(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】液圧プレス及び液圧プレスの制御方法
(51)【国際特許分類】
B30B 15/22 20060101AFI20240710BHJP
【FI】
B30B15/22 B
(21)【出願番号】P 2020147373
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】田渡 正史
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-221571(JP,A)
【文献】特開2011-147948(JP,A)
【文献】特開平06-277894(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0108014(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1加圧シリンダ及び第2加圧シリンダと、
前記第1加圧シリンダ及び前記第2加圧シリンダの駆動により動作するスライドと、
前記第1加圧シリンダ及び前記第2加圧シリンダに選択的に作動流体を供給する液圧回路と、を備え、
前記液圧回路は、前記第1加圧シリンダと前記第2加圧シリンダの間で作動流体の供給先が切り替えられる場合に、作動流体が供給されている切替元加圧シリンダの加圧空間が閉塞状態とされて、切替先加圧シリンダに作動流体を供給する、
液圧プレス。
【請求項2】
前記液圧回路は、前記切替元加圧シリンダの加圧空間内の圧力が設定圧力になるか、前記切替先加圧シリンダの加圧空間内の圧力が設定圧力になった場合に、作動流体を供給する加圧シリンダが切り替えられる、
請求項1に記載の液圧プレス。
【請求項3】
前記液圧回路は、前記切替先加圧シリンダの加圧空間内の圧力が負圧になる前に、作動流体を供給する加圧シリンダが切り替えられる、
請求項2に記載の液圧プレス。
【請求項4】
前記液圧回路は、
前記第1加圧シリンダ及び前記第2加圧シリンダに作動流体を供給する共通の液圧源を有し、
前記切替元加圧シリンダの加圧空間が閉塞状態にされつつ前記液圧源から当該切替元加圧シリンダの加圧空間に作動流体を供給可能な状態とされたまま、前記液圧源から前記切替先加圧シリンダに作動流体を供給する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の液圧プレス。
【請求項5】
前記液圧回路は、加圧力が最大となる加圧状態への切り替えが、前記切替元加圧シリンダの加圧空間内の圧力と、前記切替先加圧シリンダの加圧空間内の圧力とが同じ圧力になったときに行われる、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の液圧プレス。
【請求項6】
前記第2加圧シリンダは、作動流体が接触する面積が前記第1加圧シリンダよりも大きく、
前記液圧回路は、前記第1加圧シリンダのみに作動流体を供給した第1加圧モードと、前記第2加圧シリンダのみに作動流体を供給した第2加圧モードと、前記第1加圧シリンダ及び前記第2加圧シリンダの双方に作動流体を供給した第3加圧モードとに、この順に加圧状態が切り替えられる、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の液圧プレス。
【請求項7】
前記液圧回路を制御する制御装置を備える、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の液圧プレス。
【請求項8】
第1加圧シリンダ及び第2加圧シリンダと、
前記第1加圧シリンダ及び前記第2加圧シリンダの駆動により動作するスライドと、
前記第1加圧シリンダ及び前記第2加圧シリンダに選択的に作動流体を供給する液圧回路と、を備える液圧プレスの制御方法であって、
前記液圧回路は、前記第1加圧シリンダと前記第2加圧シリンダの間で作動流体の供給先が切り替えられる場合に、作動流体が供給されている切替元加圧シリンダの加圧空間が閉塞状態にされて、切替先加圧シリンダに作動流体を供給する、
液圧プレスの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧プレス及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、大型の液圧プレスにおいては、複数の加圧シリンダによってスライドを駆動する。
