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特許7518686フェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板を用いた締結部品ならびにスポット溶接方法
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  • 特許-フェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板を用いた締結部品ならびにスポット溶接方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】フェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板を用いた締結部品ならびにスポット溶接方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240710BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240710BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240710BHJP
   B23K 11/16 20060101ALI20240710BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C22C38/00 302H
C22C38/58
C22C38/60
B23K11/16
B23K11/11 540
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020126118
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2022023289
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱田 純一
(72)【発明者】
【氏名】神野 憲博
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157218(JP,A)
【文献】特開2019-157219(JP,A)
【文献】特開2017-088945(JP,A)
【文献】特開2009-197326(JP,A)
【文献】特開2013-087352(JP,A)
【文献】特開2018-028146(JP,A)
【文献】特開2007-321182(JP,A)
【文献】特開2020-011253(JP,A)
【文献】特開平10-193134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
B23K 11/00 - 11/36
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%にて、
C:0.001~0.05%、Si:0.01~1.0%、Mn:2~5%、P≦0.05%、S≦0.005%、Ni:0.1~6.0%、Cr:15.0~23.0%、Mo:0.01~1.0%、Cu:0.01~2.0%、N:0.005~0.30%、B:0.0005~0.0100%、Al:0.01~0.5%、V:0.01~0.50%、Ca:0.0002~0.0100%、O:0.0001~0.0100%、Mg:0.0002~0.0100%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フェライト相とオーステナイト相の2相組織を示し、ビッカース硬度による硬さが260以下であるフェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板を用いた締結部品であって、
スポット溶接ナゲット部のオーステナイト相率が10%以上であることを特徴とするフェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板を用いた締結部品
【請求項2】
さらに前記Feの一部に替えて、質量%にて、
Ti:0.005~0.30%、Nb:0.005~0.30%、Zr:0.005~0.30%、Sn:0.005~0.50%、W:0.01~2.0%、Sb:0.005~0.5%、Ta:0.005~0.3%、Hf:0.005~0.3%、Co:0.01~0.5%、REM:0.001~0.05%、Ga:0.0002~0.1%の1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板を用いた締結部品
【請求項3】
スポット溶接ナゲット部の硬さと母材の硬さの差がビッカース硬度で50以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の締結部品。
【請求項4】
