IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-光電変換素子 図1
  • 特許-光電変換素子 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20240710BHJP
   H10K 30/15 20230101ALI20240710BHJP
【FI】
H01G9/20 307
H01G9/20 203B
H10K30/15
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020079369
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021174929
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】時田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】安西 純一郎
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-113905(JP,A)
【文献】特開2011-081933(JP,A)
【文献】特開2018-207056(JP,A)
【文献】特開2014-199748(JP,A)
【文献】特開2007-095682(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0077242(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
H10K30/15
H10K30/50
H10K85/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電極と、前記光電極と離間して対向する対向電極と、前記光電極と前記対向電極との間に位置する電荷移動体と、前記光電極の光入射面側に設けた光制御層と、を備え
前記光制御層は、フォトクロミック材を含み、
前記フォトクロミック材は、消色状態で400nm以下の領域に光吸収ピークを有し、有色状態で400nm以上の領域に光吸収ピークを有する、光電変換素子。
【請求項2】
光電極と、前記光電極と離間して対向する対向電極と、前記光電極と前記対向電極との間に位置する電荷移動体と、前記光電極の光入射面側に設けた光制御層と、を備え、
前記光制御層は、エレクトロクロミック材を含み、
前記エレクトロクロミック材は、消色状態で400nm以下の領域に光吸収ピークを有し、有色状態で400nm以上の領域に光吸収ピークを有する光電変換素子。
【請求項3】
光電極と、前記光電極と離間して対向する対向電極と、前記光電極と前記対向電極との間に位置する電荷移動体と、前記光電極の光入射面側に設けた光制御層と、を備え、
前記光制御層は、サーモクロミック材を含む光電変換素子。
【請求項4】
前記サーモクロミック材は、消色状態で400nm以下の領域に光吸収ピークを有し、有色状態で400nm以上の領域に光吸収ピークを有する、請求項に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー需要の高まりとともに、発電所からのエネルギー供給に加えてオフグリッドでのエネルギーマネジメントが注目されている。また、スマートフォンを始めとするモバイル機器の台頭により、身の回りのもの全てがインターネットに接続するIoT社会も提唱され、エネルギー利用の在り方は多様化の一途をたどっている。このような社会の実現に向けては、従来にないスタイルでの電力供給が重要であり、光、熱、振動等から電力を取り出す環境発電デバイスが求められている。中でも、光をエネルギー源とする光発電デバイス(太陽光もしくは室内光による発電デバイス)は、比較的高い出力を得ることができる点から、研究開発および製品化が世界中で活発に行われている。
【0003】
色素増感太陽電池(以下、「DSC」と略すこともある。)または有機薄膜太陽電池(以下、「OPV」と略すこともある。)またはペロブスカイト結晶増感太陽電池(以下、[PSC]と略すこともある。)は、次世代の光発電デバイスとして注目されている。DSCおよびOPV、PSCは、影や壁面など、本来、光発電に不向きと考えられてきた場所でも、出力が低下し難い発電デバイスである。そのため、DSCおよびOPV、PSCは、従来の住宅屋根への展開だけではなく、室内環境や半屋外環境での応用が期待されている。
【0004】
例えば、非特許文献1では、蛍光灯200ルクス下で、DSCがアモルファスシリコン太陽電池よりも高い発電量を示すことが報告されている。
一方、DSCやOPV、PSC等の太陽電池を実用化するためには、耐光性が課題として挙げられる。DSCやPSCは、色素や電荷輸送層が一般的に有機物で構成されていることが多い。また、OPVは、P/N半導体層が有機物で構成されていることが多い。そのため、前記の太陽電池は、紫外線に対する耐光性が低いと言われている。
【0005】
室内使用の場合でも、前記の太陽電池を窓際などに配置した場合には、前記の太陽電池に対する日光の照射が避けられない。そのため、前記の太陽電池の耐光性の改善が求められている。
そこで、例えば、特許文献1では、光電極を構成する基材に紫外線遮蔽皮膜を形成し、耐久性に優れたDSCが提案されている。
また、特許文献2では、樹脂基材の中に紫外線吸収材を混合することで、耐久性に優れたDSCが提案されている。
一方、特許文献3、特許文献4では、紫外線を可視光に変換する波長変換材料を基材側に積層することで、耐光性と発電効率の両方を改善したDSCが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4865171号公報
【文献】特開2005-346999号公報
【文献】特開2001-185242号公報
【文献】特開2007-265629号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】「室内用色素増感太陽電池の耐久性向上」、関口 隆史、神戸 伸吾、谷 道彦、北垣 智弘、高濱 孝一、パナソニック電工技報(Vol,56 No.4)、p.87-92
