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  • 特許-ランフラットタイヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】ランフラットタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 17/00 20060101AFI20240710BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20240710BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240710BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20240710BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20240710BHJP
   D06M 15/41 20060101ALI20240710BHJP
   D06M 15/693 20060101ALI20240710BHJP
   D06M 13/395 20060101ALI20240710BHJP
   C09J 161/04 20060101ALI20240710BHJP
   C09J 109/00 20060101ALI20240710BHJP
   C09J 107/02 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B60C17/00 B
B60C9/00 A
B60C1/00 Z
B60C15/06 B
B60C9/00 G
B60C9/00 B
B60C9/00 C
B60C9/22 C
D06M15/41
D06M15/693
D06M13/395
C09J161/04
C09J109/00
C09J107/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020042194
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021142843
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】津田 駿介
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/143756(WO,A1)
【文献】特表2017-512262(JP,A)
【文献】特表2014-528970(JP,A)
【文献】特表2016-528337(JP,A)
【文献】特表2014-525973(JP,A)
【文献】特表2019-518087(JP,A)
【文献】特開2009-174105(JP,A)
【文献】特開2010-189492(JP,A)
【文献】特開2013-226983(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230463(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/230464(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
D06M 13/00-15/715
C09J 1/00-5/10,9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部からサイドウォール部を経てトレッド部に至る一枚以上のカーカスプライからなるカーカスと、前記サイドウォール部において前記カーカスのタイヤ幅方向内側に配設された一対の断面三日月状のサイド補強ゴムと、前記サイドウォール部のビードコアのタイヤ径方向外側に配設されたビードフィラーと、を具える、ランフラットタイヤであって、
前記ランフラットタイヤは、レゾルシンを含まず、且つ、3つ以上の水酸基を有するポリフェノール類、2つ以上のアルデヒド基を有するアルデヒド類及び(ブロックド)イソシアネート基含有芳香族化合物を含む接着剤組成物がコーティングされた、有機繊維コードを有し、
前記サイド補強ゴム及び前記ビードフィラーのうちの少なくとも1つを構成する加硫ゴムは、全スルフィド結合中のモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が65%以上であることを特徴とする、ランフラットタイヤ。
【請求項2】
前記加硫ゴムは、全スルフィド結合中のモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が75%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のランフラットタイヤ。
【請求項3】
前記加硫ゴムに用いられるゴム組成物は、ゴム成分と、充填剤と、加硫剤と、加硫促進剤と、を含み、前記加硫促進剤が、チウラム系加硫促進剤を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のランフラットタイヤ。
【請求項4】
前記加硫促進剤が、スルフェンアミド系加硫促進剤をさらに含有することを特徴とする、請求項3に記載のランフラットタイヤ。
【請求項5】
前記ゴム組成物における、前記チウラム系加硫促進剤の含有量(a)と前記スルフェンアミド系加硫促進剤の含有量(b)の質量比(a/b)が0.60~1.25であることを特徴とする、請求項4に記載のランフラットタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム組成物における、前記加硫促進剤の含有量が前記加硫剤の含有量よりも少ないことを特徴とする、請求項3~5のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項7】
前記チウラム系加硫促進剤が、少なくともテトラベンジルチウラムジスルフィドを含むことを特徴とする、請求項3~6のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項8】
前記接着剤組成物が、さらにゴムラテックスを含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項9】
前記有機繊維コードが、カーカスプライ及び/又はベルト補強層に用いられることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項10】
前記有機繊維コードが、2種の有機繊維からなるフィラメントを撚り合わせてなるハイブリッドコードであることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項11】
前記ハイブリッドコードを構成する2種の有機繊維が、レーヨン、リヨセル、ポリエステル、ナイロン及びポリケントンからなる群より選択されること特徴とする、請求項10に記載のランフラットタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランフラットタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル繊維等の有機繊維は、高い初期弾性率や、優れた熱時寸法安定性を有しているため、フィラメント、コード、ケーブル、コード織物、帆布等の形態で、タイヤ等のゴム物品の補強材として極めて有用であり、これらの繊維とゴムとの接着性を改良させるため、種々の接着剤組成物が提案されている。接着剤組成物として、例えば、レゾルシンや、ホルマリン、ゴムラテックス等を含むRFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)接着剤を用い、該RFL接着剤を熱硬化させることにより接着力を確保する技術が、知られている(例えば、特許文献1~3等を参照。)。
【0003】
また、接着剤組成物については、レゾルシンとホルマリンを初期縮合させたレゾルシンホルマリン樹脂を用いる技術(特許文献4、5参照)や、エポキシ樹脂でポリエステル繊維等からなるタイヤコードを前処理することにより、接着力の向上を図る技術が知られている。
ただし、上述した接着剤組成物に一般的用いられているレゾルシンは、近年、作業環境を考慮して、使用量の削減が求められている。
【0004】
そのため、レゾルシンを含まず、環境への配慮がされた接着剤組成物や、接着方法がいくつか提案されている(例えば、特許文献6を参照。)。
しかしながら、レゾルシンを含有しない接着剤組成物は、硬化に時間を要するため、生産性や、接着性の点でさらなる改善が求められている。
また、接着対象の有機繊維としてポリエチレンテレフタラート(PET)繊維を用いる場合、レゾルシンを含有しない接着剤組成物の、接着性能が十分に得られないことが多く、特に改善が望まれていた。これは、熱的寸法性の良いポリエチレンテレフタレートを代表とする主鎖中にエステル結合を有する線状高分子であるポリエステル繊維材料をゴム製品の補強材として使用すると、構造的に緻密であり、また、官能基が少ないポリエステル繊維材料はこのRFL等のラテックスと水溶性フェノールを架橋する原材料を混合させて得られる接着剤組成物では、殆ど接着が得られないためである。
【0005】
また、ランフラットタイヤについては、上述した環境へ配慮した接着剤組成物の要求に加えて、環境負荷の観点やタイヤ寿命を延ばす観点から、転がり抵抗性やランフラット耐久性に優れたタイヤの開発も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭58-2370号公報
【文献】特開昭60-92371号公報
【文献】特開昭60-96674号公報
【文献】特開昭63-249784号公報
【文献】特公昭63-61433号公報
【文献】特開2010-255153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、本発明の目的は、有機繊維コードにコーティングされる接着剤組成物に、レゾルシンが含まれず、環境への負荷が少ないことに加えて、優れた転がり抵抗性を有する、ランフラットタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、一対のビード部からサイドウォール部を経てトレッド部に至る一枚以上のカーカスプライからなるカーカスと、前記サイドウォール部において前記カーカスのタイヤ幅方向内側に配設された一対の断面三日月状のサイド補強ゴムと、前記サイドウォール部のビードコアのタイヤ径方向外側に配設されたビードフィラーと、を具える、ランフラットタイヤについて、前記目的を達成するべく検討を行った。
その結果、有機繊維コードをコーティングする接着剤組成物中に、特定のポリフェノール類及びアルデヒド類を含有させることによって、レゾルシンを用いない場合でも高い接着力を実現できること、さらに、サイド補強ゴムやビードフィラーについて、モノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が高い加硫ゴムを用いることによって、転がり抵抗性を向上させることができ、ランフラット耐久性についても改善できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明のランフラットタイヤは、一対のビード部からサイドウォール部を経てトレッド部に至る一枚以上のカーカスプライからなるカーカスと、前記サイドウォール部において前記カーカスのタイヤ幅方向内側に配設された一対の断面三日月状のサイド補強ゴムと、前記サイドウォール部のビードコアのタイヤ径方向外側に配設されたビードフィラーと、を具える、ランフラットタイヤであって、
前記ランフラットタイヤは、ポリフェノール類及びアルデヒド類を含む接着剤組成物がコーティングされた、有機繊維コードを有し、
前記サイド補強ゴム及び前記ビードフィラーのうちの少なくとも1つを構成する加硫ゴムは、全スルフィド結合中のモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が65%以上であることを特徴とする。
前記構成により、有機繊維コードにコーティングされる接着剤組成物に、レゾルシンが含まれず、環境への負荷が少ないことに加えて、優れた転がり抵抗性を実現できる。
【0010】
また、本発明のランフラットタイヤでは、前記加硫ゴムは、全スルフィド結合中のモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が75%以上であることが好ましい。転がり抵抗性及びランフラット耐久性をより改善できるためである。
【0011】
さらに、本発明のランフラットタイヤでは、前前記加硫ゴムに用いられるゴム組成物は、ゴム成分と、充填剤と、加硫剤と、加硫促進剤と、を含み、前記加硫促進剤が、チウラム系加硫促進剤を含有することが好ましい。より確実に転がり抵抗性を改善できるためである。
【0012】
さらにまた、本発明のランフラットタイヤでは、前記加硫促進剤が、スルフェンアミド系加硫促進剤をさらに含有することがより好ましく、前記ゴム組成物における、前記チウラム系加硫促進剤の含有量(a)と前記スルフェンアミド系加硫促進剤の含有量(b)の質量比(a/b)が0.60~1.25であることがさらに好ましい。ランフラット耐久性及び転がり抵抗性をより高いレベルで両立できるためである。
【0013】
さらに、本発明のランフラットタイヤでは、前記加硫促進剤の含有量が前記加硫剤の含有量よりも少ないことが好ましい。転がり抵抗性をより改善できるためである。
【0014】
さらにまた、本発明のランフラットタイヤでは、前記チウラム系加硫促進剤が、少なくともテトラベンジルチウラムジスルフィドを含むことが好ましい。より確実に、転がり抵抗性を改善できるためである。
【0015】
また、本発明のランフラットタイヤでは、前記接着剤組成物が、さらにゴムラテックスを含むことが好ましい。有機繊維とゴム部材とのより優れた接着性が得られるためである。
【0016】