請求項から請求項までのいずれか1項に記載の締結部品を製造するためのスポット溶接方法であって、前記フェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板にスポット溶接を施す際に、2段通電を行い、2段目の通電において電流を2.5kA以上6.0kA以下、通電サイクルを10サイクル以上とすることを特徴とするスポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の締結部品、特に燃料部品を締結するために使用するタンクバンドへの適用に有効な、スポット溶接性に優れた、フェライト相とオーステナイト相から成る締結部品用フェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板およびこれを用いた締結部品ならびにスポット溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、排気ガス規制の強化が更に強まる他、燃費性能の向上やダウンサイジング等の動きから自動車の車体軽量化が進められており、各部材の薄肉化が急務である。自動車の締結部品であるフランジ、ブラケット、ステー、タンクバンドには主に鉄系材料が使用されており、ステンレス鋼の場合フェライト系ステンレス鋼板が適用される場合が多い。これらの部品は各種排気部品や燃料部品等を車体と結合するためのものであり、自動車走行時の振動、衝突時の衝撃、排気管を流れる排気ガスによる熱環境に耐える必要があり、高い信頼性が求められる。また、各部品は溶接によって結合されることが多く、溶接部の靭性および高強度が要求される。例えばステンレス製の燃料系部品の場合、燃料タンクを支持するタンクバンドへの高耐食フェライト系ステンレス鋼板であるSUS436L(17%Cr-0.2%Ti-1%Mo)の適用が特許文献1~3に開示されている。しかしながら、該鋼は低炭素・窒素成分に起因してフェライト単相組織を有することから、部品を溶接した際に溶接組織が粗大化してしまい、靭性や強度が低下する課題があった。また、素材の引張強度が450MPa程度であるため、所定の締結力を得るためには2mm以上の板厚とする必要があった。車体の軽量化を進めるためには、タンクバンドのような締結部品に対しても薄肉化を行う必要があるが、燃料タンクは重要保安部品であるため、これを支持するタンクバンドには極めて高い信頼性、強度が必要であり、従来の材料を用いる限り薄肉化は困難であった。
【0003】
一方、フェライト相とオーステナイト相から成る2相ステンレス鋼板は、耐食性に優れているとともに、微細組織であるため高強度であることから、化学プラントなど広範囲に使用されている。近年では省合金2相ステンレス鋼板が家電、各種構造物、自動車、二輪車および鉄道等の輸送機器への適用も進められている。従来の代表的な2相ステンレス鋼は、SUS329J4L(25%Cr-7%Ni-3%Mo-0.1%N)に代表される高Ni、Mo含有であったが、最近ではNi量を低減したり、Moを含有しない省合金フェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼が開発され、種々の分野に適用されつつある。このような省Ni、Mo含有鋼は、MnやNを添加することでオーステナイト量の調整や耐食性の確保が成されており、SUS304(18%Cr-8%Ni)やSUS316(18%Cr-10%Ni-2%Mo)の代替としても期待されている。
【0004】
特許文献4には、成分の他に形状アスペクトやオーステナイト粒の面積率等を所定の範囲にすることで成形性に優れるフェライト・オーステナイト系ステンレス鋼板の技術が開示されている。特許文献5~7にはオーステナイト相の面積率の他、集合組織や粒径を規定することで成形性に優れた2相ステンレス鋼板を得る技術が開示されている。更に、特許文献8には溶接熱影響部の耐食性と靭性が良好な省合金二相ステンレス鋼板を得ることが開示されている。しかしながら板厚が10mm以上の厚鋼板に対する大入熱溶接(サブマージアーク溶接)を前提とした技術であり、自動車締結部品に使用される薄鋼板の靭性や耐疲労強度に関する知見はなかった。特許文献8には、二相ステンレス鋼において介在物の密度を規定して溶接部の衝撃値や疲労強度を確保する技術が開示されているが、TIG溶接を対象としたものである。特に自動車燃料タンクを支持するタンクバンドはスポット溶接で結合される場合が多く、この点についての先行技術は少ない。特許文献9には、スポット溶接部のナゲット形状と強度を確保したフェライト・オーステナイト二相ステンレス鋼板およびこれを用いたタンクバンドならびに適正な溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-144040号公報
【文献】特開2004-330993号公報
【文献】特許第3941762号公報
【文献】特許第5869922号公報
【文献】2017-88945号公報
【文献】特許第6140856号公報
【文献】特許第5345070号公報
【文献】特開2019-157219号公報
【文献】特開2019-157218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、母材とスポット溶接部とを有する締結部品において、熱的に不安定な金属組織となる二相ステンレス鋼を母材として用い、通常のスポット溶接方法によってスポット溶接部を形成したのでは、強度や靭性を十分満足しない問題点があった。そこで、本発明ではスポット溶接時の組織形成を詳細に研究し、靭性を確保するためのフェライト、オーステナイト相構造の適正化を図るとともに、それを達成し得る鋼成分とスポット溶接条件を検討した。
【0007】
本発明は、高価な合金元素に頼らず、フェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板のスポット溶接部の信頼性を高めることのできる、締結部品用フェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板およびこれを用いた締結部品ならびにスポット溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らはフェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板のスポット溶接におけるナゲット形成ならびにその機械的特性について詳細に調査した。そして、かかる目的を達成すべく種々の検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0009】
