(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】グリース組成物および転がり軸受
(51)【国際特許分類】
C10M 169/06 20060101AFI20240710BHJP
C10M 115/08 20060101ALI20240710BHJP
C10M 133/04 20060101ALI20240710BHJP
C10M 133/44 20060101ALI20240710BHJP
C10M 135/18 20060101ALI20240710BHJP
C10M 137/04 20060101ALI20240710BHJP
C10M 137/10 20060101ALI20240710BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240710BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240710BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240710BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240710BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M115/08
C10M133/04
C10M133/44
C10M135/18
C10M137/04
C10M137/10 Z
F16C33/66 Z
C10N40:02
C10N30:06
C10N30:00 Z
(21)【出願番号】P 2020044181
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000102670
【氏名又は名称】NOKクリューバー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509350664
【氏名又は名称】クリューバー リュブリケーション ミュンヘン ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Klueber Lubrication Muenchen GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Geisenhausenerstrasse 7, D-81379 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】志村 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中司 慶太
(72)【発明者】
【氏名】新田 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ディアク ルートヴィヒ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ゼーマイアー
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-009101(JP,A)
【文献】特開2015-108067(JP,A)
【文献】特開2008-121749(JP,A)
【文献】特開2018-135435(JP,A)
【文献】特開2006-349137(JP,A)
【文献】特開2018-203999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、ウレア系増ちょう剤と、酸化防止剤と、含窒素環状化合物と、
極圧剤とを含むグリース組成物であって、
前記極圧剤は、リン酸エステル系添加剤および金属元素を含まないジチオカルバメート系化合物からなり、
前記リン酸エステル系添加剤が金属塩ではなく、
前記グリース組成物中における金属含有物質の含有量が1.0質量%以下である、グリース組成物。
【請求項2】
前記グリース組成物中におけるアミン塩の含有量が0.5質量%未満である、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記含窒素環状化合物として、トリアゾール系化合物を含む、請求項1または2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記グリース組成物中における金属含有物質の含有量が0.4質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記リン酸エステル系添加剤として、チオリン酸エステルおよびリン酸エステルを共に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項6】
前記基油の動粘度が40℃で45~75mm
2/sである、請求項1~5のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項7】
転がり軸受用である、請求項1~6のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のグリース組成物を封入した転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物および転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業機械、例えばモータについて、省エネルギーの観点から低トルク化が求められている。また、駆動用モータおよび補機モータ等の車載モータについても、車両の電動化に伴い、省電力の観点から低トルク化が求められている。
