(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】レンズユニット、カメラモジュールおよび衝突防護カバー
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20240710BHJP
G03B 15/00 20210101ALI20240710BHJP
G03B 17/02 20210101ALI20240710BHJP
G03B 30/00 20210101ALI20240710BHJP
【FI】
G02B7/02 E
G03B15/00 V
G03B17/02
G03B30/00
(21)【出願番号】P 2020103790
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】杉目 孝行
【審査官】▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-090950(JP,A)
【文献】特開2012-252177(JP,A)
【文献】特開2020-003584(JP,A)
【文献】特開2017-207550(JP,A)
【文献】韓国登録実用新案第20-0401204(KR,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02-7/16
G03B 11/00
G03B 15/00
G03B 17/02
G03B 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、該レンズ群を収容保持するための内側収容空間を有する筒状の鏡筒とを有するレンズユニットにおいて、
前記鏡筒の物体側端部に取り付けられるとともに、物体側へ向けて前記鏡筒から突出するように延在することにより前記レンズ群の最も物体側に位置されるレンズをその全周にわたって異物との衝突から防護する筒状の衝突防護カバーを有
し、
前記衝突防護カバーは、その内周面に、異物の衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収材を有し、この衝撃吸収材は前記内周面に弾性接着剤によって貼り付けられていることを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記衝撃吸収材の反発弾性率が15%以下であることを特徴とする請求項
1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記衝突防護カバーが前記鏡筒に着脱自在に取り付けられることを特徴とする請求項
1または2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記光軸に沿う断面内において、前記光軸と平行な直線と前記衝突防護カバーの内周面とが成す角度である傾斜角は、最も物体側に位置される前記レンズの半画角以上であることを特徴とする請求項1から
3のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項5】
前記傾斜角をθ、最も物体側に位置される前記レンズの外部露出部位の最大直径(mm)をRとすると、物体側へ向けて延在する前記衝突防護カバーの内周側の光軸方向に沿う延在深さ寸法D(mm)は、R・sin(θ+90)・sin45/sin(θ+135)以上であることを特徴とする請求項
4に記載のレンズユニット。
【請求項6】
前記衝突防護カバーと前記鏡筒の物体側端部との間に、全周にわたって排水用の環状の通路が形成され、
前記通路の像側端部の位置に対応して前記衝突防護カバーに前記通路と連通する複数の排水孔が形成され、この排水孔は前記衝突防護カバーの外周面に開口していることを特徴とする請求項1から
5のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載のレンズユニットを備えることを特徴とするカメラモジュール。
【請求項8】
複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、該レンズ群を収容保持するための内側収容空間を有する筒状の鏡筒とを有するレンズユニットの前記鏡筒の物体側端部に取り付けられ
る筒状の衝突防護カバーであって、
内周面に、異物の衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収材を有し、この衝撃吸収材は前記内周面に弾性接着剤によって貼り付けられ、
物体側へ向けて前記鏡筒から突出するように延在することにより前記レンズ群の最も物体側に位置されるレンズをその全周にわたって異物との衝突から防護す
