(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】搬送制御装置、搬送制御方法、搬送制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B65H 26/04 20060101AFI20240710BHJP
B65H 59/10 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B65H26/04
B65H59/10 Z
(21)【出願番号】P 2021093461
(22)【出願日】2021-06-03
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】平山 大介
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-309421(JP,A)
【文献】特開2001-159902(JP,A)
【文献】特開2017-226538(JP,A)
【文献】特開平06-056347(JP,A)
【文献】特開平04-039269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 26/04
B65H 59/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被搬送物の張力を検出する張力検出部と、
検出された張力と張力指令の差分に基づいて前記被搬送物の搬送速度に対する補正量を生成する補正量生成部と、
前記差分が所定値未満の時に前記補正量生成部が生成した補正量を記憶する補正量記憶部と、
前記補正量生成部が生成する補正量と前記補正量記憶部が記憶した補正量を切り替えて出力可能な補正量切替部と、
前記補正量切替部が出力した補正量に基づいて前記被搬送物の搬送速度を補正する速度補正部と、
を備える搬送制御装置。
【請求項2】
前記補正量切替部は、前記差分が前記所定値以上の時に前記補正量生成部が生成する補正量を出力し、前記差分が前記所定値未満の時に前記補正量記憶部が記憶した補正量を出力する、請求項1に記載の搬送制御装置。
【請求項3】
前記補正量記憶部は、前記差分が前記所定値未満になった時に前記補正量生成部が生成した補正量を記憶し、
前記補正量生成部は、前記補正量記憶部が前記補正量を記憶した後、前記差分が前記所定値未満の間は補正量の生成を停止する、
請求項2に記載の搬送制御装置。
【請求項4】
前記補正量生成部は、前記差分に対する比例演算を行う比例演算部および前記差分に対する積分演算を行う積分演算部を含み、
前記差分が前記所定値未満の時に当該差分に基づいて前記被搬送物の搬送速度に対する第2補正量を生成する第2補正量生成部であって、前記差分に対する比例演算を行う比例演算部を含み、前記差分に対する積分演算を行う積分演算部を含まない第2補正量生成部を更に備え、
前記速度補正部は、前記差分が前記所定値未満の時に、前記補正量切替部が出力する前記補正量記憶部が記憶した補正量と前記第2補正量に基づいて前記被搬送物の搬送速度を補正する、
請求項2または3に記載の搬送制御装置。
【請求項5】
前記張力検出部は、前記被搬送物に張力を付加するダンサロールの位置を検出し、
前記補正量生成部は、前記張力検出部によって検出された前記ダンサロールの位置と、前記張力指令に相当する前記ダンサロールの位置指令の差分に基づいて前記被搬送物の搬送速度に対する補正量を生成する、
請求項1から4のいずれかに記載の搬送制御装置。
【請求項6】
前記被搬送物は、前記張力検出部の前段に設けられる第1搬送部と前記張力検出部の後段に設けられる第2搬送部によって搬送され、
前記速度補正部は、前記補正量切替部が出力した補正量に基づいて前記第2搬送部の前記第1搬送部に対する搬送速度を補正する、
請求項1から5のいずれかに記載の搬送制御装置。
【請求項7】
被搬送物の張力を検出する張力検出ステップと、
検出された張力と張力指令の差分に基づいて前記被搬送物の搬送速度に対する補正量を生成する補正量生成ステップと、
前記差分が所定値未満の時に前記補正量生成ステップで生成した補正量を記憶する補正量記憶ステップと、
前記補正量生成ステップで生成する補正量と前記補正量記憶ステップで記憶した補正量を切り替えて出力する補正量切替ステップと、
前記補正量切替ステップで出力した補正量に基づいて前記被搬送物の搬送速度を補正する速度補正ステップと、
を備える搬送制御方法。
【請求項8】
被搬送物の張力を検出する張力検出ステップと、
検出された張力と張力指令の差分に基づいて前記被搬送物の搬送速度に対する補正量を生成する補正量生成ステップと、
前記差分が所定値未満の時に前記補正量生成ステップで生成した補正量を記憶する補正量記憶ステップと、