さらにまた、本発明のランフラットタイヤでは、前記接着剤組成物が、さらにイソシアネート化合物を含むことが好ましく、該イソシアネート化合物が、(ブロックド)イソシアネート基含有芳香族化合物であることがより好ましい。有機繊維とゴム部材とのより優れた接着性が得られるためである。
【0017】
また、本発明のランフラットタイヤでは、前記ポリフェノール類は、3つ以上の水酸基を有することが好ましい。有機繊維とゴム部材とのより優れた接着性が得られるためである。
【0018】
さらに、本発明のランフラットタイヤでは前記アルデヒド類は、2つ以上のアルデヒド基を有することが好ましい。有機繊維とゴム部材とのより優れた接着性が得られるためである。
【0019】
また、本発明のランフラットタイヤでは、前記有機繊維コードが、少なくともカーカスプライ及び/又はベルト補強層に用いられることが好ましい。環境への負荷が少ないことに加えて、優れた耐久性を実現できるためである。
【0020】
さらにまた、本発明のランフラットタイヤでは、前記有機繊維コードが、2種の有機繊維からなるフィラメントを撚り合わせてなるハイブリッドコードであることが好ましく、該ハイブリッドコードを構成する2種の有機繊維が、レーヨン、リヨセル、ポリエステル、ナイロン及びポリケントンからなる群より選択されることをことがより好ましい。低速及び高温時の操縦安定性と、高速耐久性とを高いレベルで両立できるためである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、有機繊維コードにコーティングされる接着剤組成物に、レゾルシンが含まれず、環境への負荷が少ないことに加えて、優れた転がり抵抗性を有する、ランフラットタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のランフラットタイヤの一実施形態のタイヤ半部について、タイヤ軸方向に沿った断面である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、必要に応じて図面を参照時ながら、本発明のランフラットタイヤの実施形態について説明する。
本発明のランフラットタイヤは、図1に示すように、トレッド部1、そのトレッド部1のそれぞれの側部からタイヤ半径方向内側に延びる一対のサイドウォール部2(片側のみ図示)、及び、各サイドウォール部2のタイヤ半径方向内側に連なる一対のビード部3(片側のみ図示)からなる。
【0024】
また、図1に示すランフラットタイヤでは、一対のビード部3に埋設したビードコア6と、一対のビード部3からサイドウォール部2を経てトレッド部1に至る一枚以上のカーカスプライからなるカーカス4と、ビードコア6のタイヤ径方向外側にされたビードフィラー7と、カーカス4のクラウン域のタイヤ半径方向外側に配設したベルト5と、ベルト5のタイヤ半径方向外側に配設されて、トレッド路面を形成するトレッドゴム11とを具える。
なお、有機繊維コードをラジアル方向に延在させてなるラジアル構造とすることができるカーカス4は、図1に示すランフラットタイヤでは、ビード部3からサイドウォール部2を経てトレッド部1までトロイド状に延びる本体部分4aに連なって、ビードコア6の周りに折り返した折り返し部分4bにより、該本体部分4aをビード部3に係留してなるものである。
【0025】
またここで、前記カーカス4のタイヤ半径方向外側に位置するベルト5は、例えば、図1に示すように、有機繊維等からなるコードを、タイヤ周方向に対して傾斜する向きに延在させてなる内側ベルト層及びその内側ベルト層のコードと交差する向きにコードを延在させてなる外側ベルト層のそれぞれをタイヤ半径方向の外側に向けて順次に配置してなるベルト層50を設けるとともに、ベルト層50のタイヤ半径方向外側に、実質的にタイヤ周方向に延びるコードからなるベルト補強層51を配置して構成することができるが、ベルト層等の構成、配設域、及び層数等は、必要に応じて適宜変更することができる。
【0026】
さらに、図1のランフラットタイヤは、カーカス4の内面に沿って配置されて、空気不透過性に優れるゴム材料等からなるインナーライナー8と、前記サイドウォール部2において、前記カーカス4のタイヤ幅方向内側に配設された一対のサイド補強ゴム9(片側のみ図示)とを具える。
図1の示すところでは、前記サイド補強ゴム9は、タイヤ軸方向に沿う図示の断面で、タイヤ半径方向の内側及び外側のそれぞれに向けて厚みを漸減させるとともに、タイヤ軸方向の外側に向けて凸状に湾曲させてなる三日月状をなしている。
このようなサイド補強ゴム9の配設により、パンク等によってタイヤの内圧が低下した状態でも、サイド補強ゴム9が車体重量の支持に寄与することで、ある程度の距離を安全に走行することが可能になる。
【0027】
<接着剤組成物がコーティングされた有機繊維コード>
そして、本発明のランフラットタイヤでは、ポリフェノール類及びアルデヒド類を含む接着剤組成物がコーティングされた、有機繊維コードを有する。
カーカスプライや、ベルト等に用いられる有機繊維コードをコーティングする接着剤組成物が、特定のポリフェノール類及びアルデヒド類を含有するものから構成することで、環境への負荷を考慮してレゾルシンを用いない場合であっても、良好な接着性を実現できる。
【0028】
(ポリフェノール類)
前記接着剤組成物は、樹脂成分としてポリフェノール類を含む。接着剤組成物中にポリフェノール類を含むことで、樹脂組成物の接着性を高めることができる。
ここで、前記ポリフェノール類については、水溶性のポリフェノール類であり、レゾルシン(レゾルシノール)以外のポリフェノールであれば限定はされず、芳香族環の数や、水酸基の数についても、適宜選択することができる。
【0029】
また、前記ポリフェノール類は、より優れた接着性を実現する観点からは、2個以上の水酸基を有することが好ましく、3つ以上の水酸基を有することがより好ましい。3つ以上の水酸基を含むことにより水分を含む接着剤組成物液により前記ポリフェノールあるいは前記ポリフェノールの縮合物は水溶することで接着剤組成物内に均一して分布できるので、より優れた接着性を実現できる。
さらに、前記ポリフェノール類が、複数個(2個以上)の芳香環を含むポリフェノールの場合、それらの芳香環では、各々、2個又は3個の水酸基がオルト、メタ又はパラ位に存在する。
【0030】
上述した3つ以上の水酸基を有するポリフェノール類としては、例えば以下に示すポリフェノール類が挙げられる。
フロログルシノール:
【化1】
モリン(2’,4’,3,5,7-ペンタヒドロキシフラボン):
【化2】
フロログルシド(2,4,6,3,’5’-ビフェニルペントール):
【化3】
【0031】
(アルデヒド類)
前記接着剤組成物は、上述したポリフェノール類に加えて、樹脂成分としてアルデヒド類を含む。接着剤組成物中にアルデヒド類を含有することで、上述したポリフェノール類と共に高い接着性を実現できる。
ここで、前記アルデヒド類については、特に限定はされず、要求される性能に応じて、適宜選択することができる。なお、本発明では、前記アルデヒド類が発生源であるルデヒド類の誘導体も、アルデヒド類の範囲に含まれる。
【0032】
前記アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン、プロピオンアルデヒド、クロラール、ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド等のモノアルデヒドや、グリオキザール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジポアルデヒド等の脂肪族ジアルデヒド類、芳香族環を有するアルデヒド、ジアルデヒドデンプンなどが挙げられる。これらのアルデヒド類は、一種類を用いても、複数種を混合して用いてもよい。
これらの中でも、前記アルデヒド類は、芳香族環を有するアルデヒド類を含有することが好ましい。より優れた接着性を得ることができるためである。
なお、前記アルデヒド類については、ホルムアルデヒドを含まないことが好ましい。なお、本発明において「ホルムアルデヒドを含まない」とは、アルデヒド類の総質量に基づくホルムアルデヒドの質量含有量が0.5質量%未満であることを意味する。
【0033】
また、前記芳香環を有するアルデヒド類は、1分子内に、少なくとも1つの芳香環を含み、少なくとも 1つのアルデヒド基を有する芳香族アルデヒドである。前記芳香環を有するアルデヒド類は、環境への負荷が少なく、また、優れた機械的強度、電気絶縁性、耐酸性、耐水性、耐熱性等を備えた、比較的安価な樹脂を形成することができる。
【0034】
また、前記芳香族環を有するアルデヒド類は、より優れた接着性を実現する観点からは、2つ以上のアルデヒド基を有することが好ましい。前記アルデヒド類が、複数のアルデヒド基により架橋し、縮合することによって、熱硬化性樹脂の架橋度を高くすることができるため、接着性をより高めることができる。
さらに、前記アルデヒド類が、2つ以上のアルデヒド基を有する場合、1つの芳香族環において、2つ以上のアルデヒド基が存在することがより好ましい。なお、各アルデヒド基は、1つの芳香族環において、オルト、メタ又はパラの位置に存在することができる。
【0035】
このようなアルデヒド類としては、例えば、1,2-ベンゼンジカルボキサルデヒド、1,3-ベンゼンジカルボキサルデヒド、1,4-ベンゼンジカルボアルデヒド1,4-ベンゼンジカルボアルデヒド、2-ヒドロキシベンゼン-1,3,5-トリカルボアルデヒド、これらの化合物の混合物等が挙げられる。
【0036】
これらの中でも、より優れた接着性を実現できる観点から、前記芳香族環を有するアルデヒド類として、1,4-ベンゼンジカルボアルデヒドを少なくとも用いることが好ましい。
【化4】
【0037】
また、前記芳香族環を有するアルデヒド類については、ベンゼン環を有するものだけでなく、複素芳香族化合物も含まれる。
前記複素芳香族化合物であるアルデヒド類としては、例えば、以下に示すようなフラン環を有するアルデヒド類が挙げられる。
【化5】
(式中、Xは、Oを含み;Rは、-Hまたは-CHOを示す。)
【0038】
前記のフラン環を有するアルデヒド類として、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【化6】
(式中、Rは、-Hまたは-CHO;R1、R2及びR3は、それぞれ、アルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール又はシクロアルキル基を示す。)
【0039】
なお、前記接着剤組成物では、前記ポリフェノール類及び前記アルデヒド類が縮合された状態であり、前記ポリフェノール類と前記芳香環を有するアルデヒド類との質量比(芳香環を有するアルデヒド類の含有量/ポリフェノール類の含有量)は、0.1以上、3以下であることが好ましく、0.25以上、2.5以下であることがより好ましい。前記ポリフェノール類と前記芳香環を有するアルデヒド類との間では、縮合反応が起こるが、その生成物である樹脂の硬度、接着性がより適したものになるからである。
【0040】
また、前記接着剤組成物中の、前記ポリフェノール類及び前記芳香族環を有するアルデヒド類の合計含有量は、3~30質量%であることが好ましく、5~25質量%であることがより好ましい。作業性等を悪化させることなく、より優れた接着性を確保できるためである。
なお、前記ポリフェノール類及び前記芳香族環を有するアルデヒド類の質量比並びに合計含有量は、乾燥物の質量(固形分比)である。
【0041】
(イソシアネート化合物)
前記接着剤組成物は、上述したポリフェノール類及びアルデヒド類に加えて、イソシアネート化合物をさらに含むことが好ましい。ポリフェノール類及びアルデヒド類との相乗効果によって、接着剤組成物の接着性を大きく高めることができる。
【0042】
ここで、前記イソシアネート化合物は、接着剤組成物の被着体である樹脂材料(例えば、ポリフェノール類及びアルデヒド類を縮合させたフェノール/アルデヒド樹脂) への接着を促進させる作用を有する化合物であって、極性官能基としてイソシアネート基を有する化合物である。
【0043】
前記イソシアネート化合物の種類については、特に限定はされないが、接着性をより向上できる観点から、(ブロックド)イソシアネート基含有芳香族化合物であることが好ましい。本発明の接着剤組成物中に、前記イソシアネート化合物を含ませると、被着体繊維と接着剤組成物の界面近傍の位置にブロックド)イソシアネート基含有芳香族が分布し、接着促進効果が得られる作用が得られ、この作用効果により、有機コードとの接着をより高度化することができる。
前記(ブロックド)イソシアネート基含有芳香族化合物は、(ブロックド)イソシアネート基を有する芳香族化合物である。また、「(ブロックド)イソシアネート基」とは、ブロックドイソシアネート基又はイソシアネート基を意味し、イソシアネート基の他、イソシアネート基に対するブロック化剤と反応して生じたブロックドイソシアネート基、イソシアネート基に対するブロック化剤と未反応のイソシアネート基、又はブロックドイソシアネート基のブロック化剤が解離して生じたイソシアネート基等を含む。
【0044】
さらに、前記(ブロックド)イソシアネート基含有芳香族化合物は、芳香族類がアルキレン鎖で結合された分子構造を含むのが好ましく、芳香族類がメチレン結合した分子構造を含むことがより好ましい。芳香族類がアルキレン鎖で結合された分子構造としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート、又はフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物等にみられる分子構造が挙げられる。
【0045】
なお、前記(ブロックド)イソシアネート基含有芳香族化合物としては、例えば、芳香族ポリイソシアネートと熱解離性ブロック化剤を含む化合物、ジフェニルメタンジイソシアネート又は芳香族ポリイソシアネートを熱解離性ブロック化剤でブロック化した成分を含む水分散性化合物、水性ウレタン化合物等が挙げられる。
【0046】
