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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】光電変換素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20240710BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20240710BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20240710BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K85/50
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021035964
(22)【出願日】2021-03-08
(65)【公開番号】P2022136387
(43)【公開日】2022-09-21
【審査請求日】2023-02-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発/フィルム型超軽量モジュール太陽電池の開発(重量制約のある屋根向け)(超軽量ペロブスカイト系太陽電池の研究開発)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】志茂 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】都鳥 顕司
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/195194(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111029466(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112349848(CN,A)
【文献】国際公開第2016/208579(WO,A1)
【文献】特開2017-059651(JP,A)
【文献】LEI, Yusheng et al.,“A fabrication process for flexible single-crystal perovskite devices”,Nature,2020年07月29日,Vol. 583,pp. 790-795,DOI: 10.1038/s41586-020-2526-z
【文献】PRASANNA, Rohit et al.,“Compositional engineering of tin-lead halide perovskites for efficient and stable low band gap solar cells”,2018 IEEE 7th World Conference on Photovoltaic Energy Conversion (WCPEC) (A Joint Conference of 45th IEEE PVSC, 28th PVSEC & 34th EU PVSEC),2018年06月,pp. 1718-1720,DOI: 10.1109/PVSC.2018.8547344
【文献】FAN, Jiandong et al.,“Molecular Self-Assembly Fabrication and Carrier Dynamics of Stable and Efficient CH3NH3Pb(1-x)SnxI3 Perovskite Solar Cells”,ChemSusChem,2017年08月04日,Vol. 10,pp. 3839-3845,DOI:10.1002/cssc.201700880
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
H10K 39/00-39/38
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電層と、
第2導電層と、
前記第1導電層と前記第2導電層との間に設けられ、Sn及びPbを含む光電変換層と、
を備え、
前記光電変換層は、
第1部分領域と、
前記第1部分領域と前記第2導電層との間の第2部分領域と、
前記第2部分領域と前記第2導電層との間の第3部分領域と、
を含み、
前記第1部分領域は、第1Sn濃度及び第1Pb濃度を有し、
前記第2部分領域は、前記第1Sn濃度よりも低い第2Sn濃度、及び、前記第1Pb濃度よりも高い第2Pb濃度の少なくともいずれかを有し、
前記第3部分領域は、Sn、酸素及びPbを含み、
前記第3部分領域は、Snと酸素との結合を含み、
前記光電変換層は、複数の結晶粒を含み、
前記複数の結晶粒の1つは、ペロブスカイト型構造を有し、
前記光電変換層は、ABX で表される化合物、及び、A m-1 3m+1で表される化合物の少なくともいずれかを含み、
前記Aは、Cs、Rb、K、Na、RNH 、R NH 、及び、HC(NH よりなる群から選択された少なくとも1つを含む1価の陽イオンであり、
前記Aにおける前記Rは、水素、1以上18以下の炭素原子を含む直鎖状アルキル基、1以上18以下の炭素原子を含む分枝鎖状アルキル基、1以上18以下の炭素原子を含む環状アルキル基、置換のアリール基、非置換のアリール基、置換のヘテロアリール基、及び、非置換のヘテロアリール基よりなる群から選択された少なくとも1つの1価基であり、
前記Aは、RHN 、R NH 、C(NH 、及び、RNH よりなる群から選択された少なくとも1つを含む1価陽イオンであり、
前記Aにおける前記Rは、置換のアリール基、非置換のアリール基、置換のヘテロアリール基、及び、非置換のヘテロアリール基よりなる群から選択された少なくとも1つの1価基であり、
前記Bは、Pb 及びSn よりなる群から選択された少なくとも1つを含む2価陽イオンであり、
前記Xは、F、Cl、Br、I、SCN、及び、CHCOOよりなる群から選択された少なくとも1つの1価陰イオンであり、
