(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240710BHJP
【FI】
B41J2/14 501
B41J2/14 301
(21)【出願番号】P 2020208065
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】色川 大城
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-068398(JP,A)
【文献】特開平6-99591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が噴射される噴射孔が形成された噴射孔プレートと、
前記噴射孔プレートに重ね合わされ、前記噴射孔に連通する流路、および前記噴射孔プレートを吸引する吸引孔が形成された流路部材と、
を備え、
前記噴射孔プレートおよび前記流路部材の間には、前記吸引孔に連通する溝部が形成されている、
ヘッドチップ。
【請求項2】
前記溝部は、前記流路および前記噴射孔の間の通液部を囲う、
請求項1に記載のヘッドチップ。
【請求項3】
前記溝部は、前記流路部材に形成されている、
請求項1または請求項2に記載のヘッドチップ。
【請求項4】
前記噴射孔プレートおよび前記流路部材の間に介在し、前記噴射孔プレートおよび前記流路部材のうちいずれか一方に接合された溝形成シートを備え、
前記溝形成シートには、前記噴射孔プレートおよび前記流路部材それぞれの互いに対向し合う面同士の間に前記溝部を画成する貫通孔が形成されている、
請求項1または請求項2に記載のヘッドチップ。
【請求項5】
前記噴射孔プレートおよび前記流路部材の間に配置され、前記溝部を囲うシール部材を備える請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のヘッドチップ。
【請求項6】
前記流路部材を挟んで前記噴射孔プレートとは反対側に配置されるとともに、前記流路に連通し前記噴射孔から噴射される液体に圧力を印加する噴射チャネルが形成されたアクチュエータプレートを備える請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のヘッドチップ。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のヘッドチップを備えた液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載の液体噴射ヘッドを備えた液体噴射記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、記録紙等の被記録媒体に液滴状のインクを吐出して、被記録媒体に画像や文字を記録する装置として、インクジェットヘッドを備えたインクジェットプリンタがある。インクジェットヘッドは、チャネルが形成されたヘッドチップと、ヘッドチップに接合されたノズルプレートと、を備えている。この構成によれば、チャネル内の容積が変化することで、チャネル内のインクがノズルプレートに形成されたノズル孔を通じて吐出される。
【0003】
上述したインクジェットヘッドでは、ノズルプレートのノズル孔の目詰まり等が発生した場合にノズルプレートを交換するというニーズがある。そのため、ノズルプレートをヘッドチップから着脱できるように形成する技術がある(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1には、ノズルプレートと、ノズルプレート上に存在する流路形成部とを備え、ノズルプレートを吸引により流路形成部に密着させて、ノズルプレートが交換可能になるよう構成された液体噴射装置が開示されている。また、特許文献2には、オリフィスプレートとインク流路部材とを接合することによって構成されるインクジェットヘッドにおいて、インク流路部材を取り囲む押し圧部材の下にオリフィスプレートをはめ込んで、押し圧バネによってインク流路部材とオリフィスプレートを密着させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-67311号公報