前記芳香族ポリイソシアネートと熱解離性ブロック化剤とを含む化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネートと公知のイソシアネートブロック化剤を含むブロックドイソシアネート化合物等が好適に挙げられる。前記ジフェニルメタンジイソシアネート又は芳香族ポリイソシアネートを熱解離性ブロック化剤でブロック化した成分を含む水分散性化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネート又はポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを、イソシアネート基をブロックする公知のブロック化剤でブロックした反応生成物が挙げられる。具体的には、エラストロンBN69(第一工業製薬(株)製)、エラストロンBN77(第一工業製薬(株)製)やメイカネートTP-10(明成化学工業(株)製)等の市販のブロックドポリイソシアネート化合物を用いることができる。
【0047】
前記水性ウレタン化合物は、芳香族類がアルキレン鎖で結合された分子構造、好ましくは芳香族類がメチレン結合した分子構造を含有する有機ポリイソシアネート化合物(α)と、複数の活性水素を有する化合物(β)と、イソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)とを反応させて得られる。また、水性ウレタン化合物(F)は、その可撓性のある分子構造から、接着改良剤としての作用のみならず、可撓性のある架橋剤として接着剤の高温時流動化を抑止する作用も有する。
なお、「水性」とは、水溶性または水分散性であることを示し、「水溶性」とは必ずしも完全な水溶性を意味するのではなく、部分的に水溶性のもの、あるいは接着剤組成物の水溶液中で相分離しないものを意味する。
【0048】
ここで、前記水性ウレタン化合物(F)としては、例えば、下記一般式(I):
【化7】
(式中、Aは芳香族類がアルキレン鎖で結合された分子構造を含有する有機ポリイソシアネート化合物(α)の活性水素が脱離した残基を示し、Yはイソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)の活性水素が脱離した残基を示し、Zは化合物(δ)の活性水素が脱離した残基を示し、Xは複数の活性水素を有する化合物(β)の活性水素が脱離した残基であり、nは2~4の整数であり、p+mは2~4の整数(m≧0.25)である。)で表される水性ウレタン化合物が好ましい。
【0049】
なお、前記芳香族類がアルキレン鎖で結合された分子構造を含有する有機ポリイソシアネート化合物(α)としては、メチレンジフェニルポリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。
また、前記複数の活性水素を有する化合物(β)は、好ましくは2~4個の活性水素を有し、平均分子量が5,000以下の化合物である。かかる化合物(β)としては、(i)2~4個の水酸基を有する多価アルコール類、(ii)2~4個の第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多価アミン類、(iii)2~4個の第一級及び/又は第二級アミノ基と水酸基を有するアミノアルコール類、(iv)2~4個の水酸基を有するポリエステルポリオール類、(v)2~4個の水酸基を有するポリブタジエンポリオール類及びそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、(vi)2~4個の水酸基を有するポリクロロプレンポリオール類及びそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、(vii)2~4個の水酸基を有するポリエーテルポリオール類であって、多価アミン、多価フェノール及びアミノアルコール類のC2~C4のアルキレンオキサイド重付加物、C3以上の多価アルコール類のC2~C4のアルキレンオキサイド重付加物、C2~C4のアルキレンオキサイド共重合物、又はC3~C4のアルキレンオキサイド重合物等が挙げられる。
さらに、前記イソシアネート基に対する熱解離性ブロック化剤(γ)は、熱処理によりイソシアネート基を遊離することが可能な化合物であり、公知のイソシアネートブロック化剤が挙げられる。
さらにまた、前記化合物(δ)は、少なくとも1つの活性水素とアニオン性及び/又は非イオン性の親水性基を有する化合物である。少なくとも1つの活性水素とアニオン性の親水基を有する化合物としては、例えば、タウリン、N-メチルタウリン、N-ブチルタウリン、スルファニル酸等のアミノスルホン酸類、グリシン、アラニン等のアミノカルボン酸類等が挙げられる。一方、少なくとも1つの活性水素と非イオン性の親水基を有する化合物としては、例えば、親水性ポリエーテル鎖を有する化合物類が挙げられる。
【0050】
また、前記接着剤組成物における、前記イソシアネート化合物の含有量は、特に限定はされないが、より確実に優れた接着性を確保する観点から、5~65質量%の範囲であることが好ましく、10~45質量%であることがより好ましい。
なお、前記イソシアネート化合物の含有量は、乾燥物の質量(固形分比)である。
【0051】
(ゴムラテックス)
前記接着剤組成物は、上述したポリフェノール類、アルデヒド類及びイソシアネート化合物に加えて、実質的にはゴムラテックスをさらに含むことができる。ゴム部材との接着性をより高めることができるためである。
【0052】
ここで、前記ゴムラテックスについては、特に限定はされず、天然ゴム(NR)の他、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル-ブタジエンゴム(NBR)、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(Vp)等の合成ゴムを用いることができる。これらのゴム成分は、一種単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0053】
また、前記ゴムラテックスについては、前記イソシアネート化合物を配合する前に、前記フェノール類及び前記アルデヒド類と混合させることが好ましい。
さらに、前記接着剤組成物中の前記ゴムラテックスの含有量は、20~70質量%であることが好ましく、25~60質量%であることがより好ましい。
【0054】
なお、前記有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法は、特に限定はされないが、例えば、前記ポリフェノール類、前記アルデヒド類、前記ゴムラテックス等の原材料を混合し、熟成する方法、又は、前記ポリフェノール類と前記アルデヒド類とを混合して熟成した後に、前記ゴムラテックスをさらに加えて熟成する方法、等が挙げられる。また、前記イソシアネート化合物を含む場合には、前記ゴムラテックスを加え、熟成した後に、イソシアネート化合物を加えることができる。
なお、前記多環芳香族炭化水素、前記アルデヒド類、前記ゴムラテックス及び前記イソシアネート化合物の構成や含有量等については、上述した前記接着剤組成物の中で説明した内容と同様である。
【0055】
(ゴム-有機繊維コード複合体)
ここで、本発明のランフラットタイヤでは、前記接着剤組成物がコーティングされた有機繊維コードを有しており、前記接着剤組成物がコーティングされた有機繊維コードは、コーティングゴム等のゴム部材と接着し、ゴム-有機繊維コード複合体を形成している。
得られたゴム-有機繊維コード複合体は、前記接着剤組成物を用いているため、環境への負荷が小さい。
【0056】
ここで、本発明のランフラットタイヤにおいて、前記ゴム-有機繊維コード複合体は、例えば、図1に示すように、前記カーカスプライ4、前記ベルト層50、前記ベルト補強層51、フリッパー等のベルト周り補強層(図示せず)等として用いることが可能である。
これらの中でも、前記ゴム-有機繊維コード複合体は、カーカスプライ及び/又はベルト補強層に用いられることが好ましい。前記接着剤組成物がコーティングされた有機繊維コードの環境への負荷低減や、有機繊維とゴム部材との優れた接着性等を、より効果的に発揮できるためである。
【0057】
なお、前記ゴム-有機繊維コード複合体において、前記接着剤組成物は、前記有機繊維コードの少なくとも一部を覆っていればよいが、ゴムと有機繊維コードとの接着性をより向上できる点からは、前記接着剤組成物が前記有機繊維コードの全面にコーティングされていることが好ましい。
【0058】
また、前記有機繊維コードの材料については、特に限定はされず、用途によって適宜選択することができる。例えば、ポリエステル、6-ナイロン、6,6-ナイロン、4,6-ナイロン等の脂肪族ポリアミド繊維コード、ポリケトン繊維コード、パラフェニレンテレフタルアミドに代表される芳香族ポリアミド繊維コードに代表される合成樹脂繊維材料に使用することができる。
【0059】
また、前記有機繊維コードについては、低速及び高温時の操縦安定性と、高速耐久性とを高いレベルで両立する観点から、2種の有機繊維からなるフィラメントを撚り合わせてなるハイブリッドコードであることが好ましい。
【0060】
さらに、高速耐久性をより向上させる観点からは、前記ハイブリッドコードは、177℃における熱収縮応力(cN/dtex)が0.20cN/dtex以上であることが好ましく、0.25~0.40cN/dtexの範囲内であることがより好ましい。
【0061】
さらにまた、低速及び高温時の操縦安定性をより向上させる観点からは、前記ハイブリッドコードは、25℃における1%歪時の引張弾性率が60cN/dtex以下、特には35~50cN/dtexであることが好ましく、25℃における3%歪時の引張弾性率が30cN/dtex以上、特には45~70cN/dtexであることが好ましい。
【0062】
前記ハイブリッドコードに用いる2種の有機繊維としては、特に制限されるものではないが、剛性の高い有機繊維として、レーヨン、リヨセルなどを挙げることができ、熱収縮率の高い有機繊維として、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等、ナイロン、ポリケトン(PK)等を挙げることができる。より好適には、レーヨン又はリヨセルと、ナイロンとの組み合わせを用いることができる。
なお、これら有機繊維を用いたハイブリッドコードの熱収縮応力及び引張弾性率を調整する方法としては、ディップ処理時におけるテンションを制御する方法が挙げられ、例えば、高いテンションを掛けながらディップ処理を行うことで、コードの熱収縮応力の値を大きくすることができる。すなわち、各有機繊維において固有の物性値範囲はあるものの、ディップ処理条件を制御することにより、その範囲内で物性値を調整して、所望の物性を有するハイブリッドコードを得ることができる。
【0063】
<サイド補強ゴム、ビードフィラー>
本発明のランフラットタイヤでは、前記サイド補強ゴム9及び前記ビードフィラー7のうちの少なくとも1つを構成する加硫ゴムは、全スルフィド結合中のモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が65%以上である。
サイド補強ゴム9やビードフィラー7について、モノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が高い加硫ゴムを用いることによって、転がり抵抗性を向上できることに加えて、ランフラット耐久性についても改善を図ることができる。
なお、上述した「全スルフィド結合中のモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合」を、「モノ/ジスルフィド結合量」と称することがある。また、「モノ/ジスルフィド結合量が65%以上である加硫ゴム」を、「本発明の加硫ゴム」、又は、単に「加硫ゴム」と称することがある。
【0064】
ここで、前記加硫ゴムのスルフィド結合は、硫黄原子の数量により、モノスルフィド結合(-S-)、ジスルフィド結合(-S-S-)、トリスルフィド結合(-S-S-S-)、・・・と称されるが、本明細書では、硫黄原子が3つ以上連なるスルフィド結合(-[S]n-;3≦n)を「ポリスルフィド結合」と称する。従って、モノ/ジスルフィド結合量は、次の式(1)により算出される。
式(1):
モノ/ジスルフィド結合量=100×〔(モノスルフィド結合量+ジスルフィド結合量)/全スルフィド結合量〕
また、全スルフィド結合量は、モノスルフィド結合量+ジスルフィド結合量+ポリスルフィド結合量として算出される。なお、モノ/ジスルフィド結合量、モノスルフィド結合量、ジスルフィド結合量、及びポリスルフィド結合量は、いずれも、全スルフィド結合量に対する量であり、単位は「%」である。各結合量の測定方法は後述する。
【0065】
本発明のランフラットタイヤでは、上述したように、前記サイド補強ゴム9及び前記ビードフィラー7のうちの少なくとも1つを構成する加硫ゴムが、モノ/ジスルフィド結合量が65%以上となる網目構造を形成している。本発明のランフラットタイヤが前記構成であることで、転がり抵抗性及びランフラット耐久性に優れる理由は定かではないが、次の理由によるものと推察される。
【0066】
前記加硫ゴムは、ゴム成分が硫黄架橋により3次元の網目構造を形成しているが、網目構造の結合状況によっては耐熱性が低くなることがあった。タイヤがパンクし、タイヤ内の空気が抜けると、タイヤが撓んで高温になるが、それでも車体を支え走行可能なようにするのがランフラットタイヤである。また、乗り心地、走行性等も考慮すれば、高温(例えば、180℃)で軟化しやすい時点でタイヤが剛性を有していても、タイヤの発熱前後で剛性が変わらないことが好ましい。
しかしながら、従来のランフラット耐久性の改善を図ったタイヤ(例えば、国際公開第2016/143755号、国際公開第2016/143756号、国際公開第2016/143757号等を参照。)については、180℃での引張応力が高いものの、加硫ゴム強度の温度依存性が実証されておらず、タイヤの発熱前後において、タイヤの強度を持続することができなかった。
【0067】
これに対し、本発明のランフラットタイヤには、モノ/ジスルフィド結合量が65%以上となる加硫ゴムが用いられており、高温で軟化しにくいと考えられる。
