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  • 特許-保持パッド 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】保持パッド
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/30 20120101AFI20240710BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20240710BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B24B37/30 C
B24B41/06 L
H01L21/304 622G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020162972
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055510
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】久米 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 寿明
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-051075(JP,A)
【文献】特開2020-097094(JP,A)
【文献】特開2013-107137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/30
B24B 41/06
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂層を備える、保持パッドであって、
前記樹脂層が、
被研磨物を保持するための保持面と、
前記保持面とは異なり、かつ、熱融着により前記保持パッドと他の保持パッドとを接合できる接合面と、
を有し、
前記樹脂層の流動開始温度が、150℃~200℃であり、
前記接合面における空隙率が、40~60%である、保持パッド。
【請求項2】
前記樹脂層の空隙率が、70~90%である、請求項1に記載の保持パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)に用いられるガラス基板は、LCDの生産性向上を目的として年々大型化が進んでおり、一辺が3mに迫る大型のガラス基板が使用されるに至っている。大型のガラス基板の研磨加工時に使用される保持パッドは、ガラス基板を全面で保持するため、ガラス基板のサイズ変化にあわせて大型化する必要があるが、精密な寸法制御の困難性ゆえ、複数の保持パッドを接合させた接合体をガラス基板の保持具として用いることが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数のシート材と、当該シート材を連接するための粘着材と、を備える保持材が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、複数の自己吸着型シート同士を、半田コテ等によって熱融着させた保持用膜体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-212807号公報
【文献】特開2020-097094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の保持材では、熱融着する場合と比べると、シート材の連接部分に存在する凹みの影響が顕在化しやすく、被研磨物の平坦性が損なわれる傾向にある。
また、特許文献2の技術によれば、熱融着による均一な接合が容易ではなく、例えば、温度調節の精度が不十分であると均一な接合が困難となる。さらに、特許文献2の技術によれば、接合面以外の箇所まで熱により溶解するおそれもあり、最終的に得られる保持用膜体の形状に大きく悪影響を及ぼすおそれもある。さらに、被研磨物を保持する為には涙型連続気泡が必須であるところ、この涙型連続気泡は余分な熱で樹脂が流動し容易に変形し失われるという問題もあった。
【0007】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、熱融着による保持パッド同士の接合が容易であり、均一な形状の接合体が得られる、保持パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、接合面の物性を調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1]
