(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】操作されたCAS9ヌクレアーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 9/22 20060101AFI20240710BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240710BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20240710BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240710BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240710BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240710BHJP
【FI】
C12N9/22 ZNA
C12N15/09 110
C12N15/55
C12N15/63 Z
C07K19/00
C12N15/62 Z
(21)【出願番号】P 2019567686
(86)(22)【出願日】2018-06-08
(86)【国際出願番号】 US2018036695
(87)【国際公開番号】W WO2018227114
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-06-04
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516135900
【氏名又は名称】エディタス・メディシン,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】スタインバーグ バレット イーサン
(72)【発明者】
【氏名】セルチオーネ デレク
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/040348(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/205613(WO,A1)
【文献】Science,2016年,Vol. 351, Issue 6268,pp. 84-88
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 9/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号13に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、ヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドであって、
前記ポリペプチドは、配列番号13に対する以下のアミノ酸置換:D23A及びY128V、を有し、
前記ポリペプチドは、配列番号13のポリペプチドと比較して低下されたオフターゲット切断活性を有する、
ポリペプチド。
【請求項2】
請求項1のポリペプチドであって、
配列番号13に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、
ポリペプチド。
【請求項3】
請求項1のポリペプチドであって、
配列番号13に対して少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、
ポリペプチド。
【請求項4】
請求項1のポリペプチドであって、
前記ポリペプチドが配列番号13の以下の位置:T67及びD1251、の1つ以上においてさらなるアミノ酸置換を有する、
ポリペプチド。
【請求項5】
請求項1のポリペプチドであって、
前記ポリペプチドが配列番号13の以下の位置:T67及びD1251、のにおいてさらなるアミノ酸置換を有する、
ポリペプチド。
【請求項6】
請求項
1のポリペプチドであって、
前記ポリペプチドが配列番号13に対する以下のアミノ酸置換:T67L及びD1251G、の1つ以上をさらに有する、
ポリペプチド。
【請求項7】
ヌクレアーゼ活性を有し、配列番号13に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸であって、
前記ポリペプチドが少なくとも配列番号13に対する以下のアミノ酸置換:D23A及びY128Vを有し、配列番号13のポリペプチドと比較して低下されたオフターゲット切断活性を有する、
核酸。
【請求項8】
請求項
7の核酸であって、
前記ポリペプチドが配列番号13に対する以下のアミノ酸置換:T67L及びD1251G、の1つ以上をさらに有する、
核酸。
【請求項9】
請求項
7の核酸であって、
前記ポリペプチドが配列番号13に対する以下のアミノ酸置換:T67L及びD1251G、をさらに有する、
核酸。
【請求項10】
請求項
7の核酸を含む、ベクター。
【請求項11】
ゲノム編集系であって、
(i)ヌクレアーゼ活性を有し、配列番号13に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、
配列番号13に対する以下のアミノ酸置換:D23A及びY128V、を有し、配列番号13のポリペプチドと比較して低下されたオフターゲット切断活性を有する、ポリペプチド;および、
(ii)ガイド核酸、
を含む、ゲノム編集系。
【請求項12】
請求項
11のゲノム編集系であって、
前記ガイド核酸がガイドRNAである、
ゲノム編集系。
【請求項13】
請求項
11のゲノム編集系であって、
前記ポリペプチドが配列番号13の以下の位置:T67及びD1251、の1つ以上においてさらなるアミノ酸置換を有する、
ゲノム編集系。
【請求項14】
請求項
11のゲノム編集系であって、
前記ポリペプチドが配列番号13の以下の位置:T67及びD1251、においてさらなるアミノ酸置換を有する、
ゲノム編集系。
【請求項15】
請求項
11~
14のいずれかのゲノム編集系であって、
前記ゲノム編集系を標的(target)配列および非標的(off-target)配列を含む標的細胞に投与した場合に、前記ゲノム編集系による前記非標的配列のオフターゲット編集率が、前記標的細胞に対照ゲノム編集系を投与した場合に観察される前記非標的配列のオフターゲット編集率よりも低く、
ここで、前記対照ゲノム編集系が、
ヌクレアーゼ活性を有し、配列番号13を含むポリペプチド、及び、
前記ガイド核酸、を含む、
ゲノム編集系。
【請求項16】
請求項
15のゲノム編集系であって、
前記ゲノム編集系の前記オフターゲット編集率が、前記対照ゲノム編集系の前記オフターゲット編集率よりも少なくとも5%低い、
ゲノム編集系。
【請求項17】
請求項
15のゲノム編集系であって、
前記オフターゲット編集率は、前記非標的配列におけるインデルのレベルを評価することによって測定される、
ゲノム編集系。
【請求項18】
請求項
11~
14のいずれかのゲノム編集系であって、
前記ポリペプチド及び前記ガイド核酸を含むリボ核タンパク質(RNP)複合体を含む、
ゲノム編集系。
【請求項19】
請求項1のポリペプチド及びガイド核酸を含む、単離されたリボ核タンパク質(RNP)複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年6月9日出願の米国仮特許出願第62/517,811号明細書、及び2018年5月1日出願の米国仮特許出願第62/665,388号明細書の優先権を主張する。これらの双方の内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列リスト
本明細書は、配列リスト(「2011271-0077_SL.txt」の名前の.txtファイルとして2018年6月8日に電子提出した)を参照する。.txtファイルは2018年6月4日に作成し、サイズは41,513バイトである。配列リストは、その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0003】
本開示は、標的核酸配列を編集する、又は標的核酸配列の発現を調節するCRISPR/Cas関連の方法及び構成要素、並びにそれらの関連用途に関する。より詳細には、本開示は、標的特異性が変更且つ向上した、操作されたCas9ヌクレアーゼに関する。
【背景技術】
【0004】
CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat))が、細菌及び古細菌において、ウイルス攻撃からの防御のための適応免疫系として進化した。ウイルスへの曝露直後に、ウイルスDNAの短いセグメントが、CRISPR遺伝子座中に組み込まれる。RNAが、ウイルス配列を含むCRISPR遺伝子座の一部から転写される。ウイルスゲノムと相補的な配列を含有するRNAが、ウイルスゲノム内の標的配列への、RNAガイド型ヌクレアーゼタンパク質、例えばCas9又はCpf1の標的化を媒介する。すると、RNAガイド型ヌクレアーゼは、ウイルス標的を切断することによってサイレンシングする。
【0005】
CRISPR系は、真核生物細胞におけるゲノム編集向けに適合されてきた。当該系は、通常、タンパク質構成要素(RNAガイド型ヌクレアーゼ)及び核酸成分(通常、ガイドRNA又は「gRNA」と呼ばれる)を含む。これらの2つの構成要素が、当該系の2つの構成要素によって認識される、又はこれらと相補的な特定の標的DNA配列と相互作用し、且つ、場合によっては、標的配列を、例えば部位特異的DNA切断によって編集又は変更する複合体を形成する。
【0006】
遺伝性疾患の治療のための手段としてのこれらのものなどのヌクレアーゼの価値は、広く認識されている。例えば、アメリカ食品医薬品局(U.S.Food and Drug Administration)(FDA)は、2016年11月15日に、こうしたシステムの使用、及びそれによって生じる法的問題点の可能性に取り組む科学委員会(Science Board Meeting)を開催した。この委員会では、FDAは、Cas9/ガイドRNA(gRNA)リボ核タンパク質(RNP)複合体を、対象となる遺伝子座での正確な編集をもたらすようにカスタマイズすることができるが、この複合体は、他の「オフターゲット」位置とも相互作用し、切断する可能性があることを指摘した。オフターゲット切断(「オフターゲット」)の可能性は、ひいては、少なくとも、これらのヌクレアーゼを利用する治療法の承認に関する法的問題点の可能性を生じる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、部分的に、例えば、野生型ヌクレアーゼと比較した、DNA配列を標的とする特異性の向上を示す、操作されたRNAガイド型ヌクレアーゼを提供することによって、潜在的な調節の考慮すべき問題(potential regulatory considerations)に対処する。特異性の向上は、例えば、例えば野生型RNAガイド型ヌクレアーゼ及び/又は別の変異ヌクレアーゼと比較した、(i)DNAのオンターゲット結合、切断、及び/若しくは編集の増大、並びに/又は(ii)DNAのオフターゲット結合、切断、及び/若しくは編集の低下であり得る。
【0008】
一態様において、本開示は、野生型化膿レンサ球菌(Staphylococcus pyogenes)Cas9(SPCas9)と比較して、以下の位置:D23、D1251、Y128、T67、N497、R661、Q695、及び/又はQ926の1つ以上にてアミノ酸置換を含む、単離SPCas9ポリペプチドを提供する。一部の実施形態において、単離SPCas9ポリペプチドは、配列番号13のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ポリペプチドは、配列番号13の以下の位置:D23、D1251、Y128、T67、N497、R661、Q695、及び/又はQ926の1つ以上にてアミノ酸置換を含む。
【0009】
一部の実施形態において、単離ポリペプチドは、以下のアミノ酸置換:D23A、Y128V、T67L、N497A、D1251G、R661A、Q695A、及び/又はQ926Aの1つ以上を含む。一部の実施形態において、単離ポリペプチドは、以下のアミノ酸置換:D23A/Y128V/D1251G/T67Lを含む。
【0010】
別の態様において、本開示は、異種機能ドメインに、場合によってはリンカーが介在して融合する、本明細書中に記載される単離ポリペプチドを含む融合タンパク質を提供し、リンカーは、融合タンパク質の活性に干渉しない。一部の実施形態において、異種機能ドメインは:VP64、NF-カッパB p65、Krueppel関連ボックス(KRAB)ドメイン、ERFリプレッサドメイン(ERD)、mSin3A相互作用ドメイン(SID)、ヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)、TETタンパク質、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT)、又はヒストンデメチラーゼ(HDM)、MS2、Csy4、ラムダNタンパク質、及びFokIからなる群から選択される。
【0011】
別の態様において、本開示は、本明細書中に記載される単離ポリペプチドを含むゲノム編集系を特徴とする。
【0012】
別の態様において、本開示は、本明細書中に記載される単離ポリペプチドをコードする核酸を特徴とする。別の態様において、本開示は、核酸を含むベクターを特徴とする。
【0013】
別の態様において、本開示は、本明細書中に記載される単離ポリペプチド、本明細書中に記載されるゲノム編集系、本明細書中に記載される核酸、及び/又は本明細書中に記載されるベクター、並びに、場合によっては、薬学的に許容可能なキャリアを含む組成物を特徴とする。
【0014】
別の態様において、本開示は、細胞を変更する方法であって、細胞をそのような組成物と接触させることを含む方法を特徴とする。別の態様において、本開示は、患者を処置する方法であって、患者にそのような組成物を投与することを含む方法を特徴とする。
【0015】
別の態様において、本開示は、配列番号13と少なくとも約80%同一(例えば、少なくとも約85%、90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一)のアミノ酸配列を含み、且つ配列番号13の位置D23、T67、Y128、及びD1251の1つ以上にてアミノ酸置換を有するポリペプチドを特徴とする。一部の実施形態において、ポリペプチドは、D23にてアミノ酸置換を含む。一部の実施形態において、ポリペプチドは、D23にてアミノ酸置換を、且つT67、Y128、又はD1251にて少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。一部の実施形態において、ポリペプチドは、D23にてアミノ酸置換を、且つT67、Y128、又はD1251にて少なくとも2つの置換を含む。一部の実施形態において、ポリペプチドは、T67にてアミノ酸置換を含む。一部の実施形態において、ポリペプチドは、T67にてアミノ酸置換を、且つD23、Y128、又はD1251にて少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。一部の実施形態において、ポリペプチドは、T67にてアミノ酸置換を、且つD23、Y128、又はD1251にて少なくとも2つの置換を含む。一部の実施形態において、ポリペプチドは、Y128にてアミノ酸置換を含む。一部の実施形態において、ポリペプチドは、Y128にてアミノ酸置換を、且つD23、T67、又はD1251にて少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。一部の実施形態において、ポリペプチドは、Y128にてアミノ酸置換を、且つD23、T67、又はD1251にて少なくとも2つの置換を含む。一部の実施形態において、ポリペプチドは、D1251にてアミノ酸置換を含む。一部の実施形態において、ポリペプチドは、D1251にて置換を、且つD23、T67、又はY128にて少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。一部の実施形態において、ポリペプチドは、D1251にてアミノ酸置換を、且つD23、T67、又はY128にて少なくとも2つの置換を含む。一部の実施形態において、ポリペプチドは、D23、T67、Y128、及びD1251にてアミノ酸置換を含む。一部の実施形態において、ポリペプチドはさらに、本明細書中に記載される少なくとも1つの追加のアミノ酸置換を含む。
【0016】
一部の実施形態において、ポリペプチドは、標的二本鎖DNA(dsDNA)と接触した場合、オフターゲット編集率が、野生型SPCas9による標的の観察オフターゲット編集率よりも低い。一部の実施形態において、ポリペプチドによるオフターゲット編集率は、野生型SPCas9よりも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は95%低い。一部の実施形態において、オフターゲット編集率は、オフターゲット部位でのインデルのレベル(例えば、割合(fraction)又はパーセンテージ)を評価することによって測定される。
【0017】
別の態様において、本開示は、ポリペプチド、並びに核局在化配列、細胞膜透過ペプチド配列、及び/又は親和性タグの1つ以上を含む融合タンパク質を特徴とする。別の態様において、本開示は、異種機能ドメインに、場合によってはリンカーが介在して融合するポリペプチドを含む融合タンパク質であって、リンカーは、融合タンパク質の活性に干渉しない、融合タンパク質を特徴とする。
【0018】
一部の実施形態において、異種機能ドメインは、転写トランス活性化ドメインである。一部の実施形態において、転写トランス活性化ドメインは、VP64又はNFk-B p65に由来する。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、転写サイレンサ又は転写抑制ドメインである。一部の実施形態において、転写抑制ドメインは、Krueppel関連ボックス(KRAB)ドメイン、ERFリプレッサドメイン(ERD)、又はmSin3A相互作用ドメイン(SID)である。一部の実施形態において、転写サイレンサは、ヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)である。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、DNAのメチル化状態を修飾する酵素(例えば、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)又はTETタンパク質)である。一部の実施形態において、TETタンパク質は、TETIである。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、ヒストンサブユニットを修飾する酵素(例えば、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT)、又はヒストンデメチラーゼ)である。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、生物学的テザー(例えば、MS2、Csy4、又はラムダNタンパク質)である。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、Foklである。
【0019】
別の態様において、本開示は、本明細書中に記載されるポリペプチドをコードする単離核酸を特徴とする。別の態様において、本開示は、そのような単離核酸を含むベクターを特徴とする。別の態様において、本開示は、そのようなベクターを含む宿主細胞を特徴とする。
【0020】
別の態様において、本開示は、配列番号13と少なくとも約80%同一(例えば、少なくとも約85%、90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一)のアミノ酸配列を含み、且つ以下のアミノ酸置換:D23A、T67L、Y128V、及びD1251Gの1つ以上を含むポリペプチドを特徴とする。一部の実施形態において、ポリペプチドは、D23Aを含み;そして/又はポリペプチドは、D23A、並びにT67L、Y128V、及びD1251Gの少なくとも1つを含み;そして/又はポリペプチドは、D23A、並びにT67L、Y128V、及びD1251Gの少なくとも2つを含み;そして/又はポリペプチドは、T67Lを含み;そして/又はポリペプチドは、T67L、並びにD23A、Y128V、及びD1251Gの少なくとも1つを含み;そして/又はポリペプチドは、T67L、並びにD23A、Y128V、及びD1251Gの少なくとも2つを含み;そして/又はポリペプチドは、Y128Vを含み;そして/又はポリペプチドは、Y128V、並びにD23A、T67L、及びD1251Gの少なくとも1つを含み;そして/又はポリペプチドは、Y128V、並びにD23A、T67L、及びD1251Gの少なくとも2つを含み;そして/又はポリペプチドは、D1251Gを含み;そして/又はポリペプチドは、D1251G、並びにD23A、T67L、及びY128Vの少なくとも1つを含み;そして/又はポリペプチドは、D1251G、並びにD23A、T67L、及びY128Vの少なくとも2つを含み;そして/又はポリペプチドは、D23A、T67L、Y128V、及びD1251Gを含む。
【0021】
一部の実施形態において、ポリペプチドは、二本鎖DNA(dsDNA)標的と接触すると、オフターゲット編集率が、野生型SPCas9による標的の観察オフターゲット編集率よりも低い。一部の実施形態において、ポリペプチドによるオフターゲット編集率は、野生型SPCas9よりも約5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は95%低い。一部の実施形態において、オフターゲット編集率は、オフターゲット部位でのインデルのレベル(例えば、割合又はパーセンテージ)を評価することによって測定される。
【0022】
別の態様において、本開示は、ポリペプチド、並びに核局在化配列、細胞膜透過ペプチド配列、及び/又は親和性タグの1つ以上を含む融合タンパク質を特徴とする。
【0023】
別の態様において、本開示は、異種機能ドメインに、場合によってはリンカーが介在して融合するポリペプチドを含む融合タンパク質であって、リンカーは、融合タンパク質の活性に干渉しない、融合タンパク質を特徴とする。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、転写トランス活性化ドメイン(例えば、VP64又はNFk-B p65由来のトランス活性化ドメイン)である。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、転写サイレンサ又は転写抑制ドメイン(例えば、Krueppel関連ボックス(KRAB)ドメイン、ERFリプレッサドメイン(ERD)、又はmSin3A相互作用ドメイン(SID))である。一部の実施形態において、転写サイレンサは、ヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)である。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、DNAのメチル化状態を修飾する酵素(例えば、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)又はTETタンパク質)である。一部の実施形態において、TETタンパク質は、TETIである。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、ヒストンサブユニットを修飾する酵素(例えば、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT)、又はヒストンデメチラーゼ)である。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、生物学的テザー(例えば、MS2、Csy4、又はラムダNタンパク質)である。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、Foklである。
【0024】
別の態様において、本開示は、そのようなポリペプチドをコードする単離核酸を特徴とする。別の態様において、本開示は、そのような単離核酸を含むベクターを特徴とする。別の態様において、本開示は、そのようなベクターを含む宿主細胞を特徴とする。
【0025】
別の態様において、本開示は、細胞の集団を遺伝的に操作する方法であって、細胞内で本開示のポリペプチド(例えば、本明細書中に記載される変異ヌクレアーゼ)、及び細胞のゲノムの標的核酸上の標的配列と相補的な領域を有するガイド核酸を発現させ、又はこれらと細胞を接触させることによって、少なくとも複数の細胞のゲノムを変更することを含む方法を特徴とする。
【0026】
一部の実施形態において、ポリペプチドによるオフターゲット編集率は、野生型SPCas9による標的配列の観察オフターゲット編集率よりも低い。一部の実施形態において、ポリペプチドによるオフターゲット編集率は、野生型SPCas9よりも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は95%低い。一部の実施形態において、オフターゲット編集率は、オフターゲット部位でのインデルのレベル(例えば、割合又はパーセンテージ)を評価することによって測定される。
【0027】
一部の実施形態において、ポリペプチド及びガイド核酸は、リボ核タンパク質(RNP)として投与される。一部の実施形態において、RNPは、1×10-4μM~1μM RNPの用量にて投与される。
【0028】
別の態様において、本開示は、二本鎖DNA(dsDNA)分子の集団を編集する方法であって、dsDNA分子を、本開示のポリペプチド(例えば、本明細書中に記載される変異ヌクレアーゼ)、及びdsDNA分子の標的配列と相補的な領域を有するガイド核酸と接触させることによって、複数のdsDNA分子を編集することを含む方法を特徴とする。
【0029】
一部の実施形態において、ポリペプチドによるオフターゲット編集率は、野生型SPCas9による標的配列の観察オフターゲット編集率よりも低い。一部の実施形態において、ポリペプチドによるオフターゲット編集率は、野生型SPCas9よりも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は95%低い。一部の実施形態において、オフターゲット編集率は、オフターゲット部位でのインデルのレベル(例えば、割合又はパーセンテージ)を評価することによって測定される。
【0030】
一部の実施形態において、ポリペプチド及びガイド核酸は、リボ核タンパク質(RNP)として投与される。一部の実施形態において、RNPは、1×10-4μM~1μM RNPの用量にて投与される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、実施例1に記載されるようにして得た、高度に選択されたCas9突然変異体のインビトロ溶解液切断アッセイの結果を示す。突然変異体は、CORD6標的上での切断のみを実証する一方、野生型酵素は、双方の標的(すなわち、CORD6標的及び野生型標的)を効率的に切断する。切断産物に相当するバンドを、三角形によって示す。
【
図2】
図2は、知られているオフターゲット部位での活性を示すヌクレアーゼを選択するための進化戦略を概説する概略図を示す。各サイクルにおいて、突然変異誘発方法によるライブラリ生成の後に、オンターゲット切断のポジティブ選択のラウンドが続き、その後、種々のオフターゲット部位を含有するプールされたバクテリオファージのネガティブ選択のラウンドが続く。
【
図3】
図3は、例示的なCas9ライブラリプラスミド及びpSelect標的ファージミドを示す。
【
図4】
図4は、標的化Cas9及び非標的化Cas9を、ポジティブ選択剤としてのtse2と用いた、ポジティブ選択の例示的な結果を示す。
【
図5】
図5は、野生型Cas9、及び突然変異Cas9のライブラリを、ポジティブ選択剤としてのtse2と共に用いた、ポジティブ選択の例示的な結果を示す。
【
図6】
図6は、野生型Cas9、及び突然変異Cas9のライブラリを、ネガティブ選択剤としてのクロラムフェニコール(「Cm」)と共に用いた、ネガティブ選択の例示的な結果を示す。
【
図7】
図7は、選択的Cas9突然変異体を進化させるための、野生型Casのポジティブ選択及びネガティブ選択の連続ラウンドの例示的な結果を示す。
【
図8】
図8A及び
図8Bは、オンターゲット配列基質(
図8A)、及び4つの位置にてオンターゲット基質と異なるオフターゲット基質(
図8B)を用いた生化学的切断アッセイの結果を示す。
【
図9】
図9A及び
図9Bは、オンターゲットゲノム配列(
図9A)及び知られているオフターゲットゲノム配列(