前記mは、1以上20以下の整数であり、
前記第1部分領域は、酸素を含まない、または、前記第1部分領域における酸素の濃度は、前記第3部分領域における酸素濃度の1/100以下であり、
前記第2部分領域は、酸素を含まない、または、前記第2部分領域における酸素の濃度は、前記第3部分領域における前記酸素濃度の1/100以下であり、
前記第3部分領域の厚さは、前記第1導電層から前記第2導電層への第1方向に沿う前記第1部分領域の厚さよりも薄く、かつ、前記第1方向に沿う前記第2部分領域の厚さよりも薄い、光電変換素子。
【請求項2】
前記第3部分領域は、Pbとヨウ素との結合を含む、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記光電変換層と前記第2導電層との間に設けられた第2導電層側中間層をさらに備え、
前記第3部分領域は、前記第2導電層側中間層と接する、請求項1または2に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光電変換素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、光電変換素子において、特性の向上が求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Nature, 30 July 2020, Vol. 583, pp.790-795.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、特性を向上可能な光電変換素子及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、光電変換素子は、第1導電層と、第2導電層と、前記第1導電層と前記第2導電層との間に設けられ、Sn及びPbを含む光電変換層と、を含む。前記光電変換層は、第1部分領域と、前記第1部分領域と前記第2導電層との間の第2部分領域と、前記第2部分領域と前記第2導電層との間の第3部分領域と、を含む。前記第1部分領域は、第1Sn濃度及び第1Pb濃度を有する。前記第2部分領域は、前記第1Sn濃度よりも低い第2Sn濃度、及び、前記第1Pb濃度よりも高い第2Pb濃度の少なくともいずれかを有する。前記第3部分領域は、Sn、酸素及びPbを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1実施形態に係る光電変換素子を例示する模式的断面図である。
図2図2は、第1実施形態に係る光電変換素子を例示する電子顕微鏡写真像である。
図3図3(a)~図3(c)は、第1実施形態に係る光電変換素子を例示するグラフ図である。
図4図4(a)及び図4(b)は、第1実施形態に係る光電変換素子を例示するグラフ図である。
図5図5(a)及び図5(b)は、第1実施形態に係る光電変換素子を例示するグラフ図である。
図6図6は、第1実施形態に係る光電変換素子を例示するグラフ図である。
図7図7は、光電変換素子の特性を例示するグラフ図である。
図8図8は、光電変換素子の特性を例示するグラフ図である。
図9図9は、第2実施形態に係る光電変換素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図10図10は、第2実施形態に係る光電変換素子の製造方法で用いられる塗布装置を例示する模式的側面図である。
図11図11は、光電変換素子の製造方法に関する特性を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚さと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る光電変換素子を例示する模式的断面図である。
図1に示すように、実施形態に係る光電変換素子110は、第1導電層21、第2導電層22、及び、光電変換層10を含む。光電変換層10は、第1導電層21と第2導電層22との間に設けられる。光電変換層10は、Sn及びPbを含む。後述するように、例えば、光電変換層10は、Sn及びPbを含むペロブスカイト型結晶構造を有する。
【0009】
光電変換層10は、第1部分領域11、第2部分領域12及び第3部分領域13を含む。光電変換層10は、第4部分領域14をさらに含んでも良い。第2部分領域12は、第1部分領域11と第2導電層22との間に設けられる。第3部分領域13は、第2部分領域12と第2導電層22との間に設けられる。第4部分領域14は、第1部分領域11と第2部分領域12との間に設けられる。これらの部分領域の間の境界は不明確で良い。これらの部分領域は、互いに連続して良い。
【0010】
図1に示すように、光電変換素子110は、第2導電層側中間層32をさらに含んでも良い。第2導電層側中間層32は、光電変換層10と第2導電層22との間に設けられる。例えば、第3部分領域13は、第2導電層側中間層32と接して良い。第2導電層側中間層32は、例えば、電子輸送層として機能して良い。
【0011】
図1に示すように、光電変換素子110は、第1導電層側中間層31をさらに含んでも良い。第1導電層側中間層31は、第1導電層21と光電変換層10との間に設けられる。例えば、第1部分領域11は、第1導電層側中間層31と接して良い。第1導電層側中間層31は、例えば、正孔輸送層として機能して良い。
【0012】
図1に示すように、光電変換層10は、第1面10a及び第2面10bを含んで良い。第1面10aと第2導電層22との間に第2面10bがある第1面10aは、第1導電層21の側の面である。第2面10bは、第2導電層22の側の面である。第1部分領域11は、第1面10aを含んで良い。第3部分領域13は、第2面10bを含んで良い。
【0013】
例えば、基体25が設けられても良い。1つの例において、基体25は、例えば、無機材料を含む。基体25は、例えば、ガラス基板などで良い。別の例において、基体25は有機材料を含む。基体25は、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートよりなる群から選択された少なくとも1つを含む。基体25の上に、第1導電層21、光電変換層10及び第2導電層22が設けられる。
