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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】防水構造、施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04D 5/00 20060101AFI20240710BHJP
   E04D 11/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
E04D5/00 D
E04D11/00 J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023063790
(22)【出願日】2023-04-10
(62)【分割の表示】P 2018207635の分割
【原出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2023085525
(43)【公開日】2023-06-20
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000010010
【氏名又は名称】ロンシール工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】志塚 勝英
(72)【発明者】
【氏名】高橋 麻衣子
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-7923(JP,A)
【文献】特開2011-252345(JP,A)
【文献】特開2014-194129(JP,A)
【文献】特開2017-61849(JP,A)
【文献】特開2016-223229(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0085022(KR,A)
【文献】特開2000-179098(JP,A)
【文献】特開2006-274654(JP,A)
【文献】特開2003-105956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 5/00
E04D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平床と前記水平床から上側に向けて設けられた立上がり壁を有する防水下地の前記水平床に敷設される断熱材と、
前記立上がり壁に接合される立上がり片と前記立上がり片から略直角に連続して設けられ前記断熱材の上に配置され水平片とを有する固定具と、
前記立上がり片を前記立上がり壁に接合する接合剤と、
前記固定具の前記水平片と前記断熱材の上に敷設され、前記水平片に接合される防水層と、を備え
前記固定具が前記水平片に爪部を備えており前記爪部が前記断熱材に突き刺せられている防水構造。
【請求項2】
前記立上がり片が前記水平床に接していない請求項1に記載の防水構造。
【請求項3】
前記立上がり片が、立上がり壁に沿ってかつ前記水平片から前記水平床に向かって設けられ、前記立上がり壁と前記断熱材の間に配置されている請求項1または請求項2に記載の防水構造。
【請求項4】
前記立上がり片が、立上がり壁に沿ってかつ前記水平片から上側に向かって設けられている請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の防水構造。
【請求項5】
前記固定具の前記爪部が、前記立上がり片とつながる前記水平片の端部と対向する前記
水平片の端部に設けられた突条である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の防水構造。
【請求項6】
記接合剤の粘度が250Pa・s以上2600Pa・s以下である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の防水構造。
【請求項7】
前記接合剤の乾燥前後での体積減少率が10%以下である請求項6に記載の防水構造。
【請求項8】
水平床と前記水平床から上側に向けて設けられた立上がり壁を有する防水下地の前記水平床に断熱材を敷設する工程と、
立上がり片から略直角に連続して水平片が設けられ前記水平片に爪部を備えている固定具の前記立上がり片を前記立上がり壁に沿って配置するとともに前記立上がり片を前記立上がり壁に接合剤により接合し、前記水平片の前記爪部を前記断熱材に突き刺す工程と、
前記断熱材および前記固定具の前記水平片の上に防水層を敷設する工程と、