前記スルフィド結合は、硫黄原子が3つ以上連なるポリスルフィド結合となるほど、結合が弱くなり、ゴム成分を架橋する架橋網目構造が壊れ易くなると考えられるため、ポリスルフィド結合量を小さく抑え、モノスルフィド結合とジスルフィド結合の割合を多くすることで、加硫ゴムの網目破壊が減少すると考えられる。
一般に、モノスルフィド結合とジスルフィド結合の割合が多いと、加硫ゴムの機械的物性が低下すると言われるが、それに反して、本発明の加硫ゴムは機械的物性の低下も少ないと考えられる。これは、本発明の加硫ゴムが、ゴム成分と、テトラベンジルチウラムジスルフィドを含む加硫促進剤とを含有するゴム組成物の加硫ゴムであるためと推察される。その結果、加硫ゴムの発熱前から発熱し高温に至るまで強度が持続するものと考えられる。さらに、前記加硫ゴムは、高温で軟化しにくいため、転がり抵抗性の改善にも寄与すると考えられる。
【0068】
以上の理由から、本発明のランフラットタイヤは、転がり抵抗性及びランフラット耐久性に優れると考えられる。
本発明のランフラットタイヤに用いられる加硫ゴムは、モノ/ジスルフィド結合量が65%以上であることを要するが、上述した観点から、モノ/ジスルフィド結合量は、75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることが更に好ましい。
【0069】
前記モノ/ジスルフィド結合量は、膨潤圧縮法により算出することができる。
膨潤圧縮法は、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH)及びプロパン-2-チオールとピペリジンの化学特性を利用して、各スルフィド結合量を測定する方法である。
リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH)は、加硫ゴムのジスルフィド結合及びポリスルフィド結合を選択的に切断し、モノスルフィド結合は切断しない。一方、プロパン-2-チオールとピペリジンはポリスルフィド結合のみを切断することから、これらの試薬の違いを利用することで、各スルフィド結合の割合を求めることができる。
【0070】
モノスルフィド網目鎖密度をν〔mol/cm〕、ジスルフィド網目鎖密度をν〔mol/cm〕、ポリスルフィド網目鎖密度をν〔mol/cm〕、全スルフィド網目鎖密度をν〔mol/cm〕と称する。
全スルフィド網目鎖密度(ν)は、試薬を含まない同一溶媒で加硫ゴムを膨潤させることで求めることができる。
νと(ν+ν)は後述する方法で直接測定する。
νは(ν+ν)-νから算出することができる。
νはν-(ν+ν)から算出することができる。
【0071】
全スルフィド結合中のモノスルフィド結合の割合(モノスルフィド結合量)は、全スルフィド網目鎖密度(ν)を100%として、モノスルフィド網目鎖密度(ν)を百分率に換算した値である。同様にして、ジスルフィド結合量をジスルフィド網目鎖密度(ν)から換算し、ポリスルフィド結合量をポリスルフィド網目鎖密度(ν)から換算する。
モノ/ジスルフィド結合量は、既述の式(1):
モノ/ジスルフィド結合量
=100×〔(モノスルフィド結合量+ジスルフィド結合量)/全スルフィド結合量〕
により算出される。
【0072】
νと(ν+ν)の測定方法は、次のとおりである。
まず、加硫ゴムから、厚さ2mmのシートを切り取り、加硫ゴムシートを得る。加硫ゴムシートをアセトンで24時間抽出後、24時間真空乾燥する。乾燥後の加硫ゴムシートを2mm×2mm四方に裁断して、立方体状の加硫ゴム試料に成形する。次いで、加硫ゴム試料の縦、横、厚さの三方向の寸法を精測する。
【0073】
次に、前記加硫ゴムの全スルフィド結合量(ν)測定用として溶液(T)、モノスルフィド結合量(ν)測定用として溶液(M)、ポリスルフィド結合量(ν)測定用として溶液(P)を、次のようにして調製する。
ベンゼン(又はトルエン)と、テトラヒドロフラン(THF)を、脱水及び脱酸素し、当該ベンゼン(又はトルエン)と、テトラヒドロフラン(THF)とを、体積基準で、1:1で混合する。混合液を密閉可能な容器に投入し、窒素置換して、溶液(T)とする。溶液(T)の入った前記容器を容器(1)称する。
【0074】
容器(1)に、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH)の粉末を窒素置換しながら投入し、2~3日放置する。溶液の上澄みを分取し、これを溶液(M)とする。溶液(M)を分取した容器を容器(2)と称する。
【0075】
プロパン-2-チオール及びピペリジンを脱水及び脱酸素し、当該プロパン-2-チオール及びピペリジンを、等モル採取し、窒素置換しながら容器(2)に投入する。このようにして溶液(P)を得る。
【0076】
三方向の寸法を精測した加硫ゴム試料を、密閉可能な容器3つにそれぞれ投入し、それぞれ1時間真空乾燥してから窒素置換する。その後、加硫ゴム試料の入った容器に、溶液(T)、溶液(M)、溶液(P)を、それぞれ投入し、密閉して、30℃で24時間放置して、加硫ゴム試料を膨潤させる。
次いで、窒素雰囲気下で、各容器から加硫ゴム試料を取り出し、溶液(T)で洗浄し、膨潤した加硫ゴム試料の寸法を精測する。また、膨潤した加硫ゴム試料について、熱機械分析装置(TMA;thermomechanical analyzer)を用い、加硫ゴム試料の膨潤の大小に応じて1~60gまでの荷重を段階的に加え、圧縮応力と歪みの関係を求める。
以上のデータを、Floryの膨潤圧縮と網目鎖密度の理論式に入力して、各スルフィド網目鎖密度を算出する。
加硫ゴム試料が充填剤を含まない純ゴムの場合は、式(2)に測定データを入力し、各スルフィド網目鎖密度を算出する。
【数1】
【0077】
加硫ゴム試料が充填剤を含む充填系の場合は、式(3)に測定データを入力し、各スルフィド網目鎖密度を算出する。
【数2】
【0078】
式(2)及び(3)において、
fは、応力〔N〕を表し、熱機械分析装置で測定した圧縮応力として求まる。
kは、定数を表す。
Tは、測定温度〔K〕を表す。
νは、スルフィド網目鎖密度〔mol/cm〕であり、溶液(M)で膨潤した加硫ゴム試料においてはνが、溶液(T)で膨潤した加硫ゴム試料においてはνが、溶液(P)で膨潤した加硫ゴム試料においてはνが当てはまる。
は、膨潤前の加硫ゴム試料の全体積〔cm〕を表し、加硫ゴム試料の寸法測定より求まる。
αは、膨潤後の加硫ゴム試料の圧縮又は伸長比であり、α=L/LS0より求まる。
は、膨潤前の加硫ゴム試料の厚さ〔m〕を表し、加硫ゴム試料の寸法測定より求まる。
S0は、膨潤後の加硫ゴム試料の厚さ〔m〕を表し、加硫ゴム試料の寸法測定より求まる。
は、膨潤後の加硫ゴム試料の圧縮又は伸長後の厚さ〔m〕を表し、加硫ゴム試料の寸法測定より求まる。
は、膨潤前の加硫ゴム試料の断面積〔m〕を表し、加硫ゴム試料の寸法測定より求まる。
φは、加硫ゴム試料中の充填剤の体積分率〔%〕を表し、加硫ゴム試料と充填剤の寸法測定より求まる。
【0079】
次に、前記加硫ゴムに用いられるゴム組成物(以下、単に「ゴム組成物」ということがある。)について説明する。
前記加硫ゴムに用いられるゴム組成物は、上述したモノ/ジスルフィド結合量を満たすことができるものであれば特に限定はされない。例えば、上述したモノ/ジスルフィド結合量を、より確実に達成できる観点から、ゴム成分と、充填剤と、加硫剤と、加硫促進剤と、を含むゴム組成物を用いることができる。
【0080】
(ゴム成分)
前記ゴム組成物に含まれるゴム成分としては、特に限定はされないが、例えば、ジエン系ゴム及び非ジエン系ゴムが挙げられる。
ジエン系ゴムは、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種が用いられる。
合成ジエン系ゴムとしては、具体的には、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(BIR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム(SIR)、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(SBIR)等が挙げられる。
前記ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム及びポリブタジエンゴムが好ましく、天然ゴム及びポリブタジエンゴムがより好ましい。
【0081】
非ジエン系ゴムとしては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM(EPMとも称する))、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M-EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマーとの共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等が挙げられる。
【0082】
なお、前記ゴム成分は、一種単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
また、前記ゴム成分は、変性されていてもよいし、未変性でもよく、二種以上のゴム成分を用いる場合は、未変性のゴム成分と変性されたゴム成分を混合して用いてもよい。
さらに、前記ゴム成分は、ジエン系ゴムを含んでもよいし、非ジエン系ゴムを含んでもよいが、高温での耐軟化性及び機械的強度に優れた網目構造の加硫ゴムを得る観点から、少なくともジエン系ゴムを含むことが好ましく、ジエン系ゴムからなることがより好ましい。
さらにまた、前記ジエン系ゴムは、天然ゴムと合成ジエン系ゴムのいずれか一方のみ用いてもよいし、両方を用いてもよいが、引張強度、破壊伸びなどの破壊特性を向上する観点から、天然ゴムと合成ジエン系ゴムを併用することが好ましい。
【0083】
前記加硫ゴムの発熱抑制の観点からは、前記ゴム成分は、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含まない(ゴム成分中の含有量が0質量%)であることが好ましい。
よって、タイヤのランフラット耐久性を向上し、かつ、低発熱性を向上する観点から、ゴム成分は、天然ゴム、ポリイソプレンゴム及びポリブタジエンゴムからなることが好ましく、天然ゴム及びポリブタジエンゴムかならなることがより好ましい。なお、既述のように、前記ゴム成分は変性されていても未変性であってもよく、例えば、「天然ゴム及びポリブタジエンゴムかならなる」には、未変性の天然ゴム及び変性されたポリブタジエンゴムを用いた態様、変性された天然ゴム及び変性されたポリブタジエンゴムを用いた態様等を含む。
前記ゴム成分が天然ゴムを含む場合、天然ゴムの割合は、引張強度、破壊伸びなどの破壊特性をより向上する観点から、10質量%以上が好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~70質量%が更に好ましい。
【0084】
前記ゴム成分は、加硫ゴムの低発熱性を向上する観点からは、変性基を含むゴム(変性ゴムと称することがある)を用いることが好ましく、変性基を含む合成ゴムを用いることがより好ましい。
前記サイド補強ゴムの補強性を向上する観点から、ゴム組成物は充填剤を含有しており、充填剤(特に、カーボンブラック)との相互作用を高めるために、ゴム成分は、変性基を含む合成ゴムとして、変性基を含むポリブタジエンゴム(変性ポリブタジエンゴム)を含むことが好ましい。
後述するように、充填剤は少なくともカーボンブラックを含有することが好ましく、変性ポリブタジエンゴムは、カーボンブラックと相互作用する官能基を少なくとも一つ有する変性ポリブタジエンゴムであることが好ましい。カーボンブラックと相互作用する官能基は、カーボンブラックと親和性を有する官能基が好ましく、具体的には、スズ含有官能基、ケイ素含有官能基及び窒素含有官能基からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0085】
前記変性ポリブタジエンゴムが、スズ含有官能基、ケイ素含有官能基及び窒素含有官能基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基を少なくとも一つ有する変性ポリブタジエンゴムである場合、変性ポリブタジエンゴムは、スズ含有化合物、ケイ素含有化合物又は窒素含有化合物等の変性剤で変性され、スズ含有官能基、ケイ素含有官能基又は窒素含有官能基等を導入したものであることが好ましい。
ブタジエンゴムの重合活性部位を変性剤で変性するにあたって、使用する変性剤としては、窒素含有化合物、ケイ素含有化合物及びスズ含有化合物が好ましい。この場合、変性反応により、窒素含有官能基、ケイ素含有官能基又はスズ含有官能基を導入することができる。
このような変性用官能基は、ポリブタジエンの重合開始末端、主鎖及び重合活性末端のいずれかに存在すればよい。
【0086】
前記変性剤として用いることができる窒素含有化合物は、置換若しくは非置換のアミノ基、アミド基、イミノ基、イミダゾール基、ニトリル基又はピリジル基を有することが好ましい。該変性剤として好適な窒素含有化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネート、クルードMDI、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物、4-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ジメチルアミノベンジリデンアニリン、4-ジメチルアミノベンジリデンブチルアミン、ジメチルイミダゾリジノン、N-メチルピロリドンヘキサメチレンイミン等が挙げられる。
【0087】
