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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240710BHJP
【FI】
H01L21/68 R
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020171934
(22)【出願日】2020-10-12
(65)【公開番号】P2022063594
(43)【公開日】2022-04-22
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 考史
(72)【発明者】
【氏名】杉山 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 敬太
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-168635(JP,A)
【文献】特開平07-086185(JP,A)
【文献】特開2004-050267(JP,A)
【文献】特開2001-102435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面とを備える板状部材と、第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面とを備えるベース部材と、前記板状部材の前記第2の面と前記ベース部材の前記第3の面との間に配置され、前記板状部材と前記ベース部材とを接合する接合層と、を有し、前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記板状部材には、前記第1の面と前記第2の面を貫通する第1の貫通孔が形成され、
前記ベース部材には、前記第3の面と前記第4の面を貫通し、前記第1の貫通孔に連通する第2の貫通孔が形成されており、
前記板状部材と前記ベース部材との積層方向から見たときに、
前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔とが自身の内周の内側に位置するように、前記第2の面と前記第3の面との間に配置された環状のシール部材を有し、
前記第2の面に、鏡面加工された鏡面領域と、鏡面加工されていない非鏡面領域と、前記鏡面領域の表面粗さよりも大きくて前記非鏡面領域の表面粗さよりも小さい表面粗さの半鏡面領域とが、前記第1の貫通孔を中心にして外側へ向かって、前記鏡面領域、前記半鏡面領域、前記非鏡面領域の順で設けられており、
前記鏡面領域内に、前記シール部材が配置され、
前記半鏡面領域内に、前記接合層と重なるオーバーラップ領域が環状に連続して形成される
ことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載する保持装置において、
前記鏡面領域及び前記半鏡面領域は、環状に形成されており、
前記鏡面領域の外径は、前記シール部材の外径に、前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔との位置ズレの最大許容値を加算した大きさであり、
前記半鏡面領域の幅寸法は、前記位置ズレの最大許容値より大きく、かつ前記鏡面領域の幅寸法より小さい
ことを特徴とする保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物を保持する保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
保持装置として、例えば、特許文献1に、静電チャック部(板状部材)と、ベース部(ベース部材)と、静電チャック部とベース部とを接着して一体化する接着層(接合層)とを備える保持装置が開示されている。この保持装置では、静電チャック部に第1の貫通孔が設けられ、ベース部にその第1の貫通孔に連通する第2の貫通孔が設けられている。これら第1の貫通孔と第2の貫通孔で構成される貫通孔にプラズマが侵入して、接着層を侵食するおそれがあるため、静電チャック部とベース部との間に、接着層を保護するためのシール部材が挟み込まれて配置されている。
【0003】
そして、シール部材によるシール性能を高めるため、静電チャック部のシール部材が配置される(接触する)部分には、鏡面加工が施されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/126534号