本発明者らは,省合金2相ステンレス鋼板において、スポット溶接のナゲット組織と破断形態の安定化のために鋼成分を調整するとともに硬さを規定することによって優れたスポット溶接性が得られることを知見した。スポット溶接とは、2枚の素材を電極棒で加圧しつつ電流を流し、接触面の抵抗熱により素材内部で金属が溶解凝固して接合する手法であり、特にタンクバンドの結合に多用される。素材で溶解凝固した溶接部をナゲットと呼ぶ。スポット溶接はアーク溶接に比べて溶接温度が低く、溶接による変形や残留応力が小さい長所があるが、剥離試験を行った際に脆性的な破壊が生じないように溶接組織を安定化させる必要がある。材質によって電極を押し付ける加圧力、電流値、通電時間を変える必要があり、適正な溶接条件にしないと必要な強度が出ない他、接合界面で脆性的に破断する課題がある。本発明の材料の用途は自動車を主体とするタンクバンドであり、スポット溶接部にはせん断および剥離応力が作用する。その際に接合界面で脆性的に破壊する界面破壊が生じると溶接部の信頼性が得られない。本発明では、適正なナゲット組織を得るために素材の鋼成分とともに、硬さを規定する。また、スポット溶接時に二段通電を行うことにより、スポット溶接ナゲット部4のオーステナイト相を所定の量確保し、母材との硬度差を小さくすることにより、溶接部の信頼性を高めることを知見した。これにより、従来の鋼に比べて薄肉軽量化に寄与するタンクバンド等の締結部品を提供することに成功した。
【0010】
本発明は上記知見に基づいて完成したもので、その発明の要旨は、次の通りのものである。
【0011】
(1)質量%にて、
C:0.001~0.05%、Si:0.01~1.0%、Mn:2~5%、P≦0.05%、S≦0.005%、Ni:0.1~6.0%、Cr:15.0~23.0%、Mo:0.01~1.0%、Cu:0.01~2.0%、N:0.005~0.30%、B:0.0005~0.0100%、Al:0.01~0.5%、V:0.01~0.50%、Ca:0.0002~0.0100%、O:0.0001~0.0100%、Mg:0.0002~0.0100%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、フェライト相とオーステナイト相の2相組織を示し、ビッカース硬度による硬さが260以下であることを特徴とする締結部品用フェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板。
(2)さらに前記Feの一部に替えて、質量%にて、
Ti:0.005~0.30%、Nb:0.005~0.30%、Zr:0.005~0.30%、Sn:0.005~0.50%、W:0.01~2.0%、Mg:0.0002~0.0100%、Sb:0.005~0.5%、Ta:0.005~0.3%、Hf:0.005~0.3%、Co:0.01~0.5%、REM:0.001~0.05%、Ga:0.0002~0.1%の1種以上を含有することを特徴とする(1)に記載の締結部品用フェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板。
【0012】
(3)スポット溶接ナゲット部のオーステナイト相率が10%以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載のフェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板を用いた締結部品。
(4)スポット溶接ナゲット部の硬さと母材の硬さの差がビッカース硬度で50以下であることを特徴とする(3)に記載の締結部品。
(5)スポット溶接ナゲット部の硬さと母材の硬さの差がビッカース硬度で50以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のフェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板を用いた締結部品。
【0013】
(6)(3)から(5)までのいずれか1つに記載の締結部品にスポット溶接を施す際に、2段通電を行い、2段目の通電において電流を2.5kA以上6.0kA以下、通電サイクルを10サイクル以上とすることを特徴とするスポット溶接方法。
【発明の効果】
【0014】
以上の説明から明らかなように、自動車締結部品用に従来適用されているフェライト系ステンレス鋼板のタンクバンドの課題を解消するとともに、スポット溶接部のナゲット組織を安定化させることで強度を確保でき、特に自動車燃料タンクの締結部品に適用することで、既存鋼よりも薄肉・軽量化等のメリットが得られる。また、自動車分野以外の輸送機器、家電製品、建築部材としての適用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】スポット溶接部のナゲット形状を示す図である。
図2】スポット溶接部の剥離試験を示す図である。
図3】二段通電時の時間と電流および温度の関係を模式的に示した図である。
図4】発明鋼と比較鋼のスポット溶接ナゲット部の組織を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
