(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】外殻にフルオロポリマーを含む中空粒子とその製造方法、および樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20240710BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CEW
C01B33/18 Z
(21)【出願番号】P 2020064308
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134119
【氏名又は名称】奥町 哲行
(72)【発明者】
【氏名】榎本 直幸
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 慧
(72)【発明者】
【氏名】塚本 早紀
(72)【発明者】
【氏名】江上 美紀
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-216127(JP,A)
【文献】特開2000-212362(JP,A)
【文献】特開平09-077879(JP,A)
【文献】特開2020-004604(JP,A)
【文献】特開2018-124435(JP,A)
【文献】国際公開第2023/140378(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J13/02-13/22
C08J3/00-3/28
9/00-9/42
99/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロポリマーを含む水系分散液と界面活性剤と非水系溶媒を混合して、乳化液滴を含む乳化液を調製する乳化工程と、
前記乳化液滴を-20℃以上で凍結させる凍結工程と、
前記凍結工程で得られた凍結乳化液滴を圧力6hPa以下、温度0.01℃以下で昇華させることにより脱水処理する脱水工程と、を備えることを特徴とする中空粒子の製造方法。
【請求項2】
フルオロポリマーを含む水系分散液と界面活性剤と非水系溶媒を混合して、乳化液滴を含む乳化液を調製する乳化工程と、
前記乳化液滴を-20℃以上で凍結させる凍結工程と、
前記凍結工程で得られた凍結乳化液を常温まで昇温した後、固形分を分離することにより、前記乳化液滴に含まれる水と前記非水系溶媒とを除去する工程と、を備えることを特徴とする中空粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空粒子とその製造方法に関し、特に電子機器に用いられる樹脂組成物に適した中空粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信に用いられる電気信号の高速化、大容量化が急速に進行しており、機器や半導体に高周波数化への対応が求められている。そのため、これらに使用される樹脂組成物には、電気信号の遅延を防止するために比誘電率(Dk)を低くすること、および信号損失を低減させるために誘電正接(Df)を低くすること、が要求されている。
【0003】
そこで、樹脂組成物には、従来より比誘電率の低いエポキシ樹脂、誘電正接の低い液晶ポリマー(LCP)やポリイミド、あるいは、比誘電率、誘電正接が共に低いフッ素系樹脂が用途によって使い分けられている。
【0004】
さらに、電気特性を改良するために、粒子内部に空隙を持つシリカ系多孔質粒子を充填材として樹脂に配合すること(例えば、特許文献1を参照)や、中空無機粒子を配合すること(例えば、特許文献2、3を参照)が知られている。また、比誘電率、誘電正接が共に低いフッ素系樹脂粒子を配合すること(例えば、特許文献4を参照)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-103850号公報
【文献】特開2010-155750号公報
【文献】特開2017-31256号公報
【文献】特開2019-38930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既にサービスが開始されている第5世代移動通信システム(5G)の関連部材には、前述の充填材が用いられているが、より良い充填材が求められている。さらに、第6世代移動通信システム(6G)では、現状よりも高い周波数であるテラヘルツ波の適用が有力視されており、これに適用できる充填材が待望されている。
【0007】
