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特許7518595付加製造装置用鋳物砂、および鋳物用砂型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】付加製造装置用鋳物砂、および鋳物用砂型
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/00 20060101AFI20240710BHJP
   B22C 1/02 20060101ALI20240710BHJP
   B22C 1/10 20060101ALI20240710BHJP
   B22C 1/18 20060101ALI20240710BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20240710BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20240710BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240710BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20240710BHJP
   B22F 10/14 20210101ALI20240710BHJP
【FI】
B22C1/00 K
B22C1/02 C
B22C1/10 B
B22C1/18 A
B29C64/165
B33Y70/10
B33Y80/00
B28B1/30
B22F10/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020054782
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021154307
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】石田 弘徳
(72)【発明者】
【氏名】扇 嘉史
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-115983(JP,A)
【文献】特開2019-115912(JP,A)
【文献】特開2008-214147(JP,A)
【文献】特開2017-131948(JP,A)
【文献】特開平07-097243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00
B29C 64/00
B33Y 70/00
B28B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘結材が無機系の水硬性材料であり、骨材が非水硬性材料である付加製造装置用鋳物砂であって、
前記粘結材に対する前記骨材の体積比は6以上12以下であり、
前記骨材の平均粒子径D50は150μm以下であり、
前記粘結材は、実質的にS成分を含まず、
前記骨材の平均粒子径D50/前記粘結材の平均粒子径D50の値は2.5以上5.1以下であり、
前記粘結材のロジンラムラー分布関数における均等数は1.02以上1.20以下であることを特徴とする付加製造装置用鋳物砂。
【請求項2】
前記粘結材は、非晶質カルシウムアルミネート化合物であることを特徴とする請求項1記載の付加製造装置用鋳物砂。
【請求項3】
前記粘結材に対する前記骨材の体積比が、7以上11以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の付加製造装置用鋳物砂。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の付加製造装置用鋳物砂を用いて、BJ方式付加製造装置を使用した粉末積層造形によって鋳物用砂型を製造する製造方法であって、
前記BJ方式付加製造装置のステージ上に前記付加製造装置用鋳物砂を積層する工程と、
立体形状のデータまたはそれを水平面に分割した形状のデータに基づいて、前記BJ方式付加製造装置のヘッドから前記ステージ上の所定の位置にバインダーを噴射する工程と、