前記補正量生成ステップで生成する補正量と前記補正量記憶ステップで記憶した補正量を切り替えて出力する補正量切替ステップと、
前記補正量切替ステップで出力した補正量に基づいて前記被搬送物の搬送速度を補正する速度補正ステップと、
をコンピュータに実行させる搬送制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は搬送技術に関する。
【背景技術】
【0002】
紐やワイヤ等の線状の被搬送物や紙や布等の面状の被搬送物を搬送する搬送装置として、被搬送物の張力を検出するものが知られている。例えば、特許文献1は、ワイヤの張力の検出値と基準値の差に基づいてモータに対する操作量を生成し、ワイヤの張力を基準値に維持する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ワイヤの張力が基準値の近傍に保持される一方で、ワイヤの張力の微細な変動に応じてモータに対する操作量が常に変動するため、搬送動作が安定しないという問題がある。搬送条件によってはモータに対する操作量の微細な変動が被搬送物の変形を引き起こし、搬送装置の歩留まりを低下させる可能性もある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、搬送動作を安定化できる搬送制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の搬送制御装置は、被搬送物の張力を検出する張力検出部と、検出された張力と張力指令の差分に基づいて被搬送物の搬送速度に対する補正量を生成する補正量生成部と、差分が所定値未満の時に補正量生成部が生成した補正量を記憶する補正量記憶部と、補正量生成部が生成する補正量と補正量記憶部が記憶した補正量を切り替えて出力可能な補正量切替部と、補正量切替部が出力した補正量に基づいて被搬送物の搬送速度を補正する速度補正部と、を備える。
【0007】
この態様によれば、検出された張力と張力指令の差分が所定値未満の時に補正量生成部が生成した補正量を補正量記憶部が記憶し、速度補正部が被搬送物の搬送速度の補正に用いることで、張力が微細に変動した場合であっても一定の補正量によって被搬送物の搬送速度を安定化できる。
【0008】
本発明の別の態様は、搬送制御方法である。この方法は、被搬送物の張力を検出する張力検出ステップと、検出された張力と張力指令の差分に基づいて被搬送物の搬送速度に対する補正量を生成する補正量生成ステップと、差分が所定値未満の時に補正量生成ステップで生成した補正量を記憶する補正量記憶ステップと、補正量生成ステップで生成する補正量と補正量記憶ステップで記憶した補正量を切り替えて出力する補正量切替ステップと、補正量切替ステップで出力した補正量に基づいて被搬送物の搬送速度を補正する速度補正ステップと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、搬送動作を安定化できる搬送制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】搬送制御装置の処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る搬送制御装置1の第1の構成例を示す。搬送制御装置1は、被搬送物3を搬送する搬送装置2の搬送動作を制御する装置である。後述するように、搬送制御装置1は被搬送物3の異なる部分の相対的な搬送速度を制御することによって被搬送物3の張力を所望の範囲に維持する。被搬送物3は搬送中に搬送方向に沿った張力が発生しうるものであれば何でもよいが、典型的には紐やワイヤ等の線状のものや、紙、布、フィルム、箔、ゴム等の面状のものが例示される。紙を被搬送物3とする搬送装置2は、例えば輪転機等の印刷機に設けられ、被印刷物かつ被搬送物としての巻取紙またはウェブの各印刷ユニットにおける給紙または排紙を担う。本実施形態によれば巻取紙の各部の張力を所望の範囲に維持できるため、搬送装置2ひいては印刷機の歩留まりを高めることができる。
【0014】
搬送装置2は、被搬送物3の張力を検出する張力検出部としての張力検出器21と、張力検出器21の前段に設けられる第1搬送部としての第1ローラ部22と、張力検出器21の後段に設けられる第2搬送部としての第2ローラ部23を備える。ここで「前段」および「後段」の用語は、搬送装置2における被搬送物3の搬送方向に関して定義される。図示の例では、被搬送物3の搬送方向は左から右に向かう方向であり、「前段」とは搬送方向と逆の左側を意味し、「後段」とは搬送方向と同じ右側を意味する。したがって、第1ローラ部22は張力検出器21の左側(前段)に設けられ、第2ローラ部23は張力検出器21の右側(後段)に設けられる。
【0015】
