IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 宇部エクシモ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-繊維強化中空構造体及びその製造方法 図1
  • 特許-繊維強化中空構造体及びその製造方法 図2
  • 特許-繊維強化中空構造体及びその製造方法 図3
  • 特許-繊維強化中空構造体及びその製造方法 図4
  • 特許-繊維強化中空構造体及びその製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】繊維強化中空構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/12 20060101AFI20240710BHJP
   B32B 3/24 20060101ALI20240710BHJP
   B32B 3/26 20060101ALI20240710BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20240710BHJP
   B32B 5/00 20060101ALI20240710BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B32B3/12 Z
B32B3/24 Z
B32B3/26 A
B32B3/30
B32B5/00 A
B29C33/42
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020102184
(22)【出願日】2020-06-12
(65)【公開番号】P2021194838
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】松原 真
(72)【発明者】
【氏名】平子 慎二
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】番場 昭典
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/024251(WO,A1)
【文献】特開2001-310772(JP,A)
【文献】実開平05-073154(JP,U)
【文献】実開昭57-093537(JP,U)
【文献】特開平08-326306(JP,A)
【文献】特開2020-066218(JP,A)
【文献】特開2019-077066(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0139664(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 33/00-33/76、39/26-39/36、
41/38-41/44、43/36-43/42、
43/50、45/26-45/44、
45/64-45/68、45/73、
48/00-48/96、49/48-49/56、
49/70、51/30-51/40、51/44
E04C 2/00-2/54、
E04F 15/00-15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる中空部を有する中芯と、補強繊維を熱硬化性樹脂で一体に結着してなり前記中芯外周を被覆する中間層と、該中間層を被覆し、熱可塑性樹脂からなる外層と、の三層より形成される繊維強化中空構造体であって、
前記中芯は、中空部を並列に備えた構造であり、
前記繊維強化中空構造体の外層表面に、長手方向に断続的又は連続的に複数の凸部が配された凸部形成帯が形成され、且つ、短手方向に隣り合う前記凸部形成帯間の少なくとも一部に凹凸部が形成され、
前記凹凸部は、格子縞模様状であり、
鉛直荷重W(kN)=3.9×10 -3 ×L(L=試験片幅)における鉛直たわみ量が30mm以下である、繊維強化中空構造体。
【請求項2】
前記外層の凸部形成帯及び凹凸部が形成されていない部分の厚みは、0.5mm以上2.0mm以下である、請求項1に記載の繊維強化中空構造体。
【請求項3】
前記凹凸部における高低差は、0.05mm以上2.0mm以下である、請求項1又は2に記載の繊維強化中空構造体。
【請求項4】
前記凸部の短手方向の幅は、0.1mm以上25mm以下である、請求項1からのいずれか一項に記載の繊維強化中空構造体。
【請求項5】
前記凸部の前記凹凸部が形成されていない面からの高さは、15mm以下である、請求項1からのいずれか一項に記載の繊維強化中空構造体。
【請求項6】
