(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】d軸の推定位置と実位置との間の角度差を表す補正値を決定する方法、制御装置、及びインバータ
(51)【国際特許分類】
H02P 21/06 20160101AFI20240710BHJP
【FI】
H02P21/06
(21)【出願番号】P 2021517347
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 EP2019075303
(87)【国際公開番号】W WO2020064536
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】102018124105.4
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518334554
【氏名又は名称】ヴァレオ ジーメンス エーアオトモーティヴェ ゲルマニー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Valeo Siemens eAutomotive Germany GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100098589
【氏名又は名称】西山 善章
(74)【代理人】
【識別番号】100147599
【氏名又は名称】丹羽 匡孝
(72)【発明者】
【氏名】マルクス ザイルマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ヘルト
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】ハンス-ゲオルク ケープケン
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-218257(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0113949(US,A1)
【文献】特開2006-033993(JP,A)
【文献】特開平08-289599(JP,A)
【文献】特開2015-211569(JP,A)
【文献】特開2013-059243(JP,A)
【文献】特開2004-129359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータとロータを備える電気機械(5)用の制御装置(3)のための補正値を決定する方法であって、
前記補正値は、制御装置(3)の初期設定におけるロータ位置センサ(7)のロータ位置情報(8)に基づく前記電気機械(5)のd軸の推定位置と前記d軸の実位置との間の角度差を表し、
前記電気機械のステータ巻線には0電流が印加され、
前記補正値は、前記電気機械(5)のロータの回転状態において、前記初期設定において前記制御装置(3)によって指定されたステータ電圧のd成分を表すd電圧値と、前記初期設定において前記制御装置(3)によって指定された前記ステータ電圧のq成分を表すq電圧値と、前記ロータ
の磁束値と、前記回転状態における前記ロータの速度を表す速度値と、前記ステータ電圧のd成分の速度依存電圧誤差を表す較正値との関数により決定される、方法。
【請求項2】
前記較正値は
、前記電気機械(5)の
速度の各々に較正値を割り当てる
予め記憶された特性図から読み出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下の式が評価され、
【数1】
数式1において、Δγは補正値を表し、atan(x,y)
はアークタンジェント関数またはアークコタンジェント関数、
【数2】
を表し、u
d
は前記d電圧値を表し、u
qは前記q電圧値を表し、Ψは
前記ロータの磁束値を表し、ω
el
は前記速度値を表し、Δu
dは
ステータ電圧のd成分を表
し、
前記補正値が決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前
記ステータ電圧として、前記制御装置(3)の制御ユニット(13)の目標電圧値が使用されるか、または前
記ステータ電圧は、インバータ(2)の電力ユニット(9)のためのスイッチング信号を提供する前記制御装置(3)の変調器ユニット(16)の出力信号から決定される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
