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特許7518685自発光型表示パネル、及び自発光型表示パネルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】自発光型表示パネル、及び自発光型表示パネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/15 20230101AFI20240710BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240710BHJP
   H10K 71/13 20230101ALI20240710BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20240710BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
H10K50/15
H10K59/10
H10K71/13
G09F9/30 365
G09F9/00 342
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020123587
(22)【出願日】2020-07-20
(65)【公開番号】P2022020214
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】523290528
【氏名又は名称】JDI Design and Development 合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 昌和
(72)【発明者】
【氏名】石野 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】秋山 利幸
(72)【発明者】
【氏名】尾田 智彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宗治
(72)【発明者】
【氏名】関本 康宏
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 峰樹
(72)【発明者】
【氏名】神谷 建
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-044380(JP,A)
【文献】国際公開第2020/023485(WO,A1)
【文献】特開2010-169308(JP,A)
【文献】特開2003-269859(JP,A)
【文献】特表2019-505750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00-99/00
H05B 33/00
G09F 9/30
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光素子が面状に配された自発光型表示パネルであって、
前記発光素子は、相対する一対の電極と、前記一対の電極間に配された、発光層を含む複数の有機機能層を含み、
前記複数の有機機能層は、低分子材料を機能性材料として含む塗布膜からなる第1の機能層と、前記塗布膜に対する下地層として、架橋構造を有する有機化合物を含む第2の機能層とを含み、
前記第2の機能層における、面内の中央部を含む所定の範囲を第1領域、前記第1領域よりも面外方に位置する領域を第2領域としたとき、
前記第2領域における有機化合物の架橋率が、前記第1領域における有機化合物の架橋率よりも高い
自発光型表示パネル。
【請求項2】
前記第2の機能層は、前記第2領域における有機化合物における分子内の架橋密度が、前記第1領域における有機化合物における分子内の架橋密度よりも高い
請求項1に記載の自発光型表示パネル。
【請求項3】
前記第1の機能層は、前記第2の機能層の前記第2領域上方に位置する発光素子における単位面積当たりの有機化合物の量が、前記第1領域上方に位置する発光素子における単位体積当たりの有機化合物の量よりも少なく、
前記第1の機能層中の前記有機化合物は、前記第2の機能層中における前記架橋構造を有する有機化合物が前記第1の機能層中に溶け込んだものである
請求項1又は2に記載の自発光型表示パネル。
【請求項4】
さらに、複数の前記発光素子が載設される平坦化層を備え、
前記平坦化層は、前記第2領域における熱伝導性が、前記第1領域における熱伝導性よりも高い
請求項1~3の何れか1項に記載の自発光型表示パネル。
【請求項5】
前記平坦化層は、前記第2領域における層の厚みが、前記第1領域における層の厚みよりも薄い
請求項4に記載の自発光型表示パネル。
【請求項6】
さらに、複数の前記発光素子が載設される基板を備え、
前記基板には、前記第1領域の下方に樹脂フィルムが貼着されている
請求項4に記載の自発光型表示パネル。
【請求項7】
前記第2の機能層は、前記第2領域における有機化合物の分子量が、前記第1領域における有機化合物の分子量よりも高い
請求項1~6の何れか1項に記載の自発光型表示パネル。
【請求項8】
前記第2の機能層は、少なくとも前記第1領域における有機化合物の分子量が、前記第1の機能層における前記低分子材料の分子量よりも高い
請求項1~7の何れか1項に記載の自発光型表示パネル。
【請求項9】
前記第2の機能層は、塗布膜である
請求項1~8の何れか1項に記載の自発光型表示パネル。
【請求項10】
前記第1の機能層は、発光層であり、前記第2の機能層は、ホール輸送層である
請求項1~9の何れか1項に記載の自発光型表示パネル。
【請求項11】
複数の前記発光素子を区画するバンクを含む
請求項1~10の何れか1項に記載の自発光型表示パネル。
【請求項12】
複数の発光素子が面状に配された自発光型表示パネルの製造方法であって、
基板を準備する工程と、
前記基板の上方に、複数の画素電極を形成する工程と、
前記画素電極の上方に、架橋構造を有する有機化合物を含む下部機能層を形成する工程と、
前記下部機能層の上面に、低分子材料を機能性材料として含むインクを塗布した後に乾燥させることにより、塗布膜からなる上部機能層を形成する工程と、
前記上部機能層の上方に対向電極を形成する工程とを含み、
前記下部機能層における、面内の中央部を含む所定の範囲を第1領域、前記第1領域よりも面外方に位置する領域を第2領域としたとき、
前記下部機能層を形成する工程では、前記下部機能層は、前記第2領域における有機化合物の架橋率が、前記第1領域における有機化合物の架橋率よりも高く形成される
自発光型表示パネルの製造方法。
【請求項13】
前記下部機能層を形成する工程では、前記下部機能層は、前記第2領域における有機化合物における分子内の架橋密度が、前記第1領域における有機化合物における分子内の架橋密度よりも多くなるように製造される
請求項12に記載の自発光型表示パネルの製造方法。
【請求項14】
前記下部機能層を形成する工程では、前記下部機能層の焼成において、前記第2領域に対する温度が、前記第1領域に対する温度よりも高くなるよう温度分布が調整される
請求項12又は13に記載の自発光型表示パネルの製造方法。
【請求項15】
前記上部機能層を形成する工程では、前記上部機能層は、前記下部機能層の前記第2領域上方に位置する発光素子に含まれる単位面積当たりの有機化合物の量が、前記第1領域上方に位置する発光素子に含まれる単位体積当たりの有機化合物の量よりも少なく形成され
前記上部機能層中の前記有機化合物とは、前記下部機能層中における前記架橋構造を有する前記有機化合物が前記上部機能層中に溶け込んだものである
請求項12~14の何れか1項に記載の自発光型表示パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機EL素子などの自発光素子における有機機能層をウエットプロセスで製造する自発光型表示パネル、及び自発光型表示パネルの製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(Electroluminescence:電界発光)素子の発光を利用した有機EL表示パネルの開発が盛んに行われている。有機EL素子は、基板の上方に、画素ごとの画素電極と、有機発光層を含む有機機能層と、複数の有機EL素子に共通の対向電極とをこの順に備え、画素電極及び対向電極から供給されたホール及び電子が有機発光層で再結合することにより発光する。
【0003】
有機EL表示パネルにおける有機機能層は、従来は真空蒸着などの乾式法(ドライプロセス)により成膜される場合が多かったが、塗布技術の進歩に伴い、近年では、塗布法(ウエットプロセス)で有機機能層を形成する技術が普及しつつある。
【0004】
塗布法は、有機発光層の場合、有機発光材料を溶媒に溶解もしくは分散させた溶液(以下、単に「インク」という。)を印刷装置のノズルにより画素形成領域に塗布した後、乾燥させて有機発光層を形成するものであり、大型の有機EL表示パネルであってもその設備費が抑制できると共に材料利用率が高いなどコスト面で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-214397号公報
【文献】特開2009-300909号公報
【文献】特開2012-109286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような基板上の画素形成領域にインクを充填し乾燥する方法で有機機能層を形成するウエットプロセスに於いては、インクの溶媒を蒸発乾燥させるプロセスにおいて、基板上の成膜エリアの中央を含む所定範囲の中央領域と当該領域よりも面外方に位置する周辺領域とを比較したとき、周辺領域の方が中央領域よりも溶媒蒸気圧が低くなることにより溶媒の蒸発速度が大きい傾向がある。その結果、基板の中央領域に形成される画素の有機機能層と基板周辺領域に形成される画素の有機機能層とは膜厚が互いに異なる傾向がある。このように、基板中央領域の画素と基板周辺領域の画素とで有機機能層の膜厚が異なると、各有機機能層の特性も互いに異なるため、自発光型表示パネルの面内輝度ムラの原因となっていた。