モータ等の産業機械に対する上記の要求に応えるため、モータに備えられた転がり軸受等の部材に用いるグリース組成物には、該部材の低トルク化かつ長寿命化を達成できるものが求められる。
【0003】
そこで、低トルクかつ長寿命な転がり軸受等の部材を実現するため、これらの部材に充填されるグリース組成物について、これまでに種々の提案がなされている。
【0004】
特許文献1には、芳香族エステル油を基油として含むグリース組成物を用いることにより、低トルクかつ長寿命な転がり軸受を実現できることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、増ちょう剤として特定のジウレア化合物を含み、基油として特定のペンタエリスリトールエステル油を含み、特定の錆止め剤を含むグリース組成物を用いることにより、広い温度範囲において低トルクであり、高温下でも長寿命な転がり軸受を実現できることが記載されている。
【0006】
しかしながら、上記した近年の需要を背景に、転がり軸受等の部材のさらなる低トルク化、長寿命化を達成するグリース組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-339448号公報
【文献】特開2012-197401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、転がり軸受等の部材の低トルク化および長寿命化を実現可能なグリース組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の各実施態様は以下のとおりである。
[1]基油と、ウレア系増ちょう剤と、酸化防止剤と、含窒素環状化合物と、リン酸エステル系添加剤とを含むグリース組成物であって、
前記リン酸エステル系添加剤が金属塩ではなく、
前記グリース組成物中における金属含有物質の含有量が1.0質量%以下である、グリース組成物。
[2]前記グリース組成物中におけるアミン塩の含有量が0.5質量%未満である、[1]のグリース組成物。
[3]前記含窒素環状化合物として、トリアゾール系化合物を含む、[1]または[2]のグリース組成物。
[4]金属元素を含まないジチオカルバメート系化合物をさらに含む、[1]~[3]のいずれかのグリース組成物。
[5]前記リン酸エステル系添加剤として、チオリン酸エステルおよびリン酸エステルを共に含む、[1]~[4]のいずれかのグリース組成物。
[6]前記基油の動粘度が40℃で45~75mm2/sである、[1]~[5]のいずれかのグリース組成物。
[7]転がり軸受用である、[1]~[6]のいずれかのグリース組成物。
[8][1]~[7]のいずれかのグリース組成物を封入した転がり軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、転がり軸受等の部材の低トルク化および長寿命化を実現可能なグリース組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の転がり軸受の一実施形態であるシールド形深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のグリース組成物は、基油と、ウレア系増ちょう剤と、酸化防止剤と、含窒素環状化合物と、リン酸エステル系添加剤とを含む。リン酸エステル系添加剤は金属塩ではなく、グリース組成物中における金属含有物質の含有量は1.0質量%以下である。
【0013】
本発明のグリース組成物は、耐熱性の優れたウレア系増ちょう剤を含有することにより使用中に高温となった場合であっても優れた潤滑作用を維持することができる。本発明のグリース組成物は、酸化防止剤を含有することによりグリース組成物の構成成分(基油、増ちょう剤等)の酸化劣化を長期にわたって防止できる。本発明のグリース組成物は、耐摩耗性に優れたリン酸エステル系添加剤を含有することにより、潤滑部の摩耗を防ぐと共に摩耗粉の混入によるグリース組成物の酸化劣化や固化を防止できる。本発明のグリース組成物は、金属不活性化作用を有する含窒素環状化合物を含有し、かつ金属含有物質の含有量が1.0質量%以下であることにより、グリース組成物中に1.0質量%以下の微量の金属含有物質を含有した場合または金属含有物質を実質的に含有しない場合であっても、該金属含有物質がグリース組成物、特にグリース組成物中のウレア系増ちょう剤に悪影響を及ぼすことを防止できる。以上のように、本願発明のグリース組成物では、基油、ウレア系増ちょう剤、酸化防止剤、含窒素環状化合物、およびリン酸エステル系添加剤の相乗作用と、金属含有物質の含有量を1.0質量%以下と微量に限定したことにより、該グリース組成物を使用する部材の低トルク化と長寿命化を効果的に両立することができる。
【0014】
以下、本発明のグリース組成物について成分ごとに詳細に説明する。
【0015】
[基油]
本発明のグリース組成物に含まれる基油の種類は特に限定されないが、例えば合成油および鉱油等が挙げられる。合成油および鉱油は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0016】
