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特許7518765D-セリンの重水素化類似体およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】D-セリンの重水素化類似体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20240710BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20240710BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240710BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240710BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240710BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20240710BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20240710BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240710BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
A61K31/198
A61P25/18
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61P25/24
A61P25/28
A61P25/22
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/00
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020528027
(86)(22)【出願日】2018-11-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 US2018062263
(87)【国際公開番号】W WO2019104179
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】62/590,109
(32)【優先日】2017-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/636,081
(32)【優先日】2018-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/636,427
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/755,157
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509239071
【氏名又は名称】コンサート ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【弁理士】
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ドラー,ダリオ
(72)【発明者】
【氏名】ブランメル,クリストファー エル.
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ジュリー エフ.
(72)【発明者】
【氏名】タン,ロジャー ディー.
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0326137(US,A1)
【文献】特表2002-511409(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0187597(US,A1)
【文献】Analytical Biochemistry,2013年,Vol.432,No.2,p.124-130
【文献】The FEBS Journal,2012年,Vol.279,No.4,p.612-624
【文献】Schizophrenia Research,2010年,Vol.121,No.1-3,p.125-130
【文献】MEDCHEM NEWS,2014年,No.2,p.8-22
【文献】Advances in Drug Research,1985年,Vol.14,p.1-40
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物100
【化1】
[式中、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも50.1%である]
またはその薬学的に許容される塩と、
薬学的に許容される担体と
を含む経口投与のための医薬組成物。
【請求項2】
化合物100において重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みが、少なくとも90%である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
化合物100において重水素として指定されていないいずれの原子も、その天然同位体存在度で存在する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記化合物が、少なくとも約90%の立体異性的純度を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記化合物0.1g~60gを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
抗精神病薬をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物であって、NMDAR脳炎を処置する方法で用いるためのものであり、前記方法は、それを必要とする対象に、有効量の前記医薬組成物を投与するステップを含む医薬組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物であって、癲癇、NMDAR脳炎、パーキンソン病、パーキンソン病における認知欠損、アルツハイマー病、軽度認知障害、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、統合失調症、双極性障害、双極性躁病、双極性うつ病、治療抵抗性うつ病、うつ病における認知欠損、大うつ病性障害、全般不安障害、混合性の特徴を伴う大うつ病性障害、およびハンチントン病に関連する認知欠損、主観的認知機能低下、外傷性脳傷害、またはレビー小体型認知症を処置する方法で用いるためのものであり、前記方法は、それを必要とする対象に、有効量の前記医薬組成物を投与するステップを含む医薬組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物であって、うつ病を処置する方法で用いるためのものであり、前記方法は、それを必要とする対象に、有効量の前記医薬組成物を投与するステップを含む医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物であって、NMDA受容体機能を増加させる方法で用いるためのものであり、前記方法は、細胞と前記医薬組成物を、前記細胞におけるNMDA受容体機能が増加するように接触させるステップを含む医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物であって、統合失調症を処置する方法で用いるためのものであり、前記方法は、それを必要とする対象に、有効量の前記医薬組成物を投与するステップを含む医薬組成物。
【請求項12】
前記方法は、抗精神病治療剤を前記対象に投与するステップをさらに含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1に記載の医薬組成物であって、癲癇、NMDAR脳炎、パーキンソン病、パーキンソン病における認知欠損、アルツハイマー病、軽度認知障害、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、統合失調症、双極性障害、双極性躁病、双極性うつ病、治療抵抗性うつ病、うつ病における認知欠損、大うつ病性障害、全般不安障害、混合性の特徴を伴う大うつ病性障害、およびハンチントン病に関連する認知欠損、主観的認知機能低下、外傷性脳傷害、またはレビー小体型認知症を処置する方法で用いるためのものであり、前記方法は、それを必要とする対象に、有効量の前記医薬組成物を投与するステップを含む医薬組成物。
【請求項14】
請求項1に記載の医薬組成物であって、うつ病を処置する方法で用いるためのものであり、前記方法は、それを必要とする対象に、有効量の前記医薬組成物を投与するステップを含む医薬組成物。
【請求項15】
請求項1に記載の医薬組成物であって、NMDA受容体機能を増加させる方法で用いるためのものであり、前記方法は、細胞と前記医薬組成物を、前記細胞におけるNMDA受容体機能が増加するように接触させるステップを含む医薬組成物。
【請求項16】
請求項1に記載の医薬組成物であって、統合失調症を処置する方法で用いるためのものであり、前記方法は、それを必要とする対象に、有効量の前記医薬組成物を投与するステップを含む医薬組成物。
【請求項17】
化合物100において重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みが、少なくとも90%である、請求項13~16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
化合物100において重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みが、少なくとも95%である、請求項2および13~16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
化合物100において重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みが、少なくとも97%である、請求項2および13~16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDA受容体またはNMDAR)は、神経細胞におけるグルタミン酸受容体およびイオンチャネルである。NMDARの活性化により、正に帯電したイオンが膜を通ることができる。NMDA受容体は、記憶および気分に影響する生理的過程において役割を果たす。例えば、Nicholls et al., Neuron, 2008, 58(1):104-17を参照のこと。アゴニスト(N-メチル-D-アスパルテートまたはグルタメート(glutamate)など)と共アゴニスト(グリシンまたはD-セリンなど)との結合が、NMDAR活性化のために必要とされる。
【0002】
NMDA受容体をモジュレートする作用剤が、様々な治療的応用において有用であると報告されてきた。例えば、メマンチンがアルツハイマー病およびレビー小体型認知症を処置するために使用される。しかし、NMDAモジュレーターでの処置は、鎮静や幻覚などの副作用を有することがありうる。
【0003】
抗NMDAR脳炎は、シナプスNMDARに対する抗体の存在によって特徴づけられる自己免疫性脳炎である。抗NMDAR脳炎(NMDA受容体抗体脳炎またはNMDAR脳炎としても知られている)は、最も一般的で最もよく特徴がわかっている、抗体によって規定される自己免疫性ニューロン障害になった。NMDARに対する抗体に関連する脳炎は、小児および若年成人を主として冒し、腫瘍合併を伴ってまたは伴わずに起こり、処置に応答するが、再燃することがありうる。抗NMDAR脳炎の正確な発生率は不明である。症候群の珍しさおよび様々な臨床症状のために、抗NMDAR症候群は誤診され、見過ごされやすいことがある。
【0004】
統合失調症は、世界的に能力障害の主因として位置づけられている慢性の壊滅的な神経精神障害である。この疾患は、世界人口のほぼ1%を苦しめ、男女ともに同等に影響し、すべての民族および社会経済的集団を同様の有病率レベルで襲っている。この病気は、陽性症状(幻覚および妄想行為)、陰性症状(快感消失、社会性欠落および意欲低下)、および認知機能不全(学習、記憶、および実行機能の能力の低下)として知られている3群に分類される複数の症状によって特徴づけられる。現在利用可能な抗精神病薬は、陽性症状について効能を示すが、陰性症状および認知欠損を処置する能力に限りがあった。
【0005】
D-セリンは、人体において自然発生するものの、その量は、L-セリンよりはるかに少ない。タンパク質には、L-セリンのみ見られる。
【0006】
【化1】
D-セリンは、NMDA受容体のアゴニストである。学術研究は、D-セリンの経口投与によって、D2抗精神病薬(ドーパミンD2受容体に結合し、ドーパミンD2受容体の活性化を阻害または遮断する抗精神病薬)に加えられると、統合失調症患者における陽性、陰性および認知症状が用量依存的に改善されることを実証した。しかし、前臨床試験は、D-セリンの投与は、ラットにおいて腎毒性を引き起こすおそれがあることを実証した。さらに、高用量のD-セリンを投与された一部の患者において、腎機能障害を示唆する臨床所見が観察された。その結果、D-セリンの臨床展開は、これまで限定されたものであった。
【0007】
統合失調症を含めて、NMDARによって媒介されるNMDAR脳炎および神経学的病態に対する処置の改良が求められている状態のままである。
【0008】
発明の概要
今回、D-セリンの重水素化形(D-D-セリン)は、D-セリンに比べて低減された腎毒性を含めて、有利な特性を有することができることが見出された。さらに、重水素化D-セリンは、脳の重要な疾患関連領域においてNMDA受容体活性を回復させる可能性を有する。
【0009】
一態様において、本発明は、D-セリンの重水素化形、その薬学的に許容される塩、その類似体およびプロドラッグ、その医薬組成物、ならびに使用方法に関する。
【0010】
一態様において、本発明は、式Iの化合物
【0011】
【化2】
[式中、
は、-OH、-OD、-O-C1~4アルキル、またはアミノ酸残基であり、
は、H、D、-C1~4アルキル、-C(O)-C1~6アルキル、または-C(O)-C1~6ヒドロキシアルキルであり、
は、H、D、またはアミノ酸残基であり、
は、HまたはDであり、
、Y2aおよびY2bのそれぞれは独立して、HまたはDである、ただし、Y、Y2aおよびY2bの少なくとも1つはDであることを条件とし、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも50.1%である]
またはその薬学的に許容される塩と、
薬学的に許容される担体と
を含む医薬組成物を提供する。
【0012】
いくつかの実施形態において、式Iの化合物では、RまたはRは、D-D-セリン残基(重水素化D-セリンの残基)である。
【0013】
いくつかの実施形態において、化合物は、式IIの化合物
【0014】
【化3】
[式中、Y、Y2aおよびY2bのそれぞれは独立して、HまたはDである、ただし、Y、Y2aおよびY2bの少なくとも1つはDであることを条件とする]
またはその薬学的に許容される塩である。
【0015】
いくつかの実施形態において、化合物は、化合物100および化合物103から選択される。
【0016】
【化4】
【0017】
本発明は、そのような化合物および組成物の、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体機能のモジュレーターを投与することによって有益に処置される疾患および病態の処置方法における使用も提供する。一部の例示的実施形態としては、癲癇、NMDAR脳炎、パーキンソン病、パーキンソン病における認知欠損、アルツハイマー病、軽度認知障害、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、統合失調症(統合失調症の陽性、認知および/または陰性症状、ならびに前駆期統合失調症を含む)、双極性障害、双極性躁病、双極性うつ病、治療抵抗性うつ病、うつ病における認知欠損、大うつ病性障害、全般不安障害、混合性の特徴を伴う大うつ病性障害、およびハンチントン病などの疾患または病態に関連する認知欠損、主観的認知機能低下、外傷性脳傷害、レビー小体型認知症から選択される疾患または病態を処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の本発明の化合物または医薬組成物を投与するステップを含む方法が挙げられる。