【0007】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであって、自発光型表示パネルにおける面内の中央を含む所定範囲の中央領域、および当該領域よりも面外方に位置する周辺領域における有機機能層の膜厚の均一化を図ることができる自発光型表示パネル、及び自発光型表示パネルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る自発光型表示パネルは、複数の発光素子が面状に配された自発光型表示パネルであって、前記発光素子は、相対する一対の電極と、前記一対の電極間に配された、発光層を含む複数の有機機能層を含み、前記複数の有機機能層は、低分子材料を機能性材料として含む塗布膜からなる第1の機能層と、前記塗布膜に対する下地層として、架橋構造を有する有機化合物を含む第2の機能層とを含み、前記第2の機能層における、面内の中央部を含む所定の範囲を第1領域、前記第1領域よりも面外方に位置する領域を第2領域としたとき、前記第2領域における有機化合物の架橋率が、前記第1領域における有機化合物の架橋率よりも高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記態様に係る自発光型表示パネル、及び自発光型表示パネルの製造方法によれば、自発光型表示パネルにおける面内の中央を含む所定範囲の中央領域、および当該領域よりも面外方に位置する周辺領域における有機機能層の膜厚の均一化を図ることができる。これより、自発光型表示パネルの面内輝度ムラを改善する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る有機EL表示装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態に係る有機EL表示パネル10の平面図である。
図3】有機EL表示パネル10の画像表示面の一部を拡大した模式平面図である。
図4】有機EL表示素子2の図3のA-A線に沿った模式断面図である。
図5】構成材料を変化させたときのホール輸送層の洗浄後の残膜率の変化を評価する工程の工程図である。
図6】洗浄工程の前後におけるホール輸送層の膜厚の測定結果と洗浄後の残膜率を示す図である。
図7】(a)は、図5における溶媒洗浄(ステップS24)の模式図、(b)は、ホール輸送層の有機化合物の有機発光層への溶け出し量を変化させたときの有機発光層の膜厚分布の変化を評価する方法の模式図である。
図8】(a)~(c)は、ホール輸送層の有機化合物の有機発光層への溶け出し量を変化させたときの有機発光層の膜厚分布の測定結果を示す図である。
図9】(a)、(b)は、ホール輸送層の構成材料を変化させたときの有機発光層の膜厚分布の測定結果を示す図である。
図10】(a)は、ホール輸送層の構成材料に架橋率が相対的に低い有機化合物用いたときの塗布法による有機発光層の形成過程を、(b)は、架橋率が相対的に高い有機化合物用いたときの塗布法による有機発光層の形成過程を説明するための模式断面図である。
図11】有機EL表示パネル10の成膜エリアの中央領域と周辺領域における塗布膜と下地層の構成を示す図である。
図12】有機EL表示パネル10の製造工程を示すフローチャートである。
図13】(a)~(d)は、有機EL表示パネル10の製造過程を模式的に示す部分断面図である。
図14】(a)~(d)は、図13に続く製造過程を模式的に示す部分断面図である。
図15】(a)、(b)は、図14に続く製造過程を模式的に示す部分断面図である。
図16】(a)~(d)は、図15に続く製造過程を模式的に示す部分断面図である。
図17】塗布法による有機発光層の形成過程を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪本発明を実施するための形態に至った経緯≫
塗布法で有機機能層を形成する際に、例えば、有機EL表示パネルにおける有機EL素子の発光層の成膜プロセスでは、異なる有機発光材料のインクが混ざり合うのを避けて画素を画定するため、基板上に隔壁(バンク)が設けられており、隔壁で囲まれた塗布領域内にインクを塗布してそのまま乾燥させると、隔壁の側面に接する部分がせり上がると共に、有機発光層の中央部が凹入した膜形状となる問題がある。さらに、ウエットプロセスに於いては、上述のとおり、インクの溶媒を蒸発乾燥させるプロセスにおいて、成膜エリアの中央部分と周縁部分では、周縁部分の方が中央部分よりも溶媒蒸気圧が低くなることにより溶媒の蒸発速度が大きく、基板上の周縁部分における乾燥時間が中央部分における乾燥時間よりも短い傾向がある。この場合、1画素の有機機能層に占める隔壁の側面に沿ってせり上がっている部分(以下、「せり上がり部」という。)の占める割合が、基板上の中央部分の方において周縁部分よりも大きくなり、基板上の中央部分の方が周縁部分よりも中央部が大きく凹入した膜形状になるという問題があった。その結果、基板上の中央部分と周縁部分との間で、隔壁内における有機発光層の膜厚を等価に形成することが難しく、発光層の膜厚の均一性が低下し、面内における発光の均一性が低下する傾向があった。
【0012】
この現象は、有機発光層のみならず、ホール注入層やホール輸送層、電子輸送層、電子注入層などの他の機能層を塗布法で形成する場合にも生じ得る問題である。
【0013】
そこで、発明者らは、塗布法により形成した発光層の膜厚の均一性を高めるべく鋭意検討し、基板上に塗布されてから乾燥に至るまでの間にインク内部で対流が生じており、この対流が膜厚の均一化に対して大きな阻害要因となっていることを確認した。
【0014】
図17は、従来の塗布法による発光層の形成過程を模式的に示す図であり、平坦化層や画素電極、ホール注入層などは図示を省略している。
【0015】
図17の紙面左欄に示すように、塗布ヘッド301から有機発光層形成用のインク170を基板11上の開口部14aに滴下すると、同図に示すように開口部14aから上方に盛り上がったインク溜まり171が形成される。
【0016】
上述のようにインク170は、有機発光材料を揮発性の溶剤(有機溶媒)に溶解して形成されており、溶剤はインクの表面から徐々に蒸発していく。この蒸発の程度は一様ではなく、一般的にインク溜まり表面の隔壁14に近い端の部分(インク溜まり171表面の外周部)Eの方が、中央の部分Cよりも蒸発の速度が速く、これによって、インク溜まり171内部に対流が生じることが知られている。
【0017】
すなわち、有機発光材料と溶剤の比重は、全く同一ではなく、組み合わせの種類によっては、有機発光材料の比重が溶剤の比重よりも大きくなったり小さくなったりする。上記のように溶剤の蒸発速度が部位によって異なることにより、インクの比重(密度)に部分的な差異が生じ、重力の影響を受けて相対的に比重の大きなインクが下方に移動しようとする。また、インクの密度に差があると、これを均一化しようとして粒子が拡散する力も発生する。さらには、温度分布の差によって起こるレーリー対流や表面張力差によって起こるマランゴニ対流なども誘発し、これらの対流が複雑に合わさった結果、図17中央欄の太線の矢印で例示的に示すようにインクの対流が生じることになる。
【0018】
このような対流が生じる結果、インクは、隔壁14の内側面に押し付けられながら当該内側面に沿って移動することになり、しかも、上述のようにインク溜まり171の外側(すなわち、隔壁14の内側面に近い側)ほど溶剤の蒸発速度が速いので、図17右欄に示すように隔壁14の内側面に付着しながら乾燥する量も多くなり(せり上がり部17b)、その分だけ中央部17aに大きく窪みができた状態で発光層17が形成されると考えられる。
【0019】
なお、図17の紙面中央欄において破線の矢印で示したインクの対流方向はあくまでも一例であり、有機発光材料と溶剤の組み合わせの仕方やその他の条件によっては、インクの対流方向が同図に示したものと逆になる場合もあると考えられるが、いずれにしろ塗布されたインク内で対流が発生する以上、隔壁14の内壁面に沿って移動するインクの量が増大し、図17の紙面右欄に示すような膜厚の不均一の問題が生じることに変わりはない。
【0020】
すなわち、隔壁で囲まれた塗布領域にインクを塗布すると、インクの表面から溶剤が蒸発していくが、その蒸発速度に部分的な差異があるため、インクの密度が不均一となって塗布されたインク内で対流が生じ、当該対流により隔壁側面にインクを押し付けるように力が作用する。そのまま乾燥が進むと、インクが、隔壁側面にせり上がって付着する量が多くなり、その分だけ中央部のインクの量が少なくなって凹状に窪むため、乾燥後の有機発光層の膜厚が不均一になると考えられる。
【0021】
したがって、溶剤の蒸発速度の部分的な差異に基づくインクの対流を抑制することが発光層の膜厚の均一化を図るための重要な要素であると考えられる。このようなインクの対流を抑制するためには、インクの粘度を大きくすることが効果的であるが、インクの粘度を大きくすると、印刷装置のノズルが詰まりやすくなり、印刷処理に不都合が生じる。
【0022】
そこで、印刷装置のノズル詰まりなどの支障を排除しつつ、インクの粘度を大きくすることが可能な有機機能層の態様について鋭意検討を行い、本開示の態様に至ったものである。
【0023】
≪本発明を実施するための形態の概要≫
本実施の形態に係る自発光型表示パネルは、複数の発光素子が面状に配された自発光型表示パネルであって、前記発光素子は、相対する一対の電極と、前記一対の電極間に配された、発光層を含む複数の有機機能層を含み、前記複数の有機機能層は、低分子材料を機能性材料として含む塗布膜からなる第1の機能層と、前記塗布膜に対する下地層として、架橋構造を有する有機化合物を含む第2の機能層とを含み、前記第2の機能層における、面内の中央部を含む所定の範囲を第1領域、前記第1領域よりも面外方に位置する領域を第2領域としたとき、前記第2領域における有機化合物の架橋率が、前記第1領域における有機化合物の架橋率よりも高いことを特徴とする。
【0024】
係る構成により、自発光型表示パネルにおける面内の中央Oを含む所定範囲の第1領域(中央領域)、および当該領域よりも面外方に位置する第2領域(周辺領域)における有機機能層の膜厚の均一化を図ることができる。これより、自発光型表示パネルの面内輝度ムラを改善することができる。