図9B)の切断を、Cas9/ガイドRNAリボ核タンパク質複合体(RNP)濃度の用量を増大させて処理したT細胞内で評価したインビボ切断アッセイの結果を示す。
【
図10】
図10は、単一のRNP濃度での、
図9A及び
図9Bに示すT細胞実験における、オンターゲット切断の、オフターゲット切断に対する比率を示す。
【
図11】
図11は、コドンの位置による、そしてアミノ酸置換に従う、変異化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9ポリペプチド内の突然変異の頻度を示す。
【
図12】
図12は、オンターゲットゲノム配列及び知られているオフターゲットゲノム配列の切断を、野生型化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9又は変異Cas9/ガイドRNAリボ核タンパク質複合体(RNP)の用量を増大させて処理したヒトT細胞内で評価したインビトロ編集アッセイの結果を示す。
【
図13】
図13は、オンターゲットゲノム配列の切断を、野生型化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9(WT SPCas9)又は3つの異なる変異Cas9タンパク質の1つを含むRNPで処理したヒトT細胞内で評価したインビトロ編集アッセイの結果を示す。
【
図14A】
図14Aは、3つのオンターゲットゲノム配列の切断を、野生型Cas9タンパク質又は変異Cas9タンパク質を含むRNPの用量を増大させて処理したヒトT細胞内で評価したインビトロ編集アッセイの結果を示す。
【
図14B】
図14Bは、3つのオンターゲットゲノム配列の切断を、野生型Cas9タンパク質又は変異Cas9タンパク質を含むRNPの用量を増大させて処理したヒトT細胞内で評価したインビトロ編集アッセイの結果を示す。
【
図14C】
図14Cは、3つのオンターゲットゲノム配列の切断を、野生型Cas9タンパク質又は変異Cas9タンパク質を含むRNPの用量を増大させて処理したヒトT細胞内で評価したインビトロ編集アッセイの結果を示す。
【
図15】
図15A及び
図15Bは、オンターゲットゲノム配列(
図15A)及び知られているオフターゲットゲノム配列(
図15B)の切断を、野生型化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9(「SpCas9」)又は3つの異なる変異Cas9/ガイドRNAリボ核タンパク質複合体(RNP)の1つの用量を増大させて処理したヒトT細胞内で評価したインビトロ編集アッセイの結果を示す。
【
図16】
図16は、知られているオフターゲット部位にて活性を示すヌクレアーゼを選択するための進化戦略を概説する概略図を示す。Cas9突然変異体のファージミドライブラリを、突然変異誘発に続くオンターゲット切断のポジティブ選択のラウンド、その後のオフターゲット切断のネガティブ選択のラウンドによって生成した。
【
図17】
図17は、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)及び髄膜炎菌(N.meningitidis)のCas9配列のアラインメントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
定義
この明細書全体を通して、以下の段落で定義されるいくつかの用語が用いられる。この明細書の本文内では、他の定義も参照する。
【0033】
本明細書で使用する場合、数に関する用語「約」及び「およそ」は、本明細書では、そうではないと記述がない又は文脈からそうではないと明らかでない限り、その数のいずれかの(それよりも大きい又は小さい)方向の20%、10%、5%、又は1%の範囲内にある数を含めるために使用される(こうした数が可能な値の100%を超えるであろう場合を除く)。
【0034】
本明細書中で用いられる用語「切断」は、DNA分子の共有結合性の骨格の破壊を指す。「切断」は、本明細書で使用する場合、DNA分子の共有結合骨格の破壊を指す。切断は、限定はされないが、ホスホジエステル結合の酵素的又は化学的加水分解を含めた様々な方法によって開始することができる。一本鎖切断と二本鎖切断のどちらも可能であり、二本鎖切断は、2つの別個の一本鎖切断事象の結果として起こる可能性がある。DNA切断は、平滑末端又は付着末端のいずれかの産生をもたらす可能性がある。
【0035】
本明細書中で用いられる「保存的置換」は、以下の群内のアミノ酸間で起こるアミノ酸の置換を指す:i)メチオニン、イソロイシン、ロイシン、バリン、ii)フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、iii)リシン、アルギニン、ヒスチジン、iv)アラニン、グリシン、v)セリン、トレオニン、vi)グルタミン、アスパラギン、及びvii)グルタミン酸、アスパラギン酸。一部の実施形態において、保存的アミノ酸置換は、アミノ酸置換が起こったタンパク質の相対的な荷電又はサイズの特性を変更しないアミノ酸置換を指す。
【0036】
本明細書中で用いられる「融合タンパク質」は、2つ以上の元々別個のタンパク質又はその一部の結合により生じたタンパク質を指す。一部の実施形態において、リンカー又はスペーサーが、各タンパク質間に存在することとなる。
【0037】
本明細書中で用いられる、ポリペプチドドメインに関する用語「異種」は、ポリペプチドドメイン同士が(例えば、同じポリペプチド内で)天然で一緒に存在しないという事実を指す。例えば、人の手によって生じた融合タンパク質内で、あるポリペプチド由来のポリペプチドドメインが、異なるポリペプチド由来のポリペプチドドメインに融合していてよい。2つのポリペプチドドメインは、天然で一緒に存在しないので、互いに対して「異種」であるとみなされることとなる。
【0038】
本明細書中で用いられる用語「宿主細胞」は、本発明に従って操作される細胞であり、例えば、核酸が導入される。「形質転換された宿主細胞」は、外因性の遺伝物質、例えば外因性の核酸等の外因性の物質を取り込むような形質転換を経た細胞である。
【0039】
本明細書中で用いられる用語「同一性」は、ポリマー分子間、例えば、核酸分子(例えば、DNA分子及び/又はRNA分子)間、且つ/又はポリペプチド分子間の相関性全体を指す。一部の実施形態において、ポリマー分子は、配列が少なくとも25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%同一であるならば、互いに「実質的に同一である」とみなされる。2つの核酸配列又はポリペプチド配列のパーセント同一性の計算は、例えば、2つの配列を、比較を最適にするように(例えば、ギャップが、第1の配列及び第2の配列の一方又は双方に、アラインメントを最適にするように導入されてよく、そして同一でない配列が、比較のために無視されてよい)アラインすることによって、実行することができる。特定の実施形態において、比較のためにアラインされる配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は実質的に100%である。次に、対応する位置にあるヌクレオチド同士が比較される。配列の比較、及び2つの配列間のパーセント同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。当該技術において周知のように、アミノ酸配列又は核酸配列は、種々のあらゆるアルゴリズムを用いて比較することができ、商用コンピュータープログラム、例えば、ヌクレオチド配列用のBLASTN及びBLASTP、gapped BLAST、並びにアミノ酸配列用のPSI-BLASTに利用可能なアルゴリズムが挙げられる。そのような例示的なプログラムが、Altschul,et al.,Basic local alignment search tool,J.Mol.Biol.,215(3):403-410,1990;Altschul,et al.,Methods in Enzymology;Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25:3389-3402,1997;Baxevanis et al.,Bioinformatics:A Practical Guide to the Analysis of Genes and Proteins,Wiley,1998;及びMisener,et al.,(eds.),Bioinformatics Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology,Vol.132),Humana Press,1999に記載されている。
【0040】
ポリヌクレオチドの文脈において本明細書中で用いられる用語「ライブラリ」は、2つ以上の異なるポリヌクレオチドの集団を指す。一部の実施形態において、ライブラリは、ヌクレアーゼをコードする異なる配列を含む少なくとも2つのポリヌクレオチド、及び/又はガイドRNAをコードする異なる配列を含む少なくとも2つのポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態において、ライブラリは、少なくとも101、少なくとも102、少なくとも103、少なくとも104、少なくとも105、少なくとも106、少なくとも107、少なくとも108、少なくとも109、少なくとも1010、少なくとも1011、少なくとも1012、少なくとも1013、少なくとも1014、又は少なくとも1015個の異なるポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態において、ライブラリのメンバーは、ランダム化された配列、例えば、完全に、又は部分的にランダム化された配列を含んでもよい。一部の実施形態において、ライブラリは、互いに無関係であるポリヌクレオチド、例えば、完全にランダム化された配列を含む核酸を含む。他の実施形態において、ライブラリの少なくとも一部のメンバーは、関係があってよく、例えば、特定の配列の変異体又は誘導体であってよい。
【0041】
本明細書中で用いられる用語「作動可能に連結された」は、並置(juxtaposition)を指し、そこでは、記載される構成要素同士が、意図されるように機能し得る関係にある。機能要素に「作動可能に連結された」調節要素は、機能要素の発現及び/又は活性が、調節要素と適合する条件下で達成されるように関連する。一部の実施形態において、「作動可能に連結された」調節要素は、注目するコーディング要素と連続している(例えば、共有結合的に連結されている);一部の実施形態において、調節要素は、注目する機能要素に対してトランスに(in trans to)作用し、又は注目する機能要素にて/より作用する。
【0042】
本明細書で使用する場合、用語「ヌクレアーゼ」は、核酸のヌクレオチドサブユニット間のホスホジエステル結合を切断することが可能なポリペプチドを指し;用語「エンドヌクレアーゼ」は、ポリヌクレオチド鎖内のホスホジエステル結合を切断することが可能なポリペプチドを指す。
【0043】
本明細書で使用する場合、用語「核酸」、「核酸分子」、又は「ポリヌクレオチド」は、本明細書では互換的に使用される。これらは、一本鎖又は二本鎖形態のデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドのポリマーを指し、そうではないと記述がない限り、天然起源のヌクレオチドと類似の方式で機能することができる天然のヌクレオチドの公知の類似体を包含する。この用語は、合成の骨格を有する核酸様の構造、並びに増幅産物を包含する。DNAとRNAは、どちらもポリヌクレオチドである。このポリマーには、天然のヌクレオシド(すなわち、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリジン、デオキシアデノシン、デオキシチミジン、デオキシグアノシン、及びデオキシシチジン)、ヌクレオシド類似体(例えば、2-アミノアデノシン、2-チオチミジン、イノシン、ピロロ-ピリミジン、3-メチルアデノシン、C5-プロピニルシチジン、C5-プロピニルウリジン、C5-ブロモウリジン、C5-フルオロウリジン、C5-ヨードウリジン、C5-メチルシチジン、7-デアザアデノシン、7-デアザグアノシン、8-オキソアデノシン、8-オキソグアノシン、O(6)-メチルグアニン、及び2-チオシチジン)、化学的に修飾された塩基、生物学的に修飾された塩基(例えば、メチル化された塩基)、挿入を受けた(intercalated)塩基、修飾された糖(例えば、2’-フルオロリボース、リボース、2’-デオキシリボース、アラビノース、及びヘキソース)、又は修飾されたリン酸基(例えば、ホスホロチオエート及び5’-N-ホスホロアミダイト結合)が含まれ得る。
【0044】
本明細書で使用する場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチド又はその類似体の鎖を指す。オリゴヌクレオチドは、例えば、化学合成、制限酵素消化、又はPCRを含めた、いくつかの方法によって得ることができる。当業者によって認識される通り、オリゴヌクレオチドの長さ(すなわち、ヌクレオチドの数)は、しばしばオリゴヌクレオチドの意図される機能又は使用に応じて、大きく変動し得る。この明細書全体を通して、オリゴヌクレオチドが、(4つの塩基の文字:A、C、G、及びT(これらはそれぞれ、アデノシン、シチジン、グアノシン、及びチミジンを表す)から選択される)文字の連続によって表される時はいつでも、ヌクレオチドは、左から右に、5’~3’の順序で示される。ある種の実施態様では、オリゴヌクレオチドの配列には、本明細書に記載した1つ又は複数の縮重した残基が含まれる。
【0045】
本明細書中で用いられる用語「オフターゲット」は、RNAガイド型ヌクレアーゼによる、DNAの意図されない、又は予想外の領域(へ)の結合、切断、及び/又は編集を指す。一部の実施形態において、DNAの領域が、1、2、3、4、5、6、7、又はそれ以上のヌクレオチドによって結合、切断、且つ/又は編集されることが意図又は予想されるDNAの領域と異なる場合、オフターゲット領域である。
【0046】
本明細書中で用いられる用語「オンターゲット」は、RNAガイド型ヌクレアーゼによる、DNAの意図又は予想される領域(へ)の結合、切断、及び/又は編集を指す。
【0047】
本明細書中で用いられる用語「ポリペプチド」は通常、その、アミノ酸のポリマーの当該技術において認識される意味を有する。当該用語はまた、ヌクレアーゼ、抗体等のポリペプチドの具体的な機能クラスを指すのにも用いられる。
【0048】
本明細書中で用いられる用語「調節要素」は、遺伝子発現の1つ以上の態様を制御し、又はこれに影響を与えるDNA配列を指す。一部の実施形態において、調節要素は、プロモータ、エンハンサ、サイレンサ、及び/又は終結シグナルであり、又はこれらを含む。一部の実施形態において、調節要素は、誘導性発現を制御し、又はこれに影響を与える。
【0049】
本明細書で使用する場合、用語「標的部位」は、結合が存在するのに十分な条件ならば、結合分子が結合することとなる核酸の部分を定義する核酸配列を指す。いくつかの実施態様では、標的部位は、本明細書に記載したヌクレアーゼが結合する及び/又はこうしたヌクレアーゼによって切断される核酸配列である。いくつかの実施態様では、標的部位は、本明細書に記載したガイドRNAが結合する核酸配列である。標的部位は、一本鎖又は二本鎖であり得る。二量体化するヌクレアーゼ、例えばFokl DNA切断ドメインを含むヌクレアーゼという状況では、標的部位は、典型的には、左半分部位(ヌクレアーゼの1つのモノマーが結合する)、右半分部位(ヌクレアーゼの第2のモノマーが結合する)、及び切断が行われる半分の部位の間のスペーサー配列を含む。いくつかの実施態様では、左半分部位及び/又は右半分部位は、10~18ヌクレオチド長である。いくつかの実施態様では、半分の部位のいずれか又は両方は、より短い又はより長い。いくつかの実施態様では、左半分部位と右半分部位は、異なる核酸配列を含む。ジンクフィンガーヌクレアーゼという状況では、標的部位は、いくつかの実施態様では、4~8bpの長さである特定されないスペーサー領域に隣接する、それぞれ6~18bpの長さである2つの半分の部位を含むことができる。TALENという状況では、標的部位は、いくつかの実施態様では、10~30bpの長さである特定されないスペーサー領域に隣接する、それぞれ10~23bpの長さである2つの半分の部位を含むことができる。RNAガイド型(例えば、RNA-プログラム可能)ヌクレアーゼという状況では、標的部位は、典型的には、RNA-プログラム可能ヌクレアーゼのガイドRNAに相補的なヌクレオチド配列、及びガイドRNA相補的配列に隣接する3’末端又は5’末端のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を含む。RNAガイド型ヌクレアーゼCas9については、標的部位は、いくつかの実施態様では、16~24塩基対+3~6塩基対(PAM)(例えばNNN(ここでは、Nは、あらゆるヌクレオチドに相当する))であり得る。Cas9などのRNAガイド型ヌクレアーゼについての例示的な標的部位は、当業者に公知であり、限定はされないが、NNG、NGN、NAG、NGA、NGG、NGAG及びNGCG(ここでは、Nは、あらゆるヌクレオチドに相当する)が含まれる。さらに、異なる種(例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)の代わりにストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus))由来のCas9ヌクレアーゼは、配列NGGNGを含むPAMを認識する。限定はされないがNNAGAAW及びNAARを含めた、追加のPAM配列が公知である(例えば、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、Esvelt and Wang,Molecular Systems Biology,9:641(2013)を参照のこと)。例えば、例えばCas9などのRNAガイド型ヌクレアーゼの標的部位は、構造[Nz]-[PAM](ここでは、各Nは、独立に、あらゆるヌクレオチドであり、zは、1~50の整数である)を含むことができる。いくつかの実施態様では、zは、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、又は少なくとも50である。いくつかの実施態様では、zは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50である。いくつかの実施態様では、Zは、20である。
【0050】
本明細書中で用いられる用語「変異体」は、参照実体(例えば野生型配列)と比較して、参照実体との有意な構造的同一性を示すが、参照実体と、1つ以上の化学部分の存在又はレベルが構造的に異なる実体を指す。多くの実施形態において、変異体はまた、その参照実体と機能的に異なる。一般に、特定の実体が、参照実体の「変異体」であると適切にみなされるかは、参照実体との構造的同一性の程度に基づく。当業者によって理解されるように、あらゆる生物学的又は化学的参照実体が、ある種の特徴的構造要素を有する。変異体は、定義によれば、1つ以上のそのような特徴的構造要素を共有する異なった化学実体である。少数だが例を挙げると、ポリペプチドは、線形空間若しくは三次元空間内に、互いに対して位置が指定されている複数のアミノ酸を含み、且つ/又は特定の生物学的機能に寄与する特徴的配列要素を有し得る;核酸は、線形空間又は三次元空間で互いに対して位置が指定されている複数のヌクレオチド残基を含む特徴的配列要素を有し得る。例えば、変異ポリペプチドは、アミノ酸配列内の1つ以上の差異、及び/又はポリペプチド骨格に共有結合的に取り付けられている化学部分(例えば、炭水化物、脂質)内の1つ以上の差異の結果として、参照ポリペプチドと異なり得る。一部の実施形態において、変異ポリペプチドは、参照ポリペプチド(例えば、本明細書中で記載されるヌクレアーゼ)との全体的な配列同一性が少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%であることを示す。代わりに、又は加えて、一部の実施形態において、変異ポリペプチドは、少なくとも1つの特徴的配列要素を、参照ポリペプチドと共有しない。一部の実施形態において、参照ポリペプチドは、1つ以上の生物学的活性を有する。一部の実施形態において、変異ポリペプチドは、参照ポリペプチドの1つ以上の生物学的活性、例えばヌクレアーゼ活性を共有する。一部の実施形態において、変異ポリペプチドは、参照ポリペプチドの生物学的活性の1つ以上を欠いている。一部の実施形態において、変異ポリペプチドは、参照ポリペプチドと比較して1つ以上の生物学的活性(例えばヌクレアーゼ活性、例えばオフターゲットヌクレアーゼ活性)のレベルの低下を示す。一部の実施形態において、注目するポリペプチドが、親のアミノ酸配列と同一であるが、特定の位置にて少数の配列変更があるアミノ酸配列を有するならば、注目するポリペプチドは、親ポリペプチド又は参照ポリペプチドの「変異体」であるとみなされる。典型的には、親と比較して、変異体において残基の20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%未満が置換されている。一部の実施形態において、変異体は、親と比較して、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1つの残基が置換されている。多くの場合、変異体は、置換された機能的残基(すなわち、特定の生物学的活性に関与する残基)の数が非常に少数(例えば、5、4、3、2、又は1つ未満)である。一部の実施形態において、変異体は、親と比較して、付加又は欠失が、5、4、3、2、又は1つ以下であり、多くの場合、付加も欠失もない。さらに、あらゆる付加又は欠失が、典型的に、約25、約20、約19、約18、約17、約16、約15、約14、約13、約10、約9、約8、約7、約6残基未満であり、そして一般的に、約5、約4、約3、又は約2残基未満である。一部の実施形態において、親ポリペプチド又は参照ポリペプチドは、自然界に見出されるものである。
【0051】
概観
本開示は、部分的に、DNA配列を標的とするための、例えば野生型ヌクレアーゼに対する特異性の向上を示すRNAガイド型ヌクレアーゼの発見を包含する。本明細書中で提供されるのは、そのようなヌクレアーゼ変異体を含むそのようなRNAガイド型ヌクレアーゼ変異体、組成物、及び系、並びに、例えば1つ以上の標的核酸を編集するように、そのようなヌクレアーゼ変異体を生成する方法及び用いる方法である。
【0052】
RNAガイド型ヌクレアーゼ
本開示によるRNAガイド型ヌクレアーゼには、限定はされないが、天然起源のクラス2 CRISPRヌクレアーゼ、例えばCas9、及びCpf1、並びにそれに由来する又はそこから得られる他のヌクレアーゼが含まれる。例えば、それに由来する、又はそこから得られる他のヌクレアーゼとして、変異ヌクレアーゼが挙げられる。一部の実施形態において、変異ヌクレアーゼは、(天然に存在する、又は他の参照ヌクレアーゼ分子(既に操作又は変更されたヌクレアーゼ分子を含む)と比較して)1つ以上の酵素特性の変更、例えば、ヌクレアーゼ活性の変更又はヘリカーゼ活性の変更を含む。一部の実施形態において、変異ヌクレアーゼは、ニッカーゼ活性を、又は非切断活性(二本鎖ヌクレアーゼ活性と対立するもの)を有し得る。別の実施形態において、変異ヌクレアーゼは、そのサイズを変更する変更、例えば、そのサイズを引き下げるアミノ酸配列の欠失を有するが、例えば、1つ以上の、又はあらゆるヌクレアーゼ活性に及ぼす作用が大きくても大きくなくてもよい。別の実施形態において、変異ヌクレアーゼは、異なるPAM配列を認識することができる。一部の実施形態において、異なるPAM配列は、参照ヌクレアーゼの内因性の野生型PIドメインによって認識されるもの以外のPAM配列、例えば非正規配列(non-canonical sequence)である。
【0053】
RNAガイド型ヌクレアーゼは、機能面では、(a)gRNAと相互作用(例えば複合体形成)する;及び(b)gRNAと共に、(i)gRNAのターゲティングドメインに相補的な配列、及び場合によっては(ii)「プロトスペーサー隣接モチーフ」又は「PAM」と呼ばれる追加の配列(これは、以下により詳細に記載される)を含むDNAの標的領域と結合し、場合によっては切断する又は改変するヌクレアーゼと定義される。RNAガイド型ヌクレアーゼは、同じPAM特異性又は切断活性を有する個々のRNAガイド型ヌクレアーゼの間に差異が存在する可能性があるとしても、大まかに、そのPAM特異性及び切断活性によって定義することができる。当業者は、本開示のいくつかの態様が、ある種のPAM特異性及び/又は切断活性を有するあらゆる好適なRNAガイド型ヌクレアーゼを使用して実行することができるシステム、方法、及び組成物に関することを認識するであろう。この理由から、そうではないと指定されない限り、RNAガイド型ヌクレアーゼという用語は、包括的な用語と理解されるべきであり、RNAガイド型ヌクレアーゼの、いずれかの特定の型(例えば、Cpf1に対するCas9)、種(例えば、黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する化膿レンサ球菌(S.pyogenes))、又は差異(例えば、切り詰め又は分断に対する全長;操作されたPAM特異性に対する天然起源のPAM特異性など)に限定されない。
【0054】
PAM配列は、gRNAターゲティングドメイン(又は「スペーサー」)に相補的である「プロトスペーサー」配列に対するその連続的な関係から、その名前が付けられている。プロトスペーサー配列と共に、PAM配列は、特定のRNAガイド型ヌクレアーゼ/gRNA組合せのための標的領域又は配列を定義する。
【0055】
様々なRNAガイド型ヌクレアーゼが、PAMとプロトスペーサーとの間の異なる連続的な関係を必要とする可能性がある。一般に、Cas9は、ガイドRNAターゲティングドメインに対して可視化されているプロトスペーサーの3’であるPAM配列を認識する。
【0056】
Cpf1は、他方では、通常、プロトスペーサーの5’であるPAM配列を認識する。
【0057】
RNAガイド型ヌクレアーゼは、PAM及びプロトスペーサーの特定の連続的方向性を認識することに加えて、特定のPAM配列を認識することもできる。黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9は、例えば、NNGRRT又はNNGRRV(ここでは、N残基は、gRNAターゲティングドメインによって認識される領域に隣接する3’である)のPAM配列を認識する。化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9は、NGG PAM配列を認識する。また、フランシセラ・ノビシダ(F.novicida)Cpf1は、TTN PAM配列を認識する。PAM配列は、様々なRNAガイド型ヌクレアーゼについて同定されており、新規のPAM配列を同定するための戦略は、Shmakov et al.,2015,Molecular Cell 60,385-397,November 5,2015によって記載されている。操作されたRNAガイド型ヌクレアーゼが、参照分子のPAM特異性とは異なるPAM特異性を有する可能性がある(例えば、操作されたRNAガイド型ヌクレアーゼの場合、参照分子は、RNAガイド型ヌクレアーゼが由来する天然起源のバリアント、又は操作されたRNAガイド型ヌクレアーゼに対する最大のアミノ酸配列相同性を有する天然起源のバリアントであり得る)ことにも留意するべきである。
【0058】
RNAガイド型ヌクレアーゼは、そのPAM特異性に加えて、そのDNA切断活性で特徴付けることができる:天然起源のRNAガイド型ヌクレアーゼは、典型的には、標的核酸においてDSBを形成するが、SSBのみをもたらす(上記)参照により本明細書に組み込まれるRan&Hsu,et al.,Cell 154(6),1380-1389,September 12,2013(“Ran”))、又は全く切断しない、操作されたバリアントが産生されている。
【0059】
Cas9
化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9について(Jinek et al.,Science 343(6176),1247997,2014(“Jinek 2014”)、また、単分子ガイドRNAと標的DNAとの複合体の黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9について(Nishimasu 2014;Anders et al.,Nature.2014 Sep 25;513(7519):569-73(“Anders 2014”);及びNishimasu 2015)、結晶構造が決定されている。
【0060】