前記合成油としては、例えばポリα-オレフィン、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリブテン(ポリイソブチレン)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の炭化水素油;ジエステル(ジカルボン酸とモノアルコールとのエステル)、ポリオールエステル、芳香族エステル等のエステル油;アルキルジフェニルエーテル等のエーテル油等が挙げられる。
これらの合成油は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
潤滑性および耐熱性の観点から、前記合成油の中でも、エステル油が好ましく、芳香族エステルまたはポリオールエステルがより好ましく、芳香族エステルがさらに好ましい。
【0018】
前記芳香族エステルとしては、例えばフタル酸エステル、イソフタル酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル等が挙げられる。耐熱性と低温性を両立させる観点から、中でもトリメリット酸エステルが好ましく、トリメリット酸と炭素数6~12のアルコールとのトリエステルがより好ましい。
【0019】
前記ポリオールエステルとしては、例えば多価アルコールとモノカルボン酸とのエステルが挙げられる。前記多価アルコールとしては、β水素を持たない多価アルコールが好ましい。このような多価アルコールとしては、例えばトリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。また前記モノカルボン酸としては、例えば酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸等の炭素数4~16の一価脂肪酸等が挙げられる。
【0020】
本発明のグリース組成物に含まれる基油の動粘度は特に限定されないが、40℃で30~100mm2/sであることが好ましく、40℃で45~75mm2/sであることがより好ましい。
【0021】
[ウレア系増ちょう剤]
本発明のグリース組成物は、ウレア系増ちょう剤を含む。前記ウレア系増ちょう剤としては、例えばジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物等が挙げられる。中でも、入手容易性およびグリース組成物の安定性等の観点から、ジウレア化合物が好ましい。
【0022】
ジウレア化合物としては、例えば下記式(1)で示されるジウレア化合物が挙げられる。
【0023】
R2-NHC(=O)NH-R1-NHC(=O)NH-R3 (1)
(式中、R1は炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基を示し、R2およびR3はそれぞれ独立して炭素数6~22のアルキル基またはアルケニル基、炭素数5~12のシクロアルキル基または炭素数6~12のアリール基を示す。)
【0024】
上記式(1)において、R1が示す炭素数6~15の2価の芳香族炭化水素基としては、例えばフェニレン基、ナフチレン基、下記式(i)~(iv)で示される基等が挙げられる。
【0025】
【0026】
(式中、*はN原子との結合部を示す。)
【0027】
中でも、R1は上記式から(i)~(iv)で示される基が好ましく、取扱安全上の観点から(i)で示される基がより好ましい。
【0028】
上記式(1)において、R2およびR3が示す炭素数6~22のアルキル基またはアルケニル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、例えばヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、オレイル基等が挙げられる。
中でも、潤滑性の観点から、オクチル基、ドデシル基、オクタデシル基、オレイル基が好ましく、オクチル基がより好ましい。
【0029】
上記式(1)において、R2およびR3が示す炭素数5~12のシクロアルキル基としては、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、イソプロピルシクロヘキシル基、1-メチル-プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、アミルシクロヘキシル基、アミル-メチルシクロヘキシル基、ヘキシルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0030】
上記式(1)において、R2およびR3が示す炭素数6~12のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基等が挙げられる。
【0031】
上記式(1)で示されるジウレア化合物は、通常、ジイソシアネー卜とモノアミンを反応させることによって得ることができる。
前記ジイソシアネー卜としては、例えばジフェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等が挙げられる。中でも、低有害性の観点から4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