永久励磁される電気機械(5)が使用され、前記
ロータの磁束値は、
前記ロータの永久磁石の磁束を表し、または、
電気的に励磁される電気機械(5)が使用され
、前記ステータと鎖交された前記ロータ
の磁束を表す、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記磁束値は、前記d電圧値、前記q電圧値、および前記速度値の関数として
、前記較正値の追加的な関数として決定される、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記決定された磁束値が所定の最大磁束値を上回る場合、および/または前記決定された磁束値が所定の最小磁束値を下回る場合、前記決定された補正値が信頼できないものとして破棄される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記d電圧値、前記q電圧値、および前記速度値は、1つまたは複数
の電気的または機械的期間で構成される取得期間にわたって取得されたそれぞれの個々の値
の関数として決定される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記個々の値の取得中に、前記電気機械(5)の準定常動作を検証する妥当性チェックが行われ、前記妥当性チェックが前記準定常動作のための所定の条件の違反を示す場合、前記補正値が信頼できないものとして破棄される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記条件は、前記速度値を決定するために使用される個々の値が所定の速度区間内にあること、および/または
ステータ電流のd成分の個々の検出値の平均を表すd電流値および前
記ステータ電流のq成分の個々の値の平均を表すq電流値が0を含む電流区間内にあることを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
それぞれの前記妥当性チェック中に信頼できないとして前記破棄された補正値の数が所定の最大値を超えない場合、および/また
は前記決定された補正値の互いからの偏差が、所定の偏差尺度を超えない場合に、複数の前記補正値
が決定され
る、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
電気機械(5)のための制御装置(3)であって、
前記電気機械(5)のステータ巻線には0電流が印加され、
初期設定において前記制御装置(3)によって指定されたステータ電圧のd成分を表すd電圧値と、前記初期設定において前記制御装置(3)によって指定された前記ステータ電圧のq成分を表すq電圧値と、前記電気機械(5)のロータの磁束を表す磁束値と、前記ロータの回転状態における前記ロータの速度を表す速度値と、前記ステータ電圧のd成分の速度依存電圧誤差を表す較正値とに依存して、前記制御装置(3)の初期設定においてロータ位置センサ(7)のロータ位置情報(8)に基づく前記電気機械(5)のd軸の推定位置と前記回転状態における前記d軸の実位置との間の角度差を表す補正値を決定するように構成される、制御装置。
【請求項13】
入力DC電圧を前記電気機械(5)のための多相AC電流に変換するように適合された電力ユニット(9)と、
請求項12に記載の制御手段と、
を備える電気機械(5)用のインバータ(2)。
【請求項14】
車両(1)を駆動するように適合された電気機械(5)と、
前記電気機械(5)にAC電流を供給するように適合された請求項13に記載のインバータ(2)と、
を備える車両(1)。
【請求項15】
コンピューティングデバイス上で実行されるときに請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実行するためのプログラムコードを含む、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械用の制御装置の補正値を決定する方法に関する。ここで、補正値は、ロータ位置センサのロータ位置情報に基づく制御装置の初期設定における電気機械のd軸の推定位置とd軸の実位置との間の角度差を表す。さらに、本発明は、制御装置、インバータ、車両、及びコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機械のベクトル制御はd軸の位置の決定を必要とする。典型的には、ロータ位置情報はロータ位置センサによって提供され、電気機械のステータに対するロータの相対位置を表す。この場合、たとえば取り付けの不正確さのために、ロータ位置エンコーダの0軸は電気機械のd軸に対応しない。このようなd軸からの0軸のずれはオフセットと呼ばれ、その位置はロータ位置情報から決定することができる。d軸の実位置に対してd軸の推定位置が不確かな角度差を有する初期設定において、ロータによって生成された逆起電力に基づいて補正値を決定することができ、これは、いわば、初期設定におけるオフセットと実際のオフセットとの間の角度差を表す。
