(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品、積層セラミック電子部品の製造方法及び回路基板
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20240710BHJP
H01C 17/00 20060101ALI20240710BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20240710BHJP
H01G 2/06 20060101ALI20240710BHJP
H01G 4/228 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
H01G4/30 201F
H01C17/00 100
H01F17/00 A
H01G2/06 500
H01G4/228 A
H01G4/30 201K
H01G4/30 311E
H01G4/30 512
H01G4/30 513
H01G4/30 517
(21)【出願番号】P 2020037564
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 潤
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-134398(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090530(WO,A1)
【文献】特開平09-097733(JP,A)
【文献】特開2019-046913(JP,A)
【文献】特開2019-186412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 2/06
H01G 4/00-4/40
H01G 13/00-13/06
H01C 7/00
H01C 17/00
H01F 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸方向に向いた第1端面及び第2端面と、前記第1軸に直交する第2軸方向に積層され前記第1端面又は前記第2端面から引き出された複数の内部電極と、を有するセラミック素体と、
前記第1端面を覆うように配置された第1外部電極と、
前記第2端面を覆うように配置された第2外部電極と、
を具備する積層セラミック電子部品であって、
前記第1外部電極及び前記第2外部電極は、それぞれ、前記第1軸方向に向いた電極端面を有し、
前記電極端面は、
前記第2軸方向における周縁に位置
し、前記第1軸及び前記第2軸に直交する第3軸の方向に沿って延びる帯状の一対の第1周縁領域と、
前記一対の第1周縁領域の間に
前記第3軸の方向に沿って延び、前記一対の第1周縁領域から陥凹した第1凹状領域と、を有し、
前記積層セラミック電子部品を
前記第3軸
の方向に2等分する断面において、前記一対の第1周縁領域各々と前記第1凹状領域との境界の間を結ぶ仮想的な線分の長さをaとし、前記線分から前記第1凹状領域に下ろした垂線のうち、前記第1軸方向に最も長い垂線の長さをbとした場合に、b/aが0.004以上0.025以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記セラミック素体の前記第1端面及び前記第2端面は、それぞれ、
前記第2軸方向における周縁に位置する一対の第2周縁領域と、
前記一対の第2周縁領域の間に位置し前記一対の第2周縁領域から前記第1軸方向内方に陥凹した第2凹状領域と、を有し、
前記一対の第1周縁領域は、前記一対の第2周縁領域をそれぞれ覆い、
前記第1凹状領域は、前記第2凹状領域を覆う
積層セラミック電子部品。
【請求項3】
請求項2に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記セラミック素体は、
前記複数の内部電極と、複数のセラミック層とが交互に積層された積層部と、
前記積層部の前記第2軸方向外側に配置された一対のカバー部と、を含み、
前記一対の第2周縁領域は、前記一対のカバー部の前記第1軸方向における表面に配置される
積層セラミック電子部品。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記セラミック素体は、前記第2軸方向における寸法が、前記第3軸方向における寸法よりも大きく構成される
積層セラミック電子部品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第1軸方向及び前記第3軸方向における寸法が、0.2mm以上2.0mm以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第2軸方向における寸法が、300μm以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項7】
請求項2又は3に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記一対の第2周縁領域の前記第2軸方向における幅は、4μm以上70μm以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項8】
請求項7に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記一対の第2周縁領域の前記第2軸方向における幅は、6μm以上55μm以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項9】
請求項8に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記一対の第2周縁領域の前記第2軸方向における幅は、11μm以上35μm以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項10】
第1軸方向に向いた第1端面及び第2端面と、前記第1軸に直交する第2軸方向に積層され前記第1端面又は前記第2端面から引き出された複数の内部電極と、を有するセラミック素体を作製し、
前記第1端面を覆うように配置された第1外部電極と、前記第2端面を覆うように配置された第2外部電極と、を形成する
積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記第1外部電極及び前記第2外部電極は、それぞれ、前記第1軸方向に向いた電極端面を有し、
前記電極端面は、
前記第2軸方向における周縁に位置
し、前記第1軸及び前記第2軸に直交する第3軸の方向に沿って延びる帯状の一対の第1周縁領域と、
前記一対の第1周縁領域の間に
前記第3軸の方向に沿って延び、前記一対の第1周縁領域から陥凹した第1凹状領域と、を有し、
