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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】シリコーン部材およびマイクロデバイス
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20240710BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20240710BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B01J19/00 321
B81B1/00
G01N37/00 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020116301
(22)【出願日】2020-07-06
(65)【公開番号】P2021053625
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019179831
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】森原 康滋
(72)【発明者】
【氏名】岡下 勝己
(72)【発明者】
【氏名】二村 安紀
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和巳
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-181407(JP,A)
【文献】特開2009-173922(JP,A)
【文献】特開2009-173923(JP,A)
【文献】特開2012-185073(JP,A)
【文献】特開2013-199509(JP,A)
【文献】国際公開第2014/069622(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0298116(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0039991(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00 - 12/02
14/00 - 19/32
B81B 1/00 - 7/04
B81C 1/00 - 99/00
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
G01N 35/00 - 37/00
H01B 3/16 - 3/56
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロデバイスとして用いられ、試料が収容される収容部を有する、または相手部材との組み合わせにより該収容部を区画形成するシリコーン部材であって、
シリコーンと融点が80℃以下のイオン液体とを有するシリコーン材料からなり、
該イオン液体のカチオンは、該シリコーンと反応可能な官能基として、二重結合を有する官能基および-OX基(Xは水素原子またはアルキル基)を有する官能基から選ばれる一種以上を有し、
該シリコーン材料におけるイオン液体の含有量は、該シリコーンの100質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下であり、
体積抵抗率は1.2×10 13 Ω・cm以下であり、可視光線透過率は80%以上であることを特徴とするシリコーン部材。
【請求項2】
二重結合を有する前記官能基は、アリル基、アクリル基、およびメタクリル基を有し、-OX基を有する前記官能基は、ヒドロキシ基(-OH)およびアルコキシシリル基(-Si(OR):Rはアルキル基)を有する請求項1に記載のシリコーン部材。
【請求項3】
前記シリコーンは、架橋可能な反応基を有するオルガノポリシロキサンである請求項1または請求項2に記載のシリコーン部材。
【請求項4】
前記収容部の深さは、300μm以下である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のシリコーン部材。
【請求項5】
前記収容部は、溝状の流路を有し、
該流路の幅は、300μm以下である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のシリコーン部材。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のシリコーン部材を備えるマイクロデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロデバイスとして用いられるシリコーン部材に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロデバイスは、微細なくぼみ(ウエル)や溝に試料を収容して、検査、反応、抽出、分離、測定などの各種操作を行うものである。マイクロデバイスを構成する部材の材料としては、微細な凹凸加工が容易であり、光透過性、耐薬品性などに優れるという理由から、シリコーンが多く用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-181407号公報