そこで、本発明の目的は、比誘電率、誘電正接が共に低く、高い電気特性を実現するための充填材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の中空粒子は、外殻の内部に空洞を有する粒子であって、外殻がフルオロポリマーを含み、空隙率が5~95体積%の範囲にあり、平均粒子径が0.1~100μmの範囲にある。さらに、外殻を無孔質とした。このとき、中空粒子の真比重を0.1~2.0の範囲とした。
さらに、中空粒子の比誘電率を1.06~2.05の範囲とした。さらに、中空粒子の屈折率を1.02~1.33の範囲とした。
【0009】
本発明による中空粒子の製造方法は、フルオロポリマーを含む水系分散液と界面活性剤と非水系溶媒を混合して、乳化液滴を含む乳化液を調製する乳化工程と、乳化液滴を-20℃以上で凍結させる凍結工程と、凍結工程後に、乳化液滴を脱水処理する脱水工程とを備えている。
【0010】
脱水工程において、凍結工程で得られた凍結乳化液滴を圧力6hPa以下、温度0.01℃以下で昇華させることにより脱水処理してもよい。
【0011】
上述したいずれかの中空粒子を配合して樹脂組成物を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による中空粒子は、フルオロポリマーを含む外殻の内部に空洞を有する粒子であって、空隙率が5~95体積%の範囲にあり、平均粒子径が0.1~100μmの範囲にある。なお、空隙率が5体積%未満では電気特性等の物性改良効果が限定的であり、95体積%を超えると、樹脂への混錬等の加工時の衝撃により外殻が破損することがある。また、当該範囲外の平均粒子径では、産業上の利用分野が見当たらない。なお、3次元実装技術を含む半導体の実装材料用途では、平均粒子径は、0.5~20μmが好ましい。
【0013】
中空粒子の外殻は無孔質が好ましい。このとき、中空粒子の真比重は0.1~2.0の範囲にある。なお、液晶ポリマー、ポリイミド、フッ素系樹脂等の分子量の大きなポリマーの充填材として利用する場合は、外殻は多孔質でもよいが、分子量が小さいエポキシ樹脂に充填材として添加する場合は、樹脂が細孔に侵入し、粒子内部の空洞が樹脂で満たされ、所望の電気特性(比電率、誘電正接)を得ることができない。
【0014】
また、当該中空粒子は、空洞に空気(比誘電率と屈折率が共に1.00)を含んでいることから、中空粒子の比誘電率は1.06~2.05が好ましく、屈折率は1.02~1.33が好ましい。
【0015】
中空粒子の形状に、格別の制限はない。乳化液滴を沈降させた後に凍結工程に供す等の特別な操作を行わない限り、本発明による中空粒子は球状となり、その真球度は0.80以上である。また、粒子変動係数(CV)にも格別の制限はないが、おおむね20~40%の範囲となる。
【0016】
次に、外殻にフルオロポリマーを含む中空粒子の製造方法について説明する。初めに、フルオロポリマーを含んだ水系分散液と、乳化剤と、非水系溶媒とを混合して、乳化液滴を含む油中水滴型の乳化液を調製する(乳化工程)。乳化液滴を形成するために、フルオロポリマーの分散液には水系分散媒を用い、乳化液の分散液には非水系溶媒を用いる。フルオロポリマーの分散液の溶媒は水を含むことが好ましい。
【0017】
次に、-20℃以上の温度で乳化液滴を凍結させる(凍結工程)。次に、乳化液滴から水を除去し、中空粒子を形成する(脱水工程)。脱水にはいろいろな方法があり、脱水工程後に固液分離して中空粒子を固形物として取り出す工程(固液分離工程)が必要になる場合がある。この固形物を乾燥させて解砕し、中空粒子の粉体を得ることができる。
【0018】
本発明では、フルオロポリマーの水系エマルジョンや、水系に対して容易に分散できるように表面処理された微粉末を用いることができる。これらの粒子径は、20nm~10μmの範囲が好適である。フルオロポリマーとして、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、ECTFE(クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体)等が例示できる。水系エマルジョンや表面処理された微粉末の商品ラインナップの観点から、PTFEが好ましい。
【0019】
また、フルオロポリマーの水分散液には、無機成分が含まれてもよい。無機成分としては、溶融シリカ、合成シリカの他、負の熱膨張率を持つ特殊硝子等の無機粒子が例示できる。無機粒子の平均粒子径は、5nm~10μmの範囲が好適であり、無機粒子はフルオロポリマーに対して、50体積%未満であれば含まれていても良い。熱膨張率の低い無機成分を含むことにより、中空粒子の熱膨張を小さくすることができる。