前記積層セラミック電子部品を
前記第3軸
の方向に2等分する断面において、前記一対の第1周縁領域各々と前記第1凹状領域との境界の間を結ぶ仮想的な線分の長さをaとし、前記線分から前記第1凹状領域に下ろした垂線のうち、前記第1軸方向に最も長い垂線の長さをbとした場合に、b/aが0.004以上0.025以下である
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記セラミック素体を作製する工程は、
未焼成の内部電極が形成され第1の密度を有する複数の第1セラミックシートと、前記第1の密度より大きい第2の密度を有する複数の第2セラミックシートと、を準備する工程と、
前記複数の第1セラミックシートを前記第2軸方向に積層した積層体の前記第2軸方向外側に、前記複数の第2セラミックシートを前記第2軸方向に積層する工程と、
前記複数の第1セラミックシート及び前記複数の第2セラミックシートの積層体を焼成する工程と、を含み、
前記第1の密度をc、前記第2の密度をdとした場合に、
0.050≦(d-c)/d≦0.150
を満たす
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項12】
実装基板と、
第1軸方向に向いた第1端面及び第2端面と、前記第1軸に直交する第2軸方向に向いた第1主面及び第2主面と、前記第2軸方向に積層され前記第1端面又は前記第2端面から引き出された複数の内部電極と、を有するセラミック素体と、
前記第1端面を覆うように配置された第1外部電極と、
前記第2端面を覆うように配置された第2外部電極と、
を有し、前記第1主面又は前記第2主面が前記実装基板と対向するように配置された積層セラミック電子部品と、
前記第1外部電極と前記実装基板とをそれぞれ接続する第1はんだと、
前記第2外部電極と前記実装基板とを接続する第2はんだと、
を具備し、
前記第1外部電極及び前記第2外部電極は、それぞれ、前記第1軸方向に向いた電極端面を有し、
前記電極端面は、
前記第2軸方向における周縁に位置
し、前記第1軸及び前記第2軸に直交する第3軸の方向に沿って延びる帯状の一対の第1周縁領域と、
前記一対の第1周縁領域の間に
前記第3軸の方向に沿って延び、前記一対の第1周縁領域から陥凹した第1凹状領域と、を有し、
前記積層セラミック電子部品を
前記第3軸
の方向に2等分する断面において、前記一対の第1周縁領域各々と前記第1凹状領域との境界の間を結ぶ仮想的な線分の長さをaとし、前記線分から前記第1凹状領域に下ろした垂線のうち、前記第1軸方向に最も長い垂線の長さをbとした場合に、b/aが0.004以上0.025以下である
回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品及びその製造方法、並びに積層セラミック電子部品を備えた回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック電子部品は、積層された複数の内部電極を含むセラミック素体と、当該セラミック素体の端部を覆う一対の外部電極と、を備える。積層セラミック電子部品では、典型的には、外部電極がはんだ付け等によって回路基板のランドに接続される。
【0003】
例えばリフロー法によって一対の外部電極を回路基板にはんだ付けする際、特許文献1の段落0008及び
図3に記載されているように、一対のはんだの表面張力により積層セラミックコンデンサが立ち上がる、いわゆるマンハッタン現象(ツームストーン現象)が生じることがあった。
【0004】
上記現象を抑制する観点から、特許文献1に記載の積層コンデンサは、凹状面となる端面を有するセラミック焼結体(セラミック素体)と、平坦な外表面を有し当該端面を覆う外部電極と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、電子機器の小型化に伴い、積層セラミック電子部品が軽量化し、マンハッタン現象(ツームストーン現象)もより生じやすい傾向にある。このため、特許文献1の構成では、十分にマンハッタン現象を抑制できないことがあった。また、マンハッタン現象の抑制のためにセラミック焼結体(セラミック素体)の凹状面を深くすると、端面の周縁が突出した形状となり、クラックなどの構造欠陥が生じることがあった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、セラミック素体の構造欠陥を抑制しつつ、マンハッタン現象を抑制することが可能な積層セラミック電子部品及びその製造方法、並びに積層セラミック電子部品を備えた回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る積層セラミック電子部品は、セラミック素体と、第1外部電極と、第2外部電極と、を具備する。
上記セラミック素体は、第1軸方向に向いた第1端面及び第2端面と、上記第1軸に直交する第2軸方向に積層され上記第1端面又は上記第2端面から引き出された複数の内部電極と、を有する。
上記第1外部電極は、上記第1端面を覆うように配置される。
上記第2外部電極は、上記第2端面を覆うように配置される。
上記第1外部電極及び上記第2外部電極は、それぞれ、上記第1軸方向に向いた電極端面を有する。
上記電極端面は、
上記第2軸方向における周縁に位置し、上記第1軸及び上記第2軸に直交する第3軸の方向に沿って延びる帯状の一対の第1周縁領域と、
上記一対の第1周縁領域の間に前記第3軸の方向に沿って延び、上記第1周縁領域から陥凹した第1凹状領域と、を有する。
上記積層セラミック電子部品を上記第3軸の方向に2等分する断面において、上記一対の第1周縁領域各々と上記第1凹状領域との境界の間を結ぶ仮想的な線分の長さをaとし、上記線分から上記第1凹状領域に下ろした垂線のうち、上記第1軸方向に最も長い垂線の長さをbとした場合に、b/aが0.004以上0.025以下である。
【0009】
この構成では、電極端面が上記b/aの条件を満たした第1凹状領域を有する。b/aが0.004以上の条件を満たすことで、第1凹状領域が十分に陥凹し、はんだによって基板に実装される際に、はんだが当該第1凹状領域に滞留し易くなる。したがって、滞留した溶融はんだによって外部電極の基板からの浮きが抑制され、マンハッタン現象を抑制することができる。b/aが0.025以下の条件を満たすことで、第1凹状領域の形状を適度に緩やかな凹状とし、セラミック素体の第1端面及び第2端面の周縁が突出した形状となることを防止できる。したがって、セラミック素体におけるクラック等の構造欠陥を抑制することができる。以上より、この構成によれば、構造欠陥を抑制しつつ、マンハッタン現象を抑制することが可能な積層セラミック電子部品を得ることができる。
【0010】
上記セラミック素体の上記第1端面及び上記第2端面は、それぞれ、