張力検出器21は様々な方式や構成のものが知られており、搬送装置2の搬送態様に適合する限りにおいて任意のものを利用できる。図示の張力検出器21では、被搬送物3の搬送経路(左から右に向かう水平線)に沿って設けられる一対のローラ211、212の間に、被搬送物3の搬送経路から逸れたガイドローラ213が設けられる。張力検出器21と組み合わされた(張力検出器21に設けられた)ガイドローラ213に加わる張力は、ガイドローラ213と接触する圧電素子等で構成される検出部214によって電気信号として検出される。
【0016】
第1ローラ部22は、不図示のモータによって搬送方向(
図1の時計回り方向)に回転駆動される第1駆動ローラ221と、第1駆動ローラ221との間で被搬送物3を挟み込み第1駆動ローラ221と連動して搬送方向(
図1の反時計回り方向)に回転する第1従動ローラ222を備える。後述するように、第1駆動ローラ221および第1従動ローラ222は、速度指令生成部181が生成する速度指令による第1搬送速度で回転して被搬送物3を搬送する。したがって、第1ローラ部22における被搬送物3の搬送速度は第1搬送速度v1である。
【0017】
第2ローラ部23は、不図示のモータによって搬送方向(
図1の時計回り方向)に回転駆動される第2駆動ローラ231と、第2駆動ローラ231との間で被搬送物3を挟み込み第2駆動ローラ231と連動して搬送方向(
図1の反時計回り方向)に回転する第2従動ローラ232を備える。後述するように、第2駆動ローラ231および第2従動ローラ232は、速度指令生成部181が生成する速度指令に補正量が加えられた第2搬送速度で回転して被搬送物3を搬送する。したがって、第2ローラ部23における被搬送物3の搬送速度は第2搬送速度v2である。
【0018】
補正量が零の場合、第2搬送速度v2は第1搬送速度v1と等しい。この時、被搬送物3の搬送速度は第1ローラ部22から第2ローラ部23にかけて一定であり、搬送装置2において被搬送物3の張力は変化しない。補正量が正の場合、第2搬送速度v2は第1搬送速度v1より大きい。この時、相対速度v2-v1によって被搬送物3が引っ張られるため、搬送装置2において被搬送物3の張力が増加する。補正量が負の場合、第2搬送速度v2は第1搬送速度v1より小さい。この時、相対速度v1-v2によって被搬送物3が弛むため、搬送装置2において被搬送物3の張力が減少する。このように、搬送制御装置1は補正量の値によって被搬送物3の張力を制御できる。
【0019】
搬送制御装置1は、張力指令生成部111と、差分演算部112と、差分比較部12と、主補正量生成部13と、補正量記憶部14と、補正量切替部15と、速度補正量演算部16と、副補正量生成部17と、速度指令生成部181と、速度補正部182を備える。これらの機能部は、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現される。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能部は、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。
【0020】
張力指令生成部111は、搬送装置2が搬送する被搬送物3の張力指令を生成する。搬送制御装置1は、第2搬送速度v2を第1搬送速度v1に対して変化させることで、被搬送物3の張力を張力指令の近傍の所望の範囲に維持する。差分演算部112は、張力検出器21によって検出された被搬送物3の張力と、張力指令生成部111によって生成された張力指令の差分eを演算する減算器である。差分比較部12は、差分演算部112によって演算された差分eの絶対値(以下、単純に差分eともいう)を所定の閾値e0と比較する。後述するように、差分eの絶対値が閾値e0以上の時と、差分eの絶対値が閾値e0未満の時で、搬送制御装置1の各部の処理が切り替えられる。
【0021】
主補正量生成部13は、差分演算部112によって演算された差分eに基づいて被搬送物3の搬送速度に対する補正量を生成する。具体的には、差分eに対して所定の比例ゲインを乗算する比例演算によって比例補正量を算出する比例演算部131と、差分eに対して所定の積分ゲインを乗算して積分する積分演算によって積分補正量を算出する積分演算部132が、主補正量生成部13に設けられる。すなわち、主補正量生成部13は、P制御(比例制御)要素としての比例演算部131とI制御(積分制御)要素としての積分演算部132を含むPI制御部である。ここにD制御(微分制御)要素としての微分演算部を加えて主補正量生成部13をPID制御部として構成してもよいが、D制御要素は被搬送物3の張力の微細な変動を過度に増幅させる場合もあるため、本実施形態ではD制御要素が設けられない。なお、比例演算部131の比例ゲインと積分演算部132の積分ゲインは同じ値でも異なる値でもよい。
【0022】
