(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】治療抵抗性がんの予防又は治療用の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/195 20060101AFI20240710BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240710BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240710BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240710BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
A61K31/195
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 117
A61P43/00 111
A61K39/395 T
(21)【出願番号】P 2021516292
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017805
(87)【国際公開番号】W WO2020218562
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/017995
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153258
【氏名又は名称】株式会社JIMRO
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】小橋 真之
(72)【発明者】
【氏名】原田 康男
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/125732(WO,A1)
【文献】TAKAHASHI, Hidetoshi et al.,ATX-S10(Na)-photodynamic therapy inhibits cytokine secretion and proliferation of lymphocytes,Journal of Dermatological Science,2008年02月,Vol. 49, Issue 2,pp. 174-177,DOI: 10.1016/j.jdermsci.2007.07.015
【文献】XU, Lingling et al., Hypericin-photodynamic therapy inhibits the growth of adult T-cell leukemia cells through induction,Retrovirology,2019年02月19日,Vol. 16, Article No. 5,DOI: 10.1186/s12977-019-0467-0
【文献】CHIO-SRICHAN, Sirinart et al.,Toxicity and phototoxicity of Hypocrellin A on malignant human cell lines, evidence of a synergistic,Journal of Photochemistry and Photobiology B: Biology,2010年05月06日,Vol. 99, Issue 2,pp. 100-104,DOI: 10.1016/j.jphotobiol.2010.03.001
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/195
A61K 41/00
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ同一または異なって、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基またはアラルキル基を示し、R
3はヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基またはアミノ基を示す)
で表される5-アミノレブリン酸(ALA)もしくはその誘導体、またはそれらの塩を含む、光線力学的療法(PDT)による
、
CD分子を標的とする分子標的治療薬、セレブロンを標的とする分子標的治療薬、mTORタンパク質を標的とする分子標的治療薬、PML-RARαを標的とする分子標的治療薬、BCR-Ablチロシンキナーゼを標的とする分子標的治療薬、KITチロシンキナーゼを標的とする分子標的治療薬およびアントラサイクリン系抗がん性抗生物質からなる群から選択される少なくとも1つの治療薬に耐性を有する対象の血液がんの治療または予防のための医薬組成
物。
【請求項2】
対象が、レナリドミドまたはモガムリズマブ
に耐性を有する、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
対象が、トレチノイン
に耐性を有する、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
対象が、イマチニブ
に耐性を有する、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