上記第2軸方向における周縁に位置する一対の第2周縁領域と、
上記一対の第2周縁領域の間に位置し上記一対の第2周縁領域から上記第1軸方向内方に陥凹した第2凹状領域と、を有し、
上記一対の第1周縁領域は、上記一対の第2周縁領域をそれぞれ覆い、
上記第1凹状領域は、上記第2凹状領域を覆ってもよい。
これにより、第1凹状領域において第1外部電極及び第2外部電極の厚みが薄くなることを防止でき、第1端面及び第2端面を第1外部電極及び第2外部電極によって確実に覆うことができる。さらに、b/aが0.025以下の条件を満たすことで、第2凹状領域と第2周縁領域との境界部の形状を緩やかにすることができ、当該境界部近傍におけるクラック等の構造欠陥を抑制することができる。
【0011】
上記セラミック素体は、
上記複数の内部電極と、複数のセラミック層とが交互に積層された積層部と、
上記積層部の上記第2軸方向外側に配置された一対のカバー部と、を含む。
例えば、上記一対の第2周縁領域は、上記一対のカバー部の上記第1軸方向における表面に配置されてもよい。
【0012】
例えば、上記セラミック素体は、上記第2軸方向における寸法が、上記第3軸方向における寸法よりも大きく構成されてもよい。
このようなセラミック素体では、実装時に特にバランスを崩しやすく、マンハッタン現象が起きやすい。このようなセラミック素体を備えた積層セラミックコンデンサの電極端面に上記第1凹状領域を設けることで、マンハッタン現象を効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明の他の形態に係る積層セラミック電子部品の製造方法は、第1軸方向に向いた第1端面及び第2端面と、上記第1軸に直交する第2軸方向に積層され上記第1端面又は上記第2端面から引き出された複数の内部電極と、を有するセラミック素体を作製する工程を含む。
上記第1端面を覆うように配置された第1外部電極と、上記第2端面を覆うように配置された第2外部電極と、が形成される。
上記第1外部電極及び上記第2外部電極は、それぞれ、上記第1軸方向に向いた電極端面を有する。
上記電極端面は、
上記第2軸方向における周縁に位置し、上記第1軸及び上記第2軸に直交する第3軸の方向に沿って延びる帯状の一対の第1周縁領域と、
上記一対の第1周縁領域の間に前記第3軸の方向に沿って延び、上記第1周縁領域から陥凹した第1凹状領域と、を有する。
上記積層セラミック電子部品を上記第3軸の方向に2等分する断面において、上記一対の第1周縁領域各々と上記第1凹状領域との境界の間を結ぶ仮想的な線分の長さをaとし、上記線分から上記第1凹状領域に下ろした垂線のうち、上記第1軸方向に最も長い垂線の長さをbとした場合に、b/aが0.004以上0.025以下である。
【0014】
例えば、上記セラミック素体を作製する工程は、
未焼成の内部電極が形成され第1の密度を有する複数の第1セラミックシートと、上記第1の密度より大きい第2の密度を有する複数の第2セラミックシートと、を準備する工程と、
上記複数の第1セラミックシートを上記第2軸方向に積層した積層体の上記第2軸方向外側に、上記複数の第2セラミックシートを上記第2軸方向に積層する工程と、
上記複数の第1セラミックシート及び上記複数の第2セラミックシートの積層体を焼成する工程と、を含み、
上記第1の密度をc、上記第2の密度をdとした場合に、
0.050≦(d-c)/d≦0.150
を満たしていてもよい。
【0015】
0.050≦(d-c)/dとすることにより、セラミック素体の焼成時において、第1の密度を有する第1セラミックシートを第2の密度を有する第2セラミックシートに対して大きく収縮させることができる。これにより、b/aが0.004以上となるセラミック素体の第1凹状領域を形成することができる。したがって、上述のように、第1凹状領域によってマンハッタン現象を抑制することが可能となる。
(d-c)/d≦0.150とすることにより、セラミック素体の焼成時において、第1セラミックシートの収縮量を適度に抑制することができる。これにより、b/aが0.025以下となる第1凹状領域を形成することができ、上述のように、セラミック素体のクラックを抑制することができる。さらに、(d-c)/d≦0.150とすることにより、第1セラミックシートの積層体により形成された積層部と、第2セラミックシートの積層体により形成されたカバー部との境界近傍におけるデラミネーションを抑制することができる。したがって、セラミック素体の構造欠陥を効果的に抑制することができる。
【0016】
本発明のさらに他の形態に係る回路基板は、実装基板と、積層セラミック電子部品と、第1はんだ及び第2はんだと、を具備する。
上記積層セラミック電子部品は、セラミック素体と、第1外部電極と、第2外部電極と、を有する。
上記セラミック素体は、第1軸方向に向いた第1端面及び第2端面と、上記第1軸に直交する第2軸方向に向いた第1主面及び第2主面と、上記第2軸方向に積層され上記第1端面又は上記第2端面から引き出された複数の内部電極と、を有する。
上記第1外部電極は、上記第1端面を覆うように配置される。
上記第2外部電極は、上記第2端面を覆うように配置される。
上記積層セラミック電子部品は、上記第1主面又は上記第2主面が上記実装基板と対向するように配置される。
上記第1はんだ及び上記第2はんだは、上記第1外部電極及び上記第2外部電極と上記実装基板とをそれぞれ接続する。
上記第1外部電極及び上記第2外部電極は、それぞれ、上記第1軸方向に向いた電極端面を有する。
上記電極端面は、
上記第2軸方向における周縁に位置し、上記第1軸及び上記第2軸に直交する第3軸の方向に沿って延びる帯状の一対の第1周縁領域と、
上記一対の第1周縁領域の間に前記第3軸の方向に沿って延び、上記第1周縁領域から陥凹した第1凹状領域と、を有する。
上記積層セラミック電子部品を上記第3軸の方向に2等分する断面において、上記一対の第1周縁領域各々と上記第1凹状領域との境界の間を結ぶ仮想的な線分の長さをaとし、上記線分から上記第1凹状領域に下ろした垂線のうち、上記第1軸方向に最も長い垂線の長さをbとした場合に、b/aが0.004以上0.025以下である。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、セラミック素体の構造欠陥を抑制しつつ、マンハッタン現象を抑制することが可能な積層セラミック電子部品及びその製造方法、並びに積層セラミック電子部品を備えた回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの斜視図である。
【
図2】上記積層セラミックコンデンサのA-A'線に沿った断面図である。
【
図3】上記積層セラミックコンデンサのB-B'線に沿った断面図である。
【
図5】上記積層セラミックコンデンサを備えた回路基板を示す断面図である。