【文献】特開2006-82409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された構成では、負圧による吸着力がノズルプレートを吸引する吸引孔の近傍に集中して作用する。このため、ノズルプレートまたは流路形成部に反りが生じている場合には、各ノズル孔の周囲でノズルプレートおよび流路形成部の密着が不十分となって液漏れする可能性がある。また、特許文献2に開示された構成では、押し圧部材による押し圧がインク流路部材およびオリフィスプレートの外周部に集中して作用する。このため、インク流路部材およびオリフィスプレートの接合部の中心付近で押し圧が不足し、各ノズル孔の周囲でインク流路部材およびオリフィスプレートの密着が不十分となって液漏れする可能性がある。
【0007】
そこで本発明は、噴射孔プレートを着脱可能に設けた上で、噴射孔プレートの接合部における液漏れを抑制できるヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は以下の態様を採用した。
(1)本開示の一態様に係るヘッドチップは、液体が噴射される噴射孔が形成された噴射孔プレートと、前記噴射孔プレートに重ね合わされ、前記噴射孔に連通する流路、および前記噴射孔プレートを吸引する吸引孔が形成された流路部材と、を備え、前記噴射孔プレートおよび前記流路部材の間には、前記吸引孔に連通する溝部が形成されている。
【0009】
本態様によれば、噴射孔プレートを流路部材に吸着させて交換可能とした構成において、吸引孔および溝部の負圧により噴射孔プレートを流路部材に吸着させるので、吸引孔の負圧のみにより噴射孔プレートを流路部材に吸着させる構成と比べて、負圧を広範囲に作用させることができる。したがって、噴射孔プレートを着脱可能に設けた上で、流路部材に噴射孔プレートを確実に吸着させて、噴射孔プレートの接合部における液漏れを抑制することができる。
【0010】
(2)上記(1)の態様のヘッドチップにおいて、前記溝部は、前記流路および前記噴射孔の間の通液部を囲っていてもよい。
【0011】
本態様によれば、通液部の周囲に負圧を作用させることができるので、噴射孔プレートおよび流路部材の隙間を伝った漏液を抑制できる。
【0012】
(3)上記(1)または(2)の態様のヘッドチップにおいて、前記溝部は、前記流路部材に形成されていてもよい。
【0013】
本態様によれば、噴射孔プレートに溝部を形成する場合よりも、消耗品である噴射孔プレートを安価に製造でき、ランニングコストを低減できる。
また、噴射孔プレートに溝部を形成する場合よりも、溝部の底壁の厚みを省略できる分、噴射孔プレートを薄く形成できる。このため、噴射孔プレートの孔あけ加工の歩留まりを向上させることができる。さらに、噴射孔の形状が液体の噴射方向に先細るようにテーパ状に設けられる場合には、噴射孔プレートが薄くなるに従い、噴射孔の上流側の開口が小さくなる。これにより、連通孔および噴射孔の位置ずれの許容範囲を大きくすることができる。よって、ヘッドチップを製造容易とすることができる。
【0014】
(4)上記(1)または(2)の態様のヘッドチップにおいて、前記噴射孔プレートおよび前記流路部材の間に介在し、前記噴射孔プレートおよび前記流路部材のうちいずれか一方に接合された溝形成シートを備え、前記溝形成シートには、前記噴射孔プレートおよび前記流路部材それぞれの互いに対向し合う面同士の間に前記溝部を画成する貫通孔が形成されていてもよい。
【0015】
本態様によれば、噴射孔プレートおよび流路部材に溝部が形成されていないヘッドチップに対し、溝形成シートを追加することで噴射孔プレートおよび流路部材の間に溝部を設けることができる。よって従来の噴射孔プレートおよび流路部材を流用できる。また、製造時に流路部材に溝部を形成する工程がないので、工程増加に伴う製造コスト上昇を抑制できる。
【0016】
(5)上記(1)から(4)のいずれかの態様のヘッドチップにおいて、前記噴射孔プレートおよび前記流路部材の間に配置され、前記溝部を囲うシール部材を備えていてもよい。
【0017】
本態様によれば、溝部の気密性が向上するので、流路部材に噴射孔プレートを確実に吸着させることができる。また、噴射孔プレートおよび流路部材の材料選択の自由度を向上させることができる。
【0018】
(6)上記(1)から(5)のいずれかの態様のヘッドチップにおいて、前記流路部材を挟んで前記噴射孔プレートとは反対側に配置されるとともに、前記流路に連通し前記噴射孔から噴射される液体に圧力を印加する噴射チャネルが形成されたアクチュエータプレートを備えていてもよい。