対象が、ドキソルビシンに耐性を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
下記式(1):
【化2】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ同一または異なって、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基またはアラルキル基を示し、R
3はヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基またはアミノ基を示す)
で表される5-アミノレブリン酸(ALA)もしくはその誘導体、またはそれらの塩を含む、光線力学的療法(PDT)による
血液がんの治療または予防のための医薬組成物であって、
CD分子を標的とする分子標的治療薬、セレブロンを標的とする分子標的治療薬、mTORタンパク質を標的とする分子標的治療薬、PML-RARαを標的とする分子標的治療薬、BCR-Ablチロシンキナーゼを標的とする分子標的治療薬、KITチロシンキナーゼを標的とする分子標的治療薬およびアントラサイクリン系抗がん性抗生物質からなる群から選択される少なくとも1つの治療薬と併用して用いるための、医薬組成物。
【請求項7】
血液がんが、
白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、菌状息肉腫、セザリー症候群、B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、小細胞リンパ腫、大細胞リンパ腫、単球性白血病、骨髄性白血病、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、慢性骨髄性白血病および成人T細胞白血病からなる群から選択される、請求項1~
6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
PDTの光照射が、体外で行われる、請求項1~
7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、平成31年4月26日に日本国特許庁を受理官庁として出願された国際出願番号PCT/JP2019/17995の優先権の利益を主張する。優先権基礎出願はその全体について、出典明示により本明細書の一部とする。
【0002】
本発明は、5-アミノレブリン酸類を含む、薬剤耐性がんの治療または予防のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
5-アミノレブリン酸(5-ALA)は経口吸収性を有する物質で、細胞内ミトコンドリアにおいてヘムが生合成される過程でプロトポルフィリンIX(PpIX)に代謝される。PpIXはソーレー帯と呼ばれる410nm付近の吸収帯とQ帯と呼ばれる500~650nm付近の吸収帯をもち、これら吸収帯波長の光線を照射することによって活性酸素種を発生する光感受性物質である。したがって、PpIXが蓄積した細胞に吸収帯波長の光線を照射することで細胞死を誘導することが出来る(非特許文献1)。この殺細胞効果の原理を応用した治療法は光線力学的療法(PDT)と称され、5-ALAを用いたPDTは今後の臨床応用が期待されている(特許文献1、2)。
【0004】
厚生労働省が発表した「平成28年人口動態統計の概況」によると、我が国の悪性新生物による死亡率は死亡総数の28.5%であり、死因順位の第1位となっている。早期がんに対しては、手術による全摘出が一般的であり、奏効率も高い。一方、進行がんの場合は抗がん剤による治療が行われることが一般的である。
【0005】
しかし、抗がん剤が治療当初から効果を示さない場合に加え、抗がん剤治療が有効ながん腫においてもその効果は一過性のものである場合が多く、治療途中にその効果が低下し、同時に作用機序や構造が異なる抗がん剤に対しても耐性を示す獲得耐性が生じることが知られている(非特許文献2、3)。これらの薬剤耐性がん細胞(がん幹細胞を含む)が化学療法不応に加え、再び増殖した場合は転移および再発の原因となる。
【0006】
薬剤耐性がん細胞の存在は現在のがん治療全体において未だその臨床成績向上を妨げる大きな一要因となっている。がん細胞による薬剤耐性獲得のメカニズムは複雑かつ多様であるものの、抗がん剤等に十分な感受性を示さなかったがん患者においては、臨床的な各治療アルゴリズムにおいて明確に患者分類がなされ、抗がん剤感受性がんとは病態が区別され、異なる治療方針が取られる(非特許文献4)。
【0007】
前述した、がん細胞による作用機序や構造が異なる抗がん剤に対する獲得耐性の交差はPDTにおいても例外ではない。一般的に5-ALAを含むPDTにおいては、抗がん剤耐性を有するがんに対してPDTの効果がない場合が多く報告されており、抗がん剤耐性とPDT耐性が交差することが知られている(非特許文献5)。このことから、抗がん剤に対して抵抗性を有したがん細胞において必ずしもPDTは殺細胞効果があるとは言えず、各種抗がん剤抵抗性がんに対するPDTの有効性は容易に想像することは出来ない。
【0008】
