(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】評価表示方法、評価表示装置、及び評価表示プログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 9/06 20060101AFI20240710BHJP
G01H 3/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
G01M9/06
G01H3/00 Z
(21)【出願番号】P 2020171207
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003498
【氏名又は名称】弁理士法人アイピールーム
(74)【代理人】
【識別番号】100167117
【氏名又は名称】打越 佑介
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 智裕
(72)【発明者】
【氏名】木村 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 充隆
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-096741(JP,A)
【文献】特開2007-198809(JP,A)
【文献】特開2000-214270(JP,A)
【文献】特開2017-173249(JP,A)
【文献】特開昭61-230040(JP,A)
【文献】特開2014-048120(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0160373(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0278002(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 9/06
G01H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経時的に変化する風により対象物
に生じる影響の評価を表示する方法であって、
対象物を中心として風向角を周方向かつ風速を径方向で示すチャートを生成し、
前記評価の起因となる風向角及び風速を割り出し、
少なくとも前記風向角を所定の範囲として割り出し、
割り出した風向角及び風速に基づいて前記評価を前記チャート内に表示
し、
前記影響は、対象物から生じる音、対象物の状況変化である対象物の振動、対象物の変形のうち1つ又は2つ以上であり、
前記評価は、前記チャートに対する前記風向角及び前記風速により定まる箇所の割合と、当該箇所の色、網掛けの種類、及び/又は色、網掛けの濃淡とで行う
ことを特徴とする評価表示方法。
【請求項2】
前記影響は、前記対象物の前記状況変化である
ことを特徴とする請求項1に記載の評価表示方法。
【請求項3】
前記チャートの中心に見下ろした状態の対象物を擬似的に配置し、
前記対象物の正面に対する前記風向角を0°とする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の評価表示方法。
【請求項4】
前記風速の範囲を前記評価の近く又は前記評価と重ねて表示する
ことを特徴とする
請求項1乃至3のいずれかに記載の評価表示方法。
【請求項5】
2種類以上の間隔毎の前記風向角で示して前記チャートを生成する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の評価表示方法。
【請求項6】
経時的に変化する風により対象物
に生じる影響の評価を表示する装置であって、
対象物を中心として風向角を周方向かつ風速を径方向で示すチャートを生成する生成部と、
前記評価の起因となる風向角及び風速を割り出
し、少なくとも前記風向角を所定の範囲として割り出す割出部と、
前記割出部が割り出した風向角及び風速に基づき前記評価を前記チャートに表す表示部と、を備え
、
前記影響は、対象物から生じる音、対象物の状況変化である対象物の振動、対象物の変形のうち1つ又は2つ以上であり、
前記評価は、前記表示部が表す前記チャートに対する前記風向角及び前記風速により定まる箇所の割合と、当該箇所の色、網掛けの種類、及び/又は色、網掛けの濃淡とで行われる
ことを特徴とする評価表示装置。
【請求項7】
経時的に変化する風により対象物
に生じる影響の評価を表示するプログラムであって、
対象物を中心として風向角を周方向かつ風速を径方向で示すチャートを生成する生成部と、
前記評価の起因となる風向角及び風速を割り出
し、少なくとも前記風向角を所定の範囲として割り出す割出部と、
前記割出部が割り出した
前記風向角の範囲及び/又は前記風速の範囲に基づき前記評価を前記チャートに表す表示部と、してコンピュータを機能させ
、
前記影響は、対象物から生じる音、対象物の状況変化である対象物の振動、対象物の変形のうち1つ又は2つ以上であり、