また、上記変性剤として用いることができるケイ素含有化合物としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N-(1-メチルプロピリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-4,5-ジヒドロイミダゾール、3-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリルプロピルコハク酸無水物、3-(1-ヘキサメチレンイミノ)プロピル(トリエトキシ)シラン、(1-ヘキサメチレンイミノ)メチル(トリメトキシ)シラン、3-ジエチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、3-ジメチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、2-(トリメトキシシリルエチル)ピリジン、2-(トリエトキシシリルエチル)ピリジン、2-シアノエチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。これらケイ素含有化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、該ケイ素含有化合物の部分縮合物も用いることができる。
【0088】
さらに、上記変性剤としては、下記式(I):
ZX (I)
[式中、Rは、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基及び炭素数7~20のアラルキル基からなる群から選択され;Zは、スズ又はケイ素であり;Xは、それぞれ独立して塩素又は臭素であり;aは0~3で、bは1~4で、但し、a+b=4である]で表される変性剤も好ましい。なお、式(I)の変性剤で変性して得られる変性ポリブタジエンゴムは、少なくとも一種のスズ-炭素結合又はケイ素-炭素結合を有する。
【0089】
式(I)のRとして、具体的には、メチル基、エチル基、n-ブチル基、ネオフィル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。また、式(I)の変性剤として、具体的には、SnCl、RSnCl、R SnCl、R SnCl、SiCl、RSiCl、R SiCl、R SiCl等が好ましく、SnCl及びSiClが特に好ましい。
【0090】
前記変性ポリブタジエンゴムとしては、以上の中でも、加硫ゴムを低発熱化し、耐久寿命を延ばす観点から、窒素含有官能基を有する変性ポリブタジエンゴムであることが好ましく、アミン変性ポリブタジエンゴムであることがより好ましい。
【0091】
前記アミン変性ポリブタジエンゴムは、変性用アミン系官能基として、第1級アミノ基又は第2級アミノ基が好ましく、脱離可能基で保護された第1級アミノ基又は脱離可能基で保護された第2級アミノ基を導入したものがより好ましく、これらアミノ基に加え、さらにケイ素原子を含む官能基を導入したものが更に好ましい。
脱離可能基で保護された第1級アミノ基(保護化第1級アミノ基ともいう。)の例としては、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノ基を挙げることができ、脱離可能基で保護された第2級アミノ基の例としてはN,N-(トリメチルシリル)アルキルアミノ基を挙げることができる。このN,N-(トリメチルシリル)アルキルアミノ基含有基としては、非環状残基、及び環状残基のいずれであってもよい。
上記のアミン変性ポリブタジエンゴムのうち、保護化第1級アミノ基で変性された第1級アミン変性ポリブタジエンゴムが更に好適である。
前記ケイ素原子を含む官能基としては、ケイ素原子にヒドロカルビルオキシ基及び/又はヒドロキシ基が結合してなるヒドロカルビルオキシシリル基及び/又はシラノール基を挙げることができる。
このような変性用官能基は、好ましくはブタジエンゴムの重合末端、より好ましくは同一重合活性末端に、脱離可能基で保護されたアミノ基と、ヒドロカルビルオキシ基及びヒドロキシ基が結合したケイ素原子を1以上(例えば、1又は2)とを有するものである。
【0092】
ブタジエンゴムの活性末端に、保護化第1級アミンを反応させて変性させるには、該ブタジエンゴムは、少なくとも10%のポリマー鎖がリビング性又は擬似リビング性を有するものが好ましい。このようなリビング性を有する重合反応としては、有機アルカリ金属化合物を開始剤とし、有機溶媒中で共役ジエン化合物単独、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とをアニオン重合させる反応か、あるいは有機溶媒中でランタン系列希土類元素化合物を含む触媒による共役ジエン化合物単独、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを配位アニオン重合させる反応が挙げられる。前者は、後者に比較して共役ジエン部分のビニル結合含有量の高いものを得ることができるので好ましい。ビニル結合量を高くすることによって加硫ゴムの耐熱性を向上させることができる。
【0093】
ここで、アニオン重合の開始剤として用いられる有機アルカリ金属化合物としては、有機リチウム化合物が好ましい。有機リチウム化合物としては、特に制限はないが、ヒドロカルビルリチウム及びリチウムアミド化合物が好ましく用いられ、前者のヒドロカルビルリチウムを用いる場合には、重合開始末端にヒドロカルビル基を有し、かつ他方の末端が重合活性部位であるブタジエンゴムが得られる。また、後者のリチウムアミド化合物を用いる場合には、重合開始末端に窒素含有基を有し、他方の末端が重合活性部位であるブタジエンゴムが得られる。
【0094】
前記ヒドロカルビルリチウムとしては、炭素数2~20のヒドロカルビル基を有するものが好ましく、例えばエチルリチウム、n-プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-オクチルリチウム、n-デシルリチウム、フェニルリチウム、2-ナフチルリチウム、2-ブチルフェニルリチウム、4-フェニルブチルリチウム、シクロへキシルリチウム、シクロベンチルリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとブチルリチウムとの反応生成物等が挙げられるが、これらの中で、特にn-ブチルリチウムが好適である。
【0095】
一方、リチウムアミド化合物としては、例えばリチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピぺリジド、リチウムへプタメチレンイミド、リチウムドデカメチレンイミド、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジブチルアミド、リチウムジプロピルアミド、リチウムジへプチルアミド、リチウムジへキシルアミド、リチウムジオクチルアミド、リチウムジ-2-エチルへキシルアミド、リチウムジデシルアミド、リチウム-N-メチルピベラジド、リチウムエチルプロピルアミド、リチウムエチルブチルアミド、リチウムエチルベンジルアミド、リチウムメチルフェネチルアミド等が挙げられる。これらの中で、カーボンブラックに対する相互作用効果及び重合開始能の点から、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピぺリジド、リチウムへプタメチレンイミド、リチウムドデカメチレンイミド等の環状リチウムアミドが好ましく、特にリチウムヘキサメチレンイミド及びリチウムピロリジドが好適である。
これらのリチウムアミド化合物は、一般に、第2級アミンとリチウム化合物とから、予め調製したものを重合に使用することができるが、重合系中(in-Situ)で調製することもできる。また、この重合開始剤の使用量は、好ましくは単量体100g当たり、0.2~20ミリモルの範囲で選定される。
【0096】
前記有機リチウム化合物を重合開始剤として用い、アニオン重合によってブタジエンゴムを製造する方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。
具体的には、反応に不活性な有機溶剤、例えば脂肪族、脂環族、芳香族炭化水素化合物等の炭化水素系溶剤中において、共役ジエン化合物又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を、前記リチウム化合物を重合開始剤として、所望により、用いられるランダマイザーの存在下にアニオン重合させることにより、目的の活性末端を有するブタジエンゴムが得られる。
また、有機リチウム化合物を重合開始剤として用いた場合には、前述のランタン系列希土類元素化合物を含む触媒を用いた場合に比べ、活性末端を有するブタジエンゴムのみならず、活性末端を有する共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物の共重合体も効率よく得ることができる。
【0097】
前記炭化水素系溶剤としては、炭素数3~8のものが好ましく、例えばプロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、プロペン、1-ブテン、イソブテン、トランス-2-ブテン、シス-2-ブテン、1-ペンテン、2-ペンテン、1-へキセン、2-へキセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
また、溶媒中の単量体濃度は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~30質量%である。尚、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を用いて共重合を行う場合、仕込み単量体混合物中の芳香族ビニル化合物の含量は55質量%以下の範囲が好ましい。
【0098】
本発明においては、上述のようにして得られた活性末端を有するブタジエンゴムの活性末端に、変性剤として、保護化第1級アミン化合物を反応させることにより、第1級アミン変性ポリブタジエンゴムを製造することができ、保護化第2級アミン化合物を反応させることにより、第2級アミン変性ポリブタジエンゴムを製造することができる。上記保護化第1級アミン化合物としては、保護化第1級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が好適であり、保護化第2級アミン化合物としては、保護化第2級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が好適である。
【0099】
前記アミン変性ポリブタジエンゴムを得るための変性剤として用いられる保護化第1級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物としては、例えばN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、1-トリメチルシリル-2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリエトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルメチルジメトキシシラン及びN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルメチルジエトキシシラン等を挙げることができ、好ましくは、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン又は1-トリメチルシリル-2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタンである。
【0100】
また、前記アミン変性ポリブタジエンゴムを得るための変性剤としては、N-メチル-N-トリメチルシリルアミノプロピル(メチル)ジメトキシシラン、N-メチル-N-トリメチルシリルアミノプロピル(メチル)ジエトキシシラン、N-トリメチルシリル(ヘキサメチレンイミン-2-イル)プロピル(メチル)ジメトキシシラン、N-トリメチルシリル(ヘキサメチレンイミン-2-イル)プロピル(メチル)ジエトキシシラン、N-トリメチルシリル(ピロリジン-2-イル)プロピル(メチル)ジメトキシシラン、N-トリメチルシリル(ピロリジン-2-イル)プロピル(メチル)ジエトキシシラン、N-トリメチルシリル(ピペリジン-2-イル)プロピル(メチル)ジメトキシシラン、N-トリメチルシリル(ピペリジン-2-イル)プロピル(メチル)ジエトキシシラン、N-トリメチルシリル(イミダゾール-2-イル)プロピル(メチル)ジメトキシシラン、N-トリメチルシリル(イミダゾール-2-イル)プロピル(メチル)ジエトキシシラン、N-トリメチルシリル(4,5-ジヒドロイミダゾール-5-イル)プロピル(メチル)ジメトキシシラン、N-トリメチルシリル(4,5-ジヒドロイミダゾール-5-イル)プロピル(メチル)ジエトキシシランなどの保護化第2級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物;N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(1-メチルエチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-エチリデン-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(1-メチルプロピリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(4-N,N-ジメチルアミノベンジリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(シクロヘキシリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミンなどのイミノ基を有するアルコキシシラン化合物;3-ジメチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、3-ジメチルアミノプロピル(トリメトキシ)シラン、3-ジエチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、3-ジエチルアミノプロピル(トリメトキシ)シラン、2-ジメチルアミノエチル(トリエトキシ)シラン、2-ジメチルアミノエチル(トリメトキシ)シラン、3-ジメチルアミノプロピル(ジエトキシ)メチルシラン、3-ジブチルアミノプロピル(トリエトキシ)シランなどのアミノ基を有するアルコキシシラン化合物なども挙げられる。
