒子の目標粒径や、目標生産量等に応じて選定される。
【0028】
ノズル20の先端部に樹脂製のパッキンを用いたノズル20を使用してもよい。本発明の固着除去機構50は、後述するように、エッジ部52がノズル20の先端部に接触しない構造となっているため、樹脂製のパッキンを用いたノズル20を使用しても、固着除去時にパッキンを傷つける虞を低減できる。
【0029】
ノズル20を熱から保護するために、ノズル20を保護管で保護することが好ましい。また、保護管内には、熱を低減するための空気等の冷却溶媒を通すことがより好ましい。これにより、ノズル20の噴霧の精度を、安定させることができる。樹脂製のパッキンは熱に強くない場合があるため、そのような場合は、特に保護管を使用することが有効である。なお、保護管の外側に、さらに断熱材を使用してもよい。
【0030】
炉芯管30は、噴霧された溶液の液滴を加熱し微粒子を生成する。噴霧された溶液の液滴は、炉芯管30内で加熱され、溶媒が蒸発して溶質である原料が析出する。そして、熱分解や固相反応により被合成物の微粒子が生成される。この時、噴霧された溶液の一部は、ノズル20の先端部やその近傍に付着し、溶媒が蒸発して固着する。
【0031】
炉芯管30は、セラミックス、金属、耐熱レンガ等によって形成された加熱炉32の炉体の通路である。炉芯管30は、壁内、または外壁側に電気ヒーターや熱風ヒーターなどの加熱装置を有する外熱式の加熱炉32として構成されてもよいし、内壁側に加熱装置を有する内熱式の加熱炉32として構成されてもよい。また、ノズル20と共にガスバーナー等が使用される内燃式であってもよい。図1は、ヒーター34によって加熱する外熱式の加熱炉32を示している。
【0032】
回収装置40は、生成された微粒子を回収する。微粒子の回収は、吸引ファン42によって炉芯管30内を負圧とし、回収装置40によって行う。回収装置40は、バグフィルター、サイクロン粉体回収機等を使用できる。
【0033】
固着除去機構50は、ノズル20に固着した固体を除去する。固着除去機構50は、金属、セラミック等により形成することができる。固着除去機構50の詳細は後述する。
【0034】
図2および図3は、本実施形態に係る微粒子製造装置の変形例の概略構成を示す概念図である。図2は、ノズルの噴霧方向が下向きになっている微粒子製造装置の一例を示している。これ以外にも、噴霧方向は、横向き、斜め向きであってもよい。また、図3は、ノズルと共にガスバーナー36が使用される内燃式の加熱炉を使用した微粒子製造装置の一例を示している。このように、微粒子製造装置の構成は様々なものが考えられる。
【0035】
[固着除去機構の構成]
図4は、固着除去機構50のエッジ部周辺を示した正断面図である。図4に示されるように、固着除去機構50は、エッジ部52、操作部54を備える。操作部54は、エッジ部52の動きを操作する。操作部54の基本的な操作は、操作部54の端部を操作軸の周りに回転させることである。これにより、エッジ部52が回転する。なお、操作部54の操作軸とは、図4に示されるように、ノズル20の噴霧方向、または長軸方向と概略平行に配置された操作部54の長軸方向の中心軸をいう。また、図4の操作部54、ノズル20等は、その一部のみを示している。
【0036】
エッジ部52は、ノズル20に固着した固体に接触させ摺動させることで固体を除去する。これにより、ノズル20の先端部22近傍の固着を直接的に除去できる。エッジ部52の固着した固体への接触および摺動の動作は、操作部54の端部を操作軸の周りに回転させることで行うことができる。なお、ノズル20の先端部22とは、図4に示されるように、ノズル20の一面から突出している噴霧口の部分をいうが、突出した噴霧口の一部が凹状に窪んでいてもよい。
【0037】
図5は、形状の異なるノズル20に対する固着除去機構50の変形例のエッジ部周辺を示した正断面図である。図5に示される形状の固着除去機構50は、操作部54の端部を操作軸の周りに回転させることでエッジ部52を回転、摺動させてもよいが、固着除去機構50自体がノズル20の周囲を回転するように、操作部54を操作してもよい。このように、回転、摺動の操作は、固着除去機構50の形状に応じて異なっていてもよい。また、固着除去機構50は、図5に示されるように複数あってもよい。
【0038】
図6(a)から(d)は、それぞれエッジ部52が待機位置および固着除去位置にある状態を示す正面図および平面図である。図6(a)から(d)に示されるように、エッジ部52は、ノズル20からの溶液の噴霧を妨げない待機位置((a)および(b))およびノズル20の固着を除去する固着除去位置((c)および(d))に相互に移動可能である。これにより、微粒子製造装置1の使用時はエッジ部52を待機位置に移動させることで、エッジ部52を起点とした固着の生成を防ぐことができる。この動作も、操作部54の端部を操作軸の周りに回転させることで行うことができる。
