(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】細胞凝集促進剤
(51)【国際特許分類】
C12N 5/074 20100101AFI20240710BHJP
【FI】
C12N5/074
(21)【出願番号】P 2020021838
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一博
(72)【発明者】
【氏名】伊吹 将人
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170849(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/047941(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/148253(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/104936(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131942(WO,A1)
【文献】特開2021-126066(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0049178(KR,A)
【文献】NINSONITIA, C et al.,Zinc suppresses stem cell properties of lung cancer cells through protein kinase C-mediated β-catenin degradation,American Journal of Physiology-Cell Physiology,2017年,Vol. 312,C487-C499
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PKC阻害剤を含み、浮遊培養にて
多能性幹細胞の
多能性幹細胞凝集塊を製造するために用いるための
多能性幹細胞凝集促進剤であって、
前記PKC阻害剤が、Goe6983、GF109203X、LY-333531、Staurosporine及びこれらの組合せから成る群より選択されるものである、
前記多能性幹細胞凝集促進剤。
【請求項2】
前記PKC阻害剤の含有濃度が、50nM以上200mM以下である、請求項1に記載の
多能性幹細胞凝集促進剤。
【請求項3】
さらに、増殖因子を含有する、
請求項1又は2に記載の
多能性幹細胞凝集促進剤。
【請求項4】
前記増殖因子が、FGF2及びTGF-β1の少なくともいずれかである、
請求項3に記載の
多能性幹細胞凝集促進剤。
【請求項5】
さらに、ROCK阻害剤を含有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の
多能性幹細胞凝集促進剤。
【請求項6】
前記ROCK阻害剤が、Y-27632である、
請求項5に記載の
多能性幹細胞凝集促進剤。
【請求項7】
PKC阻害剤を含み、浮遊培養にて
多能性幹細胞の
多能性幹細胞凝集塊を製造するために用いるための
多能性幹細胞凝集促進キットであって、
前記PKC阻害剤が、Goe6983、GF109203X、LY-333531、Staurosporine及びこれらの組合せから成る群より選択されるものである、
前記キット。
【請求項8】
ROCK阻害剤及びPKC阻害剤を含む培地で多能性幹細胞を播種し、浮遊培養し、多能性幹細胞凝集塊を形成する工程、及び、
ROCK阻害剤非存在下において、PKC阻害剤を含む液体培地中で前記多能性幹細胞凝集塊をさらに浮遊培養する工程、
を含
み、
前記PKC阻害剤が、Goe6983、GF109203X、LY-333531、Staurosporine及びこれらの組合せから成る群より選択されるものである、
多能性幹細胞凝集塊の集団の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞凝集促進剤、細胞凝集を促進して細胞凝集塊を製造する方法、及び細胞凝集促進キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞は、無限に増殖できる能力と、様々な細胞に分化する能力を有している。多能性幹細胞のこのような性質を利用した再生医療における難治性疾患や生活習慣病等に対する根本的治療法は、以前から期待されていたが、近年の研究により、その実用化の可能性が高まっている。
【0003】
例えば、多能性幹細胞から神経細胞、心筋細胞、血液細胞、及び網膜細胞等の様々な細胞をインビトロ(in vitro)の実験で分化誘導することは既に可能になっている(非特許文献1)。
【0004】
一方で、多能性幹細胞を用いた各種臓器の再生に関しては、実用化に向けてまだ問題が残されている。その一つが生産性である。一般に、臓器再生では大量の細胞が必要となる。例えば、肝臓の再生には、約2×1011個の細胞を要するため、効率的かつ大量に細胞を生産する技術が必要となる。しかし、一般的な平面基板表面上での接着培養のような二次元的培養では、得られる細胞数が培養面積に依存するためスケールアップに膨大な面積が必要となり、再生医療における細胞供給方法としては現実的ではない。
【0005】
上記問題を解決するために、近年では細胞を液体培地中で浮遊させて、三次元的に培養する浮遊培養法が、再生医療における細胞供給方法の主流となりつつある。
【0006】
一方、多能性幹細胞は、接着性細胞であり、単細胞状態では生存できない。多能性幹細胞を浮遊培養で生存及び増殖をさせるには、膜タンパク質や細胞膜を介した細胞間での非特異的な吸着、細胞表面のカドヘリンを介した細胞間の接着によって細胞凝集塊を形成させることが重要と言われている。
【0007】
細胞凝集塊を、細胞の生存や増殖に適したサイズに調整する方法として、培養中の液体培地の流動を調整するなどの機械学的、又は物理学的な手段が挙げられる。しかし、過度の流動等による細胞への物理的刺激が細胞に障害を起こす危険性がある。そこで、機械学的、又は物理学的な手段によることなく、適度なサイズの凝集塊を生産する浮遊培養技術が求められている。
【0008】
例えば、特許文献1ではリゾリン脂質を含む培地中で細胞を浮遊培養する浮遊培養技術が開示されている。この発明は、リゾホスファチジン酸(LPA)、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)等のリゾリン脂質を含む培地中で細胞を浮遊培養することを特徴としている。この発明によれば、浮遊培養において、細胞に障害を与えることなく細胞凝集を抑制して、適度なサイズの細胞凝集塊を製造することができる。
【0009】
一方、特許文献2には、プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤を含む、幹細胞の増殖促進剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第6238265号公報
【文献】国際公開WO2018/047941号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【文献】Vuoristo S. et al.,PLoS One,2013 8(10):e76205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示された浮遊培養技術では、細胞凝集の抑制成分としてリゾリン脂質のみが開示されている。リゾリン脂質以外にも、浮遊培養において培地中に存在することにより細胞の凝集を抑制又は促進できる成分を提供できれば、機械学的、又は物理学的な手段によることなく細胞凝集塊のサイズをより適切に制御することが可能になる。
【0013】
一方、特許文献2には、PKC阻害剤が細胞凝集を促進することは開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意研究を行った結果、プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤を含む液体培地中で細胞を浮遊培養することによって、浮遊培養細胞の凝集が促進されることを見出した。このことを利用すれば、物理的な障害を与えることなく、細胞の凝集を制御して浮遊培養に適したサイズの細胞凝集塊を形成させることが可能となる。また、同時に大量の細胞凝集塊を生産することもできる。本発明は、当該知見に基づいて完成に至ったものであり、以下を提供する。
【0015】
(1)PKC阻害剤を含む、細胞の浮遊培養に用いるための細胞凝集促進剤。
(2)前記PKC阻害剤が、Goe6983、GF109203X、LY-333531、Staurosporine、Enzastaurin、Sotrastaurin、Ro 31-8220 mesylate、Ro 32-0432 hydrochloride、Goe6976、ZIP、Rottlerin、K252a、Baicalein、Quercetin、Luteolin、Bisindolylmaleimide II、Calphostin C、Chelerythrine chloride、L-threo Dihydrosphingosine、Melittin、Midostaurin、Daphnetin、Dequalinium Chloride、PKC-theta inhibitor、及び2-Methoxy-1,4-naphthoquinoneから成る群より選択される、(1)に記載の細胞凝集促進剤。
(3)前記PKC阻害剤の含有濃度が、50nM以上200mM以下である、(1)又は(2)に記載の細胞凝集促進剤。
(4)前記細胞が、幹細胞である、(1)~(3)のいずれかに記載の細胞凝集促進剤。
(5)前記幹細胞が、多能性幹細胞である、(4)に記載の細胞凝集促進剤。
(6)さらに、増殖因子を含有する、(1)~(5)のいずれかに記載の細胞凝集促進剤。
(7)前記増殖因子が、FGF2及びTGF-β1の少なくともいずれかである、(6)に記載の細胞凝集促進剤。
(8)さらに、ROCK阻害剤を含有する、(1)~(7)のいずれかに記載の細胞凝集促進剤。
(9)前記ROCK阻害剤が、Y-27632である、(8)に記載の細胞凝集促進剤。
(10)PKC阻害剤を含む、細胞の浮遊培養に用いるための細胞凝集促進キット。
(11)前記PKC阻害剤が、Goe6983、GF109203X、LY-333531、Staurosporine、Enzastaurin、Sotrastaurin、Ro 31-8220 mesylate、Ro 32-0432 hydrochloride、Goe6976、ZIP、Rottlerin、K252a、Baicalein、Quercetin、Luteolin、Bisindolylmaleimide II、Calphostin C、Chelerythrine chloride、L-threo Dihydrosphingosine、Melittin、Midostaurin、Daphnetin、Dequalinium Chloride、PKC-theta inhibitor、及び2-Methoxy-1,4-naphthoquinoneから成る群より選択される、(10)に記載の細胞凝集促進キット。
(12)前記細胞が、多能性幹細胞である、(10)又は(11)に記載の細胞凝集促進キット。
(13)ROCK阻害剤及びPKC阻害剤を含む培地で多能性幹細胞を播種し、浮遊培養する工程、及び、ROCK阻害剤非存在下において、PKC阻害剤を含む液体培地中で多能性幹細胞凝集塊を浮遊培養する工程を含む、多能性幹細胞集団の製造方法。
(14)前記PKC阻害剤が、Goe6983、GF109203X、LY-333531、Staurosporine、Enzastaurin、Sotrastaurin、Ro 31-8220 mesylate、Ro 32-0432 hydrochloride、Goe6976、ZIP、Rottlerin、K252a、Baicalein、Quercetin、Luteolin、Bisindolylmaleimide II、Calphostin C、Chelerythrine chloride、L-threo Dihydrosphingosine、Melittin、Midostaurin、Daphnetin、Dequalinium Chloride、PKC-theta inhibitor、及び2-Methoxy-1,4-naphthoquinoneから成る群より選択される、(13)に記載の方法。