【0003】
特に自動車用途では、電気機械によるトルク発生の正確な制御が重要である。オフセット誤差は、最大トルク/アンペア(MTPA)動作における生成されたトルクに対する影響は比較的小さいが、オフセットの情報は、電気機械または車両の速度が増加するにつれてより重要になる。これは、電圧上限に近い動作範囲において、オフセット誤差は、生成されたトルクの誤差に対して大きな影響を有するからである。オフセットの不正確な情報は、電気機械の効率の低下または要求されたトルクと実際のトルクとの間の偏差につながり得る。
【0004】
文献EP3208935A1は、オフセットを決定するために電気機械のロータが異なる回転方向に回転され、d軸の決定された位置に対する品質評価が駆動の反応に基づいて決定される、電気駆動のための試験方法を開示している。
【0005】
2つの異なる回転方向にロータを数回回転させることによってこのようにオフセットを決定することは、決定されたd軸の精度を向上させるが、多大な費用をかけてのみ実現可能である。
【0006】
したがって、本発明は、補正値を決定するための改善された方法であって、特に、より手間をかけずに実行することができる方法を提供するという目的に基づく。
【発明の概要】
【0007】
この問題を解決するために、本発明によれば、電気機械用の制御装置のための補正値を決定する方法が提供される。ここでは、補正値は、制御装置の初期設定におけるロータ位置センサからのロータ位置情報に基づく電気機械のd軸の推定位置とd軸の実位置との間の角度差を表し、電気機械のステータ巻線には0電流が印加される。そして、補正値は、電気機械のロータの回転状態において、初期設定において制御装置によって指定されたステータ電圧のd成分を表すd電圧値と、初期設定において制御装置によって指定された前記ステータ電圧のq成分を表すq電圧値と、ロータの磁束を表す磁束値と、回転状態におけるロータの回転速度を表す回転速度値と、ステータ電圧のd成分の回転速度依存電圧誤差を表す較正値との関数により決定される。
【0008】
本発明は、電気機械を異なる回転方向で動作させることによれば電気機械の動作における鉄損およびタイミング誤差の影響が補償されるが、これは、使用されるd電圧値に対するこの影響について速度依存の較正値を考慮に入れることによって簡略化され得るという認識に基づく。このような較正値は、特定の機械タイプおよび/または特定のインバータタイプについて一般に補正値の決定に先立って決定されていてもよい。これにより、補正値の正確かつ同時に手間のかからない決定が可能になる。これは、回転方向が一方向のみである電気機械の動作において決定することができるからである。
【0009】
本発明の方法によれば、定常状態の0電流動作に適用可能な電圧式
【数1】
【数2】
による逆起電力に基づく補正値の従来の決定に対して、典型的には経験的に決定される応力誤差
【数3】
【数4】
を考慮することで補足される。
【0010】
式(1)~(4)において、udはステータ電圧のd成分、uqはステータ電圧のq成分、ωelは電気角速度、Ψはロータの磁束、Δud(ωel)は較正値によって表されるステータ電圧のd成分の速度依存電圧誤差を表す。電圧誤差は、特に鉄損およびタイミング誤差に起因する可能性があり、これは、M.SeilmeierとB. Piepenbreierの論文「Impact of iron losses and parameter errors on back-EMF based sensorless control of PMSM」(IECON2014-40th Annual Conference of the IEEE Industrial Electronics Society, Dallas, TX, 2014, pp.634-640)に詳細に記載されている。
【0011】