【0014】
第1導電層21から第2導電層22への第1方向をZ軸方向とする。Z軸方向に対して垂直な1つの方向をX軸方向とする。Z軸方向及びX軸方向に対して垂直な方向をY軸方向とする。第1導電層21、第2導電層22、光電変換層10、第1導電層側中間層31、第2導電層側中間層32及び基体25は、X-Y平面に沿って広がる。
【0015】
例えば、第1導電層21及び第2導電層22の一方の側から光電変換層10に光が入射する。光が光電変換層10において電気信号に変換される。
【0016】
図2は、第1実施形態に係る光電変換素子を例示する電子顕微鏡写真像である。
図2は、光電変換層10のSEM(Scanning Electron Microscope)像である。図2に示すように、光電変換層10は、複数の結晶粒10Gを含んで良い。複数の結晶粒10Gの1つは、ペロブスカイト型構造を有する。複数の結晶粒10Gのそれぞれは、ペロブスカイト型構造を有する。ペロブスカイト型構造は、Sn及びPbを含む。複数の結晶粒10Gを含む構造は、例えば、塗布法などにより形成できる。複数の結晶粒10Gの1つの大きさ(例えば1つの方向に沿う長さ)は、例えば、100nm以上3μm以下程度である。大面積の光電変換素子が容易に得られる。
【0017】
実施形態において、光電変換層10における元素の組成(濃度)が第1方向に沿って変化する。以下、元素の濃度の変化の例について説明する。
【0018】
図3(a)~図3(c)は、第1実施形態に係る光電変換素子を例示するグラフ図である。
これらの図の横軸は、Z軸方向に置ける位置pZである。図3(a)の縦軸は、Snの濃度C(Sn)である。図3(b)の縦軸は、Pbの濃度の濃度C(Pb)である。図3(c)の濃度は、酸素の濃度C(O)である。これらの図は、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)による分析結果に基づいている。試料において、第1導電層21は、ITO(Indium-Tin Oxide)である。第1導電層側中間層31は、有機膜である。
【0019】
図3(a)に示すように、Snの濃度C(Sn)は、Z軸方向に沿って変化する。図3(b)に示すように、Pbの濃度C(Pb)は、Z軸方向に沿って変化する。図3(c)に示すように、酸素の濃度C(O)は、第3部分領域13において、局所的に高い。
【0020】
図3(a)及び図3(b)に示すように、例えば、第1部分領域11は、第1Sn濃度Sn1及び第1Pb濃度Pb1を有する。例えば、第2部分領域12は、第2Sn濃度Sn2及び第2Pb濃度Pb2を有する。例えば、第2Sn濃度Sn2は、第1Sn濃度Sn1よりも低い。例えば、第2Pb濃度Pb2は、第1Pb濃度Pb1よりも高い。このように、第2部分領域12は、第1Sn濃度Sn1よりも低い第2Sn濃度Sn2、及び、第1Pb濃度Pb1よりも高い第2Pb濃度Pb2の少なくともいずれかを有する。
【0021】
図3(a)~図3(c)に示すように、第3部分領域13は、Sn、酸素及びPbを含む。
図4(a)及び図4(b)は、第1実施形態に係る光電変換素子を例示するグラフ図である。
これらの図は、第3部分領域13のXPS分析結果を例示している。これらの図の横軸は結合エネルギーBE1である。縦軸は、信号の強度Int(例えば、Count/sec)である。
【0022】
図4(a)に示すように、494.0eV以上497.0eV以下の範囲にピークが観測される。このピークは、Snと酸素との結合に対応する。485.0eV以上488.0eV以下の範囲にピークが観測されても良い。第3部分領域13は、酸化スズ(SnO)を含む。
【0023】
図4(b)に示すように、137.5以上139.0eV以下の範囲、及び、142.5eV以上144.0eV以下の範囲にピークが観測される。これらのピークは、Pbに対応する。142.5eV以上144.0eV以下の範囲にピークは、Pbとヨウ素との結合に対応する。第3部分領域13は、Pbを含む。第3部分領域13は、ヨウ化鉛を含む。
【0024】
図5(a)及び図5(b)は、第1実施形態に係る光電変換素子を例示するグラフ図である。
これらの図は、第3部分領域13のTOF―SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)分析結果を例示している。これらの図の横軸は、質量電荷比m/zである。縦軸は、信号の強度Int(例えば、Counts)である。
【0025】
図5(a)に示すように、質量電荷比m/zが152である位置に、ピークが観測される。このピークは、酸化スズ(SnO)に対応する。質量電荷比m/zが136である位置にシグナル(SnOに対応するピーク)が観測される場合があっても良い。第3部分領域13は、酸化スズ(SnO)を含む。
【0026】
図5(b)に示すように、質量電荷比m/zが584以上590以下の範囲に、複数のピークが観測される。これらのピークは、ヨウ化鉛(PbI)に対応する。質量電荷比m/zが457以上463以下の範囲に複数のシグナル(PbIに対応する)が観測される場合があっても良い。質量電荷比m/zが330以上336以下の範囲に複数のシグナル(PbIに対応する)が観測される場合があっても良い。
【0027】
第3部分領域13に関する情報は、例えば、XPS分析により得られて良い。第3部分領域13に関する情報は、例えば、TOF―SIMS分析により得られても良い。
【0028】
このように、第3部分領域13は、Sn、酸素及びPbを含む。このような構成を有する光電変換層10において、高い変換効率が得られることが分かった。
【0029】
例えば、Sn及びPbの組成比を変化させることで、ペロブスカイト化合物の特性が変化すると考えられる。例えば、Sn及びPbの組成比を変化させることで、バンドギャップ、イオン化ポテンシャル、及び、電子親和力の少なくともいずれかが変化すると考えられる。イオン化ポテンシャルは、真空準位と、価電子帯のエネルギー準位と、の差の絶対値に対応する。電子親和力は、真空準位と、伝導帯のエネルギー準位と、の差の絶対値に対応する。例えば、Snの濃度が高くなることで、イオン化ポテンシャル及び電子親和力が小さくなると考えられる。