まず、本発明のフェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板の化学成分についての限定理由について説明する。ここで、成分についての「%」は質量%を意味する。
【0018】
Cは、0.10%超の添加で成形性と耐食性が低下する他、溶接部で固溶して著しく硬質化させるため、上限を0.05%とした。しかしながら、オーステナイト相を安定的に生成させて組織微細化を得るために0.001%以上の添加が必要である。更に、精錬コスト、溶接部の鋭敏化抑制を考慮すると0.015~0.03%が望ましい。
【0019】
Siは、脱酸剤としても有用な元素であり、固溶強化による高疲労強度化につながるが、1.0%超の添加により熱間加工性が劣化して製造し難くなる他、溶接部の靭性低下が生じるため、1.0%以下とした。しかしながら、脱酸のためには0.01%以上必要なことから、下限を0.01%とした。更に、精錬コスト、耐酸化性、耐食性を考慮すると、0.3%~0.8%が望ましい。
【0020】
Mnは、脱酸剤として添加される元素であるとともに、Niに代わりオーステナイト相を安定的に生成させる元素である。本発明ではオーステナイト相率を40%以上とするために2%以上添加するが、過度に添加するとオーステナイト相が軟化して疲労亀裂進展の抵抗とならないため上限を5%とする。更に、耐酸化性や製造時の酸洗性を考慮すると、2.5~4.5%が望ましい。
【0021】
Pは、不純物として含有され製造時の熱間加工性や溶接部の靭性を劣化させるため、上限を0.05%とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加につながる他、リン化物形成による亀裂発生を考慮すると、0.02~0.04%が望ましい。
【0022】
Sは、不純物として含有され製造時の熱間加工性や溶接部の靭性を劣化させるため、0.005%以下とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加につながるため0.0002%以上が望ましい。
【0023】
Niはオーステナイト相を安定的に生成させる元素であり、溶接組織微細化と靭性向上に寄与するため0.1%を下限とする。一方、6.0%超の添加によりコスト高になるため上限を6.0%とした。但し、過度な低減は耐食性の劣化につながる場合がある他、応力腐食割れの観点から0.5~3.0%が望ましい。
【0024】
Crは耐食性や耐酸化性を確保するために15.0%以上添加する。一方、多量の添加は合金コストの増加につながる他、オーステナイト相率が困難になる他、溶接組織が粗大化するため上限を23.0%とした。更に、靭性等の製造性や隙間腐食性を考慮すると、19~22%が望ましい。
【0025】
Nは2相ステンレス鋼の耐食性や強度を向上させるとともに、オーステナイトを安定的に生成させて溶接組織の微細化に寄与するため、特に省Ni2相ステンレス鋼には必要な元素である。本発明では0.005%以上の添加を行うが、0.30%超添加するとオーステナイト相率が過度に多くなる他、溶接部の固溶Nによる硬質化ならびにCrNの生成による低靭性化、低耐食化が生じるため上限を0.30%とする。また、精錬コストや延性を考慮すると、0.01~0.25%が望ましい。更に、製造性や高温強度を考慮すると、0.05~0.20%が望ましい。
【0026】
Moは、耐食性や高温強度向上に寄与する元素であるとともに、疲労強度向上に有効な元素であるため、0.01%以上添加する。また、偏析元素であるため溶接凝固時にフェライト/オーステナイト相界面に濃化し、組織微細化に寄与して靭性や疲労強度の向上に有効であることを見出した。一方、1.0%超の添加はコスト高になる他、Moはフェライト相生成元素であり、オーステナイト相の確保や組織微細化が困難になることから、上限を1.0%とした。但し、合金コストや製造性を考慮すると、0.1~0.5%が望ましい。
【0027】
Cuは、耐食性に寄与する元素であり、オーステナイト相生成元素であるため、オーステナイト相率の調整のために0.01%以上添加する。また、偏析元素であるため、フェライト/オーステナイト相界面に濃化し、組織微細化に寄与して靭性や疲労強度の向上に有効であることを見出した。一方、2.0%超の添加は製造性を著しく低下させる他、析出Cuの影響で溶接部の靭性が低下することから上限を2.0%とした。但し、精錬コストや熱間加工性や酸洗性を考慮すると、0.5~1.5%が望ましい。
【0028】
Bは、溶接凝固時にフェライト/オーステナイト相界面に偏析し、組織微細化に寄与して靭性や疲労強度の向上に有効であるとともに、2段通電時にオーステナイト相を分散析出させることを見出した。この効果は0.0005%以上で発現することから0.0005%以上添加する。但し、フェライト生成元素である他、凝固割れ感受性が高くなることから上限を0.0100%とする。更に、粒界腐食性を考慮すると、0.0005~0.0030%が望ましい。
【0029】
Alは、脱酸剤として活用できる他、耐酸化性や耐食性を向上させる他、適量の添加によって介在物の微細分散化によって溶接凝固時の凝固核として作用し、溶接組織微細化と靭性向上および疲労強度向上に寄与することを見出した。また、酸化物が核となり2段通電時にオーステナイト相を分散析出させることも見出した。この効果は0.01%以上で発現するため、下限を0.01%とした。一方、0.5%超の添加では、耐酸化性や耐食性の向上が飽和するとともに、AlNやAl系酸化物が凝集粗大化して衝撃および疲労亀裂の起点となるため、上限を0.5%とした。但し、靭性を考慮すると、0.01~0.10%が望ましい。