補正量記憶部14は、差分演算部112によって演算された差分eが閾値e0未満の時に、差分比較部12からの指示に応じて主補正量生成部13が生成した補正量を記憶する。具体的には、比例演算部131によって算出された比例補正量を記憶する比例補正量記憶部141と、積分演算部132によって算出された積分補正量を記憶する積分補正量記憶部142が、補正量記憶部14に設けられる。なお、比例補正量記憶部141が比例補正量を記憶するタイミングと積分補正量記憶部142が積分補正量を記憶するタイミングは同じでもよいし異なってもよい。例えば、差分演算部112によって演算された差分eが閾値e0以下の第1の値e1を下回ったタイミングで比例補正量記憶部141が比例補正量を記憶し、差分演算部112によって演算された差分eが閾値e0以下の第2の値e2を下回ったタイミングで積分補正量記憶部142が積分補正量を記憶してもよい。
【0023】
補正量切替部15は、主補正量生成部13が生成する補正量と補正量記憶部14が記憶した補正量を切り替えて出力可能である。具体的には、比例演算部131が生成する比例補正量と比例補正量記憶部141が記憶した比例補正量を切り替えて出力可能な比例補正量切替部151と、積分演算部132が生成する積分補正量と積分補正量記憶部142が記憶した積分補正量を切り替えて出力可能な積分補正量切替部152が、補正量切替部15に設けられる。各補正量切替部151、152は、差分演算部112によって演算された差分eが閾値e0以上の時に、差分比較部12からの指示に応じて各演算部131、132が生成する各補正量を出力し、差分演算部112によって演算された差分eが閾値e0未満の時に、差分比較部12からの指示に応じて各補正量記憶部141、142が記憶した各補正量を出力する。
【0024】
なお、比例補正量切替部151が比例演算部131の出力から比例補正量記憶部141の出力に切り替えるタイミングと、積分補正量切替部152が積分演算部132の出力から積分補正量記憶部142の出力に切り替えるタイミングは、同じでもよいし異なってもよい。例えば、補正量記憶部14に関して前述したように、差分eが閾値e0以下の第1の値e1を下回って比例補正量記憶部141が比例補正量を記憶した後に、比例補正量切替部151が比例演算部131の出力から比例補正量記憶部141の出力に切り替え、差分eが閾値e0以下の第2の値e2を下回って積分補正量記憶部142が積分補正量を記憶した後に、積分補正量切替部152が積分演算部132の出力から積分補正量記憶部142の出力に切り替えてもよい。
【0025】
比例補正量切替部151が比例演算部131の出力から比例補正量記憶部141の出力に切り替えた後、差分eが閾値e0または第1の値e1未満の間は比例演算部131の出力が被搬送物3の搬送速度の制御に用いられないため、差分比較部12からの指示に応じて比例演算部131による比例補正量の生成を停止させて消費電力を低減させると共に、搬送制御装置1のCPU(中央演算処理装置)の演算リソースを比例演算部131から解放して他の機能部に割り当てることができる。同様に、積分補正量切替部152が積分演算部132の出力から積分補正量記憶部142の出力に切り替えた後、差分eが閾値e0または第2の値e2未満の間は積分演算部132の出力が被搬送物3の搬送速度の制御に用いられないため、差分比較部12からの指示に応じて積分演算部132による積分補正量の生成を停止させて消費電力を低減させると共に、搬送制御装置1のCPUの演算リソースを積分演算部132から解放して他の機能部に割り当てることができる。
【0026】
速度補正量演算部16は、比例補正量切替部151が出力した比例補正量と積分補正量切替部152が出力した積分補正量を加算する加算器であり、被搬送物3の搬送速度に対する速度補正量αを算出する。速度補正量演算部16には、副補正量生成部17が生成した副補正量も入力される。第2補正量生成部としての副補正量生成部17は、差分演算部112によって演算された差分eが閾値e0未満の時に、差分比較部12からの指示に応じて差分eに基づいて被搬送物3の搬送速度に対する第2補正量としての副補正量を生成する。副補正量生成部17には、差分eに対して所定の比例ゲインを乗算する比例演算によって副補正量を算出する比例演算部171が設けられるが、主補正量生成部13と異なり、差分eに対する積分演算を行う積分演算部は設けられない。
【0027】
副補正量生成部17の主な役割は、各補正量切替部151、152の少なくともいずれかが各補正量記憶部141、142の一定値の補正量に切り替えた後、被搬送物3の張力に発生しうる低周波数の変動を抑制することである。副補正量生成部17に積分演算部を設けると、張力の変動が積分演算によって累積されることで副補正量が大きく変動し、搬送装置2の搬送動作が不安定になる可能性があるため、副補正量生成部17には比例演算部171のみが設けられる。