【0030】
図3(a)及び図3(b)に例示するプロファイルにより、例えば、光励起によって生じた正孔を第1導電層21に向かって効率的に移動させ易くなる。例えば、光励起によって生じた電子を第2導電層22に向かって効率的に移動させやすくなると考えられる。これにより、電流取り出し効率が向上する。例えば、短絡電流密度が向上する。これにより、変換効率が向上する。
【0031】
第3部分領域13においては、Pbを含む構造に加えて、酸化スズを含む。酸化スズは、n形半導体として機能できる。第3部分領域13が酸化スズを含むことで、例えば、光励起で生成された電子が、第2導電層22に向かってより移動し易くなると考えられる。例えば、短絡電流密度が向上する。これにより、高い変換効率が得られる。実施形態によれば、特性を向上可能な光電変換素子を提供できる。第3部分領域13含まれる酸化スズの少なくとも一部は、例えば、アモルファスで良い。第3部分領域13含まれる酸化スズの少なくとも一部は、例えば、結晶を含んでも良い。
【0032】
このような元素のプロファイル及び酸化スズは、例えば、光電変換層10を塗布により形成する際に、表面に酸素を含むガスを供給することで形成できる。既に説明したように、光電変換層10は複数の結晶粒10Gを含む。第3部分領域13において、複数の結晶粒10Gのそれぞれの表面に酸素及びスズを含む構造が形成されても良い。これにより、例えば、より高い効率が得易くなる。
【0033】
例えば、単結晶のペロブスカイトの光電変換層の参考例がある。この参考例において、単結晶の光電変換層を形成した後に、電子輸送層として酸化スズ層を形成される場合が考えられる。この場合、酸化スズは、単結晶の光電変換層の中に侵入することが困難である。このため、ペロブスカイト中のPbと、酸化スズと、が検出される領域は形成されない。
【0034】
酸化スズ及びPbが検出される領域(第3部分領域13)は、複数の結晶粒10Gを含む光電変換層10に特有である。
【0035】
図3(a)に示すように、酸素を含む領域(第3部分領域13)は、局所的に設けられて良い。例えば、第1部分領域11は、酸素を含まない。または、第1部分領域11における酸素の濃度は、第3部分領域13における酸素濃度の1/100以下である。例えば、第2部分領域12は、酸素を含まない。または、第2部分領域12における酸素の濃度は、第3部分領域13における酸素濃度の1/100以下である。例えば、第1部分領域11及び第2部分領域12が酸素を含まないことで、例えば良好な結晶構造が維持し易い。
【0036】
図3(c)に示すように、第1導電層21から第2導電層22への第1方向(Z軸方向)に沿う第3部分領域13の厚さを厚さt13とする。厚さt13は、薄くて良い。厚さt13は、例えば、第1方向に沿う光電変換層10の厚さt10(図1参照)の0.1%以上5%以下である。第3部分領域13の厚さt13は、例えば、1nm以上20nm以下である。
【0037】
第3部分領域13の厚さt13は、第1方向(Z軸方向)に沿う第1部分領域11の厚さt11よりも薄い。厚さt13は、第1方向(Z軸方向)に沿う第2部分領域12の厚さt12よりも薄い。既に説明したように、光電変換層10は、第4部分領域14を含んでも良い。厚さt13は、第1方向(Z軸方向)に沿う第4部分領域14の厚さt14よりも薄い。
【0038】
図3(a)に示すように、第4部分領域14におけるSnの濃度C(Sn)の第1方向(Z軸方向)の位置の変化に対する変化率は、第1部分領域11におけるSnの濃度C(Sn)の第1方向(Z軸方向)の位置の変化に対する変化率よりも低い。第4部分領域14におけるSnの濃度C(Sn)の第1方向(Z軸方向)の位置の変化に対する変化率は、第2部分領域12におけるSnの濃度C(Sn)の第1方向(Z軸方向)の位置の変化に対する変化率よりも低い。
【0039】
第4部分領域14におけるPbの濃度C(Pb)の第1方向(Z軸方向)の位置の変化に対する変化率は、第2部分領域12におけるPbの濃度C(Pb)の第1方向(Z軸方向)の位置の変化に対する変化率よりも低い。
【0040】
図6は、第1実施形態に係る光電変換素子を例示するグラフ図である。
図6の横軸は、Z軸方向に置ける位置pZである。図6の縦軸は、比Rt1である。光電変換層10における平均のSn濃度の、光電変換層における平均のPb濃度に対する比を平均組成比Xaveとする。位置pZにおけるSnの濃度C(Sn)のPbの濃度C(Pb)に対する比を比X(pZ)とする。比Rt1は、比X(pZ)の平均組成比Xaveに対する比である。この例では、平均組成比Xaveは、0.431である。
【0041】
図6に示すように、第1部分領域11における比Rt1は、1よりも高い。第2部分領域12における比Rt1は、1よりも低い。
【0042】
実施形態において、第1部分領域11の少なくとも一部におけるSnの濃度のPbの濃度に対する比Rt1は、光電変換層10における平均のSnの濃度の光電変換層10における平均のPbの濃度に対する平均組成比Xaveの1.2倍以上である。
【0043】
第2部分領域12の少なくとも一部におけるSnの濃度のPbの濃度に対する比Rt1は、光電変換層10における平均のSnの濃度の光電変換層10における平均のPbの濃度に対する平均組成比Xaveの0.8倍以下である。
【0044】
このような組成比のプロファイルが設けられることで、高い変換効率が得易い。
【0045】
図7及び図8は、光電変換素子の特性を例示するグラフ図である。
図7は、第1試料に対応する。図8は、第2試料に対応する。第1試料において、光電変換層10は、図3(a)~図3(c)に例示した構成を有する。第1試料において、光電変換層10は、上記の第1~第4部分領域11~14を含む。第3部分領域13は、Sn、酸素及びPbを含む。第3部分領域13は、酸化スズを含む。第1試料は、光電変換層10となる液体膜を塗布により形成した後に、液体膜に向けて酸素を含むガスを供給し、その後、固体化することで、形成される。