被研磨物を保持するための保持面と当該保持面とは異なる接合面を有する樹脂層を備える、保持パッドであって、
前記樹脂層の流動開始温度が、150℃~200℃であり、
前記接合面における空隙率が、40~60%である、保持パッド。
[2]
前記樹脂層の空隙率が、70~90%である、[1]に記載の保持パッド。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱融着による保持パッド同士の接合が容易であり、均一な形状の接合体が得られる、保持パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る保持パッドの構成を例示する概略断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は以下の実施形態のみに限定されない。
【0013】
〔保持パッド〕
本実施形態の保持パッドは、被研磨物を保持するための保持面と当該保持面とは異なる接合面を有する樹脂層を備える、保持パッドであって、前記樹脂層が、前記樹脂層の流動開始温度が、150℃~200℃であり、前記接合面における空隙率が、40~60%である。本実施形態の保持パッドは、このように構成されているため、熱融着による保持パッド同士の接合が容易であり、均一な形状の接合体を与えることができる。本明細書中、「接合体」とは、本実施形態の保持パッドを、その接合面を介して、他の保持パッドと接合したものを意味する。なお、本明細書中、本実施形態の保持パッドの接合を説明する際の便宜上、「他の保持パッド」との用語を用いる場合があるが、他の保持パッドは、本実施形態の保持パッドに該当するものが好ましい。また、接合体を構成する保持パッドの数は特に限定されず、2以上であってもよいし4以上であってもよい。
【0014】
本実施形態の保持パッドの一例を、図1に基づいて説明する。図1に示すとおり、保持パッド1は、被研磨物を保持するための保持面2Saと、保持面2Saとは異なる接合面2Sbとを有する樹脂層2を備えており、樹脂層2の接合面2Sbと反対面側には、基材としてのPETフィルム3が配されている。また、PETフィルム3と樹脂層2との間は接着剤4aで接合されている。また、PETフィルム3は、樹脂層2と反対側の面における接着剤4bを介して、離型紙5と接合されている。保持パッド1は、例えば、離型紙5を剥離した後、接着剤4bを介して保持定盤(図示せず)に固定することができる。樹脂層2は、顔料(図示せず)を含むものであり、さらに、層内の図1上方に配された複数の発泡2Paと、その下方に配された複数の発泡2Pbを有する。保持パッド1の接合面2Sbと、図示しない他の保持パッドの接合面と、を対向させた状態で熱融着することにより、保持パッド同士を接合させ、1つの接合体を得ることができる。本実施形態において、熱融着は、各保持パッドのサイズや形状、及び樹脂層の組成等を考慮し、公知の方法ないし条件にて実施することができる。なお、保持パッド1におけるPETフィルム3、接着剤4a,4b及び離型紙5は任意の構成であり、樹脂層2単独でも本実施形態の保持パッドとして用いることができる。
【0015】
(樹脂層)
本実施形態における樹脂層は、被研磨物を保持するための保持面を有する。本実施形態の保持パッドは、保持面に適量の水を含ませて被研磨物を押し付けることで、保持面と被研磨物の表面との相互作用により被研磨物を保持することができる。当該保持面は、被研磨物を保持しやすいように被研磨物よりやや大きく設計されていてもよい。さらに、保持面は、複数の被研磨物を同時に保持できるよう構成されていてもよい。
【0016】
本実施形態における樹脂層は、保持面とは異なる接合面を更に有する。本実施形態の保持パッドは、その接合面を介して、他の保持パッドと接合することができる。本実施形態の保持パッドにおける接合面の数は、特に限定されず、1つのみであってもよいし、2以上の接合面を有するものであってもよい。また、本実施形態の保持パッドにおける接合面は、その全面で他の保持パッドと接合されてもよいし、接合面の一部において他の保持パッドと接合されてもよい。
【0017】
本実施形態における樹脂層は、熱伝導性の観点から、樹脂の他に、顔料を含むことが好ましい。顔料としては、特に限定されないが、無機顔料が好ましく、より好ましくはカーボンブラックである。本実施形態における顔料の含有量としては、樹脂層の質量100質量部に対して、3~15質量部であることが好ましい。上記含有量を3~15質量部とすることで、樹脂層が適度な熱伝導性を有する傾向にあり、局所的な熱融着を実施しやすくなる。同様の観点から、顔料の含有量は、4~12.5質量部であることが好ましく、より好ましくは4.5~12質量部であり、さらに好ましくは4.5~10.5質量部であり、よりさらに好ましくは4.5~8.8質量部である。