記防水層を前記水平片に接合し前記防水層を前記断熱材の上に固定する工程とを備える防水構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋上や屋根、ベランダ等の防水構造の立上がり壁を有する入隅部に使用する固定具および該固定具を用いる防水構造、施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベランダ、バルコニー、陸屋根等における躯体の防水を行うために防水シートを用いた防水施工が行われている。ここで、躯体にパラペット部分や太陽光パネルなどの屋上機器の架台など、躯体の水平面から垂直方向に設けられた立上がり壁を有している場合がある。この様な場合、躯体の水平面と立上がり壁で構成される入隅部においては、風圧や躯体の動きなどで防水シートに荷重が集中することから、防水シートが剥離しないように固定する必要がある。多くの場合、入隅部の固定強度や耐久性を確保するため、立上がり壁に沿って鋼板などでできた固定具を取り付けてその固定具に防水シートを固定するという方法が用いられている。
【0003】
固定具は通常、下地の水平面にビスなどで機械固定されるか、もしくは接着剤で下地に接着される。防水シートの下側(躯体側)に断熱材や補強板など複数の下地板が積層される場合、固定具は防水シートと接する状態に配置し、固定具より下側に配置された下地板をビスなどで貫通させて下地に固定する。また、別の方法として、下地板の上に固定具を接着し下地板と固定具の上に防水シートを接合する。
【0004】
特許文献1には、下地と、該下地から立ち上がる立上がり部と、前記下地の上面に積層され、少なくとも断熱層及び防水層を含む複数の層と、を備える屋根の断熱防水構造であって、前記立上がり部と前記複数の層との境界に沿って延びる縁取り用金具を備えており、前記縁取り金具が、前記縁取り金具が配置された層に接着剤を用いて固定されていることを特徴とする、屋根の防水構造が開示されている。
また、前記縁取り用金具は、前記複数の層のうち何れか一つの層の端部上面に配置される押え板部と、前記立上がり部に面する前記押え板部の側端から前記下地の上面まで延びる支持部と、前記支持部の下端から、前記押え板部と同じ方向に延びるフランジ部と、を備えており、前記縁取り用金具は、前記押え板部が配置される層から下地の上面に配置される層までの層の端部を、前記押え板部と前記フランジ部との間に配置することで、前記層の端部に固定されている、ことを特徴とする屋根の断熱防水構造も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5534956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1等の従来技術の様に固定具を水平床、もしくは下地板の上に接着すると、水平床や下地板等の接着面の勾配や凹凸に影響されて固定具が接着面から浮き、固定具が部分的に接着されない等、固定具が水平床や下地板に充分に固定されないことが懸念される。
また、特許文献1で開示された、縁取り用金具の押え板部が配置される層から下地の上面に配置される層までの層の端部を、押え板部とフランジ部との間に配置することで、層の端部に固定されている方法では、下地の勾配や凹凸の影響を受けて固定具が下地に充分に固定されない場合がある。さらにこの場合には、固定具の押え板部とフランジ部の間に断熱材等の各層が配置されるため、各層も下地に対して充分に固定されない状態となることが懸念される。さらに、固定具が下地等の勾配や凹凸により充分に固定されない状態となると、固定板に接合される防水層も下地に対しての固定が不十分となるおそれがある。
【0007】
すなわち、本発明においては、固定具を用いて防水層を固定する場合に、下地等の勾配や凹凸の影響を受けにくく、固定具を下地等に対し充分に固定することで防水層をより安定的に固定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するために用いた手段は、立上がり壁に固定具を固定することを要旨とするものである。具体的には、水平床と水平床から上側に向けて設けられた立上がり壁を有する防水下地の水平床に敷設される断熱材と、立上がり壁に接合される立上がり片と立上がり片から略直角に連続して設けられ断熱材の上に配置され水平片とを有する固定具と、立上がり片を立上がり壁に接合する接合剤と、固定具の水平片と断熱材の上に敷設され、水平片に接合される防水層と、を備え、前記固定具が前記水平片に爪部を備えており前記爪部が前記断熱材に突き刺せられている防水構造とすることである。立上がり片が水平床に接していない防水構造や、立上がり片が、立上がり壁に沿ってかつ水平片から水平床に向かって設けられ、立上がり壁と断熱材の間に配置されている防水構造や、立上がり片が、立上がり壁に沿ってかつ水平片から上側に向かって設けられている防水構造とすることが出来る。さらに、接合剤の粘度が250Pa・s以上2600Pa・s以下とすることや、接合剤の乾燥前後での体積減少率が10%以下とすることもできる。また、前記固定具の前記爪部が、前記立上がり片とつながる前記水平片の端部と対向する前記水平片の端部に設けられた突条である防水構造とすることができる