前記バインダーが噴射された前記付加製造装置用鋳物砂の積層面の上にさらに前記付加製造装置用鋳物砂を積層し、前記ヘッドから前記ステージ上の所定の位置にバインダーを噴射することを繰り返し行う工程と、を含むことを特徴とする鋳物用砂型の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加製造装置用鋳物砂、およびそれを用いて作製された鋳物用砂型に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造は、溶融した金属を金型や砂型などの鋳型に注入して鋳物を製造する金属加工方法である。また、溶湯温度が1400℃以上となる鋳鉄、鋳鋼の鋳造では耐熱性の点で砂型が用いられることが多い。この鋳型の製造は、模型や木型を作成する前工程が必要とされるため、時間やコストがかかるものとなっている。近年、短納期や低コスト化の要請からこの前工程が不要な鋳型の製造手段が望まれている。
【0003】
そこで、付加製造装置(3Dプリンター)が迅速かつ精密な造形方法として注目されており、これを鋳物用砂型に適用する取り組みがなされている。付加製造装置による鋳物用砂型の製造方式として、順次砂を積層しながらレーザーで焼結する方法と、順次砂を積層しながらバインダーを吹き付け硬化させる方法がある(binder jetting方式、以下BJ方式という)。
【0004】
しかしながらレーザーで焼結する方法は、得られる砂型に残留する応力が大きく、所望の寸法精度が得られ難いという問題がある。これに対し、順次砂を積層しながらバインダーを吹き付け硬化させる方法は、砂型の残留応力が小さく寸法精度が得られやすい。さらに、この方法を採用する付加製造装置の価格はレーザー焼結の付加製造装置よりも安価である。この様なことから、BJ方式の付加製造装置を用いた鋳物用砂型は多く用いられるようになってきた。BJ方式の付加製造装置で使用される砂型の粘結材は、有機物の縮合や重合による硬化で形状化する有機系の粘結材と、水和による硬化で形状化する無機系の粘結材がある。
【0005】
有機系の粘結材は広く使われているが環境負荷が高く、最近では改めて無機系が注目されつつある。無機系の粘結材としては、工業的に入手しやすい水硬性材料が有名であり、なかでも石膏またはセメントを粘結材とした砂型は古くから用いられている。
【0006】
特許文献1は、半水石膏が18~75重量%、無機粉体が13~70重量%、水溶性ポリマーが1~10重量%および石膏硬化促進剤が5~30重量%の割合で混合される鋳造用立体造形物を構成するための混合粉体が開示されている。また、特許文献2は、速硬セメントと、前記速硬セメント以外のセメントを含む粘結材100質量部に対し、砂を100~400質量部含有する付加製造装置用セメント組成物であって、前記速硬セメントが、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に規定する終結時間が30分以内のセメントであることを特徴とする付加製造装置用セメント組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-100999号公報
【文献】特開2017-177212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
引用文献1では石膏を粘結材として使用し、引用文献2ではセメントを粘結材として使用している。しかし、セメントには硫酸カルシウムなどのS(硫黄)成分が含まれ、石膏は硫酸カルシウムを主体とする。セメントや石膏を粘結材とした鋳物砂で作製した砂型で溶湯温度が高い鋳鉄や鋳鋼を鋳造すると、S系ガスが顕著に発生し鋳物にピンホールやブローホールが発生しやすい。
【0009】
これを回避するためには、S成分を含まない水硬性物質を粘結材とした鋳物砂とすればよい。これにより、S系ガスの発生による不良は低減できる。鋳造によって製作される鋳物は、外観はもちろんのこと組織不良等の欠陥がないことが求められ、仕様を満たすための所定の幾何精度を有することが求められる。幾何精度を左右するのは方案と砂型であるが、砂型においては注湯温度域での性状が大きく関与する。