前記繊維強化中空構造体の曲げ剛性は、1.5kN・m 以上110kN・m 以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の繊維強化中空構造体。
【請求項7】
前記繊維強化中空構造体の単位重量は、0.5kg/m以上20kg/m以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の繊維強化中空構造体。
【請求項8】
熱可塑性樹脂からなる中空部を有する中芯と、補強繊維を熱硬化性樹脂で一体に結着してなり前記中芯外周を被覆する中間層と、該中間層を被覆し、熱可塑性樹脂からなる外層と、の三層より形成される繊維強化中空構造体であって、前記中芯は、中空部を並列に備えた構造であり、前記繊維強化中空構造体の外層表面に、長手方向に断続的又は連続的に複数の凸部が配された凸部形成帯が形成され、且つ、短手方向に隣り合う前記凸部形成帯間の少なくとも一部に凹凸部が形成され、前記凹凸部は、格子縞模様状であり、鉛直荷重W(kN)=3.9×10 -3 ×L(L=試験片幅)における鉛直たわみ量が30mm以下である、繊維強化中空構造体の製造方法であって、
前記繊維強化中空構造体の外層表面の少なくとも一部を、金型を用いて加圧して前記凸部形成帯及び前記凹凸部を形成する工程を有する、繊維強化中空構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化中空構造体及びその製造方法に関する。より詳しくは、歩み板として十分な強度があり、滑り止め性が良好であって、取り扱い性に優れる繊維強化中空構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化中空構造体は、軽量、高強度かつ高剛性である上、電気絶縁性、耐久性、耐腐食性にも優れた特性を備えており、その特性を活かして建設工事における仮設工事用足場板や、養殖施設用歩み板、或いは筏及び浮き桟橋、湿原等における巡回路、道路工事等で使用される歩道橋(簡易橋)、遊歩道などに用いられている。これらの用途においては、作業者が繊維強化中空構造体の上を歩行するため、当該中空構造体の滑り止め性が良好であることが求められる。
【0003】
ここで、特許文献1では、表面に長手方向に断続的もしくは連続的に凸部を配してなる凸条を設けたことを特徴とする繊維強化中空構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-26063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の繊維強化中空構造体の歩行時における滑り止め効果は十分とはいえず、より効果があるものの開発が望まれている。また、これに加えて、取り扱い性の観点からも優れていることが望ましい。
【0006】
そこで、本発明では、このような実情に鑑み、歩み板として十分な強度があり、滑り止め性が良好であって、取り扱い性に優れる繊維強化中空構造体及びその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らが鋭意実験検討を行った結果、繊維強化中空構造体の表面の構造に着目し、当該構造を工夫することで、歩み板として十分な強度があり、滑り止め性の良好であって、取り扱い性に優れる繊維強化中空構造体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明では、熱可塑性樹脂からなる中空部を有する中芯と、補強繊維を熱硬化性樹脂で一体に結着してなり前記中芯外周を被覆する中間層と、該中間層を被覆し、熱可塑性樹脂からなる外層と、の三層より形成される繊維強化中空構造体であって、前記中芯は、中空部を並列に備えた構造であり、前記繊維強化中空構造体の外層表面に、長手方向に断続的又は連続的に複数の凸部が配された凸部形成帯が形成され、且つ、短手方向に隣り合う前記凸部形成帯間の少なくとも一部に凹凸部が形成され、前記凹凸部は、格子縞模様状であり、鉛直荷重W(kN)=3.9×10 -3 ×L(L=試験片幅)における鉛直たわみ量が30mm以下である、繊維強化中空構造体を提供する
た、本発明において、前記外層の凹凸部が形成されていない部分の厚みは、0.5mm以上2.0mm以下であってよい。
更に、本発明において、前記凹凸部における高低差は、0.05mm以上2.0mm以下であってよい。
また、本発明において、前記凸部の短手方向の幅は、0.1mm以上25mm以下であってよい。
更に、本発明において、前記凸部の前記凹凸部が形成されていない面からの高さは、15mm以下であってよい。
また、本発明に係る繊維強化中空構造体は、曲げ剛性が、1.5kN・m 以上110kN・m 以下であってよい。
