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特許7518794補強構造一挙埋入式有床義歯とその製作方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】補強構造一挙埋入式有床義歯とその製作方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/01 20060101AFI20240710BHJP
【FI】
A61C13/01
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021073358
(22)【出願日】2021-04-23
(65)【公開番号】P2022024992
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2020127412
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 法博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩一
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-018264(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0258426(US,A1)
【文献】国際公開第2005/120438(WO,A1)
【文献】特開平09-220239(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0358004(US,A1)
【文献】特開昭56-136547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/00-5/90
A61C 13/00-13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹状のソケット(2)が形成され、且つ前記ソケット(2)の底面に縦溝(7)が形成された義歯床(3)を作製するステップ、
前記ソケット(2)及び前記縦溝(7)に接着材(9)を塗布するステップ、
前記接着材(9)が塗布された前記縦溝(7)内に補強構造体(8)を埋入するステップ、
前記接着材(9)が塗布された前記ソケット(2)に人工歯(1)を配置するステップ、
を含む、有床義歯の製造方法。
【請求項2】
前記人工歯(1)は、少なくとも前歯部の左右における中切歯部、側切歯部および犬歯部の6部位を含み、
前記縦溝(7)及び補強構造体(8)は、歯列弓形状に形成されており、
前記縦溝(7)及び前記補強構造体(8)の近遠心的幅径(W1)は、臼歯部(10)の近遠心的幅径の1/2以上であり、
前記縦溝(7)及び前記補強構造体(8)の唇舌的または頬舌的な幅径(W2)は、1.5mm以上15.0mm以下である、
請求項1に記載の有床義歯の製造方法。
【請求項3】
前記有床義歯は、部分有床義歯であり、
前記補強構造体(8)は、前記有床義歯を維持する維持装置(14)に連結される小連結子(11)を有する、
請求項1または2に記載の有床義歯の製造方法。
【請求項4】
前記補強構造体(8)を埋入するステップは、前記補強構造体(8)の少なくとも一部を、前記縦溝(7)を画定する内壁(7a)から0.001mm以上1.0mm以下の範囲で離れた位置に配置すること、を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の有床義歯の製造方法。
【請求項5】
前記義歯床(3)を作製するステップは、
前記ソケット(2)と前記縦溝(7)とが形成された義歯床(3)の設計データを取得すること、
前記設計データに基づいて、前記義歯床(3)を作製すること、を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の有床義歯の製造方法。
【請求項6】
凹状のソケット(2)が形成され、且つ前記ソケット(2)の底面に縦溝(7)が形成された義歯床(3)と、
前記ソケット(2)および前記縦溝(7)に塗布された接着材(9)と、
前記縦溝(7)内に配置され、且つ前記接着材(9)に埋入された補強構造体(8)と、
前記ソケット(2)に配置され、且つ前記接着材(9)によって接着された人工歯(1)と、
を備える、有床義歯。
【請求項7】
前記人工歯(1)は、少なくとも前歯部の左右における中切歯部、側切歯部および犬歯部の6部位を含み、
前記縦溝(7)及び補強構造体(8)は、歯列弓形状に形成されており、
前記縦溝(7)及び前記補強構造体(8)の近遠心的幅径(W1)は、臼歯部(10)の近遠心的幅径の1/2以上であり、
前記縦溝(7)及び前記補強構造体(8)の唇舌的または頬舌的な幅径(W2)は、1.5mm以上15.0mm以下である、
請求項6に記載の有床義歯。
【請求項8】
前記有床義歯は、部分有床義歯であり、
前記補強構造体(8)は、前記有床義歯を維持する維持装置(14)に連結される小連結子(11)を有する、
請求項6又は7に記載の有床義歯。