天然起源のCas9タンパク質は、2つのローブ:認識(REC)ローブとヌクレアーゼ(NUC)ローブを含む;これらはそれぞれ、特定の構造及び/又は機能ドメインを含む。RECローブは、アルギニンリッチブリッジヘリックス(BH)ドメイン、及び少なくとも1つのRECドメイン(例えば、REC1ドメインと、場合によってはREC2ドメイン)を含む。RECローブは、他の公知のタンパク質との構造的類似性を有さず、これが固有の機能ドメインであることが示唆される。いかなる理論にも拘泥されることを望まないが、変異解析は、BH及びRECドメインについての特定の機能的役割を示唆している:BHドメインが、gRNA:DNA認識における役割を果たすようであるのに対し、RECドメインは、gRNAのリピート:アンチリピート二本鎖と相互作用して、Cas9/gRNA複合体の形成を媒介すると考えられる。
【0061】
NUCローブは、RuvCドメイン、HNHドメイン、及びPAM相互作用(-interacting)(PI)ドメインを含む。RuvCドメインは、レトロウイルスインテグラーゼスーパーファミリーメンバーとの構造的類似性を有し、標的核酸の非相補(すなわち、ボトム)鎖を切断する。これは、2つ以上のスプリットRuvCモチーフ(化膿レンサ球菌(S.pyogenes)及び黄色ブドウ球菌(S.aureus)におけるRuvC I、RuvCII、及びRuvCIIIなど)から形成される可能性がある。一方、HNHドメインは、HNNエンドヌクレアーゼモチーフと構造的に類似であり、標的核酸の相補(すなわち、トップ)鎖を切断する。PIドメインは、その名前が示唆する通り、PAM特異性に寄与する。
【0062】
Cas9のある種の機能は、(必ずしもそれによって完全に決定されるわけではないが)上で説明した特定のドメインと関係があるが、これらの機能及び他の機能は、他のCas9ドメインによって、又はいずれかのローブ上の複数のドメインによって媒介される又は影響を受ける可能性がある。例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9では、Nishimasu 2014に記載されている通り、gRNAのリピート:アンチリピート二本鎖は、RECとNUCローブとの間の溝に入り、この二本鎖内のヌクレオチドは、BH、PI、及びRECドメイン内のアミノ酸と相互作用する。第1のステム・ループ構造内のいくつかのヌクレオチドも、複数のドメイン(PI、BH、及びREC1)内のアミノ酸と相互作用し、第2及び第3のステム・ループ内のいくつかのヌクレオチドも同様である(RuvC及びPIドメイン)。
【0063】
変異Cas9ヌクレアーゼ
本開示は、例えば野生型ヌクレアーゼに対して、標的に対する特異性のレベルが増大した変異RNAガイド型ヌクレアーゼを含む。例えば、本開示の変異RNAガイド型ヌクレアーゼは、野生型ヌクレアーゼと比較した、オンターゲット結合、編集、及び/又は切断活性のレベルの増大を示す。加えて、又は代わりに、本開示の変異RNAガイド型ヌクレアーゼは、野生型ヌクレアーゼと比較した、オフターゲット結合、編集、及び/又は切断活性のレベルの低下を示す。
【0064】
本明細書中に記載される変異ヌクレアーゼは、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9及び髄膜炎菌(N.meningitidis)の変異体を含む(配列番号14)。野生型化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9のアミノ酸配列は、配列番号13として記載される。変異ヌクレアーゼは、野生型ヌクレアーゼに対して、単一の位置又は複数の位置にて、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10個、又はそれ以上の位置にて、アミノ酸の置換を含み得る。一部の実施形態において、変異ヌクレアーゼは、野生型ヌクレアーゼと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一のアミノ酸配列を含む。
【0065】
1つ以上の野生型アミノ酸が、アラニンによって置換されてよい。加えて、又は代わりに、1つ以上の野生型アミノ酸が、保存的変異アミノ酸によって置換されてよい。加えて、又は代わりに、1つ以上の野生型アミノ酸が、非保存的変異アミノ酸によって置換されてよい。
【0066】
例えば、本明細書中に記載される変異ヌクレアーゼは、野生型ヌクレアーゼ(例えば配列番号13)に対して、以下の位置の1、2、3、4、5、6、7、又は8つ全てにて、置換を含み得る:D23、D1251、Y128、T67、N497、R661、Q695、及び/又はQ926(例えば、これらの位置の1つ又は全てでの、アラニンの保存的且つ/又は非保存的置換)。例示的な変異ヌクレアーゼは、野生型ヌクレアーゼに対して、以下の置換の1、2、3、4、5、6、7、又は8つ全てを含み得る:D23A、D1251G、Y128V、T67L、N497A、R661A、Q695A、及び/又はQ926A。本開示の特定のヌクレアーゼ変異体は、野生型ヌクレアーゼに対して、以下の置換を含む:D23A、D1251G、Y128V、及びT67L。
【0067】
一部の実施形態において、変異ヌクレアーゼは、配列番号13と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の、そして以下の置換の1、2、3、4、5、6、7、又は8つ全てを含むアミノ酸配列を含む:D23A、D1251G、Y128V、T67L、N497A、R661A、Q695A、及び/又はQ926A。例えば、変異ヌクレアーゼは、配列番号13と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の、そして以下の置換を含むアミノ酸配列を含み得る:D23A、D1251G、Y128V、及びT67L。
【0068】
D23、D1251、Y128、T67、N497、R661、Q695、及び/又はQ926の1、2、3、4、5、6、7、又は8つ全てでの置換(例えば、D23A、D1251G、Y128V、及びT67L)に加えて、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9変異体はまた、以下の位置の1つ以上にて置換を含み得る:L169;Y450;M495;W659;M694;H698;A728;E1108;V1015;R71;Y72;R78;R165;R403;T404;F405;K1107;S1109;R1114;S1116;K1118;D1135;S1136;K1200;S1216;E1219;R1333;R1335;T1337;Y72;R75;K76;L101;S104;F105;R115;H116;I135;H160;K163;Y325;H328;R340;F351;D364;Q402;R403;I1110;K1113;R1122;Y1131;R63;R66;R70;R71;R74;R78;R403;T404;N407;R447;I448;Y450;K510;Y515;R661;V1009;Y1013;K30;K33;N46;R40;K44;E57;T62;R69;N77;L455;S460;R467;T472;I473;H721;K742;K1097;V1100;T1102;F1105;K1123;K1124;E1225;Q1272;H1349;S1351;及び/又はY1356、例えば、米国特許第9,512,446号明細書に記載される置換。
【0069】
一部の実施形態において、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)変異体は、以下の位置の1つ以上にて置換を含み得る:N692、K810、K1003、R1060、及びG1218。一部の実施形態において、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)変異体は、以下の置換の1つ以上を含む:N692A、K810A、K1003A、R1060A、及びG1218R。
【0070】
表1は、本開示の特定の実施形態に従う3~5つの置換を含む例示的な化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9突然変異体を列挙している。明確にするために、本開示は、本開示において先に、そして他の部分に示される部位の1、2、3、4、5つ、又はそれ以上にて突然変異を有するCas9変異タンパク質を包含する。例示的な三重突然変異体、四重突然変異体、五重突然変異体が、表1に示されており、そして、例えば、Chen et al.,Nature 550:407-410(2017);Slaymaker et al.Science 351:84-88(2015);Kleinstiver et al.,Nature 529:490-495;Kleinstiver et al.,Nature 523:481-485(2015);Kleinstiver et al.,Nature Biotechnology 33:1293-1298(2015)に記載されている。
【0071】
【0072】
化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9変異体として、Cas9のヌクレアーゼ活性を引き下げ、又は破壊する1つ以上のアミノ酸置換も挙げられ得る:D10、E762、D839、H983、又はD986、及びH840又はN863。例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9は、タンパク質のヌクレアーゼ部分を触媒的に不活性にするような、アミノ酸置換D10A/D10N及びH840A/H840N/H840Yを含んでよい。これらの位置での置換は、アラニン又は他の残基、例えば、グルタミン、アスパラギン、チロシン、セリン、又はアスパルタートであってよく、例えば、E762Q、H983N、H983Y、D986N、N863D、N863S、又はN863Hである(Nishimasu et al.,Cell 156,935-949(2014);国際公開第2014/152432号パンフレット)。一部の実施形態において、変異体は、D10A又はH840Aの単一アミノ酸置換を含み、これは一本鎖ニッカーゼ酵素を生じさせる。一部の実施形態において、変異ポリペプチドは、D10A及びH840Aのアミノ酸置換を含み、これはヌクレアーゼ活性を不活化する(例えば、死んだCas9又はdCas9として知られている)。本明細書中に記載される変異ヌクレアーゼとして、髄膜炎菌(N.meningitidis)の変異体も挙げられる(Hou et al.,PNAS Early Edition 2013,1-6;参照によって本明細書に組み込まれる)。野生型髄膜炎菌(N.meningitidis)Cas9のアミノ酸配列は、配列番号14として記載される。髄膜炎菌(N.meningitidis)と化膿レンサ球菌(S.pyogenes)のCas9配列の比較により、特定の領域が保存されていることが示される(国際公開第2015/161276号パンフレット参照)。したがって、本開示は、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9の文脈において本明細書中に記載される置換の1つ以上を、例えば髄膜炎菌(N.meningitidis)Cas9の1つ以上の対応するアミノ酸位置にて含む髄膜炎菌(N.meningitidis)Cas9変異体を含む。例えば、髄膜炎菌(N.meningitidis)アミノ酸位置D29、D983、L101、S66、Q421、E459、Y671での置換は、それぞれ、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)アミノ酸位置D23、D1251、Y128、T67、R661、Q695、及び/又はQ926に相当する(
図17)。
【0073】
変異髄膜炎菌(N.meningitidis)ヌクレアーゼは、野生型ヌクレアーゼに対して、単一の位置にて、又は複数の位置、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10個、又はそれ以上の位置にて、アミノ酸の置換を含み得る。一部の実施形態において、変異髄膜炎菌(N.meningitidis)ヌクレアーゼは、野生型ヌクレアーゼと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一のアミノ酸配列を含む。
【0074】
変異ヌクレアーゼは、野生型ヌクレアーゼの1つ以上の機能活性、例えば、二本鎖DNAを切断する能力、DNAの一本鎖を切断する能力(例えばニッカーゼ)、DNAを標的とするがDNAを切断しない能力(例えば死んだヌクレアーゼ)、及び/又はガイド核酸と相互作用する能力を保持する。一部の実施形態において、変異ヌクレアーゼは、野生型ヌクレアーゼと同じ、又はおおよそ同じレベルのオンターゲット活性を有する。一部の実施形態において、変異ヌクレアーゼは、1つ以上の機能活性が野生型ヌクレアーゼと比較して、向上している。例えば、本明細書中に記載される変異ヌクレアーゼは、オンターゲット活性のレベルの増大(例えば、野生型に対して10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、175%、200%、又はそれ以上)及び/又はオフターゲット活性のレベルの低下(例えば、野生型活性の90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、又は5%)を示し得る。一部の実施形態において、本明細書中に記載される変異ヌクレアーゼが二本鎖DNA(dsDNA)(例えば標的dsDNA)と接触する場合、オフターゲット編集(例えば、オフターゲット編集率)は、野生型ヌクレアーゼによる標的dsDNAの観察又は測定オフターゲット編集率よりも低い。例えば、変異ヌクレアーゼによるオフターゲット編集率は、野生型ヌクレアーゼよりも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は95%低くなり得る。
【0075】
変異ヌクレアーゼの活性(例えば、オンターゲット活性及び/又はオフターゲット活性)は、当該技術において知られているあらゆる方法、例えばGUIDE-seq(例えば、Tsai et al.(Nat.Biotechnol.33:187-197(2015)参照);CIRCLE-seq(例えば、Tsai et al.,Nature Methods 14:607-614(2017)参照);Digenome-seq(例えば、Kim et al.,Nature Methods 12:237-243(2015)参照);又はChIP-seq(例えば、O’Geen et al.,Nucleic Acids Res.43:3389-3404(2015)参照)を用いて評価することができる。一部の実施形態において、オフターゲット編集率は、オフターゲット部位でのインデル%を求めることによって評価される。
【0076】
当業者によって周知されるように、ポリペプチドのアミノ酸配列中への置換の導入のための種々の方法が存在する。変異ヌクレアーゼをコードする核酸を、宿主細胞(例えば、ヒト細胞、動物細胞、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞)内での発現用のウイルスベクター又は非ウイルスベクター中に導入することができる。一部の実施形態において、変異ヌクレアーゼをコードする核酸は、ヌクレアーゼの発現用の1つ以上の調節ドメインに作動可能に連結される。当業者によって理解されるように、適切な細菌プロモータ及び真核生物プロモータは、当該技術において周知であり、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(3d ed.2001);Kriegler,Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual(1990);及びCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel et al.,eds.,2010)に記載されている。操作されたタンパク質を発現するための細菌発現系が、例えば、大腸菌(E.coli)、バチルス(Bacillus)属種、及びサルモネラ(Salmonella)属中で利用可能である(Paiva et al.,1983,Gene 22:229-235)。
【0077】
Cpf1
crRNAと二本鎖(ds)DNA標的(TTTN PAM配列を含む)との複合体のアシダミノコッカス(Acidaminococcus)種Cpf1の結晶構造は、Yamanoらによって解明されている(参照により本明細書に組み込まれるCell.2016 May 5;165(4):949-962(“Yamano”))。Cpf1は、Cas9のように、2つのローブ:REC(認識)ローブ、及びNUC(ヌクレアーゼ)ローブを有する。RECローブは、あらゆる公知のタンパク質構造との類似性がないREC1及びREC2ドメインを含む。一方、NUCローブは、3つのRuvCドメイン(RuvC-I、-II、及び-III)、並びにBHドメインを含む。しかし、Cas9とは対照的に、Cpf1 RECローブは、HNHドメインがなく、やはり公知のタンパク質構造との類似性がない他のドメイン:構造的に固有のPIドメイン、3つのくさび(Wedge)(WED)ドメイン(WED-I、-II、及び-III)、並びにヌクレアーゼ(Nuc)ドメインを含む。
【0078】
Cas9とCpf1は、構造及び機能において類似性を有するが、ある種のCpf1活性が、あらゆるCas9ドメインと類似ではない構造ドメインによって媒介されることを認識するべきである。例えば、標的DNAの相補鎖の切断は、Cas9のHNHドメインとは配列的及び空間的に異なるNucドメインによって媒介されるようである。さらに、Cpf1 gRNAの非ターゲティング部分(ハンドル)は、Cas9 gRNAにおいてリピート:アンチリピート二本鎖によって形成されるステム・ループ構造ではなく、シュードノット構造をとる。
【0079】
RNAガイド型ヌクレアーゼをコードする核酸
RNAガイド型ヌクレアーゼ、例えば、Cas9、Cpf1、又はその機能性断片をコードする核酸は、本明細書で提供される。RNAガイド型ヌクレアーゼをコードする例示的な核酸は、以前に記載されている(例えば、Cong et al.,Science.2013 Feb 15;339(6121):819-23(“Cong 2013”);Wang et al.,PLoS One.2013 Dec 31;8(12):e85650(“Wang 2013”);Mali 2013;Jinek 2012を参照のこと)。
【0080】
いくつかの場合では、RNAガイド型ヌクレアーゼをコードする核酸は、合成の核酸配列であり得る。例えば、合成の核酸分子は、化学的に改変することができる。ある種の実施態様では、RNAガイド型ヌクレアーゼをコードするmRNAは、次の性質の1つ又は複数(例えば全て)を有することとなる:キャップ形成され得る;ポリアデニル化され得る;及び5-メチルシチジン及び/又はシュードウリジンで置換され得る。
【0081】
合成の核酸配列はまた、コドン最適化することができる。例えば、少なくとも1つの非共通コドン又はそれほど共通でないコドンが、共通コドンによって置き換えられている。例えば、合成の核酸は、例えば本明細書に記載した、例えば哺乳類の発現系における発現のために最適化された、最適化されたメッセンジャーmRNAの合成を誘導することができる。コドン最適化されたCas9コード配列の例は、国際公開第2016/073990号パンフレット(“Cotta-Ramusino”)に示される。
【0082】
さらに又はあるいは、RNAガイド型ヌクレアーゼをコードする核酸は、核局在化配列(NLS)を含むことができる。核局在化配列は、当技術分野で公知である。
【0083】
ガイドRNA(gRNA)分子
用語「ガイドRNA」及び「gRNA」は、Cas9又はCpf1などのRNAガイド型ヌクレアーゼの、細胞内のゲノム又はエピソーム配列などの標的配列に対する特異的な結合(又は「ターゲティング」)を促進するあらゆる核酸を指す。gRNAは、単分子(単一のRNA分子を含み、あるいはキメラとも呼ばれる)又はモジュール式(2つ以上、典型的には2つの別のRNA分子(crRNA及びtracrRNAなど)を含み、これらは通常、例えば二本鎖化によって互いに結合されている)であり得る。gRNA及びその構成部分は、文献を通して、例えば、Briner et al.(参照により組み込まれるMolecular Cell 56(2),333-339,October 23,2014(“Briner”))に、また(and)Cotta-Ramusinoに記載されている。
【0084】
細菌及び古細菌では、II型CRISPR系は一般に、Cas9などのRNAガイド型ヌクレアーゼタンパク質、外来配列に相補的である5’領域を含むCRISPR RNA(crRNA)、及びcrRNAの3’領域に相補的でありこれと二本鎖を形成する5’領域を含むトランス活性化型crRNA(tracrRNA)を含む。いかなる理論に拘泥されることも意図しないが、この二本鎖が、Cas9/gRNA複合体の形成を容易にする-Cas9/gRNA複合体の活性に必要である-ことが考えられる。II型CRISPR系は、遺伝子編集に使用するために適合されたので、ある非限定的な例では、crRNA(その3’末端)及びtracrRNA(その5’末端)の相補的領域をつなぐ、4つのヌクレオチド(例えばGAAA)「テトラループ」又は「リンカー」配列を用いて、crRNAとtracrRNAが連結されて単一の単分子又はキメラガイドRNAになる可能性があることが発見された。(Mali et al.Science.2013 Feb 15;339(6121):823-826(“Mali 2013”);Jiang et al.Nat Biotechnol.2013 Mar;31(3):233-239(“Jiang”);及びJinek et al.,2012 Science Aug.17;337(6096):816-821(“Jinek 2012”)(これらを全て参照により本明細書に組み込む))。
【0085】
ガイドRNAは、単分子かモジュール式かにかかわらず、編集が所望される細胞のゲノム内のDNA配列などの標的配列内の標的ドメインに完全に又は部分的に相補的である「ターゲティングドメイン」を含む。ターゲティングドメインは、限定はされないが、「ガイド配列」(参照により本明細書に組み込まれるHsu et al.,Nat Biotechnol.2013 Sep;31(9):827-832(“Hsu”))、「相補性領域」(Cotta-Ramusino)、「スペーサー」(Briner)、及び総称的な「crRNA」(Jiang)を含めて、文献中で様々な名前で呼ばれている。与えられた名前とは関係なく、ターゲティングドメインは、典型的には、長さが10~30ヌクレオチドであり、ある種の実施態様では、長さが16~24ヌクレオチド(例えば、長さが16、17、18、19、20、21、22、23、又は24ヌクレオチド)であり、Cas9 gRNAの場合には5’末端に又はその近くに、Cpf1 gRNAの場合には3’末端に又はその近くにある。
【0086】
ターゲティングドメインに加えて、gRNAは、典型的には(以下に論じる通り、必ずしもというわけではないが)、gRNA/Cas9複合体の形成又は活性に影響を与える可能性がある複数のドメインを含む。例えば、上に言及した通り、gRNAの第1と第2の相補性ドメインによって形成された二本鎖化された構造(リピート:アンチリピート二本鎖とも呼ばれる)は、Cas9の認識(REC)ローブと相互作用し、Cas9/gRNA複合体の形成を媒介することができる。(どちらも参照により本明細書に組み込まれるNishimasu et al.,Cell 156,935-949,February 27,2014(“Nishimasu 2014”)及びNishimasu et al.,Cell 162,1113-1126,August 27,2015(“Nishimasu 2015”)。第1の及び/又は第2の相補性ドメインが、RNAポリメラーゼによって終結シグナルと認識される可能性がある1つ又は複数のポリ-Aトラクトを含有する可能性があることに留意するべきである。したがって、第1及び第2の相補性ドメインの配列は、場合によっては、これらのトラクトを除去し、例えば、Brinerに記載されている通りのA-G交換、又はA-U交換の使用を介する、gRNAの完全なインビトロ転写を促進するために改変される。第1及び第2の相補性ドメインに対するこれらの及び他の同様の改変は、本開示の範囲内である。
【0087】
第1及び第2の相補性ドメインと共に、Cas9 gRNAは典型的には、インビトロでは必ずしもというわけではないがインビボでのヌクレアーゼ活性に関与する、2つ以上の追加の二本鎖化された領域を含む(Nishimasu 2015)。第2の相補性ドメインの3’部分の近くの第1のステム・ループ第一(one)は、「近位ドメイン」(Cotta-Ramusino)、「ステム・ループ1」(Nishimasu 2014 and 2015)、及び「ネクサス」(Briner)と様々に呼ばれる。gRNAの3’末端の近くに、1つ又は複数の追加のステム・ループ構造が一般に存在し、その数は、種によって様々である:化膿レンサ球菌(S.pyogenes)gRNAは典型的には、2つの3’ステム・ループ(リピート:アンチリピート二本鎖を含む合計4つのステム・ループ構造に対して)を含むのに対して、黄色ブドウ球菌(S.aureus)及び他の種は、1つ(合計3つのステム・ループ構造に対して)しか有しない。種によって組織化された、保存されているステム・ループ構造(及び、より一般的にはgRNA構造)の説明は、Brinerによって提供されている。
【0088】
前述の説明は、Cas9と共に使用するためのgRNAに焦点を合わせてきたが、この時点までに記載されているものといくつかの点で異なるgRNAを利用する、他のRNAガイド型ヌクレアーゼが、発見又は発明されている(又は将来、される可能性がある)ことを認識するべきである。例えば、Cpf1(「プレボテラ(Prevotella)及びフランシスセラ(Franciscella)由来のCRISPR 1(CRISPR from Prevotella and Franciscella 1)」)は、機能するためにtracrRNAを必要としない、最近発見されたRNAガイド型ヌクレアーゼである。(参照により本明細書に組み込まれるZetsche et al.,2015,Cell 163,759-771 October 22,2015(“Zetsche I”))。Cpf1ゲノム編集システムに使用するためのgRNAは、一般に、ターゲティングドメイン及び相補性ドメイン(代わりに「ハンドル」とも呼ばれる)を含む。Cpf1と共に使用するためのgRNAでは、ターゲティングドメインが通常、Cas9 gRNAに関して上に記載した5’末端ではなく、3’末端に又はその近くに存在する(ハンドルは、Cpf1 gRNAの5’末端に又はその近くにある)ことにも留意するべきである。
【0089】
しかし、当業者は、異なる原核生物種由来のgRNAの間に、又は、Cpf1 gRNAとCas9 gRNAの間に、構造の違いが存在する可能性はあるが、gRNAが動作する原理は一般に一致していることを認識するであろう。この動作の不変性から、gRNAは、そのターゲティングドメイン配列によって大まかに定義することができ、当業者は、所与のターゲティングドメイン配列を、単分子若しくはキメラgRNA、又は1つ又は複数の化学的改変及び/又は配列的改変(置換、追加のヌクレオチド、切り詰めなど)を含むgRNAを含めた、あらゆる好適なgRNAに組み込むことができることを認識するであろう。したがって、この開示における提示の節約のために、gRNAは、そのターゲティングドメイン配列に関してのみ記載することができる。
【0090】
より一般的には、当業者は、本開示のいくつかの態様が、複数のRNAガイド型ヌクレアーゼを使用して実行することができるシステム、方法、及び組成物に関することを認識するであろう。この理由から、そうではないと指定されない限り、gRNAという用語は、Cas9又はCpf1のある特定の種と適合性のあるgRNAだけでなく、あらゆるRNAガイド型ヌクレアーゼと共に使用することができるあらゆる好適なgRNAを包含すると理解されるべきである。実例として、用語gRNAには、ある種の実施態様では、II型又はV型又はCRISPR系などのクラス2 CRISPR系に存在するあらゆるRNAガイド型ヌクレアーゼ、又はそれに由来する又はそこから適合されるRNAガイド型ヌクレアーゼと共に使用するためのgRNAが含まれ得る。
【0091】
選択方法
本開示はまた、一セットの条件において適応度(fitness)が(例えば、変異体/突然変異体のライブラリ間で)最も大きい変異体を選択するであろう競合ベースの選択戦略を提供する。本発明の選択方法は、例えば、指向性進化戦略、例えば、1ラウンド以上の突然変異誘発に続く選択を包含する戦略において、有用である。特定の実施形態において、本開示の方法は、現行のポリペプチド及び/又はポリペプチドの進化戦略で典型的に観察されるよりも高いスループット指向性進化戦略を可能にする。
【0092】
ファージミド内のDNA標的部位への結合に基づく選択