【0018】
本発明は、統合失調症(統合失調症の陽性、陰性および/または認知症状を含む)を処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の本発明の化合物または医薬組成物を投与するステップを含む方法も提供する。
【0019】
発明の別の態様および実施形態も本明細書に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】30mg/kgの単回用量を投与した後のラット血漿、海馬、および皮質中の化合物100の濃度を示すグラフである。
図2】300mg/kgの単回用量を投与した後のラット血漿、海馬、および皮質中の非重水素化D-セリンの濃度を示すグラフである。
図3】150mg/kgの単回用量を投与した後のラット血漿、海馬、および皮質中の化合物100の濃度を示すグラフである。
図4】化合物100または非重水素化D-セリンの150mg/kgの単回用量を投与した後のラットの尿素窒素レベルを示すグラフである。
図5】化合物100または非重水素化D-セリンの150mg/kgの単回用量を投与した後のラットのクレアチニンレベルを示すグラフである。
図6】化合物100または非重水素化D-セリンの150mg/kgの単回用量を投与した後のラットのGGATレベルを示すグラフである。
図7】非重水素化D-セリンおよび重水素化D-セリン(化合物100)をPO(経口)投与した後のラットのクレアチニンレベルを示すグラフである。
図8】非重水素化D-セリンおよび重水素化D-セリン(化合物100)をPO(経口)投与した後のラットの平均クレアチニンレベルを示すグラフである。
図9】非重水素化D-セリンおよび重水素化D-セリン(化合物100)をPO(経口)投与した後のラットの尿素窒素(BUN)レベルを示すグラフである。
図10】非重水素化D-セリンおよび重水素化D-セリン(化合物100)をPO(経口)投与した後のラットの平均尿素窒素(BUN)レベルを示すグラフである。
図11】非重水素化D-セリンの様々な投与量を投与した後のラットの尿素窒素レベルを示すグラフである。
図12】非重水素化D-セリンの様々な投与量を投与した後のラットのクレアチニンレベルを示すグラフである。
図13】非重水素化D-セリンの様々な投与量を投与した後のラットのGGATレベルを示すグラフである。
図14】自動化パッチクランプシステムによる非重水素化(「プロチオ」)D-セリンおよび化合物100のNMDA受容体活性を示す折れ線グラフである。
図15】Sprague-Dawleyラット脳における化合物100の蓄積を示す棒グラフである。
図16】4日間投与した後のSprague-Dawleyラット脳中の化合物100の濃度を示すプロットである。
【0021】
発明の詳細な記載
一態様において、本発明は、D-セリンの重水素化形、その薬学的に許容される塩、その類似体およびプロドラッグ、その医薬組成物、ならびに使用方法に関する。
【0022】
一態様において、本発明は、式Iの化合物
【0023】
【化5】
[式中、
は、-OH、-OD、-O-C1~4アルキル、またはアミノ酸残基であり、
は、H、D、-C1~4アルキル、-C(O)-C1~6アルキル、または-C(O)-C1~6ヒドロキシアルキルであり、
は、H、D、またはアミノ酸残基であり、
は、HまたはDであり、
、Y2aおよびY2bのそれぞれは独立して、HまたはDである、ただし、Y、Y2aおよびY2bの少なくとも1つはDであることを条件とし、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも50.1%である]
またはその薬学的に許容される塩を提供する。
【0024】
いくつかの実施形態において、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも90%である。
【0025】
いくつかの実施形態において、式Iの化合物では、RまたはRは、D-D-セリン残基(重水素化D-セリンの残基)である。RまたはRがD-D-セリン残基であるとき、式Iの化合物はジペプチドである。RおよびRが共にD-D-セリン残基であるとき、式Iの化合物はトリペプチドである。
【0026】
式Iのいくつかの実施形態において、Y2aおよびY2bの一方はHであり、他方はDである。
【0027】
別の態様において、本発明は、式Iの化合物
【0028】
【化6】
[式中、
は、-OH、-OD、-O-C1~4アルキル、またはアミノ酸残基であり、
は、H、D、-C1~4アルキル、-C(O)-C1~6アルキル、または-C(O)-C1~6ヒドロキシアルキルであり、
は、H、D、またはアミノ酸残基であり、
は、HまたはDであり、
、Y2aおよびY2bのそれぞれは独立して、HまたはDである、ただし、Y、Y2aおよびY2bの少なくとも1つはDであることを条件とし、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも50.1%である]
またはその薬学的に許容される塩と、
薬学的に許容される担体と
を含む医薬組成物を提供する。
【0029】
いくつかの実施形態において、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも90%である。
【0030】
いくつかの実施形態において、式Iの化合物では、RまたはRは、D-D-セリン残基(重水素化D-セリンの残基)である。
【0031】
本発明の組成物のいくつかの実施形態において、化合物は、式IIの化合物
【0032】
【化7】
[式中、Y、Y2aおよびY2bのそれぞれは独立して、HまたはDである、ただし、Y、Y2aおよびY2bの少なくとも1つはDであることを条件とする]
またはその薬学的に許容される塩である。
【0033】
いくつかの実施形態において、式IIの化合物では、YはDである。
【0034】
いくつかの実施形態において、式IIの化合物では、Y2aおよびY2bはそれぞれHである。
【0035】
いくつかの実施形態において、式IIの化合物では、YはDであり、Y2aおよびY2bはそれぞれHである。
【0036】
いくつかの実施形態において、式IIの化合物では、Y2aおよびY2bはそれぞれDである。式IIの他の実施形態において、Y2aおよびY2bの一方はHであり、他方はDである。
【0037】
いくつかの実施形態において、式IIの化合物は、化合物100および化合物103から選択される。
【0038】
【化8】
【0039】
いくつかの実施形態において、式IIの化合物では、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも90%である。いくつかの実施形態において、式IIの化合物では、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも95%である。いくつかの実施形態において、式IIの化合物では、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも97%である。
【0040】
いくつかの実施形態において、式IIの化合物では、YはDであり、Y2aおよびY2bはそれぞれHであり、Yの重水素の取り込みは、少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも97%である。
【0041】
いくつかの実施形態において、式IIの化合物では、重水素として指定されていないいずれの原子も、その天然同位体存在度で存在する。
【0042】
一態様において、本発明は、式Iaの化合物
【0043】
【化9】
[式中、
は、-OH、-OD、もしくは-O-PG、-O-C1~6シクロアルキル、またはアミノ酸残基であり、
は、H、D、-C1~4アルキル、-C(O)-C1~6アルキル、または-C(O)-C1~6ヒドロキシアルキルであり、
a)Rは、H、D、またはPGであり、
は、HまたはDであり、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも50.1%である、
あるいは
b)RおよびRは窒素原子と一緒に、ヘテロ環式保護基を形成する、
ここで、PGおよびPGは、プロドラッグ基である]
またはその薬学的に許容される塩を提供する。
【0044】
いくつかの実施形態において、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも90%である。いくつかの実施形態において、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも95%である。いくつかの実施形態において、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも97%である。
【0045】
本明細書では「プロドラッグ基」という用語は、生理的条件下(例えば、インビボ)で切断されて、脱保護部分(例えば、カルボキシレート(carboxylate)またはアミノ基)を提供することができる基を指す。したがって、PGは、生理的条件下で切断されて、脱保護カルボキシレート基(すなわち、式Iaの化合物(式中、RはOHである)を提供する任意の基とすることができる。好適なPG基の例としては、-C1~6アルキル(メチル、エチル、イソプロピル、tert-ブチル、ネオペンチルなど)、-C3~6シクロアルキル(シクロヘキシルを含む)、またはアミノ酸残基が挙げられる。PGは、生理的条件下で切断されて、脱保護アミノ基を提供する任意の基とすることができる。好適なPG基の例としては、アミノ酸残基または式-C(O)OC(Z)ORの基(式中、ZおよびZは独立して、H、D、C~Cアルキルから選択され、またはそれらが結合している炭素原子と一緒になって、C~C炭素環を形成し、Rは、C1~6脂肪族基(C1~6アルキルまたは部分もしくは全不飽和C2~6脂肪族基を含む)、C3~6シクロアルキル、またはC4~6カルボシクリル(部分または全不飽和でありうる)であり、Rはそれぞれ、アリールまたはヘテロシクロアルキルで場合によってさらに置換されている)が挙げられる。RおよびRで形成されるヘテロ環式保護基は、以下の構造
【0046】
【化10】
を有し、Rが、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、シクロヘキシル、-CHまたは-CHCHである基とすることができる。
【0047】
いくつかの実施形態において、式Iaの化合物では、RまたはRは、D-D-セリン残基(重水素化D-セリンの残基)である。
【0048】
いくつかの実施形態において、式IまたはIIの化合物は、少なくとも約90%の立体異性的純度(stereomerically pure)を有する。例えば、式Iの化合物の場合、化合物は、少なくとも90%の構造
【0049】
【化11】
および10%以下の
【0050】
【化12】
を含む。
【0051】
いくつかの実施形態において、式Iaの化合物は、少なくとも約90%の立体異性的純度を有する。例えば、式Iaの化合物の場合、化合物は、少なくとも90%の構造を含む。
【0052】
式IまたはIIの化合物は、双性イオンとして存在することができる(例えば、式IIの化合物は、構造
【0053】
【化13】
で表すことができる)。そのような双性イオンの形は本発明の範囲内に含まれることが理解されよう。
【0054】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は経口投与に適している。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、静脈内投与に適している。
【0055】
一態様において、本発明は、式Aの化合物
【0056】
【化14】
[式中、
は、-OH、-OD、-O-C1~4アルキル、またはアミノ酸残基であり、
は、H、D、-C1~4アルキル、-C(O)-C1~6アルキル、または-C(O)-C1~6ヒドロキシアルキルであり、
は、H、D、またはアミノ酸残基であり、
は、HまたはDであり、
、Y2aおよびY2bのそれぞれは独立して、HまたはDである、ただし、Y、Y2aおよびY2bの少なくとも1つはDであることを条件とし、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも50.1%である]
またはその薬学的に許容される塩と、
薬学的に許容される担体と
を含む医薬組成物であって、D-アミノ酸立体配置を有する化合物の治療有効量を含む医薬組成物を提供する。
【0057】
いくつかの実施形態において、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも90%である。いくつかの実施形態において、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも90%である。いくつかの実施形態において、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも95%である。
【0058】
またはRがアミノ酸残基であるとき、式Iの化合物は、片方または両方のアミノ酸がD-D-セリンであるジペプチドである。
【0059】
いくつかの態様において、本発明は、グリシンの重水素化形、その薬学的に許容される塩、その類似体およびプロドラッグ、その医薬組成物、ならびにその使用方法に関する。
【0060】
いくつかの態様において、本発明は、式IIIの化合物
【0061】
【化15】
[式中、
1a、X1b、およびXのそれぞれは独立して、HまたはDであり、
はそれぞれ、HまたはDである、
ただし、X1aおよびX1bの少なくとも1つはDであることを条件とする]
またはその薬学的に許容される塩と、
薬学的に許容される担体と
を含む医薬組成物を提供する。
【0062】
いくつかの実施形態において、式IIIの化合物では、X1aはDであり、X1bはHである。
【0063】
いくつかの実施形態において、式IIIの化合物では、X1aはHであり、X1bはDである。
【0064】
いくつかの実施形態において、式IIIの化合物では、X1aおよびX1bはそれぞれDである。
【0065】
一部の実施形態において、化合物は、(下記の)表Cに記述される化合物またはその薬学的に許容される塩のいずれか1つから選択される。
【0066】
【表1】
【0067】
いくつかの態様において、本発明は、サルコシンの重水素化形、その薬学的に許容される塩、その類似体およびプロドラッグ、その医薬組成物、ならびに使用方法に関する。
【0068】
いくつかの態様において、本発明は、式IVの化合物
【0069】
【化16】
[式中、
4a、X4b、XおよびXのそれぞれは独立して、HまたはDであり、
はそれぞれ、CH、CHD、CDHまたはCDである、
ただし、X4a、X4bおよびRの少なくとも1つはDを含むことを条件とする]
またはその薬学的に許容される塩と、
薬学的に許容される担体と
を含む医薬組成物を提供する。
【0070】
いくつかの実施形態において、式IVの化合物では、X4aはDであり、X4bはHである。
【0071】
いくつかの実施形態において、式IVの化合物では、X4aはHであり、X4bはDである。
【0072】
いくつかの実施形態において、式IVの化合物では、X4aおよびX4bはそれぞれDである。
【0073】
いくつかの実施形態において、式IVの化合物では、RはCDである。
【0074】
一部の実施形態において、化合物は、(下記の)表Dに記述される化合物またはその薬学的に許容される塩のいずれか1つから選択される。
【0075】
【表2】
【0076】
いくつかの態様において、本発明は、D-アラニンの重水素化形、その薬学的に許容される塩、その類似体およびプロドラッグ、その医薬組成物、ならびに使用方法に関する。
【0077】
いくつかの態様において、本発明は、式Vの化合物
【0078】
【化17】
[式中、
およびXのそれぞれは独立して、HまたはDであり、
はそれぞれ、HまたはDであり、
はそれぞれ、CH、CHD、CDHまたはCDである、
ただし、XおよびRの少なくとも1つはDを含むことを条件とする]
またはその薬学的に許容される塩と、
薬学的に許容される担体と
を含む医薬組成物を提供する。
【0079】
いくつかの実施形態において、式Vの化合物では、XはHであり、RはCDである。