さらに非特許文献5に示されているように、同一の抗がん剤に耐性を有するがんに対して殺細胞効果のある光感受性物質もあれば効果のない光感受性物質もある。したがって、ある特定の光感受性物質を用いたPDTにより薬剤耐性がんに効果が得られたからといって同様に他の光感受性物質を用いたPDTでも同様に効果が得られるか否かは、当業者であっても容易に想像することは出来ない。このことは薬剤耐性がんに限らず当然のことであり、例えばヒペリシンやフォトフリンを用いたPDTが抗腫瘍効果を示す一方、TPPS4や5-ALAを用いたPDTは効果を示さない事例が報告されている(非特許文献6)。
【0009】
特許文献3には、5-ALAまたはその塩を含む、治療抵抗性がん細胞を伴う治療抵抗性がんの予防用または治療用組成物が開示されているが、これは治療抵抗性がん細胞において、チロシンキナーゼ阻害剤がPpIXの排出に関与するABCG2を阻害することを見出し、ABCG2を阻害すると、細胞内PpIXの蓄積が向上し、治療抵抗性がん細胞に対する5-ALA/PDTの効果が増強できることを開示したに過ぎず、チロシンキナーゼ阻害剤耐性がんに対して5-ALA/PDTが有効であることを何ら開示しておらず、また他の薬剤の治療抵抗性がんへの5-ALAの有効性を示唆するものではない。
【0010】
前述の特許文献3において、5-ALAまたはその塩を含む、治療抵抗性がん細胞を伴う治療抵抗性がんの予防用または治療用組成物が開示されているが、特許文献3における治療抵抗性がんとは「悪性であるのが好ましく、限定はされないが、脳腫瘍、脊髄腫瘍、上顎洞癌、膵液腺癌、歯肉癌、舌癌、口唇癌、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌、喉頭癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、肺癌、胸膜腫瘍、癌性腹膜炎、癌性胸膜炎、食道癌、胃癌、大腸癌、胆管癌、胆嚢癌、膵臓癌、肝癌、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、陰茎癌、精巣腫瘍、副腎癌、子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、外陰癌、卵巣癌、骨腫瘍、乳癌、皮膚癌、メラノーマ、基底細胞腫、リンパ腫、ホジキン病、形質細胞腫、骨肉腫、軟骨肉腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫及び線維肉腫を含む、原発性又は転移性の、かつ、浸潤性又は非浸潤性の、癌又は肉腫等であってよい。治療抵抗性がんは、脳腫瘍が特に好ましい。また、治療抵抗性がんは、固形がんであることが好ましい」とされており、固形癌以外のがん、例えば白血病や血液がん疾患における治療抵抗性がんへの5-ALAの有効性を示すものではない。また、特許文献3は実質的に脳腫瘍細胞および子宮頸がん細胞へのPDTの適用を開示するのみである。
【0011】
レナリドミドは多発性骨髄腫等に用いられる抗造血器悪性腫瘍剤である。モガムリズマブはT細胞性リンパ腫等に用いられる抗悪性腫瘍剤である。トレチノイン(全トランス型レチノイン酸、ATRA)は急性前骨髄球性白血病等に用いられる白血病治療剤である。イマチニブは慢性骨髄性白血病等で用いられる抗悪性腫瘍剤である。
【0012】
本明細書中に引用される文献は、それらの全ての開示が、出典明示により本明細書に組み込まれる。組み込まれる開示が、本明細書の記載と矛盾し得る内容を含む場合は、本明細書に記載の内容が優先される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2005-132766号公報
【文献】特表2017-513952号公報
【文献】国際公開第2015/125732号
【非特許文献】
【0014】
【文献】T Namikawa et al., World J Gastroenterol. 21(29): 8769-8775, 2015
【文献】Ueda K et al., Proc Natl Acad Sci USA, 84: 3004-3008, 1987
【文献】Tada Y et al., Int J Cancer, 98: 630-635, 2002
【文献】一般社団法人日本血液学会編集 造血器腫瘍診療ガイドライン
【文献】Casas A et al., Curr Med Chem. 18(16):2486-515, 2011
【文献】Luksiene Z et al., Medicina (Kaunas). 2003;39(7):677-82.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、薬剤耐性がんの治療または予防のための医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、5-ALAを用いたPDTにより薬剤耐性がんを有効に治療または予防できることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
即ち、本発明は、
(1)下記式(1):
【化1】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ同一または異なって、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基またはアラルキル基を示し、R
3はヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基またはアミノ基を示す)