【文献】特開平7-86185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記の保持装置では、板状部材の接合層と接触する面において、鏡面加工された鏡面領域と、鏡面加工がされていない非鏡面領域(接合領域)とでは、接合層と接触する表面積が異なるため、ベース部材と板状部材との熱伝達の効率が違う。すなわち、鏡面領域の方が非鏡面領域より、表面積が小さいため、熱伝達が悪くなる。ここで、両部材の接合時に位置ズレが発生しなければ、第1の貫通孔周囲(シール部材の周囲)に位置する接合層の縁部分において、鏡面領域と接触する領域は、ほぼ均等に配置される。そのため、板状部材の保持面のうち、ベース部材の第2の貫通孔直上の特定部分において、鏡面領域と非鏡面領域との境界の上方付近に温度差は生じるが、局所的な温度ムラまでは発生しない。
【0006】
しかしながら、両部材の接合時に位置ズレが発生すると、第1の貫通孔周囲に位置する接合層の縁部分において、鏡面領域と接触する領域に偏りが生じてしまう。例えば、非鏡面境域だけが接触して鏡面領域が接触しない部位ができる一方、鏡面領域と接触する領域が位置ズレなしの場合と比べて大きくなる部位ができてしまう。そうすると、接合層の縁部分において、非鏡面領域だけが接触して鏡面領域が接触しない部位では熱伝達の効率が良くなる一方、鏡面領域との接触領域が他の部位よりも大きくなった部分では熱伝達の効率が悪くなる。そのため、板状部材の保持面のうち、ベース部材の第2の貫通孔直上の特定部分において、局所的に大きめの温度差が生じて、局所的な温度ムラが発生し、保持面における温度制御性に悪影響を与えてしまうおそれがある。
【0007】
そこで、本開示は上記した問題点を解決するためになされたものであり、板状部材とベース部材との間に位置ズレが生じても、保持面において局所的な温度ムラが発生することを抑制できる保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本開示の一形態は、
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面とを備える板状部材と、第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面とを備えるベース部材と、前記板状部材の前記第2の面と前記ベース部材の前記第3の面との間に配置され、前記板状部材と前記ベース部材とを接合する接合層と、を有し、前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記板状部材には、前記第1の面と前記第2の面を貫通する第1の貫通孔が形成され、
前記ベース部材には、前記第3の面と前記第4の面を貫通し、前記第1の貫通孔に連通する第2の貫通孔が形成されており、
前記板状部材と前記ベース部材との積層方向から見たときに、
前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔とが自身の内周の内側に位置するように、前記第2の面と前記第3の面との間に配置された環状のシール部材を有し、
前記第2の面に、鏡面加工された鏡面領域と、鏡面加工されていない非鏡面領域と、前記鏡面領域の表面粗さよりも大きくて前記非鏡面領域の表面粗さよりも小さい表面粗さの半鏡面領域とが、前記第1の貫通孔を中心にして外側へ向かって、前記鏡面領域、前記半鏡面領域、前記非鏡面領域の順で設けられており、
前記鏡面領域内に、前記シール部材が配置され、
前記半鏡面領域内に、前記接合層と重なるオーバーラップ領域が環状に連続して形成されることを特徴とする。
【0009】
この保持装置では、板状部材の第2の面に、鏡面領域と非鏡面領域との間に半鏡面領域を設けている。そして、板状部材とベース部材との積層方向から見たときに、半鏡面領域内に、接合層と重なるオーバーラップ領域が環状に連続して形成されている。そのため、板状部材とベース部材との接合時に位置ズレが発生しても、第1の貫通孔周囲に位置する接合層の縁部分において、半鏡面領域を必ず接触させることができる。これにより、両部材の接合時に位置ズレが発生し、接合層の縁部分周辺において、鏡面領域と接触する領域に偏りが生じてしまっても、接合層の縁部分周辺に接触するのが非鏡面領域だけになることがなくなり、内側から鏡面領域と半鏡面領域と非鏡面領域が接触する、又は半鏡面領域と非鏡面領域とが接触することになる。これにより、鏡面領域と非鏡面領域との間に半鏡面領域が設けられていることにより、各領域における板状部材とベース部材との熱伝達の効率差が小さくなっている。
【0010】
これらのことから、両部材の接合時に位置ズレが発生しても、接合層の縁部分において、従来のように熱伝達の効率が局所的に大きく変化することを回避できる。そのため、第1の面のうち、ベース部材の第2の貫通孔直上の特定部分において、温度差が小さくなり、局所的な温度ムラが発生することを抑制できる。また、両部材の接合時に位置ズレが発生しても、シール部材の全周に対して必ず鏡面領域が接触するため、高いシール性を確保することができる。
【0011】
上記した保持装置において、
前記鏡面領域及び前記半鏡面領域は、環状に形成されており、
前記鏡面領域の外径は、前記シール部材の外径に、前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔との位置ズレの最大許容値を加算した大きさであり、