初期設定は、典型的には、ロータ位置エンコーダが未知または不確実なオフセットで配置され、制御装置がd軸の位置を推定または近似する状態を指す。したがって、ロータ位置エンコーダの0軸とd軸の推定位置との間の初期オフセットは、初期設定において指定され得る。補正値を決定した後、初期オフセットと補正値との差である補正オフセットを使用することができる。
【0012】
本発明の方法によれば、回転速度値は、特に電気的な回転速度を角周波数または周波数として表すことができる。原則として、較正値は固定され得、回転動作における回転速度は固定され得る。しかしながら、回転速度が可変であって、較正値が回転速度値の関数として決定されることが好ましい。これにより、電気機械の動作中、特に推進用の電気機械を有する車両の初期始動後、車両の修理またはメンテナンス後、または車両の使用期間中のチェックまたは再較正のために、補正値を決定することができる。
【0013】
特に好ましくは、較正値は、電気機械の速度の各々に較正値を割り当てる記憶された特性図から読み出される。これにより、較正値を特定の機械タイプおよび/またはインバータタイプに対して一度決定し、制御装置のメモリユニットに記憶することができるため、較正値の特に簡単な計算が可能になる。本発明の方法を実行する際には、記憶された特性図を参照するだけでよく、これにより、補正値を正確かつ手間をかけずに決定することができる。あるいは、ロータの回転状態における速度の補正値は固定される。
【0014】
特に好ましくは、補正値を決定するために以下の式が評価される。
【数5】
ここで、atan(x,y)は、アークタンジェント関数またはアークコタンジェント関数、特に、
を表し、u
dはd電圧値を表し、u
qはq電圧値を表し、Ψは磁束値を表し、ωは特に電気角周波数ω
elとして速度値を表し、Δu
dは較正値を表す。
【0015】
この式は、初期設定におけるステータ電圧と実際のステータ電圧との間の関係が以下のように表されるという知見に基づいている。
【数6】
【数7】
【0016】
ここで、u
dinitおよびu
qinitは、初期設定におけるステータ電圧のdおよびq成分、u
dおよびu
qは、実際のステータ電圧のdおよびq成分、Δγは補正値を表す。式(3)、(4)、(6)、および(7)から次式が得られる。
【数8】
【0017】
式(8)をΔγiについて解くことにより式(5)が得られる。なお、Δud=0の場合には、従来の補正値の決定と同様である。
【0018】
本発明の方法によれば、制御装置の制御ユニットの目標電圧値を指定されたステータ電圧として使用することができる。このことは、目標電圧値が制御装置自体において十分な精度で得られるので、ステータ電圧を測定によって求める必要がないことを意味する。しかしながら、特に好ましくは、指定されたステータ電圧は、インバータのパワーユニットのためのスイッチング信号を提供する制御装置の変調器ユニットの出力信号から決定される。これにより、制御ユニットによってではなく、変調器ユニットによって行われるステータ電圧のさらなる変更を考慮することができる。このようにすれば、d電圧値およびq電圧値がより現実的に考慮されるので、補正値をより正確に決定することができる。
【0019】
好ましくは、本発明による方法では、永久励磁式電気機械が使用される。磁束値は、ロータの永久磁石の磁束を表すことができる。または、電気的に励磁される電気機械を使用することも可能である。この場合、磁束値は、ステータと鎖交されたロータ磁束を表すことが好都合である。電気的に励磁される電気機械の場合、磁束を確からしく決定できるように、補正値を決定する際にステータ巻線の最小励磁電流を指定することがさらに好ましい。
【0020】
特に好ましくは、磁束値は、さらにd電圧値、q電圧値、および速度値の関数として決定される。このようにして、磁束の変化をプロセスの実行中に、すなわちほぼオンラインで考慮することができ、これにより補正値の決定がより正確になる。良好な近似では、磁束値は以下の式に従って決定することができる。
【数9】
【0021】
さらにより正確な決定のために、磁束値は較正値にさらに依存して決定され得る。そして、次式に従って磁束値を決定することができる。
【数10】
【0022】
式(9)は、以下の場合の式(10)の近似を表す。
【数11】
【0023】