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者等が鋭意検討を行った結果、紫外線(例えば、400nm以下の波長の光)を遮光した場合でも、DSCに高強度の光(例えば、0.1SUNまたは10mW/cm以上)が照射された場合には、DSCが劣化することが分かった。この原因は明らかではないが、次の通りであると考えられる。すなわち、DSCが高強度の光を吸収した際には、色素が酸化状態に変化する。この際、色素で発生した電子が、素早くDSC内部、および外部回路を通過することができれば、色素はスムーズに中性状態に還元される。しかしながら、この電子の通過が遅いと、例えば、導電基材、半導体層、電荷輸送層、外部回路が充分な電子輸送能力を有しない場合には、色素の還元がスムーズに行われずに、分解または半導体層から脱離してしまうと考えられる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、紫外線による劣化、および高強度の光による劣化を抑制した光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]半導体層を有する光電極と、前記光電極と離間して対向する対向電極と、前記光電極と前記対向電極との間に位置する電荷移動体と、前記光電極の光入射面側に設けた光制御層と、を備える、光電変換素子。
[2]前記光制御層は、光吸収材を含む、[1]に記載の光電変換素子。
[3]前記光制御層は、光反射材を含む、[1]に記載の光電変換素子。
[4]前記光制御層は、光拡散材を含む、[1]に記載の光電変換素子。
[5]前記光制御層は、フォトクロミック材を含む、[1]に記載の光電変換素子。
[6]前記フォトクロミック材は、消色状態で400nm以下の領域に光吸収ピークを有し、有色状態で400nm以上の領域に光吸収ピークを有する、[5]に記載の光電変換素子。
[7]前記光制御層は、エレクトロクロミック材を含む、[1]に記載の光電変換素子。
[8]前記エレクトロクロミック材は、消色状態で400nm以下の領域に光吸収ピークを有し、有色状態で400nm以上の領域に光吸収ピークを有する、[7]に記載の光電変換素子。
[9]前記光制御層は、サーモクロミック材を含む、[1]に記載の光電変換素子。
[10]前記サーモクロミック材は、消色状態で400nm以下の領域に光吸収ピークを有し、有色状態で400nm以上の領域に光吸収ピークを有する、[9]に記載の光電変換素子。
[11]有機系太陽電池またはペロブスカイト結晶を有する太陽電池である、[1]~[10]のいずれかに記載の光電変換素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紫外線による劣化、および高強度の光による劣化を抑制した光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る光電変換素子の断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る光電変換素子の製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明に係る光電変換素子の実施の形態について説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、便宜上、特徴となる部分を拡大して示しており、各構成要素の寸法比率等は、実際とは異なる場合がある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更できる。
【0014】
[光電変換素子]
図1に示すように、本発明を適用した光電変換素子1は、光電極10と、対向電極20と、電荷移動体30と、封止材40と、導電材50と、光制御層60と、を有する。
光電極10と対向電極20とは離間して対向する。
電荷移動体30は、光電極10と対向電極20の間に位置する。
封止材40は、光電極10と対向電極20との間に位置して電荷移動体30を封止する。
電荷移動体30は、光電極10、対向電極20および封止材40で囲まれた領域に存在する。電荷移動体30は、光電極10および対向電極20の双方に接する。
導電材50は、光電極10と対向電極20の間に位置して、光電極10と対向電極20を導通可能とする。
光制御層60は、光電極10の光入射面(対向電極20とは反対側の面)10a側に設けられる。
【0015】
本実施形態の光電変換素子1では、光制御層60は、光吸収材、光反射材、光拡散材、フォトクロミック材またはエレクトロクロミック材またはサーモクロミック材を含む。
光制御層60は、太陽光または白色発光ダイオード、蛍光灯等の発光波長域(例えば、400nm~800nmの波長領域)において、透過率が90%以下の波長域を有する材料で形成されたものが好ましく、透過率70%以下の波長域を有する材料で形成されたものがより好ましく、透過率50%以下の波長域を有する材料で形成されたものがさらに好ましく、透過率20%以下の波長域を有する材料で形成されたものが最も好ましい。
【0016】
光制御層60が光吸収材を含む場合、光制御層60が光吸収材のみから構成されるか、光制御層60が光吸収材を構成部材の一部として含む。光制御層60が光吸収材を含む場合、光制御層60は光電極10の光入射面10aに入射する光の量を減らす減光層として機能する。すなわち、光制御層60は光電極10の光入射面10aに入射しようとする光を吸収して、光電極10の光入射面10aに入射する光の量を減らす。
【0017】
光吸収材としては、特に限定されないが、例えば、光吸収型の光量調整用(Neutral density、ND)フィルターや光学フィルター等が挙げられる。
光吸収型のNDフィルターとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基材、またはガラス基材中に光吸収材料を添加したフィルターや、前記の基材上に誘電体膜や金属膜を多層に成膜したフィルター等が挙げられる。
光学フィルターとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基材、またはガラス基材中に光吸収材料(機能性色素)を添加したフィルターや、前記の基材上に光吸収材料(機能性色素)からなる膜を成膜したフィルター等が挙げられる。機能性色素としては、例えば、クマリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ペリレン誘導体、シアニン誘導体、スクアリウム誘導体等が挙げられる。
【0018】
光制御層60が光反射材を含む場合、光制御層60が光反射材のみから構成されるか、光制御層60が光反射材を構成部材の一部として含む。光制御層60が光反射材を含む場合、光制御層60は減光層として機能する。