【0025】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記第2の機能層は、前記第2領域における有機化合物における分子内の架橋密度が、前記第1領域における有機化合物における分子内の架橋密度よりも高い構成としてもよい。
【0026】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記第1の機能層は、前記第2の機能層の前記第2領域上方に位置する発光素子における単位面積当たりの有機化合物の量が、前記第1領域上方に位置する発光素子における単位体積当たりの有機化合物の量よりも少ない構成としてもよい。
【0027】
係る構成により、自発光型表示パネルにおける面内の有機機能層の膜厚の均一化を図り、面内輝度ムラを改善できる。
【0028】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、さらに、複数の前記発光素子が載設される平坦化層を備え、前記平坦化層は、前記第2領域における熱伝導性が、前記第1領域における熱伝導性よりも高い構成としてもよい。
【0029】
係る構成により、第2領域を第1領域よりも高い焼成温度でベークすることができ、第2の機能層における第2領域における架橋率を第1領域における架橋率より高めることができる。
【0030】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記平坦化層は、前記第2領域における層の厚みが、前記第1領域における層の厚みよりも薄い構成としてもよい。
【0031】
係る構成により、前記第2領域における熱伝導性が、前記第1領域における熱伝導性よりも高い構成を実現できる。また、別の態様では、上記何れかの態様において、さらに、複数の前記発光素子が載設される基板を備え、前記基板には、前記第1領域の下方に樹脂フィルムが貼着されている構成としてもよい。
【0032】
係る構成により、前記第2領域における熱伝導性が、前記第1領域における熱伝導性よりも高い構成を実現できる。
【0033】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記第2の機能層は、前記第2領域における有機化合物の分子量が、前記第1領域における有機化合物の分子量よりも高い構成としてもよい。
【0034】
係る構成により、前記第2の機能層において、前記第2領域における有機化合物の架橋率が、前記第1領域における有機化合物における架橋率よりも高い構成を実現できる。
【0035】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記第2の機能層は、少なくとも前記第1の領域における有機化合物の分子量が、前記第1の機能層における前記低分子材料の分子量よりも高い構成としてもよい。
【0036】
係る構成により、上層である、第1の機能層のインクに第2の機能層の第1の領域から溶け込む有機化合物の量を増加させて、第1の機能層のインクを増粘させて対流を抑制し、第1の機能層の膜厚分布を平坦化することができる。
【0037】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記第2の機能層は、塗布膜である構成としてもよい。
【0038】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記第1の機能層は、発光層であり、前記第2の機能層は、ホール輸送層である構成としてもよい。
【0039】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、複数の前記発光素子を区画するバンクを含む構成としてもよい。
【0040】
本実施の形態に係る自発光型表示パネルの製造方法は、複数の発光素子が面状に配された自発光型表示パネルの製造方法であって、基板を準備する工程と、前記基板の上方に、複数の画素電極を形成する工程と、前記画素電極の上方に、架橋構造を有する有機化合物を含む第1の機能層を形成する工程と、前記第1の機能層の上面に、低分子材料を機能性材料として含む塗布膜からなるを形成する工程と、前記第2の機能層の上方に対向電極を形成する工程とを含み、前記第1の機能層における、面内の中央部を含む所定の範囲を第1領域、前記第1領域よりも面外方に位置する領域を第2領域としたとき、前記第1の機能層を形成する工程では、前記第2の機能層は、前記第2領域における有機化合物の架橋率が、前記第1領域における有機化合物の架橋率よりも高く形成されることを特徴とする。
【0041】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記下部機能層を形成する工程では、前記下部機能層は、前記第2領域における有機化合物における分子内の架橋密度が、前記第1領域における有機化合物における分子内の架橋密度よりも多くなるように製造される構成としてもよい。
【0042】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記下部機能層を形成する工程では、前記下部機能層の焼成において、前記第2領域に対する温度が、前記第1領域に対する温度よりも高くなるよう温度分布が調整される構成としてもよい。
【0043】
また、別の態様では、上記何れかの態様において、前記上部機能層を形成する工程では、前記上部機能層は、前記第2の機能層の前記第1領域上方に位置する発光素子に含まれる単位面積当たりの有機化合物の量が、前記第2領域上方に位置する発光素子に含まれる単位体積当たりの有機化合物の量よりも少なく形成される構成としてもよい。
【0044】
係る構成により、自発光型表示パネルにおける面内の中央Oを含む所定範囲の第1領域(中央領域)、および当該領域よりも面外方に位置する第2領域(周辺領域)における有機機能層の膜厚の均一化した自発光型表示パネルを製造できる。
【0045】
≪実施の形態≫
以下、本開示の一態様に係る有機EL素子および有機EL表示パネル、有機EL表示装置について、図面を参照しながら説明する。なお、図面は、模式的なものを含んでおり、各部材の縮尺や縦横の比率などが実際とは異なる場合がある。
【0046】
<有機EL表示装置1の全体構成>
図1は、有機EL表示装置1の全体構成を示すブロック図である。有機EL表示装置1は、例えば、テレビ、パーソナルコンピュータ、携帯端末、その他の電子機器の表示部として用いられる。
【0047】
有機EL表示装置1は、有機EL表示パネル10と、これに電気的に接続された駆動制御部200とを備える。有機EL表示パネル10は、本実施の形態では、トップエミッション型の表示パネルであり、画像表示面に沿って複数の有機EL素子(不図示)が配列され、各有機EL素子の発光を組み合わせて画像を表示する。なお、有機EL表示パネル10は、一例として、アクティブマトリクス方式を採用している。
【0048】
駆動制御部200は、有機EL表示パネル10に接続された駆動回路210と、計算機などの外部装置又はTVチューナーなどの受信装置に接続された制御回路220とを有する。駆動回路210は、各有機EL素子に電力を供給する電源回路、各有機EL素子への供給電力を制御する電圧信号を印加する信号回路、一定の間隔ごとに電圧信号を印加する箇所を切り替える走査回路などを有する。制御回路220は、外部装置や受信装置から入力された画像情報を含むデータに応じて、駆動回路210の動作を制御する。
【0049】
<表示パネル10の全体構成>
図2は、実施の形態1に係る表示パネル10の平面図である。図3は、図1におけるA部の拡大図である。表示パネル10は、有機材料の電界発光現象を利用した有機EL表示パネルであって、基板11上に配された平坦化層12の上面に、複数の有機EL素子が、例えば、マトリクス状に配列され構成されている。同図に示すように表示パネル10は、平面視したとき、基板11面の中央Oを含む所定の範囲に相当する中央領域10a(第1の領域)と、基板11面内の中央領域10aの面外方に位置する周辺領域10b(第2の領域)とに区分される。ここで、基板11における中央領域10aのX方向及びY方向の寸法は、表示パネル10のX方向及びY方向の寸法に対し、それぞれ、例えば、50%以上90%以下としてもよい。また、基板11において、周辺領域10bのX方向及びY方向の寸法は、中心線CLに対しX-Y方向の片側において、表示パネル10のX方向及びY方向の寸法に対し、それぞれ、例えば、5%より大きく25%未満としてもよい。
【0050】
(A)平面構成
図3は、有機EL表示パネル10の画像表示面のA部を拡大した模式平面図である。有機EL表示パネル10では、一例として、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)(以下、単にR、G、Bともいう。)にそれぞれ発光する副画素100R、100G、100Bが行列状に配列されている。副画素100R、100G、100Bは、X方向に交互に並び、X方向に並ぶ一組の副画素100R、100G、100Bが、一つの画素Pを構成している。画素Pでは、階調制御された副画素100R、100G、100Bの発光輝度を組み合わせることにより、フルカラーを表現することが可能である。
【0051】
また、Y方向においては、副画素100R、副画素100G、副画素100Bのいずれかのみが並ぶことでそれぞれ副画素列CR、副画素列CG、副画素列CBが構成されている。これにより、有機EL表示パネル10全体として画素Pが、X方向及びY方向に沿った行列状に並び、この行列状に並ぶ画素Pの発色を組み合わせることにより、画像表示面に画像が表示される。
【0052】
副画素100R、100G、100B(まとめて「副画素100」と表記する場合がある)には、それぞれR、G、Bの色に発光する有機EL素子2(R)、2(G)、2(B)(図4参照、まとめて「有機EL素子2」と表記する場合がある)が配置されている。
【0053】
