(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】操舵機能付ハブユニット
(51)【国際特許分類】
B62D 7/18 20060101AFI20240710BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240710BHJP
B60G 9/04 20060101ALI20240710BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20240710BHJP
B62D 7/14 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B62D7/18 Z
B62D5/04
B60G9/04
B60B35/02 L
B62D7/14 Z
(21)【出願番号】P 2019214179
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-08-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】坂上 恭平
(72)【発明者】
【氏名】矢ヶ崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】大畑 佑介
(72)【発明者】
【氏名】大場 浩量
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/110788(WO,A1)
【文献】特開平02-299981(JP,A)
【文献】特表2006-521963(JP,A)
【文献】国際公開第2011/036372(WO,A1)
【文献】特開2004-122932(JP,A)
【文献】特開2019-006227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/00- 7/22
B60G 1/00-99/00
B60B 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーションビームと一対のトレーリングアームからなる懸架装置で支持される後輪を操舵する操舵機能付ハブユニットであって、
前記後輪を回転支持し且つ上下方向に延びる転舵軸を有する転舵軸付ハブベアリングと、
この転舵軸付ハブベアリングを前記転舵軸の転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、
このユニット支持部材とは別体で構成されて前記転舵軸付ハブベアリングを前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、を備え、前記転舵軸は、前記転舵軸付ハブベアリングの外輪の外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状の軸部であり、前記操舵用アクチュエータは、前記懸架装置の前記トーションビームの最下面よりも高い位置で、且つ、前記懸架装置における回転支持部と前記転舵軸付ハブベアリングとの間で、前記懸架装置に取り付けら
れ、
前記操舵用アクチュエータは、モータと、このモータの回転出力を出力ロッドの往復直線運動に変換し前記転舵軸付ハブベアリングの固定輪に操舵力を与える直動機構と、を備え、
前記転舵軸付ハブベアリングの固定輪に操舵力を与えるアーム部を備え、このアーム部は、前記固定輪からインボード側に突出し前記出力ロッドに連結され、
前記ユニット支持部材、および前記懸架装置における前記ユニット支持部材の取付部には、前記アーム部のインボード側への突出を許し且つ前記アーム部との干渉を防止する孔が形成されている操舵機能付ハブユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵機能付きハブユニットであって、前記懸架装置にさらに配置されたスプリングシートを備え、前記操舵用アクチュエータは前記スプリングシートに固定される操舵機能付きハブユニット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の操舵機能付ハブユニットにおいて、前記懸架装置の左右両側部に前記ユニット支持部材がそれぞれ取り付けられ、1つの前記操舵用アクチュエータで左右の前記後輪を操舵する操舵機能付ハブユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トーションビーム式の懸架装置を用いた後輪を操舵する機能を備えた操舵機能付ハブユニットに関し、走行状況に合わせ左右の後輪を適切な操舵角に制御することで、燃費の改善および走行性の安定と安全性の向上を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