【0020】
以下、フルオロポリマーの溶媒に水を用いた場合の製造方法に関し、詳細に説明する。
【0021】
[乳化工程]
はじめに、フルオロポリマーの水分散液を用意する。水分散液の固形分濃度は0.5~80%の範囲が好ましい。一般的に、固形分濃度が80%を超えると、分散液の粘度が高くなり、乳化液滴の均一性が得られないおそれがある。固形分濃度が0.5%未満だと、希薄すぎて球状粒子の形が整わなくなる。
【0022】
この水分散液と非水系溶媒と乳化剤を混合する。非水系溶媒は、乳化のために必要であり、水と相溶しないものであればよい。非水系溶媒には一般的な炭化水素溶媒を用いることができる。乳化剤は、油中水滴型の乳化液滴を形成できるものであればよい。乳化剤として界面活性剤が適している。界面活性剤のHLB値は1~10の範囲が好ましい。非水系溶媒の極性に応じて、最適なHLB値を選択すればよい。HLB値は特に1~5の範囲が好ましい。また、異なるHLB値の界面活性剤を組み合わせてもよい。
【0023】
次に、この混合溶液を乳化装置により乳化させ、乳化液を調製する。乳化液が所望の平均径の乳化液滴を含むように、乳化条件を設定する。乳化液滴の平均径は、中空粒子の平均径にほぼ対応する。そのため、乳化工程では、平均径が10nm~100μmの乳化液滴を含む乳化液を調製する。乳化装置には、一般的な高速せん断装置を用いることができる。この他、より微細な乳化液滴が得られる高圧乳化装置、より均一な乳化液滴が得られる膜乳化装置、マイクロチャネル乳化装置などの公知の装置を目的に応じて選択できる。
【0024】
なお、平均径10nm未満の乳化液滴を含む乳化液を調製することは、工業的に困難である。一方、平均径100μmを超える乳化液滴を調製することは容易であるが、現状では、100μmを超える球状粒子の工業的な応用例は余り見当たらない。
【0025】
なお、乳化液滴の平均径を測定する装置には、レーザー回折・散乱法、動的光散乱法の原理による粒度分布測定装置を用いることができる。例えば、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置「島津製作所社製SALD-2200」では、攪拌機構付きのセル内に投入した乳化液の粒度分布を測定する。そこから算出されるメジアン値を平均径とした。
【0026】
[凍結工程]
次に、乳化工程で得られた乳化液を冷却して、乳化液を凍結させる。これにより、乳化液滴中の水を凍結させた凍結乳化液滴が得られる。このとき、-20℃以上で乳化液滴を凍結させる。乳化液滴中で氷の結晶が緩慢に成長するのに伴い、液滴中のフルオロポリマーが液滴の外周に排斥される。そのため、外殻の内部に空洞を有する中空構造の球状粒子を調製することができる。
【0027】
なお、乳化液滴を凍結させると体積が約1割膨張するが、後述の脱水工程で脱水しても凍結乳化液滴の粒子径を持つ中空フルオロポリマー粒子が得られる。
【0028】
[脱水工程]
凍結工程の後、乳化液を脱水処理する。脱水処理により、乳化液滴中の水分が除去され中空粒子が形成される。脱水処理には、さまざまな方法が適応できる。
【0029】
1)加熱脱水法
例えば、凍結乳化液を常温まで昇温した後、常圧または減圧下での加熱により、水を蒸発させる。これにより得られる非水系溶媒分散体には、中空粒子や乳化剤(界面活性剤)が含まれる。常圧下の加熱脱水法では、冷却管を備えたセパラブルフラスコを加熱し、非水系溶媒を回収しながら、脱水を行う。減圧下の加熱脱水法では、ロータリーエバポレーターや、蒸発缶など用いて減圧加熱し、非水系溶媒を回収しながら、脱水を行う。このようにして、中空粒子を含む非水系溶媒分散体が得られる。さらに、公知の濾過、遠心分離などの方法で非水系溶媒分散体から固形分を分離する。これにより、非水系溶媒が除去され、中空粒子のケーキ状物質が得られる。
あるいは、乳化液を固液分離する際に、乳化液滴を脱水することができる。すなわち、凍結工程で得られた凍結乳化液を常温まで昇温した後、公知の濾過、遠心分離などの方法で固形分を分離する。これにより、非水系溶媒とともに乳化液滴の水も除去できる。このようにして、中空粒子のケーキ状物質が得られる。
このようにして得られた、中空粒子のケーキ状物質を常圧または減圧下で加熱すること(乾燥工程)により、中空粒子の乾燥粉体が得られる。
また、ケーキ状物質を洗浄して、界面活性剤を低減することが好ましい。中空粒子に対して、界面活性剤の残留量が500ppm以下になるように洗浄することが好ましい。これにより、中空粒子を樹脂組成物に配合した場合の長期安定性が向上する。界面活性剤を低減させるためには、有機溶媒を用いて洗浄することが好ましい。