しかし、S成分を含まない水硬性物質を粘結材とした場合は、注湯温度域、特に高温域での挙動が石膏やセメントとは異なると考えられるため、このような粘結材を使用してさらに幾何精度の優れた鋳物を得るためには、骨材と粘結材とを含む粒子全体の粒度分布の傾向を制御する必要がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、幾何精度の優れた鋳物を得ることができる付加製造装置用鋳物砂、およびそれを用いた鋳型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の付加製造装置用鋳物砂は、粘結材が無機系の水硬性材料であり、骨材が非水硬性材料である付加製造装置用鋳物砂であって、前記粘結材に対する前記骨材の体積比は6以上12以下であり、前記骨材の平均粒子径D50は150μm以下であり、前記粘結材は、実質的にS成分を含まず、前記粘結材の平均粒子径D50/前記骨材の平均粒子径D50は2.5以上5.1以下であり、前記粘結材のロジンラムラー分布関数における均等数は1.02以上1.20以下であることを特徴としている。
【0012】
このように、実質的にS成分を含まない粘結材を使用して、粘結材の平均粒子径D50(頻度基準)および骨材の平均粒子径D50(頻度基準)を所定の範囲にし、粘結材のロジンラムラー分布関数における均等数を所定の範囲にすることで、粒子全体の粒度分布の傾向を制御することができ、鋳鉄や鋳鋼を鋳造しても欠陥がなく幾何公差の精度の優れた鋳物を得ることができる。
【0013】
(2)また、本発明の付加製造装置用鋳物砂において、前記粘結材は、非晶質カルシウムアルミネート化合物であることを特徴としている。これにより、実質的にS成分を含むことなく硬化速度を速くでき、生産性を上げることができる。
【0014】
(3)また、本発明の付加製造装置用鋳物砂において、前記粘結材に対する前記骨材の体積比が、7以上11以下であることを特徴としている。これにより、製造される鋳物の幾何公差をより高精度にできる。
【0015】
(4)また、本発明の鋳物用砂型は、上記(1)から(3)のいずれかに記載の付加製造装置用鋳物砂を用いて、粉末積層造形によって製作されることを特徴としている。これにより、鋳鉄や鋳鋼を鋳造しても欠陥がなく幾何公差の精度の優れた鋳物を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、幾何精度の優れた鋳物を得ることができる付加製造装置用鋳物砂、およびそれを用いた鋳物用砂型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の付加製造装置用鋳物砂の制御された粒度分布の特徴の範囲を示す概念図である。
図2】実施例および比較例の付加製造装置用鋳物砂の配合および鋳物の評価を示す表である。
図3】実施例および比較例の鋳物用砂型により作製される鋳物の斜視図である。
図4】付加製造装置用鋳物砂の制御された粒度分布の特徴の範囲に対する実施例および比較例の位置を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、鋭意研究の結果、実質的にS成分を含まない粘結材を使用して、粘結材の平均粒子径D50および骨材の平均粒子径D50を所定の範囲にし、粘結材のロジンラムラー分布関数における均等数を所定の範囲にすることで、粒子全体の粒度分布の傾向を制御することができ、鋳鉄や鋳鋼を鋳造しても欠陥がなく幾何公差の精度の優れた鋳物を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
[付加製造装置用鋳物砂の構成]
本発明の付加製造装置用鋳物砂は、粘結材および骨材で構成される。粘結材は無機系の水硬性材料である。粘結材は、実質的にS成分を含まない。実質的にS成分を含まないとは、石膏や硫酸アルカリなどの硫酸塩が粘結材の原料中に構成相として含まれていたり、粘結材を製造する際に添加されていないことを意味する。
【0020】
一般的に鋳鉄や鋳鋼で使われる砂型は、平均粒径が250μm以上の鋳物砂を用いる。一方、付加製造装置(3Dプリンター)で製作した砂型は、これより粒径が小さい鋳物砂を使う必要があるため、一般的な砂型よりも鋳物砂の間隙が小さくなり、通気性に劣る。そのため、特にセメントや石膏などのS成分が含まれる無機系の粘結材を含む鋳物砂で製作した砂型を使って鋳鉄や鋳鋼を鋳造すると、S系ガスが発生し鋳物にピンホールやブローホールが発生しやすい。これは、硫酸カルシウムは1300℃近傍からガスを発するため、凝固温度がこれに近い鋳鉄や鋳鋼ではS系ガスを巻き込むことがあるからである。これを解決するために、実質的にS成分を含まない水硬性材料を粘結材とした鋳物砂とする。