例えば特許文献1に記載の液圧プレスでは、加圧面積の異なる2つの加圧シリンダに対して選択的に作動油を供給することにより、成形過程での負荷の上昇に対応した加圧力となるように加圧モードを切り替えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、作動油を供給する加圧シリンダを単純に切り替えた場合、この切り替え時にストローク(スライド位置)や加圧力が急激に変化する場合がある。このような急激な加圧力の変化は成型精度を低下させ、ひいては生産性を低下させるおそれがある。この問題は、特に低速の加圧速度が要求される成形において顕在化しやすい。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来よりも生産性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液圧プレスは、
第1加圧シリンダ及び第2加圧シリンダと、
前記第1加圧シリンダ及び前記第2加圧シリンダの駆動により動作するスライドと、
前記第1加圧シリンダ及び前記第2加圧シリンダに選択的に作動流体を供給する液圧回路と、を備え、
前記液圧回路は、前記第1加圧シリンダと前記第2加圧シリンダの間で作動流体の供給先が切り替えられる場合に、作動流体が供給されている切替元加圧シリンダの加圧空間が閉塞状態にされて、切替先加圧シリンダに作動流体を供給する。
【0007】
また、本発明に係る液圧プレスの制御方法は、
第1加圧シリンダ及び第2加圧シリンダと、
前記第1加圧シリンダ及び前記第2加圧シリンダの駆動により動作するスライドと、
前記第1加圧シリンダ及び前記第2加圧シリンダに選択的に作動流体を供給する液圧回路と、を備える液圧プレスの制御方法であって、
前記液圧回路は、前記第1加圧シリンダと前記第2加圧シリンダの間で作動流体の供給先が切り替えられる場合に、作動流体が供給されている切替元加圧シリンダの加圧空間が閉塞状態にされて、切替先加圧シリンダに作動流体を供給する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来よりも生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る液圧プレスの装置本体を示す図である。
【
図2】実施形態に係る液圧プレスの油圧回路図である。
【
図3】実施形態に係る第1~第4制御弁のON/OFF状態と加圧力の変化を示すタイムチャートの一例である。
【
図4】実施形態に係る第1~第4制御弁のON/OFF状態と加圧力の変化を示すタイムチャートの他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
[液圧プレスの装置本体構成]
図1は、本実施形態に係る液圧プレス1の装置本体100を示す図である。
この図に示すように、本実施形態に係る液圧プレス1は、スライドの駆動を油圧によって行う油圧プレスであり、装置本体100を備える。
装置本体100は、クラウン11と、ベッド12と、それらの間に立設されたアップライト13とから構成されるフレーム10を有する。
【0012】
クラウン11には1本の親子シリンダ20が設けられている。親子シリンダ20のラムロッド20rにはスライド14が固定されている。スライド14には上型15が設けられ、ベッド12には下型16が設けられている。親子シリンダ20が伸長することでスライド14が下降し、上型15と下型16とでワークを加圧して成形する。なお、上型15はスライド14に他の部材を介して間接的に取り付けられてもよい。同様に、下型16はベッド12に他の部材を介して間接的に取り付けられてもよい。さらに、スライド14はラムロッド20rに他の部材を介して間接的に取り付けられてもよい。
【0013】
ベッド12の側部には引戻シリンダ17が固定されている。引戻シリンダ17のロッド先端はスライド14の端部に固定されている。引戻シリンダ17が伸長することでスライド14が上昇し、上型15がワークから離間する。なお、引戻シリンダ17はベッド12の側部に限らず他の場所に設けてもよい。例えば、引戻シリンダ17をクラウン11に固定してもよい。引戻シリンダ17を設けずに、親子シリンダ20の収縮によりスライド14を上昇させるようにしてもよい。
【0014】
親子シリンダ20は、小径の子シリンダ21と、子シリンダ21よりも大径の親シリンダ22とが一体的に構成されたものである。子シリンダ21及び親シリンダ22はラム形であり、親子シリンダ20はラム形である。子シリンダ21と親シリンダ22は、それぞれのシリンダチューブ21t、22tが一体形成されているとともに、それぞれのラムロッド21r、22rが連結されている。したがって、親子シリンダ20は、子シリンダ21と親シリンダ22とからなるタンデム形シリンダである。
【0015】