る衝突防護カバー。
【請求項9】
前記衝撃吸収材の反発弾性率が15%以下であることを特徴とする請求項
8に記載の衝突防護カバー。
【請求項10】
前記レンズユニットの前記鏡筒の物体側端部に取り付けられた状態において、
前記光軸に沿う断面内において、前記光軸と平行な直線と前記衝突防護カバーの内周面とが成す角度である傾斜角は、最も物体側に位置される前記レンズの半画角以上であることを特徴とする請求項
8または9に記載の衝突防護カバー。
【請求項11】
前記傾斜角をθ、最も物体側に位置される前記レンズの外部露出部位の最大直径をRとすると、物体側へ向けて延在する前記衝突防護カバーの内周側の光軸方向に沿う延在深さ寸法Dは、R・sin(θ+90)・sin45/sin(θ+135)以上であることを特徴とする請求項
10に記載の衝突防護カバー。
【請求項12】
内側の水を外部に排出するための排水孔を有
し、
前記レンズユニットの前記鏡筒の物体側端部に取り付けられた状態において、
前記排水孔は、前記鏡筒の物体側端部との間に、全周にわたって形成された排水用の環状の通路の像側端部の位置に対応して前記通路と連通して複数形成され、かつ外周面に開口していることを特徴とする請求項
8から11のいずれか一項に記載の衝突防護カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車等の車両に搭載される車載カメラを構成するレンズユニット、カメラモジュールおよび衝突防護カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に車載カメラを搭載し、駐車をサポートしたり、画像認識により衝突防止を図ったりすることが行なわれており、さらにそれを自動運転に応用する試みもなされている。また、このような車載カメラ等のカメラモジュールは、一般に、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、このレンズ群を収容保持する鏡筒と、レンズ群の少なくとも一個所のレンズ間に配置される絞り部材とを有するレンズユニットを備える(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4には、従来のレンズユニット100の一例が示されている。図示のように、このレンズユニット100は、円筒状の鏡筒(バレル)120と、鏡筒120の内側収容空間120S内に配置される複数のレンズ、例えば、最も物体側に位置される第1のレンズ130、第2~第4のレンズ140,150,160、および、最も像側(結像側)に位置される第5のレンズ150とを備える。鏡筒120に固定されて支持される複数のレンズ130,140,150,160,170は、それぞれの光軸を一致させた状態で配置されており、1つの光軸Oに沿って並べられることにより、フィルタ250を介したパッケージセンサ(撮像素子;図示せず)による撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成している。
【0004】
そして、鏡筒120は、その内側収容空間120S内にレンズ群Lが組み込まれて収容保持された状態で、その物体側の端部(
図4において上端部)のカシメ部123が径方向内側にカシメられることにより、レンズ群Lの最も物体側に位置される第1のレンズ130をこのカシメ部123で鏡筒120の物体側端部に固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このようなレンズユニット100が車両に搭載される車載カメラを構成する場合には、車両走行中に飛び石等の異物が第1のレンズ130の表面(物体側の面)に衝突する場合がある。このように、第1のレンズ130に対して飛び石等の衝突により外部から瞬間的な衝撃が加わると、その衝突時の応力が緩和されずに集中応力が発生し、第1のレンズが破損してしまう。このような破損は、外観を著しく損なうだけでなく、レンズユニット100のビューやセンシングの機能も著しく損ない、光学特性を悪化させる。また、走行中にこのような事象が起こると車両の安全性能を失うことにもなる。
【0007】
そのため、第1のレンズ130と第2のレンズ140との間にゴムシートや弾性接着剤などの衝撃吸収材を介挿して第1のレンズ130の表面に対する衝撃を吸収することにより、飛び石等の衝突による応力を緩和して、第1のレンズ130の破損を防止することも考えられる。あるいは、第1のレンズ130の外周エッジ部を露出させないように覆って保護するエッジ保護部を設けることにより、飛び石等の衝突物に対する耐衝撃性を向上させて、第1のレンズ130の破損を防止することも考えられる。