また、本実施の形態に係る有機EL表示パネル10では、いわゆるラインバンク方式を採用している。すなわち、副画素列CR、CG、CBを1列ごとに仕切る隔壁(バンク)14がX方向に間隔をおいて複数配置され、各副画素列CR、CG、CBでは、副画素100R、100G、100Bが、有機発光層を共有している。
【0054】
ただし、各副画素列CR、CG、CBでは、副画素100R、100G、100B同士を絶縁する画素規制層141がY方向に間隔をおいて複数配置され、各副画素100R、100G、100Bは、独立して発光することができるようになっている。
【0055】
(B)断面構成
図4は、図3のA-A線に沿った模式断面図である。有機EL表示パネル10において、一つの画素は、R、G、Bをそれぞれ発光する3つの副画素からなり、各副画素は、対応する色を発光する有機EL素子2(R)、2(G)、2(B)で構成される。各発光色の有機EL素子2(R)、2(G)、2(B)は、基本的には、ほぼ同様の構成を有するので、区別しないときは、有機EL素子2として説明する。
【0056】
図4に示すように、有機EL素子2は、基板11、平坦化層12、画素電極(陽極)13、隔壁14、ホール注入層15、ホール輸送層16、有機発光層17、電子輸送層18、電子注入層19、対向電極(陰極)20、および、封止層21とからなる。このうち、相対する一対の画素電極13及び対向電極20に挟まれた、ホール注入層15、ホール輸送層16、有機発光層17、電子輸送層18.電子注入層19が、発光素子2の機能層を構成する。
【0057】
基板11、平坦化層12、電子輸送層18、電子注入層19、対向電極20、および、封止層21は、画素ごとに形成されているのではなく、有機EL表示パネル10が備える複数の有機EL素子2に共通して形成されている。
【0058】
なお、本実施の形態では、上記した複数の機能層のうち、有機発光層17を第1の機能層又は上部機能層とし、ホール輸送層16を第2の機能層又は下部機能層とした態様について説明する。
【0059】
(基板)
基板11は、絶縁材料である基材111と、TFT(Thin Film Transistor)層112とを含む。TFT層112には、副画素ごとに駆動回路が形成されている。基材111は、例えば、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、硫化モリブデン、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、鉄、ニッケル、金、銀などの金属基板、ガリウム砒素などの半導体基板、プラスチック基板等を採用することができる。
【0060】
プラスチック材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂いずれの樹脂を用いてもよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうち1種、または2種以上を積層した積層体を用いることができる。
【0061】
フレキシブルな有機EL表示パネルを製造するためには、基板はプラスチック材料であることが望ましい。
【0062】
(平坦化層)
平坦化層12は、基板11上に形成されている。平坦化層12は、樹脂材料からなり、TFT層112の上面の段差を平坦化するためのものである。樹脂材料としては、例えば、ポジ型の感光性材料が挙げられる。また、このような感光性材料として、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂が挙げられる。また、図4の断面図には示されていないが、平坦化層12には、副画素ごとにコンタクトホールが形成されている。
【0063】
(画素電極)
画素電極13は、光反射性の金属材料からなる金属層を含み、平坦化層12上に形成されている。画素電極13は、副画素ごとに設けられ、コンタクトホール(不図示)を通じてTFT層112と電気的に接続されている。本実施の形態においては、画素電極13は、陽極として機能する。
【0064】
光反射性を具備する金属材料の具体例としては、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、アルミニウム合金、Mo(モリブデン)、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)などが挙げられる。画素電極13は、金属層単独で構成してもよいが、金属層の上に、ITO(酸化インジウム錫)やIZO(酸化インジウム亜鉛)のような金属酸化物からなる層を積層した積層構造としてもよい。
【0065】
(隔壁・画素規制層)
隔壁14は、基板11の上方に副画素ごとに配置された複数の画素電極13を、X方向(図3参照)において列毎に仕切るものであって、X方向に並ぶ副画素列CR、CG、CBの間においてY方向に延伸するラインバンク形状である。隔壁14には、電気絶縁性材料が用いられる。電気絶縁性材料の具体例として、例えば、絶縁性の有機材料(例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック樹脂、フェノール樹脂等)が用いられる。
【0066】
隔壁14は、有機発光層17を塗布法で形成する場合に塗布された各色のインクが溢れて混色しないようにするための構造物として機能する。なお、樹脂材料を用いる際は、加工性の観点から感光性を有することが好ましい。隔壁14は、有機溶媒や熱に対する耐性を有することが好ましい。また、インクの流出を抑制するために、隔壁14の表面は所定の撥液性を有することが好ましい。
【0067】
画素規制層141は、電気絶縁性材料からなり、各副画素列においてY方向(図2)に隣接する画素電極13の端部を覆い、当該Y方向に隣接する画素電極13同士を仕切っており、各副画素列CR、CG、CBにおける有機発光層17の段切れ抑制、画素電極13と対向電極20との間の電気絶縁性の向上などの役割を有する。
【0068】
画素規制層141の膜厚は、インク状態の有機発光層17の上面までの厚みよりは小さいが、乾燥後の有機発光層17の上面の厚みよりは大きく設定される。これにより、各副画素列CR、CG、CBにおける有機発光層17は、画素規制層141によっては仕切られず、有機発光層17を形成する際のインクの流動が妨げられない。そのため、各副画素列における有機発光層17の厚みを均一に揃えることを容易にする。
【0069】
(ホール注入層)
ホール注入層15は、画素電極13から発光層17へのホールの注入を促進させる目的で、画素電極13上に設けられている。ホール注入層15は、例えば、Ag(銀)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)、V(バナジウム)、W(タングステン)、Ni(ニッケル)、Ir(イリジウム)などの酸化物、あるいは、銅フタロシアニン(CuPc)などの低分子量の有機化合物や、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)などの高分子材料が挙げられる。
【0070】
(ホール輸送層(第2の機能層、下部機能層))
ホール輸送層16は、ホール注入層15から注入されたホールを有機発光層17へ輸送する機能を有する。また、ホール輸送層16は、後述する有機発光層17に対する下地層として機能し、架橋構造を有する有機化合物を含む構成を採る。ホール輸送層16は、例えば、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられ、重合体などの高分子化合物であっても、単量体などの低分子化合物であってもよく、高分子化合物および/または低分子化合物を溶媒に溶解したインクを用いて塗布法などのウエットプロセスにより形成される。
【0071】
ホール輸送層16は、基板11面内の周辺領域10b上に位置する第2領域16b(図2参照)における有機化合物の架橋率が、基板11面内の中央領域10a上に位置する第1領域16a(図2参照)における有機化合物の架橋率よりも高く構成されている。具体的には、ホール輸送層16は、第2領域16bにおける架橋率が、例えば、約100%であって、第1領域16aにおける架橋率が、98%以上99%以下としてもよい。このような、ホール輸送層16は、第2領域16bにおける有機化合物における分子内の架橋密度が、第1領域16aにおける有機化合物における分子内の架橋密度よりも高くなるように構成することにより実現できる。そして、このようなホール輸送層16は、例えば、ホール輸送層16の第2領域16bに第1領域16aよりも分子内架橋密度が高い分子構造の有機化合物を含む材料を用いることや、ホール輸送層16の焼成工程における、第2領域16bに対する焼成温度が、第1領域16aに対する焼成温度よりも高くなるよう、焼成工程における基板11の温度分布を調整することにより製造できる。例えば、チャンバ内の気流の分布を制御したり、基板11の断熱構造を面内で異ならせることによって、基板の温度分布を調整してもよい。このとき、焼成工程において基板11が載置されるホットプレートに面内温度分布を持たせることによってチャンバ内の気流を制御してもよい。
【0072】
(有機発光層(第1の機能層、上部機能層))
有機発光層17は、開口部14a内に形成されており、ホールと電子の再結合により、R、G、Bの各色の光を発光する機能を有する。なお、特に、発光色を特定して説明する必要があるときには、有機発光層17(R)、17(G)、17(B)と記す。
【0073】
本実施の形態において、有機発光層17は、下地層に有機発光材料と所定の溶媒とを含むインクを塗布した後に乾燥させて成膜される塗布膜からなる構成を採る。有機発光層17に用いられる有機発光材料としては、例えば、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、アンスラセン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8-ヒドロキシキノリン化合物の金属鎖体、2-ビピリジン化合物の金属鎖体、シッフ塩とIII族金属との鎖体、オキシン金属鎖体、希土類鎖体等の蛍光物質や、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウムなどの燐光を発光する金属錯体等の燐光物質を用いることができる。