(15)前記多能性幹細胞集団のOCT4、SOX2、及びNanogの陽性細胞比率がいずれも90%以上である、(13)又は(14)に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の細胞凝集促進剤によれば、これを液体培地に配合することで浮遊細胞の凝集を促進することができる。
【0017】
本発明の多能性幹細胞集団の製造方法によれば、浮遊培養中の多能性幹細胞の凝集を促進し、適切なサイズの多能性幹細胞凝集塊を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ヒトiPS細胞201B7株の浮遊培養1日目における位相差画像である。図中、AはPKC阻害剤を含まない比較例1の結果を、またBはそれを含む実施例1の結果を示す。
【
図2】ヒトiPS細胞201B7株の浮遊培養4日目における位相差画像である。図中、AはPKC阻害剤を含まない比較例2の結果を、またBはそれを含む実施例2の結果を示す。
【
図3】
図2で示したPKC阻害剤を含まない比較例2と、それを含む実施例2におけるヒトiPS細胞201B7株の浮遊培養4日目の細胞凝集塊の直径の測定結果を示す図である。
【
図4】
図2で示したPKC阻害剤を含まない比較例2と、それを含む実施例2におけるヒトiPS細胞201B7株の浮遊培養4日目の細胞凝集塊の直径の測定結果を示す図である。
【
図5】
図2で示したPKC阻害剤を含まない比較例2と、それを含む実施例2におけるヒトiPS細胞201B7株の浮遊培養1日目、3日目、及び4日目の培養上清中のLDH活性の推移を示す図である。
【
図6】培地に添加したPKC阻害剤の様々な濃度とヒトiPS細胞201B7株の浮遊培養2日目における細胞凝集塊の形成を示す図である。AはPKC阻害剤を含まない培地による比較例3の結果を、BはPKC阻害剤を図示した各濃度で含む培地による実施例3の結果を示す。
【
図7】PKC阻害剤存在下でヒトiPS細胞201B7株を浮遊培養して細胞凝集塊を作製し、その後、継続して浮遊培養したときの、培養3日目の細胞の、未分化マーカー(OCT4、SOX2、及びNanog)陽性率の測定結果を示す。AはOCT4、BはSOX2、及びCはNANOGを示す。図中、-は各マーカーの陰性細胞の領域を、+は陽性細胞の領域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.細胞凝集促進剤
1-1.概要
本発明の第1の態様は、細胞凝集促進剤である。本態様の細胞凝集促進剤は、浮遊培養用の薬剤であって、プロテインキナーゼC(Protein Kinase C:本明細書では、しばしば「PKC」と表記する)のシグナルを阻害する薬剤、すなわちPKC阻害剤を有効成分として含むことを特徴とする。本態様の細胞凝集促進剤によれば、浮遊培養中の細胞における凝集を促進し、細胞凝集塊の形成を促進することができる。それによって、浮遊培養系による細胞凝集塊の製造方法において、細胞凝集塊のサイズを適度に調整することができる。
【0020】
1-2.用語の定義
本明細書で使用する以下の用語について定義する。なお、特に断りのない限り、本項に記載の以下の定義は、本発明の他の態様においても共通する。
【0021】
(1)細胞
本明細書において発明の対象となる「細胞」は、浮遊培養が可能な接着性細胞である。「接着性細胞」とは、細胞間接着、又は細胞-基質間接着が可能な細胞をいい、この接着性細胞が細胞又は基質と接着することを「細胞接着」という。本明細書では、特に断りのない限り、細胞接着とは細胞間接着を指すものとする。
【0022】
本明細書における細胞は、多細胞生物に由来する細胞であればよい。好ましくは動物由来細胞、より好ましくは哺乳動物由来細胞である。例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜又は愛玩動物、そしてヒト、アカゲザル、ゴリラ、チンパンジー等の霊長類が挙げられる。特に好ましくは、ヒト由来細胞である。
【0023】
本明細書における細胞の種類は、限定はしない。例えば、生体組織に由来する細胞、生体組織に由来する細胞から派生した細胞、幹細胞、又は幹細胞から分化した細胞が挙げられる。
【0024】
本明細書において「生体組織」とは、生物の生体を構成する各種組織をいう。例えば、上皮組織、結合組織、筋組織、及び神経組織等が挙げられる。
【0025】
「幹細胞(stem cell)」とは、様々な細胞への分化能、及び自己複製能を持つ細胞をいう。例えば、成体幹細胞、及び多能性幹細胞等が挙げられる。
【0026】
「成体幹細胞(adult stem cell)」とは、成体の各組織中に存在し、最終分化が未完了で、ある程度の多分化能を有する幹細胞であって、体性幹細胞(somatic stem cell)又は組織性幹細胞(tissue stem cell)とも呼ばれる。例えば、間葉系幹細胞、神経幹細胞、腸管上皮幹細胞、造血幹細胞、毛包幹細胞、色素幹細胞等が挙げられる。「間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells;MSCs)」とは、主に骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞等の間葉系に属する細胞への分化能を有する細胞である。「神経幹細胞」とは、主に神経細胞、及びグリア細胞への分化能を有する細胞である。「腸管上皮幹細胞」とは、主に小腸や大腸等の消化管内壁を構成する上皮細胞への分化能を有する細胞である。「造血幹細胞」とは、主に赤血球、白血球、血小板等の血液細胞への分化能を有する細胞である。「毛包幹細胞」とは、毛幹細胞及び毛根鞘細胞等の毛包上皮性細胞の他、脂腺細胞、基底細胞への分化能を有する細胞である。そして、「色素幹細胞」とは、主に色素細胞への分化能を有する細胞である。
【0027】
「多能性幹細胞」とは、生体を構成する全ての種類の細胞に分化することができる多分化能(多能性)を有し、適切な条件下のインビトロ(in vitro)での培養において多能性を維持したまま無限に増殖を続けることができる細胞をいう。例えば、胚性幹細胞(ES細胞:embryonic stem cell)、胚性生殖幹細胞(EG細胞:embryonic germ cell)、生殖系幹細胞(GS細胞:Germline stem cell)、そして人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cells)等が挙げられる。「ES細胞」とは、初期胚より調製された多能性幹細胞である。「EG細胞」とは、胎児の始原生殖細胞より調製された多能性幹細胞である(Shamblott M.J. et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 95:13726-13731)。「GS細胞」とは、細胞精巣より調製された多能性幹細胞である(Conrad S., 2008, Nature, 456: 344-349)。また、「iPS細胞」とは、分化済みの体細胞に少数の初期化因子をコードする遺伝子を導入することによって体細胞を未分化状態にするリプログラミングが可能となった多能性幹細胞をいう。
【0028】
本明細書で使用する多能性幹細胞は、市販の細胞又は分譲を受けた細胞を用いてもよいし、新たに作製した細胞を用いてもよい。なお、限定はしないが、本明細書の各発明に用いる場合、多能性幹細胞は、iPS細胞又はES細胞が好ましい。
【0029】
本明細書で使用するiPS細胞が市販品の場合、限定はしないが、例えば253G1株、201B6株、201B7株、409B2株、454E2株、HiPS-RIKEN-1A株、HiPS-RIKEN-2A株、HiPS-RIKEN-12A株、Nips-B2株、TkDN4-M株、TkDA3-1株、TkDA3-2株、TkDA3-4株、TkDA3-5株、TkDA3-9株、TkDA3-20株、hiPSC 38-2株、MSC-iPSC1株、BJ-iPSC1株、RPChiPS771-2株、1231A3株、1210B2株、1383D2株、1383D6株等を使用することができる。また、新たに作製された臨床グレードのiPS細胞を用いてもよい。
【0030】
また、本明細書で使用するiPS細胞が新たに作製された細胞の場合、導入される初期化因子の遺伝子の組み合わせは、限定はしないが、例えばOCT3/4遺伝子、KLF4遺伝子、SOX2遺伝子及びc-Myc遺伝子の組み合わせ(Yu J, et al. 2007, Science, 318:1917-20.)、OCT3/4遺伝子、SOX2遺伝子、LIN28遺伝子及びNanog遺伝子の組み合わせ(Takahashi K, et al. 2007, Cell,131:861-72.)を使用することができる。これらの因子の細胞への導入形態は特に限定されないが、例えば、プラスミドを用いた遺伝子導入、合成RNAの導入、タンパク質として直接導入などが挙げられる。また、microRNAやRNA、低分子化合物等を用いた方法で作製されたiPS細胞を用いてもよい。さらに、新たに作製された臨床グレードのiPS細胞を用いてもよい。
【0031】
本明細書で使用するES細胞が市販品の場合、限定はしないが、例えばKhES-1株、KhEs-2株、KhEs-3株、KhEs-4株、KhEs-5株、SEES1株、SEES2株、SEES3株、SEES-4株、SEEs-5株、SEEs-6株、SEEs-7株、HUES8株、CyT49株、H1株、H9株、HS-181株等を使用することができる。
【0032】
また、本発明における細胞の種類としては、細胞外マトリックスやカドヘリン等によってプラスチックや細胞などに接着することができる細胞であれば特に限定されないが、例えば、上述した多能性幹細胞(人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、精巣由来の多能性幹細胞であるGS細胞、胎児の始原生殖細胞由来のEG細胞、骨髄等に由来するMuse細胞等)、体性幹細胞(骨髄、脂肪組織、歯髄、胎盤、卵膜、臍帯血、羊膜、絨毛膜等に由来する間葉系幹細胞、神経幹細胞等)、神経細胞、心筋細胞、心筋前駆細胞、肝細胞、肝臓前駆細胞、α細胞、β細胞、繊維芽細胞、軟骨細胞、角膜細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、周細胞等が例示でき、前記細胞は遺伝子導入された形態やゲノム上の対象遺伝子などをノックダウンされた形態でもよい。
【0033】
本発明では、接着又は浮遊させながら培養した後に単離された細胞を用いることができる。ここで「単離された細胞」とは、複数の細胞が集団として接着している細胞を剥離、分散した状態の前記細胞である。単離とは、培養容器や培養担体等に接着していた状態の細胞又は細胞同士が接着している状態の細胞集団を剥離、分散して単一の細胞にする工程である。単離する細胞集団は液体培地中に浮遊した状態であってもよい。単離の方法は特に限定されないが、剥離剤(トリプシン又はコラゲナーゼ等の細胞剥離酵素)又はEDTA(エチレンジアミン四酢酸)等のキレート剤又は剥離剤とキレート剤の混合物等を好適に使用することができる。剥離剤は特に限定されないが、トリプシン、Accutase(商標登録)、TrypLETM Express Enzyme(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、TrypLETM Select Enzyme(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、ディスパーゼ(商標登録)、コラゲナーゼなどが挙げられる。単離後に凍結保存した前記細胞も本発明で好適に使用することができる。
【0034】
(2)細胞凝集
本明細書において「細胞凝集」とは、複数の細胞が三次元的に集合して、集塊を形成することをいう。異なる細胞による凝集と同一細胞による凝集があるが、本明細書ではいずれの凝集も包含する。同一細胞による凝集は、1つの細胞の増殖によって集塊が形成される場合も含む。細胞凝集の機構としては、限定はしないが、膜タンパク質や細胞膜の細胞間での非特異的な吸着、細胞表面のカドヘリンを介した細胞間の接着等が挙げられる。
【0035】