【0030】
2)昇華法
また、凍結乳化液を減圧下で冷却することにより、氷を昇華させ、脱水することができる。昇華による脱水処理により、中空粒子と界面活性剤を含む混合物が得られる。この昇華法では、ロータリーエバポレーターなどを用いて減圧冷却し、水と非水系溶媒を回収しながら、昇華を行う。このとき、水の三重点である温度は0.01℃、圧力は6hPaであることから、温度は0.01℃以下、圧力は6hPa以下の条件で昇華を行うことが好ましい。この両条件を超える場合は、固体である氷が、液体である水に状態変化することから、外殻に排斥されたフルオロポリマーが崩壊し、中空形状が維持できないおそれがある。また、ケーキ状物質と同様に、界面活性剤を含む混合物も洗浄し、界面活性剤を低減することが好ましい。
【0031】
また、中空粒子を加熱することにより、外殻に含まれるフルオロポリマーが溶融し、外殻を無孔質化することができる。加熱する際の温度は、フルオロポリマーの融点以上の温度であることが好ましい。例えば、PTFEの融点は327℃である。加熱装置には、一般的な噴霧乾燥装置を用いることができる。中空粒子の乾燥粉体を溶媒に分散し、その分散スラリーを融点以上の温度を有する熱風中に噴霧して加熱する。
【0032】
<樹脂組成物>
本発明によるフルオロポリマーを含む中空粒子を充填材として樹脂に混合して、半導体や電子機器等に好適な樹脂組成物が得られる。中空粒子の重量をAで表し、樹脂の重量をBで表したとき、その重量比(A/B)が10/100~95/100となるように混合することが好ましい。この重量比が10/100未満であると、中空粒子の持つ比誘電率と誘電正接の低減効果が得られにくくなる。重量比が95/100を超えると、流動性が悪くなるため、加工性が低下してしまう。この重量比は、30/100~80/100がより好ましい。
【0033】
樹脂組成物は、従来公知の方法で調製できる。例えば、樹脂、中空粒子、硬化剤、添加剤を混合し、ロールミルなどで混練した後、減圧脱泡処理を施す。このようにして樹脂組成物は調製される。
【0034】
樹脂組成物の調製の際に、フェノール化合物、アミン化合物、酸無水物などの硬化剤を使用してもよい。また、樹脂組成物に、着色剤、応力緩和剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤、難燃剤、硬化促進剤などを必要に応じて添加してもよい。
【0035】
樹脂には、一般に半導体用に使用されている熱硬化性の樹脂や熱可塑性の樹脂を使用できる。例えば、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、シリコン系樹脂、BTレジン、シアネート系樹脂、液晶ポリマー、シクロオレフィンポリマー、フッ素樹脂が好適である。エポキシ系樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの樹脂を単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
また、このような樹脂組成物で塗膜を基材上に形成し、膜付基材を得ることができる。すなわち、これらの樹脂組成物は、プリント基板、ビルドアップフィルム、モールド材、封止材等に適用できる。
【0037】
以下、外殻が無孔質の中空粒子の実施例を具体的に説明する。
[実施例1]
まず、平均粒子径0.25μmのPTFE粒子の水分散液(固形分濃度60重量%)を準備する。本実施例では、ダイキン化学工業社製のポリフロン PTFE D-201Cを使用した。このPTFE粒子の水分散液1667gを純水3333gに加え、フルオロポリマーの水分散液(固形分濃度20重量%)を調製した。
【0038】
この水分散液100gを非水系溶媒であるヘプタン(関東化学社製)850gと界面活性剤AO-10V(花王社製)50gの混合溶液に加えた。乳化分散機(プライミクス社製T.K.ロボミックス)を使用してこの溶液を10000rpmで10分間撹拌した。これにより乳化され、乳化液滴を含む乳化液が得られた。
【0039】
この乳化液を-5℃で16時間冷却して凍結させ、凍結乳化物を得た。乳化液に含まれている乳化液滴も凍結する。この凍結乳化物をロータリーエバポレーターで6hPaに減圧し、-1℃で乳化液滴内部の氷を昇華させて脱水し、界面活性剤を含む混合物を得た。この混合物をヘプタン1000gに懸濁したのち、ブフナー漏斗(関谷理化硝子器械社製3.2L)を用いて定量濾紙(アドバンテック東洋社製No.2)で濾過した。さらに、ヘプタンで繰り返し洗浄し界面活性剤を除去した。このようにして得られたケーキ状物質を、100℃で12時間乾燥した。この乾燥粉体を250mesh篩(JIS試験用規格篩)でふるいにかけ、中空粒子の乾燥粉体を得た。この乾燥粉体15gを純水85gに加え、分散スラリーを調製した。その分散スラリーを、20000rpmで回転中のロータリーアトマイザーに、17mL/minの流量で供給し、入口温度380℃のスプレードライヤー(マルハンエンジニアリング社製、D-0109-R)により乾燥させ、無孔質な外殻を有する中空粒子の粉体を得る。