【0008】
しかしながら、前述の衝撃吸収材は、第1のレンズ130に対する異物衝突時の衝撃を緩和するものであって、第1のレンズ130を衝突から防護しようとするものではなく、一方、前述のエッジ保護部は、エッジ部のみで第1のレンズ130を局所的に保護するものであって、様々な方向から様々な角度で飛び込んでくる飛び石等の異物による衝突を広範囲にわたって防護できるものではない。また、衝撃吸収材およびエッジ保護部を設けた場合であっても、飛び石等の異物が第1のレンズ130に衝突すれば、第1のレンズ130の表面に小さな欠け(チッピング)が発生してしまう。また、衝撃吸収材およびエッジ保護部はいずれも、レンズユニットに予め付設しておく必要があり、あるいは、専用のレンズユニットを必要とし、既存のレンズユニットにおいて後付けで対応することが難しい。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、最も物体側に位置されるレンズを飛び石等の異物の衝突から広範囲にわたって防護できるとともに、そのような防護を後付けでも実現できるレンズユニット、カメラモジュールおよび衝突防護カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、複数のレンズが当該レンズの光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、該レンズ群を収容保持するための内側収容空間を有する筒状の鏡筒とを有するレンズユニットにおいて、
前記鏡筒の物体側端部に取り付けられるとともに、物体側へ向けて前記鏡筒から突出するように延在することにより前記レンズ群の最も物体側に位置されるレンズをその全周にわたって異物との衝突から防護する筒状の衝突防護カバーを有することを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、レンズ群の最も物体側に位置されるレンズをその全周にわたって異物との衝突から防護する筒状の衝突防護カバーが鏡筒の物体側端部に取り付けられて物体側へ向けて鏡筒から突出するように延在しているため、様々な方向から様々な角度で飛び込んでくる飛び石等の異物とレンズとの衝突を広範囲にわたって防止できる。したがって、チッピングを含めたレンズ破損を高い確率で防止できるようになる。
【0012】
また、このような衝突防護カバーは、鏡筒の物体側端部に取り付けられるようになっているため、組み付けられた完成品としてのレンズユニットに対して後付けにより装着することも可能となる。したがって、飛び石等の異物の衝突から広範囲にわたってレンズを防護する防護機能を既存のレンズユニットに対しても付与できる。
【0013】
なお、上記構成において、衝突防護カバーは、例えば樹脂または金属などの材料によって形成されることが好ましい。また、このような衝突防護カバーは、それによってレンズユニットの撮像視野がケラレないように物体側に向けて開口していなければならない。また、上記構成において、衝突防護カバーが取り付けられる鏡筒の物体側端部はどのような形態を成していてもよい。例えば、鏡筒にカシメ部が一体形成され、このカシメ部によって最も物体側に位置されるレンズが鏡筒の物体側端部に固定されるような場合には、衝突防護カバーが鏡筒自体に直接に取り付けられてもよいが、鏡筒とは別体のキャップ等の締結部材が鏡筒の物体側端部に締結されてこの締結部材により第1のレンズが鏡筒の物体側端部に固定される場合には、衝突防護カバーが締結部材に取り付けられてもよい。そのような意味で、本明細書中において、「鏡筒の物体側端部」とは、鏡筒の一体形成部分のみならず、鏡筒に取り付けられ部分も含めて鏡筒と一体を成す全ての物体側端部を言うものとする。
【0014】
また、上記構成において、衝突防護カバーは、その内周面に、異物の衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収材を有することが好ましい。これによれば、仮に衝突防護カバーの内側に異物が飛び込んできた場合であっても、そのような異物を衝撃吸収材に衝突させてその衝撃を効果的に緩和でき、レンズが破損することを防止できる。この場合、衝撃吸収材の反発弾性率は15%以下であることが好ましい。衝撃吸収材がそのような低反発性能を有することにより、衝撃吸収材による異物の跳ね返りを抑制して、跳ね返った異物がレンズと衝突する際の衝撃を緩和できる。ここで、反発弾性率の求め方は、JIS K 6255に準ずる。また、反発弾性率が15%以下の材料(衝撃吸収材)としては、天然ゴム、合成天然ゴム(イソプレン)、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム等を挙げることができ、具体的には、例えば、華陽物産株式会社が提供するハネナイト(登録商標)や入間川ゴム株式会社が提供する低反発ゴム(NXB-365)などが好適である。また、衝撃吸収材の厚さは、0.1mm以上であることが好ましい。