前記半鏡面領域の幅寸法は、前記位置ズレの最大許容値より大きく、かつ前記鏡面領域の幅寸法より小さいことが好ましい。
【0012】
このように鏡面領域及び半鏡面領域の大きさを設定することにより、両部材の接合時に位置ズレが発生しても、確実に、鏡面領域をシール部材の全周に接触させられるとともに、半鏡面領域内に接合層と接触する部分を環状に形成することができる。従って、貫通孔付近のシール性を確保しながら、第1の面のうち、ベース部材の第2の貫通孔直上の特定部分に局所的な温度ムラが発生することを抑制できる。
【0013】
また、鏡面領域及び半鏡面領域が、必要最小限の領域(面積)に抑えられるため、第1の貫通孔周辺において、非鏡面領域と接合層とが接触する領域(面積)の減少を最小限にすることができる。これにより、接合層による両部材の接合性の低下を抑制することができる。従って、両部材に挟み込まれているシール部材が、適正に変形するため高いシール性を確保することができる。
【0014】
なお、第1の貫通孔と第2の貫通孔との位置ズレの最大許容値は、例えば、各貫通孔の中心軸のずれ量で規定することができる。この場合、各貫通孔の中心軸が一致、つまり各貫通孔が同軸である位置関係を標準状態(基準)として最大許容値が定義される。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、板状部材とベース部材との間に位置ズレが生じても、保持面において局所的な温度ムラが発生することを抑制できる保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態の静電チャックの概略斜視図である。
図2】実施形態の静電チャックのXZ断面の概略構成図である。
図3】実施形態の静電チャックのXY平面の概略構成図である。
図4】貫通孔付近における、板状部材の下面に形成された各領域と接合層との位置関係を示す図である。
図5図4に示すV-V断面図である。
図6】貫通孔付近における、位置ズレが発生したときの板状部材の下面に形成された各領域と接合層との位置関係を示す図である。
図7図6に示すVII-VII断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示に係る実施形態である保持装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では、対象物である半導体ウエハWを保持する静電チャック1を例示して説明する。そこで、本実施形態の静電チャック1について、図1図4を参照しながら説明する。
【0018】
本実施形態の静電チャック1は、半導体ウエハW(対象物)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば、半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウエハWを固定するために使用される。図1に示すように、静電チャック1は、板状部材10と、ベース部材20と、板状部材10とベース部材20とを接合する接合層40とを有する。
【0019】
なお、以下の説明においては、説明の便宜上、図1に示すようにXYZ軸を定義する。ここで、Z軸は、静電チャック1の軸線方向(図1において上下方向)の軸であり、X軸とY軸は、静電チャック1の径方向の軸である。そして、Z軸方向は、本開示の「積層方向」の一例である。
【0020】
板状部材10は、図1に示すように、円盤状の部材であり、セラミックスにより形成されている。セラミックスとしては、様々なセラミックスが用いられるが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、含有割合の最も多い成分(例えば、体積含有率が90vol%以上の成分)を意味する。
【0021】
また、板状部材10の直径は、上段部が例えば150~300mm程度であり、下段部が例えば180~350mm程度である。板状部材10の厚さは、例えば2~6mm程度である。なお、板状部材10の熱伝導率は、10~50W/mK(より好ましくは、18~30W/mK)の範囲内が望ましい。
【0022】
図1図2に示すように、板状宇部材10は、半導体ウエハWを保持する保持面11と、板状部材10の厚み方向(Z軸方向に一致する方向、上下方向)について保持面11とは反対側に設けられる下面12とを備えている。そして、保持面11と下面12との間を厚み方向(Z軸方向、図2において上下方向)に貫通する円筒形状の第1貫通孔15a,15bが形成されている。なお、保持面11は本開示の「第1の面」の一例であり、下面12は本開示の「第2の面」の一例である。
【0023】