【0046】
第2試料において、光電変換層10は、Sn、酸素及びPbを含む第3部分領域13を含まない。第2試料は、光電変換層10となる液体膜を塗布により形成した後に、液体膜に向けて酸素を実質的に含まないガスを供給し、その後、固体化することで、形成される。第1試料及び第2試料において、Snの濃度及びPbの濃度は、図3(a)及び図3(b)に例示したプロファイルを有する。図7及び図8の横軸は、印加電圧V1である。縦軸は、電流密度J1である。
【0047】
図7に示す第1試料において、変換効率ηは17.8%である。短絡電流密度Iscは、26.8mA/cmである。開放電圧Vocは、0.87Vである。形状因子FFは、0.76である。
【0048】
図8に示す第2試料において、変換効率ηは16.6%である。短絡電流密度Iscは、25.6mA/cmである。開放電圧Vocは、0.87Vである。形状因子FFは、0.75である。
【0049】
第1試料及び第2試料の比較から分かるように、Sn、酸素及びPbを含む第3部分領域13が設けられることで、高い変換効率が得られる。
【0050】
実施形態において、光電変換層10は、ABX で表される化合物、及び、A m-1 3m+1で表される化合物の少なくともいずれかを含む。上記の「A」は、Cs、Rb、K、Na、RNH 、R NH 、及び、HC(NH よりなる群から選択された少なくとも1つを含む1価の陽イオンである。「A」における「R」は、水素、1以上18以下の炭素原子を含む直鎖状アルキル基、1以上18以下の炭素原子を含む分枝鎖状アルキル基、1以上18以下の炭素原子を含む環状アルキル基、置換のアリール基、非置換のアリール基、置換のヘテロアリール基、及び、非置換のヘテロアリール基よりなる群から選択された少なくとも1つの1価基である。上記の「A」は、RHN 、R NH 、C(NH 、及び、RNH よりなる群から選択された少なくとも1つを含む1価陽イオンである。「A」における「R」は、置換のアリール基、非置換のアリール基、置換のヘテロアリール基、及び、非置換のヘテロアリール基よりなる群から選択された少なくとも1つの1価基である。上記の「B」は、Pb 及びSn よりなる群から選択された少なくとも1つを含む2価陽イオンである。上記の「B」は、Geをさらに含んでも良い。上記の「X」は、F、Cl、Br 、I、SCN、及び、CHCOOよりなる群から選択された少なくとも1つの1価陰イオンである。上記の「m」は、1以上20以下の整数である。
【0051】
実施形態において、光電変換層10は、以下の第1化合物をさらに含んでも良い。第1化合物は、例えば、ピロリドン誘導体、尿素誘導体、イミダール誘導体、ピリジン誘導体及びジアミン誘導体よりなる群から選択された少なくとも1つを含む。第1化合物は、例えば、光電変換層10を塗布により形成する際の溶液に含まれる。第1化合物により、ペロブスカイト型化合物の複数の結晶粒10Gの間の隙間が小さくなり、または、実質的に無くなり、密な結晶領域が得易い。高い変換効率が得やすくなる。
【0052】
実施形態において、光電変換層10の厚さt10(図1参照)は、例えば、30nm以上1000nm以下である。厚さt11が30nm以上であることで、例えば、光を効率よく吸収でき、高い短絡電流密度が得られる。厚さt11が1000nm以下であることで、例えば、キャリア輸送距離が過度に長くなることが抑制される。例えば、変換効率の低下が抑制できる。
【0053】
第1導電層側中間層31の厚さt31(図1参照)は、例えば、1nm以上200nm以下である。第2導電層側中間層32の厚さt32(図1参照)は、例えば、1nm以上200nm以下である。厚さt11、厚さt31、及び、厚さt32は、Z軸方向に沿う長さである。
【0054】
第2導電層側中間層32は、例えば、ポリアニリン、ポリアニリンの誘導体、ポリチオフェン、ポリチオフェンの誘導体、ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンの誘導体、フラーレン、フラーレンの誘導体、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化バナジウム、酸化ニッケル、酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化セシウム、ヨウ化銅、チオシアン酸銅、フッ化リチウム(LiF)、及び、金属カルシウムよりなる群から選択された少なくとも1つを含む。
【0055】
第1導電層側中間層31は、例えば、ポリアニリン、ポリアニリンの誘導体、ポリチオフェン、ポリチオフェンの誘導体、及び、ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)よりなる群から選択された少なくとも1つを含む。第1導電層側中間層31は、例えば、フラーレンを含んでも良い。第1導電層側中間層31は、例えば、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンの誘導体、フラーレンの誘導体、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化バナジウム、酸化ニッケル、酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化セシウム、ヨウ化銅、チオシアン酸銅、フッ化リチウム(LiF)、及び、金属カルシウムよりなる群から選択された少なくとも1つを含んでも良い。
【0056】
第1導電層側中間層31及び第2導電層側中間層32は、例えば、蒸着法、及び、印刷法の少なくともいずれかにより形成できる。
【0057】
第1導電層21は、例えば、金属酸化物を含む。金属酸化物は、例えば、インジウム、亜鉛及びスズよりなる群から選択された少なくとも1つと、酸素と、を含む。第1導電層21は、例えば、金、白金、銀、銅、コバルト、ニッケル、インジウム及びアルミニウムよりなる群から選択された少なくとも1つを含んでも良い。1つの例において、第1導電層21の光透過率は、第2導電層22の光透過率よりも高い。光透過率は、例えば、可視光に対する透過率で良い。