後輪操舵機構の例として、特許文献1では、操舵用アクチュエータをばね下(トーションビーム式懸架装置)に取り付けている。車両前後方向のトレーリングアームに沿って操舵用アクチュエータを配置することで、燃料タンクまたはサイレンサ等の他の部品との干渉を避けることができ、且つ車体との取付部位付近に操舵用アクチュエータを取り付けることで、タイヤの上下動に伴うトー角の変化を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構造では、キングピン軸(転舵軸)がタイヤの接地面中心から離れた位置にあるため、タイヤを引きずりながら操舵することになり大きな動力が必要になる。また、タイヤの回転軌跡も大きくなるためタイヤハウスが大きくなる。
【0005】
本件出願人の提案する操舵機能付ハブユニット(特願2018-183189)は、トーションビーム式懸架装置のようなリジッドアクスルにも搭載することが可能で操舵角度を別々に制御することができる。しかし、操舵機能付ハブユニットのハブベアリングの背面には、コイルばねおよびショックアブソーバが配置されている。操舵機能付ハブユニットの操舵用アクチュエータを配置するには、これらコイルばねおよびショックアブソーバに干渉しないように避けなければならない。このため、操舵機能付ハブユニットが大型化し重量が増加することで、乗り心地に影響を与える可能性がある。
また操舵角度を大きくしようとすると、操舵用アクチュエータのサイズが大きくなるため、操舵機能付ハブユニットを車両に搭載することが難しくなる。
【0006】
車両の後輪に適用されるトーションビーム式懸架装置は、回転支持部で車体に回転支持されており、車両の動きに合わせて、バウンド/リバウンドする。トーションビーム式懸架装置は、ばね下部品であり、ばね下部品の重量増は車両の乗り心地に影響を及ぼす。また、前記回転支持部から遠い位置に重量物を取り付けると、慣性モーメントが増加し乗り心地を悪化させる原因となる。
また、車両の後輪周辺は、懸架装置用ショックアブソーバまたはマフラー等の部品が配置されており、操舵用アクチュエータを配置するスペースが限られている。よって、操舵用アクチュエータが他部品と干渉するため、操舵機能付ハブユニットを車両に簡易に搭載することは難しい。
【0007】
この発明の目的は、所望の操舵角度にすることができると共に乗り心地の悪化を防ぐことができ、さらに車両の大掛かりな構造変更等を伴うことなく車両に簡易に搭載することができる操舵機能付ハブユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の操舵機能付ハブユニットは、トーションビームと一対のトレーリングアームからなる懸架装置で支持される後輪を操舵する操舵機能付ハブユニットであって、
前記後輪を回転支持し且つ上下方向に延びる転舵軸を有する転舵軸付ハブベアリングと、
この転舵軸付ハブベアリングを前記転舵軸の転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、
このユニット支持部材とは別体で構成されて前記転舵軸付ハブベアリングを前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、を備え、
前記操舵用アクチュエータは、前記懸架装置の前記トーションビームの最下面よりも高い位置で、且つ、前記懸架装置における回転支持部と前記転舵軸付ハブベアリングとの間で、前記懸架装置に取り付けられている。
前記「別体」とは、操舵用アクチュエータとユニット支持部材とが、互いに分離可能な別の要素から成ることを意味する。
前記回転支持部は、懸架装置の構成要素であり、車体に対し車幅方向軸心回りに回転可能に支持される。
【0009】
この構成によると、後輪を支持する転舵軸付ハブベアリングを、操舵用アクチュエータの駆動により、転舵軸心回りに自由に回転させることができる。操舵用アクチュエータをユニット支持部材とは別体にしたため、既存部品に干渉することなく操舵用アクチュエータのサイズを大きくして配置できる。これにより所望の操舵角度にすることができる。
ユニット支持部材とは別体に構成した操舵用アクチュエータが、懸架装置における回転支持部と転舵軸付ハブベアリングとの間で、懸架装置に取り付けられたため、ユニット支持部材と操舵用アクチュエータとを一体に構成した従来構成よりも、懸架装置の慣性モーメントの増加を抑えることができ、バウンド時等の乗り心地の悪化を防ぐことができる。重量のある操舵用アクチュエータを回転支持部に近づけて取り付ける程、慣性モーメントが小さくなり乗り心地の悪化を防ぐことができる。