【0019】
光反射材としては、特に限定されないが、例えば、光反射型の光量調整用(Neutral density、ND)フィルターや反射フィルム等が挙げられる。
光反射型のNDフィルターとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基材、またはガラス基材上に金属膜を成膜したフィルター等が挙げられる。金属膜の材質としては、屈折率の大きな金属が挙げられる。このような金属としては、例えば、ニッケル、クロム、アルミニウム、金、銀、銅等が挙げられる。
反射フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基材、またはガラス基材中に高屈折率な微粒子を添加したフィルター等が挙げられる。微粒子の材料としては、特に限定されないが、例えば、屈折率の観点から、酸化ケイ素や酸化チタン等の無機系微粒子やアクリル系樹脂等からなる有機系微粒子等が挙げられる。微粒子の粒子径は、特に限定されないが、例えば、光を効果的に反射する観点から、400nm以上であることが好ましい。
【0020】
光制御層60が光拡散材を含む場合、光制御層60が光拡散材のみから構成されるか、光制御層60が光拡散材を構成部材の一部として含む。光制御層60が光拡散材を含む場合、光制御層60は減光層として機能する。
【0021】
光拡散材としては、例えば、光拡散フィルム、光拡散ガラス、光拡散カーテン、光拡散障子、メッシュ状網戸等が挙げられる。
光拡散フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基材、またはガラス基材中に高屈折率な微粒子を添加したフィルム等が挙げられる。微粒子の材料としては、特に限定されないが、例えば、屈折率の観点から、酸化ケイ素や酸化チタン等の無機系微粒子やアクリル系樹脂等からなる有機系微粒子等が挙げられる。微粒子の粒子径は、特に限定されないが、例えば、光を効果的に反射する観点から、400nm以上であることが好ましい。
光拡散ガラスとしては、すりガラス、フロストガラス、型板ガラス等が挙げられる。
【0022】
光制御層60がフォトクロミック材を含む場合、光制御層60がフォトクロミック材のみから構成されるか、光制御層60がフォトクロミック材を構成部材の一部として含む。光制御層60がフォトクロミック材を含む場合、光制御層60は光電極10の光入射面10aに入射する光の波長を調節する調光層として機能する。すなわち、光制御層60は光電極10の光入射面10aに入射しようとする光が当たると変色して、光電極10の光入射面10aに入射する光の波長を選択する。
【0023】
フォトクロミック材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基材、またはガラス基材中にフォトクロミック材料を添加したものや、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基材、またはガラス基材上にフォトクロミック材料からなる膜を成膜したものが挙げられる。
フォトクロミック材料としては、例えば、無機系材料や有機系材料(色素)等が挙げられる。
無機系材料としては、例えば、ハロゲン化銀や酸化タングステン等が挙げられる。
有機系材料としては、例えば、Tタイプ型色素(色変換の過程が光以外の熱によっても起きる色素)や、Pタイプ型色素(色変換の過程が光によってのみ起きる色素)等が挙げられる。Tタイプ型色素としては、例えば、アゾベンゼン誘導体、スピロピラン誘導体、スピロオキサジン誘導体等が挙げられる。Pタイプ型色素としては、例えば、ジアリールエテン誘導体等が挙げられる。
フォトクロミック材料は、例えば、消色状態で400nm以下の領域に光吸収ピークを有し、有色状態で400nm以上の領域に光吸収ピークを有することが好ましい。フォトクロミック材料が有色状態から消色状態へ変化する場合、光吸収ピークの吸収端は1000nm以下であることがより好ましい。フォトクロミック材料は、400nm以下の光を吸収することで、有色状態から消色状態へ変化する。有色状態から消色状態への変化は、フォトクロミック材料が400nm以上の光を吸収するか、Tタイプ型色素の場合、熱によっても、有色状態から消色状態へ変化する。
【0024】
光制御層60がエレクトロクロミック材を含む場合、光制御層60がエレクトロクロミック材のみから構成されるか、光制御層60がエレクトロクロミック材を構成部材の一部として含む。光制御層60がエレクトロクロミック材を含む場合、光制御層60は調光層として機能する。
【0025】
エレクトロクロミック材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基材、またはガラス基材中にエレクトロクロミック材料を添加したものや、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基材、またはガラス基材上にエレクトロクロミック材料からなる膜を成膜したものが挙げられる。
エレクトロクロミック材料としては、例えば、無機系材料や有機系材料等が挙げられる。
無機系材料としては、例えば、酸化モリブデンや酸化タングステン等の酸化物半導体が挙げられる。
有機系材料としては、例えば、ビオロゲン誘導体やポリチオフェン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体等が挙げられる。
エレクトロクロミック材料は、例えば、消色状態で400nm以下の領域に光吸収ピークを有し、有色状態で400nm以上の領域に光吸収ピークを有することが好ましい。エレクトロクロミック材料が有色状態である場合、光吸収ピークの吸収端は1000nm以下であることがより好ましい。エレクトロクロミック材料は、外部から電圧を印加し、酸化反応または還元反応を起こすことで、消色状態から有色状態へ変化する。また、エレクトロクロミック材料は、外部から電圧を印加し、還元反応または酸化反応を起こすことで、有色状態から消色状態へ変化する。
本実施形態では、外部電圧として、光電変換素子1で発電した電気を直接用いてもよいし、光電変換素子1で発電した電気を一旦、蓄電池に蓄電し、その電気を用いてもよい。また、一次電池等のバックアップ電池から得た電気を用いてもよい。
【0026】