【
図6】上記実施形態の比較例に係る回路基板を示す断面図である。
【
図7】上記積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
【
図8】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図面には、相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が適宜示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は全図において共通である。
【0020】
[積層セラミックコンデンサの全体構成]
図1~3は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。
図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。
図2は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のA-A'線に沿った断面図である。
図3は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0021】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14と、第2外部電極15とを備える。外部電極14,15はそれぞれ、セラミック素体11の表面に形成されている。
【0022】
セラミック素体11は、略直方体形状を有する。つまり、セラミック素体11は、X軸方向を向いた第1端面11a及び第2端面11bと、Y軸方向を向いた第1側面11c及び第2側面11dと、Z軸方向を向いた第1主面11e及び第2主面11fと、を含む。端面11a,11bは、Y軸方向及びZ軸方向に沿って延びる。側面11c,11dは、Z軸方向及びX軸方向に沿って延びる。主面11e,11fは、X軸方向及びY軸方向に沿って延びる。
【0023】
セラミック素体11の側面11c,11d、及び主面11e,11fはいずれも、平坦面として構成される。本実施形態に係る平坦面とは、全体的に見たときに平坦と認識される面であれば厳密に平面でなくてもよく、例えば、表面の微小な凹凸形状や、所定の範囲に存在する緩やかな湾曲形状などを有する面も含まれる。例えば、セラミック素体11の各面を接続する稜部は、面取りされていてもよい。なお、端面11a,11bに関しては、後述するように、一部が凹状に形成される。
【0024】
積層セラミックコンデンサ10のサイズとしては、例えばX軸方向の寸法が0.2mm~2.0mm、Y軸方向の寸法が0.2mm~2.0mmである。積層セラミックコンデンサ10は、X軸方向及びY軸方向のどちらに長手を有していてもよく、
図1~3に示す例では、X軸方向に長手を有している。積層セラミックコンデンサ10のZ軸方向の寸法は、例えば300μm以下であり、低背型に構成されている。なお、積層セラミックコンデンサ10の各寸法は、各方向に沿って最も大きい部分の寸法とする。
【0025】
セラミック素体11は、積層部16と、一対のカバー部17と、を有する。積層部16では、複数の内部電極12,13と、複数のセラミック層18と、が交互に積層される。一対のカバー部17は、積層部16のZ軸方向外側にそれぞれ配置される。カバー部17は、セラミック素体11の主面11e,11f近傍を保護し、内部電極12,13の絶縁性を確保する。
【0026】
積層部16は、複数の第1内部電極12と、複数の第2内部電極13と、を有し、例えば、第1内部電極12、セラミック層18、第2内部電極13、及びセラミック層18の順に積層される。第1内部電極12は、第1端面11aに引き出され、第2端面11bから離間している。第2内部電極13は、第2端面11bに引き出され、第1端面11aから離間している。なお、内部電極12、13の層数は、図示の例に限定されない。
【0027】
内部電極12,13を形成する電気の良導体としては、典型的にはニッケル(Ni)が挙げられ、この他にも銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)などを主成分とする金属又は合金が挙げられる。なお、主成分とは、組成比で50%以上を占める成分のことを言うものとする。
【0028】
セラミック層18は、誘電体セラミックスによって形成されている。セラミック層18は、積層部16における容量を大きくするために、高誘電率の誘電体セラミックスで形成される。上記高誘電率の誘電体セラミックスとして、チタン酸バリウム(BaTiO3)系材料の多結晶体、つまりバリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト構造の多結晶体が用いられる。これにより、大容量の積層セラミックコンデンサ10が得られる。
【0029】
なお、セラミック層18は、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)系、チタン酸カルシウム(CaTiO3)系、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)系、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)系、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Zr,Ti)O3)系、ジルコン酸バリウム(BaZrO3)系、酸化チタン(TiO2)系などで形成されてもよい。
【0030】
積層部16は、Y軸方向周縁に位置し、内部電極12,13の形成されていないサイドマージン部19を有する(
図3参照)。サイドマージン部19により、セラミック素体11の側面11c,11d近傍を保護し、内部電極12,13の絶縁性を確保できる。
【0031】
カバー部17及びサイドマージン部19は、誘電体セラミックスで形成されている。カバー部17及びサイドマージン部19を形成する材料は、絶縁性セラミックスであればよいが、セラミック層18と同様の誘電体セラミックスを用いることにより、セラミック素体11における内部応力が抑制される。
【0032】
第1外部電極14は、第1端面11aを覆うように配置される。
図1及び
図2に示す例では、第1外部電極14は、第1端面11aを覆い、第1主面11e及び第2主面11fと、第1側面11c及び第2側面11dと、に延出する。第1外部電極14は、第1端面11aに引き出された第1内部電極12に接続される。
【0033】
第2外部電極15は、第2端面11bを覆うように配置される。
図1及び
図2に示す例では、第2外部電極15は、第2端面11bを覆い、第1主面11e及び第2主面11fと、第1側面11c及び第2側面11dと、に延出する。第2外部電極15は、第2端面11bに引き出された第2内部電極13に接続される。
