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特許7518644オゾン生成装置、オゾン生成方法および窒素酸化物検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】オゾン生成装置、オゾン生成方法および窒素酸化物検出方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 13/11 20060101AFI20240710BHJP
【FI】
C01B13/11 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020056259
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021155251
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(72)【発明者】
【氏名】早川 壮則
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 晟大
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-206463(JP,A)
【文献】特開2016-221499(JP,A)
【文献】特開2003-089507(JP,A)
【文献】特開2002-020105(JP,A)
【文献】国際公開第2019/020326(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/140749(WO,A1)
【文献】特開昭52-130689(JP,A)
【文献】F. PONTIGA et al.,“Ozone and nitrogen oxides production by DC and pulsed corona discharge”,2007 Annual Report - Conference on Electrical Insulation and Dielectric Phenomena,2007年,DOI: 10.1109/CEIDP.2007.4451581
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 13/00 - 13/11
G01N 21/00 - 21/01
G01N 21/17 - 21/61
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素と窒素とを含む原料ガスが流れる流路と、
前記流路の流入口と流出口との間に設けられ、原料ガスが通過する放電空間で放電することによってオゾンを発生させるオゾン生成部とを備え、
前記流出口側に配置された吸光度検出器によって検出される原料ガスの吸収スペクトルにおいて、波長255nm付近の吸光度に対する波長190nm付近の換算吸光度の割合が、30%以下となるように、原料ガスの圧力を0.1(MPa)以上であって0.2(MPa)より小さい範囲内に調整し、原料ガスの流量を0.1(L/min)以上であって0.5(L/min)以下の範囲内に調整することを特徴とするオゾン生成装置。
【請求項2】
原料ガスの流量を、0.1(L/min)以上であって0.2(L/min)以下の範囲内に定めることを特徴とする請求項1に記載のオゾン生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放電方式のオゾン生成装置では、空気などの原料ガスを放電空間に流し、放電によってオゾンを発生させる。このとき、オゾン生成とともに、原料ガスに含まれる窒素がオゾンと化学反応し、酸化物(NOx)が副次的に生成される。窒素酸化物はオゾンと原子酸素を減少させ、オゾン濃度の低下とオゾン発生効率の低下を招く。また、窒素酸化物は最終的に五酸化二窒素(N25)になって安定するが、空気中の水分と反応して硝酸(HNO3)が発生し、金属を腐食させる。
【0003】
窒素酸化物の発生を抑える方法として、原料ガスの圧力を調整する構成が知られている(特許文献1参照)。そこでは、オゾン生成装置の電極部を圧力容器に収容し、原料ガスの容器内の圧力が所定値以上となるように圧力調整を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-89507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原料ガスの圧力を高めると、窒素酸化物だけでなくオゾンの発生も抑えられ、効率よくオゾンを生成することができない。したがって、オゾンを効率よく生成するとともに窒素酸化物生成の抑制をすることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のオゾン生成装置は、酸素と窒素とを含む原料ガスが流れる流路と、前記流路の流入口と流出口との間に設けられるオゾン生成部とを備える。例えば、オゾン生成部は、原料ガスが通過する放電空間に放電することによって、オゾンを発生させることが可能である。あるいは、オゾン生成部は、放電ランプによる紫外線照射によって、オゾンを発生させる構成にしてもよい。