【請求項9】
前記補強構造体(8)の少なくとも一部は、前記縦溝(7)を画定する内壁(7a)から0.001mm以上1.0mm以下の範囲で離れており、
前記補強構造体(8)の少なくとも一部と前記縦溝(7)を画定する内壁(7a)との間には、前記接着材(9)が塗布されている、
請求項6~8のいずれか一項に記載の有床義歯。
【請求項10】
前記縦溝(7)の内壁(7a)には、突起(13)が設けられており、
前記突起(13)は、前記補強構造体(8)と接触する、
請求項9に記載の有床義歯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は補強構造一挙埋入式有床義歯とその製造方法に関し、特に、有床義歯の分野において、コンピュータ支援の設計製造方法(CAD/CAM)に拠る義歯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、歯科用補強線材を用いた有床義歯が開示されている。特許文献1に記載の有床義歯は、断面が偏平な線材の外表面の少なくとも一部に凹部およびまたは凸部を形成した歯科用補強線材を所定形状に変形させ、該歯科用補強線材をレジン床中に埋設して形成されている。
【0003】
特許文献2には、補強構造体として繊維製の補強線を人工歯列下に埋設した繊維補強樹脂床義歯が開示されている。特許文献2に記載の繊維補強樹脂床義歯は、多数の人工歯牙と、該人工歯牙を固定配列するための合成樹脂の床部と、から成る床義歯において、歯牙列に沿って上記人工歯牙下部の床部内部に補強繊維を埋設一体化している。
【0004】
特許文献3には、歯科補綴物の製造方法が開示されている。特許文献3に記載の製造方法は、口腔内形状をデータ化する工程と、データに基づいてレジンにより形成される部分の形状であるレジン本体をデータ上で設計する工程と、レジン本体の内側に配置される歯科用補強材の位置をデータ上で設計する歯科用補強材位置設計工程と、レジン本体に対して、歯科用補強材が配置される位置に基づいて、当該位置に空間および外部に連通する開口をデータ上で形成して開口付きレジン本体を設計する工程を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-66413号公報
【文献】特開平11-60425号公報
【文献】国際公開第2016/052321号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、強度を向上させつつ、審美性の低下を抑制した有床義歯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明について、以下に説明する。ここでは分かり易さのため、明細書、図面に付した参照符号を括弧書きで併せて記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0008】
本発明の一態様の有床義歯の製造方法は、凹状のソケット(2)が形成され、且つ前記ソケット(2)の底面に縦溝(7)が形成された義歯床(3)を作製するステップ、前記ソケット(2)及び前記縦溝(7)に接着材(9)を塗布するステップ、前記接着材(9)が塗布された前記縦溝(7)内に補強構造体(8)を埋入するステップ、前記接着材(9)が塗布された前記ソケット(2)に人工歯(1)を配置するステップ、を含む。
【0009】
本発明の一態様の有床義歯は、凹状のソケット(2)が形成され、且つ前記ソケット(2)の底面に縦溝(7)が形成された義歯床(3)と、前記ソケット(2)および前記縦溝(7)に配置された接着材(9)と、前記縦溝(7)内に配置され、且つ前記接着材(9)に埋入された補強構造体(8)と、前記ソケット(2)に配置され、且つ前記接着材(9)によって接着された前記人工歯(1)と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、強度を向上させつつ、審美性の低下を抑制した有床義歯を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】補強構造一挙埋入式有床義歯の完成前の各部材を側方より観た断面図
図2】補強構造一挙埋入式有床義歯の完成後の各部材を下顎前歯部の側方より観た断面図
図3】補強構造一挙埋入式有床義歯の別の例の断面図
図4】別例の義歯床に補強構造体と人工歯を埋入する前の状態の上面図
図5図4の義歯床に対し、その上から補強構造体と人工歯を埋入し、接着した状態の上面図
図6】別例の補強構造一挙埋入式有床義歯の側面図
図7】別例の義歯床に補強構造体を埋入した状態を側方より観た断面図
図8】コンピュータ支援設計製造プログラム(CAD/CAM)による補強構造一挙埋入式有床義歯の製造方法のフロー図
図9】有床義歯の製造方法の例示的なフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本開示に至った経緯)