なお、子シリンダ21及び親シリンダ22は、本発明に係る加圧シリンダ(第1加圧シリンダ及び第2加圧シリンダ)の一例である。すなわち、液圧プレス1には2本の加圧シリンダ21、22が搭載されており、これらの駆動によりスライド14が動作する。
【0016】
子シリンダ21は、そのシリンダチューブ21tとラムロッド21rとで囲まれた子油室21cを有する。親シリンダ22は、そのシリンダチューブ22tとラムロッド22rで囲まれた親油室22cを有する。液圧プレス1には、これら油室21c、22cのそれぞれに作動油(作動流体)を供給・排出できる油圧回路30(
図2参照)が設けられている。また、親シリンダ22のラムロッド22rの作動油が接触する部分の面積は、子シリンダ21のラムロッド21rの作動油が接触する部分の面積よりも大きい。そのため、親シリンダ22は子シリンダ21よりも大きな加圧力を発生させる。
【0017】
作動油を供給する加圧シリンダ21、22の組み合わせを選択することにより、液圧プレス1は以下の3つの加圧モード(加圧状態)を実現できる。
・低圧(低負荷)モード:子シリンダ21(子油室21c)のみに作動油を供給するモードである。加圧能力は低圧であり、加圧速度は高速である。
・中圧(中負荷)モード:親シリンダ22(親油室22c)のみに作動油を供給するモードである。加圧能力は中圧であり、加圧速度は中速である。
・高圧(高負荷)モード:子シリンダ21と親シリンダ22の両方に作動油を供給するモードである。加圧能力は高圧であり、加圧速度は低速である。
なお、加圧速度とはスライド14の移動速度である。
具体的な加圧モードの切り替え方法については後述する。
【0018】
液圧プレス1は1本の親子シリンダ20を搭載した構成であるので、複数本の加圧シリンダを横に並べてスライド14に接続した構成よりも、装置本体100の幅を狭くできる。幅の狭い液圧プレス1でも複数の加圧能力モードを実現できる。
また、複数本の加圧シリンダを横に並べてスライド14に接続した構成よりも、スライド14のサイズを小さくできる。これにより可動部重量を低減できるため、スライド14の速度変更点でのショックを低減できる。
【0019】
[油圧回路の構成]
続いて、親子シリンダ20を駆動させる油圧回路30について説明する。
図2は、液圧プレス1の油圧回路図である。
この図に示すように、油圧回路30は油圧ポンプなどの油圧源31を備えている。油圧源31は、例えば油圧ポンプの回転数の制御等により、作動油の吐出量(供給量)を変更可能となっている。油圧源31には配管41aが接続され、この配管41aには逆止弁32aを介して配管41bが接続されている。配管41bは二股に分岐しており、一方には逆止弁32bを介して配管41cが接続され、他方には逆止弁32cを介して配管41dが接続されている。配管41cには第1制御弁33が接続され、配管41dには第2制御弁34が接続されている。第1制御弁33の二次側は配管42を介して子シリンダ21の子油室21cに接続されている。第2制御弁34の二次側は配管43を介して親シリンダ22の親油室22cに接続されている。
【0020】
第1制御弁33及び第2制御弁34の各々は、例えば電磁弁であり、ソレノイドがONの時に開状態、OFFの時に閉状態となる。第1制御弁33及び第2制御弁34の開閉状態を切り替えることで、作動油を供給する加圧シリンダ21及び加圧シリンダ22を選択できる。
【0021】
子シリンダ21の子油室21cには配管44が接続されている。配管44は二股に分岐しており、一方に第3制御弁35が接続され、他方に逆止弁37aが接続されている。第3制御弁35及び逆止弁37aは配管46を介してプレフィルタンク38に接続されている。
親シリンダ22の親油室22cには配管45が接続されている。配管45は二股に分岐しており、一方に第4制御弁36が接続され、他方に逆止弁37bが接続されている。第4制御弁36及び逆止弁37bは配管46を介してプレフィルタンク38に接続されている。
【0022】
第3制御弁35は、電磁弁であり、ソレノイドがONの時に開状態、OFFの時に閉状態となる。第3制御弁35を開状態とすることで、プレフィルタンク38に貯留された作動油を子シリンダ21に吸引させたり、子シリンダ21から排出された作動油をプレフィルタンク38に戻したりすることができる。逆止弁37aはプレフィルタンク38から子シリンダ21に作動油が供給されることを許容する。
第4制御弁36は、電磁弁であり、ソレノイドがONの時に開状態、OFFの時に閉状態となる。第4制御弁36を開状態とすることで、親シリンダ22から排出された作動油をプレフィルタンク38に戻すことができる。逆止弁37bはプレフィルタンク38から親シリンダ22に作動油が供給されることを許容する。
【0023】