【0040】
中空粒子の調製条件を表1に示す。また、中空粒子の粉体の物性を以下の方法で測定した。その結果を表2に示す。
【0041】
(1)平均粒子径
レーザー回折法を用いて、各粒子の粒度分布を測定した。この粒度分布からメジアン値を求め、平均粒子径とした。ここでは、堀場製作所製のLA-950v2を用いて粒度分布を測定した。
【0042】
(2)真比重、空隙率
中空粒子を磁性ルツボ(B-2型)に約30ml採取し、105℃で2時間乾燥後、デシケーターに入れて室温まで冷却する。次に、サンプルを15ml採取し、全自動ピクノメーターを用いて真比重を測定した。また、この真比重から、以下の式に基づいて空隙率を算出した。
【0043】
空隙率(体積%)=[(フルオロポリマーの比重)-(中空粒子の真比重)]/(フルオロポリマーの比重)×100
【0044】
また、他成分を含有する場合には以下の式から空隙率を算出した。
【0045】
空隙率(体積%)=[(フルオロポリマーの比重)×(フルオロポリマーの含有割合)/100+(他成分の比重)×(他成分の含有割合)/100-(中空粒子の真比重)]/[(フルオロポリマーの比重)×(フルオロポリマーの含有割合)/100+(他成分の比重)×(他成分の含有割合)/100]×100
【0046】
(3)比誘電率
JIS C2565に準拠した方法で比誘電率を測定した。具体的には空洞共振器とネットワークアナライザーを用いて、1GHzにおける比誘電率を測定した。
【0047】
(4)屈折率
上述の空隙率を用い、以下の式から中空粒子の屈折率を算出した。ここで用いる1.00という数値は、空気の屈折率を示す。
屈折率=(フルオロポリマーの屈折率)×[100-(中空粒子の空隙率)]/100+1.00×(中空粒子の空隙率)/100
【0048】
また、他成分を含有する場合には以下の式から屈折率を算出した。
屈折率=(フルオロポリマーの屈折率)×[100-(中空粒子の空隙率)]/100×(フルオロポリマーの含有割合)/100+(他成分の屈折率)×[100-(中空粒子の空隙率)]/100×(他成分の含有割合)/100+1.00×(中空粒子の空隙率)/100
【0049】
[実施例2]
実施例1と同様にフルオロポリマーの水分散液(固形分濃度20重量%)100gを調製し、希釈せずにヘプタン850gと界面活性剤(AO-10V)50gの混合溶液中に加えた。乳化分散機を使用してこの溶液を16000rpmで10分間撹拌し、乳化液を得た。この乳化液を-5℃で24時間冷却し、凍結乳化物を調製した。これ以降、実施例1と同様にして、中空粒子を調製し、その粉体の物性を測定した。
【0050】
[実施例3]
実施例1と同様にフルオロポリマーの水分散液(固形分濃度20重量%)100gを調製し、希釈せずにヘプタン850gと界面活性剤(AO-10V)50gの混合溶液中に加えた。乳化分散機を使用してこの溶液を2000rpmで10分間撹拌し、乳化液を得た。この乳化液を-5℃で8時間冷却し、凍結乳化物を調製した。これ以降、実施例1と同様にして、中空粒子を調製し、その粉体の物性を測定した。
【0051】
[実施例4]
はじめに、平均粒子径1.5μmのPTFE粒子の水分散液(固形分濃度50重量%)を準備する。本実施例では、AquaFLON 50(Shamrock Technologies製)を使用した。このPTFE粒子の水分散液2000gを純水3000gに加え、フルオロポリマーの分散液(固形分濃度20重量%)を調製した。このフルオロポリマーの分散液100gを、希釈せずにヘプタン850gと界面活性剤(AO-10V)50gの混合溶液中に加えた。パドル攪拌機乳化分散機を使用してこの溶液を350rpmで5分間撹拌し、乳化液を得た。この乳化液を-5℃で5時間冷却し、凍結乳化物を調製した。これ以降、実施例1と同様にして、中空粒子を調製し、その粉体の物性を測定した。
【0052】
[実施例5]