従来の有床義歯製作方法では、義歯床の破折しやすい場所に補強構造体として金属製などの補強線の埋入が行われている。その手順は、フラスコ埋没および脱蝋の後、義歯床中の適切な位置に補強線が埋入されるように石膏模型上に補強線を差し込み仮固定する。しかしながら、義歯床用レジン重合後、掘り出しの際には石膏模型上に差し込んだ補強線が有床義歯粘膜面側に突出する。このため、補強線の余剰部を切除し、仕上げ研磨するなど、非常に煩雑な作業を強いられている。また、義歯床用レジン材料の填入圧により、補強線の変形や、補強線が設定した位置から移動してしまうなどの課題がある。また、この方法によれば、補強構造体が義歯床の中央部に設置することが多く、補強構造体が黒色に暗く反映するなどの審美的な問題も生じている。
【0013】
一方で、近年、有床義歯の製作方法として、CAD/CAMの技術を用いてコンピュータ上で有床義歯を設計し、人工歯が埋入される部分を除いた義歯床をNC工作機械による切削加工や3Dプリンタによる積層造形などの方法で製作し、その義歯床の人工歯埋入部(これをソケットという。)に専用の接着材や歯科汎用アクリルレジンなどを用いて既製の人工歯を結合する方法が実用化され始めている。
【0014】
CAD/CAM技術による有床義歯の製作方法のうち、近年は3Dプリンタを用いた製作方法が注目を集めている。しかし、3Dプリンタ用材料で製作した義歯床は、従来のアクリルレジン材料を用いて製作した有床義歯や、ディスクを切削加工して製作した有床義歯と比較して、強度的な問題が懸念されている。さらに、3Dプリンタ材料による義歯床では歯科汎用アクリルレジンに代表される補修材料との結合力が弱いことが指摘されており、有床義歯の完成後に補強構造体を埋入することは強度的な問題が懸念されている。また、これまでのコンピュータ支援に拠る有床義歯の製作方法においては、義歯床の中に補強構造体を埋入する方法はなく、連結歯で強度を補う方法などが提案されているものの、強度を補うには至っていない。
【0015】
特許文献1には、歯科用補強線材を用いた有床義歯が開示されている。特許文献1に開示される義歯は、前述の製作方法を前提とした有床義歯であり、近年のコンピュータ支援による有床義歯の製作方法では、このような補強線を製作過程で義歯床中に埋入することは不可能である。
【0016】
特許文献2には、補強構造体として繊維製の補強線を人工歯列下に埋設する義歯が開示されている。特許文献2に開示される義歯は、特許文献1と同様に従来の方法を前提としたものであり、近年のコンピュータ支援による有床義歯の製作方法では、このような補強線を製作過程で埋入することは不可能である。
【0017】
特許文献3には、口腔内形状をデータ化する工程と、データに基づいてレジンにより形成される部分の形状であるレジン本体をデータ上で設計する工程と、レジン本体の内側に配置される歯科用補強材の位置をデータ上で設計する歯科用補強材位置設計工程と、レジン本体に対して、歯科用補強材が配置される位置に基づいて、当該位置に空間および外部に連通する開口をデータ上で形成して開口付きレジン本体を設計する工程を含む歯科補綴物の製造方法が開示されている。しかし、補強構造を配置すべき位置と、そこから開口すべき方向、さらに開口部を封鎖する手段については具体的に言及されていない。例えば、特許文献3の図11に示す義歯の場合、補強体は人工歯植立部より内側の義歯床中に配置されており、患者が開口した時に外観に触れるなど、審美的な問題がある。また、開口方向が義歯の研磨面側(表面)である場合、義歯床中に挿入した歯科用補強材の上から常温重合レジン等を使用して手作業で開口部を封鎖するものと推察されるが、レジンの余剰部が生じる為、形態修正や研磨仕上げを行う作業が生じる。また、開口方向を義歯の粘膜面側にすると、余剰部の形態修正で粘膜の形状を正確に再現することは困難であり、義歯の不適合および疼痛を引き起こす為、現実的に不可能である。
【0018】
そこで、本発明者らは、上記した課題を解決すべく、義歯床の中に補強構造体と人工歯が一挙に埋入され、接着して一体化する構成を見出し、以下の発明に至った。
【0019】
本発明の第1態様の有床義歯の製造方法は、凹状のソケット(2)が形成され、且つ前記ソケット(2)の底面に縦溝(7)が形成された義歯床(3)を作製するステップ、前記ソケット(2)及び前記縦溝(7)に接着材(9)を塗布するステップ、前記接着材(9)が塗布された前記縦溝(7)内に補強構造体(8)を埋入するステップ、前記接着材(9)が塗布された前記ソケット(2)に人工歯(1)を配置するステップ、を含む。
【0020】
このような構成により、強度を向上させつつ、かつ、審美性の低下を抑制した有床義歯を製造することができる。即ち、有床義歯の審美性を損なうことなく耐破折性を向上させることができる。例えば、コンピュータ支援設計製造プログラム(CAD/CAM)による有床義歯の製造方法において、義歯床の中に補強構造体と人工歯が一挙に埋入され、接着して一体化することにより、使用過程で生じる衝撃や荷重に耐えうる強度を備え、かつ、審美性の低下を抑制した有床義歯の製作が容易となる。
【0021】
本発明の第2態様の有床義歯の製造方法においては、前記人工歯(1)は、少なくとも前歯部の左右における中切歯部、側切歯部および犬歯部の6部位を含み、前記縦溝(7)及び補強構造体(8)は、歯列弓形状に形成されており、前記補強構造体(8)の近遠心的幅径(W1)は、臼歯部(10)の近遠心的幅径の1/2以上であり、前記縦溝(7)及び前記補強構造体(8)の唇舌的または頬舌的な幅径(W2)は、1.5mm以上15.0mm以下であってもよい。