【0074】
また、ポリフルオレンやその誘導体、ポリフェニレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体等の高分子化合物等、もしくは前記低分子化合物と前記高分子化合物の混合物を用いて形成されてもよい。
【0075】
また、有機発光層17は、ホール輸送層16の第2領域16b上方に位置する有機EL素子2における単位面積当たりの有機化合物の量が、ホール輸送層16の第1領域16a上方において層中に位置する有機EL素子2における単位体積当たりの有機化合物の量よりも少なく構成されている。ここで、「有機化合物」とは、下地層であるホール輸送層16に含まれていた架橋構造を有する有機化合物が有機発光層17中に移動して有機発光層17中に存在するときの、有機発光層17中におけるその有機化合物の量を表す。
【0076】
なお、塗布膜である有機発光層17を形成するためのインクの詳細については後述する。
【0077】
(電子輸送層)
電子輸送層18は、対向電極20からの電子を発光層17へ輸送する機能を有する。電子輸送層18は、電子輸送性が高い有機材料、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などのπ電子系低分子有機材料が挙げられる。
【0078】
(電子注入層)
電子注入層19は、対向電極20から供給される電子を発光層17側へと注入する機能を有する。電子注入層19は、例えば、電子輸送性が高い有機材料に、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)やカルシウム(Ca)、バリウム(Ba)など、アルカリ金属やアルカリ土類金属から選択された金属がドープされて形成されている。
【0079】
電子注入層19に用いられる有機材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などのπ電子系低分子有機材料が挙げられる。
【0080】
(対向電極)
対向電極20は、透光性の導電性材料からなり、電子注入層19上に形成されている。対向電極20は、陰極として機能する。
【0081】
対向電極20の材料としては、例えば、銀、銀合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属を用いてもよい。この場合、対向電極20は透光性を有する必要があるため、膜厚は、10nm~50nmが望ましい。
【0082】
(封止層)
封止層21は、ホール輸送層16、発光層17、電子輸送層18、電子注入層19などの有機層が外部の水分に晒されたり、空気に晒されたりして劣化するのを防止するために設けられるものである。
【0083】
封止層21は、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの透光性材料を用いて形成される。
【0084】
(その他)
なお、図4には示されてないが、封止層21上に透明な接着剤を介して防眩用の偏光板や上部基板を貼り合せてもよい。また、各有機EL素子2により発光される光の色度を補正するためのカラーフィルターを貼り合わせてもよい。これらにより、ホール輸送層16、有機発光層17、第2機能層19などを外部の水分および空気などからさらに保護できる。
【0085】
<塗布法による有機機能層の形成について>
本実施の形態では、下地層に機能材料と溶媒とを含むインクを塗布した後に乾燥させて成膜する塗布法により、ホール注入層15、ホール輸送層16、有機発光層17頭の機能層を形成する構成を採る。以下、塗布法によるホール注入層15、ホール輸送層16、有機発光層17の形成について説明する。
【0086】
(機能層形成用インクの組成について)
先ず、塗布法により、ホール輸送層16、有機発光層17の形成工程で用いるインクについて説明する。
【0087】
[溶 質]
有機発光層17を形成工程で用いるインクに以下の溶質を用いることができる。
【0088】
機能性を有する溶質として高分子材料と低分子材料のものがある。高分子材料は、比較的増粘性が高いが、分子量分布を有し、また、精製が困難で高純度化しづらい等の欠点を有しているため、有機EL素子に用いた場合、発光色の色純度、発光効率、輝度等が低い傾向にある。
【0089】
これに対し、表示パネル10では、低分子材料からなる発光材料を用いた有機発光層17を備えた構成としてもよい。低分子材料からなる発光材料を用いた有機発光層は、上記高分子の機能性材料よりも合成ルートが短く簡易に製造でき、さらにカラムクロマトグラフィーや再結晶等の公知の技術で高純度に精製できる。このため、有機EL素子に用いたときに、発光効率に優れ、また、色純度が高く、色のバリエーションも豊富という長所がある。
【0090】
ここで、「低分子」とは、分子量Mw(重量平均分子量)が3000以下のものであることが望ましい。有機材料の分子量Mwは、公知の低分子GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)やLC(液体クロマトグラフィー)を用いて測定できる。
【0091】
なお、有機発光層17形成用のインクが、溶質の濃度3wt%におけるインク粘度が、溶媒単独での粘度の2倍以下の条件を満たすものである場合には、溶質として、上記「低分子」に限らず、相対的に低い分子量の高分子有機化合物を用いてもよい。
【0092】
また、ホール輸送層16を形成工程で用いるインクには、溶質として、上記した各種誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体、重合体などの高分子化合物、単量体などの低分子化合物などを用いることができる。
【0093】
同様に、ホール輸送層15を形成工程で用いるインクには、溶質として、上記した各種金属酸化物、低分子量の有機化合物、高分子材料などを用いることができる。
【0094】
[溶 媒]
ホール注入層15、ホール輸送層16、有機発光層17を形成工程で用いるインクには、以下の溶媒を用いることができる。
【0095】
溶質が高分子材料の場合には、溶媒の蒸発に伴って自然にインクの粘度が高くなり、その対流が抑えられて比較的均一な膜厚の形成が可能である。これに対し、溶質が低分子材料の場合には、溶質自体の増粘作用は小さく、インクの粘度は、ほぼその溶媒の粘度に依存する傾向にある。
【0096】
表示パネル10では、低分子量の機能性材料からなる溶質に対し、インクの溶媒として、芳香族系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒などを挙げることができる。
【0097】
芳香族系溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、直鎖または分岐のプロピルベンゼン、ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、ノニルベンゼン、デシルベンゼン、ウンデシルベンゼン、ドデシルベンゼン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼンなどを挙げることができる。
【0098】
炭化水素系溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカンなど炭素数6以上の直鎖、分岐鎖の飽和、および不飽和の炭化水素系溶媒などを挙げることができる。
【0099】
ハロゲン系溶媒としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエンなどを挙げることができる。
【0100】
エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸オクチルなどを挙げることができる。
【0101】
エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、3-フェノキシトルエンなどを挙げることができる。
【0102】
アルコール系溶媒としては、イソプロピルアルコールなどを挙げることができる。
【0103】
上述の溶媒は、1種のみまたは2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0104】
<検証実験>
(ホール輸送層16の焼成温度と架橋率との関係)
ホール輸送層16を形成するための焼成温度を変化させたときの、ホール輸送層16の洗浄後の残膜率を測定した。図5は、焼成温度を変化させたときのホール輸送層の架橋率の変化を評価する工程の工程図である。図7(a)は、図5における溶媒洗浄(ステップS24)の模式図である。本評価方法は、図5に示すように、ホール輸送層形成用の有機化合物を用いてインクを形成し(ステップS21)、スピンコート法によりガラス基板上にインクを製膜した後ベークしてホール輸送層を製膜して(ステップS22)、膜厚を測定する(ステップS23)。その後、形成したホール輸送層の表面を有機発光層形成用のインクに用いる溶媒により洗浄し(ステップS24、図7(a))、洗浄後の膜厚を測定して(ステップS25)、洗浄後の残膜率を評価するというものである。
【0105】
図6は、洗浄工程の前後におけるホール輸送層の膜厚の測定結果と洗浄後の残膜率を示す図である。評価では、焼成条件を条件A:190℃60分と、条件B:200℃60分の2条件で実施した。なお、焼成はいずれも窒素雰囲気下で実施した。
【0106】
図6に示すように、200℃60分の焼成条件(条件B)では、100%の残膜率が得られたのに対し、190℃60分の焼成条件(条件A)では残膜率は98~99%であった。
【0107】
これより、200℃60分の焼成条件では、有機発光層形成用インクの溶媒によりホール輸送層の有機化合物の溶け出しが生じないのに対し、190℃60分の焼成条件では、有機発光層形成用インクの溶媒にホール輸送層の有機化合物の溶け出しが生じること、すなわち、架橋率が相対的に低い場合に、ホール輸送層形成用の有機化合物が有機発光層形成用インクの溶媒に溶け出すことが見て取れる。
【0108】