【0034】
[セラミック素体の詳細な構成]
図4は、
図2の一部を示す拡大図である。本実施形態において、第1端面11a及び第2端面11bは、X軸方向に直交する面に関してほぼ面対称に構成されるため、
図4では第1端面11a側の図示を省略する。
例えば、第1端面11a及び第2端面11bは、それぞれ、一対の第2周縁領域20と、第2凹状領域21と、を有する。
【0035】
一対の第2周縁領域20は、第1端面11a又は第2端面11bのZ軸方向における周縁に位置する。第2周縁領域20は、Z軸方向に幅を有し、本実施形態において、Y軸方向に沿って延びる帯状に構成される「第2周縁領域20のZ軸方向における幅」とは、第1主面11e又は第2主面11fから後述する境界P1,P2までのZ軸方向における距離を意味する。当該幅は、例えば、4μm以上70μm以下であり、好ましくは6μm以上55μm以下であり、より好ましくは11μm以上35μm以下である。
【0036】
第2凹状領域21は、一対の第2周縁領域20の間に位置し、一対の第2周縁領域20からX軸方向内方に陥凹する。第2凹状領域21と第2周縁領域20との境界P1,P2は、積層セラミックコンデンサ10におけるZ-X平面と平行な断面において、第2周縁領域20からX軸方向内方への陥凹が始まる点と定義される。境界P1,P2は、Y軸方向に延びる。つまり、第2凹状領域21は、Y軸方向に延びる凹面で形成される。
【0037】
第2凹状領域21は、
図4に示す例では、全体がX軸方向内方に陥凹する曲面で構成されるが、表面に微小な凹凸形状を有していてもよい。第2凹状領域21において最もX軸方向内方に位置する部分は、第2凹状領域21のZ軸方向における中央部に位置していてもよいし、当該中央部からZ軸方向に偏って位置していてもよい。
【0038】
図2及び
図4に示す例では、第2周縁領域20はX軸方向に直交する略平坦な面を含むが、これに限定されない。例えば、第2周縁領域20は、第1端面11a又は第2端面11bのZ軸方向における周縁から、X軸方向外方に向かって突出する傾斜面を含んでいてもよい。この場合、当該傾斜面は、略平坦な面でもよいし、曲面でもよい。第2周縁領域20がこのような傾斜面を含む場合、第2周縁領域20と第2凹状領域21との境界は、傾斜面の最もX軸方向外方に位置する頂部となる。
【0039】
例えば、一対の第2周縁領域20は、一対のカバー部17のX軸方向における表面に配置される。第2周縁領域20は、カバー部17の当該表面の少なくとも一部に配置されていればよい。
【0040】
本実施形態では、第1端面11a及び第2端面11bが上記構成を有することで、外部電極14,15にも凹状領域が形成される。
【0041】
[外部電極の詳細な構成]
図2に示すように、第1外部電極14は、X軸方向に向いた電極端面14aと、Z軸方向に向いた第1電極主面14e及び第2電極主面14fと、Y軸方向に向いた第1電極側面及び第2電極側面(図示せず)と、を有する。同様に、第2外部電極15は、X軸方向に向いた電極端面15aと、Z軸方向に向いた第1電極主面15e及び第2電極主面15fと、Y軸方向に向いた第1電極側面及び第2電極側面(図示せず)と、を有する。
【0042】
電極端面14a,15aは、それぞれ、一対の第1周縁領域22と、第1凹状領域23と、を有する。本実施形態において、外部電極14,15は、X軸方向に直交する面に関してほぼ面対称に構成されるため、
図4では第1外部電極14の図示を省略する。
【0043】
一対の第1周縁領域22は、第1電極端面14a又は第2電極端面15aのZ軸方向における周縁に位置し、一対の第2周縁領域20を覆う。第1周縁領域22は、Z軸方向に幅を有し、本実施形態において、Y軸方向に沿って延びる帯状に構成される。「第1周縁領域22のZ軸方向における幅」とは、第1電極主面14e,15e又は第2電極主面14f,15fから、後述する境界P3,P4までのZ軸方向における距離を意味する。
【0044】
第1凹状領域23は、一対の第1周縁領域22の間に位置し、第2凹状領域21を覆う。第1凹状領域23は、第2凹状領域21を覆い第1周縁領域22から陥凹する。第1凹状領域23は、第2凹状領域21に倣った形状で陥凹する。
【0045】
第1凹状領域23と第1周縁領域22との境界P3,P4は、積層セラミックコンデンサ10におけるZ-X平面と平行な断面において、第1周縁領域22からX軸方向内方への陥凹が始まる点と定義される。境界P3,P4は、Y軸方向に延びる。つまり、第1凹状領域23は、Y軸方向に延びる凹面で形成される。
【0046】
第1凹状領域23は、
図4に示す例では、全体がX軸方向内方に陥凹する曲面で構成されるが、表面に微小な凹凸形状を有していてもよい。
【0047】
第1凹状領域23における最もX軸方向内方に位置する部分は、第1凹状領域23のZ軸方向における中央部に位置していてもよいし、当該中央部からZ軸方向に偏って位置していてもよい。
【0048】
図4に示す例では、第1周縁領域22は、X軸方向に直交する略平坦な面を含むが、第2周縁領域20と同様に、これに限定されない。例えば、第1周縁領域22は、第1電極端面14a又は第2電極端面15aのZ軸方向における周縁から、X軸方向外方に向かって突出する傾斜面を含んでいてもよい。この場合、当該傾斜面は、略平坦な面でもよいし、曲面でもよい。第1周縁領域22が傾斜面を含む場合、境界P3,P4は、傾斜面の最もX軸方向外方に位置する頂部となる。
【0049】
第1凹状領域23は、詳細には、以下のような形状で陥凹する。積層セラミックコンデンサ10をY軸方向に2等分する断面において、一対の第1周縁領域22各々と第1凹状領域23との境界P3,P4の間を結ぶ、仮想的な線分R1の長さをaとする。当該断面は、Z-X平面に平行な断面である。線分R1から第1凹状領域23に下ろした垂線のうち、X軸方向に最も長い垂線R2の長さをbとする。この場合に、b/aが0.004以上0.025以下となる。なお、
図4等では、説明のため、第1凹状領域23を実際よりも大きく窪んでいるように表現している。
【0050】
第1凹状領域23がこのように陥凹することで、詳細は後述するが、基板への実装時におけるマンハッタン現象を抑制できるとともに、セラミック素体11の構造欠陥を抑制することができる。
【0051】
[回路基板の構成]
図5は、本実施形態の回路基板100を示す断面図である。
回路基板100は、実装基板Sと、積層セラミックコンデンサ10と、第1はんだH11及び第2はんだH12と、を備える。
【0052】
実装基板Sは、積層セラミックコンデンサ10を実装する実装面Saを有し、図示しない回路を含む。実装面Saは、第1外部電極14と接続される第1ランドL1と、第2外部電極15と接続される第2ランドL2と、を有する。