【0022】
本発明の第3態様の有床義歯の製造方法においては、前記有床義歯は、部分有床義歯であり、前記補強構造体(8)は、前記有床義歯を維持する維持装置(14)に連結される小連結子(11)を有していてもよい。
【0023】
本発明の第4態様の有床義歯の製造方法においては、前記補強構造体(8)を埋入するステップは、前記補強構造体(8)の少なくとも一部を、前記縦溝(7)を画定する内壁(7a)から0.001mm以上1.0mm以下の範囲で離れた位置に配置すること、を有していてもよい。
【0024】
本発明の第5態様の有床義歯の製造方法においては、前記義歯床(3)を作製するステップは、前記ソケット(2)と前記縦溝(7)とが形成された義歯床(3)の設計データを取得すること、前記設計データに基づいて、前記義歯床(3)を作製すること、を有していてもよい。
【0025】
本発明の第6態様の有床義歯は、凹状のソケット(2)が形成され、且つ前記ソケット(2)の底面に縦溝(7)が形成された義歯床(3)と、前記ソケット(2)および前記縦溝(7)に配置された接着材(9)と、前記縦溝(7)内に配置され、且つ前記接着材(9)に埋入された補強構造体(8)と、前記ソケット(2)に配置され、且つ前記接着材(9)によって接着された人工歯(1)と、を備える。
【0026】
このような構成により、強度を向上させつつ、かつ、審美性の低下を抑制した有床義歯を提供することができる。
【0027】
本発明の第7態様の有床義歯においては、前記人工歯(1)は、少なくとも前歯部の左右における中切歯部、側切歯部および犬歯部の6部位を含み、前記縦溝(7)および前記補強構造体(8)は、歯列弓形状に形成されており、前記縦溝(7)および前記補強構造体(8)の近遠心的幅径(W1)は、臼歯部(10)の近遠心的幅径の1/2以上であり、前記縦溝(7)および前記補強構造体(8)の唇舌的または頬舌的な幅径(W2)は、1.5mm以上15.0mm以下であってもよい。
【0028】
本発明の第8態様の有床義歯においては、前記補強構造体(8)は、前記有床義歯は、部分有床義歯であり、
前記有床義歯を維持する維持装置(14)に連結される小連結子(11)を有していてもよい。
【0029】
本発明の第9態様の有床義歯においては、前記補強構造体(8)の少なくとも一部は、前記縦溝(7)を画定する内壁(7a)から0.001mm以上1.0mm以下の範囲で離れており、前記補強構造体(8)の少なくとも一部と前記縦溝(7)を画定する内壁(7a)との間には、前記接着材(9)が塗布されていてもよい。
【0030】
本発明の第10態様の有床義歯においては、前記縦溝(7)の内壁(7a)には、突起(13)が設けられており、前記突起(13)は、前記補強構造体(8)と接触していてもよい。
【0031】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【0032】
図1は補強構造一挙埋入式有床義歯100の完成前の各部材を側方より見た断面図を示す。補強構造一挙埋入式有床義歯100は、人工歯1、義歯床3、および補強構造体8の3種類の部材を備える。本明細書では、補強構造一挙埋入式有床義歯100を「有床義歯100」と称する場合がある。なお、有床義歯100は、部分有床義歯であってもよいし、全部床義歯であってもよい。
【0033】
人工歯1の形状や材質、製作手段は特に限定されるものではなく、公知の技術によるものを用いてもよい。たとえば金型によって大量生産されたアクリルレジン製の既製人工歯や、歯科用CAD/CAMの技術を用いて、患者個々の要望を満たす形状に設計され、切削加工または積層造型されたものを用いてもよい。人工歯の形状は1つ1つの部位が独立した単独歯を用いてもよいし、2歯以上の部位が連結されていてもよい。例えば、人工歯1は、中切歯部、側切歯部、犬歯部、第一小臼歯部、第ニ小臼歯部、第一大臼歯部及び第二大臼歯部のうち少なくとも1つを備える。
【0034】
義歯床3は、人工歯1が配置される土台である。義歯床3には、人工歯1を埋入するためのソケット2が形成されている。さらに、義歯床3には、補強構造体8を埋入するために、義歯床3の粘膜面4と基底面6の中間部5より、人工歯1の植立方向に向けて、リブ形状に開口された縦溝7が設けられている。義歯床3の材質は特に限定されるものではなく、例えばPMMA(ポリメチルメタクリレート)やPC(ポリカーボネート)、PA(ポリアミド)など、公知の技術によるものを用いてもよい。
【0035】
ソケット2は、義歯床3の表面において凹状に窪んだ部分である。ソケット2には、人工歯1の基部1aが挿入される。人工歯1の基部1aとは、人工歯1の歯根側の部分であり、義歯床3に接着される部分である。ソケット2は、人工歯1の基部1aの外形形状に合わせて凹状に形成されている。即ち、ソケット2は、人工歯1の基部1aの少なくとも一部を囲う凹状に窪んで形成されている。ソケット2は、人工歯1の排列方向に沿って弓状に形成されている。人工歯1は、後述する接着材9によってソケット2に接着され、固定される。