更に、本発明に係る繊維強化中空構造体は、単位重量が、0.5kg/m以上20kg/m以下であってよい。
【0009】
また、本発明では、熱可塑性樹脂からなる中空部を有する中芯と、補強繊維を熱硬化性樹脂で一体に結着してなり前記中芯外周を被覆する中間層と、該中間層を被覆し、熱可塑性樹脂からなる外層と、の三層より形成される繊維強化中空構造体であって、前記中芯は、中空部を並列に備えた構造であり、前記繊維強化中空構造体の外層表面に、長手方向に断続的又は連続的に複数の凸部が配された凸部形成帯が形成され、且つ、短手方向に隣り合う前記凸部形成帯間の少なくとも一部に凹凸部が形成され、前記凹凸部は、格子縞模様状であり、鉛直荷重W(kN)=3.9×10 -3 ×L(L=試験片幅)における鉛直たわみ量が30mm以下である、繊維強化中空構造体の製造方法であって、前記繊維強化中空構造体の外層表面の少なくとも一部を、金型を用いて加圧して前記凹凸部を形成する工程を有する、繊維強化中空構造体の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、歩み板として十分な強度があり、滑り止め性が良好であって、取り扱い性に優れる繊維強化中空構造体及びその製造方法を提供することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る繊維強化中空構造体1の第1実施形態の構造を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明に係る繊維強化中空構造体1の第2実施形態の構造を模式的に示す斜視図である。
図3】Aは、本発明に係る繊維強化中空構造体1の第3実施形態の構造を模式的に示す斜視図であり、Bは凹凸部131の拡大図である。
図4】本発明に係る繊維強化中空構造体1の第4実施形態の構造を模式的に示す斜視図である。
図5】本発明に係る繊維強化中空構造体1の第5実施形態の構造を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
1.繊維強化中空構造体1
本発明に係る繊維強化中空構造体1は、熱可塑性樹脂からなる中空部111を有する中芯11と、補強繊維を熱硬化性樹脂で一体に結着してなり前記中芯11外周を被覆する中間層12と、該中間層12を被覆し、熱可塑性樹脂からなる外層13と、の三層より形成される。また、前記繊維強化中空構造体1の外層13表面に、長手方向に断続的又は連続的に複数の凸部130が配された凸部形成帯132が形成され、且つ、短手方向に隣り合う前記凸部形成帯132間の少なくとも一部に凹凸部131が形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る繊維強化中空構造体1は、上記特徴を有することにより、歩み板として十分な強度を発揮でき、該中空構造体1表面を歩行する人が滑り難くなることができる。そのため、建設工事における仮設工事用足場板や、養殖施設用歩み板、或いは筏及び浮き桟橋、湿原等における巡回路、道路工事等で使用される歩道橋(簡易橋)、遊歩道などの幅広い用途に活用できる。
【0015】
また、本発明に係る繊維強化中空構造体1は、上記特徴を有することにより、現場等で重ねて置いた際、作業者がスムーズに引き出すことができる。更に、水産歩み板等の用途でプラスチックボックスなどをスムーズに滑らせて移動させることができる。
【0016】
本発明において、中芯11の形状は特に限定されないが、例えば正方形、長方形等の断面形状を有する中空構造が好適であり、これらの形状を複数組み合わせて用いてもよい。本発明では特に、中芯11の形状として、図1~5に示すように中空部111を並列に備えた構造であることが好ましい。これは、軽量でありながらも曲げ強度に優れるからである。
【0017】
前記中空部111の短手方向の幅は10mm以上90mm以下が好ましく、15mm以上70mm以下がより好ましい。10mm未満では軽量化の面で不利であり、また、コストアップにもなるからである。90mmを超えると歩行時に足で踏み込んだ際、圧縮により潰れやすいからである。
【0018】
また、中芯11の厚みは0.3mm以上7mm以下であることが好ましい。0.3mm未満であると、その後の工程にて中芯形状が崩れてしまい、目的とする形状が得られないからである。7mmを超えると、軽量化の面で不利になってしまうからである。
【0019】