液圧プレス1には油圧回路30を制御する制御装置50が備えられている。制御装置50はCPUやメモリなどを備えて構成されたコンピュータである。制御装置50は第1~第4制御弁33~36のソレノイドに接続されており、各制御弁33~36の開閉状態を切り替えることができる。
【0024】
制御装置50には、第1圧力検出器51、第2圧力検出器52、スライド位置検出器53が接続されている。第1圧力検出器51は子シリンダ21に作用する油圧(子油室21c内の圧力p2)を検出する検出器である。第1圧力検出器51は例えば配管42に設けられるが、その設置位置は特に限定されない。第2圧力検出器52は親シリンダ22に作用する油圧(親油室22c内の圧力p1)を検出する検出器である。第2圧力検出器52は例えば配管43に設けられるが、その設置位置は特に限定されない。スライド位置検出器53はスライドストロークを検出する検出器である。ここで、スライドストロークとはスライド14が移動する方向におけるスライド14の位置であり、以下ではスライド位置という場合もある。
【0025】
制御装置50には、第1圧力検出器51、第2圧力検出器52、スライド位置検出器53の検出値が入力される。制御装置50はこれらの検出値に基づいて油圧回路30を制御する。
また、制御装置50は、油圧源31の動作を制御して、当該油圧源31からの作動油の吐出量(供給量)を制御する。
【0026】
[液圧プレスの動作]
続いて、上述の3つの加圧モードを切り替えてワークを加圧するときの液圧プレス1の動作について説明する。
図3は、第1~第4制御弁34~36のON/OFF状態と加圧力の変化を示すタイムチャートの一例である。
【0027】
液圧プレス1では、上型15と下型16の間にワークが配置され、第3、第4制御弁35、36を介してプレフィルタンク38から子シリンダ21及び親シリンダ22の油室に作動油が供給されると、スライド14が下降し、ワークが上型15及び下型16に挟まれる。
この状態で、加圧モードを、以下のとおり、低圧モード、中圧モード、高圧モードに順次切り替えていくことにより、スライド14に下方向きの力が加えられ、ワークが鍛造される。
【0028】
<低圧モード>
図3に示すように、まず制御装置50は、第1制御弁33を開状態とし、その他の第2~第4制御弁34~36を閉状態とする(領域A)。また、制御装置50は、油圧源31を動作させて作動油を吐出させる。
これにより、油圧源31から子油室21cのみに作動油が供給され、子油室21c内の圧力(ゲージ圧)p2が例えば直線的に上昇する。その結果、親子シリンダ20が伸長する。親子シリンダ20の伸長に伴い、親シリンダ22は逆止弁37bを介してプレフィルタンク38の作動油を吸引する。
【0029】
<低圧モード→中圧モード>
次に、制御装置50は、第1圧力検出器51により検出される子油室21c内の圧力p2が所定の設定圧力Paに到達したら、第1制御弁33を閉状態とし、第2制御弁34を開状態とする(領域B)。第3、第4制御弁35、36は閉状態のままである。
これにより、切替元の子シリンダ21(子油室21c)が閉塞状態(油圧保持状態)になってここから作動油の漏れがない状態で、切替先の親シリンダ22(親油室22c)に油圧源31から作動油が供給され、親油室22c内の圧力(ゲージ圧)p1が例えば直線的に上昇する。その結果、親子シリンダ20が伸長する。親子シリンダ20の伸長に伴って、子油室21c内の圧力p2が低下していき、ほぼゼロ(負圧)に近い値になる(領域C)。
こうして、低圧モードから中圧モードに切り替えられる。
なお、油室の「閉塞状態」とは、当該油室に対する作動油の積極的な供給・排出が行われないように、当該油室が一定程度以上に閉塞された状態をいう。例えば、回路上閉状態であるが、油漏れなどは許容するものとする。
【0030】
このように、低圧モードから中圧モードへの切り替え時(領域A→領域B)に、作動油が供給されている切替元の子シリンダ21の子油室21cを閉塞状態にして、切替先の親シリンダ22に作動流体を供給することにより、切り替え時での子油室21cからの圧力の逃げが無くなり、切り替え後における子シリンダ21及び親シリンダ22の圧力状態をより正確に把握できる。そのため、切り替えによるスライド14の負荷や位置の予測を、より容易かつ高精度に行える。その結果、切り替え時におけるスライド14の総加圧力(プレス負荷)Pの変化を抑制することができる。
【0031】
