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特許7518735スライディングノズル用プレート及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】スライディングノズル用プレート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20240710BHJP
   B22D 41/42 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B22D11/10 340E
B22D11/10 360A
B22D41/42
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020188210
(22)【出願日】2020-11-11
(65)【公開番号】P2022077377
(43)【公開日】2022-05-23
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 康平
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-169241(JP,A)
【文献】特開2004-268106(JP,A)
【文献】特開2009-226469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/10
B22D 41/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス吐出機能を備えた溶鋼の流量制御を行うスライディングノズル用プレートにおいて,
前記プレートは,いずれかの側面にガス導入口,当該プレート内部に前記ガス導入口からガス吐出口に向かう横方向の貫通孔,及び前記横方向の貫通孔内部の少なくとも一部に金属パイプを備えており,
前記金属パイプの外周面と前記横方向の貫通孔の内壁面との少なくとも一部の間に空間を備えており,
前記ガス導入口近傍の前記プレートの上面及び下面には,前記空間に連通する縦方向の貫通孔を備えており,
前記各々の縦方向の貫通孔内,並びに,前記空間の,少なくとも前記縦方向の貫通孔と連通する部分及び複数の前記縦方向の貫通孔相互の間の領域には,充填材が充填されている,スライディングノズル用プレート。
【請求項2】
前記プレートの上面及び下面の縦方向の貫通孔は,前記横方向の貫通孔の中心軸を通る鉛直断面において相互に重ならない位置に設けられている,請求項1に記載のスライディングノズル用プレート。
【請求項3】
前記縦方向の貫通孔は,前記プレートの上面及び下面のうち一方の面には1個のみ設けられ,前記プレートの上面及び下面のうち他方の面には1個又は複数個設けられている,請求項1又は請求項2に記載のスライディングノズル用プレート。
【請求項4】
前記金属パイプの軸方向の一部又は全部の外周面には,前記金属パイプの半径方向に突出する突状部を円周方向に2箇所以上備えており,前記金属パイプは前記横方向の貫通孔の中央に配置されている,請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスライディングノズル用プレート。
【請求項5】
前記横方向の貫通孔には,前記ガス吐出口側の内径が前記ガス導入口側の内径より小さい構造の段差部を備えており,
前記横方向の貫通孔内に装着される前記金属パイプは,前記横方向の貫通孔の小さい内径よりも大きい外径部分のみからなり,
前記金属パイプの端部が前記横方向の貫通孔の段差部に当接している,請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスライディングノズル用プレート。
【請求項6】
前記横方向の貫通孔には,前記ガス吐出口側の内径が前記ガス導入口側の内径より小さい構造の段差部を備えており,
前記横方向の貫通孔内に装着される前記金属パイプには段差部を備えており,
前記横方向の貫通孔の段差部と前記金属パイプの段差部とは当接しているか,又は,前記横方向の貫通孔の段差部と前記金属パイプの段差部とは充填材を介して対向している,請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスライディングノズル用プレート。
【請求項7】