【0036】
粘膜面4は、義歯床3において口腔内の粘膜と接触する側の面である。基底面6は、義歯床3において粘膜面4と反対側の面であり、人工歯1が配置される面である。基底面6は、ソケット2の底面である。中間部5は、義歯床3において粘膜面4と基底面6との間の部分である。
【0037】
縦溝7は、ソケット2の底面、即ち基底面6に設けられた溝である。縦溝7は、基底面6から粘膜面4に向かって窪む溝であり、中間部5に設けられている。人工歯1を側方から見た断面において、縦溝7の底面は、円弧状に湾曲している。縦溝7の寸法はソケット2の頬舌的な幅の範囲内、深さは基底面6から粘膜面4までの範囲で任意に設定することが出来るが、従来の一般的な人工歯の寸法および義歯床中の排列位置を勘案すると、唇舌的、または頬舌的幅径は1.5mm以上15.0mm以下であり、好ましくは、2.0mm以上12.0mm以下である。また、深さは0.5mm以上10.0mm以下であり、好ましくは、0.6mm以上9.0mm以下である。
【0038】
図2は補強構造一挙埋入式有床義歯100の完成後の各部材を下顎前歯部の側方より見た断面図を示す。すなわち、図2は、ソケット2および歯列弓形状の縦溝7に接着材9を塗布した後、縦溝7に補強構造体8を埋入し、さらにその上から人工歯1を埋入し、接着した状態を示す。
【0039】
補強構造体8は、縦溝7に配置される。具体的には、補強構造体8は、縦溝7に配置され、接着材9に埋入される。即ち、補強構造体8は、縦溝7内に塗布された接着材9内に配置される。補強構造体8は、例えば、断面が円形のワイヤーである。なお、補強構造体8は、これに限定されず、断面が矩形、楕円又は多角形のワイヤーであってもよい。あるいは、補強構造体8は、ワイヤーに限定されない。例えば、補強構造体8は、断面が矩形、楕円又は多角形の板状部材であってもよい。
【0040】
補強構造体8は、義歯床3を補強する構造体である。補強構造体8は、義歯床3を形成する材料よりも弾性率および靭性が高い材料で形成されている。補強構造体8の材質については、例えば、金属やガラス繊維複合樹脂など既知のものが利用可能である。たとえば金属であれば、市販の義歯床用補強線、線鉤用金属線、歯科矯正用アーチワイヤーを利用するほか、ガラス繊維で強化されたレジン材料なども利用可能である。また、補強構造体8の寸法もソケット2の頬舌的な幅の範囲内、深さは基底面6から粘膜面4までの範囲で任意に設定することが出来る。なお、従来の一般的な人工歯の寸法および義歯床中の排列位置を勘案すると、唇舌的、または頬舌的幅径は1.5mm以上15.0mm以下であり、好ましくは、2.0mm以上12.0mm以下であり、深さは0.5mm以上10.0mm以下であり、好ましくは、0.6mm以上9.0mm以下である。また、縦溝7と補強構造体8の間に接着材9を塗布するためには、縦溝7の形状及び寸法に対して一定の厚み分薄くする(オフセットする)ことが望ましい。適切なオフセットの量は0.001mm以上1.0mm以下である。
【0041】
ソケット2および歯列弓形状の縦溝7に接着材9を塗布した後、補強構造体8を埋入し、さらに、その上から人工歯1を埋入することにより、人工歯1の接着と、補強構造体8と義歯床3の一体化と、を図ることが可能となる。ここで、補強構造体8を埋入した後に用いる接着材9は、たとえばアクリル系の常温重合レジンや、義歯床3を3Dプリンタ等で造形する場合にはその液材が利用可能である。また、補強構造体8の材質が金属である場合など、義歯床材料との接着性が乏しい場合には、材質に応じて金属プライマー等を併用し、義歯床3と補強構造体8の接着性をより強固に確保することも可能である。金属プライマーは、例えば、公知のものを使用してもよい。なお、塗布された接着材9がアクリル系の常温重合レジンである場合、接着材9は所定の時間放置することによって硬化する。また、塗布された接着材9が3Dプリンタ等で使用される液材である場合、光照射装置などにより照射される光によって硬化する。
【0042】
このように、図1及び図2の例における有床義歯100は、義歯床3、接着材9、補強構造体8及び人工歯1を備える。義歯床3には、凹状のソケット2が形成されている。また、ソケット2の底面(基底面6)には、縦溝7が形成されている。接着材9は、ソケット2および縦溝7に配置されている。補強構造体8は、縦溝7内に配置され、且つ接着材9に埋入されている。人工歯1は、ソケット2に配置され、且つ接着材9によって接着されている。
【0043】
なお、上記した有床義歯100は一例であって、本開示はこの形態に限定されない。
【0044】
図3は補強構造一挙埋入式有床義歯100の一例として、補強構造体8に歯科用ステンレス合金の補強芯を用いた状態を示す。なお、図3では、接着材9の図示を省略している。図3に示す例では、補強構造体8は、断面が矩形の板形状を有する歯科用ステンレス合金で構成されている。既製の補強芯を必要な寸法に切断し、屈曲するなど加工して用いる事により、補強構造体8を設計及び製作する必要が無く、簡便に補強構造一挙埋入式有床義歯100を製作することができる。
【0045】