光制御層60がサーモクロミック材を含む場合、光制御層60がサーモクロミック材のみから構成されるか、光制御層60がサーモクロミック材を構成部材の一部として含む。光制御層60がサーモクロミック材を含む場合、光制御層60は調光層として機能する。
【0027】
サーモクロミック材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基材、またはガラス基材中にサーモクロミック材料を添加したものや、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂基材、またはガラス基材上にサーモクロミック材料からなる膜を成膜したものが挙げられる。
サーモクロミック材料としては、例えば、液晶材料や色素系材料等が挙げられる。
液晶材料としては、例えば、コレステロール誘導体やシアノビフェニル等が挙げられる。
色素系材料としては、例えば、ロイコ色素等が挙げられる。
サーモクロミック材料は、例えば、消色状態で400nm以下の領域に光吸収ピークを有し、有色状態で400nm以上の領域に光吸収ピークを有することが好ましい。サーモクロミック材料が有色状態である場合、光吸収ピークの吸収端は1000nm以下であることがより好ましい。
サーモクロモック材料は、例えば、太陽光の照射下で光制御層60の温度が50℃以上になった場合に、消色状態から有色状態に変化する。また太陽光が照射されない環境下で光制御層60の温度が50℃以下になった場合に、有色状態から消色状態に変化する特徴を有する。
【0028】
光制御層60の厚さは、光制御層60の構成によって適宜調整されるが、例えば、50μm以上50mm以下であることが好ましい。
【0029】
光制御層60を透過した光の強度は、90mW/cm以下であることが好ましく、70mW/cm以下であることがより好ましく、50mW/cm以下であることがさらに好ましく、20mW/cm以下であることが最も好ましい。光制御層60を透過した光の強度は、0.01mW/cm以上であることが好ましく、0.04mW/cm以上であることがより好ましい。
光制御層60を透過した光の強度が90mW/cm以下であれば、紫外線による劣化、および高強度の光による劣化を抑制し、長期にわたって光電変換素子1の発電量を維持することができる。
光制御層60を通過した光の強度が0.01mW/cm以上であれば、センサー等の機器を駆動させるための電力を光電変換素子1で発電させることができる。
【0030】
光電極10は、光電極支持体12と光電極導電層14と無機半導体層16とを有する。
光電極支持体12の表面に平行な面内において、導電材50が延長する方向をP1方向、P1方向に垂直な方向をP2方向とする。
【0031】
光電極導電層14は、光電極支持体12上に位置する。無機半導体層16は、光電極導電層14上に位置する。すなわち、光電極支持体12と光電極導電層14と無機半導体層16とは、この順で位置する。
無機半導体層16は、電荷移動体30に接する。無機半導体層16は、光電極導電層14の一部を覆う。無機半導体層16の外方で、光電極導電層14の一部は、電荷移動体30と接する。無機半導体層16は増感色素を担持する。
なお、電荷移動体30が存在する領域において、無機半導体層16が光電極導電層14の全面を覆ってもよい。
【0032】
光電極支持体12は、光透過性を有する。光電極支持体12は、ガラス板、樹脂製の板、フィルムまたはシート(樹脂製の板、フィルム、シートを総じて、樹脂製の板等ということがある)等である。
【0033】
光電極支持体12がガラス板の場合、素材は、ソーダライムガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、バイコールガラス、無アルカリガラス、青板ガラス、白板ガラス等である。
【0034】
光電極支持体12が樹脂製の板等の場合、素材は、ポリアクリル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド等である。
【0035】
なお、上記光制御層60は、光電極支持体12を兼ねていてもよい。例えば、光制御層60としてすりガラスを用い、その一面に光電極導電層14として、インジウムスズ酸化物(ITO)膜等を成膜してもよい。また、光制御層60は、透明粘着層(OCA等)を介して光電極支持体12上に設置してもよいし、塗布または蒸着等の方法により、光電極支持体12上に直接形成してもよい。また、光制御層60と光電極支持体12は離間していてもよい。離間距離は、特に制限されないが、例えば、0.1cm以上10cm以下の範囲で任意に設定できる。
【0036】
光電極導電層14は、光電極支持体12の対向電極20側の面の全体にわたって存在する。
光電極導電層14は、導電性を有すれば、特に制限されない。光電極導電層14は、従来公知の色素増感太陽電池用の導電層である。光電極10が光入射面を形成する場合、光電極導電層14は光透過性を有する。すなわち、光電極導電層14としては、いわゆる透明導電層が好ましい。
光電極導電層14の材料としては、例えば、金、白金、銀、銅、クロム、タングステン、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、マンガン、亜鉛、鉄およびこれらの合金等の金属;フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-リチウム合金、Al/Al混合物、Al/LiF混合物、CuI、インジウムスズ酸化物(ITO)、SnO、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、ガリウム亜鉛酸化物(GZO)等の導電性透明無機材料;導電性透明ポリマー等が挙げられる。これらの材料は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせ用いてもよい。
【0037】
光電極導電層14の厚みは、光電極導電層14を構成する材料に応じて、適宜決定する。光電極導電層14が金属の場合、光電極導電層14の厚みは、10nm以上50nm以下であることが好ましい。光電極導電層14が導電性透明無機材料または導電性透明ポリマーの場合、光電極導電層14の厚みは、50nm以上500μm以下であることが好ましい。
光電極導電層14の厚みは、光電極支持体12の面と直交する断面の画像における、任意の10点の測定値の平均値である。
【0038】
無機半導体層16は、増感色素を吸着可能な半導体材料であればよい。