た、施工方法としては、水平床と水平床から上側に向けて設けられた立上がり壁を有する防水下地の水平床に断熱材を敷設する工程と、立上がり片から略直角に連続して水平片が設けられ前記水平片に爪部を備えている固定具の前記立上がり片を前記立上がり壁に沿って配置するとともに前記立上がり片を前記立上がり壁に接合剤により接合し、前記水平片の前記爪部を前記断熱材に突き刺す工程と、前記断熱材および前記固定具の前記水平片の上に防水層を敷設する工程と、防水層を水平片に接合し防水層を断熱材の上に固定する工程とを備える防水構造の施工方法を用いることが出来る。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、下地等の勾配や凹凸の影響を受けにくく、固定具を下地等に対し充分に固定し防水層を安定的に固定できる防水構造、固定具、および施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態の防水構造の部分断面図である。
図2】本発明の一実施形態の固定具の断面図である。
図3】本発明の一実施形態の固定具の変形例を示す防水構造の部分断面図である。
図4】本発明の一実施形態の斜視図および部分断面図である。
図5】下地に勾配のある場合の本発明の一実施形態の部分断面図である。
図6】従来技術における斜視図および部分断面図である。
図7】下地に勾配のある場合の従来技術における部分断面図である。
図8】下地に凹凸のある場合の本発明の一実施形態の部分断面図である。
図9】下地板の目地をまたいで固定具を用いる場合の本発明の一実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0012】
本発明の第1実施形態について、図1図2を用いて説明する。防水下地Sは水平床1と水平床1から上側に向けて設けられた立上がり壁2を有している。そして、水平床1と立上がり壁2とで入隅部Iが構成されている。水平床1の上には下地板3が設けられ、固定具5は、入隅部Iに配置され立上がり片51と立上がり片51から略直角に連続して設けられた水平片52を有している。固定具5の立上がり片51は立上がり壁2に接合され、水平片52は下地板3の上に配置されている。防水層4は下地板3と水平片52の上に敷設され、さらに水平片52と接合されている。
【0013】
固定具5を立上がり壁2に接着することにより、水平床1の凹凸に影響されずに固定具5を防水下地Sに対して固定することができる。
【0014】
より具体的には、防水下地Sは水平床1と立上がり壁2で構成されている。水平床1の上に下地板3として断熱材31が敷設され、断熱材31の上に防水層4として平場用の防水シート41が敷設されている。断熱材31は、水平床1に接合され、防水シート41は断熱材31に接合されている。固定具5は入隅部Iに設けられ、断熱材31と防水シート41の間に固定具5の水平片52が配置され、断熱材31と立上がり壁2との間に設けられた隙間に固定具5の立上がり片51が配置されている。そして、立上がり片51は立上がり壁2に接合されることで防水下地Sに対し固定された状態となる。さらに、水平片52と防水シート41とが接合されることで、防水シート41は固定具5を介して防水下地Sに対しより安定的に固定されることとなる。
【0015】
固定具5の水平片52は断熱材31に接合されていないことが好ましい。これは、水平床1の勾配や凹凸により断熱材31にも勾配や凹凸があると、水平片52を断熱材31に接合すると固定具5が勾配や凹凸の影響でがたつきが生じ安定的に固定できなくなるおそれがある。これに対し、立上がり片51は立上がり壁2に接合することで水平床1の勾配や凹凸により断熱材31にも勾配や凹凸の影響を受けることなく、固定具5を防水下地Sに固定することができる。
なお、立上がり片51が立上がり壁2に接合されていれば、水平片52を断熱材31に接合するために接着剤等を用いても良い。しかし、水平床1の勾配や凹凸の影響により水平片51が部分的にしか断熱材31に接合されないおそれがあり、補助的な固定の役割となる。
【0016】
第1実施形態の変形例として、固定具5が長尺状である図4について説明する。固定具5は水平床1と立上がり壁2で構成される入隅部Iにおいて、立上がり壁2の長手方向に沿って、固定具5の長手方向を沿わせて配置されている。B-B’断面図は図1と同様である。なお、図4では説明のため防水層4を省略している。
【0017】