【0019】
本態様によれば、流路部材がアクチュエータプレートである場合と比べて、噴射チャネルの圧力変動が流路部材および噴射孔プレートの吸着面に波及しにくい。したがって、噴射孔プレートを流路部材に安定して吸着できる。
【0020】
(7)本開示の一態様に係る液体噴射ヘッドは、上記(1)から(6)のいずれかの態様に係るヘッドチップを備えている。
【0021】
本態様によれば、上記いずれかの態様に係るヘッドチップを備えているので、噴射孔プレートが着脱可能に設けられた液体噴射ヘッドにおいて、噴射孔プレートの接合部における液漏れを抑制できる。
【0022】
(8)本開示の一態様に係る液体噴射記録装置は、上記(7)の態様に係る液体噴射ヘッドを備えている。
【0023】
本態様によれば、上記態様に係る液体噴射ヘッドを備えているので、噴射孔プレートが着脱可能に設けられた液体噴射記録装置において、噴射孔プレートの接合部における液漏れを抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
本開示の一態様によれば、噴射孔プレートを着脱可能に設けた上で、噴射孔プレートの接合部における液漏れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】実施形態のインクジェットヘッドの斜視図である。
【
図3】第1実施形態のヘッドチップの斜視図である。
【
図4】第1実施形態のヘッドチップの分解斜視図である。
【
図5】第1実施形態の中間プレートの底面図である。
【
図6】第1実施形態の第1変形例のヘッドチップの分解斜視図である。
【
図7】第1実施形態の第2変形例の中間プレートの底面図である。
【
図8】第1実施形態の第3変形例の中間プレートの底面図である。
【
図9】第2実施形態のヘッドチップの分解斜視図である。
【
図10】第3実施形態のヘッドチップにおいて溝部を横断する断面の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0027】
[実施形態]
<プリンタ>
各実施形態に共通するプリンタ1について説明する。
図1は、実施形態のプリンタの概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態のプリンタ(液体噴射記録装置)1は、一対の搬送機構2,3と、インク供給機構4と、インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)5と、走査機構6と、を備えている。
【0028】
以下の説明では、必要に応じてX,Y,Zの直交座標系を用いて説明する。この場合、X方向は被記録媒体P(例えば、紙等)の搬送方向(副走査方向)に一致している。Y方向は走査機構6の走査方向(主走査方向)に一致している。Z方向は、X方向およびY方向に直交する高さ方向(鉛直方向)を示している。以下の説明では、X方向、Y方向およびZ方向のうち、図中矢印側をプラス(+)側とし、矢印とは反対側をマイナス(-)側として説明する。本実施形態において、+Z側は鉛直方向の上方に相当し、-Z側は鉛直方向の下方に相当する。
【0029】
搬送機構2,3は、被記録媒体Pを+X側に搬送する。搬送機構2,3は、例えばY方向に延びる一対のローラ11,12をそれぞれ含んでいる。
インク供給機構4は、インクが収容されたインクタンク15と、インクタンク15とインクジェットヘッド5とを接続するインク配管16と、を備えている。インクタンク15には、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインクが各別に収容されている。各インクジェットヘッド5は、接続されたインクタンク15に応じてイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインクをそれぞれ吐出可能に構成されている。
【0030】
走査機構6は、インクジェットヘッド5をY方向に往復走査させる。走査機構6は、Y方向に延びるガイドレール28と、ガイドレール28に移動可能に支持されたキャリッジ29と、を備えている。キャリッジ29には、インクジェットヘッド5が搭載されている。
【0031】
図2は、実施形態のインクジェットヘッドの斜視図である。以下の説明では一のインクジェットヘッド5を例にしてインクジェットヘッド5の詳細について説明する。