で表される5-アミノレブリン酸(5-ALA)もしくはその誘導体、またはそれらの塩を含む、光線力学的療法(PDT)による薬剤耐性がんの治療または予防のための医薬組成物、であって、
前記薬剤が、インターフェロン調節因子の発現を減少させる免疫調節薬、またはCD分子、セレブロン、mTORタンパク質、PML-RARα、BCR-AblチロシンキナーゼおよびKITチロシンキナーゼのいずれかを標的とする分子標的治療薬である、医薬組成物、
(2) 下記式(1):
【化2】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ同一または異なって、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基またはアラルキル基を示し、R
3はヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基またはアミノ基を示す)
で表される5-アミノレブリン酸(ALA)もしくはその誘導体、またはそれらの塩を含む、光線力学的療法(PDT)による薬剤耐性の白血病の治療または予防のための医薬組成物、
(3)白血病が、成人T細胞白血病である、(2)の医薬組成物、
(4)薬剤が、レナリドミドまたはモガムリズマブである、(1)~(3)のいずれかの医薬組成物、
(5)薬剤が、トレチノインである、(1)~(3)のいずれかの医薬組成物、
(6)薬剤が、イマチニブである、(1)~(3)のいずれかの医薬組成物、
(7)下記式(1):
【化3】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ同一または異なって、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基またはアラルキル基を示し、R
3はヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基またはアミノ基を示す)
で表される5-アミノレブリン酸(ALA)もしくはその誘導体、またはそれらの塩を含む、光線力学的療法(PDT)によるがんの治療または予防のための医薬組成物であって、レナリドミド、モガムリズマブ、トレチノイン、及びイマチニブの少なくともいずれか一つと併用して用いるための、医薬組成物、
(8)がんが、血液がんである、(1)~(7)のいずれかの医薬組成物、
(9)PDTの光照射が、体外で行われる、(1)~(8)のいずれかの医薬組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の組成物を用いることにより、薬剤耐性がんの治療および予防が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、レナリドミド耐性株ならびにモガムリズマブおよびトレチノイン耐性株の細胞生存率を示すグラフである。
【
図2】
図2は、イマチニブ耐性株およびドキソルビシン耐性株の細胞生存率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体的に説明する。ある態様において、本発明は、5-アミノレブリン酸(5-ALA)もしくはその誘導体、またはそれらの塩(本明細書において、「5-ALA類」とも称する)を含む、光線力学的療法(PDT)による薬剤耐性がんの治療または予防のための医薬組成物を提供する。
【0021】
本明細書において、5-ALAもしくはその誘導体は、下記式(1):
【化4】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ同一または異なって、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基またはアラルキル基を示し、R
3はヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基またはアミノ基を示す)
で示される化合物をいう。
【0022】
式(1)中、R1およびR2で示されるアルキル基の例として、炭素数1~24の直鎖または分岐鎖のアルキル基が挙げられ、より具体的には、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。アルキル基のさらに具体的な例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基等が挙げられる。アシル基の例として、炭素数1~12の直鎖または分岐鎖のアルカノイル基またはアルケニルカルボニル基、アロイル基等が挙げられ、より具体的には、炭素数1~6のアルカノイル基が挙げられる。アシル基のさらに具体的な例として、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル酸、ブチリル基等が挙げられる。アルコキシカルボニル基の例として、総炭素数2~13のアルコキシカルボニル基が挙げられ、より具体的には、総炭素数2~7のアルコキシカルボニル基が挙げられる。アルコキシカルボニル基のさらに具体的な例として、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等が挙げられる。アリール基の例として、炭素数6~16のアリール基、例えばフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。アラルキル基の例として、炭素数6~16のアリール基に炭素数1~6のアルキル基が結合した基、例えばフェニル-C1-6アルキル基、ナフチル-C1-6アルキル基等が挙げられる。