特に有利なさらなる改良によれば、決定された磁束値が所定の最大磁束値を上回る場合、および/または決定された磁束値が所定の最小磁束値を下回る場合、決定された補正値を信頼できないものとして破棄することができる。特に、所定の最小磁束値を下回る低い磁束値は、永久励磁式電気機械を使用する場合において、特に、例えば140℃の最大許容磁石温度を超えた場合に、永久磁石が減磁されていることを示し得る。この場合、決定された補正値は、十分に信頼できるとは考えられず、破棄される。この場合、ステータ電圧は、例えば、ステータ電圧を測定することによって、または適切な安全機構によって、十分な安全レベルで決定されるべきである。
【0024】
所定の最大磁束値を上回るおよび/または所定の最小磁束値を下回る、決定された磁束値は、決定された磁束値に対してステータ電圧が妥当でないことを付随的に示し得る。これもまた、高すぎる磁石温度に関連し得るが、電気機械の外部温度が、例えば-40℃の許容外部温度未満である場合、低すぎる磁石温度にも関連し得る。電気角速度は十分な安全レベルで決定され得ることが保証されるべきである。
【0025】
d電圧値、q電圧値、および速度値が、1つまたは複数の完全な電気的または機械的期間で構成される取得期間中に取得されるそれぞれの個々の値の平均値の関数として決定される場合、本発明の方法の利点が特に得られる。このようにして、例えば非正弦波の逆起電力またはステータスロットに起因し得る高調波および分数調波の影響を補償することができる。詳細は、M.Seilmeier,S.EbersbergerとB.Piepen Breierの論文「PMSM model for sensorless control considering saturation induced secondary saliencies」 (2013 IEEE International Symposium on Sensorless Control for Electrical Drives and Predictive Control of Electrical Drives and Power Electronics (SLED/PREST), Munich, 2013, pp.1-8)に記載されている。
【0026】
平均値がこれらの高調波の影響を正確に除去すること、すなわち電気機械の準定常動作が推定され得ることを確実にするために、それぞれの値の取得中に電気機械の準定常動作を検証する妥当性チェックを行うことができ、妥当性チェックが準定常動作のための所定の条件の違反を示す場合、補正値を信頼できないものとして破棄することができる。
【0027】
詳細には、この目的のために、この条件は、速度値を決定するために使用される個々の値が所定の速度区間内にあること、および/または検出期間中に検出されたステータ電流のd成分の個々の値の平均値を表すd電流値および検出期間中に検出されたステータ電流のq成分の個々の値の平均値を表すq電流値が0を含む電流区間内にあることを含むことができる。
【0028】
特に好ましいさらなる改良によれば、複数の補正値が、所定のまたは予め決定可能な数の連続する決定サイクルにおいて決定され、それぞれの妥当性チェック中に信頼できないとして破棄された補正値の数が所定の最大値を超えない場合、および/または決定サイクルにおいて決定された補正値の互いからの偏差が所定の偏差尺度を超えない場合、全体補正値が、決定サイクルにおいて決定された補正値の平均値として使用される。これにより、全体補正値の信頼度をさらに向上させることができる。例えば、偏差尺度は、信頼できないと判定されなかった補正値の最大値および最小値が、信頼できないと判定されなかった補正値の平均値と比較され、それによって、最大値および最小値が平均値による所定の閾値を超えると、全体補正値として考慮されなくなるように決定され得る。次に、この手順が再び実行され、連続する決定サイクルを実行することが好適である。
【0029】
好適には、全体補正値を決定した後、初期オフセットと全体補正値との差である補正されたオフセットが、電気機械のさらなる制御のために使用される。
【0030】
さらに、本発明は、電気機械用の制御装置に関し、制御装置は、電気機械のステータ巻線に0電流を印加し、ロータ位置センサのロータ位置情報に基づいて、制御装置の初期設定において推定される電気機械のd軸の位置と、電気機械のロータの回転状態におけるd軸の実位置との間の角度差を表す補正値を決定するように構成される。ここで、この決定は、初期設定において制御装置によって指定されたステータ電圧のd成分を表すd電圧値と、初期設定において制御装置によって指定されたステータ電圧のq成分を表すq電圧値と、ロータの磁束を表す磁束値と、回転状態におけるロータの速度を表す速度値とステータ電圧のd成分の速度依存電圧誤差を表す較正値とに依存する。