図2に示すように、インクジェットヘッド5は、キャリッジ29に固定されるベースフレーム31と、ベースフレーム31に固定されたヘッドチップ32と、インク供給機構4(インク配管16)およびヘッドチップ32間を接続するインク供給部33と、ヘッドチップ32に駆動電圧を印加する制御部34と、を備えている。
【0032】
[第1実施形態]
<ヘッドチップ>
第1実施形態のヘッドチップ32について説明する。
図3は、第1実施形態のヘッドチップの斜視図である。
図4は、第1実施形態のヘッドチップの分解斜視図である。
図3および
図4に示すヘッドチップ32は、後述する吐出チャネル56における延在方向(Z方向)の端部からインクを吐出する、いわゆるエッジシュートタイプのものである。具体的に、ヘッドチップ32は、アクチュエータプレート51と、カバープレート52と、支持プレート53と、中間プレート(流路部材)54と、ノズルプレート(噴射孔プレート)55と、を備えている。
【0033】
アクチュエータプレート51は、Y方向を厚み方向とする板状に形成されている。アクチュエータプレート51は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料で形成されている。アクチュエータプレート51には、複数のチャネル56,57がX方向に間隔をあけて並設されている。上述した複数のチャネル56,57は、インクが充填される吐出チャネル56、およびインクが充填されない非吐出チャネル57(
図4参照)である。吐出チャネル56および非吐出チャネル57は、X方向に交互に並んで配置されている。なお、チャネル56内面には、図示しない駆動電極が形成されている。
【0034】
カバープレート52は、Y方向から見た正面視で矩形状に形成されている。カバープレート52は、アクチュエータプレート51の上端部(+Z側端部)を露出させた状態で、アクチュエータプレート51に対して-Y側から接合されている。
【0035】
カバープレート52には、共通インク室61と、複数のスリット62と、が形成されている。共通インク室61には、上述したインク供給部33を通じてインクが流入する。スリット62は、共通インク室61のうち、吐出チャネル56とY方向で対向する位置に形成されている。スリット62は、共通インク室61内と各吐出チャネル56内とを各別に連通している。一方、非吐出チャネル57は、共通インク室61内には連通していない。
【0036】
支持プレート53は、アクチュエータプレート51およびカバープレート52を支持するともに、中間プレート54を同時に支持している。支持プレート53には、Z方向に貫通するとともにX方向に沿って延びる嵌合孔53aが形成されている。アクチュエータプレート51およびカバープレート52は、嵌合孔53a内に嵌め込まれた状態で支持プレート53に支持されている。
【0037】
中間プレート54は、アクチュエータプレート51、カバープレート52および支持プレート53の下面(-Z側端面)に重ね合わされて、例えば接着剤等により固定されている。中間プレート54は、Z方向を厚さ方向とする板状に形成されている。中間プレート54は、アクチュエータプレート51と同じ圧電材料により形成されている。
【0038】
中間プレート54には、連通孔(流路)71、吸引孔72および溝部73が形成されている。連通孔71は、中間プレート54をZ方向に貫通している。連通孔71は、X方向に間隔をあけて並設されている。連通孔71は、各吐出チャネル56の中間プレート54側(-Z側)の端部とZ方向から見て重なり合う。連通孔71は、アクチュエータプレート51の下面側において、対応する吐出チャネル56内に各別に連通している。連通孔71の吐出チャネル56側の開口は、吐出チャネル56の配列方向(X方向)において、吐出チャネル56の中間プレート54側の端部よりも広い。中間プレート54は、非吐出チャネル57を下面側から閉塞している。吸引孔72および溝部73については後述する。
【0039】
ノズルプレート55は、中間プレート54の下面(-Z側端面)に直接重ね合わせて固定されている。ノズルプレート55は、Z方向を厚さ方向とする板状に形成されている。ノズルプレート55は、樹脂材料(ポリイミド等)や金属材料(ステンレス鋼やNi-Pd等)、ガラス、シリコン等による単層構造、又は積層構造とされている。
【0040】