一態様において、本開示は、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドのバージョンを、DNA標的部位に結合するかに基づいて選択する方法を提供する。当該方法は通常、(a)ポリヌクレオチドのライブラリを用意するステップであって、ライブラリ内の様々なポリヌクレオチドは、様々なバージョンの注目するポリペプチドをコードし、又は様々なバージョンの注目するポリヌクレオチド用の鋳型として機能する、ステップと;(b)ポリヌクレオチドのライブラリを宿主細胞中に導入するステップであって、これにより、形質転換された各宿主細胞が、注目するポリペプチドの一バージョンをコードし、又は注目するポリヌクレオチドの一バージョン用の鋳型として機能するポリヌクレオチドを含む、ステップと;(c)第1の選択剤をコードし、且つDNA標的部位を含むファージミドを含む複数のバクテリオファージを用意するステップと;(d)ステップ(b)由来の形質転換された宿主細胞を、複数のバクテリオファージと一緒に、複数のバクテリオファージが、形質転換された宿主細胞に感染するような培養条件下でインキュベートするステップであって、第1の選択剤の発現が、感染した宿主細胞に生存の利益又は不利益を付与する、ステップと;(e)(d)において生存の利益(例えば、本明細書中に記載される生存の利益)を示す宿主細胞を選択するステップとを含む。例えば、ステップ(d)の生存は、以下で概説されるように、種々のスキームに基づく。
【0093】
DNA標的部位での結合は、ファージミドによってコードされる、又はファージミド上に含有される選択剤(本明細書中でさらに考察される)の発現を低下させる。本明細書中でさらに考察されるように、選択剤は、生存の不利益又は生存の利益を付与し得る。選択剤の発現の低下は、DNA標的部位での結合によって媒介される選択剤の転写抑制によって起こり得る。一部の実施形態において、選択剤の発現の低下は、DNA標的部位での、又はその近くでのファージミドの切断によって起こる。例えば、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドは、DNAに結合してDNAを切断する。一部のクラスの酵素は、特定のDNA認識部位に結合して、結合部位にて、又はその近くでDNAを切断する。したがって、DNA切断部位は、DNA結合部位と同じであっても異なってもよい。DNA切断部位がDNA結合部位と異なる一部の実施形態において、2つの部位は、互いに近い(例えば、20、15、10、又は5塩基対以内)。加えて、又は代わりに、2つの部位は、互いの20、15、10、又は5塩基対以内でない。
【0094】
切断を伴う場合、切断は、以下で考察されるように、宿主細胞の内側にある場合に二本鎖プラスミドとして複製するファージミドの一方の鎖の切断(「ニッキング」と呼もばれる)であっても双方の鎖の切断であってもよい。
【0095】
特定の実施形態において、DNA標的部位での結合は、ファージミドによってコードされる選択剤の発現を、又は鋳型がファージミド上にある選択剤の発現を増大させる。選択剤の発現の増大が、例えば、DNA標的部位での結合によって媒介される選択剤の転写活性化によって起こり得る。
【0096】
DNA標的部位に結合するポリペプチド又はポリヌクレオチドのバージョンを、例えば、そのようなバージョンで形質転換された宿主細胞が、細胞増殖カイネティクスの維持、細胞増殖カイネティクスの増大(例えば細胞分裂の増大)、及び/又は細胞増殖カイネティクスの低下の逆転(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下からの少なくとも部分的な救出)を示し;一方で、DNA標的部位に結合しないバージョンで形質転換された宿主細胞が、細胞増殖カイネティクスの増大を示さない(例えば、細胞増殖カイネティクス及び/又は細胞分裂の低下を示す)、且つ/又は死滅するように選択することができる。特定の実施形態において、DNA標的部位に結合するポリペプチド又はポリヌクレオチドのバージョンは、そのようなバージョンで形質転換された宿主細胞が生き残る一方で、DNA標的部位に結合しないバージョンで形質転換された宿主細胞が生き残らないように選択される。
【0097】
DNA標的部位に結合しないポリペプチド又はポリヌクレオチドのバージョンを、例えば、そのようなバージョンで形質転換された宿主細胞が、細胞増殖カイネティクスの維持、細胞増殖カイネティクスの増大(例えば、細胞分裂の増大)、及び/又は細胞増殖カイネティクスの低下の逆転(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下からの少なくとも部分的な救出)を示し;一方で、DNA標的部位に結合するバージョンで形質転換された宿主細胞が、細胞増殖カイネティクスの増大を示さない(例えば、細胞増殖カイネティクス及び/又は細胞分裂の低下を示す)、且つ/又は死滅するように選択することができる。特定の実施形態において、DNA標的部位に結合しないポリペプチド又はポリヌクレオチドのバージョンは、そのようなバージョンで形質転換された宿主細胞が生き残る一方、DNA標的部位に結合するバージョンで形質転換された宿主細胞が生き残らないように選択される。
【0098】
代替の実施形態において、Cas9タンパク質、及び標的配列を標的とするgRNA、並びにファージ起源F1要素をコードするファージミド(例えばpEvol_CAS)を構築することができる(
図16)。一部の実施形態において、ファージミドは構成的に、ベータラクタマーゼを発現し、これは、アンピシリンに対する耐性(AmpR)又は類似の抗生物質、例えばカルベニシリンに対する耐性を付与する。そしてCas9の発現を制御する、誘導性アラビノースプロモータ(Ara)を発現する。一部の実施形態において、pEvol_CASは、形質転換された宿主細胞中への導入用のヘルパーバクテリオファージ中にパッケージングすることができる。プラスミド、例えば、それぞれ潜在的な標的部位を含有するpSelect_MUT及びpSelect_WTを構築することもできる。代わりに、又は加えて、これらのプラスミドは、構成的に発現されるクロラムフェニコール耐性遺伝子(CmR)及び細菌毒素を、lacプロモータの制御下で含有してもよく、これは、例えば、IPTG(イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド)による毒素発現の誘導を可能とする。
【0099】
対立遺伝子特異性を操作するために、例えば、突然変異誘発用の最初の鋳型としてpEvol_CASファージミド、そして全てのコドンを標的とし、且つ突然変異率の調整を可能とする包括的且つ不偏の突然変異誘発法を用いて、Cas9突然変異体のファージミドライブラリを生成することができる。
【0100】
代わりに、又は加えて、一部の実施形態において、進化の各ラウンドは、pEvol_CAS突然変異体のファージミドライブラリを、競合培養物中に、例えばpSelect_MUT又はpSelect_WTを含有する大腸菌(E.coli)に対する切断のためのポジティブ選択に曝すことを含む。例えば、pSelect_MUT又はpSelect_WTを含有する細菌は、pEvol_CAS突然変異体をパッケージングしたファージを用いて感染させることができ、そして細菌は、液体培養において、アンピシリン中で培養することができる。
【0101】
一部の実施形態において、最初のインキュベーション及び感染の後に、毒素を用いたポジティブ選択のストリンジェンシーを、例えばIPTGを加えて、毒素発現を誘導することによって評価することができる。一部の実施形態において、Cas9及びガイドRNAの発現を、アラビノースの追加によって誘導することができる。ポジティブ選択の間、細菌は、液体培養物中に存在するファージによって継続的に感染されるので、標的を切断する連続感作誘発(continuous challenge)を示すことができる。
【0102】
一部の実施形態において、最初のインキュベーション及び感染の後に、抗生物質、例えばクロラムフェニコールを用いたネガティブ選択のストリンジェンシー。一部の実施形態において、Cas9及びガイドRNAの発現を、アラビノースを加えることによって誘導することができる。ネガティブ選択の間、細菌は、液体培養物中に存在するファージによって継続的に感染されるので、標的を切断しない連続感作誘発を示すことができる。
【0103】
別の態様において、これらの方法は、通常、(a)第1の選択剤をコードし、且つDNA標的部位を含むポリヌクレオチドを用意するステップと;(b)形質転換された各宿主細胞が、第1の選択剤及びDNA標的部位をコードするポリヌクレオチドを含むように、ポリヌクレオチドを宿主細胞中に導入するステップと;(c)ポリヌクレオチドのライブラリをコードするファージミドを含む複数のバクテリオファージを用意するステップであって、ライブラリ内の様々なポリヌクレオチドが、注目するポリペプチドの様々なバージョンをコードし、又は注目するポリヌクレオチドの様々なバージョンの鋳型として機能する、ステップと;(d)ステップ(b)由来の形質転換された宿主細胞を、複数のバクテリオファージと一緒に、複数のバクテリオファージが、形質転換された宿主細胞に感染するような培養条件下でインキュベートするステップであって、第1の選択剤の発現は、感染した宿主細胞に生存の利益又は不利益を付与する、ステップと;(e)(d)において生存の利益(例えば、本明細書中に記載される生存の利益)を示す宿主細胞を選択するステップとを含む。例えば、ステップ(d)の生存は、先で概説されるように、種々のスキームに基づく。
【0104】
不利な選択剤の発現を結合が低下させる場合のDNA標的部位での結合に基づく選択
特定の実施形態において、選択剤は、宿主細胞に生存の不利(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下(例えば増殖遅延)及び/又は細胞分裂の阻害)を付与し、且つ/又は宿主細胞を死滅させ、そしてDNA標的部位での結合は、選択剤の発現を低下させる。次に、生存は、DNA標的部位での結合に基づく:注目するポリペプチドのバージョンをコードし、又は、DNA標的部位に結合する、注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能する、ライブラリ由来のポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞は、細胞増殖カイネティクスの維持、細胞増殖カイネティクスの増大(例えば、細胞分裂の増大)、及び/又は細胞増殖カイネティクスの低下の逆転(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下からの少なくとも部分的な救出)を示す。一方、注目するポリペプチドのバージョンをコードし、又は、DNA標的部位に結合しない、注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能する、ライブラリ由来のポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞は、生存の不利益(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下(例えば、増殖遅延)、及び/又は細胞分裂の阻害)を示し、生き残らず、且つ/又は死滅する。
【0105】
一部の実施形態において、選択剤の発現は、DNA標的部位にて、又はその近くで、ファージミドを切断することによって、例えば、ファージミドの一本鎖を切断(「ニッキング」)又は双方の鎖を切断することによって、低下する。
【0106】
ライブラリ内のポリヌクレオチドは、例えば、抗生物質耐性遺伝子を含んでよく、そして選択剤(ファージミドによってコードされ、又は鋳型がファージミド上にある)は、抗生物質耐性遺伝子の産物を阻害する。そのような選択中の培養条件は、例えば、抗生物質耐性遺伝子が耐性を付与する抗生物質への曝露を含んでよい。一例において、抗生物質耐性遺伝子は、ベータラクタマーゼをコードし、抗生物質は、アンピシリン若しくはペニシリン、又は別のベータ-ラクタム抗生物質であり、選択剤は、ベータラクタマーゼ阻害タンパク質(BLIP)である。
【0107】
有利な選択剤の発現を結合が低下させる場合のDNA標的部位での結合の欠如に基づく選択
特定の実施形態において、選択剤は、宿主細胞に、生存の利益(例えば、細胞増殖カイネティクスの維持、細胞増殖カイネティクスの増大(例えば、細胞分裂の増大)、及び/又は細胞増殖カイネティクスの低下の逆転(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下からの少なくとも部分的な救出)を付与し、そしてDNA標的部位での結合は、選択剤の発現を低下させる。生存は、DNA標的部位での結合の欠如に基づく:注目するポリペプチドのバージョンをコードし、又は、DNA標的部位に結合しない、注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能する、ライブラリ由来のポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞は、細胞増殖カイネティクスの維持、細胞増殖カイネティクスの増大(例えば、細胞分裂の増大)、及び/又は細胞増殖カイネティクスの低下の逆転(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下からの少なくとも部分的な救出)を示す。一方、注目するポリペプチドのバージョンをコードする、又は、DNA標的部位に結合する、注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能する、ライブラリ由来のポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞は、生存の不利益(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下(例えば、増殖遅延)、細胞分裂の阻害)を示し、生き残らず、且つ/又は死滅する。
【0108】
一部の実施形態において、選択剤の発現は、DNA標的部位にて、又はその近くで、ファージミドを切断することによって、例えば、ファージミドの一本鎖を切断(「ニッキング」)又は双方の鎖を切断することによって、低下する。
【0109】
有利な選択剤の発現を結合が増大させる場合のDNA標的部位での結合に基づく選択
特定の実施形態において、選択剤は、宿主細胞に、生存の利益(例えば、細胞増殖カイネティクスの維持、細胞増殖カイネティクスの増大(例えば、細胞分裂の増大)、及び/又は細胞増殖カイネティクスの低下の逆転(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下からの少なくとも部分的な救出)を付与し、そしてDNA標的部位での結合は、選択剤の発現を増大させる。生存は、DNA標的部位での結合に基づく:注目するポリペプチドのバージョンをコードし、又は、DNA標的部位に結合する、注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能するライブラリ由来のポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞は、細胞増殖カイネティクスの維持、細胞増殖カイネティクスの増大(例えば、細胞分裂の増大)、及び/又は細胞増殖カイネティクスの低下の逆転(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下からの少なくとも部分的な救出)を示す。一方、注目するポリペプチドのバージョンをコードし、又は、DNA標的部位に結合しない、注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能する、ライブラリに由来するポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞は、生存の不利益(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下(例えば、増殖遅延)、細胞分裂の阻害)を示し、生き残らず、且つ/又は死滅する。
【0110】
不利な選択剤の発現を結合が増大させる場合のDNA標的部位で結合の欠如に基づく選択
特定の実施形態において、選択剤は、宿主細胞に、生存の不利益(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下(例えば、増殖遅延)及び/又は細胞分裂の阻害)を付与し、且つ/又は宿主細胞を死滅させ、そしてDNA標的部位での結合は、選択剤の発現を増大させる。生存は、DNA標的部位での結合の欠如に基づく:注目するポリペプチドのバージョンをコードし、又は、DNA標的部位に結合しない、注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能する、ライブラリ由来のポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞は、細胞増殖カイネティクスの維持、細胞増殖カイネティクスの増大(例えば、細胞分裂の増大)、及び/又は細胞増殖カイネティクスの低下の逆転(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下からの少なくとも部分的な救出)を示す。一方、注目するポリペプチドのバージョンをコードし、又は、DNA標的部位に結合する、注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能する、ライブラリに由来するポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞は、生存の不利益(例えば、細胞増殖カイネティクスの低下(例えば、増殖遅延)、細胞分裂の阻害)を示し、生き残らず、且つ/又は死滅する。
【0111】
選択剤の存在下での宿主細胞ゲノム中のDNA標的部位への結合に基づく選択
一態様において、本開示は、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドのバージョンを、選択剤の存在下でDNA標的部位に結合するかに基づいて選択する方法を提供する。
【0112】
さらに本明細書中で考察されるように、これらの方法は、通常:(a)ポリヌクレオチドのライブラリを用意するステップであって、ライブラリ内の様々なポリヌクレオチドは、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドの様々なバージョンをコードしている、ステップと;(b)形質転換された各宿主細胞が、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドのバージョンをコードするポリヌクレオチドを含むように、宿主細胞中にポリヌクレオチドのライブラリを導入するステップであって、宿主細胞ゲノムは、DNA標的部位を含む、ステップと;(c)第1の選択剤をコードするファージミドを含む複数のバクテリオファージを用意するステップであって、第1の選択剤は、第1の選択ポリヌクレオチドである、ステップと;(d)ステップ(b)に由来する形質転換された宿主細胞を、複数のバクテリオファージと一緒に、複数のバクテリオファージが、形質転換された宿主細胞に感染するような培養条件下でインキュベートするステップであって、第1の選択剤の存在下でのDNA標的部位の結合が、感染した宿主細胞に、生存の利益又は不利益を付与する、ステップと;(e)ステップ(d)を生き残った宿主細胞を選択するステップとを含む。
【0113】
ステップ(d)の生存は、以下で概説される種々のスキームに基づく。
【0114】
DNA標的部位は、例えば、宿主細胞ゲノム内にあってよい。加えて、又は代わりに、DNA標的部位は、宿主細胞の必須の生存遺伝子内にあってよい。加えて、又は代わりに、DNA標的部位は、産物が生存遺伝子の発現を妨げる遺伝子内にあってよい。
【0115】
一部の実施形態において、選択ポリヌクレオチドは、CRISPR関連(Cas)ヌクレアーゼのガイドRNAである。
【0116】
結合が不利である場合の、DNA標的部位での結合の欠如に基づく生存
特定の実施形態において、選択剤(ポリヌクレオチドである)の存在下での宿主細胞内のDNA標的部位での結合は、不利である(例えば、DNA標的部位での結合が、宿主細胞内の必須の生存遺伝子の破壊もたらすからである)。生存は、DNA標的部位での結合の欠如に基づく:注目するポリペプチドのバージョンをコードし、又は、DNA標的部位に結合しない、注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能する、ライブラリ由来のポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞は、生き残る。一方、注目するポリペプチドのバージョンをコードし、又は、DNA標的部位に結合する、注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能する、ライブラリ由来のポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞は、生き残らない。
【0117】
結合が有利である場合のDNA標的部位での生存結合
特定の実施形態において、選択剤(ポリヌクレオチドである)の存在下での宿主細胞内のDNA標的部位での結合は、有利である(例えば、DNA標的部位での結合が、宿主細胞内の生存遺伝子の発現をもたらすからである)。生存は、DNA標的部位での結合に基づく:注目するポリペプチドのバージョンをコードし、又は、DNA標的部位に結合する、注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能する、ライブラリ由来のポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞は、生き残る。一方、注目するポリペプチドのバージョンをコードし、又は、DNA標的部位に結合しない、注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能する、ライブラリに由来するポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞は、生き残らない。
【0118】
ポリペプチドの発現の誘導に基づく選択
一態様において、本開示は、ポリペプチドの発現の調節又は制御に基づいて、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドのバージョンを選択する方法を提供する。
【0119】
さらに本明細書中で考察されるように、これらの方法は、通常、(a)ポリヌクレオチドのライブラリを用意するステップであって、ライブラリ内の様々なポリヌクレオチドは、注目するポリペプチドの様々なバージョンをコードし、又は注目するポリヌクレオチドの様々なバージョンの鋳型として機能する、ステップと;(b)形質転換された各宿主細胞が、注目するポリペプチドのバージョンをコードするポリヌクレオチドを含むように、又は注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能するように、ポリヌクレオチドのライブラリを宿主細胞中に導入するステップと;(c)培養物中に存在するポリペプチドの量を制御するようにポリペプチドの発現を誘導するステップと;(d)第1の選択剤をコードし、且つDNA標的部位を含むファージミドを含む複数のバクテリオファージを用意するステップと;(e)ステップ(b)由来の形質転換された宿主細胞を、複数のバクテリオファージと一緒に、複数のバクテリオファージが、形質転換された宿主細胞に感染するような培養条件下でインキュベートするステップであって、第1の選択剤の発現が、感染した宿主細胞に生存の利益又は不利益を付与する、ステップと;(f)ステップ(d)を生き残った宿主細胞を選択するステップとを含む。ステップ(d)の生存は、本明細書中に記載される種々のスキームに基づく。
【0120】
ポリヌクレオチドは、誘導性プロモータ、例えば、本明細書中で記載される誘導性プロモータを含んでよく、そして発現は、ポリヌクレオチドを、本明細書中に記載される1つ以上の誘導剤と接触させることによって誘導される。例えば、ポリヌクレオチドは、アラビノースプロモータを含んでよく、そしてポリヌクレオチドからの発現は、ポリヌクレオチドをアラビノースと接触させることによって誘導することができる。別の例において、ポリヌクレオチドは、tacプロモータを含んでよく、そしてポリヌクレオチドからの発現は、ポリヌクレオチドをIPTGと接触させることによって誘導することができる。さらに別の例において、ポリヌクレオチドは、rhaBADプロモータを含んでよく、そしてポリヌクレオチドからの発現は、ポリヌクレオチドをラムノースと接触させることによって誘導することができる。
【0121】
ポリヌクレオチドのライブラリ
本開示の方法は、例えば、ポリヌクレオチドのライブラリ(例えばプラスミドライブラリ)を提供するステップから始めることができ、そこでは、ライブラリ内の様々なポリヌクレオチドが、注目するポリペプチドの様々なバージョンをコードしている(又は、注目するポリヌクレオチドの場合、ライブラリは、注目するポリヌクレオチドの様々なバージョン、及び/又は、注目するポリヌクレオチドの様々なバージョンの鋳型として機能する、注目するポリヌクレオチドの様々なバージョンを含む)。
【0122】
本明細書中に記載されるライブラリは、例えば、誘導性の促進剤に作動可能に連結されたポリヌクレオチドを含んでよい。例えば、プロモータの誘導は、ポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチドの発現を誘導し得る。一部の実施形態において、ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの発現を誘導するためのプロモータの誘導は、選択方法の効率に影響を与える。例えば、選択方法の効率は、誘導性プロモータを用いない選択方法の効率と比較して、向上且つ/又は増大し得る。
【0123】
そのようなライブラリは、例えば、既存のライブラリ、例えば、市販されている、且つ/又は公開されているコレクションを通して利用可能なものを用いることによって、又は購入することによって得ることができる。代わりに、又は加えて、ライブラリは、突然変異誘発方法から得ることができる。例えば、ライブラリは、ランダムな突然変異誘発方法又は包括的な突然変異誘発方法、例えば、突然変異誘発用の予め定義された標的領域の全体を通して、ポリヌクレオチドをランダムに標的とする方法によって得ることができる。
【0124】
ライブラリは、標的突然変異誘発方法によって得ることもできる。例えば、注目するポリヌクレオチドの、又は注目するポリペプチドのサブ領域が、突然変異誘発用に標的とされてよい。加えて、又は代わりに、注目するポリヌクレオチドの全体、又は注目するポリペプチドの全体が、突然変異誘発用に標的とされてよい。
【0125】
注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドは典型的に、DNA結合能力を有するが、ライブラリにおいて異なるポリヌクレオチドによってコードされる注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドの全てのバージョンが、必ずしもDNAに結合することができるわけでないと予想される。さらに、ライブラリにおいて異なるポリヌクレオチドによってコードされる注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドのバージョン間で、DNAに結合する能力が異なり得ると予想される。実際に、本開示の選択方法は、DNA標的部位に結合することができる、そして結合することができない注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドのバージョン間で区別することを包含する。特定の実施形態において、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドの多くの、又はほとんどのバージョンは、DNAに結合しない。
【0126】
同様に、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドがDNAを切断することができる実施形態において、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドのバージョンの全てが、必ずしもDNAを切断することができるわけではない。
【0127】
宿主細胞
本開示の方法は、ポリヌクレオチドのライブラリを用意するステップの後に、形質転換された各宿主細胞が、注目するポリペプチドのバージョンをコードするポリヌクレオチドを含むように、又は注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能するように、ポリヌクレオチドのライブラリを宿主細胞中に導入するステップを含んでよい。