【0018】
本実施形態において、樹脂層の流動開始温度は150℃~200℃である。流動開始温度が200℃超であると熱融着させるためにより高温の熱を与えることになり、その結果樹脂層が変形して硬くなったり、樹脂層が熱分解により弾性を失う等により被研磨物の研磨平坦性が損なわれる。150℃未満であると研磨熱によって樹脂層がへたりやすくなり、被研磨物に悪影響を及ぼす。したがって、流動開始温度を150~200℃とすることで、低い温度でも熱融着しやすく、かつ、変形が抑制された保持パッドとなる。同様の観点から、流動開始温度は160~195℃であることが好ましく、より好ましくは170~195℃である。流動開始温度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができ、例えば、後述するように樹脂層の組成を適宜調整すること等により、上記範囲に調整することができる。
【0019】
本実施形態において、樹脂層の接合面における空隙率は40~60%である。接合面における空隙率を40~60%とすることで、樹脂層が適度な熱伝導性を有する傾向にあり、局所的な熱融着を実施しやすくなる。同様の観点から、接合面における空隙率は、42~58%であることが好ましく、より好ましくは45~58%である。接合面における空隙率は、後述する実施例に記載の方法により測定することができ、例えば、後述するように樹脂層の組成を適宜調整すること等により、上記範囲に調整することができる。
【0020】
本実施形態において、樹脂層の全体としての空隙率(以下、「樹脂層の空隙率」ともいう。)は70~90%である。樹脂層の空隙率を70~90%とすることで、樹脂層が適度な熱伝導性を有する傾向にあり、局所的な熱融着を実施しやすくなる。同様の観点から、樹脂層の空隙率は、71~89%であることが好ましく、より好ましくは72~88%である。樹脂層の空隙率は、後述する実施例に記載の方法により測定することができ、例えば、後述するように樹脂層の組成を適宜調整すること等により、上記範囲に調整することができる。
【0021】
本実施形態における樹脂層の構造としては、特に限定されないが、表面層として皮膜(スキン層)を備え、スキン層の下部には厚み方向に縦長の多数の発泡を備え、それらが連通した連続発泡構造を有することが好ましい。縦長の多数の発泡とは、本実施形態における樹脂層の厚み方向に沿って、スキン層に向かって発泡径が漸次小さくなる形状を有するものを意味する。
【0022】
本実施形態における樹脂層を構成するマトリックス材料である樹脂としては、特に限定されないが、製法上の観点から湿式凝固可能な樹脂が好ましく、被研磨物の保持力の観点から弾性を与える樹脂が好ましい。そのような樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリウレタンポリウレア等のポリウレタン系樹脂が挙げられる。ポリウレタン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂が挙げられる。このほかに、ポリウレタン系樹脂と併用する形でポリアクリレート、ポリアクリロニトリル等のアクリル系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のビニル系樹脂;ポリサルホン、ポリエーテルサルホン等のポリサルホン系樹脂;アセチル化セルロース、ブチリル化セルロース等のアシル化セルロース系樹脂;ポリアミド系樹脂;及びポリスチレン系樹脂が挙げられる。なお、「湿式凝固」とは、樹脂を溶解させた樹脂溶液を塗膜にし、これを凝固液(樹脂に対して貧溶媒である。)の槽に浸漬することにより、含浸した樹脂溶液中の樹脂を凝固再生させるものである。樹脂溶液中の溶媒と凝固液とが置換されることにより樹脂溶液中の樹脂が凝集して凝固される。なお、湿式凝固に用いる観点から、本実施形態における樹脂層を構成する樹脂は、N,N-ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、及びジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる1種以上に可溶であることが好ましい。
なお、流動開始温度を前述した所定範囲とするためには、例えば、用いる樹脂の重合度、ソフトセグメント/ハードゼグメント比率や組成、架橋度等を調整すればよい。