ノズルプレート55には、ノズルプレート55をZ方向に貫通するノズル孔(噴射孔)100が形成されている。ノズル孔100は、Z方向から見た平面視で円形状に形成されるとともに、上方から下方に向かうに従い漸次縮径するテーパ状に形成されている。ただし、ノズル孔100の形状は適宜変更が可能である。
【0041】
ノズル孔100は、中間プレート54の連通孔71にZ方向で対向する位置に各別に形成されている。ノズル孔100は、連通孔71に各別に連通している。これにより、上述した吐出チャネル56は、連通孔71およびノズル孔100を通して外部に連通している。各ノズル孔100は、隣り合う吐出チャネル56同士の間隔と同ピッチでX方向に間隔をあけて形成されている。ノズル孔100の中間プレート54側の開口は、Z方向から見て、連通孔71のノズルプレート55側の開口の内側に形成されている。
【0042】
ここで、中間プレート54およびノズルプレート55の固定構造について説明する。
図5は、第1実施形態の中間プレートの底面図である。
図4および
図5に示すように、中間プレート54およびノズルプレート55の固定構造は、吸引孔72および溝部73を備える。吸引孔72は、中間プレート54のうちノズルプレート55側(-Z側)の面に開口し、ノズルプレート55によって閉塞されている。吸引孔72は、中間プレート54を貫通している。本実施形態では、吸引孔72は、中間プレート54をZ方向に貫通している。吸引孔72は、Z方向から見て中間プレート54の連通孔71、およびノズルプレート55のノズル孔100に重ならない位置に形成されている。本実施形態では、吸引孔72は、Z方向から見て支持プレート53と中間プレート54との接合部に重なる位置に形成されている。吸引孔72は、支持プレート53に形成された接続孔53bに連通している。吸引孔72内の気体は、接続孔53bを通じて、接続孔53bに接続された図示しないポンプ等によって排気される。これにより、吸引孔72は、ノズルプレート55を吸引する。
【0043】
溝部73は、ノズルプレート55および中間プレート54の間に形成されている。本実施形態では、溝部73は、中間プレート54のうちノズルプレート55側の面に形成されている。溝部73は、吸引孔72に連通している。溝部73は、Z方向から見て連通孔71およびノズル孔100の間の通液部66よりも外側に形成されている。連通孔71およびノズル孔100の間の通液部66とは、連通孔71およびノズル孔100を含む孔構造における連通孔71およびノズル孔100の境界部である。溝部73は、Z方向から見て通液部66を囲う包囲部74と、包囲部74と吸引孔72とを接続する接続部75と、を備える。接続部75は、吸引孔72に最も近い通液部66に向けて吸引孔72から直線状に延びている。包囲部74は、複数の通液部66をまとめて囲うとともに、複数の通液部66を各別に囲っている。包囲部74は、X方向に1列に並ぶ通液部66をまとめて囲う周辺部74aと、Z方向から見てX方向に隣り合う一対の通液部66の間をY方向に延びて両端で周辺部74aに接続する横断部74bと、を備える。周辺部74aは、Z方向から見てX方向を長手方向とする矩形枠状に形成されている。横断部74bは、隣り合う一対の連通孔71の間に1つずつ形成されている。横断部74bは、Y方向に直線状に延びている。
【0044】
上述した中間プレート54およびノズルプレート55の固定構造を有するヘッドチップ32において、吸引孔72を負圧にすることで、吸引孔72に連通する溝部73が負圧となる。これにより、中間プレート54に重ね合わされたノズルプレート55を中間プレート54に吸着させて、中間プレート54およびノズルプレート55を固定することができる。また、吸引孔72を大気圧に戻すことで、中間プレート54に対するノズルプレート55の吸着力が低下するので、ノズルプレート55を中間プレート54から取り外すことが可能となる。
【0045】
以上に説明したように、本実施形態では、ノズルプレート55および中間プレート54の間に、ノズルプレート55を吸引する吸引孔72に連通する溝部73が形成されている。この構成によれば、ノズルプレート55を中間プレート54に吸着させて交換可能とした構成において、吸引孔72および溝部73の負圧によりノズルプレート55を中間プレート54に吸着させるので、吸引孔の負圧のみによりノズルプレートを中間プレートに吸着させる構成と比べて、負圧を広範囲に作用させることができる。したがって、ノズルプレート55を着脱可能に設けた上で、中間プレート54にノズルプレート55を確実に吸着させて、ノズルプレート55の接合部における液漏れを抑制することができる。