なお、補強構造体8の形状についても、ソケット2と粘膜面4を結ぶ義歯床3の中間部5の範囲であれば特に限定されるものでは無く、寸法や形状が予め規格化され製造されたものや、任意の形状や厚みに設計し、鋳造したものや、切削加工したもの、または積層造型したものを用いてもよい。
【0046】
図4は、別例の有床義歯100の義歯床3であり、補強構造体8と人工歯1を埋入する前の上面図を示す。また、図4に示す例では、縦溝7は、義歯床3の基底面6から粘膜面4に向かう方向から見て、即ち、平面視で、歯列弓形状、即ちU字状に設けられている。縦溝7の近遠心的幅径W1は、少なくとも前歯部の左右の中切歯部、側切歯部および犬歯部の6部位を含み、さらに最後臼歯部10の近遠心的幅径の1/2以上の長さまで延在する。さらに、縦溝7の唇舌的、または頬舌的幅径W2は1.5mm以上15.0mm以下であり、好ましくは、2.0mm以上12.0mm以下である。また、補強構造体8は、縦溝7に配置されている。このため、補強構造体8近遠心的幅径W1は、少なくとも前歯部の左右の中切歯部、側切歯部および犬歯部の6部位を含み、さらに最後臼歯部10の近遠心的幅径の1/2以上の長さまで延在する。さらに、補強構造体8の唇舌的、または頬舌的幅径W2は1.5mm以上15.0mm以下であり、好ましくは、2.0mm以上12.0mm以下である。ここで、近遠心的幅径W1とは、歯冠軸に垂直で、且つ近心面と遠心面との距離が最大となる2点間の距離を意味する。唇舌的、または頬舌的幅径W2とは、歯冠軸に垂直で、且つ前歯唇側面または臼歯頬側面と舌側面との距離が最大となる2点間の距離を意味する。最後臼歯部とは、歯列弓の末端の臼歯の部位を指し、通常の総有床義歯であれば第二大臼歯部のことを指す。但し、有床義歯の第二大臼歯部に排列スペースが無く、第一大臼歯部が歯列弓の末端の部位となる場合や、部分床有床義歯では小臼歯部が歯列弓の末端の部位となる場合も考えられるため、本発明の説明における最後臼歯部10とは、義歯床3に植立した人工歯1の最も後端の臼歯を指す。即ち、最後臼歯部10とは、第1小臼歯部、第2小臼歯部、第1大臼歯部及び第2大臼歯部のうちのいずれかである。
【0047】
補強構造体8の近遠心的幅径W1を最後臼歯部10まで含め、さらに唇舌的、または頬舌的な幅径W2を限定することにより、有床義歯100の耐破折性を向上させることが可能となる。
【0048】
図5は、図4の上面図の義歯床3に対し、その上から補強構造体8と人工歯1を埋入した状態を示す。構造の説明をわかりやすくする為、図の左側は補強構造体8を埋入した状態を示し、図の右側は、補強構造体8を埋入した上から、最終的に人工歯1を埋入した状態を示す。義歯床3への補強構造体8の埋入に際し、あらかじめ接着材9を歯列弓形状の縦溝7とソケット2の内面に塗布しておく。次に、有床義歯100の左側に示すように、補強構造体8を埋入し、次に有床義歯100の右側に示すように、人工歯1を埋入する。なお、接着材9は補強構造体8を埋入した後、人工歯1を埋入する前に、必要に応じて追加で塗布してもよい。人工歯1を埋入した後、接着材9を硬化させることにより、人工歯1と義歯床3との接着と、補強構造体8と義歯床3の一体化と、を図ることが可能となる。また、補強構造体8の埋入位置を人工歯1のソケット2の範囲内に収めることにより、補強構造体8が有床義歯100の外観に触れることも無くなり、前記の審美的な課題を解消することも可能となる。
【0049】
このように、図4及び図5に示す例では、人工歯1は、少なくとも前歯部の左右における中切歯部、側切歯部および犬歯部の6部位を含む。縦溝7は、歯列弓形状に形成されている。補強構造体8の近遠心的幅径W1は、臼歯部10の近遠心的幅径の1/2以上である。補強構造体8の唇舌的または頬舌的な幅径W2は、1.5mm以上15.0mm以下である。
【0050】
図6は、別例の有床義歯100の側面図を示す。図6に示す例では、有床義歯100は部分有床義歯であり、補強構造体8の末端に小連結子11が含まれる。小連結子11とは一般的には部分床義歯のリンガルバー、パラタルバー等の大連結子または義歯床3と、クラスプやレストなど部分床義歯の維持装置14とを連結する構造体のことを指す。図6に示す例では、縦溝7は、人工歯1の排列方向において、義歯床3の側面を貫通している。このため、補強構造体8の末端は義歯床3の側面から露出している。小連結子11は、補強構造体8の末端に設けられており、義歯床3から露出している。
【0051】
小連結子11の先端の形状は特に限定されるものではなく、公知の維持装置を設けてもよく、図に示すように、補強構造体8からクラスプおよびレストに至る形状を一体で製作することも可能である。小連結子11が含まれることにより、補強構造体8と維持装置14の一体化が可能となり、より強固な補強構造体として、維持装置14の歪みによる義歯の破折を防止することが可能となる。
【0052】
このように、図6に示す例では、有床義歯100は部分有床義歯であり、補強構造体8は、有床義歯100を維持する維持装置14に連結される小連結子11を有する。
【0053】