前記評価は、前記表示部が表す前記チャートに対する前記風向角及び前記風速により定まる箇所の割合と、当該箇所の色、網掛けの種類、及び/又は色、網掛けの濃淡とで行われる
ことを特徴とする評価表示プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物が風により受ける影響を評価して表示する評価表示方法、評価表示装置、及び評価表示プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、集合住宅等の建築物では、外装部材である格子手摺等が風を受けると騒音を発することが懸念される。格子手摺の場合、風によって、格子の振動による振動音や格子間で生じる共鳴による空力音(風切り音)が騒音となりかねないため、風洞試験にて風の影響を事前に評価していた。換言すると、格子手摺が発する振動音や風切り音が騒音か否かは、風向や風速等に基づいて評価していた。
【0003】
一方、風向風速計から得た計測値を可視化する際、風向及び風速の分布や傾向を把握しやすくする風向風速表示方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。詳細には、上記計測値に基づき単位時間毎の平均値を算出及び記録し、複数の平均値の各々を時系列順で色分けして体現した矢印を、風向である方位を周方向かつ風速を径方向で示す円形状のチャートに表示するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、対象物が風により受ける影響を評価して表示するものではなく、また、チャートに表示される矢印の数が多いほど、矢印同士が重なって方位及び風速を把握しにくくなり、一方、時系列で古い矢印をチャートから削除してしまうと、削除済みの矢印と最新の矢印との対比ができなくなる。すなわち、特許文献1は、比較的直近の風の風向及び風速を把握しやすくするものに過ぎない。
【0006】
一般的に、例えば、風洞試験にて風を受けた対象物が発する音の評価は、表形式で示される場合が多い。具体的には、評価の起因となる影響の要素である風向角を表の横軸、風速を表の縦軸とし、風向角及び風速毎に計測した音の大小を表中の各セル内に表示することで、風の風向角及び風速によって、定常的に音が発生する範囲を評価していた。
【0007】
しかしながら、マトリックス状の表形式では、横軸の風向角を数値で表すため、対象物と風向との関係を一見して把握しにくいばかりでなく、風向角の間隔を小刻みに表すほど、横軸が長くなって表が見づらくなる上、複数の対象物に対して行った実験結果も対比しづらくなる。さらに、対象物の設置位置から、対象物に作用する風向角の範囲を考慮する場合、表形式の表示方法では判断が困難になることから、これらの課題を解決する着想に、発明者等は辿り着いた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、対象物に影響する風の要素として少なくとも風向角があり、これに対する対象物に生じる影響が把握しやすく、複数の対象物同士の評価の対比や、別条件で行った実験結果との対比において、実際に発生する影響を判断しやすい評価表示方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
換言すると、本発明は、風により定常的に対象物に生じる影響の評価を表示する方法であって、対象物を中心として風向角を周方向で示すチャートを生成し、各風向角で生じる影響の評価を上記チャート内に表示することを特徴とする。
【0010】
ここで、風向角以外で対象物に影響する2つ目の要素をチャートの径方向で示すことも可能であり、上記要素として風速を採用してもよい。換言すると、風速が対象物に生じる影響の要素ではない場合、風速以外の要素をチャートの径方向で示してもよい。対象物に生じる影響とは、風を受ける対象物の状況を視覚や聴覚で認識できるものであればいずれも該当し、例えば、対象物から生じる音・対象物の振動・対象物の変形である。
【0011】
すなわち、本発明は、経時的に変化する風により対象物から生じる音の評価を表示する方法であって、対象物を中心として風向角を周方向かつ風速を径方向で示すチャートを生成し、上記評価の起因となる風向角及び風速を割り出し、割り出した風向角及び風速に基づいて上記評価を上記チャート内に表示することを特徴とする。すなわち、本発明は、上記チャートを分割し、風により定常的に対象物から生じる音の発生状況を、上記チャートにおける該当する位置に表示するものである。
【0012】