前記金属パイプの端部であって前記横方向の貫通孔の段差部に当接している部分,又は,前記金属パイプの段差部であって前記横方向の貫通孔の段差部に当接している部分は,截頭円錐状で,かつ,この截頭円錐状の傾斜面は,前記金属パイプの軸方向の断面において直線状又は曲線状である,請求項5又は請求項6に記載のスライディングノズル用プレート。
【請求項8】
いずれかの側面にガス導入口,内部に前記ガス導入口からガス吐出口に向かう横方向の貫通孔を備えると共に,ガス吐出機能を備える,溶鋼の流量制御を行うスライディングノズル用プレートの製造方法であって,
前記ガス導入口近傍の前記プレートの上面及び下面に,前記横方向の貫通孔に連通する縦方向の貫通孔を開孔するステップと,
前記横方向の貫通孔内部の,前記ガス導入口を端部とする少なくとも一部に,前記横方向の貫通孔の内壁面との少なくとも一部の間に空間を設けることが可能な径の金属パイプを,前記横方向の貫通孔内部に設置するステップと,
前記金属パイプを設置後に,当該プレートに設置された金属バンド又は金属製ケースに前記金属パイプの端部を固定するステップと,
前記プレートの上面又は下面に開孔した前記縦方向の貫通孔の一つを充填材注入用貫通孔として,この充填材注入用貫通孔から充填材を,前記充填材注入用貫通孔とは異なる面の縦方向の貫通孔に充填材が充填されるまで注入するステップとを含む,スライディングノズル用プレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶鋼流量制御用のスライディングノズルにおける,ガスを吐出する機能を備えるプレート及びその製造方法に関する。なお,本発明において「スライディングノズル」とは,溶鋼容器内の溶鋼排出の開始,流速調整及び停止を複数の板状の耐火物間の摺動による開閉動作によって行う装置を指し,「プレート」とは前記板状の耐火物を指し,上プレート,下プレート,及び3枚構成の場合は中間プレートを含む。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造における取鍋やタンディッシュなどの溶鋼容器におけるスライディングノズルでは,ガスを吹き込む機能を備えるものがある。スライディングノズルにおけるガス吹き込みは,主として次の(1)~(3)を目的とする。
(1)スライディングノズル内孔内及びその上部に設置される上ノズル等の内孔内の溶鋼に不活性ガスによる対流を生じさせて内孔内での溶鋼の凝固を防止する。
(2)容器内への不活性ガスバブルによる撹拌や介在物の捕捉等により溶鋼内の介在物を除去する。
(3)プレート摺動面のわずかな隙間から溶鋼内に大気を引き込むことがないよう,面間に正圧の不活性ガス雰囲気を形成させる。
【0003】
スライディングノズルにおけるガス吹き込みのための経路・構造には,プレートの側面にガス導入口,プレートの内部又は外面(主として摺動面)にガス吐出口を設け,ガス導入口からガス吐出口に連通するガス通過経路としての貫通孔を設ける形態がある。さらにガス導入口を含む貫通孔内の一部又は全部に延在する金属パイプを設置する形態がある。ガス導入口側では,ガス供給用配管との接続を行う。
この接続には,金属パイプのガス導入口側端部に嵌合機能を備えたいわゆるソケットを設けてガス供給用配管とネジ込み,溶接等の方法で固定する,又はガス供給配管の端部を前記ガス導入口付近の貫通孔に接着剤を介して固定する,等の方法がある。
なお,前述のソケットやガス供給配管の端部は,プレート側面部に設置された金属バンドや外面の一部に設置された金属ケース等とネジ込み,溶接等の方法で固定されることがある。
【0004】
これらの構造においては,ガス導入口付近からガスが漏れることがある。このようなガス漏れが生じると,ガス吐出口におけるガス供給が十分に行えず,ガス吹き込みの目的を十分に果たせなくなったり,ガスの無駄な消費を招来することがある。
【0005】
このようなガス漏れを防止する方法として,例えば特許文献1には「プレート中に貫設され、ガスプール室に連通するガス導入管を包囲する部分に低気孔性モルタルを充填施工」すること開示されている。
特許文献1の構造では「ガス導入管を包囲する部分」にはどこから,またどのような方法で「低気孔性モルタルを充填施工」するかについて記載が無く明確ではないが,プレート側面に露出した部分にしかモルタルを充填(注入)することが可能な部分はない。しかも当該「包囲する部分」は長尺かつ狭いので,さらにはモルタル充填施工前に当該包囲する部分に存在する空気を十分に排出(モルタルとの置換)するための経路もない等のことから,当該「包囲する部分」の奥まで,又は一部領域に限定してもその全周に空隙無くモルタルを充填施工することは困難であり,モルタル施工体内にガス通過経路となる空隙を内在して,ガス漏れを生じる蓋然性が高い。