【0015】
また、衝撃吸収材は、衝突防護カバーとは別個の部材として衝突防護カバーの内周面に取り付けられてもよく、あるいは、二色成形等によって衝突防護カバーと一体に形成されてもよい。衝突防護カバーに対する衝撃吸収材の取り付けは接着剤を用いて行なわれてもよい。その場合、接着剤は弾性接着剤であることが好ましい。
【0016】
また、上記構成では、衝突防護カバーが鏡筒に着脱自在に取り付けられることが好ましい。これによれば、組み付けられた完成品としてのレンズユニットに対して衝突防護カバーを後付けにより装着することができ、衝突防護カバーを既存のレンズユニットにも適用可能となる。この場合、着脱自在な取り付けは、接着剤によるものでも構わないが、着脱を容易且つ確実にするために、螺合や締結部材を介した取着によって行なわれてもよい。
【0017】
また、上記構成では、光軸に沿う断面内において、光軸と平行な直線と衝突防護カバーの内周面とが成す角度である傾斜角は、最も物体側に位置されるレンズの半画角以上であることが好ましい。これによれば、レンズユニットの撮像視野が衝突防護カバーによってケラレることを防止できる。
【0018】
また、上記構成では、傾斜角をθ、最も物体側に位置されるレンズの外部露出部位の最大直径(または有効径)をRとすると、物体側へ向けて延在する衝突防護カバーの内周側の光軸方向に沿う延在深さ寸法Dは、R・sin(θ+90)・sin45/sin(θ+135)以上であることが好ましい。これによれば、衝突防護カバーの任意の傾斜角θにおいて、特に一般的に求められる仕様である異物入射角45度での異物直接衝突防止深さ寸法を適切に設定できる。すなわち、衝突防護カバー内に入射角45度で飛び込んでくる異物がカバー内周面との衝突を介すことなく直接にレンズに衝突する事態を防止し得る十分な延在深さ寸法Dを設定できる。
【0019】
また、本発明は、前述した特徴を伴う衝突防護カバー、および、前述した構成のレンズユニットを備えるカメラモジュールも提供する。このような構成の衝突防護カバーおよびカメラモジュールによっても前述したレンズユニットの作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のレンズユニットによれば、レンズ群の最も物体側に位置されるレンズをその全周にわたって異物との衝突から防護する筒状の衝突防護カバーが鏡筒の物体側端部に取り付けられて物体側へ向けて鏡筒から突出するように延在しているため、最も物体側に位置されるレンズを飛び石等の異物の衝突から広範囲にわたって防護できるとともに、そのような防護を後付けでも実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】衝突防護カバーを備えた本発明の一実施の形態に係るレンズユニットの概略断面図である。
【
図2】衝突防護カバーの延在深さ寸法Dを規定するパラメータおよびそれらを用いた計算方法を説明するための模式図である。
【
図3】
図1のレンズユニットを備えるカメラモジュールの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
なお、以下で説明される本実施の形態のレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。また、
図1~
図4の全ての図においてレンズについてはハッチングを省略している。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態に係るレンズユニットを示している。図示のように、本実施の形態のレンズユニット11は、円筒状の鏡筒(バレル)12と、鏡筒12の段付きの内側収容空間12S内に配置される複数のレンズ、例えば、物体側から、第1のレンズ13、第2のレンズ14、第3のレンズ15、第4のレンズ16、および、第5のレンズ17から成る5つのレンズと、2つの絞り部材22a,22bとを備えている。このレンズユニット11を備える車載カメラは、レンズユニット11と、図示しないイメージセンサを有する基板と、当該基板を自動車等の車両に設置する図示しない設置部材とを備えるものである。
【0024】