ここで、切り替えを行うときの子油室21cの設定圧力Paは、この切り替えに伴って、配管41a、41b、41d内の作動油の圧縮ボリュームが親油室22cに供給された場合のスライド14の位置及び/又は加圧力(負荷)の変化が、成形上問題とならない程度の許容値内に収まると判断される圧力値である。この圧力値は、本実施形態では例えば280~290(最大300)[kgf/cm^2]であり、予め所定の計算により求められて設定されている。また、この切り替え時のスライド位置や加圧力の変化を小さくするために、配管41a、41b、41dの長さをできるだけ短く(体積を小さく)し、当該配管41a、41b、41d内の作動油の圧縮ボリュームを予め小さくすることが好ましい。ただし、一般的な成形サイクルの場合、この時点では未だ成形の初期段階であるため、仮にステップ状のスライド位置や加圧力の変化が生じたとしても、ある程度はこれを許容できる。
また、この切り替えに伴って配管内の圧縮ボリュームが及ぼすスライド位置や負荷の変化を、各部の圧力やスライド位置、加圧速度等に基づいて推定したうえで、当該切り替えのタイミングを決定するのが好ましい。この推定は、例えば特許第6392172号公報に記載の手法を用いることができる。
【0032】
<中圧モード→高圧モード>
次に、制御装置50は、第1圧力検出器51により検出される子油室21c内の圧力p2が所定の設定圧力Pbまで低下したら、第2制御弁34を開状態としたまま第1制御弁33を開状態に切り替える(領域D)。第3、第4制御弁35、36は閉状態のままである。
これにより、親油室22cが閉塞状態(油圧保持状態)となりつつ、油圧源31から子油室21cに作動油が供給される。その結果、親子シリンダ20が伸長する。親子シリンダ20の伸長に伴って、高かった親油室22c内の圧力p2が低下しつつ、ほぼゼロであった子油室21c内の圧力p1が上昇する。
【0033】
このように、中圧モードから高圧モードへの切り替え時(領域C→領域D)に、作動油が供給されている切替元の親シリンダ22の親油室22cを閉塞状態にして、切替先の子シリンダ21に作動流体を供給することにより、切り替え時での圧力の逃げが抑制され、切り替え後における子シリンダ21及び親シリンダ22の圧力状態をより正確に把握できる。そのため、切り替えによるスライド14の負荷や位置の予測を、より容易かつ高精度に行える。その結果、切り替え時におけるスライド14の総加圧力Pの変化を抑制することができる。
【0034】
ここで、切り替えを行うときの子油室21cの設定圧力Pbは、本実施形態では例えば10~20[kgf/cm^2]である。これにより、子油室21cの圧力p2が負圧になる前に切り替えを行い、作動油に溶け込んでいるエアが析出するのを抑制する。
ただし、この切り替え条件は、親油室22cの圧力p1が所定の設定圧力になった場合としてもよい。あるいは、親油室22cの圧力p1と子油室21cの圧力p2のいずれかが設定圧力になった場合としてもよいし、これらの両方が各々の設定圧力になった場合としてもよい。
また、この切り替えに伴って配管内の圧縮ボリュームが及ぼすスライド位置や負荷の変化を、各部の圧力やスライド位置、加圧速度等に基づいて推定したうえで、当該切り替えのタイミングを決定するのが好ましい。この推定は、例えば特許第6392172号公報に記載の手法を用いることができる。
【0035】
その後、子油室21c内の圧力p2(第1圧力検出器51により検出)と、親油室22c内の圧力p1(第2圧力検出器52により検出)とが同じ圧力に到達すると、これら子油室21cと親油室22cは同圧を保持しながら昇圧する(領域E)。第3、第4制御弁35、36は閉状態のままである。したがって、このときには制御弁の開閉操作は行われない。
このように、子油室21c内の圧力p2と親油室22c内の圧力p1とが同圧となって昇圧することになる。領域Dから領域Eへの移行前後における配管内の圧縮ボリュームの影響が無くなる。そのため、領域Dから領域Eへの移行前後においてスライド14の総加圧力Pは変化せず、スライド位置も変化しない。
こうして、中圧モードから高圧モードに切り替えられ、総加圧力Pが所定の圧力となるまで昇圧される。
【0036】
高圧モードでの加圧が完了してワークの成形が完了した後、制御装置50は、引戻シリンダ17を伸長させてスライド14を上昇させる。このとき、制御装置50は、第3制御弁35及び第4制御弁36を開状態とすることにより、子油室21cと親油室22c内の作動油をプレフィルタンク38に返油させる。
こうして、成形サイクルが一周する。
【0037】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、低圧モードから中圧モードへの切り替え時(領域A→領域B)や、中圧モードから高圧モードへの切り替え時(領域C→領域D)に、作動油が供給されている切替元加圧シリンダの加圧空間を閉塞状態にして、切替先加圧シリンダに作動流体を供給している。