【文献】特開2017-154036号公報
【文献】特開2013-199509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコーンは帯電しやすいため、空気中の塵埃や成形時の微細バリなどを吸着しやすい。マイクロデバイスにおいては、試料の収容部が微細な凹凸構造により形成される。このため、試料の収容部に塵埃や微細バリが付着すると、正確な観察ができない、試料が流れないなどの問題が生じる。
【0005】
シリコーンの帯電を抑制するための手法として、シリコーン部材を成形する際、金型に塗布する離型剤に帯電防止成分を配合する方法がある。この場合、シリコーン部材の表面に帯電防止成分が付着することにより相応の効果は期待できるが、収容部に帯電防止成分などが付着すると、検査、反応などを阻害するおそれがある。また、イオナイザーなどを使用してシリコーン部材の表面を除電すれば、一時的に帯電防止の効果は得られるが、その効果を持続させることは難しい。このため、シリコーン部材を除電したとしても、それを密閉梱包して輸送している間に、除電効果は失われてしまう。
【0006】
上記特許文献3に記載されているように、シリコーンに導電性材料を添加すると、帯電を抑制できることが知られている。しかしながら、導電性材料を添加すると、シリコーン部材の透明性が低下するおそれがある。例えば、マイクロデバイスを用いて光学検査をする場合、マイクロデバイスを顕微鏡の試料台に設置し、下側から光を照射して収容部における極めて弱い発光を観察する。この場合、マイクロデバイス(シリコーン部材)には、高い光透過性が要求されるため、透明性を低下させる成分を添加することは望ましくない。ちなみに、特許文献3に記載されているのはキーパッド、ガスケット、防振ゴムなどに用いられるシリコーンゴム組成物であり、当該組成物の成形物における光透過性(透明性)については、何も検討されていない。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、帯電抑制と光透過性とを両立したマイクロデバイス用シリコーン部材およびマイクロデバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本発明のシリコーン部材は、マイクロデバイスとして用いられ、試料が収容される収容部を有する、または相手部材との組み合わせにより該収容部を区画形成するシリコーン部材であって、シリコーンとイオン導電剤とを有するシリコーン材料からなり、該イオン導電剤の含有量は、該シリコーンの100質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下であることを特徴とする。
【0009】
(2)本発明のマイクロデバイスは、上記(1)の本発明のシリコーン部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
(1)本発明のシリコーン部材は、シリコーンとイオン導電剤とを有するシリコーン材料からなる。シリコーン材料におけるイオン導電剤の含有量は、シリコーンの100質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下である。イオン導電剤を所定量だけ含むため、導電性が付与され帯電しにくくなると共に、光透過性も確保することができる。帯電しにくくなるため、空気中の塵埃や成形時の微細バリなどの吸着が抑制される。したがって、本発明のシリコーン部材によると、検査、反応などの各種操作を正確に行うことができる。
【0011】
(2)本発明のマイクロデバイスは、上記(1)の本発明のシリコーン部材を備える。本発明のシリコーン部材は、自身に試料が収容される収容部を有していてもよく、相手部材との組み合わせにより収容部を区画形成するものでもよい。上述したように、本発明のシリコーン部材は、帯電しにくく、高い光透過性を有する。したがって、本発明のマイクロデバイスによると、検査、反応などの各種操作を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第一実施形態のシリコーン部材の斜視図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3】第二実施形態のマイクロデバイスの平面図を示す。
図4図3のIV-IV断面図である。
図5】第三実施形態のシリコーン部材の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のシリコーン部材およびマイクロデバイスの実施の形態を説明する。
【0014】
<第一実施形態>