【0006】
特許文献2には,「ガス導入孔にセットモルタルを介在して装入固定されたガス導入パイプの外周に、環状溝,環状突起,凹凸,細径部のいずれかが設けられて、セットモルタルと係合密着されている・・・ガス吹き込み用上固定盤のガス漏れ防止構造」が開示されており,「使用中に、ガス導入パイプ8とセットモルタル7との間の縁切りが防止され、気密性が維持される」との効果があるとされている。
しかしながら特許文献2の「セットモルタル」の充填部分の構造や充填方法に関しては特許文献1とほぼ同様であって,特許文献1の場合と同様に,モルタルを十分に(欠陥無く)充填施工することは困難であり,モルタル施工体内にガス通過経路となる空隙を内在して,ガス漏れを生じる蓋然性が高い。
【0007】
特許文献3には,「ガス吹込用耐火物に穿設された挿入孔に挿入したガス導入パイプと前記挿入孔との間にシール剤を充填したガス吹込用耐火物部材のシール構造において、前記挿入孔内にシール剤の溜り部を設けたガス吹込用耐火物部材のシール構造」が開示されており,「充分な量のシール剤の供給が充分に行われることになり、挿入パイプと耐火物孔との間へのシール剤の充填性が改善され、パイプセットの終了後バンドとの溶接を行って、熱影響を受けても、その部分的な歪み発生によるシール剤の充填度に悪影響を与えることはなく、更に、充填程度はバンドとれんが間からシール剤が流れ出すのを確認することによって充填度を確認できる。」との効果があるとされている。
しかしながら特許文献3の「挿入孔内のシール剤の溜り部」は挿入孔内のガス導入パイプの下方にガス導入パイプの入口側を開放する形態で設けられ,またシール剤充填用圧入孔はガス導入パイプの上側のノズル孔側の一部に設けられているので,シール剤はその溜り部下方に流動してその開放口から溢れ出すことになる。このような形態ではガス導入パイプの上方領域にシール剤が充填されない可能性がある。さらには,パイプセットの終了後,金属バンドとの溶接を行う際の熱により,シール剤に含まれる水等の揮発分が気化してシール剤を粗な組織にする可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実願平1-20548号(実開平2-114163号)のマイクロフィルム
【文献】特開平8-300142号公報
【文献】特開平5-169241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように,ガス吹き込み機能を備え,内部にガス通過経路を形成すると共に,その経路内にシール剤等を介して金属パイプを装着するスライディングノズル用プレートにおいては,内部のガス通過経路とその経路内の金属パイプの間からガス漏れを生じるという問題がある。
本発明が解決しようとする課題は,ガス吐出機能を備えた溶鋼の流量制御を行うスライディングノズル用プレートにおいて,ガス漏れを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は,プレート内部のガス通過経路(横方向の貫通孔)の内壁面とその貫通孔内の金属パイプの外周面との間の空間に充填材を確実に充填するために,ガス導入口近傍のプレートの上面及び下面に,前記空間に連通する縦方向の貫通孔を設け,これにより前記横方向の貫通孔とその貫通孔内の金属パイプとの間を経路とするガス流通を抑制するものである。
【0011】
すなわち本発明の要旨は,次の1から7のスライディングノズル用プレート,及び,8のスライディングノズル用プレートの製造方法である。
1.
ガス吐出機能を備えた溶鋼の流量制御を行うスライディングノズル用プレートにおいて,
前記プレートは,いずれかの側面にガス導入口,当該プレート内部に前記ガス導入口からガス吐出口に向かう横方向の貫通孔,及び前記横方向の貫通孔内部の少なくとも一部に金属パイプを備えており,
前記金属パイプの外周面と前記横方向の貫通孔の内壁面との少なくとも一部の間に空間を備えており,
前記ガス導入口近傍の前記プレートの上面及び下面には,前記空間に連通する縦方向の貫通孔を備えており,
前記各々の縦方向の貫通孔内,並びに,前記空間の,少なくとも前記縦方向の貫通孔と連通する部分及び複数の前記縦方向の貫通孔相互の間の領域には,充填材が充填されている,スライディングノズル用プレート。
2.