【0031】
さらに、本発明は、入力DC電圧を電気機械のための多相AC電流に変換するように適合された電力ユニットと、本発明による制御装置とを備える、電気機械用のインバータに関する。
【0032】
さらに、本発明は、車両を駆動するように適合された電気機械と、電気機械にAC電流を供給するように適合された本発明によるインバータとを備える車両に関する。
【0033】
最後に、本発明は、コンピュータプログラムがコンピューティングデバイス上で実行されるときに本発明による方法を実行するためのプログラムコードを含むコンピュータプログラムにも関する。
【0034】
本発明による方法のすべての実施形態は、本発明による制御装置、本発明によるインバータ、本発明による車両、および本発明によるコンピュータプログラムに同様に適用することができ、したがって、上述の利点はこれらによっても達成することができる。
【0035】
本発明のさらなる利点および詳細は、以下に説明する実施形態および図面から明らかになるであろう。以下の図面は概略図である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態の制御装置を有する本発明の一実施形態のインバータを備える本発明の一実施形態の車両のブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の制御装置の動作中の初期および実際のdq座標系である。
【
図3】
図3は、
図1に示す制御装置の補正値決定ユニットおよび書き込みユニットのブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態の方法のフロー図である。
【
図5】
図5は、機械速度に対する電圧誤差の例示的な曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、一実施形態の制御装置3を有する一実施形態のインバータ2を備える一実施形態の車両1のブロック図である。
【0038】
車両1は、高電圧バッテリの形態のDC電圧源4と、負荷6との機械的結合によって車両1を駆動するように構成された電気機械5とをさらに有する。本実施形態において、電気機械5は永久励磁式同期機である。電気機械5は、制御装置3にロータ位置情報8を提供するように構成されたロータ位置センサ7(たとえばレゾルバ)を有する。
【0039】
制御装置3に加えて、インバータ2は制御装置3によって制御可能な複数のパワースイッチ素子を有する電力ユニット9を備える。制御装置3からのスイッチング信号10に基づいて、電力ユニット9は、DC電圧源4から供給されるDC電圧を電気機械5のための多相AC電流に変換する。さらに、インバータ2は、多相AC電流の各相を流れるステータ電流の個々の値を表す電流情報12を制御装置3に提供するように構成された電流検出ユニット11を備える。
【0040】
制御装置3は、外部から供給されるトルク要求14に応じてdq座標における目標電圧を決定するように構成された制御ユニット13を備える。制御ユニット13には変換ユニット15が接続されており、この変換ユニット15は
をabc座標における
に変換するために使用される。制御装置3はさらに変調器ユニット16を有しており、この変調器ユニット16は、制御ユニット13によって求められた目標電圧、ここでは
を、場合によっては制限規則を用いて、電力ユニット9のためのパルス幅変調されたスイッチング信号10に変換するように構成されている。
【0041】
さらに制御装置3は別の変換ユニット17を有しており、この変換ユニット17は、abc座標におけるステータ電流を表す電流情報12をdq座標におけるステータ電流i
dqの個々の値に変換するように構成されている。制御ユニット13は、このステータ電流i
dqの個々の値を制御のための実際の値として受け取る。さらに別の変換ユニット18は、abc座標におけるスイッチング信号10によって生成される電圧を表す変調器ユニット16の出力信号を受信し、これらの個々の値は、
に対する変更を考慮したステータ電圧u
dqの個々の値に変換するために使用される。
【0042】
制御装置3は、ロータ位置情報8からロータの動作の電気角周波数ωelとdq座標系のd軸における位置を表す位置情報20とを決定するように構成された評価ユニット19をさらに備える。
【0043】
図2は、制御装置3の動作中の初期および実際のdq座標系である。
【0044】
dでマークされたd軸の実際の位置に対するロータ位置エンコーダの0軸21のオフセットが未知である制御装置3の初期設定では、0軸21に対して初期オフセットφ