【0030】
Vは、CやNと結合して凝固組織の微細化や耐食性向上に寄与するため0.01%以上添加する。一方、過度な添加はコスト高になる他、耐酸化性の劣化に繋がるため上限を0.50%とする。但し、耐食性を考慮すると、0.05~0.30%が望ましい。
【0031】
Mgは、脱酸剤として活用する他、MgO等が凝固核となって溶接部および鋳造組織の組織微細化に有効な元素であるため、0.0002~0.0100%添加する。また、酸化物が核となり2段通電時にオーステナイト相を分散析出させることも見出した。0.0002%未満の添加では、溶接部および鋳造組織の組織微細化に対し効果がない。0.0100%超の添加で、その効果は飽和するとともに、介在物の粗大化に起因して亀裂起点や伝播促進の原因になる。但し、製造性を考慮すると、0.0002~0.0020%が望ましい。
【0032】
Caは、Sと結合して熱間加工性を向上させる他、CaO等が凝固核となって溶接部および鋳造組織の組織微細化に有効な元素であるため、0.0002~0.0100%添加する。また、酸化物が核となり2段通電時にオーステナイト相を分散析出させることも見出した。0.0100%超の添加で、その効果は飽和するするとともに、介在物の粗大化に起因して亀裂起点や伝播促進の原因になる。但し、耐食性を考慮すると、0.0005~0.0010%が望ましい。
【0033】
Oは通常低い方が耐食性などの点で優位であるが、各種酸化物を凝固核として溶接組織微細化を達成するために0.0001~0.0100%に規定する。0.0100%超の場合には、介在物の粗大化に起因して亀裂起点や伝播促進の原因になる。但し、耐食性や精錬コストを考慮すると、0.0005~0.0010%が望ましい。
【0034】
本発明の締結部品用フェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板は、上記成分を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。本発明はさらに、前記Feの一部に替えて、以下の成分を選択的に含有することができる。
【0035】
Tiは、NとTiNを形成して溶接部および鋳造組織の組織微細化に有効な元素であるとともに耐食性を向上する元素であるため、必要に応じて0.005~0.30%添加する。0.005%未満の添加では、溶接部および鋳造組織の組織微細化に対し効果が発現しない。また、Ti酸化物や炭窒化物が核となり2段通電時にオーステナイト相を分散析出させる効果もある。0.30%超の添加で、その効果は飽和するとともに、粗大TiNが過度に生成し亀裂起点や伝播促進の原因になる。また、鋼板の製造工程において表面疵の発生原因となる。但し、合金コストや靭性を考慮すると、0.005~0.15%が望ましい。
【0036】
Nbは、Tiと類似の作用があるとともに強度を向上させる元素であり、必要に応じて0.005~0.30%添加する。0.005%未満の添加では、溶接部および鋳造組織の組織微細化に対し効果が発現しない。また、Ti酸化物や炭窒化物が核となり2段通電時にオーステナイト相を分散析出させる効果もある。0.30%超の添加で、その効果は飽和するとともにNbNが過度に生成し亀裂起点や伝播促進の原因になる。但し、合金コストや靭性を考慮すると、0.005~0.15%が望ましい。
【0037】
Zr、TaおよびHfは、TiやNbと類似の作用があるとともに耐酸化性を向上させる元素であり、必要に応じて0.005~0.30%添加する。0.005%未満の添加では、溶接部および鋳造組織の組織微細化に対し効果がなく、耐酸化性の効果を発現しない。0.30%超の添加で、その効果は飽和するとともに、各窒化物や炭化物が粗大に生成し、亀裂起点や伝播促進の原因になる。但し、合金コストや靭性を考慮すると、0.005~0.15%が望ましい。Zr添加量が0.15%を超えると靱性が低下する傾向にある。
【0038】
SnやSbは、耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて0.005~0.50%添加する。0.005%未満の添加では、耐食性の向上効果がない。0.50%超の添加で、その効果は飽和する。但し、熱間加工性や溶接性を考慮すると、0.05~0.20%が望ましい。
【0039】
Wは、耐食性や耐熱性を向上させる元素であり、必要に応じて0.01~2.0%添加する。0.01%未満の添加では、耐食性や耐熱性の向上効果がない。2.0%超の添加で、その効果は飽和する。但し、合金コストや靭性を考慮すると、0.1~1.0%が望ましい。
【0040】
Coは、高温強度の向上やオーステナイト相の靭性向上に寄与するため,必要に応じて0.01%以上添加する.0.5%超の添加によりコスト高になる他、延性の低下につながるため,上限を0.5%とする.更に,精錬コストや製造性を考慮すると、0.01~0.4%が望ましい。
【0041】
REMは、種々の析出物の微細化による靭性向上や耐酸化性の向上の観点から必要に応じて添加される場合があり、この効果は0.001%以上で発現することから下限を0.001%とした。しかしながら、0.05%超の添加により鋳造性が著しく悪くなることから上限を0.05%とした。更に,精錬コストや製造性を考慮すると、0.001~0.01%が望ましい。REM(希土類元素)は、一般的な定義に従い、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。単独で添加してもよいし、混合物であってもよい。
【0042】