前記プレートの上面及び下面の縦方向の貫通孔は,前記横方向の貫通孔の中心軸を通る鉛直断面において相互に重ならない位置に設けられている,前記1に記載のスライディングノズル用プレート。
3.
前記縦方向の貫通孔は,前記プレートの上面及び下面のうち一方の面には1個のみ設けられ,前記プレートの上面及び下面のうち他方の面には1個又は複数個設けられている,前記1又2に記載のスライディングノズル用プレート。
4.
前記金属パイプの軸方向の一部又は全部の外周面には,前記金属パイプの半径方向に突出する突状部を円周方向に2箇所以上備えており,前記金属パイプは前記横方向の貫通孔の中央に配置されている,前記1から3のいずれか一項に記載のスライディングノズル用プレート。
5.
前記横方向の貫通孔には,前記ガス吐出口側の内径が前記ガス導入口側の内径より小さい構造の段差部を備えており,
前記横方向の貫通孔内に装着される前記金属パイプは,前記横方向の貫通孔の小さい内径よりも大きい外径部分のみからなり,
前記金属パイプの端部が前記横方向の貫通孔の段差部に当接している,前記1から4のいずれか一項に記載のスライディングノズル用プレート。
6.
前記横方向の貫通孔には,前記ガス吐出口側の内径が前記ガス導入口側の内径より小さい構造の段差部を備えており,
前記横方向の貫通孔内に装着される前記金属パイプには段差部を備えており,
前記横方向の貫通孔の段差部と前記金属パイプの段差部とは当接しているか,又は,前記横方向の貫通孔の段差部と前記金属パイプの段差部とは充填材を介して対向している,前記1から4のいずれか一項に記載のスライディングノズル用プレート。
7.
前記金属パイプの端部であって前記横方向の貫通孔の段差部に当接している部分,又は,前記金属パイプの段差部であって前記横方向の貫通孔の段差部に当接している部分は,截頭円錐状で,かつ,この截頭円錐状の傾斜面は,前記金属パイプの軸方向の断面において直線状又は曲線状である,前記5又は6に記載のスライディングノズル用プレート。
8.
いずれかの側面にガス導入口,内部に前記ガス導入口からガス吐出口に向かう横方向の貫通孔を備えると共に,ガス吐出機能を備える,溶鋼の流量制御を行うスライディングノズル用プレートの製造方法であって,
前記ガス導入口近傍の前記プレートの上面及び下面に,前記横方向の貫通孔に連通する縦方向の貫通孔を開孔するステップと,
前記横方向の貫通孔内部の,前記ガス導入口を端部とする少なくとも一部に,前記横方向の貫通孔の内壁面との少なくとも一部の間に空間を設けることが可能な径の金属パイプを,前記横方向の貫通孔内部に設置するステップと,
前記金属パイプを設置後に,当該プレートに設置された金属バンド又は金属製ケースに前記金属パイプの端部を固定するステップと,
前記プレートの上面又は下面に開孔した前記縦方向の貫通孔の一つを充填材注入用貫通孔として,この充填材注入用貫通孔から充填材を,前記充填材注入用貫通孔とは異なる面の縦方向の貫通孔に充填材が充填されるまで注入するステップとを含む,スライディングノズル用プレートの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,ガス吐出機能を備え,溶鋼の流量制御を行うスライディングノズル用プレートにおいて,内部のガス通過経路(横方向の貫通孔)の内壁面とその貫通孔内の金属パイプの外周面との間の空間への充填材の,空隙のない充填状態を得ることができ,それにより内部のガス通過経路(横方向の貫通孔)とその貫通孔内の金属パイプの間を緻密にすることでガス漏れを抑制することができる。
また本発明の製造方法によれば,金属パイプを設置後に当該プレートに設置された金属バンド又は金属ケースに金属パイプの端部を固定し,その後充填材を充填するので,金属パイプの端部を溶接により固定しても,充填材の中に空隙等を生じることがなく,充填材を緻密な状態に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ガス吹き込み機能を備えるスライディングノズル用プレートの一例の概念図である。