実施例1で準備したPTFE粒子の水分散液(固形分濃度60重量%)を希釈せずに、そのままフルオロポリマーの水分散液(固形分濃度60重量%)とした。この水分散液100gをヘプタン850gと界面活性剤(AO-10V)50gの混合溶液中に加えた。乳化分散機を使用してこの溶液を10000rpmで10分間撹拌し、乳化液を得た。この乳化液を-15℃で16時間冷却し、凍結乳化物を調製した。これ以降、実施例1と同様にして、中空粒子を調製し、その粉体の物性を測定した。
【0053】
[実施例6]
実施例5と同様にして乳化液を調製し、この乳化液を-15℃で16時間冷却し、凍結乳化物を調製した。この凍結乳化物を60℃で16時間加熱し、乳化液滴を脱水した。さらに、脱水後の乳化液を2℃で16時間冷却保管したのち、ブフナー漏斗(関谷理化硝子器械社製3.2L)を用いて定量濾紙(アドバンテック東洋社製No.2)で濾過した。さらに、ヘプタンで繰り返し洗浄し界面活性剤を除去した。これ以降は実施例1と同様にして、中空粒子を調製し、その粉体の物性を測定した。
【0054】
[実施例7]
実施例1で準備したPTFE粒子の水分散液(固形分濃度60重量%)1000gと平均粒子径5nmシリカ粒子の水分散液(固形分濃度20重量%、日揮触媒化成社製Cataloid SI-550)2000gに純水2000gに加え、本実施例の分散液(固形分濃度20重量%)を調製した。この分散液100gをヘプタン850gと界面活性剤(AO-10V)50gの混合溶液中に加えた。乳化分散機を使用してこの溶液を10000rpmで10分間撹拌し、乳化液を得た。これ以降、実施例1と同様にして、中空粒子を調製し、その粉体の物性を測定した。
【0055】
[比較例1]
本比較例では乳化液の凍結を行っていない。すなわち、実施例1と同様に乳化液を調製し、この乳化液を60℃で16時間加熱し、乳化液滴を脱水した。さらに、脱水後の乳化液を2℃で16時間冷却保管したのち、ブフナー漏斗(関谷理化硝子器械社製3.2L)を用いて定量濾紙(アドバンテック東洋社製No.2)で濾過した。さらに、ヘプタンで繰り返し洗浄し界面活性剤を除去した。これ以降は実施例1と同様にして、フルオロポリマー粒子を調製し、その粉体の物性を測定した。得られた粒子は中空形状ではなかった。乳化液を凍結しなかったことで、乳化液滴内部の水分が脱水する際に、固形分が緻密に充填したためと考えられる。
【0056】
[比較例2]
乳化液を-32℃で16時間冷却し、凍結乳化物を得た以外は実施例1と同様にして、フルオロポリマー粒子を調製し、その粉体の物性を測定した。得られた粒子は空隙率が低かった。乳化液を低温で凍結することで、析出する氷の結晶が急速に成長して単一とならず、得られたフルオロポリマー粒子が多孔質体になったためだと考えられる。
【0057】
[比較例3]
乳化液の脱水条件を50hPa、5℃に変更した以外は実施例1と同様に操作した。しかし、脱水後、濾過・洗浄を行って得られた物質はフィルム状であり、実施例1のようなケーキ状ではなかった。フィルム状物質を光学顕微鏡で観察しても、粒子は確認できなかった。脱水が不足だったため、液滴同士が合一して粒子が調製できなかったため考えられる。
【0058】
【0059】
【0060】
<樹脂組成物による硬化物の評価>
各実施例および比較例1、2で得た中空粒子を用いて、以下に記載した方法により、組成物および硬化物を作製した。その後、耐久性試験前後の物性評価し、結果を表3に示す。
【0061】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合エポキシ樹脂(東都化成社製、ZX-1059、エポキシ当量約165)、硬化剤(新日本理化社製、リカシッド MH-700)および硬化促進剤(四国化成社製、キュアゾール 2PHZ-PW)とを重量比で100/86/1で混合し、撹拌した。得られた混合液と中空粒子を体積比50/50で混合し、樹脂混合装置を用いて混錬、減圧脱泡処理を施して樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を70℃、16時間乾燥した後、150℃、3時間焼成硬化して硬化物を得た。
【0062】
このようにして作製した硬化物を、120℃で1時間乾燥することで表面に付いた吸着水を除いた。そして、同軸型共振器(エーイーティー社製、周波数:9.4GHz)を用いて、耐久性試験前の硬化物の比誘電率(ε1)、誘電正接(tan δ1)を測定した。その後、該基材を高温高湿耐久性試験器(エスペックス社製、小型環境試験機 SH-241)を用いて、80℃、湿度80%の条件下1000時間放置した。その後、上記比誘電率測定方法と同様手法で、耐久性試験の硬化物の比誘電率(ε2)、誘電正接(tan δ2)を測定した。次に、各物性の耐久性試験前後の差を算出し、各々の物性の変化量(△ε、△tan δ)とした。
【0063】