まず、第一実施形態のシリコーン部材の構成を説明する。図1に、第一実施形態のシリコーン部材の斜視図を示す。図2に、図1のII-II断面図を示す。図1においては、透過した部位を細線で示す。図1に示すように、シリコーン部材10は、長方形薄板状を呈している。シリコーン部材10の上面には、収容部11が凹設されている。収容部11は、溝部12と2つの孔部13a、13bとを有している。溝部12は、左右方向に伸びる直線状を呈しており、その左右両端部は、2つの孔部13a、13bに接続されている。2つの孔部13a、13bは、各々、円形状に開口している。図2に示すように、溝部12(収容部11)の深さTは100μm、溝部12の幅(前後方向の長さ)Wは100μmである。試料の液体は、例えば、孔部13aから注入され、溝部12を流動して、孔部13bから取り出される。このように、シリコーン部材10は、それ自体に収容部11を有しており、単体でマイクロデバイスとして用いられる。
【0015】
シリコーン部材10は、シリコーンゴムとイオン液体とを有するシリコーン材料から製造されている。イオン液体の含有量は、シリコーンゴムの100質量部に対して0.1質量部である。シリコーン部材10の可視光線透過率は85%であり、体積抵抗率は1.2×1012Ω・cmである。
【0016】
次に、本実施形態のシリコーン部材10(マイクロデバイス)の作用効果を説明する。シリコーン部材10は、所定量のイオン液体を含む。このため、体積抵抗率が低下して帯電が抑制される。結果、成形時の微細バリや空気中の塵埃などが、シリコーン部材10に付着しにくい。また、可視光線透過率は85%であるため、シリコーンゴムが本来有する透明性は失われていない。したがって、シリコーン部材10によると、試料を収容部11に収容して、検査、反応などの各種操作を正確に行うことができる。
【0017】
<第二実施形態>
本実施形態のマイクロデバイスと第一実施形態のマイクロデバイス(シリコーン部材)との主な相違点は、本実施形態においては、マイクロデバイスが二つのシリコーン部材で構成されている点である。まず、本実施形態のマイクロデバイスの構成を説明する。図3に、第二実施形態のマイクロデバイスの平面図を示す。図4に、図3のIV-IV断面図を示す。図3においては、透過した部位を細線で示す。図3図4に示すように、マイクロデバイス20は、全体として長方形薄板状を呈している。マイクロデバイス20は、第一シリコーン部材21と、第二シリコーン部材22と、を有している。
【0018】
第一シリコーン部材21は、長方形薄板状を呈している。第一シリコーン部材21の上面には、溝部23が凹設されている。溝部23は、左右方向に伸びる直線状を呈している。溝部23の深さ(上下方向の長さ)は100μm、幅(前後方向の長さ)は100μmである。第一シリコーン部材21は、第一実施形態と同じシリコーン材料から製造されている。
【0019】
第二シリコーン部材22は、第一シリコーン部材21と同じ大きさの長方形薄板状を呈している。第二シリコーン部材22は、第一実施形態と同じシリコーン材料から製造されている。第二シリコーン部材22は、第一シリコーン部材21の上面に積層されている。第二シリコーン部材22は、二つの孔部24、25を有している。二つの孔部24、25は、各々、円筒形状を呈しており、第二シリコーン部材22を上下方向に貫通している。第一シリコーン部材21の溝部23の左端部は孔部24の下端開口に、右端部は孔部25の下端開口に、各々連結されている。溝部23は、左右両端部を除いて第一シリコーン部材21により封鎖されている。試料の液体は、例えば、孔部24から注入され、溝部23を流動して、孔部25から取り出される。溝部23および二つの孔部24、25は、本発明における収容部の概念に含まれる。すなわち、マイクロデバイス20においては、第一シリコーン部材21と第二シリコーン部材22との組み合わせにより、収容部が区画形成されている。
【0020】
次に、本実施形態のマイクロデバイス20の作用効果を説明する。第一シリコーン部材21および第二シリコーン部材22は、所定量のイオン液体を含む。このため、体積抵抗率が低下して帯電が抑制される。結果、成形時の微細バリや空気中の塵埃などが、両部材に付着しにくい。また、いずれの部材においても、シリコーンゴムが本来有する透明性は失われていない。したがって、マイクロデバイス20によると、試料を収容部(溝部23および二つの孔部24、25)に収容して、検査、反応などの各種操作を正確に行うことができる。
【0021】
<第三実施形態>
まず、第三実施形態のシリコーン部材の構成を説明する。図5に、第三実施形態のシリコーン部材の斜視図を示す。図5においては、透過した部位を細線で示す。図5に示すように、シリコーン部材30は、長方形薄板状を呈している。シリコーン部材30の上面には、複数のウエル(くぼみ)31が凹設されている。ウエル31の開口部は円形状を呈し、底部は平面状を呈している。ウエル31の開口部の直径は100μm、深さも100μmである。複数のウエル31は、いずれも同じ形状、大きさを有している。試料は、ウエル31に収容される。すなわち、ウエル31は、本発明における収容部の概念に含まれる。シリコーン部材30は、それ自体に収容部を有しており、単体でマイクロデバイスとして用いられる。シリコーン部材30は、第一実施形態と同じシリコーン材料から製造されている。