図2】ガス吹き込み機能を備えるスライディングノズル用プレートの他の例の概念図であり,(a)は平面図,(b)は3枚のプレートから構成される場合の中間プレートの側面図,(c)は2枚のプレートから構成される場合の下プレートの側面図である。
図3】従来のスライディングノズル用プレートのガス導入口付近の断面を示す概念図である。
図4】本発明の一実施形態であるスライディングノズル用プレートのガス導入口付近の断面を示す概念図である。
図5】本発明のさらに他の実施形態であるスライディングノズル用プレートのガス導入口付近の断面を示す概念図である。
図6】本発明のさらに他の実施形態であるスライディングノズル用プレートのガス導入口付近の断面を示す概念図である。
図7】本発明のさらに他の実施形態であるスライディングノズル用プレートのガス導入口付近の断面を示す概念図である。
図8図7の実施形態における金属パイプの変形例を示す概念図である。のスライディングノズル用プレート
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1及び図2に,ガス吹き込み機能を備えるスライディングノズル用プレート(以下、単に「プレート」という。)の一例を概念的に示している。
図1及び図2に示すプレート10は,いずれかの側面にガス導入口11,内部にガス導入口11からガス吐出口12に向かい横方向に貫通する横方向の貫通孔13,及び横方向の貫通孔13内部の少なくとも一部に金属パイプ14を備えている。
このようにプレート10は,溶鋼中にガスを吹き込むためのガス吐出口12を内孔15付近若しくは摺動面16に備える形態,又は摺動面16から溶鋼中への空気(大気)を巻き込まないために摺動面16付近に不活性ガス雰囲気を形成するために摺動面16にガス吐出口12を備える形態等,そのガス吐出口12の位置とガス吹込みの目的は種々あるが,いずれもプレート10の内部に,横方向の貫通孔13,金属パイプ14等からなるガス流通経路を備えている。なお,横方向の貫通孔13は,その軸方向(ガス吐出口12側の方向)の途中で段差部が有る場合と,無い場合(ほぼ全域が同じ内径)がある。また,ガス吐出口12は貫通孔又は多孔質体とすることができる。
【0015】
図3に,従来のプレートにおけるガス導入口付近の断面を概念的に示している。この従来のプレート10では,金属パイプ14の外周面と横方向の貫通孔13の内壁面との間の空間Aに充填材17を充填(注入)するために,空間Aに連通する縦方向の貫通孔18がプレート10の下面側に1個だけ設けられている。なお, 縦方向の貫通孔18から充填材を注入する前に,金属パイプ14のガス導入口11側の端部は,プレート10に設置された金属バンド又は金属ケース(以下「金属バンド等」という。)20に固定される。
【0016】
このように充填材17の充填前に金属パイプ14と金属バンド等20が固定され,しかも縦方向の貫通孔18が1個だけであると,充填材17を充填する際にはその固定部では空気の抜けも充填材17の溢れ出しもなくなる。その結果,その固定部付近すなわちガス導入口11側には空間Aが残って充填材17が隙間無く充填できない可能性がある。
【0017】
このような充填不良部分を生じさせないために,本発明の実施形態では例えば図4に示しているように,ガス導入口11近傍のプレート10の上面及び下面に空間Aに連通する縦方向の貫通孔18を設け,その上面又は下面の一方側,好ましくは充填時に鉛直方向の下方になる側の縦方向の貫通孔18から上方に向かって充填材17を注入する。
このように下方向から注入することで,充填材17が漸次下方から横方向の貫通孔13の内壁面と金属パイプ14の外周面との間の空間Aを埋めながら上方向に充填され,金属パイプ14の軸に対し反対側に設けた他の縦方向の貫通孔(以下「排出側の縦方向の貫通孔」ともいう。)18から溢れ出る。