本明細書において「細胞凝集塊」とは、細胞凝集によって形成される塊状の細胞集団であって、スフェロイドとも呼ばれる。細胞凝集塊は、通常、略球状を呈する。細胞凝集塊を構成する細胞は、1種類以上の前記細胞であれば特に限定されない。例えば、ヒト人工多能性幹細胞又はヒト胚性幹細胞等の多能性幹細胞で構成された細胞凝集塊は、多能性幹細胞マーカーを発現している及び/又は多能性幹細胞マーカーが陽性を呈する細胞を含む。
【0036】
多能性幹細胞マーカーは、多能性幹細胞で特異的に又は過剰に発現している遺伝子マーカーで、例えば、Alkaline Phosphatase、NANOG、OCT4、SOX2、TRA-1-60、c-Myc、KLF4、LIN28、SSEA-4、SSEA-1等が例示できる。
【0037】
本明細書において「細胞(の)凝集(を)抑制(する)」とは、細胞凝集作用を抑制し、それにより細胞凝集塊の形成又は増大を抑制することをいう。本明細書において「細胞凝集抑制剤」とは、細胞凝集を抑制する効果を有する薬剤をいう。
【0038】
本明細書において「細胞(の)凝集(を)促進(する)」とは、細胞凝集作用を促進し、それにより細胞凝集塊の形成又は増大を促進することをいう。本明細書において「細胞凝集促進剤」とは、細胞凝集を促進する効果を有する薬剤をいう。
【0039】
(3)PKC阻害剤
「PKC」(プロテインキナーゼC)は、基質タンパク質のセリン残基及びスレオニン残基のヒドロキシル基をリン酸化するタンパク質キナーゼの一種である。少なくとも11種類のアイソザイムが存在し、大きなファミリーを形成している。PKCは、細胞増殖や細胞死、遺伝子の転写及び翻訳、細胞の形態、細胞間接触等、多くの細胞機能の制御に関与している。
【0040】
本明細書において「PKC阻害剤」とは、PKCのシグナルを阻害する作用を有する薬剤をいう。
【0041】
様々なPKC阻害剤が知られているが、本明細書におけるPKC阻害剤としては、PKCのアイソザイム11種類のうち少なくとも1つを阻害する作用を有する薬剤であれば、特に限定はしない。例えば、Goe6983(3-[1-[3-(Dimethylamino)propyl]-5-methoxy-1H-indol-3-yl]-4-(1H-indol-3-yl)-1H-pyrrole-2,5-dione)、GF109203X(2-[1-(3-Dimethylaminopropyl)indol-3-yl]-3-(indol-3-yl) maleimide)、LY-333531((9S)-9-[(Dimethylamino)methyl]-6,7,10,11-tetrahydro-9H,18H-5,21:12,17-dimethenodibenzo[e,k]pyrrolo[3,4-h][1,4,13]oxadiazacyclohexadecine-18,20(19H)-dione hydrochloride)、Staurosporine([9S-(9α,10β,11β,13α)]-2,3,10,11,12,13-Hexahydro-10-methoxy-9-methyl-11-(methylamino)-9,13-epoxy-1H,9H-diindolo[1,2,3-gh:3’,2’,1’-lm]pyrrolo[3,4-j][1,7]benzodiazonin-1-one)、Enzastaurin(3-(1-Methyl-1H-indol-3-yl)-4-[1-[1-(2-pyridinylmethyl)-4-piperidinyl]-1H-indol-3-yl]-1H-pyrrole-2,5-dione)、Sotrastaurin(3-(1H-indol-3-yl)-4-(2-(4-methylpiperazin-1-yl)quinazolin-4-yl)-1H-pyrrole-2,5-dione)、Ro 31-8220 mesylate(methanesulfonic acid;3-[3-[4-(1-methylindol-3-yl)-2,5-dioxopyrrol-3-yl]indol-1-yl]propyl carbamimidothioate)、Ro 32-0432 hydrochloride(3-[(8S)-8-[(Dimethylamino)methyl]-6,7,8,9-tetrahydropyrido[1,2-a]indol-10-yl]-4-(1-methyl-1H-indol-3-yl)-1H-pyrrole-2,5-dione hydrochloride)、Goe6976(5,6,7,13-Tetrahydro-13-methyl-5-oxo-12H-indolo[2,3-a]pyrrolo[3,4-c]carbazole-12-propanenitrile)、ZIP、Rottlerin(3’-[(8-Cinnamoyl-5,7-dihydroxy-2,2-dimethyl-2H-1-benzopyran-6-yl)methyl]-2’,4’,6’-trihydroxy-5’-methylacetophenone)、K252a((9S,10R,12R)-2,3,9,10,11,12-Hexahydro-10-hydroxy-9-methyl-1-oxo-9,12-epoxy-1H-diindolo[1,2,3-fg:3’,2’,1’-kl]pyrrolo[3,4-i][1,6]benzodiazocine-10-carboxylic acid methyl ester)、Baicalein(5,6,7-Trihydroxy-2-phenyl-(4H)-1-benzopyran-4-one)、Quercetin(2-(3,4-Dihydroxyphenyl)-3,5,7-trihydroxy-4H-1-benzopyran-4-one)、Luteolin(2-(3,4-Dihydroxyphenyl)-5,7-dihydroxy-4H-1-benzopyran-4-one)、Bisindolylmaleimide II(3-(1H-Indol-3-yl)-4-[1-[2-(1-methyl-2-pyrrolidinyl)ethyl]-1H-indol-3-yl]-1H-pyrrole-2,5-dione)、Calphostin C((1R)-2-[12-[(2R)-2-(Benzoyloxy)propyl]-3,10-dihydro-4,9-dihydroxy-2,6,7,11-tetramethoxy-3,10-dioxo-1-perylenyl]-1-methylethylcarbonic acid 4-hydroxyphenyl ester)、Chelerythrine chloride(1,2-Dimethoxy-12-methyl[1,3]benzodioxolo[5,6-c]phenanthridinium chloride)、L-threo Dihydrosphingosine、Melittin、Midostaurin、Daphnetin、Dequalinium Chloride、PKC-theta inhibitor、及び2-Methoxy-1,4-naphthoquinone等、及びそれらの誘導体、並びにPKCに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例えば、miRNA、siRNA、shRNA)、ドミナントネガティブ変異体、及びそれらの発現ベクター等を使用することができる。
【0042】
PKC阻害剤としては、1種又は2種以上のPKC阻害剤を使用することができる。
【0043】
上記のGoe6983の構造式は以下の通りである。
【化1】
【0044】
上記のGF109203Xの構造式は以下の通りである。
【化2】
【0045】
上記のLY-333531の構造式は以下の通りである。
【化3】
【0046】
上記のStaurosporineの構造式は以下の通りである。
【化4】
【0047】
PKC阻害剤は、特に好ましくは、Goe6983、GF109203X、LY-333531及びStaurosporineから選択される1以上である。
【0048】
(4)培養及び培地
本明細書において「浮遊培養」とは、細胞培養方法の一つで、培地中で細胞を浮遊状態で増殖させることをいう。本明細書において「浮遊状態」とは、培養容器等の外部マトリクスに対して細胞が非接着の状態をいう。「浮遊培養法」は、細胞を浮遊培養する方法であって、この方法での細胞は、培養液中で凝集した細胞塊で存在する。限定はしないが、本明細書では、細胞を三次元的に培養して大量生産するための方法として使用される。浮遊培養法に対する他の培養方法として、接着培養法がある。「接着培養法」は、細胞を接着培養する方法である。「接着培養」とは、細胞を培養容器等の外部マトリクス等に接着させて、原則単層で増殖させることをいう。本発明で細胞凝集塊を製造し、またそのサイズを調節するために、対象となる培養法は、浮遊培養法である。ただし、維持培養で使用される培養法は、この限りではない。なお、前述の接着性細胞は、通常、接着培養のみならず、浮遊培養での培養も可能である。
【0049】
本明細書において「培地」とは、細胞を培養するために調製された液状又は固形状の物質をいう。原則として、細胞の増殖及び/又は維持に不可欠の成分を必要最小限以上含有する。本明細書の培地は、特に断りがない限り、動物由来細胞の培養に使用する動物細胞用の液体培地が該当する。
【0050】
本明細書において「基礎培地」とは、様々な動物細胞用培地の基礎となる培地をいう。単体でも培養は可能であり、また様々な培養添加物を加えて、目的に応じた各種細胞に特異的な培地に調製することもできる。本明細書で使用する基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’S Modified Dulbecco’S Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地(Dulbecco’S Modified Eagle’S Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’S培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’S Modified Eagle’S Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。DMEM/F12培地としては特に、DMEM培地とハムF12培地の重量比を好ましくは60/40以上40/60以下の範囲、より好ましくは55/45以上45/55以下の範囲、例えば58/42、55/45、52/48、50/50、48/52、45/55、又は42/58等で混合した培地を用いる。その他、ヒトiPS細胞やヒトES細胞の培養に使用されている培地も好適に使用することができる。
【0051】
ヒト多能性幹細胞の培養用に調製された市販の培地、例えば、Essential 8TM(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)やStemFit(登録商標)AK02N(味の素株式会社)を使用することもできる。
【0052】
本発明で用いる培地は、好ましくは血清を含まない培地、すなわち無血清培地である。あるいは、本発明で用いる培地は、血清代替品(Serum Replacement)を含む培地である。血清代替品の例としては、KnockOutTM Serum Replacement(KSR)(Gibco)を挙げることができる。
【0053】
本明細書において「培養添加物」とは、培養目的で培地に添加される血清以外の物質である。細胞凝集の抑制又は促進、及び分化誘導の目的で添加される物質は、培養添加物には含まない。培養添加物の具体例として、限定はしないが、L-アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、セレン、炭酸水素ナトリウム、増殖因子、ROCK阻害剤、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、サイトカイン、抗酸化剤、2-メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、抗生剤等が挙げられる。
【0054】
インスリン、トランスフェリン、及びサイトカインは、動物(好ましくは、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ヤギ等)の組織又は血清等から分離した天然由来のものであってもよいし、遺伝子工学的に作製した組換えタンパク質であってもよい。