【0022】
次に、本実施形態のシリコーン部材30の作用効果を説明する。シリコーン部材30においても、第一実施形態のシリコーン部材10と同様に、帯電が抑制されるため、成形時の微細バリや空気中の塵埃などが、シリコーン部材30に付着しにくい。また、シリコーンゴムが本来有する透明性も失われていない。したがって、シリコーン部材30によると、試料をウエル31に収容して、検査、反応などの各種操作を正確に行うことができる。
【0023】
<その他の形態>
本発明のシリコーン部材およびマイクロデバイスは、上記形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0024】
[シリコーン部材]
本発明のシリコーン部材は、マイクロデバイスとして用いられるものであり、自身に試料が収容される収容部を有していてもよく、相手部材との組み合わせにより収容部を区画形成するものでもよい。本発明における「収容部」は、試料が配置される空間は勿論、流路などの試料が通過するだけの空間を含む。試料は、粒子などの固体、液体、気体の他、これらが適宜混合された混合物でもよい。収容部の形状、大きさ、配置形態は、特に限定されない。収容部の形状としては、孔状、溝状、くぼみ状などが挙げられる。収容部の深さ方向の断面は、正方形、長方形、台形などの矩形状、半円、楕円などの曲面状、V字状など、特に限定されない。収容部の深さは、シリコーン部材およびマイクロデバイスの厚さに応じて適宜決定すればよい。例えば、顕微鏡を用いた光学検査用のマイクロデバイスの場合には、収容部の深さは300μm以下であることが望ましい。また、収容部が溝状の流路を有する場合、流路の幅も300μm以下であることが望ましい。本発明のシリコーン部材は、収容部などの表面に、親水性または疎水性を有するバリア層を有してもよい。バリア層は、表面改質や成膜により形成すればよい。
【0025】
本発明のシリコーン部材は、シリコーンとイオン導電剤とを有するシリコーン材料から製造される。シリコーン材料は、必要に応じて、接着成分などの添加剤を含んでいてもよい。本明細書において「シリコーン」とは、シリコーン樹脂およびシリコーンゴムの両方を含む概念である。「シリコーン」には、ポリマー成分に加えて、それを架橋するための架橋剤、触媒などが含まれる。シリコーンゴムには、オルガノポリシロキサンとして広く知られているものを使用すればよい。シリコーンゴムは、液状ゴムでも固形(ミラブル)ゴムでもよい。凹凸などの微細構造を寸法精度よく形成できるという点において、液状ゴムが望ましい。
【0026】
オルガノポリシロキサンは、その架橋機構(硬化機構)に応じて、所定の反応基を有する。反応基としては、アルケニル基(ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基など)、シラノール基などが挙げられる。前者のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、有機過酸化物を架橋剤とする過酸化物架橋反応や、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)を架橋剤とする付加反応により架橋される。付加反応には、白金触媒などのヒドロシリル化触媒を組み合わせて用いることができる。後者のシラノール基を有するオルガノポリシロキサンは、縮合反応により架橋される。縮合反応には、縮合用架橋剤を組み合わせて用いることができる。
【0027】
シリコーン材料におけるイオン導電剤の含有量は、シリコーンの100質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下である。0.01質量部未満の場合には、導電性を付与する効果が小さいため、所望の帯電抑制効果を得られない。より好適な含有量は、0.02質量部以上、さらには0.05質量部以上である。反対に、1質量部より多くなると、光透過性が低下して透明性が失われる。より好適な含有量は、0.8質量部以下、さらには0.5質量部以下である。
【0028】
シリコーンとの相溶性、シリコーン部材の光透過性などを考慮すると、イオン導電剤はイオン液体であることが望ましい。イオン液体は、ピリジニウム、イミダゾリウム、第4級アンモニウム、第4級ホスホニウムなどのカチオンと、ハロゲン、トリフラート、テトラフルオロボラート、ヘキサフルオロホスファートなどのアニオンと、からなる塩である。本発明における「イオン液体」は、室温で液体か固体かを問わず、融点が80℃以下であるものをいう。融点が80℃を超えるイオン液体を使用すると、シリコーン部材の製造時にイオン液体が析出し、シリコーン部材の光透過性を低下させるおそれがある。なかでも、カチオンに、シリコーンと反応可能な官能基を有するイオン液体(以下、適宜「反応型イオン液体」と称す)は、シリコーンとの相溶性が良好であるだけでなく、シリコーンと化学結合することにより固定化される。このため、製造後にイオン液体の成分がシリコーン部材の表面に浮き出てくるブリード現象を抑制することができる。