モノアミンとしては、例えばオクチルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン、オクタデセニルアミン等の直鎖炭化水素アミン;シクロヘキシルアミン等の脂環式炭化水素アミン;アニリン、トルイジン等の芳香族炭化水素アミン;これらを混合した混合アミン等が挙げられる。
【0032】
前記ウレア系増ちょう剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
本発明のグリース組成物中における前記ウレア系増ちょう剤の含有量は特に限定されないが、転がり軸受のトルクおよび寿命の観点から、5~30質量%であることが好ましく、7~20質量%であることがより好ましく、7~15質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
[酸化防止剤]
本発明のグリース組成物は、酸化防止剤を含む。前記酸化防止剤としては、例えばアミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。中でも、アミン系酸化防止剤が好ましい。
【0035】
前記アミン系酸化防止剤としては、例えばアルキル化ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化α-ナフチルアミン、アルキル化フェノチアジン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。
中でも、アルキル化ジフェニルアミンまたは4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンが好ましい。
【0036】
前記アルキル化ジフェニルアミンとしては、例えばモノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン等のモノアルキルジフェニルアミン;p,p’-ジブチルジフェニルアミン、p,p’-ジペンチルジフェニルアミン、p,p’-ジヘキシルジフェニルアミン、p,p’-ジヘプチルジフェニルアミン、p,p’-ジオクチルジフェニルアミン、p,p’-ジノニルジフェニルアミン等のジアルキルジフェニルアミン;テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン等のテトラアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。
【0037】
前記フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、例えば2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン等が挙げられる。
【0038】
前記リン系酸化防止剤としては、アルキルホスファイト類、アルキルアリールホスファイト類およびアリールホスファイト類が挙げられ、中でもアリールホスファイト類が好ましい。アリールホスファイト類としては、例えばトリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(エチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0039】
本発明のグリース組成物中における前記酸化防止剤の含有量は特に限定されないが、長期間にわたって酸化防止機能を維持させ、かつ他の機能を妨害しないという観点から、0.01~10質量%であることが好ましく、0.5~7質量%であることがより好ましく、1~5質量%であることがさらに好ましい。
【0040】
[含窒素環状化合物]
本発明のグリース組成物は、含窒素環状化合物を含む。前記含窒素環状化合物は、金属不活性化剤として働く作用を有し、環状構造の一部に窒素原子を有する化合物である。前記含窒素環状化合物としては、含窒素芳香族化合物が好ましい。前記金属不活性化剤である含窒素環状化合物としては、例えばトリアゾール類、ベンゾトリアゾール類等のトリアゾール系化合物;チアジアゾール系化合物;イミダゾール系化合物;ピリミジン系化合物等が挙げられる。
【0041】
前記トリアゾール類としては、例えばN,N-ビス(2-エチルヘキシル)-[(1,2,4-トリアゾール-1-イル)メチル]アミン等が挙げられる。
前記ベンゾトリアゾール類としては、例えばN,N-ビス(2-エチルヘキシル)-4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メタンアミン、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メタンアミン等が挙げられる。
前記チアジアゾール系化合物としては、2,5-ジアルキルメルカプト-1,3,4-チアジアゾール等が挙げられる。
中でも、トリアゾール系化合物が好ましく、ベンゾトリアゾール類がより好ましい。
【0042】
前記金属不活性化剤である含窒素環状化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
本発明のグリース組成物中における前記含窒素環状化合物(金属不活性化剤)の含有量は特に限定されないが、長寿命と金属保護機能との観点から、0.01~10質量%であることが好ましく、0.01~5質量%であることがより好ましく、0.01~3質量%であることがさらに好ましい。
【0044】