【0007】
本発明では、波長210nm以下の吸光度の特性と原料ガスの流れとの関係、そして波長210nm以下の吸光度とオゾン生成に伴う窒素酸化物発生量との関係を新たに見出し、波長210nm以下の吸光度を抑えるように流れを作り出すことで、オゾン生成に伴う窒素酸化物が抑制されることを導き出した。すなわち、本発明では、流出口側の原料ガスの吸収スペクトルにおいて、波長210nm以下の吸光度が抑制されるように、流路における原料ガスの流れを調整し、これによって、窒素酸化物の発生量を実際に計測する必要はなくなる。これは、放電方式によってオゾンを発生させるオゾン生成装置にとって、特に有効である。
【0008】
流れの調整に関しては、原料ガスの圧力(送気圧)および/または流量を調整すればよい。原料ガスの圧力(MPa)はゲージ圧で表される。例えば、原料ガスの圧力(MPa)は、0~0.5の範囲に定めることが可能である。原料ガスの流量(L/min)は、0~0.5の範囲に定めることができる。いずれも、上限値を含む範囲に設定してもよく、あるいは上限値、下限値を含まない範囲に定めることも可能である。
【0009】
オゾン生成装置は、波長255nm付近の吸光度に対する波長190nm付近の換算吸光度の割合が、30%以下となるように、原料ガスの流量または原料ガスの送気圧のうち少なくとも一方を調整することができる。ここで、「換算吸光度」は、実際に測定される吸光度の値から、オゾン発生によって変化する吸光スペクトル曲線に起因する値を引いた値を表す。
【0010】
例えば、原料ガスの圧力を0.1~0.2(MPa)の範囲内に定めることができる。流量が上記範囲であれば、必要以上に送気圧を上げることなく、窒素酸化物発生を抑制することができる。上限値、下限値を含む範囲に設定してもよく、含まない範囲に設定してもよい。0.2MPaより小さい送気圧でよいことは、オゾン発生量が送気圧を高めるほど抑制される問題を解決することができる。
【0011】
一方、原料ガスの流量を0.1(L/min)以上に定めることで、窒素酸化物発生を抑制することが可能であり、窒素酸化物発生の抑制のために必要以上に流量を大きくすることでオゾン発生が流れ全体に対して不十分となる問題を解決する。例えば、0.1~0.2(L/min)の範囲で流量を調整することが可能である。上限値、下限値を含む範囲を設定してもよく、上限値、下限値を含まない範囲を設定してもよい。
【0012】
本発明の一態様であるオゾン生成方法は、酸素と窒素とを含む原料ガスが流入口から流出口へ流れるオゾン生成装置において、流出口側の原料ガスの吸収スペクトルにおいて、波長210nm以下の吸光度が抑制されように、流路における原料ガスの流れを調整する。
【0013】
本発明の他の態様である窒素酸化物検出方法は、酸素と窒素を含む原料ガスが流入口から流出口へ流れるオゾン生成装置において、流出口側の原料ガスの吸収スペクトルを検出し、検出された吸収スペクトルから、窒素酸化物の発生、もしくは発生したオゾンに対する発生した窒素酸化物の割合を検出する。
【0014】
本発明では、原料ガスの吸収スペクトルと、窒素酸化物発生あるいはオゾンに対するその割合との関係を新たに見出し、例えばオゾン生成装置に対し、吸収スペクトルを検出する器具を取り付ける、あるいは装置にあらかじめ組み込むなどによって、オゾン生成装置の窒素酸化物発生に関する特性を検知し、また診断することが可能となる。例えば、波長255nm付近の吸光度に対する波長190nm付近の換算吸光度の割合を検出するように構成すればよい。このような検出方法は、放電方式によってオゾンを発生させるオゾン生成装置に対し、特に有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、オゾン生成装置において、オゾンを効率よく生成するとともに窒素酸化物生成の抑制をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態であるオゾン生成装置の概略的構成図である。
図2】オゾン生成装置10から流出されるガスの吸収スペクトルを示した図である。