【0055】
増殖因子は、限定するものではないが、例えば、FGF2(Basic fibroblast growth factor-2)、TGF-β1(Transforming growth factor-β1)、Activin A、IGF-1、MCP-1、IL-6、PAI、PEDF、IGFBP-2、LIF及びIGFBP-7を使用することができる。抗生剤は、限定するものではないが、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB等を使用することができる。本発明で用いる培地の培養添加物として、特に好ましい増殖因子は、FGF2及び/又はTGF-β1である。
【0056】
ROCK阻害剤は、Rho-キナーゼ(ROCK,Rho-associated protein kinase)のキナーゼ活性を阻害する薬剤である。ROCKは、低分子量GTP結合タンパク質Rhoの標的分子として同定されたセリン-スレオニンキナーゼであり、細胞質に存在し、平滑筋収縮や細胞の形態等の様々な生理機能に関与している。なお、ROCKは、RHO-ROCKシグナル伝達経路を活性し、下流のアポトーシス活性に作用する。細胞培養では、アポトーシスを抑制するためにもROCK阻害剤が添加される。
【0057】
ROCK阻害剤は、限定するものではないが、例えば、Y-27632(4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-ピリジン-4-イルシクロヘキサン-1-カルボキサミド又はその塩(例えば2塩酸塩))(例えば、Ishizaki et al., Mol. Pharmacol. 57, 976-983 (2000);Narumiya et al., Methods Enzymol. 325,273-284 (2000)参照)、H-1152((S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピン又はその塩(例えば2塩酸塩))(例えば、Sasaki et al., Pharmacol. Ther. 93: 225-232 (2002)参照)、Fasudil/HA1077(1-(5-イソキノリンスルホニル)ホモピペラジン又はその塩(例えば2塩酸塩))(例えば、Uenata et al., Nature 389: 990-994 (1997)参照)、Wf-536((+)-(R)-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)ベンズアミド1塩酸塩)(例えば、Nakajima et al., CancerChemother. Pharmacol. 52(4): 319-324 (2003)参照)、Y39983(4-[(1R)-1-Aminoethyl]-N-1H-pyrrolo[2、3-b]pyridin-4-ylbenzamide dihydrochloride)、SLx-2119(2-[3-[4-(1H-indazol-5-ylamino)-2-quinazolinyl]phenoxy]-N-(1-methylethyl)-acetamide)、Azabenzimidazole-aminofurazans、DE-104、XD-4000、HMN-1152、4-(1-aminoalkyl)-N-(4-pyridyl)cyclohexane-carboxamides、Rhostatin、BA-210、BA-207、BA-215、BA-285、BA-1037、Ki-23095、VAS-012(例えば、James K. Liao et al., J Cardiovasc Pharmacol. 2007 Jul;50(1):17-24.)及びそれらの誘導体、並びにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例えば、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、及びそれらの発現ベクターが挙げられる。また、ROCK阻害剤としては他の低分子化合物も知られており、本発明においてはこのような化合物又はそれらの誘導体もROCK阻害剤として使用できる(例えば、米国特許出願公開第2005/0209261号、同第2005/0192304号、同第2004/0014755号、同第2004/0002508号、同第2004/0002507号、同第2003/0125344号、同第2003/0087919号、及び国際公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、同第2004/039796号参照)。ROCK阻害剤としては、1種又は2種以上のROCK阻害剤を使用することができる。
【0058】
上記の、4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-ピリジン-4-イルシクロヘキサン-1-カルボキサミドの構造式は以下の通りである。
【化5】
【0059】
また、上記の(S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピンの構造式は以下の通りである。
【化6】
【0060】
ROCK阻害剤は、特に好ましくは、Y-27632及びH-1152から選択される1以上であり、最も好ましくは、Y-27632である。Y-27632及びH-1152は、それぞれ、水和物の形態で用いられてもよい。
【0061】
本発明で用いる培地は、前記培養添加物を1種以上含むことができる。前記培養添加物を添加する培地は、限定はしないが、前記基礎培地が一般的である。
【0062】
培養添加物は、溶液、誘導体、塩又は混合試薬等の形態で培地に添加することができる。例えば、L-アスコルビン酸は、2-リン酸アスコルビン酸マグネシウム等の誘導体の形態で培地に添加してもよく、セレンは亜セレン酸塩(亜セレン酸ナトリウム等)の形態で培地に添加してもよい。また、インスリン、トランスフェリン、及びセレンに関しては、ITS試薬(インスリン-トランスフェリン-セレン)の形態で培地に添加することもできる。また、L-アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、セレン及び炭酸水素ナトリウムから選択される少なくとも1つが既に添加された市販の培地を使用することもできる。インスリン及びトランスフェリンを添加した市販の培地としては、CHO-S-SFM II(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、Hybridoma-SFM(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、eRDF Dry Powdered Media(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、UltraCULTURETM(BioWhittaker社)、UltraDOMATM(BioWhittaker社)、UltraCHOTM(BioWhittaker社)、UltraMDCKTM(BioWhittaker社)、STEMPRO(登録商標) hESC SFM(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、mTeSR1(Veritas社)、及びTeSR2(Veritas社)等が挙げられる。
【0063】
なお、本発明で用いる培地として最も好ましいものは、L-アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、セレン、炭酸水素ナトリウム、少なくとも1つの増殖因子、並びにROCK阻害剤を含む無血清培地である。特に好ましくは、L-アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、セレン及び炭酸水素ナトリウム、FGF2及び/又はTGF-β1、並びにY-27632を含み、分化誘導因子及び血清を含まないDMEM/F12培地である。
【0064】
1-3.構成
本態様の細胞凝集促進剤は、細胞の浮遊培養用の薬剤であって、細胞凝集を促進する必須の有効成分としてPKC阻害剤を含む。
【0065】
本態様の細胞凝集促進剤に含まれるPKC阻害剤は、1種であってもよいが異なる2種以上の組み合わせであってもよい。例えば、一つの細胞凝集促進剤に含まれるPKC阻害剤として、Goe6983、GF109203X、LY-333531又はStaurosporineのみを含んでいてもよいし、Goe6983、GF109203X、LY-333531及びStaurosporineのうち2種以上を含んでいてもよい。2種以上の組み合わせの場合、細胞凝集促進剤中に予め適当な比率で混合されたものを培地等に配合して使用してもよいし、使用時に適当な比率で混合して培地などに配合して使用してもよい。
【0066】
細胞凝集促進剤が組成物の場合、細胞凝集促進剤に含まれるPKC阻害剤の含有濃度は、細胞凝集促進剤としての効果を奏すれば特に限定されない。PKC阻害剤の種類に応じて適宜定めればよい。例えば、含有量の下限は、その細胞凝集促進剤を最低で約2倍希釈して使用すると仮定して、後述する実施例3の結果から明らかとなった細胞凝集を促進可能な最低濃度である30nMの約2倍である50nM以上、好ましくは60nM以上、70nM以上、80nM以上、90nM以上、100nM以上、200nM以上、600nM以上、2μM以上、6μM以上、20μM以上、50μM以上、100μM以上、500μM以上、1mM以上、2mM以上、5mM以上、又は10mM以上であればよい。また、含有量の上限は、PKC阻害剤の溶解度である200mM以下、好ましくは150mM以下、100mM以下、50mM以下、40mM以下、30mM以下、又は20mM以下であればよい。
【0067】
本態様の細胞凝集促進剤は、PKC阻害剤に加えて、細胞凝集を促進する他の薬剤を有効成分として含んでいてもよい。
【0068】
本態様の細胞凝集促進剤が、組成物の場合、有効成分であるPKC阻害剤以外の組成成分として担体を含むことができる。担体には、溶媒及び/又は賦形剤が含まれる。
【0069】
細胞凝集促進剤の溶媒として、水、バッファ(PBSを含む)、生理食塩水、有機溶媒(DMSO、DMF、キシレン、低級アルコール)等が挙げられる。
【0070】
また、細胞凝集促進剤の賦形剤として、抗生剤、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定化剤、界面活性剤、乳化剤、防腐剤、保存剤、抗酸化剤等も含有していてもよい。抗生剤は特に限定されないが、例えばペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB等を使用することができる。緩衝剤としては、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、グリシン緩衝液などが挙げられる。増粘剤としては、ゼラチン、多糖類などが挙げられる。着色剤としては、フェノールレッドなどが挙げられる。安定化剤としては、アルブミン、デキストラン、メチルセルロース、ゼラチンなどが挙げられる。界面活性剤としては、コレステロール、アルキルグリコシド、アルキルポリグルコシド、アルキルモノグリセリルエーテル、グルコシド、マルトシド、ネオペンチルグリコール系、ポリオキシエチレングリコール系、チオグルコシド、チオマルトシド、ペプチド、サポニン、リン脂質、脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸ジエタノールアミドなどが挙げられる。乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙がられる。防腐剤としては、アミノエチルスルホン酸、安息香酸、安息香酸ナトリウム、エタノール、エデト酸ナトリウム、カンテン、dl-カンフル、クエン酸、クエン酸ナトリウム、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸フェニル、ジブチルヒドロキシトルエン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、窒素、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、2-ナフトール、白糖、ハチミツ、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、l-メントール、ユーカリ油などが挙げられる。保存剤としては、安息香酸、安息香酸ナトリウム、エタノール、エデト酸ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、クエン酸、グリセリン、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、D-ソルビトール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、プロピレングリコール、リン酸などが挙げられる。抗酸化剤としては、クエン酸、クエン酸誘導体、ビタミンC及びその誘導体、リコペン、ビタミンA、カロテノイド類、ビタミンB及びその誘導体、フラボノイド類、ポリフェノール類、グルタチオン、セレン、チオ硫酸ナトリウム、ビタミンE及びその誘導体、αリポ酸及びその誘導体、ピクノジェノール、フラバンジェノール、スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、グルタチオン還元酵素、カタラーゼ、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0071】