【0021】
一方、水硬性材料は水を添加して硬化するため、付加製造装置で作製直後の鋳型には必然的に水分が含まれている。注湯温度は、鋳鉄は約1400℃、鋳鋼は約1600℃であるのに対し、砂型に含まれる水分は約200~300℃で揮発する。ピンホールやブローホールなどのガス欠陥は、注湯中に発生したガスが砂型から抜けないうちに溶湯の凝固が完了するために生じる。水硬性材料を粘結材とする鋳物砂を使って付加製造装置で製作した砂型に金属を注湯すると、溶湯の熱によって砂型中の水分が揮発する。揮発に必要なエネルギーは溶湯から与えられるが、鋳鉄または鋳鋼の溶湯温度に対して水分が揮発する温度は十分に低く、溶湯の温度低下は軽微であり、水蒸気が残留した状態で溶湯が凝固を完了することはまれである。つまり、水分を起因とする鋳物のピンホールやブローホールは生じ難い。
【0022】
粘結材は、例えば、カルシウムアルミネート化合物やγアルミナを用いることができる。これらは水分を添加することで硬化が開始されるが、実用に適する硬化速度という観点で非晶質のカルシウムアルミネート化合物が好適である。
【0023】
カルシウムアルミネート化合物は、3CaO・Al、2CaO・Al、12CaO・7Al、5CaO・3Al、CaO・Al、3CaO・5Al、およびCaO・2Al等のカルシウムアルミネート;2CaO・Al・Fe、および4CaO・Al・Fe等のカルシウムアルミノフェライト;カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶または置換した3CaO・3Al・CaF、および11CaO・7Al・CaF等のカルシウムフロロアルミネートを含むカルシウムハロアルミネート;8CaO・NaO・3Al、および3CaO・2NaO・5Al等のカルシウムナトリウムアルミネート;カルシウムリチウムアルミネート;アルミナセメント;さらに、これらにNa,K,Li、Ti、Fe、Mg、Cr、P、F、S等の微量元素(酸化物等を含む。)が固溶した鉱物から選ばれる1種以上が挙げられる。このとき、石膏や硫酸アルカリなどの硫酸塩がセメントに構成相として生成していたり、粘結材に別途添加されておらず、S成分を実質的に含まないように材料を選択または混合する。粘結材のS含有量は0.2質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。
【0024】
これらの中でも強度発現の観点で最も好ましいのは、カルシウムアルミネート化合物である。カルシウムアルミネート化合物のCaO/Alのモル比は、好ましくは1.5~3.0、より好ましくは1.7~2.4である。該モル比が1.5以上で付加製造装置用鋳物砂の早期の強度発現性が高く、3.0以下では耐熱性が高くなる。
【0025】
非晶質のカルシウムアルミネート化合物は、原料を溶融した後、急冷して製造するから、実質的に結晶構造を有せず、通常、そのガラス化率は80%以上であり、ガラス化率が高い程、早期強度発現性は高いため、ガラス化率は好ましくは90%以上である。
【0026】
粘結材としてカルシウムアルミネートを使用する場合、カルシウムアルミネートのブレーン比表面積は、充分な早期強度発現性を得るとともに粉塵の発生を抑制するために、好ましくは1000~6000cm/g、より好ましくは1500~5000cm/gである。なお、カルシウムアルミネートのブレーン比表面積は、付加製造装置での敷きならしが均一で、かつ、鋳型の強度が低下しないためには、さらに好ましくは1000~2500cm/g、特に好ましくは1500~2000cm/gである。
【0027】
骨材としては天然珪砂や人工砂を用いることができる。骨材は、非水硬性であり耐火砂であれば、特に制限されず、珪砂、オリビン砂、ジルコン砂、クロマイト砂、アルミナ砂、および人工砂等を用いることができる。また、これらを組み合わせてもよい。
【0028】