【0028】
以上の通り、加算器である速度補正量演算部16には、比例補正量切替部151からの比例補正量、積分補正量切替部152からの積分補正量、副補正量生成部17からの副補正量(比例補正量)の三つのデータが入力される。具体的には、差分比較部12における差分比較結果に応じて、速度補正量演算部16で加算されるデータは次のように変化する。差分演算部112によって演算された差分eが閾値e0以上の場合、比例補正量切替部151が出力する比例演算部131からの比例補正量と、積分補正量切替部152が出力する積分演算部132からの積分補正量の二つのデータが速度補正量演算部16で加算される。この時、副補正量生成部17は動作していないため、副補正量は速度補正量演算部16で加算されない。差分演算部112によって演算された差分eが閾値e0未満の場合、比例補正量切替部151が出力する比例補正量記憶部141からの比例補正量と、積分補正量切替部152が出力する積分補正量記憶部142からの積分補正量と、副補正量生成部17からの副補正量の三つのデータが速度補正量演算部16で加算される。
【0029】
速度指令生成部181は、搬送装置2が搬送する被搬送物3の搬送速度の指令を生成する。前述の通り、速度指令生成部181が生成する速度指令は、前段の第1ローラ部22における被搬送物3の第1搬送速度v1に対応する。速度補正部182は、速度指令生成部181が生成した速度指令に、速度補正量演算部16が算出した速度補正量αを加算する加算器であり、後段の第2ローラ部23における被搬送物3の第2搬送速度v2を算出する。このように、速度補正量演算部16が算出する速度補正量αは、第2搬送速度v2と第1搬送速度v1の差または相対速度v2-v1(=α)を指定する。換言すれば、速度補正部182は速度補正量演算部16が算出した速度補正量αによって被搬送物3の第2搬送速度v2を補正する。
【0030】
速度補正量演算部16に関して前述したように、差分演算部112によって演算された差分eが閾値e0以上の場合、速度補正量αは比例演算部131からの比例補正量と積分演算部132からの積分補正量の二つのデータの和である。また、差分演算部112によって演算された差分eが閾値e0未満の場合、速度補正量αは比例補正量記憶部141が記憶した比例補正量と、積分補正量記憶部142が記憶した積分補正量と、副補正量生成部17が生成した副補正量の三つのデータの和である。本実施形態によれば、被搬送物3の張力の差分eが閾値e0未満の場合、補正量記憶部14が記憶した一定値の補正量によって被搬送物3の第2搬送速度v2が補正されるため、被搬送物3の張力の微細な変動が被搬送物3の搬送速度に微細な変動を引き起こすことを防止できる。本実施形態を輪転機等の印刷機に適用すれば、被印刷物かつ被搬送物3としての巻取紙の張力の張力指令からの差分eを所望の範囲すなわち閾値e0未満に維持しながら、搬送装置2の搬送動作を安定化できるため、搬送装置2ひいては印刷機の歩留まりを高めることができる。
【0031】
図2は、搬送制御装置1の処理例を示すフローチャートである。フローチャートの説明において「S」はステップを表す。S1では主補正量生成部13が作動し、差分演算部112によって演算された被搬送物3の張力の差分eに基づいて比例演算部131および積分演算部132が補正量の生成を開始する。S2では差分比較部12が張力差分eの絶対値を閾値e
0と比較する。S2で張力差分eが閾値e
0以上の場合はS3に進み、補正量切替部15における比例補正量切替部151および積分補正量切替部152が、比例演算部131および積分演算部132が生成する比例補正量および積分補正量をそれぞれ出力する。S4では、速度補正量演算部16がS3で切り替えられた比例補正量および積分補正量を加算して速度補正量αを算出し、速度補正部182が速度補正量αによって被搬送物3の第2搬送速度v2を補正する。S4の後はS2に戻る。
【0032】
S2で張力差分eが閾値e0未満の場合はS5に進み、補正量記憶部14における比例補正量記憶部141および積分補正量記憶部142が、比例演算部131および積分演算部132が生成した比例補正量および積分補正量をそれぞれ記憶する。S6では、補正量切替部15における比例補正量切替部151および積分補正量切替部152が、S5で比例補正量記憶部141および積分補正量記憶部142が記憶した比例補正量および積分補正量をそれぞれ出力する。S7では主補正量生成部13における比例演算部131および積分演算部132が補正量の生成を停止する。S8では副補正量生成部17が作動し、差分演算部112によって演算された被搬送物3の張力の差分eに基づいて比例演算部171が副補正量の生成を開始する。S9では、速度補正量演算部16がS6で切り替えられた比例補正量および積分補正量とS8で生成が開始された副補正量を加算して速度補正量αを算出し、速度補正部182が速度補正量αによって被搬送物3の第2搬送速度v2を補正する。