特にポリウレタン樹脂を用いる場合、ポリウレタン樹脂の原料であるポリオールの種類、鎖伸長剤の使用量、及びポリイソシアネートの種類により流動開始温度を調整することができる。流動開始温度を高く調整する方法としては、例えば、ポリオールとして結晶性の高いポリオールを用いること、鎖伸長剤の使用量を多くすること、ポリイソシアネートとして、結晶性の高いポリイソシアネートを用いることなどが挙げられる。また、流動開始温度を低く調整する方法としては、例えば、ポリオールとして結晶性の低いポリオールを用いること、鎖伸長剤の使用量を少なくすること、ポリイソシアネートとして、結晶性の低いポリイソシアネートを用いることなどが挙げられる。
【0023】
本実施形態における樹脂層は、上述した樹脂及び顔料以外の成分として、必要に応じてその他の添加材を1種又は2種以上含んでもよい。このような添加剤としては、特に限定されないが、例えば、発泡剤、触媒、界面活性剤、酸化防止剤、帯電防止剤、親水剤、疎水剤、及び染料等が挙げられ、これらが樹脂層の接合面における空隙率及び樹脂層の空隙率の調整手段にもなる。空隙率はこの他に樹脂層形成時の凝固浴組成、粘体の濃度・粘度、樹脂組成などで適宜調整することができる。例えば、粘度を高くすると空隙率は小さくなる傾向にある。
【0024】
(樹脂層の各種物性)
本実施形態における樹脂層の硬度は、好ましくはショアA硬度10°以上ショアD硬度70°以下であり、より好ましくはショアA硬度10°以上ショアA硬度80°以下であり、さらに好ましくはショアA硬度10°以上ショアA硬度50°以下である。ショアA硬度が10°以上であることにより、高い研磨圧により研磨加工された際に保持パッドの沈み込みが抑制され、被研磨物の一層高度な平坦化が達成される傾向にある。また、ショアD硬度が70°以下であることにより、研磨時の衝撃に由来する研磨物表面の研磨傷の発生をより抑制できる傾向にある。各硬度は、例えば、本実施形態における樹脂層に含まれる発泡の量を制御することにより、調整することができる。なお、ショアA硬度及びショアD硬度は、JIS-K-6253(2012)に準拠して測定することができる。
【0025】
本実施形態における樹脂層の圧縮率は、30%以上70%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以上60%以下であり、さらに好ましくは45%以上55%以下である。本実施形態における樹脂層圧縮率が30%以上であることにより、研磨時の衝撃に由来する被研磨物表面の研磨傷の発生がより抑制される傾向にある。また、本実施形態における樹脂層の圧縮率が70%以下であることにより、研磨レートがより向上する傾向にある。圧縮率は下記の方法により測定することができる。すなわち、日本工業規格(JIS L 1021)に従い、ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を使用して求めることができる。具体的には、無荷重状態から初荷重を30秒間かけた後の厚さt0を測定し、次に、厚さt0の状態から最終圧力を60秒間かけた後の厚さt1を測定する。圧縮率は、圧縮率(%)=100×(t0-t1)/t0の式で算出する。このとき、初荷重は100g/cm2、最終圧力は1120g/cm2とする。
【0026】
本実施形態における樹脂層の圧縮弾性率は、55%以上100%以下であることが好ましく、より好ましくは60%以上100%以下であり、さらに好ましくは65%以上100%以下である。本実施形態における樹脂層の圧縮弾性率が55%以上であることにより、研磨時の衝撃に由来する被研磨物表面の研磨傷の発生がより抑制される傾向にある。圧縮弾性率は下記の方法により測定することができる。すなわち、日本工業規格(JIS L 1021)に従い、ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を使用して求めることができる。具体的には、無荷重状態から初荷重を30秒間かけた後の厚さt0を測定し、次に、厚さt0の状態から最終圧力を60秒間かけた後の厚さt1を測定する。厚さt1の状態から全ての荷重を除き、60秒間放置(無荷重状態とした)後、再び初荷重を30秒間かけた後の厚さt0’を測定する。圧縮弾性率は、圧縮弾性率(%)=100×(t0’-t1)/(t0-t1)の式で算出する。このとき、初荷重は100g/cm2、最終圧力は1120g/cm2とする。
【0027】
本実施形態における樹脂層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.10mm以上5.0mm以下であり、より好ましくは0.20mm以上2.5mm以下であり、さらに好ましくは0.30mm以上1.5mm以下である。本実施形態における樹脂層の厚さが0.10mm以上であることにより、圧縮変形量がより向上することにより被研磨物の保持性能(密着性)が向上し、また、研磨時に被研磨物への衝撃を吸収して破損等の欠陥が減少する傾向にある。また、本実施形態における樹脂層の厚さが5.0mm以下であることにより、圧縮変形量が高すぎることに起因した、平坦性の悪化や研磨レートの低下を抑制する傾向にある。なお、本実施形態における樹脂層の厚さは、日本工業規格(JIS K 6505)に準拠して測定される。また、定盤と接する面に両面テープ等の接着層を有している場合は、公知の画像処理技術等を併用し、接着層の厚みを減算する。