【0046】
溝部73は、連通孔71およびノズル孔100の間の通液部66を囲う。この構成によれば、通液部66の周囲に負圧を作用させることができるので、ノズルプレート55および中間プレート54の隙間を伝った漏液を抑制できる。
【0047】
溝部73は、中間プレート54に形成されている。この構成によれば、ノズルプレートに溝部を形成する場合よりも、消耗品であるノズルプレート55を安価に製造でき、ランニングコストを低減できる。
また、ノズルプレートに溝部を形成する場合よりも、溝部の底壁の厚みを省略できる分、ノズルプレート55を薄く形成できる。このため、ノズルプレート55の孔あけ加工の歩留まりを向上させることができる。さらに、本実施形態のようにノズル孔100の形状がインクの噴射方向(-Z側)に先細るようにテーパ状に設けられる場合には、ノズルプレート55が薄くなるに従い、ノズル孔100の上流側の開口が小さくなる。これにより、連通孔71およびノズル孔100の位置ずれの許容範囲を大きくすることができる。よって、ヘッドチップ32を製造容易とすることができる。
【0048】
また、本実施形態では、中間プレート54を挟んでノズルプレート55とは反対側にアクチュエータプレート51が配置されている。この構成によれば、ノズルプレートがアクチュエータプレートに直接重ね合わされる場合と比べて、吐出チャネル56の圧力変動が中間プレート54およびノズルプレート55の吸着面に波及しにくい。したがって、ノズルプレート55を中間プレート54に安定して吸着できる。
【0049】
そして、本実施形態によれば、ノズルプレート55が着脱可能に設けられたインクジェットヘッド5およびプリンタ1において、ノズルプレート55の接合部における液漏れを抑制できる。
【0050】
[第1実施形態の第1変形例]
<ヘッドチップ>
第1実施形態の第1変形例のヘッドチップ32Aについて説明する。
図6は、第1実施形態の第1変形例のヘッドチップの分解斜視図である。
本変形例では、ヘッドチップ32Aに支持プレートが設けられていない点で、第1実施形態とは異なる。これにより、中間プレート54は、アクチュエータプレート51およびカバープレート52の下面(-Z側端面)に重ね合わされて、例えば接着剤等により固定されている。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0051】
図6に示すように、中間プレート54の吸引孔72は、アクチュエータプレート51およびカバープレート52のうち少なくともいずれか一方に形成された接続孔58に連通している。接続孔58は、アクチュエータプレート51およびカバープレート52からなる組体を貫通している。図示の例では、接続孔58は、吸引孔72に対向する開口からアクチュエータプレート51およびカバープレート52の間を+Z側に延びた後、カバープレート52をY方向に貫通している。接続孔58には、図示しないポンプ等の吸引手段が接続されている。
【0052】
以上に説明したように、本変形例では吸引孔72を通じて溝部73を負圧にすることができるので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0053】
[第1実施形態の第2変形例]
<ヘッドチップ>
第1実施形態の第2変形例の中間プレート54Aについて説明する。
図7は、第1実施形態の第2変形例の中間プレートの底面図である。
本変形例では、溝部73が包囲部74および接続部75に加えて、外周部76を備えている点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0054】
図7に示すように、溝部73は、中間プレート54Aの外周縁と包囲部74との間に外周部76を備える。外周部76は、包囲部74を全周にわたって囲うように延びている。外周部76は、平面視で中間プレート54Aの外周縁に沿って矩形状に延びている。図示の例では、外周部76は、吸引孔72から延びている。ただし外周部は、包囲部74または接続部75から延びていてもよい。
【0055】