[リン酸エステル系添加剤]
本発明のグリース組成物は、リン酸エステル系添加剤を含む。前記リン酸エステル系添加剤は、金属塩ではないリン酸エステル系添加剤であり、少なくとも一つのエステル基(OR)を有する。
【0045】
前記リン酸エステル系添加剤としては、例えばトリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリス(トリデシル)ホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、トリス(エチルフェニル)ホスフェート、トリス(n-プロピルフェニル)ホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(n-ブチルフェニル)ホスフェート、トリス(イソブチルフェニル)ホスフェート、トリス(s-ブチルフェニル)ホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルフェニルホスフェート、およびトリス(t-ブチルフェニル)ホスフェート等のリン酸エステル;トリブチルホスフォロチオエート、トリペンチルホスフォロチオエート、トリヘキシルホスフォロチオエート、トリヘプチルホスフォロチオエート、トリオクチルホスフォロチオエート、トリノニルホスフォロチオエート、トリデシルホスフォロチオエート、トリウンデシルホスフォロチオエート、トリドデシルホスフォロチオエート、トリス(トリデシル)ホスフォロチオエート、トリテトラデシルホスフォロチオエート、トリペンタデシルホスフォロチオエート、トリヘキサデシルホスフォロチオエート、トリヘプタデシルホスフォロチオエート、トリオクタデシルホスフォロチオエート、トリオレイルホスフォロチオエート、トリフェニルホスフォロチオエート、トリクレジルホスフォロチオエート、トリキシレニルホスフォロチオエート、クレジルジフェニルホスフォロチオエート、キシレニルジフェニルホスフォロチオエート、トリス(n-プロピルフェニル)ホスフォロチオエート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフォロチオエート、トリス(n-ブチルフェニル)ホスフォロチオエート、トリス(イソブチルフェニル)ホスフォロチオエート、トリス(s-ブチルフェニル)ホスフォロチオエート、およびトリス(t-ブチルフェニル)ホスフォロチオエート等のチオリン酸エステル等が挙げられる。チオリン酸エステルは、トリアルキルホスフォロチオエートおよびトリアリールホスフォロチオエートから選択することができる。
中でも、潤滑性の観点から、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフォロチオエート、トリクレジルホスフォロチオエートが好ましく、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフォロチオエート、トリクレジルホスフォロチオエートがより好ましい。
【0046】
リン酸エステル系添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
特に、本発明のグリース組成物は、リン酸エステル系添加剤として、チオリン酸エステルおよびリン酸エステルを共に含むことが好ましい。
【0047】
本発明のグリース組成物中における前記リン酸エステル系添加剤の含有量は特に限定されないが、潤滑性の観点から、0.01~10質量%であることが好ましく、1~8質量%であることがより好ましく、2~6質量%であることがさらに好ましい。
【0048】
[金属含有物質]
本発明のグリース組成物は、金属含有物質の含有量が1.0質量%以下である。金属含有物質の含有量が前記範囲であることにより、金属成分がグリース組成物の成分、例えばウレア系増ちょう剤に悪影響を及ぼすことを防止でき、該グリース組成物を使用する部材の低トルク化、長寿命化が実現される。
【0049】
本発明のグリース組成物中における金属含有物質の含有量は、0.6質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましく、0質量%、つまり実質的に含まれないことが最も好ましい。なお、ここでいう「実質的に含まれない」とは、意図せず混入したものや不可避的不純物を除いて含まれないことを意味する。
【0050】
ここで想定される金属含有物質は、その一部として金属を含有する物質であれば特に限定されず、金属塩、金属化合物、金属錯体などを挙げることができる。より具体的には、金属含有物質としてリチウム石けん、バリウム石けん等の金属石けん、金属複合石けん等の増ちょう剤、金属ジチオホスフェートや金属ジチオカルバメート等の極圧剤、石油スルホン酸カルシウム塩・石油スルホン酸バリウム塩・石油スルホン酸ナトリウム塩などの防錆剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
前記金属含有物質を構成する金属としては、リチウム、バリウム、カルシウム、亜鉛、モリブデン、ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
なお、本発明のグリース組成物は、金属原子の含有量が0.1質量%以下であることが好ましく、0.08質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以下であることがさらに好ましく、0.03質量%以下であることが最も好ましい。グリース組成物中に存在する金属原子の含有量は、蛍光X線分析で測定可能である。