【0023】
ある実施形態において、式(1)中のR1およびR2は水素原子である。他の実施形態において、R3はヒドロキシ基、アルコキシ基またはアラルキルオキシ基、より具体的にはヒドロキシ基またはC1-12アルコキシ基である。
【0024】
5-ALAまたはその誘導体、の塩は、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。具体的な例として、有機酸または無機酸の酸付加塩、より具体的な例として塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、アスコルビン酸塩などが挙げられる。
【0025】
これらの5-ALAもしくはその誘導体、またはそれらの塩は、例えば特開平4-9360号公報、特表平11-501914号公報等に記載の方法により製造することができる。
【0026】
本態様の医薬組成物は、薬剤耐性がんの治療または予防に使用される。ここでいう薬剤耐性とは、ある薬剤の治療または予防効果が得られない、または得られにくいことをいい、後天的に薬剤耐性を獲得した細胞、および先天的に薬剤耐性である細胞、を含む。ある実施形態において、薬剤は免疫調節薬、分子標的治療薬、または抗がん性抗生物質である。免疫調節薬の例として、インターフェロン調節因子、より具体的にはインターフェロン調節因子4の発現を減少させる薬剤が挙げられる。分子標的治療薬の標的の例として、CD20、CD22、CD33、CD52、CD194(CCR4)等のCD分子、セレブロン、mTORタンパク質、PML-RARα、BCR-Ablチロシンキナーゼ、KITチロシンキナーゼ等が挙げられる。より具体的な薬剤の例として、レナリドミド、モガムリズマブ、リツキシマブ、オファツムマブ、アレムツズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ブレンツキシマブベドチン、イブリツモマブチウキセタン、トレチノイン、ダサチニブ、ボスチニブ、ニロチニブおよびイマチニブが挙げられる。抗がん性抗生物質の例として、アントラサイクリン系抗がん性抗生物質が挙げられる、より具体的な例として、ドキソルビシンが挙げられる。さらに具体的な薬剤の例として、レナリドミド、モガムリズマブ、トレチノインおよびイマチニブが挙げられる。またさらに具体的な薬剤の例として、レナリドミド、モガムリズマブおよびトレチノンが挙げられる。
【0027】
薬剤耐性がんの種類は特に限定されず、例えば、ヒト、ヒトを含むかまたはヒトを含まない哺乳動物のがん、肉腫、腺癌、リンパ腫、白血病、および固形がんおよびリンパ性がんが挙げられる。がんのより具体的な例として、非小細胞肺がんまたはNSCLC等の肺がん、卵巣がん、前立腺がん、結腸直腸がん、肝臓がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、甲状腺がん、胸膜がん、膵臓がん、子宮がん、子宮頸がん、精巣がん、肛門がん、膵臓がん、胆管がん、胃腸カルチノイド腫瘍、食道がん、胆嚢がん、虫垂がん、小腸がん、胃がん、中枢神経系のがん、皮膚がん、絨毛癌、頭頸部がん、血液がん、骨原生肉腫、線維肉腫、神経芽細胞腫、膠腫、メラノーマ、B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、小細胞リンパ腫、大細胞リンパ腫、単球性白血病、骨髄性白血病、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、および多発性骨髄腫等が挙げられる。がんのさらに具体的な例として、血液がん、例えば白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、菌状息肉腫、セザリー症候群等が挙げられる。好ましい例として、慢性骨髄性白血病および成人T細胞白血病、例えば成人T細胞白血病が挙げられる。
【0028】
本態様の医薬組成物の投与手段は特に限定されず、例えば、経口投与、静脈内投与、筋肉内投与、患部局所投与、経皮投与、経直腸投与等が挙げられる。
【0029】
本態様の医薬組成物の剤型は特に限定されず、例えば、顆粒剤、細粒剤、錠剤等の経口投与用剤;液剤、用時溶解型粉末剤等の注射用剤;軟膏、液剤、クリーム剤、ゲル剤等の経皮用剤;坐剤等が挙げられる。
【0030】
本態様の医薬組成物は、5-ALAもしくはその誘導体、またはその塩の他に、薬学上許容される他の原料、例えば、薬学上許容される担体、賦形剤、希釈剤、等張剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、安定化剤、被覆剤、分散媒、増量剤、pH緩衝剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等を含んでもよい。このような他の原料によって、本態様の医薬組成物の吸収性や血中濃度に影響を及ぼし、体内動態の変化をもたらしてもよい。他の原料の具体的な例として、水、生理食塩水、動物性油脂、植物性油脂、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリン等が挙げられる。