【0053】
積層セラミックコンデンサ10は、第1主面11e又は第2主面11fが実装基板Sに対向するように配置され、
図5に示す例では、第2主面11fが実装基板Sに対向するように配置される。第2電極主面14fは第1ランドL1と対向する。第2電極主面15fは第2ランドL2と対向する。
【0054】
第1はんだH11は、第1外部電極14と実装基板Sとを接続し、第1ランドL1上に形成される。第2はんだH12は、第2外部電極15と実装基板Sとを接続し、第2ランドL2上に形成される。はんだH11,H12は、一例として、ランドL1,L2から第1凹状領域23まで形成される。
【0055】
回路基板100は、以下のように製造される。まず、実装基板SのランドL1,L2にはんだペーストが塗布され、当該はんだペースト上に、第2電極主面14f,15fがそれぞれ配置される。これにより、外部電極14,15がはんだペーストに接した状態となる。
【0056】
この状態でリフロー炉において加熱され、ランドL1,L2上のはんだペーストが加熱されて溶融する。はんだペーストの溶融に伴い、積層セラミックコンデンサ10がランドL1,L2側に沈み込む。これにより、ランドL1,L2上の溶融はんだは、第2電極主面14f,15fから電極端面14a,15aに濡れ上がる。
【0057】
溶融はんだは、第1凹状領域23に到達し、第1凹状領域23の窪みに流れ込む。溶融はんだは、第1凹状領域23のZ軸方向上方に位置する第1周縁領域22までは濡れ上がりにくいため、当該窪みに滞留する。その後、当該溶融はんだが冷却されて固化することで、外部電極14,15と実装基板Sとを接続するはんだH11,H12が形成される。
【0058】
[本実施形態の作用効果]
図6は、本実施形態の比較例に係る回路基板300を示す断面図である。なお、以下の説明において、上述の回路基板100と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0059】
回路基板300は、実装基板Sと、積層セラミックコンデンサ30と、第1はんだH31及び第2はんだH32と、を備える。積層セラミックコンデンサ30は、セラミック素体31と、第1外部電極34及び第2外部電極35と、を備える。セラミック素体31のX軸方向に向いた端面31a,31bは、いずれも、上記第2凹状領域を有しておらず、例えば略平坦に構成される。外部電極34,35のX軸方向に向いた電極端面34a,35aは、いずれも、上記第1凹状領域を有しておらず、例えば略平坦に構成される。
【0060】
はんだH31,H32は、上述のように、ランドL1,L2上に配置されたはんだペーストを溶融させることで形成される。
【0061】
電極端面34a,35aをZ軸方向に濡れ上がる溶融はんだは、電極端面34a,35aに表面張力を及ぼす。第1外部電極34と第2外部電極35とでこの表面張力の大きさが異なると、積層セラミックコンデンサ30に、Y軸まわりの回転モーメントが付加される。この結果、
図6に示すように、積層セラミックコンデンサ30の一方の外部電極34側がZ軸方向上方に立ち上がり、いわゆるマンハッタン現象が発生する。
【0062】
さらに、積層セラミックコンデンサ30が小型化した場合、積層セラミックコンデンサ30の重量が軽くなり、溶融はんだによる表面張力のわずかなアンバランスによっても、マンハッタン現象が生じやすくなる。このため、ランドL1,L2上に配置されるはんだペーストの量及びランドL1,L2の面積のわずかな差異や、積層セラミックコンデンサ30の実装基板S上の位置のわずかなずれによって、マンハッタン現象が生じ得る。したがって、これらを制御することによってマンハッタン現象を抑制することが困難になる。
【0063】
特に、Z軸方向における高さ寸法が小さい低背型の積層セラミックコンデンサ30の場合、溶融はんだがZ軸方向上方に濡れ上がりやすく、
図6に示すように、実装基板Sと対向していない第1電極主面34e,35eまで到達することがある。第1電極主面34e,35eの一方に先に溶融はんだが到達した場合、溶融はんだの表面張力によるY軸まわりの回転モーメントが大きくなり、マンハッタン現象が一層発生しやすくなる。
【0064】
そこで、本実施形態では、外部電極14,15の電極端面14a,15aに、b/aが0.004以上0.025以下となるように陥凹した第1凹状領域23を設ける。
【0065】
b/aが0.004以上であることで、第1凹状領域23を第1周縁領域22から十分に陥凹させることができ、溶融はんだを外部電極14,15各々の第1凹状領域23に滞留させることができる。これにより、当該滞留した溶融はんだが、外部電極14,15に対してZ軸方向下方への力を及ぼし、外部電極14,15のZ軸方向上方への浮きを抑制することができる。したがって、マンハッタン現象を効果的に抑制することができる。
【0066】
b/aが0.025以下であることで、第1凹状領域23の陥凹を適度に緩やかにすることができる。これにより、第2凹状領域21の陥凹も同様に緩やかにすることができ、第2凹状領域21と第2周縁領域20との境界P1,P2近傍が、突出した形状となることを抑制することができる。したがって、実装時及び実装後の熱又は機械的な応力によって、境界P1,P2近傍にクラック等の構造欠陥が発生することを抑制できる。さらに、セラミック素体11の構造欠陥に起因した耐湿性の低下等の信頼性の低下を抑制することができる。
【0067】
さらに、第2周縁領域20がZ軸方向に幅を有し帯状に形成されることでも、第2凹状領域21と第2周縁領域20との境界P1,P2近傍が、鋭く突出した形状となることを抑制することができる。したがって、これによっても、境界P1,P2近傍のクラック等の構造欠陥を抑制することができる。
【0068】
加えて、セラミック素体11の端面11a,11bに第2凹状領域21を設け、外部電極14,15の第1凹状領域23がそれを覆うように構成されることで、外部電極14,15の厚みをほぼ均一に形成しつつ、所望の形状の第1凹状領域23を形成することができる。これにより、外部電極14,15の一部が薄くなり、積層セラミックコンデンサ10の耐環境性が低下することを抑制することができる。
【0069】
このように、本実施形態によれば、セラミック素体11の構造欠陥を抑制しつつ、マンハッタン現象を効果的に抑制することが可能となる。
【0070】
[積層セラミックコンデンサの製造方法]
図7は、積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。
図8は、積層セラミックコンデンサ10の製造過程を示す図である。以下、積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、
図7に沿って、
図8を適宜参照しながら説明する。
【0071】