【0128】
宿主細胞は、通常、外因性の物質、例えば、核酸(例えば、DNA及びRNA)、ポリペプチド、又はリボ核タンパク質を取り込むことができる細胞を指す。宿主細胞は、例えば、単細胞生物、例えば微生物、又は真核細胞、例えば、酵母細胞、哺乳類細胞(例えば培養物中)であってよい。
【0129】
一部の実施形態において、宿主細胞は、原核細胞、例えば細菌細胞、例えば大腸菌(E.coli)である。細菌細胞は、グラム陰性であってもグラム陽性であってもよく、細菌(Bacteria)(以前、真正細菌(Eubacteria)と呼ばれた)ドメイン又は古細菌(Archaea)(以前、始原細菌(Archaebacteria)と呼ばれた)ドメインに属してよい。これらのタイプの細菌はいずれも、ラボ環境において増殖することができ、且つ外因性の物質を取り込むことができる限り、宿主細胞として適し得る。
【0130】
宿主細胞は、例えば、遺伝物質等の外因性の物質を取り込むことができる、又は取り込むことができるようにされるという点で、コンピテントである、又はコンピテントにされる細菌細胞であり得る。
【0131】
遺伝物質等の外因性の物質を宿主細胞中に導入することができる種々の機構がある。例えば、細菌において、3つの一般的な機構があり、形質転換(DNA等の細胞外核酸の吸収及び組込み)、形質導入(例えば、プラスミドによる、又はバクテリオファージのような細胞に感染するウイルスによる、ある細胞から別の細胞への遺伝物質の転移)、及びコンジュゲーション(一時的に結合される2つの細胞間での核酸の直接的転移)として分類される。遺伝物質が形質転換によって導入された宿主細胞は、通常、「形質転換された宿主細胞」を指す。
【0132】
一部の実施形態において、ポリヌクレオチドのライブラリは、形質転換によって宿主細胞中に導入される。宿主細胞を形質転換するためのプロトコルが、当該技術において知られている。細菌細胞用に、例えば、エレクトロポレーションに基づく方法、リポフェクションに基づく方法、ヒートショックに基づく方法、ガラスビーズによる撹拌に基づく方法、化学的形質転換に基づく方法、外因性の物質(例えば、DNA又はRNA)でコーティングした粒子での砲撃に基づく方法がある。当業者であれば、当該技術及び/又は宿主細胞のメーカーによって提供されるプロトコルに基づく方法を選択することができるであろう。
【0133】
形質転換された宿主細胞は、例えば、注目するポリペプチドのバージョンをコードし、又は注目するポリヌクレオチドのバージョンの鋳型として機能するポリヌクレオチドをそれぞれ含有してよい。
【0134】
形質転換された宿主細胞の集団が、ポリヌクレオチドのライブラリの全メンバーをまとめて含有するように、ライブラリを宿主細胞の集団中に導入することができる。すなわち、ライブラリ内のポリヌクレオチドの全てのバージョンについて、ライブラリ内のポリヌクレオチドの全バージョンが、形質転換された宿主細胞の集団内で表されるように、集団内の少なくとも1つの宿主細胞が、ポリヌクレオチドのバージョンを含有する。
【0135】
バクテリオファージ
本開示の方法は、ポリヌクレオチドのライブラリを宿主細胞中に導入するステップの後に、第1の選択剤をコードし、且つDNA標的部位を含むファージミドを含む複数のバクテリオファージを用意するステップを含んでよい。
【0136】
バクテリオファージは、細菌に感染して、ゲノム(及び/又はバクテリオファージ内にパッケージングされたあらゆるファージミド)を細菌の細胞質中に注入するウイルスである。通常、バクテリオファージは、細菌内で複製する。しかし、複製欠陥バクテリオファージも存在する。
【0137】
一部の実施形態において、本明細書中に記載されるファージミドを含む複数のバクテリオファージは、形質転換された宿主細胞と一緒に、バクテリオファージが、形質転換された宿主細胞に感染し得る条件下でインキュベートされる。バクテリオファージは、複製能があり得、例えば、バクテリオファージは、形質転換された宿主細胞内で複製し、そして複製されたウイルス粒子は、培地中にビリオンとして放出されて、バクテリオファージによる他の宿主細胞の再感染を可能にする。
【0138】
ビリオンは、宿主細胞から、宿主細胞を溶解させることなく放出され得る。
【0139】
一部の実施形態において、複数のバクテリオファージは、継続的に、形質転換された宿主細胞に感染(感染且つ再感染)することによって、宿主細胞に対する連続感作誘発を提示する。
【0140】
バクテリオファージは、ファージDNAに対してファージミドを選択的にパッケージングする点で、「ヘルパーファージ」であり得る。例えば、バクテリオファージは、少なくとも3:1、少なくとも4:1、少なくとも5:1、少なくとも6:1、少なくとも7:1、少なくとも8:1、少なくとも9:1、又は少なくとも10:1の倍率で、ファージDNAに対してファージミドを選択的にパッケージングする。
【0141】
一部の実施形態において、バクテリオファージは、通常、宿主細胞を溶解させない。例えば、バクテリオファージは、宿主細胞を、形質転換された宿主細胞が複数のバクテリオファージと一緒にインキュベートされる条件下で溶解させない。
【0142】
バクテリオファージは、繊維状バクテリオファージであってよい。繊維状バクテリオファージは、通常、グラム陰性菌(とりわけ、大腸菌(E.coli)、緑膿菌(P.aeruginosa)、淋菌(N.gonorrhoeae)、及びペスト菌(Y.pestis)が挙げられる)に感染し、そして一本鎖DNAのゲノムを有する。
【0143】
例えば、繊維状バクテリオファージは、Ffファージであってよく、これは、Fエピソームを有する大腸菌(E.coli)に感染する。そのようなファージの例として、以下に限定されないが、M13バクテリオファージ、f1ファージ、fdファージ、並びにそれらの誘導体及び変異体が挙げられる。
【0144】
加えて、又は代わりに、バクテリオファージは、M13バクテリオファージ又はその誘導体若しくは変異体であってよく、例えば、バクテリオファージは、M13KO7(カナマイシン耐性マーカー及びp15A複製起点を有するM13の誘導体)であってよい。M13KO7は、ファージミド対ファージのパッケージング比率がおおよそ10:1と高いことによって、有用なヘルパーファージとして機能すると特徴付けられている。
【0145】
加えて、又は代わりに、バクテリオファージは、VCSM13(M13KO7の誘導体)であってよい。
【0146】
バクテリオファージはまた、f1バクテリオファージ又はその誘導体若しくは変異体であってもよい。例えば、バクテリオファージは、R408(抗生物質選択マーカーを何ら有していないf1の誘導体)であってよい。
【0147】
加えて、又は代わりに、バクテリオファージは、CM13(M13KO7よりも確実にビリオンを生成することが報告されているM13KO7の誘導体)であってよい。
【0148】
様々なファージミドを含有するバクテリオファージのプールが、本開示の方法に用いられてもよい。例えば、本明細書中でさらに考察されるように、例えば、複数のオフターゲット部位への結合及び/又は複数のオフターゲット部位の切断を選択することが所望される場合、異なるオフサイト標的が、バクテリオファージの同じプール内に含有される異なるファージミド上に示され得る。
【0149】
ファージミド
ファージミドは、f1ファージからのf1複製起点を有する環状のプラスミドであるので、プラスミドとして複製することができ、そしてバクテリオファージによって、一本鎖DNAとしてパッケージングすることができる。ファージミドはまた、二本鎖複製用の複製起点を(例えば、宿主細胞の内側にありながら)含有する。
【0150】
本発明での使用に適したファージミドは、通常、選択剤をコードし、又は選択剤の鋳型として機能し、そしてDNA標的部位を含む。ゆえに、本発明に用いられるファージミドは、典型的に、選択剤に作動可能に連結された、選択剤の発現を駆動する調節要素、選択剤をコードする、又は選択剤の鋳型として機能する遺伝子要素を含む。
【0151】
上記したように、DNA標的部位は、ファージミド内のどこにでも含ませることができる。例えば、DNA標的部位は、調節要素内に、遺伝子要素内に、調節要素及び遺伝子要素の双方の外側且つ遠位に、又は双方の要素の外側であるが要素の少なくとも1つの近位に位置決めすることができる。
【0152】
DNA標的部位の位置は、実施形態に依存してよい。例えば、DNA標的部位は、調節要素内に位置決めすることができる。この位置決めは、例えば、注目するポリペプチドが転写因子、例えば、転写活性化因子又は転写リプレッサである実施形態において、適切であり得、そして選択は、転写因子がDNA標的部位に結合するか否かに基づく。
【0153】
注目するポリペプチドの結合が、ファージミド内のどこででも、選択剤の発現を増減させることとなるという点で、DNA標的部位が位置決めされ得る場所には制限がない。例えば、DNA標的部位での、注目するポリペプチドの結合は、DNA標的部位での、又はその近くでのファージミドの切断をもたらし得る。ファージミド内のあらゆる場所でのファージミドの切断は、ファージミドの線形化を生じさせ、これにより、ファージミドは宿主細胞内で複製されなくなるので、選択剤の発現が終わることとなる。
【0154】
ファージミドは、バクテリオファージのメーカーによって提供されるプロトコルが挙げられる、当該技術において知られている方法を用いて、バクテリオファージ中にパッケージングすることができる。例えば、一般的に用いられるプロトコルは、所望のファージミド構築体の二本鎖プラスミドバージョンを形成して、細菌等の宿主細胞中に二本鎖プラスミドを形質転換してから、そのような形質転換された宿主細胞の培養体に、二本鎖プラスミドを一本鎖ファージミドとしてパッケージングし得るヘルパーバクテリオファージを接種するものである。
【0155】
培養条件
本開示の方法は、第1の選択剤をコードし、且つDNA標的部位を含むファージミドを含む複数のバクテリオファージを用意するステップの後に、形質転換された宿主細胞(ポリヌクレオチドのライブラリが導入された)を、複数のバクテリオファージと共に、複数のバクテリオファージが、形質転換された宿主細胞に感染するような培養条件下でインキュベートするステップを含んでよい。通常、当該条件は、第1の選択剤の発現が、実施形態に応じて、生存の不利益又は生存の利益を付与する条件である。
【0156】
特定の実施形態において、培養条件は、競合培養条件である。「競合培養条件」は、生物(例えば宿主細胞)の集団が一緒に増殖されて、同じ限られた資源、例えば、栄養素、酸素について競合しなければならない条件を指す。
【0157】
宿主細胞は、新しい栄養素の投入がない、又はほとんどない環境においてインキュベートされてよい。例えば、宿主細胞は、例えば、シールされたコンテナ、例えばフラスコ内で、新しい酸素の投入がない、又はほとんどない環境においてインキュベートされてよい。
【0158】
加えて、又は代わりに、宿主細胞は、インキュベーションの期間の全体を通して十分に混合される培地内でインキュベートされてよく、例えば、液体振盪培養である。通常、そのような十分に混合される条件下では、宿主細胞は、栄養要件が類似しており、栄養素及び/又は酸素が増殖集団によって枯渇するので、栄養素及び/又は酸素(好気性生物の場合)について競合することとなる。
【0159】
加えて、又は代わりに、宿主細胞は、おおよそ一定の温度にて、例えば、宿主細胞のタイプに最も適した温度にてインキュベートされてよい。例えば、大腸菌(E.coli)が挙げられる特定の細菌種について、宿主細胞は、典型的に、おおよそ37℃の温度にてインキュベートされる。一部の実施形態において、宿主細胞は、37℃の5℃、4℃、3℃、2℃、又は1℃以内で、例えばおおよそ37℃にてインキュベートされる。
【0160】
宿主細胞は、液体振盪培養物中でインキュベートされてよい。この振盪は、典型的に、栄養素の不均等な分布及び/又は培養物の底での一部の宿主細胞の沈殿を妨げるほど十分に激しい。例えば、宿主細胞は、少なくとも100rpm(毎分回転数)、少なくとも125rpm、少なくとも150rpm、少なくとも175rpm、少なくとも200rpm、少なくとも225rpm、少なくとも250rpm、少なくとも275rpm、又は少なくとも300rpm振盪されてよい。一部の実施形態において、宿主細胞は、100rpm~400pm、例えば200~350rpm、例えばおおよそ300rpmにて振盪される。
【0161】
複数のバクテリオファージが培養物中に導入される前の一定期間、宿主細胞はインキュベートされてよい。この期間により、例えば、宿主細胞集団は、保存状態から回復することができ、且つ/又は複数のバクテリオファージの導入の前に、特定の理想的な密度に達することができる。複数のバクテリオファージが導入される前の当該期間中に、選択圧が用いられても用いられなくてもよい。
【0162】
培養条件は、例えば、一定期間、例えば、少なくとも4時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、又は少なくとも16時間にわたる、バクテリオファージと一緒の宿主細胞の連続インキュベーションを含んでよい。加えて、又は代わりに、培養条件は、宿主細胞の増殖が飽和するまで、バクテリオファージと一緒の宿主細胞の連続インキュベーションを含んでよい。
【0163】
培養条件は、バクテリオファージによる宿主細胞の連続感染を許容し得る。すなわち、宿主細胞は、感染し、そして(生き残れば)インキュベーション期間中に継続的に再感染する。
【0164】
加えて、又は代わりに、選択圧が、培養物中に導入される。例えば、特に、宿主細胞が外因性のDNA(例えばプラスミド)で形質転換されていると、選択圧が導入されて、外因性のDNAを維持する宿主細胞を優先することができる。一般的に用いられるスキームとして、選択圧としての1つ以上の抗生物質、及び維持されるべき外因性のDNA内の対応する抗生物質耐性遺伝子の使用が挙げられる。この選択圧は、本明細書中で考察される選択剤が関係するものと同じであっても異なってもよく、そして一部の実施形態において、双方が、例えば順次且つ/又は同時に、用いられる。
【0165】
一部の実施形態において、少なくとも、形質転換された宿主細胞がバクテリオファージと一緒にインキュベートされる期間、培養条件は、1つ以上の抗生物質への曝露を含み、当該抗生物質に対して、一部の宿主細胞が、ファージミド、ライブラリ内のポリヌクレオチド、又は双方の上に存在する抗生物質耐性遺伝子によって耐性を有し得る。例えば、ファージミド、及びライブラリ内のポリヌクレオチドは双方とも、抗生物質耐性遺伝子を有し得、例えば、抗生物質耐性遺伝子は、同じであっても異なってもよい。ファージミドが、ある抗生物質耐性遺伝子(「第1の抗生物質」に対する耐性を付与する「第1の抗生物質耐性遺伝子」)を含有し、且つポリヌクレオチドが、別の抗生物質耐性遺伝子(「第2に抗生物質」に対する耐性を付与する「第2の抗生物質耐性遺伝子」)を含有するならば、培養条件は、種々のあらゆるスキームを含むことができる。非限定的な例は、当該条件は:1)第1の抗生物質及び第2の抗生物質の双方への同時曝露;2)第2の抗生物質への一定期間(例えば、バクテリオファージが培養物中に導入される前に、宿主細胞がインキュベートされる期間中)の連続曝露に続いて、i)第1の抗生物質、若しくはii)第1の抗生物質及び第2の抗生物質の双方への(例えば、宿主細胞がバクテリオファージと一緒にインキュベートされる期間中の)曝露、又は;3)インキュベーションの経過中に関連する抗生物質の1つ(例えば第1の抗生物質)のみへの曝露を含んでよい。
【0166】
選択剤
本明細書中に記載される方法は、選択剤をコードする、又は選択剤の鋳型として機能するファージミドを含む複数のバクテリオファージを提供するステップを含んでよい。実施形態に応じて、選択剤は、生存の利益又は生存の不利益を、宿主細胞に、宿主細胞がバクテリオファージとインキュベートされる条件で付与し得る。選択剤は、細胞増殖カイネティクスの増大、又は宿主細胞への細胞増殖カイネティクスの低下を、宿主細胞がバクテリオファージとインキュベートされる条件で付与し得る。
【0167】
選択剤は、例えば、ポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドであってよい。
【0168】
一部の実施形態において、選択剤は、宿主細胞に生存の利益を付与する。
【0169】
一部の実施形態において、選択剤は、宿主細胞の生存に必須の遺伝子によってコードされている。そのような必須の生存遺伝子の例として、以下に限定されないが、脂肪酸の生合成に関係する遺伝子;アミノ酸生合成に関係する遺伝子;細胞分裂に関係する遺伝子;包括的調節機能に関係する遺伝子;タンパク質の翻訳及び/又は修飾に関係する遺伝子;転写に関係する遺伝子;タンパク質分解に関係する遺伝子;ヒートショックタンパク質をコードする遺伝子;ATP輸送に関係する遺伝子;ペプチドグリカン合成に関係する遺伝子;DNAの複製、修復及び/又は修飾に関係する遺伝子;tRNAの修飾及び/又は合成に関係する遺伝子;並びにリボソーム成分をコードし、且つ/又はリボソーム合成に関係する遺伝子が挙げられる。例えば、大腸菌(Escherichia coli)において、いくつかの必須の生存遺伝子が当該技術において知られており、以下に限定されないが、accD(アセチルCoAカルボキシラーゼ、カルボキシトランスフェラーゼ成分、ベータサブユニット)、acpS(CoA:アポ-[アシル-キャリア-タンパク質]パンテテインホスホトランスフェラーゼ)、asd(アスパルタートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ)、dapE(N-スクシニル-ジアミノピメラートデアシラーゼ)、dnaJ(DnaKのシャペロン;ヒートショックタンパク質)、dnaK(シャペロンHsp70)、era(GTP結合タンパク質)、frr(リボソーム放出因子)、ftsI(セプタム形成;ペニシリン結合タンパク質3;ペプチドグリカンシンセターゼ)、ftsL細胞分裂タンパク質;セプタム壁の内方成長);ftsN(必須の細胞分裂タンパク質);ftsZ(細胞分裂;周囲環を形成する;チューブリン様GTP結合タンパク質及びGTPアーゼ)、gcpE、grpE(ファージラムダ複製;宿主DNA合成;ヒートショックタンパク質;タンパク質修復)、hflB(sigma32、統合膜ペプチダーゼ、細胞分裂タンパク質を分解させる)、infA(タンパク質鎖イニシエーション因子IF-1)、lgt(ホスファチジルグリセロールプロリポタンパク質ジアシルグリセリルトランスフェラーゼ;主要膜リン脂質)、lpxC(UDP-3-O-アシルN-アセチルグルコサミンデアセチラーゼ;脂質A生合成)、map(メチオニンアミノペプチダーゼ)、mopA(GroEL、シャペロンHsp60、ペプチド依存性ATPアーゼ、ヒートショックタンパク質)、mopB(GroES、10 Kd chaperone binds to Hsp60(印刷中)。MgATP、そのATPアーゼ活性を抑制)、msbA ATP結合輸送タンパク質;htrBの多コピーサプレッサ)、murA(ムレイン生合成における第1のステップ;UDP-N-グルコサミン1-カルボキシビニルトランスフェラーゼ)、murI(グルタメートラセマーゼ、D-グルタマート及びペプチドグリカンの生合成に必要とされる)、nadE(NADシンセターゼ、グルタミンよりもNH3を選ぶ)、nusG(転写抗転写終結の構成要素)、parC(DNAトポイソメラーゼIVサブユニットA)、ppa(無機ピロホスファターゼ)、proS(プロリンtRNAシンセターゼ)、pyrB(アスパルタートカルバモイルトランスフェラーゼ、触媒サブユニット)、rpsB(30Sリボソームサブユニットタンパク質S2)、trmA(tRNA(ウラシル-5-)-メチルトランスフェラーゼ)、ycaH、ycfB、yfiL、ygjD(推定上のO-シアロ糖タンパク質エンドペプチターゼ)、yhbZ(推定上のGTP結合因子)、yihA、並びにyjeQが挙げられる。大腸菌(E.coli)内の追加の必須遺伝子として、Gerdes 2003による「Experimental Determination and System-Level Analysis of Essential Genes in E.coli MG1655」内(例えば、Supplementary Tables 1、2、及び6内)で一覧にされるものが挙げられる。
【0170】
一部の実施形態において、選択剤は、以下でさらに考察されるように、抗生物質耐性遺伝子によってコードされている。例えば、培養条件は、抗生物質耐性遺伝子が耐性を実現する抗生物質への曝露を含んでよい。
【0171】
一部の実施形態において、選択剤は、生存の不利益を付与する遺伝子産物を阻害する。
【0172】
特定の実施形態において、選択剤は、生存の不利益を宿主細胞に付与する。選択剤は、宿主細胞に対して毒性であり得る。例えば、選択剤は、毒素であり得、その多くは当該技術において知られており、そしてその多くは、種々の細菌種において同定されている。そのような毒素の例として、以下に限定されないが、ccdB、FlmA、fst、HicA、Hok、Ibs、Kid、LdrD、MazF、ParE、SymE、Tisb、TxpA/BrnT、XCV2162、yafO、Zeta、及びtse2が挙げられる。例えば、選択剤は、ccdBであってよく、これは、大腸菌(E.coli)において見出される。他の例において、選択剤は、tse2である。
【0173】
選択剤は、毒性物質を生成するので、毒性であり得る。例えば、毒性物質の生成は、別の剤の存在下でのみ起こり得、その存在は、外部から制御することができても、できなくてもよい。
【0174】
加えて、又は代わりに、選択剤は、生存の利益を付与する遺伝子産物を阻害することができる。非限定的な例によって、選択剤は、ベータラクタマーゼ阻害タンパク質(BLIP)であってよく、これは、とりわけ、ベータラクタマーゼ、例えば、アンピシリン及びペニシリンを阻害する。
【0175】
誘導剤
本明細書中に記載される方法は、ポリヌクレオチドのライブラリを用意するステップを含んでよく、ライブラリ内の様々なポリヌクレオチドは、注目するポリペプチドの様々なバージョンをコードしている(又は、注目するポリヌクレオチドの場合、注目するポリヌクレオチドの様々なバージョンの鋳型として機能する)。ポリヌクレオチドは、例えば、調節要素、例えば、プロモータを含んでよく、これは、ポリペプチドの発現を制御することができる。調節要素は、誘導性プロモータであってよく、そして発現は、誘導剤によって誘導することができる。そのような誘導剤及び/又は誘導される発現は、選択の効率を増大又は向上させることができる。
【0176】
誘導剤は、ポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドであってよい。誘導剤はまた、小分子、光、温度、又は細胞内代謝物質であってもよい。
【0177】
一部の実施形態において、誘導剤は、アラビノース、アンヒドロテトラサイクリン、ラクトース、IPTG、プロピオナート、青色光(470nm)、赤色光(650nm)、緑色光(532nm)、又はL-ラムノースである。例えば、誘導剤は、アラビノースであってよい。
【0178】
Cas9分子の様々なバージョンをコードするポリヌクレオチドのライブラリ
一部の実施形態において、本発明の方法及び組成物は、Cas9分子又はCas9ポリペプチドの様々なバージョンをコードするポリヌクレオチドのライブラリ(例えば、Cas9分子又はCas9ポリペプチドの全体又は一部にまたがるCas9突然変異体の包括的且つ不偏のライブラリ)と共に用いられてよい。特定の実施形態において、本発明の方法及び組成物は、特定の特性に基づいて、ライブラリの1つ以上のメンバーを選択するのに用いることができる。典型的な実施形態において、Cas9分子又はCas9ポリペプチドは、gRNA分子と相互作用し、そして、gRNA分子と協働して、核酸内部位に局在する能力を有する。他の活性、例えば、PAM特異性、切断活性、又はヘリカーゼ活性は、Cas9分子及びCas9ポリペプチドにおいて、より広く変動し得る。
【0179】
一部の実施形態において、本発明の方法及び組成物は、(天然に存在するCas9分子、又は既に操作若しくは変更されたCas9分子が挙げられる、他の参照Cas9分子と比較した)酵素特性の変更、例えば、ヌクレアーゼ活性の変更又はヘリカーゼ活性の変更を含むCas9分子又はCas9ポリペプチドの1つ以上のバージョンを選択するのに用いることができる。本明細書中で考察されるように、参照Cas9分子又はCas9ポリペプチドの突然変異バージョンは、ニッカーゼ活性を、又は非切断活性(二本鎖ヌクレアーゼ活性と対立するもの)を有し得る。一実施形態において、本発明の方法及び組成物は、そのサイズを変更する変更、例えば、そのサイズを引き下げるアミノ酸配列の欠失を有するが、例えば、1つ以上の、又はあらゆるCas9活性に及ぼす作用が大きくても大きくなくてもよいCas9分子又はCas9ポリペプチドの1つ以上のバージョンを選択するのに用いることができる。一実施形態において、本発明の方法及び組成物は、異なるPAM配列を認識するCas9分子又はCas9ポリペプチドの1つ以上のバージョンを選択するのに用いることができる(例えば、Cas9分子のバージョンは、参照Cas9分子の内因性の野生型PIドメインによって認識されるもの以外のPAM配列を認識するのに選択することができる)。
【0180】
Cas9分子又はCas9ポリペプチドの様々なバージョンを有するライブラリを、あらゆる方法を用いて、例えば、親の、例えば天然に存在する、Cas9分子又はCas9ポリペプチドの変更により、変更されたCas9分子又はCas9ポリペプチドのライブラリを提供することによって調製することができる。例えば、親のCas9分子、例えば、天然に存在する、又は操作されたCas9分子と比較して1つ以上の突然変異又は差異を導入することができる。そのような突然変異及び差異は:置換(例えば、非保存的置換又は必須アミノ酸の置換);挿入;又は欠失を含む。一実施形態において、本発明のライブラリ内のCas9分子又はCas9ポリペプチドは、1つ以上の突然変異又は差異、例えば、参照Cas9分子、例えば親のCas9分子と比較して、少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、30、40、又は50個の突然変異、且つ200、100、又は80個未満の突然変異を含んでよい。
【0181】
ガイドRNA分子のライブラリ
一部の実施形態において、本開示の方法及び組成物は、ガイドRNA分子及び/又はガイドRNA分子をコードするポリヌクレオチドのライブラリと共に用いられてよい。例えば、(i)本明細書中に記載される異なる標的化ドメイン;(ii)本明細書中に記載される異なる第1の相補性ドメイン及び/若しくは第2の相補性ドメイン;並びに/又は(iii)本明細書中に記載される異なるステムループを有するガイドRNAをそれぞれコードするDNA分子を含むライブラリを提供且つ/又は生成することができる。本明細書中に記載されるように、ライブラリを宿主細胞中に導入することができる。一部の実施形態において、RNAガイド型ヌクレアーゼ、例えば、Cas9分子又はCas9ポリペプチドをコードする核酸もまた、宿主細胞中に導入される。
【0182】
特定の実施形態において、本開示の方法及び組成物は、特定の特性、例えば、核酸内の部位に局在し、且つ/又はCas9分子若しくはCas9ポリペプチドと相互作用し、且つ/又はCas9分子若しくはCas9ポリペプチドを核酸内の部位に局所化する能力に基づいて、ガイドRNAライブラリの1つ以上のメンバーを選択するのに用いることができる。
【0183】
ガイドRNAの様々なバージョンを有するライブラリは、例えば、親の、例えば天然に存在する、ガイドRNAの変更により、変更されたガイドRNAのライブラリを提供する、あらゆる方法を用いて調製することができる。例えば、親のガイドRNA、例えば、天然に存在する、又は操作されたガイドRNAと比較して1つ以上の突然変異又は差異を導入することができる。そのような突然変異及び差異は:置換;挿入;又は欠失を含む。一部の実施形態において、本開示のライブラリ内のガイドRNAは、1つ以上の突然変異又は差異、例えば、参照ガイドRNA、例えば親のガイドRNAと比較して、少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、30、40、又は50個の突然変異、且つ200、100、又は80個未満の突然変異を含んでよい。
【0184】
DNA標的部位
一般に、特定の本発明の方法のためのDNA標的部位は、DNA標的部位の物理的位置(例えば、一部の態様において、DNA標的部位は、ファージミド上に位置決めされてよい一方、他の態様において、DNA標的部位は、宿主細胞ゲノム内に位置決めされてよい)、注目するポリペプチド若しくはポリヌクレオチドの性質、選択プロセスの性質、及び/又は選択プロセスの所望の成果に依存してよい。DNA標的部位は、種々のタイプのヌクレオチド配列内に位置決めされてよい。例えば、一部の実施形態において、DNA標的部位は、転写されない要素内に、ポリペプチドをコードする、又はポリヌクレオチドの鋳型(例えば非コードRNA)として機能する要素内に、ポリペプチドの発現を制御する調節要素内その他に位置決めされてよい。