【0080】
いくつかの実施形態において、式Vの化合物では、XはDであり、RはCDである。
【0081】
いくつかの実施形態において、式Vの化合物では、XはDであり、RはCHである。
【0082】
一部の実施形態において、化合物は、(下記の)表Eに記述される化合物またはその薬学的に許容される塩のいずれか1つから選択される。
【0083】
【表3】
【0084】
いくつかの態様において、本発明は、D-アスパラギン酸の重水素化形、その薬学的に許容される塩、その類似体およびプロドラッグ、その医薬組成物、ならびに使用方法に関する。
【0085】
いくつかの態様において、本発明は、式VIの化合物
【0086】
【化18】
[式中、
10、X11、X12a、X12b、およびX13のそれぞれは独立して、HまたはDであり、
14はそれぞれ、HまたはDである、
ただし、X10、X12aおよびX12bの少なくとも1つはDであることを条件とする]
またはその薬学的に許容される塩と、
薬学的に許容される担体と
を含む医薬組成物を提供する。
【0087】
いくつかの実施形態において、式VIの化合物では、X10はHであり、X12aはHであり、X12bはDである。
【0088】
いくつかの実施形態において、式VIの化合物では、X10はHであり、X12aはDであり、X12bはDである。
【0089】
いくつかの実施形態において、式VIの化合物では、X10はDであり、X12aはHであり、X12bはHである。
【0090】
いくつかの実施形態において、式VIの化合物では、X10はDであり、X12aはHであり、X12bはDである。
【0091】
いくつかの実施形態において、式VIの化合物では、X10はDであり、X12aはDであり、X12bはDである。
【0092】
一部の実施形態において、化合物は、(下記の)表Fに記述される化合物またはその薬学的に許容される塩のいずれか1つから選択される。
【0093】
【表4】
【0094】
一部の実施形態において、化合物は、(上記の)表C、表D、表Eもしくは表Fに記述される化合物またはその薬学的に許容される塩(ここで、重水素として指定されていないいずれの原子も、その天然同位体存在度で存在する)のいずれか1つから選択される。
【0095】
いくつかの実施形態において、式III、IV、VまたはVIの化合物では、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも90%である。
【0096】
いくつかの実施形態において、式III、IV、VまたはVIの化合物では、重水素として指定されていないいずれの原子も、その天然同位体存在度で存在する。
【0097】
いくつかの実施形態において、式VまたはVIの化合物は、少なくとも約90%の立体異性的純度を有する。
【0098】
いくつかの実施形態において、式III、IV、VおよびVIの1つまたは複数の化合物を含む医薬組成物は、経口投与に適している。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、式III、IV、VまたはVIの化合物0.1g~60gを含む。
【0099】
いくつかの実施形態において、式III、IV、VおよびVIの1つまたは複数の化合物を含む医薬組成物は、静脈内投与に適している。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、式III、IV、VまたはVIの化合物0.1g~60gを含む。
【0100】
本発明の別の態様は、式Iもしくは式IIの化合物またはその薬学的に許容される塩を薬学的に許容される担体または希釈剤と一緒に含む単位用量形態である。いくつかの実施形態において、式Iもしくは式IIの化合物またはその薬学的に許容される塩の量は、1g~10g、または1g~5gの範囲である。いくつかの実施形態において、式Iもしくは式IIの化合物またはその薬学的に許容される塩の量は、約1g、約2g、約3g、約4g、もしくは約5g、約8g、約10g、または約5g~約10gの範囲である。いくつかの実施形態において、式Iもしくは式IIの化合物またはその薬学的に許容される塩の量は、1g、2g、3g、4g、5g、8g、10g、または5~10gの範囲である。いくつかの実施形態において、単位用量形態は錠剤である。いくつかの実施形態において、単位用量形態はサシェである。
【0101】
本発明の別の態様は、式Iもしくは式IIの化合物またはその薬学的に許容される塩を容器またはパッケージと一緒に含む包装された医薬製剤である。いくつかの実施形態において、式Iもしくは式IIの化合物またはその薬学的に許容される塩の量は、1g~10g、または1g~5gの範囲である。いくつかの実施形態において、式Iもしくは式IIの化合物またはその薬学的に許容される塩の量は、約1g、約2g、約3g、約4g、もしくは約5g、約8g、約10g、または約5g~約10gの範囲である。いくつかの実施形態において、式Iもしくは式IIの化合物またはその薬学的に許容される塩の量は、1g、2g、3g、4g、5g、8g、10g、または5~10gの範囲である。いくつかの実施形態において、包装された医薬製剤は錠剤を含む。いくつかの実施形態において、包装された医薬製剤はサシェを含む。
【0102】
別の態様において、本発明は、治療方法を提供する。
【0103】
一実施形態において、本発明は、NMDAR脳炎を処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の本発明の医薬組成物を投与するステップを含む方法を提供する。
【0104】
別の実施形態において、本発明は、癲癇、NMDAR脳炎、パーキンソン病、パーキンソン病における認知欠損、アルツハイマー病、軽度認知障害、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、統合失調症(統合失調症の陽性、認知および/または陰性症状、ならびに前駆期統合失調症を含む)、双極性障害、双極性躁病、双極性うつ病、治療抵抗性うつ病、うつ病における認知欠損、大うつ病性障害、全般不安障害、混合性の特徴を伴う大うつ病性障害、およびハンチントン病などの疾患または病態に関連する認知欠損、主観的認知機能低下、外傷性脳傷害、レビー小体型認知症を処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の本発明の医薬組成物を投与する方法を提供する。
【0105】
別の実施形態において、本発明は、外傷後ストレス障害(PTSD)、失調、およびセリン欠乏障害を含めて、追加の疾患または病態を処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の本発明の医薬組成物を投与するステップを含む方法を提供する。
【0106】
別の実施形態において、本発明は、うつ病を処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の本発明の医薬組成物を投与するステップを含む方法を提供する。
【0107】
別の態様において、本発明は、NMDA受容体機能を増加させる方法であって、細胞と本発明の医薬組成物を、細胞におけるNMDA受容体機能が増加するように接触させるステップを含む方法を提供する。
【0108】
別の態様において、本発明は、統合失調症(統合失調症の陽性、陰性および/または認知症状を含む)を処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の本発明の化合物または医薬組成物を投与するステップを含む方法を提供する。
【0109】
上述の化合物、組成物または方法のいずれかのいくつかの実施形態において、本発明の化合物(例えば、化合物100)の投与によって、腎毒性が(非重水素化)D-セリンの等価用量の投与と比べて低減される。
【0110】
定義
「処置する」という用語は、疾患(例えば、本明細書に描かれる疾患または障害)の発生もしくは進行を低減し、抑制し、減弱し、減少させ、停止し、もしくは安定化し、疾患の重症度を減らし、または疾患に伴う症状を改善することを意味する。
【0111】
「疾患」は、細胞、組織、または器官の正常な機能を損傷または妨害するいずれかの病態または障害を意味する。
【0112】
本明細書では「対象」という用語は、ヒトおよび非ヒト哺乳類を包含する。非ヒト哺乳類は限定されるものではないが、例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、類人猿、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマなどが挙げられる。いくつかの実施形態において、対象は、統合失調症に苦しむヒトである。
【0113】
「アルキル」という用語は、1価の飽和炭化水素基を指す。C~Cアルキルは、1~4個の炭素原子を有するアルキルである。C~Cアルキルは、1~6個の炭素原子を有するアルキルである。一部の実施形態において、アルキルは直鎖状または分枝状とすることができる。一部の実施形態において、アルキルは、第一級、第二級、または第三級とすることができる。アルキル基は限定されるものではないが、例えば、メチル;エチル;n-プロピルおよびイソプロピルを含めて、プロピル;n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、およびt-ブチルを含めて、ブチル;例えばn-ペンチル、イソペンチル、およびネオペンチルを含めて、ペンチル;ならびに、例えばn-ヘキシルおよび2-メチルペンチルを含めて、ヘキシルが挙げられる。第一級アルキル基は限定されるものではないが、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、およびn-ヘキシルが挙げられる。第二級アルキル基は限定されるものではないが、例えば、イソプロピル、sec-ブチル、および2-メチルペンチルが挙げられる。第三級アルキル基は限定されるものではないが、例えば、t-ブチルが挙げられる。「C~Cヒドロキシアルキル」基は、1~3つのヒドロキシル基で置換されているC~Cアルキル基である。
【0114】
合成化合物においては、天然同位体存在度の若干の変動が合成において使用される化学材料の起源に応じて生ずると認識されている。したがって、化合物1の調製物は、少量の重水素化アイソトポログを本来含有する。天然に豊富に存在する水素および炭素の安定同位体の濃度は、この変動にもかかわらず、本発明の化合物の安定同位体置換の程度と比べてわずかであり、問題にならない。例えば、Wada, E et al., Seikagaku, 1994, 66:15;Gannes, LZ et al., Comp Biochem Physiol Mol Integr Physiol, 1998, 119:725を参照のこと。
【0115】
「D-D-セリン」という用語は、(D)-立体配置のアミノ酸セリンの重水素化類似体を指す。D-D-セリンは、式IIの構造
【0116】
【化19】
[式中、Y、Y2aおよびY2bのそれぞれは独立して、HまたはDである、ただし、Y、Y2aおよびY2bの少なくとも1つはDであることを条件とする]
で表すことができる。
【0117】
「アミノ酸残基」という用語は、一般式-C(O)-CHR-NHまたはHO-C(O)-CHR-NH-の基、およびそのN-アルキル化誘導体(-C(O)-CHR-N(アルキル)-)(式中、Rはアミノ酸側鎖である)を指し、(D)-、(L)-またはラセミの(D,L)立体配置の天然および合成アミノ酸を包含する。本明細書における式Iの可変要素RまたはRがアミノ酸残基であるとき、アミノ酸残基は、アミド結合を経て分子の残りに連結することが理解されよう。例示的なアミノ酸としては、任意の天然アミノ酸の残基が、その重水素化形を含めて挙げられる。例えば、アミノ酸残基は、重水素化D-セリン(D-D-セリン)の残基とすることができる。
【0118】
本発明の化合物において、特定の同位体として具体的に指定されていないどの原子も、その原子の任意の安定同位体を表すことになっている。別段の記載がない限り、ある位置が「H」または「水素」として具体的に指定されているとき、その位置は水素をその天然存在度の同位体組成で有すると理解される。しかし、具体的に記載されているいくつかの実施形態において、ある位置が「H」または「水素」として具体的に指定されているとき、その位置は、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の水素を有する。具体的に記載されている一部の実施形態において、ある位置が「H」または「水素」として具体的に指定されているとき、その位置は、≦20%の重水素、≦10%の重水素、≦5%の重水素、≦4%の重水素、≦3%の重水素、≦2%の重水素、または≦1%の重水素を取り込んでいる。さらに、別段の記載がない限り、ある位置が「D」または「重水素」として具体的に指定されているとき、その位置は、重水素を、重水素の天然存在度での0.015%より少なくとも3340倍高い存在度で有する(すなわち、少なくとも50.1%の重水素の取り込み)と理解される。
【0119】
本明細書では「同位体濃縮係数」という用語は、明記された同位体の同位体存在度と天然存在度との比を意味する。
【0120】
他の実施形態において、本発明の化合物は、指定された重水素原子それぞれの同位体濃縮係数が少なくとも3500(指定された重水素原子それぞれにおいて52.5%の重水素取り込み)、少なくとも4000(60%の重水素取り込み)、少なくとも4500(67.5%の重水素取り込み)、少なくとも5000(75%の重水素取り込み)、少なくとも5500(82.5%の重水素取り込み)、少なくとも6000(90%の重水素取り込み)、少なくとも6333.3(95%の重水素取り込み)、少なくとも6466.7(97%の重水素取り込み)、少なくとも6600(99%の重水素取り込み)、または少なくとも6633.3(99.5%の重水素取り込み)である。
【0121】
一部の実施形態において、本発明の化合物では、指定された重水素原子それぞれの重水素取り込みが少なくとも52.5%である。一部の実施形態において、本発明の化合物では、指定された重水素原子それぞれの重水素取り込みが少なくとも60%である。一部の実施形態において、本発明の化合物では、指定された重水素原子それぞれの重水素取り込みが少なくとも67.5%である。一部の実施形態において、本発明の化合物では、指定された重水素原子それぞれの重水素取り込みが少なくとも75%である。一部の実施形態において、本発明の化合物では、指定された重水素原子それぞれの重水素取り込みが少なくとも82.5%である。一部の実施形態において、本発明の化合物では、指定された重水素原子それぞれの重水素取り込みが少なくとも90%である。一部の実施形態において、本発明の化合物では、指定された重水素原子それぞれの重水素取り込みが少なくとも95%である。一部の実施形態において、本発明の化合物では、指定された重水素原子それぞれの重水素取り込みが少なくとも97.5%である。一部の実施形態において、本発明の化合物では、指定された重水素原子それぞれの重水素取り込みが少なくとも99%である。一部の実施形態において、本発明の化合物では、指定された重水素原子それぞれの重水素取り込みが少なくとも99.5%である。
【0122】
本発明の化合物における重水素取り込みは、様々な技法を使用して測定することができる。その様々な技法の一部は当技術分野において公知である。例えば、H NMRを使用して、(例えば、(単数または複数の)非重水素化位置に対して、例えば重水素化位置に対応するプロトンシグナルの非存在または減少を測定することによって)、重水素取り込みを測定することができる。
【0123】
「アイソトポログ」という用語は、化学構造が本発明の特定化合物とその同位体組成においてのみ異なる種を指す。
【0124】
「化合物」という用語は、本発明の化合物を言及するとき、分子の構成原子の間に同位体変種がありうることを除いて同一の化学構造を有する分子群を指す。したがって、特定の化学構造で表される化合物が、化学構造において重水素として指定された位置のそれぞれに重水素を有する分子を含み、その構造における指定された重水素位置の1つまたは複数において水素原子を有するアイソトポログを含むことができることは当業者に明瞭である。本発明の化合物におけるそのようなアイソトポログの相対量は、化合物を作製するのに使用される重水素化試薬の同位体純度および化合物を調製するのに使用される様々な合成ステップにおける重水素の取り込みの効率を含めて、いくつかの因子に依存する。