図3】実施例のオゾン生成装置を用いた実験の構成を示した図である。
図4】オゾン生成装置に供給される原料ガスの圧力と流量を変えたときの波長190nmの吸光度を示したグラフである。
図5】紫外線照射方式のオゾン生成装置の吸光スペクトルを示したグラフである。
図6図5に示したエキシマランプのスペクトル分布それぞれに対し、波長255nmの吸光度に対する波長190nmの吸光度をプロットしたグラフである。
図7】上記紫外線照射方式のオゾン生成装置を用いて実験したときの構成図である。
図8】二酸化窒素を含む/含まない原料ガスの供給、オゾン生成のための放電/非放電をそれぞれ組み合わせたときの吸光度スペクトルを示したグラフである。
図9】FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いた実験の構成を示した図である。
図10】FTIRにより測定したオゾンを含むガスのスペクトルを示したグラフである。
図11】オゾンの濃度を示したグラフである。
図12】二酸化窒素の濃度を示したグラフである。
図13】硝酸の濃度を示したグラフである。
図14】亜酸化窒素の濃度を示したグラフである。
図15】原料ガスの圧力を所定値で維持しながら原料ガスの流量を変えたときのオゾン濃度を示したグラフである。
図16】原料ガスの圧力を所定値で維持しながら原料ガスの流量を変えたときのオゾン濃度に対する二酸化窒素の換算吸光度の割合を示したグラフである。
図17】原料ガスの流量を所定値で維持しながら原料ガスの圧力を変えたときのオゾン濃度を示したグラフである。
図18】原料ガスの流量を所定値で維持しながら原料ガスの圧力を変えたときのオゾン濃度に対する二酸化窒素の換算吸光度の割合を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態であるオゾン生成装置の概略的構成図である。
【0019】
オゾン生成装置10は、筐体20と、筐体20内に収容されるオゾン生成部40とを備え、原料ガスが配管80を通じてガス供給器70から供給される。原料ガスは、酸素と窒素とを含み、ここではドライエアから成る。
【0020】
オゾン生成部40は、一対の電極45A、45Bを備え、電極間に放電空間42が形成されている。オゾン生成部40は、原料ガスが流入口40Aから流出口40Bへ流れていく状態で放電空間42に電圧を印加することで、オゾンを生成する。発生したオゾンは、原料ガスとともに筐体20の流出口20Bから流出し、配管90を通じて滅菌、殺菌などを必要とする対象物(汚染水、洗浄水)や部屋など空間側へ供給される。
【0021】
制御部60は、ガス供給器70の動作を制御し、筐体20内、すなわちオゾン生成部40内を流れる流量を調整する。一方、オゾン生成装置10内を流れる原料ガスの圧力は、ガス供給器70の送気圧調整部によって調整される。
【0022】
本実施形態では、オゾン生成装置10が、オゾンの発生量(濃度)と窒素酸化物(NO)の発生量とを調整し、オゾンの発生量を高める一方で窒素酸化物の発生量を抑えた原料ガスの流れを、筐体20内に作り出す。具体的には、供給される原料ガスの送気圧に応じて、ガス供給器70により流量を調整する。
【0023】
図2は、オゾン生成装置10から流出されるガスの吸収スペクトルを示した図である。ガスの吸収スペクトルは、例えば、オゾン生成装置10の下流側でガスを捕集してガスセル110に注入し、オゾン濃度計などの吸光度測定器120によって測定可能である。吸光度測定器120では、紫外線をガスに照射したときの透過光のスペクトルに基づき、各波長の吸光度(吸収度合い)を測定する。
【0024】
図2(A)では、原料ガスの流れを調整していない場合の吸収スペクトルを示している。従来知られているように、オゾンの吸収スペクトルは、波長255nm付近で最も吸光度が高く、ガウス分布に近いスペクトル分布を有する。しかしながら、図2(A)に示すように、原料ガスの流れを調整しないときに検出される吸収スペクトルの波長210nm以下では、波長が短くなるほど吸光度が増加するスペクトル特性が現れる。これは、オゾン生成に伴って発生する窒素酸化物に起因している。
【0025】
空気中では、窒素が酸素と反応して一酸化窒素(NO)が生成され、一酸化窒素(NO)は、オゾンおよびオゾン生成の元となる原子酸素(O)と反応する。また、オゾンとの反応で生成された二酸化窒素(NO2)がオゾンと反応し、以下の式に示すように、窒素酸化物の副次的生成の過程でオゾンが分解されていく。
【0026】
NO+O→NO2
NO+O3→O2+NO2
NO2+O3→O2+NO3
NO3+O3→O2+O2+NO2
NO2+NO3→N25
【0027】