(ホール輸送層からの有機化合物の有機発光層への溶け出し量と有機発光層の膜厚分布との関係)
ホール輸送層の有機化合物の有機発光層への溶け出し量を変えて、有機発光層の膜厚分布を測定した。図7(b)は、ホール輸送層の有機化合物の有機発光層への溶け出し量を変化させたときの有機発光層の膜厚分布の変化を評価する方法の模式図である。本評価方法は、低分子有機化合物からなる有機発光層形成用のインクに、ホール輸送層形成用の有機化合物を所定量添加し(図7(b))、インクジェットでバンクに囲まれた領域内にインクを塗布、乾燥し、膜厚分布を測定するというものである。なお、インク塗布時の下地層としては、200℃60分の焼成条件で製膜したホール輸送層を用いた。200℃60分の残膜率が100%の条件で製膜することで、塗布してからの有機化合物の溶け出しの影響を縮減することができる。
【0109】
図8(a)~(c)は、ホール輸送層の有機化合物の有機発光層への添加量を変化させたときの有機発光層の膜厚分布の測定結果を示す図であり、(b)は、有機発光層形成用のインクにホール輸送層形成用の有機化合物を2wt%添加した場合、(c)は、5wt%添加した場合、(a)は、添加しない場合の測定結果である。横軸は、隔壁の幅方向(短軸方向)の距離を単位[μm]で示している。本例では隔壁の幅は60[μm]であり、その幅方向中央の位置を「0」とし、-30[μm]と+30[μm]の位置にほぼ横軸に垂直に隔壁が存在する。また、縦軸は、下層の塗布面からの発光層の表面の高さ、すなわち膜厚を単位[nm]で示している。
【0110】
図8に示すように、有機化合物を添加しない(a)では、膜厚がほぼ均一になっている膜厚分布が得られ、有機化合物をそれぞれ2wt%、5wt%添加した(b)、(c)では、有機発光層の膜厚分布は、副画素の中央部分が凸形状となった。すなわち、有機発光層形成用のインクがホール輸送層形成用の有機化合物を含む場合には、形成された有機発光層の膜厚分布が副画素の中央部分が凸形状となることが見て取れる。
【0111】
(ホール輸送層16の焼成温度と有機発光層の膜厚分布との関係)
ホール輸送層16を形成するための焼成温度を変化させたときの、有機発光層の膜厚分布を測定した。図9(a)、(b)は、ホール輸送層の焼成温度を変化させたときの有機発光層の膜厚分布の測定結果を示す図であり、(a)は、ホール輸送層の架橋率が相対的に低い190℃60分の焼成条件を用いたときの膜厚分布、(b)は、架橋率が相対的に高い200℃60分の焼成条件を用いたときの膜厚分布の測定結果である。図9に示すように、190℃60分の焼成条件を用いた(a)では、有機発光層の膜厚分布は、副画素の中央部分が凸形状となるのに対し、200℃60分の焼成条件を用いた(b)では、膜厚がほぼ均一になっている膜厚分布が得られた。
【0112】
図10(a)は、図9(a)の場合の有機発光層の形成過程を、(b)は、図9(b)の場合の有機発光層の形成過程を説明するための模式断面図である。
【0113】
図10(a)に示すように、190℃60分の焼成条件を用いた条件では、有機発光層用のインク中に溶け込んだホール輸送層の有機化合物により、有機発光層用のインクが増粘するため、乾燥工程の中盤でインクが流動性を失う。そのため、乾燥工程の終盤まで対流が続かず有機発光層の膜厚分布は、副画素の中央部分が凸形状となる傾向があると考えられる。
【0114】
これに対し、図10(b)に示すように、200℃60分の焼成条件を用いた条件では、有機発光層用のインク中にホール輸送層の有機化合物が溶け込んで、有機発光層用のインクが増粘する現象が生じにくい。そのため、乾燥工程の中盤でインクが流動性を失われず、乾燥工程の終盤まで対流が続き、条件によっては、バンク壁面にインクのせり上がり部が形成されて、有機発光層の膜厚分布は、図10(a)に比べて、相対的に副画素の中央部分が凹形状となると考えられる。
【0115】
以上の結果から、ホール輸送層を形成するための有機化合物の架橋率が相対的に低い場合には、その有機発光層用のインク中に溶け出して、インクが増粘することにより、有機発光層の膜厚分布が副画素の中央部分において凸形状となる傾向があることがわかる。また、ホール輸送層を形成するための有機化合物の架橋率が相対的に高い場合には、その有機化合物が有機発光層用のインク中に溶け出して、インクが増粘する現象が生じにくく、有機発光層の膜厚分布が副画素の中央部分において凹形状となる傾向があることがわかる。
【0116】
<ホール輸送層16の架橋率と有機発光層17の面内の膜厚分布との関係>
以下、本実施の形態に係る表示パネル10における、ホール輸送層16の構成と有機発光層17の膜厚分布との関係について説明する。
【0117】
有機発光材料を溶媒に溶解もしくは分散させたインクを基板面に塗布した後、乾燥させて塗布膜を形成する有機発光層17を製造する塗布法では、乾燥に用いるチャンバーの排気口の位置や構造などにより、排気速度が基板11の面内で不均一となり、膜形状がバラついてしまうという課題がある。具体的には、上述のとおり、成膜エリアの中央領域と周辺領域では、周縁領域の方が中央領域よりも溶媒蒸気圧が低くなることにより溶媒の蒸発速度が大きく、基板中央領域に形成される画素の有機機能層17と基板周辺領域に形成される画素の有機機能層とは膜厚が互いに異なる傾向がある。
【0118】
これに対し、本実施の形態に係る表示パネル10は、成膜エリアの中央領域と周辺領域とでホール輸送層16の架橋率を変化させることにより、有機機能層17のインクを塗布したときに、インクに下地層となるホール輸送層16から溶け込む有機化合物の量を変化させることで、有機機能層17におけるインクの増粘挙動を面内で制御し、排気速度の違いによる膜形状の不均一化を抑制を図るものである。ホール輸送層16の架橋率の調整は、下地層のホール輸送層16を形成するための材料構成やベーク温度などを成膜エリアの中央領域と周辺領域とで変化させることにより行うことができ、ホール輸送層16の架橋率を中央領域と周辺領域とで異ならせることができる。
【0119】
なお、有機機能層の架橋率は、以下に示す公知の測定方法を用いて測定することができる。例えば、TD-NMR(TD-NMR:Time Domein NMR)により、有機機能層における有機化合物の緩和時間を測定して算出してもよい。あるいは、例えば、TOF-SIMS(TOF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)により、発光層深さにおける下地層起因のイオン強度分布を測定し、その強度から上層への溶け込み量を算出してもよい。
【0120】
図11は、有機EL表示パネル10の成膜エリアの中央領域と周辺領域における塗布膜と下地層の構成を示す図である。
【0121】
図11上欄に示すように、排気速度が速く対流が発生しにくい周辺領域では、乾燥によるインクの増粘により対流が続かず、バンク壁面方向へのインク移動が少なく、従来、有機発光層は副画素の中央部分が凸状の膜厚分布であった。これに対し、表示パネル10では、下層である、例えば、ホール輸送層16の架橋率を上げた構成を採る。これにより、上層である、例えば、有機機能層17のインクにホール輸送層16から溶け込む有機化合物の量を減少させて、有機機能層17のインクの増粘を抑制し、対流を維持してバンク壁面方向へのインク移動を促進し、有機発光層17の膜厚分布を平坦化することができる。
【0122】
また、図11下欄に示すように、排気速度が遅く対流が発生しやすい中央領域では、従来、対流が続き、バンク壁面にインクのせり上がり部が形成されて、有機発光層は副画素の中央部分が凹形状の膜厚分布になる。これに対し、表示パネル10では、下層である、例えば、ホール輸送層16の架橋率を下げた構成を採る。これにより、上層である、例えば、有機機能層17のインクにホール輸送層16から溶け込む有機化合物の量を増加させて、有機機能層17のインクを増粘させて対流を抑制し、有機発光層17の膜厚分布を平坦化する。
【0123】
以上により、表示パネル10によれば、パネル面内で有機機能層17の膜厚のバラツキを抑制し、面内で均一な発光特性を得ることが可能となる。
【0124】
<有機EL素子の製造方法>
以下、本開示の一態様に係る機能層形成用インクを使用したトップエミッション型の有機EL素子および当該有機EL素子を使用した有機EL表示パネルおよびその製造方法について、以下図12図16を用いて説明する。図12は、有機EL素子2の製造過程を示すフローチャートであり、図13図16は、有機EL素子2の製造過程を模式的に示す断面図である。なお、図面は模式的なものを含んでおり、各部材の縮尺や縦横の比率などが実際とは異なる場合がある。
【0125】
(基板準備工程)
まず、図13(a)に示すように、基材111上にTFT層112を形成して基板11を準備する(図12のステップS1)。TFT層112は、公知のTFTの製造方法により形成することができる。
【0126】
(平坦化層形成工程)
次に、図13(b)に示すように、基板11上に、平坦化層12を形成する(図12のステップS2)。
【0127】
具体的には、一定の流動性を有する樹脂材料を、例えば、ダイコート法により、基板11の上面に沿って、TFT層112による基板11上の凹凸を埋めるように塗布する。これにより、平坦化層12の上面は、基材111の上面に沿って平坦化した形状となる。
【0128】
平坦化層12における、TFT素子の例えばソース電極上の個所にドライエッチング法を行い、コンタクトホール(不図示)を形成し、その後、コンタクトホールの内壁に沿って接続電極層を形成する。接続電極層の形成は、例えば、スパッタリング法を用いて金属膜を成膜した後、フォトリソグラフィ法およびウエットエッチング法を用いてパターニングすればよい。
【0129】
(画素電極形成工程)
次に、図13(c)に示すように、平坦化層12上に画素電極材料層130を形成する。画素電極材料層130は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などを用いて形成することができる。そして、図13(d)に示すように、画素電極材料層130をエッチングによりパターニングして、副画素ごとに区画された複数の画素電極13を形成する(図12のステップS3)。