【0029】
反応型イオン液体としては、カチオンに、二重結合を有する官能基および-OX基(Xは水素原子またはアルキル基)を有する官能基から選ばれる一種以上を有するものが好適である。二重結合を有する官能基としては、アリル基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられ、-OX基を有する官能基としては、ヒドロキシ基(-OH)、アルコキシシリル基(-Si(OR):Rはアルキル基)などが挙げられる。
【0030】
所望の光透過性を確保するという観点から、本発明のシリコーン部材の可視光線透過率は、80%以上であることが望ましい。85%以上であるとより好適である。本明細書において、可視光線透過率は、JIS A5759:2016に準じ、(株)島津製作所製の分光光度計「UV3100PC」により波長380~780nmの透過スペクトルを測定して計算された値を採用する。
【0031】
帯電を抑制するという観点から、本発明のシリコーン部材の体積抵抗率は、1.2×1013Ω・cm以下であることが望ましい。1.5×1012Ω・cm以下であるとより好適である。
【0032】
[マイクロデバイス]
本発明のマイクロデバイスは、上記第一、第三実施形態のように、本発明のシリコーン部材そのものでもよく、第二実施形態のように、本発明のシリコーン部材同士を組み合わせて構成してもよい。すなわち、本発明のマイクロデバイスを構成する部材の数は、特に限定されず、一つでも二つ以上でもよい。構成部材としては、本発明のシリコーン部材の他、本発明のシリコーン部材と組み合わせて収容部を区画形成する相手部材、本発明のシリコーン部材を支持する基材などが挙げられる。
【0033】
本発明のマイクロデバイスを複数の部材から構成する場合、本発明のシリコーン部材以外の部材の材質、形状、大きさなどは、特に限定されない。例えば、本発明のシリコーン部材と組み合わせて収容部を区画形成する相手部材の材質としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのシリコーンの他、フッ素樹脂、ガラスなどが挙げられる。本発明のシリコーン部材を支持する基材の材質としては、比較的硬質で、光透過性に優れ、自家蛍光性が少ないという観点から、オレフィン樹脂またはアクリル樹脂が好適である。相手部材がシリコーンからなる場合、イオン導電剤を含まなくてもよく、含む場合でもその含有量が本発明のシリコーン部材とは異なってもよい。
【0034】
本発明のマイクロデバイスの構成部材は、単に積層されているだけでもよいが、接着剤を用いたり、架橋接着するなどして接着されていてもよい。本発明のマイクロデバイスの厚さは、用途により適宜決定すればよい。例えば、顕微鏡を用いた光学検査に用いる場合には、1mm以下、750μm以下、さらには500μm以下であることが望ましい。
【実施例
【0035】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。イオン導電剤の種類および含有量を変更してシリコーン部材の試験片を製造し、光透過性および帯電性を評価した。
【0036】
<試験片の製造>
[実施例1]
まず、液状シリコーンゴム(信越化学工業(株)製「KE-2061-50A/B」)100質量部に、カチオンにヒドロキシ基を有する反応型イオン液体(A)を0.1質量部加え、プラネタリーミキサーにて30分間混合した後、減圧脱泡して組成物(シリコーン材料)を調製した。使用した液状シリコーンゴムには、ビニル基を有するオルガノポリシロキサン、架橋剤、および触媒が含まれている。次に、調製した組成物を、120℃下で10分間プレス成形し、さらに150℃下で1時間乾燥して、縦12cm、横12cm、厚さ2mmの正方形シート状の試験片を作製した。作製した試験片を実施例1の試験片と称す。使用した反応型イオン液体(A)は、N-オレイル-N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-N-メチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(富士フイルム和光純薬(株)製)である。
【0037】
[実施例2]
実施例1で使用した反応型イオン液体(A)を、カチオンにメタクリル基を有する反応型イオン液体(B)に変更した点以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。作製した試験片を実施例2の試験片と称す。使用した反応型イオン液体(B)は、(2-メタクリロイルオキシエチル)トリメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(富士フイルム和光純薬(株)製)である。