一方、図2(B)では、原料ガスの流れを調整した場合の吸収スペクトルを示している。波長210nm以下の吸光度が抑えられ、オゾンの吸収スペクトルと略同様の分布形状をもつスペクトル分布が得られる。
【0028】
制御部60は、吸光度測定器120から送られてくる吸収スペクトルに関するデータに基づき、波長255nm付近の吸光度に対する波長190nm付近の吸光度の割合を検出する。そして、検出された割合が所定値以下となるように、ガス供給器70により流量を調整する。
【0029】
例えば、送気圧0.0~0.4MPaの範囲で定められる送気圧に対し、流量を0.1L/min以上に定めることができる。オゾン濃度を高めることを考慮すれば、送気圧を0.1より大きく、0.2MPaより小さい範囲に定めてもよい。一方、窒素酸化物発生の抑制を考慮して、流量を0.1~0.5L/minの範囲にしてもよい。
【0030】
ここでは、波長255nm付近の吸光度に対する波長190nm付近の吸光度の割合(比)が30%以下となるように、ガス供給器70の流量が定められる。波長190nm付近の吸光度を参照しているのは、オゾン発生に伴う窒素酸化物発生に起因するスペクトル特性が波長190nmにおいて顕著に表れるからである。
【0031】
このように、本実施形態では、オゾン生成装置10は、オゾン生成部40を備え、筐体20内に窒素および酸素を含む原料ガスの流れる流路を形成する。そして、原料ガスの流れを調整することで、図2(B)に示すような吸収スペクトルをもつガスをオゾン生成装置10から流出させる、すなわち、窒素酸化物の生成を抑制してオゾン濃度の高いガスを排出させることができる。
【0032】
なお、ガス供給器70から原料ガスを供給せず、そのまま外気をガス供給器70によって装置内に送りこむようにしてもよい。また、吸光度測定器120あるいはPCなどオゾン生成装置10の外部において、波長255nm付近の吸光度に対する波長190nm付近の吸光度の割合を検出し、ガス供給器70の流量を調整しながら吸光度を測定し、所定値以下の割合になる流量を定めてもよい。
【0033】
オゾン生成装置10内の原料ガスの圧力は、ガス供給器70の送気圧によって定められているが、オゾン生成装置10がガス供給器70の送気圧を調整し、圧力および流量を調整するようにしてもよい。また、ガス供給器70を下流側に配置してもよく、オゾン生成装置10の筐体20外部に配置するようにしてもよい。
【0034】
さらに、原料ガスの流れを調整する制御部を装備しないオゾン生成装置に対しても、波長255nm付近の吸光度に対する波長190nm付近の吸光度の割合を検出することによって、オゾン発生に伴う窒素酸化物の発生、あるいはその度合いを推定することが可能となり、様々なオゾン生成装置に対し、窒素化合物生成の特性を知ることができる。
【0035】
すなわち、波長255nm付近の吸光度に対する波長190nm付近の吸光度の割合を検出する方法は、実際に生成される窒素酸化物の濃度を測定する方法と代替することが可能であり、簡易かつ低コストでオゾン生成装置に対する窒素酸化物の検出を行うことができる。なお、波長190nm付近の吸光度の大きさは、実際に測定される吸光度の値から、オゾン発生によって変化する吸光スペクトル曲線に起因する値を引いた値を表す(以下、換算吸光度という)。
【0036】
本実施形態では、窒素酸化物生成が副次的に生じる放電方式のオゾン生成装置が構成されているが、原則として窒素酸化物が発生しない紫外線照射方式のオゾン生成装置においても、発光管表面と電極との間のわずかな隙間形成などによって沿面放電が生じ、窒素酸化物が発生する場合がある。したがって、紫外線を照射するエキシマランプ(放電ランプ)を用いたオゾン生成装置に対しても、上述した原料ガスの流れの調整、および原料ガスの吸収スペクトルの検出方法を適用することが可能である。
【実施例
【0037】
以下では、生成されるオゾンおよび窒素酸化物と、流出ガスの吸光スペクトルとの関係について、実施例の実験結果を用いて説明する。
【0038】
図3は、実施例のオゾン生成装置を用いた実験の構成を示した図である。オゾン生成装置は、中遠電子製の放電方式オゾン生成装置(OZ0001-100R、中遠電子工業)を採用し、ドライエアである原料ガスを貯留するガスタンクから原料ガスがオゾン生成装置へ供給される。オゾン生成装置の下流側には流量調整器、流量計、吸光度測定器が配置される。ガスセルは光路長100mmを作製し、流量調整器はスピードコントローラASGシリーズ(SMC製)、流量計は面積式流量計RKI400シリーズ(KDFLOC製)を使用し、吸光度測定器は、V660(日本分光製)を使用した。また、ガスタンクは、理化学・標準ガス用圧力調整器GF1-4-VシリーズGF1-2516-RX-V((株)ユタカ製)を使用した。