中間層12に用いられる補強繊維としては、剛性を向上させるために、長繊維束を用いるのが好ましい。長繊維束を構成する繊維としては、例えばポリエステル、ナイロン、ビニロン、ポリプロピレン、芳香族ポリアミド等の有機合成繊維や、ガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維等の無機繊維などが挙げられる。本発明ではこれらの中で、毛羽の発生が少ないため製造にて取り扱いやすく、効果的に剛性向上させることから、ガラス繊維や炭素繊維がより好ましく、単独でも組み合わせて用いてもよい。
【0020】
中間層12において、補強繊維と熱硬化性樹脂(例えば、不飽和ポリエステル樹脂など)との一体的な結着は、例えば補強繊維を熱硬化性樹脂浴に浸漬した後、所望断面形状のノズルに通し、加熱硬化することにより達成される。
【0021】
また、中間層12の厚みは0.3mm以上7mm以下であることが好ましい。これは、0.3mm未満であると歩み板として十分な強度を確保できず、7mmを超えると軽量化の面で不利になるからである。
【0022】
中芯11及び外層13を構成する熱可塑性樹脂としては、中間層を構成する熱硬化性樹脂(例えば、マトリックスである不飽和ポリエステル樹脂など)と化学的親和性を有するものに限定される。このような熱可塑性樹脂としては、例えばABS、AAS、AES、PMMA、PS、MBS、PC、接着ポリオレフィンや、これらのポリマーアロイ及びブレンド物等が挙げられる。
【0023】
中芯11及び外層13に用いられる熱可塑性樹脂は、中間層12を構成する熱硬化性樹脂と化学的親和性を有するものであれば、同種のものでも異種のものでもよいが、本発明では特に、中芯11及び外層13にABS樹脂及び/又はAES樹脂を用いるのが好ましい。その理由は、これらの樹脂は、中間層を構成する熱硬化性樹脂(例えば、不飽和ポリエステル樹脂など)との化学的親和性を有するだけでなく、耐候性や機械物性、コスト面などで優れているからである。
【0024】
繊維強化中空構造体1の厚みは25mm以上85mm以下が好ましく、29mm以上50mm以下であることがより好ましい。25mm未満であると歩み板としての強度が不足する可能性があり、85mmを超えると設置作業時など手で持ち運び難くなり、また軽量面で不利になる可能性があるからである。
【0025】
繊維強化中空構造体1の短手方向の幅は90mm以上950mm以下が好ましく、110mm以上500mm以下であることがより好ましい。90mm未満では、幅が小さいため歩いた際に踏み外す可能性があり、950mmを超えると設置作業時など手で持ち運び難くなり、また軽量面で不利になる可能性があるからである。
【0026】
また、繊維強化中空構造体1の単位重量は0.5kg/m以上20kg/m以下が好ましく、1kg/m以上9.5kg/m以下であることがより好ましい。0.5kg/m未満であると繊維強化中空構造体として実質的に強度が不足するからである。20kg/mを超えると重く、作業者が持ち運ぶ際に負荷となり、取り扱いが悪いからである。
【0027】
本発明において、前記外層13の凹凸部131が形成されていない部分X(図1~5参照)の厚みは、0.5mm以上2.0mm以下であることが好ましく、0.7mm以上1.5mm以下であることがより好ましい。0.5mm以上2.0mm以下にすることで、軽量化の面で不利にならず、また、ピンホールが入りにくく、凹凸部131を形成し易いからである。
【0028】
なお、本発明に係る繊維強化中空構造体1には、前記外層13の表面全体に凸部形成帯132及び凹凸部131が形成されており、前記外層13の凹凸部131が形成されていない部分Xが存在しないものも含まれる。
【0029】
外層13の凹凸部131は、サンドブラスト等により形成された細かな粗面でもよいが、例えば図1~4に示すような格子縞模様状、或いは図5に示すような水玉模様状に形成することができる。該凹凸部131における高低差は、0.05mm以上2.0mm以下であることが好ましく、0.2mm以上1.5mm以下であることがより好ましい。0.05mm以上にすることで、滑り止め性をより良好にすることができ、2.0mm以下にすることで、繊維強化中空構造体を積み重ねて保管した際、取り出し時の引っかかりを小さくすることができ、取り出し難いといった取り扱い性の問題を低減できるからである。
【0030】
また、外層13の凹凸部131は、適切な滑り止め性能を有していれば、連続的に形成されていなくてもよく、例えば図2~4に示すように格子模様状かつ市松模様状に形成されていてもよい。これは、例えば塗装工事などで作業時にブルーシートを貼る場合があるが、表面全面に凹凸部131を呈しているとテープ等でブルーシートを固定しようとしても簡単に剥がれてしまう。このような場合において、市松模様など、凹凸部131が断続的に形成されていることで、凹凸部131がないフラット面にしっかりと固定できる。また、形成する凹凸部131の面積が少なくなるため、生産性に優れる。