【0125】
本発明は、本発明の化合物の塩も提供する。
【0126】
本発明の化合物の塩は、酸と化合物のアミノ官能基などの塩基性基との間、または塩基と化合物のカルボキシル官能基などの酸性基との間で形成される。一実施形態によれば、化合物は、薬学的に許容される酸付加塩である。一実施形態において、酸付加塩は、重水素化酸付加塩とすることができる。
【0127】
本明細書では「薬学的に許容される」という用語は、妥当な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答などなく、ヒトおよび他の哺乳類の組織と接触して使用するのに適しており、合理的なベネフィット/リスク比に相応した成分を指す。「薬学的に許容される塩」は、レシピエントに投与した後に本発明の化合物を直接的または間接的に提供することができる任意の無毒性塩を意味する。「薬学的に許容される対イオン」は、レシピエントに投与した後に塩から放出されるとき無毒性である塩のイオン性部分である。
【0128】
薬学的に許容される塩を形成するためによく使用される酸としては、二硫化水素、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸およびリン酸などの無機酸、ならびにパラ-トルエンスルホン酸、サリチル酸、酒石酸、ビ酒石酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ベシル酸、フマル酸、グルコン酸、グルクロン酸、ギ酸、グルタミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、乳酸、シュウ酸、パラ-ブロモフェニルスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸などの有機酸、ならびに関連無機および有機酸が挙げられる。したがって、そのような薬学的に許容される塩としては、硫酸塩、ピロ硫酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプリン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン-1,4-二酸塩、ヘキシン-l,6-二酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、β-ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン-1-スルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、マンデル酸塩および他の塩が挙げられる。一実施形態において、薬学的に許容される酸付加塩としては、塩酸や臭化水素酸などの鉱酸を用いて形成されるもの、特にマレイン酸などの有機酸を用いて形成されるものが挙げられる。一実施形態において、薬学的に許容される塩を形成するためによく使用される酸としては、少なくとも1個の水素が重水素で置き換えられている上記の無機酸が挙げられる。
【0129】
薬学的に許容される塩は、カルボン酸官能基などの酸性官能基を有する本発明の化合物と塩基との塩とすることもできる。例示的な塩基としては、ナトリウム、カリウム、およびリチウムを含めてアルカリ金属の水酸化物;カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;アルミニウムや亜鉛などの他の金属の水酸化物、アンモニア、非置換またはヒドロキシル置換のモノ-、ジ-、またはトリ-アルキルアミン、ジシクロヘキシルアミン;トリブチルアミン;ピリジン;N-メチル、N-エチルアミン;ジエチルアミン;トリエチルアミン;N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アミンまたはトリ-(2-ヒドロキシエチル)アミンなどのモノ-、ビス-、またはトリス-(2-OH-(C~C)-アルキルアミン);N-メチル-D-グルカミン;モルホリン;チオモルホリン;ピペリジン;ピロリジンなどの有機アミン、ならびにアルギニン、リシンなどのアミノ酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0130】
本発明のいくつかの化合物(例えば、式I、II、VまたはVIの化合物)は、不斉炭素原子(すなわち、式IまたはIIの化合物において-NHまたはNRおよびY基を有する炭素)を含み、1個または複数の追加の不斉炭素原子を含むことがある。いくつかの実施形態において、式IまたはIIの化合物は、他の考えうる立体異性体を実質的に含まない重水素化D-セリン類似体である。例えば、式Iの化合物は、構造の化合物
【0131】
【化20】
を実質的に含まず、式IIの化合物は、構造の化合物
【0132】
【化21】
を実質的に含まない。本明細書では「他の立体異性体を実質的に含まない」という用語は、他の立体異性体が25%未満、好ましくは他の立体異性体が10%未満、より好ましくは他の立体異性体が5%未満、最も好ましくは他の立体異性体が2%未満しか存在しないことを意味する。所与の化合物について個々の立体異性体(例えば、エナンチオマーまたはジアステレオマー)を得るまたは合成する方法は、当技術分野において公知であり、最終化合物または出発物質もしくは中間体に実施可能であるとして適用することができる。
【0133】
別段の指示がない限り、開示化合物が、立体化学を明記していないキラル中心を1つまたは複数有する構造によって名付けられまたは描かれるとき、化合物のすべての考えうる立体異性体を表すと理解される。
【0134】
本明細書では「安定な化合物」という用語は、化合物の製造を可能にするのに十分な安定性を有し、かつ化合物の完全性を、本明細書に詳述されている目的(例えば、治療剤に応答する疾患または病態を処置する治療化合物、単離可能または貯蔵可能な中間化合物の生産において使用するための治療製品、中間体への製剤化)のために有用であるのに十分な時間維持する、化合物を指す。
【0135】
「立体異性体」は、エナンチオマーとジアステレオマーを両方指す。「tert」および「t-」はそれぞれ、第三級を指す。「sec」または「s-」はそれぞれ、第二級を指す。「n-」は、ノルマルを指す。「i-」は、イソを指す。「US」は、米国を指す。
【0136】
「重水素で置換されている」は、1個または複数の水素原子が対応する数の重水素原子で置き換えられていることを指す。
【0137】
本明細書を通して、可変要素は総体的に称されることがあり(例えば、「それぞれのR」)、または具体的に称されることがある(例えば、R、R、Rなど)。別段の指示がない限り、可変要素が総体的に称されるとき、その特定の可変要素の具体的な実施形態をすべて包含することになっている。
【0138】
本明細書では「統合失調症」という用語は、以下のうちの少なくとも2つを含む精神障害を指す:妄想、幻覚、まとまりのない会話、ひどくまとまりのない行動もしくは緊張病性の行動、または陰性症状。DSM-IV基準を使用して、患者を統合失調性と診断することができる(APA, 2013, Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (Fifth Edition), Washington, D.C.)。
【0139】
統合失調症の「陰性」症状は、感情鈍麻、アネルギー、アロギーおよび引きこもりを含み、SANS(陰性症状評価尺度;Andreasen, 1983, Scales for the Assessment of Negative Symptoms (SANS), Iowa City, Iowaを参照のこと)を使用して測定することができる。
【0140】
統合失調症の「陽性」症状は、妄想および幻覚を含み、PANSS(陽性・陰性症状評価尺度;Kay et al., 1987, Schizophrenia Bulletin 13:261-276を参照のこと)を使用して測定することができる。
【0141】
統合失調症の「認知」症状は、知的知識の取得、整理、使用の障害を含み、陽性・陰性症状評価尺度-認知下位尺度(PANSS-認知下位尺度)(Lindenmayer et al., 1994, J. Nerv. Ment. Dis. 182:631-638)によってまたはWisconsin Card Sorting Testなどの認知タスクを用いて測定することができる。
【0142】
治療組成物
いくつかの態様または実施形態において、本発明は、式Iの化合物
【0143】
【化22】
[式中、
は、-OH、-OD、-O-C1~4アルキル、またはアミノ酸残基であり、
は、H、D、-C1~4アルキル、-C(O)-C1~6アルキル、または-C(O)-C1~6ヒドロキシアルキルであり、
は、H、D、またはアミノ酸残基であり、
は、HまたはDであり、
、Y2aおよびY2bのそれぞれは独立して、HまたはDである、ただし、Y、Y2aおよびY2bの少なくとも1つはDであることを条件とする]
またはその薬学的に許容される塩と、
薬学的に許容される担体と
を含む医薬組成物を提供する。
【0144】
式Iの化合物のいくつかの実施形態において、RまたはRは、D-D-セリン残基である(化合物はジペプチドである)。
【0145】
別の態様において、本発明は、式Iaの化合物またはその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0146】
いくつかの実施形態において、化合物は、式IIの化合物
【0147】
【化23】
[式中、Y、Y2aおよびY2bのそれぞれは独立して、HまたはDである、ただし、Y、Y2aおよびY2bの少なくとも1つはDであることを条件とする]
またはその薬学的に許容される塩である。
【0148】
式Iまたは式IIの化合物のいくつかの実施形態において、YはDである。
【0149】
式Iまたは式IIの化合物のいくつかの実施形態において、Y2aおよびY2bはそれぞれHである。
【0150】
式Iまたは式IIの化合物のいくつかの実施形態において、Y2aおよびY2bはそれぞれDである。
【0151】
いくつかの実施形態において、式IIの化合物は、化合物100および化合物103から選択される。
【0152】
【化24】
【0153】
式Iまたは式IIの化合物のいくつかの実施形態において、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも90%である。
【0154】
いくつかの実施形態において、式IIの化合物では、YはDであり、Y2aおよびY2bはそれぞれHであり、Yの重水素の取り込みは、少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも97%である。
【0155】
式Iまたは式IIの化合物のいくつかの実施形態において、重水素として指定されていないいずれの原子も、その天然同位体存在度で存在する。
【0156】
式Iまたは式IIの化合物のいくつかの実施形態において、化合物は、少なくとも約90%の立体異性的純度を有する。
【0157】
一部の実施形態において、化合物は、(下記の)表Aに記述される化合物またはその薬学的に許容される塩のいずれか1つから選択される。
【0158】
【表5】
【0159】
具体的な実施形態において、化合物は化合物100である。
【0160】
【化25】
【0161】
別の具体的な実施形態において、化合物は化合物103である。
【0162】
【化26】
【0163】
一部の実施形態において、化合物は、(以下の)表Bに記述される化合物(Cmpd)またはその薬学的に許容される塩のいずれか1つから選択される。
【0164】
【表6】
【0165】
一部の実施形態において、化合物は、(上記の)表Aもしくは表Bに記述される化合物またはその薬学的に許容される塩(ここで、重水素として指定されていないいずれの原子も、その天然同位体存在度で存在する)のいずれか1つから選択される。
【0166】
本発明の化合物の一部の実施形態において、Yが重水素であるとき、Yにおける重水素取り込みのレベルは、少なくとも52.5%、少なくとも75%、少なくとも82.5%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または少なくとも99%である。
【0167】
本発明の化合物の一部の実施形態において、Y2aまたはY2bが重水素であるとき、重水素として指定されたY2aまたはY2bのそれぞれにおける重水素取り込みのレベルは、少なくとも52.5%、少なくとも75%、少なくとも82.5%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または少なくとも99%である。
【0168】
別の実施形態群において、本明細書に記述される実施形態のいずれにおいても重水素として指定されていないいずれの原子も、その天然同位体存在度で存在する。
【0169】
本発明の化合物の一部の実施形態において、指定された重水素原子それぞれにおける重水素取り込みは、少なくとも52.5%、少なくとも75%、少なくとも82.5%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または少なくとも99%である。
【0170】
本発明の化合物の一部の実施形態において、Y、Y2a、およびY2bの少なくとも1つは水素である。
【0171】
本発明は、例えば式Iの化合物の調製において有用であり、例示的スキームに記載されている重水素化中間体も提供する。
【0172】
式Iの化合物の合成は、通常の技能を有する合成化学者が本明細書に開示される例示的合成および実施例を参照することによって容易に達成することができる。式Iの化合物およびその中間体の調製に有用な手順と類似している関連手順が、例えば米国特許第4,582,931号明細書に開示されている。
【0173】
式III、IV、VおよびVIの化合物の合成は、通常の技能を有する合成化学者が適切な出発物質および試薬を使用して、本明細書に開示される例示的合成および実施例を参照することによって容易に達成することができる。
【0174】
そのような方法は、対応する重水素化試薬および/または中間体ならびに場合によって他の同位体含有試薬および/または中間体を利用して、本明細書に描かれる化合物を合成して、あるいは当技術分野において公知である標準合成プロトコルを実行して、同位体原子を化学構造に導入して、実施することができる。
【0175】
例示的合成
式IまたはIIの化合物を合成する簡便な方法をスキーム1に示す。
【0176】
【化27】
【0177】
スキーム1に示し、米国特許第4,582,931号明細書にさらに詳述されているように、dl-セリン(1)のエステル化によって、セリンエステル(2)が形成され、ベンゾイミデート(benzoimidate)を使用して、環化して、オキサゾリン(3)を形成することができる。次いで、オキサゾリン(3)を、強塩基(ブチルリチウムなど)で脱プロトン化することによって重水素化し、重水素源(酢酸O-Dなど)を用いてクエンチして、重水素化中間体(4)を生成し、(例えば、d-α-ブロモカンファースルホン酸などのキラルな塩を使用して、またはSMB(疑似移動床式)クロマトグラフィーを使用してエナンチオマーを分別して)分割して、中間体(5)を(塩として)提供する。塩を中和した後、次いでオキサゾリン(5)を加水分解して、式IIの化合物を提供する(スキーム1は化合物100の調製を示す)。
【0178】
適切に重水素化された試薬の使用により、式IまたはIIの化合物のY、Y2a、およびY2bの位置における重水素取り込み、例えば、Y、Y2a、およびY2bにおいて約90%、約95%、約97%、または約99%の重水素取り込みが可能になる。例えば、スキーム1の一般手順において、2-アミノ-2,3,3-トリジュウテリオ-3-ヒドロキシ-プロパン酸(例えば、Sigma-Aldrich社から市販されている)を出発物質として使用することによって、化合物103を調製することができる。この場合、スキーム1の重水素化ステップは必要でなく、省略される。
【0179】
式IIIおよびIVのいくつかの化合物は公知であり、場合によっては市販されていることがある。式IIIおよびIVの化合物は、当技術分野において公知の方法に従って調製することができる。
【0180】
式VおよびVIのいくつかの化合物は、高エナンチオマー純度で市販されており、またはエナンチオマーの混合物として購入し、以上に示したようにもしくは当技術分野において周知である分割方法を使用することによって分割することができ、あるいは当技術分野において公知の方法に従って調製することができる。