鏡筒12に固定されて支持されている複数のレンズ13,14,15,16,17は、それぞれの光軸を一致させた状態に配置されており、1つの光軸Oに沿って各レンズ13,14,15,16,17が並べられた状態となって、撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成している。なお、これらのレンズの表面には、必要に応じて、反射防止膜、親水膜、撥水膜等が設けられる。
【0025】
2つの絞り部材22a,22bのうちの物体側から1番目の絞り部材22aは、物体側から2番目のレンズ14と3番目のレンズ15との間に配置されている。物体側から2番目の絞り部材22bは、物体側から3番目のレンズ15と4番目のレンズ16との間に配置されている。絞り部材22a,22bは透過光量を制限し、明るさの指標となるF値を決定する「開口絞り」またはゴーストの原因となる光線や収差の原因となる光線を遮光する「遮光絞り」である。
【0026】
鏡筒12の物体側の端部(
図1において上端部)には、当該端部を径方向内側にカシメてなるカシメ部23が設けられており、このカシメ部23によってレンズ群Lの最も物体側に位置されるレンズ13が鏡筒12の物体側の端部に固定されている。なお、本実施の形態において、鏡筒12は樹脂製であり、最も物体側に位置されるレンズ13はガラスレンズであり、その他のレンズは樹脂レンズであるが、これに限らない。
【0027】
また、鏡筒12の像側(結像側)の端部(
図1において下端部)には、第5のレンズ17よりも径の小さい開口部を有する内側フランジ部24が設けられている。この内側フランジ部24とカシメ部23とにより、鏡筒12内にレンズ群Lを構成する複数のレンズ13、14、15、16,17と絞り部材22a,22bとが保持されている。
【0028】
レンズ群Lを構成する最も物体側に位置する第1のレンズ13の外周面13aには、当該レンズ13の像側部分に径が小さくなった縮径部13bが設けられ、当該縮径部13bにシール部材としてのOリング26が設けられ、第1のレンズ13の外周面13aと鏡筒12の内周面12cとの間を、鏡筒12の物体側端部で封止した状態となっている。これにより、レンズユニット11の物体側の端部から鏡筒12内に水や塵埃等の微粒子が浸入するのを防止している。
【0029】
また、鏡筒12の内側には物体側において円筒状の内壁12bが設けられ、この内壁12bと外壁12aとの間には溝18が形成されている。また、溝18の中には環状体27が設けられ、この環状体27にOリング26が密接している。内壁12bと外壁12aの間に溝18を形成している理由は、溝がなく内壁12bと外壁12aとが一体化している場合には壁厚が厚くなるため、樹脂の鏡筒12を成形・冷却する際に大きくヒケが発生し寸法精度が狂うことを抑制するためである。環状体27は比較的柔らかい弾性を有する物質から構成され、例えばテフロンが用いられる。環状体27はOリング26を光軸方向に支持する機能を有している。環状体27は鏡筒12とは別部材になっているため、Oリング26の大きさに応じて高さの異なる環状体27に変更が可能であり、Oリング26が適切な弾性力でシールすることを担保している。
【0030】
鏡筒12は、その内径が物体側から像側に向かって段階的に小さくなっている。これに対応して、レンズ13,14,15,16,17は、物体側から像側に向かうにつれて、外径が小さくなっている。基本的に、レンズ13,14,15,16,17それぞれの外径と、鏡筒12の各レンズ13,14,15,16,17が支持される部分それぞれの内径とは略等しくなっている。なお、鏡筒12の外周面には、鏡筒12を車載カメラに設置する際に用いられる外側フランジ部25が鏡筒12の外周面に鍔状に設けられている。
【0031】
また、鏡筒12の物体側端部には、車両走行中に飛び石等の異物が第1のレンズ13の表面(物体側の面)13cに衝突しないように第1のレンズ13を側方から防護する筒状の衝突防護カバー50が取り付けられている。特に、本実施の形態において、衝突防護カバー50は、その取り付け端部50cの内周面に形成された雌ネジ50bが鏡筒12の外壁12aの物体側端部外周面に形成された雄ネジに螺合することによって鏡筒12に着脱自在に取り付けられている。
【0032】
また、衝突防護カバー50は、このようにして鏡筒12の物体側端部に取り付けられた状態で、物体側へ向けて鏡筒12から突出するように延在し、それにより、第1のレンズ13をその全周にわたって異物との衝突から防護するようになっている。
【0033】
