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  • 特許-炭化ケイ素粉末の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】炭化ケイ素粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/97 20170101AFI20240710BHJP
【FI】
C01B32/97
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020012914
(22)【出願日】2020-01-29
(65)【公開番号】P2021116220
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】高野 美育
(72)【発明者】
【氏名】野中 潔
(72)【発明者】
【氏名】堀口 加織
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-158871(JP,A)
【文献】特開昭59-223214(JP,A)
【文献】特開昭61-168514(JP,A)
【文献】国際公開第2013/027790(WO,A1)
【文献】特開2014-047105(JP,A)
【文献】特表2012-525313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質シリカ、カーボンブラックおよび炭化ホウ素の各原料粉末を混合し、不活性ガス雰囲気で1800℃以上2000℃以下で焼成することでホウ素を含有する炭化ケイ素の前駆体を生成する第一工程と、
ホウ素の濃度が10ppm以上100ppm未満になるように前記前駆体と不純物を含まない炭化ケイ素粉末とを混合し、不活性ガス雰囲気で2200℃以上で焼成する第二工程と、を含むことを特徴とする炭化ケイ素粉末の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体には、ホウ素が100ppm以上含有されていることを特徴とする請求項1記載の炭化ケイ素粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素を含有する炭化ケイ素粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホウ素を含有する炭化ケイ素粉末の製造方法が知られている。例えば、特許文献1記載の方法では、種結晶を用いた昇華再結晶法で成長雰囲気中の不純物としてホウ素原子を高濃度に含有させ、その結果、炭化珪素単結晶中にホウ素原子を所定量以上含有させている。また、特許文献2記載の方法では、無機ケイ酸質原料と炭素質原料とホウ素化合物とを混合した原料を2200℃以上で焼成し、得られた塊状物を粉砕することで粒子の全体にホウ素が0.8%~6%含有されている炭化ケイ素粉末を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-157092号公報
【文献】特開2018-158871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献に記載された例における炭化ケイ素におけるホウ素濃度は、せいぜい0.1重量%程度であり、ホウ素濃度が数十ppmの例は記載されていない。また、特許文献に記載された方法で数十ppmのホウ素を含有する炭化ケイ素粉末を製造しようとしても、実際には計算通りにホウ素濃度を制御するのは容易ではない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、含有されるホウ素を数十ppmに制御できる炭化ケイ素粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の炭化ケイ素粉末の製造方法は、非晶質シリカ、カーボンブラックおよび炭化ホウ素の各原料粉末を混合し、不活性ガス雰囲気で焼成することでホウ素を含有する炭化ケイ素の前駆体を生成する第一工程と、ホウ素の濃度が所望の範囲になるように前記前駆体と不純物を含まない炭化ケイ素粉末とを混合し、不活性ガス雰囲気で焼成する第二工程と、を含むことを特徴としている。
【0007】
このように二段階の焼成工程を経てホウ素を含有する炭化ケイ素粉末を製造することで、炭化ケイ素に含有されるホウ素の濃度を数十ppmに調整することができる。また、焼成工程におけるホウ素の消失を抑止することができる。
【0008】