本態様の細胞凝集促進剤が、組成物の場合、他の薬理効果や作用効果を有する化合物を含んでいてもよい。これらは天然物、又は非天然物を問わない。非天然物の例として合成化合物が挙げられる。細胞凝集促進剤に含まれ得る合成化合物の具体例としては、アポトーシス抑制用として使用されるROCK阻害剤のY-27632、H-1152等が挙げられる。
【0072】
また、本態様の細胞凝集促進剤は、増殖因子を含有してもよく、好ましくはFGF2及びTGF-β1の1種以上の増殖因子を含有していることが好ましい。
【0073】
細胞凝集促進剤の適用形態は特に限定されない。例えば、PKC阻害剤自体であってもよいし、浮遊培養に用いる培地の形態であってもよいし、浮遊培養用の培地の調製時に配合される添加物の形態であってもよい。なお、細胞凝集促進剤の適用対象は、浮遊培養法により培養する細胞である。
【0074】
1-4.効果
本発明の細胞凝集促進剤によれば、浮遊培養系において細胞の凝集を適度に促進し、略均一な大きさの細胞凝集塊を形成することができる。また、本発明の細胞凝集促進剤を用いた幹細胞の浮遊培養では、幹細胞の未分化状態を維持することができる。
【0075】
2.細胞凝集促進方法
2-1.概要
本発明の第2の態様は、細胞凝集促進方法である。本発明の細胞凝集促進方法は、第1態様の細胞凝集促進剤又はその有効成分を含む培地で細胞を浮遊培養することによって、培養液中の細胞の凝集を促進する方法である。本発明の細胞凝集促進方法によれば、浮遊培養系において細胞の凝集を促進することができる。
【0076】
2-2.方法
本態様の方法の基本工程は、浮遊培養工程を必須の工程として、また、維持培養工程並びに回収工程を選択工程として含む。以下、それぞれの工程について、説明をする。
【0077】
2-2-1.維持培養工程
「維持培養工程」は、浮遊培養工程前の細胞集団、又は浮遊培養工程後、若しくはその後の回収工程後に得られる細胞凝集塊を、未分化状態を維持して細胞を増殖させるために培養する、本発明における選択工程である。維持培養は、当該分野で既知の動物細胞培養法を利用することができる。例えば、細胞を容器、担体等培養基材に接着させながら培養する接着培養であってもよいし、細胞を培地中で浮遊させながら培養する浮遊培養であってもよい。
【0078】
以下、限定はしないが、本工程をはじめ、後述する浮遊培養工程で用いる動物細胞培養法について例示し、説明をする。
【0079】
(1)細胞
本工程で使用する細胞は、浮遊培養において細胞凝集が可能な細胞である。前述の「1-2.用語の定義」における「培養及び培地」の項で記載したように、動物細胞が好ましく、ヒト細胞はより好ましい。また、細胞の種類は、幹細胞が好ましく、iPS細胞やES細胞のような多能性幹細胞は特に好ましい。
【0080】
(2)培養容器
培養に用いる培養容器は、容器内面への細胞の接着性が低い容器が好ましい。容器内面への細胞の接着性が低い容器としては、例えば生体適合性がある物質で親水性表面処理されているようなプレートが挙げられる。例えば、NunclonTM Sphera(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を培養容器として使用できる。
【0081】
培養容器の形状は特に限定されないが、例えば、ディッシュ状、フラスコ状、ウェル状、バッグ状、スピナーフラスコ状等の形状の培養容器が挙げられる。
【0082】
使用する培養容器の容量は適宜選択することができ特に限定されないが、培地を収容する部分の底面を平面視したときの面積の下限が、0.32cm2以上、0.65cm2以上、1.9cm2以上、3.0cm2以上、3.5cm2以上、9.0cm2以上、又は9.6cm2以上で、上限が、1000cm2以下、500cm2以下、300cm2以下、150cm2以下、75cm2以下、55cm2以下、25cm2以下、21cm2以下、9.6cm2以下、又は3.5cm2以下であることが好ましい。
【0083】
(3)培地
本工程で使用する培地は、分化誘導因子を含まない液体培地であることが好ましい。
培地や培養液の量は、使用する培養容器によって適宜調整すればよい。例えば12ウェルプレート(平面視でのウェル底面の面積が1ウェルあたり3.5cm2)を使用する場合は、1ウェルあたりの量を0.5mL以上、1.5mL以下、好ましくは約1.3mLとすることができる。また、6ウェルプレート(平面視でのウェル底面の面積が1ウェルあたり9.6cm2)を使用する場合には、1ウェルあたりの量を下限は1.5mL以上、2mL以上、又は3mL以上とすることができ、また上限は6.0mL以下、5mL以下、4mL以下とすることができる。さらに、125mL三角フラスコ(容量が125mLの三角フラスコ)を使用する場合は、容器当たりの量を下限は10mL以上、15mL以上、20mL以上、25mL以上、20mL以上、25mL以上、又は30mL以上とすることができ、また上限は50mL以下、45mL以下、又は40mL以下とすることができる。また、容量が500mLの三角フラスコを使用する場合は、容器当たりの量を下限は100mL以上、105mL以上、110mL以上、115mL以上、又は120mL以上とすることができ、また上限は150mL以下、145mL以下、140mL以下、135mL以下、130mL以下、又は125mL以下とすることができる。さらに、容量が1000mLの三角フラスコを使用する場合は、容器当たりの量を下限は250mL以上、260mL以上、270mL以上、280mL以上、又は290mL以上とすることができ、また上限は350mL以下、340mL以下、330mL以下、320mL以下、又は310mL以下とすることができる。例えば容量が2000mLの三角フラスコを使用する場合は、容器当たりの量を下限は500mL以上、550mL以上、600mL以上とすることができ、また上限は1000mL以下、900mL以下、800mL以下、700mL以下とすることができる。容量が3000mLの三角フラスコを使用する場合は、容器当たりの量を下限は1000mL以上、1100mL以上、1200mL以上、1300mL以上、1400mL以上、1500mL以上とすることができ、また上限は2000mL以下、1900mL以下、1800mL以下、1700mL以下、1600mL以下とすることができる。さらに、例えば容量が2Lのディスポーザブル培養バッグを使用する場合は、1バッグ当たりの量を下限は100mL以上、200mL以上、300mL以上、400mL以上、500mL以上、600mL以上、700mL以上、800mL以上、900mL以上、又は1000mL以上とすることができ、上限は2000mL以下、1900mL以下、1800mL以下、1700mL以下、1600mL以下、1500mL以下、1400mL以下、1300mL以下、1200mL以下、又は1100mL以下とすることができる。また、容量が10Lのディスポーザブル培養バッグを使用する場合は、1バッグ当たりの量を下限は500mL以上、1L以上、2L以上、3L以上、4L以上、又は5L以上とすることができ、上限は10L以下、9L以下、8L以下、7L以下、又は6L以下とすることができる。例えば容量が20Lのディスポーザブル培養バッグを使用する場合は、1バッグ当たりの量を下限は1L以上、2L以上、3L以上、4L以上、5L以上、6L以上、7L以上、8L以上、9L以上、10L以上とすることができ、上限は20L以下、19L以下、18L以下、17L以下、16L以下、15L以下、14L以下、13L以下、12L以下、11L以下とすることができる。例えば容量が50Lのディスポーザブル培養バッグを使用する場合は、1バッグ当たりの量を下限は1L以上、2L以上、5L以上、10L以上、15L以上、20L以上、25L以上とすることができ、上限は50L以下、45L以下、40L以下、35L以下、30L以下とすることができる。
【0084】
後述する第3態様の細胞凝集塊製造方法では、培地又は培養液量を前記範囲とすることで、適切なサイズの細胞凝集塊を製造することが容易となるため好ましい。
【0085】
(4)播種密度
培養に際して、新たな培地に播種する細胞の密度(播種密度)は、培養時間や培養後の細胞状態、培養後に必要な細胞数を勘案して適宜調整することができる。限定はしないが、通常、下限は0.01×105 cells/mL以上、0.1×105 cells/mL以上、又は1×105 cells/mL以上、そして、上限は20×105 cells/mL以下、又は10×105cells/mL以下の範囲にあればよい。後述する第3態様の細胞凝集塊製造方法では、播種密度をこの範囲にしたときに、適切な大きさの細胞凝集塊が形成され易いため好ましい。
【0086】
(5)培養条件
培養温度、時間、CO2濃度等の培養条件は特に限定しない。当該分野における常法の範囲で行えばよい。例えば培養温度は下限が20℃以上、又は35℃以上、そして上限が45℃以下、又は40℃以下であればよいが、好ましくは37℃である。また、培養時間は下限が0.5時間以上、6時間以上、12時間以上、そして上限が7日間以下、120時間以下、96時間以下、72時間以下、48時間以下、24時間以下の範囲にあればよい。培養時のCO2濃度は、下限が4%以上、又は4.5%以上、そして上限が10%以下、又は5.5%以下であればよいが、好ましくは5%である。また、適当な頻度で培地交換を行うことができる。培地交換の頻度は培養する細胞種によって異なるが、例えば、5日に1回以上、4日に1回以上、3日に1回以上、2日に1回以上、1日に1回以上、又は1日に2回以上で行えばよいがそれらに限定されない。培地交換は、回収工程と同様の方法で細胞を回収した後、新鮮な培地を添加し、穏やかに細胞凝集塊を分散させた後、再度培養すればよい。なお、培地交換の頻度や方法等については、上記の頻度や方法には限定されず、適宜最適な方法を採用すればよい。
【0087】
(6)培養方法
培養中の培地の流動状態は問わない。静置培養でもよいし、流動培養でもよいが、好ましくは流動培養である。
【0088】
「静置培養」とは、培養容器内で培地を静置した状態で培養することをいう。接着培養では、通常、この静置培養が採用される。
【0089】
「流動培養」とは、培地を流動させる条件下で培養することをいう。流動培養の場合、細胞の凝集を促進するように培地を流動させる方法が好ましい。そのような培養方法として、例えば、旋回培養法、揺動培養法、撹拌培養、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0090】
「旋回培養法」(振盪培養法を含む)とは、旋回流による応力(遠心力、求心力)により細胞が一点に集まるように培地が流動する条件で培養する方法をいう。具体的には、細胞を含む培地を収容した培養容器を概ね水平面に沿って円、楕円、扁平した円、扁平した楕円等の閉じた軌道を描くように旋回させることにより行う。
【0091】