【0039】
図4は、オゾン生成装置に供給される原料ガスの圧力と流量を変えたときの波長190nmの吸光度を示したグラフである。縦軸は、原料ガスの圧力(送気圧)を示し、横軸は、以下説明するように、検出される波長190nmの吸光度から、オゾンの吸収スペクトルに基づく波長190nmの吸光度を引いた値を示す。
【0040】
図5は、紫外線照射方式のオゾン生成装置の吸光スペクトルを示したグラフである。ここでは、エキシマランプを使用している。吸光度は光強度最大のときの値を1とした相対値で表される。ラインL1~L6は、原料ガスの流量(送気圧)を0.04、0.06、0.1、0.2、0.5、1.0L/minまで段階的に変えた時のスペクトル分布を示す。
【0041】
図5から明らかなように、原料ガスの流量が大きくなるにつれて、波長255nm付近のピーク値が下がっていく。また、波長190nm付近の吸光度も下がっていく。
【0042】
図6は、図5に示したエキシマランプのスペクトル分布L1~L6それぞれに対し、波長255nmの吸光度に対する波長190nmの吸光度をプロットしたグラフである。紫外線照射方式のオゾン生成装置は、オゾン発生時に実質的に窒素酸化物が生じておらず、波長210nm以下の吸光度のスペクトル分布は、オゾン発生に起因する分布曲線となる。これついて、図7、8を用いて説明する。
【0043】
図7は、上記紫外線照射方式のオゾン生成装置を用いて実験したときの構成図である。ドライエアの原料ガスを貯留するエアタンクには、二酸化窒素(ここでは10ppm程度)を含む校正ガスを供給可能なパーミエータを接続し、校正ガスあるいは二酸化窒素を含まない原料ガスをオゾン生成装置へ供給する。オゾン生成装置から流出するガスに対し、吸光度測定器によりスペクトル測定を行う。
【0044】
図8は、二酸化窒素を含む/含まない原料ガスの供給、オゾン生成のための放電方式/紫外線照射方式をそれぞれ組み合わせたときの吸光度スペクトルを示したグラフである。オゾン発生によって波長255nmをピークとするスペクトル分布曲線が現れる一方、オゾンの発生がないときには吸光度が変化しない。したがって、図5に示す波長210nm以下の吸光度は、窒素酸化物の生成を伴わないオゾン発生による吸光度の変化に付随することが明らかになっている。
【0045】
そうすると、放電方式のオゾン生成装置を、原料ガスの流れ調整なしで使用したときに得られる波長210nm以下のスペクトル特性(図2(A)参照)は、オゾン発生に付随する窒素酸化物発生に起因するスペクトル特性とみなすことができる。そして、放電方式のオゾン生成装置による波長210nm以下の吸光度から、図5、6に示した紫外線照射方式のオゾン生成装置による吸光度を差し引けば、概ね窒素酸化物に起因する吸光度を得ることができる。
【0046】
具体的には、放電方式のオゾン生成装置を使用したときに計測される波長190nmの吸光度から、波長255nmの吸光度に対して係数0.0471を乗じた値を引くことによって、付随的な窒素酸化物発生に起因する波長190nmの吸光度を調べることができる。図4のグラフの縦軸は、計測された波長190nmの吸光度から、波長255nmの吸光度に対して係数0.0471を乗じた値を引いたものを示している。なお、原料ガスの圧力は、ゲージ圧として表される。以下では、グラフ縦軸で表される吸光度を、換算吸光度という。
【0047】
係数0.0471は、図6のプロットに応じて規定されたラインKの傾きを表し、この係数を乗じる補正によって、原料ガスの圧力の違いによる吸光度の違いが生じないようにしている。なお、係数0.0471は、オゾンの吸光度スペクトルの波長255nmの吸光度に対する波長190nmの吸光度(吸収断面積)の比と略一致する。
【0048】
図4に示すように、圧力0.4(MPa)以上では、波長190nmの吸光度が小さく、波長210nm以下において窒素酸化物の影響に起因するスペクトル特性が現れないことを示唆している。一方で、流量を0.1L/min、0.2L/min、0.5L/minと変えた場合、各流量のプロットの軌跡は相違し、単に原料ガスの気圧を高める、単に流量を大きくすることでは、吸光度が所望するように小さくならない、すなわち窒素酸化物生成を抑えることができないことを示している。
【0049】
以上、オゾンが含まれるガスで窒素酸化物の発生が抑制された吸光スペクトルについて説明した。以下では、放電方式によるオゾン生成時に生成される窒素酸化物の組成を調べた実験結果について、図9図18を用いて説明する。
【0050】