これらの変性剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。またこの変性剤は部分縮合物であってもよい。
ここで、部分縮合物とは、変性剤のSiOR(Rはアルキル基等)の一部(全部ではない)が縮合によりSiOSi結合になったものをいう。
【0101】
前記変性剤による変性反応において、該変性剤の使用量は、好ましくは0.5~200mmol/kg・ブタジエンゴムである。同使用量は、さらに好ましくは1~100mmol/kg・ブタジエンゴムであり、特に好ましくは2~50mmol/kg・ブタジエンゴムである。ここで、ブタジエンゴムとは、製造時又は製造後、添加される老化防止剤等の添加剤を含まないブタジエンゴムの質量を意味する。変性剤の使用量を前記範囲にすることによって、充填剤、特にカーボンブラックの分散性に優れ、加硫ゴムの耐破壊特性及び低発熱性が改良される。
なお、前記変性剤の添加方法は、特に制限されず、一括して添加する方法、分割して添加する方法、あるいは、連続的に添加する方法等が挙げられるが、一括して添加する方法が好ましい。
また、変性剤は、重合開始末端や重合終了末端以外に重合体主鎖や側鎖のいずれに結合させることもできるが、重合体末端からエネルギー消失を抑制して低発熱性を改良しうる点から、重合開始末端あるいは重合終了末端に導入されていることが好ましい。
【0102】
また、前記変性剤として用いる保護化第1級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が関与する縮合反応を促進するために、縮合促進剤を用いることが好ましい。
このような縮合促進剤としては、第三アミノ基を含有する化合物、又は周期律表(長周期型)の3族、4族、5族、12族、13族、14族及び15族のうちのいずれかの属する元素を一種以上含有する有機化合物を用いることができる。さらに縮合促進剤として、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ビスマス(Bi)、アルミニウム(Al)、及びスズ(Sn)からなる群から選択される少なくとも一種以上の金属を含有する、アルコキシド、カルボン酸塩、又はアセチルアセトナート錯塩であることが好ましい。
ここで用いる縮合促進剤は、前記変性反応前に添加することもできるが、変性反応の途中及び又は終了後に変性反応系に添加することが好ましい。変性反応前に添加した場合、活性末端との直接反応が起こり、活性末端に保護された第一アミノ基を有するヒドロカルビロキシ基が導入されない場合がある。
縮合促進剤の添加時期としては、通常、変性反応開始5分~5時間後、好ましくは変性反応開始15分~1時間後である。
【0103】
縮合促進剤としては、具体的には、例えば、テトラメトキシチタニウム、テトラエトキシチタニウム、テトラ-n-プロポキシチタニウム、テトライソプロポキシチタニウム、テトラ-n-ブトキシチタニウム、テトラ-n-ブトキシチタニウムオリゴマー、テトラ-sec-ブトキシチタニウム、テトラ-tert-ブトキシチタニウム、テトラ(2-エチルヘキシル)チタニウム、ビス(オクタンジオレート)ビス(2-エチルヘキシル)チタニウム、テトラ(オクタンジオレート)チタニウム、チタニウムラクテート、チタニウムジプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタニウムジブトキシビス(トリエタノールアミネート)、チタニウムトリブトキシステアレート、チタニウムトリプロポキシステアレート、チタニウムエチルヘキシルジオレート、チタニウムトリプロポキシアセチルアセトネート、チタニウムジプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタニウムトリプロポキシエチルアセトアセテート、チタニウムプロポキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムトリブトキシアセチルアセトネート、チタニウムジブトキシビス(アセチルアセトネート)、チタニウムトリブトキシエチルアセトアセテート、チタニウムブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムジアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ビス(2-エチルヘキサノエート)チタニウムオキサイド、ビス(ラウレート)チタニウムオキサイド、ビス(ナフテネート)チタニウムオキサイド、ビス(ステアレート)チタニウムオキサイド、ビス(オレエート)チタニウムオキサイド、ビス(リノレート)チタニウムオキサイド、テトラキス(2-エチルヘキサノエート)チタニウム、テトラキス(ラウレート)チタニウム、テトラキス(ナフテネート)チタニウム、テトラキス(ステアレート)チタニウム、テトラキス(オレエート)チタニウム、テトラキス(リノレート)チタニウム、テトラキス(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)チタン等のチタニウムを含む化合物を挙げることができる。
【0104】
また、例えば、トリス(2-エチルヘキサノエート)ビスマス、トリス(ラウレート)ビスマス、トリス(ナフテネート)ビスマス、トリス(ステアレート)ビスマス、トリス(オレエート)ビスマス、トリス(リノレート)ビスマス、テトラエトキシジルコニウム、テトラ-n-プロポキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラ-n-ブトキシジルコニウム、テトラ-sec-ブトキシジルコニウム、テトラ-tert-ブトキシジルコニウム、テトラ(2-エチルヘキシル)ジルコニウム、ジルコニウムトリブトキシステアレート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムトリブトキシエチルアセトアセテート、ジルコニウムブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムジアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ビス(2-エチルヘキサノエート)ジルコニウムオキサイド、ビス(ラウレート)ジルコニウムオキサイド、ビス(ナフテネート)ジルコニウムオキサイド、ビス(ステアレート)ジルコニウムオキサイド、ビス(オレエート)ジルコニウムオキサイド、ビス(リノレート)ジルコニウムオキサイド、テトラキス(2-エチルヘキサノエート)ジルコニウム、テトラキス(ラウレート)ジルコニウム、テトラキス(ナフテネート)ジルコニウム、テトラキス(ステアレート)ジルコニウム、テトラキス(オレエート)ジルコニウム、テトラキス(リノレート)ジルコニウム等のビスマスまたはジルコニウムを含む化合物を挙げることができる。
【0105】
さらに、例えば、トリエトキシアルミニウム、トリ-n-プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ-n-ブトキシアルミニウム、トリ-sec-ブトキシアルミニウム、トリ-tert-ブトキシアルミニウム、トリ(2-1エチルヘキシル)アルミニウム、アルミニウムジブトキシステアレート、アルミニウムジブトキシアセチルアセトネート、アルミニウムブトキシビス(アセチルアセトネート)、アルミニウムジブトキシエチルアセトアセテート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、トリス(2-エチルヘキサノエート)アルミニウム、トリス(ラウレート)アルミニウム、トリス(ナフテネート)アルミニウム、トリス(ステアレート)アルミニウム、トリス(オレエート)アルミニウム、トリス(リノレート)アルミニウム等のアルミニウムを含む化合物を挙げることができる。
【0106】
上述の縮合促進剤の内、チタン化合物が好ましく、チタン金属のアルコキシド、チタン金属のカルボン酸塩、又はチタン金属のアセチルアセトナート錯塩が特に好ましい。
この縮合促進剤の使用量としては、前記化合物のモル数が、反応系内に存在するヒドロカルビロキシ基総量に対するモル比として、0.1~10となることが好ましく、0.5~5が特に好ましい。縮合促進剤の使用量を前記範囲にすることによって縮合反応が効率よく進行する。
なお、縮合反応時間は、通常、5分~10時間、好ましくは15分~5時間程度である。縮合反応時間を前記範囲にすることによって縮合反応を円滑に完結することができる。
また、縮合反応時の反応系の圧力は、通常、0.01~20MPa、好ましくは0.05~10MPaである。
【0107】
前記加硫ゴムの低発熱性及び高温耐軟化性を向上する観点からは、前記ゴム組成物のゴム成分中の変性ゴムの含有量は、10~90質量%であることが好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~70質量%が更に好ましい。
【0108】
(充填剤)
前記加硫ゴムに用いられるゴム組成物は、さらに、充填剤を含むことができる。前記充填剤を含むことで、加硫ゴムの剛性を高め、高温での耐軟化性を得ることができる。
前記充填剤としては、例えば、アルミナ、チタニア、シリカ等の金属酸化物、クレー、炭酸カルシウム及びカーボンブラック等補強性充填剤が挙げられ、シリカ及びカーボンブラックが好ましく用いられる。タイヤ内の空気が抜け、サイド補強ゴム層、ビードフィラー等が撓んで、これらの部位を構成する加硫ゴムが発熱した場合でも、加硫ゴムの発熱を抑制する観点から、低発熱性の充填剤を用いることが好ましい。
【0109】
ここで、前記カーボンブラックは、DBP吸油量(ジブチルフタレート吸油量)が120~180mL/100gであることが好ましい。
DBP吸油量は、カーボンブラックの凝集体構造の発達度合(「ストラクチャー」と称することがある)を表す指標として用いられ、DBP吸油量が大きいほど凝集体が大きくなる傾向にある。本明細書においては、DBP吸油量が120mL/100g以上であるカーボンブラックを、高ストラクチャーのカーボンブラックと称する。
DBP吸油量が120mL/100g以上であることで、加硫ゴムの引張強度及び耐圧縮性を向上し、タイヤの高温軟化抑制性を向上することができ、DBP吸油量が180mL/100g以下であることで、発熱を抑制することができ、高温軟化抑制性を向上することができる。
同様の観点から、前記カーボンブラックのDBP吸油量は、122~170mL/100gであることがより好ましく、125~165mL/100gであることがさらに好ましい。
【0110】
さらに、前記カーボンブラックは、大粒径かつ高ストラクチャーのカーボンブラックを含むことが好ましい。一般に、カーボンブラックは、粒径が大きくなるほどストラクチャーが低くなるものであるが、大粒径であっても高ストラクチャーのカーボンブラックを用いることで、発熱性をより抑制し、かつ引張強度及び圧縮強度をより向上することができるので、ランフラットタイヤの高温での耐軟化性をより向上することができる。
具体的には、前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積が15~39m/gであり、かつ、DBP吸油量が120~180mL/100gであることが好ましい。
【0111】
さらにまた、前記カーボンブラックは、トルエン着色透過度が50%以上であることが好ましい。
トルエン着色透過度が50%以上であることで、カーボンブラック表面に存在するタール分、特に芳香族成分が抑制され、ゴム成分を充分に補強することができ、加硫ゴムの耐摩耗性等を向上することができる。カーボンブラックのトルエン着色透過度は、60%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。カーボンブラックのトルエン着色透過度は100%でもよいが、通常、100%未満である。
なお、トルエン着色透過度は、JIS K 6218:1997の第8項B法に記載の方法により測定され、純粋なトルエンとの百分率で表示される。
【0112】
前記ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、加硫ゴムの高温での耐軟化性をより向上し、ランフラット耐久性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して、30~100質量部であることが好ましく、35~80質量部であることがより好ましく、40~70質量部であることが更に好ましい。
【0113】
前記シリカの種類は、特に限定されないが、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、コロイダルシリカ等が挙げられる。シリカは、市販品でもよく、例えば、東ソー・シリカ株式会社のNIPSIL AQ(商品名)、ローディア社のZeosil 1115MP(商品名)、エボニックデグッサ社のVN-3(商品名)として、入手することができる。
また、充填剤としてシリカを用いる場合、シリカ-ゴム成分間の結合を強化して補強性を高めた上で、ゴム組成物中のシリカの分散性を向上させるために、ゴム組成物は、更に、シランカップリング剤を含んでいてもよい。
【0114】
なお、前記ゴム組成物において、前記充填剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。また、前記充填剤は、カーボンブラック及びシリカのいずれか一方を含んでもよいし、両方を含んでもよいが、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましく、カーボンブラックを1種単独で、又は2種以上を混合して用いることがより好ましい。
【0115】
また、前記ゴム組成物中の充填剤の含有量(全合計量)は、転がり抵抗性をより改善し、ランフラット耐久性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して、30~100質量部であることが好ましく、30~100質量部であることが好ましく、35~80質量部であることがより好ましく、40~70質量部であることが更に好ましい。