(ステップS01:セラミックシート準備)
図8を参照し、ステップS01では、積層部16を形成するための第1積層部用セラミックシート101及び第2積層部用セラミックシート102と、カバー部17を形成するためのカバー部用セラミックシート103と、を準備する。本実施形態において、第1積層部用セラミックシート101及び第2積層部用セラミックシート102は、「第1セラミックシート」を構成する。カバー部用セラミックシート103は、「第2セラミックシート」を構成する。
【0072】
セラミックシート101,102,103は、誘電体セラミックスを主成分とする未焼成の誘電体グリーンシートとして構成される。セラミックシート101,102,103は、いずれも、主成分となるセラミック材料と、有機バインダと、溶剤と、を含む。
【0073】
セラミックシート101,102,103は、例えば、ロールコーターやドクターブレードなどを用いてシート状に成形される。積層部用セラミックシート101,102の厚さは、焼成後の積層部16におけるセラミック層18の厚さに応じて調整される。カバー部用セラミックシート103の厚さは適宜調整可能である。
【0074】
本実施形態において、第1積層部用セラミックシート101及び第2積層部用セラミックシート102は、第1の密度cを有する。カバー部用セラミックシート103は、第1の密度cより大きい第2の密度dを有する。第1の密度c及び第2の密度dは、以下の式(1)を満たす。
0.050≦(d-c)/d≦0.150 …(1)
これにより、後述するように、第2凹状領域21を形成できるとともに、焼成後におけるセラミック素体11の構造欠陥を抑制することができる。
【0075】
第1積層部用セラミックシート101には第1内部電極12に対応する未焼成の第1内部電極112が形成され、第2積層部用セラミックシート102には第2内部電極13に対応する未焼成の第2内部電極113が形成されている。カバー部用セラミックシート103には内部電極が形成されていない。
【0076】
(ステップS02:積層)
ステップS02では、セラミックシート101,102,103を
図8に示すように積層し、未焼成のセラミック素体111を作製する。具体的には、第1積層部用セラミックシート101及び第2積層部用セラミックシート102を交互に積層した積層体のZ軸方向外側に、カバー部用セラミックシート103をZ軸方向に積層する。セラミックシート101,102,103の枚数は、
図8に示す例に限定されない。
【0077】
なお、以上では1つのセラミック素体11に相当する未焼成のセラミック素体111について説明したが、実際には、個片化されていない大判のシートとして構成された積層シートが形成され、セラミック素体111ごとに個片化される。未焼成のセラミック素体111は、セラミックシート101,102,103を圧着することにより一体化される。
【0078】
(ステップS03:焼成)
ステップS03では、未焼成のセラミック素体111を焼結させる。これにより、
図1~3に示すセラミック素体11が作製される。焼成温度は、セラミック素体111の焼結温度に基づいて決定可能である。例えば、誘電体セラミックスとしてチタン酸バリウム系材料を用いる場合には、焼成温度を1000~1300℃程度とすることができる。また、焼成は、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において行うことができる。
【0079】
ここで、本実施形態では、カバー部用セラミックシート103の第2の密度dが、積層部用セラミックシート101,102の第1の密度cよりも大きく、上記(1)式を満たす。これにより、焼成時に、積層部用セラミックシート101,102の収縮量が、カバー部用セラミックシート103の収縮量よりも大きくなる。したがって、積層部16に相当する、積層部用セラミックシート101,102の積層された領域の表面が、カバー部17に相当する、カバー部用セラミックシート103の積層された領域の表面から陥凹する。このように、端面11a,11b各々に、一対の第2周縁領域20と、第2凹状領域21とが形成される。
【0080】
(ステップS04:外部電極形成)
ステップS04では、ステップS03で得られたセラミック素体11のX軸方向両端部に外部電極14,15を形成する。一例として、まず、導電性ペーストをセラミック素体11のX軸方向両端部に塗布し、この導電性ペーストを焼き付けて下地膜を形成する。次に、下地膜が形成されたセラミック素体11をメッキ液に浸漬させて電解メッキを行うことで、1又は複数のメッキ膜を形成する。
これにより、
図1~3に示すような積層セラミックコンデンサ10が形成される。
【0081】
本実施形態では、端面11a,11bに第2周縁領域20及び第2凹状領域21が形成されている。このため、端面11a,11bを覆うように外部電極14,15を形成することで、b/aが0.004以上0.025以下の条件を満たす第1凹状領域23を形成することができる。
【0082】
[実施例]
本実施形態の実施例として、上述の製造方法に従って積層セラミックコンデンサ10のサンプル(実施例1~5及び比較例1~4)を作製した。これらのサンプルのX軸方向における寸法は1.0mm、Y軸方向における寸法は0.5mm、Z軸方向における寸法は0.22mmであった。
【0083】
各サンプルの作製に用いた、未焼成の積層部用セラミックシートの密度である第1の密度cと、未焼成のカバー部用セラミックシートの密度である第2の密度dと、を測定し、(d-c)/dを算出した。算出された(d-c)/dの値を、表1に示す。第1の密度c及び第2の密度dは、グリーンシート形成時の加湿条件によって調整した。
【0084】
【0085】
実施例1~5及び比較例1~4各々の400個のサンプルについて、Y軸方向に2等分する断面(Z-X平面に平行な断面)を露出させるように研磨して、当該断面を観察した。これにより、積層部とカバー部との境界近傍にデラミネーションが発生しているか否か評価した。
【0086】
表1に示すように、(d-c)/dが0.150よりも大きい比較例2~4では、400個のサンプルのうち、デラミネーションの発生していたサンプルが7~30個存在した。(d-c)/dが0.150よりも大きいことで、積層部用セラミックシートとカバー部用セラミックシートとの焼成時の収縮量の差異が大きくなり、積層部とカバー部との境界近傍に大きな応力が発生し、デラミネーションが発生すると考えられる。
【0087】
一方、(d-c)/dが0.150以下の実施例1~5及び比較例1では、デラミネーションの発生率がいずれも0であった。この結果から、(d-c)/dを0.150以下とすることで、積層部用セラミックシートとカバー部用セラミックシートとの焼成時の収縮量の差異に起因するデラミネーションを抑制できることが確認された。