操舵用アクチュエータをユニット支持部材とは別体にしたことで、機械要素の配置に関する選択範囲が広がり、ショックアブソーバ等の既存部品のスペースが損なわれることなく、操舵機能付ハブユニットを車両に簡易に配置することができる。したがって、車両の大掛かりな構造変更等を伴うことなく操舵機能付ハブユニットを車両に簡易に搭載することができる。
【0010】
前記操舵用アクチュエータは、直動機構本体と、この直動機構本体から出退可能で前記転舵軸付ハブベアリングの外輪に操舵力を与える直動出力部とを有し、この直動出力部が車体の左右方向に出退するように、前記直動機構本体が前記懸架装置に取り付けられてもよい。直動出力部が車体の左右方向に出退するように、直動機構本体が懸架装置に取り付けられるため、車体の空き空間を有効に使うことができる。
【0011】
前記トレーリングアームは車両内側方向と車両外側方向とを連通する連通孔をさらに備え、前記直動出力部の一部は前記連通孔内に配置されてもよい。
直動出力部をトレーリングアームの上を通すように配置する場合はスプリング等の他部材との干渉があるため、レイアウトに制限がかかる。また直動出力部をトレーリングアームの下を通すように配置する場合には地面との干渉を避けるために車両の最低地上高を上げる必要がある。
一方、直動出力部をトレーリングアームの連通孔内を通すように配置することで、他部材との干渉を避けつつ、最低地上高を上げる必要がない。
【0012】
前記操舵用アクチュエータは側面視で前記トレーリングアームと重なる位置に配置されてもよい。この場合、操舵用アクチュエータを側面視でトレーリングアームと重ならない位置に配置する場合に比べて、直動出力部の長さを短縮することが可能となる。
【0013】
前記懸架装置にさらに配置されたスプリングシートを備え、前記操舵用アクチュエータは前記スプリングシートに固定されてもよい。
操舵用アクチュエータをトーションビームに固定すると、トーションビームの捻じれに対し操舵用アクチュエータが剛性部材として働いてしまうため、捻じれを抑制してしまい乗り心地が悪化する虞がある。
この構成では、前記操舵用アクチュエータをスプリングシートに固定することにより、トーションビームの捩じりへの影響が抑制され、乗り心地を確保することが可能となる。
【0014】
前記懸架装置の左右両側部に前記ユニット支持部材がそれぞれ取り付けられ、1つの前記操舵用アクチュエータで左右の前記後輪を操舵してもよい。この場合、2つの操舵用アクチュエータで左右の後輪を操舵する構成よりも、ばね下の軽量化および慣性モーメントの低減を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の操舵機能付ハブユニットは、トーションビームと一対のトレーリングアームからなる懸架装置で支持される後輪を操舵する操舵機能付ハブユニットであって、前記後輪を回転支持し且つ上下方向に延びる転舵軸を有する転舵軸付ハブベアリングと、この転舵軸付ハブベアリングを前記転舵軸の転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、このユニット支持部材とは別体で構成されて前記転舵軸付ハブベアリングを前記転舵軸心回りに回転駆動させる操舵用アクチュエータと、を備え、前記操舵用アクチュエータは、前記懸架装置の前記トーションビームの最下面よりも高い位置で、且つ、前記懸架装置における回転支持部と前記転舵軸付ハブベアリングとの間で、前記懸架装置に取り付けられている。このため、所望の操舵角度にすることができると共に乗り心地の悪化を防ぐことができ、さらに車両の大掛かりな構造変更等を伴うことなく車両に簡易に搭載することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の第1の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットの車載搭載時の全体の外観を表す斜視図である。
【
図4】この発明の他の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットの車載搭載時の全体の外観を表す斜視図である。
【
図5】この発明の他の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットの斜視図である。
【
図7】いずれかの操舵機能付ハブユニットを備えた車両の模式平面図である。
【
図8】この発明のさらに他の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットの車載搭載時の全体の外観を表す斜視図である。
【
図9】同操舵機能付ハブユニットを備えた車両の模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態]