すなわち,このように注入側と反対側に設けた排出側の縦方向の貫通孔18は,空間A内に存在する空気の脱気経路としての機能を果たしながら充填材流動の経路ともなる。その結果,各々の縦方向の貫通孔18内,並びに,空間Aの,少なくとも縦方向の貫通孔18と連通する部分及び複数の縦方向の貫通孔18相互の間の領域には,隙間無く充填材17を充填することができる。
なお,この排出側の縦方向貫通孔は,充填材の充填工程において,視覚による充填材の充填性,充填程度を確認する手段としての機能をも果たす。
【0018】
上下各面の縦方向の貫通孔18,18は,図5に示すように横方向の貫通孔13の中心軸を通る鉛直断面において相互に重ならない位置に設けられていることが好ましい。
その理由は,上下各面の縦方向の貫通孔18,18が,横方向の貫通孔13の中心軸を通る鉛直断面において相互に重なり合うように設けられている場合は,充填材17が空間Aを埋めないうちに溢れ出すことがあるからである。このような現象を避け,注入側の縦方向の貫通孔18と排出側の縦方向の貫通孔18を横方向の貫通孔13の軸方向にずらすことで,空間A内への充填材17の充填を確実に行うことができる。
【0019】
本発明において,縦方向の貫通孔18は,プレート10の上面及び下面のうち一方の面には1個のみ設け,プレート10の上面及び下面のうち他方の面には1個又は複数個設けることができる。言い換えれば,注入側の縦方向の貫通孔は1個とし,排出側の縦方向の貫通孔18は1個又は複数個とすることができる。
注入側の縦方向の貫通孔18の個数を1個に限定する理由は,注入側(プレート10の上面及び下面のうち一方の面)に縦方向の貫通孔を複数個設けた場合,特に複数の縦方向貫通孔のうち一つから充填材注入を行う場合は,充填材が排出側(プレート10の上面及び下面のうち他方の面)の縦方向の貫通孔に至らないうちに,他の注入側の縦方向の貫通孔から溢れ出て,充填不良部分を生じる可能性があるからである。
なお,排出側の縦方向の貫通孔の個数は複数個であっても,順次充填性等を確認しながら充填を行うことができるので,充填不良部分が生じることはない。
【0020】
金属パイプ14の外周面には,例えば図6に示すように,金属パイプ14の半径方向に突出する板等の突状部14aを円周方向に2箇所以上設けることができる。この突状部14aにより金属パイプ14を横方向の貫通孔13内の中央に配置させることができる。突状部14aが2箇所の場合は,突状部14aの高さを横方向の貫通孔13と金属パイプ14との間の空間Aの半径方向の厚さに近い長さとし,概ね180度の対称の位置に配置すればよい。突状部14aを3箇所以上に配置する場合は,金属パイプ14を横方向の貫通孔13内の中央に配置できるように,金属パイプ14の外周を円周方向に概ね均等に分割する位置に配置することが好ましい。
【0021】
横方向の貫通孔13には,ガス吐出口12側の内径がガス導入口11側の内径より小さい構造の段差部13aを備えることができる。
この場合、金属パイプ14は,横方向の貫通孔13の小さい内径よりも大きい外径部分のみからなり,金属パイプ14の端部が横方向の貫通孔13の段差部13aに当接する構造とすることができる。具体的には図6(a)に示すように,金属パイプ14は,横方向の貫通孔13の段差部13aまでの長さとして,金属パイプ14のガス吐出口12側の端部が横方向の貫通孔13の段差部13aに当接する構造とすることができる。このような構造では,ガス導入口11からこの当接部Bまでの間の空間Aに充填材17を充填する。
【0022】
一方で,図6(b)に示すように,当接部Bからガス吐出口12側に金属パイプ14をさらに延在させてもよい。この場合,当接部Bからガス吐出口12側の空間Aには充填材を充填する必要はない。