板状部材10の保持面11は、凹凸形状をなしている。具体的には、保持面11には、図2図3に示すように、その外縁付近に環状の環状凸部16が形成され、環状凸部16の内側に複数の独立した柱状の凸部17が形成されている。なお、環状凸部16は、シールバンドとも呼ばれる。環状凸部16の断面(XZ断面)の形状は、図2に示すように、略矩形である。環状凸部16の高さ(Z軸方向の寸法)は、例えば、10μm~20μm程度である。また、環状凸部16の幅(X軸方向の寸法)は、例えば、0.5mm~5.0mm程度である。
【0024】
各凸部17は、図3に示すように、Z軸方向視(平面視)で略円形をなしており、略均等間隔で配置されている。また、各凸部17の断面(XZ断面)の形状は、図2に示すように、略矩形である。凸部17の高さは、環状凸部16の高さと略同一であり、例えば、10~20μm程度である。また、凸部17の幅(Z軸方向視での凸部17の最大径)は、例えば、0.5~1.5mm程度である。なお、板状部材10の保持面11における環状凸部16より内側において、凸部17が形成されていない部分は、凹部18となっている。
【0025】
そして、半導体ウエハWは、板状部材10の保持面11における環状凸部16と複数の凸部17とに支持されて、静電チャック1に保持される。半導体ウエハWが静電チャック1に保持された状態では、半導体ウエハWの表面(下面)と、板状部材10の保持面11(詳細には、保持面11の凹部18)との間に、空間Sが存在することとなる(図2参照)。この空間Sには、後述するガス孔30bを介して不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)が供給されるようになっている。
【0026】
このような板状部材10には、保持面11と下面12との間を厚み方向(Z軸方向、図2において上下方向)に貫通する円筒形状の第1貫通孔15a,15b(以下、「第1貫通孔15」と表記する場合もある)とが形成されている。そして、板状部材10の下面12には、図4図5に示すように、第1貫通孔15を中心に外側へ向かって、鏡面領域70、半鏡面領域71、非鏡面領域72が順に設けられている。鏡面領域70は、鏡面加工が施された領域(表面粗さがRa0.2μm以下)であり、非鏡面領域72は、鏡面加工が施されていない領域である。また、半鏡面領域71は、鏡面領域70の表面粗さよりも大きくて非鏡面領域72の表面粗さよりも小さい表面粗さに加工された領域である。半鏡面領域71の表面粗さは、例えば、Ra0.2~0.4μmであればよい。
【0027】
鏡面領域70、半鏡面領域71および非鏡面領域72の表面粗さは、例えば、接触式表面粗さ計を用いて計測することが出来る。詳細な測定方法はJIS規格に基づく。例えば、JIS B 0601:2013、JIS B 0632:2001、JIS B 0633:2001、JIS B 0651:2001が挙げられる。各領域内で互いに離れた5つ以上の地点を測定点として、8割以上の箇所で各領域の表面粗さRaの大小関係を満たすかどうかを確認する。また、当該測定方法は、既製品において、一体となっている板状部材10と接合層40とを分離させて、板状部材10の下面12の測定に適用することも可能である。
【0028】
ここで、鏡面領域70は、第1貫通孔15を囲むように円環状に形成されている。この鏡面領域70の外径Dmは、後述するシール部材50の外径dに、第1貫通孔15と第2貫通孔25との位置ズレの最大許容値Aを加算した大きさである(Dm=d+A)。また、半鏡面領域71は、鏡面領域70を囲むように円環状に形成されている。この半鏡面領域71の幅Bhは、位置ズレの最大許容値Aより大きく、かつ鏡面領域70の幅Bmより小さい(A<Bh<Bm)。なお、鏡面領域70の幅Bm、半鏡面領域71の幅Bh幅は、それぞれの領域における外径と内径との差である。また、本実施形態において、第1貫通孔15と第2貫通孔25との位置ズレの最大許容値Aは、例えば、各貫通孔15,25の中心軸CL1,CL2のずれ量で規定することができる。この場合、各貫通孔15,25の中心軸CL1,CL2が一致、つまり各貫通孔が同軸である位置関係を標準状態(図4図5に示す状態)として最大許容値Aが定義されることになる。
【0029】
本実施形態の静電チャック1では、例えば、鏡面領域70の外径Dm=20mm、シール部材50の外径d=19mm、位置ズレの最大許容値A=2mmとなっている。また、半鏡面領域71の幅Bh=3mm、鏡面領域70の幅Bm=6mmとなっている。
【0030】
そして、非鏡面領域72は、鏡面領域70及び半鏡面領域71を除いた領域となっている。つまり、板状部材10の下面12において、非鏡面領域72が大部分を占めており、第1貫通孔15の周囲に鏡面領域70と半鏡面領域71とが円環状に形成されている。
【0031】
ベース部材20は、図1に示すように円柱状、詳しくは、直径の異なる2つの円柱が、大きな直径の円柱状の上面部の上に小さな直径の円柱状の下面部が載せられるようにして、中心軸Caを共通にして重ねられて形成された段付きの円柱状である。このベース部材20は、金属(例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されていることが好ましいが、金属以外であってもよい。