【0058】
第2導電層22は、例えば、銀、金、アルミニウム、銅、チタン、白金、ニッケル、スズ、亜鉛、クロム、及び、リチウムよりなる群から選択された少なくとも1つを含む。第2導電層22は、例えば、金属酸化物を含んでも良い。第2導電層22は、例えば、導電性高分子、グラフェン、及び、カーボンナノチューブよりなる群から選択された少なくとも1つを含んでも良い。
【0059】
基体25は、例えば、光透過性でも良い。基体25は、例えば、樹脂及びガラスよりなる群から選択された少なくとも1つを含んでも良い。基体25の表面は、凹凸を含んでも良い。外部からの光を効率良く入射させることができる。
【0060】
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態に係る光電変換素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図10は、第2実施形態に係る光電変換素子の製造方法で用いられる塗布装置を例示する模式的側面図である。
図10に示すように、塗布装置310は、例えば、支持部61、塗布バー62、塗布液供給部63及びガス供給部65を含む。支持部61は、被塗布体50を支持可能である。被塗布体50は、例えば、基体25と第1導電層21とを含む。被塗布体50は、第1導電層側中間層31をさらに含んでも良い。被塗布体50の表面に、塗布が行われる。支持部61は、例えば、ステージなどで良い。この例では、塗布バー62は、支持部61の上方に設けられる。
【0061】
塗布液供給部63は、塗布バー62及び被塗布体50の少なくともいずれかに向けて塗布液55を供給する。塗布液供給部63は、塗布バー62と被塗布体50との間に、塗布液55を含むメニスカス55Mを形成して、塗布液55を被塗布体50に塗布可能である。塗布液供給部63は、例えば、シリンジなどを含んでも良い。
【0062】
例えば、塗布バー62は、矢印AR1に沿って、支持部61(すなわち、被塗布体50)と、相対的に移動可能である。支持部61(すなわち、被塗布体50)が、矢印AR2に沿って、塗布バー62と、相対的に移動可能でも良い。移動に伴って、メニスカス55Mの塗布液55が被塗布体50に塗布される。これにより、被塗布体50の表面に、塗布液55による塗布膜56が形成される。
【0063】
ガス供給部65は、被塗布体50に塗布された塗布液55(すなわち、塗布膜56)に向けて、ガス64を供給可能である。ガス64により、塗布膜56中の溶媒が気化して、塗布膜56は、固体化する。その後、必要に応じて、熱処理などが行われても良い。これにより、塗布液55に基づく層(例えば光電変換層10)が得られる。
【0064】
図9に示すように、実施形態に係る光電変換素子の製造方法においては、塗布液55を被塗布体50に塗布する(ステップS110)。塗布液55は、光電変換層10となるペロブスカイト前駆体と、溶媒と、を含む。塗布液55は、上記の第1化合物を含むことが好ましい。塗布において、このような塗布液55を含むメニスカス55Mを塗布バー62と被塗布体50との間に形成して、塗布液55を被塗布体50に塗布する。
【0065】
実施形態に係る光電変換素子の製造方法においては、被塗布体50に塗布された塗布液55(すなわち、塗布膜56)に向けてガス64を供給する(ステップS120)。塗布液55から光電変換層10が形成される。
【0066】
酸素を含むガス64を塗布膜56に供給することで、Snと酸素とPbとを含む第3部分領域13を形成できる。
【0067】
ガス64は、酸素に加えて、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン及び空気よりなる群から選択された少なくとも1つを含む。
【0068】
実施形態において、ガス64の流速は、例えば、4m/s以上である。「ガス64の流速」は、塗布膜56に向けて供給されるガス64の最大風速で定義される。例えば、塗布液55の表面の近傍におけるガス64の最大風速は、4m/s以上である。実施形態に係る光電変換素子の製造方法により、塗布液55から光電変換層10が形成される。
【0069】
4ms/s以上の流速により、例えば、複数の結晶領域の間に隙間が生じることを抑制できる。例えば、密な光電変換層10が得易い。
【0070】
図11は、光電変換素子の製造方法に関する特性を例示するグラフ図である。
図11の横軸は、ガス64の流速vg1である。縦軸は、700nmの波長における光電変換層10の吸光度Ab1である。吸光度Ab1が高いことは、光電変換層10において、複数の結晶領域の間の隙間が小さいことに対応する。図11に示すように、流速vg1が4m/s未満のときに、吸光度Ab1が低い。流速vg1が4m/s以上において高い吸光度Ab1が得られる。実施形態において、例えば、流速vg1が4m/s以上であることが好ましく、6m/sであることがより好ましく、8m/s以上であることがさらに好ましい。流速vg1は、例えば、40m/s以下である。流速vg1は、30m/s以下であることがより好ましく、25m/s以下であることがさらに好ましい。流速vg1が40m/s以下であることで、例えば、塗布液55の飛散が抑制できる。
【0071】
溶媒の沸点は、例えば、200℃以下である。沸点は、165℃以下でも良い。沸点は、140℃以下でも良い。これにより、例えば、複数の結晶領域の間に隙間が生じることを抑制できる。例えば、密な光電変換層10が得易い。
【0072】
実施形態において、塗布液55を被塗布体50に塗布することは、被塗布体50と塗布バー62とを相対的に移動させることを含む。相対的な移動の速度は、例えば、20mm/s以上である。相対的な移動の速度が20mm/s以上であることで、例えば、高い生産性が得られる。相対的な移動の速度が200mm/s以下でも良い。これにより、被塗布体50上への塗布液55の過剰な供給が抑えられ、例えば溶媒の乾燥が遅くなることを抑制できる。例えば、相対的な移動の速度が200mm/sを超えると、平坦性が低く、結晶領域間の隙間が目立つ。
【0073】