半導体材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ガリウム等の酸化物、硫化スズ、硫化インジウム、硫化亜鉛、酸化第一銅、三酸化モリブデン、五酸価バナジウム、酸化タングステン等の酸化物、チオシアン酸銅(I)、ヨウ化銅、二硫化モリブデン、二セレン化モリブデン、硫化銅(I)等が挙げられる。
無機半導体層16は、稠密層でもよく、多孔質層でもよい。光電変換素子1の光電変換効率のさらなる向上の点から、無機半導体層16は、多孔質層が好ましい。
無機半導体層16の厚みは、500nm以上100μm以下であることが好ましい。無機半導体層16の厚みは、光電極支持体12の面と直交する断面の画像における、任意の10点の測定値の平均値である。
【0039】
増感色素は、有機色素または金属錯体色素から構成される。有機色素としては、例えば、クマリン系、ポリエン系、シアニン系、ヘミシアニン系、またはチオフェン系等の各種有機色素等が挙げられる。金属錯体色素としては、例えば、ルテニウム錯体等が挙げられる。
【0040】
対向電極20は、対向電極支持体22と、対向電極導電層24とを有する。対向電極導電層24は、対向電極支持体22上に位置する。
光電極10と対向電極20とは、無機半導体層16と対向電極導電層24とを向き合わせて、対向する。
【0041】
対向電極支持体22は、ガラス板、樹脂製の板、フィルムまたはシート(樹脂製の板、フィルム、シートを総じて、樹脂製の板等ということがある)等である。
【0042】
対向電極支持体22がガラス板の場合、素材は、ソーダライムガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、バイコールガラス、無アルカリガラス、青板ガラス、白板ガラス等である。
【0043】
対向電極支持体22が樹脂製の板等の場合、素材は、ポリアクリル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド等である。
【0044】
対向電極導電層24の材料は、光電極導電層14の材料と同様に、金属、導電性透明無機材料、導電性透明ポリマー等である。対向電極導電層24と光電極導電層14とは、同じでもよいし、異なってもよい。対向電極20が光入射面を形成する場合、対向電極導電層24は、光透過性を有する。この場合、対向電極導電層24としては、いわゆる透明導電層が好ましい。
対向電極導電層24の好ましい厚みは、光電極導電層14の好ましい厚みと同様である。対向電極導電層24の厚みは、光電極導電層14の厚みと同じでもよいし、異なってもよい。
【0045】
対向電極導電層24上に触媒層26が位置してもよい。触媒層26は、対向電極導電層24の光電極10側の面に、互いに離間して複数設けられる。触媒層26は、電荷移動体30に接する。触媒層26の外方で、対向電極導電層24の一部は、電荷移動体30と接する。
触媒層26の材料としては、例えば、PEDOT、プラチナ、ITO、ポリアニリン、またはカーボン等が挙げられる。
触媒層26の厚みは、2nm以上500μm以下であることが好ましい。触媒層26の厚みは、光電極支持体12の面と直交する断面の画像における、任意の10点の測定値の平均値である。
【0046】
電荷移動体30は、電解液またはゲル電解質、または固体P型半導体である。電荷移動体30は、無機半導体層16、光電極導電層14、触媒層26、および対向電極導電層24に接する。電荷移動体30は、増感色素に電子を供給可能な酸化還元対を有する。
電解液は、分散媒(以下「電解液分散媒」ということがある。)と、電解液分散媒に分散している酸化還元対とを有する。ゲル電解質は電解液をゲル状にしたものである。ゲル電解質の製造方法は、例えば、電解液にゲル化剤または増粘剤を加えてゲル状にする。ゲル電解質の電荷移動体30は光電変換素子1の耐久性を高めることができる。
【0047】
電解液分散媒は、非水系溶剤、イオン液体等である。非水系溶剤は、アセトニトリル、プロピオニトリル等である。イオン液体は、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム、ヨウ化ブチルメチルイミダゾリウム等である。
酸化還元対は、支持電解質とハロゲン分子との組み合わせである。
支持電解質は、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等の金属ヨウ化物、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等のヨウ素塩等のヨウ化物;臭化ナトリウム、臭化カリウム等の金属臭化物、テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド、イミダゾリウムブロマイド等の臭素塩等の臭素化合物である。
ハロゲン分子は、ヨウ素分子、臭素分子等である。
支持電解質とハロゲン分子との組み合わせとしては、ヨウ化物とヨウ素分子との組み合わせ、臭素化合物と臭素分子との組み合わせが好ましい。
【0048】
固体ホールP型半導体としては、ヨウ化銅、硫化銅等の無機半導体やspiro-OMeTADやポリチオフェン誘導体等の有機半導体が挙げられる。
【0049】
封止材40は、光電極10と対向電極20との間に位置する。封止材40の厚み方向の両端は、光電極10および対向電極20にそれぞれ接合する。封止材40は電荷移動体30を封止する。
本実施形態において、封止材40の厚み方向の両端は、光電極導電層14および対向電極導電層24にそれぞれ接合する。
封止材40は、電荷移動体30を封止できればよく、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等、従来公知の封止材を使用できる。
封止材40の厚みは、10μm以上200μm以下であることが好ましい。封止材40の厚みは、光電極支持体12の面と直交する断面の画像における、任意の10点の測定値の平均値である。
【0050】
導電材50は、光電極10と対向電極20との間に位置する。導電材50は、光電極10および対向電極20の双方に接する。導電材50と電荷移動体30との間には封止材40が位置する。P2方向において、導電材50の両側は封止材40と隣接する。導電材50と封止材40とは接することが好ましい。
導電材50は導電粒子と接着剤を含有する。
【0051】
導電粒子は、金属粒子のように粒子自体が導電性を有する粒子でもよく、表面層が導電性を有する金属層である複合粒子でもよい。