【0052】
[アミン塩]
本発明のグリース組成物は、アミン塩の含有量が0.5質量%未満であることが好ましい。アミン塩は、-NR4R5R6R7(R4、R5、R6、R7はそれぞれ独立して水素原子または有機基である)で表されるカチオン部分を有する塩であり、アミン塩の含有量が前記範囲であることにより、アミン塩がグリース組成物の成分に悪影響を及ぼすことを防止でき、該グリース組成物を使用する部材の低トルク化、長寿命化が実現される。
【0053】
本発明のグリース組成物中におけるアミン塩の含有量は、0.3質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0054】
ここで想定されるアミン塩としては、リン酸エステルアミン塩等の防錆剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
[その他の成分]
本発明のグリース組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、極圧剤、防錆剤等のうち、上記した以外のものをさらに含んでいてもよい。また、本発明のグリース組成物は、極圧剤、防錆剤以外にも、腐食防止剤、粘度指数向上剤等を適宜、選択して含有することができる。
【0056】
前記極圧剤としては、上記したリン酸エステル系添加剤の他に、例えば金属ジチオホスフェート、金属ジチオカルバメート、金属元素を含まないジチオカルバメート系化合物等が挙げられる。ただし、金属ジチオホスフェートまたは金属ジチオカルバメート等の金属含有物質を用いる場合、グリース組成物中に含まれる金属含有物質の合計含有量が1.0質量%以下、好ましくは0.6質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下となるようにする。
【0057】
金属元素を含まないジチオカルバメート系化合物としては、例えば下記式(2)で示される化合物が挙げられる。
【0058】
R8R9N-C(=S)-X-C(=S)-NR10R11 (2)
(式中、R8、R9、R10、R11はそれぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基を示し、XはS、S-S、S-CH2-S、S-CH2CH2-SまたはS-CH2CH2CH2-Sを示す。)
【0059】
上記式(2)において、R8、R9、R10、R11が示す炭素数1~20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数1~10のアルキル基が好ましい。
【0060】
上記式(2)において、XはS-CH2-Sが好ましい。
【0061】
前記防錆剤としては、一般にグリース組成物の分野で用いられる防錆剤を用いることができるが、グリース組成物中における金属含有物質の合計含有量が1.0質量%以下になるよう留意する必要がある。
【0062】
[用途]
本発明のグリース組成物は転がり軸受用に好適であるが、必要に応じてその他の用途、例えば、複写機、プリンター等の事務機器用部品、減速機・増速機、ギヤ、チェーン、モータ等の動力伝達装置、走行系部品、ABS等の制動系部品、操舵系部品、変速機等の駆動系部品、ステアリング装置、パワーウィンドウモーター、パワーシートモーター、サンルーフモーター等の自動車部品、電子情報機器、携帯電話等のヒンジ部品、食品・薬品工業、鉄鋼、建設、ガラス工業、セメント工業、フィルムテンター等の化学・ゴム・樹脂工業、環境・動力設備、製紙・印刷工業、木材工業、繊維・アパレル工業における各種部品や相対運動する機械部品等に広く適用することができる。
【0063】
[転がり軸受]
本発明の転がり軸受は、本発明のグリース組成物を封入した転がり軸受である。
本発明の転がり軸受の一実施形態であるシールド形深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図を
図1に示す。当該シールド形深溝玉軸受は、外輪1と、内輪2と、外輪1および内輪2の間に転動自在に配設された複数の玉3と、本発明のグリース組成物を内部に保持するためのシールド板4と、玉3を保持する保持器5を備える。本発明のグリース組成物(図示しない)は、外輪1と、内輪2と、シールド板4とに囲まれた空間に存在する。
本発明の転がり軸受は、封入されたグリース組成物が本発明のグリース組成物であることにより、低トルクかつ長寿命となる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例等によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等により何ら限定されない。
【0065】
[グリース組成物の調製]
(1)基油
(1a)トリメリット酸エステル1:トリメックス(登録商標) N-08(花王社製)、40℃動粘度46mm2/s
(1b)トリメリット酸エステル2:Priolube(登録商標) 1941とPriolube(登録商標) 1942の50:50(重量比)の混合物(クローダインターナショナル社製)、40℃動粘度60mm2/s
(1c)トリメリット酸エステル3:Priolube(登録商標) 1942(クローダインターナショナル社製)、40℃動粘度71mm2/s