図10に示すように、ガス64の供給の向きは、被塗布体50の相対的な移動方向に沿っている。例えば、均一な塗布膜56が得やすい。
【0074】
実施形態において、第1化合物は、例えば、ピロリドン誘導体、尿素誘導体、イミダール誘導体、ピリジン誘導体及びジアミン誘導体よりなる群から選択された少なくとも1つを含む。これにより、均一で安定した塗布液55が得られる。例えば、塗布液55から形成された光電変換層10において、高い変換効率が得られる。実施形態によれば、特性を向上可能な光電変換素子のための光電変換素子の製造方法が提供できる。
【0075】
図10に示すように、支持部61と塗布バー62との間の距離(例えば、最短距離)を距離dzとする。距離dzは、塗布バー62と被塗布体50との相対的な移動に応じて、変更可能でも良い。例えば、塗布領域の端部と、塗布領域の中央部と、で距離dzを変化させても良い。これにより、塗布膜56の厚さがより均一にできる。
【0076】
例えば、支持部61から塗布バー62に向かう方向をZa方向とする。Za方向に対して垂直な1つの方向をXa方向とする。Za方向及びXa方向に対して垂直な方向をYa方向とする。距離dzは、Za方向に沿う長さである。相対的な移動の方向(例えば、矢印AR1または矢印AR2)は、Xa方向に沿う。
【0077】
実施形態において、塗布液55は、例えば、ヨウ化鉛(PbI)(231mg)と、ヨウ化スズ(SnI)(186mg)と、ヨウ化メチルアンモニウム(CHNHI:MAI)(152mg)と、N―メチルピロリドン(20mg)と、アセトン(0.63mL)と、N,N-ジメチルホルムアミド(0.42mL)と、を含む。ヨウ化鉛(PbI)、ヨウ化スズ(SnI)、及び、ヨウ化メチルアンモニウム(CHNHI:MAI)は、光電変換層10となるペロブスカイト前駆体の例である。
【0078】
実施形態に係る光電変換素子は、例えば、太陽電池、発光素子、または、光センサ等に応用できる。光電変換素子の光電変換材料として、例えば、ペロブスカイト化合物が用いられる。光電変換層を塗布により形成することで、例えば、大面積の光電変換層を低コストで得られる。実施形態によれば、ペロブスカイト化合物の溶液を1段階で塗布できる。
【0079】
実施形態は、以下の構成(例えば技術案)を含んでも良い。
(構成1)
第1導電層と、
第2導電層と、
前記第1導電層と前記第2導電層との間に設けられ、Sn及びPbを含む光電変換層と、
を備え、
前記光電変換層は、
第1部分領域と、
前記第1部分領域と前記第2導電層との間の第2部分領域と、
前記第2部分領域と前記第2導電層との間の第3部分領域と、
を含み、
前記第1部分領域は、第1Sn濃度及び第1Pb濃度を有し、
前記第2部分領域は、前記第1Sn濃度よりも低い第2Sn濃度、及び、前記第1Pb濃度よりも高い第2Pb濃度の少なくともいずれかを有し、
前記第3部分領域は、Sn、酸素及びPbを含む、光電変換素子。
【0080】
(構成2)
前記第3部分領域は、Snと酸素との結合を含む、構成1記載の光電変換素子。
【0081】
(構成3)
前記第3部分領域は、Pbとヨウ素との結合を含む、構成1または2に記載の光電変換素子。
【0082】
(構成4)
前記光電変換層は、複数の結晶粒を含む、構成1~3のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【0083】
(構成5)
前記複数の結晶粒の1つは、ペロブスカイト型構造を有する、構成4記載の光電変換素子。
【0084】
(構成6)
前記第1部分領域の少なくとも一部におけるSnの濃度のPbの濃度に対する比は、前記光電変換層における平均のSnの濃度の前記光電変換層における平均のPbの濃度に対する平均組成比の1.2倍以上である、構成1~5のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【0085】
(構成7)
前記第2部分領域の少なくとも一部におけるSnの濃度のPbの濃度に対する比は、前記光電変換層における平均のSnの濃度の前記光電変換層における平均のPbの濃度に対する平均組成比の0.8倍以下である、構成1~5のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【0086】
(構成8)
前記光電変換層は、前記第1部分領域と前記第2部分領域との間の第4部分領域をさらに含み、
前記第4部分領域におけるSnの濃度の前記第1導電層から前記第2導電層への第1方向の位置の変化に対する変化率は、前記第1部分領域11におけるSnの濃度の前記第1方向の位置の変化に対する変化率よりも低く、
前記第4部分領域におけるSnの濃度の前記第1方向の位置の変化に対する前記変化率は、前記第2部分領域におけるSnの濃度の前記第1方向の位置の変化に対する変化率よりも低い、構成1~7のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【0087】
(構成9)
前記第1部分領域は、酸素を含まない、または、前記第1部分領域における酸素の濃度は、前記第3部分領域における酸素濃度の1/100以下であり、
前記第2部分領域は、酸素を含まない、または、前記第2部分領域における酸素の濃度は、前記第3部分領域における前記酸素濃度の1/100以下である、構成1~5のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【0088】
(構成10)
前記第1導電層から前記第2導電層への第1方向に沿う前記第3部分領域の厚さは、前記第1方向に沿う前記光電変換層の厚さの0.1%以上5%以下である、構成1~9のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【0089】
(構成11)
前記第1導電層から前記第2導電層への第1方向に沿う前記第3部分領域の厚さは、1nm以上20nm以下である、構成1~9のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【0090】
(構成12)