図7は別例の有床義歯床3に補強構造体8を埋入した状態を側方より観た断面図を示す。なお、図7では、接着材9の図示を省略している。図7に示す例では、補強構造体8の形状と義歯床3中の埋入位置が決定した後、人工歯1の植立方向に向けてリブ形状に開口し、歯列弓状の縦溝7を形成する。このとき、歯列弓形状の縦溝7は、埋入する補強構造体8と、義歯床3、双方の製造の公差に応じて、部分的、または全体的に適度な空隙12を設けたオフセット形状としてもよい。例えば、空隙12の寸法は0.001mm以上1.0mm以下であり、好ましくは0.01mm以上0.1mm以下である。空隙12の寸法とは、義歯床3を側方から見て、補強構造体8と縦溝7を画定する内壁7aとの間の距離である。これにより、補強構造体8と歯列弓形状の縦溝7との間に接着材9を塗布するスペースが確保されることとなる。
【0054】
また、この空隙12は補強構造体8に対し、基本的には均等な厚みで設定すればよいが、図7に示すように、部分的に空隙12を設けず補強構造体8と接触させることや、周囲より狭い寸法の空隙12を設けてもよい。これにより、歯列弓形状の縦溝7に対して補強構造体8の埋入位置の精度を高めることも可能となり、接着材9の硬化収縮による応力の発生や義歯床3の変形を抑制することができる。
【0055】
詳細に説明すると、図7に示す例では、補強構造体8は、縦溝7を画定する内壁7aから離れている。内壁7aとは、縦溝7の底面及び側壁を含む。補強構造体8と内壁7aとの間には、接着材9が配置されている。即ち、補強構造体8は、接着材9に埋設されており、且つ縦溝7を画定する内壁7aから離れている。補強構造体8と内壁7aとの間の距離は、0.001mm以上1.0mm以下であり、好ましくは0.01mm以上0.1mm以下である。言い換えると、補強構造体8と内壁7aとの間に配置される接着材9の厚みは、0.001mm以上1.0mm以下であり、好ましくは0.01mm以上0.1mm以下である。
【0056】
このように、図7に示す例では、補強構造体8の少なくとも一部は、縦溝7を画定する内壁7aから0.001mm以上1.0mm以下の範囲で離れている。また、補強構造体8の少なくとも一部と縦溝7を画定する内壁7aとの間には、接着材9が塗布されている。これにより、補強構造体8を接着材9によって義歯床3に強固に固定することができる。なお、「補強構造体8の少なくとも一部」とは、補強構造体8の全体であってもよいし、一部であってもよいことを意味する。図7に示す例では、補強構造体8の一部は、縦溝7を画定する側壁から離れて配置されており、補強構造体8の一部と縦溝7の側壁との間に接着材9が塗布されている。また、補強構造体8の他の部分は、縦溝7の底面と接触しており、接着材9が塗布されていない。
【0057】
図7に示す例では、縦溝7の内壁7aに突起13が設けられている。補強構造体8の一部は、縦溝7の内壁7aに設けられた突起13と接触していてもよい。具体的には、縦溝7の底面に、突起13が設けられている。突起13は、側方から見て、断面が略矩形状を有する。突起13は、縦溝7の底面から0.001mm以上1.0mm以下で突出している。好ましくは、突起13は、0.01mm以上0.1mm以下で突出している。突起13は、側方から見て、補強構造体8の幅寸法より小さい幅寸法を有する。また、突起13の上面は、側方から見て、断面が凹状に形成されていてもよい。突起13は、義歯床3の基底面6から粘膜面4に向かう方向から見て、即ち、平面視で、歯列弓形状、即ちU字状に設けられている。突起13は、連続した1つの突起であってもよいし、複数の突起が並べて配置されたものであってもよい。突起13の上面には、補強構造体8が配置される。
【0058】
なお、突起13は、縦溝7の底面に設けられている例について説明したが、これに限定されない。突起13は、例えば、縦溝7を画定する側壁に設けられていてもよい。例えば、縦溝7を画定する2つの対向する側壁に、それぞれ、突起13が設けられていてもよい。このように、縦溝7を画定する内壁7aに突起13を設けることによって、補強構造体8の埋入位置の精度を高めることが可能となる。また、接着材9の硬化収縮による応力の発生や義歯床3の変形を抑制することができる。
【0059】
このように、図7に示す例では、縦溝7の内壁7aには、突起13が設けられている。突起13は、補強構造体8と接触する。なお、突起13は必須の構成ではない。また、突起13は、縦溝7の底面と別部材で形成されていてもよい。
【0060】
図8はコンピュータ支援設計製造プログラム(CAD/CAM)による有床義歯100の設計工程をフロー図として示す。図8に示す例では、有床義歯100の設計工程(CAD)は、口腔内形状および咬合床の3次元計測~義歯床3の歯肉部の設計までのプロセスに加えて、補強構造体8の設計P1と、歯列弓形状の縦溝7の開口の工程と、を含む。
【0061】
補強構造体8の設計は、上述したとおりである。すなわち、患者の口腔内形状の3次元計測で得られた、上顎または下顎それぞれの粘膜面と、人工歯1の排列工程により位置の決定により、上述した補強構造体8の設計が可能な空間が決定するため、任意の補強構造体8および歯列弓形状の縦溝7を設計すればよく、さらに、必要に応じて任意の寸法および形状としてもよい。また、この補強構造体8の設計P1の段階で、既製の補強芯等を用いるか、個々の症例の義歯床形態に応じたカスタムメイドの補強構造体8を製作するかの選択を行う。