粘結材に対する骨材の体積比(骨材の体積/粘結材の体積)は6以上12以下である。また、粘結材に対する骨材の体積比は7以上11以下であることが好ましい。本発明の鋳物砂は骨材と粘結材から構成されるが、粘結材が硬化するに際し若干の体積変化が起きる。BJ方式の粉末積層付加製造装置で水硬性の粘結材を含む鋳物砂で砂型を製作した場合、バインダー(水を主成分とする液体)の噴霧は逐次行われるために、その硬化も逐次開始される。そのため、砂型の各場所での体積変化のタイミングが異なってしまい、砂型に反りやゆがみが生じやすくなる。そのため、粘結材は体積比として少ない方がよい。6を下回ると、鋳型や鋳物の反りやゆがみが発生しやすくなる。また、12を上回ると実作業として鋳型をハンドリングするには強度が不足する。なお、骨材および粘結材の体積は、予め気体置換法によって測定する。
【0029】
骨材の平均粒子径D50は150μm以下である。また、120μm以下であることが好ましい。粉末積層によるBJ方式は、鋳物砂を所定の厚さに敷き均した後に所望の部分を硬化させ、さらにその上に同様に鋳物砂を敷き均して硬化する方式である。所定の厚さは、通常の付加製造装置は300μm以下である。この厚さに近い鋳物砂を付加製造装置で使うと平坦に敷き均せないため、本発明の付加製造装置用鋳物砂の骨材の平均粒子径D50は、150μm以下とする。なお、骨材の平均粒子径D50の下限値は、例えば、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱法により測定する。用いる砂の粒度分布はシャープなものがよく、骨材のロジンラムラー分布関数における均等数は、1.5~10が好ましく、2~7.5がより好ましい。粒度分布やロジンラムラー分布関数における均等数の異なる複数の砂を混合して使ってもよい。
【0030】
本発明の付加製造装置用鋳物砂は、粒子全体の粒度分布の傾向を制御する。図1は、本発明の付加製造装置用鋳物砂の制御された粒度分布の特徴の範囲を示す概念図である。図1に示すように、本発明の付加製造装置用鋳物砂において、骨材の平均粒子径D50/粘結材の平均粒子径D50の値は2.5以上5.1以下である。また、粘結材のロジンラムラー分布関数における均等数は1.02以上1.20以下である。これを外れた場合、以下の傾向がある。
【0031】
図1の領域Aは注湯温度域で砂型の強度低下により、鋳物の差込み欠陥が生じる虞が高くなる。これは、粘結材の粒径が骨材のそれに比べて相対的に小さいため、骨材の間隙中に粘結材が多くなる、すなわち骨材同士の接点が多くなるためである。この様な状態は、溶湯で鋳型が熱せられ膨張することで、砂型の亀裂を誘発する。砂型に亀裂が入ると、そこに溶湯が入って差込み欠陥となる。
【0032】
図1の領域Bは、粘結材の粒径が骨材のそれに比べて相対的に大きい。例えば、粘結材にカルシウムアルミネート化合物を使用した場合、1400℃以上ではカルシウムアルミネートが軟化する。鋳造では、砂型は溶湯圧を受ける。軟化した部分が大きいと応力(溶湯圧)で骨材が鋳型から脱粒する挙動を示す。脱粒すると鋳物にピンホールが発生する。図1の領域Cおよび領域Dではこれら欠陥の程度は上記より小さいものの発生しやすい傾向にある。
【0033】
粘結材において、ロジンラムラー分布関数における均等数は重要である。骨材は所定の粒度にそろえられたものを使うことが望ましい。しかし、上記の注湯温度域での砂型の強度低下、または注湯温度域での粘結材の軟化の問題を回避するには、粘結材はある程度の粒度分布を持った方がよく、それが1.02~1.20である。単にD10やD90といった粒度分布のなかの部分的な物性値だけの制御では安定せず、粒子全体の傾向を制御することで本発明は達せられる。
【0034】
本発明の付加製造装置用鋳物砂には必要に応じて、保水性のある材料を添加してもよい。これは、付加製造装置用鋳物砂に水を主成分とするバインダーをジェッティングした際、バインダーが粘結材および骨材の間隙を流れる落ちることを低減し、より粘結材の水硬性能を引き出す効果がある。この保水性のある材料は親水性が強いポリマーがよい。このようなポリマーは有機系のものが一般的で使いやすい。
【0035】
ポリマーは、例えば、ポリマーの形態で示せば、JIS A 6203に規定するポリマーディスパージョンや再乳化粉末樹脂等であり、また、ポリマーの種類で示せば、ポリアクリル酸エステル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、酢酸ビニル・バーサチック酸ビニルエステル共重合体、酢酸ビニル・バーサチック酸ビニル・アクリル酸エステル3元共重合体、ポリビニルアルコール、マルトデキストリン、エポキシ樹脂、およびウレタン樹脂から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0036】