旋回速度は特に限定されないが、下限は1rpm以上、10rpm以上、50rpm以上、60rpm以上、70rpm以上、80rpm以上、85rpm以上、又は90rpm以上とすることができる。一方、上限は200rpm以下、150rpm以下、120rpm以下、115rpm以下、110rpm以下、105rpm以下、100rpm以下、95rpm以下、又は90rpm以下とすることができる。旋回培養の際のシェーカーの振幅は特に限定されないが、下限は、例えば1mm以上、10mm以上、20mm以上、又は25mm以上とすることができる。一方、上限は、例えば200mm以下、100mm以下、50mm以下、30mm以下、又は25mm以下とすることができる。旋回培養の際のシェーカーの回転半径も特に限定されないが、好ましくは振幅が前記の範囲となるように設定される。回転半径の下限は例えば5mm以上又は10mm以上であり、上限は例えば100mm以下又は50mm以下とすることができる。特に、後述する第3態様の細胞凝集塊製造方法等では、旋回条件を前記範囲にすることで、適切なサイズの細胞凝集塊を製造することが容易となるため好ましい。
【0092】
「揺動培養法」とは、揺動(ロッキング)撹拌のような直線的な往復運動により培地に揺動流を付与する条件で培養する方法をいう。具体的には、細胞を含む培地を収容した培養容器を概ね水平面に垂直な平面内で揺動させることにより行う。揺動速度は特に限定されないが、例えば1往復を1回とした場合、下限は1分間に2回、4回、6回、8回、又は10回、一方、上限は1分間に15回、20回、25回、又は50回で揺動すればよい。揺動の際、垂直面に対して若干の角度、すなわち揺動角度を培養容器につけることが好ましい。揺動角度は特に限定されないが、例えば、下限は0°、0.1°、1°、2°、4°、6°、又は8°、一方、上限は20°、18°、15°、12°、又は10°とすることができる。後述する第3態様の細胞凝集塊製造方法等では、揺動条件を前記範囲とすることで、適切なサイズの細胞凝集塊を製造することが容易となるため好ましい。
【0093】
さらに、上記旋回と揺動とを組み合わせた運動により撹拌しながら培養することもできる。
【0094】
「撹拌培養法」とは、培養容器は静置させたままでスターラ―バーや撹拌翼のような撹拌子を用いて容器内の培地を撹拌する条件で培養する方法をいう。例えば、撹拌翼の付いたスピナーフラスコ状の培養容器を用いることで達成し得る。そのような培養容器は市販されており、それらを利用することもできる。市販のスピナーフラスコ状の培養容器であれば、細胞培養組成物の量として、メーカー推奨の量を好適に使用することができる。撹拌子の撹拌速度は特に限定されないが、下限は1rpm以上、10rpm以上、30rpm以上、50rpm以上、又は70rpm以上、90rpm以上、110rpm以上、130rpm以上とすることができる。一方、上限は200rpm以下、又は150rpm以下とすることができる。
【0095】
本工程で細胞の数をどこまで増やすか、また細胞の状態をどこに合わせるかについては、培養する細胞の種類、細胞凝集の目的、培地の種類や培養条件に応じて適宜定めればよい。
【0096】
(7)工程後処理
本工程後は、常法により培養液を廃棄し、細胞を回収する。この時、細胞は、剥離又は分散処理によって単一の細胞として回収することが好ましい。具体的な方法については、後述の回収工程で詳述する。回収した細胞は、そのまま、又は必要に応じてバッファ(PBSバッファを含む)、生理食塩水、又は培地(次の工程で使用する培地か基礎培地が好ましい)で洗浄後、次の工程に供すればよい。
【0097】
2-2-2.浮遊培養工程
「浮遊培養工程」は、第1態様に記載の細胞凝集促進剤又はその有効成分であるPKC阻害剤を含む培地中で細胞を浮遊培養する、本発明における必須の工程である。
【0098】
本工程での細胞培養方法は、基本的に前述の「2-2-1.維持培養工程」に記載の培養方法に準ずる。したがって、ここでは維持培養工程に既述の方法と共通する説明については省略し、本工程に特徴的な点についてのみ詳述する。
【0099】
(1)細胞
本工程で使用する細胞は、限定はしないが、維持培養工程後に調製された細胞が好ましい。細胞の種類も、維持培養工程に記載のように、幹細胞が好ましく、iPS細胞やES細胞のような多能性幹細胞は特に好ましい。また培地に播種する際の細胞の状態は、単一細胞の状態であることが好ましい。
【0100】
(2)培地
本工程は、PKC阻害剤を含む液体培地で培養することを最大の特徴とし、この点において、維持培養工程で使用する培地と相違する。培地の種類は、細胞を増殖及び/又は維持できる培地であれば、限定はしない。
【0101】
本工程で培地中に含まれるPKC阻害剤の濃度は、細胞凝集を促進することができ、かつ細胞に対する毒性がない又は低い濃度であれば、特に限定はされない。細胞の種類、播種した細胞数、培地の種類等の諸条件に応じて適宜調整すればよい。例えば、培地中に含まれるPKC阻害剤の濃度の下限は、細胞凝集促進剤としての効果を奏すれば特に限定されないが、好ましくは25nM以上、30nM以上、50nM以上、80nM以上、90nM以上、100nM以上、200nM以上、250nM以上、280nM以上、290nM以上、300nM以上、500nM以上、800nM以上、900nM以上、1μM以上、2μM以上、2.5μM以上、3μM以上、5μM以上、8μM以上、9μM以上、又は10μ以上であればよい。一方、上限は、細胞が死滅しない濃度であれば特に限定されないが、好ましくはPKC阻害剤の溶解度である200mM以下、好ましくは150mM以下、100mM以下、90mM以下、80mM以下、70mM以下、60mM以下、50mM以下、40mM以下、30mM以下、20mM以下、又は15mM以下であればよい。
【0102】
本工程で使用する培地は、PKC阻害剤に加えて他の細胞凝集促進活性を有する薬剤を含んでいてもよい。
【0103】
また、本工程で使用する培地は、好ましくは分化誘導因子を含まない。
【0104】
(3)培養方法
本工程では、浮遊培養を行う。したがって、培養方法は、培地を流動する流動培養が好ましい。PKC阻害剤を含む培地で目的の細胞を浮遊培養することによって、その細胞の凝集を促進することができる。
【0105】
2-2-3.回収工程
「回収工程」は、維持培養工程又は浮遊培養工程後の培養液から培養した細胞を回収する工程で、本発明の方法における選択工程である。
【0106】
本明細書において「(細胞の)回収」とは、培養液と細胞とを分離して細胞を取得することをいう。細胞の回収方法は、当該分野の細胞培養法で使用される常法に従えばよく、特に限定はしない。細胞培養方法は、一般に浮遊培養法と接着培養法に大別できる。以下、それぞれの培養後の細胞の回収方法について説明をする。
【0107】
(1)浮遊培養後の回収方法
浮遊培養法で培養した場合、細胞は培養液中に浮遊した状態で存在する。したがって、細胞の回収は、静置状態又は遠心分離により上清の液体成分を除去することで達成できる。また、濾過フィルターや中空糸分離膜等を用いて回収することもできる。静置状態で液体成分を除去する場合、培養液の入った容器を静置状態5分程度置き、沈降した細胞や細胞凝集塊を残して上清を除去すればよい。また遠心分離は、遠心力によって細胞がダメージを受けない遠心加速度と処理時間で行えばよい。例えば、遠心加速度の下限は、細胞を沈降できれば特に限定はされないが、例えば100×g以上、300×g以上、800×g以上、又は1000×g以上であればよい。一方、上限は細胞が遠心力によるダメージを受けない、又は受けにくい速度であればよく、例えば1600×g以下、1500×g以下、又は1400×g以下であればよい。また処理時間の下限は、上記遠心加速度により細胞を沈降できる時間であれば特に限定はされないが、例えば30秒以上、1分以上、3分以上、又は5分以上であればよい。また、上限は、上記遠心加速度により細胞がダメージを受けない、又は受けにくい時間であればよく、例えば10分以下、8分以下、6分以下、又は30秒以下であればよい。フィルトレーションで液体成分を除去する場合、例えば、不織布やメッシュフィルターに培養液を通して濾液を除去し、残った細胞凝集塊を回収すればよい。また、中空糸分離膜で液体成分を除去する場合、例えば、細胞濃縮洗浄システム(カネカ社)のような中空糸分離膜を備えた装置を用いて培養液と細胞を分離し、回収すればよい。
【0108】
回収した細胞は、必要に応じて洗浄することができる。洗浄方法は、限定しない。例えば前述の維持培養工程における「工程後処理」に記載の洗浄方法と同様に行えばよい。洗浄液には、バッファ(PBSバッファを含む)、生理食塩水、又は培地(基礎培地が好ましい)を使用すればよい。
【0109】
(2)接着培養方法後の回収方法
接着培養法で培養した場合、培養後、多くの細胞は培養容器や培養担体等の外部マトリクスに接着した状態で存在する。したがって、培養容器から培養液を除去するには、培養後の容器を静かに傾けて液体成分を流し出せばよい。外部マトリクスに接着した細胞が培養容器内に残るため、培養液と細胞を容易に分離することができる。
【0110】
その後、必要に応じて外部マトリクスに接着した細胞表面を洗浄することもできる。洗浄液には、バッファ(PBSバッファを含む)、生理食塩水、又は培地(基礎培地が好ましい)を使用すればよい。ただし、これらに限定はされない。洗浄後の洗浄液は、培養液と同様の操作で除去すればよい。この洗浄ステップは、複数回繰り返してもよい。
【0111】
続いて、外部マトリクスに接着した細胞集団を外部マトリクスから剥離する。剥離方法は、当該分野で公知の方法で行えばよい。通常は、スクレ―ピング、タンパク質分解酵素を有効成分とする剥離剤、EDTA等のキレート剤、又は剥離剤とキレート剤の混合物等が使用される。
【0112】
スクレ―ピングは、スクレーパー等を用いて外部マトリクスに付着した細胞を機械的手段によって剥ぎ取る方法である。ただし機械的操作により細胞が損傷を受けやすいため、回収後の細胞をさらなる培養に供する場合には、外部マトリクスに固着している細胞の足場部分を化学的に破壊又は分解し、外部マトリクスとの接着を解除する剥離方法が好ましい。
【0113】
剥離方法では、剥離剤及び/又はキレート剤を使用する。剥離剤は限定しないが、例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、プロナーゼ、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼの他、市販のAccutase(商標登録)、Accumax(商標登録)、TrypLETM Express Enzyme(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、TrypLETM Select Enzyme(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、ディスパーゼ(商標登録)等を利用することができる。各剥離剤の濃度及び処理時間は、細胞の剥離又は分散で用いられる常法の範囲で使用すればよい。例えば、トリプシンの場合、溶液中の濃度の下限は、細胞を剥離できる濃度であれば特に限定はされないが、例えば0.01体積%以上、0.02体積%以上、0.03体積%以上、0.04体積%以上、0.05体積%以上、0.08体積%以上、又は0.10体積%以上であればよい。一方、溶液中の濃度の上限は、トリプシンの作用によって細胞そのものが溶解される等の影響を受けない濃度であれば特に限定はされないが、例えば0.30体積%以下、0.25体積%以下、0.20体積%以下、又は0.15体積%以下であればよい。また処理時間は、トリプシンの濃度によって左右されるものの、その下限はトリプシンの作用によって外部マトリクスから細胞が十分に剥離される時間であれば特に限定はされず、例えば1分、2分、3分、4分又は5分であればよい。一方、処理時間の上限は、トリプシンの作用によって細胞そのものが溶解される等の影響を受けない時間であれば特に限定はされず、例えば20分、18分、15分、12分、10分、又は8分であればよい。他の剥離剤又はキレート剤の場合も、概ね同様に行えばよい。なお、市販の剥離剤を使用する場合には、添付のプロトコルに記載の濃度及び処理時間で行うことができる。
【0114】
外部マトリクスから剥離した細胞は、遠心分離により剥離剤を含む上清を除去する。遠心条件は、上記「浮遊培養後の回収方法」と同様でよい。回収した細胞は、必要に応じて洗浄することができる。洗浄方法も上記「浮遊培養後の回収方法」と同様に行えばよい。
【0115】
本工程後に得られた細胞は、単層細胞片や細胞凝集塊等の細胞集合体を一部に含み得る。一方、回収した細胞は、必要に応じて単一細胞化することもできる。