【0028】
本実施形態における樹脂層の密度(かさ密度)は、好ましくは0.16g/cm3以上1.0g/cm3以下であり、より好ましくは0.30g/cm3以上0.90g/cm3以下であり、さらに好ましくは0.35g/cm3以上0.70g/cm3以下である。本実施形態における樹脂層の密度が0.16g/cm3以上であることにより、高い研磨圧で加工された場合においても沈み込みが抑制され、被研磨物の一層高度な平坦化が達成される傾向にある。また、本実施形態における樹脂層の密度が1.0g/cm3以下であることにより、研磨時の衝撃に由来する研磨物表面の研磨傷の発生をより抑制できる傾向にある。密度は、例えば、本実施形態における樹脂層に含まれる発泡の量を制御することにより、調整することができる。なお、密度はJIS-K-7222(2005)に準拠して測定することができる。
【0029】
(枠材)
本実施形態の保持パッドは、保持面の周縁上に配され、かつ、前記被研磨物を囲むための枠材を備えるものであってもよい。上記枠材は、保持パッドにおける保持面の周囲にある面上に設けられ、研磨加工中に被研磨物が横ずれを起こして、保持パッドにおける保持面から脱落することを防止する(横ずれ範囲を規制する)ものである。
【0030】
本実施形態の保持パッドの形状としては、本実施形態の保持パッドを他の保持パッドと接合した結果、得られる接合体が均一な形状を有するものであれば特に限定されず、円形状や矩形状等の種々の形状をとり得る。すなわち、本実施形態の保持パッドの形状は、他の保持パッドの形状(特に他の保持パッドにおける樹脂層の形状)との関係で適宜調整することができる。本実施形態の保持パッドは、典型的には、略直方体の形状を有することができ、この場合、保持パッドにおける樹脂層やPETフィルム等の任意の層としても略直方体の形状を有することができる。
【0031】
〔保持パッドの製造方法〕
本実施形態の保持パッドの製造方法は、上述した本実施形態の保持パッドの構成が得られる方法である限り、特に限定されるものではない。以下、図1を参照しつつ本実施形態の保持パッドの好適な製造方法を例示する。
【0032】
保持パッド1は、例えば、湿式凝固法により形成されたシート状の樹脂層2と両面テープ(図1の例では、PETフィルム3、接着剤4a,4b及び離型紙5から構成される。)とを貼り合わせることで製造することができる。すなわち、本実施形態の保持パッドの製造方法は、ポリウレタン樹脂溶液を準備する準備工程と、成膜基材にポリウレタン樹脂溶液を塗布し、凝固液中でポリウレタン樹脂溶液を凝固させポリウレタン樹脂を再生させる凝固再生工程と、シート状のポリウレタン樹脂を洗浄し乾燥させる洗浄・乾燥工程と、得られた樹脂層2と両面テープとを貼り合わせるラミネート工程と、を含むことが好ましい。以下、工程順に説明する。
【0033】
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒および添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。有機溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)やN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等を挙げることができるが、ここでは、DMFを用いる例に基づいて説明する。ポリウレタン樹脂は、ポリエステル系、ポリエーテル系等の樹脂から選択して用いることができるが、上述した発泡構造を形成するために、DMFにポリウレタン樹脂を20重量%で溶解させた樹脂溶液について、B型回転粘度計を使用し25℃で測定した粘度が5~10Pa・sの範囲の樹脂を選定し用いる。また、用いるポリウレタン樹脂が20MPaより小さい100%モジュラスを有することが好ましい。このポリウレタン樹脂を10~30重量%の範囲となるようにDMFに溶解させる。次いで、これにカーボンブラック等の顔料を添加する。さらに、添加剤としては、発泡2Pbの大きさや量(個数)を制御するため、発泡を促進させる親水性添加剤、ポリウレタン樹脂の再生を安定化させる疎水性添加剤等を用いることができる。得られた溶液を減圧下で脱泡してポリウレタン樹脂溶液を得る。
【0034】