【0038】
[実施例3]
実施例1で使用した反応型イオン液体(A)を、カチオンにアクリル基を有する反応型イオン液体(C)に変更した点以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。作製した試験片を実施例3の試験片と称す。使用した反応型イオン液体(C)は、(2-アクリロイルオキシエチル)トリメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(富士フイルム和光純薬(株)製)である。
【0039】
[実施例4]
実施例1で使用した反応型イオン液体(A)を、カチオンにヒドロキシ基およびメタクリル基を有する反応型イオン液体(D)に変更した点以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。作製した試験片を実施例4の試験片と称す。使用した反応型イオン液体(D)は、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(富士フイルム和光純薬(株)製)である。
【0040】
[実施例5]
実施例4で使用した反応型イオン液体(D)の配合量を、0.15質量部に変更した点以外は、実施例4と同様にして試験片を作製した。作製した試験片を実施例5の試験片と称す。
【0041】
[実施例6]
実施例4で使用した反応型イオン液体(D)の配合量を、0.01質量部に変更した点以外は、実施例4と同様にして試験片を作製した。作製した試験片を実施例6の試験片と称す。
【0042】
[実施例7]
実施例4で使用した反応型イオン液体(D)の配合量を、1質量部に変更した点以外は、実施例4と同様にして試験片を作製した。作製した試験片を実施例7の試験片と称す。
【0043】
[実施例8]
実施例1で使用した反応型イオン液体(A)を、カチオンにアルコキシシリル基を有する反応型イオン液体(E)に変更した点以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。作製した試験片を実施例8の試験片と称す。使用した反応型イオン液体(E)は、3-メチル-1-トリメトキシシリルプロピルピリジウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。以下に、反応型イオン液体(E)の製造方法を説明する。
【0044】
まず、窒素雰囲気下で、3-メチルピリジン(東京化成工業(株)製)60mmolと3-クロロプロピルトリメトキシシラン(同社製)55mmolと、を混合し、90℃で72時間反応させた。その後反応液を冷却し、析出した固体を酢酸エチルで2回洗浄してから、酢酸エチルを減圧で除去することにより、3-メチル-1-トリメトキシシリルプロピルピリジニウムクロリドを53mmol得た。これをアセトンに溶解し、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(同社製)53mmolを加えて、室温で24時間攪拌した。それから、アセトンを減圧除去し、析出したリチウムクロリドをろ過することにより、3-メチル-1-トリメトキシシリルプロピルピリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(反応型イオン液体(E))を得た。
【0045】
[実施例9]
実施例1で使用した反応型イオン液体(A)を、カチオンにアルコキシシリル基を有する反応型イオン液体(F)に変更した点以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。作製した試験片を実施例9の試験片と称す。使用した反応型イオン液体(F)は、N-{(3-トリエトキシシリルプロピル)カルバモイルオキシエチル)}-N,N,N-トリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。以下に、反応型イオン液体(F)の製造方法を説明する。
【0046】
まず、窒素雰囲気下で、(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリド(東京化成工業(株)製)60mmolと3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(同社製)59mmolと、を混合し、75℃で48時間反応させた。その後反応液を冷却し、析出した固体を酢酸エチルで2回洗浄してから、酢酸エチルを減圧で除去することにより、イオン液体のアニオンがクロリドの化合物を55mmol得た。これをアセトンに溶解し、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(同社製)55mmolを加えて、室温で24時間攪拌した。それから、アセトンを減圧除去し、析出したリチウムクロリドをろ過することにより、N-{(3-トリエトキシシリルプロピル)カルバモイルオキシエチル)}-N,N,N-トリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(反応型イオン液体(F))を得た。