【0032】
そして、図1図2に示すように、ベース部材20は、上面21と、ベース部材20(板状部材10)の中心軸Ca(図2参照)方向(すなわち、Z軸方向)について上面21とは反対側に設けられる下面22と、を備えている。なお、上面21は本開示の「第3の面」の一例であり、下面22は本開示の「第4の面」の一例である。
【0033】
ベース部材20の直径は、上段部が例えば150mm~300mm程度であり、下段部が例えば180mm~350mm程度である。また、ベース部材20の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば20mm~50mm程度である。なお、ベース部材20(アルミニウムを想定)の熱伝導率は、板状部材10よりも大きく、180~250W/mK(好ましくは、230W/mK程度)の範囲内が望ましい。
【0034】
また、図2に示すように、ベース部材20には、冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)を流すための冷媒流路23が形成されている。そして、冷媒流路23は、ベース部材20の下面22に設けられた不図示の供給口と排出口とに接続しており、供給口からベース部材20に供給された冷媒が、冷媒流路23内を流れて排出口からベース部材20の外へ排出される。このようにして、ベース部材20の冷媒流路23内に冷媒を流すことにより、ベース部材20が冷却され、これにより、接合層40を介して板状部材10が冷却される。
【0035】
そして、ベース部材20には、上面21と下面22との間を厚み方向(Z軸方向、図2において上下方向)に貫通する円筒形状の第2貫通孔25a,25b(以下、「第2貫通孔25」と表記する場合もある)が形成されている。なお、第2貫通孔25a,25bは、第1貫通孔15a,15bと同軸であり、第2貫通孔25a,25bの径は、第1貫通孔15a,15bの径とほぼ同じである。
【0036】
さらに、ベース部材20の第2貫通孔25a,25bには、貫通孔を有する筒状の絶縁性のスリーブを嵌合していてもよい。このとき、第2貫通孔はスリーブの貫通孔のことを指す。
【0037】
接合層40は、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21との間に配置され、板状部材10とベース部材20とを接合している。この接合層40を介して、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21とが熱的に接続されている。接合層40は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着材により構成されている。なお、接合層40の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば0.1~1.0mm程度である。また、接合層40の熱伝導率は、例えば1.0W/mKである。なお、接合層40(シリコーン系樹脂を想定)の熱伝導率は、0.1~2.0W/mK(好ましくは、0.5~1.5W/mK)の範囲内が望ましい。
【0038】
この接合層40には、図2に示すように、第1貫通孔15a,15bと第2貫通孔25a,25bとを連通させる中間貫通孔45a,45bが形成されている。つまり、第1貫通孔15a,15bと第2貫通孔25a,25bとの間に、円筒形状の中間貫通孔45a,45b(以下、「中間貫通孔45」と表記する場合もある)が形成されている。中間貫通孔45a,45bは、第1貫通孔15a,15b及び第2貫通孔25a,25bと同軸である。中間貫通孔45a,45bの直径は、第1貫通孔15a,15b及び第2貫通孔25a,25bよりも大きい。第1貫通孔15a,15bと中間貫通孔45a,45bと第2貫通孔25a,25bとは、Z軸方向(静電チャック1の軸線方向)に連なって配置されている。
【0039】
このような中間貫通孔45のうち、板状部材10の下面12側の開口端は、Z軸方向視で、鏡面領域70内または半鏡面領域71内に配置されている。すなわち、図4図5に示すように、半鏡面領域71内には、Z軸方向視で、接合層40と重なるオーバーラップ領域75(図4の網掛け部分)が環状に連続して形成されている。なお、オーバーラップ領域75は、図4図5に示すように、第1貫通孔15と第2貫通孔25とに位置ズレがない標準状態では、半鏡面領域71と一致しており最大となる。一方、図6図7に示すように、第1貫通孔15と第2貫通孔25とに位置ズレが発生すると、オーバーラップ領域75は、位置ズレがない標準状態と比べて減少し、最大許容値Aの位置ズレが発生している状態で最小となる。しかしながら、最大許容値A内の位置ズレであれば、オーバーラップ領域75(図6の網掛け部分)は環状に連続して形成される。