ここで同様に、図6には従来技術において固定具Kが長尺状である例を示した。図6において、BからCの方向へとBからA方向に向けて勾配が設けられている場合がある。この様にある点から両側に勾配が設けられている場合に、その高い点(図6の場合点B)をまたいで固定具Kが配置されることがある。従来技術においては固定具Kが水平床1に立上がり壁2に沿って設置されている。そして、図6においてD方向から見た図7(7-2)の様に、固定具Kを水平床1に配置し固定すると、AまたはCどちらかで浮きが生じる。さらに、Cに合わせて設置したとしても、A側に振れるとC側が浮きがたつきが生じて安定的な固定ができない。ここで、図7(7-2)は図6におけるD方向から見た断面図で、説明のため下地Sの水平床1、立上がり壁2と固定具5のみを描き、その他の部材等は省略している。また、図7(7-1)は、図7(7-2)を正面図とすると左側面図に該当し、水平床1、立上がり壁2と固定具5のみを描き、その他は省略している。
【0018】
本実施形態においては、図5の様に勾配があっても固定具5の立上がり片51を立上がり壁2に接合することで水平床1の勾配によるがたつきを生じることなく固定することができる。ここで、図5(5-2)は図4におけるD方向から見た断面図で、説明のため下地Sの水平床1、立上がり壁2と固定具5のみを描き、その他の部材等は省略している。また、図5(5-1)は、図5(5-2)を正面図とすると左側面図に該当し、水平床1、立上がり壁2と固定具5のみを描き、その他は省略している。
また、防水下地Sの勾配は雨水の排水を考慮して設けられる場合が多く、勾配の位置や程度は建築物により適切に設定されるものであるため、固定具5が勾配のどの位置に設置されるかは一定ではない。したがって、固定具5を防水下地Sの勾配を考慮して設置したり、固定具5をその都度変更して設置することは施工の効率や作業性の面で好ましくない。したがって、防水下地Sの防水を行う際に、固定具5を立上がり壁2に固定することで、防水下地S、下地板の勾配や凹凸に依らず固定具5を安定的に固定することができる。
【0019】
図8には水平床1に凹凸10がある場合を示しており、この場合も図5と同様に、固定具5の立上がり片51を立上がり壁2に接合することで水平床1の勾配によるがたつきを生じることなく固定することができる。ここで、図8(8-2)は図4におけるD方向から見た断面図に相当し、説明のため下地Sの水平床1、立上がり壁2、固定具5と凹凸10のみを描き、その他の部材等は省略している。また、図8(8-1)は、図8(8-2)を正面図とすると左側面図に該当し、水平床1、立上がり壁2、固定具5と凹凸10のみを描き、その他は省略している。
【0020】
固定具5の立上がり壁2との接合には、接合剤6を用いるのが好ましい。図1において、接合剤6は立上がり壁2と固定具5の立上がり片51との間に設けられている。
【0021】
ここで、固定具5の立上がり片51が水平床1に接していない変形例を図1に示している。立上がり片51が水平床1に接していないため水平床の勾配や凹凸の影響をより受けにくくなり、防水下地Sの勾配や凹凸に依らず固定具5を安定的に固定することができるために好ましい。
【0022】
図2には固定具5に爪部53が設けられている変形例として固定具5bを示している。固定具5bの水平片52の一方の端部には立上がり片51が設けられ、水平片52のもう一方の端部に爪部53が設けられている。爪部53は下地板3に突き刺すことで固定具5bを下地板3に対応させつつ固定具5をより強固に固定することができる。
【0023】
また、下地板は複数枚を並べて使用する場合を図9に示した。図9において立上がり壁2に沿って下地板3が配置されているが、下地板3が立上がり壁2に沿って複数枚、設置される場合がある。この様な場合、隣り合う下地板3のつなぎ目で目地Mが生じ、この目地Mに段差が生じると、その目地Mをまたいで固定具、防水層を設けると固定具、防水層に段差やシワが生じるおそれがある。しかし、固定具5の立上がり片51を立上がり壁2に接合することで、下地板3の目地Mをまたいで固定具5を設けても固定具に目地の段差の影響を受けにくく、固定具5に接合する防水層4にも段差によるシワ等の発生を抑制することができる。なお、図9では説明のため防水層4を省略している。
【0024】
さらに、固定具5bの様に爪部53を有し、爪部53を下地板3に突き刺すことで、固定具5bが下地板3の目地をまたぐ場合でも固定具5が下地板3に固定され、さらに爪部53によって段差を揃えられるため、防水層4のシワ等もより低減することができる。
【0025】
防水下地Sである水平床1と立上がり壁2は、鉄筋コンクリート、ALC造、木造、鋼製、金属折版屋根等の従来の防水構造に使用されているものであれば、どのような材質、構造であってもよい。また、既存防水層を含めて防水下地Sとしても良く、既存防水層としてはアスファルト防水、シート防水、ウレタン防水、FRP防水等のどのような防水層が施工されている場合でもよい。既存防水層を含め防水下地Sとする場合としては、既存防水層の改修施工が例示できる。
【0026】