凝固再生工程では、準備工程で得られたポリウレタン樹脂溶液を常温下でナイフコータ等の塗布装置により帯状の成膜基材にシート状に略均一に塗布する。このとき、ナイフコータ等と成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、ポリウレタン樹脂溶液の塗布厚み(塗布量)を調整する。成膜基材としては、樹脂製フィルム、布帛、不織布等を用いることができるが、本例では、PETフィルムを用いる。
【0035】
成膜基材に塗布されたポリウレタン樹脂溶液を、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(水系凝固液)中に連続的に案内する。凝固液には、ポリウレタン樹脂の再生速度を調整するために、DMFやDMF以外の極性溶媒等の有機溶媒を添加してもよいが、本例では、水を使用する。凝固液中では、まず、ポリウレタン樹脂溶液と凝固液との界面に皮膜が形成され、皮膜の直近のポリウレタン樹脂中にスキン層(樹脂層2が有する保持面側の表面層)を構成する複数の発泡2Paが形成される。その後、ポリウレタン樹脂溶液中のDMFの凝固液中への拡散と、ポリウレタン樹脂中への水の浸入との協調現象により連続発泡構造を有するポリウレタン樹脂の再生が進行する。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水(凝固液)を浸透させないため、DMFと水との置換がスキン層側で生じ、スキン層側の発泡2Paよりも大きな発泡2Pbが成膜基材側に形成される。
【0036】
洗浄・乾燥工程では、再生工程で再生したポリウレタン樹脂を水等の洗浄液中で洗浄してポリウレタン樹脂中に残留するDMFを除去した後、乾燥させる。ポリウレタン樹脂の乾燥には、本例では、内部に熱源を有するシリンダを備えたシリンダ乾燥機を用いる。ポリウレタン樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。得られた樹脂層2をロール状に巻き取る。
【0037】
ラミネート工程では、湿式凝固法で作製された樹脂層2と、両面テープとを貼り合わせる。このとき、樹脂層2の保持面とは反対面側と両面テープとを貼り合わせる。そして、円形や角形等の所望の形状、サイズに裁断した後、キズや汚れ、異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、保持パッド1を完成させる。
【実施例
【0038】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
まず、マトリックス樹脂となる原料樹脂であるポリエステル系ポリウレタン樹脂の35%DMF溶液100質量部に対して、粘度調整用のDMF50質量部、水8質量部、顔料であるカーボンブラックを7.3質量%含むDMF分散液を44質量部(カーボンブラックとして3.2質量部)、疎水性添加剤2.5質量部、親水性添加剤1.0質量部を添加して、混合撹拌し、樹脂溶液を調製した。すなわち、樹脂100質量部に対し、カーボンブラック量は4.9質量部とした。次に、成膜用基材として、PETフィルムを用意し、上記樹脂溶液を、ナイフコータを用いてPETフィルムへ塗布し塗膜を得た。
次いで、得られた塗膜を成膜用基材と共に、凝固液である水からなる18℃の凝固浴に浸漬し、樹脂を凝固再生して前駆体シートを得た。前駆体シートを凝固浴から取り出し、PETフィルムを前駆体シートから剥離した後、前駆体シートを水からなる室温の洗浄液(脱溶剤浴)に浸漬し、溶媒であるDMFを除去して、乾燥しつつ巻き取った。得られた樹脂シート(樹脂層)の保持面とは反対側の面(成膜用基材を剥離した側の面であって、成膜用基材に接触していた面)に対してバフ処理を施した。
なお、この樹脂シートの流動開始温度は190℃であった。
次いで、得られたシートと同じ樹脂シートを用意し、互いの上層付近を半田コテで熱融着させた。熱融着させたシートのバフ処理を施した面に市販のPET基材と市販の離型シートからなる両面テープを貼り合わせ実施例1に係る接合体とした。
【0040】
(実施例2)
マトリックス樹脂として実施例1とは別種のポリエステル系ポリウレタン樹脂を用い、流動開始温度が175℃となるようにした上、実施例1のカーボンブラックを10.9質量%含むDMF分散液を44質量部(カーボンブラックとして4.8質量部)、すなわち、樹脂100質量部に対し、カーボンブラック量を7.4質量部に変更した以外は実施例1と同様の処方で接合体を作製した。
【0041】
(比較例1)
マトリックス樹脂として実施例1とは別種のポリエステル系ポリウレタン樹脂を用い、流動開始温度が220℃となるようにした以外は実施例1と同様の処方で接合体を作製した。
【0042】