(2)また、本発明の炭化ケイ素粉末の製造方法は、前記前駆体には、ホウ素が100ppm以上含有されていることを特徴としている。これにより、高い再現性で最終生成物の炭化ケイ素のホウ素の濃度を数十ppmに制御することができる。
【0009】
(3)また、本発明の炭化ケイ素粉末の製造方法は、前記第一工程では、1800℃以上2000℃以下で焼成を行うことを特徴としている。これにより、ホウ素ドープの反応を抑制しつつ炭化ホウ素の残留を抑えることができる。その結果、第一または第二工程におけるホウ素の消失量を低減できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭化ケイ素粉末に含有されるホウ素を数十ppmに調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の製造工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、二段階の焼成工程によりホウ素(B)を数十ppm含有する炭化ケイ素(SiC)粉末を得る方法を発明した。このような炭化ケイ素粉末は、ホウ素がドープされた炭化ケイ素単結晶の電気抵抗が適切な範囲に収まるため、パワー半導体向けの材料として好適である。以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
[炭化ケイ素粉末の製造方法]
図1は、本発明の製造工程の一例を示す図である。図1に示す製造方法は、第一工程と第二工程とからなる。第一工程では、ホウ素を数百~数千ppm含有する炭化ケイ素粉末の前駆体を初めに合成する。前駆体とは、炭化ケイ素へホウ素がドープされる反応が開始後未完了で得られる中間生成物である。そして、第二工程では、得られた前駆体を炭化ケイ素粉末と混合して焼成する。このようにして、ホウ素を数十ppm含有するホウ素含有炭化ケイ素粉末を得る。各工程の詳細を次に説明する。
【0014】
(1)第一工程
非晶質シリカ(SiO)、カーボンブラック(C)および炭化ホウ素(BC)を所定量測り取る。炭化ホウ素は、ホウ素源として用いる。非晶質シリカとカーボンブラックとは、C/Si=3(モル比)となるように配合する。これにより、過不足なく式(1)に示す反応が進行し、炭化ケイ素が生成される。このような反応を用いることで炭化ケイ素の分子骨格にホウ素が置き換わりやすくなる。
【0015】
炭化ホウ素の混合量は、式(2)により算出できる。なお、仕込みのホウ素濃度とは、対象となる工程を行う前の混合原料中のホウ素濃度を指す。測り取った原料は、ホバートミキサ、ハドルミキサ、ヘンシェルミキサなどの混合機を用いて混合する。得られた混合原料は黒鉛製のるつぼに仕込み、閉鎖系の高温炉を用い不活性ガス雰囲気下で焼成する。不活性ガス雰囲気としてはアルゴン雰囲気の下で行うのが好ましい。
【0016】
焼成は、1800℃以上2000℃以下の温度で3時間以上維持するのが好ましい。これにより、ホウ素ドープの反応を完全に進め切らずに抑制しつつ炭化ホウ素の残留を抑えることができる。その結果、前駆体を得ることができ、第一または第二工程におけるホウ素の消失量を低減できる。
【数1】
【数2】
【0017】
第一工程で得られた前駆体と炭化ケイ素粉末を所定量測り取る。前駆体には、ホウ素が100ppm以上含有されていることが好ましい。これにより、高い再現性で最終生成物の炭化ケイ素のホウ素の濃度を数十ppmに制御することができる。前駆体のホウ素の濃度は、300ppm以上500ppm以下であることがさらに好ましい。前駆体のホウ素以外の不純物の濃度は、100ppm以下である。炭化ケイ素粉末は不純物を含まないものを用いる。用いられる炭化ケイ素粉末の粒度は500μm以上850μm以下であることが好ましい。なお、前駆体の混合量は、式(3)により求めることができる。
【0018】
測り取った原料は袋、容器や混合機などで混合して黒鉛製のるつぼに仕込み、閉鎖系の高温炉を用い不活性ガス雰囲気下で焼成する。焼成は、アルゴン雰囲気下において2200℃以上で6時間以上維持することが好ましい。得られる生成物は焼結しているため、粉砕する。粉砕後の粒度は、50μm以上1000μm以下であることが好ましい。粉砕された生成物は塩酸や硝酸などの酸によって洗浄し、粉砕によるコンタミネーションを除去する。このようにして、ホウ素を含有する炭化ケイ素粉末を得ることができる。なお、生成された炭化ケイ素粉末のホウ素以外の不純物の濃度は、100ppm以下であるため、パワー半導体向けの材料として好ましい。
【数3】
【0019】