【0116】
(3)単一細胞化
本明細書において「単一細胞化」とは、単層細胞片や細胞凝集塊等のように複数の細胞が互いに接着又は凝集した細胞集合体を分散させて、単一の遊離した細胞状態にすることをいう。
【0117】
単一細胞化は、上記の剥離方法で使用する剥離剤及び/又はキレート剤の濃度を高めにする、及び/又は剥離剤及び/又はキレート剤での処理時間を長くすればよい。例えば、トリプシンの場合、溶液中の濃度の下限は、細胞集合体を分散できる濃度であれば特に限定はされないが、例えば0.15体積%以上、0.18体積%以上、0.20体積%以上、又は0.24体積%以上であればよい。一方、溶液中の濃度の上限は、細胞そのものが溶解される等の影響を受けない濃度であれば特に限定はされないが、0.30体積%以下、0.28体積%以下、又は0.25体積%以下であればよい。また処理時間は、トリプシンの濃度によって左右されるものの、その下限は、トリプシンの作用によって細胞集合体が十分に分散される時間であれば特に限定はされず、例えば5分以上、8分以上、10分以上、12分以上、又は15分以上であればよい。一方、処理時間の上限は、トリプシンの作用によって細胞そのものが溶解される等の影響を受けない時間であれば特に限定はされず、例えば30分以下、28分以下、25分以下、22分以下、20分以下、又は18分以下であればよい。なお、市販の剥離剤を使用する場合には、添付のプロトコルに記載の、細胞を分散させて単一状態にできる濃度で使用すればよい。前記剥離剤及び/又はキレート剤による処理後に物理的に軽く処理することで、単一細胞化を促進できる。この物理的処理は限定しないが、例えば、細胞を溶液ごと複数回ピペッティングする方法が挙げられる。さらに、必要に応じて、細胞をストレーナーやメッシュに通過させてもよい。
【0118】
単一細胞化した細胞は、静置又は遠心分離により剥離剤を含む上清を除去して回収することができる。回収した細胞は、必要に応じて洗浄してもよい。遠心分離の条件や洗浄方法については上記「浮遊培養後の回収方法」と同様に行えばよい。
【0119】
2-3.効果
本態様の細胞凝集促進方法によれば、浮遊培養系において細胞の凝集を適度に促進し、略均一な大きさの細胞凝集塊を形成することができる。
【0120】
3.細胞凝集塊製造方法及びその方法で得られる細胞凝集塊
3-1.概要
本発明の第3の態様は、細胞凝集塊製造方法、及びその方法で得られる細胞凝集塊である。本発明の細胞凝集塊製造方法は、第2態様の細胞凝集促進方法を用いて、生産物として細胞凝集塊を得る方法である。本製造方法によれば、細胞凝集を促進して、適度なサイズの細胞凝集塊を製造することができる。
【0121】
3-2.細胞凝集塊製造方法
本態様の細胞凝集塊製造方法における基本工程は、第2態様の細胞凝集促進方法に準ずる。すなわち、必須の工程として浮遊培養工程を、また選択工程として維持培養工程、及び回収工程を含む。各工程の説明は、前述の通りである。
【0122】
3-3.細胞凝集塊
本態様の細胞凝集塊製造方法により、浮遊培養に適切なサイズの細胞凝集塊を製造することができる。
【0123】
本態様の細胞凝集塊製造方法により製造される個々の細胞凝集塊のサイズは、特に限定されないが、顕微鏡で観察したとき、観察像での最大幅のサイズの下限が30μm以上、40μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、又は100μm以上であればよい。一方、その上限は1000μm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、400μm以下、300μm以下、又は200μm以下であればよい。因みにヒトiPS細胞1個が約10μmの寸法である。この範囲の細胞凝集塊は、内部の細胞にも酸素や栄養成分が供給され易く細胞の増殖環境として好ましい。
【0124】
本態様の細胞凝集塊製造方法により製造される細胞凝集塊の集団のうち、重量基準で下限が10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は100%が上記のサイズ範囲内の細胞凝集塊であることが好ましい。上記のサイズ範囲内の細胞凝集塊を20%以上含む細胞凝集塊の集団では、個々の細胞凝集塊において、内部の細胞にも酸素や栄養成分が供給され易く細胞の増殖環境として好ましい。
【0125】
本態様の細胞凝集塊製造方法により製造される細胞凝集塊の集団は、該集団を構成する細胞のうち生細胞の割合(生存率)が、例えば50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上であることが好ましい。上記の範囲の生存率の細胞凝集塊は、凝集状態を維持しやすく、細胞の増殖に好ましい状態である。
【0126】
細胞凝集塊を構成する細胞が多能性幹細胞の場合、多能性幹細胞マーカーを発現している及び/又は多能性幹細胞マーカーが陽性を呈する細胞の割合で多能性幹細胞の未分化性を判断してもよい。例えば、多能性幹細胞マーカーの陽性率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは94%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、より好ましくは100%以下とすることができる。多能性幹細胞マーカーが前記陽性率の範囲内にある細胞凝集塊は、未分化状態を維持しており、より均質な細胞集団であるといえる。
【0127】
なお、多能性幹細胞マーカーは、当該技術分野において任意の検出方法により検出することができる。細胞マーカーを検出する方法としては、限定はしないが、例えばフローサイトメトリーが挙げられる。フローサイトメトリーにおいて、検出試薬として蛍光標識抗体を用いる場合、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出されたときに、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。フローサイトメトリーによって解析した蛍光標識抗体について陽性を呈する細胞の比率は、「陽性率」と記載されることがある。また、蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0128】
本発明において、細胞凝集塊を構成する細胞は、単一種、又は2種以上の細胞で構成されていてもよい。例えば、iPS細胞のみで構成される細胞凝集塊であってもよいし、iPS細胞とES細胞で構成された細胞凝集塊であってもよい。
【0129】
3-4.効果
本態様の細胞凝集塊製造方法によれば、浮遊培養において細胞の凝集を適度に促進し、適当なサイズの細胞凝集塊を製造することができる。特に、細胞が幹細胞である場合、未分化状態を維持した細胞凝集塊を効率的に製造し、また細胞死頻度を低減させることができる。
【0130】
4.多能性幹細胞集団の製造方法
4-1.概要
本発明の第4の態様は、多能性幹細胞集団製造方法である。本発明の多能性幹細胞集団製造方法は、第2態様の細胞凝集促進方法を用いて、多能性幹細胞凝集塊を培養する方法である。本製造方法によれば、多能性幹細胞凝集を促進して、適度なサイズの多能性幹細胞凝集塊を製造し、培養することができる。
【0131】
4-2.多能性幹細胞集団製造方法
本態様の多能性幹細胞集団製造方法における基本工程は、2段階の浮遊培養工程を行う以外、第2態様の細胞凝集促進方法に準ずる。すなわち、必須の工程として、ROCK阻害剤及びPKC阻害剤を含む培地で多能性幹細胞を播種し、浮遊培養する工程(第一工程)、及び、ROCK阻害剤非存在下において、PKC阻害剤を含む液体培地中で多能性幹細胞凝集塊を浮遊培養する工程(第二工程)を含み、また選択工程として維持培養工程、及び回収工程を含む。各工程の説明は、前述の通りである。
【0132】
前述の第一工程の培養時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは12時間以上、好ましくは7日間以下、6日間以下、5日間以下、4日間以下、より好ましくは72時間以下、より好ましくは48時間以下、最も好ましくは24時間以下である。また、前述の第二工程の培養時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは12時間以上、24時間以上、48時間以上、好ましくは7日間以下、6日間以下、5日間以下、より好ましくは4日間以下、最も好ましくは72時間以下である。
【0133】
第一工程中に、第一工程と第二工程との間に、第二工程中に、第二工程と維持培養工程の間に、及び/又は維持培養工程中に、適当な頻度で培地交換を行うことができる。特に、第一工程と第二工程との間、並びに第二工程と維持培養工程との間において、培地交換を行う。培地交換の頻度は培養する細胞種によって異なるが、例えば、5日に1回以上、4日に1回以上、3日に1回以上、2日に1回以上、1日に1回以上、1日に2回以上で行えばよいがそれらに限定されない。なお、培地交換の頻度や方法等については、上記の頻度や方法には限定されず、適宜最適な方法を採用すればよい。
【0134】
4-3.多能性幹細胞凝集塊
本態様の多能性幹細胞集団製造方法によれば、適切なサイズの多能性幹細胞凝集塊を、多能性幹細胞の未分化状態を維持しつつ培養することができる。例えば、本態様の多能性幹細胞集団製造方法により得られた多能性幹細胞集団において、多能性幹細胞マーカー(例えばOCT4、SOX2、Nanog)を発現する及び/または多能性幹細胞マーカーが陽性を呈する細胞の割合(比率)は、例えば90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、100%以下である。
【0135】
4-4.効果
本態様の多能性幹細胞集団製造方法によれば、浮遊培養において多能性幹細胞の凝集を適度に促進しながら、適当なサイズの多能性幹細胞凝集塊を製造することができる。特に、未分化状態を維持した多能性幹細胞凝集塊を効率的に製造し、また細胞死頻度を低減することができる。
【0136】
5.浮遊培養用培地
5-1.概要
本発明の第5の態様は、細胞の浮遊培養用培地である。本態様の浮遊培養用培地を使用すれば、培地中で細胞凝集塊の凝集を促進することができる。
【0137】
5-2.構成
本態様の細胞の浮遊培養用培地は、第1態様に記載の細胞凝集促進剤、又はその有効成分であるPKC阻害剤を少なくとも含み、浮遊培養における細胞凝集塊の形成を促進するための細胞増殖用培地で構成される。
【0138】
増殖用培地の組成は、第1態様の「1-2.用語の定義」における「培養及び培地」の項に詳述している。
【0139】
細胞凝集促進剤、その有効成分であるPKC阻害剤の構成、及び細胞凝集促進剤中の含有濃度については、第1態様の「1-3.構成」において詳述している。
【0140】
浮遊培養用培地は、少なくとも細胞培養時は液体培地として使用されるが、保存用としては、例えば、粉末化され、調合された固体状態であってもよい。この場合、培地として使用する前に滅菌水等に溶解し、適当な濃度に希釈した後、使用すればよい。
【0141】
また、浮遊培養用培地は、使用前まで凍結して保存し、使用時に解凍して使用することができる。
【0142】
5-3.効果
本発明の浮遊培養用培地を用いて細胞を浮遊培養すれば、細胞の凝集を促進することができる。
【0143】
6.細胞凝集促進キット
6-1.概要
本発明の第6の態様は、細胞凝集促進キットである。本態様のキットは、PKC阻害剤を必須の構成要素として含み、細胞内のPKC活性を阻害することで、浮遊培養における細胞の凝集を促進する。本態様の細胞凝集促進キットを用いることで、細胞の凝集を促進して、適度なサイズの細胞凝集塊を形成することができる。
【0144】
6-2.構成
本態様の細胞凝集促進キットは、必須の構成要素としてPKC阻害剤を、また選択的構成要素として培地、培養容器、細胞及び/又はプロトコルを包含する。
【0145】
PKC阻害剤の構成は、第1態様の「1-2.用語の定義」、及び「1-3.構成」において詳述している。
【0146】
培地の構成は、第1態様の「1-2.用語の定義」における「培養及び培地」の項に詳述しているので、ここでの説明は省略する。液体培地、固体培地のいずれでもよいが、液体培地が好ましい。
【0147】
培養容器の構成は、第2態様の「2-2.方法」における「培養容器」の項に詳述しているので、ここでの説明は省略する。