図9は、FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いた実験の構成を示した図である。ガスタンクの下流側に向けて流量計、オゾン生成装置(OZ0001-100R、中遠電子工業)、流量調整器(スピードコントローラASGシリーズ(SMC製))、流量計(面積式流量計RKI400シリーズ(KDFLOC製))、FTIRガス分析装置(FAST-1300、岩田電業株式会社)を配置した。FTIRの構成として、オゾン生成装置から加熱導を介してFTIRへガスを送り込み、流量を0.3L/min、0.5L/minに調整した。FTIRによりスペクトルを測定し、また、いくつかの窒素酸化物の濃度を測定した。図10は、FTIRにより測定したオゾンを含むガスのスペクトルを示したグラフである。
【0051】
図11図14は、それぞれFTIRにより測定したオゾン、二酸化窒素、硝酸、亜酸化窒素の濃度を示すグラフである。
【0052】
オゾン濃度は、原料ガスの圧力が高くなるにつれて低下し、亜酸化窒素、酸化二窒素、そして五酸化窒素と水分が反応して生成される硝酸も、圧力が高くなるにつれて減少する(図12~14参照)。オゾン生成装置としては、オゾン濃度の低下なく、窒素酸化物生成の抑制をすることが望ましい。
【0053】
一方、窒素酸化物においては、二酸化窒素、亜硝酸では流量が大きいほど濃度が高くなるが(図12、13)、硝酸では流量が大きいほど濃度が小さくなる(図14)。このように、単なるオゾン濃度と窒素酸化物の濃度の比較では、適正な原料ガスの流量および圧力は明らかにならない。
【0054】
次に、原料ガスの流量、原料ガスの圧力を変えながらオゾン濃度、窒素酸化物濃度を測定し、上述した波長255nmに対する波長190nm付近の換算吸光度の割合を調べた。ここでは、窒素酸化物として二酸化窒素の濃度を対象とし、上述したFTIRによりオゾン生成開始五分後のオゾン濃度と二酸化窒素濃度を測定した。
【0055】
図15は、原料ガスの圧力を所定値(0、0.05、0.1、0.2、0.4MPa)で維持しながら原料ガスの流量を変えた時のオゾン濃度を示したグラフである。図16は、そのオゾン濃度に対する二酸化窒素の換算吸光度の割合を示したグラフである。なお、縦軸は比の値で表している。
【0056】
図16から明らかなように、原料ガスの圧力が0.1(MPa)以上であれば、原料ガスの流量に関係なく換算吸光度が0.3より小さくなる。図15に示すように、原料ガスの流量が大きくなるほどオゾン濃度が低下しているが、換算吸光度の割合は、流量が大きくなっても0.3を超えない。このことは、二酸化窒素生成が抑制されていることを示している。
【0057】
図17は、原料ガスの流量を所定値(0.05、0.1、0.2、0.5L/min)で維持しながら原料ガスの圧力を変えた時のオゾン濃度を示したグラフである。図18は、そのオゾン濃度に対する二酸化窒素の換算吸光度の割合を示したグラフである。
【0058】
図18から明らかなように、原料ガスの圧力が0.1MPa以上である場合、換算吸光度の割合が0.3より小さくなる。図17に示すように、原料ガスの流量が0.1L/min以上である場合、オゾン濃度は原料ガスの圧力の違いによって大きく変化していないことから、二酸化窒素の生成が抑制されていることを示している。
【0059】
このように、原料ガスの圧力を0.1MPa以上に定めることで窒素酸化物生成が抑制され、また、原料ガスの流量を0.1L/min以上に維持した場合、原料ガスの圧力を0.1以上に設定することで、換算吸光度の割合を0.3以下に抑えることができる。特に、原料ガスの圧力を0.1~0.2MPaの範囲内に設定することで、オゾン生成とともに窒素酸化物発生の抑制が可能となることが明らかである。また、圧力を0.1~0.2MPaの範囲にし、流量を0.1~0.2L/minにすることで、流量増加、圧力増加に伴うオゾン発生量の低下を抑制することが可能となる。二酸化窒素は一連の窒素酸化物生成プロセスにおいて比較的初めに生じるため、それ以外の窒素酸化物の生成も同じように効果が得られる。
【0060】
また、これらのことは、換算吸光度の割合を測定することによって、オゾン生成に伴う窒素酸化物発生程度を推測することが可能であることを示している。すなわち、窒素酸化物の換算吸光度の割合が所定値以上であるか否かを検出することによって、オゾン生成装置の窒素酸化物抑制に関する性能が明らかになり、あるいは、原料ガスの流れの調整を必要とするか判断することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 オゾン生成装置
40 オゾン生成部
図1
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