また、本発明は、経時的に変化する風により対象物から生じる音の評価を表示する装置であって、対象物を中心として風向角を周方向かつ風速を径方向で示すチャートを生成する生成部と、上記評価の起因となる風向角及び風速を割り出す割出部と、上記割出部が割り出した風向角及び風速に基づき上記評価を上記チャートに表す表示部と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、経時的に変化する風により対象物から生じる音の評価を表示するプログラムであって、対象物を中心として風向角を周方向かつ風速を径方向で示すチャートを生成する生成部と、上記評価の起因となる風向角及び風速を割り出す割出部と、上記割出部が割り出した風向角及び風速に基づき上記評価を上記チャートに表す表示部と、してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、以下のようにも表現される。
【0015】
本発明は、経時的に変化する風により対象物に生じる影響の評価を表示する方法であって、対象物を中心として風向角を周方向かつ風速を径方向で示すチャートを生成し、上記評価の起因となる風向角及び風速を割り出し、少なくとも上記風向角を所定の範囲として割り出し、割り出した風向角及び風速に基づいて上記評価を上記チャート内に表示し、上記影響は、対象物から生じる音、対象物の状況変化である対象物の振動、対象物の変形のうち1つ又は2つ以上であり、上記評価は、上記チャートに対する上記風向角及び上記風速により定まる箇所の割合と、上記箇所の色、網掛けの種類、及び/又は色、網掛けの濃淡とで行うものである。
【0016】
上記方法における上記影響は、上記対象物の上記状況変化であることが望ましい。
【0017】
上記方法では、上記チャートの中心に見下ろした状態の対象物を擬似的に配置し、上記対象物の正面に対する上記風向角を0°とすることが望ましい。
【0018】
上記方法では、上記風速の範囲を上記評価の近く又は上記評価と重ねて表示することが望ましい。
【0019】
上記方法では、2種類以上の間隔毎の上記風向角で示して上記チャートを生成することが望ましい。
【0020】
また、本発明は、経時的に変化する風により対象物に生じる影響の評価を表示する装置であって、対象物を中心として風向角を周方向かつ風速を径方向で示すチャートを生成する生成部と、上記評価の起因となる風向角及び風速を割り出し、少なくとも上記風向角を所定の範囲として割り出す割出部と、上記割出部が割り出した風向角及び風速に基づき上記評価を上記チャートに表す表示部と、を備え、上記影響は、対象物から生じる音、対象物の状況変化である対象物の振動、対象物の変形のうち1つ又は2つ以上であり、上記評価は、上記表示部が表す上記チャートに対する上記風向角及び上記風速により定まる箇所の割合と、上記箇所の色、網掛けの種類、及び/又は色、網掛けの濃淡とで行われるものである。
【0021】
また、本発明は、経時的に変化する風により対象物に生じる影響の評価を表示するプログラムであって、対象物を中心として風向角を周方向かつ風速を径方向で示すチャートを生成する生成部と、上記評価の起因となる風向角及び風速を割り出し、少なくとも上記風向角を所定の範囲として割り出す割出部と、上記割出部が割り出した上記風向角の範囲及び/又は上記風速の範囲に基づき上記評価を上記チャートに表す表示部と、してコンピュータを機能させ、上記影響は、対象物から生じる音、対象物の状況変化である対象物の振動、対象物の変形のうち1つ又は2つ以上であり、上記評価は、上記表示部が表す上記チャートに対する上記風向角及び上記風速により定まる箇所の割合と、上記箇所の色、網掛けの種類、及び/又は色、網掛けの濃淡とで行われるものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、対象物に影響する風の要素として少なくとも風向角があり、これに対する対象物に生じる影響を把握しやすく、複数の対象物同士の評価の対比や、別条件で行った実験結果との対比において、実際に発生する影響を判断しやすく、また、対象物の設置状況も考慮して判断して評価を行う場合に、効果を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態における評価表示方法により対象物に生じる風の影響の評価を表示したチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態における評価表示方法に用いる別のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、
図1を参照しつつ、本発明の一実施形態における評価表示方法(以下、「本評価表示方法」ともいう。)について説明する。これらの図において、複数個存在する同一の部位については、一つの部位のみに符番した部分もある。説明の便宜上、所定の部位やこの部位の引き出し線をかくれ線(破線)や想像線(二点鎖線)で示した部分もある。
【0025】
<本評価表示方法の概要>
図1に示すように、本評価表示方法は、経時的に変化する風により対象物から生じる音、対象物の振動、変形等の評価を表示する方法であって、対象物を中心として風向角1を周方向(外力の方向)かつ風速2を径方向(外力の強さ)で示す円形状のチャート3を生成し、評価4の起因となる風向角1及び風速2を割り出し、割り出した風向角1及び風速2に基づいて評価4(発生する影響)をチャート3内に表示する。表1は、本評価表示方法における要素の一例を示す構成表である。