【0185】
本明細書中に記載されるように、一部の実施形態において、DNA標的部位は、ファージミド上に位置決めされてよい。一部の実施形態において、DNA標的部位は、プラスミド上に位置決めされてよい。選択プロセスが、ファージミド又はプラスミドの切断(又は非切断)に依存する状況において、DNA標的部位は、ファージミド又はプラスミド上のどこに位置決めされてもよい。というのも、選択が、ファージミド又はプラスミド上でのあらゆる位置での切断に由来し得る、ファージミド又はプラスミドの線形化(及び以降の破壊)に依存するからである。選択プロセスが選択剤の発現の抑制(又は活性化)に依存する状況において、DNA標的部位は、選択剤の発現を駆動する調節要素内に位置決めされてよい。一部の実施形態において、調節要素は、誘導性調節要素であってよい。
【0186】
本明細書中に記載されるように、一部の実施形態において、DNA標的部位は、宿主細胞ゲノム内に位置決めされてよい。選択プロセスが宿主細胞の生存に必須の内因性の遺伝子(「必須遺伝子」)の切断に依存する状況において、DNA標的部位は、例えば、必須遺伝子のコーディング又は調節要素内に位置決めされてよい。選択プロセスが必須遺伝子の抑制に依存する状況において、DNA標的部位は、注目するポリペプチドによって結合された場合に、必須遺伝子の抑制に至る、宿主細胞ゲノム内のいかなる位置にあってもよい(例えば、必須遺伝子のプロモータとコーディング領域との間の、必須遺伝子の調節要素内その他にある)。
【0187】
DNA標的部位の特定のヌクレオチド配列(すなわち、ファージミド上に位置決めされるか宿主細胞ゲノム内に位置決めされるかとは独立し、且つ別である)は、通常、注目するポリペプチドの性質、選択プロセスの性質、及び選択プロセスの所望の成果に依存することとなる。一例として、注目するポリペプチドが、第1のヌクレオチド配列を認識する参照ヌクレアーゼ(例えば、メガヌクレアーゼ、TALEN、又はジンクフィンガーヌクレアーゼ)であり、そして本発明の方法が、第1のヌクレオチド配列(例えば、1、2、3塩基その他)と異なる第2のヌクレオチド配列に選択的に結合する参照ヌクレアーゼの1つ以上の修飾バージョンを選択するのに用いられることとなる場合、本発明の方法は、ポジティブ選択ステップにおける第2のヌクレオチド配列に相当するDNA標的部位及びネガティブ選択ステップにおける第1のヌクレオチド配列に相当するDNA標的部位の(すなわち、第2のヌクレオチド配列に結合するが、第1のヌクレオチド配列に結合しない参照ヌクレアーゼのバージョンを選択するための)使用を包含してよい。
【0188】
Cas分子(例えばCas9分子)の場合、DNA標的部位は、部分的に、Cas分子のPAM、及びCas分子をDNA標的部位に局所化するのに用いられるgRNAの標的化ドメインの配列に基づいて決定されることとなる。一例として、注目するポリペプチドが、第1のPAM配列を認識する参照Cas9分子であり、そして本発明の方法が、第1のPAM配列(例えば、1、2、3塩基その他)と異なる第2のPAM配列を選択的に認識する参照Cas9分子の1つ以上の修飾バージョンを選択するのに用いられることとなる場合、本発明の方法は、ポジティブ選択ステップにおける第2のPAM配列を含むDNA標的部位及びネガティブ選択ステップにおける第1のPAM配列を含むDNA標的部位の(すなわち、第2のPAM配列を認識するが、第1のPAM配列を認識しない参照Cas9分子のバージョンを選択するための)使用を包含してよい。双方の場合において、DNA標的部位はまた、DNA標的部位にCas9分子を局所化するのに用いられるgRNAの標的化ドメインの配列と相補的である配列を含むこととなる。
【0189】
一部の実施形態において、本明細書中で提供される方法は、RNAガイド型ヌクレアーゼ、例えば変異化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9による標的部位の切断を導くPAM変異体の能力の評価に用いることができる。
【0190】
一部の実施形態において、ライブラリは、標的部位に隣接してPAM変異体を含むヌクレオチド配列をさらに含む複数の核酸鋳型を含む。一部の実施形態において、PAM配列は、配列NGA、NGAG、NGCG、NNGRRT、NNGRRA、又はNCCRRCを含む。
【0191】
本明細書中で提供される方法の一部が、所定のあらゆる標的部位について、複数のPAM変異体の同時評価を可能にし、そして一部の実施形態においては、変異化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9と組み合わせて可能にする。したがって、そのような方法から得られるデータは、野生型化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9又は変異化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9と組み合わせて、特定の標的部位の切断を媒介するPAM変異体のリストを編集するのに用いることができる。一部の実施形態において、配列決定方法が、定量的配列決定データを生成するのに用いられ、そして特定のPAM変異体によって媒介される特定の標的部位の切断の相対量を求めることができる。
【0192】
抗生物質耐性遺伝子
特定の実施形態において、ライブラリ及び/又はファージミド内のプラスミドは、抗生物質耐性遺伝子を含む。一部の実施形態において、抗生物質耐性遺伝子は、細菌、例えば大腸菌(E.coli)を死滅させ、又はその増殖を阻害する抗生物質に対する耐性を付与する。そのような抗生物質の非限定的な例として、アンピシリン、ブレオマイシン、カルベニシリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、カナマイシン、ペニシリン、ポリミキシンB、スペクチノマイシン、ストレプトマイシン、及びテトラサイクリンが挙げられる。種々の抗生物質耐性遺伝子カセットが知られており、そして、例えばプラスミド内の要素として、当該技術において利用可能であり、且つ/又は市販されている。例えば、ampR(アンピシリン耐性)、bleR(ブレオマイシン耐性)、carR(カルベニシリン耐性)、cmR(クロラムフェニコール耐性)、kanR(カナマイシン耐性)、及び/又はtetR(テトラサイクリン耐性)を有するいくつかの市販のプラスミド、又は遺伝子要素がある。抗生物質耐性遺伝子の追加の例として、ベータラクタマーゼがある。
【0193】
一部の実施形態において、ファージミドは、第1の抗生物質耐性遺伝子を含み、そしてライブラリ内のプラスミドは、第2の抗生物質耐性遺伝子を含む。一部の実施形態において、第1の抗生物質耐性遺伝子は、第2の抗生物質耐性遺伝子と異なる。例えば、一部の実施形態において、第1の抗生物質耐性遺伝子は、cmR(クロラムフェニコール耐性)遺伝子であり、そして第2の抗生物質耐性遺伝子は、ampR(アンピシリン耐性)遺伝子である。
【0194】
調節要素
特定の実施形態において、遺伝子要素(例えば、選択剤、抗生物質耐性遺伝子、ポリペプチド、ポリヌクレオチドをコードするもの)が、調節要素に作動可能に連結されて、1つ以上の他の要素、例えば、選択剤、抗生物質耐性遺伝子、ポリペプチド、ポリヌクレオチドの発現を可能にする。
【0195】
一部の実施形態において、ファージミドは、ファージミド上に、1つ以上の遺伝子要素、例えば選択剤の発現を駆動する調節要素を含む。
【0196】
一部の実施形態において、ライブラリ内のポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド上に、1つ以上の遺伝子要素、例えば、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチド、及び、存在するならば、抗生物質耐性遺伝子等の選択剤をコードする遺伝子要素の発現を駆動する調節要素を含む。
【0197】
多種多様な遺伝子調節要素が存在する。用いられる調節要素のタイプは、例えば、宿主細胞、発現されることが意図される遺伝子のタイプ、他の因子、例えば、用いられる転写因子に依存してよい。
【0198】
遺伝子調節要素として、以下に限定されないが、エンハンサ、プロモータ、オペレータ、ターミネータ、及びそれらの組合せが挙げられる。非限定的な例として、調節要素は、プロモータ及びオペレータの双方を含んでよい。
【0199】
一部の実施形態において、調節要素は、全ての状況において細胞内でアクティブである点で、構成的である。例えば、構成的プロモータ等の構成的要素を、追加の調節を必要とせずとも、遺伝子産物を発現させるのに用いることができる。
【0200】
一部の実施形態において、調節要素は誘導性である、すなわち、特定の刺激に応じてのみアクティブである。
【0201】
例えば、lacオペレータは、IPTG(イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド)の存在下でアクティブにされ得るという点で、誘導性である。別の例は、アラビノースの存在下でアクティブにされるアラビノースプロモータである。
【0202】
一部の実施形態において、調節要素は、配列内で向かい側に配置される遺伝子の発現を駆動することができるという点で、双方向性である。ゆえに、一部の実施形態において、少なくとも2つの遺伝子要素の発現を、同じ遺伝子要素によって駆動することができる。
【0203】
調節要素として機能する遺伝子セグメントは、当該技術において容易に利用可能であり、そして多くは、ベンダーから市販されている。例えば、注目する遺伝子セグメントを発現するための1つ以上の調節要素を既に含有する発現プラスミド又は他のベクターが、容易に入手可能である。
【0204】
ポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドの選択されたバージョンの分析
1ラウンド以上の選択の後、ポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドの選択されたバージョンを、選択を生き残った宿主細胞から回収して分析することができる。複数サイクルの進化(突然変異誘発に続く、1ラウンド以上の選択)を用いる概略において、当該分析を、サイクル毎の終わりに行ってもよいし、一部のサイクル内でのみ行ってもよい。
【0205】
分析のタイプの例として、以下に限定されないが、配列決定、結合、及び/又は切断アッセイ(インビトロアッセイを含む)、宿主細胞型以外の細胞型の選択されたバージョンの活性の確認が挙げられる。
【0206】
非限定的な例として、選択された変異体の全て又はほとんどを配列決定するのに、次生成(ハイスループットシーケンシングとしても知られている)が実行されてよい。
【0207】
いくつかの実施態様では、各ヌクレオチドが、例えば少なくとも7、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20よりも大きい、又はさらに大きい深度で、配列決定プロセス中に数回読み取りされることを意味する、ディープシーケンシングが実施される。ここでは、深度(D)は、
D=N×L/G(式1)
(式中、Nは、読み取りの数であり、Lは、実際のゲノムの長さであり、Gは、配列決定されるポリヌクレオチドの長さである)として算出される。
【0208】
いくつかの実施態様では、選択されたバージョンの少なくともいくつかを分析するために、サンガー配列決定が使用される。
【0209】
配列の分析は、例えば、選択されたバージョンを示す、エンリッチされたアミノ酸残基又はヌクレオチドをチェックするのに用いられてよい。
【0210】
代わりに、又は加えて、選択されたバージョンのサンプルが、例えば、個々の宿主細胞コロニー(例えば細菌コロニー)から配列決定されてよい。
【0211】
結合及び/又は切断アッセイが、当該技術において知られている。これらのアッセイの一部が、例えば、細胞全体ではなく細胞の構成要素又は単離された分子(例えば、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、又はリボ核タンパク質)を用いて、インビトロで実行される。
【0212】
一部の実施形態において、DNA基質の結合及び/又は切断についてのインビトロアッセイが実行される。一部の実施形態において、アッセイは、1ラウンド以上の選択を生き残った宿主細胞から抽出された溶解液の活性を試験する。一部の実施形態において、アッセイは、1ラウンド以上の選択を生き残った宿主細胞から抽出されたポリペプチド、ポリヌクレオチド、及び/若しくはリボ核タンパク質、又はそれらの複合体の活性を試験する。
【0213】
一部の実施形態において、分析は、ライブラリ内のポリヌクレオチド(例えば、選択されたバージョンによってコードされるポリペプチド、又は鋳型が選択されたバージョンであるポリヌクレオチド)の選択されたバージョンの産物の1つ以上の機能を試験するための1つ以上のアッセイを実行することを含む。
【0214】
用途
一部の実施形態において、本発明の選択方法は、プラスミドのライブラリを生成する突然変異誘発方法と一緒に用いられる。あらゆる突然変異誘発方法を、本発明の選択方法と一緒に用いることができる。
【0215】
一部の実施形態において、1ラウンドの突然変異誘発に続く1ラウンド以上の選択が用いられる。このサイクルは、例えば、指向性進化戦略の一部として、1回実行されてもよいし、1回以上繰り返されてもよく、1サイクル内で選択される、注目するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドのバージョンは、次のサイクルの突然変異誘発ラウンドにおいて突然変異を起こす。例えば、得られた注目するポリペプチド及び/若しくはポリヌクレオチドの選択されたバージョンが、ある基準を満たすまで、且つ/又はある基準を満たす所望の数の選択されたポリペプチド及び/若しくはポリヌクレオチドが得られるまで、サイクルは何回も繰り返されてよい。
【0216】
一部の実施形態において、1サイクル内で、1ラウンドの突然変異誘発の後に、1ラウンドのポジティブ選択(例えば、DNA標的部位を切断し、且つ/又はこれに結合する、注目するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドのバージョンについて)が続く。
【0217】
一部の実施形態において、1サイクル内で、1ラウンドの突然変異誘発の後に、1ラウンドのポジティブ選択が続き、この後に、1ラウンドのネガティブ選択(例えば、DNA標的部位を切断せず、且つ/又はこれに結合しない、注目するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドのバージョンについて)が続く。
【0218】
一部の実施形態において、1サイクル内で、1ラウンドの突然変異誘発の後に、1ラウンドのネガティブ選択が続き、この後に、1ラウンドのポジティブ選択が続く。
【0219】
複数のサイクルが実行される実施形態において、サイクルは、突然変異誘発及び選択のラウンドに関して、概略が同じである必要はない。加えて、他の詳細は、サイクル間で同じである必要はなく、例えば、突然変異誘発の方法は、1サイクルから次のサイクルまで同じである必要はなく、そして選択ラウンドの正確な条件又は概略も、同じである必要がない。
【0220】
したがって、本開示の選択方法は、所望の結合及び/又は切断部位の特異性を有する、注目するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドを選択するのに用いることができる。
【0221】
例えば、選択方法は、ある対立遺伝子に結合するが別の対立遺伝子に結合しない、注目するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドを選択するのに用いることができる。例えば、疾患対立遺伝子と野生型対立遺伝子とを識別する能力は、例えば、遺伝子編集、遺伝子抑制、及び/又は遺伝子活性化の技術に基づく治療法を開発するのに用いることができる。一部の実施形態において、例えば、ある対立遺伝子(例えば疾患対立遺伝子)を認識する、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドを選択するポジティブ選択が実行されてから、別の対立遺伝子(例えば野生型対立遺伝子)を認識する、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドを選択するネガティブ選択が実行される。一部の実施形態において、ある対立遺伝子(例えば野生型対立遺伝子)を認識する、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドを選択するネガティブ選択が実行されてから、他の対立遺伝子(例えば疾患対立遺伝子)を認識する、注目するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドを選択するポジティブ選択が実行される。
【0222】
実施例に示されるように、本発明の選択方法は、1つの塩基変化のみによって異なる対立遺伝子同士を識別する能力を有するポリペプチドを進化させる進化スキームに用いられた。
【0223】
別の例として、例えば、注目する、天然に存在するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドと比較して、結合選択が変更された注目するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドを選択する選択方法が用いられてよい。例えば、特定のDNA結合タンパク質(酵素が挙げられる)は、結合特異性が非常に限られているので、その用途が限定される。結合特異性が(例えば、注目する、天然に存在するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドと比較して)変更された部位特異的DNA結合ドメイン又はタンパク質の選択及び/又は進化は、その用途の範囲を増大させ得る。
【0224】
一部の実施形態において、あるDNA標的部位(例えば、所望される新しい標的部位)を認識する、注目するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドを選択するポジティブ選択が実行されてから、別のDNA標的部位(例えば、天然の標的部位)を認識する、注目するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドを選択するネガティブ選択が実行される。
【0225】
一部の実施形態において、あるDNA標的部位(例えば、所望の新しい標的部位)を認識する、注目するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドを選択するポジティブ選択が実行されて、ネガティブ選択は実行されない。
【0226】
一部の実施形態において、あるDNA標的部位(例えば、天然の標的部位)を認識する、注目するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドを選択するネガティブ選択が実行されてから、別のDNA標的部位(例えば、所望の新しい標的部位)を認識する、注目するポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドを選択するポジティブ選択が実行される。
【0227】
別の例として、オフターゲット活性が引き下げられた、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドを選択する選択方法が用いられてよい。特定のDNA結合タンパク質が、特定の認識配列に特異的であると分類されるが、いくつかは、1つ以上のオフターゲット部位にある程度結合するという点で、雑然とした状態(promiscuity)を示し得る。
【0228】
一部の実施形態において、例えば、1つ以上のオフターゲット部位を認識しない、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドを選択するネガティブ選択が実行される。複数のオフターゲット部位を選択することが所望される場合、一部の実施形態において、様々なファージミドを含有するバクテリオファージのプールが用いられ、様々なファージミドはそれぞれ、オフターゲット部位の1つに相当するDNA標的部位を含有する。宿主細胞が、インキュベートステップの間、種々のバクテリオファージによって再三感染され得るので、単一ラウンドのネガティブ選択における複数のオフターゲットへの結合又はそこでの切断を選択することが可能である。
【0229】
一部の実施形態において、例えば、特定の認識配列を認識する、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドを選択するポジティブ選択が実行されてから、1つ以上のオフターゲット部位を認識する、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドを選択するネガティブ選択が実行される。一部の実施形態において、1つ以上のオフターゲット部位を認識する、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドを選択するネガティブ選択が実行されてから、特定の認識配列を認識する、注目するポリペプチド又はポリヌクレオチドを選択するポジティブ選択が実行される。
【0230】
複数ラウンドの選択(例えば、ポジティブ選択ラウンド及びその後のネガティブ選択ラウンド)が1サイクル内で用いられる一部の実施形態において、方法は、選択のラウンド間に宿主細胞を(例えば遠心分離によって)ペレット化するステップを含む。そのようなペレット化ステップは、例えば、以前の選択ラウンド中に用いられた剤(例えば、抗生物質、遺伝子発現のインデューサ、例えばIPTG)を除去し得る。
【0231】
本明細書中に記載される方法を用いて同定される変異ヌクレアーゼは、細胞の集団を遺伝的に操作するのに用いることができる。細胞の集団を変更又は操作するために、細胞を、本明細書中に記載される変異ヌクレアーゼ、又は変異ヌクレアーゼを発現することができるベクター、及びガイド核酸と接触させてよい。当該技術において知られているように、ガイド核酸は、細胞のゲノムの標的核酸上の標的配列と相補的な領域を有することとなる。一部の実施形態において、変異ヌクレアーゼ及びガイド核酸は、リボ核タンパク質(RNP)として投与される。一部の実施形態において、RNPは、1×10-4μM~1μM RNPの用量にて投与される。一部の実施形態において、変更の1%未満、5%未満、10%未満、15%未満、又は20%未満が、細胞の集団内のオフターゲット配列の変更を構成する。一部の実施形態において、変更の70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、98%超、99%超が、細胞の集団内のオンターゲット配列の変更を構成する。
【0232】
本明細書中に記載される方法を用いて同定される変異ヌクレアーゼは、二本鎖DNA(dsDNA)分子の集団を編集するのに用いることができる。dsDNA分子の集団を編集するために、当該分子を、本明細書中に記載される変異ヌクレアーゼ及びガイド核酸と接触させてよい。当該技術において知られているように、ガイド核酸は、dsDNAの標的配列と相補的な領域を有することとなる。一部の実施形態において、変異ヌクレアーゼ及びガイド核酸は、リボ核タンパク質(RNP)として投与される。一部の実施形態において、RNPは、1×10-4μM~1μM RNPの用量にて投与される。一部の実施形態において、編集の1%未満、5%未満、10%未満、15%未満、又は20%未満が、dsDNA分子の集団内のオフターゲット配列の編集を構成する。一部の実施形態において、編集の70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、98%超、99%超が、dsDNA分子の集団内のオンターゲット配列の編集を構成する。
【0233】
ゲノム編集系の実施:送達、製剤化、及び投与経路
先で考察されるように、本開示のゲノム編集系は、適切なあらゆる様式で実行することができ、このことは、以下に限定されないが、RNAガイド型ヌクレアーゼ(例えば、本明細書中に記載されるRNAガイド型ヌクレアーゼ変異体)、gRNA、及び任意選択のドナー鋳型核酸が挙げられる、そのような系の構成要素が、ゲノム編集系の形質導入、発現、若しくは導入をもたらし、且つ/又は細胞、組織、若しくは対象内で所望の回復成果を(例えば、イクスビボ且つ/又はインビボで)引き起こす適切なあらゆる形態又は形態の組合せで送達、製剤化、又は投与され得ることを意味する。表2及び表3は、ゲノム編集系の実施のいくつかの非限定的な例を示す。しかしながら、当業者であれば、これらのリストが包括的でないこと、そして他の実施が考えられ得ることを理解するであろう。一部の実施形態において、本明細書中に記載される1つ以上の構成要素は、インビボ送達/投与される。一部の実施形態において、本明細書中に記載される1つ以上の構成要素は、エクスビボ送達/投与される。例えば、一部の実施形態において、本明細書中に記載されるRNAガイド型ヌクレアーゼ変異体をコードするRNA(例えばmRNA)は、細胞にインビボ又はエクスビボ送達/投与される。一部の実施形態において、本明細書中に記載されるRNAガイド型ヌクレアーゼ変異体は、gRNAとのリボ核タンパク質(RNP)複合体として、又はgRNAなしで、細胞にインビボ又はエクスビボ送達/投与される。特に表2に関して、表は、単一のgRNA及び任意選択のドナー鋳型を含むゲノム編集系のいくつかの例示的な実施を一覧にする。しかしながら、本開示に従うゲノム編集系は、複数のgRNA、複数のRNAガイド型ヌクレアーゼ(例えば、本明細書中に記載される複数のRNAガイド型ヌクレアーゼ変異体)、及び他の構成要素、例えばタンパク質を組み込んでよく、種々の実施が、表2に示される原理に基づいて、当業者に明らかであろう。表2において、「[N/A]」は、ゲノム編集系が、示される構成要素を含まないことを示す。
【0234】
【0235】
【0236】
表3は、本明細書中に記載されるように、ゲノム編集系の構成要素についての種々の送達方法を要約する。ここでも、リストは、限定ではなく例示であることが意図される。
【0237】
【0238】
【0239】
ゲノム編集系の核酸ベースの送達
本開示に従うゲノム編集系の種々の要素をコードする核酸は、当該技術において知られている方法によって、又は本明細書中に記載されるように、対象に投与することができ、又は細胞中に送達することができる。例えば、RNAガイド型ヌクレアーゼ(例えば、本明細書中に記載されるRNAガイド型ヌクレアーゼ変異体)をコードし、且つ/又はgRNAをコードするDNA、並びにドナー鋳型核酸は、例えば、ベクター(例えば、ウイルスベクター又は非ウイルスベクター)、非ベクターベースの方法(例えば、裸のDNA又はDNA複合体を用いる)、又はそれらの組合せによって送達することができる。
【0240】
ゲノム編集系又はその構成要素をコードする核酸は、例えば、形質移入若しくはエレクトロポレーションによって、裸のDNA又はRNA(例えばmRNA)として細胞に直接送達することができ、又は、標的細胞(例えば、赤血球、HSC)による吸収を促進する分子(例えば、N-アセチルガラクトサミン)にコンジュゲートされてもよい。核酸ベクター、例えば表3に要約されるベクターが用いられてもよい。
【0241】
核酸ベクターは、ゲノム編集系構成要素、例えば、RNAガイド型ヌクレアーゼ(例えば、本明細書中に記載されるRNAガイド型ヌクレアーゼ変異体)、gRNA、及び/又はドナー鋳型をコードする1つ以上の配列を含んでよい。ベクターはまた、タンパク質をコードする配列を伴う(例えば、中に挿入された、に融合された)シグナルペプチド(例えば、核局在化、核小体局在化、又はミトコンドリア局在化用)をコードする配列を含んでもよい。一例として、核酸ベクターは、1つ以上の核局在化配列(例えば、SV40由来)を含むCas9コーディング配列を含んでよい。
【0242】
核酸ベクターはまた、適切なあらゆる数の調節/制御要素、例えば、プロモータ、エンハンサ、イントロン、ポリアデニル化シグナル、Kozakコンセンサス配列、又は内部リボソーム進入部位(IRES))を含んでもよい。当該要素は、当該技術において周知であり、Cotta-Ramusinoに記載されている。
【0243】
本開示に従う核酸ベクターは、組換えウイルスベクターを含む。例示的なウイルスベクターが表3に示されており、追加の適切なウイルスベクター、並びにその使用及び生成が、Cotta-Ramusinoに記載されている。当該技術において知られている他のウイルスベクターが用いられてもよい。また、ウイルス粒子は、ゲノム編集系構成要素を核酸及び/又はペプチド形態で送達するのに用いられてもよい。例えば、「空の」ウイルス粒子は、適切なあらゆるカーゴを含有するようにアセンブルすることができる。ウイルスベクター及びウイルス粒子はまた、標的化リガンドを組み込んで標的組織特異性を変更するように操作することもできる。