【0116】
(加硫剤)
前記加硫ゴムに用いられるゴム組成物は、さらに加硫剤を含むことができる。
前記加硫剤は、特に制限はなく、通常、硫黄を用い、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等を挙げることができる。
さらに、前記ゴム組成物は、加硫促進剤の合計の含有量が、加硫剤の合計の含有量よりも少ないことが好ましい。より具体的には、後述する加硫促進剤の合計の含有量(d)と、前記加硫剤の合計の含有量(c)との質量比(d/c)が、0.55~0.99であることが好ましい。
【0117】
一般に、加硫ゴムの網目構造におけるモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合を高めるには、加硫促進剤の合計の含有量を、加硫剤の合計の含有量よりも多くするが、本発明では、反対に、加硫促進剤の合計の含有量を、加硫剤の合計の含有量よりも少なくすることが好ましい。更に、チウラム系の加硫促進剤を用い、モノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が多い加硫ゴムは、耐熱性に優れる一方で、機械的強度が低下すると言われることがある。しかし、本発明においては、高温での耐軟化性と機械的強度を両立することができる。かかる理由は定かではないが、本発明では、加硫促進剤として、テトラベンジルチウラムジスルフィドを含むことに起因して、高温での耐軟化性と機械的強度を両立することができると考えられる。
同様の観点から、加硫促進剤の合計の含有量(d)と、加硫剤の合計の含有量(c)との質量比(d/c)は、タイヤのランフラット耐久性をより向上する観点から、0.55~0.95であることがより好ましく、0.55~0.90であることがさらに好ましく、0.55~0.85であることが特に好ましい。
【0118】
なお、前記ゴム組成物中の加硫剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2~12質量部が好ましい。この含有量が2質量部以上であることで加硫を充分に進行させることができ、12質量部以下をとすることで、加硫ゴムの耐老化性を抑制することができる。
同様の観点から、前記ゴム組成物中の加硫剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、3~10質量部であることがより好ましく、4~8質量部であることがさらに好ましい。
【0119】
(加硫促進剤)
前記ゴム組成物は、さらに加硫促進剤を含むことができ、該加硫促進剤がチウラム系加硫促進剤を含有することが好ましい。
既述のように、本発明の加硫ゴムは、モノ/ジスルフィド結合量が多く、加硫ゴムの耐熱性に優れる。従来、モノ/ジスルフィド結合量の多さに伴い、加硫ゴムは機械的強度が低下すると言われてきたことに反し、本発明の加硫ゴムは機械的強度を保ち、高温で軟化しにくい。これは、ゴム組成物が、加硫促進剤として、チウラム系加硫促進剤を含むことが有効であると考えられる。
【0120】
タイヤの転がり抵抗性及びランフラット耐久性をより向上させる観点から、前記チウラム系加硫促進剤のゴム組成物中の含有量(a)は、ゴム成分100質量部に対して1.0~2.0質量部であることが好ましい。
前記チウラム系加硫促進のゴム組成物中の含有量(a)が、ゴム成分100質量部に対して1.0質量部以上であることで、十分なランフラット耐久性が得られ、含有量(a)が2.0質量部以下であることで、ゴム焼けが生じにくく、加硫ゴムの機械的強度の低下を抑制することができる。
タイヤの転がり抵抗性及びランフラット耐久性をより向上する観点から、前記チウラム系加硫促進剤の含有量(a)は、前記ゴム成分100質量部に対して、1.2~1.8質量部であることがより好ましく、1.3~1.7質量部であることがさらに好ましい。
【0121】
また、一般的には、加硫剤を少なく用い、チウラム系加硫促進剤を多く用いてモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合を高める技術が用いられるが、本発明においては、加硫剤を多く用い、チウラム系加硫促進剤を少なく用いて、モノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合を高めることもできる。
具体的には、チウラム系加硫促進剤の含有量(a)と、前記加硫剤の含有量(c)との質量比(a/c)が、0.22~0.32であることが好ましい。質量比(A/c)が上記範囲であることで、加硫ゴムが転がり抵抗性及びランフラット耐久性に優れる。
同様の観点から、前記質量比(a/c)は、0.25~0.32であることがより好ましく、0.27~0.32であることがさらに好ましい。
【0122】
前記チウラム系加硫促進剤については、特に限定はされず、要求される加硫ゴムの性能に応じて適宜選択することができる。としては、テトラベンジルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等があげられる。
ただし、前記加硫促進剤の合計の含有量を、前記加硫剤の合計の含有量よりも少なくする成分組成とする場合、モノスルフィド結合とジスルフィド結合の割合を増やして、加硫ゴムの高温での耐軟化性を上げながら、機械的強度も向上させる観点から、チウラム系加硫促進剤が、少なくともテトラベンジルチウラムジスルフィドを含むことが好ましい。
【0123】
前記加硫促進剤については、上述したチウラム系加硫促進剤に加えて、スルフェンアミド系加硫促進剤を含有することが好ましい。
前記加硫促進剤中に、スルフェンアミド系加硫促進剤を含むことで、タイヤのランフラット耐久性をより向上することができる。
スルフェンアミド系加硫促進剤は、前記チウラム系加硫促進剤の含有量(a)と、ゴム組成物中のスルフェンアミド系加硫促進剤の含有量(b)の質量比(a/b)が0.60~1.25となる範囲で用いることが好ましい。前記質量比(a/b)が0.60以上であることで、加硫ゴムの高温時の耐軟化性が得られ易く、タイヤは転がり抵抗性及びランフラット耐久性に優れる。また、質量比(a/b)が1.25以下であることで破壊特性を確保することができる。
同様の観点から、前記チウラム系加硫促進剤の含有量(a)と、ゴム組成物中のスルフェンアミド系加硫促進剤の含有量(b)の質量比(a/b)は、0.62~1.22であることが好ましく、0.64~1.20であることがより好ましい。
【0124】
より具体的には、前記ゴム組成物中のスルフェンアミド系加硫促進剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.80~3.33質量部であることが好ましい。スルフェンアミド系加硫促進剤の含有量は、転がり抵抗性及びランフラット耐久性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して1.00~3.00質量部であることがより好ましく、1.10~2.80質量部であることが更に好ましい。
【0125】
前記スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-メチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-エチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-プロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ペンチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ヘプチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オクチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-2-エチルヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-デシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ドデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ステアリル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジメチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジエチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジプロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジペンチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジヘプチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジオクチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジ-2-エチルヘキシルベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジドデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジステアリル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられる。これらのスルフェンアミド系加硫促進剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
さらに、前記スルフェンアミド系加硫促進剤は、上述した中でも、加硫ゴムの高温での耐軟化性と機械的強度を両立し、ランフラット耐久性をより向上する観点から、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド及びN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドのうちの少なくとも1つを含むことが好ましく、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを含むことがより好ましい。
【0126】
なお、前記加硫促進剤は、前記チウラム系加硫促進剤及び前記スルフェンアミド系加硫促進剤の他、グアジニン系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、チアゾール系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系、ザンテート系等の加硫促進剤をさらに含有することもできる。
ただし、前記加硫促進剤の合計の含有量を、加硫剤の合計の含有量よりも少なくする成分組成においては、モノスルフィド結合とジスルフィド結合の割合を増やして、加硫ゴムの高温での耐軟化性を上げながら、機械的強度も向上する観点から、前記加硫促進剤が、チウラム系加硫促進剤及びスルフェンアミド系加硫促進剤からなることが好ましい。
【0127】
なお、前記加硫ゴムを構成するゴム組成物については、本発明の効果が損なわれない範囲で、要求に応じて、通常ゴム工業界で用いられる各種薬品、例えば、加硫遅延剤、軟化剤、老化防止剤、スコーチ防止剤、加硫促進助剤亜鉛華(酸化亜鉛)、ステアリン酸などを含有することができる。
【0128】
前記ゴム組成物が加硫遅延剤を含むことで、ゴム組成物の調製時にゴム組成物の過加熱に起因するゴム焼けを抑制することができる。また、前記ゴム組成物のスコーチ安定性を良好にして、ゴム組成物の混練機からの押し出しを容易にすることができる。
なお、ゴム組成物は、ムーニー粘度(ML1+4,130℃)が、好ましくは40~100、より好ましくは50~90、更に好ましくは60~85である。ムーニー粘度が上記範囲であることで、製造加工性を損なわずに、耐破壊特性を始めとする加硫ゴム物性が十分に得られる。
前記加硫遅延剤としては、例えば、無水フタル酸、安息香酸、サリチル酸、N-ニトロソジフェニルアミン、N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミド(CTP)、スルホンアミド誘導体、ジフェニルウレア、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト等が挙げられる。加硫遅延剤は市販製品を用いてもよく、例えば、モンサント社製、商品名「サントガードPVI」〔N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミド〕等が挙げられる。以上の中でも、加硫遅延剤は、N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミド(CTP)が好ましく用いられる。
前記加硫遅延剤を用いる場合、加硫反応を妨げずにゴム組成物のゴム焼けを抑制し、スコーチ安定性を良好にする観点から、ゴム組成物中の加硫遅延剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.1~1.0質量部であることが好ましい。
【0129】
前記軟化剤としては、プロセスオイル、熱可塑性樹脂等が挙げられる。
プロセスオイルは、例えば、鉱物由来のミネラルオイル、石油由来のアロマチックオイル、パラフィンオイル、ナフテンオイル、天然物由来のパームオイル等が挙げられる。
また、熱可塑性樹脂としては、高温時に軟化又は液体状となり、加硫ゴムを柔軟にする樹脂が挙げられ、具体的には、例えば、C5系(シクロペンタジエン系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂を含む)、C9系、C5/C9混合系等の各種石油系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂等の粘着付与剤(硬化剤を含まない)等が挙げられる。
【0130】