【0040】
そして、図2に示すように、第1貫通孔15aと中間貫通孔45aと第2貫通孔25aとによって、静電チャック1をZ軸方向に貫通するリフトピン挿入孔30aを形成している。このリフトピン挿入孔30aには、半導体ウエハWを保持面11上から押し上げるリフトピン60が、ベース部材20の下面22側から挿入されている。このリフトピン60は、円柱形状(丸棒形状)をなしており、リフトピン挿入孔30a内をZ軸方向に移動する。リフトピン60がZ軸方向の一方側(図2では上側)に移動して、リフトピン60の先端部(上端部)が板状部材10の保持面11から外部に突出することで、保持面11上に載置されている半導体ウエハWを保持面11から離間させる(リフトピン60によって半導体ウエハWを持ち上げる)ようになっている。
【0041】
なお、本実施形態の静電チャック1では、リフトピン挿入孔30aが3個形成されており、各々のリフトピン挿入孔30a内にリフトピン60が挿入されている。なお、3個のリフトピン挿入孔30aは、静電チャック1の周方向に等間隔で形成されている(図3参照)。
【0042】
また、第1貫通孔15bと中間貫通孔45bと第2貫通孔25bとによって、静電チャック1をZ軸方向に貫通するガス孔30bを形成している。このガス孔30bは、不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)が流通するガス流路である。これにより、ベース部材20の下面22側からガス孔30b内に不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)を供給することで、半導体ウエハWの下面と板状部材10の保持面11(凹部18)との間の空間S内に、この不活性ガスを充填することができるようになっている。なお、以下の説明では、リフトピン挿入孔30aとガス孔30bを、単に「貫通孔30」と表記する場合もある。
【0043】
そして、このような静電チャック1には、各中間貫通孔45(接合層40の貫通孔)内に、板状部材10とベース部材20とに挟まれて(より詳細には、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21との間に挟まれて)、Z軸方向視で第1貫通孔15及び第2貫通孔25を囲む、言い換えると、第1貫通孔15と第2貫通孔25とが自身の内周の内側に位置するようにして、円環状のシール部材50が鏡面領域70内に配置されている(図2図4図5参照)。このシール部材50は、接合層40を保護し、接合層40の腐食を防止するためのものである。
【0044】
すなわち、静電チャック1を半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウエハWを固定するために使用する場合、半導体ウエハWに回路パターンを形成する際に使用する処理ガスやプラズマ等が、第1貫通孔15を通じて静電チャック1内に流入する。そして、そのプラズマ等が接合層40に侵入して接触すると、接合層40が腐食してしまうため、シール部材50を設けている。シール部材50は、環状や管状をなし、任意に選択される材料、例えばゴム又はエラストマー樹脂等の弾性体で構成されている。
【0045】
このようなシール部材50を設けることにより、中間貫通孔45内に露出する板状部材10の下面12とベース部材20の上面21との間が気密に封止されている。そして、静電チャック1では、Z軸方向視で、鏡面領域70内にシール部材50が配置されている。これにより、シール部材50によるシール性能が高められており、第1貫通孔15を通じて静電チャック1内に流入したプラズマ等が、中間貫通孔45を通じて接合層40へ侵入して接合層40に接触することを確実に防止できるようになっている。
【0046】
ここで、板状部材10とベース部材20との接合時に位置ズレが発生、つまり第1貫通孔15の中心軸CL1と第2貫通孔25の中心軸CL2とが一致せずにずれてしまうと、第1貫通孔15の周囲に位置する接合層40の縁部分(中間貫通孔45の開口端部)において、鏡面領域70と接触する領域に偏りが生じてしまう。そうすると、板状部材10の保持面11のうち、ベース部材20の第2貫通孔25直上の特定部分において、局所的に大きめの温度差が生じて、局所的な温度ムラが発生し、保持面11における温度制御性に悪影響を与えてしまうおそれがある。
【0047】
そこで、本実施形態の静電チャック1では、板状部材10の下面12において、Z軸方向視で、第1貫通孔15を中心にして外側へ向かって、鏡面領域70、半鏡面領域71、非鏡面領域72の順で設け、鏡面領域70内にシール部材50を配置している。そして、鏡面領域70または半鏡面領域71内に、中間貫通孔45が配置され、接合層40と重なるオーバーラップ領域75が環状に連続して形成されている(図4図7参照)。
【0048】