【0039】
なお、待機位置および固着除去位置は、それぞれ所定の範囲であってもよい。すなわち、待機位置とは、ノズル20からの溶液の噴霧を妨げない範囲、固着除去位置とは、ノズル20の固着を除去する範囲を示していてもよい。したがって、待機位置は、図6(b)に示されるような固着除去位置から180度回転させた位置のみではなく、例えば、固着除去位置から90度回転させた位置から270度回転させた位置までの範囲、等であってもよい。また、固着除去位置は、図6(d)に示されるようなエッジ部52がノズル20の先端部22の真上の位置のみではなく、例えば、エッジ部52を摺動させる範囲、等であってもよい。
【0040】
エッジ部52は、固着除去位置においてノズル20の先端部22に接触しない。これにより、ノズル20の先端部22を傷つける虞が低減し、均質な粒子を安定的に製造できる。エッジ部52がノズル20の先端部22に接触しないにもかかわらず先端部22近傍の固着を摺動により除去できる理由は、先端部22近傍の固着は、溶液の噴霧方向に徐々に成長するからである。このように成長した固着は、先端部22に接触しない範囲で十分に近い距離にあるエッジ部52を摺動させることにより、エッジ部52に掻き出され除去される。エッジ部52とノズル20の先端部22との距離は、5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。なお、距離の下限は接触しないようにすればよいので特にないが、ノズル20の先端部22の保護の目的で余裕をもって制御するために、例えば、1mm以上とすることが好ましい。
【0041】
エッジ部52がノズル20の先端部22に接触しないようにする構成としては、例えば、後述するノズル先端保護部58を備えていてもよいが、そのほかに、固着除去機構50の可動範囲を操作部54の操作軸の周りの回転のみに制限することで構成してもよい。
【0042】
固着除去機構50は、ノズル20の固着除去位置において、ノズル20から噴出される液体を反射させることで固着を除去する反射部56を備えていることが好ましい。これにより、ノズル20から噴出される液体の反射を利用して固着除去ができ、固着の除去効果が高まり、均質な粒子をより安定的に製造できる。図7は、ノズル20から噴出される液体を反射部56で反射させている状態を示す概念図である。図7に示されるように、ノズル20から噴出される液体を反射部56で反射させることで、ノズル20の先端部22およびその近傍の固着をより確実に除去できる。なお、固着除去のためのノズル20からの液体の噴出は、微粒子を製造するための溶液の噴霧とは、噴出する液体の種類、圧力、流量等、異なる条件で行ってもよい。
【0043】
反射部56は、反射面が曲面、複数の平面、または曲面と平面の組み合わせで形成されていることが好ましい。これにより、ノズルから噴出される液体の反射をノズルの所定の部分に集中させることができ、固着の除去効果がさらに高まる。図8(a)から(d)は、それぞれ反射部56の形状の例を示す断面図である。なお、図8(a)から(d)に示される例では、エッジ部52と反射部56が一体に形成されているが、別々に形成されていてもよいし、エッジ部52と反射部56とが、固着除去機構50の別の箇所に形成されていてもよい。また、図7および図8は反射部56を接続している部分の操作部54が管状部材で形成されているが、この部分はどのような形状でもよく、例えば、板状部材、中空でない柱状部材などを使用してもよい。
【0044】
固着除去機構50は、固着除去位置においてエッジ部52がノズル20の先端部22に接触することを防ぐノズル先端保護部58を備えていることが好ましい。これにより、固着除去位置においてエッジ部52または反射部56をノズル20の先端部22と接触させない範囲で、十分に近づけることができる。エッジ部52と反射部56が一体に形成されている場合、ノズル先端保護部58を備えていることで、エッジ部52だけでなく反射部56もノズル20の先端部22に接触することを防ぐことができる。エッジ部52と反射部56が固着除去機構50の別の箇所に形成されている場合、ノズル先端保護部58は、エッジ部52がノズル20の先端部22に接触することを防ぐためのノズル先端保護部と反射部56がノズル20の先端部22に接触することを防ぐためのノズル先端保護部の両方を備えていることが好ましい。また、ノズル先端保護部58は、ノズル20と接する面が円弧上の凸曲面になっていることが好ましい。これにより、固着除去機構50の操作軸の周りでの回転をスムーズにすることができる。
【0045】