【0062】
既製品を用いる場合は、形状、寸法などの情報をあらかじめデータベースとして登録し、これを用いて屈曲すべき歯列弓形状と埋入位置とを決定する。また、個々の症例の義歯床形態に応じたカスタムメイドの補強構造体8を製作する場合は、3Dプリンタを用いて補強構造体8の形状を積層造型し、これを歯科用埋没材に埋没し、歯科用合金を鋳造する方法や、ガラスファイバーで強化された歯科用レジンディスクを切削加工する方法を適宜選択する。
【0063】
次に、歯列弓形状の縦溝7の開口は、設計された義歯床3の研磨面の歯肉部から、補強構造体8の形状モデル、またはそのオフセット形状モデルを人工歯植立方向に延伸した形状で削除することで、補強構造体8が埋入可能な義歯床3の形状を設計することが可能となる。ソケット2の開口については、公知の技術として、設計された義歯床3の研磨面の歯肉部から人工歯1の形状を削除することで可能となる。歯列弓形状の縦溝7の開口と、ソケット2の開口の工程の優先順序は特に限定されるものではなく、ソケット2の開口を行った後に、歯列弓形状の縦溝7の開口を行ってもよい。
【0064】
図9を用いて、有床義歯100の製造方法の一例について説明する。図9は、有床義歯100の製造方法の例示的なフローチャートである。図9に示す例では、有床義歯100の製造方法は、ステップST1~ST4を含む。なお、ステップST1は、コンピュータ又は制御装置によって実行される処理である。コンピュータ又は制御装置は、1つ又は複数のプロセッサと、1つ又は複数のプロセッサにより実行される命令を記憶したメモリと、を備える。
【0065】
ステップST1は、ソケット2および縦溝7が形成された義歯床3を作製する工程である。具体的には、ステップST1では、凹状のソケット2が形成され、且つソケット2の底面に縦溝7が形成された義歯床3を作製する。ステップST1は、ステップST11及びST12を含んでいてもよい。
【0066】
ステップST11は、ソケット2および縦溝7が形成された義歯床3の設計データを取得する工程である。例えば、ステップST11では、図8に示す義歯の設計工程(CAD)を実施することによって義歯床3の設計データを取得してもよい。あるいは、ステップST11では、既に設計済みの義歯床3の設計データを、ネットワークを介して取得してもよい。例えば、ステップST11では、コンピュータとネットワークを介して接続されたサーバから義歯床3の設計データを取得してもよい。
【0067】
ステップST12は、設計データに基づいて義歯床3を作製する工程である。ステップST12では、図8に示す義歯の製作工程(CAM)の義歯床3の自動生成(P2)を実施することによって、義歯床3を作製する。例えば、ステップST12では、NC工作機械による切削加工や3Dプリンタによる積層造形などによって、設計データに基づいて義歯床3を作製する。
【0068】
ステップST2は、ソケット2及び縦溝7に接着材9を塗布する工程である。本工程の方法は特に限定されるものでは無く、公知の接着材の使用方法に準じてソケット2及び縦溝7に接着材9を塗布すればよい。
【0069】
ステップST3は、接着材9が塗布された縦溝7内に補強構造体8を埋入する工程である。例えば、ステップST3では、接着材9が硬化する前に、縦溝7内に補強構造体8を埋入する。また、ステップST3は、補強構造体8の少なくとも一部を、縦溝7を画定する内壁7aから0.001mm以上1.0mm以下の範囲で離れた位置に配置するステップを有していてもよい。また、縦溝7の内壁7aに突起13が設けられている場合、補強構造体8の一部を突起13に接触させてもよい。
【0070】
ステップST4は、接着材9が塗布されたソケット2に人工歯1を配置する工程である。例えば、ステップST4では、人工歯1の基部1aを、接着材9が塗布されたソケット2内に配置する。これにより、人工歯1の基部1aが接着材9によってソケット2に接着される。
【0071】
ステップST4の後、接着材9が硬化するまで、義歯床3に対して人工歯1の位置決めをしてもよい。接着材9が硬化することで、人工歯1と補強構造体8とが義歯床3に対して固定される。
【0072】
以上のステップST1~ST4を実施することにより、有床義歯100を製造することができる。なお、上記した有床義歯100の製造方法は一例であって、これに限定されない。有床義歯100の製造方法は、ステップを追加、削除、統合、分割してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 人工歯
1a 基部
2 ソケット
3 義歯床
4 粘膜面
5 義歯床の粘膜面とソケットとの中間部
6 基底面
7 縦溝
7a 内壁
8 補強構造体
9 接着材
10 最後臼歯部
11 小連結子
12 縦溝と補強構造体の空隙
13 突起
14 維持装置
W1 補強構造体の近遠心的幅径
W2 補強構造体の唇舌的または頬舌的な幅径
P1 補強構造体を設計する工程
P2 縦溝が付与された義歯床の形状を自動生成する工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9