前記老化防止剤としては、公知のものを用いることができ、特に制限されないが、フェノール系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、アミン系老化防止剤などを挙げることができる。これら老化防止剤の配合量は、前記ゴム成分100質量部に対し、通常0.5~10質量部、好ましくは1~5質量部である。
【0131】
このように、前記ゴム組成物は、既述の成分を混練することにより得られる。混練方法は、当業者が通常実施する方法に従えばよい。混練に際してはロール、インターナルミキサー、バンバリーローター等の混練機を用いることができる。更に、シート状、帯状等に成形する際には、押出成形機、プレス機等の公知の成形機を用いればよい。
例えば、硫黄、加硫促進剤(必要に応じて、更に加硫遅延剤)、及び酸化亜鉛以外の全成分を、100~200℃で混練した後、硫黄、加硫促進剤、及び酸化亜鉛(必要に応じて、更に加硫遅延剤)を添加して、混練ロール機等を用い、60~130℃で混練すればよい。
【0132】
なお、本発明のランフラットタイヤ、上述した有機繊維コード、並びに、サイド補強ゴム及びビードフィラーのうちの少なくとも1つ以外の条件については、特に限定はされず、常法に従って製造することができる。例えば、各種薬品を含有させたゴム組成物が未加硫の段階で各部材に加工され、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、ランフラットタイヤが得られる。
また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例
【0133】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、本発明の各実施例及び比較例のサンプルは、過去に測定したデータから予測して算出している。
【0134】
(製造例1)一級アミン変性ポリブタジエンゴム
窒素置換された5Lオートクレーブに、窒素下、シクロヘキサン1.4kg、1,3-ブタジエン250g、2,2-ジテトラヒドロフリルプロパン(0.285mmol)シクロヘキサン溶液として注入し、これに2.85mmolのn-ブチルリチウム(BuLi)を加えた後、攪拌装置を備えた50℃温水浴中で4.5時間重合を行なう。1,3-ブタジエンの反応転化率は、ほぼ100%である。この重合体溶液の一部を、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1.3gを含むメタノール溶液に抜き取り重合を停止させた後、スチームストリッピングにより脱溶媒し、110℃のロールで乾燥して、変性前のポリブタジエンを得る。得られた変性前のポリブタジエンについてミクロ構造(ビニル結合量)を測定した結果、ビニル結合量は30質量%である。
前記のように得られた重合体溶液を、重合体溶液を、重合触媒を失活させることなく、温度50℃に保ち、第1級アミノ基が保護されたN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン1129mg(3.364mmol)を加えて、変性反応を15分間行う。
この後、縮合促進剤であるテトラキス(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)チタン8.11gを加え、更に15分間攪拌する。
最後に反応後の重合体溶液に、金属ハロゲン化合物として四塩化ケイ素242mgを添加し、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒及び保護された第1級アミノ基の脱保護を行い、110℃に調温された熟ロールによりゴムを乾燥し、第1級アミン変性ポリブタジエンゴムPを得る。
得られた変性ポリブタジエンについてミクロ構造(ビニル結合量)を測定した結果、ビニル結合量は30質量%である。
【0135】
(製造例2)接着剤組成物1~4
まず、フロログルシノールを、100℃の水に溶解させ、濃度10wt%のフロログルシノール含有溶液を得た。
その後、10wt%フロログルシノール溶液33.5gを、高温下で維持して攪拌しながら、4%水酸化ナトリウム18.2gを加えた後、水206gで希釈し、25%アンモニア水を7.5g加えた。前記溶液に、1,4-ベンゼンジカルボアルデヒド6.4gを漸次的に加え、フロログルシノール・1,4-ベンゼンジカルボアルデヒド含有溶液を得た後、表3に示す温度及び時間で熟成を行い、フェノール/アルデヒド樹脂を得た。
前記フロログルシノール・1,4-ベンゼンジカルボアルデヒド含有溶液の熟成により得たフェノール/アルデヒド樹脂に、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(Vp)を加え、27℃で24時間ゴムの熟成を行う。さらに前記フェノール/アルデヒド樹脂およびVpの混合液に、表2の配合比となるよう、特定のイソシアネート化合物を加えた。
接着剤組成物1~4の配合成分については、配合Aとして表1及び2に示す。なお、表1は、固形成分としての配合量(質量%)、表2は、溶液状態での配合量(質量%)を示す。
【0136】
【表1】
【表2】
【0137】
*1: 富士フィルム和光純薬(株)製、10%水溶液として使用
*2: 東京化成工業(株)製、純度98%
*3: 関東化学(株)製、1N NaOH水溶液
*4: 関東化学(株)製、25%アンモニア水溶液
*5: Sime Darby社製、HYTEX HA
*6: JSR(株)製、SBR ラテックス 2108
*7: 日本A&L(株)製、PYRATEX
*8: 第一工業製薬(株)製、BN77、固形分濃度18%となるように希釈して使用
【0138】
<接着性評価>
天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体からなるゴム成分、カーボンブラック、架橋剤を含む未加硫状態のゴム組成物に、各サンプルの接着剤組成物をコーティングしたタイヤ用ポリエステルコードを埋め込み、これを試験片として、160℃で20分間、20kgf/cmの加圧下で加硫した。
得られた加硫物を室温まで冷却し、該加硫物からコードを掘り起こし、30cm/分の速度でコードを加硫物から剥離する時の抗力(N/cord)を25±1℃の室温雰囲気温度にて測定した。なお、このときの抗力を接着性評価の指標とした。
測定によって得られた接着剤組成物1~4を用いた際の試験片の剥離時の抗力を表3に示す。
【0139】
【表3】
【0140】
[実施例1~3、比較例1~3]
に示す配合組成で各成分を混練し、ゴム組成物を調製する。
また、得られたゴム組成物を、図1に示すサイド補強ゴム層8及びビードフィラー7に配設し、それぞれタイヤサイズ255/65R18のサイズの乗用車用ラジアルランフラットタイヤを定法に従って製造する。なお、各試作タイヤのサイド補強ゴム層の最大厚みは14.0mmとし、サイド補強ゴム層の形状は、いずれも同一である。また、カーカス4のプライ及びベルト補強層51には、表3に示す接着剤組成物4が表面にコーティングされた有機繊維コードを用いている。
【0141】
<加硫ゴムの物性測定、性能評価>
(1)モノ/ジスルフィド結合量及びポリスルフィド結合量
得られたゴム組成物を加硫して得られた加硫ゴムから、厚さ2mmのシートを切り取り、加硫ゴムシートを得た。加硫ゴムシートをアセトンで24時間抽出後、24時間真空乾燥した。乾燥後の加硫ゴムシートを2mm×2mm四方に裁断して、立方体状の加硫ゴム試料に成形した。次いで、加硫ゴム試料の縦、横、厚さの三方向の寸法を精測する。
次に、ベンゼンと、テトラヒドロフラン(THF)を、脱水及び脱酸素し、当該ベンゼンと、テトラヒドロフラン(THF)とを、体積基準で、1:1で混合し、混合液を密閉可能な容器に投入し、窒素置換して、溶液(T)とする。
溶液(T)の入った前記容器を容器(1)に、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH)の粉末を窒素置換しながら投入し、2日放置した。溶液の上澄みを分取し、これを溶液(M)とする。
プロパン-2-チオール及びピペリジンを脱水及び脱酸素し、当該プロパン-2-チオール及びピペリジンを、等モル採取し、溶液(M)を分取した容器を容器(2)に、窒素置換しながら投入して溶液(P)を得る。
三方向の寸法を精測した加硫ゴム試料を、密閉可能な容器3つにそれぞれ投入し、それぞれ1時間真空乾燥してから窒素置換した後、加硫ゴム試料の入った容器に、溶液(T)、溶液(M)、溶液(P)を、それぞれ投入し、密閉して、30℃で24時間放置して、加硫ゴム試料を膨潤させる。
次いで、窒素雰囲気下で、各容器から加硫ゴム試料を取り出し、溶液(T)で洗浄し、膨潤した加硫ゴム試料の寸法を精測する。また、膨潤した加硫ゴム試料について、熱機械分析装置(NETZSCH社製、商品名「TMA 4000SA」)を用い、加硫ゴム試料の膨潤の大小に応じて1~100gまでの荷重を段階的に加え、圧縮応力と歪みの関係を求める。
得られたデータを、既述の式(2)に入力し、モノスルフィド網目鎖密度(ν)と、モノスルフィド網目鎖密度及びジスルフィド網目鎖密度の合計量(ν+ν)〔mol/cm〕を求める。
ジスルフィド網目鎖密度(ν)〔mol/cm〕を(ν+ν)-νから算出し、ポリスルフィド網目鎖密度(ν)〔mol/cm〕をν-(ν+ν)から算出する。
更に、全スルフィド網目鎖密度(ν)を100%として、モノスルフィド網目鎖密度(ν)、ジスルフィド網目鎖密度(ν)、ポリスルフィド網目鎖密度(ν)を百分率に換算し、モノスルフィド結合量、ジスルフィド結合量及びポリスルフィド結合量を算出する。得られた結果を既述の式(1)に当てはめ、モノ/ジスルフィド結合量を算出する。
【0142】
(2)ランフラット耐久性
実施例1~3及び比較例1~3で作製した試作タイヤを用い、内圧非充填状態でドラム走行(速度80km/h)させ、タイヤが走行不能になるまでのドラム走行距離を測定し、ランフラット走行距離とする。
表4では、ランフラット走行距離を、比較例3のランフラットタイヤのランフラット走行距離を100とした指数で表わしている。指数値は、大きいほど、ランフラットタイヤのランフラット耐久性に優れる。
【0143】
(3)低発熱性
実施例1~3、比較例1~3のゴム組成物を加硫して得られた加硫ゴムについて、粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、温度60℃、歪5%、周波数15Hzでtanδを測定する。
表4では、tanδを、比較例3のtanδを100とした指数で表わしている。発熱性指数が小さいほど、加硫ゴムは低発熱性に優れ、該加硫ゴムを用いたランフラットタイヤは低発熱性に優れるといえる。許容範囲は83以下である。
【0144】
【表4】
【0145】
なお、表4中の変性ポリブタジエンゴム(一級アミン変性ポリブタジエンゴム)以外の各成分の詳細は以下のとおりである。
天然ゴム:RSS#1
カーボンブラック1:旭カーボン社製、商品名「旭#52」
〔窒素吸着法比表面積28m/g、DBP吸油量128ml/100g、トルエン着色透過度=65%〕
カーボンブラック2:旭カーボン社製、商品名「旭#60」
〔窒素吸着法比表面積40m/g、DBP吸油量114ml/100g、トルエン着色透過度=80%〕
カーボンブラック3:東海カーボン社製、商品名「Seast FY」
〔窒素吸着法比表面積29m/g、DBP吸油量152ml/100g、トルエン着色透過度=80%〕
カーボンブラック4:Cabot社製、商品名「SP5000A」
〔窒素吸着法比表面積28m/g、DBP吸油量120ml/100g、トルエン着色透過度=99%〕
熱硬化性樹脂:フェノール樹脂、住友ベークライト社製、商品名「スミライトレジンPR-50731」
硬化剤:ヘキサメトキシメチルメラミン、富士フイルム和光純薬社製
加硫促進剤1(TOT):テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラー TOT-N」
加硫促進剤2(TBzTD):テトラベンジルチウラムジスルフィド、三新化学工業社製、商品名「サンセラー TBzTD」
加硫促進剤3(NS):N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラー NS」
加硫遅延剤(PVI):モンサント社製、商品名「サントガードPVI」〔N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミド〕
硫黄:鶴見化学工業社製、商品名「粉末硫黄」
ステアリン酸:新日本理化社製、商品名「ステアリン酸50S」
亜鉛華:ハクスイテック社製、商品名「3号亜鉛華」
老化防止剤(6C):N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック 6C」製「ノクセラーTOT-N」
【0146】
表4の結果から加硫ゴムのモノ/ジスルフィド結合量が65%以上である実施例1~3のタイヤは、いずれもランフラット耐久性の指数が100を超えていることがわかる。このことから、本発明のタイヤは、ランフラット耐久性に優れることがわかる。
また、実施例1~3の加硫ゴムはいずれも低発熱性指数が83以下であり、かかる加硫ゴムを用いたタイヤは発熱しにくく、転がり抵抗性にも優れることがわかる。
一方、比較例1~3の加硫ゴムは低発熱性指数が83を超え、低発熱性が実施例よりもおとることがわかる。また、比較例1~3のタイヤは、ランフラット耐久性の指数が100以下であり、ランフラット耐久性についても実施例より劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明によれば、有機繊維コードにコーティングされる接着剤組成物に、レゾルシンが含まれず、環境への負荷が少ないことに加えて、優れた転がり抵抗性を有する、ランフラットタイヤを提供することができる。
【符号の説明】
【0148】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス
5 ベルト
6 ビードコア
7 ビードフィラー
8 インナーライナー
9 サイド補強ゴム
11 トレッドゴム
50 ベルト層
51 ベルト補強層
図1