【0031】
本態様の医薬組成物の投与量は、対象とする薬剤耐性がん細胞へのPpIXの集積量がPDTにおける有効量であればよく、当業者が適宜決定できる。また、対象への投与量、タイミング、投与頻度、投与期間は、対象の年齢、体重、症状や状態、あるいは、予防または治療しようとする対象内の細胞、組織または臓器の状態や投与のしやすさ等により当業者が適宜決定できる。より具体的な投与量の例は、ALA換算で体重1kgあたり、約1mg~約1,000mg、約5mg~約100mg、約10mg~約30mg、約15mg~約25mg等が挙げられる。
【0032】
本態様の医薬組成物の投与頻度は、特に限定されないが、例えば一日1回~複数回、例えば2、3、4または5回の投与または点滴等による連続的投与が挙げられる。本態様の医薬組成物の投与期間は、例えば、対象の症状または状態等、種々の臨床学的指標等に基づいて、当業者が適宜決定できる。
【0033】
本態様の医薬組成物は、光線力学的療法(PDT)に用いられる。PDTは、光に反応する化合物を投与し、光線を照射することにより標的箇所を治療する療法である。代表的な例が、5-ALA類を用いるPDTである。
【0034】
本態様の医薬組成物の投与後のPDTは、特定の波長の光を照射することによって実施される。使用される波長は当業者が適宜決定できる。使用される波長の例として、約350nm~約700nm、約400nm~約640nm、約480nm~約640nm、505±10nm、540±10nm、580±10nm、630±10nm等が挙げられる。
【0035】
本態様の医薬組成物の投与後、光照射を開始するまでの時間は特に限定されず、がんの種類、投与手段等に応じて当業者が適宜設定できる。例えば、投与後約15分~約48時間後、投与後約1~約24時間後に光照射を開始してもよい。
【0036】
PDTにおける照射回数および1回当たりの照射時間は特に限定されず、当業者が適宜決定できる。例えば、1回または複数回、例えば2、3、4または5~約100回の照射を行ってもよい。また、同じ波長の光を照射してもよいし、異なる波長の光を照射してもよい。本態様の医薬組成物を複数回投与する場合、各投与の間にPDTを1回または複数回の照射で行ってもよい。
【0037】
PDTにおいて照射する光の光量は、がんの種類、投与手段、光源等に応じて当業者が適宜設定できる。光量の例として、約0.01~約200J/cm2、約5~約150J/cm2、約10~約100J/cm2、約30~約100J/cm2、約10~約30J/cm2、10±10J/cm2、30±10J/cm2、100±10J/cm2等が挙げられる。
【0038】
また、対象となるがんが血液がん等の場合、PDTにおける光照射は体外で行ってもよい。例えば、本態様の医薬組成物を投与後、血液灌流装置などにより血液を体外循環させ、当該灌流装置内の血液に光照射を行ってもよい。
【0039】
ある実施形態において、本態様の医薬組成物は、抗がん剤等の他の薬剤と組み合わせて用いられてもよい。本態様の医薬組成物に他の薬剤を含めてもよいし、本態様の医薬組成物と薬剤の組み合わせ物としてもよい。また、薬剤を投与した後に、本態様の医薬組成物を投与してPDTを行ってもよいし、本態様の医薬組成物を投与して、PDTを行った後に薬剤を投与してもよい。また、本態様の医薬組成物を投与した後、PDTを行う前や、複数回のPDTの実施の間に薬剤を投与してもよい。他の薬剤の例として、チロシンキナーゼ阻害剤、免疫調節薬、および分子標的治療薬等の抗がん剤が挙げられる。また、例えばレナリドミド、モガムリズマブ、トレチノイン、イマチニブまたはドキソルビシン等による治療を行う予定、行っていた、または継続している対象に、レナリドミド、モガムリズマブ、トレチノイン、イマチニブまたはドキソルビシンと併用して本態様の医薬組成物を用いたPDTを行ってもよい。より具体的な実施形態において、併用される薬剤はレナリドミド、モガムリズマブ、トレチノインまたはイマチニブである。さらにより具体的な実施形態において、併用される薬剤はレナリドミド、モガムリズマブまたはトレチノインである。ある実施形態において、他の薬剤はチロシンキナーゼ阻害剤を含まない。また他の実施形態において、他の薬剤はABCG2阻害剤を含まない。
【0040】
他の態様において、本発明は、5-ALA類を含む、PDTにより、薬剤耐性がんを治療または予防するためのキットに関する。また、他の態様において、本発明は、5-ALA類を用いたPDTにより、薬剤抵抗性がんを治療または予防する方法に関する。また、他の態様において、本発明は、PDTを用いた薬剤耐性がんの治療または予防に使用する5-ALA類に関する。またさらなる態様において、本発明は、PDTを用いた薬剤耐性がんの治療または予防のための医薬組成物の製造のための5-ALA類の使用に関する。これらの態様のより具体的な実施形態は、医薬組成物の態様に記載したとおりである。
【0041】
なお、本明細書において、例えば「1~5回」といった数値範囲を記載する場合、当該記載は、その範囲内の任意の数値、例えば1、2、3、4、5の各々を表すことが理解される。また、本明細書において、「約」なる用語は、±10%、好ましくは±5%の範囲を意味する。また、その範囲の境界値となる数値は、本明細書に記載されているものとみなされる。
【0042】