Gaは、耐食性向上や水素脆化抑制のため、0.1%以下で添加してもよい。硫化物や水素化物形成の観点から下限は0.0002%とする。さらに、製造性やコストの観点ならびに、延性や靭性の観点から0.0020%以下が好ましい。
【0043】
その他の成分について本発明では特に規定するものではないが、本発明においては、Bi等を必要に応じて、0.001~0.1%添加してもよい。なお、As、Pb等の一般的な有害な元素や不純物元素はできるだけ低減することが好ましい。
【0044】
本発明の締結部品用フェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板は、上記成分を含有するとともに、フェライト相とオーステナイト相の2相組織を示し、ビッカース硬度による硬さが260以下であることを特徴とする。ビッカース硬度については後述する。
【0045】
本発明の締結部品は、母材とスポット溶接部を有する。母材として、上記本発明の締結部品用フェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板を用いる。
【0046】
次に、本発明の締結部品においてスポット溶接部のスポット溶接形状および強度を得るための技術について説明する。
【0047】
先にも示したようにスポット溶接は種々の条件の適正化が必要であるが、本発明ではスポット溶接におけるスポット溶接ナゲット部4の組織安定性がスポット溶接部の強度信頼性に極めて重要であることを知見した。
図1に締結部品1のスポット溶接部3の断面模式図を示す。締結部品1は母材2とスポット溶接部3を有する。スポット溶接部3は、ナゲット径Dのスポット溶接ナゲット部4、熱影響部5、溶接コロナ部6を有する。
また、図2にスポット溶接部の強度信頼性を確認するための剥離試験の模式図を示す。スポット溶接部3の剥離試験を行った際、その破断形態はナゲット部外の熱影響部5や母材2が破壊するプラグ破断が生じることが好ましいが、スポット溶接ナゲット部4にボイドや割れといった欠陥が多数存在する場合にはスポット溶接ナゲット部4に亀裂が進行して破壊する界面破断が生じるケースが多くなることが知られている。
【0048】
本発明ではこれら以外に界面破断が生じる場合があり、母材2とスポット溶接ナゲット部4の硬さの差が著しく大きい場合に界面破断が生じやすくなることを知見した。母材2とスポット溶接ナゲット部4の硬さの差が生じる原因としては、以下のように推察される。即ち、母材2としてフェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼を用いる場合、母材2はフェライト・オーステナイト2相組織であり、オーステナイト相率は約50%である。スポット溶接時に溶融部はフェライト単相まで加熱され、冷却時にオーステナイト相が再析出するが、スポット溶接ナゲット部4の冷却速度は速いため、オーステナイト相の析出が殆ど生じない。この場合、添加された窒素がフェライト相に過飽和に固溶しているため、スポット溶接ナゲット部4は著しく硬質化する。スポット溶接ナゲット部4のオーステナイト相が少なく、母相に比べて過度に硬質化した場合、界面での脆性的な破壊が生じ、必要な強度の確保も困難となり溶接部の信頼性が低くなる。
【0049】
これに対して、本発明ではスポット溶接ナゲット部4で10%以上のオーステナイト相を析出させオーステナイト相に窒素を固溶させることで軟質化が図れることを見出した。ここで、スポット溶接条件がスポット溶接ナゲット部4の組織に与える影響について評価した。母材として用いた鋼板は、鋼成分は0.016%C-0.40%Si-3.13%Mn-0.02%P-0.0010%S-2.2%Ni-21.2%Cr-0.16%N-0.40%Mo-05%Cu-0.02%Al-0.0016%B-0.06%V-0.0020%Ca-0.002%O-0.0005%Mgで、1.5mm厚さの冷延鋼板である。母材は、フェライト相とオーステナイト相の2相組織を示し、ビッカース硬度による硬さが253である。スポット溶接条件について、比較例は、1段通電のみで加圧力:8kN、電流:8kA、通電サイクル:25サイクル、保持サイクル:40サイクルとした。一方、本発明では加圧力:8kN、電流:8kA、通電サイクル:25サイクル、保持サイクル:5サイクルの1段通電を施した後に加圧力:8kN、電流:5kA、通電サイクル:30サイクル、保持サイクル:40サイクルの2段通電を施した。
図4に本発明と比較例のスポット溶接ナゲット部4の組織を示す。本発明(図4(B))のナゲット組織ではオーステナイト相が比較例(図4(A))よりも多い。また、スポット溶接ナゲット部4の硬さは、本発明例が280、比較例が318で、母材との硬さの差も本発明例の方が小さい。
本発明例と比較例について-20℃にて剥離試験を行った結果、比較例では界面破断が生じたのに対して、本発明例ではプラグ破断が得られ高い信頼性が認められた。
【0050】
2段通電の条件を種々変更させて同様な検討を行った結果、スポット溶接ナゲット部のオーステナイト相率が10%以上、スポット溶接ナゲット部の硬さと母材の硬さの差がビッカース硬度(100gf)で50以下である場合に、界面破断が抑制されることが確認された。そこで、本発明の締結部品ではスポット溶接ナゲット部のオーステナイト相率が10%以上、スポット溶接ナゲット部の硬さと母材の硬さの差がビッカース硬度(100gf)で50以下と規定する。
【0051】