【0031】
凹凸部131の具体的な形状は特に限定されないが、例えば凹形状部分131aを多角柱形状、或いは多角錘形状等にすることができる。なお、この場合の凸形状部分131bは、繊維強化中空構造体1が後述する本発明に係る製造方法により製造される場合、金型で加圧されて凹形状部分131aが形成される際に、元々凹形状部分131aにあった熱可塑性樹脂が押されて金型の溝部に入り込んで形成される部分であり、これに対して凹形状部分131aは、金型で加圧されて形成される部分である。
【0032】
本発明では、隣り合う凹形状部分131a同士の距離(=凸形状部分131bの幅)は、0.1mm以上10mm以下であることが好ましく、0.5mm以上5mm以下であることがより好ましい。また、繊維強化中空構造体1の長手方向の凹形状部分131aの長さL1(図3B参照)は、0.8mm以上19.8mm以下であることが好ましく、1.5mm以上10mm以下であることがより好ましい。また、繊維強化中空構造体1の短手方向の凹形状部分131aの長さL2(図3B参照)は、0.8mm以上19.8mm以下であることが好ましく、1.5mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0033】
また、本発明では、凸形状部分131bの表面に、更に高低差0.05mm以上1mm以下の範囲で細かな凹凸が形成され、凹形状部分131aの表面に、更に高低差0.07mm以上0.8mm以下の範囲で細かな凹凸が形成されていることが好ましい。この細かな凹凸形状によって、より高い滑り止め性能が得られるからである。これら細かな凹凸は、凸形状部分131bや凹形状部分131aの表面の一部であってもよい。
【0034】
本発明では特に、凹形状部分131aが、四角柱であることが好ましい。その理由は、四角柱を形成するための金型の加工が容易であり、安価であること、また、効果的に滑り止め性能を発現することができるからである。
【0035】
中芯11、中間層12、外層13の三層より形成される繊維強化中空構造体1は、鉛直荷重(kN):W=3.9×10-3×L(L=試験片幅)を掛けた時のたわみ量が40mm以下であることが好ましく、より好ましくは30mm以下である。たわみ量が40mmを超えると、しなりが大きくなり、繊維強化中空構造体上を安心して歩行することができない。曲げ剛性は1.5kN・m以上110kN・m以下が好ましく、より好ましくは3kN・m以上70kN・m以下である。曲げ剛性が1.5kN・mより小さいと繊維強化中空構造体上を歩行した際の強度が十分でない。110kN・mより大きいとコストや重量が高くなってしまう。
【0036】
外層13の凸部形成帯132に配される凸部130の形状は特に限定されず、例えば円柱形状、多角柱形状、或いは多角錐台形状、円錐台形状等とすることができる。多角柱形状或いは多角錐台形状とした場合、その角を角丸に形成してもよい。また、複数の凸部130は全て同一の形状としてもよいし、異なる形状同士を組み合わせてもよい。
【0037】
本発明において、凸部130の短手方向の幅は、0.1mm以上25mm以下であることが好ましく、0.3mm以上15mm以下であることがより好ましい。0.1mm未満ではこの上を歩行した際や構造体同士を重ねた際などに潰れてしまう恐れがあるからである。また、25mmを超えると、この上を歩行した際に滑ってしまう恐れが生じるからである。
【0038】
また、本発明において、前記凸部130の前記凹凸部131が形成されていない面からの高さは、0.1mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましい。高さが小さいと、凸部の効果が発現し難くなるため、現場等で重ねて置いた繊維強化中空構造体を取り出す際引き出し難いからである。また、水産歩み板用途でプラスチックボックスなどをスムーズに滑らせて移動できなくなるからである。
【0039】
更に、前記凸部130の前記凹凸部131が形成されていない面からの高さは、15mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましい。15mm以上では前記凹凸部131が有する滑り止め性能が発現し難いからである。
【0040】
本発明において、凸部形成帯132に配された複数の凸部130は、連続であってもよく、断続的に(不連続に)配されていてもよい。
【0041】
凸部形成帯の長手方向に対する列は、繊維強化中空構造体1の幅を200mmとした場合、15列以下であることが好ましく、10列以下であることがより好ましい。15列を超えると、滑り止め性能が発現し難いからである。