前記第1導電層から前記第2導電層への第1方向に沿う前記第3部分領域の厚さは、前記第1方向に沿う前記第1部分領域の厚さよりも薄く、前記第1方向に沿う前記第2部分領域の厚さよりも薄い、構成1~9のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【0091】
(構成13)
前記光電変換層と前記第2導電層との間に設けられた第2導電層側中間層をさらに備え、
前記第3部分領域は、前記第2導電層側中間層と接する、構成1~12のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【0092】
(構成14)
前記第2導電層側中間層は、ポリアニリン、ポリアニリンの誘導体、ポリチオフェン、ポリチオフェンの誘導体、ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンの誘導体、フラーレン、フラーレンの誘導体、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化バナジウム、酸化ニッケル、酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化セシウム、ヨウ化銅、チオシアン酸銅、フッ化リチウム(LiF)、及び、金属カルシウムよりなる群から選択された少なくとも1つを含む、構成13記載の光電変換素子。
【0093】
(構成15)
前記光電変換層は、ABX で表される化合物、及び、A m-1 3m+1で表される化合物の少なくともいずれかを含み、
前記Aは、Cs、Rb、K、Na、RNH 、R NH 、及び、HC(NH よりなる群から選択された少なくとも1つを含む1価の陽イオンであり、
前記Aにおける前記Rは、水素、1以上18以下の炭素原子を含む直鎖状アルキル基、1以上18以下の炭素原子を含む分枝鎖状アルキル基、1以上18以下の炭素原子を含む環状アルキル基、置換のアリール基、非置換のアリール基、置換のヘテロアリール基、及び、非置換のヘテロアリール基よりなる群から選択された少なくとも1つの1価基であり、
前記Aは、RHN 、R NH 、C(NH 、及び、RNH よりなる群から選択された少なくとも1つを含む1価陽イオンであり、
前記Aにおける前記Rは、置換のアリール基、非置換のアリール基、置換のヘテロアリール基、及び、非置換のヘテロアリール基よりなる群から選択された少なくとも1つの1価基であり、
前記Bは、Pb 、及び、Sn よりなる群から選択された少なくとも1つを含む2価陽イオンであり、
前記Xは、F、Cl、Br 、I、SCN、及び、CHCOOよりなる群から選択された少なくとも1つの1価陰イオンであり、
前記mは、1以上20以下の整数である、構成1~14のいずれか1つに記載の光電変換素子。
【0094】
(構成16)
光電変換層となるペロブスカイト前駆体と、溶媒と、を含む塗布液を含むメニスカスを塗布バーと被塗布体との間に形成して、前記塗布液を前記被塗布体に塗布し、
前記被塗布体に塗布された前記塗布液に向けて酸素を含むガスを供給し、
前記塗布液から光電変換層を形成する、光電変換素子の製造方法。
【0095】
(構成17)
前記ガスは、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン及び空気よりなる群から選択された少なくとも1つを含む、構成16記載の光電変換素子の製造方法。
【0096】
(構成18)
前記溶媒の沸点は、200℃以下である、構成16または17に記載の光電変換素子の製造方法。
【0097】
(構成19)
前記塗布液を前記被塗布体に前記塗布することは、前記被塗布体と前記塗布バーとを相対的に移動させることを含み、
前記相対的な前記移動の速度は、20mm/s以上である、構成16~18のいずれか1つに記載の光電変換素子の製造方法。
【0098】
(構成20)
前記ガスの前記供給の向きは、前記被塗布体の相対的な移動方向に沿っている、構成16~19のいずれか1つに記載の光電変換素子の製造方法。
【0099】
実施形態によれば、特性を向上可能な光電変換素子及びその製造方法を提供することができる。
【0100】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、光電変換素子に含まれる導電層及び光電変換層などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0101】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0102】
その他、本発明の実施の形態として上述した光電変換素子及びその製造方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての光電変換素子及びその製造方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0103】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと解される。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0105】
10…光電変換層、 10G…結晶粒、 10a、10b…第1、第2面、 11~14…第1~第4部分領域、 21、22…第1、第2導電層、 25…基体、 31、32…第1、第2導電層側中間層、 50…被塗布体、 55…塗布液、 55M…メニスカス、 56…塗布膜、 61…支持部、 62…塗布バー、 63…塗布液供給部、 64…ガス、 65…ガス供給部、 110…光電変換素子、 310…塗布装置、 AR1、AR2…矢印、 Ab1…吸光度、 BE1…結合エネルギー、 C(O)、C(Pb)、C(Sn)…濃度、 Int…強度、 J1…電流密度、 Pb1、Pb2…第1、第2Pb濃度、 Rt1…比、 Sn1、Sn2…第1、第2Sn濃度、 V1…印加電圧、 dz…距離、 m/z…質量電荷比、 pZ…位置、 t10~t14、t31、t32…厚さ、 vg1…流速
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11