【0181】
以上に示した具体的な手法および化合物は、限定することを意図したものではない。本明細書におけるスキーム中の化学構造は、同じ可変要素名(すなわち、R、R、Rなど)によって特定されようとされまいと、本明細書における化合物式中の対応する位置の化学基の定義(部分、原子など)に呼応して本明細書によって定義される可変要素を示す。別の化合物の合成において使用する場合の化合物構造中の化学基の適性は、当業者の知識範囲内である。
【0182】
式I~VIの化合物およびその合成前駆体を本明細書におけるスキームに明示されていない経路内のものを含めて合成する追加の方法は、当技術分野の通常の技能を有する化学者の手段の範囲内である。適用可能な化合物を合成する際に有用な合成化学変換および保護基方法(保護および脱保護)は、当技術分野において公知であり、例えばLarock R, Comprehensive Organic Transformations, VCH Publishers (1989);Greene, TW et al., Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Ed., John Wiley and Sons (1999);Fieser, L et al., Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis, John Wiley and Sons (1994);およびPaquette, L, ed., Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis, John Wiley and Sons (1995)、ならびにそれらの後続の版に記載されているものを含む。
【0183】
本発明によって考えられる置換基および可変要素の組合せは、安定な化合物の形成をもたらすもののみである。
【0184】
組成物
本発明は、有効量の式IもしくはIIの化合物(例えば、本明細書における式の任意のものを含む)または前記化合物の薬学的に許容される塩と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。担体は、製剤の他の成分と相溶性があるという意味で「許容される」ものであり、薬学的に許容される担体の場合は、医薬品において使用される量でそのレシピエントに有害でない。
【0185】
別の態様において、本発明は、式Iaの化合物を含む医薬組成物を提供する。
【0186】
本発明は、有効量の式III、IV、VもしくはVIの化合物(例えば、本明細書における式の任意のものを含む)または前記化合物の薬学的に許容される塩と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物をさらに提供する。
【0187】
本発明は、有効量の式I、II、III、IV、VおよびVIの化合物(例えば、本明細書における式の任意のものを含む)から選択される2つ以上の化合物または前記化合物それぞれの薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体とを組み合わせて含む医薬組成物をさらに提供する。
【0188】
本発明は、有効量の(i)式IもしくはIIの化合物またはその薬学的に許容される塩、ならびに(ii)グリシン、サルコシン、(非重水素化)D-アラニンおよび(非重水素化)D-アスパラギン酸から選択される1つもしくは複数の化合物またはその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体とを組み合わせて含む医薬組成物をさらに提供する。
【0189】
本発明は、有効量の式III、IV、V、VIの化合物(例えば、本明細書における式の任意のものを含む)および(非重水素化)D-セリンから選択される2つ以上の化合物または前記化合物それぞれの薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体とを組み合わせて含む医薬組成物をさらに提供する。
【0190】
本発明は、有効量の式III、IV、V、VIの化合物(例えば、本明細書における式の任意のものを含む)およびD-セリンから選択される2つ以上の化合物または前記化合物それぞれの薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体とを組み合わせて含む医薬組成物をさらに提供する。
【0191】
特定の実施形態において、本発明は、有効量の式Iの化合物とサルコシンとを組み合わせて含む医薬組成物を提供する。別の実施形態において、本発明は、有効量の化合物100とサルコシンとを組み合わせて含む医薬組成物を提供する。別の実施形態において、本発明は、有効量の化合物103とサルコシンとを組み合わせて含む医薬組成物を提供する。
【0192】
本発明の医薬組成物において使用することができる薬学的に許容される担体、アジュバントおよびビヒクルとしては、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、ホスフェート(phosphate)などの緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、植物性飽和脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、プロタミンスルフェート、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩などの塩または電解質液、コロイダルシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート(polyacrylate)、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂が挙げられるが、これらに限定されない。
【0193】
必要に応じて、医薬組成物における本発明の化合物の溶解度およびバイオアベイラビリティーを、当技術分野において周知である方法によって増強することができる。一方法は、製剤における脂質賦形剤の使用を含む。“Oral Lipid-Based Formulations: Enhancing the Bioavailability of Poorly Water-Soluble Drugs (Drugs and the Pharmaceutical Sciences),” David J. Hauss, ed. Informa Healthcare, 2007;および“Role of Lipid Excipients in Modifying Oral and Parenteral Drug Delivery: Basic Principles and Biological Examples,”Kishor M. Wasan, ed. Wiley-Interscience, 2006を参照のこと。
【0194】
バイオアベイラビリティーを増強する別の公知方法は、LUTROL(商標)やPLURONIC(商標)(BASF Corporation社)などのポロキサマーまたはエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーを用いて場合によって製剤化される本発明の化合物の非晶形の使用である。米国特許第7,014,866号明細書;ならびに米国特許出願公開第20060094744号明細書および同第20060079502号明細書を参照のこと。
【0195】
本発明の医薬組成物としては、経口、直腸、経鼻、局所(バッカルおよび舌下を含む)、腟内または非経口(皮下、筋肉内、静脈内および皮内を含む)投与に適しているものが挙げられる。いくつかの実施形態において、(例えば、経皮貼付剤またはイオン泳動的技法を使用して)本明細書における式の化合物が経皮投与される。好都合なことには、他の製剤を単位剤形、例えば錠剤、徐放性カプセル剤で、またリポソーム中に提示することができ、薬学技術分野において周知であるいずれかの方法によって調製することができる。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, MD (20th ed. 2000)を参照のこと。単位剤形は、式IまたはIIの化合物を例えば100mg~1g、または500mg~2g含むことができる。単位剤形は、1種または複数の第2の治療剤、例えば抗精神病剤または統合失調症の他の処置剤をさらに含むことができる。単位剤形を、1日当たり1回、または1日当たり複数回(例えば、1日当たり2回、1日当たり3回、または1日当たり4回)投与することができる。いくつかの実施形態において、単位剤形は、1日当たり1回投与される。他の実施形態において、単位剤形は、1日当たり2回投与される。他の実施形態において、単位剤形は、1日当たり3回投与される。他の実施形態において、単位剤形は、1日当たり4回投与される。
【0196】
そのような調製方法は、1種または複数の副成分を構成する担体などの成分を投与される分子と会合させるステップを含む。一般に、組成物は、活性成分と液体担体、リポソームもしくは微細化固体担体または両方を均一にかつ密接に会合させ、次いで必要なら、製品を造形することによって調製される。
【0197】
いくつかの実施形態において、化合物は経口投与される。経口投与に適している本発明の組成物は、活性成分の所定量をそれぞれ含むカプセル、サシェ、もしくは錠剤;粉末もしくは顆粒;水性液体もしくは非水性液体中の溶液もしくは懸濁液;水中油型液体乳濁液;油中水型液体乳濁液;リポソームに内包して;またはボーラスなどの別個の単位として提示することができる。そのような懸濁液を含むのに軟ゼラチンカプセルが有用であることがあり、有益なことには、化合物の吸収速度を増加させることができる。
【0198】
経口使用のための錠剤の場合、よく使用される担体としては、ラクトースおよびトウモロコシデンプンが挙げられる。ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤も、典型的には添加される。カプセルの形で経口投与する場合、有用な希釈剤としては、ラクトースおよび乾燥トウモロコシデンプンが挙げられる。水性懸濁液を経口投与するとき、活性成分を乳化剤および懸濁化剤と組み合わせる。望むなら、いくつかの甘味剤および/または矯味剤および/または着色剤を添加することができる。
【0199】
経口投与に適している組成物としては、成分を矯味基剤、通常スクロースおよびアカシアまたはトラガカント中に含むロゼンジ、ならびに活性成分をゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシアなどの不活性基剤中に含む香錠が挙げられる。
【0200】
非経口投与に適している組成物としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤および製剤を所期のレシピエントの血液と等張にする溶質を含むことができる水性および非水性の無菌注射溶液、ならびに懸濁化剤および粘稠化剤を含むことができる水性および非水性の無菌懸濁液が挙げられる。製剤は、単位用量または多回用量容器、例えば封止アンプルおよびバイアルで提示することができ、フリーズドライ(凍結乾燥)状態で貯蔵することができ、使用直前に無菌液体担体、例えば注射用水を添加するだけですむ。即時注射溶液および懸濁液は、無菌の粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。
【0201】
そのような注射溶液は、例えば水性または油性の無菌注射懸濁液の形をとることができる。この懸濁液は、好適な分散剤または湿潤剤(例えば、Tween 80など)および懸濁化剤を使用して、当技術分野において公知である技法に従って製剤化することができる。無菌注射製剤は、非経口投与に許容される非毒性希釈剤または溶媒中の無菌注射溶液または懸濁液、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液とすることもできる。使用することができる許容されるビヒクルおよび溶媒の中に、マンニトール、水、リンゲル液および等張食塩水がある。さらに、無菌不揮発油が溶媒または懸濁化媒体として通常使用される。このために、合成モノ-またはジグリセリドを含めて、任意の無刺激性不揮発油を使用することができる。オレイン酸やそのグリセリド誘導体などの脂肪酸は、注射剤の調製において、薬学的に許容されるオリーブ油またはヒマシ油などの天然油が特にポリオキシエチル化された形で有用であるように有用である。これらの油溶液または懸濁液は、長鎖アルコール希釈剤または分散剤も含むことができる。
【0202】
別の実施形態において、本発明の組成物は、1種または複数の追加の治療剤をさらに含む。追加の治療剤は、D-セリンと同じ作用機序を有する化合物と共に投与されるとき有利な特性を有することが知られているまたは明示するいずれかの化合物または治療剤から選択することができる。そのような作用剤には、D-セリンと組み合わせて有用であると示されるものが含まれ、米国特許第9,040,581号明細書および同第9,687,460号明細書に記載されているものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0203】
いくつかの実施形態において、追加の治療剤は、癲癇、NMDAR脳炎、パーキンソン病、パーキンソン病における認知欠損、アルツハイマー病、軽度認知障害、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、統合失調症(統合失調症の陽性、認知および/または陰性症状、ならびに前駆期統合失調症を含む)、双極性障害、双極性躁病、双極性うつ病、治療抵抗性うつ病、うつ病における認知欠損、大うつ病性障害、全般不安障害、混合性の特徴を伴う大うつ病性障害、およびハンチントン病などの疾患または病態に関連する認知欠損、主観的認知機能低下、外傷性脳傷害、レビー小体型認知症などから選択される疾患または病態の治療において有用な作用剤である。
【0204】
いくつかの実施形態において、統合失調症に苦しむ患者に、D-セリンの重水素化類似体(または本明細書に記載される他の化合物)を含む医薬組成物を、統合失調症を処置するための当技術分野で公知の追加の治療剤(例えば、オランザピン、クロザピン、ハロペリドールなど)と一緒に、または連続して投与することができる。そのような医薬組成物は、本発明の範囲内に含まれる。一般に、抗精神病治療薬は、典型的には0.25~5000mg/日(例えば、5~1000mg/日))の投与量で投与される。「定型」抗精神病薬は、フェノチアジン、ブチロフェノン、チオキサンテン、ジベンズオキサゼピン、ジヒドロインドロン、およびジフェニルブチルピペリジンなどの通常の抗精神病薬である。「非定型」抗精神病薬は、一般にドーパミンDおよび5HTセロトニン受容体に働き、高レベルの効能および良性錐体外路症状の副作用プロファイルを有するさらに新しい世代の抗精神病薬である。定型抗精神病薬の例としては、クロルプロマジン、チオリダジン、メソリダジン、フルフェナジン、ペルフェナジン、トリフルオペラジン、チオチキセン、ハロペリドール、ロキサピン、モリンドン、アセトフェナジン、クロルプロチキセン、ドロペリドール、およびピモジドが挙げられる。非定型抗精神病薬の例としては、ブロナンセリン、クロザピン、リスペリドン、オランザピン、カリプラジン、アセナピン、ルラシドン、ブレクスピプラゾール、ルマテペロン、アリピプラゾール、アリピプラゾールラウロキシル、イロペリドン、パリペリドン、ジプラシドン、およびクエチアピンが挙げられる。デポー抗精神病薬、例えばハロペリドールデカン酸エステル、フルフェナジンデカン酸エステル、およびフルフェナジンエナント酸エステルも使用することができる。追加の抗精神病薬としては、ブタペラジン、カルフェナジン、レモキシプリド、ピペラセタジン、およびスルピリドが挙げられる。
【0205】
いくつかの実施形態において、統合失調症の症状のある患者に、D-セリンの重水素化類似体(または本明細書に記載される他の化合物)を含む医薬組成物を、1種または複数の当技術分野で公知の統合失調症処置薬(抗精神病剤、例えばオランザピン、クロザピン、ハロペリドール、クエチアピン、リスペリドン、クロルプロマジンなどを含む)と一緒に、または連続して投与することができる。特定の実施形態において、医薬組成物は、統合失調症のDSM-V診断がある患者に少なくとも1年間投与するためのものである。別の実施形態において、医薬組成物は、PANSS総スコアが70~110の患者に投与するためのものである。別の実施形態において、医薬組成物は、追加のPANSS基準を満たす患者に投与するためのものである。