具体例としては、金、銀、銅、クロム、チタン、白金、ニッケル、錫、亜鉛、鉛、タングステン、鉄、アルミニウム等の金属からなる金属粒子;これらの金属を含む化合物からなる粒子;導電性樹脂からなる粒子;カーボンブラック等の炭素系粒子;が挙げられる。さらに、樹脂製の粒子に無電解ニッケル等の導電性を有する金属を被覆した粒子等の複合粒子も使用できる。
導電粒子の形状は前記スペーサーの役割を果たせば、特に制限されない。球状、楕円形状、立方形状、多角体形状等が挙げられる。最大の内包体積を有し、かつ抵抗が少ない観点から、導電粒子は球状が好ましい。
導電粒子の平均粒子径は、5μm以上500μm以下であることが好ましく、10μm以上500μm以下であることがより好ましい。
導電粒子の平均粒子径は、導電材の画像における任意の10個の測定値の平均値である。導電粒子が球状でない場合は、導電材の画像における導電粒子の面積を計測し、同面積の円の直径を前記導電粒子の直径として、10個の平均値を求める。
【0052】
接着剤の例として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂または紫外線硬化性樹脂を少なくとも一種含んだ樹脂材料またはその硬化物が挙げられる。接着剤が封止材40と同じ材料であってもよい。
前記樹脂材料としては、例えば、酢酸ビニル樹脂系エマルション形接着剤、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、EVA(エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニルの三元共重合体)系エマルション形接着剤、α-オレフィン(イソブテン-無水マレイン酸樹脂)系接着剤、アクリル樹脂系エマルション形接着剤、スチレン・ブタジエンゴム系ラテックス形接着剤、酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤、アクリル樹脂系溶剤形接着剤、塩化ビニル樹脂系溶剤形接着剤、クロロプレンゴム系溶剤形接着剤、クロロプレンゴム系溶剤形マスチックタイプ接着剤、ニトリルゴム系溶剤形接着剤、再生ゴム系溶剤形スチレンブタジエンラバー(styrene-butadiene rubber:SBR)系溶剤形接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、シリコーン樹脂系接着剤、変成シリコーン樹脂系接着剤、エポキシ・変成シリコーン樹脂系接着剤、アクリル樹脂系(second generation of acrylic adhesives:SGA)接着剤、でん粉系接着剤、ポリマーセメントモルタル、エポキシ樹脂モルタル、シリル化ウレタン樹脂系接着剤、ホットメルト形接着剤等が挙げられる。
【0053】
また、前述のように電極間を所定の間隔をあけて対向配置させた状態を保持する機能を有していれば、接着剤として、高い粘性を有する粘着材を用いることができる。高い粘性を有する粘着材としては、例えば、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系のものが挙げられるが、特にこれらに限定されない。具体的には、天然ゴム、アクリル酸エステル共重合体、シリコーンゴム、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0054】
導電材50は導電粒子および接着剤のほかに、補助導電物質を含んでもよい。補助導電物質は、光電極10と対向電極20の間のスペーサーの役割を果たさない小径の物質である。導電粒子同士の隙間に補助導電物質が存在すると、電極間の導通がさらに得られやすくなる。
補助導電物質としては、導電性を有し、導電粒子の導通性を阻害しないものであればよい。導電粒子よりも小径の粒子状または繊維状の補助導電物質が挙げられる。
補助導電物質の材料としては、金、銀、銅、クロム、チタン、白金、ニッケル、錫、亜鉛、鉛、タングステン、鉄、アルミニウム等の金属、これらの金属を含む化合物、導電性樹脂、またはカーボンブラック等の炭材料料が挙げられる。導電粒子と同じ材料であってもよい。
補助導電物質が粒子状である場合の平均粒子径は、補助導電物質が導電粒子同士の隙間に存在しやすい点で、導電粒子の平均粒子径に対いて80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。
補助導電物質の平均粒子径の測定方法は、前記導電粒子の平均粒子径の測定方法と同じである。
補助導電物質が導電性繊維である場合の平均繊維径は、導電粒子の平均粒子径に対して45%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。
前記導電性繊維の繊維長は、導電粒子の導通性を阻害しないように適宜調整することが好ましい。例えば、繊維長/繊維径で表されるアスペクト比の平均値が2以上500以下であることが好ましい。
補助導電物質の平均繊維径は、導電材の画像における任意の10個の測定値の平均値である。
【0055】
導電粒子、接着剤、および任意に補助導電物質を含む導通ペーストを固化して導電材50を形成する。導通ペーストは、必要に応じて、導電粒子や接着剤の分散状態を保持するための補助媒体を含んでもよい。補助媒体の例としては、水、エステル系溶媒(酢酸エチル等)、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒(テトラヒドロフラン等)、炭化水素系溶媒(ヘキサン等)、芳香族系溶媒等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0056】
光電変換素子1を平面視した図1において、光電極導電層14と対向電極導電層24と封止材40とが重なる領域には、図示略帯状の第一絶縁部(絶縁部)または第二絶縁部(絶縁部)が存在する。
第一絶縁部は、光電極導電層14を貫通する切断部である。第一絶縁部は、光電極導電層14を分断して電気的に絶縁している。
第二絶縁部は、対向電極導電層24を貫通する切断部である。第二絶縁部は、対向電極導電層24を分断して電気的に絶縁している。
P2方向において、第一絶縁部と第二絶縁部は交互に存在する。
【0057】
このような構成の光電変換素子1は、有機系太陽電池またはペロブスカイト結晶を有する太陽電池であることが好ましい。
【0058】