この発明の実施形態に係る操舵機能付ハブユニットを
図1ないし
図3、
図7と共に説明する。
図7に示すように、実施形態に係る操舵機能付ハブユニット1は、トーションビーム式の懸架装置Rsで支持される左右の後輪9R,9Rを各輪独立して操舵する機能を有し、前輪操舵付きの車両10の後輪9R,9Rに適用される。
【0018】
<操舵機能付ハブユニットの概略構造>
図1に示すように、この操舵機能付ハブユニット1は、転舵軸付ハブベアリング15と、ユニット支持部材3と、操舵用アクチュエータ5とを備える。
図7に示すように、操舵機能付ハブユニット1は、ハンドル操作等による左右の前輪9F,9Fの操舵と共に、左右の後輪9R,9Rを微小な角度(約±5deg)独立して操舵可能である。但し、操舵機能付ハブユニット1において、車両制御の要求によっては、前記微小な角度に限らず例えば10°~20°等の比較的大きな角度を左右輪個別に採ることもある。
【0019】
図1および
図2に示すように、ユニット支持部材3のアウトボード側に、転舵軸付ハブベアリング15が設けられる。操舵機能付ハブユニット1を車両10(
図7)に搭載した状態で、車両10(
図7)の車幅方向外側をアウトボード側といい、車両10(
図7)の車幅方向中央側をインボード側という。
図1および
図3に示すように、転舵軸付ハブベアリング15は、上下方向に延びる転舵軸16b,16bをその転舵軸心A回りに回転自在なように、上下二箇所で回転許容支持部品4,4を介してユニット支持部材3に支持されている。転舵軸心Aは、後輪9R(
図7)の回転軸心Oとは異なる軸心である。
【0020】
<転舵軸付ハブベアリング15>
転舵軸付ハブベアリング15は、車体側の部材と後輪9R(
図7)とを繋ぎ、後輪9R(
図7)を滑らかに回転させる。転舵軸付ハブベアリング15は、内外輪18,19およびこれら内外輪18,19間に介在したボール等の転動体20を有し、且つ上下方向に延びる転舵軸16b,16bを有する。さらに転舵軸付ハブベアリング15は、後述するアーム部17を有する。
【0021】
この転舵軸付ハブベアリング15は、図示の例では、外輪19が固定輪、内輪18が回転輪となり、転動体20が複列とされたアンギュラ玉軸受とされている。内輪18は、ハブフランジ18aaを有しアウトボード側の軌道面を構成するハブ輪部18aと、インボード側の軌道面を構成する内輪部18bとを有する。ハブフランジ18aaに、後輪9R(
図7)のホイールがブレーキロータ(図示せず)と重なり状態でボルト固定されている。内輪18は、回転軸心O回りに回転する。
【0022】
転舵軸16b,16bは、外輪19の外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状の軸部であり、転舵軸心Aに同軸に設けられる。各転舵軸16bは、外輪19に一体に設けられているが、例えば、外輪19の外周面に嵌合可能な円環部を設け、この円環部の外周から上下に突出する転舵軸としてもよい。前記「一体に設けられ」とは、外輪19と転舵軸16bとが、複数の要素を結合したものではなく単一の材料から例えば鍛造、機械加工等により単独の物の一部として成形されたことを意味する。
【0023】
ブレーキは、前記ブレーキロータと、図示外のブレーキキャリパとを有する。前記ブレーキキャリパは、外輪19に一体にアーム状に突出して形成された上下二箇所のブレーキキャリパ取付部22に取り付けられる。
【0024】
<ユニット支持部材等>
図1および
図2に示すように、トーションビーム式の懸架装置Rsの左右両側部には、ユニット支持部材3がそれぞれ取り付けられている。懸架装置Rsは、車体10a(
図7)の前後方向にそれぞれ伸びる左右一対のトレーリングアームTa,Taと、これらトレーリングアームTa,Taを繋ぐトーションビームTbと、コイルばねCb(
図5参照)およびショックアブソーバとを有する。
【0025】
各トレーリングアームTaの一端部(後端部)に設けられた取付部34に、ユニット支持部材3がそれぞれ固定されている。左右の各取付部34のアウトボード側面に、それぞれユニット支持部材3がボルト等により着脱自在に固定されている。各トレーリングアームTaの他端部には、それぞれ回転支持部Taaが設けられている。左右の回転支持部Taa,Taaが左右同軸で車体10a(
図7)に対し車幅方向軸心回りに回転可能に支持され、これにより左右のトレーリングアームTa,Taは、回転支持部Taa,Taaを介して上下方向に揺動可能に車体10a(
図7)に取り付けられる。なおトーションビームTbにおける長手方向両端付近の後端部には、それぞれ前記コイルばねの下端部を取り付けるスプリングシートSs,Ssが設けられている。
【0026】