【0066】
(2)増ちょう剤
(2a)ジウレア化合物:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとn-オクチルアミンとの反応物
(2b)リチウム石けん:12-ヒドロキシステアリン酸リチウム(日東化成工業社製)
【0067】
(3)極圧剤
(3a)リン酸エステル:トリクレジルホスフェート(大八化学社製)
(3b)チオリン酸エステル:IRGALUBE(登録商標) TPPT(BASF社製)
(3c)モリブデンジチオホスフェート(MoDTP):アデカサクラルーブ(登録商標) 300(ADEKA社製)
(3d)亜鉛ジチオホスフェート(ZnDTP):アデカキクルーブ(登録商標) Z-112(ADEKA社製)
(3e)モリブデンジチオカルバメート(MoDTC):アデカサクラルーブ(登録商標) 600(商品名)(ADEKA社製)
(3f)ジチオカルバメート系化合物:Vanlube(登録商標) 7723(Vanderbilt社製)
【0068】
(4)酸化防止剤
(4a)アミン系酸化防止剤:ノクラック(登録商標) CD(大内新興化学工業社製)
【0069】
(5)金属不活性化剤
(5a)トリアゾール系化合物:IRGAMET(登録商標) 39(BASF社製)
【0070】
(6)防錆剤
(6a)リン酸エステルアミン塩:Additin(登録商標) RC3760(LANXESS社製)
(6b)石油スルホン酸カルシウム:400 Base Calcium Petronate-C(商品名)(Chemtura Corporation)
(6c)アスパラギン酸誘導体アミン塩:K-CORR(登録商標) 100A2(KING INDUSTRIES社製)
(6d)ソルビタン脂肪酸エステル:イオネット(登録商標) S80S(三洋化成工業社製)
【0071】
表1および2の配合率となるよう、上記の基油、増ちょう剤および添加剤を加え、混合して均一なグリース組成物を得た(実施例1~7、比較例1~7)。
なお、上記成分(1a)~(1c)、(2a)、(3a)~(3b)、(3f)、(4a)、(5a)および(6a)は金属を含有しない。
【0072】
[グリース組成物の評価]
得られたグリース組成物について、下記の軸受トルク試験および軸受寿命試験を行った。結果を表1および2に示す。
【0073】
<軸受トルク試験>
軸受トルク試験機を用い、下記の条件で回転トルクの測定を行った。なお、トルクが安定した時点でのトルクを回転トルクとした。
軸受 :シールド形深溝玉軸受(6204ZZ(C3))
回転数 :10,000rpm
dmn値 :0.3×106
温度 :室温
スラスト荷重 :22.2N
ラジアル荷重 :13.4N
グリース組成物封入量:30体積%
試験時間 :30分
【0074】
<軸受寿命試験>
軸受寿命試験機を用い、下記の条件で焼き付き時間を評価した。
軸受 :シールド形深溝玉軸受(6204ZZ(C3))
回転数 :10,000rpm
温度 :150℃
ラジアル荷重 :490N
グリース組成物封入量:30体積%
【0075】
【0076】
【0077】
実施例1~7の結果から、基油と、ウレア系増ちょう剤と、酸化防止剤と、含窒素環状化合物と、金属塩ではないリン酸エステル系添加剤とを用い、グリース組成物中における金属含有物質の含有量が合計1.0質量%以下であるグリース組成物を用いることにより、転がり軸受が低トルクかつ長寿命となることがわかる。
【0078】
さらに、実施例4の結果から、リン酸エステル系添加剤としてチオリン酸エステルおよびリン酸エステルを共に含むグリース組成物を用いることにより、転がり軸受がより長寿命となることがわかる。
【0079】
さらに、実施例5、6の結果から、金属元素を含まないジチオカルバメート系化合物をさらに含むグリース組成物を用いることにより、転がり軸受がより長寿命となることがわかる。
【0080】
比較例1、2、6、7の結果から、金属ジチオホスフェートおよび金属ジチオカルバメートの合計含有量が1.0質量%を超えるグリース組成物を用いると、本発明のグリース組成物を用いた場合ほどの低トルク性、長寿命性を達成できないことがわかる。
【0081】
比較例3の結果から、防錆剤の添加により金属含有物質の含有量が1.0質量%を超えるグリース組成物を用いると、本発明のグリース組成物を用いた場合ほどの低トルク性を達成できないことがわかる。
【0082】
比較例2、4の結果から、酸化防止剤および含窒素環状化合物を含まないグリース組成物を用いると、本発明のグリース組成物を用いた場合ほどの低トルク性を達成できないことがわかる。
【0083】
比較例5の結果から、ウレア系増ちょう剤を用いず、金属塩であるリチウム石けんを、1.0質量%を超えて含むグリース組成物を用いると、本発明のグリース組成物を用いた場合ほどの低トルク性を達成できないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のグリース組成物によれば、転がり軸受等の部材の低トルク化および長寿命化を実現可能であるため、産業機械用モータの省エネルギー化および車載用モータの省電力化等に有用である。本発明の転がり軸受は、産業機械用モータの省エネルギー化および車載用モータの省電力化等に有用である。
【符号の説明】
【0085】
1:外輪
2:内輪
3:玉
4:シールド板
5:保持器