【0026】
【0027】
例えば、対象物の正面からの風の風向角1を0°とした場合、風向角1が『60°』かつ風速2が『11m/s』の風により対象物から生じた音の評価4を『微小』として薄目に網掛けたドット(点)で表したり、風向角1が『105°~120°』かつ風速2が『11m/s』の風により対象物から生じた音の評価4を『微小』として薄目に網掛けた周方向のラインで表したり、風向角1が『150°』かつ風速2が『15~20m/s』の風により対象物から生じた音の評価4を『中』として濃い目に網掛けた径方向のラインで表したりする。
【0028】
この構成によれば、変化する風向角及び風速に基づいて、対象物から生じる音の評価4をチャート形式で可視化できる。すなわち、見下ろした状態の対象物と風向角及び風速との相関と共に音の評価4を図示でき、逆に、音の評価4の起因となる風向角1及び風速2も認識しやすいため、対象物に生じる影響の度合いを把握しやすく、上記度合いに応じて製品の設計変更や再試験も行いやすい。
【0029】
さらに、
図1に示すように、風向角1と風速2とを所定の範囲として割り出し、割り出した風向角1の範囲と風速2の範囲とに基づいて評価4を表す。
【0030】
例えば、風向角1が『60°~82.5°』かつ風速2が『20~25m/s』での風により対象物から生じた音の評価4を『微小~小』として薄目に網掛けた帯(ドットの集合)で表したり、風向角1が『187.5°~225°』かつ風速2が『15~25m/s』の風により対象物から生じた音の評価4を『中~大』として濃い目に網掛けた帯で表したりでき、重要な風向角範囲で風向角を細分化して実験結果を表示できることから、製品の実環境に近い連続的に変化する風の風向角や風速に基づくリアルなシミュレーションにより評価しやすい。
【0031】
例えば、形状等がそれぞれ異なる2つの対象物に対して同条件の実験を行った結果を対比する場合、一方の対象物は影響が発生する範囲は狭いがその度合いは強く、他方の対象物は影響が発生する範囲は広いがその度合いは弱い、といった対比が容易であり、どちらの対象物を採用するか決定したり、各々の対象物の影響範囲の対策を検討したりしやすい。
【0032】
さらに、一方の対象物の実験結果に対して、過去に行った他方の対象物に対する風向角間隔や風速間隔といった実験条件が異なる場合でも、同じチャート上にプロットすることで、双方の性能の対比を行いやすい。換言すれば、風向角間隔や風速間隔といった実験条件が異なっていても、実験結果を表示するチャートのメモリ幅が異なるだけなので、一方の対象物の実験結果を他方の対象物の実験結果を表示するチャートにプロットすることで、双方の性能を対比しやすい。
【0033】
また、
図1に示す『20~25m/s』や『15~25m/s』のように、割り出した風速2の範囲を評価4の近く又は評価4に重ねて表示することにより、径方向に記される風速の目盛を目視で数えなくても、周方向に記される風向角2の範囲と共に風速2の範囲を一見して確認できるため、評価4の起因となる風向角1及び風速2をより認識しやすい。
【0034】
以下、本評価表示方法の詳細について説明する。説明上、本評価表示方法は、風洞試験を前提としているが、実地試験やコンピュータ上のシミュレーションの結果に基づく影響の評価を表す方法として採用してもよい。
【0035】
<風洞試験の概要>
風洞試験は、送風機から所定の風速の風をターンテーブル上で回転する対象物に当てて行われ、換言すれば、経時的に風向角及び風速が変化する風を対象物が受ける状態を一定時間形成すればよく、対象物から生じる音(影響)が騒音か否か(問題となるか否か)を評価するものである。
【0036】
<風洞試験を行う設備>
図示しない風洞試験を行う設備は、例えば、風の進路となる測定洞と、測定洞内に設置された送風機と、測定洞内かつ送風機から所定の距離にあり360°回転可能なターンテーブルと、を少なくとも備えている。送風機は、0m/sから一般的な範囲(例えば、0.5m/s間隔)で連続的又は所定のピッチで断続的に風速を切り替えてもよく、公知のパーソナルコンピュータで制御して風速を決定してもよく、低温度型熱線風速計といった風速計で実験時の風速値を計測してもよい。ターンテーブルは、0°~360°のうち所定の範囲で連続的又は所定のピッチで断続的に回転してもよく、回転制御器に取り付けられ、上記回転制御器を公知のパーソナルコンピュータで制御して対象物への風向角を決定してもよい。
【0037】