【0130】
(隔壁・画素規制層形成工程)
次に、隔壁14および画素規制層141を形成する(図12のステップS4)。
【0131】
本実施の形態では、画素規制層141と隔壁14を別工程で形成している。
【0132】
[画素規制層形成]
まず、Y方向(図3)における画素電極列を副画素毎に仕切るため、X方向に伸びる画素規制層141を形成する。
【0133】
図14(a)に示すように、画素電極13が形成された平坦化層12上に、画素規制層141の材料となる感光性の樹脂材料を一様に塗布して、画素規制層材料層1410を形成する。このときの樹脂材料の塗布量は、乾燥後に狙いの画素規制層141の膜厚となるように予め求められている。
【0134】
具体的な塗布方法として、例えばダイコート法やスリットコート法、スピンコート法などのウエットプロセスを用いることができる。塗布後には、例えば、真空乾燥及び60℃~120℃程度の低温加熱乾燥(プリベーク)などを行って不要な溶媒を除去するとともに、画素規制層材料層1410を平坦化層12に定着させることが好ましい。
【0135】
そして、フォトリソグラフィ法を用いて、画素規制層材料層1410をパターニングする。例えば、画素規制層材料層1410がポジ型の感光性を有する場合は、画素規制層141として残す箇所を遮光し、除去する部分が透明なフォトマスク(不図示)を介して画素規制層材料層1410を露光する。
【0136】
次に、現像を行い、画素規制層材料層1410の露光領域を除去することにより、画素規制層141を形成することができる。具体的な現像方法としては、例えば、基板11全体を、画素規制層材料層1410の露光により感光した部分を溶解させる有機溶媒やアルカリ液などの現像液に浸した後、純水などのリンス液で基板11を洗浄すればよい。
【0137】
その後、所定温度で焼成(ポストベーク)することにより、平坦化層12上に、X方向に延伸する画素規制層141を形成することができる(図14(b))。
【0138】
[隔壁形成]
次に、Y方向に伸びる隔壁14を上記画素規制層141と同様にして形成する。
【0139】
すなわち、上記画素電極13、画素規制層141が形成された平坦化層12上に、隔壁用の樹脂材料を、ダイコート法などを用いて塗布して、隔壁材料層140を形成する(図14(c))。このときの樹脂材料の塗布量は、乾燥後に狙いの隔壁14の高さとなるように予め求められている。そして、フォトリソグラフィ法により隔壁材料層140にY方向に延在する隔壁14をパターニングした後、所定の温度で焼成して隔壁14を形成する(図14(d))。
【0140】
なお、上記では、画素規制層141と隔壁14のそれぞれの材料層をウエットプロセスで形成した後にパターニングするようにしたが、いずれか一方または双方の材料層をドライプロセスで形成して、フォトリソグラフィ法とエッチング法により、パターニングするようにしてもよい。
【0141】
(ホール注入層・ホール輸送層形成工程)
次に、ホール注入層15およびホール輸送層16を形成する(図12のステップS5)。
【0142】
まず、ホール注入層15は、上述したホール注入特性を有する低分子材料を、混合溶媒に溶解、もしくは分散させたインクを印刷装置の塗布ヘッド301のノズル3011から吐出して、開口部14a内に塗布し、溶媒を揮発除去させ、および/または焼成することにより形成される。
【0143】
ホール輸送層16は、上記ホール注入層15上に、上述したホール輸送特性を有する低分子材料を混合溶媒に溶解、もしくは分散させたインクを用いて、上記ホール注入層15と同じ塗布法により、形成される。ホール注入層15、ホール輸送層16形成用のインクの塗布方法としては、インクジェット法、スクリーン印刷等の各種印刷法、スピンコート法、ディスペンサ法等の、湿式製膜法を用いることができる。
【0144】
ここで、ホール輸送層16は、上述のとおり、基板11面内の周辺領域10b上に位置する第2領域16b(図2参照)における有機化合物の架橋率が、基板11面内の中央領域10a上に位置する第1領域16a(図2参照)における有機化合物の架橋率よりも高く構成されている。このような、ホール輸送層16は、ホール輸送層16の第1領域16aと第2領域16bを異なる焼成条件で、ベークすることにより製造することができる。例えば、ホール輸送層16の焼成工程において、第2領域16bに対する焼成温度が、第1領域16aに対する焼成温度よりも高くなるよう温度分布を調整することによって、第2領域16bにおける有機化合物における分子内の架橋密度が、第1領域16aにおける有機化合物における分子内の架橋密度よりも多くなるように製造してもよい。本実施の形態では、ホール輸送層16の第2領域16bを窒素雰囲気中において焼成温度約200℃にて約60分間ベークすることにより架橋率100%の層領域を形成し、第1領域16aを窒素雰囲気中において焼成温度約190℃にて約60分間ベークすることにより架橋率98%の層領域を形成する構成としている。しかしながら、上記した焼成温度、焼成時間は、一例であって、上記条件に限れるものではないことは言うまでもない。
【0145】
また、形成されるホール輸送層16が上記の架橋率を満たすものである場合には、ホール注入層15、ホール輸送層16は、真空蒸着法、スパッタチング法、イオンビーム蒸着法、CVD法等の気相成長法によって形成されてもよい。
【0146】
なお、図14(a)は、ホール注入層15形成後にホール輸送層16を形成している際における表示パネル10の模式断面図を示している。
【0147】
(有機発光層形成工程)
次に、上記ホール輸送層16の上方に、有機発光層17を形成する(図12のステップS6)。
【0148】
具体的には、上記発光材料のうち低分子材料からなる発光材料を例えば、を図15(b)に示すように、各開口部14aに対応する発光色の有機発光層の構成材料である低分子量の有機発光材料を上記混合溶媒で溶解したインクを、印刷装置の塗布ヘッド301のノズル3011から順次吐出して開口部14a内のホール輸送層16上に塗布し、インク塗布後の基板11を真空乾燥室内に搬入して真空環境下で加熱することにより、インク中の有機溶媒を蒸発させて形成する。
【0149】
このとき、排気速度が速く対流が発生しにくい第2領域16b(周辺領域)では、ホール輸送層16の架橋率を上げた構成を採ることにより、有機機能層17のインクにホール輸送層16から溶け込む有機化合物の量を減少させて、有機機能層17のインクの増粘を抑制し、対流を維持してバンク壁面方向へのインク移動を促進し、有機発光層17の膜厚分布の平坦化を図る。
【0150】
また、排気速度が遅く対流が発生しやすい第1領域16a(中央領域)では、従来、対流が続き、ホール輸送層16の架橋率を下げた構成を採ることにより、有機機能層17のインクにホール輸送層16から溶け込む有機化合物の量を増加させて、有機機能層17のインクを増粘させて対流を抑制し、有機発光層17の膜厚分布の平坦化を図る。このとき、高分子材料と比較して、粘度が上昇しにくい低分子材料からなる発光材料からなるインクを用いることにより、ノズル3011を抑止しつつ、塗布後においてもインクの流動性を確保して膜厚を適切に制御することができる。
【0151】
また、ここでも、有機発光層17形成用のインクの塗布方法としては、インクジェット法、スクリーン印刷等の各種印刷法、スピンコート法、ディスペンサ法等の、湿式製膜法を用いることができる。
【0152】
(電子輸送層形成工程)
次に、図16(a)に示すように、有機発光材料層170および隔壁14の上に、低分子量の電子輸送性材料を上記混合溶媒で溶解したインクを、印刷装置の塗布ヘッド301のノズル3011から吐出して開口部14a内の有機発光層17上に塗布し、インク中の有機溶媒を蒸発させて、電子輸送層18を形成する(図12のステップS7)。
【0153】
(電子注入層形成工程)
続いて、図16(b)に示すように、電子輸送層18上に、電子注入性の材料を真空蒸着して電子注入層19を成膜する(図12のステップS8)。
【0154】
(対向電極形成工程)
次に、機能層19上に対向電極20を形成する(図12のステップS9)
対向電極形成工程は、まず、機能層19上に銀、アルミニウム等を、スパッタリング法、真空蒸着法により成膜して形成する(図16(c))。
【0155】
(封止層形成工程)
次に、図16(d)に示すように、対向電極20上に、封止層21を形成する(図12のステップS10)。封止層21は、SiON、SiN等を、スパッタリング法、CVD法などにより成膜することにより形成することができる。
【0156】
以上により図4に示す表示パネル10が製造される。なお、上記の製造方法は、あくまで例示であり、趣旨に応じて適宜変更可能である。
【0157】
<小 括>
以上説明したとおり、本実施の形態に係る自発光型表示パネル10は、複数の発光素子が面状に配された自発光型表示パネル10であって、発光素子は、相対する一対の電極13、19と、一対の電極13、19間に配された、発光層17を含む複数の有機機能層15、16、17、18を含み、複数の有機機能層15、16、17、18は、低分子材料を機能性材料として含む塗布膜からなる第1の機能層17と、塗布膜に対する下地層として、架橋構造を有する有機化合物を含む第2の機能層16とを含み、第2の機能層16における、面の中央Oを含む所定の範囲を第1領域16a、第1領域よりも面外方に位置する領域を第2領域16bとしたとき、第2領域16bにおける有機化合物の架橋率が、第1領域16aにおける有機化合物の架橋率よりも高い構成を採る。
【0158】
係る構成により、自発光型表示パネル10における面内の中央Oを含む所定範囲の第1領域10a(中央領域)、および当該領域10aよりも面外方に位置する第2領域10b(周辺領域)における有機機能層17の膜厚の均一化を図ることができる。これより、自発光型表示パネル10の面内輝度ムラを改善することができる。
【0159】
すなわち、排気速度が速く対流が発生しにくい周辺領域において、上層である有機機能層17のインクにホール輸送層16から溶け込む有機化合物の量を減少させて、有機機能層17のインクの増粘を抑制し、対流を維持してバンク壁面方向へのインク移動を促進し、有機発光層17の膜厚分布を平坦化することができる。