また、スポット溶接ナゲット部の硬さと母材の硬さの差がビッカース硬度(100gf)を50以下とするためには、母材の硬さを260以下にする必要がある。これは、本発明の鋼成分に対して母材の硬さが260超になった場合には合金添加量が多くなるため、スポット溶接ナゲット部4の各種固溶元素量が多くなり、過度に硬質化する。そのため、スポット溶接ナゲット部の硬さと母材の硬さの差がビッカース硬度(100gf)を50以下とすること困難となるため、母材の硬さを260以下と規定する。更に、スポット溶接時の熱変形を考慮すると母材の硬さは255以下が望ましく、タンクバンドの曲げ性やスプリングバックを考慮すると253以下が更に望ましい。
【0052】
母材の硬さを260以下とするためには、母材として用いるフェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板の成分組成を上記本発明の成分組成とするとともに、さらに当該成分組成範囲内において成分の微調整を行うことにより実施することができる。所定の成分組成において母材の硬さが260を超えたときには、鋼を硬質化する成分であるC、Si、Mn、P、Nの含有量を低減することにより、母材の硬さを260以下とすることができる。
【0053】
また、極低温での部品使用やせん断負荷が作用した際の破壊信頼性を考慮すると、スポット溶接ナゲット部のオーステナイト相率が15%以上、スポット溶接ナゲット部の硬さと母材の硬さの差がビッカース硬度(100gf)で30以下が望ましい。
【0054】
次にスポット溶接方法について説明する。本発明ではスポット溶接部の剥離試験を行った際に脆性的に界面破断が生じないために、母材として本発明の鋼板を用いるとともに、スポット溶接として先述した2段通電を行う。2段通電のスポット溶接条件を適正化することによってスポット溶接ナゲット部のオーステナイト相率が10%以上、スポット溶接ナゲット部の硬さと母材の硬さの差がビッカース硬度で50以下を確保する。このためには、1段目通電後に2段目通電として比較的低い電流にて通電することによってオーステナイト相を再析出させる必要がある。
図3は、2段通電において、通電のパターンと溶金部温度の時間変化について説明する図である。図3(A)(B)それぞれ、横軸が時間、下の図の縦軸は電流、上の図の縦軸は溶金部温度である。図3(A)に示すように、2段通電の1段目通電後は、従来の1段通電の通電後と同様、スポット溶接溶融部が急冷するため、オーステナイト相が10%未満の状態となる。ここで2段目通電を行い、2段通電時の電流が低く、通電サイクルを長くすることによってこの間に、図3(A)に示すように温度がオーステナイト析出温度となり、オーステナイト相の析出が確保され、ナゲット溶接部の軟質化が図れるのである。種々の実験を行った結果、2段目通電の電流を2.5kA以上6.0kA以下、通電サイクルを10サイクル以上確保することによって、スポット溶接ナゲット部4の組織および硬さを満足し、剥離試験時に界面破断が生じないことを確認したため、2段通電時の条件を上記の範囲で規定した。2段目通電時の電流が2.5kA未満、又は通電サイクルが10サイクル未満ではオーステナイト相の析出が少ないため、スポット溶接ナゲット部4が硬質化する。一方、2段目通電時の電流が6.0kA超の場合は、再度スポット溶接ナゲット部4が溶融してオーステナイト相が減少してしまうため、同じくスポット溶接ナゲット部4が硬質化する。
【0055】
更に、極低温での使用やせん断負荷に対する信頼性を考慮すると、2段通電の2段目通電時の電流を3.0kA以上5.7kA以下、通電サイクルを20サイクル以上が望ましい。また、通電サイクルが長すぎると再度スポット溶接ナゲット部4が溶融してオーステナイト相が減少してしまうため、通電サイクルは70サイクル以下が望ましく、60サイクル以下がより望ましい。
【0056】
尚、2段目通電後の保持の有無は、オーステナイトの析出程度には関係しない。また、図3(B)に示したように、1段目通電後の保持がなくても、2段目通電を本発明範囲で行うことにより、オーステナイト析出領域に所定時間滞在するので、オーステナイト相を確保することができる。しかしながら、1段目通電後の保持は長時間行うと電極によるスポット溶接ナゲット部4の抜熱が大きくなり、オーステナイト相の析出が促進されずナゲットの硬質化が促進される。したがって、1段目通電後の保持は20サイクル以下が好ましく、15サイクル以下がより好ましい。
【0057】
またスポット溶接の際の電極を押し付ける加圧力は、6.0kN未満では加圧力不足で発熱過多となりスポット溶接時にスパッタが飛んでしまいスポット溶接ナゲット部4の強度が低下し、10.0kN超では電極の接触面積が過大となりナゲットの断面積が小さくなりスポット溶接ナゲット部4の強度が低下してしまうため、加圧力は6.0~10.0kNで規定するのが望ましい。より望ましくは7.0~9.0kNである。
【0058】
本発明の鋼板は、ステンレス冷延鋼板の汎用的な製造工程で製造することができる。具体的には、製鋼-熱間圧延-酸洗-冷間圧延-焼鈍・酸洗の各工程よりなる。製鋼においては、前記必須成分および必要に応じて添加される成分を含有する鋼を、転炉あるいは電炉溶製し、続いて2次精錬を行う方法が好適である。溶製した溶鋼は、公知の鋳造方法(連続鋳造)に従ってスラブとする。スラブは、所定の温度に加熱され、所定の板厚に連続圧延で熱間圧延される。熱間圧延は複数スタンドから成る熱間圧延機で圧延された後に巻き取られる。熱間圧延後は、熱延板焼鈍を施しても省略しても良い。冷間圧延においては、所定の板厚に応じて冷延圧下率を選択すれば良いが、20%未満の圧下率ではオーステナイト相の展伸が不十分であるため、圧下率は20%以上が望ましい。冷間圧延における他の条件(ロール径、パス数、圧延温度等)は特に規定せず、生産性に応じて適宜選択すれば良い。尚、冷間圧延後の焼鈍は、オーステナイト相量の調整のために、1050℃以上に加熱することが望ましい。他工程の製造方法については特に規定しないが、熱延板厚、焼鈍雰囲気などは適宜選択すれば良い。また、冷延・焼鈍後に調質圧延やテンションレベラーを付与しても構わない。更に、製品板厚についても、要求部品厚に応じて選択すれば良い。