風洞試験を行う設備は、対象物から生じる音の大きさ(音圧レベル)を計る計測器や、対象物から生じる音を収音する収音部をさらに備えていてもよく、収音部は、マイクと、マイクが取得した音の周波数における音波信号を増幅するアンプと、アンプが増幅した音波信号を電圧として出力して、上記電圧をアナログ形式からデジタル形式に変換するA/D変換器と、を有していてもよい。風洞試験を行う設備は、対象物の振動を計測する振動計測部をさらに備えていてもよく、振動計測部は、公知の接触型変位計やレーザー変位計といった非接触型変位計でもよく、非接触型変位計の場合、対象物周辺に設置され、対象物の振動を電圧として出力し、上記電圧をA/D変換器でデジタル化するものでもよい。風洞試験を行う設備は、単位時間毎の風向・風速・音の周波数・音の音圧レベル・振動を含む数値データを記憶する記憶部を搭載したコンピュータをさらに備えていてもよい。
【0038】
<対象物>
対象物は、風洞試験にて風を受ける試験体であり、例えば、建築物に用いられる金属製縦格子手摺等の外装部材であり、その他風を受けて音を発する物体であればいずれも含み、素材・形状・寸法を限定しない。対象物から生じる音は、例えば、対象物の振動音や対象物に基づく風切り音である。1回の風洞試験で用いられる対象物の数は、1つでも2つ以上でもよく、対象物を各々連結して1つの対象物としてもよい。
【0039】
<計測条件項目>
風向角設定は、対象物が風に正対する風向を0°とし、0°~360°の範囲内で計測範囲を設定する。例えば、角格子の場合、前後、左右が対称であることから、計測範囲は0°~90°、左右対称形状の断面であれば計測範囲は0°~180°のように設定してもよい。指定した計測範囲に対して、分割数もしくは、計測風向角ピッチ(以下「回転ピッチ」ともいう。)を指定してもよい。例えば、0°~180°の範囲を分割数36とすれば5°ピッチとなる。
【0040】
風速設定は、各風向で計測を行う時の実験風速範囲および風速ピッチ(以下「変速ピッチ」ともいう。)を指定する。例えば、実験風速範囲を5m/s~15m/s、風速ピッチ1m/sと設定すると、5m/sから1m/s間隔で風速を変化させ、15m/sまで11風速での計測を行ってもよい。
【0041】
計測時間・計測周波数設定は、各風向、風速に対して計測時間と計測周波数を設定してもよい。例えば、1測定の計測時間を3秒で、その時間内での振動、および音の騒音レベルを分析してもよい。継続時間を長く取ることで、分析精度は向上する。また、計測周波数の最大値を決定し入力してもよい。一般的に風速の計測は計測周波数を10Hz程度、格子の固有振動数は50~100Hzであることから500Hz程度、一方、騒音計測は4000Hz程度での計測が必要となり、計測周波数は4000Hzとなる。
【0042】
<解析・表示プログラム>
振動の分析は、計測時間内の振動状態を評価する方法として、振動の標準偏差、もしくは最大応答変位を評価することが可能である。表示方法では絶対値の大きさによって、段階的に濃淡を変化させてもよい。音の分析は、計測時間内の時刻歴データより周波数解析(FFT解析)を行ってもよい。卓越周波数が複数ある場合には振動音、単一の場合には空力音として判断し、それぞれの表示グラフに表示してもよい。音圧レベルの絶対値により濃淡によって段階的に変化させてもよい。
【0043】
<チャート>
図1に示すチャート3は、円の中心に見下ろした状態の対象物を擬似的に配置し、回転する対象物が受ける風の風向角1を中心から放射状に表される目盛で示し、風の風速2を中心から同心円状に表される目盛で示すものであり、風向角1の目盛数をチャート外かつ外周縁に沿って表してもよく、風速2の目盛数をチャート内に表してもよく、それぞれの目盛数を風洞試験の内容に応じて増減してもよい。風向角1の目盛数のピッチは、対象物の回転ピッチに準じてもよく、限定しない。風速2の目盛数のピッチは、送風機による変速ピッチに準じてもよく、限定しない。チャート3は、1つ又は2つ以上でもよく、評価の内容や対象物の個数に応じて作成してもよい。
【0044】
例えば、
図2では、10°ピッチ、5°ピッチ、22.5°ピッチ、及び11.25°ピッチの4つの回転ピッチを風向ピッチとして表示している。すなわち、同じチャート内に複数の回転ピッチを目盛で示してもよい。
【0045】
<評価>
評価4は、対象物から生じる音の変動成分と平均成分とに基づいて分類する。変動成分とは、例えば、風力の標準偏差や音の周波数であり、平均成分とは、例えば、風力の平均や音の音圧レベルである。具体的には、対象物の振動音と対象物に基づく風切り音とは、周波数帯が異なるため変動成分として分類され、振動音や風切り音における大小は、音圧レベル(デシベル)が異なるため平均成分として分類される。
【0046】
図1に示すように、評価4は、例えば、色や網掛けの種類・色や網掛けの濃淡で区別し、また、風向角の範囲及び風速の範囲における音圧レベルを予め定めた閾値に基づき2段階以上のランクで区別してチャート3に表示してもよく、連続的に変化する風向角1や風速2に基づいてグラデーション状に表示してもよい。評価4の起因となる風速の範囲や評価4に該当するランクは、文字でチャート3に表示してもよい。評価4は、チャート3に対して1つ又は2つ以上表示してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 風向角、2 風速、3 チャート、4 評価