以下に実施例を記載して本発明をより詳細に説明するが、本発明が実施例により必ずしも限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
実施例1:成人T細胞白血病(ATL)細胞株における殺細胞効果の確認
ATL細胞株として、ATN-1、C8166、TL-Om1、Hut102、MT-1を使用した。これらのうち、レナリドミド感受性株はHut102で耐性株はC8166である。ATN-1、TL-Om1、MT-1はレナリドミドに対する感受性は不明である。一方、トレチノイン感受性株はC8166で耐性株はHut102である。ATN-1、TL-Om1、MT-1はトレチノインに対する感受性は不明である。また、モガムリズマブ感受性株はATN-1、TL-Om1、MT-1で、耐性株はHut102である。C8166のモガムリズマブに対する感受性は不明である。これらの細胞を継代・培養した。実験のために、実験開始時に1×106細胞/mlの密度になるよう細胞を調製した。
【0044】
上記の細胞懸濁液に5-ALAを0、0.0625、0.125、0.25、0.5mMの濃度になるように添加し、4時間負荷した。5-ALA負荷後の細胞を洗浄し、中心波長630nmの光線照射(0、10、30および100J/cm2)を行い、Cell Counting Kit-8により細胞生存率(%)を算出した。
【0045】
結果を
図1に示す。
図1に示す通り、5-ALAを用いたPDTは、レナリドミド耐性株であるC8166細胞株、モガムリズマブ耐性株およびトレチノイン耐性株であるHuT102細胞株を殺傷し、これら薬剤耐性がん細胞にも有効であることが示された。
【0046】
レナリドミドに対する耐性について、耐性株であるC8166とレナリドミド感受性株であるHut102における、照射エネルギー密度毎の細胞生存率(%)に対する5-ALAの各EC50値とその95%信頼区間を表1に示した。
【0047】
【0048】
各EC50値の結果から、レナリドミド耐性株C8166における5-ALAを用いたPDTの殺細胞効果はレナリドミド感受性株Hut102と比較して、同程度であることが示された。したがって、レナリドミド非感受性の患者細胞においても5-ALAを用いたPDTは非常に優れた殺細胞効果を発揮することが示唆され、また同時に、レナリドミドと5-ALAを用いたPDTの併用使用も有効である可能性が示された。
【0049】
トレチノインに対する耐性について、耐性株であるHut102とトレチノイン感受性株であるC8166における、照射エネルギー密度毎の細胞生存率(%)に対する5-ALAの各EC50値とその95%信頼区間を表2に示した。
【0050】
【0051】
各EC50値の結果から、トレチノイン耐性株C8166における5-ALAを用いたPDTの殺細胞効果はトレチノイン感受性株Hut102と比較して、同程度であることが示された。したがって、トレチノイン非感受性の患者細胞においても5-ALAを用いたPDTは非常に優れた殺細胞効果を発揮することが示唆され、また同時に、トレチノインと5-ALAを用いたPDTの併用使用も有効である可能性が示された。
【0052】
モガムリズマブに対する耐性について、耐性株であるHut102と感受性株であるATN-1、TL-Om1、MT-1における、照射エネルギー密度毎の細胞生存率(%)に対する5-ALAの各EC50値とその95%信頼区間を表3に示した。
【0053】
【0054】
各EC50値の結果から、モガムリズマブ耐性株Hut102における5-ALAを用いたPDTの殺細胞効果はその他のモガムリズマブ感受性株と比較して、少なくとも同等であることが示された。したがって、モガムリズマブ非感受性の患者細胞においても5-ALAを用いたPDTは非常に優れた殺細胞効果を発揮することが示唆され、また同時に、モガムリズマブと5-ALAを用いたPDTの併用使用も有効である可能性が示された。
【0055】
実施例2:慢性骨髄性白血病(CML)細胞株における殺細胞効果の確認
イマチニブ耐性CML細胞株としてLAMA84-rと、比較対照として元細胞株LAMA84-s(イマチニブ感受性)を使用した。また、ドキソルビシン耐性CML細胞株としてK562/ADRと、比較対照として元細胞株K562(ドキソルビシン感受性)を使用した。これらの細胞を継代・培養した。実験のために、実験開始時に1×106細胞/mlの密度になるよう細胞を調製した。
【0056】
上記の細胞懸濁液に5-ALAを0、0.0625、0.125、0.25、0.5mMの濃度になるように添加し、4時間負荷した。5-ALA負荷後の細胞を洗浄し、中心波長630nmの光線照射(0、10、30および100J/cm2)を行い、Cell Counting Kit-8により細胞生存率(%)を算出した。
【0057】
結果を
図2に示す。
図2に示す通り、5-ALAを用いたPDTは、イマチニブ耐性株であるLAMA84-r細胞株およびドキソルビシン耐性株であるK562/ADR細胞株を殺傷した。これらの殺細胞効果は、それぞれの感受性元細胞株と比較して同程度であったころから、イマチニブおよびドキソルビシン非感受性の患者細胞においても5-ALAを用いたPDTは有効であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により、薬剤耐性がんを5-ALA等を用いたPDTにより、予防または治療することが可能となる。本発明は、医療分野等で利用できる。