initを有するd
initでマークされたd軸の位置が推定される。そして、
図2は、対応する直交q軸をさらに示す。d軸の実位置と直交する軸はqでマークされ、d軸の推定位置と直交する軸はq
initでマークされている。
【0045】
したがって、初期オフセットφinitをd軸の実位置によりよく対応するオフセットφに補正することができる全体補正値Δγを決定する必要がある。
【0046】
再び
図1を参照して、制御装置3は、この目的のためにオフセットφを決定するための補正値決定ユニット22を有する。制御装置3の書き込みユニット23によって、評価ユニット19は、初期オフセットφ
initに基づいてではなくオフセットφに基づいて位置情報20を決定するように構成することができる。
【0047】
これに関連して、制御装置3は、
図3に示される補正値決定ユニット22および書き込みユニット23のブロック図および
図4に示される方法のフロー図に基づいて、以下に説明される方法を実行するように設定される。
【0048】
方法の開始における初期状態S1では、車両1は、電気機械のロータが一定の速度で回転して制御装置が初期設定である状態で駆動している。ステップS2では、制御装置3が外部トリガ信号Tを車両1の上位制御装置(不図示)から受信したか否かを周期的にチェックし、これによって判定が開始される。トリガ信号Tを受信した後、ステップS3において、電気機械5のステータ巻線に0電流が印加されるような
を制御ユニット13が指定する。
【0049】
続くステップS4において、補正値決定ユニット22の平均化ブロック24は、電気機械5の1つまたは複数の完全な電気的または機械的期間で構成される取得期間にわたって、変換ユニット18を介して変調器ユニット16からステータ電圧ud,initのd成分およびステータ電圧uq,initのq成分の複数の個々の値を取得する。さらに、平均化ブロック24は、変換ユニット17を介して電流検出ユニット11からステータ電流id,initのd成分とステータ電流iq,initのq成分のそれぞれの1つの値を受け取る。さらに、平均化ブロック24は、電気角周波数ωel,initの個々の値を受け取る。続くステップS5において、平均化ブロック24は、取得期間にわたって個々の値を平均化することで、d電圧値ud、q電圧値uq、速度値ωel、d電流値id、およびq電流値iqを生成する。
【0050】
続くステップS6において、補正値決定ユニット22の較正値決定ブロック25は、速度値ω
elから、ステータ電圧のd成分の速度依存電圧誤差を表す較正値Δu
dを決定する。このために、較正値決定ブロック25は、較正値を電気機械5の各速度に割り当てた記憶された特性フィールドを速度値ω
elに基づいて読み取る。
図5は、機械速度に対する較正値Δu
dによって表される電圧誤差の例示的な経過を示す。電圧誤差は鉄損およびタイミング誤差に起因し、電気機械5のタイプおよびインバータ2のタイプによってプロセスの開始前に決定されて制御装置3のメモリ(不図示)に記憶される。
【0051】
続くステップS7において、補正値決定ユニット22の磁束値決定ブロック26は、ロータの永久磁石の磁束を表す磁束値Ψを以下の式に従ってd電圧値u
d、q電圧値u
q、速度値ω
el、および較正値Δu
dから求める。
【数12】
【0052】
続いてステップS8において、補正値計算ブロック27を用いて補正値Δγ
iを以下の式に従ってd電圧値u
d、q電圧値u
q、磁束値Ψ、速度値ω
el、および較正値Δu
dから求める。
【数13】
【0053】
ステップS8に続いてまたはステップS5~S8と並行して、ステップS9において、補正値決定ユニット22の極値決定ブロック28は、検出期間中に発生する電気角周波数ωel,minの個々の値の最小値および検出期間中に発生する電気角周波数ωel,maxの個々の値の最大値を決定する。ステップS5~S8と並行して行うこともできる続くステップS10において、補正値決定ユニット22の妥当性チェックブロック29は、検出期間中の電気機械5の準定常動作の条件をチェックする。このため、一方では、最小値ωel,minおよび最大値ωel,maxに基づいて、検出期間中に検出された個々の値が所定の速度区間内にあるかどうかが判定され、他方ではd電流値idおよびq電流値iqが0を含む電流区間内にあるかどうかが判定される。
【0054】