下地板3は板状の部材であればどのような材質でもよいが断熱材や補強板を用いることが出来る。断熱材としては、硬質ウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリエチレンフォーム等、一般的に防水層に使用されている断熱材を使用できる。補強板としては、セメント板、合板、無機質材を樹脂で固定化したケイカル板等の無機質板等が挙げられる。また、断熱材と補強板を組み合わせて使用してもよい。
ここで、爪部53を有する固定具5bを用いる場合には、下地板3は比較的柔軟性があるものが好ましい。具体的には断熱材を用いることで、爪部53が断熱材に突き刺しやすくなり作業性が良いという面で好ましい。
【0027】
防水層4は防水シートが好ましく用いられる。防水シートとしては、ポリ塩化ビニル樹脂系、加硫ゴム系、非加硫ゴム系、熱可塑性エラストマー系、エチレン酢酸ビニル樹脂系等、一般的な防水シートが使用できる。水平床1には平場用の防水シートを用い、立上がり壁2には立上がり用防水シートを用いることが出来る。平場用の防水シートと立上がり用の防水シートは同一のものを用いても良いし、それぞれ異なる種類の防水シートを用いてもよい。
防水シートは熱可塑性樹脂層の単層でも良いが、寸法安定性、引張強度に優れるという点からガラスクロス、ガラス不織布、ポリエステルクロス、ポリエステル不織布等の基材層を積層した複層品が好ましい。基材層は最下層に設けても良いが熱可塑性樹脂層の中間に設けても良い。また熱可塑性樹脂層は一層であっても、複数の層であってもよく、それぞれの層の組成を異なるものとしてもよい。
【0028】
固定具5は、図2に示すように立上がり壁2に接合される立上がり片51と立上がり片51から連続して設けられた水平片52を有し、立上がり片51と水平片52とは略直角をなしている。固定具5aの断面は略L字形となっている。変形例として固定具5bの様には爪部53を有することが好ましい。爪部53は水平片52の立上がり片51とつながる側とは逆の端部に突起部分を防水下地の水平床1側に設けられている。図2の例では爪部53は立上がり片51と同じ方向に向けて設けられている。
また、固定具5は立上がり壁2に沿って設けられるため、作業性、施工性の点から立上がり壁2に沿って長く長尺状とすることが好ましい。すなわち、立上がり片51と水平片52とで構成される断面が連続して形成され、板状の立上がり片51と板状の水平片52とで略L字に組み合わされた様な形状となっている。
【0029】
立上がり片51は立上がり壁2に沿って、水平片52を水平床1と対向して配置した際に下方向、すなわち水平床1方向へ設けられるのが好ましい。これにより、立上がり片51が立上がり壁2と下地板3の間に挟みこまれることとなり、安定的に固定具5が固定される。また立上がり片51を立上がり壁2に接合する際に、接合の初期において安定して固定具5を固定でいるため好ましい。
立上がり片51は図3(3-2)に示すように水平片52から上側に設けても良い。また、図3(3-3)のように立上がり片51を水平片52の上下に設けることもできる。固定具5cは断面略Z形状となり、固定具5dは断面略T字形状となっている。ここで、水平床1の勾配や凹凸の影響を低減するために固定具5は水平床1に接していないのが好ましい。よって、立上がり片51は水平床1に接していないことが好ましくため、下地板3の厚みが薄いときには立上がり片51の長さも下地板3の厚みよりも短くすることが好ましい。したがって、下地板3の厚みに合わせると立上がり片51として十分な接合面積を確保できない場合には、立上がり片51を水平片1から上側に設けた固定具5c、5dを用いることが好ましい。
【0030】
水平片52は防水層4と接合する必要があるため、下地板3の上、防水層4の下に配置される。水平片52の長さは防水層4の接合に十分な寸法とする。防水層4の接合部は、40mm以上の接合面が確保できることが望ましいが、40mm~200mm以下が好ましい。
【0031】
爪部53は、長さが下地板3に突き刺して十分に固定できる長さであればよい。ただし、水平床2に接触しないように、下地板3の厚みよりも短くすることが好ましい。これにより、固定具5が水平床1の勾配や凹凸の影響を受けることを低減できる。特に、立上がり片51を立上がり壁2に接合する際に、立上がり片51が立上がり壁2に固定される前の固定具5のずれや浮きを低減し、より納まり良く防水層4を敷設できる。
【0032】
固定具5は、防水層4を下地に対しより安定的に固定するために用いられる。そのため、適度な剛性と強度を有することが好ましく、金属製、樹脂製、木製等が用いられる。剛性と強度の面から金属製が好ましい。固定具5の表面は防水層4と接合され、その接合は熱融着もしくは溶剤溶着が好ましい。そのため、固定具5の防水層4と接する面、通常は水平床1に対して上方となる上面を防水層4と溶着または融着できる材質で被覆されていることが好ましい。防水層4が熱可塑性樹脂系の防水シートであれば、固定具5の被覆も熱可塑性樹脂系とすることが好ましい。