a.概念の統合障害および敵意の陽性尺度項目に基づくPANSSスコアが≦5
b.以下の項目の少なくとも2つに基づくPANSSスコアが≧4
i.妄想
ii.幻覚
iii.猜疑心/迫害
iv.不自然な思考内容
別の実施形態において、医薬組成物は、少なくとも3か月間、入院せず、投薬の変更なしと定義される、臨床的安定期の疾患の患者に投与するためのものである。別の実施形態において、患者は、最大量の1種の一次非定型抗精神病薬および低用量の1種の非定型抗精神病薬(低用量の睡眠用Seroquel(登録商標)または低用量の気分安定剤など)で現在処置中であり、一次および二次抗精神病薬の合計はそれぞれ≦6mgのリスペリドン等価物または600mgのクロルプロマジン等価物であり、抗精神病薬の用量は4週間安定なままである。一般に、抗精神病治療薬は、典型的には0.25~5000mg/日(例えば、5~1000mg/日))の投与量で投与される。「定型」抗精神病薬は、フェノチアジン、ブチロフェノン、チオキサンテン、ジベンズオキサゼピン、ジヒドロインドロン、およびジフェニルブチルピペリジンなどの通常の抗精神病薬である。「非定型」抗精神病薬は、一般にドーパミンDおよび5HTセロトニン受容体に働き、高レベルの効能および良性錐体外路症状の副作用プロファイルを有するさらに新しい世代の抗精神病薬である。定型抗精神病薬の例としては、クロルプロマジン、チオリダジン、メソリダジン、フルフェナジン、ペルフェナジン、トリフルオペラジン、チオチキセン、ハロペリドール、ロキサピン、モリンドン、アセトフェナジン、クロルプロチキセン、ドロペリドール、およびピモジドが挙げられる。非定型抗精神病薬の例としては、ブロナンセリン、クロザピン、リスペリドン、オランザピン、カリプラジン、アセナピン、ルラシドン、ブレクスピプラゾール、ルマテペロン、アリピプラゾール、アリピプラゾールラウロキシル、イロペリドン、パリペリドン、ジプラシドン、およびクエチアピンが挙げられる。デポー抗精神病薬、例えばハロペリドールデカン酸エステル、フルフェナジンデカン酸エステル、およびフルフェナジンエナント酸エステルも使用することができる。追加の抗精神病薬としては、ブタペラジン、カルフェナジン、レモキシプリド、ピペラセタジン、およびスルピリドが挙げられる。
【0206】
別の実施形態において、本発明は、別個の剤形の本発明の化合物および上記の追加の治療剤のいずれか1種または複数であって、互いに関連付けられている化合物および追加の治療剤を提供する。本明細書では「互いに関連付けられている」という用語は、別個の剤形が一緒に包装され、またはその他の方法で、別個の剤形が一緒に販売かつ(互いに24時間未満のうちに、連続してまたは同時に)投与されるように意図されていることは容易に明らかであるように互いに取り付けられていることを意味する。
【0207】
本発明の医薬組成物では、本発明の化合物が有効量で存在する。本明細書では「有効量」という用語は、適切な用法で投与されたとき、標的の障害を処置するのに十分な量を指す。上記のように、用法は、1種または複数の追加の治療剤を含むことができる(例えば、本発明の化合物または組成物が組合せで使用される場合(例えば、本発明の化合物または組成物が補助的治療として使用されるとき))。
【0208】
「それを必要とする対象」という用語は、癲癇、NMDAR脳炎、パーキンソン病、パーキンソン病における認知欠損、アルツハイマー病、軽度認知障害、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、統合失調症(統合失調症の陽性、認知および/または陰性症状、ならびに前駆期統合失調症を含む)、双極性障害、双極性躁病、双極性うつ病、治療抵抗性うつ病、うつ病における認知欠損、大うつ病性障害、全般不安障害、混合性の特徴を伴う大うつ病性障害、およびハンチントン病などの疾患または病態に関連する認知欠損、主観的認知機能低下、外傷性脳傷害、レビー小体型認知症などから選択される疾患または病態の診断を受けたまたは受ける対象を指す。
【0209】
動物およびヒトに対する投与量の(体表面1平方メートル当たりのミリグラム数に基づく)相互関係は、例えばFreireich et al., Cancer Chemother. Rep, 1966, 50: 219に記載されている。体表面積は、対象の身長および体重から近似的に決定することができる。例えば、Scientific Tables, Geigy Pharmaceuticals, Ardsley, N.Y., 1970, 537を参照のこと。
【0210】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、0.1g~60gの範囲である有効量の式IまたはIIの化合物を含む。いくつかの実施形態において、有効量の式Iまたは式IIの化合物は、1~60g/日、または5~30g/日、または10~20g/日の範囲である。いくつかの実施形態において、有効量の式Iまたは式IIの化合物は、100mg~1g/日の範囲である。いくつかの実施形態において、有効量の式Iまたは式IIの化合物は、1~10g/日の範囲である。いくつかの実施形態において、有効量の式Iまたは式IIの化合物は、1~8g/日の範囲である。
【0211】
いくつかの実施形態において、有効量の化合物100は、1g/日~10g/日の範囲、または1g/日~5g/日の範囲、または2g/日~4g/日の範囲である。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、化合物100を1g、化合物100を2g、化合物100を3g、化合物100を5g、化合物100を8g、または化合物100を10g含む。
【0212】
いくつかの実施形態において、有効量の式Iまたは式IIの化合物は、体重1キログラムにつき1日当たり30ミリグラム(mg/kg/日)~900mg/kg/日、または60mg/kg/日~300mg/kg/日、または150mg/kg/日~300mg/kg/日の範囲である。いくつかの実施形態において、有効量の式Iまたは式IIの化合物は、30mg/kg/日~120mg/kg/日の範囲である。いくつかの実施形態において、有効量の式Iまたは式IIの化合物は、10mg/kg/日~150mg/kg/日、または10mg/kg/日~120mg/kg/日、または10mg/kg/日~90mg/kg/日の範囲である。
【0213】
いくつかの実施形態において、有効量の式III、IV、VまたはVIの化合物は、1~60g/日、または5~30g/日、または10~20g/日の範囲である。
【0214】
いくつかの実施形態において、有効量の式III、IV、VまたはVIの化合物は、30mg/kg/日~900mg/kg/日、または60mg/kg/日~300mg/kg/日、または150mg/kg/日~300mg/kg/日の範囲である。
【0215】
有効用量も、当業者によって認識されるように、処置される疾患、疾患の重症度、投与経路、対象の性別、年齢および全身の健康状態、賦形剤の使用、他の作用剤の使用など他の治療的処置との共使用の可能性、ならびに処置医の判断に応じて変化する。例えば、有効用量を選択するための手引きは、化合物1の処方情報を参照することにより決定することができる。
【0216】
1種または複数の追加の治療剤を含む医薬組成物では、有効量の追加の治療剤は、その作用剤だけを使用する単剤治療レジメンにおいて普通利用される投与量の約20%~100%である。好ましくは、有効量は、普通の単剤治療用量の約70%~100%である。これら追加の治療剤の普通の単剤治療用量は、当技術分野において周知である。例えば、Wells et al., eds., Pharmacotherapy Handbook, 2nd Edition, Appleton and Lange, Stamford, Conn. (2000);PDR Pharmacopoeia, Tarascon Pocket Pharmacopoeia 2000, Deluxe Edition, Tarascon Publishing, Loma Linda, Calif. (2000)を参照のこと。これら参考文献のそれぞれは、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0217】
以上に示した追加の治療剤の一部は、本発明の化合物と相乗的に働くことができる。本発明の化合物と相乗的に働くと、追加の治療剤および/または本発明の化合物の有効投与量を、単剤治療において必要とされる有効投与量から低減することができる。これには、本発明の化合物の追加の治療剤の毒性副作用を最小限に抑え、効能を相乗的に改善し、投与もしくは使用の容易さを改善し、かつ/または化合物調製もしくは製剤の全体の経費を低減するという利点がある。
【0218】
処置方法
別の態様において、本発明は、細胞においてNMDARの活性をモジュレートする方法であって、細胞と本明細書における式IもしくはIIの1つもしくは複数の化合物またはその薬学的に許容される塩を接触させるステップを含む方法を提供する。一部の実施形態において、細胞をインビトロで接触させる。一部の実施形態において、細胞をインビボで接触させる。一部の実施形態において、細胞をエクスビボで接触させる。
【0219】
別の態様において、本発明は、D-セリンによって有益に処置される疾患または病態の処置を必要とする対象においてそのような処置を行う方法であって、疾患または病態が処置されるように有効量の式IもしくはIIの化合物または式IもしくはIIの化合物を含む医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法を提供する。別の態様において、本発明は、D-セリンによって有益に処置される疾患または病態の処置を必要とする対象においてそのような処置を行う方法であって、疾患または病態が処置されるように有効量の式Iaの化合物または式Iaの化合物を含む医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【0220】
そのような疾患としては、癲癇、NMDAR脳炎、パーキンソン病、パーキンソン病における認知欠損、アルツハイマー病、軽度認知障害、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、統合失調症(統合失調症の陽性、認知および/または陰性症状、ならびに前駆期統合失調症を含む)、双極性障害、双極性躁病、双極性うつ病、治療抵抗性うつ病、うつ病における認知欠損、大うつ病性障害、全般不安障害、混合性の特徴を伴う大うつ病性障害、およびハンチントン病などの疾患または病態に関連する認知欠損、主観的認知機能低下、外傷性脳傷害、レビー小体型認知症などが挙げられるが、これらに限定されない。追加の疾患または病態としては、外傷後ストレス障害(PTSD)、失調、およびセリン欠乏障害が挙げられる。
【0221】
いくつかの実施形態において、本発明の方法を使用して、癲癇およびNMDAR脳炎から選択される疾患または病態の処置を必要とする対象においてそのような処置を行う。方法は、疾患または病態の処置を必要とする対象に、疾患または病態が処置されるように有効量の式IもしくはIIの化合物または式IもしくはIIの化合物を含む医薬組成物を投与するステップを含む。
【0222】
本発明は、統合失調症(統合失調症の陽性、陰性および/または認知症状を含む)を処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の本発明の化合物または医薬組成物(例えば、式IもしくはIIの化合物または式Iaの化合物;あるいは式IもしくはIIの化合物または式Iaの化合物を含む医薬組成物)を投与するステップを含む方法も提供する。いくつかの実施形態において、方法は、抗精神病治療剤を対象に投与するステップをさらに含む。いくつかの実施形態において、方法は、第2の治療剤を対象に投与するステップであって、第2の作用剤が抗精神病治療剤であるステップをさらに含む。
【0223】
いくつかの実施形態において、統合失調症の陰性および/または陽性および/または認知症状を、対象または患者の処置の前後に測定することができる。そのような症状の低減は、患者の病態が改善したことを示す。陰性症状評価尺度(SANS)または陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を使用して、統合失調症の症状の改善を評価することができる(例えば、Andreasen, 1983, Scales for the Assessment of Negative Symptoms (SANS), Iowa City, IowaおよびKay et al., 1987, Schizophrenia Bulletin 13:261-276を参照のこと)。同様に、本発明の方法によって処置された患者において他の神経精神障害の改善を測定することができる。いくつかの実施形態において、統合失調症の陽性症状が、処置前症状に比べて処置後に改善される。いくつかの実施形態において、統合失調症の陰性症状が、処置前症状に比べて処置後に改善される。いくつかの実施形態において、統合失調症の認知症状が、処置前症状に比べて処置後に改善される。
【0224】
いくつかの実施形態において、統合失調症を処置する方法は、統合失調症に苦しむ患者に、D-セリンの重水素化類似体(または本明細書に記載される他の化合物)を含む医薬組成物を、当技術分野で公知の統合失調症処置薬(抗精神病剤、例えばオランザピン、クロザピン、ハロペリドールなどを含む)と一緒に、または連続して投与するステップを含む。一部の実施形態において、統合失調症に苦しむ患者は、本明細書に記載される処置より前の抗精神病治療、すなわち既存の抗精神病治療時に安定である(例えば、式IまたはIIの化合物は、補助的治療として追加の抗精神病治療剤と一緒に使用される)。一般に、抗精神病治療薬は、典型的には0.25~5000mg/日(例えば、5~1000mg/日))の投与量で投与される。「定型」抗精神病薬は、フェノチアジン、ブチロフェノン、チオキサンテン、ジベンズオキサゼピン、ジヒドロインドロン、およびジフェニルブチルピペリジンなどの通常の抗精神病薬である。「非定型」抗精神病薬は、一般にドーパミンDおよび5HTセロトニン受容体に働き、高レベルの効能および良性錐体外路症状の副作用プロファイルを有するさらに新しい世代の抗精神病薬である。定型抗精神病薬の例としては、クロルプロマジン、チオリダジン、メソリダジン、フルフェナジン、ペルフェナジン、トリフルオペラジン、チオチキセン、ハロペリドール、ロキサピン、モリンドン、アセトフェナジン、クロルプロチキセン、ドロペリドール、およびピモジドが挙げられる。非定型抗精神病薬の例としては、ブロナンセリン、クロザピン、リスペリドン、オランザピン、カリプラジン、アセナピン、ルラシドン、ブレクスピプラゾール、ルマテペロン、アリピプラゾール、アリピプラゾールラウロキシル、イロペリドン、パリペリドン、ジプラシドン、およびクエチアピンが挙げられる。デポー抗精神病薬、例えばハロペリドールデカン酸エステル、フルフェナジンデカン酸エステル、およびフルフェナジンエナント酸エステルも使用することができる。追加の抗精神病薬としては、ブタペラジン、カルフェナジン、レモキシプリド、ピペラセタジン、およびスルピリドが挙げられる。
【0225】
いくつかの実施形態において、統合失調症を処置する方法は、統合失調症の症状のある患者に、D-セリンの重水素化類似体(または本明細書に記載される他の化合物)を含む医薬組成物を、1種または複数の当技術分野で公知の統合失調症処置薬(抗精神病剤、例えばオランザピン、クロザピン、ハロペリドール、クエチアピン、リスペリドン、クロルプロマジンなどを含む)と一緒に、または連続して投与するステップを含む。特定の実施形態において、医薬組成物は、統合失調症のDSM-V診断がある患者に少なくとも1年間投与するためのものである。別の実施形態において、医薬組成物は、PANSS総スコアが70~110の患者に投与するためのものである。別の実施形態において、医薬組成物は、追加のPANSS基準を満たす患者に投与するためのものである。
c.概念の統合障害および敵意の陽性尺度項目に基づくPANSSスコアが≦5
d.以下の項目の少なくとも2つに基づくPANSSスコアが≧4
i.妄想
ii.幻覚
iii.猜疑心/迫害
iv.不自然な思考内容