有機系ポリマーは注湯中の熱で炭化すると同時に多少のガスを発生するため、添加する場合は粘結材の質量に対して外割で3質量%以下とすることが好ましい。この反応は500℃以下で生ずるものが好ましい。これらの様な点からポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物または完全ケン化物)が好適である。ポリビニルアルコールのケン化度は、80~90モル%であることが好ましい。さらに好ましくはケン化度が85~90モル%のポリビニルアルコールである。
【0037】
また、早期強度発現性が得られ、高い強度が得られるため、ポリビニルアルコールの平均粒子径D50は、150μm以下であることが好ましい。ポリビニルアルコールの平均粒子径は、より好ましくは10~150μm、さらに好ましくは30~90μmである。したがって、ポリビニルアルコールは、粘結材と混合粉砕して、粒度調整すると、より細粒で均質に混合でき、早期強度発現性を高めることができる。
【0038】
ポリマーは、粉体の状態で粘結材や砂と混合して用いるか、または、後述の水に溶解して用いてもよい。また、保水性のある材料として、他の有機系ポリマーも適宜選択することができる。また、付加製造装置用鋳物砂は、バインダーの噴射量や噴射速度、鋳物用砂型の作製後の養生時間等を調整することで、保水性のある材料を添加しなくても強度を得ることができる。
【0039】
[鋳物用砂型の構成]
本発明の鋳物用砂型は、上記の付加製造装置用鋳物砂を用いて、BJ方式付加製造装置を使用して、粉末積層造形によって製作される。本発明の鋳物用砂型は、幾何精度の優れた鋳物を得ることができ、鋳鉄や鋳鋼などの注湯温度が高温となる金属の鋳物の鋳型として好適に使用される。
【0040】
[鋳物用砂型の製造方法]
以下では、鋳物用砂型の製造方法として、BJ方式付加製造装置を使用して、付加製造装置用鋳物砂を用いて製造する方法を説明する。BJ方式付加製造装置は特に限定されず、市販品が使用できる。
【0041】
バインダーとして、水を用いることができる。バインダーとは、付加製造装置用鋳物砂に含まれる粘結材を硬化させるために付加製造装置のヘッドから噴射される液体である。
【0042】
次に、鋳物用砂型を製造するBJ方式付加製造装置の動作を説明する。付加製造装置は、プログラムにより動作し、製造する立体形状のデータを複数の水平面に分割した形状を順次積層して成形体を製造する。BJ方式付加製造装置は、まず、ステージ上に付加製造装置用鋳物砂を積層する。次に、付加製造装置は、立体形状のデータまたはそれを水平面に分割した形状のデータに基づいて、ヘッドからステージ上の所定の位置にバインダーを噴射する。これにより、その位置にある鋳物砂に含まれる粘結材を固化させる。次に、付加製造装置は、前回の鋳物砂の積層面の上にさらに鋳物砂を積層する。さらに、付加製造装置は、立体形状のデータまたはそれを水平面に分割した形状のデータに基づいて、ヘッドからステージ上の所定の位置にバインダーを噴射することで、その位置にある鋳物砂に含まれる粘結材を固化させる。これを繰り返すことにより、鋳物用砂型が製造される。
【0043】
バインダーを吹き付けるためのヘッドの分解能は高いほうがよい。分解能が高いと、鋳物用砂型として高精細なものができるだけでなく、均質にバインダーを吹き付けることができるため、鋳物用砂型の強度の向上につながるからである。例えば積層面内で300×300dpi以上であることが好ましい。
【0044】
付加製造装置が鋳物砂を積層するピッチについても、狭い方が好ましい。狭いほど鋳物用砂型の強度が向上するからである。例えば、300μm以下の積層ピッチであることが好ましい。
【0045】
鋳物用砂型の養生方法は、気中養生単独、気中養生した後に続けて水中養生する方法、または、表面含浸剤養生等がある。これらの中でも、早期の強度発現と鋳物の製造時に発生する水蒸気の抑制の点から、気中養生単独が好ましい。また、粘結材およびポリマーによる強度増進の点から、気中養生の温度は、好ましくは10~100℃、より好ましくは30~80℃である。また、気中養生の相対湿度は、充分な強度発現と生産効率の点から、好ましくは10~90%、より好ましくは15~80%、さらに好ましくは20~60%である。さらに、気中養生時間は、充分な強度発現と生産効率の点から、好ましくは1時間~1週間、より好ましくは2時間~5日間、さらに好ましくは3時間~4日間である。