以上に説明したように、本変形例では包囲部74の周囲に外周部76が設けられているので、溝部73の負圧を中間プレート54Aおよびノズルプレート55の重ね合わせ面のより広範囲に作用させることができる。したがって、中間プレート54Aにノズルプレート55をより確実に吸着させることができる。
【0056】
なお、本変形例では、外周部76が包囲部74の周囲全周を囲うように形成されているが、この構成に限定されない。例えば外周部は、包囲部74の周囲の一部を囲うように延びていてもよい。
【0057】
[第1実施形態の第3変形例]
<ヘッドチップ>
第1実施形態の第3変形例の中間プレート54Bについて説明する。
図8は、第1実施形態の第3変形例の中間プレートの底面図である。
本変形例では、溝部73が包囲部74、接続部75および外周部76に加えて、内周部77を備えている点で、第2変形例とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第2変形例と同様である。
【0058】
図8に示すように、溝部73は、中間プレート54Bの外周縁と包囲部74との間に外周部76および内周部77を備える。内周部77は、平面視で外周部76の内側で、包囲部74を全周にわたって囲うように延びている。内周部77は、外周部76の形状に倣い、平面視で矩形状に延びている。図示の例では、内周部77は、接続部75から延びている。ただし内周部は、包囲部74から延びていてもよい。
【0059】
以上に説明したように、本変形例では包囲部74の周囲に外周部76および内周部77が設けられているので、中間プレート54Bにノズルプレート55をより確実に吸着させることができる。
【0060】
なお、本変形例では、内周部77が包囲部74の周囲全周を囲うように形成されているが、この構成に限定されない。例えば内周部は、包囲部74の周囲の一部を囲うように延びていてもよい。
【0061】
[第2実施形態]
<ヘッドチップ>
第2実施形態のヘッドチップ32Bについて説明する。
図9は、第2実施形態のヘッドチップの分解斜視図である。
本実施形態では、中間プレート54Cの基材80とノズルプレート55との間に、溝部73を画成する貫通孔82が形成された溝形成シート81が介在している点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0062】
図9に示すように、本実施形態のヘッドチップ32Bは、第1実施形態の中間プレート54に代えて、中間プレート54Cを備える。中間プレート54Cは、基材(流路部材)80と、基材80の下面に接合された溝形成シート81と、を備えている。ここで、基材80は、第1実施形態の中間プレート54に対して溝部73を形成していない構成を有する。溝形成シート81は、ノズルプレート55および基材80の間に介在している。溝形成シート81は、基材80に接着等により接合されている。中間プレート54Cは、第1実施形態の中間プレート54と同様の形状を有する。連通孔71および吸引孔72は、基材80および溝形成81シートに跨って形成されている。溝部73は、溝形成シート81に形成された貫通孔82によって画成されている。貫通孔82は、ノズルプレート55および基材80それぞれの互いに対向し合う面同士の間に溝部73を画成している。
【0063】
本実施形態によれば、ノズルプレート55および基材80に溝部が形成されていないヘッドチップに対し、溝形成シート81を追加することでノズルプレート55および基材80の間に溝部73を設けることができる。よって従来のノズルプレートおよび中間プレートを流用できる。また、ヘッドチップ32の製造時に中間プレート54Cの基材80に溝部を形成する工程がないので、工程増加に伴う製造コスト上昇を抑制できる。
【0064】
[第3実施形態]
<ヘッドチップ>
第3実施形態のヘッドチップ32Cについて説明する。
図10は、第3実施形態のヘッドチップにおいて溝部を横断する断面の一部を示す図である。
本実施形態では、ノズルプレート55および中間プレート54の間に、溝部73を囲うシール部材85が配置されている点で、第1実施形態と異なる。例えば、シール部材85は、Oリングである。シール部材85は、中間プレート54に形成された凹部に配置されている。例えば、シール部材85は、溝部73の全体を囲うように1つ配置されていてもよいし、溝部73の両脇で溝部73に沿って配置されていてもよい。なお、その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0065】