別の実施形態において、医薬組成物は、少なくとも3か月間、入院せず、投薬の変更なしと定義される、臨床的安定期の疾患の患者に投与するためのものである。別の実施形態において、患者は、最大量の1種の一次非定型抗精神病薬および低用量の1種の非定型抗精神病薬(低用量の睡眠用Seroquel(登録商標)または低用量の気分安定剤など)で現在処置中であり、一次および二次抗精神病薬の合計はそれぞれ≦6mgのリスペリドン等価物または600mgのクロルプロマジン等価物であり、抗精神病薬の用量は4週間安定なままである。一般に、抗精神病治療薬は、典型的には0.25~5000mg/日(例えば、5~1000mg/日))の投与量で投与される。「定型」抗精神病薬は、フェノチアジン、ブチロフェノン、チオキサンテン、ジベンズオキサゼピン、ジヒドロインドロン、およびジフェニルブチルピペリジンなどの通常の抗精神病薬である。「非定型」抗精神病薬は、一般にドーパミンDおよび5HTセロトニン受容体に働き、高レベルの効能および良性錐体外路症状の副作用プロファイルを有するさらに新しい世代の抗精神病薬である。定型抗精神病薬の例としては、クロルプロマジン、チオリダジン、メソリダジン、フルフェナジン、ペルフェナジン、トリフルオペラジン、チオチキセン、ハロペリドール、ロキサピン、モリンドン、アセトフェナジン、クロルプロチキセン、ドロペリドール、およびピモジドが挙げられる。非定型抗精神病薬の例としては、ブロナンセリン、クロザピン、リスペリドン、オランザピン、カリプラジン、アセナピン、ルラシドン、ブレクスピプラゾール、ルマテペロン、アリピプラゾール、アリピプラゾールラウロキシル、イロペリドン、パリペリドン、ジプラシドン、およびクエチアピンが挙げられる。デポー抗精神病薬、例えばハロペリドールデカン酸エステル、フルフェナジンデカン酸エステル、およびフルフェナジンエナント酸エステルも使用することができる。追加の抗精神病薬としては、ブタペラジン、カルフェナジン、レモキシプリド、ピペラセタジン、およびスルピリドが挙げられる。
【0226】
いくつかの実施形態において、対象における腎毒性の程度または範囲が、等量のD-セリン(例えば、モル等量のD-セリン)での処置と比べて低減される。腎毒性は、血清クレアチニンレベルまたは血中尿素窒素(BUN)などのマーカーのレベルを測定することによって監視することができる。BUNについて、約7~20mg/dL(2.5~7.1mmol/L)の範囲が正常とみなされる。血清クレアチニンについて、成人男性において1デシリットル(dL)当たり約0.6~1.2ミリグラム(mg)および成人女性において1デシリットル当たり0.5~1.1ミリグラムの範囲が正常とみなされる。いくつかの実施形態において、血清クレアチニンおよび/またはBUNレベルが、処置中および後に正常範囲で維持される。
【0227】
いくつかの実施形態において、統合失調症を処置する方法は、それを必要とする対象に、式IIの化合物またはその薬学的に許容される塩と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を投与するステップであって、1日当たり投与される式IまたはIIの化合物の量が、10mg/kg~120mg/kgの範囲(すなわち、対象の体重1キログラム当たり10mg~対象の体重1キログラム当たり120mg)であり、対象の血清クレアチニンレベルまたはBUNレベル(または両方)が、(上記のように)正常範囲で維持される、ステップを含む。
【0228】
いくつかの実施形態において、式IもしくはIIの化合物または式IもしくはIIの化合物を含む医薬組成物は、1日当たり1回投与される。いくつかの実施形態において、化合物100または化合物100を含む医薬組成物は、1日当たり1回投与される。他の実施形態において、式IもしくはIIの化合物または式IもしくはIIの化合物を含む医薬組成物は、1日当たり2回投与される。いくつかの実施形態において、化合物100または化合物100を含む医薬組成物は、1日当たり2回投与される。さらに他の実施形態において、式IもしくはIIの化合物または式IもしくはIIの化合物を含む医薬組成物は、1日当たり3回投与される。いくつかの実施形態において、化合物100または化合物100を含む医薬組成物は、1日当たり3回投与される。さらに他の実施形態において、式IもしくはIIの化合物または式IもしくはIIの化合物を含む医薬組成物は、1日当たり4回投与される。いくつかの実施形態において、化合物100または化合物100を含む医薬組成物は、1日当たり4回投与される。
【0229】
いくつかの実施形態において、有効量の式Iまたは式IIの化合物は、1~60g/日、または5~30g/日、または10~20g/日の範囲である。いくつかの実施形態において、有効量の式Iまたは式IIの化合物は、100mg~1g/日の範囲である。いくつかの実施形態において、有効量の式Iまたは式IIの化合物は、1~10g/日の範囲である。
【0230】
いくつかの実施形態において、有効量の式Iまたは式IIの化合物は、30mg/kg/日~900mg/kg/日、または60mg/kg/日~300mg/kg/日、または150mg/kg/日~300mg/kg/日の範囲である。いくつかの実施形態において、有効量の式Iまたは式IIの化合物は、10mg/kg/日~150mg/kg/日、または10mg/kg/日~120mg/kg/日、または10mg/kg/日~90mg/kg/日の範囲である。
【0231】
そのような処置を必要とする対象の特定は、対象または医療従事者の判断とすることができ、主観的(例えば、意見)または客観的(例えば、試験または診断方法によって測定可能)でありうる。
【0232】
別の実施形態において、上記の処置方法のいずれも、それを必要とする対象に1種または複数の追加の治療剤を共投与する別のステップを含む。追加の治療剤は、NMDARの共アゴニストと共に共投与するのに有用であることが知られている任意の追加の治療剤から選択することができる。追加の治療剤の選択は、処置される特定の疾患または病態にも依存する。本発明の方法において使用することができる追加の治療剤の例は、本発明の化合物と追加の治療剤とを含む組合せ組成物において使用するための上述されたものである。
【0233】
いくつかの実施形態において、本発明の組合せ治療は、それを必要とする対象に、式IまたはIIの化合物と式III、IV、VおよびVIの化合物から選択される1種または複数の追加の治療剤とを共投与し、本明細書に記載される疾患または病態のいずれかを処置するステップを含む。特定の実施形態において、方法は、有効量の式Iの化合物とサルコシンとを組み合わせて投与するステップを含む。別の実施形態において、方法は、有効量の化合物100とサルコシンとを組み合わせて投与するステップを含む。別の実施形態において、方法は、有効量の化合物103とサルコシンとを組み合わせて投与するステップを含む。
【0234】
いくつかの実施形態において、方法は、抗精神病治療剤を対象に投与するステップをさらに含む。
【0235】
いくつかの実施形態において、本発明の組合せ治療は、抗精神病薬治療時に安定である統合失調症に苦しむ患者に式IまたはIIの化合物を共投与するステップを含む。特定の実施形態において、方法は、有効量の式IまたはIIの化合物と「定型」抗精神病剤とを組み合わせて投与するステップを含む。別の特定の実施形態において、方法は、有効量の式IまたはIIの化合物と「非定型」抗精神病剤とを組み合わせて投与するステップを含む。別の実施形態において、方法は、有効量の化合物100と抗精神病剤とを組み合わせて投与するステップを含む。別の実施形態において、方法は、有効量の化合物103と抗精神病剤とを組み合わせて投与するステップを含む。
【0236】
本明細書では「共投与された」または「組み合わせて投与する」という用語は、追加の治療剤を本発明の化合物と一緒に、単一の剤形の一部分(本発明の化合物と上記の追加の治療剤とを含む本発明の組成物など)としてまたは別個の複数の剤形として投与することができることを意味する。あるいは、追加の作用剤は、本発明の化合物の投与より前に、それに引き続いて、またはその後に投与することができる。そのような組合せ治療処置において、本発明の化合物も追加の治療剤も、通常の方法によって投与される。本発明の化合物と追加の治療剤を両方含む本発明の組成物の対象への投与は、その同じ治療剤、いずれか他の追加の治療剤または本発明のいずれかの化合物を前記対象に処置過程中の別の時点で別々に投与することを排除しない。
【0237】
有効量のこれらの追加の治療剤は、当業者に周知であり、投与するための手引きは、本明細書に示す特許および特許出願公開、ならびにWells et al., eds., Pharmacotherapy Handbook, 2nd Edition, Appleton and Lange, Stamford, Conn. (2000);PDR Pharmacopoeia, Tarascon Pocket Pharmacopoeia 2000, Deluxe Edition, Tarascon Publishing, Loma Linda, Calif. (2000)、および他の医学書で見ることができる。しかし、追加の治療剤の最適な有効量範囲を決定することは十分当業者の権限内にある。
【0238】
上述の方法のいずれかのいくつかの実施形態において、本発明の化合物(例えば、化合物100)の投与は、等価用量の(非重水素化)D-セリンの投与と比べて、腎毒性を低減する。
【0239】
本発明の一実施形態において、追加の治療剤が対象に投与される場合、有効量の本発明の化合物は、追加の治療剤が投与されない場合であればその有効量であるはずの値を下回る。別の実施形態において、有効量の追加の治療剤は、本発明の化合物が投与されない場合であればその有効量であるはずの値を下回る。このように、高用量のどちらの作用剤にしても関連する望ましくない副作用を最小限に抑えることができる。他の潜在的利点(用法の改良および/または薬物コストの低減を含むがこれらに限定されない)は当業者に明らかである。
【0240】
さらに別の態様において、本発明は、対象における上述された疾患、障害または症状を処置するための単一組成物または別個の剤形の医薬品の製造における、式Iもしくは式IIの化合物の単独使用または上記の追加の治療剤の1種もしくは複数との使用を提供する。本発明の別の態様は、対象における本明細書に描かれたその疾患、障害または症状の処置において使用するための式Iまたは式IIの化合物である。
【0241】
[実施例1]
D-D-セリン(化合物100)の薬物動態プロファイルの評価
雄性Sprague-Dawleyラットにおける化合物100の薬物動態プロファイルの評価:雄性Sprague-Dawleyラットにおいて、化合物100の海馬、皮質および血漿濃度(質量分析により、92%D)を調査した。空腹状態のラットに、30mg/kgの個別PO用量の0.5%メチルセルロース水溶液中の化合物100を投与した。海馬、皮質および血漿を1時間および6時間目に収集し、化合物100の濃度について分析した。投与後1時間および6時間目の平均血漿、海馬および皮質濃度を表1および図1に示す。1時間目の平均血漿、海馬、および皮質濃度はそれぞれ、19200ng/mL、674ng/g、および754ng/gであった。6時間目の平均血漿、海馬、および皮質濃度はそれぞれ、1780ng/mL、1385ng/g、および936ng/gであった。同様の化合物100の濃度が、1時間および6時間目の海馬および皮質に見られた。血漿、海馬、および皮質中の化合物100の濃度は、6時間目に互いの2倍以内であった。
【0242】
【表7】
【0243】
[実施例2]
非重水素化D-セリンの薬物動態および腎毒性の評価:
雄性Sprague-Dawleyラットにおいて、非重水素化D-セリンの腎毒性を調査した。空腹状態のラットに、300mg/kgの個別PO用量の0.5%メチルセルロース水溶液中の非重水素化D-セリンを投与した。海馬、皮質および血漿を収集し、分析した。追加の血液を収集し、全臨床化学プロファイルについて分析した。尿も収集し、グルコースおよび総タンパク質量について試験した。平均内因性非重水素化D-セリンレベルは、対照群から、155ng/ラット血漿1mL、8970ng/ラット皮質1g、および13450ng/ラット海馬1gであった。報告された血漿濃度から内因性非重水素化D-セリンレベルを差し引いただけである。非重水素化D-セリンの血漿薬物動態(PK)パラメーターを表2に示す。非重水素化D-セリンの8時間目の海馬、皮質、および血漿濃度を表3および図2に示す。非重水素化D-セリンのTmax、T1/2、CmaxおよびAUCinfはそれぞれ、0.5時間、3.63時間、268000ng/mL、および500000時間ng/mLであった。1時間目の平均血漿、海馬、および皮質濃度はそれぞれ、19200ng/mL、674ng/g、および754ng/gである。8時間目の平均血漿、海馬、および皮質濃度はそれぞれ、11250ng/mL、17725ng/g、および11875ng/gであった。非重水素化D-セリンの8時間目の血漿、海馬、および皮質濃度は、互いの2倍以内であった。雄性Sprague-Dawleyラットにおいて300mg/kgの非重水素化D-セリンの腎毒性を評価した。血中尿素窒素およびクレアチニンレベルは上昇した。尿素窒素およびクレアチニンレベルの上昇は腎毒性を示唆する。グルコースの存在が尿中に認められた。
【0244】
【表8】
【0245】
【表9】
【0246】
[実施例3]
化合物100および非重水素化D-セリンの薬物動態プロファイルおよび腎毒性の評価
雄性Sprague-Dawleyラットにおいて、化合物100の薬物動態プロファイルを非重水素化D-セリンの薬物動態プロファイルと比較して調査した。空腹状態のラットに、150mg/kgの個別PO用量の0.5%メチルセルロース水溶液中の化合物100(質量分析により、92%D)および非重水素化D-セリンを投与した。血漿を収集し、化合物100および非重水素化D-セリンについて分析した。追加の血液を収集し、全臨床化学プロファイルについて分析した。化合物100および非重水素化D-セリンのPKパラメーターを表4に示す。化合物100の4時間、8時間、および24時間目の海馬、皮質、および血漿濃度を表5および図3に示す。臨床病理データを図4、5および6に示す。
【0247】
150mg/kgの単回個別PO用量の各化合物を投与されたラットにおいて、化合物100のTmaxは、非重水素化D-セリンのTmaxより2倍長かった。化合物100のCmaxおよびAUCinfは、非重水素化D-セリンと同様であった。非重水素化D-セリンのTmax、CmaxおよびAUCinfはそれぞれ、0.333時間、180000ng/mL、および349000時間ng/mLであった。化合物100のTmax、CmaxおよびAUCinfはそれぞれ、0.667時間、186000ng/mL、および383000時間ng/mLであった。4時間目の平均血漿、海馬、および皮質濃度はそれぞれ、23283ng/mL、6155ng/g、および5070ng/gであった。8時間目の平均血漿、海馬、および皮質濃度はそれぞれ、2038ng/mL、4335ng/g、および4035ng/gであった。24時間目の平均血漿、海馬、および皮質濃度はそれぞれ、711ng/mL、4200ng/g、および2420ng/gであった。血漿および皮質中の化合物100の濃度は、24時間以内に低下した。しかし、海馬中の化合物100の濃度は、24時間目に一定に保たれていた。
【0248】
雄性Sprague-Dawleyラットにおいて、化合物100および非重水素化D-セリンの腎毒性を評価した。ラットに150mg/kgの化合物100または非重水素化D-セリンを与えた(PO投与)。非重水素化D-セリンでは、8時間および24時間目の血清試料において血中尿素窒素(BUN)レベルの上昇が見られた。非重水素化D-セリンでは、24時間目の血清試料においてクレアチニンおよびγ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)レベルの上昇が見られた。血中尿素窒素、クレアチニンおよびGGTレベルの上昇は腎毒性を示唆する。これとは対照的に、化合物100では、4、8、および24時間目の尿素窒素、クレアチニン、およびGGTレベルは、Charles River Laboratory社によって提供された対照値および参照値と比べて同様であった。非重水素化D-セリンは、腎毒性のバイオマーカーレベルの増加を引き起こしたが、化合物100を投与すると、腎毒性のバイオマーカーレベルが増加しなかった。
【0249】
【表10】
【0250】
【表11】