図3に示すように、各回転許容支持部品4は転がり軸受から成る。この例では、転がり軸受として、円すいころ軸受が適用されている。転がり軸受は、転舵軸16bの外周に嵌合された内輪4aと、ユニット支持部材3に嵌合された外輪4bと、内外輪4a,4b間に介在する複数の転動体4cとを有する。上下の転がり軸受は前記ホイール内に位置するように設けられている。ユニット支持部材3の上下の部分3A,3Bには、それぞれ嵌合孔が形成され、各嵌合孔に外輪4bが嵌合固定されている。前記各嵌合孔は、転舵軸心Aに同軸に設けられる。
【0027】
各転舵軸16bには雌ねじ部が形成され、この雌ねじ部に螺合するボルト23が設けられている。内輪4aの端面に円板状の押圧部材24を介在させ、前記雌ねじ部に螺合するボルト23により内輪4aの端面に押圧力を付与することで、各転がり軸受にそれぞれ適切な予圧を与えている。これにより各回転許容支持部品4の強度・耐久性を確保している。車両の重量がこの操舵機能付ハブユニット1に作用した場合でも初期予圧が抜けないように設定される。このため、この操舵機能付ハブユニット1は操舵装置としての剛性を確保し得る。なお、回転許容支持部品4は、円すいころ軸受に限るものではなく、最大負荷率等の使用条件によってはアンギュラ玉軸受を用いることも可能である。その場合も、上記と同様に予圧を与えることができる。
【0028】
図1に示すように、アーム部17は、転舵軸付ハブベアリング15の外輪19に補助的な操舵力を与える作用点となる部位であり、外輪19の外周の一部に一体に半径方向外方に突出する。このアーム部17は、ボールジョイントBjを介して、操舵用アクチュエータ5の直動出力部である出力ロッド25aに回転自在に連結されている。操舵用アクチュエータ5の出力ロッド25aが進退することで、転舵軸付ハブベアリング15が転舵軸心A回りに回転、つまり操舵させられる。前記ボールジョイントBjを使用することで、操舵用アクチュエータ5と転舵軸付ハブベアリング15のアーム部17の取付け高さを揃える必要がなくなり、操舵用アクチュエータ5と転舵軸付ハブベアリング15との距離を任意に設定し得る。
【0029】
このように操舵用アクチュエータ5の取付け高さ、および転舵軸付ハブベアリング15に対する操舵用アクチュエータ5の距離を自由に変えることができるため、車両に対する操舵用アクチュエータ5の搭載性の自由度が上がる。さらに、搭載時にボールジョイントBjの長さおよび操舵用アクチュエータ5の位置によってトー角調整を行うことができる。通常、このボールジョイントBjの周辺は、防水、防塵のために図示外のブーツが取り付けられている。
【0030】
<操舵用アクチュエータ5>
図1および
図2に示すように、操舵用アクチュエータ5は、ユニット支持部材3とは別体で構成されて転舵軸付ハブベアリング15を転舵軸心A回りに回転駆動させる。前記「別体」とは、操舵用アクチュエータ5とユニット支持部材3とが、互いに分離可能な別の要素から成ることを意味する。
操舵用アクチュエータ5は、回転駆動源であるモータ26と、このモータ26の回転を減速する図示外の減速機と、この減速機の正逆の回転出力を出力ロッド25aの往復直線動作に変換する直動機構25とを備える。モータ26は、例えば永久磁石型同期モータとされるが、直流モータまたは誘導モータであってもよい。前記減速機は、例えばベルト伝達機構等の巻き掛け式伝達機構またはギヤ列等を用いることができる。
【0031】
直動機構25は、台形ねじまたは三角ねじ等の滑りねじ式の送りねじ機構を用いることができる。この例では台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構が用いられている。この直動機構25は、前記送りねじ機構と、この送りねじ機構等の構成部品を覆うカバーである直動機構本体25Aとを備える。前記送りねじ機構は、図示外のナット部と、ねじ軸である前記出力ロッド25aとを有する。出力ロッド25aは、直動機構本体25Aに対して回り止めされている。なおモータ26の駆動力を、減速機を介さず直接に直動機構25へ伝達する機構も可能である。
【0032】
操舵用アクチュエータ5は、懸架装置RsのトーションビームTbの最下面Lvよりも高い位置で、且つ、懸架装置Rsにおける回転支持部Taaと転舵軸付ハブベアリング15との間で、懸架装置Rsに取り付けられている。具体的には、懸架装置RsのうちトーションビームTbにおける長手方向両端付近の一側面に、直動機構本体25Aが固定されている。この直動機構本体25Aは、車体の左右方向に延びて出力ロッド25aが前記左右方向に出退するように、トーションビームTbに固定されている。また直動機構本体25Aは、出力ロッド25aがアウトボード側に向くように配置されている。
【0033】