【0244】
ウイルスベクターに加えて、非ウイルスベクターを、本開示に従うゲノム編集系をコードする核酸を送達するのに用いることができる。非ウイルス核酸ベクターの1つの重要なカテゴリーは、ナノ粒子であり、これは、有機であっても無機であってもよい。ナノ粒子は、当該技術において周知であり、そしてCotta-Ramusinoにおいて要約されている。適切なあらゆるナノ粒子設計を、ゲノム編集系構成要素、又はそのような構成要素をコードする核酸を送達するのに用いることができる。例えば、有機(例えば、脂質及び/又はポリマー)ナノ粒子は、本開示の特定の実施形態において、送達ビヒクルとして用いるのに適し得る。ナノ粒子製剤及び/又は遺伝子移入に用いられる例示的な脂質が、表4に示されており、そして表5は、遺伝子移入及び/又はナノ粒子製剤に用いられる例示的なポリマーを一覧にする。
【0245】
【0246】
【0247】
【0248】
非ウイルスベクターは、場合によっては、吸収を向上させ、且つ/又は特定の細胞型を選択的に標的とする標的化修飾を含む。当該標的化修飾として、例えば、細胞特異的抗原、モノクローナル抗体、一本鎖抗体、アプタマー、ポリマー、糖(例えばN-アセチルガラクトサミン(GalNAc))、及び細胞膜透過ペプチドが挙げられ得る。そのようなベクターはまた、場合によっては、融合性且つエンドソーム不安定化ペプチド/ポリマーを用い、酸でトリガされる高次構造的変化を(例えば、カーゴのエンドソームエスケープを促進するために)経験し、且つ/又は、例えば、細胞のコンパートメント内での放出のために、刺激切断可能ポリマーを組み込む。例えば、細胞還元環境(reducing cellular environment)内で切断されるジスルフィドベースのカチオン性ポリマーが用いられてよい。
【0249】
特定の実施形態において、ゲノム編集系の構成要素、例えば、本明細書中に記載されるRNAガイド型ヌクレアーゼ構成要素及び/又はgRNA構成要素以外の1つ以上の核酸分子(例えばDNA分子)が送達される。一実施形態において、核酸分子は、ゲノム編集系の1つ以上の構成要素が送達されるのと同時に送達される。一実施形態において、核酸分子は、ゲノム編集系の1つ以上の構成要素が送達される前又は後(例えば、約30分、1時間、2時間、3時間、6時間、9時間、12時間、1日、2日、3日、1週、2週、又は4週未満)に送達される。一実施形態において、核酸分子は、ゲノム編集系の1つ以上の構成要素、例えば、RNAガイド型ヌクレアーゼ構成要素及び/又はgRNA構成要素が送達されるのとは異なる手段によって送達される。核酸分子は、本明細書中に記載される送達方法のいずれかによって送達されてよい。例えば、核酸分子は、ウイルスベクター、例えば組込み欠損型(integration-deficient)レンチウイルスによって送達されてよく、そしてRNAガイド型ヌクレアーゼ分子成分及び/又はgRNA構成要素は、例えば、核酸(例えばDNA)によって生じる毒性を引き下げることができるように、エレクトロポレーションによって送達されてよい。一実施形態において、核酸分子は、治療タンパク質、例えば本明細書中に記載されるタンパク質をコードする。一実施形態において、核酸分子は、RNA分子、例えば本明細書中に記載されるRNA分子をコードする。
【0250】
ゲノム編集系構成要素をコードするRNP及び/又はRNAの送達
RNP(gRNA及びRNAガイド型ヌクレアーゼ(例えば、本明細書中に記載されるRNAガイド型ヌクレアーゼ変異体)の複合体)、並びに/又はRNAガイド型ヌクレアーゼ(例えば、本明細書中に記載されるRNAガイド型ヌクレアーゼ変異体)及び/若しくはgRNAをコードするRNA(例えばmRNA)を、一部がCotta-Ramusinoに記載されている、当該技術において知られている方法によって、細胞中に送達することができ、又は対象に投与することができる。インビトロで、RNAガイド型ヌクレアーゼ(例えば、本明細書中に記載されるRNAガイド型ヌクレアーゼ変異体)及び/又はgRNAをコードするRNA(例えばmRNA)を、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、一過性の細胞コンプレッション又はスクイージング(例えば、Lee 2012参照)によって、送達することができる。また、脂質媒介形質移入、ペプチド媒介送達、GalNAc-又は他のコンジュゲート媒介送達、及びそれらの組合せが、インビトロ、そしてインビボでの送達に用いられてもよい。
【0251】
インビトロでの、エレクトロポレーションを介した送達は、カートリッジ、チャンバ、又はキュベット内で、細胞を、RNAガイド型ヌクレアーゼ及び/又はgRNAをコードするRNA(例えばmRNA)と、ドナー鋳型核酸分子と共に、又はなしで混合することと、定義された時間及び振幅の1つ以上の電気インパルスを加えることとを含む。エレクトロポレーションのための系及びプロトコルが、当該技術において知られており、そして適切なあらゆるエレクトロポレーションツール及び/又はプロトコルが、本開示の種々の実施形態と関連して用いられてよい。
【0252】
投与経路
ゲノム編集系、又はそのような系を用いて変更若しくは操作された細胞は、局所的か全身的かに拘わらず、適切なあらゆるモード又は経路によって対象に投与することができる。全身投与モードとして、経口経路及び非経口経路が挙げられる。非経口経路として、一例として、静脈内、骨髄内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下、鼻腔内、腹腔内経路が挙げられる。全身投与される構成要素は、例えば、HSC、造血幹/前駆体細胞、又は赤血球前駆体若しくは前駆体細胞を標的とするように変更又は製剤化されてもよい。
【0253】
局所投与モードとして、一例として、小柱骨中への骨髄内注射又は骨髄腔中への大腿部内注射、及び門脈中への注入が挙げられる。一実施形態において、かなり少量の構成要素(全身アプローチと比較して)が、(例えば静脈内に)全身投与される場合と比較して、(例えば、骨髄中に直接)局所投与される場合に、効果を及ぼし得る。局所投与モードは、治療的に有効な量の構成要素が全身投与される場合に起こり得る、潜在的に毒性の副作用の出現率を引き下げる、又は除外することができる。
【0254】
投与は、内部リザーバー又は外部リザーバー(例えば、静脈内バッグ又は移植可能なポンプ)からの、周期的なボーラスとして(例えば静脈内に)、又は連続注入として実現されてよい。構成要素は、例えば持続放出薬物送達装置からの連続的放出によって、局所的に投与されてよい。
【0255】
また、構成要素は、長期間にわたる放出を可能にするように製剤化されてもよい。放出系として、生物分解性物質、又は組み込まれた構成要素を拡散によって放出する物質のマトリックスが挙げられ得る。構成要素は、放出系内で、均質に、又は異質に分配することができる。種々の放出系が有用であり得る。しかしながら、適切な系の選択は、特定の用途によって必要とされる放出の速度に依存することとなる。非分解性の放出系及び分解性の放出系の双方を用いることができる。適切な放出系として、ポリマー及びポリマーマトリックス、非ポリマーマトリックス、又は無機及び有機の賦形剤及び希釈剤、例えば、以下に限定されないが、炭酸カルシウム及び糖(例えばトレハロース)が挙げられる。放出系は、天然であっても合成であってもよい。しかしながら、合成放出系が好ましい。なぜなら、概して、より信頼性が高く、より再現性があり、そしてより明確な放出プロファイルをもたらすからである。放出系物質は、分子量が異なる構成要素が、物質の拡散によって、又は分解を通して放出されるように選択することができる。
【0256】
代表的な合成、生物分解性ポリマーとして、例えば:ポリアミド、例えばポリ(アミノ酸)及びポリ(ペプチド);ポリエステル、例えばポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、及びポリ(カプロラクトン);ポリ(無水物);ポリオルトエステル;ポリカーボナート;並びにそれらの化学誘導体(置換体、化学基、例えば、アルキル、アルキレンの付加、ヒドロキシル化、酸化、及び他の、当業者によってルーチン的になされる修飾)、コポリマー、並びにそれらの混合物が挙げられる。代表的な合成、非分解性ポリマーとして、例えば:ポリエーテル、例えばポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)、及びポリ(テトラメチレンオキシド);ビニルポリマー-ポリアクリラート及びポリメタクリラート、例えば、メチル、エチル、他のアルキル、ヒドロキシエチルメタクリラート、アクリル酸及びメタクリル酸、並びにその他、例えば、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、及びポリ(酢酸ビニル);ポリ(ウレタン);セルロース及びその誘導体、例えば、アルキル、ヒドロキシアルキル、エーテル、エステル、ニトロセルロース、及び種々の酢酸セルロース;ポリシロキサン;並びにそれらのあらゆる化学誘導体(置換体、化学基、例えば、アルキル、アルキレンの付加、ヒドロキシル化、酸化、及び他の、当業者によってルーチン的になされる修飾)、コポリマー、並びにそれらの混合物が挙げられる。
【0257】
ポリ(ラクチド-co-グリコリド)マイクロスフェアを用いることもできる。典型的に、マイクロスフェアは、乳酸及びグリコール酸のポリマーで構成され、これらは中空の球を形成するように構成されている。当該球は、直径がおおよそ15~30ミクロンであり得、そして本明細書中に記載される構成要素をロードすることができる。
【0258】
構成要素の多モード送達又は差動(differential)送達
当業者であれば、ゲノム編集系の様々な構成要素が一緒又は別個に、そして同時又は非同時に送達されてよいと理解するであろう。ゲノム編集系構成要素の別個且つ/又は非同期の送達が、特に、ゲノム編集系の機能に対する時間的制御又は空間的制御を実現するのに、そしてその活性によって生じる特定の作用を制限するのに、所望されてよい。
【0259】
本明細書中で用いられる異なるモード又は差動モードは、対象の構成要素分子、例えば、RNAガイド型ヌクレアーゼ分子、gRNA、鋳型核酸、又はペイロードに、様々な薬力学的特性又は薬物動態学的特性を付与する送達モードを指す。例えば、送達モードは、例えば、選択されたコンパートメント、組織、又は臓器において、異なる組織分布、異なる半減期、又は異なる時間的分布をもたらし得る。
【0260】
送達、例えば、細胞内に、又は細胞の後代に存続する核酸ベクターによる、例えば、細胞核酸中への自律複製又は挿入による送達の一部のモードは、構成要素の発現及び存在がより持続する。例として、ウイルス、例えば、AAV又はレンチウイルスの送達が挙げられる。
【0261】
一例として、ゲノム編集系の構成要素、例えば、RNAガイド型ヌクレアーゼ及びgRNAは、体内、又は特定のコンパートメント、組織、若しくは臓器内での送達された構成要素の、結果として生じる半減期又は持続性に関して異なるモードによって送達されてよい。一実施形態において、gRNAは、そのようなモードによって送達されてよい。RNAガイド型ヌクレアーゼ分子構成要素は、体、又は特定のコンパートメント、組織、若しくは臓器での持続性がより小さい、又はそれらへの曝露がより少ないモードによって送達されてよい。
【0262】
より一般的に、一実施形態において、第1の送達モードは、第1の構成要素を送達するのに用いられ、そして第2の送達モードは、第2の構成要素を送達するのに用いられる。第1の送達モードは、第1の薬力学的特性又は薬物動態学的特性を付与する。第1の薬力学的特性は、例えば、体、コンパートメント、組織、又は臓器内での、構成要素の、又は構成要素をコードする核酸の分布、持続性、又は曝露であってよい。第2の送達モードは、第2の薬力学的特性又は薬物動態学的特性を付与する。第2の薬力学的特性は、例えば、体、コンパートメント、組織、又は臓器内での、構成要素の、又は構成要素をコードする核酸の分布、持続性、又は曝露であってよい。
【0263】
特定の実施形態において、第1の薬力学的特性又は薬物動態学的特性、例えば、分布、持続性、又は曝露は、第2の薬力学的特性又は薬物動態学的特性よりも限られている。
【0264】
特定の実施形態において、第1の送達モードは、薬力学的特性又は薬物動態学的特性、例えば、分布、持続性、又は曝露を最適化する、例えば最小にするのに選択される。
【0265】
特定の実施形態において、第2の送達モードは、薬力学的特性又は薬物動態学的特性、例えば、分布、持続性、又は曝露を最適化する、例えば最大にするのに選択される。
【0266】
特定の実施形態において、第1の送達モードは、比較的持続性の要素、例えば核酸、例えば、プラスミド又はウイルスベクター、例えば、AAV又はレンチウイルスの使用を含む。そのようなベクターは比較的持続性であるので、当該ベクターから転写された産物は、比較的持続性であろう。
【0267】
特定の実施形態において、第2の送達モードは、比較的一過性の要素、例えば、RNA又はタンパク質を含む。
【0268】
特定の実施形態において、第1の構成要素は、gRNAを含み、そして送達モードは、比較的持続性である。例えば、gRNAは、プラスミド又はウイルスベクター、例えば、AAV又はレンチウイルスから転写される。これらの遺伝子の転写は、ほとんど生理的な結果でなかろう。なぜなら、当該遺伝子は、タンパク質産物をコードしておらず、そしてgRNAは、孤立して機能することができないからである。第2の構成要素、RNAガイド型ヌクレアーゼ分子は、例えば、タンパク質をコードするmRNAとして、又はタンパク質として、一過性の様式で送達される。これにより、完全なRNAガイド型ヌクレアーゼ分子/gRNA複合体が、短い期間のみ存在し、且つアクティブであることが確実になる。
【0269】
さらに、構成要素は、様々な分子形態で、又は安全性及び組織特異性を増強するように互いを補完する異なる送達ベクターにより、送達することができる。
【0270】
差動送達モードの使用は、性能、安全性、及び/又は有効性を増強することができ、例えば、最終的なオフターゲット修飾の尤度が低下し得る。あまり持続性でないモードによる免疫原性構成要素、例えばCas9分子の送達は、免疫原性を引き下げ得る。というのも、細菌由来Cas酵素のペプチドが、MHC分子によって細胞の表面上に提示されるからである。二部送達系が、これらの欠点を軽減することができる。
【0271】
差動送達モードは、異なるが重複する標的領域に構成要素を送達するのに用いることができる。形成アクティブ複合体は、標的領域の重複部分の外側で最小にされる。ゆえに、一実施形態において、第1の構成要素、例えばgRNAは、第1の送達モードによって送達されて、第1の空間の、例えば、組織、分布が生じる。第2の構成要素、例えば、RNAガイド型ヌクレアーゼ分子は、第2の送達モードによって送達されて、第2の空間の、例えば、組織、分布が生じる。一実施形態において、第1のモードは、リポソーム、ナノ粒子、例えばポリマーナノ粒子、及び核酸、例えばウイルスベクターから選択される第1の要素を含む。第2のモードは、当該群から選択される第2の要素を含む。一実施形態において、第1の送達モードは、第1の標的化要素、例えば、細胞特異的受容体又は抗体を含み、そして第2の送達モードは、当該要素を含まない。特定の実施形態において、第2の送達モードは、第2の標的化要素、例えば、第2の細胞特異的受容体又は第2の抗体を含む。
【0272】
RNAガイド型ヌクレアーゼ分子が、ウイルス送達ベクター、リポソーム、又はポリマーナノ粒子に入れられて送達される場合、複数の組織への送達、及び複数の組織内での治療活性への潜在性が、単一組織のみを標的とすることが所望され得る場合に、存在する。二部送達系は、この難問を解決し、且つ組織特異性を増強することができる。gRNA及びRNAガイド型ヌクレアーゼ分子が、互いに異なるが、重複する組織向性(tissue tropism)のある分離された送達ビヒクル内にパッケージングされているならば、完全に機能的な複合体が、双方のベクターによって標的とされる組織内でのみ形成される。
【0273】
本明細書に言及した全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献の全体を、参照によって組み込む。さらに、材料、方法、及び実施例は、例示に過ぎず、限定的であることを意図しない。そうではないと定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、この発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載したものと類似の又は等価な方法及び材料を、本発明の実施又は実験において使用することができるが、好適な方法及び材料を、本明細書に記載する。
【0274】
この開示を、次の実施例によって、さらに例示する。これらの実施例は、例示目的に限って提供される。これらは、決してこの開示の範囲又は内容を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0275】
実施例1:錐体杆体ジストロフィ6(CORD6)を付与する単一の塩基対突然変異への対立遺伝子特異的Cas9の進化
本実施例は、本発明の選択方法を進化戦略に用いて、野生型の非疾患対立遺伝子と比較して、点突然変異(単一の塩基変化)によってのみ異なる疾患対立遺伝子について特異性がある部位特異的ヌクレアーゼを進化させることができることを実証する。
【0276】
Cas9又は他の標的型ヌクレアーゼを、ヘテロ接合配列の対立遺伝子特異的切断に用いると、とりわけ対立遺伝子が単一の塩基によって異なる場合、雑然とした活性によって、この使用は妨害される。発明者らは、1つの対立遺伝子のみを選択的に切断することができる、ここでは、CORD6疾患表現型を付与する、網膜グアニル酸シクラーゼ(GUCY2D)タンパク質内にR838S突然変異を有する対立遺伝子を選択的に切断するCas9突然変異体を操作しようとした。発明者らは、プラスミドpEvol_CORD6を構築した。これは、Cas9タンパク質、及びCORD6配列TAACCTGGAGGATCTGATCC(配列番号1)を標的とするgRNAをコードする。pEvol_CORD6はまた、構成的に、ベータラクタマーゼを発現する。これは、アンピシリンに対する耐性を付与する。2つのファージミド(ファージ起源f1要素を含有するプラスミド)、pSelect_CORD6及びpSelect_GUCY2DWTも構築した。これらはそれぞれ、潜在的標的部位
【化1】
及び
【化2】
を含有した。太字の塩基は、R838S突然変異の部位を示す。野生型
【化3】
の第6の位置に標的とされるように、突然変異の部位を選択した。この実施例では、発明者らは、第6の位置において
【化4】
を有する修飾PAM(すなわち
【化5】
)に隣接して切断するCas9突然変異体を選択(「ポジティブ選択」)した一方、第6の位置において
【化6】
を有する修飾PAM(すなわち
【化7】
)に隣接して切断するCas9突然変異体も選択(「ネガティブ選択」)した。
【0277】
pSelect_CORD6及びpSelect_GUCY2DWTはまた、各々、構成的に発現されるクロラムフェニコール耐性遺伝子及びccdB(細菌毒素)を、lacプロモータの制御下で含有し、これは、IPTG(イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド)によるccdB発現の誘導を可能とする。
【0278】
pSelect_CORD6及びpSelect_GUCY2DWTを、ヘルパーバクテリオファージ中に別個にパッケージングした。
【0279】
対立遺伝子特異性を操作するために、Cas9突然変異体の2つの大腸菌(E.coli)細菌ライブラリを、突然変異誘発のための最初の鋳型としてpEvol_CORD6プラスミドを用いて、コドンの全てを標的とし、且つ突然変異率の調整を可能にする、包括的且つ不偏の突然変異誘発方法を用いて生成した。一方のライブラリを、Cas9ポリペプチドあたり3つのアミノ酸突然変異の中央値を有する(「低い」突然変異率)ように調整した。他方は、Cas9ポリペプチドあたり5つのアミノ酸突然変異の中央値を有した(「高い」突然変異率)。
【0280】
進化の各ラウンドにおいて、発明者らは、以下のように、pEvol_CORD6突然変異体の各細菌ライブラリを、第一に、ファージによる連続感作誘発による競合培養において、ファージ含有pSelect_CORD6を切断するポジティブ選択に、そして次に、pSelect_GUCY2DWTを切断するネガティブ選択に曝した:
【0281】
細菌に感染させるために、適切なpSelectプラスミドをパッケージングしているファージを、pEvol_CORD6突然変異体のライブラリを含有する飽和細菌に加えて、細菌ライブラリを、アンピシリン中で液体培養した。ライブラリ毎に、ライブラリ全体を、同じ液体培養物中で培養した。
【0282】
この最初のインキュベーション及び感染の後に、ccdBを誘導する1mM IPTGを加えることによって、ポジティブ選択を実行した。次に、培養体を一晩、例えば少なくとも12時間、増殖させた。その後、細胞をペレット化させた。これにより、一部のIPTGを除去する。その後、第2の一晩の培養中に、50μg/mlのクロラムフェニコール(双方のpSelectプラスミドによって構成的に発現される)の存在下で、そしてIPTGの不在下で細菌を増殖することによって、ネガティブ選択を実行した。ポジティブ選択及びネガティブ選択の双方の間、細菌を、液体培養体中に存在するファージによって継続的に感染させることで、切断(ポジティブ選択の場合)又は非切断(ネガティブ選択の場合)のいずれかへの連続感作誘発を提示した。
【0283】
ネガティブ選択後の選択した全ライブラリメンバー由来のプールしたプラスミドDNAを、次の突然変異誘発反応用の鋳型として用いた。発明者らは、3ラウンドの突然変異誘発(ライブラリを生成する)、ポジティブ選択、及びネガティブ選択をこのように繰り返した。各ライブラリにデュアル選択圧を加えることによって、CORD6対立遺伝子に特異的なPAMを含有するCas9突然変異体について、ストリンジェントな選択を実行した。
【0284】
プールした選択されたライブラリメンバーから単離したプラスミドDNAのPacBio次世代シーケンシングを、ネガティブ選択ラウンドの後に、進化サイクル毎に実行した。第1の進化サイクルの後にのみ、発明者らは、特定の突然変異体が、集団の約20%を占めて、高い選択強度を示すことを見出した。発明者らは、この突然変異体の切断活性の試験を、突然変異タンパク質を含有する大腸菌(E.coli)細胞溶解液を、野生型の、又は突然変異したGUCY2D配列のいずれかを含有するアンプリコンに用いて進めた。発明者らは、CORD6アンプリコン上でのみ、切断を観察した(
図1)。この突然変異体のPAM選択の更なる分析もまた、第6の位置CではなくAについて、2倍高い特異性を示した。この高度に選択された突然変異体の活性は、設計した選択圧を確認し、そして不偏の突然変異誘発方法及び競合選択戦略による対立遺伝子特異的Cas9突然変異体の操作の成功を実証している。
【0285】
実施例2:知られているオフターゲットを用いた、オフターゲット活性が低下したCas9の進化
本実施例は、本発明の選択方法を如何に、部位特異的DNA結合酵素のオフターゲット活性を低下させる進化戦略に用いることができるかを記載する。
【0286】
オフターゲット切断は、Cas9標的DNA切断の共通の副作用である。この作用を軽減するために、オンターゲット切断(「ポジティブ選択」)の選択を、発明者らの系において知られている、又は潜在的なオフターゲット配列(「ネガティブ選択」)の選択と結び付けることができる。GUIDE-SEQ又は他の方法によって発見されるようなオフターゲットを、情報に基づいてカウンター選択することができる。これ以外にも、単一塩基対ミスマッチ等の潜在的オフターゲットのライブラリを選択することもできる。このように、特異的なガイドを、オフターゲット切断を引き下げるように進化したCas9と組合せることによって、適切な部位にて選択的に切断するように調整することができる。
【0287】
この場合の進化は、ポジティブ選択におけるオンターゲットの切断を第一に選択してから、指定されたオフターゲットの混合ファージ集団をネガティブ選択することによって進み、任意選択のディープシーケンシング確認が続く(
図2)。この進化アルゴリズムは、数ラウンドにわたって繰り返されてもよい。
【0288】
実施例3:対立遺伝子特異的Cas9の進化
本実施例は、本発明の選択方法を進化戦略に用いて、野生型の非疾患対立遺伝子と比較して、点突然変異(単一の塩基変化)によってのみ異なる疾患対立遺伝子について特異性がある部位特異的ヌクレアーゼを進化させることができることを実証する。しかしながら、本発明の選択方法を用いて、別の対立遺伝子(例えば、野生型又は非疾患の対立遺伝子)と比較して、単一の塩基変化よりも大きく異なる対立遺伝子(例えば、突然変異又は疾患の対立遺伝子)について特異性がある部位特異的ヌクレアーゼを進化させることもできる。
【0289】
Cas9又は他の標的ヌクレアーゼを、ヘテロ接合配列の対立遺伝子特異的切断に用いると、とりわけ対立遺伝子が単一の塩基によって異なる場合、雑然とした活性によって、この使用は妨害される。発明者らは、1つの対立遺伝子のみ(例えば、対立遺伝子1、突然変異対立遺伝子)を選択的に切断し、そして単一の塩基によって異なる対立遺伝子(例えば、対立遺伝子2、野生型対立遺伝子)を切断しないCas9突然変異体を操作しようとした。発明者らはまた、一対立遺伝子の切断についての最も大きな識別を達成するようにCas9突然変異体を選択する方法の効率を向上させようとした。最も識別するCas9突然変異体の選択は、例えば、選択プロセス内に存在するCas9の量、並びに/又はポジティブ選択及びネガティブ選択の効率の向上の制御によって達成することができる。選択系におけるCas9の量は、例えば、低いコピー数の、Cas9を発現するプラスミドの使用によって制御することができる。一部の実施形態において、Cas9の量は、Cas9の発現を誘導性プロモータの制御下に置くことによって制御する。一部の実施形態において、誘導性プロモータは、アラビノースプロモータである(
図3)。
【0290】
ポジティブ選択及びネガティブ選択のプロセスは、毒素分子の誘導性の発現及び/又は抗生物質等の薬物に対する耐性の発現に依存し得る。例えば、毒素の発現がプラスミドから誘導される場合、プラスミド内の適切な標的(例えば、対立遺伝子1、突然変異対立遺伝子)を認識して切断するCas9突然変異体を含む細胞のみが生き残ることとなる。適切な標的を認識せずに切断しないCas9を含む細胞は、毒素によって死滅する。このポジティブ選択ステップは、適切な標的(例えば、対立遺伝子1、突然変異対立遺伝子)を認識して切断することができる全てのCas9分子を選択する。
【0291】
別の実施形態において、細胞を抗生物質で処理する場合、抗生物質に対する耐性を付与するプラスミド内の不適切な標的を切断するCas9を含む細胞だけが死滅する。不適切な標的(例えば、対立遺伝子2、野生型対立遺伝子)を認識しないCas9を含む細胞は、抗生物質に対する耐性を維持して生き残る。このネガティブ選択ステップは、不適切な標的(例えば、対立遺伝子2、野生型対立遺伝子)を認識して切断することできるCas9分子を選択する。
【0292】
高度に選択的なCas9分子の同定のためのポジティブ選択及びネガティブ選択のステップの有用性は、少なくとも部分的に、細胞死滅における高い識別程度に依存する。選択中の細胞増殖カイネティクスの比較は、最適なCas9分子の選択効率を特徴付け得る。
【0293】
tse2を用いた選択効率
Cas9タンパク質、及び標的配列を標的とするgRNAをコードするプラスミド、pEvol_CASを構築した。Cas9タンパク質、及び非標的化gRNAをコードするプラスミド、pEvol_NONTARGETINGもまた構築した。双方のプラスミドは、構成的に、アンピシリンに対する耐性(AmpR)を付与するベータラクタマーゼ、及びCas9の発現を制御する誘導性アラビノースプロモータ(Ara)を発現する。ファージミド(ファージ起源f1要素を含有するプラスミド)、pSelect_MUT及びpSelect_WTもまた構築した。これらは各々、潜在的標的部位を含有する。ファージミドはまた、構成的に発現されるクロラムフェニコール耐性遺伝子(CmR)及びtse2(細菌毒素)を、lacプロモータの制御下で含有し、これは、IPTG(イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド)によるtse2発現の誘導を可能とする。pSelect_MUT及びpSelect_WTを各々別個に、ヘルパーバクテリオファージ中にパッケージングした。
【0294】
対立遺伝子特異性を操作するために、Cas9突然変異体の2つの大腸菌(E.coli)細菌ライブラリを、突然変異誘発用の最初の鋳型としてpEvol_CASプラスミドを用いて、コドンの全てを標的とし、且つ突然変異率の調整を可能にする、包括的且つ不偏の突然変異誘発方法を用いて生成した。一方のライブラリを、Cas9ポリペプチドあたり3つのアミノ酸突然変異の中央値を有する(「低い」突然変異率)ように調整した。他方は、Cas9ポリペプチドあたり5つのアミノ酸突然変異の中央値を有した(「高い」突然変異率)。