具体的に例示すると、防水層4をポリ塩化ビニル樹脂系防水シートとした場合、固定具5の上面(防水層4と接する面)はポリ塩化ビニル樹脂系層で被覆されていることが好ましい。これにより、防水層4であるポリ塩化ビニル樹脂系防水シートと固定具5の上面に被覆されたポリ塩化ビニル樹脂系層とを熱による融着または溶剤による溶着が可能となり、防水層4と固定具5を強固に接合することが出来る。
また、固定具5の上面と対向する下面(水平床1に近い面)にも熱可塑性樹脂系等の被覆を行うことが好ましい。特に固定具5が金属製である場合、固定具5の腐食等を防ぐ保護層としても下面に被覆を設けることが好ましい。上記の具体例では、下面もポリ塩化ビニル樹脂系層で被覆されていることが好ましい。
【0033】
固定具5の立上がり片51を立上がり壁2に接合する際に用いる接合剤6としては、例えばシリコーン系、変性シリコーン系、ポリサルファイド系、ポリウレタン系、エポキシ系、変性エポキシ系、アクリル系、スチレンブタジエンゴム系、ニトリルゴム系、ブチルゴム系等の接合剤を使用できる。
【0034】
立上がり壁2表面に少々凹凸があったとしても、固定具5のずれは水平方向になるため防水層を敷設する際の妨げにはならない。また、固定具の接合剤6を厚くすることで、立上がり壁2の凹凸を緩衝することができる。したがって、垂直面である立上がり壁2に接合剤6を厚く塗布するためには、接合剤6の粘度は比較的高いものが望ましい。具体的には、250Pa・s~2600Pa・sが好ましい。
【0035】
さらに、接合剤6を厚く塗布する場合には、乾燥後に接合剤6が立ち上り壁2や固定具5の立上がり片51から剥離するのを防ぐため、乾燥後の体積変化が極力少ない接合剤6が望ましい。具体的には、体積減少率が10%以下のものが望ましい。
【0036】
立上がり壁2と立上がり片51の接合面については、立上がり壁2の表面の材質によっては立上がり片51と接合剤6との接合性をよくするために表面処理を行う場合もある。具体的には表面処理剤やプライマーの塗布が例示できる(図示しない)。処理剤やプライマーについては、固定具の接合剤6と接合性が良いものを用いるのが好ましい。
【0037】
下地板3は水平床1に固定されることが好ましい。図1には第1実施形態の変形例として下地板3が接合剤7により接合されている。下地板3を接合する接合剤7は立上がり片51を接合する接合剤6と同じ接合剤を用いても良いし、別の接合剤を用いても良い。
下地板3を接合する接合材7は、例えばシリコーン系、変性シリコーン系、ポリサルファイド系、ポリウレタン系、エポキシ系、変性エポキシ系、アクリル系、スチレンブタジエンゴム系、ニトリルゴム系、ブチルゴム系等の接合剤を使用できる。
また、接合剤7は下地板7の全面に塗布しても良いが、図1の様に間隔を開けて接合剤7を塗布し、点状に接合剤を設けても良い。
【0038】
本発明の第1実施形態にかかる施工方法について図1を用いて説明する。水平床1と立上がり壁2を有する防水下地Sに、下地板3を敷設する工程と、下地板3の上に防水層4を敷設する工程と、固定具5の立上がり片51と連続して設けられた水平片52を下地板3と防水層4の間に配置し、立上がり片51を立上がり壁2に沿って配置するとともに立上がり片51を立上がり壁2に接合する工程と、防水層4を水平片52に接合し防水層4を下地板3の上に固定する工程がある施工方法となる。
【0039】
より具体的には、水平床1の上に下地板3として断熱材31を敷設し、固定具5の水平片52を下地板3の上に配置し、さらに立上がり片51を入隅部Iにおける立上がり壁2と下地板3との間に入れ、立上がり片51を立上がり壁2に接合する。そして、水平片52と下地板3の上に防水層4である防水シート41を敷設し、防水シート41と水平片52とを接合する。これにより、防水シート41は固定具5を介して防水下地Sに対しより安定的に固定されることとなる。
【0040】
固定具5が図9のように長尺の場合、固定具5を立上がり壁2に沿って配置する。このとき、水平床1、下地板3の勾配や凹凸により固定具5が不安定とならないように固定具5の位置を調整して立上がり壁2に固定する。また、下地板3が複数枚によって構成され下地板3に目地Mが設けられた場合にも、目地Mでの段差の影響を少なくするために、固定具5の位置を調整して固定するとともに、隣り合う固定具5との段差も少なるように調整して固定する。このように、固定具5は立上がり壁2に立上がり片51を接合することで防水下地Sに対し固定されるため、水平床1、下地板3の影響を受けにくく、複数の固定具5の段差を小さくして固定することが出来る。
【0041】
ここで、第1実施形態で図1の立上がり壁2は水平床1の端部に設けられたパラペット等として図示されている。しかし、立上がり壁2はパラペットのような水平床1の端部に設けられた部分だけでなく、水平床1から上方に向けて突き出た部分であればよい。例えば、水平床1に設けられた機器等を設置する架台であっても良い。架台は水平床1の端縁部ではなく、内側に設置され台座の周囲に立上がり壁2が設けられている場合にも、本発明を適応することが出来る。