固着除去機構50がノズル先端保護部58を備えている場合、固着除去機構50の動作は、操作軸の周りの回転のみに制限しなくても、固着除去位置においてエッジ部52がノズル20の先端部22に接触することがなくなるため、操作軸方向の所定の範囲に移動する動作が可能となるように構成してもよい。このような構成にすることで、操作軸の周りの回転だけではエッジ部52または反射部56がノズル20の先端部22に接触する可能性のある形状にすることもできるようになる。例えば、反射部56の反射面の形状を曲面で形成しつつ、反射面をノズル20の先端部22により近づけることが可能となる。
【0046】
微粒子製造装置1は、ノズル20を保護する保護管60をさらに備え、固着除去機構50は、少なくとも一部が保護管60内に配置されることが好ましい。このように、ノズル20を熱から保護する保護管60内に固着除去機構50の少なくとも一部を配置することで、固着除去機構50も併せて熱から保護することができ、固着除去機構50の熱による変形や破損を防ぐことができる。固着除去機構50が熱により変形や破損をすると、固着除去時にノズル20の先端部22を傷つける虞が生じる。
【0047】
操作部54は、管内に冷却用の熱媒体を通す中空の管状に形成されていることが好ましい。これにより、固着除去機構50を熱から保護することができ、固着除去機構50の熱による変形や破損を防ぐことができる。冷却用の熱媒体は空気、水などを使用することができる。空気を使用する場合は、そのまま炉芯管30内に放出することができ、操作部54の構造を簡易にすることができる。水などの液体を使用する場合は、冷却効果を大きくすることができる。水などの液体を使用する場合は、炉芯管30内に放出させないで、炉芯管30外に戻す構成、または、循環させる構成にすることが好ましい。
【0048】
[実施例]
図9の(a)から(c)は、それぞれ実施例の固着除去機構の形状を示す平面図、正面図、および側面図である。なお、図9の(b)および(c)は、固着除去機構の操作部の長軸方向の長さを省略している。SUS316L製のパイプおよび板状部材を使用して、図9に示される形状に加工して、実施例の固着除去機構を製作した。実施例の固着除去機構は、回転させたときにエッジ部の下端がノズルの先端部から3mm離れた位置を通過するように、以下の実証で使用するノズルの形状に合わせて製作した。
【0049】
製作した実施例の固着除去機構を用いて、図3に示す噴霧熱分解装置を使用し、効果の実証を行った。噴霧口に樹脂製のパッキンを使用した3流体ノズルを燃焼管(炉芯管)下部に設置し、固着除去機構を3流体ノズルと併行に挿入し設置した。図10は、実施例の固着除去機構およびノズルの配置を示す断面図である。固着除去機構は、図10のように、ノズルの周囲に設けた保護管の内側に設置し、保護管の内部にはノズルおよび固着除去機構を保護するための冷却エアを導入した。また、保護管の外面には、断熱材を配置した。被合成物を加熱するための熱源には、ガスバーナーを用いた。また、固着除去機構は、保護管の下面で保持した。
【0050】
次に、蒸留水1リットルに硝酸アルミニウムを0.04mоl、オルトケイ酸テトラエチルを0.16mоl溶解したアルミニウムおよびケイ素の混合水溶液を準備し、溶液タンクに投入した。そして、投入された水溶液をポンプにより、3流体ノズルを介してミスト状に噴霧し、内部温度1000℃の反応部(炉芯管)を通過させた。その後、回収装置(バグフィルター)を用いて粒子を回収した。
【0051】
噴霧時間は計6時間とし、固着除去機構を使用しない場合と、1時間毎に、原料溶液から洗浄液(蒸留水)に切り替えて3分経過した後、固着除去機構を固着除去位置に移動し、固着除去機構の摺動操作を30秒行った場合とで、ノズル先端の状態を比較した。その結果、固着除去機構を使用しない場合ではノズル先端に固着が確認された。これに対し、1時間毎に固着除去機構を操作した場合では、固着が確認されなかった。また、1時間毎に固着除去機構を操作した場合のノズルの先端部には、傷等の不具合は見られなかった
【0052】
以上の結果から、本発明の微粒子製造装置は、ノズルの先端部近傍の固着を直接的に除去できると共にノズルの先端部を傷つける虞が低減し、均質な粒子を安定的に製造できる微粒子製造装置である。
【符号の説明】
【0053】
1 微粒子製造装置
10 溶液タンク
12 ポンプ
14 流量計
16 洗浄タンク
20 ノズル
22 先端部
30 炉芯管
32 加熱炉
34 ヒーター
36 ガスバーナー
40 回収装置
42 吸引ファン
50 固着除去機構
52 エッジ部
54 操作部
56 反射部
58 ノズル先端保護部
60 保護管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10