(比較例2)
マトリックス樹脂としてポリエステル系ポリウレタン樹脂をポリエーテル系ポリウレタン樹脂に変更し、流動開始温度が145℃となるようにした以外は実施例1と同様の処方で接合体を作製した。
【0043】
(実施例3)
実施例1のカーボンブラックを、2.6質量%含むDMF分散液を44質量部(カーボンブラックとして1.1質量部)、すなわち、樹脂100質量部に対し、カーボンブラック量を1.7質量部に変更した以外は実施例1と同様の処方で接合体を作製した。
【0044】
(実施例4)
実施例1のカーボンブラックを、15.1質量%含むDMF分散液を44質量部(カーボンブラックとして6.6質量部)、すなわち、樹脂100質量部に対し、カーボンブラック量を10.2質量部に変更した以外は実施例1と同様の処方で接合体を作製した。
【0045】
(比較例3)
粘度調整用のDMFを60質量部とした以外は実施例1と同様の処方で接合体を作製した。
【0046】
(比較例4)
粘度調整用のDMFを30質量部とした以外は実施例1と同様の処方で接合体を作製した。
【0047】
(流動開始温度)
保持パッド(接合体を作製する前の樹脂シート)から樹脂層(10g)を切り出し、サンプルとした。熱流動評価装置(島津製作所社製 CFT-100D)を用い、穴形状が直径2.0mm、長さが5.0mmのダイを使用し、試験圧力100g/cm2、昇温速度10℃/分の条件にて当該サンプルの流動開始温度を測定した。
【0048】
(空隙率)
保持パッドの樹脂層の空隙率は以下のように求めた。
接合体を作製する前の樹脂シートの保持面(両面テープを貼り合わせた面とは反対側の面)に対して垂直にスライスし、得られた断面における断層画像を、3次元計測X線CT装置(ヤマト科学社製 TDM1000H-II(2K))を用いて取得した。次いで、得られた断層画像に対して画像処理ソフト(Volume Graphics社製 VG Studio MAX 3.0)を用いて、断面全体の気泡部分の占める面積を測定し算出した。
【0049】
また、保持パッドの接合面の空隙率は以下のように算出した。上述した樹脂シートの断面における断層画像を、3次元計測X線CT装置(ヤマト科学社製 TDM1000H-II(2K))を用いて得た。次いで、得られた断層画像に対して画像処理ソフト(Volume Graphics社製 VG Studio MAX 3.0)を用いて、保持面表層から深さ400μmまでの領域における気泡部分の占める面積を測定し算出した。
【0050】
得られた接合体を使用し、以下の研磨条件でガラス基板の研磨テストを行った。
(研磨条件)
使用研磨機 :オスカー研磨機(スピードファム社製 SP-1200)
研磨速度(回転数):61rpm
加工圧力 :76gf/cm2
スラリー :セリウムスラリー
被研磨物 :LCD用ガラス基板(355mm×406mm×0.5mm)
研磨時間 :30min×20回
【0051】
(平坦度a)
上記研磨の後、研磨性能を評価した。この評価では、日本工業規格(JIS B0601:’82)に準じた方法で、ろ波中心うねりから平坦度aを測定した。平坦度aの測定では、表面粗さ形状測定機(株式会社東京精密製、サーフコム480A)を使用し、以下に示す測定条件に設定した。研磨加工後のガラス基板表面の凹凸に起因して得られる測定曲線から、隣り合う凸部(山部)と凸部との間の幅W、及び、凸部と凹部(谷部)との高さSを算出した後、幅Wを横軸、高さSを縦軸とした散布図を作成した。得られた散布図から、一次式S=aWの近似直線を求め、傾きaを研磨加工後の最終の平坦度aとした。一般に、平坦性が高くなるほど幅Wが大きくなり高さSが小さくなるため、傾きaが小さいほど平坦性に優れることを示すこととなる。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例1と比較したとき、比較例1では流動開始温度が高いため、熱融着時に樹脂層が変性し、また比較例2では流動開始温度が低いため、研磨熱により樹脂層がへたり、それぞれ被研磨物の平坦性が低下したものと考えられる。
また、空隙率を調整した比較例3と4に関し、比較例3は空隙率が高く、薄肉化によるへたりが起き、比較例4は空隙率が低く熱融着時に樹脂層が広く変性が起こったために、被研磨物の平坦性が低下したもの思われる。
なお、カーボンブラック量を調整した実施例3と4に関し、特に実施例4では熱伝導性が高くなり、熱融着時に接合面のみならずその周辺の樹脂層が変性したため、実施例1に比べると被研磨物の平坦性が低下したものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、研磨加工分野の被研磨物の保持パッドとして産業上の利用可能性を有する。
図1