【0042】
本発明に係る繊維強化中空構造体1は、その端面を任意の形状に加工することができる。具体的には、例えば、端面が切りっぱなしでもよく、端面を、C形形状等に加工したり、垂直端面に封止したり、R形状に封止したりしてもよい。また、端部には適宜、密栓など取り付けてもよい。
【0043】
2.繊維強化中空構造体1の製造方法
本発明に係る製造方法は、前述した繊維強化中空構造体1の製造方法であって、前記繊維強化中空構造体1の外層13表面の少なくとも一部を、金型を用いて加圧して前記凸部形成帯132及び前記凹凸部131を形成する工程を有することを特徴とする。以下、本発明に係る製造方法について具体的に説明するが、本発明に係る製造方法は上記工程を有していればこれに限定されない。
【0044】
中芯11となる熱可塑性樹脂を押出機により連続的に押出し、冷却フォーマー内での真空サイジングにより中芯11を成形し、引取機で次工程に供給する。一方で、補強繊維をロービングスタンドより含浸槽に供給して熱硬化性樹脂を含浸させた後、絞りノズルで適度に該熱硬化性樹脂を絞り込み、前記中芯11の外周に添わせ、所望断面形状のノズルに通過させる。
【0045】
そして、外層13となる熱可塑性樹脂を押出機により押出し、ローラーサイジング装置を用いて冷却し、形状を整える。その後、熱湯硬化槽で未硬化樹脂を硬化して中間層12を形成し、冷却槽にて水冷し、引取機にて引き取る。引き取り後、外層13表面の少なくとも一部を、金型Pを用いて加圧して前記凸部形成帯132及び前記凹凸部131を形成する。具体的には、加熱した所望の凸形状及び凹凸形状を有する金型を外層13表面に加圧して、金型の凸形状及び凹凸形状を転写することで、所望の凸形状及び凹凸形状を有する繊維強化中空構造体を作製する。
【0046】
本発明に係る製造方法では、生産性を考慮し、いくつかの金型を縦及び横に並べて加圧して凸形状及び凹凸形状を転写することが好ましい。この場合、同じ金型同士を並べてもよいし、異なる凸形状及び凹凸形状を有する金型同士を並べてもよい。大型の金型で一度に行うと外層13の凸部形成帯132及び凹凸部131の高低差に大きなムラが生じやすく、目的とする滑り止め性能が得られにくい。いくつかの金型を並べて使用することで、金型の加圧をそれぞれ制御できるため、外層13の凸部形成帯132及び凹凸部131の高低差にムラが生じ難く、また、生産性も高い。
【0047】
凸部形成帯及び凹凸部を形成する際の金型の温度は、繊維強化中空構造体の外層13を構成する熱可塑性樹脂の軟化温度以上が好ましく、軟化温度に対して+30以上180℃以下であることが好ましい。+30℃未満では金型の形状を転写するのに時間を要するため生産性が低くなってしまうからである。また、+180℃を超えると、熱可塑性樹脂が熱劣化してしまうからである。
【0048】
金型を加圧する際の圧力は、0.02MPa以上1.0MPa以下であることが好ましい。0.02MPa未満では金型の形状を転写するのに時間を要するため生産性が低く、また、時間を要するため金型の温度によっては外層13の熱可塑性樹脂が熱劣化するからである。また、1.0MPaを超えると、繊維強化中空構造体1の構造部に高い負荷が加わることでクラックが発生して強度低下を招いてしまうからである。
【実施例
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0050】
<製造例>
熱可塑性樹脂としてABS樹脂を押出機により連続的に押出し、冷却フォーマー内での真空サイジングにより、肉厚1.5mm、外径寸法W195.0mm×H30.0mm、一つの中空部の内径寸法W31.0m×H27.0mmの中空部を並列に備えた中芯を成形し、引取機で次工程に供給した。一方で、ガラス繊維などの補強繊維をロービングスタンドより含浸槽に供給して不飽和ポリエステル樹脂を含浸させた後、絞りノズルで適度に不飽和ポリエステル樹脂を絞り込み、前記中芯の外周に添わせ、所望断面形状のノズルに通過させた。
【0051】
そして、外層となるAES樹脂を押出機により凸部を有する矩形状に押出し、ローラーサイジング装置を用いて凸部を周期的に潰しながら冷却し、形状を整えた。その後、熱湯硬化槽で未硬化樹脂を硬化して中間層を形成し、冷却槽にて水冷し、引取機にて引き取った。引き取り後、加熱した格子縞模様を有する金型を繊維強化中空構造体の外層表面に加圧し、金型の凸形状及び凹凸形状を転写することで所望の凸部形成帯及び凹凸部を有する繊維強化中空構造体を作製した。
【0052】
引き取った成形体はカッターにて所定長に切断し、中間層(FRP部)の肉厚1.5mm、外層(被覆樹脂の厚み)1.0mmで、全体外寸W200.0mm×H35.0mm、単位重量2.8kg/mの三層より形成される凸部形成帯及び凹凸部を有する繊維強化中空構造体を得た。