ステップS10に続いて、代替的にステップS7およびS8と並行して行うこともできるステップS11において、補正値決定ユニット22の磁束値チェックブロック30は、決定された磁束値Ψが所定の最大磁束値を下回り、所定の最小磁束値を上回るかをチェックする。決定された磁束値Ψが最小磁束値を下回る場合、磁束値チェックブロック30は、永久磁石の減磁を示す減磁情報31をさらに出力する。
【0055】
以下に説明する以降のステップS12~S19は、補正値決定ユニット22の全体補正値計算ブロック33によって実行される。ステップS12において、決定された補正値Δγiの数をカウントする第1カウンタがインクリメントされる。次に、ステップS13において、ステップS10およびS11でチェックされ、論理ブロック32によって累積的に結びつけられた条件が満たされているか否かを評価する。そうでない場合、決定された補正値Δγiは信頼できないと考えられ、ステップS4に戻って新しい補正値Δγi+1が決定される。
【0056】
ステップS13における評価が肯定的である場合、補正値Δγiが信頼できるものと考えられ、よって続くステップS14において信頼できる補正値Δγiの数をカウントする第2カウンタがインクリメントされて補正値Δγiが記憶される。そして、ステップS15において、第1カウンタが所定の値、たとえば20回の補正値決定に達したか否かが評価される。そうでない場合、プログラムはステップS4に戻り、さらなる補正値Δγi+1が決定される。
【0057】
ステップS15における評価が十分な数の補正値決定が実行されたことを示す場合、ステップS16において、第2カウンタが所定の最小値、例えば信頼できると考えられる18個の補正値Δγiに達したか否かが評価される。そうでない場合、ステップS17において第1および第2カウンタがリセットされ、記憶済の補正値Δγiが削除される。そして、プログラムはステップS4に戻り、新しい補正値Δγiのセットを決定する。
【0058】
ステップS16における評価が肯定的である場合、記憶された補正値Δγi(すなわち信頼できると考えられる値)の平均値がステップS18において決定される。ステップS19において、補正値Δγiの最小値および最大値が平均値の周りに規定された区間内にあるか否かをチェックすることによって、平均値に対する偏差尺度が評価される。そうでない場合、ステップS17に戻り、補正値Δγiの新しいセットが決定される。ステップS19における評価が肯定的である場合、ステップS20において平均値が全体補正値でΔγとして書き込みユニット23に出力される。
【0059】
ステップS21において、書き込みユニット23は、初期オフセットφinitと全体補正値Δγとの差分によってオフセットφを決定し、これを評価ユニット19に書き込んでプロセスを終了する。
【0060】
電気機械5または車両1のさらなる動作において、位置情報20はオフセットφに基づいてより正確に決定されるため、電気機械5のより正確な制御が可能となる。この手順は、工場で設定された初期オフセットφinitを可能な限り迅速に補正するために、車両1の初回の試運転の直後に初めて実行される。その後、例えば、車両1のメンテナンスまたは修理後、または車両1の所定の使用期限後に、手順が再び実行されるときに初期オフセットφinitとして使用されるオフセットφの信頼性をチェックする必要があるときに、手順はトリガ信号Tによって再開される。
【0061】
別の実施形態によれば、電気機械5は電気的に励磁される同期機である。この場合、磁束値Ψは、0値のステータ電流でステータと鎖交されたロータ磁束を表し、減磁情報31は省略される。
【0062】
さらに別の実施形態によれば、ステップS11~S18における全体補正値計算ブロック33による平均化が省略され、初期オフセットφinitの補正に信頼性があると決定された補正値Δγiが書き込みユニット23に出力される。
【0063】
さらに別の実施形態によれば、ステップS1において、電気機械5は所定の速度で負荷機械に対して、例えばエンドオブラインテストの一部としてテストベンチ上で動作される。較正値Δudの決定は、回転速度に対して固定された較正値Δudを選択することで省略される。その場合、ステップS4、S5、S9、およびS10を省略することができ、d電圧値、q電圧値、および速度値として個々の値を使用することができる。
【0064】
別の実施形態によれば、ステップS17の後に戻ることはなく、失敗判定を示す信号が上位制御ユニット(不図示)に出力される。その後、車両制御ユニットは再びトリガ信号Tを出力することができる。