【0088】
続いて、実施例1~5及び比較例1~4のサンプルの上記断面を観察することで、第1周縁領域各々と第1凹状領域との境界の間を結ぶ仮想的な線分の長さaと、当該線分から第1凹状領域に下した垂線のうち、X軸方向に最も長い垂線の長さbと、を測定した。この測定結果を、表2に示す。なお、表2に示す値は、各実施例及び各比較例の400個のサンプルの平均値を示す。
【0089】
【0090】
表2に示すように、実施例1~5のサンプルでは、b/aの値が、いずれも0.004以上0.025以下であった。一方で、比較例1のサンプルでは、b/aの値が0.003であった。また、比較例2~4のサンプルでは、b/aの値が0.031~0.035であり、いずれも0.025より大きかった。
【0091】
続いて、実施例1~5及び比較例1~4各々の400個のサンプルを、実装基板にはんだ付けし、マンハッタン現象が発生するか否か評価した。結果を、表2に示す。
【0092】
表2に示すように、b/aの値が0.003である比較例1では、3個のサンプルでマンハッタン現象が発生した。実際にこれらのサンプルを観察すると、一方のはんだが、第1電極主面上まで濡れ上がっていた。これらのサンプルは、第1はんだ及び第2はんだの表面張力のアンバランスによって、積層セラミックコンデンサにY軸まわりのモーメントが発生し、マンハッタン現象が発生したものと考えられる。
【0093】
一方、b/aの値が0.004以上である実施例1~5及び比較例2~4では、マンハッタン現象の発生数がいずれも0であり、マンハッタン現象を確実に抑えられることが確認された。
【0094】
実際に、実装基板にはんだ付けされた実施例1~5及び比較例2~4のサンプルを観察すると、2つの外部電極の第1凹状領域各々にはんだが十分滞留している態様が観察された。b/aの値を0.004以上とすることで、第1凹状領域が第1周縁領域から十分に陥凹した形状となり、第1凹状領域にはんだが滞留しやすくなり、マンハッタン現象が抑えられるものと考えられる。
【0095】
さらに、はんだ付けされた実施例1~5及び比較例1~4各々の400個のサンプルをY軸方向に2等分する断面(Z-X平面に平行な断面)を露出させるように研磨して、当該断面を観察した。これにより、セラミック素体にクラックが発生しているか否か評価した。結果を、表2に示す。
【0096】
表2に示すように、b/aの値が0.025よりも大きい比較例2~4では、セラミック素体の第2周縁領域と第2凹状領域との境界近傍に、クラックが発生しているサンプルが存在した。これは、突出している第2周縁領域と第2凹状領域との境界近傍が、実装時の熱又は機械的な応力によって損傷したものと考えられる。
【0097】
セラミック素体の構造欠陥を別の観点から評価するため、実施例1~5及び比較例1~4各々のサンプルを実装基板に実装した状態で、耐湿性を評価する耐湿試験を行った。耐湿試験では、実施例1~5及び比較例1~4各々のサンプル400個を温度45度、湿度95%で、10Vの定格電圧を印加した状態で1000時間保持した。耐湿試験では、電気抵抗値が10MΩ未満のサンプルを耐湿不良と判断し、耐湿不良のサンプルが0個であった場合に「OK」、1個以上であった場合に「NG」と評価した。結果を、表2に示す。
【0098】
表2に示すように、b/aの値が0.025以下の実施例1~5及び比較例1では、いずれも耐湿試験の結果が「OK」であったが、b/aの値が0.025よりも大きい比較例2~4では、耐湿試験の結果が「NG」であった。この結果から、b/aの値が0.025よりも大きい比較例2~4のサンプルでは、上述のようにクラックやデラミネーション等の構造欠陥が発生しやすく、それによって耐湿性も低下しやすいことが確認された。
【0099】
以上のように、積層セラミックコンデンサにおけるb/aの値を0.004以上0.025以下とすることで、マンハッタン現象を効果的に抑制できるとともに、セラミック素体の構造欠陥を抑制できることが確認された。このように、本実施形態によれば、実装不良を確実に抑制しつつ、信頼性の高い積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0100】
さらに、表1及び表2を参照し、セラミックシートについての(d-c)/dを0.050以上とすることで、積層セラミックコンデンサについてのb/aを0.004以上にすることができる。これにより、上述のように、実装時におけるマンハッタン現象を確実に抑制することができる。また、セラミックシートについての(d-c)/dを0.150以下とすることで、積層セラミックコンデンサについてのb/aを0.025以下にすることができる。これにより、セラミック素体の構造欠陥を抑制できるとともに、信頼性の高い構成を得ることができる。
【0101】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0102】
上述の実施形態では、積層セラミックコンデンサの製造方法として、セラミックシートの密度を調整する方法について説明したが、上述の積層セラミックコンデンサの構成が得られれば、この製造方法に限定されない。
【0103】
セラミック素体は、Z軸方向の高さ寸法が、Y軸方向の幅寸法よりも大きく構成されてもよい。このようなセラミック素体では、実装時に特にバランスを崩しやすく、マンハッタン現象等の実装不良が起きやすい。このようなセラミック素体を備えた積層セラミックコンデンサの電極端面に上記第1凹状領域を設けることで、マンハッタン現象を効果的に抑制することができる。なお、セラミック素体のZ軸方向の高さ寸法は、セラミック素体においてZ軸方向に最大となる部分の寸法を意味する。セラミック素体のY軸方向の幅寸法は、セラミック素体においてY軸方向に最大となる部分の寸法を意味する。
【0104】
また、端面11a,11bは、第2凹状領域21を有さない、例えば略平坦な構成でもよい。
【0105】
上記実施形態では積層セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、本発明は一対の外部電極を有する積層セラミック電子部品全般に適用可能である。このような積層セラミック電子部品としては、例えば、チップバリスタ、チップサーミスタ、積層インダクタなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0106】
10…積層セラミックコンデンサ(積層セラミック電子部品)
11…セラミック素体
12,13…内部電極
14…第1外部電極
15…第2外部電極
14a,15a…電極端面
14e,15e…第1電極主面
14f,15f…第2電極主面
20…第2周縁領域
21…第2凹状領域
22…第1周縁領域
23…第1凹状領域
100…回路基板
S…実装基板
H11…第1はんだ
H12…第2はんだ