【0148】
細胞の構成は、第1態様の「1-2.用語の定義」における「細胞」の項に詳述しているので、ここでの説明は省略する。
【0149】
プロトコルには、本態様の細胞凝集促進キットの使用方法が記載されている。具体的には、細胞凝集促進キットに添付のPKC阻害剤やPKC阻害剤の培地への添加量や所望のサイズの細胞凝集塊を生産する上で好適な浮遊培養方法等が記載されている。
【0150】
7.細胞培養組成物
7-1.概要
本発明の第7の態様は、細胞培養組成物である。本態様の細胞培養組成物は、細胞と、培地と、PKC阻害剤とを含み、細胞内のPKC活性を阻害することで、浮遊培養における細胞の凝集を促進する。本態様の細胞培養組成物を用いることで、細胞の凝集を促進して、適度なサイズの細胞凝集塊を形成することができる。
【0151】
7-2.構成
本態様の細胞培養組成物は、細胞と、培地と、PKC阻害剤とを含む。
【0152】
細胞の構成は、第1態様の「1-2.用語の定義」における「細胞」の項に詳述しているので、ここでの説明は省略する。また、本態様の細胞培養組成物は、細胞を細胞凝集塊の形態で含んでもよい。
【0153】
培地の構成は、第1態様の「1-2.用語の定義」における「培養及び培地」の項に詳述しているので、ここでの説明は省略する。液体培地、固体培地のいずれでもよいが、液体培地が好ましい。
【0154】
PKC阻害剤の構成は、第1態様の「1-2.用語の定義」、及び「1-3.構成」において詳述している。
【0155】
本態様の細胞培養組成物は、PKC阻害剤を培地に添加した後に細胞を添加することにより調製してもよいし、細胞を培地に混合した後にPKC阻害剤を添加することにより調製してもよいが、好ましくはPKC阻害剤を培地に添加した後に細胞を添加することにより調製する。PKC阻害剤を培地に添加する際、安定化剤を添加することもできる。前記安定化剤は、PKC阻害剤の液体培地中での安定化、活性維持、培養容器等への吸着防止等に寄与する物質であれば特に限定されないが、アルブミン等のタンパク質、乳化剤、界面活性剤、両親媒性物質、或いは、ヘパリン等の多糖類等を使用することができる。
【0156】
本態様の細胞培養組成物は、PKC阻害剤を含む培地(前記安定化剤を更に含んでいても良い)を凍結して保存し、その後に解凍してから細胞を添加することにより調製してもよい。
【実施例】
【0157】
<比較例1:ヒトiPS細胞201B7株の浮遊培養>
(目的)
本発明の細胞凝集促進剤を含まない培地でヒトiPS細胞を浮遊培養したときの細胞凝集塊の形成について検証した。
【0158】
(方法)
(1)工程1
Vitronectin(VTN-N)Recombinant Human Protein,Truncated(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を0.5μg/cm2でコーティングした細胞培養用ディッシュに、ヒトiPS細胞201B7株(京都大学iPS細胞研究所)を播種し、37℃、5%CO2雰囲気下で接着培養を行った。培地はStemFit(登録商標)AK02N(味の素社)を使用し、毎日培地交換を行った。細胞播種時のみY-27632(富士フイルム和光純薬社)を最終濃度が10μMとなるように培地に添加した。
【0159】
(2)工程2
前記工程1で接着培養したヒトiPS細胞201B7株をAccutase(イノベーティブセルテクノロジー社)で5分間処理して培養面から剥離し、ピペッティングによって単細胞まで分散させた。この細胞をROCK阻害剤であるY-27632を最終濃度10μMで含むStemFit(登録商標)AK02N培地で懸濁し、その一部をトリパンブルー染色して生細胞数を測定した。細胞懸濁液を1mLあたり2×105個の細胞を含むように、再び最終濃度10μMのY-27632を含むStemFit(登録商標)AK02N培地を用いて調製した。浮遊培養用12ウェルプレートに1ウェルあたり1mLの細胞懸濁液を播種した。細胞を播種したプレートはロータリーシェーカー(オプティマ社)上で90rpmの速度で水平面に沿って旋回幅(直径)が25mmの円を描くように旋回させ、37℃、5%CO2環境下で浮遊培養を行った。細胞を播種した日を培養0日目とし、培養1日目まで浮遊培養を行った。
【0160】
(結果)
培養1日目に位相差顕微鏡を用いて細胞凝集塊の位相差画像を取得した。位相差画像を
図1のAに示す。
【0161】
<実施例1:ヒトiPS細胞201B7株の浮遊培養におけるPKC阻害剤の効果>
(目的)
本発明の細胞凝集促進剤の有効成分であるPKC阻害剤を含む培地でヒトiPS細胞を浮遊培養したときの細胞凝集塊の形成について検証した。
【0162】
(方法)
浮遊培養の播種培地に対し、PKC阻害剤であるGoe6983を最終濃度3μM又はGF109203Xを最終濃度1μMで添加した点を除いて、比較例1と同じ手順で浮遊培養を実施した。
【0163】
(結果)
培養1日目に位相差顕微鏡を用いて細胞凝集塊の位相差画像を取得した。位相差画像を
図1のBに示す。比較例1では均一な大きさの細胞凝集塊が形成されたことに対し、実施例1では顕著に大きい細胞凝集塊が形成された。この結果から、実施例1では細胞凝集が促進されており、PKC阻害剤には細胞凝集を促進する効果があることが示された。
【0164】
<比較例2:ヒトiPS細胞201B7株の浮遊培養>
(目的)
本発明の細胞凝集促進剤を含まない培地でヒトiPS細胞を浮遊培養したときの細胞凝集塊の形成、細胞凝集塊の直径、及び培養上清中のLDH活性について検証した。
【0165】
(方法)
細胞を播種したプレートをロータリーシェーカーにより98rpmで旋回させた点を除いて、比較例1と同じ手順で浮遊培養を開始した。培養4日目まで浮遊培養を行い、毎日培地交換を行った。培地交換の方法としては、細胞凝集塊を含む培地の全量を遠沈管に回収し、5分程度静置して細胞凝集塊を沈降させた。その後、培養上清を回収し、Y-27632を含まないStemFit(登録商標)AK02N培地で穏やかに細胞凝集塊を再懸濁し、元のウェルに戻した。
【0166】
(結果)
培養4日目に位相差顕微鏡を用いて細胞凝集塊の位相差画像を取得した。位相差画像を
図2のAに示す。
【0167】
図2のAに示した画像から細胞凝集塊の直径を測定し、平均直径を算出した。結果を表1、
図3及び
図4に示す。
【0168】
また、培地交換時に回収した培養上清をCytotoxicity LDH Assay Kit-WST(同仁化学社)により解析し、培養上清中のLDH活性を測定した。結果を
図5に示す。
【0169】
<実施例2:ヒトiPS細胞201B7株の浮遊培養における様々なPKC阻害剤の効果>
(目的)
本発明の細胞凝集促進剤の有効成分である様々なPKC阻害剤を含む培地でヒトiPS細胞を浮遊培養したときの細胞凝集塊の形成、細胞凝集塊の直径、及び培養上清中のLDH活性について検証した。
【0170】
(方法)
浮遊培養の播種培地及び培地交換培地に対し、PKC阻害剤であるGoe6983を最終濃度3μM、GF109203Xを最終濃度3μM、LY-333531を最終濃度1μM、Staurosporineを最終濃度1nMのうち、何れか1つを添加した点を除いて、比較例2と同じ手順で浮遊培養を実施した。
【0171】
(結果)
培養4日目に位相差顕微鏡を用いて細胞凝集塊の位相差画像を取得した。位相差画像を
図2のBに示す。
【0172】
図2のBに示した画像から各細胞凝集塊の直径を測定し、平均直径を算出した。結果を表1、
図3及び
図4に示す。
【0173】
また、培地交換時に回収した培養上清をCytotoxicity LDH Assay Kit-WST(同仁化学社)により解析し、各培養上清中のLDH活性を測定した。結果を
図5に示す。
【0174】
【0175】
実施例2は比較例2と比較して細胞凝集塊の直径が大きかった。この結果から、実施例2では、PKC阻害剤により細胞凝集が促進され、細胞凝集塊が崩れにくくなっていると考えられる。
【0176】
また、実施例2は比較例2と比較して培養上清中のLDH活性が低いことから、細胞死の頻度が低いことが示された。この結果から、PKC阻害剤によって細胞凝集塊から崩れ出る細胞の数が減ることで細胞死頻度が低下したと考えられる。
【0177】
これらの結果から、PKC阻害剤には凝集促進効果があり、細胞凝集塊を崩れにくくする効果があると考えられる。
【0178】
<比較例3:ヒトiPS細胞201B7株の浮遊培養>
(目的)
本発明の細胞凝集促進剤を含まない培地でヒトiPS細胞を浮遊培養したときの細胞凝集塊の形成について検証した。
【0179】
(方法)
比較例1と同じ手順で、培養2日目まで浮遊培養を行った。
【0180】
(結果)
培養2日目に位相差顕微鏡を用いて細胞凝集塊の位相差画像を取得した。位相差画像を
図6のAに示す。
【0181】
<実施例3:ヒトiPS細胞201B7株の浮遊培養におけるPKC阻害剤の濃度検討>
(目的)
本発明の細胞凝集促進剤の有効成分であるPKC阻害剤を様々な濃度で含む培地でヒトiPS細胞を浮遊培養したときの細胞凝集塊の形成について検証した。
【0182】
(方法)
浮遊培養の播種培地に対し、PKC阻害剤であるGoe6983を最終濃度10μM、3μM、1μM、LY-333531を最終濃度300nM、100nM、30nMでそれぞれ添加した条件で浮遊培養した点を除き、比較例3と同じ手順で浮遊培養を実施した。
【0183】
(結果)
培養2日目に位相差顕微鏡を用いて細胞凝集塊の位相差画像を取得した。位相差画像を
図6のBに示す。
【0184】
図6に示した画像から実施例3では、比較例3よりも顕著に大きい細胞凝集塊が形成された。この結果から、PKC阻害剤は、少なくとも最終濃度30nM以上10μM以下の濃度範囲で添加すれば細胞凝集を促進できることが示された。
【0185】
<実施例4:浮遊培養したヒトiPS細胞201B7株のフローサイトメトリー解析>
(目的)
PKC阻害剤存在下での浮遊培養によるヒトiPS細胞の未分化状態の維持について検証した。
【0186】
(方法)
浮遊培養の播種培地及び培地交換培地に対し、PKC阻害剤であるGF109203Xを最終濃度1μMで添加した点を除いて、比較例2と同じ手順で浮遊培養を実施した。培養3日目に細胞凝集塊をAccutaseで処理し、ピペッティングによって単細胞まで分散させた。この細胞をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄し、4%PFA(パラホルムアルデヒド)により室温で20分間固定後、PBSで3回洗浄した。続いて、冷メタノールにより-20℃で一晩透過処理を行った。さらに、PBSで3回洗浄後、3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSにより室温で1時間ブロッキングした。その後、細胞のサンプルを2つに分けてそれぞれ50μLずつに再懸濁した。一方に蛍光標識済抗OCT4、抗SOX2、及び抗NANOG抗体をそれぞれ加えて混合し、もう一方に蛍光標識済アイソタイプコントロール抗体を加えて混合し、4℃、遮光状態で1時間染色した。使用した抗体とその添加量を表2に示す。
【0187】
【0188】
続いて、3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSで1回洗浄後、セルストレーナーに通過させた細胞をGuava easyCyte 8HT(ルミックス社)にて解析した。アイソタイプコントロール抗体で処理したサンプルについて、前記FSC/SSCドットプロットにて抽出した細胞集団において、より蛍光強度が強い細胞集団が1.0%以下となるすべての領域を選択した。抗OCT4、抗SOX2、及び抗NANOG抗体で処理したサンプルについて、前記FSC/SSCドットプロットにて抽出した細胞集団において、前記領域内に含まれる細胞の割合を算出し、これをOCT4、SOX2、及びNANOGが陽性を呈する細胞の比率とした。
【0189】
【0190】
【0191】
未分化マーカーであるOCT4、SOX2、及びNANOGについて、陽性を呈する細胞の比率は、いずれも90%以上であった。この結果から、PKC阻害剤を添加した培地で浮遊培養した場合、未分化状態を維持した多能性幹細胞集団が得られたと考えられる。
【0192】
以上の結果から、本発明に記載の方法で浮遊培養した場合、多能性幹細胞は未分化状態を維持したままで多能性幹細胞からなる細胞凝集塊を取得可能であることが明らかになった。