また、衝突防護カバー50は、異物の衝突時の衝撃を吸収する衝撃吸収材50Bによってその内周面50aが形成されている。特に本実施の形態において、衝突防護カバー50は、例えば樹脂や金属などの材料から形成されて前述した取り付け端部50cを有する筒状のカバー本体50Aと、カバー本体50Aとは別個の部材としてカバー本体50Aの内周面に貼り付けられる衝撃吸収材50Bとによって構成される。すなわち、衝突防護カバー50は、その内周面50aに衝撃吸収材50Bを有する形態を成している。なお、カバー本体50Aに対する衝撃吸収材50Bの取り付け(貼り付け)は接着剤を用いて行なわれてもよく、その場合、接着剤は弾性接着剤であることが好ましい。
【0034】
また、本実施の形態において、衝撃吸収材50Bは、その反発弾性率が15%以下となっている。反発弾性率が15%以下の材料(衝撃吸収材50B)としては、天然ゴム、合成天然ゴム(イソプレン)、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム等を挙げることができ、具体的には、例えば、華陽物産株式会社が提供するハネナイト(登録商標)や入間川ゴム株式会社が提供する低反発ゴム(NXB-365)などが好適である。また、衝撃吸収材50Bの厚さTは、例えば0.1mm以上に設定される。
【0035】
また、本実施の形態に係る衝突防護カバー50は、それによってレンズユニット11の撮像視野がケラレないように物体側に向けて所定の角度で広がるように開口している。具体的には、
図1に示されるように、光軸Oに沿う断面内において、光軸Oと平行な直線L1と衝突防護カバー50の内周面50aとが成す角度である傾斜角θは、第1のレンズ13の半画角以上に設定されている。
【0036】
ここで、
図2を参照しながら、第1のレンズ13に向けて衝突防護カバー50内に入射角(光軸Oと平行な直線L1に対する入射角度)θ1で飛び込んでくる飛び石等の異物がカバー内周面50aとの衝突を介すことなく直接に第1のレンズ13の表面13cに衝突する限界について考える。物体側へ向けて延在する衝突防護カバー50の内周側の光軸方向に沿う延在深さ寸法(開口深さ寸法)D、すなわち、衝突防護カバー50の内周面50aの像側端縁50aaと物体側端縁50abとの間の光軸方向に沿う寸法D(
図1参照)によっては、あるいは、異物の入射角θ1によっては、第1のレンズ13に向けて衝突防護カバー50内に飛び込んでくる飛び石等の異物がカバー内周面50aとの衝突を介すことなく直接に第1のレンズ13の表面13cに衝突する可能性がある。しかしながら、制御し得ない異物の入射角θ1はさておき、衝突防護カバー50の延在深さ寸法Dを大きくすればするほど、衝突防護カバー50内に侵入した異物が直接に第1のレンズ13の表面13cに衝突し得る領域が狭まることとなり、その狭まる極限が第1のレンズ13の外部露出部位(物体側に露出するレンズ13の部位)の外周端縁ということになる。したがって、第1のレンズ13の外部露出部位の外周端縁同士を結ぶ最大直径R(
図1も参照)、衝突防護カバー50の前述した傾斜角θ、第1のレンズ13に向けて飛び込んでくる異物の入射角θ1に基づき、光軸Oに沿う断面内において、最大直径R、衝突防護カバー50の内周面50a、および、異物の入射角θ1での入射経路Pをそれぞれ一辺とする三角形ABCを作成し、この三角形ABCの高さHを求めて、衝突防護カバー50の延在深さ寸法Dをこの高さH以上に設定すれば、第1のレンズ13に向けて衝突防護カバー50内に入射角θ1で飛び込んでくる飛び石等の異物がカバー内周面50aとの衝突を介すことなく直接に第1のレンズ13の表面13cに衝突する事態を回避できることとなる。
【0037】
ここで、三角形ABCの面積Sは、各頂点A,B,Cの角度(内角)をそれぞれA,B,Cとして、以下の式(1)によって表わすことができる。
【数1】
この場合、B=θ+90、C=90-θ1であるため、Hは、R、θ、θ1の関数として表わされることになる。
【0038】
異物入射角θ1=45度においてレンズ13に対する異物の直接衝突を防止できる衝突防護カバー50の延在深さ寸法(異物直接衝突防止深さ寸法)が特に一般的に求められる仕様であることを考えると、式(1)のθ1に45を代入して得られる高さH、すなわち、以下の式(2)により表わされる高さ、
【数2】
以上に延在深さ寸法Dを設定することが実用にかなっており、それにより、衝突防護カバーの任意の傾斜角θにおいて、衝突防護カバー50内に入射角45度で飛び込んでくる異物がカバー内周面50aとの衝突を介すことなく直接に第1のレンズ13に衝突する事態を防止することができる。