このように二段階の焼成工程を経てホウ素を含有する炭化ケイ素粉末を製造することで、炭化ケイ素に含有されるホウ素の濃度を数十ppmに調整することができる。また、焼成工程におけるホウ素の消失を抑止することができる。
【0020】
[実施例]
(実施例1~5、比較例1~2共通)
上記の製造方法に沿って、条件を変えて第一工程および第二工程を行なった。第一工程では、非晶質シリカ、カーボンブラックおよび炭化ホウ素を所定量測り取り、混合した。得られた混合原料は黒鉛製のるつぼに仕込み、富士電波工業社製多目的高温炉「ハイマルチ(登録商標)」を用いて焼成した。焼成はアルゴン雰囲気下で2000℃、3時間の条件で行なった。
【0021】
第一工程で十分な前駆体が生成された場合に第二工程を行なった。第二工程では、所定量の前駆体と炭化ケイ素粉末500gを測り取った。炭化ケイ素粉末として、不純物を含まず粒度500μm~850μmのものを用いた。測り取った原料は袋混合して黒鉛製のるつぼに仕込み、富士電波工業社製多目的高温炉「ハイマルチ(登録商標)」を用いて焼成した。焼成はアルゴン雰囲気下で2200℃、6時間の条件で行った。焼結した生成物を粉砕して100μm~850μmの粒度に調整した。また、塩酸によって洗浄を行い、粉砕によるコンタミネーションを除去した。
【0022】
各工程で得られた生成物中のホウ素濃度および不純物濃度は湿式分析により測定した。アルカリ溶融法または加圧酸分解によって測定溶液を調製し、堀場製作所社製のICP発光分光分析装置「ULTIMA2」を用いてホウ素濃度を測定した。表1および表2に、実験データを示す。なお、表中の「仕込み」、「生成物」は、各工程に対する仕込みや生成物を指す。例えば、第一工程に対する生成物は中間生成物であり、第二工程に対する生成物は最終生成物である。
【表1】
【表2】
【0023】
(実施例1)
第一工程として、カーボンブラックを180g、非晶質シリカを300g、炭化ホウ素を0.43g測り取って混合し前駆体を合成した。混合した原料の仕込みのホウ素濃度は1700ppmである。混合した原料をアルゴン雰囲気下で2000℃、3時間の条件で焼成し、前駆体を得た。得られた前駆体を分析したところ、ホウ素は1211ppm含まれていることが分かった。
【0024】
第二工程として、得られた前駆体8.4gと炭化ケイ素粉末500gを混合し、アルゴン雰囲気下において2200℃で6時間焼成し、ホウ素を含有する炭化ケイ素粉末を得た。これを分析したところ、仕込みのホウ素濃度が20.0ppmであったのに対し、実際のホウ素濃度は17.8ppmであった。このようにして仕込みの濃度とほぼ同等の濃度のホウ素を含有する炭化ケイ素粉末を得ることができた。なお、生成された炭化ケイ素粉末の不純物濃度は、表3に示すように100ppm以下であった。
【表3】
【0025】
(実施例2~4)
表1、表2に示すように、仕込みのホウ素濃度を変化させ、実施例1と同様にホウ素を含有する炭化ケイ素を合成した。仕込みの濃度とほぼ同等の濃度のホウ素を含有する炭化ケイ素を得ることができた。
【0026】
(実施例5)
第一工程において、表1に示すように仕込みのホウ素濃度を100ppmとして焼成を行ったところ、生成物中のホウ素濃度の減少が49.1ppmまでで止まった。この生成物を用いて第二工程を行なえば数十ppmのホウ素濃度の炭化ケイ素を得ることが見込まれる。しかしながら、第一工程での減少幅が大きく、実施例1~4と比較するとホウ素濃度の制御の再現性が十分に高いとはいえない。
【0027】
(比較例1~2)
第一工程において、表1に示すように仕込みのホウ素濃度を20ppm~50ppmとして焼成を行ったところ、生成物中のホウ素濃度が仕込みの濃度と比較して大きく減少した。非晶質シリカの一部が炭化ホウ素と反応することで、ホウ素が取り込まれると推測されるが、カーボンブラックと非晶質シリカとが反応する際、非晶質シリカの一部は揮発する。よって、仕込みのホウ素源の量が少ない場合、ホウ素を取り込んだ非晶質シリカの揮発の影響が大きくなり、仕込みの濃度と同等のホウ素濃度の前駆体を合成できなかったと考えられる。
【0028】
(比較例3、4)
上記の第二工程に準拠した工程で、炭化ケイ素粉末と炭化ホウ素とを混合して焼成した。この工程では、前駆体に代えて炭化ホウ素を用いた。炭化ホウ素の混合量は式(4)によって求めた。このとき、生成物中のホウ素濃度が仕込みの濃度と比較して大きく減少した。カーボンブラックと非晶質シリカから合成したときと比較してホウ素が取り込まれにくいためと考えられる。
【表4】

【数4】
図1