本実施形態によれば、シール部材85によって溝部73の気密性が向上するので、中間プレート54にノズルプレート55を確実に吸着させることができる。また、ノズルプレート55および中間プレート54の材料選択の自由度を向上させることができる。
【0066】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、液体噴射記録装置の一例として、インクジェットプリンタ1を例に挙げて説明したが、プリンタに限られるものではない。例えば、ファックスやオンデマンド印刷機等であってもよい。
【0067】
上記実施形態では、印刷時にインクジェットヘッドが被記録媒体に対して移動する構成(いわゆる、シャトル機)を例にして説明をしたが、この構成に限られない。本開示に係る構成は、インクジェットヘッドを固定した状態で、インクジェットヘッドに対して被記録媒体を移動させる構成(いわゆる、固定ヘッド機)に採用してもよい。
上記実施形態では、Z方向が鉛直方向に一致する構成について説明したが、この構成のみに限らず、Z方向を水平方向に沿わせてもよい。
【0068】
上記実施形態では、エッジシュートのヘッドチップについて説明したが、これに限られない。例えば、吐出チャネルにおける延在方向の中央部からインクを吐出する、いわゆるサイドシュートタイプのヘッドチップに本開示を適用してもよい。
【0069】
上記実施形態では、被記録媒体Pが紙の場合について説明したが、この構成に限られない。被記録媒体Pは、紙に限らず、金属材料や樹脂材料であってもよく、食品等であってもよい。
上記実施形態では、液体噴射ヘッドが液体噴射記録装置に搭載された構成について説明したが、この構成に限られない。すなわち、液体噴射ヘッドから噴射される液体は、被記録媒体に着弾させるものに限らず、例えば調剤中に配合する薬液や、食品に添加する調味料や香料等の食品添加物、空気中に噴射する芳香剤等であってもよい。
【0070】
上記実施形態では、中間プレートに溝部73および吸引孔72が1つずつ形成されているが、この構成に限られない。中間プレートには、複数の吸引孔それぞれに1つずつ連通する複数の溝部が形成されていてもよいし、溝部が複数の吸引孔に連通していてもよい。また、溝部は、中間プレートの連通孔およびノズルプレートのノズル孔の間の通液部を囲っていなくてもよく、少なくとも吸引孔から延びていればよい。ただし、溝部は、連通孔およびノズル孔の間の通液部からの液漏れを抑制するという観点で、通液部の近傍に形成されていることが望ましい。
【0071】
上記実施形態では、溝部の包囲部が通液部の周囲全周を囲うように形成されているが、この構成に限定されない。例えば包囲部は、通液部の周囲の一部を囲うように延びていてもよいし、隣り合う通液部の間を縫うようにジグザグ状に延びていてもよい。
【0072】
上記実施形態では、溝部が中間プレートに形成されているが、この構成に限らない。溝部はノズルプレートに形成されていてもよいし、中間プレートおよびノズルプレートの両方に形成されていてもよい。また、ノズルプレートがアクチュエータプレートに直接重ね合わされる構成において、溝部がアクチュエータプレートおよびノズルプレートの少なくともいずれか一方に形成されていてもよい。
【0073】
上記実施形態では、中間プレートは圧電材料により形成されているが、この構成に限定されない。中間プレートは圧電材料以外の材料(例えば、ポリイミドやアルミナ等の非導電材)で形成されていてもよい。さらに、中間プレートは、ゴム等の弾性部材で形成されていてもよい。これにより、中間プレートとノズルプレートとを密着させて、溝部の気密性の向上を図ることができる。
【0074】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1…プリンタ(液体噴射記録装置) 5…インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド) 32,32A,32B,32C…ヘッドチップ 51…アクチュエータプレート 54,54A,54B,54C…中間プレート(流路部材) 56…吐出チャネル(噴射チャネル) 66…通液部 71…連通孔(流路) 72…吸引孔 73…溝部 80…基材(流路部材) 81…溝形成シート 82…貫通孔 85…シール部材 100…ノズル孔(噴射孔)