【0033】
S10では差分比較部12が張力差分eの絶対値を閾値e0と比較する。S10で張力差分eが閾値e0未満の場合はS9に戻り、補正量記憶部14によって記憶された(S5)補正量を補正量切替部15が出力し(S6)、主補正量生成部13が停止し(S7)、副補正量生成部17が作動した(S8)状態で被搬送物3の搬送速度の補正が継続される。この間、差分eが閾値e0未満の所望の張力状態を維持できるだけでなく、補正量記憶部14が記憶した一定値の補正量を利用することで、被搬送物3の張力の微細な変動が補正量ひいては搬送速度に微細な変動を引き起こすことを防止できる。
【0034】
S10で張力差分eが閾値e0以上になった場合はS11に進み、主補正量生成部13が作動して補正量の生成を再開する。S12では副補正量生成部17における比例演算部171が補正量の生成を停止してS3に戻る。
【0035】
図3は、本発明の実施形態に係る搬送制御装置1の第2の構成例を示す。
図1の第1の構成例と同等の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。搬送装置2は、被搬送物3の張力を検出する張力検出部としてダンサ24を備える。ダンサ24は、被搬送物3の搬送経路(左から右に向かう水平線)に沿って設けられる一対のローラ241、242の間に、被搬送物3の搬送経路から逸れたダンサロール243が設けられる。
【0036】
ダンサロール243は、被搬送物3の搬送経路に垂直な方向(
図3の上下方向)に上端243Aと下端243Bの間を移動可能に設けられ、付勢部または加圧部としてのエアシリンダ244によって被搬送物3の搬送経路から離れる方向(
図3の下方)に付勢または加圧される。付勢または加圧されたダンサロール243は、被搬送物3を搬送経路から離れる方向に引っ張ることで被搬送物3に張力を付加する。換言すれば、ダンサロール243は、エアシリンダ244から受ける下向きの力と、被搬送物3から受ける上向きの張力が釣り合った位置で静止する。ダンサロール243がエアシリンダ244から受ける力は略一定であるため、ダンサロール243の位置は被搬送物3の張力を表す。
【0037】
ダンサロール243の位置は位置センサ245によって電気信号として検出されて差分演算部112に供給される。これに加え、差分演算部112には位置指令生成部113で生成されたダンサロール243の位置指令が入力される。前述の通り、ダンサロール243の位置は被搬送物3の張力に相当するため、位置指令生成部113が生成するダンサロール243の位置指令は被搬送物3の張力指令に相当する。したがって、差分演算部112は、
図1の第1の構成例と同様に、被搬送物3の検出された張力と張力指令の差分eを演算する。
図3のその他の構成要素は
図1と同様であるため説明を省略する。
【0038】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0039】
実施形態では、補正量記憶部14に比例補正量を記憶する比例補正量記憶部141および積分補正量を記憶する積分補正量記憶部142を設けたが、いずれかの補正量を記憶する記憶部のみを設けてもよい。積分補正量記憶部142のみを設ける場合、記憶された積分補正量に積分補正量切替部152が切り替えることによって、張力差分eが閾値e0未満の時の張力の微細な変動の累積を避けることができるため、搬送装置2の搬送動作を安定化できる。比例補正量記憶部141が設けられない場合、比例補正量は常に比例演算部131で生成されたものが使用されるため、張力差分eが閾値e0未満の時に副次的な比例補正量を生成するために設けられた比例演算部171または副補正量生成部17は設けてなくてもよい。この場合、比例演算部131の比例ゲインを張力差分eが閾値e0以上の時と張力差分eが閾値e0未満の時で変化させてもよい。
【0040】
なお、実施形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0041】
1 搬送制御装置、2 搬送装置、3 被搬送物、12 差分比較部、13 主補正量生成部、14 補正量記憶部、15 補正量切替部、16 速度補正量演算部、17 副補正量生成部、21 張力検出器、22 第1ローラ部、23 第2ローラ部、24 ダンサ、111 張力指令生成部、112 差分演算部、113 位置指令生成部、131 比例演算部、132 積分演算部、141 比例補正量記憶部、142 積分補正量記憶部、151 比例補正量切替部、152 積分補正量切替部、171 比例演算部、181 速度指令生成部、182 速度補正部、243 ダンサロール。