本実施形態の光電変換素子1によれば、光電極10の光入射面10a側に光制御層60を設けることにより、光電極10の光入射面10aに入射する光の量を減らしたり、光電極10の光入射面10aに入射する光の波長を調節したりすることができるため、紫外線による劣化、および高強度の光による劣化を抑制することができる。従って、本実施形態の光電変換素子1は、長期にわたって発電量を維持することができる。
【0059】
[光電変換素子の製造方法]
本実施形態の光電変換素子は、例えば、以下の方法で製造できる。
本実施形態の光電変換素子の製造方法は、図2に例示する製造装置100を用いて、光電極10をP1方向に搬送しながら、光電極10上に、封止材40、導電材50および電荷移動体30を設け、対向電極20をP1方向に搬送しながら、光電極10と対向電極20と貼り合わせて、図1に示す構成の光電変換素子1を連続的に製造する方法である。導電材50は、例えば、導電ペーストを塗布して形成する。
【0060】
まず、図示略のロール・ツー・ロール方式を採用した装置を用いて、光電極支持体12を所定の方向に沿って連続的に搬送しながら、公知のスパッタリング法や印刷法等を用いて、光電極支持体12の表面に光電極導電層14を形成する。次いで、公知のエアロゾルデポジション法(Aerosol Deposition method:AD法)を用いて、光電極導電層14の所定の位置に無機半導体層16を形成する。次いで、公知の方法で、無機半導体層16に増感色素を吸着させて光電極10を得る。光電極10を、無機半導体層16を外側にした状態でロール状に巻き取る。
光電極導電層14を形成した後、無機半導体層16を形成する前の状態で、一旦ロール状に巻き取ってもよい。また、光電極10を形成した後、巻き取らずに、次工程を行ってもよい。
【0061】
これとは別に、図示略のロール・ツー・ロール方式を採用した装置を用いて、対向電極支持体22を所定の方向に沿って連続的に搬送しながら、公知のスパッタリング法や印刷法等を用いて、対向電極支持体22の表面に対向電極導電層24を形成する。次いで、公知のスパッタリング法や印刷法等を用いて、対向電極導電層24の所定の位置に触媒層26を形成して対向電極20を得る。対向電極20を、触媒層26を内側にした状態でロール状に巻き取る。
対向電極導電層24を形成した後、触媒層26を形成する前の状態で、一旦ロール状に巻き取ってもよい。また、対向電極20を形成した後、巻き取らずに、次工程を行ってもよい。
【0062】
次いで、図2に示すように、製造装置100にロール状の光電極10および対向電極20を設置する。
光電極10をP3方向に繰り出して搬送しながら、図示略の絶縁部形成装置を用いて、図示略の第一の絶縁部を形成する。絶縁部形成装置としては、例えば、ダイカットロールを備えた加工装置、レーザー加工装置等が挙げられる。
【0063】
次に、搬送中の光電極10に、封止材塗布装置101を用いて封止材料を塗布し、未硬化の封止材40を形成する。
続いて、導電材塗布装置102を用いて導電ペーストを塗布し、未硬化の導電材50を形成する。続いて、電解液塗布装置103を用いて電解液を塗布し、電荷移動体30を形成する。
【0064】
一方、対向電極20をP4方向に繰り出して搬送しながら、図示略の絶縁部形成装置を用いて、図示略の第二の絶縁部を形成する。絶縁部形成装置は前記と同様である。
【0065】
次に、一対の押圧ロール111、112の間に、電荷移動体30を形成した光電極10と、第二絶縁部を形成した対向電極20とを、重ね合わせた状態で導入する。押圧ロール111、112は、これらの間を通過する光電極10および対向電極20を互いに押圧する。
続いて、押圧ロール111、112を通過した直後に、図示略の硬化装置を用いて、未硬化の封止材40および導電材50を硬化させて、封止材40および導電材50と光電極10とを貼り合わせるとともに、封止材40および導電材50と対向電極20とを貼り合わせる。例えば、未硬化の封止材40が光硬化性樹脂である場合、硬化装置としてUVランプを用いて紫外線を照射して封止材40を硬化させる。未硬化の導電材50が熱硬化性樹脂である場合、加熱して導電材50を硬化させる。このようにして光電極10と対向電極20を、封止材40および導電材50を介して貼り合わせる。
【0066】
次に、超音波振動を付与する超音波付与部115と、超音波付与部115に対向する台座116を備える融着部形成装置を用いて、所定の位置に融着部を形成する。
超音波付与部115の先端部と、台座116の先端部は、それぞれ複数の凹凸を有する。両者の凹凸は互いに噛み合う形状である。超音波付与部115と台座116の間の距離は可変である。
貼り合された対向電極20と光電極10に、超音波付与部115の先端部と、台座116の先端部をそれぞれ接触させて、超音波付与部115と台座116との距離を縮小する。このようにして超音波振動を付与しながら加圧すると、光電極支持体12、対向電極支持体22、およびこれらの間に存在する封止材40等の構造物に、振動エネルギーが伝達されて摩擦熱が発生し、融点が低い構造物は溶融して流動する。また、前記構造物に金属のような剛体が存在する場合、該剛体は超音波振動によって破壊され、破壊された粒径が比較的小さければ拡散(移動)する。
その結果、光電極支持体12と対向電極支持体22との間に存在していた封止材40等の構造物が、融着部に隣接する部分に押し出され、光電極支持体12と対向電極支持体22とが融着した融着部となる。
【0067】
次に、光電極10の光入射面10aに、透明粘着層を介して、光制御層60を貼り合せることで、光制御層60を設ける。
【0068】
以上の工程で、光電変換素子1を製造できる。この後、長尺の光電変換素子1を、1つの融着部を分断するように、融着部の長さ方向(P2方向)に沿って切断して、実際に使用される大きさの光電変換素子を切り出してもよい。
【実施例
【0069】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
(光電変換素子の作製)
以下に示す材料を用いて、上記実施形態に示した光電変換素子の製造方法の手順で、図1に示す光電変換素子を作製した。
・光電極支持体および対向電極支持体:材料PEN。
・光電極導電層および対向電極導電層:材料ITO。
・無機半導体層:酸化チタン(1次粒子径15nm)からなる多孔質層(膜厚10μm)。
・増感色素:ルテニウム系色素(通称N719)。
・触媒層:白金(膜厚10nm)。
・電荷移動体:電解液。
・封止材:紫外線硬化性樹脂。
・導電ペースト:接着剤(紫外線硬化性樹脂)と、導電粒子(表面に金めっきを施したミクロパール(登録商標)AU-250)との混合物。