【0046】
[実施例および比較例]
次に、実施例および比較例を説明する。粘結材はガラス化率95%以上であるカルシウムアルミネート化合物で、湿式による酸分解定量分析により求めたCaO/Alのモル比は2.1である。また、湿式による酸分解定量分析によりSの含有量を求めたところ、0.1質量%であった。また、カルシウムアルミネート化合物は所定のD50および均等数のものを準備した。骨材はムライトである。これを所定のD50となるように粉砕したものを準備した。なお、カルシウムアルミネート化合物および骨材の平均粒子径D50は、島津製作所製SALD-2000Jを使用してレーザー回折・散乱法により測定した。また、カルシウムアルミネート化合物および骨材の比重は、島津製作所製アキュピックII 1340を使用して気体置換法(定容積膨張法)により測定した。
【0047】
図2の表に示す配合となるようそれぞれの骨材と粘結材を2軸ミキサーで混合し実施例および比較例の付加製造装置用鋳物砂を得た。それぞれの付加製造装置用鋳物砂を使用して、図3に示す鋳物(方案付き)を鋳込むための鋳物用砂型(鋳型)を以下の付加製造装置(3Dプリンター)で作製した。図2は、実施例および比較例の付加製造装置用鋳物砂の配合および鋳物の評価を示す表である。また、図3は、実施例および比較例の鋳物用砂型により作製される鋳物の斜視図である。
【0048】
(付加製造装置)
実施例および比較例の鋳物用砂型の製造に用いた付加製造装置は、スリーディシステム社製(ProJet 660Pro)のBJ方式であり、主な仕様は次のとおりである。
ステージ:254×381×203(mm)
積層ピッチ:100(μm)
【0049】
鋳型は、200×80×50mmの鋳物が得られるよう伸び尺を考慮し、湯口と押し湯を付けたものが得られるよう、肉厚を5mmとしたものである。これらの鋳型に鋳鋼を鋳込んだ。材質はSCS13で、注湯温度は1600℃である。得られた鋳物は方案部を切断し、ショットブラスト(JIS G 5903のS30)を当てた。
【0050】
(評価)
鋳物の評価は、ブローホールや差込み等の外観による評価と、図3のA面およびB面の反り量をスキマゲージで測定し、その和でもって幾何精度を評価した。反り量は絶対値ではなく、凹凸方向に対したプラス、マイナスでの測定値である。幾何精度の判定は、JIS B 0403で定められる寸法公差を参考とし、反り量の和が、0以上1.1mm以下は◎(特に良好、CT7相当)、1.1を超え1.6mm以下を〇(良好、CT8相当)、1.6mmを超えるものを×(不良、CT9以上)とした。
【0051】
(実施例1~5)
実施例1~5は、鋳物の外観に欠陥はなく、幾何公差もCT7を満足するものとなっていた。JIS B 0403では砂型鋳造機械込め及びシェルモールドにおける鋳鋼の公差等級で最も厳しい基準としてCT8が示されており、本発明の鋳物砂を使うことで従来の砂型による鋳物よりも優れた鋳物が得られた。
【0052】
(実施例6、7)
実施例6および7は、鋳物の外観に欠陥はなかった。幾何公差はCT8を満足するものであり、従来の砂型による鋳物におけるもっとも厳しい公差を満足するものとなっていた。
【0053】
(比較例1~4)
比較例1は、幾何公差はCT8を満足するものの、ピンホールが見られた。比較例2は、幾何公差はCT8を満足せず、差込みも見られた。比較例3は、幾何公差はCT8を満足せず、ピンホールも見られた。比較例4は、幾何公差はCT8を満足するものの、差込みが見られた。このように、比較例は幾何公差を満足するものがあるものの、鋳物に欠陥が見られたため製品に適用することはできない。
【0054】
図4は、付加製造装置用鋳物砂の制御された粒度分布の特徴の範囲に対する実施例および比較例の位置を示すグラフである。すなわち、本発明の付加製造装置用鋳物砂は、このような制御された粒度分布の傾向を有することで、製作される鋳物に欠陥が生じ難く、幾何精度の優れた鋳物を得ることができる。
【0055】
以上から、本発明の鋳物用砂型は、幾何精度の優れた鋳物を得ることができ、付加製造装置用鋳物砂は、そのような鋳物用砂型を作製できることが分かった。
図1
図2
図3
図4