なお,図6(c)に示すように,金属パイプ14を横方向の貫通孔13の段差部13aに必ずしも当接させる必要はない。この場合,横方向の貫通孔13の段差部13aと金属パイプ14の段差部14bとは充填材17を介して対向する。
【0023】
図7に示すように,当接部Bからガス吐出口12側にさらに延在させた金属パイプ14の段差部14b,又は,金属パイプ14の長さを横方向の貫通孔13の段差部13a付近まで(すなわち段差部13aをガス吐出口12側にわずかに超える程度)の長さとして,この段差部13aと当接させた金属パイプ14の端部は截頭円錐状とすることができる。このような截頭円錐状の傾斜面14cが横方向の貫通孔13の段差部13aと当接することで,金属パイプ14を横方向の貫通孔13内の中央に配置させることができる。
前記の截頭円錐状の傾斜面14cは,金属パイプ14の軸方向の断面において,図8(a)及び図8(b)に示すように直線状,又は,図8(c)及び図8(d)に示すように曲線状とすることができ,球の一部の面であることがより好ましい。球状の面であれば,金属パイプ14と横方向の貫通孔13とが同軸上に無く,角度を有した場合にも段差部13aでの当接状態を常に密着状態に保つことができる。
【0024】
なお,横方向の貫通孔13及び金属パイプ14は必ずしも直線状である必要は無く,途中に角度を有していてもよい。
また,金属パイプ14のガス導入口11側の端部は,ネジ込み,カプラージョイント又は溶接のいずれか一以上の手段によりガス供給配管30(図1参照)に接続することができる。
【0025】
次に,本発明のプレート10の製造方法の実施形態について説明する。
まず,プレート10の側面から横方向の貫通孔13を開孔し,ガス導入口11近傍のプレート10の上面及び下面に,横方向の貫通孔13に連通する縦方向の貫通孔18を開孔する。
続いて,横方向の貫通孔13内部の,ガス導入口11を端部とする少なくとも一部に,横方向の貫通孔13の内壁面との少なくとも一部の間に空間Aを設けることが可能な径の金属パイプ14を,横方向の貫通孔13内部に設置する。
金属パイプ14を設置後に,プレート10に設置された金属バンド等20に金属パイプ14のガス導入口11側の端部を固定する。金属パイプ14のガス導入口11側の端部は,金属バンド等20にネジ込み若しくは嵌め込み又は溶接の手段で固定することができる。金属バンド等20に溶接の手段で固定する場合は,ガス導入口11付近は高温度になり,充填材をその溶接工程の前に設置した場合は充填材内の水等の揮発分の気化により充填材内に気泡等の空間を生じさせて,充填材を粗な組織にし,脆弱な構造にすることがある。
そこで本実施形態では,充填材を充填する前に金属パイプ14のガス導入口11側の端部を金属バンド等20に固定する。
なお,金属パイプ14のガス導入口11側の端部は,横方向の貫通孔13端部とのネジ込み若しくは嵌め込み又は充填材のいずれか一以上の手段により,プレート10の耐火物部分に直接固定してもよい。
その後,プレート10の上面又は下面に開孔した縦方向の貫通孔18の一つを充填材注入用貫通孔として,この充填材注入用貫通孔から充填材を,この充填材注入用貫通孔とは異なる面の縦方向の貫通孔18に充填材が充填されるまで注入する。
【実施例
【0026】
図3に示す従来例に対し,図2に示す本発明の実施例を適用した結果,通気量のバラツキ(3σ)が比較例を100とする指数で約60になった。
【符号の説明】
【0027】
10 プレート(スライディングノズル用プレート)
11 ガス導入口
12 ガス吐出口
13 横方向の貫通孔
13a 段差部
14 金属パイプ
14a 突状部
14b 段差部
14c 傾斜面
15 内孔
16 摺動面
17 充填材
18 縦方向の貫通孔
20 金属バンド等(金属バンド又は金属ケース)
30 ガス供給配管
A 空間
B 当接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8