【実施例
【0059】
(実施例1)
表1、表2に示す成分組成の鋼を溶製した後熱間圧延して4mm厚の熱延板とした。その後、熱延板を焼鈍・酸洗し、1.5mm厚まで冷間圧延し、1080℃で焼鈍後、酸洗を施して薄鋼板とした。
このようにして得られた薄鋼板を母材として用いて、図1に示すように母材2を2枚重ねてスポット溶接し、スポット溶接部3を形成した。この際のスポット溶接条件は、電極として銅電極、CR型、φ8mm、R40を用い、加圧力:8kN、電流:8kA、通電サイクル:25サイクル、保持サイクル:5サイクルの1段目通電を施した後に加圧力:8kN、電流:5kA、通電サイクル:30サイクル、保持サイクル:40サイクルの2段目通電を施した。
【0060】
母材部とスポット溶接ナゲット部4の断面硬さ(Hv100gf)の測定、オーステナイト相率の測定および-20℃で剥離試験、耐食性試験を実施した。
母材部とスポット溶接ナゲット部4の断面硬さの測定方法としては、スポット溶接ナゲット部4の中心部を観察できるように母材2の圧延方向と平行方向の板厚断面を観察できるようにサンプルを採取した後に、母材2部は板厚の1/2t部を5点測定した平均値を、スポット溶接ナゲット部4はナゲットの中心部からナゲットの長手幅に沿って7点測定した平均値を用いており、測定はJIS Z2244に準拠して行った。表3の「製品板(母材)の特性/硬さ」欄に母材の硬さを記載し、表3の「ナゲット部と母材の硬さの差」欄に当該硬さの差を記載した。
オーステナイト相率の測定は硬度測定したサンプルを10%しゅう酸中で0.1A/cmの電流密度で90秒間の電解エッチングを行い、母材2部とスポット溶接ナゲット部4の中心部のそれぞれを500倍で光学顕微鏡で撮影した後にオーステナイト相のみ画像で抽出してNIH製のImageJで画像解析して測定した。母材の組織がフェライト・オーステナイト2相組織になっている鋼については、組織が合格(〇)、単相組織になっている鋼については組織が不合格(×)とし、表3の「製品板(母材)の特性/組織」欄に記載した。また、スポット溶接ナゲット部のオーステナイト相率(%)を、表3の「ナゲット部のオーステナイト相率」欄に記載した。
剥離試験の方法としては、100mm長さ×20mm幅のサンプルを2枚採取して重ね合わせて板の端から10mm長さ×10mm幅の位置にスポット溶接を行った後に図2に示すようにスポット溶接した端から20mm長さの位置を曲げて拝みの形にしたサンプルを用いた。これらのサンプルを恒温槽付きの引張試験機で-20℃まで冷却した後にストローク制御で5mm/minの引張速度で引張試験を各条件n=2ずつ行った。せん断試験の後にいずれも界面破断が生じなかったものを合格(〇)、界面破断が生じたものを不合格(×)とし、表3の剥離試験の欄に記載した。
タンクバンドの耐食性の評価としてスポット溶接部に対してJASO-CCT試験を行った。JASO-CCTの条件は、塩水噴霧(温度35℃、NaCl濃度5%、2時間)、乾燥(温度60℃、湿度25%、4時間)、湿潤(温度50℃、湿度95%)を1サイクルとし、240サイクル実施した。その後、最大孔食深さを測定し、最大孔食深さが0.5mm以下のものを合格(○)、0.5mm超のものを不合格(×)とし、表3の耐食性の欄に記載した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
本発明鋼を用いたスポット溶接部は、界面破断が生じず締結部品としての信頼性が高いとともに、耐食性にも優れており、タンクバンドに適した材料であることがわかる。
【0065】
(実施例2)
また、表1の鋼No.1を用い、スポット溶接条件を変化させた試験を行った。スポット溶接条件のうち、2段目の通電条件のみを表4に示す条件として、それ以外の条件は上記実施例1と同様とした。結果を表4に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
表4の比較例53は2段目通電を行っておらず、即ち1段通電の場合の比較例である。比較例53の結果より、1段通電のみでは界面破断が生じることがわかる。また、比較例49~52と本発明例43~48の対比から、2段通電を施しても2段目の通電において電流が2.5kA未満、又は6.0kA超、通電サイクルが10サイクル未満であれば界面破断が生じることがわかる。一方、2段通電を施して、2段目の通電において電流が2.5kA以上6kA以下、通電サイクルが10サイクル以上であれば界面破断が抑制され、スポット溶接部の信頼性が高いこと生じることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、スポット溶接性に優れたフェライト・オーステナイト2相ステンレス鋼板を提供することが可能である。特に、自動車の燃料部品の締結用タンクバンドとしての活用が有効であるが、二輪、鉄道、建築用途、各種構造部品や締結部品として使用できる。これによって、薄肉軽量化や複雑構造の成形品に展開することが可能であることから、産業上極めて有益である。
【符号の説明】
【0069】
1 締結部品
2 母材
3 スポット溶接部
4 スポット溶接ナゲット部
5 熱影響部
6 溶接コロナ部
図1
図2
図3
図4