【実施例
【0042】
以下に、本発明の実施例について説明する。
本発発明の実施例1を図1を用いて説明する。水平床1と立上がり壁2がコンクリートである防水下地Sに対して、下地板3として硬質ウレタンフォーム31aが敷設されている。硬質ウレタンフォーム31aは水平床1に変性シリコーン系接着剤7aである接合剤7により固定されている。変性シリコーン系接着剤7aは水平床1に間隔をあけて塗布されている。固定具5aは、立上がり片51と水平片52とで構成され、立上がり片51から水平片52が連続して形成され、断面略L字形状となっている。固定具5aの立上がり片51は変性シリコーン系接着剤6aを接合剤6として用いて、立上がり壁2に接合されている。立上がり片51は水平床1には接触しておらず、硬質ウレタンフォーム31aの厚みより立上がり片51の長さは少し短く設定されている。下地板3である硬質ウレタンフォーム3aと固定具5の水平片52の上には防水層4として平場用防水シート41である平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aが敷設されている。平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aは硬質ウレタンフォーム31aとニトリルゴム系接着剤により固定されている。立上がり壁2には立上がり用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート42aがニトリルゴム系接着剤により固定されている。ここで、固定具5aはポリ塩化ビニル系樹脂層により上下面とも被覆された鋼板を用いている。固定具5の水平片52の上のポリ塩化ビニル系樹脂層と平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aとは、溶剤により溶着されている。水平片52と平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aとの接合は溶剤による溶着だけでなく、熱融着器を用いた熱融着によって接合してもよい。
【0043】
接合剤6aは粘度が250Pa・s~550Pa・sであり、乾燥前後の体積減少率が10%以下の接合剤を使用することにより、初期接着時も固定具5を安定して固定することができた。
【0044】
実施例1の変形例として、固定具5について爪部53を有する固定具5bを用いることもできる。この場合、固定具5bの爪部53を硬質ウレタンフォーム31aに突き刺すことで固定具5bがより安定的に固定されるために好ましい。硬質ウレタンフォーム31aの厚みが35mmに対して、変形例で用いた固定具5bの立上がり片51の長さを30mm、水平片52の幅を50mm、爪部53の長さを10mmとした断面略L字状の固定具を使用した。
【0045】
固定具5が長尺であり、下地板3が複数用いられる実施例2について、図9を用いて説明する。また、実施例1と異なる部分について説明を行い、実施例1と同じ構成については説明を省略した。下地板3として硬質ウレタンフォーム31aを立上がり壁2に沿って複数枚並べ、その上に固定具5bを配置している。長尺状で爪部53を有している固定具5bは、長手側を立上がり壁2の長手方向に沿って、隣り合う硬質ウレタンフォーム31aの目地をまたぐように配置されている。水平床1の影響で隣り合う硬質ウレタンフォーム31aの目地に段差が生じていても立上がり片51を立上がり壁2に固定し、爪部53が硬質ウレタンフォーム31aが突き刺されている。爪部53が硬質ウレタンフォーム31aが突き刺されることで、硬質ウレタンフォーム31aの動きを制限するとともに、爪部53が高さが異なる隣り合う2つの硬質ウレタンフォーム31aに固定されるため、固定具5bがより安定的に固定される。
【0046】
実施例1の変形例として、図1に示すように、固定具5に立上がり壁2に接合された立上がり用防水層42を接合する例を説明する。固定具5の上に接合された平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aの上に立上がり用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート42aを接合している。立上がり用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート42aは固定具5bの水平片52に対応する位置から入隅部Iを覆うように連続して立上がり壁2にかけて敷設固定されている。立上がり用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート42aの敷設時の形状は断面視、略L字形状となっている。立上がり用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート42aと立上がり壁2との接合は接着剤を用いることができ、本実施例ではニトリルゴム系接着剤を用いている。また、立上がり用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート42aと平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aとの接合は、溶剤による溶着により接合されているが、熱融着器を用いた熱融着によって接合してもよい。