・光制御層:NDフィルター(HOYA製吸収型NDフィルター、光学濃度OD=0.3、厚さ2.5mm、透過率50%)。
【0071】
(耐光性評価)
光電変換素子の初期発電量を200ルクス下で測定した後、1SUN耐光性試験機(キセノン促進耐候試験機、商品名:Q-SUN Xe-3、三洋貿易社製)で500時間保管した。
500時間経過後、再度、光電変換素子の発電量を200Lux下で測定した。
光電変換素子の発電量は、次のようにして測定した。
面発光白色LED装置、色彩照度計:CL-200A(コニカミノルタジャパン社製)を用いて光電変換素子に200Luxの光が照射されるように調整した。光照射下でソースメーター(ケースレー社製)を用い、光電変換素子に電圧を印加し、発生した電流量から発電量を算出した。
結果を表1に示す。
【0072】
[実施例2]
光制御層として、光反射NDフィルター(商品名:ND204B、Thorlabs社製、光学濃度OD=0.4、厚さ2.5mm、透過率40%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の光電変換素子を作製した。
得られた光電変換素子の耐光性を、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0073】
[実施例3]
光制御層として、光反射フィルム(商品名:IJ5000、3M社製、厚さ0.1mm、透過率5%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の光電変換素子を作製した。
得られた光電変換素子の耐光性を、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0074】
[実施例4]
光制御層として、光拡散ガラス(すりガラス)(フショク型拡散板、商品名:FS50C502、渋谷光学社製、厚さ2mm、透過率30%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の光電変換素子を作製した。
得られた光電変換素子の耐光性を、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0075】
[実施例5]
光制御層として、光拡散フィルム(3M社製、厚さ0.06mm、透過率60%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の電変換素子を作製した。
得られた電変換素子の耐光性を、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例6]
光制御層として、フォトクロミック材(フォトクロミックセラミックウィンドウフィルム(65%)、TintDept社製、消色状態透過率=65%、380nm以下の光で着色状態に変化、着色状態透過率=45%、450nm以上の光で消色状態に変化、厚さ0.1mm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の光電変換素子を作製した。
得られた光電変換素子の耐光性を、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
白色LEDでの発電特性測定中は、380nm以下の光が照射されないため、光制御層は消色状態であった。耐光性試験機での加速試験中は、380nm以下の光が照射されたため、着色状態であった。再度、白色LEDでの発電特性測定時には、380nm以下の光が照射されないため、光制御層は消色状態に戻った。
【0077】
[実施例7]
光制御層として、エレクトロクロミック材(エレクトロクロミックフィルム、TintDept社製、消色状態透過率=80%、着色状態透過率=5%、厚さ0.2mm)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7の光電変換素子を作製した。
得られた光電変換素子の耐光性を、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
白色LEDでの発電特性測定は、光制御層に電圧を印加せずに無色状態で行い、加速試験中は電圧(2V)を印加し、有色状態とした。加速試験500時間経過後、光制御層に逆電圧(-2V)を印加し、無色状態に変更後、再度、白色LED下で発電特性を測定した。
【0078】
[実施例8]
光制御層として、サーモクロミック材(サーモクロミックガラス、日本板硝子社製、消色状態透過率=63%、着色状態透過率=13%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例8の光電変換素子を作製した。
白色LEDでの発電特性測定中は、光制御層は50℃以下だったため、光制御層は消色状態であった。耐光性試験機での加速試験中は、光照射で50℃以上に昇温され、着色状態であった。再度、白色LEDでの発電特性測定時には、光制御層は50℃以下であったため、光制御層は消色状態に戻った。
【0079】
[比較例]
光制御層を設けないこと以外は実施例1と同様にして、比較例の光電変換素子を作製した。
得られた光電変換素子の耐光性を、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1の結果から、実施例1~実施例8の光電変換素子は、高い維持率を示すことが分かった。また、実施例6~実施例8は維持率だけでなく、初期発電量も高いことが分かった。
一方、比較例の光電変換素子は、初期発電量は高いものの、維持率が低いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の光電変換素子は、光電極の光入射面側に光制御層を設けることにより、光電極の光入射面に入射する光の量を減らしたり、光電極の光入射面に入射する光の波長を調節したりすることができる。そのため、本発明の光電変換素子は、紫外線による劣化、および高強度の光による劣化を抑制することができる。従って、本実施形態の光電変換素子は、長期にわたって発電量を維持することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 光電変換素子
10 光電極
12 光電極支持体
14 光電極導電層
20 対向電極
22 対向電極支持体
24 対向電極導電層
30 電荷移動体
40 封止材
50 導電材
60 光制御層
図1
図2