これにより、切り替え時での圧力の逃げが抑制されるため、切り替え後における切替元加圧シリンダ及び切替先加圧シリンダの圧力状態をより正確に把握できる。そのため、切り替えによるスライド14の負荷や位置の予測を、より容易かつ高精度に行える。
したがって、加圧モードの切り替え時に加圧力やスライド位置が急激に変化していた従来に比べ、高精度に加圧成形を行うことができ、ひいては生産性を向上できる。また、作動油を効率的に供給できるため、油圧源31の規模を抑制できる。
【0038】
また、本実施形態によれば、低圧モードから中圧モードへの切り替え時(領域A→領域B)には、切替元の子油室21c内の圧力p2が所定の設定圧力Paになったときに切り替えを行い、中圧モードから高圧モードへの切り替え時(領域C→領域D)には、切替先の親油室22c内の圧力p1が所定の設定圧力Pbになったときに切り替えを行っている。
このとき、切り替えに伴う配管内の圧縮ボリュームの影響を考慮した圧力値を設定することにより、切り替えに伴うスライド位置や負荷の変化があっても、これを許容値以内に抑えることができる。
【0039】
また、本実施形態によれば、中圧モードから高圧モードへの切り替え時(領域C→領域D)に、切替先の子シリンダ21の加圧空間内の圧力が負圧になる前のタイミングで切り替えを行っている。
これにより、作動油の中に溶け込んでいるエアの析出を抑制できる。
【0040】
また、本実施形態によれば、中圧モードから高圧モードへの切り替え時(領域C→領域D)に、切替元の親シリンダ22の親油室22cを閉塞状態にしつつ油圧源31から当該親油室22cに作動油を供給可能な状態としたまま、共通の油圧源31から切替先の子シリンダ21に作動油を供給している。
そのため、その後は制御弁の開閉操作を行うことなく、子油室21c内の圧力p2と親油室22c内の圧力p1とが同じ圧力となった後に同圧を保持しながら昇圧する(領域E)。これにより、領域Dから領域Eへの移行前後では配管内の圧縮ボリュームの影響が抑えられる。そのため、この切り替え前後でのスライド位置や負荷(加圧力)の変化を抑制できる。
【0041】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、上記実施形態では、制御弁の開閉操作を行うことなく、領域Dから領域Eへ移行することとした。しかし、この移行は、切替元加圧シリンダの加圧空間内の圧力と、切替先加圧シリンダの加圧空間内の圧力とが同じ圧力になったときに行われればよく、制御弁等の切り替え制御が行われてもよい。
具体的には、例えば
図4に示すように、上述の領域Bにおいて子油室21c内の圧力p2と親油室22c内の圧力p1とが同じ圧力になったときに、第2制御弁34を開状態としたまま第1制御弁33を開状態に切り替えればよい。これにより、中圧モード(領域B’)から高圧モード(領域E)へ切り替えられる。この場合でも、高圧モード(領域E)への切り替えにおいて配管内の圧縮ボリュームの影響が抑えられ、スライド位置や負荷(加圧力)の変化を抑制できる。なお、この切り替え時において、子油室21c内の圧力p2と親油室22c内の圧力p1とは、同じ圧力と見做せる範囲内(例えば、他方の圧力が一方の圧力の±10%)であれば、差を有していてもよい。
【0042】
また上記実施形態では、加圧シリンダとして、親子シリンダ20(子シリンダ21及び親シリンダ22)を例に挙げて説明した。しかし、本発明に係る第1、第2加圧シリンダは、親子シリンダに限定されず、例えば互いに独立して並設された加圧シリンダであってもよい。
また、加圧シリンダは3つ以上あってもよい。この場合、本発明に係る第1加圧シリンダ及び第2加圧シリンダが、3つ以上の加圧シリンダのうちのいずれか2つに対応していてもよいし、本発明に係る第1加圧シリンダ及び第2加圧シリンダの少なくとも一方が複数あってもよい。
【0043】
また上記実施形態では、液圧プレス1として、作動油によってスライドを駆動させる油圧プレスを挙げて説明した。しかし、本発明に係る液圧プレスは、作動流体によってスライドを駆動させるものであれば油圧プレスに限定されない。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 液圧プレス
14 スライド
21 子シリンダ(加圧シリンダ)
21c 子油室(加圧室)
22 親シリンダ(加圧シリンダ)
22c 親油室(加圧室)
30 油圧回路(液圧回路)
31 油圧源(液圧源)
33 第1制御弁
34 第2制御弁
35 第3制御弁
36 第4制御弁
38 プレフィルタンク
50 制御装置
51 第1圧力検出器
52 第2圧力検出器
100 装置本体
A 領域
B 領域
B’ 領域
C 領域
D 領域
E 領域
P 総加圧力
p1 親油室の圧力
p2 子油室の圧力
Pa 設定圧力
Pb 設定圧力