【0053】
上述した製造例により製造された図1~5に示す構造の繊維強化中空構造体について、以下の曲げ試験を行った。
試験機:引張圧縮試験機テクノグラフTGE-50kN(ミネベア社製)
[たわみ量]
スパン長1.8m、速度25m/min、鉛直荷重(kN):W=3.9×10-3×L(試験片幅L=200mm)=0.78、100mm角加力梁にて3点曲げ試験を行い、この時の鉛直たわみ量は14.6mmだった。
[曲げ剛性]
スパン長1.8m、速度25m/min、100mm角加力梁にて3点曲げ試験を行い、100~800Nの間における剛性を測定した。その結果、6.6kN・mだった。
【0054】
<実験例>
上述した製造例により、図1に示す構造の繊維強化中空構造体を製造し、実施例1とした。同様に、上述した製造例により、図2に示す構造の繊維強化中空構造体を製造し、実施例2とした。同様に、上述した製造例により、図3に示す構造の繊維強化中空構造体を製造し、実施例3とした。同様に、上述した製造例により、図4に示す構造の繊維強化中空構造体を製造し、実施例4とした。また、比較例1は、上述した製造方法のうち、凸部形成帯及び凹凸部を形成しなかった以外は、実施例1~4と同様の構成からなる繊維強化中空構造体とした。同様に、比較例2は、上述した製造方法のうち、凸部形成帯を形成しなかった以外は、実施例1~4と同様の構成からなる繊維強化中空構造体とした。比較例3は、杉足場板とした。比較例4は、アルミ足場板とした。
【0055】
これら実施例1~4、比較例1~4について、以下の滑り止め性評価(1)及び(2)、並びに取り出し性評価を行った。
【0056】
[滑り止め性評価(1)]
スリッパ(抗菌レザー調スリッパ(前開きタイプ)、オーミケンシ社製)に錘20kgを固定し、これを各繊維強化中空構造体又は各板の上に置き、各繊維強化中空構造体又は各板の長手方向に引っ張り、この時の荷重を調べた。13kgf以上は滑り止め効果有り(〇)、それ以下は滑り止め効果無し(×)と判定した。
【0057】
[滑り止め性評価(2)]
滑り止め性評価(1)で使用したスリッパに錘10kgを固定し、各繊維強化中空構造体又は各板の端部に置いた。錘を置いた側の各端部のみ持ち上げ、錘が動いた時の床からの高さを調べ、この高さと各繊維強化中空構造体又は各板の長さから滑り出し角度を算出した。滑り出し角度が28度以上は滑り止め効果有り(〇)、それ以下は滑り止め効果無し(×)と判定した。
【0058】
[取り出し性評価]
各繊維強化中空構造体又は各板を200mmに切断し、測定片とした。この測定片を、測定片と同じ各繊維強化中空構造体又は各板の上に同一面同士が重なるように置き、更にこの測定片の上に錘20kgを置いた。繊維強化中空構造体又は板の長手方向にこの測定片を引っ張り、この時の荷重を調べた。8kgf以下は取り出し性が良く(〇)、それ以下は取り出し性が悪い(×)と判定した。
【0059】
[結果]
各評価結果を下記表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例1~4の繊維強化中空構造体は、いずれの評価においても良好な結果を示した。したがって、これらの繊維強化中空構造体は、滑り止め性が良好であることが明らかとなった。また、実施例1~4の繊維強化中空構造体は、重ねて置いてある際に引き出し易く、取り扱い性にも優れていた。更に、実施例1~4の繊維強化中空構造体は、プラスチックボックスなどもスムーズに滑らせて移動させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、歩み板として十分な強度があり、滑り止め性が良好であって、取り扱い性に優れる繊維強化中空構造体及びその製造方法が提供される。そのため、本発明に係る繊維強化中空構造体は、建設工事における仮設工事用足場板や、養殖施設用歩み板、或いは筏及び浮き桟橋、湿原等における巡回路、道路工事等で使用される歩道橋(簡易橋)、遊歩道などの幅広い用途に活用できる。
【0063】
また、木材の物性(例えば、曲げ強度、曲げ剛性等)は使用と共に経年劣化するが、本発明に係る繊維強化中空構造体は、長期間所定の物性を維持することから、滑り止め性能がありながらも高強度で耐腐食性があり、耐久性にも優れた歩み板であるため、木製板代替としても利用できる。
【符号の説明】
【0064】
1:繊維強化中空構造体
11:中芯
111:中空部
12:中間層
13:外層
130:凸部
131:凹凸部
132:凸部形成帯
131a:凹形状部分
131b:凸形状部分
図1
図2
図3
図4
図5