【0160】
また、排気速度が遅く対流が発生しやすい中央領域において、上層である有機機能層17のインクにホール輸送層16から溶け込む有機化合物の量を増加させて、有機機能層17のインクを増粘させて対流を抑制し、有機発光層17の膜厚分布を平坦化することができる。
【0161】
その結果、パネル面内で有機機能層17の膜厚のバラツキを抑制し、面内で均一な発光特性を得ることが可能となる。
【0162】
≪変形例≫
以上、実施の形態に係る有機EL素子2等を説明したが、本発明は、その本質的な特徴的構成要素を除き、以上の実施の形態に何ら限定を受けるものではない。例えば、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。以下では、そのような形態の一例として、有機EL素子、有機EL表示パネルの変形例を説明する。
【0163】
(1)上記実施の形態では、ホール輸送層16は、基板11面内の周辺領域10b上に位置する第2領域16bをホール輸送層16の基板11面内の中央領域10a上に位置する第1領域16aよりも高い焼成温度で、ベークすることにより、第2領域16bにおける有機化合物の架橋率が、第1領域16aにおける有機化合物の架橋率よりも高く構成される構成とした。しかしながら、異なる構成によって、第1領域16aと第2領域16bとの焼成条件を異ならせてもよい。例えば、第2領域16bにおける平坦化層12の厚みが、第1領域10aにおける平坦化層の厚みよりも薄く構成され、第2領域16bにおける熱伝導性が、第1領域10aにおける熱伝導性よりも高い平坦化層12を、ホール輸送層16に敷設する構成としてもよい。あるいは、基板11の第1領域16aの裏面に厚さ数百μm程度の断熱フィルムを貼着して、第1領域16aの断熱性を高める構成としてもよい。係る構成により、実施の形態と同様に、第2領域16bをホール輸送層16の第1領域16aよりも高い焼成温度でベークすることができ、ホール輸送層16における第2領域16bにおける架橋率を第1領域16aにおける架橋率より高めることができる。
【0164】
(2)また、別の態様では、上層の有機発光層17に低分子材料を使用する場合、下地層にホール輸送層16に99%以上の残膜率となるの材料・プロセスを使用する構成としてもよい。
【0165】
塗布法に用いる有機発光層17の材料として、高い材料性能や、インクを高濃度化しても低粘度が維持できる観点から、低分子系の材料を選択することができる。一方、有機発光層17の下地層にあたるホール輸送層16の材料は、有機発光層17インクを塗布した場合に溶解しないため、熱架橋などで不溶化できる高分子系の材料が一般的に使用されている。ホール輸送層16の材料の不溶化が不十分な場合、有機発光層17インクを塗布した場合に、不溶化しきっていないホール輸送層16の材料の一部が溶け込んでしまうことがある。有機発光層17が高分子系材料の場合、微量な高分子ホール輸送層16材料の溶け込みは大きくインク物性を変化させない。そのため、上層に高分子系の材料を使用する場合、ホール輸送層16の残膜率が95%程度あっても、溶け込み量のバラツキが面内の不均一化をもたらさない。
【0166】
しかしながら、有機発光層17が低分子系材料である場合、微量な高分子ホール輸送層16材料の溶け込みであっても、インクの増粘挙動が大きく変化してしまうという課題がある。そのため、溶け込み量のバラツキが膜形状のバラツキをもたらし、面内で均一な特性を得ることが困難となる。そのため、上層の有機発光層17に低分子材料を使用する場合、下地層にホール輸送層16に99%以上の残膜率となるの材料・プロセスを使用することにより、面内で膜形状のバラツキがなく、均一な特性を得ることができる。
【0167】
(3)上記実施の形態では、発光素子2に含まれる機能層(ホール注入層15、ホール輸送層16、有機発光層17、電子輸送層18.電子注入層19)のうち、有機発光層17を第1の機能層又は上部機能層とし、ホール輸送層16を第2の機能層又は下部機能層とする構成について紹介した。しかしながら、本開示では、第1の機能層又は上部機能層は、塗布膜であればよく、他の機能層を第1の機能層又は上部機能層とし、その下地となる層を第2の機能層又は下部機能層とする構成としてもよい。
【0168】
(4)また、別の態様では、低分子才良うからなるインクを塗布する前に、下地層に高分子からなるインクを塗布し、後から塗布する低分子インクに溶け込ませることで、乾燥中の増粘挙動を制御してもよい。
【0169】
塗布法により、塗布→乾燥を経て機能層を成膜する過程において、固形分による粘度の発現が極めて小さい低分子材料からなるインクは、乾燥中の増粘するように制御することが困難であるため、膜形状の制御が難しいという課題がある。
【0170】
これに対し、低分子材料からなるインクを塗布する前に、下地層に高分子からなるインクを塗布し、後から塗布する低分子インクに溶け込ませることで、乾燥中の増粘挙動を制御することにより、例えば、インクをインクジェット装置から吐出する段階においては、高分子インクが溶け込んでいないため、低粘度で吐出することが可能であり、着弾後、乾燥過程で増粘するため、インクの吐出性に影響を与えることなく、印刷膜形状を制御することができる。これにより、平坦性の良好な印刷膜形状を実現することができる。
【0171】
(5)また、別の態様では、低分子材料からなるインクに、素発光素子の特性に影響を与えない構造を持った微量の高分子材料を添加することで、乾燥中のインク増粘挙動を制御し、膜形状の制御を行う構成としてもよい。
【0172】
これに対し、分子材料からなるインクに、素発光素子の特性に影響を与えない構造を持った微量の高分子材料を添加することで、乾燥過程で増粘するため、発光素子の特性に影響を与えることなく、印刷膜形状を制御することができる。これにより、平坦性の良好な印刷膜形状を実現することができる。
【0173】
(6)上記実施の形態では、溶質として低分子材料のものを考えたが、初期のインク粘度が吐出可能条件を満たすのであれば、高分子材料を溶質としても構わない。高分子材料の溶質は溶媒の蒸発により自発的に増粘するので、本開示の態様に係る混合溶媒に溶解もしくは分散させることにより、より増粘タイミングの早いインクを提供でき、乾燥段階でのインクの対流を抑制して機能層の平坦率をより向上させることができると考えられる。
【0174】
(7)塗布法により形成する機能層は、陽極からのホールの移動を容易にするホール注入層、ホール輸送層、ホール注入輸送層や、陰極からの電子の移動を容易にする電子注入層、電子注入輸送層、電子注入輸送層(以下、これらを「電荷移動容易化層」と総称する。)および/または有機発光層のうち少なくとも1層が、本開示の態様に係る混合溶媒に機能性材料を溶解もしくは分散させたインクを用いて塗布法により形成されていれば、残りの機能層については、真空蒸着法などのドライプロセスにより形成するようにしても構わない。
【0175】
少なくとも機能層のうち一層、とりわけ有機発光層を、本発明に係る混合溶媒を用いて形成することにより、成膜の平坦率を向上させて発光効率や耐久性に優れた有機EL素子を提供できる。
【0176】
(8)上記実施の形態においては、陰極が対向電極であり、かつ、トップエミッション型の有機EL素子であるとした。しかしながら、例えば、陽極が対向電極であり、陰極が画素電極であってもよい。また、例えば、ボトムエミッション型の有機EL素子であってもよい。
【0177】
(9)また、上記実施の形態においては、有機EL素子2は、電子輸送層18や電子注入層19、ホール注入層15やホール輸送層16を有する構成であるとしたが、これに限られない。例えば、電子輸送層18を有しない有機EL素子や、ホール輸送層16を有しない有機EL素子であってもよい。また、例えば、ホール注入層15とホール輸送層16とに代えて、単一層のホール注入輸送層を有していてもよい。
【0178】
(10)ノズルを介して高精細なインクの塗布が可能なものであれば、上記実施の形態における印刷装置に限らず、インクを連続的に基板上に吐出するディスペンサー方式の塗布装置を用いてもよい。
【0179】
(11)上記実施の形態では、列状に隔壁を形成するラインバンク方式の有機EL表示パネルについて説明したが、格子状に隔壁を形成して副画素ごとに周囲を隔壁で囲む、いわゆるピクセルバンク方式の有機EL表示パネルであっても構わない。
【0180】
(12)上記実施の形態では、自発光素子として有機EL素子を使用した有機EL表示パネルについて説明したが、その他、量子ドット発光素子(QLED:Quantum dot Light Emitting Diode)を使用した量子ドット表示パネル(例えば、特開2010-199067号公報参照)などの表示パネルについても、発光層の構造や種類が異なるだけで、画素電極と対向電極との間に発光層やその他の機能層を介在させるという構成において有機EL表示パネルと同じであり、本発明を適用することができる。
【0181】
≪補足≫
以上、本開示の一態様に係る機能層形成用インクおよび自発光素子の製造方法について、実施の形態および変形例に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態および変形例に限定されるものではない。上記実施の形態および変形例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態および変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明は、有機EL素子などの自発光素子における機能層を塗布法で形成する場合の機能層形成用インクとして好適である。
【符号の説明】
【0183】
2 有機EL素子
11 基板
12 平坦化層
13 画素電極
14 隔壁
14a 開口部
15 ホール注入層
16 ホール輸送層(第2の機能層、下部機能層)
17 有機発光層(第1の機能層、上部機能層)
18 電子輸送層
19 電子注入層
20 対向電極
21 封止層
図1
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