【0047】
[実施例10]
実施例1で使用した反応型イオン液体(A)を、カチオンにアリル基を有する反応型イオン液体(G)に変更した点以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。作製した試験片を実施例10の試験片と称す。使用した反応型イオン液体(G)は、ジアリルヘキシルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである。以下に、反応型イオン液体(G)の製造方法を説明する。
【0048】
まず、ジアリルメチルアミン150mmolとn-ヘキシルブロミド180mmolとアセトニトリル50gと、を混合し、105℃で24時間反応させた。その後反応液を室温まで冷却し、ヘキサンを添加して未反応分を抽出除去した。それから残液をエバポレーターを用いて減圧下で濃縮し、ジアリルヘキシルメチルアンモニウム・ブロミドを得た。次に、得られたジアリルヘキシルメチルアンモニウム・ブロミドとビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウムとを水系溶媒に添加し、室温で4時間攪拌することにより、ジアリルヘキシルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(反応型イオン液体(G))を得た。
【0049】
[比較例1]
イオン液体を配合せずに、実施例1と同様にして試験片を作製した。作製した試験片を比較例1の試験片と称す。
【0050】
[比較例2]
実施例4で使用した反応型イオン液体(D)の配合量を、0.005質量部に変更した点以外は、実施例4と同様にして試験片を作製した。作製した試験片を比較例2の試験片と称す。
【0051】
[比較例3]
実施例4で使用した反応型イオン液体(D)の配合量を、3質量部に変更した点以外は、実施例4と同様にして試験片を作製した。作製した試験片を比較例3の試験片と称す。
【0052】
<評価方法>
[光透過性]
JIS A5759:2016に準じ、(株)島津製作所製の分光光度計「UV3100PC」により透過スペクトルを測定し、試験片の可視光線透過率を計算した。
【0053】
[帯電性]
(1)粉末付着性
発泡スチロール粉末を準備し、それに接触しないよう、試験片を発泡スチロール粉末から10mm離間した位置まで近づけた。この時、発泡スチロール紛末が試験片に吸い寄せられなければ帯電による粉末の付着無し(後出表1中、〇印で示す)、吸い寄せられた場合は帯電による粉末の付着有り(同表中、×印で示す)と評価した。
【0054】
(2)体積抵抗率
JIS K 6911-1995の「5.13 抵抗率」、「5.13.1 成形材料」に準じて、試験片の体積抵抗率を測定した。まず、試験片の上面に銀ペーストを塗布して、縦1cm、横1cmの正方形状の電極を形成し(ガード電極付き)、下面にも同様に縦1cm、横1cmの正方形状の電極を形成した。そして、上下の電極間に100Vの電圧を印加して電極間の体積抵抗を測定し、体積抵抗率を算出した。
【0055】
<評価結果>
表1および表2に、使用した材料の配合量および評価結果をまとめて示す。表1には実施例1~10を示し、表2には比較例1~3を示す。
【表1】
【表2】
【0056】
表1および表2に示すように、イオン液体を含まない比較例1の試験片においては、可視光線透過率は高いものの、体積抵抗率が大きく、発泡スチロール粉末も付着したことから、帯電していることが確認された。これに対して、実施例1~10の試験片においては、いずれも可視光線透過率が80%以上と高く、発泡スチロール粉末の付着も見られなかった。すなわち、実施例1~10の試験片は、光透過性に優れ、帯電が抑制されていた。
【0057】
イオン液体の配合量のみが異なる実施例4~7および比較例2、3の試験片を比較すると、イオン液体の配合量が多いほど導電性は高くなるが、光透過性は低下する傾向が見られた。イオン液体の配合量が3質量部の比較例3の試験片では、可視光線透過率が65%にまで低下した。また、イオン液体の配合量が少ないほど光透過性は高くなるが、導電性は低下する(体積抵抗率は大きくなる)傾向が見られた。イオン液体の配合量が0.005質量部の比較例2の試験片では、帯電抑制効果は見られなかった。
【符号の説明】
【0058】
10:シリコーン部材(マイクロデバイス)、11:収容部、12:溝部、13a、13b:孔部、20:マイクロデバイス、21:第一シリコーン部材、22:第二シリコーン部材、23:溝部(収容部)、24、25:孔部(収容部)、30:シリコーン部材(マイクロデバイス)、31:ウエル(収容部)
図1
図2
図3
図4
図5