また、その他の変形例についても同様に立上がり用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート42aを用いることが出来る。また、固定具5としては固定具5b、5c、5d等を用いることもできる。
【0047】
実施例1の施工方法について説明する。まず、水平床1の上に下地板3として硬質ウレタンフォーム31aを敷設し、固定具5aの立上がり片51の立上がり壁2と接触する面に接合剤6として変性シリコーン系接着剤6aを塗布する。立上がり片51を立上がり壁に沿って、硬質ウレタンフォーム31aと立上がり壁2の隙間に立上がり片51を差し込む。硬質ウレタンフォーム31aと固定具5aの水平片52の上に平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aを敷設し、平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aはニトリルゴム系接着剤により硬質ウレタンフォーム31aに固定した。この時、水平片52は硬質ウレタンフォーム31aと平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aの間に来るように配置する。なお、平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aは間隔をあけて水平床1に塗布した変性シリコーン系接着剤7aにより固定した。水平片52と平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aとは溶剤により溶着し、平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aを固定具5aに固定した。これにより、固定具5は立上がり壁2に接合され、下地の凹凸と干渉せずに段差や浮きがなく固定具5aを固定することができた。
【0048】
実施例1の固定具5に爪部53を有する固定具5bを用いた変形例の施工方法について説明する。水平床1の上に下地板3として硬質ウレタンフォーム31aを敷設し、固定具5bの立上がり片51の立上がり壁2と接触する面に接合剤6として変性シリコーン系接着剤6aを塗布する。立上がり片51を立上がり壁に沿って、硬質ウレタンフォーム31aと立上がり壁2の隙間に立上がり片51を差し込む。爪部53に沿って、下地板3に深さ10mm以上の切り込みを入れ、爪部53を切り込みに差し込んだ。差し込む際にはハンマーなどで軽く固定具5bを叩くようにすることで簡単に差し込むことが可能となる。硬質ウレタンフォーム31aと固定具5bの水平片52の上に平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aを敷設し、平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aはニトリルゴム系接着剤により硬質ウレタンフォーム31aに固定した。この時、水平片52は硬質ウレタンフォーム31aと平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aの間にくるように配置する。なお、平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aは間隔をあけて水平床1に塗布した変性シリコーン系接着剤7aにより固定した。水平片52と平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aとは溶剤により溶着し、平場用ポリ塩化ビニル樹脂系防水シート41aを固定具5bに固定した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、下地を傷付けずに施工したい場合や施工部が狭く工具が使用しにくい場合においても、下地の凹凸に影響されず納まりの良い防水構造、固定具、および施工方法を提供できる。
【符号の説明】
【0050】
S 下地
I 入隅部
M 下地板目地
1 水平床
2 立上がり壁
3 下地板
4 防水層
41防水シート
5 固定具
51立上がり片
52水平片
53爪部
6 接合剤
10 下地の凹凸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9