そのため、図6図7に示すように、板状部材10とベース部材20との接合時に位置ズレが発生、つまり第1貫通孔15の中心軸CL1と第2貫通孔25の中心軸CL2が最大許容値A内でずれても、第1貫通孔15周囲に位置する接合層40の縁部分において、半鏡面領域71を必ず接触させることができる。これにより、両部材10,20の接合時に位置ズレが発生し、接合層40の縁部分において、鏡面領域70と接触する領域に偏りが生じてしまっても、接合層40の縁部分周辺に接触するのが非鏡面領域72だけになることがなくなり、内側から鏡面領域70と半鏡面領域71と非鏡面領域72とが接触する、又は半鏡面領域71と非鏡面領域72とが接触することになる。そして、鏡面領域70と非鏡面領域72との間に半鏡面領域71が設けられていることにより、各領域間における板状部材10とベース部材20との熱伝達の効率差が小さくなっている。
【0049】
従って、両部材10,20の接合時に位置ズレが発生しても、接合層40の縁部分において、従来のように熱伝達の効率が局所的に大きく変化することを確実に回避することができる。そのため、保持面11のうち、ベース部材20の第2貫通孔25直上の特定部分において、温度差が小さくなり、局所的な温度ムラの発生を抑制することができる。また、両部材10,20の接合時に位置ズレが発生しても、シール部材50の全周に対して必ず鏡面領域70が接触するため、高いシール性を確保することができる。
【0050】
そして、鏡面領域70及び半鏡面領域71は、環状に形成され、鏡面領域70の外径Dmは、シール部材50の外径dに、第1貫通孔15と第2貫通孔25との位置ズレの最大許容値Aを加算した大きさとなっている。また、半鏡面領域71の幅Bhは、位置ズレの最大許容値Aより大きく、かつ鏡面領域70の幅Bmより小さく設定されている。
【0051】
これにより、両部材10,20の接合時に位置ズレが発生しても、確実に、鏡面領域70をシール部材50の全周に接触させられるとともに、半鏡面領域71内に接合層40と接触する部分であるオーバーラップ領域75を環状に形成することができる。従って、貫通孔30付近のシール性を確保しながら、保持面11のうち、ベース部材20の第2貫通孔25直上の特定部分に局所的な温度ムラが発生することを抑制できる。
【0052】
また、鏡面領域70及び半鏡面領域71が、必要最小限の領域(面積)に抑えられるため、第1貫通孔15周辺において、非鏡面領域72と接合層40とが接触する領域(面積)の減少を最小限にすることができる。これにより、接合層40による両部材10,20の接合力の低下を抑制することができる。従って、両部材10,20に挟み込まれているシール部材50が、適正に変形するため、高いシール性を確保することができる。
【0053】
以上のように、本実施形態の静電チャック1によれば、板状部材10の下面12の平面方向において、鏡面領域70と非鏡面領域72との間に半鏡面領域71が設けられ、鏡面領域70内にシール部材50が配置されて、半鏡面領域71内に接合層40と重なるオーバーラップ領域75が環状に連続して形成される。そのため、板状部材10とベース部材20との間に位置ズレが生じても、接合層40の縁部分において、接合層40の縁部分周辺に接触するのが非鏡面領域72だけになることがなくなるとともに、シール部材50の全周に対して鏡面領域70が接触する。これにより、保持面11のうち、ベース部材20の第2貫通孔25直上の特定部分辺において、局所的な温度ムラが発生することを抑制できるとともに、シール部材50によって優れたシール性を確保することができる。
【0054】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本開示を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記の実施形態では、本開示を静電チャックに適用した場合を例示したが、本開示は、静電チャックに限られることなく、表面に対象物を保持する保持装置全般について適用することができる。
【0055】
また、上記の実施形態では、シール部材50として断面が円形のものを例示したが、シール部材50の断面形状は、この形状に限定されることはなく、四角や楕円などであってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 静電チャック
10 板状部材
11 保持面
12 下面
15 第1貫通孔
20 ベース部材
21 上面
22 下面
25 第2貫通孔
30 貫通孔
40 接合層
45 中間貫通孔
50 シール部材
70 鏡面領域
71 半鏡面領域
72 非鏡面領域
75 オーバーラップ領域
A 位置ズレの最大許容値
Bm 鏡面領域の幅
Bh 半鏡面領域の幅
Dm 鏡面領域の外径
Dh 半鏡面領域の外径
d シール部材の外径
W 半導体ウエハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7