また、本実施の形態の衝突防護カバー50には、それを鏡筒12の物体側に設置した際、石等の異物が飛んでくるだけでなく、雨天時に雨水もたまってくる。そのため、これを排水する機構が衝突防護カバー50に設けられている。具体的には、衝突防護カバー50は、前述したように、その取り付け端部50cの内周面に形成された雌ネジ50bが鏡筒12の外壁12aの物体側端部外周面に形成された雄ネジに螺合することによって鏡筒12に着脱自在に取り付けられるが、この取り付け状態で、衝突防護カバー50と鏡筒12の物体側端部(本実施例では熱カシメ部23含む)との間には
図1(
図3)に示されるように全周にわたって排水用の空間(環状の通路)85が物体側から像側に向かって形成されるようになっている。そして、この排水用の空間85の像側端部の位置に対応して衝突防護カバー50には空間85と連通する複数の排水溝(貫通した排水孔)50eが形成され、この排水溝50eによって衝突防護カバー50の内側に存在する雨水を衝突防護カバー50の外側に排出できるようになっている。排水溝50eは全周にわたって等間隔に6~12か所形成されているのが好ましいが、車両への設置の際に衝突防護カバー50の位置を制御できる場合であれば、全周ではなく例えば1か所にのみ設けてもよい。
【0039】
また、
図3は、
図1のレンズユニット11を有する本実施の形態のカメラモジュール300の概略断面図である。図示のように、カメラモジュール300は、フィルタ100が装着されたレンズユニット11を含んで構成されている。
【0040】
カメラモジュール300は、外装部品である上ケース(カメラケース)301と、レンズユニット11を保持するマウント(台座)302とを備えている。また、カメラモジュール300は、シール部材303およびパッケージセンサ(撮像素子)304を備えている。
【0041】
上ケース301は、レンズユニット11の物体側の端部を露出させるとともに他の部分を覆う部材である。マウント302は、上ケース301の内部に配置されており、レンズユニット11の雄ねじ11aと螺合する雌ねじ302aを有する。シール部材303は、上ケース301の内面とレンズユニット11の鏡筒12の外周面12aとの間に介挿された部材であり、上ケース301の内部の気密性を保持するための部材である。
【0042】
パッケージセンサ304は、マウント302の内部に配置されており、かつ、レンズユニット11により形成される物体の像を受光する位置に配置されている。また、パッケージセンサ304は、CCDやCMOS等を備えており、レンズユニット11を通じて集光されて到達する光を電気信号に変換する。変換された電気信号は、カメラにより撮影された画像データの構成要素であるアナログデータやデジタルデータに変換される。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態のレンズユニット11によれば、レンズ群Lの最も物体側に位置される第1のレンズ13をその全周にわたって異物との衝突から防護する筒状の衝突防護カバー50が鏡筒12の物体側端部に取り付けられて物体側へ向けて鏡筒12から突出するように延在しているため、様々な方向から様々な角度で飛び込んでくる飛び石等の異物と第1のレンズ13との衝突を広範囲にわたって防止できる。したがって、チッピングを含めたレンズ破損を高い確率で防止できるようになる。また、このような衝突防護カバー50は、鏡筒12の物体側端部に着脱自在に取り付けられるようになっているため、組み付けられた完成品としてのレンズユニット11に対して後付けにより装着することも可能となる。したがって、飛び石等の異物の衝突から広範囲にわたってレンズを防護する防護機能を既存のレンズユニットに対しても付与できる。
【0044】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、本発明において、レンズ、鏡筒、衝突防護カバーなどの形状は、前述した実施の形態に限定されない。また、前述の実施の形態では、鏡筒がカシメ部を有し、このカシメ部によって第1のレンズを鏡筒の物体側端部に固定しているが、キャップ等の締結部材が鏡筒の物体側端部に締結されてこの締結部材により第1のレンズが鏡筒の物体側端部に固定されてもよい。その場合には、締結部材に対して衝突防護カバーに対して取り付けられても構わない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施の形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施の形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0045】
11 レンズユニット
12 鏡筒
12S 内側収容空間
13,14,15,16,17 レンズ
50 衝突防護カバー
50B 衝撃吸収材
50e 排水溝(排水孔)
300 カメラモジュール
O 光軸
L レンズ群