【0251】
150mg/kg~750mg/kgの用量の化合物100(化合物100)および非重水素化D-セリンの腎毒性を比較するために、追加の実験を行った。結果を図7~10に示す。図7~10から、化合物100を投与された動物では、BUNまたはクレアチニンの微小変化が認められ、匹敵する用量の非重水素化D-セリンを与えた動物では、BUNおよびクレアチニンレベルがますます上昇したことがわかる。用量漸増時に、AUCおよびCmaxによって測定される曝露は化合物100の方が大きいが、腎毒性の全徴候は非重水素化D-セリンを与えたラットにおいてのみ認められた(化合物100では認められなかった)。
【0252】
[実施例4]
雄性Sprague-Dawleyラットにおける非重水素化D-セリンの薬物動態および腎毒性用量応答の評価
雄性Sprague-Dawleyラットにおいて、非重水素化D-セリンの薬物動態プロファイルを調査した。空腹状態のラットに、30、75、100、150、および300mg/kgの単回個別PO用量の0.5%メチルセルロース水溶液中の非重水素化D-セリンを投与した。血漿を収集し、非重水素化D-セリンについて分析した。追加の血液を収集し、全臨床化学プロファイルについて分析した。非重水素化D-セリンのPKパラメーターを表6に示す。臨床病理データを図11、12および13に示す。
【0253】
30、75、100、150、および300mg/kgの単回個別PO用量の非重水素化D-セリンを投与したラットにおいて、Tmaxはすべての用量で0.3~0.5であった。CmaxおよびAUCinfで表される曝露の増加は、用量が30から300mg/kgに増加するにつれて見られた。30、75、100、150、および300mg/kgのCmaxはそれぞれ、24300、54300、96100、180000、および216000ng/mLである。30、75、100、150、および300mg/kgのAUCinfはそれぞれ、50600、148000、246000、349000、および911000ng時/mLである。
【0254】
雄性Sprague-Dawleyラットにおいて、非重水素化D-セリンの腎毒性用量応答を30、75、100、150、および300mg/kgのPOで評価した。Charles River Laboratory社によって提供された対照値および参照値と比べて、(腎毒性を示唆するマーカーである)尿素窒素、クレアチン、およびγ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)レベルの上昇が、150および300mg/kgの用量の24時間目の試料において見られた。
【0255】
【表12】
【0256】
[実施例5]
雄性Sprague-Dawleyラットにおける重水素化および非重水素化D-セリンの薬物動態の評価
【0257】
【化28】
非重水素化D-セリンおよび重水素化D-セリン(化合物100)を雄性Sprague-Dawleyラットに(静脈内(IV)、リン酸緩衝食塩水(PBS)中5mg/kg;および経口(PO)、10mg/kg、0.5%メチルセルロース水溶液)投与した。各群にラット3匹を用いた。血液を以下の時点で収集した。IV投与では、投与前、投与後0.05、0.167、0.5、1、2、4、6、8および12時間後;PO投与では、投与前、PO投与後0.25、0.5、1、2、4、6、8および12時間後。尿を、投与前(最小12時間)、0~6、6~12および12~24時間目で収集した。LC-MS/MSにより、血漿試料を投与化合物について分析および定量した。
【0258】
結果を表7に示す。
【0259】
【表13】
【0260】
重水素化D-セリン(化合物100)は、半減期(T1/2)が非重水素化D-セリンの半減期より約1.5倍長いことが判明した。重水素化化合物と非重水素化化合物は、同様のTmaxを有した。重水素化D-セリン(化合物100)のCmaxは、非重水素化D-セリンのCmaxより約1.3倍高く、AUCinfは、非重水素化D-セリンのAUCinfより約1.6倍大きかった。
【0261】
別の実験において、非重水素化D-セリンおよび2つの重水素化D-セリン類似体(化合物100および化合物103(96%D))を雄性Sprague-Dawleyラットに投与した。
【0262】
【化29】
【0263】
結果は、化合物100および化合物103が同様のPKパラメーターを有することを示した。
【0264】
[実施例6]
D-D-セリンの例示的製剤
以下の表に示す材料を使用して、D-D-セリンの放出調節錠製剤を調製する。
錠剤含量:500mg D-D-セリン(例えば、化合物100)
錠剤全重量:855mg
【0265】
【表14】
【0266】
[実施例7]
(2R)-2-アミノ-2-ジュウテロ-3-ヒドロキシ-プロパン酸(化合物100)
ラセミの2-アミノ-2-ジュウテロ-3-ヒドロキシ-プロパン酸を合成し、次に分割を行って、(2R)-2-アミノ-2-ジュウテロ-3-ヒドロキシ-プロパン酸(化合物100)を高e.e.(エナンチオマー過剰率)および高D%で得る詳細を以下のスキーム2に示す。
【0267】
【化30】
【0268】
スキーム2に示すように、非重水素化D,L-セリンから、化合物100を調製した。プロトンNMRおよび質量スペクトルデータは、化合物100について以上に示した構造と一致した。MS(M+H):107.2;MS(M-H):105.2;H-NMR(400MHz,DO):δ3.90(dd,J=12.4Hz,J=19.2Hz,2H)。重水素取り込みは、プロトンNMRによって約96%であると決定された。化合物100のベンジルオキシカルボニルアミノ誘導体のSFC(超臨界流体クロマトグラフィー)分析により、S-エナンチオマーの痕跡が見られないことが明らかになった。
【0269】
[実施例8]
(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリジュウテロ-3-ヒドロキシ-プロパン酸(化合物103)
市販のラセミの2-アミノ-2,3,3-トリジュウテロ-3-ヒドロキシ-プロパン酸を分割して、(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリ-ジュウテロ-3-ヒドロキシ-プロパン酸(化合物103)を高e.e.および高D%で得る詳細を以下のスキーム3に示す。
【0270】
【化31】
スキーム3に示すように、市販のラセミの2-アミノ-2,3,3-トリジュウテロ-3-ヒドロキシ-プロパン酸を分割することによって、化合物103を得た。プロトンNMRおよび質量スペクトルデータは、化合物103について以上に示した構造と一致した。MS(M+H):109.2;H-NMR(400MHz,DO):重水素取り込みは、前駆体および誘導体のプロトンNMRによってメチニル位において約96%であると決定された。メチレニル位における重水素取り込みは、(記載の前駆体の純度に基づいて)約98%である。化合物103のベンジルオキシカルボニルアミノ誘導体のSFC(超臨界流体クロマトグラフィー)分析により、S-エナンチオマーの痕跡が見られないことが明らかになった。
【0271】
[実施例9]
自動パッチクランプシステム(ScreenPatch(著作権))による化合物100および非重水素化D-セリンの薬理の評価
自動パッチクランプシステム(ScreenPatch(著作権))により、ヒトNMDARサブユニットGluN1およびGluN2Aを発現するHEK293細胞を使用して、化合物100およびD-セリンによるNMDA受容体の活性化を評価した。
【0272】
増大する濃度の化合物100またはd-セリン(0.003~10μM)で細胞を処理した。ピーク電流および定常電流を測定した。NMDA受容体における活性は、2つの化合物で区別がつかなかった。D-セリンおよび化合物100による受容体の結合および活性化は、測定したどの場合も同様であった。非重水素化化合物と比べて、化合物100は、NMDARのグリシンモジュレーター部位に対してほぼ同一のインビトロ結合親和性を明示した。ラット脳皮質膜由来のNMDA受容体のグリシン部位に対する化合物100の結合親和性については、化合物100の平均Kが0.91μMであり、D-セリンの平均Kが0.95μMであった。
【0273】
代表的グラフを図14に示す。
【0274】
[実施例10]
PO投与後のSprague-Dawleyラットにおける化合物100の脳内分布の評価
雄性Sprague-Dawleyラットにおいて、化合物100の分布プロファイルを調査した。ラット(4匹)に、100mg/kgで単回用量の化合物100を(経口(PO))投与した。投与後24時間目に、灌流脳および血漿由来の組織を収集し、LC-MSによって分析した。皮質(目的の標的の位置)中の化合物100の濃度は、血漿または他の脳位置中より高いことが判明した。
【0275】
化合物100について、24時間目の血漿、皮質、脳幹、および小脳濃度を図15に示す。
【0276】
24時間目の血漿、皮質、脳幹、および小脳中の平均濃度はそれぞれ、880ng/mL、4660ng/g、721ng/g、および290ng/gであった。
【0277】
[実施例11]
4日間PO投与した後のSprague-Dawleyラット皮質対血漿中の化合物100の濃度の評価
各群雄性Sprague-Dawleyラット4匹の3群に、100mg/kgで1日当たり単回用量の化合物100を合計4日間(経口(PO))投与した。4日後、灌流脳および血漿由来の組織を、投与後24時間目(第1群)、72時間目(第2群)および120時間目(第3群)に収集し、LC-MSによって分析した。
【0278】
ラット皮質中の化合物100の濃度対100mg/kgを4日間投与した後の時間を図16に示す。
【0279】
濃度対時間のデータに基づいて、化合物100の皮質(標的の位置)中半減期(T1/2)は、12時間未満であることが示されたはるかに短い血漿T1/2とは対照的に約48時間であることが示された。この結果は、全身PKが脳内PKから切り離され、化合物100が、NMDAR活性化(またはD-セリンの増加)から恩恵を被る疾患の処置に驚くほど価値ある化合物になることを説明する。
【0280】
さらなる説明なしに、当業者は、前述の説明および具体例を用いて、本発明の化合物を作製および利用し、特許請求された方法を実施することができると考えられる。上述の考察および実施例は、いくつかの好ましい実施形態の詳細な説明を提示するものにすぎないと理解されたい。本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な修正物および均等物を作製することができることは、当業者にとって明らかであろう。

以下の態様を包含し得る。
[1] 式Iの化合物
【化32-1】
[式中、
は、-OH、-OD、-O-C 1~4 アルキル、またはアミノ酸残基であり、
は、H、D、-C 1~4 アルキル、-C(O)-C 1~6 アルキル、または-C(O)-C 1~6 ヒドロキシアルキルであり、
は、H、D、またはアミノ酸残基であり、
は、HまたはDであり、
、Y 2a およびY 2b のそれぞれは独立して、HまたはDである、ただし、Y 、Y 2a およびY 2b の少なくとも1つはDであることを条件とし、重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みは、少なくとも50.1%である]
またはその薬学的に許容される塩と、
薬学的に許容される担体と
を含む医薬組成物。
[2] R またはR がD-D-セリン残基である、上記[1]に記載の医薬組成物。
[3] 前記化合物が、式IIの化合物
【化32-2】
[式中、Y 、Y 2a およびY 2b のそれぞれは独立して、HまたはDである、ただし、Y 、Y 2a およびY 2b の少なくとも1つはDであることを条件とする]
またはその薬学的に許容される塩である、上記[1]に記載の医薬組成物。
[4] Y がDである、上記[3]に記載の医薬組成物。
[5] Y 2a およびY 2b がそれぞれHである、上記[1]から[4]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[6] Y 2a およびY 2b がそれぞれDである、上記[1]から[4]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[7] 前記化合物が、化合物100および化合物103から選択される、上記[1]に記載の医薬組成物。
【化32-3】
[8] 前記化合物が、化合物100である、上記[1]に記載の医薬組成物。
【化32-4】
[9] 重水素として具体的に指定された各位置の重水素の取り込みが、少なくとも90%である、上記[1]から[8]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[10] 重水素として指定されていないいずれの原子も、その天然同位体存在度で存在する、上記[1]から[9]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[11] 前記式Iの化合物が、少なくとも約90%の立体異性的純度を有する、上記[1]から[10]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[12] 経口投与に適している、上記[1]から[11]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[13] 前記式Iの化合物0.1g~60gを含む、上記[1]から[12]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[14] 抗精神病薬をさらに含む、上記[1]から[13]のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[15] NMDAR脳炎を処置する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の上記[1]から[13]のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与するステップを含む方法。
[16] 癲癇、NMDAR脳炎、パーキンソン病、パーキンソン病における認知欠損、アルツハイマー病、軽度認知障害、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、統合失調症、双極性障害、双極性躁病、双極性うつ病、治療抵抗性うつ病、うつ病における認知欠損、大うつ病性障害、全般不安障害、混合性の特徴を伴う大うつ病性障害、およびハンチントン病に関連する認知欠損、主観的認知機能低下、外傷性脳傷害、またはレビー小体型認知症を処置する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の上記[1]から[13]のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与するステップを含む方法。
[17] うつ病を処置する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の上記[1]から[13]のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与するステップを含む方法。
[18] NMDA受容体機能を増加させる方法であって、細胞と上記[1]から[13]のいずれか一項に記載の医薬組成物を、前記細胞におけるNMDA受容体機能が増加するように接触させるステップを含む方法。
[19] 統合失調症を処置する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の上記[1]から[14]のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与するステップを含む方法。
[20] 抗精神病治療剤を前記対象に投与するステップをさらに含む、上記[19]に記載の方法。
図1
図2
図3
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図5
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図7
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図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16