操舵用アクチュエータ5の配置方向によって、転舵軸付ハブベアリング15のアーム部17の位置が変更される。効率的に少ないエネルギーで後輪を操舵するためには、転舵軸付ハブベアリング15の転舵軸16b(
図3)に対して垂直な方向にアーム部17を真っ直ぐ押し引きすることが望ましく、アーム部17および操舵用アクチュエータ5はそのように配置されている。トーションビームTbは、このトーションビームTbの長手方向に垂直な平面で切断した見た断面が例えば凹形状に形成され、トーションビームTbの前記最下面Lvは、凹形状部の開口先端縁部となる。なおトーションビームTbにトーションバー(図示せず)が内蔵されてもよい。
【0034】
<作用効果>
後輪9Rを支持する転舵軸付ハブベアリング15を、操舵用アクチュエータ5の駆動により、転舵軸心A回りに自由に回転させることができる。よって、最適な操舵角度を採ることが可能となり、例えば、車両10の走行状況に応じて、後輪9Rの操舵角を任意に制御することができる。例えば、後輪9Rの操舵角を前輪9Fと同じ位相にすると、操舵時に車両10に発生するヨーを抑え、車両10の安定性を高めることができる。さらに、直線走行時にも左右独立で操舵角度を調整することで、車両10の走行安定性を確保することができる。
【0035】
操舵用アクチュエータ5をユニット支持部材3とは別体にしたため、既存部品に干渉することなく操舵用アクチュエータ5のサイズを大きくして配置できる。これにより出力ロッド25aのストローク量を稼ぐことで所望の操舵角度にすることができる。
ユニット支持部材3とは別体に構成した操舵用アクチュエータ5が、懸架装置Rsにおける回転支持部Taaと転舵軸付ハブベアリング15との間で、懸架装置Rsに取り付けられたため、ユニット支持部材3と操舵用アクチュエータ5とを一体に構成した従来構成よりも、懸架装置Rsの慣性モーメントの増加を抑えることができ、バウンド時等の乗り心地の悪化を防ぐことができる。重量のある操舵用アクチュエータ5を回転支持部Taaに近づけて取り付ける程、慣性モーメントが小さくなり乗り心地の悪化を防ぐことができる。
【0036】
操舵用アクチュエータ5をユニット支持部材3とは別体にしたことで、機械要素の配置に関する選択範囲が広がり、ショックアブソーバ等の既存部品のスペースが損なわれることなく、操舵機能付ハブユニット1を車両10に簡易に配置することができる。また出力ロッド25aが車体10aの左右方向に出退するように、直動機構本体25Aが懸架装置Rsに取り付けられるため、車体10aの空き空間を有効に使うことができる。したがって、車両10の大掛かりな構造変更等を伴うことなく操舵機能付ハブユニット1を車両10に簡易に搭載することができる。
【0037】
転舵軸付ハブベアリング15は、転舵軸心A回りに回転自在なように、上下二箇所で回転許容支持部品4,4を介してユニット支持部材3に支持され、上下の回転許容支持部品4,4が後輪9Rのホイール内に位置する。このため、高剛性で且つ小型化を図ることができる操舵機能付ハブユニット1を車両に容易に装備することができる。したがって、既存の車両10に操舵機能付ハブユニット1を容易に装備し得ることから、この操舵機能付ハブユニット1の汎用性を高めることができる。
【0038】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0039】
図4に示すように、操舵用アクチュエータ5の直動機構本体25Aは車両の前後方向に延びて出力ロッド25aが前記前後方向に出退するように、各トレーリングアームTaにそれぞれ固定されてもよい。この操舵用アクチュエータ5も、トーションビームTbの最下面Lvよりも高い位置で、且つ、回転支持部Taaと転舵軸付ハブベアリング15との間で、懸架装置Rsに取り付けられている。この例のアーム部17は、外輪19の外周からインボード側に突出する。ユニット支持部材3、取付部34には、アーム部17のインボード側への突出を許し且つアーム部17との干渉を防止する切欠き部、孔34aがそれぞれ形成されている。この例においても前述と同様の作用効果を奏する。
【0040】
図5および
図6に示すように、操舵用アクチュエータ5は、この直動機構本体25Aが車体の左右方向に延びて出力ロッド25aが前記左右方向に出退するように、スプリングシートSsに直動機構本体25Aが固定されてもよい。この直動機構本体25Aは、出力ロッド25aがアウトボード側に向くように配置されている。トレーリングアームTaは、車両内側方向と車両外側方向とを連通する連通孔Tabを備え、出力ロッド25aの一部が前記連通孔Tab内に配置される。つまり出力ロッド25aをトレーリングアームTaの連通孔Tab内を通すように配置する。また操舵用アクチュエータ5は側面視でトレーリングアームTaと重なる位置に配置されている。