【0295】
進化の各ラウンドにおいて、発明者らは、以下のように、pEvol_CAS突然変異体の各細菌ライブラリを、ファージによる連続感作誘発による競合培養において、ファージ含有pSelect_MUTを切断するポジティブ選択に曝した:
【0296】
細菌に感染させるために、pSelect_MUTプラスミドをパッケージングしているファージを、pEvol_CAS突然変異体又はpEvol_NONTARGETINGのライブラリを含有する細菌に加えて、細菌ライブラリを、アンピシリン中で液体培養した。ライブラリ毎に、ライブラリ全体を、同じ液体培養物中で培養した。
【0297】
この最初のインキュベーション及び感染の後に、tse2発現を誘導する1mM IPTGをpEvol_CAS培養物のサブセットに、そしてpEvol_NONTARGETING培養物のサブセットに加えることによって、tse2を用いたポジティブ選択のストリンジェンシーを評価した。Cas9及びガイドRNAの発現を、アラビノースの添加によって誘導した。Cas9及びガイドRNAの発現は、IPTGで処理したpEvol_CAS培養物のサブセットにおいて誘導されなかった。次に、培養体を一晩、例えば少なくとも12時間、増殖させた。ポジティブ選択の間、細菌を、液体培養体中に存在するファージによって継続的に感染させることで、標的の切断への連続感作誘発を提示した。
【0298】
図4に示すように、Cas9を発現しないがtse2を発現する(-Cas+tse2)、又は非標的化ガイドRNAを発現する(+Nontargeting Cas+tse2)培養体は、tse2の誘導に起因して、顕著な増殖遅延を示した。比較において、tse2を発現するが、Cas9及び標的化ガイドRNAも発現する(+Cas+tse2)ように誘導された培養体(標的を切断し、且つtse2の発現を抑制すると予想された)は、おおよそ7時間にわたる迅速な増殖を実証した。Cas9、及び標的化ガイドRNA又は非標的化ガイドRNAのいずれかを発現したが、tse2を発現するように誘導されなかった培養体は、最初の6時間にわたる迅速な細胞増殖を実証した。これらのデータは、Cas9が存在しない場合、又はガイドRNAが標的を認識しない場合、tse2が顕著な細胞死滅作用を有することを実証する。これらのデータはまた、適切に標的とされるCas9及びガイドRNAが、tse2発現の誘導の作用をオフセットすることを実証する。
【0299】
Cas9発現を調節することによる選択の効率
突然変異誘発用の最初の鋳型としてpEvol_WTCASプラスミド、そして全てのコドンを標的とし、且つ突然変異率の調整を可能にする包括的且つ不偏の突然変異誘発方法を用いて、プラスミドライブラリ、pEvol_CASLIBRARYを生成した。プラスミドは、Cas9タンパク質、及び標的配列を標的とするgRNAをコードする。野生型Cas9タンパク質及び標的化gRNAをコードするプラスミドpEvol_WTCASも構築した。双方のプラスミドは、構成的に、アンピシリンに対する耐性(AmpR)を付与するベータラクタマーゼ、及びCas9の発現を制御する誘導性アラビノースプロモータ(Ara)を発現する。先に述べたように、ファージミド(ファージ起源f1要素を含有するプラスミド)、pSelect_MUT及びpSelect_WTもまた構築した。これらは、潜在的標的部位を含有する。
【0300】
細菌に感染させるために、pSelect_MUTプラスミドをパッケージングしているファージを、pEvol_ CASLIBRARY突然変異体又はpEvol_WTCASのライブラリを含有する飽和細菌に加えて、細菌ライブラリを、アンピシリン中で液体培養した。ライブラリ毎に、ライブラリ全体を、同じ液体培養物中で培養した。
【0301】
この最初のインキュベーション及び感染の後に、tse2発現を誘導する1mM IPTGをpEvol_CASLIBRARY培養物のサブセットに、そしてpEvol_WTCAS培養物のサブセットに加えることによって、tse2及び野生型Cas又はCasライブラリを用いたポジティブ選択のストリンジェンシーを評価した。Cas9及びgRNAの発現を、アラビノースの添加によって誘導した。Cas9及びgRNAの発現は、IPTGで処理したpEvol_CASLIBRARY培養物及びpEvol_WT CAS培養物のサブセットにおいて誘導されなかった。次に、培養体を一晩、例えば少なくとも12時間、増殖させた。ポジティブ選択の間、細菌を、液体培養体中に存在するファージによって継続的に感染させることで、標的の切断への連続感作誘発を提示した。
【0302】
図5に示すように、tse2を発現するが、野生型Cas9を発現しない(-WTCas+tse2)、又は突然変異Cas9ライブラリを発現しない(-Cas Library+tse2)培養体は、tse2の誘導に起因して、顕著な増殖遅延を示した。しかしながら、野生型Cas9培養体は、アラビノースの不在下であってさえ、Cas9突然変異体の漏れがある(leaky)発現を示す突然変異Cas9ライブラリ培養体よりも大きな増殖遅延を示した。比較において、tse2を発現するが、Cas9及び標的化ガイドRNAも発現する(+WTcas+tse2又は+Cas Library+tse2)ように誘導された培養体(標的を切断し、且つtse2の発現を抑制すると予想された)は、おおよそ7時間にわたる迅速な増殖を実証した。野生型Cas9、又はCas9ライブラリ突然変異体のいずれかを発現したが、tse2を発現するように誘導されなかった培養体は、最初の6時間にわたる迅速な細胞増殖を実証した。野生型Cas9を、tse2ありで、又はtse2なしで発現する培養体間の細胞増殖の差異は、Cas9ライブラリ突然変異体を、tse2ありで、又はtse2なしで発現する培養体間の細胞増殖の差異よりも小さかった。これらのデータは、Cas9ライブラリ突然変異体が、野生型Cas9よりも大きな切断活性を示すことを示唆する。これらのデータはまた、Cas9が存在しない場合、tse2が顕著な細胞死滅作用を有することを確認した。
【0303】
また、ネガティブ選択を、一晩の培養中に、50μg/mlのクロラムフェニコール(クロラムフェニコールに対する耐性は、pSelect_MUTファージミド及びpSelect_WTファージミドによって構成的に発現される)の存在下で細菌を増殖させることによって実行した。対照培養物は、クロラムフェニコールで処理しなかった。ネガティブ選択の間、細菌を、液体培養体中に存在するファージによって継続的に感染させることで、適切な標的の切断(対立遺伝子1、突然変異対立遺伝子)、及び不適切な標的の非切断(対立遺伝子2、野生型対立遺伝子)への連続感作誘発を提示した。野生型Cas9(WTCas+Cm)及び突然変異Cas9ライブラリ(Library+Cm)は双方とも、オフターゲット切断による、クロラムフェニコールに対する耐性の除去に起因する、顕著な増殖遅延を示した(
図6)。しかしながら、突然変異Cas9ライブラリ突然変異体は、オフターゲット切断を示さず、且つクロラムフェニコール耐性を維持したCas9突然変異体の選択に起因する増殖の回復を実証した。
【0304】
ライブラリ進化
ライブラリ進化の連続ラウンドは、標的を切断する選択性のレベルが高いCas9突然変異体を生成した。これは、培養体がtse2を発現するように誘導された場合の増殖遅延の連続低下によって実証される。
図7は、tse2の誘導なしで野生型Cas9を発現する培養体(WTcas-tse2)の増殖と比較した場合、tse2が誘導された場合の野生型Cas9培養体(WTcas+tse2)について顕著な増殖遅延、そして顕著なネガティブデルタを示す。細胞増殖のデルタは、1ラウンドの突然変異誘発後に低下する(例えば、Round 1+tse2対Round 1-tse2)。3ラウンドの突然変異誘発の後、細胞増殖曲線は、tse2を発現するように誘導した培養体及びtse2を発現するように誘導しなかった培養体について、ほぼ同一である。これらのデータは、tse2の使用、及び突然変異誘発の選択的ラウンドが、オンターゲット切断について高度に選択的である突然変異Cas9を生成することができることを示す。
【0305】
実施例4:オフターゲット切断を引き下げる化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9の進化
本開示の系及び方法を使用して、以下の実施例によってさらに例示するように、種々のヌクレアーゼ特性を選択することができる。本明細書中で開示される選択方法を用いて、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)cas9変異体を、オンターゲット切断効率を維持しているが、オフターゲット遺伝子座での切断を引き下げている、突然変異を起こしたライブラリから同定したことで、治療に用いられる、雑然としたガイドを潜在的に救出する手段が提供された。ランダムな標的でのスキャニング突然変異誘発(SMART)を用いて、突然変異化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9ライブラリを生成した。次に、ライブラリを、大腸菌(E.coli)中に形質転換して、ポジティブ選択及びネガティブ選択の双方の3ラウンドについて、ファージで感作誘発した。ポジティブ選択ステップは、表6に示すように、GUIDE-Seqによって決定される、複数の知られているオフターゲットを有するヒトゲノム遺伝子座に向けられるガイドRNA用のオンターゲット配列(配列番号4)を含む切断カセットを含むポジティブ選択プラスミドを利用した:
【0306】
【0307】
単一のネガティブ選択ステップは、4つのプールした構築体を利用し、各々、4つの残基(配列番号5~7)によってオンターゲット配列と異なる固有のオフターゲットを含んだ。ポジティブ選択ステップ及びネガティブ選択ステップの後、クローンを選択して、次世代シーケンシング(NGS)によって配列決定して、リード(read)をアラインして、非突然変異化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9(配列番号13)と比較して、最も一般的に突然変異したアミノ酸残基を同定した。オンターゲット基質及びオフターゲット基質を利用したインビトロ切断アッセイは、クローンが、WT Cas9に匹敵するオンターゲット切断効率を示す(
図8A)が、少数のクローンが、WTと比較して、オフターゲット切断の低下を示す一方、他のクローンが、実質的に同じオフターゲット切断効率をインビトロで示す(
図8B)ことを実証した。また、オンターゲット分析及びオフターゲット分析を、
図9A及び
図9Bに示すように、ヒトT細胞内のゲノムのオンターゲット遺伝子座及びオフターゲット遺伝子座について実行した。WT及び突然変異体のCas9/ガイドRNAリボ核タンパク質複合体(RNP)を、>2対数範囲にわたる様々な濃度にて送達して、ゲノムDNAを収穫して、オンターゲット部位及びオフターゲット部位を増幅して、次世代シーケンシングによって配列決定した。
図10に示すように、いくつかの突然変異クローンは、WT Cas9と比較して、僅かに低下したオンターゲット切断活性を示した一方、WTよりも実質的に低いオフターゲット切断も示した。併せて、これらのデータにより、本明細書中に記載されるファージ-選択方法は、補償(compensating)Cas9突然変異タンパク質を選択することによって、特異的なgRNAで観察されるオフターゲット切断を引き下げるのに首尾よく応用され得ることが確認される。
【0308】
表2は、このスクリーンにおいて同定したクローン内で突然変異している、選択したアミノ酸残基、及び、各位置にて置換されて、オフターゲット活性が低下した突然変異体が生成し得る残基を示す:
【0309】
【0310】
表8は、本開示の特定の実施形態に従う例示的な、単一、二重、そして三重の化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9突然変異体を示す。明確にするために、提示を効率良くしようと表には単一、二重、そして三重の突然変異体のみを一覧にしているが、本開示は、表8に示す部位の1、2、3、4、5つ、又はそれ以上にて突然変異を有するCas9変異タンパク質を包含する。
【0311】
【0312】
【0313】
【0314】
【0315】
【0316】
先の記載を限定するものではないが、本開示は、以下の突然変異体を包含する:
【0317】
【0318】
本開示はまた、本明細書中に記載される突然変異化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9を含むゲノム編集系を包含する。
【0319】
本明細書中に記載される単離SpCas9変異タンパク質は、本開示の特定の実施形態において、異種機能ドメインに、場合によってはリンカーが介在して融合しており、リンカーは、融合タンパク質の活性に干渉しない。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、転写活性化ドメインである。一部の実施形態において、転写活性化ドメインは、VP64又はNF-カッパB p65に由来する。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、転写サイレンサ又は転写抑制ドメインである。一部の実施形態において、転写抑制ドメインは、Krueppel関連ボックス(KRAB)ドメイン、ERFリプレッサドメイン(ERD)、又はmSin3A相互作用ドメイン(SID)である。一部の実施形態において、転写サイレンサは、ヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)、例えばHP1アルファ、又はHP1ベータである。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、DNAのメチル化状態を修飾する酵素である。一部の実施形態において、DNAのメチル化状態を修飾する酵素は、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)又はTETタンパク質である。一部の実施形態において、TETタンパク質は、TET1である。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、ヒストンサブユニットを修飾する酵素である。一部の実施形態において、ヒストンサブユニットを修飾する酵素は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT)、又はヒストンデメチラーゼである。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、生物学的テザー(biological tether)である。一部の実施形態において、生物学的テザーは、MS2、Csy4、又はラムダNタンパク質である。一部の実施形態において、異種機能ドメインは、FokIである。
【0320】
本明細書中に記載される変異SpCas9タンパク質をコードする単離核酸の包含に加えて、本開示は、そのような単離核酸を含むウイルスベクター及び非ウイルスベクターの双方を包含する。これらは、場合によっては、本明細書中に記載される変異SpCas9タンパク質を発現するための1つ以上の調節ドメインに作動可能に連結されている。本開示はまた、本明細書中に記載される核酸を含み、そして場合によっては、本明細書中に記載される変異SpCas9タンパク質の1つ以上を発現する宿主細胞、例えば哺乳類の宿主細胞を含む。
【0321】
本明細書中に記載される変異SpCas9タンパク質は、細胞のゲノムを、例えば、細胞内で、本明細書中に記載される単離変異SaCas9又はSpCas9タンパク質、及び細胞のゲノムの選択した部分と相補的な領域を有するガイドRNAを発現させることによって、変更するのに用いることができる。代わりに、又は加えて、本開示はさらに、細胞のゲノムを、細胞を本明細書中に記載されるタンパク質変異体、及び細胞のゲノムの選択した部分と相補的な領域を有するガイドRNAと接触させることによって変更する、例えば選択的に変更する方法を包含する。一部の実施形態において、細胞は、幹細胞、例えば、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、若しくは人工多能性幹細胞であり;生きている動物内にあり;又は、胚、例えば、哺乳類、昆虫、若しくは魚(例えばゼブラフィッシュ)の胚若しくは胚細胞内にある。
【0322】
一部の実施形態において、単離したタンパク質又は融合タンパク質は、核局在化配列、細胞膜透過ペプチド配列、及び/又は親和性タグの1つ以上を含む。
【0323】
さらに、本開示は、二本鎖DNA(dsDNA)分子を細胞内で変更する方法、例えば、インビトロ方法、イクスビボ方法、及びインビボ方法を包含する。本方法は、dsDNA分子を、本明細書中に記載される変異タンパク質の1つ以上、及びdsDNA分子の選択した部分と相補的な領域を有するガイドRNAと接触させることを含む。
【0324】
実施例5:オフターゲット切断を引き下げる化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9の進化
本開示の系及び方法を使用して、以下の実施例によってさらに例示するように、種々のヌクレアーゼ特性を選択することができる。本明細書中で開示される選択方法を用いて、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)cas9変異体を、オンターゲット切断効率を維持しているが、オフターゲット遺伝子座での切断を引き下げている、突然変異を起こしたライブラリから同定したことで、治療に用いられる、雑然としたガイドを潜在的に救出する手段が提供された。ランダムな標的でのスキャニング突然変異誘発(SMART)を用いて、突然変異化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9ライブラリを生成した。次に、ライブラリを、大腸菌(E.coli)中に形質転換して、ポジティブ選択及びネガティブ選択の双方の3ラウンドについて、ファージで感作誘発した(
図1及び
図2)。ポジティブ選択ステップ及びネガティブ選択ステップの後、クローンを選択して、次世代シーケンシング(NGS)によって配列決定して、リードをアラインして、非突然変異化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9(配列番号13)と比較して、最も一般的に突然変異したアミノ酸残基を同定した。コドンの位置による、そしてアミノ酸置換に従う、同定した突然変異の頻度を求めた(
図11)。突然変異を、RuvCドメイン(例えばD23A)、RECドメイン(例えば、T67L、Y128V)、及びPAM相互作用ドメイン(PI)(例えばD1251G)内で同定した。4つの異なる突然変異(D23A、T67L、Y128V、及びD1251G)の組合せを含む発現構築体を調製して、ヒトT細胞におけるオンターゲット及びオフターゲットの編集効率について、インビトロで試験した。この実施例では、突然変異D23A、Y128V、D1251G、及びT67Lを含む構築体を、「Mut6」又は「SpartaCas」と呼んだ。
【0325】
インビトロ用量応答研究を、
図12に示すように、T細胞内のゲノムのオンターゲット及びオフターゲットの遺伝子座について、Mut6及び野生型化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9を用いて実行した。野生型又は突然変異Cas9/ガイドRNAリボ核タンパク質複合体(RNP)を、>2対数範囲にわたる様々な濃度にて送達した。
図12に示すように、Mut6構築体は、野生型化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9に匹敵するオンターゲット切断活性を示した一方、野生型よりも実質的に低いオフターゲット切断も示した。
【0326】
6つの異なる遺伝子座(SiteA、SiteB、SiteC、SiteD、SiteE、及びSiteF)でのオンターゲット編集を、野生型化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9(WT SPCas9)、「SpartaCas」(Mut 6)、並びに2つの知られている突然変異化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9タンパク質、eCas(Slaymaker et al.Science(2015)351:84-88)及びHF1 Cas9(Kleinstiver et al.Nature(2016)529:490-495)を用いて評価した。1μm(遺伝子座1及び2)又は5μm(遺伝子座3~6)の野生型又は突然変異Cas9/ガイドRNA RNPのいずれかを、ヒトT細胞に送達した。編集効率は、遺伝子座依存的であった。SpartaCasの編集効率は、全ての遺伝子座でのHF1 Cas9の編集効率よりも高く、そして6つの遺伝子座のうち4つでのeCasの編集効率よりも高かった(
図13)。
【0327】
さらに、オンターゲット編集用量応答研究を、野生型化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9(「Spy」)、野生型黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9(「Sau」)、野生型アシダミノコッカス(Acidaminococcus)属Cpf1(「AsCpf1」)、SpartaCas(「Mut6」又は「S6」)、及び代替の突然変異化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9タンパク質(HF1 Cas9、eCas9、及びAlt-R(登録商標)Cas9(「AltR Cas9」)(www.idtdna.com)が挙げられる)を用いて、ヒトT細胞内で実行した。オンターゲット編集は、標的依存的であり、そしてSpartaCasは、オンターゲット編集の高い効率を実証した(
図14A~
図14C)。
【0328】
0.03125μM~4μMに及ぶRNP用量でのオンターゲット及びオフターゲットの切断効率について、SpartaCas(Mut6)をさらに評価した。オンターゲット切断は野生型化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9に匹敵した一方、オフターゲット切断は有意に減少した(
図15)。
【0329】
実施例6:GUIDE-seqを用いた化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9変異体によるオフターゲット切断の評価
野生型Cas9、eCas、及びSpartaCasによるオフターゲット切断を、GUIDE-Seqを用いて、以下の方法を用いて評価した。
【0330】
RNPの複合体形成
RNPを、Integrated DNA Technologiesによって合成した2部のgRNAと複合体形成した。全てのガイドをアニールして200μMの最終濃度にした。crRNA対tracrRNAの比率は1:1である。RNPを、1:2の酵素対ガイド比を達成するように複合体形成した。100μMの酵素及び200μMのgRNAの1:1容量比を用いて、50μMの最終RNP濃度を達成した。RNPを、室温にて30分間、複合体形成させた。次に、RNPを、8つの濃度にわたって連続的に2倍に希釈した。RNPを、ヌクレオフェクション(nucleofection)まで-80℃にて凍結した。
【0331】
T細胞の培養
T細胞を、Lonza X-Vivo 15培地で培養した。細胞を解凍して、T Cell Expansion及びActivation用のDynabeads Human T-Activator CD3/CD28で培養した。解凍後2日目に、細胞をビーズから除去した。細胞を4日目まで培養し続けて、その日に、ヌクレオフェクション用にスピンダウンした。ヌクレオフェクション後2日目に、細胞容量を新しいプレート中に半分に分けて、室温にて増殖させ続けた。
【0332】
T細胞ヌクレオフェクション
細胞を、BioRad T-20細胞カウンターを用いて数えた。細胞を、トリパンブルーと1:1で混合して数えた。必要な(ウェルあたり500k細胞に十分な)細胞の総量を、別個のチューブに分注してから、1500RPMにて5分間スピンダウンした。次に、細胞を、Lonza P2ヌクレオフェクション溶液中に再懸濁させた。次に、細胞を、Lonza 96ウェルヌクレオフェクションプレート内に、ウェルあたり20μLにて入れた。次に、細胞及びRNPプレートを、BioMek FXロボットに引き渡した。96ウェルヘッドを用いて、各RNPの2μLをヌクレオフェクションプレート中に移して混合した。次に、ヌクレオフェクションプレートを直ちに、Lonzaシャトルシステムに引き渡して、そこでDS-130パルスコードによりヌクレオフェクトした。次に、細胞を直ちに、BioMek FXに引き戻して、そこで、予め温めた96ウェル未処理培地プレートに移して混合した。次に、細胞プレートを、インキュベーションのために37℃にて置いた。
【0333】
gDNA抽出
4日目に、細胞を、2000RPMにて5分間、プレート内にスピンダウンした。次に、培地をデカントした。次に、細胞ペレットを、Agencourt DNAdvance溶解溶液中に再懸濁させた。gDNAを、BioMek FXに関するDNAdvanceプロトコルを用いて抽出した。
【0334】
GUIDE-seq
GUIDE-seqを、Tsai et al.(Nat.Biotechnol.33:187-197(2015))のプロトコルに基づいて実行して、以下の通りにT細胞に適合させた。10μLの4.4μM RNPを、4μLの100μM dsODN、及び6μLの1×H150バッファと組み合わせて、総容量を20μLにした。RNPを、ヌクレオフェクションまで氷上に置いた。T細胞を、BioRad T-20細胞カウンターを用いて数えた。細胞を、トリパンブルーと1:1で混合して数えた。必要な(キュベットあたり200万細胞に十分な)細胞の総量を、別個のチューブに分注してから、1500RPMにて5分間スピンダウンした。次に、細胞を、Lonza P2溶液の80μL中に再懸濁させた。次に、細胞を、それぞれのキュベット中にピペットで移して、RNP/dsODNの20μLを、各キュベットに加えて、溶液全体を穏やかに混合した。次に、細胞を、CA-137パルスコードを用いてヌクレオフェクトした。次に、細胞を直ちに、予め温めた非コーティング培地プレート中にピペットで移した。次に、細胞プレートを、インキュベーションのために37℃にて置いた。gDNAを抽出して、Tsai et al.(Nat.Biotechnol.33:187-197(2015))のプロトコルを用いて、双方向のリードのみを用いて分析した。
【0335】
結果
図18A及び
図18Bはそれぞれ、「SiteG」及び「SiteH」についてのオフターゲット切断を示す。
図18A及び
図18Bに示すように、SpartaCas及びeCasは双方とも、野生型Cas9と比較して、オフターゲットの総数を引き下げた。さらに、残ったオフターゲットのほとんどは、リードカウントを引き下げた(シアンで示す)。
【0336】
等価物
本発明を、その詳細な説明と共に記載してきたが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲の範囲によって定義される本発明の範囲を例示することが意図され、本発明の範囲を限定しないことが理解されよう。他の態様、利点、及び改変は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。
【0337】
配列リスト
化膿レンサ球菌(S.pyogenes)のCas9分子をコードする、例示的なコドン最適化核酸配列(配列番号9)。
【化8】
【化9】
【0338】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子をコードする、例示的なコドン最適化核酸配列(配列番号10)。
【化10】
【0339】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子をコードする、例示的なコドン最適化核酸配列(配列番号11)。
【化11】
【0340】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子をコードする、例示的なコドン最適化核酸配列(配列番号12)。
【化12】
【0341】
例示的な化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9アミノ酸配列(配列番号13)。
【化13】
【0342】
例示的な髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)Cas9アミノ酸配列(配列番号14)。
【化14】
【配列表】