【0041】
ところで、直動出力部をトレーリングアームの上を通すように配置する場合はスプリング等の他部材との干渉があるため、レイアウトに制限がかかる。また直動出力部をトレーリングアームの下を通すように配置する場合には地面との干渉を避けるために車両の最低地上高を上げる必要がある。
一方、
図5および
図6に示すように、直動出力部である出力ロッド25aをトレーリングアームTaの連通孔Tab内を通すように配置することで、他部材との干渉を避けつつ、最低地上高を上げる必要もない。
【0042】
操舵用アクチュエータ5は側面視でトレーリングアームTaと重なる位置に配置されているため、操舵用アクチュエータを側面視でトレーリングアームと重ならない位置に配置する場合に比べて、出力ロッド25aの長さを短縮することが可能となる。
操舵用アクチュエータをトーションビームに固定すると、トーションビームの捻じれに対し操舵用アクチュエータが剛性部材として働いてしまうため、捻じれを抑制してしまい乗り心地が悪化する虞がある。
この構成では、操舵用アクチュエータ5をスプリングシートSsに固定することにより、トーションビームTbの捩じりへの影響が抑制され、乗り心地を確保することが可能となる。
【0043】
図8および
図9に示すように、1つの操舵用アクチュエータ5で左右の後輪9R,9Rを操舵してもよい。この操舵用アクチュエータ5は、直動機構本体25Aが車体10aの左右方向に延びるようにトーションビームTbに固定されている。1つの操舵用アクチュエータ5から左右の出力ロッド25a,25aがそれぞれアウトボード側に向くように配置されている。この場合、2つの操舵用アクチュエータで左右の後輪を操舵する構成よりも、軽量化および慣性モーメントの低減を図ることが可能となる。但し、この場合は、左右の後輪9R,9Rを同相で操舵角度を制御することになる。その他第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0044】
<操舵システムについて>
図7、
図9に示すように、操舵システムは、実施形態に係る操舵機能付ハブユニット1と、この操舵機能付ハブユニット1の操舵用アクチュエータ5(
図1、
図4、
図5、
図8)を制御する制御装置29とを備える。制御装置29は、操舵制御部30と、アクチュエータ駆動制御部31とを有する。運転者はハンドルによって前輪9Fの舵角を操作するが、上位制御部32ではハンドルである操舵入力部11aの操作角に応じ、さらに車両10の状況などを加味して算出した左右の後輪9R,9Rの操舵角指令信号を出力する。操舵制御部30は、上位制御部32から与えられた操舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する。
【0045】
上位制御部32は操舵制御部30の上位の制御手段であり、上位制御部32として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニット(Vehicle Control Unit,略称VCU)が適用される。
【0046】
アクチュエータ駆動制御部31は、操舵制御部30から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータ5を駆動制御する。アクチュエータ駆動制御部31は、モータ26(
図1、
図4、
図5、
図8)のコイルに供給する電力を制御する。このアクチュエータ駆動制御部31は、例えば、図示外のスイッチ素子を用いたハーフブリッジ回路を構成し、前記スイッチ素子のON-OFFデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う。これにより、ユニット支持部材3に対する転舵軸付ハブベアリング15(
図1、
図4、
図5、
図8)の角度を変化させて後輪9Rの操舵角を任意に変更することができる。車両10の走行条件に応じて、後輪9Rの操舵角を変更できるため、車両10の運動性能および燃費向上を図ることが可能となる。
【0047】
操舵システムは、運転者のハンドル操作に代えて、図示外の自動運転装置、運転支援装置の指令等によって操舵用アクチュエータを動作させてもよい。
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0048】
1…操舵機能付ハブユニット、3…ユニット支持部材、5…操舵用アクチュエータ、9R…後輪、10a…車体、15…転舵軸付ハブベアリング、16b…転舵軸、19…外輪、25A…直動機構本体、25a…出力ロッド(直動出力部)、Ta…トレーリングアーム、Tb…トーションビーム、Rs…トーションビーム式の懸架装置、Taa…回転支持部、Tab…連通孔、Ss…スプリングシート